説明

刺繍糸と刺繍方法

【課題】伸縮性を有する伸縮刺繍基布に、伸縮性を有する伸縮刺繍糸を刺繍して伸縮刺繍地を形成する際、伸縮刺繍糸の張力管理の困難性から発生する、伸縮刺繍地上での引きつり現象やだぶり現象を解消し得る効果的な刺繍糸とその刺繍方法を提供する。
【解決手段】伸縮刺繍糸の芯糸である伸縮糸に、可溶性非伸縮糸を沿わせて伸縮性を一旦抑えた非伸縮刺繍糸として、この安定した状態で刺繍を施した後、沿わせた可溶性非伸縮糸を溶解して伸縮性を復帰させることで、高品質な伸縮刺繍地を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、刺繍糸と、その刺繍糸を使用した刺繍方法に関する。
詳しくは、伸縮性を有する基布と伸縮性を有する刺繍糸とで構成される伸縮刺繍地を製造するために使用する刺繍糸と、その刺繍糸を用いた刺繍方法に関する。
【背景技術】
【0002】
刺繍は、基本的に織物やレース等の基布に糸を縫いつけて模様を施す手段である。
種類としては、服飾刺繍、ロゴマーク、ネーム等がある。
ロゴマークやネームについては、グローブ、帽子等の3次元状のものに刺繍する場合もある。
また、刺繍糸については、特殊なものとして金糸や銀糸、或いは、ひも状のもの、更にはテープ状のもの、その他、スパンコールを縫いつける場合等もある。
【0003】
そして、これらの製造手段には、人手で行うハンド刺繍と、機械化して行うファクトリー刺繍がある。
ファクトリー刺繍については、ミシンの原理を応用した多頭式刺繍機やエンブロイダリーレース機のような大型刺繍機がある。
刺繍糸の縫い付け手法に関しては、横振縫い、本縫い、環縫い等がある。
本発明は、横振縫い、本縫いや環縫い手法を用いたファクトリー刺繍に関する。
【0004】
さて、昨今の衣料用布帛に要求される特性として伸縮性がある。
それは、インナー用衣料、アウター用衣料、スポーツ用衣料等に要求される特性であり、その特性を付与するために、糸素材として大きな伸縮性を有するポリウレタン糸を使用することが主流となっている。
【0005】
この伸縮性を有する布帛を刺繍用基布として刺繍を施す要求も当然あって実際に刺繍が施された製品が製造されている。
この場合、使用する刺繍糸には刺繍用基布と同等の伸縮性が要求され、ポリウレタン糸等を使用して伸縮性を得ている。
もし、伸縮性の無い非伸縮刺繍糸を刺繍した場合、刺繍用基布の伸縮に刺繍糸の伸びが追従せず使用に耐えない製品となる。
そこで、刺繍糸として伸縮性を有する伸縮刺繍糸を使用する必要があるが、この伸縮刺繍糸を用いて刺繍機により刺繍する場合には大きな問題がある。
【0006】
それは、刺繍機で刺繍する場合、刺繍機の種々のガイドを通過することにより自然に張力が負荷される。
また、これらの張力に加えて積極的に適度な張力をかけなければ均一で見栄えの良い刺繍柄が得られないことから、刺繍糸に適度な張力がかけられる。
しかし、張力をかけすぎると、伸縮刺繍糸は伸びきった状態で刺繍されることとなり、刺繍の後、伸縮刺繍糸が縮み、基布を必要以上に縮ませてしまう引きつり現象が発生して見栄えの悪い刺繍地となってしまう。
また、張力が弱すぎると伸縮刺繍糸がだぶついた、だぶり現象が発生し、これも製品として使用にたえないものとなる。
【0007】
このように、伸縮性を有する刺繍用基布、つまり、伸縮刺繍基布に、伸縮性を有する刺繍糸、つまり、伸縮刺繍糸を刺繍する場合には、刺繍機上での伸縮刺繍糸への張力調整が重要な要素となるが、その張力を一定に保つことは至難の業である。
そこで、その解決手段として、伸縮刺繍糸の伸縮性を一旦抑える手段を講じて、刺繍時の微妙な張力変動の影響を排除し、安定した状態で刺繍を施し、その後、伸縮性を抑えている手段を解除して、伸縮刺繍糸の伸縮性を再び発現させて伸縮刺繍基布ともども自在に伸縮可能な伸縮刺繍地を得る方法が提案されていた。
【0008】
この伸縮性を一旦抑える手段の一例としては特開平8−92863に示されるように、水溶性ビニロン糸等のように後加工の温水処理で溶解する糸を伸縮刺繍糸の周りに巻き付ける手段が挙げられる。
つまり、図4に示すように伸縮刺繍糸Y1を製造した後、これに更に水溶性ビニロン糸等の可溶性非伸縮糸Y2を巻き付けて伸縮性を抑えた刺繍糸Yとして、これを刺繍し、その後、可溶性非伸縮糸Y2を除去するものである。
【0009】
【特許文献1】特開平8−92863
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところが、上記したような従来手段では伸縮刺繍糸Y1の伸縮性を確実に押さえることができないことやその他の問題があった。
それは、できあがった伸縮刺繍糸Y1に、水溶性ビニロン糸等の可溶性非伸縮糸Y2を外側から巻き付けて伸びを抑える方法に問題があった。
つまり、外側から巻き付けた可溶性非伸縮糸Y2の形状はスパイラルスプリング状となり、それ自体が伸び縮みする形状をなしていて確実に伸縮刺繍糸Y1の伸びを抑えることができない。また、伸縮刺繍糸Y1の外側に可溶性非伸縮糸Y2を巻き付けるので、刺繍時の伸縮刺繍糸Y1の実体が視覚的に把握できず、刺繍機の張力調整等が難しい。
【0011】
これらのことが、結果的に刺繍機上で伸縮刺繍糸Y1の一定長の送り出しに困難を来していた。
これらの問題点の解決手段としては、伸縮刺繍糸Y1に可溶性非伸縮糸Y2を巻き付ける際、その巻き付け回数を極めて少なくすることにより、巻き付け長さの変動を押さえることが考えられる。
ところが、巻き付け回数が少ないと可溶性非伸縮糸Y2と伸縮刺繍糸Y1が分離してしまい、生産工程での取り扱いが困難になる等の問題があって実用に耐えない。
【0012】
この他、可溶性非伸縮糸Y2を外側から巻き付けて伸びを抑える方法においては、刺繍後に可溶性非伸縮糸Y2を除去すると、その除去された分だけ糸自体が細くなり、刺繍密度が低下して刺繍柄の見栄えが低下する問題がある。
また、伸縮刺繍糸Y1に巻き付けた可溶性非伸縮糸Y2を後加工において除去する際、その溶解残物を容易に除去できず、ジェット水等の特殊な強力除去手段が求められ、生産効率の低下や品質低下の問題が生ずる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
これらの問題点を解決すべく、本発明においては、出来上がった伸縮刺繍糸Y1の外側に可溶性非伸縮糸Y2を巻き付けて伸縮性を抑えるのではなく、伸縮刺繍糸Y1の製造初期段階で構造的に伸縮性を抑える確実な手段を提供する。
そこで、本発明においては、その手段を確実に可能とする刺繍糸の糸構造として、図1に示すように、芯糸2と、この芯糸2にカバー糸3を巻き付けて形成されるカバードヤーン構造を採用する。
【0014】
周知のとおり、カバードヤーンはカバーリング・マシン(図示しない)で製造される。
カバーリング・マシンは、芯糸2を走行させて、その周りにカバー糸3を巻き付ける原理であるが、本発明においては、伸縮糸21であるポリウレタン糸を芯糸として走行させ、同時に可溶性非伸縮糸22を併走させる。
つまり、図1(A)、図2(A)に示すように、伸縮糸21(ポリウレタン糸)と可溶性非伸縮糸22(水溶性ビニロン糸)とを引き揃えて走行させ、この2本を芯糸2として、これにカバー糸3を巻き付ける。
【0015】
カバー糸3は1本の場合と、図2に示すように2本の場合とがある。
1本の場合はシングルカバードヤーンと言い、2本の場合をダブルカバードヤーンと言う。
いずれの場合も、直線状に可溶性非伸縮糸22を伸縮糸21に沿わせることで、伸縮糸21の伸縮性を確実に抑えた非伸縮刺繍糸11を得ることができる。
そして、その後、図1(B)、図2(B)に示すように、可溶性非伸縮糸22を溶解除去して伸縮糸21の伸縮性を回復させた伸縮刺繍糸12を得るものである。
【0016】
なお、本発明においては、非伸縮刺繍糸11と、該非伸縮刺繍糸11を後加工で伸縮性を回復させて得られる伸縮刺繍糸12とを一連のものと捉え、これを総合的に刺繍糸1と呼ぶとする。
また、本発明における伸縮性とは、織物や編物がその組織構造上有する伸縮性ではなく、織物や編物を構成する糸そのものが有する大きな伸縮性によって発現される伸縮性を言う。
【0017】
つまり、本発明は、(1)、伸縮糸21に可溶性と非伸縮性を併せ持つ可溶性非伸縮糸22を沿わせて伸縮性を抑えた芯糸2とし、該芯糸2にカバー糸3を巻き付けてカバードヤーン構造に形成したことを特徴とする刺繍糸1に存する。
【0018】
そして、本発明は、(2)、芯糸2に巻き付けるカバー糸3が、第1カバー糸31と第2カバー糸32の2本であって、第1カバー糸が内層41を、第2カバー糸が外層42を形成し、しかもこれらの2本が同方向に巻き付けられている上記(1)記載の刺繍糸1に存する。
【0019】
そして、本発明は、(3)、伸縮糸21がポリウレタン糸である上記(1)、(2)記載の刺繍糸1に存する。
【0020】
そして、本発明は、(4)、可溶性非伸縮糸22が水溶性ビニロン糸である上記(1)、(2)記載の刺繍糸1に存する。
【0021】
そして、本発明は、(5)、カバー糸3が、ナイロン糸である上記(1)、(2)記載の刺繍糸1に存する。
【0022】
そして、本発明は、(6)、カバー糸3に捲縮加工が施されている上記(1)、(2)記載の刺繍糸1に存する。
【0023】
そして、本発明は、(7)、第1カバー糸31と第2カバー糸32が、それぞれ異なる種類である上記(2)記載の刺繍糸1に存する。
【0024】
そして、本発明は、(8)、伸縮刺繍基布5と伸縮性を有する刺繍糸1とで構成される伸縮刺繍地6を形成する際、前記刺繍糸1を、伸縮糸21に可溶性非伸縮糸22を沿わせた芯糸2にカバー糸3を巻き付けて伸縮性を抑えたカバードヤーン構造の非伸縮刺繍糸11に一旦形成した後、これを用いて刺繍を施し、その後、芯糸2を構成する一方の可溶性非伸縮糸22を溶解して他方の伸縮糸21の伸縮性を回復させることにより、非伸縮刺繍糸11を伸縮性を有する刺繍糸1に復帰させて伸縮刺繍地6を形成する刺繍方法に存する。
【0025】
そして、本発明は、(9)、刺繍糸1のカバードヤーン構造を、芯糸2を内層の第1カバー糸と外層の第2カバー糸で同方向に巻き付けたダブルカバードヤーン構造とし、刺繍糸1が伸縮刺繍地上で伸びた際に発生する第1カバー糸と第2カバー糸のそれぞれの隙間を互いにカバーすることで芯糸2が露見しないようにした上記(8)記載の刺繍方法に存する。
【0026】
本発明は、その目的に沿ったものであれば、上記(1)から(7)及び(8)から(9)を適宜組み合わせた構成も採用可能である。
【発明の効果】
【0027】
本発明における刺繍糸1は、カバードヤーン構造を採用していて、直線状の伸縮糸21に、直線状に可溶性非伸縮糸22を沿わせて芯糸2を形成しているので確実に伸縮糸21の伸縮性を抑えることができる。
このように確実に伸縮性を抑えた非伸縮刺繍糸11を用いて刺繍を行う場合には伸縮刺繍地6(図3)の仕上がり具合を前もって高精度に設計でき、高品質な製品をリピート生産できる。
【0028】
そして、芯糸2に第1カバー糸31と第2カバー糸32が同方向に巻き付けられ、それぞれが内層41と外層42を形成しているダブルカバードヤーン構造をとっている場合には、刺繍糸1が伸縮刺繍地6上で伸びた際、2本のカバー糸31、32が、それぞれの隙間を互いにカバーできて芯糸2が露見せず、一層見栄えの良い伸縮刺繍地6が得られる。
また、2本のカバー糸31、32が同方向に捲かれているので互いのカバー糸31、32が馴染みが良く、ソフトな刺繍糸1が得られて、良好な風合いの伸縮刺繍地6(図3)が得られる。
【0029】
そして、カバー糸3が2本である場合には、それぞれのカバー糸31,32の素材、繊度、形態を組み合わせて変化を得ることができる。
例えば、素材を変えれば異色染めが可能となるし、両者をナイロン糸として、一方に捲縮加工(羊毛のようにクリンプ形状を付与した糸を言う)を施したものを、他方に生糸(捲縮加工を施してない直線状の糸を言う)を使用することで光沢感、風合いの変化が得られる等の利点がある。
【0030】
更には、後加工で水溶性ビニロン糸を溶解する際、その溶解物が残っていても、カバー糸3で完全にカバーされているので視覚的にも機能的にも障害とならず、従来技術に見られるような強制的に水溶性ビニロン糸を除去する処理工程等を必要とせず、生産コストの面でも利点がある。
【0031】
そして、本発明の刺繍方法によれば、刺繍糸1の製造段階で、可溶性非伸縮糸22を沿わせるだけで非伸縮刺繍糸11が得られ、その後、可溶性非伸縮糸22を水等で溶解するだけで、非伸縮刺繍糸11を伸縮刺繍糸12に容易に変化させることができ、複雑な工程、高価な薬品等を一切使用する必要がなく、その生産工程が極めてシンプルとなって経済的にも環境的にも大きな利点が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明の刺繍糸1は、カバードヤーン構造をとる。
なお、本発明においては、初期段階での伸縮性を一旦抑えた非伸縮刺繍糸11と、後加工後に伸縮性を発現した伸縮刺繍糸12の一連のものを総合的に刺繍糸1とすることについては上記のとおりである。
まず、芯糸2が、伸縮糸21とこれに沿わせた可溶性非伸縮糸22とで構成され、これにカバー糸3が巻き付けられてカバードヤーン構造が形成される。
この初期段階での刺繍糸1は、伸縮性が可溶性非伸縮糸22により抑えられていて非伸縮刺繍糸11の形態となっている。
【0033】
これらの糸使いの詳細については、芯糸2の伸縮糸21、すなわち伸縮自在な糸にはポリウレタン糸が好ましく用いられ、可溶性非伸縮糸22、すなわち可溶性と非伸縮性とを併せ持つ糸には水溶性ビニロン糸が用いられる。
そして、カバー糸3には、すなわち芯糸2を露見させない糸、例えばナイロンウーリー糸が好ましく使用される。
ここでのウーリー糸とは、仮り撚り加工などの捲縮加工を施して、クリンプ(波形の縮れ)が発現しているものを言う。
【0034】
非伸縮刺繍糸11の製造に関しては、周知のとおりカバーリングマシンが使用されるが、その機上では伸縮糸21のポリウレタン糸を一定の倍率に延伸した状態で走行させる。
例えば、2倍に延伸している場合にはこれを延伸率200%と言い、これに可溶性非伸縮糸22が沿えられて、最終的に、伸縮糸21が延伸率200パーセントである伸縮刺繍糸12が得られることとなる。
もし、延伸率の小さな刺繍糸1を製造した場合には回復力が少ないものとなってしまうので、この延伸率の設定は重要な要素である。
【0035】
次に一定の延伸率で形成された非伸縮刺繍糸11を使用して刺繍を施すが、この時、伸縮刺繍基布5は、刺繍機に一定の張力下で緊張した状態にセットされる。
この一定の張力下で緊張した状態とは、伸縮刺繍基布5(トリコット地)に使用されているポリウレタン糸が、非伸縮刺繍糸11の延伸率にほぼ近い数値に伸びた状態の緊張状態を言う。
例えば、使用する非伸縮刺繍糸11のポリウレタン糸の延伸率が150%である場合には、トリコット地に使用されているポリウレタン糸も150%に延伸される程度に引き延ばされて刺繍機にセットされることとなる。
【0036】
このように双方の延伸率をほぼ近似させて適宜の調整をして刺繍を施すことにより、刺繍の後、後加工処理により可溶性非伸縮糸22の水溶性ビニロン糸を溶解除去して、非伸縮刺繍糸11が伸縮刺繍糸12に復帰した状態において、伸縮刺繍糸12と伸縮刺繍基布5とが互いに引きつることなく、伸縮性を自在に発現でき、しかも互いに障害とならず、外観的、機能的の両面で良好な伸縮刺繍地6を形成することが可能となる。
この良好な伸縮刺繍地6を構成するための伸縮刺繍基布5としては、ポリウレタン糸(メーカ等は上記のとおり)使いの伸縮自在の織物やトリコット地等の編物が最適である。
【0037】
加えて、本カバードヤーン構造のカバー糸3は、1本のみの場合と2本の場合がある。
2本の場合には、図2(A)、(B)に示すように、第1カバー糸31が内層41を形成し、第2カバー糸32が外層42を形成する。
ここで、カバー糸が1本の場合はシングル・カバードヤーン、2本の場合はダブル・カバードヤーンと言われているのは上記のとおりである。
本発明においてダブル・カバードヤーン構造をとる場合には、図2(A)、(B)に示すように、第1カバー糸31と第2カバー糸は芯糸2の周りに同方向に巻き付けられる。
巻き方向は、右巻き、左巻きかのいずれでも良い(図2には右巻き状態を示している)。
【0038】
同方向に巻くことの効果については、伸縮刺繍地6が伸張された際、刺繍糸1も伸張されて芯糸2の伸縮糸21が伸びる。
この時、この芯糸2にスパイラルスプリング状に巻かれている第1カバー糸31と第2カバー糸32も伸長して、そのスパイラルスプリング形状が伸びた状態になり、それぞれの糸間に隙間ができる。
この隙間を2本の糸が互いに埋めあう状態になり、芯糸2の露見を一層防止できる。
また、同方向に巻き付けられていることから互いに馴染みがよくソフトな風合いを醸し出す。
もし異方向、例えば第1カバー糸31を右巻きに、第2カバー糸32を左巻きにした場合は、内層41と外層42とがX字状に交差して互いに馴染むことがなく、隙間を埋めあうと言った補完関係も生まれない。
以下、実施例を用いて説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0039】
〔実施例1〕
実施例1においては、伸縮刺繍基布5にポリウレタン糸使いのトリコット地を使用する。
刺繍糸1については、芯糸2の伸縮糸21にはポリウレタン糸〔ライクラ(商標名);東レ株式会社〕を用い〔エスパ(商標名);株式会社東洋紡,ロイカ(商標名);株式会社旭化成を用いても良い〕、これに水溶性ビニロン糸〔ソルブロン(商標名);株式会社ニチビ〕を可溶性非伸縮糸22として沿えて芯糸2とし、これらの芯糸2に、カバー糸3としてナイロン・ウーリー糸〔東レ株式会・ナイロン〕が巻き付けられる。
カバーリングマシン上ではポリウレタン糸は2倍の長さに延伸された状態(延伸率200%)で走行し、これに可溶性非伸縮糸22が沿えられる。
【0040】
このように形成された一時的な非伸縮刺繍糸11を、トリコット地に使用されているポリウレタン糸の延伸率がほぼ200%となるようセットされた伸縮刺繍基布5に刺繍する。
刺繍の後、後加工処理により可溶性非伸縮糸22である水溶性ビニロン糸を溶解除去して、非伸縮刺繍糸11を伸縮刺繍糸12に復帰させて伸縮刺繍地6を得る。
【0041】
〔実施例2〕
実施例2においては、カバー糸2が2本用いられる。
つまり、第1カバー糸にナイロン・ウーリー糸〔東レ株式会社・6ナイロン〕を用いて2000t/mで芯糸2(実施例1と同様)に右巻きで巻き付け内層41を形成する。
そして、第1カバー糸31と同素材の第2カバー糸32が1本目と同方向に1800t/mで巻き付けられ外層42を形成する。
その他の点は実施例1と同様である。
このような設定で製造された伸縮刺繍地6は、実施例1で得られる伸縮刺繍地6に比較して、更にソフトで風合いの良いものとなる。
【0042】
〔実施例3〕
実施例3においても、実施例2と同様、カバー糸3が2本用いられる。
そして、第1カバー糸31にナイロン・ウーリー糸(東レ株式会社・66ナイロン)を用いる。
2000t/mで芯糸2(実施例1と同様)に右巻きで巻き付け内層41を形成する。
そして、第2カバー糸32にナイロン・ウーリー糸〔東レ株式会社・6ナイロン〕を用いて第1カバー糸31と同方向に1800t/mで巻き付けて外層42を形成する。
その他の点は実施例1と同様である。
このように66ナイロンと6ナイロンを用いた刺繍糸1で刺繍された伸縮刺繍地6は、実施例1、2で得られる伸縮刺繍地6に比較して、第1カバー糸31と第2カバー糸32が異色染めとなり視覚的にも変化に富んだものとなる。
以上、本発明を説明したが、本発明における伸縮糸は伸縮自在な糸であれば前述したポリウレタン糸以外にも当然使用可能である。
又、可溶性非伸縮糸は、可溶性と非伸縮性とを併せ持つ糸であれば、前述した水溶性ビニロン糸以外にも当然使用可能である。
又、カバー糸についても芯糸を露見させない糸であれば、前述したナイロンウーリー糸以外にも当然使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】図1(A)は、伸縮性を一旦抑えた、カバー糸が1本の非伸縮刺繍糸の説明図であり、図1(B)は、可溶性非伸縮糸を除去した、カバー糸が1本の伸縮刺繍糸12の説明図である。
【図2】図2(A)は、伸縮性を一旦抑えた、カバー糸が2本の非伸縮刺繍糸の説明図であり、図2(B)は、可溶性非伸縮糸を除去した、カバー糸が2本の伸縮刺繍糸の説明図である。
【図3】伸縮刺繍地を示す図である。
【図4】伸縮性を一旦抑えた従来手段の刺繍糸を示す図である。
【符号の説明】
【0044】
1 本発明の刺繍糸
11 非伸縮刺繍糸
12 伸縮刺繍糸
2 芯糸
21 伸縮糸
22 可溶性非伸縮糸
3 カバー糸
31 第1カバー糸
32 第2カバー糸
41 内層
42 外層
5 伸縮刺繍基布
6 伸縮刺繍地
Y 伸縮性を抑えた従来の刺繍糸
Y1 伸縮刺繍糸
Y2 可溶性非伸縮糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
伸縮糸に、可溶性と非伸縮性とを併せ持つ可溶性非伸縮糸を沿わせて伸縮性を抑えた芯糸とし、該芯糸にカバー糸を巻き付けてカバードヤーン構造に形成したことを特徴とする刺繍糸。
【請求項2】
芯糸に巻き付けるカバー糸が、第1カバー糸と第2カバー糸の2本であって、第1カバー糸が内層を、第2カバー糸が外層を形成し、しかもこれらの2本が同方向に巻き付けられていることを特徴とする請求項1記載の刺繍糸。
【請求項3】
伸縮糸がポリウレタン糸であることを特徴とする請求項1、2記載の刺繍糸。
【請求項4】
可溶性非伸縮糸が水溶性ビニロン糸であることを特徴とする請求項1、2記載の刺繍糸。
【請求項5】
カバー糸が、ナイロン糸であることを特徴とする請求項1、2記載の刺繍糸。
【請求項6】
カバー糸に捲縮加工が施されていることを特徴とする請求項1、2記載の刺繍糸。
【請求項7】
第1カバー糸と第2カバー糸が、それぞれ異なる種類であることを特徴とする請求項2記載の刺繍糸。
【請求項8】
伸縮刺繍基布と伸縮性を有する刺繍糸とで構成される伸縮刺繍地を形成する際、前記刺繍糸を、伸縮糸に可溶性非伸縮糸を沿わせた芯糸にカバー糸を巻き付けて伸縮性を抑えたカバードヤーン構造の非伸縮刺繍糸に一旦形成して、これを用いて刺繍を施し、その後、芯糸を構成する一方の可溶性非伸縮糸を溶解して他方の伸縮糸の伸縮性を回復させることにより、非伸縮刺繍糸を伸縮性を有する刺繍糸に復帰させて伸縮刺繍地を形成することを特徴とする刺繍方法。
【請求項9】
刺繍糸のカバードヤーン構造を、芯糸を内層の第1カバー糸と外層の第2カバー糸で同方向に巻き付けたダブルカバードヤーン構造とし、刺繍糸が伸縮刺繍地上で伸びた際に発生する第1カバー糸と第2カバー糸のそれぞれの隙間を互いにカバーすることで芯糸が露見しないようにしたことを特徴とする請求項8記載の刺繍方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−233366(P2006−233366A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−50203(P2005−50203)
【出願日】平成17年2月25日(2005.2.25)
【出願人】(399021747)
【Fターム(参考)】