説明

制震構造物

【課題】構造物の平面的な捩れ及び高さ方向の剛性差を制御することができる制震構造物を提供することである。
【解決手段】第1の構造物6と、前記第1の構造物よりも高さが低く、かつ剛性が大きい第2の構造物4とを備え、前記第1の構造物は、上層階において水平方向に張り出し前記第2の構造物の少なくとも一部に覆い被さる張出部8を有し、前記第2の構造物は、前記張出部の階下部分10を鉛直方向に支持し、かつ前記張出部との間の水平方向のの変位に追従する水平支承14を上部に備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高さ及び剛性が異なる複数の構造物を備えた制震構造物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、歴史的建築物を建て替える場合において、新たな建築物に歴史的外観を継承させることが多く行われている。例えば、既存の建築物とほぼ同一の外観を有する建築物を現代的な工法で再現する方法がこれに該当する。この場合、再現した建築物に隣接して高層建築物が増築されるケースが多く見られる。
【0003】
ここで、通常歴史的建築物は中低層の建築物であるため、高層建築物とは固有周期が大きく異なる。このため、歴史的建築物を再現した再現建築物に高層建築物を隣接させる場合、固有周期の違いを考慮して建築物全体の振動制御を行うことが望まれる。現在このような振動制御の方法としては、構造物間に制震装置を設置し、構造物の振動エネルギーを他の構造物に蓄え、消費させ、複数の構造物の振動を低減させる方法が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−123696号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述の制震方法においては、高層建築物の上層階が大きく水平方向に張り出し、再現建築物に覆い被さる形状をしている場合、構造物間の振動を十分に制御できないという問題がある。
【0006】
また、通常再現建築物と高層建築物とは構造種別や構造形式が異なるため、再現建築物とそれに覆い被さる高層建築物を一体とした場合、地震時において水平面内の地震力分担の違いによる平面的捩れや高さ方向の剛性差による損傷集中を生じるおそれがある。
【0007】
本発明の目的は、構造物の平面的な捩れ及び高さ方向の剛性差を制御することができる制震構造物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の制震構造物は、第1の構造物と、前記第1の構造物よりも高さが低く、かつ剛性が大きい第2の構造物とを備え、前記第1の構造物は、上層階において水平方向に張り出し前記第2の構造物の少なくとも一部に覆い被さる張出部を有し、前記第2の構造物は、前記張出部の階下部分を鉛直方向に支持し、かつ前記張出部との間の水平方向の変位に追従する水平支承を上部に備えることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の制震構造物は、前記第1の構造物と前記第2の構造物との間を水平方向に連結し、前記第1の構造物と前記第2の構造物との間の振動を制御する連結ダンパーを備えることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の制震構造物は、前記水平支承が、前記第2の構造物の上部において、前記第2の構造物の長手方向に沿って複数設置されることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の制震構造物は、前記水平支承が、前記第2の構造物の長手方向に沿って複数列設置されることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の制震構造物は、前記第2の構造物の屋根または屋上に設置されることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の制震構造物は、前記水平支承が、免震装置であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の制震構造物によれば、構造物の平面的な捩れ及び高さ方向の剛性差を制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施の形態に係る制震構造物を側面から視た図である。
【図2】実施の形態に係る制震構造物の平面の構成を示す図である。
【図3】実施の形態に係る制震構造物において再現構造物の屋上部分に設置された免震装置の取付状態及び地震時の変形状態を示す図である。
【図4】実施の形態に係る制震構造物の地震時における平面の変形状態を示す図である。
【図5】実施の形態に係る制震構造物において再現構造物の屋上部分に設置された免震装置と高層構造物の取付状態を示す図である。
【図6】実施の形態に係る制震構造物において再現構造物の屋上部分に設置された免震装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態に係る制震構造物について説明する。図1は、実施の形態に係る制震構造物を側面から視た図である。なお、以下の説明においてはXYZ直交座標系を設定し、このXYZ直交座標系を参照して説明する。図1に示すように、XYZ直交座標系は、X軸が紙面の左右方向と平行に、Y軸が紙面の奥行き方向と平行に、Z軸が紙面の上下方向と平行にそれぞれ設定される。
【0017】
制震構造物2は、建て替え時に取り壊された歴史的建物とほぼ同一の外観を備える再現構造物4と、再現構造物4に隣接する場所に増築された高層構造物6とを備えている。ここで、高層構造物6は、−X側に大きく張り出した張出部8を上層階に有する逆L字型の形状を有しており、張出部8の階下部分10が再現構造物4の屋上部分13の一部に覆い被さっている。また、制震構造物2は、再現構造物4の剛性が高層構造物6の剛性と比較して極めて大きくなる構造を有しており、例えば、再現構造物4が鉄骨鉄筋コンクリート構造、高層構造物6が鉄骨構造で構成されている。
【0018】
また、再現構造物4と高層構造物6との間のクリアランス11には、隣接する両構造物をX軸方向に連結し、地震時に構造物間の振動を吸収する連結ダンパー12が両構造物の躯体を構成する梁の位置に沿って複数備えられている。また、再現構造物4の屋上部分13には、張出部8の荷重を負担すると共に、XY平面内における張出部8と屋上部分13との間の変位に追従する免震装置14が水平支承として備えられている。また、再現構造物4及び高層構造物6は、各階において所定の位置の梁柱架構内に各構造物の振動を制御する制震ブレース16を備えている。ここで、連結ダンパー12及び制震ブレース16には、収縮伸長運動によって振動を吸収するオイルダンパーが用いられ、免震装置14には、金属板とゴムを交互に重ねた積層ゴム支承が用いられる。
【0019】
次に、図2を参照して制震構造物2の平面の構成について説明する。図2(a)は、図1に示すA面を+Z側から視た制震構造物2の上層階の平面の構成を示す図である。上層階において、制震構造物2は高層構造物6のみから構成されており、高層構造物6は、張出部8に当らない位置の梁柱架構内に制震ブレース16を備えている。
【0020】
図2(b)は、図1に示すB面を+Z側から視た制震構造物2の平面の構成を示す図である。この平面においては、連結ダンパー12が両構造物の躯体を構成する梁の位置に沿ってクリアランス11内に複数設置されている。また、再現構造物4の屋上部分13には、免震装置14が階下部分10の縁部18(図2(a)参照)に沿ってY軸方向に複数設置されている。また、高層構造物6は、上層階の制震ブレース16の位置に対応する位置に制震ブレース16を備え、再現構造物4は、ファサード19側に位置する梁柱架構内に制震ブレース16を備えている。
【0021】
図2(c)は、図1に示すC面を+Z側から視た制震構造物2の下層階の平面の構成を示す図である。制震構造物2の下層階は、再現構造物4と高層構造物6とから構成され、両構造物間にはクリアランス11が設けられている。また、高層構造物6は、上層階の制震ブレース16の位置に対応する位置に制震ブレース16を備え、再現構造物4は、ファサード19側に制震ブレース16を備えている。
【0022】
次に、図3を参照して再現構造物4の屋上部分13に設置された免震装置14について説明する。図3(a)に示すように、屋上部分13には、再現構造物4の躯体を構成する柱20の上端部が突出しており、免震装置14が柱20の上端部を台座として設置されている。また、高層構造物6の躯体を構成する張出部8の縁部18の柱22が階下部分10から−Z方向に延びており、柱22の下端部が免震装置14の上端部に接合されている。このため、張出部8の荷重は柱22から免震装置14を介して柱20に伝達され、張出部8が再現構造物4によって常時Z軸方向に支持される。
【0023】
なお、免震装置14は積層ゴム支承であるため、図3(b)に示すように、地震時において柱20の上端部及び柱22の下端部の動きに追従してせん断変形することが可能である。
【0024】
図4は、実施の形態に係る制震構造物2の地震時における変形状態を示す図である。図4(a)に示すように、再現構造物4と高層構造物6とは、地震時においてそれぞれの振動特性に基づいて振動し、異なる挙動を示す。例えば、中低層で剛性が大きい再現構造物4は固有周期が小さいため小さく振動するのに対し、高層で剛性が小さい高層構造物6は固有周期が大きいため大きく振動する。この場合において、免震装置14が水平方向にせん断変形することにより(図3(b)参照)、XY平面内において張出部8の階下部分10と再現構造物4との間の変位に追従する。また、連結ダンパー12が収縮伸長運動することにより、構造物間に生じるX軸方向の振動が吸収される。また、制震ブレース16が収縮伸長運動することにより、再現構造物4及び高層構造物6の振動が吸収される。
【0025】
なお、仮に再現構造物4と高層構造物6が構造上一体とされた場合、制震構造物2は地震時において、図4(b)に示すように、一つの構造物として振動する。この場合、制震構造物2の剛心が剛性の大きな再現構造物4側に大きく偏り、制震構造物2の重心と大きく離れるため、特に下層階においてXY平面内に大きな捩れを生じる。また、張出部8の階下部分10と再現構造物4との間に大きな剛性差ができるため、この部分において制震構造物2に損傷が集中するおそれがある。
【0026】
この実施の形態に係る制震構造物2によれば、免震装置14を再現構造物4の屋上部分13に設置することにより、XY平面内における高層構造物6の張出部8と屋上部分13との間の変位を許容することができるため、分離されていない一体の構造物に比べて、構造物の平面的な捩れ及び高さ方向の剛性差を制御することができる。
【0027】
また、固有周期が異なる再現構造物4と高層構造物6との間に連結ダンパー12を設置することにより、固有周期が異なる構造物間の応答を利用して制震構造物2全体の応答制御を図ることができる。また、再現構造物4及び高層構造物6にそれぞれ制震ブレース16を設置することにより、更に制震効果を高めることができる。
【0028】
また、制震構造物2の形状を高層構造物6の張出部8の階下部分10が再現構造物4の屋上の一部に覆い被さる形状とすることにより、制震構造物2の容積率(敷地面積に対する建築延べ面積)を大きくすることができる。また、制震構造物2が再現構造物4と高層構造物6とから構成されるため、構造設計過程において構造物ごとに構造計算を行うことができる。
【0029】
なお、上述の実施の形態において、免震装置14の設置パターンは、免震装置14が張出部8の階下部分10と再現構造物4との間の変位に追従することができれば上述の例に限定されない。例えば、免震装置14が階下部分10の縁部18よりも+X側の柱上に沿って設置されていてもよく、また、Y軸方向に複数列設置されていてもよい。また、+Y側の端部及び−Y側の端部には設置せず、再現構造物4の中心に近い位置にのみ設置されていてもよい。
【0030】
また、上述の実施の形態において、再現構造物4が張出部8を常時Z軸方向に支持することができれば、免震装置14は再現構造物4の柱20(図3(a)参照)上に設置されていなくてもよい。例えば、図5(a)や図5(b)に示すように、再現構造物4の躯体を構成する梁24上に設置されていてもよい。また、図5(c)に示すように、免震装置14が張出部8の階下部分10の梁26と再現構造物4の梁24との間に設置されていてもよい。
【0031】
また、上述の実施の形態において、免震装置14は積層ゴム支承に限定されない。例えば、図6に示すように、積層ゴム28の下に滑り材30を設けた滑り支承を免震装置14に用いてもよい。これにより、地震時において再現構造物4と高層構造物6との間の変位が極めて大きくなる場合においても張出部8の階下部分10を鉛直方向に支持することができる。また、免震装置14に鉛プラグ挿入型積層ゴム支承、直動転がり支承、ローラー支承、弾性滑り支承等を用いてもよい。
【0032】
また、上述の実施の形態において、連結ダンパー12はオイルダンパーに限定されず、粘弾性ダンパーや摩擦ダンパー等を用いてもよい。
【0033】
また、上述の実施の形態においては、再現構造物4及び高層構造物6が制震ブレース16を備えているが、制震ブレース16に代えて耐震ブレースを備えるようにしてもよい。
【0034】
また、上述の実施の形態においては、再現構造物4が鉄骨鉄筋コンクリート構造、高層構造物6が鉄骨構造である場合を例に説明したが、再現構造物4の剛性が高層構造物6の剛性よりも高くなる構造であれば、再現構造物4及び高層構造物6の構造種別や構造形式は限定されない。
【0035】
また、上述の実施の形態においては、地震時において制震構造物2の振動を制御する場合を例に説明したが、強風時において再現構造物4と高層構造物6とが異なる挙動を示した場合においても、免震装置14がXY平面内において生じる張出部8の階下部分10と再現構造物4との間の変位に追従することにより、構造物の平面的な捩れ及び高さ方向の剛性差を制御することができる。
【0036】
また、上述の実施の形態において、制震構造物2が複数の再現構造物4を備え、張出部8の階下部分10が複数の再現構造物4の屋上部分13の一部に覆い被さっていてもよい。この場合においても、それぞれの再現構造物4の屋上部分13に免震装置14を設置することにより、構造物の平面的な捩れ及び高さ方向の剛性差を制御することができる。
【0037】
また、上述の実施の形態においては、張出部8の階下部分10が再現構造物4の屋上部分13の一部に覆い被さっている場合を例に説明したが、階下部分10は、屋上部分13全体に覆い被さっていてもよい。
【0038】
また、上述の実施の形態においては、再現構造物4が屋上部分13を有する場合を例に説明したが、再現構造物4が屋根を有し、屋根上に免震装置14を設置するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0039】
2…制震構造物、4…再現構造物、6…高層構造物、8…張出部、10…階下部分、11…クリアランス、12…連結ダンパー、13…屋上部分、14…免震部材、16…制震ブレース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の構造物と、
前記第1の構造物よりも高さが低く、かつ剛性が大きい第2の構造物を備え、
前記第1の構造物は、上層階において水平方向に張り出し前記第2の構造物の少なくとも一部に覆い被さる張出部を有し、
前記第2の構造物は、前記張出部の階下部分を鉛直方向に支持し、かつ前記張出部との間の水平方向の変位に追従する水平支承を上部に備えることを特徴とする制震構造物。
【請求項2】
前記第1の構造物と前記第2の構造物との間を水平方向に連結し、前記第1の構造物と前記第2の構造物との間の振動を制御する連結ダンパーを備えることを特徴とする請求項1記載の制震構造物。
【請求項3】
前記水平支承は、前記第2の構造物の上部において、前記第2の構造物の長手方向に沿って複数設置されることを特徴とする請求項1または2記載の制震構造物。
【請求項4】
前記水平支承は、前記第2の構造物の長手方向に沿って複数列設置されることを特徴とする請求項3記載の制震構造物。
【請求項5】
前記水平支承は、前記第2の構造物の屋根または屋上に設置されることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の制震構造物。
【請求項6】
前記水平支承は、免震装置であることを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載の制震構造物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−96205(P2013−96205A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−243016(P2011−243016)
【出願日】平成23年11月7日(2011.11.7)
【出願人】(591014042)株式会社久米設計 (16)
【Fターム(参考)】