説明

刺激応答性化合物およびアクチュエーター

【課題】柔軟性に優れ、低い電圧で変形(変位)することが可能で、低温領域での作動性に優れた刺激応答性化合物およびそれを用いたアクチュエーターを提供すること。
【解決手段】本発明の刺激応答性化合物は、回転軸として機能する結合を有するユニットAと、前記ユニットAの第1の結合部位に配置された第1のユニットBと、前記ユニットAの第2の結合部位に配置された第2のユニットBと、ユニットCとを備え、前記第1のユニットBと前記第2のユニットBとは、酸化還元反応によって結合するものであり、前記ユニットCは、炭素数が2および/または3のアルキレンオキシドが重合してなるポリアルキレンオキシド構造を含むものであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、刺激応答性化合物およびアクチュエーターに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療分野やマイクロマシン分野等において、小型のアクチュエーターの必要性が高まっている。
このような小型のアクチュエーターは、小型であるとともに、低電圧で駆動することが求められている。このような低電圧化を実現するために種々の試みが行われている(例えば、特許文献1参照)。
しかしながら、従来のアクチュエーターでは、駆動電圧を十分に低くすることができておらず、変形をさせるのに高い電圧が必要であった。また、従来のアクチュエーターでは、柔軟性に欠け、特に低温領域での作動性に問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−224027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、柔軟性に優れ、低い電圧で変形(変位)することが可能で、低温領域での作動性に優れた刺激応答性化合物およびそれを用いたアクチュエーターを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の刺激応答性化合物は、回転軸として機能する結合を有するユニットAと、
前記ユニットAの第1の結合部位に配置された第1のユニットBと、
前記ユニットAの第2の結合部位に配置された第2のユニットBと、
ユニットCと、
を備え、
前記第1のユニットBと前記第2のユニットBとは、酸化還元反応によって結合するものであり、
前記ユニットCは、炭素数が2および/または3のアルキレンオキシドが重合してなるポリアルキレンオキシド構造を含むものであることを特徴とする。
これにより、柔軟性に優れ、低い電圧で変形(変位)することが可能で、低温領域での作動性に優れた刺激応答性化合物を提供することができる。
【0006】
本発明の刺激応答性化合物では、刺激応答性化合物は、分子内に、前記ユニットCとして、第1のユニットCと第2のユニットCとを含むものであることが好ましい。
これにより、刺激応答性化合物(刺激応答性化合物を含む変形材料)の柔軟性、低温領域での作動性等を特に優れたものとすることができる。また、刺激応答性化合物の応答速度を特に速いものとすることができる。
【0007】
本発明の刺激応答性化合物では、前記第1のユニットCは、前記ユニットAの第3の結合部位に配置されたものであり、
前記第2のユニットCは、前記ユニットAの第4の結合部位に配置されたものであることが好ましい。
これにより、刺激応答性化合物(刺激応答性化合物を含む変形材料)の柔軟性、低温領域での作動性等を特に優れたものとすることができる。また、刺激応答性化合物の応答速度を特に速いものとすることができる。
【0008】
本発明の刺激応答性化合物では、前記ユニットAは、下記式(1)で表される基であることが好ましい。
【化1】

これにより、刺激応答性化合物は、より円滑な変形(変位)が可能となり、より低電圧で駆動するものとなる。
【0009】
本発明の刺激応答性化合物では、前記第1のユニットBおよび前記第2のユニットBは、下記式(2)で表される基であることが好ましい。
【化2】

これにより、反応条件を調整することで、ユニットB同士の結合状態と非結合状態とを可逆的にかつ容易に進行させることができる。また、反応性が高いため、刺激応答性化合物は、より円滑で、かつ低電圧で変形が可能となる。
【0010】
本発明の刺激応答性化合物では、第1のユニットDと、第2のユニットDとをさらに含み、
前記第1のユニットDおよび前記第2のユニットDが、液晶性を有するものであることが好ましい。
これにより、刺激応答性化合物を含む変形材料は、駆動の異方性をより効果的に発揮することができ、所定方向についての伸縮率をより大きいものとすることができる。
【0011】
本発明の刺激応答性化合物では、前記第1のユニットDは、前記第1のユニットCに結合したものであり、
前記第2のユニットDは、前記第2のユニットCに結合したものであることが好ましい。
これにより、刺激応答性化合物を含む変形材料は、駆動の異方性をさらに効果的に発揮することができ、所定方向についての伸縮率をさらに大きいものとすることができる。
【0012】
本発明の刺激応答性化合物では、前記第1のユニットDおよび前記第2のユニットDは、複数の環構造を有し、
前記複数の環構造のうちの1つの環構造にハロゲン原子が1つ以上結合していることが好ましい。
これにより、ユニットDの配向時における運動性能をより高いものとすることができ、配向への移行の速度がより早くなる。その結果、刺激応答性化合物は、より速くかつより円滑に変形(変位)が可能となり、さらに低電圧で駆動するものとなる。
本発明のアクチュエーターは、本発明の刺激応答性化合物を用いて製造されたことを特徴とする。
これにより、柔軟性に優れ、低い電圧で変形(変位)することが可能で、低温領域での作動性に優れたアクチュエーターを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の刺激応答性化合物の酸化還元反応前後の分子構造を説明するための図である。
【図2】本発明の刺激応答性化合物の酸化還元反応前後の分子構造を説明するための図である。
【図3】本発明の刺激応答性化合物の酸化還元反応前後の分子構造を説明するための図である。
【図4】本発明の刺激応答性化合物の酸化還元反応前後の分子構造を説明するための図である。
【図5】本発明の刺激応答性化合物を用いたアクチュエーターの一例を模式的に示す断面図である。
【図6】電圧印加により変形したアクチュエーターの一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
《刺激応答性化合物》
[第1実施形態]
まず、本発明の刺激応答性化合物の第1実施形態について詳細に説明する。
図1、図2は、本発明の刺激応答性化合物の酸化還元反応前後の分子構造を説明するための図である。図1、図2中、○は官能基(原子団)を意味し、線は結合を意味する(図3、図4についても同様)。
【0015】
図1(a)に示すように、本実施形態の刺激応答性化合物は、回転軸として機能する結合を有するユニットAと、ユニットAに結合した2つのユニットB(第1のユニットBと第2のユニットB)と、2つのユニットC(第1のユニットCと第2のユニットC)とを有している。
刺激応答性化合物は、刺激によって、分子の形状を変形(変位)させる機能を有する化合物のことを指し、具体的には、アクチュエーター等の駆動部を構成する化合物である。
【0016】
刺激応答性化合物を構成するユニットAは、回転軸として機能する結合を有しており、当該結合を軸に回転可能となっている基(ユニット)である。このようなユニットを有することにより、刺激応答性化合物は、変形(変位)可能となっている。
ユニットAとしては、例えば、2つの芳香環が結合した基を用いることができるが、中でも、下記式(1)で表される基であるのが好ましい。このような基をユニットAとして用いることにより、刺激応答性化合物は、より円滑な変形(変位)が可能となり、より低電圧で駆動するものとなる。
【0017】
【化3】

【0018】
第1のユニットBと第2のユニットBは、それぞれ、ユニットAの第1の結合部位および第2の結合部位に結合するものである(図1(a)参照)。そして、ユニットAの前記回転軸についての回転により、互いの位置関係が変化するものである。
また、ユニットBは、ユニットB同士で酸化還元反応によって結合を形成する基である(図1(b)参照)。言い換えると、外部から電子を受け取る(還元される)ことによって結合を形成する基である。また、外部に電子を放出する(酸化される)ことで結合を解除する基である。
【0019】
ユニットB(第1のユニットBと第2のユニットB)としては、ユニットB同士(第1のユニットBと第2のユニットB)で酸化還元反応によって結合を形成する基であれば、特に限定されないが、ユニットB(第1のユニットBと第2のユニットB)は、下記式(2)で表される基であるのが好ましい。これにより、反応条件を調整することで、ユニットB同士の結合状態と非結合状態とを可逆的にかつ容易に進行させることができる。また、反応性が高いため、刺激応答性化合物は、より円滑で、かつ低電圧で変形が可能となる。
【0020】
【化4】

【0021】
刺激応答性化合物は、ユニットA、ユニットB(第1のユニットB、第2のユニットB)に加え、炭素数が2および/または3のアルキレンオキシドが重合してなるポリアルキレンオキシド構造を含むユニットC(第1のユニットCおよび第2のユニットC)を含むものである。
このようなユニットCを含むことにより、刺激応答性化合物(刺激応答性化合物を含む変形材料)の柔軟性を優れたものとすることができる。
【0022】
また、低温でも、刺激応答性化合物を含む変形材料の結晶化を確実に防止することができ、低温領域(例えば、−10℃以下)での作動性を優れたものとすることができる。
また、刺激応答性化合物がユニットCを含むものであることにより、刺激応答性化合物全体として、塩(電解質)との親和性・相溶性を優れたものとすることができ、上述したような酸化還元反応において電荷の移動が速やかなものとなる。その結果、刺激応答性化合物を含む変形材料の応答速度は速いものとなる。
【0023】
本発明において、刺激応答性化合物は、分子内に、少なくとも1つのユニットCを含むものであればよいが、本実施形態では、ユニットCとして、第1のユニットCおよび第2のユニットCを備えている。これにより、刺激応答性化合物(刺激応答性化合物を含む変形材料)の柔軟性、低温領域での作動性等を特に優れたものとすることができる。また、刺激応答性化合物の応答速度を特に速いものとすることができる。
【0024】
ユニットCは、刺激応答性化合物の分子内に含まれるものであればよく、その結合部位は特に限定されないが、ユニットAに結合するものであるのが好ましい。特に、本実施形態のように、分子内に2つのユニットC(第1のユニットCおよび第2のユニットC)を含むものである場合、第1のユニットCは、ユニットAの第3の結合部位に配置された(結合した)ものであり、第2のユニットCは、ユニットAの第4の結合部位に配置された(結合した)ものであるのが好ましい。これにより、刺激応答性化合物(刺激応答性化合物を含む変形材料)の柔軟性、低温領域での作動性等を特に優れたものとすることができる。また、刺激応答性化合物の応答速度を特に速いものとすることができる。
【0025】
上述したように、ユニットC(第1のユニットCおよび第2のユニットC)は、炭素数が2および/または3のアルキレンオキシドが重合してなるポリアルキレンオキシド構造を含むものである。
ユニットCが、炭素数2のアルキレンオキシド(エチレンオキシド)が重合してなる構造を有するものである場合、刺激応答性化合物の柔軟性、低温領域での作動性等を特に優れたものとすることができる。また、刺激応答性化合物の応答速度を特に速いものとすることができる。
【0026】
また、ユニットCが、炭素数3のアルキレンオキシド(プロピレンオキシド)が重合してなる構造を有するものである場合、刺激応答性化合物を含む変形材料・アクチュエーターの耐久性を特に優れたものとすることができる。
ユニットC(第1のユニットC、第2のユニットC)におけるアルキレンオキシドの重合数(原料となるアルキレンオキシドの分子数)は、3以上10以下であるのが好ましく、4以上8以下であるのがより好ましい。刺激応答性化合物を含む変形材料・アクチュエーターの耐久性を十分に優れたものとしつつ、刺激応答性化合物の柔軟性、低温領域での作動性等を特に優れたものとすることができ、刺激応答性化合物の応答速度を特に速いものとすることができる。
【0027】
そして、本実施形態では、刺激応答性化合物が、液晶性を有するユニットDを含むものである。このようなユニットDを含むことにより、刺激応答性化合物を含む変形材料は、駆動の異方性をより効果的に発揮することができ、所定方向についての伸縮率をより大きいものとすることができる。
刺激応答性化合物は、分子内に1つのユニットDを備えるものであってもよいが、本実施形態では、複数のユニットD(第1のユニットDおよび第2のユニットD)を備えている。これにより、刺激応答性化合物を含む変形材料は、駆動の異方性を特に効果的に発揮することができ、所定方向についての伸縮率を特に大きいものとすることができる。
【0028】
刺激応答性化合物におけるユニットDの結合部位は、特に限定されず、例えば、ユニットDは、ユニットAに直接結合するものや、ユニットBに結合するものであってもよいが、ユニットCに結合するものであるのが好ましい。特に、本実施形態では、第1のユニットDが第1のユニットCに結合しており、第2のユニットDが第2のユニットCに結合している。これにより、刺激応答性化合物を含む変形材料は、駆動の異方性をさらに効果的に発揮することができ、所定方向についての伸縮率をさらに大きいものとすることができる。
【0029】
ユニットD(第1のユニットD、第2のユニットD)としては、液晶性を示す基であれば特に限定されず、複数の環構造を有する基、例えば、複数のフェニル基をエステル基で連結したもの、ベンゼン環若しくはシクロヘキサン環が直接連結したものが挙げられる。
ユニットDとしては、特に、複数の環構造のうちの1つの環構造にハロゲン原子が1つ以上結合した基を用いるのが好ましい。これにより、ユニットDの配向時における運動性能をより高いものとすることができ、配向への移行の速度がより早くなる。その結果、刺激応答性化合物は、より速くかつより円滑に変形(変位)が可能となり、さらに低電圧で駆動するものとなる。
【0030】
また、ユニットD(第1のユニットDと第2のユニットD)は、重合性官能基を有しているものであってもよい。これにより、上記のような刺激応答性化合物(比較的低分子量のもの)を用いて、より分子鎖の長い刺激応答性化合物(上記の刺激応答性化合物が重合してなる刺激応答性化合物重合体)を形成することができ、刺激応答性化合物を含む変形材料の伸縮率をさらに大きいものとすることができ、より強い力(応力)で駆動させることが可能となる。
【0031】
また、本発明の刺激応答性化合物は、ユニットD(第1のユニットDと第2のユニットD)の重合性官能基によって重合しているもの(刺激応答性化合物重合体)であってもよい。これにより、刺激応答性化合物を含む変形材料の伸縮率をさらに大きいものとすることができ、より、強い力で駆動させることが可能となる。
ユニットD(第1のユニットDと第2のユニットD)の具体例としては、下記式(3)に示すようなものが挙げることができる。
【0032】
【化5】

【0033】
以上説明したように、本発明の刺激応答性化合物は、軸回転可能なユニットAと、ユニットAに結合した2つのユニットであって、酸化還元反応によりユニット同士で結合を形成することが可能なユニットB(第1のユニットBと第2のユニットB)と、炭素数が2および/または3のアルキレンオキシドが重合してなるポリアルキレンオキシド構造を含むユニットCとを備える点に特徴を有している。このような特徴を有することにより、低電力で変形(変位)させることができるとともに、柔軟性に優れ、低温領域での作動性に優れたものとすることができる。これは、以下の理由によるものと考えられる。
【0034】
すなわち、刺激応答性化合物が分子内に第1のユニットBおよび第2のユニットBを有することにより、電圧(比較的低い電圧)の印加による酸化還元反応で、速やかに、第1のユニットBと第2のユニットBとの結合を解除したり、形成することができる。また、ユニットCを備えることにより、刺激応答性化合物分子の結晶性を低いものとすることができ、低温領域においても非晶質状態を好適に保持することができる。その結果、刺激応答性化合物(刺激応答性化合物を含む変形材料)の柔軟性、低温領域での作動性を優れたものとすることができる。このように、ユニットBの刺激による結合性とユニットCの柔軟性等の特性とを利用することで、図1(a)に示す状態と図1(b)に示す状態とを、速やかにかつ確実に、相互に変換することができる。
【0035】
また、本発明の刺激応答性化合物が、液晶性を有するユニットDをさらに備えるものである場合、複数の刺激応答性化合物分子がより好適に配向した(並んだ)状態で存在することができ、酸化還元反応の前後(分子鎖の伸縮状態が変化した前後)のいずれにおいても、刺激応答性化合物分子の配向状態を保持することができる。その結果、刺激応答性化合物を含む変形材料全体として、より大きな変形(変位)が可能となる。
【0036】
なお、ユニットD(第1のユニットDと第2のユニットD)の重合性官能基によって重合しているもの(刺激応答性化合物重合体)を用いた場合、上述したように、低電圧で、さらに大きな変形が可能となる。すなわち、酸化状態(還元反応が進行する前)では、図2(a)に示すように、長い分子が伸びた状態で存在している。そこへ還元反応が進行するように電圧を印加すると、図2(b)に示すように、ユニットAを軸に回転し、隣接するユニットB同士が還元反応により結合し、さらに、重合体分子内においても、液晶性のユニットDが配向することにより、長い分子が折りたたまれた状態となる。このため、変位の度合いを大きなものとすることができる。
【0037】
[第2実施形態]
次に、本発明の刺激応答性化合物の第2実施形態について説明する。以下の説明では、前述した実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項の説明は省略する。
図3、図4は、本発明の刺激応答性化合物の酸化還元反応前後の分子構造を説明するための図である。
【0038】
本実施形態において、刺激応答性化合物は、前述した第1実施形態と同様に、ユニットA、B、CおよびDを備えるものであるが、ユニットCの結合位置が異なっている。すなわち、第1実施形態では、ユニットCは、ユニットAに結合するものであったが、本実施形態では、ユニットCは、ユニットAに結合するもの、特に、第1のユニットCが、第1のユニットBに結合したものであり、第2のユニットCが、第2のユニットBに結合したものである。
【0039】
ユニットBが上記式(2)で表される基である場合、下記式(11)に示すように、ユニットCの結合位置は、XとYの2か所があり得る。
【0040】
【化6】

【0041】
図3に示す構成では、2つのユニットC(第1のユニットC、第2のユニットC)が、いずれも、ユニットB(第1のユニットB、第2のユニットB)のYの位置に結合しているが、2つのユニットC(第1のユニットC、第2のユニットC)のうち、一方のみがユニットBのYの位置に結合し、他方のユニットCがユニットBのXの位置に結合していてもよい。また、2つのユニットC(第1のユニットC、第2のユニットC)が、いずれも、ユニットB(第1のユニットB、第2のユニットB)のXの位置に結合していてもよい。
【0042】
《変形材料》
上述したような刺激応答性化合物は、変形材料として、後述するようなアクチュエーター等に好適に用いられる。
本発明の刺激応答性化合物は、単独で変形材料として用いられるものであってもよいが、他の成分と混合して用いられるものであってもよい。このような成分としては、例えば、電解質等が挙げられる。
【0043】
<電解質>
変形材料が、本発明に係る刺激応答性化合物に加え、電解質を含むものであると、刺激応答性化合物への電荷の受け渡しをより速やかに進行させることができ、変形材料の高速応答性を特に優れたものとすることができる。また、後述するようなアクチュエーターにおいて、変形材料層全体(特に、変形材料層の厚さ方向全体)にわたって、変形材料層を構成する刺激応答性化合物を効率よく伸縮させることができる。その結果、変形材料層全体としての収縮率を特に大きいものとすることができる。
【0044】
電解質としては、各種酸、塩基、塩を用いることができるが、塩を用いるのが好ましい。これにより、変形材料の耐久性を特に優れたものとすることができる。電解質の塩としては、例えば、過塩素酸リチウム、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム等の無機塩、テトラブチルアンモニウムテトラフルオロホウ素等の有機塩等を用いることができる。
変形材料中における電解質の含有率は、0.1質量%以上10質量%以下であるのが好ましく、1質量%以上2質量%以下であるのがより好ましい。これにより、上述したような効果がより顕著に発揮される。
【0045】
<その他の成分>
本発明に係る変形材料は、上述した以外の成分を含むものであってもよい。
《アクチュエーター》
次に、上述した本発明の刺激応答性化合物(刺激応答性化合物重合体を含む)を用いたアクチュエーターについて詳細に説明する。
【0046】
図5は、本発明の刺激応答性化合物を用いたアクチュエーターの一例を模式的に示す断面図、図6は、電圧印加により変形したアクチュエーターの一例を示す断面図である。
図5に示すように、アクチュエーター100は、本発明の刺激応答性化合物を含む変形材料で構成された変形材料層10と、当該変形材料層10の両面に設けられた電極11とを有している。すなわち、アクチュエーター100は、変形材料層10を電極11で挟持した構造となっている。
【0047】
変形材料層10は、上述した刺激応答性化合物で構成されており、電圧を印加することで、変形する層である。
電極11は、変形材料層10に電圧を印加する機能を有している。
また、電極11は、変形材料層10の変形に追従するために、屈曲性を備えている。
また、電極11の、変形材料層10と接する面には、ラビング処理等の配向処理が施されている。これにより、刺激応答性化合物のユニットDを好適に配向させることができる。また、これにより、変形材料層10の変形(膨張・収縮)に異方性を発現させることができる。
このような電極11を構成する材料としては特に限定されないが、カーボンナノチューブを用いるのが好ましい。これにより、変形材料層10の変形により確実に追従することができる。
【0048】
このような構造のアクチュエーター100において、電極11に電圧を印加すると、変形材料層10の一方の電極11と接している側では、酸化反応が進み膨張し、変形材料層10の他方の電極11と接している側では、還元反応が進み収縮する。その結果、図6に示すように、還元反応が生じた方向に屈曲する。
特に、本発明のアクチュエーターは、上述したような本発明の刺激応答性化合物を用いて製造されたものであるため、柔軟性に優れ、低い電圧で変形(変位)することが可能で、低温領域での作動性に優れている。
【0049】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。
例えば、前述した実施形態では、刺激応答性化合物がユニットDを備えるものである場合について代表的に説明したが、本発明の刺激応答性化合物は、ユニットAと、第1のユニットBと、第2のユニットBと、ユニットCとを備えるものであればよく、ユニットDを備えていないものであってもよい。
【実施例】
【0050】
以下に実施例を掲げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
(実施例1)
[1]刺激応答性化合物の製造
[1.1]ユニットAの合成
ブロモチオフェンを原料として亜鉛、ニッケルの触媒を用いた2量化、臭素化を行い、DMFによるアルデヒド基の導入(ホルミル化)を行った。
次に、エチレングリコールによるアルデヒド基のアセタール保護を行い、臭素をさらにホルミル基に変換した。続いてNaBFによる還元反応でビチオフェン骨格に水酸基を2つ持つジオールを得た。
【0051】
[1.2]ユニットCおよびユニットDの合成
まず、2,3−ジフルオロベンゼンにn−ブチルリチウムを作用させ、ホウ酸トリメチルで処理することにより、2,3−ジフルオロボロン酸を得た。
次に、得られた2,3−ジフルオロボロン酸に4−アルコキシ1−ブロモベンゼンをパラジウム触媒存在下反応させることにより、4−(4−アルコキシフェニル)−2,3−ジフルオロベンゼンを得た。
【0052】
次に、得られた4−(4−アルコキシフェニル)−2,3−ジフルオロベンゼンにn−ブチルリチウムを作用させ、ホウ酸トリメチルで処理することにより、4−(4−アルコキシフェニル)−2,3−ジフルオロボロン酸を得た。
次に、得られた4−(4−アルコキシフェニル)−2,3−ジフルオロボロン酸に4−ブロモフェノールをパラジウム存在下で反応させ、1−ヒドロキシ−4−[4−(4−アルコキシフェニル−2,3−ジフルオロフェニル]ベンゼンを得た。
【0053】
次に、得られた1−ヒドロキシ−4−[4−(4−アルコキシフェニル−2,3−ジフルオロフェニル]ベンゼンと末端が臭素のオリゴエチレングリコールと反応させ、末端にオリゴエチレン鎖を持った液晶性化合物を得た。さらに塩化パラトルエンスルホニルと反応させることにより、末端にパラトルエンスルホニル基を持った液晶性化合物を得た。
【0054】
[1.3]刺激応答性化合物の製造
上記[1.1]で合成したジオールと上記[1.2]で合成した液晶性化合物とを水素化ナトリウム存在下、ジメチルホルムアミド(DMF)中で反応させ、液晶性分子を導入したビチオフェン誘導体を得た。
その後、上記ビチオフェン誘導体を酸触媒存在下、ベンゼンジチオールと反応させ2,3−ジクロロ−5,6−ジシアノ−p−ベンゾキノン(DDQ)で処理し、4フッ化ホウ素を加え、ユニットA、ユニットB(第1のユニットB、第2のユニットB)、ユニットC(第1のユニットC、第2のユニットC)、ユニットD(第1のユニットD、第2のユニットD)を有する下記式(4)で表される刺激応答性化合物(ビチオフェン誘導体)を得た。
なお、式(4)中のnは、4である。
【0055】
【化7】

【0056】
[2]変形材料の製造
上記のようにして得られた刺激応答性化合物と、電解質としてのテトラブチルアンモニウムテトラフルオロホウ素とを混合し、変形材料を得た。刺激応答性化合物と電解質との配合比は、重量比で、9:1であった。
[3]アクチュエーターの製造
上記のようにして得られた刺激応答性化合物を含む変形材料を用いて、図5に示すようなアクチュエーターを作成した。
アクチュエーターは、変形材料を溶媒に溶解させ、それをシャーレ上に塗布・乾燥し、乾燥物(変形材料層)を3cm×2cmの大きさに切り取り、走査電子顕微鏡の試料作成用スパッタマシンを用いて、変形材料層の両面に金をスパッタして接合し、アクチュエーターを得た。条件は、片面当たり10mAで30分とした。また、変形材料層の厚さは、500μmとなるようにした。
【0057】
(実施例2、3)
刺激応答性化合物の合成に用いる原料の種類を変更することにより、刺激応答性化合物として、それぞれ、下記式(5)、下記式(6)で表される化合物を合成した以外は前記実施例1と同様にして、刺激応答性化合物・変形材料・アクチュエーターを製造した。
【0058】
【化8】

【0059】
【化9】

【0060】
(実施例4、5)
刺激応答性化合物の合成に用いる原料の種類、合成条件を変更することにより、刺激応答性化合物として、それぞれ、下記式(7)、下記式(8)で表される化合物を合成した以外は前記実施例1と同様にして、刺激応答性化合物・変形材料・アクチュエーターを製造した。
【0061】
【化10】

【0062】
【化11】

【0063】
(比較例1)
単層カーボンナノチューブ(カーボン・ナノテクノロジー・インコーポレーテッド社製「HiPco」、含有Fe量14重量%)(以下、SWNTともいう)25mg、5重量%ナフィオン溶液(アルドリッチ社製、低分子量直鎖アルコールと水(10%)混合溶媒)25ml、および試薬特級メタノール25mlを、ビーカーに秤量して混合した後、超音波洗浄器中で、超音波照射を10時間以上行い、SWNTとナフィオンの混合分散液を調製した。この分散液をガラス製のシャーレにキャストし、ドラフト中で一昼夜以上放置して溶媒を除去した。溶媒を除去した後、150℃で4時間、熱処理を行った。形成されたSWNTとナフィオンの複合体フィルムをシャーレから剥がした後、3cm×2cmの大きさに切り取り、走査電子顕微鏡の試料作成用スパッタマシンを用いて、複合体フィルムの両面に金をスパッタして接合し、アクチュエーターを得た。条件は、片面当たり10mAで30分とした。
【0064】
(比較例2、3)
刺激応答性化合物の合成に用いる原料の種類を変更することにより、刺激応答性化合物として、それぞれ、下記式(9)、下記式(10)で表される化合物を合成した以外は前記実施例1と同様にして、刺激応答性化合物・変形材料・アクチュエーターを製造した。
【0065】
【化12】

【0066】
【化13】

なお、式(10)中のnは、8である。
【0067】
[4]アクチュエーターの評価
[4.1]変形量
前記各実施例および比較例のアクチュエーターを1mm×15mmの短冊状に切り取り試験片を作製した。当該試験片の端3mmの部分を電極付きホルダーでつかんで、室温(25℃)で、空気中で電圧5Vを加え、レーザー変位計を用いて、固定端から10mmの位置の変位を観測し、以下の基準に従い評価した。
【0068】
A:変位量が10mm以上。
B:変位量が8mm以上10mm未満。
C:変位量が5mm以上8mm未満。
D:変位量が1mm以上5mm未満。
E:変位量が1mm未満。
【0069】
[4.2]変形の異方性
アクチュエーターをXY平面に固定し、電圧を印加した様子をビデオカメラで撮影した。このときのX方向への変形をΔX[mm]、Y方向への変形をΔY[mm]とし、ΔX/ΔYを求め、以下の基準に従い評価した。
A:ΔX/ΔYが100以上。
B:ΔX/ΔYが50以上100未満。
C:ΔX/ΔYが20以上50未満。
D:ΔX/ΔYが1以上20未満。
E:ΔX/ΔYが1未満。
【0070】
[4.3]低温領域での作動性
前記各実施例および比較例のアクチュエーターを1mm×15mmの短冊状に切り取り試験片を作製した。当該試験片の端3mmの部分を電極付きホルダーでつかんで、−20℃の環境下、空気中で電圧5Vを加え、レーザー変位計を用いて、固定端から10mmの位置の変位を観測し、以下の基準に従い評価した。
【0071】
A:変位量が10mm以上。
B:変位量が8mm以上10mm未満。
C:変位量が5mm以上8mm未満。
D:変位量が1mm以上5mm未満。
E:変位量が1mm未満。
【0072】
[4.4]耐久性
100℃で引張試験を行い、強度が試験前の半分になるまでの時間を求めた。この時間をHとし、以下の基準に従い評価した。
A:Hが100時間以上。
B:Hが80時間以上100時間未満。
C:Hが50時間以上80時間未満。
D:Hが10時間以上50時間未満。
E:Hが10時間未満。
【0073】
これらの結果を、各実施例および各比較例の刺激応答性化合物の構成とともに、表1に示す。なお、表1中、3,3’−ビチエニルを「A1」、ベンゾジチオリル基を「B1」、ポリエチレンオキシド鎖を「C1」、プロピレンオキシド鎖を「C2」、4−[4−(4−ブトキシフェニル)−2,3−ジフルオロフェニル]フェニルを「D1」、単層カーボンナノチューブを「E」、アルキル鎖を「F」で示した。また、表1中、ユニットCの結合部位の欄には、ユニットAに結合するものを「ユニットA」、ユニットBのXの位置(式(11)参照)に結合するものを「X」、ユニットBのYの位置(式(11)参照)に結合するものを「Y」で示した。
【0074】
【表1】

【0075】
表1から明らかなように、本発明では、優れた結果が得られた。また、本発明(特に、実施例1)では、電圧の印加に対する応答速度が速いものであった。これに対し、比較例では、満足な結果が得られなかった。
【符号の説明】
【0076】
A…ユニットA B…ユニットB C…ユニットC D…ユニットD 100…アクチュエーター 10…変形材料層 11…電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸として機能する結合を有するユニットAと、
前記ユニットAの第1の結合部位に配置された第1のユニットBと、
前記ユニットAの第2の結合部位に配置された第2のユニットBと、
ユニットCと、
を備え、
前記第1のユニットBと前記第2のユニットBとは、酸化還元反応によって結合するものであり、
前記ユニットCは、炭素数が2および/または3のアルキレンオキシドが重合してなるポリアルキレンオキシド構造を含むものであることを特徴とする刺激応答性化合物。
【請求項2】
刺激応答性化合物は、分子内に、前記ユニットCとして、第1のユニットCと第2のユニットCとを含むものである請求項1に記載の刺激応答性化合物。
【請求項3】
前記第1のユニットCは、前記ユニットAの第3の結合部位に配置されたものであり、
前記第2のユニットCは、前記ユニットAの第4の結合部位に配置されたものである請求項2に記載の刺激応答性化合物。
【請求項4】
前記ユニットAは、下記式(1)で表される基である請求項1ないし3のいずれかに記載の刺激応答性化合物。
【化1】

【請求項5】
前記第1のユニットBおよび前記第2のユニットBは、下記式(2)で表される基である請求項1ないし4のいずれかに記載の刺激応答性化合物。
【化2】

【請求項6】
第1のユニットDと、第2のユニットDとをさらに含み、
前記第1のユニットDおよび前記第2のユニットDが、液晶性を有するものである請求項1ないし5のいずれかに記載の刺激応答性化合物。
【請求項7】
前記第1のユニットDは、前記第1のユニットCに結合したものであり、
前記第2のユニットDは、前記第2のユニットCに結合したものである請求項6に記載の刺激応答性化合物。
【請求項8】
前記第1のユニットDおよび前記第2のユニットDは、複数の環構造を有し、
前記複数の環構造のうちの1つの環構造にハロゲン原子が1つ以上結合している請求項6または7に記載の刺激応答性化合物。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれかに記載の刺激応答性化合物を用いて製造されたことを特徴とするアクチュエーター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−49664(P2013−49664A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−129254(P2012−129254)
【出願日】平成24年6月6日(2012.6.6)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】