説明

制震装置および制震方法

【課題】地震力を吸収して構造物の損傷を抑制することを確保しつつ、構造が簡単で、コスト的に有利であり、かつ施工が容易な制震装置を提供する。
【解決手段】制震装置1は、複数の構造体からなる構造物2に用いられる制震装置であり、ケーブル6と、第1構造体3に固定可能であり、ケーブル6の一端部を定着する第1定着部材7と、ケーブル6に嵌合される嵌合部材8と、嵌合部材8を、第2構造体4に固定する固定部材9とを含み、嵌合部材8は、ケーブル6との間で所定の摩擦力が作用するようにケーブル6に嵌合しており、ケーブル6は、前記所定の摩擦力を超える引張力を受けたときに嵌合部材8に対して相対的にスライド移動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋、建築物等の構造物に作用する地震力を制震する制震装置および制震方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、橋、建築物等の構造物が地震により損傷を受けることを抑制するために制震技術が用いられている。制震技術は、構造物に作用する地震力を、該構造物に設置された特定の機構によって吸収させて、構造物の振動を低減することにより、構造物の損傷を抑制するものである。そのような制震技術は、例えば特許文献1および特許文献2に開示されている。
【0003】
特許文献1は、建築物において適用され、柱梁に作用する地震力を吸収して建築物の損傷を抑制する座屈拘束ブレース材を開示している。座屈拘束ブレース材は、所定の降伏強さを有する第1鋼管と、第1鋼管に溶接で直列連結され、第1鋼管よりも大きい断面積を有する第2鋼管とを含む。前記所定の降伏強さは、第1鋼管が変形早期に降伏応力にまで達するように設定されている。
【0004】
上記構成の座屈拘束ブレース材によれば、該座屈拘束ブレース材が設置された構造物が地震力を受けたとき、第2鋼管によって構造物に剛性が付与される一方で、第1鋼管が早期に変形するので、地震力が第1鋼管に吸収される。これにより、構造物の損傷が抑制される。
【0005】
特許文献2は、落橋防止装置において適用され、橋桁に作用する地震力を吸収して橋桁の水平方向の変位を制限する変位制限装置を開示している。変位制限装置は、ケーブルに遊嵌された鋼管と、外周面が鋼管の内周面に接触すると共に、内周面がケーブルに固定されたウエッジプレートとを含む。
【0006】
上記構成の変位制限装置によれば、橋桁が地震力によって水平方向に変位しようとするとき、ウエッジプレートが鋼管を拡径させつつ、鋼管内を移動する。この拡径作用に伴い、地震力が吸収される。これにより、橋桁の変位が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−88910号公報
【特許文献2】特開2001−64914号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の座屈拘束ブレース材では、第1鋼管自身が変形することによって制震する構成であり、しかも、第1鋼管は、剛体材料である鋼製であるため、高い変形能を期待することはできない。したがって、地震力の十分な吸収は期待できない。このため、地震力を十分に吸収させるためには、座屈拘束ブレース材を多数設置する必要があり、コストが嵩みやすい。
【0009】
特許文献2の変位制限装置では、地震力を十分に吸収させるためには、鋼管の拡径が周方向に均一に発生する必要がある。このためには、ウエッジプレートの軸心と鋼管の軸心とが正確に一致するように設定する必要があるので、変位制限装置の施工に手間がかかる。また、変位制限装置は、鋼管、ウエッジプレートを採用しているため複雑な構造を有しており、鋼管、ウエッジプレートを採用した分、コストが嵩む。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑み、地震力を吸収して構造物の損傷を抑制することを確保しつつ、構造が簡単で、コスト的に有利であり、かつ施工が容易な制震装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明に係る制震装置は、複数の構造体からなる構造物に用いられる制震装置であり、ケーブルと、前記複数の構造体のうちの第1構造体に固定可能であり、前記ケーブルの一端部を定着する第1定着部材と、前記ケーブルに嵌合される嵌合部材と、前記嵌合部材を、前記複数の構造体のうちの第2構造体に固定する固定部材とを含み、前記嵌合部材は、前記ケーブルとの間で所定の摩擦力が作用するように前記ケーブルに嵌合しており、前記ケーブルは、前記所定の摩擦力を超える引張力を受けたときに前記嵌合部材に対して相対的にスライド移動する。
【0012】
本発明に係る制震装置によれば、例えば、第2構造体に地震力が作用して、嵌合部材に嵌合されたケーブルに引張力が作用したとしても、第1定着部材が第1構造体に固定されていることから、引張力が所定の摩擦力未満であれば、ケーブルの張力によって第2構造体の変位を抑制する。そして、前記引張力が所定の摩擦力を超えた場合には、ケーブルは嵌合部材に対してスライド移動する。これにより、第2構造体に作用している地震力は、ケーブル長さの範囲内でケーブルのスライド移動によって吸収されて、第1定着部材が固定された第1構造体に地震力が伝わることを抑制できる。その結果、第2構造体の損傷を抑制できるだけではなく、第1構造体の損傷も抑制できる。このように、本発明に係る制震装置は、ケーブルの嵌合部材に対するスライド移動を利用するという簡単な構成で十分な制震効果を発揮する。
【0013】
また、鋼管自身の変形能を利用して地震力の吸収を行う従来のブレース材と比較して、スライド移動による地震力の吸収は大きい。したがって、地震力を十分に吸収させるために多数設置する必要のあるブレース材と比較して、嵌合部材の設置数を少なくすることができるので、コスト的に有利である。さらに、制震装置の施工の際には、嵌合部材は固定部材によって第2構造体に設置するだけでよいので、施工が容易である。なお、ケーブルが嵌合部材に対して相対的にスライド移動するとは、嵌合部材がケーブルに対してスライド移動することも含み、両者の間で相対変位が生じることをいう。
【0014】
本発明の好ましい実施形態では、前記複数の構造体のうちの第3構造体に固定可能であり、前記ケーブルの他端部を定着する第2定着部材を含み、前記ケーブルは引張力に対して所定の限界荷重を有しており、前記第1定着部材および前記第2定着部材は、前記所定の限界荷重以上の力で前記第1構造体および前記第3構造体のそれぞれに固定されている。
【0015】
この構成によれば、構造物の強度が上がるので、本発明に係る制震装置を、制震機能に加え、耐震機能を併せ持つ装置とすることができる。
【0016】
本発明の他の好ましい実施形態では、前記嵌合部材は、前記固定部材に固定され、前記ケーブルが挿通される挿通孔を有する筒体から構成され、前記筒体の内周面と前記挿通孔に挿通された前記ケーブルとの間には、前記筒体と前記ケーブルとの間で前記所定の摩擦力を作用させる増摩剤が介在している。
【0017】
この構成によれば、制震効果を発揮する嵌合部材は筒体と増摩剤とで構成されているので、構造を簡単化できる。これにより、コスト性が向上する。また、嵌合部材の施工の際には、ケーブルが挿通された筒体を、固定部材を介して第2構造体に固定するだけよいので、施工が容易である。
【0018】
本発明のさらに他の好ましい実施形態では、前記構造物は、前記第1構造体である第1橋台と、前記第3構造体であり、前記第1橋台に対向配置された第2橋台と、前記第2構造体であり、前記第1橋台と前記第2橋台との間に配置された橋脚とを含む橋であり、前記第1定着部材は前記第1橋台に固定され、前記第2定着部材は前記第2橋台に固定され、前記嵌合部材は前記固定部材によって前記橋脚に固定され、前記ケーブルは、前記第1定着部材および前記第2定着部材間で略水平方向に延びている。
【0019】
橋は、一般的に地震の水平力の影響を受け易いが、この構成によれば、ケーブルは水平方向に延びるように定着されているので、水平力はケーブルのスライド移動によって吸収される。これにより、第1橋台、第2橋台および橋脚の損傷を抑制することができる。
【0020】
本発明のさらに他の好ましい実施形態では、前記構造物は、所定の階数を有する建築物であって、前記第1構造体である基礎部と、前記第2構造体であり、前記建築物の第1の階に配設された第1柱または第1梁と、前記第3構造体であり、前記第1の階よりも高い第2の階に配設された第2柱または第2梁とを含み、前記第1定着部材は前記基礎部に固定され、前記嵌合部材は前記固定部材を介して前記第1柱または第1梁に固定され、前記第2定着部材は前記第2柱または第2梁に固定され、前記ケーブルは、前記第1定着部材および前記第2定着部材間で斜め方向に延びている。
【0021】
建築物が地震の水平力を受けた場合、一般的に、第2の階の第2柱または第2梁の変位量は、第1の階の第1柱または第1梁の変位量よりも大きくなる。しかしながら、この構成によれば、ケーブルのスライド移動によって第1柱または第1梁に作用している水平力を吸収することができ、そのうえ、ケーブルは基礎部から第2の階にかけて斜め方向に延びているので、第1柱または第1梁に作用している水平力の吸収に伴って第2柱または第2梁に作用している水平力も吸収する。これにより、建築物の損傷を抑制することができる。
【0022】
本発明のさらに他の好ましい実施形態では、前記第2の階は前記建築物の最上階であり、前記ケーブルは前記基礎部から前記第2の階にかけて前記建築物の対角線方向に延びている。
【0023】
建築物の最上階は地震の水平力による変位が最も大きい階であるが、この最上階の柱または梁には、第2定着部材が固定されるので、ケーブルのスライド移動によって最上階の柱または梁に作用する水平力を吸収することができる。そのうえ、ケーブルは建築物の対角線方向に延びているので、ケーブルのスライド移動による水平力の吸収効果を最大限に発揮させることができる。
【0024】
本発明のさらに他の好ましい実施形態では、前記構造物は、前記第2構造体である柱と、前記第1構造体であり、前記柱に固定される第1梁と、前記第3構造体であり、前記柱を挟んで前記第1梁に対向配置された状態で前記柱に固定される第2梁とを含み、前記第1定着部材は前記第1梁に固定され、前記嵌合部材は前記固定部材を介して前記柱に固定され、前記第3定着部材は前記第2梁に固定され、前記ケーブルは前記第1定着部材および前記第2定着部材間で略水平方向に延びている。
【0025】
柱と第1梁および第2梁との接合部は、一般的に地震の水平力の影響を受け易く、水平力を受けた場合、柱が第1梁および第2梁に対して変位あるいは傾き易いが、この構成によれば、ケーブルは水平方向に延びるように定着されているので、柱に作用している水平力は、ケーブルのスライド移動によって吸収される。これにより、柱、第1梁および第2梁の損傷を抑制して、接合部の状態を良好に維持することができる。
【0026】
本発明の他の態様に係る制震装置は、複数の構造体からなる構造物に適用される制震装置であり、ケーブルと、前記複数の構造体のうちの第1構造体に固定可能であり、前記ケーブルの一端部を定着する定着部材と、前記ケーブルに嵌合される嵌合部材と、前記嵌合部材に当接すると共に、前記複数の構造体のうちの第2構造体に固定可能であり、前記ケーブルとの間で相対移動が可能なように前記ケーブルを遊嵌する遊嵌部材とを含み、前記嵌合部材は、前記ケーブルとの間で所定の摩擦力が作用するように前記ケーブルに嵌合しており、前記ケーブルは、前記所定の摩擦力を超える引張力を受けたときに前記嵌合部材に対して相対的にスライド移動する。
【0027】
本発明の他の態様に係る制震装置によれば、例えば、第1構造体に地震力が作用して、ケーブルに引張力が作用したとしても、引張力が所定の摩擦力未満であれば、嵌合部材が遊嵌部材に当接されていることから、ケーブルの張力によって第1構造体の変位を抑制する。そして、前記引張力が所定の摩擦力を超えた場合には、ケーブルは嵌合部材に対してスライド移動する。これにより、第1構造体に作用している地震力は、ケーブル長さの範囲内でケーブルのスライド移動によって吸収されて、遊嵌部材が固定された第2構造体に地震力が伝わることを抑制できる。その結果、第1構造体の損傷を抑制できるだけではなく、第2構造体の損傷も抑制できる。このように、本発明に他の態様に係る制震装置は、ケーブルの嵌合部材に対するスライド移動を利用するという簡単な構成で十分な制震効果を発揮する。
【0028】
また、鋼管自身の変形能を利用して地震力の吸収を行う従来のブレース材と比較して、スライド移動による地震力の吸収は大きい。したがって、地震力を十分に吸収させるために多数設置する必要のあるブレース材と比較して、嵌合部材の設置数を少なくすることができるので、コスト的に有利である。さらに、制震装置の施工の際には、遊嵌部材を第2構造体に固定し、嵌合部材を遊嵌部材に当接させるだけでよいので、施工が容易である。なお、ケーブルが嵌合部材に対して相対的にスライド移動するとは、嵌合部材がケーブルに対してスライド移動することも含み、両者の間で相対変位が生じることをいう。
【0029】
本発明の好ましい実施形態では、前記遊嵌部材は、前記第2構造体に固定されるベース部と、前記ベース部から立ち上がる支持板と、前記支持板に形成され、前記ケーブルが挿通される遊嵌孔とを含み、前記嵌合部材は、前記ケーブルが挿通される挿通孔を有する筒体と、前記筒体の内周面と前記挿通孔に挿通された前記ケーブルとの間に介在して、前記筒体と前記ケーブルとの間で前記所定の摩擦力を作用させる増摩剤とを含む。
【0030】
この構成によれば、制震効果を発揮する嵌合部材は筒体と増摩剤とで構成されているので、構造を簡単化できる。これにより、コスト性が向上する。また、嵌合部材の施工の際には、ケーブルが挿通された筒体を、遊嵌部材に当接させるだけよいので、施工が容易である。
【0031】
本発明の他の好ましい実施形態では、前記構造物は、前記第1構造体である第1橋桁と、前記第2構造体であり、前記第1橋桁に隣り合う第2橋桁とを含む橋であり、前記第1定着部材は前記第1橋桁に固定され、前記遊嵌部材は前記第2橋桁に固定され、前記ケーブルは前記第1定着部材と前記遊嵌部との間で略水平方向に延びている。
【0032】
橋を構成する橋桁は、一般的に地震の水平力の影響を受け易いが、この構成によれば、ケーブルは水平方向に延びるように設定されているので、水平力はケーブルのスライド移動によって吸収される。これにより、第1橋桁および第2橋桁の損傷を抑制することができる。
【0033】
本発明に係る制震方法は、複数の構造体からなる構造物を制震する制震方法であり、前記複数の構造体のうちの第1構造体に固定され、前記ケーブルの一端部を定着する第1定着部材と、前記ケーブルに嵌合されていると共に、固定部材によって前記複数の構造体のうちの第2構造体に固定された嵌合部材とを備えた装置が用いられ、前記ケーブルが、該ケーブルと前記嵌合部材との間で作用する所定の摩擦力を超える引張力を受けたときに前記嵌合部材に対して相対的にスライド移動して、前記構造物を制震する。
【発明の効果】
【0034】
本発明に係る制震装置によれば、地震力を吸収して構造物の損傷を抑制することを確保しつつ、構造が簡単で、コスト的に有利であり、かつ施工が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の第1実施形態に係る制震装置の基本構成を示す図である。
【図2】制震装置の嵌合部材を示す断面図である。
【図3】嵌合部材の履歴特性を示す荷重‐変位曲線である。
【図4】制震装置が設置された橋の側面図である。
【図5】橋桁を省略した、図4に示す橋の上面図である。
【図6】制震装置が設置された建築物の側面図である。
【図7】地震によって建築物が傾いた状態を示す図である。
【図8】柱と梁との接合部の側面図であり、制震装置が設置された状態を概略的に示す。
【図9】図8の接合部において柱が梁に対して傾いた状態を示す図である。
【図10】本発明の第2実施形態に係る制震装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0037】
(第1実施形態)
まず、図1を参照して第1実施形態に係る制震装置1の基本構成およびその作用について説明する。制震装置1は、複数の構造体からなる構造物に設置され、いずれかの構造体に作用する地震力を吸収することにより構造物の損傷を抑制するものである。構造物2は、図1では、第1構造体3と、第1構造体3に隣り合う第2構造体4と、第2構造体4を挟んで第1構造体3に対向配置された第3構造体5とを含む。構造物2が橋である場合、例えば第1構造体3および第3構造体5は橋台であり、第2構造体4は橋脚である。
【0038】
制震装置1は、図1に示すように、ケーブル6と、第1構造体3に固定可能であり、ケーブル6の一端部を定着する第1定着部材7と、ケーブル6に嵌合される嵌合部材8と、嵌合部材8を第2構造体4に固定する固定部材9と、第3構造体5に固定可能であり、ケーブル6の他端部を定着する第2定着部材10とを含む。ケーブル6は、図1では左右方向に延びるように第1定着部材7および第2定着部材10に定着されている。
【0039】
ケーブル6は、例えばPC鋼より線であり、両端部のそれぞれにはアンカー11が固定されている。各アンカー11の外周面には、図略の雄ねじ溝が形成されている。
【0040】
第1定着部材7は、第1構造体3に固定されるベース部12と、ベース部12から略垂直に立ち上がる支持板13と、支持板13の強度を補強する補強板14とを含む。ベース部12は板状部材であり、第1構造体3に沿うように配設されている。支持板13はケーブル6に対して略垂直に延びている。また、支持板13には、ケーブル6の一端部および一端部に固定されたアンカー11を挿通させるための挿通孔15が形成されている。補強板14は、ベース部12から略垂直に立ち上がると共に、支持板13の両端部に連結されて、ケーブル6に沿って延びている。第2定着部材10は、第1定着部材7と左右対称の関係で同一の構成を有している。なお、第1定着部材7および第2定着部材10の構成は、図1に示す構成に限定されるものでなく、ケーブル6の一端部および他端部を定着できるものであれば、特に限定されない。
【0041】
嵌合部材8は、図2に示すように、ケーブル6が挿通可能な挿通孔16を有する筒体であり、ケーブル6における、第1定着部材7に定着された一端部と第2定着部材10に定着された他端部との間の所定の部位に嵌合されている。筒体8の外周面には、図略の雄ねじ溝が形成されている。
【0042】
固定部材9は、第2構造体4に固定されるベース部17と、ベース部17から略垂直に立ち上がり、ケーブル6の長さ方向に対向する一対の第1保持板18および第2保持板19と、保持板18,19の強度を補強する補強板20とを含む。ベース部17は板状部材であり、第2構造体4に沿うように配設されている。第1保持板18および第2保持板19は、ケーブル6に対して略垂直に延びており、嵌合部材8を軸方向両側から挟み、嵌合部材8を保持する。また、第1保持板18および第2保持板19のそれぞれには、ケーブル6に嵌合された筒体8を挿通させるための挿通孔21が形成されている。補強板20は、ベース部17から略垂直に立ち上がると共に、第1保持板18の両端部と第2保持板19の両端部とを連結して、ケーブル6に沿って延びている。なお、固定部材9の構成は、図1に示す構成に限定されるものでなく、嵌合部材8を第2構造体4に固定できるものであれば、特に限定されない。
【0043】
ケーブル6は次のようにして第1定着部材7および第2定着部材10に定着される。まず、ケーブル6の一端部およびアンカー11を第1定着部材7の支持板13の挿通孔15に挿通させ、次に、定着ナット22をアンカー11にナット孔22aを介して螺合させる。そして、定着ナット22を支持板13に当接するまで締め付けると、ケーブル6の一端部は、他端部側への移動が規制される。次に、嵌合部材8である筒体を、固定部材9の第2保持板19の挿通孔21に挿通させ、保持板18,19間に位置させた後、予め保持板18,19間に配置した一対の定着ナット23を用いて筒体8を保持板18,19間に固定させる。
【0044】
具体的には、一方の定着ナット23を筒体8における第2保持板19側にナット孔23aを介して螺合させると共に、他方の定着ナット23を筒体8における第1保持板18側にナット孔23aを介して螺合させる。一方の定着ナット23を第2保持板19に当接するまで締め付けると共に、他方の定着ナット23を第1保持板18に当接するまで締め付けると、筒体8は保持板18,19間で固定された状態となる。
【0045】
次に、ケーブル6の他端部およびアンカー11を第2定着部材10の支持板13の挿通孔15に挿通させた後、定着ナット22をアンカー11にナット孔22aを介して螺合させる。そして、定着ナット22を支持板13に当接するまで締め付けると、ケーブル6の他端部は、一端部側への移動が規制される。
【0046】
最後に、第1定着部材7、筒体8および第2定着部材10の各定着ナット22,23をさらに適宜締め付けることにより、ケーブル6は第1定着部材7および第2定着部材10に定着され、第1構造体3、第2構造体4および第3構造体5は、ケーブル6による適正な張力によって互いに連結される。
【0047】
なお、第1保持板18および第2保持板19のそれぞれは、半割り形状の一対の第1保持片および第2保持片を有する構成としてもよい。第1保持片は、ベース部17に固定され、U字形または半円形の第1溝を有し、第2保持片は、第1保持片に固定可能であり、第1溝に対応する第2溝を有する。その場合、嵌合部材8を第1保持板18の第1保持片と第2保持板19の第1保持片との間に配置した状態でケーブル6を第1保持片の各第1溝内に案内した後、第1保持板18の第1保持片に第2保持片を固定すると共に、第2保持板19の第1保持片に第2保持片を固定する。次に、嵌合部材8の両端部に予め装着された一対の定着ナット23を上述のように第1保持板18および第2保持板19に向けて締め付けることにより、嵌合部材8は第1保持板18および第2保持板19間で固定された状態となる。
【0048】
嵌合部材8である筒体は、ケーブル6との間で所定の摩擦力が作用するようにケーブル6に嵌合されている。筒体8の内周面とケーブル6の周面との間には、図2に示すように、増摩剤24が介在している。増摩剤24により、筒体8とケーブル6との間に所定の摩擦力が作用する。前記所定の摩擦力は、ケーブル6の限界荷重未満に設定されている。増摩剤24としては、断面が三角形の細い鋼線を極めて狭いピッチでねじることにより形成したコイルが挙げられる。コイルの他には、鉄粉やアランダムが挙げられる。
【0049】
筒体8は、次のようにしてケーブル6に嵌合される。すなわち、まず、ケーブル6に増摩剤24を配置し、増摩剤24がコイルの場合にはケーブル6にコイルを装着し、コイルが装着されたケーブル6を筒体8に挿通させる。次に、筒体8をスリーブ加工、プレス加工、スエージ加工等により、筒体8が所定の減面率に到達するまで径方向外方から圧力をかける。これにより、コイルが筒体8の内周面とケーブル6の周面に食い込むので、筒体8とケーブル6との間で所定の摩擦力が作用することになる。
【0050】
前記所定の摩擦力は、増摩剤24を選択し、筒体8の減面率、筒体8の長さ等を適宜変化させることによって調整することができる。増摩剤24が前記コイルの場合は、コイル断面積を変化させて摩擦力を調整することができ、一般的に、コイル断面積や減面率が大きくなるにつれ、筒体8とケーブル6との間に作用する摩擦力は大きくなる。前記所定の摩擦力は、制震装置1が設置される構造物2に要求される制震レベルに応じて適宜設定すればよい。
【0051】
このようにして筒体8とケーブル6との間に設定された所定の摩擦力によって、嵌合部材8とケーブル6とは摩擦結合されている。言い換えれば、嵌合部材8とケーブル6とは互いに完全に固定されていない。したがって、ケーブル6は、所定の摩擦力を超える引張力を受けたとき、保持板18,19間に固定されている嵌合部材8に対して相対的にスライド移動する。このスライド移動により、ケーブル6に対する引張力が吸収される。
【0052】
図3は、嵌合部材8の履歴特性を示す荷重‐変位曲線である。縦軸が嵌合部材8に作用する荷重を表し、横軸が嵌合部材8の荷重による変位を表している。嵌合部材8が前記所定の摩擦力未満の荷重を受けた場合、嵌合部材8とケーブル6との間で相対的なスライド移動は生じないが、嵌合部材8はケーブル6のひずみに応じて変位する。一方、嵌合部材8が前記所定の摩擦力を超える荷重を受けた場合、ケーブル6は嵌合部材8に対してスライド移動するので、ケーブル6のスライド移動中、嵌合部材8は荷重を受けず、変位だけが大きくなる。図3の第1象限および第4象限における曲線は、嵌合部材8が例えば右方向に荷重を受けた場合の履歴を示しており、第2象限および第3象限における曲線は、嵌合部材8が逆方向である左方向に荷重を受けた場合の履歴を示している。
【0053】
第1実施形態では、ケーブル6と嵌合部材8との間において相対的なスライド移動を可能とした構成により、地震力による構造物2の変位を抑制する。具体的には、例えば、第2構造体4を第3構造体5側に変位させる地震力が作用したとき、ケーブル6は矢印Aで示すように図1では左方向に作用する引張力を受ける。
【0054】
前記引張力が所定の摩擦力未満であれば、第1定着部材7が第1構造体3に固定されていることから、ケーブル6の張力によって第2構造体4の変位を抑制することができる。そして、引張力が所定の摩擦力を超えた場合には、嵌合部材8は引張力に従って矢印Aの方向にケーブル6に対して相対的にスライド移動する。このスライド移動により、第2構造体4に作用している地震力が吸収されて、第1定着部材7が固定された第1構造体3に地震力が伝わることを抑制できる。その結果、第2構造体4の損傷を抑制できるだけではなく、第1構造体3の損傷も抑制できる。このように、制震装置1は、ケーブル6の嵌合部材8に対するスライド移動を利用するという簡単な構成で十分な制震効果を発揮する。
【0055】
また、鋼管自身の変形能を利用して地震力の吸収を行う従来のブレース材と比較して、スライド移動による地震力の吸収は大きい。したがって、地震力を十分に吸収させるために多数設置する必要のあるブレース材と比較して、嵌合部材8の設置数を少なくすることができるので、コスト的に有利である。
【0056】
さらに、スライド移動による地震力の吸収を可能にする嵌合部材8は、筒体8および増摩剤24から構成されているので、構造を簡単化でき、コスト性が向上する。また、制震装置1の施工の際には、ケーブル6が挿通された筒体8を、固定部材9のベース部17および保持板18,19を介して第2構造体4に固定するだけよいので、施工が容易である。
【0057】
制震装置1は、上記の制震機能に加え、耐震機能も備えることもできる。具体的には、ケーブル6は、構造物2に作用する地震力に起因する引張力に対して所定の限界荷重を有しており、第1定着部材7および第2定着部材10は、前記所定の限界荷重以上の力で第1構造体3および第2構造体4のそれぞれに固定されている。この構成により、第1構造体3と第2構造体4とはケーブル6を介して強固に連結され、その結果、構造物2の強度が上がるので、制震装置1を、制震機能に加え、耐震機能を併せ持つ装置とすることができる。
【0058】
以下、図1に示す制震装置1を具体的な構造物に適用した実施例1〜3について説明する。
【0059】
(実施例1)
まず、図4および図5を参照して、制震装置1Aを橋30に適用した例について説明する。図4は橋の側面図であり、図5は橋桁を省略した橋の上面図である。橋30は、第1橋台31(第1構造体)と、第1橋台31に隣り合う橋脚32(第2構造体)と、橋脚32を挟んで第1橋台31に対向配置された第2橋台33(第3構造体)とを含む。第1橋台31と橋脚32との間、および第2橋台33と橋脚32との間には、それぞれ橋桁34が架設されている。第1橋台31および第2橋台33の各上部には、連結基台35が設けられている。第1定着部材7は、第1橋台31の連結基台35に固定されて、ケーブル6の一端部を定着し、第2定着部材10は、第2橋台33の連結基台35に固定されて、ケーブル6の他端部を定着している。
【0060】
橋脚32には、第1橋台31の連結基台35および第2橋台33の連結基台35に対応した高さ位置に貫通孔36が形成されている。貫通孔36にはケーブル6が挿通されている。貫通孔36の両開口部には、図略の固定部材9によって一対の嵌合部材8が固定されている。
【0061】
ケーブル6は、第1定着部材7、第2定着部材10および嵌合部材8によって略水平方向に延びている。ケーブル6は、実施例1では、図5に示すように並列関係で3本用いられている。
【0062】
橋30は、一般的に地震の水平力の影響を受け易いが、制震装置1Aによれば、ケーブル6は水平方向に延びるように定着されているので、水平力は、ケーブル6の嵌合部材8に対するスライド移動によって吸収される。これにより、第1橋台31、第2橋台33および橋脚32の損傷を抑制することができる。
【0063】
具体的には、例えば、橋脚32を第2橋台33側に変位させる地震の水平力が作用したとき、ケーブル6は図4では左方向に作用する引張力を受ける。このとき、ケーブル6を介して、第1定着部材7が固定された第1橋台31にも橋脚32側に変位させようとする力が作用する。
【0064】
前記引張力がケーブル6と嵌合部材8との間で作用する所定の摩擦力未満であれば、第1定着部材7が第1橋台31に固定されていることから、ケーブル6の張力によって橋脚32の変位を抑制することができる。そして、引張力が所定の摩擦力を超えた場合には、ケーブル6は引張力に従って嵌合部材8に対して左方向にスライド移動する。このスライド移動により、橋脚32に作用している地震力は吸収されて、第1橋台31に地震力が伝わることを抑制できる。その結果、橋脚32の損傷を抑制できるだけではなく、第1橋台31の損傷も抑制できる。
【0065】
(実施例2)
次に、図6および図7を参照して、制震装置1Bを建築物40に適用した例について説明する。図6は、建築物40の側面図であり、制震装置1Bが設置された状態を概略的に示しており、図7は、地震によって建築物40が傾いた状態を示している。建築物40は、所定の階数を有する建築物(図6では4階建ての建築物)であり、複数の柱および梁を有する。制震装置1Bは次のようにして設置することができる。第1定着部材7は、建築物40の基礎部41(第1構造体)に固定され、ケーブル6の一端部を定着し、第2定着部材10は、最上階(図6では4階)の柱42(第3構造体)に固定され、ケーブル6の他端部を定着している。嵌合部材8は、中間階の柱または梁(第2構造体)に固定されている。
【0066】
嵌合部材8は、実施例2では複数設置されており、具体的には、2階の柱43、2階と3階との間の梁44、および3階と4階との間の梁45に設置されている。ケーブル6は、実施例2では、第1定着部材7、第2定着部材10および複数の嵌合部材8間で建築物40の対角線方向に延びるように2本配設されている。なお、第1定着部材7、第2定着部材10および嵌合部材8は、建築物40の側壁の内面に配置してもよいし、または建築物40の側壁の外面に配置してもよい。また、第2定着部材10および嵌合部材8の配置は、図6に示すものに限定されるものではなく、建築物40に応じて柱または梁に適宜配置される。
【0067】
建築物40が地震の水平力を受けた場合、一般的に、最上階の柱および梁の変位量D1は、図7に示すように、中間階の柱および梁の変位量D2,D3よりも大きくなる。しかしながら、制震装置1Bによれば、ケーブル6のスライド移動によって中間階の柱43および梁44,45に作用している水平力を吸収することができる。これに伴い、最上階の柱42および梁に作用している水平力も吸収される。これにより、建築物40の損傷を抑制することができる。そのうえ、ケーブル6は建築物40の対角線方向に延びているので、ケーブル6のスライド移動による水平力の吸収効果を最大限に発揮させることができる。
【0068】
(実施例3)
次に、図8を参照して、制震装置1Cを建築物の柱51と梁との接合部50に適用した例について説明する。図8は、柱51と梁52,53との接合部50の側面図であり、制震装置1Cが設置された状態を概略的に示す。図8に示す接合部50は、柱51(第2構造体)と、柱51に固定された第1梁52(第1構造体)と、柱51を挟んで第1梁52に対向配置された状態で柱51に固定された第2梁53(第3構造体)とからなる。
【0069】
実施例3では、2組の制震装置1Cが用いられており、次のようにして設置される。一方の制震装置1Cでは、第1定着部材7は、第1梁52の上面52aに固定され、第1ケーブル6Aの一端部を定着し、第2定着部材10は、第2梁53の上面53aに固定され、第1ケーブル6Aの他端部を定着する。嵌合部材8は柱51の側面に固定されている。第1ケーブル6Aは第1定着部材7および第2定着部材10間で略水平方向に延びている。他方の制震装置1Cは一方の制震装置1Cに対して対称的に設置される。すなわち、他方の制震装置1Cでは、第1定着部材7は、第1梁52の下面52bに固定され、第2ケーブル6Bの一端部を定着し、第2定着部材10は、第2梁53の下面53bに固定され、第2ケーブル6Bの他端部を定着する。嵌合部材8は柱51の側面に固定されている。第2ケーブル6Bも第1定着部材7および第2定着部材10間で略水平方向に延びている。
【0070】
柱51と第1梁52および第2梁53との接合部50は、一般的に地震の水平力の影響を受け易い。水平力を受けた場合、図9に示すように、柱51が第1梁52および第2梁53に対して変位あるいは傾いて、柱51と第1梁52との間に隙間G1が生じ、柱51と第2梁53との間に隙間G2が生じる。このとき、柱51が左方向に傾いている場合、一方の制震装置1Cの第1ケーブル6Aは左方向に引っ張られ、他方の制震装置1Cの第2ケーブル6Bは右方向に引っ張られる。しかしながら、制震装置1Cによれば、第1ケーブル6Aおよび第2ケーブル6Bは水平方向に延びるように定着されているので、柱51に作用している水平力は、第1ケーブル6Aおよび第2ケーブル6Bのスライド移動によって吸収される。これにより、柱51、第1梁52および第2梁53の損傷を抑制して、接合部50の状態を良好に維持することができる。
【0071】
(第2実施形態)
以下、図10を参照して、第2実施形態に係る制震装置60について説明する。図10に示す制震装置60は、例えば、橋桁の落下を防止する落下防止装置として構成されており、ケーブル6と、第1橋桁55(第1構造体)に固定可能であり、ケーブル6の一端部を定着する定着部材61と、第2橋桁56(第2構造体)に固定可能であり、ケーブル6との間で相対移動が可能なようにケーブル6を遊嵌する遊嵌部材62と、遊嵌部材62に当接しており、ケーブル6に嵌合される嵌合部材63とを含む。なお、第1橋桁55および第2橋桁56は橋脚57に架設されている。
【0072】
ケーブル6は、例えばPC鋼より線であり、一端部にはアンカー11が固定されており、他端部にはストッパ64が固定されている。アンカー11の外周面には、図略の雄ねじ溝が形成されている。ストッパ64は、ケーブル6の他端部が遊嵌部材62から外れることを防止する抜け止め部材である。ケーブル6は定着部材61および遊嵌部材62間で略水平方向に延びている。
【0073】
定着部材61は、第1橋桁55に固定されるベース部65と、ベース部65から立ち上がる支持板66と、支持板66に当接した支圧板67と、ケーブル6の偏向を許容する偏向部材68と、支持板66の強度を補強する補強板69とを含む。ベース部65は板状部材であり、第1橋桁55に沿うように配設されている。支持板66および支圧板67はケーブル6に対して略垂直に延びている。また、支持板66および支圧板67には、ケーブル6の一端部および一端部に固定されたアンカー11を挿通させるための挿通孔70が形成されている。補強板69は、ベース部65から略垂直に立ち上がると共に、支持板66の両端部に連結されて、ケーブル6に沿って延びている。アンカー11の外周面の雄ねじ溝には、定着ナット71が螺合されている。なお、定着部材61の構成は、図10に示す構成に限定されるものではなく、ケーブル6の一端部を定着できるものであれば、特に限定されない。
【0074】
遊嵌部材62は、第2橋桁56に固定されるベース部72と、ベース部72から立ち上がる支持板73と、支持板73に形成され、ケーブル6が挿通される遊嵌孔74と、支持板73に当接し、ケーブル6が挿通可能な貫通孔75を有するシムプレート76と、ケーブル6の偏向を許容する偏向部材77と、支持板73の強度を補強する補強板78とを含む。ベース部72は板状部材であり、第2橋桁56に沿うように配設されている。支持板73はケーブル6に対して略垂直に延びている。シムプレート76は半割り形状の一対の第1プレート片および第2プレート片を有し、第1プレート片がベース部72に固定されている。第1プレート片および第2プレート片を合わせた状態で貫通孔75が形成される。また、シムプレート76の前記第2プレート片は、後述する筒体(嵌合部材)63を遊嵌孔74に通してから支持板73と筒体63との間の隙間に挿入され、前記第1プレート片に固定される。補強板78は、ベース部72から略垂直に立ち上がると共に、支持板73の両端部からケーブル6に沿って延びている。ケーブル6は遊嵌孔74によって水平方向に移動可能である。なお、遊嵌部材62の構成は、図10に示す構成に限定されるものではなく、ケーブル6との間で相対移動が可能なようにケーブル6を遊嵌するものであれば、特に限定されない。
【0075】
嵌合部材63は、ケーブル6が挿通可能な挿通孔を有する筒体から構成され、遊嵌部材62とストッパ64との間で遊嵌部材62のシムプレート76に当接した状態でケーブル6に嵌合されている。また、嵌合部材63は、遊嵌部材62に対して定着部材61とは反対側から当接している。筒体63の外径は、シムプレート76の貫通孔75の孔径よりも大きく設定されており、筒体63はシムプレート76のプレート面に当接している。なお、筒体63をシムプレート76に当接させる構成に代えて、筒体63の外周面に雄ねじ溝を形成し、その雄ねじ溝にナットを螺合させることにより、筒体63を前記ナットを介して支持板73に当接させてもよい。または、ケーブル6が挿通可能なU字溝を有するプレートを、支持板73と筒体63との間に介在させて、筒体63を前記プレートに当接させてもよい。筒体63の当接形態は特に限定されない。
【0076】
筒体63は、ケーブル6との間で所定の摩擦力が作用するようにケーブル6に嵌合されている。筒体63の内周面とケーブル6の周面との間には、増摩剤24が介在している。増摩剤24により、筒体63とケーブル6との間に前記所定の摩擦力が作用する。増摩剤24としては、上記したように、コイル、アランダム、鉄粉等が挙げられる。
【0077】
第2実施形態においても、嵌合部材63(筒体)とケーブル6とは所定の摩擦力によって摩擦結合されており、ケーブル6が所定の摩擦力を超える引張力を受けたとき、嵌合部材63とケーブル6との間で相対的なスライド移動が生じる。このスライド移動により、ケーブル6に対する引張力が吸収される。
【0078】
第2実施形態においても、ケーブル6および嵌合部材63間でスライド移動を可能とした構成により、第1橋桁55および第2橋桁56に作用する地震力を吸収する。以下、スライド移動による地震力の吸収作用について具体的に説明する。
【0079】
地震の水平力によって第1橋桁55が第2橋桁56に対して左方向に変位しようとするとき、ケーブル6は第1橋桁55によって左方向に引張力を受けるので、シムプレート76に当接した嵌合部材63は遊嵌部材62を押圧した状態となる。このとき、引張力が所定の摩擦力未満である場合、遊嵌部材62が第2橋桁56に固定されていることから、ケーブル6の張力によって第1橋桁55の変位を抑制できる。そして、引張力が所定の摩擦力を超えた場合、ケーブル6が遊嵌部材62を押圧している嵌合部材63に対して左方向にスライド移動する。このスライド移動により、第1橋桁55に作用している地震力が吸収されて、第2橋桁56に水平力が伝わることを抑制できる。その結果、第1橋桁55の落下の可能性を低減でき、そのうえ、第2橋桁56が損傷することを抑制できる。
【0080】
一方、地震の水平力によって第2橋桁56が第1橋桁55に対して右方向に変位しようとするとき、第2橋桁56に固定された遊嵌部材62は、シムプレート76に当接している嵌合部材63を右方向に押圧するので、ケーブル6は右方向に引張力を受ける。このとき、引張力が所定の摩擦力未満である場合、定着部材が第1橋桁55に固定されていることから、ケーブル6の張力によって第2橋桁56の変位を抑制できる。そして、引張力が所定の摩擦力を超えた場合、遊嵌部材62に押圧されている嵌合部材63がケーブル6に対して右方向にスライド移動するが、このスライド移動により、第2橋桁56に作用している地震力が吸収されて、第1橋桁55に水平力が伝わることを抑制できる。その結果、第2橋桁56の落下の可能性を低減でき、そのうえ、第1橋桁55が損傷することを抑制できる。
【0081】
このように、制震装置60は、ケーブル6および嵌合部材63間のスライド移動を利用するという簡単な構成で十分な制震効果を発揮する。また、嵌合部材63は、筒体63および増摩剤24から構成されているので、構造を簡単化でき、コスト性が向上する。また、制震装置60の施工の際には、ケーブル6が挿通された筒体63を、遊嵌部材62に当接させた状態で設置するだけよいので、施工が容易である。
【0082】
また、第1橋桁55に定着部材61を固定した構成につき説明したが、定着部材61に代えて、第1橋桁55にも遊嵌部材62を固定する構成を採用してもよい。この構成によれば、地震の水平力を一層吸収することができ、制震装置60による制震効果が高まる。
【0083】
以上、第2実施形態の制震装置60を橋桁の落下防止装置として用いた場合につき説明してきたが、制震装置60は、上記した、実施例1、実施例2および実施例3の各構造体に適用してもよい。
【符号の説明】
【0084】
1 制震装置
2 構造物
3 第1構造体
4 第2構造体
5 第3構造体
6 ケーブル
7 第1定着部材
8 嵌合部材
9 固定部材
10 第2定着部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の構造体からなる構造物に用いられる制震装置であって、
ケーブルと、
前記複数の構造体のうちの第1構造体に固定可能であり、前記ケーブルの一端部を定着する第1定着部材と、
前記ケーブルに嵌合される嵌合部材と、
前記嵌合部材を、前記複数の構造体のうちの第2構造体に固定する固定部材と、
を備え、
前記嵌合部材は、前記ケーブルとの間で所定の摩擦力が作用するように前記ケーブルに嵌合しており、
前記ケーブルは、前記所定の摩擦力を超える引張力を受けたときに前記嵌合部材に対して相対的にスライド移動する制震装置。
【請求項2】
請求項1に記載の制震装置において、前記複数の構造体のうちの第3構造体に固定可能であり、前記ケーブルの他端部を定着する第2定着部材を備え、
前記ケーブルは引張力に対して所定の限界荷重を有しており、
前記第1定着部材および前記第2定着部材は、前記所定の限界荷重以上の力で前記第1構造体および前記第3構造体のそれぞれに固定されている制震装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の制震装置において、前記嵌合部材は、前記固定部材に固定され、前記ケーブルが挿通される挿通孔を有する筒体から構成され、前記筒体の内周面と前記挿通孔に挿通された前記ケーブルとの間には、前記筒体と前記ケーブルとの間で前記所定の摩擦力を作用させる増摩剤が介在している制震装置。
【請求項4】
請求項2に記載の制震装置であって、前記構造物は、前記第1構造体である第1橋台と、前記第3構造体であり、前記第1橋台に対向配置された第2橋台と、前記第2構造体であり、前記第1橋台と前記第2橋台との間に配置された橋脚とを含む橋であり、
前記第1定着部材は前記第1橋台に固定され、前記第2定着部材は前記第2橋台に固定され、前記嵌合部材は前記固定部材によって前記橋脚に固定され、
前記ケーブルは、前記第1定着部材および前記第2定着部材間で略水平方向に延びている制震装置。
【請求項5】
請求項2に記載の制震装置であって、前記構造物は、所定の階数を有する建築物であって、前記第1構造体である基礎部と、前記第2構造体であり、前記建築物の第1の階に配設された第1柱または第1梁と、前記第3構造体であり、前記第1の階よりも高い第2の階に配設された第2柱または第2梁とを含み、
前記第1定着部材は前記基礎部に固定され、前記嵌合部材は前記固定部材を介して前記第1柱または第1梁に固定され、前記第2定着部材は前記第2柱または第2梁に固定され、
前記ケーブルは、前記第1定着部材および前記第2定着部材間で斜め方向に延びている制震装置。
【請求項6】
請求項5に記載の制震装置において、前記第2の階は前記建築物の最上階であり、
前記ケーブルは前記基礎部から前記第2の階にかけて前記建築物の対角線方向に延びている制震装置。
【請求項7】
請求項2に記載の制震装置であって、前記構造物は、前記第2構造体である柱と、前記第1構造体であり、前記柱に固定される第1梁と、前記第3構造体であり、前記柱を挟んで前記第1梁に対向配置された状態で前記柱に固定される第2梁とを含み、
前記第1定着部材は前記第1梁に固定され、前記嵌合部材は前記固定部材を介して前記柱に固定され、前記第3定着部材は前記第2梁に固定され、
前記ケーブルは前記第1定着部材および前記第2定着部材間で略水平方向に延びている制震装置。
【請求項8】
複数の構造体からなる構造物に適用される制震装置であって、
ケーブルと、
前記複数の構造体のうちの第1構造体に固定可能であり、前記ケーブルの一端部を定着する定着部材と、
前記ケーブルに嵌合される嵌合部材と、
前記嵌合部材に当接すると共に、前記複数の構造体のうちの第2構造体に固定可能であり、前記ケーブルとの間で相対移動が可能なように前記ケーブルを遊嵌する遊嵌部材と、
を備え、
前記嵌合部材は、前記ケーブルとの間で所定の摩擦力が作用するように前記ケーブルに嵌合しており、
前記ケーブルは、前記所定の摩擦力を超える引張力を受けたときに前記嵌合部材に対して相対的にスライド移動する制震装置。
【請求項9】
請求項8に記載の制震装置において、前記遊嵌部材は、前記第2構造体に固定されるベース部と、前記ベース部から立ち上がる支持板と、前記支持板に形成され、前記ケーブルが挿通される遊嵌孔とを含み、
前記嵌合部材は、前記ケーブルが挿通される挿通孔を有する筒体と、前記筒体の内周面と前記挿通孔に挿通された前記ケーブルとの間に介在して、前記筒体と前記ケーブルとの間で前記所定の摩擦力を作用させる増摩剤とを含む制震装置。
【請求項10】
請求項8に記載の制震装置において、前記構造物は、前記第1構造体である第1橋桁と、前記第2構造体であり、前記第1橋桁に隣り合う第2橋桁とを含む橋であり、
前記第1定着部材は前記第1橋桁に固定され、前記遊嵌部材は前記第2橋桁に固定され、
前記ケーブルは前記第1定着部材と前記遊嵌部との間で略水平方向に延びている制震装置。
【請求項11】
複数の構造体からなる構造物を制震する制震方法であって、
前記複数の構造体のうちの第1構造体に固定され、前記ケーブルの一端部を定着する第1定着部材と、前記ケーブルに嵌合されていると共に、固定部材によって前記複数の構造体のうちの第2構造体に固定された嵌合部材とを備えた装置が用いられ、
前記ケーブルが、該ケーブルと前記嵌合部材との間で作用する所定の摩擦力を超える引張力を受けたときに前記嵌合部材に対して相対的にスライド移動して、前記構造物を制震する制震方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−285777(P2010−285777A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−139015(P2009−139015)
【出願日】平成21年6月10日(2009.6.10)
【出願人】(000192626)神鋼鋼線工業株式会社 (44)
【Fターム(参考)】