説明

刷版

【課題】刷版の複数の繰り返しの画像形成に適した刷版を提供する。
【解決手段】付着層4を備え、中間層3を備え、カバー層2を備え、カバー層は、窒化珪素を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、刷版に関する。
【背景技術】
【0002】
平版印刷では、上下に位置する複数の層から成る刷版が用いられる。層は、それぞれ異なる作用を有しており、たとえば熱絶縁、露光時の放射線の吸収である。刷版は、画像情報に応じて入射されるエネルギにより、たとえばレーザにより画像形成される。これにより親水性(疎油性)の領域と疎水性(親油性)の領域とに構造化される。
【0003】
吸収層のエネルギ吸収量が温度により制限されているという問題が存在し、その際、層が損なわれるかまたは破壊される恐れがある。
【0004】
この問題を解決するために、ドイツ連邦共和国特許出願公開第102004007600号明細書において、特別な層構造を有する刷版が提案されている。特別な層構造により、画像形成に必要な放射エネルギの最小化が達成される。この層構造は、チタン酸化物から成るカバー層または情報層と、チタンまたはモリブデンおよび炭素、窒素および酸素から成る吸収層とを備えている。さらに層構造は、チタンまたはモリブデンから成る緩衝層と、ポリイミドから成る絶縁層と、アルミニウムから成る支持層とを備えている。
【0005】
その欠点によれば、チタンまたはチタン酸化物から成る層は、十分な安定性を有していない。この層は、繰り返しの画像形成において変化し、特に吸収エネルギ特性の変化を伴う。複数の画像形成および印刷サイクルのあとで、以前は印刷画像であった部分、いわゆる「メモリー」が、障害効果として認められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】ドイツ連邦共和国特許出願公開第102004007600号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって本発明の課題は、刷版の複数の繰り返しの画像形成に適した刷版を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題を解決するための本発明の刷版によれば、付着層を備え、中間層を備え、カバー層を備え、カバー層は、窒化珪素を含有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明による刷版は、複数の画像形成のための好適な条件を満たしている。
【0010】
1態様によれば、カバー層が、ナノ構造化されている。
【0011】
別の態様によれば、窒化珪素に、別の窒化物の粒が埋め込まれている。
【0012】
別の態様によれば、粒は、3nm〜10nmの範囲の最大外寸を有している。
【0013】
別の態様によれば、カバー層は、チタンアルミニウム窒化物を含有している。
【0014】
別の態様によれば、カバー層は、アルミニウムクロム窒化物を含有している。
【0015】
別の態様によれば、中間層は、円柱状に構造化されている。
【0016】
別の態様によれば、中間層は、チタンアルミニウム窒化物を含有している。
【0017】
別の態様によれば、付着層は、チタン窒化物を含有している。
【0018】
別の態様によれば、付着層は、チタンクロム窒化物、チタン−チタン窒化物またはクロム−クロム窒化物を含有している。
【0019】
さらに本発明は、本発明に従って形成されたまたは別の態様に応じて形成された刷版を備えた印刷機に関する。
【0020】
別の構造的かつ機能的に好適な態様は、以下の発明を実施するための形態の説明および付属の図面から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】刷版の一部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に本発明の実施の形態を、図面を用いて具体的に説明する。
【0023】
図1には、印刷機の刷版1の一部を断面図で示す。図1は、平版印刷またはリソグラフ印刷用の刷版1を示す。刷版1は、カバー層2と中間層3と付着層4とを備えている。カバー層2上に取り付けられる両親媒性分子の層は図示していない。露光時に、両親媒性分子は、画像情報に応じて、レーザを用いて加熱することにより局所的に除去される。そのあとで露出したカバー層2および残存する両親媒性分子は、刷版1の疎水性(親油性)の印刷領域と親水性(疎油性)の非印刷領域とを形成する。印刷領域にはインキが付着し、非印刷領域には湿し媒体が付着する。カバー層2は、刷版1の画像情報を特定する情報層である。
【0024】
カバー層2は、0.5μm〜5.0μm、好適には0.5μm〜1.5μmの厚さを有し、ナノ構造化された層である。カバー層2は、窒化珪素(Si34)から成るアモルファスマトリックス5と、その中に埋め込まれた、チタンアルミニウム窒化物(TiAlNまたはAlTiN)またはアルミニウムクロム窒化物(AlCrN)から成る粒子6とを含有している。チタンアルミニウム窒化物は、Al/Ti>1のパーセント比において、アルミニウムチタン窒化物とも呼ばれる。マトリックス5は、1nm〜3nmの構造サイズを有し、ナノ結晶の粒子6のサイズは、3nm〜10nmである。チタンアルミニウム窒化物を含有する形態が好適であり、極めて大きな耐熱性、抗酸化性、亀裂抵抗および低反射性(良好な吸収性)が保証される。
【0025】
図示の好適な3層システムにおいて真ん中の層を形成する中間層3は、0〜4.5μm、好適には2μm〜3.5μmの範囲の厚さを有している。「0」である厚さは、その場合には中間層3が設けられていないことを意味している。中間層3は、イットリウム安定化ジルコニア、アルミニウムクロム窒化物(AlCrN)またはアルミニウムチタンクロム窒化物(AlTiCrN)から成っていてよい。チタンアルミニウム窒化物(TiAlNまたはAlTiN)から成る中間層3が好適であり、中間層3は、柱状の材料構造により、粒子状のチタンアルミニウム窒化物から成るカバー層2と区別される。TiAlNまたはAlTiNを含む中間層3は、極めて硬く、熱伝達不良の層構造を有し、つまり良好な熱絶縁体である。
【0026】
付着層4は、支持層上に図示の3層システムを付着する作用を有している。支持層は、同様に刷版1に付属するが図示していない。支持層は、たとえばアルミニウム、特殊鋼またはチタンから成るプレート、スリーブまたはベルトに形成するか、またはプレート、スリーブまたはベルトから成ってよい。支持層により、胴の周面を形成することもでき、周面上に、付着層4が付着する。付着層4は、0.10μm〜0.25μm、好適には約0.2μmの厚さを有していて、チタン窒化物(TiN)、たとえばチタン−チタン窒化物(Ti−TiN)勾配層またはクロム−クロム窒化物(Cr−CrN)勾配層またはチタンクロム窒化物(TiCrN)から成っている。TiNが好適である。カバー層2、中間層3および付着層4から成る3層システムは、たとえばドイツのエットリンゲン(Ettlingen)にあるEifeler Sued−Coating GmbHの商品名「Sistral(R)」に該当し得るものではあるが、Eifeler Sued−Coating GmbHでは、3層システムで、一般的な切削工具、たとえばドリルを被覆しており、つまり本発明とは別のものである。3層システム(Sistral(R))でたとえばアルミニウムプレートとして形成された刷版1の支持層を被覆することにより、刷版1を製造することができる。カバー層2、中間層3および付着層4の取付は、物理蒸着法(PVD)、特にアーク蒸着法(Arc−PDV)により行うことができる。
【0027】
本発明による刷版1は、1000℃までの耐熱性を有している。
【0028】
変化態様に、カバー層2を複数のそのような層に分配または分割すること、かつ/または中間層3をそのような複数の層に分配または分割することが含まれる。
【0029】
さらにカバー層2を別の層で覆うことも考えられるので、カバー層2は、もはやそうした層ではなくなる。別の層は、1つまたは複数の金属、金属窒化物、金属酸化物または金属窒化酸化物を含んでよい。
【0030】
さらに別の変化態様では、1つまたは複数の副層(カバー層2、中間層3、付着層4)が段階付けされており、つまり、その組成の段階的なまたは無段階の様々な構成を有している。
【符号の説明】
【0031】
1 刷版、 2 カバー層、 3 中間層、 4 付着層、 5 マトリックス、 6 粒子、 7 印刷機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
付着層(4)を備え、
中間層(3)を備え、
カバー層(2)を備え、
該カバー層は、窒化珪素を含有する、
ことを特徴とする、刷版(1)。
【請求項2】
前記カバー層(2)は、ナノ構造化されている、請求項1記載の刷版。
【請求項3】
前記窒化珪素に、別の窒化物の粒子(6)が埋め込まれている、請求項1記載の刷版。
【請求項4】
前記粒子(6)は、3nm〜10nmの範囲の最大外寸を有する、請求項3記載の刷版。
【請求項5】
前記カバー層(2)は、粒子(6)に、チタンアルミニウム窒化物またはアルミニウムチタン窒化物を含有する、請求項1記載の刷版。
【請求項6】
前記カバー層(2)は、アルミニウムクロム窒化物を含有する、請求項1記載の刷版。
【請求項7】
前記中間層(3)は、円柱状に構造化されている、請求項1記載の刷版。
【請求項8】
前記中間層(3)は、チタンアルミニウム窒化物またはアルミニウムチタン窒化物を含有する、請求項1記載の刷版。
【請求項9】
前記中間層(3)は、イットリウム安定化ジルコニア、アルミニウムクロム窒化物またはアルミニウムチタンクロム窒化物を含有する、請求項1記載の刷版。
【請求項10】
前記付着層(4)は、チタン窒化物を含有する、請求項1記載の刷版。
【請求項11】
前記付着層(4)は、チタンクロム窒化物、チタン−チタン窒化物またはクロム−クロム窒化物を含有する、請求項1記載の刷版。
【請求項12】
請求項1から11までのいずれか1項記載の刷版(1)を備えた印刷機(7)。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2013−39828(P2013−39828A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−172075(P2012−172075)
【出願日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【出願人】(390009232)ハイデルベルガー ドルツクマシーネン アクチエンゲゼルシヤフト (347)
【氏名又は名称原語表記】Heidelberger Druckmaschinen AG
【住所又は居所原語表記】Kurfuersten−Anlage 52−60, D−69115 Heidelberg, Germany
【Fターム(参考)】