説明

制震構造

【課題】上部構造部が傾き浮き上がりを開始する閾値を大きくする。
【解決手段】座屈補剛ブレース302を構成する制震ブレース材304に所定値よりも大きな引張力が加わり引張降伏するまで、上部構造部20が下部構造部30から離れ浮き上らない。よって、連結機構300を有しない構造と比較し、上部構造部20が傾き浮き上がりを開始する閾値(地震による振動の大きさ)が大きくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制震構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の建物では、上部構造と杭や基礎等とが強く緊結され、地震時に建物が浮き上がらないように構成されている。しかし、上部構造と杭や基礎等とを緊結せずに、建物の浮き上がりをあえて許容することで地震のエネルギーを一時的に位置エネルギーに置き換え、建物に大きな揺れが伝わるのを防ぐ制震構造が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
このような制震構造では、建物が傾き浮き上がる振動の大きさは建物の形状や重量でほぼ決定される。よって、例えば、アスペクト比(高さと横幅の比率)が大きい建物では、比較的小さな振動(地震動)であっても、建物が傾き浮き上がることが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−240315号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記を鑑み、上部構造部が傾き浮き上がりを開始する閾値を大きくすることが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明は、上部構造部に設けられた上側支持部と、前記上部構造部の下側に配置された下部構造部に設けられ前記上側支持部を支持する下側支持部と、を有し、前記上側支持部と前記下側支持部との横方向の相対変位を拘束しつつ前記上側支持部と前記下側支持部とが上下方向に離接可能に構成された離接機構と、所定値よりも大きな力が加わると変形する連結部材を介して前記上部構造部と前記下部構造部とを連結すると共に、前記連結部材が変形することで前記上側支持部の前記下側支持部からの浮き上りを許容するように構成されている連結機構と、を備える。
【0007】
請求項1の発明では、地震等の振動によって、横方向に間隔をあけて二つ以上設けられた離接機構において、上側支持部が下側支持部から離れ浮き上がる。これにより上部構造部が傾いて浮き、上部構造部への地震等の振動のエネルギーの伝達が低減される。別の観点から説明すると、上部構造部が傾いて浮き、地震等の振動のエネルギーが、上部構造部の位置エネルギーに置き換えられる。
【0008】
ここで、所定値よりも大きな力が加わると変形する連結部材を介して上部構造部と下部構造部とが連結され、連結部材が変形することで上側支持部が下側支持部から離れ浮き上るように連結機構が構成されている。
【0009】
したがって、所定値よりも大きな力が連結部材に加わり、連結部材が変形するまで、上側支持部は下側支持部から離れ浮き上がらない。
【0010】
よって、連結機構を有しない構造と比較し、上部構造部が傾き浮き上がりを開始する閾値(振動の大きさ)が大きくなる。
【0011】
請求項2の発明は、前記連結部材は、荷重変形曲線がループ、又は略ループを描く履歴型制震部材で構成されている。
【0012】
請求項2の発明では、地震等の振動によって、上部構造部が二つの離接機構を中心に回転運動を繰り返すロッキング振動状態になることで、所定値よりも大きな力が履歴型制震部材に繰り返し加わり、履歴型制震部材が変形を繰り返す。
【0013】
したがって、連結部材が歴型制震部材以外の部材で構成されている構造と比較し、ロッキング振動中、上側支持部が下側支持部から離れ浮き上りを開始する閾値が大きい状態が維持又は略維持される。
【0014】
なお、「荷重変形曲線」とは、測点の変形量と荷重の大きさとの関係を図にした曲線を指す。
【0015】
請求項3の発明は、前記離接機構は、前記上部構造部に設けられた上部側柱の下端部と、前記下部構造部に設けられ前記上部側柱を支持する下部側柱の上端部と、の間に設けられている。
【0016】
請求項3の発明では、離接機構は、上部構造部に設けられた上部側柱の下端部と、下部構造部に設けられた下部側柱の上端部と、の間に設けられているので、例えば、杭頭の上に離接機構を設ける構成と比較し、メンテナンス性がよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、本発明が適用された連結機構を有しない構造と比較し、上部構造部が傾き浮き上がりを開始する閾値を大きくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係る制震構造が適用された構造物を模式的に示す(A)は上部構造部が下部構造部に支持された状態の図であり、(B)と(C)はロッキング振動によって上部構造部が下部構造部から浮き上がり傾いた状態を示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係る制震構造を構成する離接機構を示し、(A)は上部構造部が下部構造部に支持された状態の図であり(B)は上部構造部が下部構造部から浮き上がり離れた状態を示す図である。
【図3】本発明の第一実施形態に係る制震構造を示し、(A)は上部構造部が下部構造部に支持された状態の図であり(B)は上部構造部が下部構造部から浮き上がり離れた状態を示す図である。
【図4】本発明の第一実施形態に係る制震構造の変形例を示し、(A)は上部構造部が下部構造部に支持された状態の図であり(B)は上部構造部が下部構造部から浮き上がり離れた状態を示す図である。
【図5】本発明の第二実施形態に係る制震構造を示し、(A)は上部構造部が下部構造部に支持された状態の図であり(B)は上部構造部が下部構造部から浮き上がり離れた状態を示す図である。
【図6】本発明の第一実施形態に係る制震構造の連結機構を構成する座屈補剛ブレースを示す斜視図である。
【図7】座屈補剛ブレースの引張降伏軸力の設定方法を説明するための説明図であり、((A)は地震力による反力を説明する図であり、(B)上部構造部の質量(自重)による反力を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<第一実施形態>
本発明の第一実施形態に係る制震構造が適用された構造物10について、図1〜図3を用いて説明する。
【0020】
「全体構成」
まず、構造物10の全体構成の概要について説明する。
【0021】
図1に示すように、構造物10は、地盤50に設けられた基礎60の上に構築されている。なお、本実施形態では、基礎60は杭基礎とされているが、これに限定されるものではない。また、本実施形態では、構造物10は、アスペクト比(高さと横幅の比率、塔状比)が大きい鉛直方向に細長い形状とされている。
【0022】
構造物10は、上部構造部20と下部構造部30とで構成されている。下部構造部30は、基礎60に支持され、上部構造部20は下部構造部30に支持されている。そして、上部構造部20と下部構造部30との間には本発明が適用された制震機構100が設けられている。
【0023】
「制震機構」
つぎに、制震機構100について説明する。
【0024】
図3に示すように、制震機構100は、離接機構200と、離接機構200の両外側に配置された連結機構300と、を有している。
【0025】
図2と図3とに示すように、離接機構200は、上部構造部20の上部側柱22に設けられた上側支持部210と、下部構造部30の下部側柱32に設けられた下側支持部250と、を有している。別の観点から説明すると、上部構造部20と下部構造部30との間の柱が分割され、分割された部位に離接機構200が設けられている。
【0026】
下側支持部250は、下側取付部260と下側離接部270とを有している。
下側取付部260は、板部材260Aと板部材260Bとが積層されボルト262とナット264とで締結された構成とされている。下側取付部260を構成する板部材260Bは下部側柱32の上端部32Tに接合されている。
【0027】
下側離接部270は、下側取付部260を構成する板部材260Aの上に接合され、上側に突出する上面272に開口部274が形成された筒状とされている。
【0028】
上側支持部210も、上側取付部220と上側離接部230とを有している。
上側取付部220は、板部材220Aと板部材220Bとが積層されボルト262とナット264とで締結された構成とされている。上側取付部220を構成する板部材220Aは上部側柱22の下端部22Tに接合されている。
【0029】
上側離接部230は、上側取付部220を構成する板部材220Bの下に接合され、下側に突出する突出部232を有している。この突出部232の下面234が、下側離接部270の上面272に上に当接するように配置されている。つまり、上側離接部230の突出部232の下面234が、下側離接部270の上面272に支持されている。
【0030】
また、突出部232には、下側に延出した延出部236が設けられている。延出部236は下側離接部270の上面272に形成された開口部274に挿入されている。また、延出部236の先端部(下端部)には、横方向に突出するフランジ部238が形成されている。
【0031】
延出部236の横方向の幅は、開口部274の開口幅よりも若干小さく設定されている。しかし、フランジ部238の横方向の外形幅は、開口部274の開口幅よりも大きく設定されている。
【0032】
よって、上側支持部210は、下側支持部250に対して、延出部236と開口部274との若干の隙間分以外は横方向に相対移動できない構成となっている。しかし、上下方向にはフランジ部238が開口部274に当接するまでは移動可能な構成となっている。
【0033】
このような構成によって、離接機構200は、上側支持部210と下側支持部250との横方向の相対変位を拘束しつつ、上側支持部210(の突出部232の下面234)と下側支持部250(の下側離接部270の上面272)とが、上下方向に離接可能に構成されている。すなわち、構造物10(図1参照)は、上部構造部20(上部側柱22)と下部構造部30(下部側柱32)とが、横方向の相対変位が拘束されつつ、上下方向に変位可能な構造となっている。
【0034】
連結機構300は、離接機構200の両外側に配置され、上部構造部20のスラブ24と下部構造部30のスラブ34とを連結している。連結機構300は、座屈補剛ブレース302を有している。
【0035】
図6に示すように、座屈補剛ブレース302は、極低降伏点鋼を用いた芯材としての制震ブレース材304と、制震ブレース材304に外挿される座屈補剛材としての鋼管306と、で構成されている。制震ブレース材304と鋼管306とは摩擦抵抗がほとんど無いアンボンドの状態に保たれている。別の観点から説明すると、座屈補剛ブレース302は、軸力を伝達する制震ブレース材304と、軸力を伝達せず圧縮時の制震ブレース材304全体の座屈を拘束する鋼管306と、で構成されている。なお、座屈補剛ブレース302の制震ブレース材304は、予め設定された所定値よりも大きな引張力が加わると引張降伏するように構成されている。
【0036】
図3に示すように、本実施形態では、座屈補剛ブレース302は鉛直方向に沿って配置されている。そして、詳細な図示が省略されたボルト、ナット、固定部等で構成された固定手段310によって、座屈補剛ブレース302の制震ブレース材304の一端部が上部構造部20のスラブ24に固定され、他端部が下部構造部30のスラブ34が固定されている。
【0037】
このように、連結機構300は、所定値よりも大きな力が加わり座屈補剛ブレース302の制震ブレース材304が引張降伏することで、離接機構200の上側支持部210の下側支持部250からの浮き上りを許容するように構成されている。
【0038】
ここで、構造物10は、上部構造部20と下部構造部30とは横方向に間隔をあけて配置された離接機構200を構成する上側離接部230の突出部232の下面234と下側離接部270の上面272とを、接点(支持点)として分離されている。言い換えると、構造物10は、上部構造部20の上部側柱22に設けられた上側支持部210と、下部構造部30の下部側柱32に設けられた下側支持部250と、を境に上下に分離されている。
【0039】
また、上下に分離された上部構造部20と下部構造部30とは、上下方向には連結機構300(座屈補剛ブレース302)によってのみ連結されている。

【0040】
また、本実施形態では上部構造部20のアスペクト比(高さと横幅の比率、塔状比)は、3以上とされている。
【0041】
「作用及び効果」
つぎに、本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0042】
図1(B)と図1(C)とに示すように、地震等の振動によって、横方向に間隔をあけて設けられた離接機構200を支点として、上部構造部20が二つの離接機構200を中心に回転運動を繰り返すロッキング振動状態になる。
【0043】
これにより、図2(B)と図3(B)とに示すように、離接機構200を構成する上側離接部230の突出部232の下面234が下側離接部270の上面272から離れ浮き上がる。
【0044】
このように上部構造部20が傾いて浮きくことで、上部構造部20への地震による振動エネルギーの伝達が低減される。別の観点から説明すると、上部構造部20が傾いて浮き上がることで、地震による振動エネルギーが、上部構造部20の位置エネルギーに置き換えられる。
【0045】
図3に示すように、構造物10を構成する上部構造部20と下部構造部30とは、連結機構300で連結されている。そして、連結機構300の座屈補剛ブレース302を構成する制震ブレース材304に予め設定された所定値よりも大きな引張力が加わり、塑性化し引張降伏することで、上部構造部20が下部構造部30から離れ浮き上る。
【0046】
したがって、座屈補剛ブレース302を構成する制震ブレース材304に所定値よりも大きな引張力が加わり引張降伏するまで、上部構造部20が下部構造部30から離れ浮き上らない。よって、連結機構300を有しない構造と比較し、上部構造部20が傾き浮き上がりを開始する閾値(地震による振動の大きさ)が大きくなる。別の言い方をすると、上部構造部20が傾き浮き上がりを開始するタイミングが遅くなる。
【0047】
ここで、本実施形態の構造物10を構成する上部構造部20は、アスペクト比(高さと横幅の比率、塔状比)が大きく、ここでは3以上とされている。このようなアスペクト比が大きな上部構造部20は、比較的小さな振動(地震動)であっても、ロッキング振動状態になり上部構造部20が傾き浮き上がる。
【0048】
しかし、本実施形態では、上述したように、連結機構300を設けることで、上部構造部20が傾き浮き上がりを開始する閾値(振動の大きさ)を大きくすることができ、比較的小さな振動(地震動)の場合は、浮き上がりが防止される。
【0049】
また、座屈補剛ブレース302が塑性化し引張降伏する力(所定値)を調整(設定)することで、上部構造部20が傾き浮き上がりを開始する閾値(振動の大きさ)を容易に調整することができる。別の言い方をすると、上部構造部20が傾き浮き上がりを開始するタイミングを制御することができる。
【0050】
更に、座屈補剛ブレース302は、軸力を伝達しない鋼管306が圧縮時の制震ブレース材304全体の座屈を拘束しているので、荷重変形曲線がループ又は略ループを描く履歴型制震部材とされている。よって、上部構造部20が二つの離接機構200を中心に回転運動を繰り返すロッキング振動状態になっても(図1(B)と図1(C)を参照)、座屈補剛ブレース302が引張降伏を繰り返す。したがって、ロッキング振動中、上部構造部20が下部構造部30から離れ浮き上りを開始する閾値が大きい状態が維持又は略維持される。
【0051】
なお、図2(A)、図3(A)のように、上部構造部20が下部構造部30から傾き浮き上がっていない状態では、離接機構200を構成する上側離接部230の突出部232の下面234と下側離接部270の上面272との摩擦抵抗によって、せん断力が伝達される。
【0052】
一方、図2(B)、図3(B)のように、上部構造部20が下部構造部30から傾き浮き上った状態では、離接機構200を構成する上側離接部230の突出部232が、下側離接部270の上面272の開口部274に当接することで、せん断力が伝達される。別の観点から説明すると、上部構造部20は下部構造部30に対して、水平方向の変位を拘束されている。
【0053】
なお、仮に想定したよりも大きな地震力が加わったとしても、上側離接部230の突出部232のフランジ部238が、下側離接部270の上面272の開口部274に当接することで、上部構造部20が予め設定された角度以上に傾くことが防止される。
【0054】
また、本実施形態では、離接機構200は、上部構造部20に設けられた上部側柱22の下端部22Tと、下部構造部30に設けられた下部側柱32の上端部32Tと、の間に設けられている。よって、例えば、基礎60(杭頭)と構造物10との間に離接機構を設ける構成と比較し、メンテナンス性がよい。或いは、例えば、地下外壁等の地下部分に離接機構(接点)を設ける構成と比較し、周辺の地盤との摩擦による浮上りへの影響が受けにくくなる。
【0055】
また、本実施形態では、上側取付部220の板部材220Aと板部材220Bとはボルト締結され、同様に下側取付部260の板部材260Aと板部材260Bとはボルト締結されている。よって、板部材220A,260Aと板部材220B,260Bとを分離することで、容易に交換を行うことできる。
【0056】
「座屈補剛ブレース(連結部材)302の引張降伏軸力の設定方法」
つぎに、座屈補剛ブレース(連結部材)302の引張降伏軸力の設定方法の一例について、図7を用いて説明する。
【0057】
構造物10の上部構造部20の質量mgが一様に分布していると仮定し、更に、地震力Pの作用点が上部構造部20の中心であると仮定する。そして、仮に支点(離接機構200)が固定されていると考えると、図7(A)に示すように、上部構造部20の中心に水平方向に地震力Pを受けたときの支点反力Vは、以下の式のようになる。なお、hは上部構造部20の高さであり、wは上部構造部20の横幅(本例では離接機構200の間隔)である。
【0058】
h/2・P=wV
V=h/(2w)・P・・・・・(1)
【0059】
まず、座屈補剛ブレース302を有しない構成について考える。
図7(B)に示すように、上部構造部20の重量(自重)mgによる支点反力は、mg/2となるので、V=mg/2となる時点で浮上りが生じる。
よって、このV=mg/2を(1)式に代入すると、
【0060】
h/(2w)・P=mg/2
P=(w/h)・mg
【0061】
となる。
仮に上部構造部20のアスペクト比(塔状比)を5とした場合、h/w=5より、
【0062】
P=(1/5)mg
=0.2mg
【0063】
となる。
つまり、アスペクト比(塔状比)が5の場合は、上部構造部20の重量mgの0.2倍の地震力Pを受けた時点で浮上りが生じる。このように、座屈補剛ブレース302を設けない構成の場合は、上部構造部20のアスペクト比(塔状比)で、浮上りの閾値がほぼ決定される。
【0064】
次に、座屈補剛ブレース302を設けた構成(本実施形態)の場合について考える。
座屈補剛ブレース302の引張降伏軸力をNyとすると、V=mg/2+Nyとなる時点で浮上りが生じる。
【0065】
よって、このV=mg/2+Nyを(1)式に代入すると、
h/(2w)・P=mg/2+Ny
となり、Nyについてまとめ、P=Cmgとおくと、
Ny=(h/w・C−1)・mg/2
となる。
【0066】
アスペクト比(塔状比)が5の上部構造部20で、重量mgの0.25倍(C=0.25)の地震力Pで浮き上るように設定するには、
【0067】
Ny=(5×0.25−1)・mg/2
=0.125mg
【0068】
とすればよい。
このように、座屈補剛ブレース302の断面等を調整し、引張降伏軸力Nyを設定することで、上部構造部20が、重量mgの所定の倍率の地震力Pで浮き上るように、すなわち所定の閾値で浮き上がるように設定することできる。
【0069】
なお、隣合う接点の間隔Wを調整して、アスペクト比を調整することも可能である。
【0070】
「変形例」
つぎに、本実施形態の連結機構の変形例について、図4を用いて説明する。
【0071】
上記実施形態では、座屈補剛ブレース302は、略鉛直方向に沿って配置されていた(図3参照)。これに対して、図4に示す変形例の連結機構301では、座屈補剛ブレース302は、斜めに配置されている。
【0072】
このように座屈補剛ブレース302を斜めに配置することで、設置スペースが狭くても(本実施形態ではスラブ24とスラブ34との間隔が狭くても、座屈補剛ブレース302の長さを長く設定することができる。
【0073】
<第二実施形態>
つぎに、本発明の第二実施形態に係る制震構造が適用された構造物について、図5を用いて説明する。なお、第一実施形態と同一の部材には、同一の符号を付し、重複する説明は省略する。また、第一実施形態と第二実施形態とは、連結機構が異なるだけで、離接機構200を含む他の構成等は同じであるので、以下では連結機構のみを説明する。
【0074】
図5に示すように、第二実施形態の連結機構400は、支柱410と制震鋼板420とを有している。
【0075】
支柱410は、上端412が上部構造部20のスラブ24に接合されている。また、本実施形態では制震鋼板420は、板状の極低降伏点鋼で構成されている。制震鋼板420の一方の端面422が、下部構造部30の下部側柱32の側面に接合されている。また、制震鋼板420の他方の端面424が、支柱410の下端部の側面414に接合されている。
【0076】
よって、連結機構400は、所定値よりも大きな力が加わり制震鋼板420がせん断変形することで、離接機構200の上側支持部210の下側支持部250からの浮き上りを許容するように構成されている。
【0077】
「作用及び効果」
つぎに、本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0078】
図1に示すように、第一実施形態と同様に、上部構造部20が傾いて浮きくことで、上部構造部20への地震による振動エネルギーの伝達が低減される。
【0079】
図4に示すように、構造物10を構成する上部構造部20と下部構造部30とは、連結機構400で連結されている。そして、連結機構400を構成する制震鋼板420に所定値よりも大きな力が加わり、塑性化しせん断変形することで、上部構造部20が下部構造部30から離れ浮き上る。
【0080】
したがって、制震鋼板420に所定値よりも大きな力が加わりせん断変形するまで、上部構造部20が下部構造部30から離れ浮き上らない。よって、連結機構400を有しない構造と比較し、上部構造部20が傾き浮き上がりを開始する閾値(地震による振動の大きさ)が大きくなる。
【0081】
また、制震鋼板420は、荷重変形曲線がループ、又は略ループを描く履歴型制震部材とされている。よって、上部構造部20が二つの離接機構200を中心に回転運動を繰り返すロッキング振動状態になっても(図1(B)と図1(C)を参照)、制震鋼板420がせん断変形を繰り返す。したがって、ロッキング振動中、上部構造部20が下部構造部30から離れ浮き上りを開始する閾値が大きい状態が維持又は略維持される。
【0082】
<その他>
尚、本発明は上記実施形態に限定されない。
【0083】
例えば、連結機構及び連結部材は、上記実施形態以外の機構や部材であってもよい。例えば、摩擦系ダンパー等の履歴型ダンパーであってもよい。要は、所定値よりも大きな力が加わると変形する連結部材を介して上部構造部と下部構造部とを連結すると共に、連結部材が変形することで上側支持部が下側支持部からの浮き上りを許容するように構成された連結機構であればよい。
【0084】
別の観点から説明すると、離接機構と並列に必要な耐力・靭性を有する連結部材(連結機構)を設置して閾値が制御できればよい。
【0085】
また、例えば、離接機構は、上記実施形態以外の機構であってもよい。例えば、図2に示す機構が上下逆に配置された構成であってもよい。つまり、上側離接部230と下側離接部270とが上下逆に配置された構成であってもよい。
【0086】
或いは、特許380394号及び特開2000−240315号公報に記載されているような水平方向の移動を拘束可能な深さの凹と凸との嵌め合わせ構造であってもよい。なお、凹と凸の形態は限定されない。半球形状、角錘形状、多角錘形状、及びこれらの複合化形状等であってもよい。更に、建物の外周部又は躯体構造の内部を拘束する擁壁やカンザシ形状のストッパ類であってもよい(特許380394号及び特開2000−240315号公報の図5の実施例における地下外壁21も参照)。
【0087】
また、例えば、上記実施形態では、離接機構200は、上部構造部20に設けられた上部側柱22の下端部22Tと、下部構造部30に設けられた下部側柱32の上端部32Tと、の間に設けられていたが、これに限定されない。基礎60と構造物10との間や基礎及び外周を山留めに囲まれた地下外壁に離接機構(接点)を設けてもよい(一例として、特許380394号、特開2000−240315号公報を参照)。なお、例えば、基礎60と構造物10との間に設ける場合は、構造物10が上部構造部となり、基礎60が下部構造部となる。
【0088】
また、上部構造部20の上下方向の落下の衝撃力を緩和する緩衝材を接点間(上記実施形態では、上側離接部230の突出部232の下面234と下側離接部270の上面272との間)に挟んでもよい。緩衝材の材質や形状は特に限定されないが、例えば、積層ゴムシートや鉛板などを使用することができる。
【0089】
また、例えば、離接機構(上部構造部と下部構造部との接点)は、側面視において、左右方向に間隔をあけて二つ設けられていたが、これに限定されない。側面視において、左右方向に間隔をあけて三つ以上設けられていてもよい。
【0090】
また、上部構造部20と下部構造部30とを、本発明が適用された連結機構に加え(連結機構とは別の)粘性系ダンパー等のエネルギー吸収部材でも連結し、浮き上がり後の上部構造部20の応答(振動)を低減させてもよい。
【0091】
なお、粘性系ダンパーは、速度又は速度の指数乗に比例して反力(減衰力)が発生するので、浮き上がりを開始する際には(速度がゼロの状態では)反力は発生しない。よって、本発明が適用された連結機構がなく粘性系ダンパー等の浮き上がり後のエネルギーを吸収するエネルギー吸収部材のみで上部構造部と下部構造部とを連結しても、上部構造部が傾き浮き上がりを開始する閾値を大きくする効果は無い(ほとんど効果が無い)。
【0092】
また、例えば、上記実施形態では、構造物10は、アスペクト比(高さと横幅の比率、塔状比)が大きい鉛直方向に細長い形状とされているが、これに限定されない。例えば、アスペクト比が大きくない構造物、更にアスペクト比が1以下(横長の)構造物にも本発明を適用可能である。また、例えば、連層のブレース構面等にも本発明を適用可能である。
【0093】
また、例えば、上記実施形態では、側面視において、離接機構200の両外側に連結機構300が配置されていたが、これに限定されない。例えば、離接機構200の片側にのみ連結機構300が配置されていてもよい。或いは、離接機構200の外側に横方向に連結機構300が複数並んで配置されていてもよい。
また、平面視において、離接機構200の周囲を囲むように円形状に複数の連結機構300が配置されていてもよい。
【0094】
上述の複数の実施形態及び変形例等は、適宜、組み合わされて実施可能である。更に、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる態様で実施し得ることは言うまでもない
【符号の説明】
【0095】
10 構造物
20 上部構造部
22 上部側柱
22T 下端部
30 下部構造部
32 下部側柱
32T 上端部
200 離接機構
210 上側支持部
250 下側支持部
300 連結機構
301 連結機構
302 座屈補剛ブレース(連結機構、連結部材、履歴型制震部材)
310 固定手段(連結機構)
400 連結機構
410 支柱(連結機構)
420 制震鋼板(連結機構、連結部材、履歴型制震部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部構造部に設けられた上側支持部と、前記上部構造部の下側に配置された下部構造部に設けられ前記上側支持部を支持する下側支持部と、を有し、前記上側支持部と前記下側支持部との横方向の相対変位を拘束しつつ前記上側支持部と前記下側支持部とが上下方向に離接可能に構成された離接機構と、
所定値よりも大きな力が加わると変形する連結部材を介して前記上部構造部と前記下部構造部とを連結すると共に、前記連結部材が変形することで前記上側支持部の前記下側支持部からの浮き上りを許容するように構成されている連結機構と、
を備える制震構造。
【請求項2】
前記連結部材は、荷重変形曲線がループ、又は略ループを描く履歴型制震部材で構成されている、
請求項1に記載の制震構造。
【請求項3】
前記離接機構は、前記上部構造部に設けられた上部側柱の下端部と、前記下部構造部に設けられ前記上部側柱を支持する下部側柱の上端部と、の間に設けられている、
請求項1又は請求項2に記載の制震構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−202081(P2012−202081A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−66466(P2011−66466)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】