説明

刺激応答性高分子架橋体およびその製造方法

【課題】簡便に製造し得る刺激応答性高分子架橋体、新規な刺激応答性高分子架橋体、およびそれらの製造方法を提供する。
【解決手段】2個以上の環状部分を有するポリマー(A)と、一方の末端にブロック基を有し他方の末端に重合性官能基を有する直鎖状分子(B)とを混合し、少なくとも一部に包接錯体を有する高分子架橋前駆体(C)を製造し、次いで、直鎖状分子(B)の重合性官能基を介して、当該直鎖状分子(B)と刺激応答性化合物()とを共重合し、ロタキサン構造を含む刺激応答性高分子架橋体(E)を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、刺激応答性の高分子架橋体およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、環状分子としてシクロデキストリン、環状分子に包接される直鎖状分子としてポリエチレングリコールを用いたポリロタキサンを架橋した、ロタキサン構造を含む高分子架橋体(高分子ゲル)が開示されている。
【0003】
この高分子ゲルは、従来の物理ゲルまたは化学ゲルとは違い、非共有結合および共有結合のいずれも利用しない機械的な結合(インターロック構造)で構成されており、環状分子が直鎖状分子上を自由に動けることから、従来にない優れた柔軟性を示し得る。
【特許文献1】特許第3475252号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、温度等の刺激に応答して物性が変化する刺激応答性の物質が知られている。上記の高分子ゲルに刺激応答性を付与した刺激応答性ゲルを製造するには、包接される直鎖状分子として刺激応答性のポリマーを使用するか、ポリロタキサンを合成した後、直鎖状分子に刺激応答性化合物を導入する必要がある。
【0005】
しかしながら、上記いずれの方法でも、擬ポリロタキサンを合成および単離し、その擬ポリロタキサンを別の溶媒に再度溶解した後、キャッピング剤を用いて末端をキャッピングすることによりポリロタキサンを得て、再度、単離精製し、さらに架橋剤を作用させてポリロタキサンのシクロデキストリン部分を架橋させる必要がある。工業化を考えた場合、このような多段階の反応は製造コストの面から非常に不利であるし、また、各段階の収率も決して高いものではない。
【0006】
また、前者の方法では、刺激応答性のポリマーを環状分子に貫通させるのが困難であり、後者の方法では、ポリロタキサン合成後に、直鎖状分子に刺激応答性化合物を導入すること自体が困難であり、いずれの方法でも刺激応答性ゲルを簡便に製造することはできない。
【0007】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、簡便に製造し得る刺激応答性高分子架橋体、新規な刺激応答性高分子架橋体、およびそれらの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、第1に本発明は、2個以上の環状部分を有するポリマーと、一方の末端にブロック基を有し他方の末端に重合性官能基を有する直鎖状分子とを混合し、その全部又は一部について包接錯体を形成させ、次いで、前記直鎖状分子の重合性官能基を介して、前記直鎖状分子と刺激応答性化合物とを共重合することを特徴とする刺激応答性高分子架橋体の製造方法を提供する(発明1)。なお、直鎖状分子との共重合に使用される刺激応答性化合物は、モノマーである。
【0009】
上記発明(発明1)によれば、擬ロタキサンの合成及び単離を経ることなく、インターロック構造を有する刺激応答性高分子架橋体を簡便に製造することができる。
【0010】
第2に本発明は、インターロック構造を有し、刺激応答性化合物またはその残基を骨格に含むことを特徴とする刺激応答性高分子架橋体を提供する(発明2)。
【0011】
上記発明(発明2)においては、インターロック構造を有する化合物により架橋されている部位を有していてもよい(発明3)。
【0012】
上記発明(発明2,3)において、前記インターロック構造は、ロタキサン構造であることが好ましい(発明4)。ただし、本発明はこれに限定されるものではなく、インターロック構造は、例えばカテナン構造であってもよい。
【0013】
第3に本発明は、2個以上の環状部分を有するポリマー、及び一方の末端にブロック基を有し他方の末端に重合性官能基を有する、前記ポリマーと包接錯体を形成可能な直鎖状分子を混合して得られた高分子架橋前駆体の前記直鎖状分子の重合性官能基を介して、前記直鎖状分子と刺激応答性化合物とを共重合させることにより得られることを特徴とする刺激応答性高分子架橋体を提供する(発明5)。
【0014】
上記発明(発明5)に係る刺激応答性高分子架橋体は、高分子架橋前駆体の直鎖状分子を、当該直鎖状分子が末端に有する重合性官能基を介して刺激応答性化合物と共重合するだけで、簡便に製造することができる。この刺激応答性高分子架橋体は、柔軟性に優れ、当該刺激応答性高分子架橋体を使用して形成したプラスチック材料は応力緩和性等に優れる。また、この刺激応答性高分子架橋体は、従来の架橋により作製した刺激応答性高分子架橋体よりも、刺激に応じて大きい膨潤・収縮挙動を示し、収縮速度が著しく速いという特徴を有する。
【0015】
第4に本発明は、2個以上の環状部分を有するポリマーにおける前記環状部分の開口部に、側鎖末端にブロック基を有する第1の高分子の少なくとも1つの側鎖が串刺し状に貫通し、かつ、同一の前記環状部分を有するポリマーの残り少なくとも1個の前記環状部分の開口部に、側鎖末端にブロック基を有する第2の高分子の少なくとも1つの側鎖が串刺し状に貫通した構造を有し、前記第1の高分子、前記第2の高分子、または前記第1の高分子と前記第2の高分子とを結合する部分の少なくとも1箇所に、刺激応答性化合物またはその残基が含まれることを特徴とする刺激応答性高分子架橋体を提供する(発明6)。
【0016】
上記発明(発明6)に係る刺激応答性高分子架橋体は、ポリマーの環状部分が高分子の側鎖上を移動し得るため柔軟性に優れ、したがって、当該刺激応答性高分子架橋体を使用して形成したプラスチック材料は応力緩和性等に優れる。また、この刺激応答性高分子架橋体は、従来の架橋により作製した刺激応答性高分子架橋体よりも、刺激に応じて大きい膨潤・収縮挙動を示し、収縮速度が著しく速いという特徴を有する。
【0017】
上記発明(発明6)においては、重合体としての前記刺激応答性化合物が、前記第1の高分子および/または前記第2の高分子の主鎖を構成してもよい(発明7)。
【0018】
上記発明(発明5〜7)において、前記ポリマーの環状部分は、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリンおよびγ−シクロデキストリンからなる群から選ばれる少なくとも1種、または環状ポリエーテル、環状ポリエステル、環状ポリエーテルアミンおよび環状ポリアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい(発明8)。
【0019】
上記発明(発明2〜8)においては、前記刺激応答性化合物が、N−イソプロピルアクリルアミドまたはその重合体であることが好ましい(発明9)。
【0020】
上記発明(発明8)に係る刺激応答性高分子架橋体を使用して得られる刺激応答性高分子架橋体フィルムは、加熱によりフィルムが透明または半透明から白色に顕著に変化するとともに、表面状態が親水性から疎水性に変化する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、インターロック構造を有する刺激応答性高分子架橋体を、簡便に効率良く製造することができる。また、本発明によれば、インターロック構造を有する新規な刺激応答性高分子架橋体が得られる。得られる刺激応答性高分子架橋体は柔軟性に優れ、当該刺激応答性高分子架橋体を使用して形成したプラスチック材料は応力緩和性等に優れる。さらに、当該刺激応答性高分子架橋体は、従来の架橋により作製した刺激応答性高分子架橋体よりも、刺激に応じて大きい膨潤・収縮挙動を示し、収縮速度が著しく速いという特徴を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について説明する。
本発明の一実施形態に係る刺激応答性高分子架橋体は、図1に模式的に示す方法により製造することができる。
【0023】
最初に、2個以上の環状部分を有するポリマー(以下「ポリマー(A)」という。)と、一方の末端にブロック基を有し他方の末端に重合性官能基を有する直鎖状分子(以下「直鎖状分子(B)」という。)とを用意する(図1参照)。
【0024】
ポリマー(A)の環状部分は、直鎖状分子(B)を包接することができ、その状態で当該直鎖状分子(B)上を移動できるものである。なお、本明細書において、「環状部分」の「環状」は、実質的に「環状」であることを意味し、直鎖状分子(B)上で包接したまま移動可能であれば、環状部分は完全には閉環でなくてもよく、例えば螺旋構造であってもよい。また、本発明のポリマー(A)は、後述するとおり比較的大きな分子量を有する環状分子を構成部分とする多量体であり、繰り返し数が少なくても自身の分子量が巨大となる。本発明のポリマー(A)とは、このために行った便宜上の名称であって、2〜10量体程度のオリゴマー領域の繰り返し数のものも含むものである。
【0025】
環状部分としては、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン等のシクロデキストリン、あるいは、環状ポリエーテル、環状ポリエステル、環状ポリエーテルアミン、環状ポリアミン等の環状分子が好ましく、これらの環状部分は、ポリマー(A)中または高分子架橋前駆体(C)もしくは刺激応答性高分子架橋体(E)中で2種以上混在していてもよい。
【0026】
上記環状部分がシクロデキストリンである場合には、シクロデキストリンの水酸基に、ポリマー(A)の直鎖状分子(B)に対する溶解性を向上させることのできる高分子鎖および/または置換基が導入されたものであってもよい。かかる高分子鎖としては、例えば、オキシエチレン鎖、アルキル鎖、アクリル酸エステル鎖等が挙げられる。一方、上記置換基としては、例えば、アセチル基、アルキル基、トリチル基、トシル基、トリメチルシラン基、フェニル基等が挙げられる。
【0027】
上記環状部分のシクロデキストリン以外の具体例としては、クラウンエーテルまたはその誘導体、カリックスアレーンまたはその誘導体、シクロファンまたはその誘導体、クリプタンドまたはその誘導体等が挙げられる。
【0028】
環状部分としては、直鎖状分子が串刺し状に貫通し易いことからα-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン、及びクラウンエーテルが好ましく、水中で容易に直鎖状分子と包接錯体を形成することからα−シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、及びγ-シクロデキストリンが特に好ましい。
【0029】
ポリマー(A)中における環状部分の個数は、2個以上であり、好ましくは3〜50個、特に好ましくは4〜10個である。環状部分が2個以上あることで、それによって複数の直鎖状分子(B)を包接することができ、その直鎖状分子(B)を重合させることで、複数のポリマー(A)が互いに結び付けられ、架橋構造が構成される。環状部分が3個以上あると、架橋構造が密になるため、得られる刺激応答性高分子架橋体(E)の応力緩和性を阻害することなく、強度を向上させることができるためにより好ましい。
【0030】
ポリマー(A)の構造としては、2個以上の環状部分が連結部分によって連結されている構造が好ましい。連結部分の分子(連結部分分子)は、環状部分と包接錯体を作らない又は作り難い分子であることが好ましい。このような連結部分分子を使用することにより、ポリマー(A)を合成するときに、環状部分の開口部を開口部としたまま、環状部分を連結することができる。
【0031】
連結部分分子は、前記環状部分と包接錯体を作らない分子が好ましく用いられる。かかる分子としては、直鎖状であってもよいし、分岐鎖状であってもよいが、ある程度かさ高い側鎖を有することが好ましい。例えば、前記環状部分がα-シクロデキストリンの場合には、メチル基よりかさ高い側鎖を有することが好ましい。すなわち、前記環状部分と包接錯体を作らないという観点から、好ましい連結部分分子としては、ポリプロピレングリコール、ポリアクリル酸エステル、ポリジメチルシロキサン、ポリイソプレン等が挙げられ、中でも特にポリプロピレングリコールが好ましい。
【0032】
1つの連結部分分子の数平均分子量(Mn)は、100〜100,000であることが好ましく、特に500〜10,000であることが好ましい。連結部分分子の数平均分子量が100未満であると、ポリマー(A)の環状部分の開口部が近接しすぎるため架橋構造をとり難く、また、インターロック構造に基づく効果が十分に発揮されないおそれがあり、100,000を超えると、直鎖状分子(B)等との相溶性が悪くなり架橋構造の形成が困難となるおそれがある。
【0033】
ポリマー(A)の質量平均分子量(Mw)は、環状部分の種類にも依存するが、通常、1,000〜1,000,000であることが好ましく、特に3,000〜100,000であることが好ましい。ポリマー(A)の質量平均分子量が1,000未満であると、環状部分の個数が2未満となる場合が多く、インターロック構造を形成することができないおそれがあり、また、できたとしても架橋部分が非常に近接するためインターロック構造に基づく効果が十分に発揮できないおそれがある。一方、ポリマー(A)の質量平均分子量が1,000,000を超えると、直鎖状分子(B)等との相溶性が悪くなり架橋構造の形成が困難となるおそれがある。
【0034】
ポリマー(A)は常法によって合成することができる。例えば、官能基を有する、環状部分を構成する分子(環状分子)と、当該環状分子の官能基と反応し得る反応性基を末端に有する、連結部分分子を構成する原料化合物とを反応させることにより、ポリマー(A)が得られる。具体的には、環状部分がα−シクロデキストリンであり、連結部分分子がポリプロピレングリコールであるポリマー(A)を合成する場合、α−シクロデキストリンと、末端に反応性基を有するポリプロピレングリコールとを混合し、所望により触媒を加え、両者を反応させることにより、ポリマー(A)が得られる。
【0035】
連結部分分子と結合する環状分子の官能基としては、例えば、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、チオール基等が好ましく、連結分子の末端の反応性基としては、例えば、イソシアネート基、エポキシ基、アジリジン基等が好ましい。連結部分分子を構成する原料化合物としては、例えば、キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等のイソシアネート系化合物、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールグリシジルエーテル等のエポキシ系化合物、N,N−ヘキサメチレン−1,6−ビス(1−アジリジンカルボキシアミド)等のアジリジン系化合物を末端に有するものを使用することができる。
【0036】
直鎖状分子(B)は、ポリマー(A)の環状部分に包接され、共有結合等の化学結合でなく機械的な結合で一体化することができる直鎖状の分子または物質であって、かつ一方の末端にブロック基を有し他方の末端に重合性官能基を有するものである。なお、本明細書において、「直鎖状分子」の「直鎖」は、実質的に「直鎖」であることを意味する。すなわち、直鎖状分子(B)上でポリマー(A)の環状部分が移動可能であれば、直鎖状分子(B)は分岐鎖を有していてもよい。
【0037】
直鎖状分子(B)の両末端に該当するブロック基と重合性官能基を除いた部分(本体部分)としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリイソプレン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、ポリテトラヒドロフラン、ポリアクリル酸エステル、ポリジメチルシロキサン、ポリエチレン、ポリプロピレン等が好ましく、これらの本体部分を有する直鎖状分子(B)は、高分子架橋前駆体(C)または刺激応答性高分子架橋体(E)中で2種以上混在していてもよい。
【0038】
直鎖状分子(B)の本体部分の数平均分子量(Mn)は、100〜300,000であることが好ましく、特に200〜200,000であることが好ましく、さらには300〜100,000であることが好ましい。数平均分子量が100未満であると、環状部分の直鎖状分子(B)上での移動量が小さくなり、得られる刺激応答性高分子架橋体(E)において柔軟性が十分に得られないおそれがある。また、数平均分子量が300,000を超えると、溶媒への溶解性が悪くなるおそれがある。
【0039】
ブロック基は、直鎖状分子(B)を包接しているポリマー(A)の環状部分が離脱せず、包接錯体の形態を保持し得る基であれば、特に限定されない。このような基としては、かさ高い基、イオン性基等が挙げられる。
【0040】
ブロック基としては、例えば、ジアルキルフェニル基類、ジニトロフェニル基類、シクロデキストリン類、アダマンタン基類、トリチル基類、フルオレセイン類、ピレン類、アントラセン類等が好ましく、これらのブロック基は、包接錯体または高分子架橋体中で2種以上混在していてもよい。直鎖状分子(B)の片末端に結合してブロック基を形成するキャッピング剤としては、例えば、ジメチルフェニルイソシアネート、トリチルフェニルイソシアネート、2,4-ジニトロフルオロベンゼン、アダマンタンアミン等が好適に用いられる。
【0041】
重合性官能基は、当該重合性官能基を介して直鎖状分子(B)と後述する刺激応答性化合物(D)とを共重合することができるものであれば、特に限定されない。かかる重合性官能基としては、例えば、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、エポキシ基、アセチレン基、オキセタニル基等が好ましい。
【0042】
直鎖状分子(B)は常法によって合成することができる。例えば、一方の末端に重合性官能基を有する直鎖状分子、または両方の末端に互いに異なる重合性官能基を有する直鎖状分子と、ブロック基用のキャッピング剤とを反応させ、一方の末端に上記重合性官能基を残し、他方の末端にブロック基を付加することにより、直鎖状分子(B)を得ることができる。
【0043】
一例として、一方の末端にヒドロキシル基、他方の末端に(メタ)アクリロイル基を有する直鎖状分子と、イソシアネート基を有するジアルキルフェニル基類とを混合し、所望により触媒を加え、両者を反応させることにより、一方の末端にブロック基としてのジアルキルフェニル基、他方の末端に重合性官能基としての(メタ)アクリロイル基を有する直鎖状分子(B)が得られる。
【0044】
以上説明したポリマー(A)と直鎖状分子(B)とを用意したら、ポリマー(A)および直鎖状分子(B)を混合し、その全部又は一部について包接錯体を形成することにより高分子架橋前駆体(C)を製造する。すなわち、ポリマー(A)の環状部分の1個の開口部を直鎖状分子(B)で串刺し状に貫通して、かつ、ポリマー(A)の環状部分の残りの開口部の少なくとも1個を別の直鎖状分子(B)で貫通し、前記2個以上の直鎖状分子(B)が同一のポリマー(A)の複数の環状部分に包接された構造を有する高分子架橋前駆体(C)を製造する(図1参照)。
【0045】
なお、高分子架橋前駆体(C)は上記の包接錯体が形成された構造を有することを特徴とするが、ポリマー(A)の環状部分の全ての開口部がそのような状態になっていることを要しない。すなわち、混合物としてのポリマー(A)中において、その環状部分の開口部の1個にしか直鎖状分子(B)が串刺し状に貫通されていない構造、さらには、ポリマー(A)の環状部分の開口部に直鎖状分子(B)が全く串刺し状に貫通されていない構造を持つ部分が含まれていても良いし、あるいは、ポリマー(A)に包接されない混合物としての直鎖状分子(B)が含まれていても良い。
【0046】
上記のような高分子架橋前駆体(C)の製造は、ポリマー(A)および直鎖状分子(B)を溶媒中、例えば水、水酸化ナトリウム水溶液、ジメチルホルムアミド(DMF)と水の混合溶液、メタノールと水の混合溶液等の中に存在させた状態にして(例えば、ポリマー(A)の溶液に直鎖状分子(B)を添加して)、その溶液を撹拌することによって行うことができる。高分子架橋前駆体(C)が得られたことは、溶液の粘度が上昇することによって判断することができる。
【0047】
撹拌方法については特に制限はなく、常温または適当に制御された温度で、機械的撹拌処理、超音波処理などの方法で撹拌することができ、特に、超音波処理で撹拌することが好ましい。撹拌時間は、数分〜1時間の条件で行うことが好ましい。超音波の照射条件については特に制限はないが、周波数20〜40kHzで行うことが好ましい。
【0048】
上記のようにして高分子架橋前駆体(C)を製造したら、ポリマー(A)の環状部分に包接された直鎖状分子(B)の重合性官能基を介して、当該直鎖状分子(B)と刺激応答性化合物(D)とを共重合し、刺激応答性高分子架橋体(E)を得る(図1参照)。この刺激応答性高分子架橋体(E)は、インターロック構造としてのロタキサン構造を含む。
【0049】
直鎖状分子(B)と共重合する刺激応答性化合物(D)は、直鎖状分子(B)の重合性官能基を介して直鎖状分子(B)と共重合可能であり、かつ刺激応答性化合物(D)を用いて高分子ゲルを形成した場合に刺激応答性を発現するモノマーである。重合性官能基としては、例えば炭素−炭素二重結合のような重合性基が挙げられる。モノマーの分子量は特に限定はされない。
【0050】
ここで、刺激応答性化合物(D)の詳細について説明する。刺激応答性の刺激としては、温度の変化;光、磁場、電流または電界の付与;pH、イオン濃度または溶媒組成の変化;化学物質の吸脱着等が挙げられる。また、応答挙動としては、溶媒の吸脱(吸収・放出)による体積変化(膨潤・収縮)が挙げられる。この体積変化は一方的なものでも可逆的なものであってもよいが、可逆的であるものが好ましい。
【0051】
刺激応答性化合物(D)の具体的なモノマーとしては、次のようなものが挙げられる。温度応答性の高分子ゲルを形成するモノマーとして、N−イソプロピルアクリルアミド等のN−アルキル置換(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸およびその塩、ビニルメチルエーテル、またはオクチル基、デシル基、ラウリル基、ステアリル基等の長鎖アルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルなどが挙げられる。
【0052】
光応答性の高分子ゲルを形成するモノマーとしては、トリアリールメタン誘導体やスピロベンゾピラン誘導体などが挙げられる。
【0053】
電流または電界で応答する高分子ゲルを形成するモノマーとしては、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等のアミノ置換(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピルアクリレート、スチレン、ビニルピリジン、ビニルカルバゾール、ジメチルアミノスチレンなどが挙げられる。
【0054】
pH応答性の高分子ゲルを形成するモノマーとしては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、マレイン酸、ビニルスルホン酸、ビニルベンゼンスルホン酸、ポリジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリルなどが挙げられる。
【0055】
イオン濃度応答性の高分子ゲルを形成するモノマーとしては、前述したpH応答性高分子ゲルを形成するモノマーと同様のものが使用できる。
【0056】
化学物質の吸脱着によって刺激応答する刺激応答性高分子ゲルを形成するモノマーとしては、強イオン性のものが好ましく、その例として、ビニルスルホン酸、ビニルベンゼンスルホン酸、(メタ)アクリルアミドアルキルスルホン酸などが挙げられる。
【0057】
溶媒組成の変化によって刺激応答する刺激応答性高分子ゲルを形成するモノマーとしては、ほとんどの高分子ゲルを形成するモノマーが該当する。良溶媒と貧溶媒とを利用することで、膨潤、収縮を引き起こすことが可能である。
【0058】
以上の刺激応答性高分子ゲルの特性より、直鎖状分子(B)と共重合する刺激応答性化合物(D)として特に好ましいものとしては、N−イソプロピルアクリルアミドが挙げられる(図1および図2参照)。
【0059】
上記刺激応答性化合物(D)を、前述の作製方法で説明したように高分子架橋前駆体(C)に含まれる重合性官能基を介して共重合すると、刺激応答性化合物(D)を構成単位として含む刺激応答性高分子架橋体(E)が得られる。なお、刺激応答性高分子架橋体(E)中における刺激応答性化合物(D)は、モノマーまたは重合体の形で存在する。この刺激応答性高分子架橋体(E)をフィルムにした刺激応答性高分子架橋体フィルムは、従来の架橋により作製した刺激応答性高分子架橋体よりも、刺激に応じて大きい膨潤・収縮挙動を示し、収縮速度が著しく速いという特徴を有する。
【0060】
例えば、上記N−イソプロピルアクリルアミドを刺激応答性化合物(D)として用い、前述の作製方法で説明したように高分子架橋前駆体(C)に含まれる重合性官能基を介して共重合すると、N−イソプロピルアクリルアミドを構成単位として含む刺激応答性高分子架橋体(E)を得る。なお、刺激応答性高分子架橋体(E)中におけるN−イソプロピルアクリルアミドは、モノマーまたは重合体の形で存在する。この刺激応答性高分子架橋体(E)をフィルムにした刺激応答性高分子架橋体フィルムは、高温にすることでフィルムが透明または半透明から白色に顕著に変化するとともに、表面状態が親水性から疎水性に変化する。また、従来の架橋により作製した刺激応答性高分子架橋体よりも大きい膨潤・収縮挙動を示し、収縮速度が著しく速い。
【0061】
刺激応答性化合物(D)としてN−イソプロピルアクリルアミドを使用した刺激応答性高分子架橋体(E)の一例を図2に模式的に示す。図2に示す刺激応答性高分子架橋体(E)では、N−イソプロピルアクリルアミドを主成分とするポリマー(BD)のn番目のモノマー成分に共重合された直鎖状分子(B)成分由来の側鎖(B)が、ポリマー(A)の環状部分の1個に貫通した状態となっている。その側鎖(B)の末端には、ブロック基が結合している。包接している環状部分のポリマー(A)の別の環状部分は、さらに別のN−イソプロピルアクリルアミドを主成分とするポリマー(BD)の側鎖(B)に貫通された状態となっている。ただし、刺激応答性高分子架橋体(E)は、この構造に限定されるものではない。
【0062】
刺激応答性高分子架橋体(E)は、具体的には、ポリマー(A)における環状部分の開口部の1個に、側鎖末端にブロック基を有する第1の高分子の側鎖が串刺し状に貫通し、かつ、同一のポリマー(A)の環状部分の別の開口部に、側鎖末端にブロック基を有する第2の高分子の側鎖が串刺し状に貫通し(同一のポリマー(A)がさらに第3の高分子、第4の高分子・・・第nの高分子等と同様な包接錯体を形成している場合も含む)、ポリマー(A)の環状部分の少なくとも2個の開口部に別個の高分子の側鎖が包接されてなる構造を有する。そして、第n(nは1、2を含む整数)の高分子の主鎖もしくは側鎖、またはそれら高分子を相互に結合する部分(高分子鎖を含む)の少なくとも1箇所に、刺激応答性化合物(D)またはその残基が含まれる。なお、第nの高分子の側鎖は、直鎖状分子(B)由来である。得られる刺激応答性高分子架橋体(E)は、新規物質である。
【0063】
高分子架橋前駆体(C)における直鎖状分子(B)と刺激応答性化合物(D)との重合反応は常法によって行えばよく、例えばラジカル重合によって反応させる。そのような反応として、例えば高分子架橋前駆体(C)および刺激応答性化合物(D)を含有する溶液に、所望により光重合開始剤を添加して紫外線を照射することにより、あるいは、熱重合開始剤を添加して加熱することにより、直鎖状分子(B)と刺激応答性化合物(D)とは共重合する。
【0064】
光重合開始剤としては、通常使用されるものであれば特に制限されることなく、例えば、ベンゾフェノン、アセトフェノン、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾイン安息香酸、ベンゾイン安息香酸メチル、ベンゾインジメチルケタール、2,4−ジエチルチオキサンソン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンジルジフェニルサルファイド、テトラメチルチウラムモノサルファイド、アゾビスイソブチロニトリル、ベンジル、ジベンジル、ジアセチル、β−クロールアンスラキノン、4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、(2,4,6−トリメチルベンジルジフェニル)フォスフィンオキサイド、2−ベンゾチアゾール−N,N−ジエチルジチオカルバメート等を使用することができる。
【0065】
一方、熱重合開始剤としては、通常使用されるものであれば特に制限されることなく、例えば、過酸化ベンゾイル、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)等を使用することができる。
【0066】
刺激応答性高分子架橋体(E)の精製は常法によって行えばよく、例えば、水、テトラヒドロフランおよびジメチルホルムアミドで順次洗浄すればよい。
【0067】
以上の方法によれば、擬ロタキサンの合成を経ることなく、ポリマー(A)と直鎖状分子(B)とを混合攪拌するだけで、簡便に高分子架橋前駆体(C)を製造することができ、さらに得られた高分子架橋前駆体(C)の直鎖状分子(B)と刺激応答性化合物(D)とを共重合することで、インターロック構造を有するロタキサン構造を含む刺激応答性高分子架橋体(E)を簡便に製造することができる。
【0068】
得られた刺激応答性高分子架橋体(E)においては、ポリマー(A)の環状部分が高分子の側鎖上を移動し得るため柔軟性に優れ、したがって、刺激応答性高分子架橋体(E)を使用して形成したプラスチック材料は応力緩和性に優れる。また、得られた刺激応答性高分子架橋体(E)は、従来の架橋により作製した刺激応答性高分子架橋体よりも、刺激に応じて大きい膨潤・収縮挙動を示し、収縮速度が著しく速いという優れた性質を有する。さらに、刺激応答性化合物(D)としてN−イソプロピルアクリルアミドを使用した場合に、得られた刺激応答性高分子架橋体(E)をフィルムにした刺激応答性高分子架橋体フィルムは、加熱によりフィルムが透明または半透明から白色に顕著に変化するとともに、表面状態が親水性から疎水性に変化するという特性を示す。
【0069】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0070】
例えば、本発明に係る刺激応答性高分子架橋体は、インターロック構造を有し、刺激応答性化合物またはその残基を骨格に含むものであればよい。前述の例は、2個以上の環状部分を有するポリマー(A)と直鎖状分子(B)とから構成されるインターロック構造を有する。インターロック構造は、ロタキサン構造であることが好ましいが、それ以外にも、例えばカテナン構造であってもよい。カテナン構造を有する刺激応答性高分子架橋体としては、カテナン構造を有する環状分子を相互に連結する部分に刺激応答性化合物が導入されたもの等が例示される。
【実施例】
【0071】
以下、実施例等により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0072】
〔実施例1〕
(1)ポリマー(A)の合成
α−シクロデキストリン(ナカライテスク社製)5gをジメチルホルムアミド50mlに溶解させ、この溶液にトリレン2,4−ジイシアネート末端ポリプロピレングリコール(Aldrich社製,Mn:1,000)3.4gと、錫触媒であるジブチル錫ジラウレート(東京化成社製)200mgとを加え、20時間室温で攪拌した。
【0073】
上記反応溶液をジエチルエーテルに注いで沈殿させ、回収した固体を乾燥させた後、水で洗浄して再び乾燥させ、環状部分としてα−シクロデキストリン、連結部分分子としてポリプロピレングリコールを有するポリマー(A)4.6gを得た。
【0074】
(2)直鎖状分子(B)の合成
ポリエチレングリコール(和光純薬工業社製,Mn:1000)5gを塩化メチレン50mlに溶解させ、この溶液に3,5−ジメチルフェニルイソシアネート(Aldrich社製)1.6gと、錫触媒であるジブチル錫ジラウレート(東京化成社製)200mgとを加え、室温で20時間攪拌した。続いて、その溶液に2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(昭和電工社製,製品名「カレンズMOI」)1.7gと、ジブチル錫ジラウレート(東京化成社製)100mgとを加え、更に室温で20時間撹拌した。得られた溶液を濃縮後、−75℃に冷却したジエチルエーテルに沈澱させて沈殿物を回収し、一方の末端に3,5−ジメチルフェニル基からなるブロック基を有し、他方の末端にメタクリロイル基を有するポリエチレングリコール(以下「MA−PEG−DPI」という;直鎖状分子(B))3.8gを得た。
【0075】
(3)高分子架橋前駆体(C)の製造
ポリマー(A)300mgを0.4wt%の水酸化ナトリウム水溶液1mlに溶解させ、この溶液に直鎖状分子(B)200mgを加え、機械的に攪拌しながら超音波照射(35Hz)を5分行ったところ、溶液が白濁し、粘性が上昇した。このような粘度上昇した白濁物は、ポリマー(A)の環状部分が直鎖状分子(B)を包接してなる高分子架橋前駆体(C)であると考えられる。
【0076】
(4)刺激応答性高分子架橋体(E)の製造
上記白濁物に、刺激応答性化合物(D)としてN−イソプロピルアクリルアミド2.0gを加え、均一になるまで攪拌した。次いで、光重合開始剤である1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン/ベンゾフェノン共融混合物(チバ・スペシャリティー・ケミカルズ社製,製品名「IRGACURE 500」)40μlを加え、撹拌後、紫外線を3分間照射した(照射条件:照度3.0mW/cm,光量500mJ/cm)。
【0077】
得られた物質は、上記高分子架橋前駆体(C)における直鎖状分子(B)の重合性官能基(メタクリロイル基)を介して、直鎖状分子(B)と刺激応答性化合物(D)とが共重合してなる刺激応答性高分子架橋体(E)(ポリマー(A)の環状部分に、末端にブロック基を有する高分子の側鎖が包接され、刺激応答性化合物(D)の重合体がその高分子の主鎖を構成してなる刺激応答性高分子架橋体(E))であると考えられる。
【0078】
得られた物質(刺激応答性高分子架橋体(E))を水、テトラヒドロフランおよびジメチルホルムアミドに順次浸漬して洗浄し、その後乾燥させて刺激応答性高分子架橋体フィルム(厚さ:1.0mm,非延伸)を得た。
【0079】
〔比較例1〕
実施例1におけるポリマー(A)の替わりにポリエチレングリコールジアクリレート(インターロック構造を形成しない架橋体として使用)44mgを使用する以外、実施例1と同様にして刺激応答性高分子架橋体フィルム(厚さ:1.0mm,非延伸)を作製した。
【0080】
〔試験例1〕(膨潤率の測定)
実施例および比較例で得られた刺激応答性高分子架橋体フィルムを水に浸漬し、水温を昇温速度1℃/minで室温から50℃まで上昇させた。そのとき、各温度での刺激応答性高分子架橋体フィルムの質量を測定し、膨潤率を算出した。
【0081】
膨潤率は、乾燥したフィルムの質量(Wdry)と膨潤後のフィルムの質量(Wswell)との差から求めた。計算式は以下の通りである。
膨潤率[%]={(Wswell−Wdry)/Wdry}×100
これにより得られた温度と膨潤率との関係を図3のグラフに示す。
【0082】
図3のグラフより、実施例の刺激応答性高分子架橋体フィルムは、比較例の刺激応答性高分子架橋体フィルムと比較して、温度に応じて非常に大きい膨潤・収縮挙動を示すことが分かる。
【0083】
〔試験例2〕(収縮挙動の評価)
実施例および比較例で得られた刺激応答性高分子架橋体フィルム(室温)を50℃の水に浸漬し、膨潤率S(t)を経時的に測定して、収縮率Snを算出した。
【0084】
収縮率Snは、以下の式によって求めた。
収縮率Sn=時間(t)での膨潤率S(t)/完全に膨潤した状態(23℃)での膨潤率S(max)
これにより得られた時間と収縮率Snとの関係(収縮挙動)を図4のグラフに示す。
【0085】
図4のグラフより、実施例の刺激応答性高分子架橋体フィルムは、比較例の刺激応答性高分子架橋体フィルムと比較して、温度刺激に対する収縮速度が著しく速いということが分かる。
【0086】
〔試験例3〕(水滴接触角の測定)
実施例および比較例で得られた刺激応答性高分子架橋体フィルムの表面の純水に対する接触角を、23℃(室温)および60℃(加熱)にて、接触角計(KRUSS社製,DSA100)を用いて測定した。結果を表1に示す。
【0087】
【表1】

【0088】
表1より、実施例の刺激応答性高分子架橋体フィルムでは、加熱により表面状態が親水性から疎水性に顕著に変化することが分かる。
【0089】
〔試験例4〕(透明性の評価)
実施例および比較例で得られた刺激応答性高分子架橋体フィルムを23℃(室温)から60℃まで加熱し、そのときの刺激応答性高分子架橋体フィルムの外観を目視により評価した。その結果、実施例の刺激応答性高分子架橋体フィルムは、加熱によりフィルムが透明から白色に顕著に変化した。一方、比較例の刺激応答性高分子架橋体フィルムは、透明から薄く濁る程度(半透明)に変化した。実施例で得られた刺激応答性高分子架橋体フィルムの加熱前の状態(透明)を示す写真を図5に、加熱後の状態(白色)を示す写真を図6に示す。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明は、応力緩和性および刺激応答性に優れた高分子架橋体の製造に好適である。また、得られる高分子架橋体は、刺激応答性に優れたフィルム等として使用でき、例えばセンサー、ゲル材料、医療材料等に用いられる機能性材料として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本発明の一実施形態に係る刺激応答性高分子架橋体の製造工程を示す模式図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る刺激応答性高分子架橋体の構造を示す模式図である。
【図3】刺激応答性高分子架橋体フィルムの温度と膨潤率との関係を示すグラフである。
【図4】刺激応答性高分子架橋体フィルムの時間と収縮率との関係を示すグラフである。
【図5】試験例4の透明性の評価において、実施例の刺激応答性高分子架橋体フィルムの加熱前の状態(透明)を示す写真である。
【図6】試験例4の透明性の評価において、実施例の刺激応答性高分子架橋体フィルムの加熱後の状態(白色)を示す写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2個以上の環状部分を有するポリマーと、一方の末端にブロック基を有し他方の末端に重合性官能基を有する直鎖状分子とを混合し、その全部又は一部について包接錯体を形成させ、
次いで、前記直鎖状分子の重合性官能基を介して、前記直鎖状分子と刺激応答性化合物とを共重合する
ことを特徴とする刺激応答性高分子架橋体の製造方法。
【請求項2】
インターロック構造を有し、刺激応答性化合物またはその残基を骨格に含むことを特徴とする刺激応答性高分子架橋体。
【請求項3】
インターロック構造を有する化合物により架橋されている部位を有することを特徴とする請求項2に記載の刺激応答性高分子架橋体。
【請求項4】
前記インターロック構造が、ロタキサン構造であることを特徴とする請求項2または3に記載の刺激応答性高分子架橋体。
【請求項5】
2個以上の環状部分を有するポリマー、及び一方の末端にブロック基を有し他方の末端に重合性官能基を有する、前記ポリマーと包接錯体を形成可能な直鎖状分子を混合して得られた高分子架橋前駆体の前記直鎖状分子の重合性官能基を介して、前記直鎖状分子と刺激応答性化合物とを共重合させることにより得られることを特徴とする刺激応答性高分子架橋体。
【請求項6】
2個以上の環状部分を有するポリマーにおける前記環状部分の開口部に、側鎖末端にブロック基を有する第1の高分子の少なくとも1つの側鎖が串刺し状に貫通し、かつ、同一の前記環状部分を有するポリマーの残り少なくとも1個の前記環状部分の開口部に、側鎖末端にブロック基を有する第2の高分子の少なくとも1つの側鎖が串刺し状に貫通した構造を有し、
前記第1の高分子、前記第2の高分子、または前記第1の高分子と前記第2の高分子とを結合する部分の少なくとも1箇所に、刺激応答性化合物またはその残基が含まれた箇所を有することを特徴とする刺激応答性高分子架橋体。
【請求項7】
重合体としての前記刺激応答性化合物が、前記第1の高分子および/または前記第2の高分子の主鎖を構成することを特徴とする請求項6に記載の刺激応答性高分子架橋体。
【請求項8】
前記ポリマーの環状部分は、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリンおよびγ−シクロデキストリンからなる群から選ばれる少なくとも1種、または環状ポリエーテル、環状ポリエステル、環状ポリエーテルアミンおよび環状ポリアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載の刺激応答性高分子架橋体。
【請求項9】
前記刺激応答性化合物が、N−イソプロピルアクリルアミドまたはその重合体であることを特徴とする請求項2〜8のいずれかに記載の刺激応答性高分子架橋体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−155880(P2010−155880A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−333574(P2008−333574)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 研究集会名:第57回高分子討論会 主催:社団法人高分子学会 開催日:平成20年9月24日 会場:大阪市立大学 文書の種類:高分子学会予稿集57巻 5363頁/LCDコピー
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【Fターム(参考)】