説明

刺繍装置付きミシン

【目的】 ミシン本体に着脱可能に装着される刺繍装置や、ミシン本体に着脱可能に装着され刺繍模様の縫目データを格納した模様カードを使用する刺繍縫製の開始時に、これらの装着状態の不備を未然に警告できる刺繍装置付きミシンを提供すること。
【構成】 模様カード26にはROM27に刺繍模様の縫目データとその識別データとが格納されている。また、別の模様カードにはROMに具象模様やワンポイントマーク等の刺繍以外の縫目模様の縫目データとその識別データとが記憶されている。カードキーが操作されると刺繍装置30が装着されているか否かが判別されると共に、模様カード26も装着されているか否かが判別され、且つ識別データから刺繍用カードか否かが判別される。この判別結果が全てYesでないと作業者に警告表示が行われる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、刺繍装置付きミシンに関し、特に刺繍縫製に必要な刺繍装置と刺繍用の縫目データを格納した模様カードとのミシン本体への装着状態をチェックし、これらが装着されたという条件が不備のときに警告するようにしたものに関する。
【0002】
【従来の技術】従来、直線縫いやジグザグ縫いなどの実用模様が縫製できる上、比較的大きな文字や具象や図形などの刺繍縫いが可能なように、ミシンのフリーアーム部に着脱可能に装着し得る刺繍装置が提案されている。
【0003】例えば、本願出願人は、特開平2─80084号公報において、刺繍テーブルを布送り方向及び反布送り方向(Y方向)と、このY方向に直交するX方向とに移動可能に構成し、この刺繍テーブルをミシン本体から受けるX方向駆動信号で第1パルスモータを駆動してX方向に移動する一方、Y方向駆動信号で第2パルスモータを駆動して刺繍テーブルを移動させながら加工布に刺繍模様が形成でき、しかもミシン本体に容易に着脱可能に装着し得る刺繍装置を提案した。
【0004】近年、刺繍模様や具象模様やワンポイントマークなどの模様縫いの為の模様データを縫目模様の種類毎に外部メモリとして例えばROMカードなどに別途格納するようにし、刺繍模様縫いをするときには、ミシン本体に刺繍装置を装着する一方、刺繍模様用のROMカードを装着するようにした刺繍装置付きミシンが実用に供されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】上述したように、従来の刺繍装置付きミシンにおいては、刺繍装置やROMカードがミシン本体に着脱可能になっており、実用模様を縫製するときには、刺繍装置やROMカードをミシン本体から取外し、また刺繍模様を縫製するときには、刺繍装置をミシン本体に装着するとともに、刺繍模様用のROMカードをミシン本体に装着するようになっているが、特にオペレータがミシン操作に不慣れな場合に、刺繍模様を縫製するときに、ミシン本体に刺繍装置と刺繍用のROMカードとの少なくとも何れか一方を装着しない刺繍模様縫いの不備にも拘わらず、縫製開始キーの操作によりミシンモータを起動させても、刺繍模様縫いが正常に実行されないという問題がある。
【0006】本発明の目的は、刺繍装置や刺繍模様の縫目データを格納した刺繍模様専用の模様カードを用いる刺繍縫製の開始時に、これら刺繍装置や模様カードの装着状態の不備を未然に検出して警告できるような刺繍装置付きミシンを提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明に係る刺繍装置付きミシンは、図1の機能ブロック図に示すように、ミシン本体に着脱自在に装着される刺繍装置と、複数の縫目模様の縫目情報を夫々格納した複数の外部記憶手段であって、ミシン本体に着脱自在に択一的に装着される複数の外部記憶手段とを備えた刺繍装置付きミシンにおいて、刺繍装置の装着状態を検出する検出手段と、ミシン本体に装着された外部記憶手段が刺繍用の縫目模様を格納した外部記憶手段か否かを判別する判別手段と、刺繍縫製開始時に、検出手段と判別手段からの出力に基いて、刺繍装置が装着され且つ刺繍用の縫目模様を格納した外部記憶手段が装着されたという条件が不備のときに作業者に警告を行なう警告手段とを備えたものである。
【0008】
【作用】本発明に係る刺繍装置付きミシンにおいては、検出手段は刺繍装置のミシン本体への装着状態を検出し、判別手段は、ミシン本体に装着された外部記憶手段が刺繍用の縫目模様を格納した外部記憶手段か否かを判別する。一方、警告手段は、刺繍縫製開始時に、検出手段と判別手段からの出力に基いて、刺繍装置が装着され且つ刺繍用の縫目模様を格納した外部記憶手段が装着されたという条件が不備のときに作業者に警告を行なう。
【0009】
【発明の効果】本発明に係る刺繍装置付きミシンによれば、〔作用〕の項で説明したように、検出手段と判別手段と警告手段とを設け、刺繍縫製開始時に、ミシン本体に刺繍装置と刺繍用の縫目模様を格納した外部記憶手段とが装着されたという刺繍縫製条件の不備のときには、作業者に警告されるので、刺繍縫製開始時における刺繍縫製条件の不備を未然に警告することができる。
【0010】
【実施例】以下、本発明の実施例について図面に基いて説明する。本実施例は、種々の刺繍模様縫いが可能な刺繍装置を着脱可能に装着し得る刺繍装置付き電子制御式ジグザグミシンに本発明を適用した場合のものである。電子制御式ジグザグミシンMは図2に示すように、ミシンベッド部1と、そのベッド部1の右端部から立設された脚柱部2と、その脚柱部2からベッド部1に対向するように左方へ延びるアーム部3とから構成され、ベッド部1には、送り歯を上下動させる送り歯上下動機構(図示略)及び前後動させる送り歯前後動機構(図示略)などが設けられ、アーム部3には、縫針6を下端に装着可能な針棒5を上下動させる針棒駆動機構と針棒5を布送り方向と直交する方向に揺動させる針棒揺動機構、天秤を針棒の上下動に調時して上下動させる天秤駆動機構(図示略)などが設けられている。尚、送り歯上下動機構と針棒駆動機構と天秤駆動機構とはミシンモータ16で駆動され、また送り歯前後動機構は送り歯駆動用ステッピングモータ18で駆動され、針棒揺動機構は針棒揺動用ステッピングモータ17で駆動される。
【0011】前記アーム部3の前面には大型の液晶ディスプレイ10が設けられ、このディスプレイ10には、実用模様や刺繍模様など種々の縫目模様や形象などの図形や各種のメッセージが表示される。また、このディスプレイ10の前面には、複数の縫目模様の表示位置の各々に対応して透明電極からなる模様選択キー(タッチキー)11が設けられ、所望の縫目模様をこの模様に対応する模様選択キー11を押圧操作することで選択可能になっている。頭部4には、縫製作業の起動と停止を指令する起動・停止スイッチ12が設けられている。また、脚柱部2には、刺繍模様や具象模様やワンポイントマークなどの模様縫いの為の複数の縫目模様の模様データを格納したROMカード(模様カード)26を内部のカード用コネクタ13に装着する為のカード用スロットが形成されている。更に、脚柱部2の上端部前面には操作パネル9が設けられ、この操作パネル9には9個の機能キー(実用模様を表示させる為の実用縫いキー、文字模様を表示させる為の文字縫いキー、刺繍模様縫いを開始する為のカードキー等々)が設けられている。
【0012】前記ベッド部1の左端部分にはフリーアーム部1aが形成されており、このフリーアーム部1aに、図2〜図4に示す刺繍装置30が着脱可能に装着されている。この刺繍装置30には、刺繍テーブル31が布送り方向及び反布送り方向に平行なY方向とこのY方向に直交するX方向とに移動可能に設けられ、この刺繍テーブル31には、加工布を支持する為の支持枠(図示略)が着脱可能に装着できるようになっている。また、この刺繍装置30の本体フレーム内には、刺繍テーブル31をX方向に駆動する為のX方向ステッピングモータ32(図6参照)とY方向に駆動する為のY方向ステッピングモータ33(図6参照)とが配設され、刺繍装置30の本体フレームには、これら両ステッピングモータ32・33を駆動する為の駆動信号をミンシM側のコネクタ14を介して受ける為のコネクタ34が設けられている。従って、ミシンMから供給される駆動信号による両ステッピングモータ32・33の駆動と針棒5の上下動との協働により、支持枠の加工布に種々の刺繍模様が形成されるようになっている。
【0013】次に、ミシンMの制御系の概要は、図5のブロック図に示すように構成されている。起動・停止スイッチ12と、模様選択キー11と、操作パネル9と、ミシンモータ16で回転されるミシン主軸に接近して設けられ、針上位置や針下位置などを含む各種のタイミング信号を発生するタイミング信号発生器15とは制御装置Cの入力インターフェース20に夫々接続されている。また、制御装置Cの出力インターフェース25には、ミシンモータ16、針棒揺動用ステッピングモータ17、送り歯駆動用ステッピングモータ18、ディスプレイ(LCD)10の為のディスプレイコントローラ(LCDC)19が夫々接続されている。
【0014】この入力インターフェース20の入力ポートP1には、接続線L1を介してカード用コネクタ13の例えば第1ピンに接続されるとともに、その入力ポートP2には、接続線L2を介してコネクタ14の例えば第1ピンに接続されている。また、これら両接続線L1・L2には+5Vが夫々供給されており、これら両入力ポートP1・P2は常に「H」レベルにプルアップされている(図6参照)。
【0015】制御装置Cは、CPU22と、このCPU22にデータバスなどのバス21を介して接続された入力インターフェース20、出力インターフェース25、ROM23とRAM24などから構成されている。
【0016】ROM23には、モータ16〜18を駆動する駆動制御プログラム、ディスプレイ10に表示用データを表示する表示制御プログラム、刺繍模様の縫製時に各種の警告メッセージをディスプレイ10に表示する後述の警告メッセージ表示制御の制御プログラム及びこの制御の実行中に表示する各種のメッセージの為の表示用データ、複数の刺繍模様用のROMカード26の各々に格納されている識別データと同様の複数の識別データとが格納されている。RAM24には、CPU22で演算した演算結果を一時的に格納するポインタやカウンタやバッファなどが設けられている。
【0017】図6に示すように、刺繍装置30のコネクタ34には、X方向ステッピングモータ32とY方向ステッピングモータ33とが接続されるとともに、その第1ピンが接地されている。従って、刺繍装置30がミシンMに装着されたときには、両コネクタ14・34が接続されるので、入力ポートP2の「H」レベル信号が強制的に「L」レベルに変更される。前記ROMカード26として、刺繍模様の縫目データを格納した刺繍模様用のものや具象模様やワンポイントマークの縫目データを格納したものなどがその模様の種類毎に準備されており、これらカード26のコネクタ28には、複数の縫目模様の模様データとこのROMカード26の識別データと縫目模様の形象を表示する為の形象表示データとが格納されたROM27が接続されるとともに、その第1ピンが接地されている。従って、ROMカード26がミシンMに装着されたときには、両コネクタ13・28が接続されるので、入力ポートP1の「H」レベル信号が強制的に「L」レベルに変更される。
【0018】次に、ミシンMの制御装置で行なわれる警告メッセージ表示制御のルーチンについて、図7のフローチャートに基いて説明する。尚、図中符号Si(i=13、14、15・・・・)は各ステップである。
【0019】刺繍模様縫いを開始する為に操作パネル9のカードキーが操作されたときにこの制御が開始され、先ず入力ポートP1のポート信号が読込まれ(S13)、このポート信号が「L」レベルつまりROMカード26がミシンMにセットされているときには(S14:Yes)、そのROMカード26から識別データが読込まれる(S15)。次に、この識別データが刺繍模様に関する識別データのときには(S16:Yes)、入力ポートP2のポート信号が読込まれ(S17)、このポート信号が「L」レベルつまり刺繍装置30がミシンMに装着されているときには(S18:Yes)、この制御を終了する。しかし、このポート信号が「H」レベルつまり刺繍装置30がミシンMに装着されていないときには(S18:No)、警告メッセージ「電源を切ってから刺繍装置をセットして下さい」がディスプレイ10に表示され(S19)、この制御を終了する。
【0020】一方、読込んだ識別データが刺繍模様に関する識別データでないときには(S16:No)、入力ポートP2のポート信号が読込まれ(S24)、このポート信号が「L」レベルのときには(S25:Yes)、警告メッセージ「電源を切ってから刺繍用のカードをセットして下さい」がディスプレイ10に表示される(S26)。しかし、このポート信号が「H」レベルのときには(S25:No)、警告メッセージ「電源を切ってから刺繍装置と刺繍用のカードをセットして下さい」が表示される(S19)。
【0021】また、前記読込んだ入力ポートP1のポート信号が「H」レベルのときには(S14:No)、入力ポートP2のポート信号が読込まれ(S20)、このポート信号が「L」レベルのときには(S21:Yes)、警告メッセージ「電源を切ってから刺繍用のカードをセットして下さい」が表示される(S22)。しかし、このポート信号が「H」レベルのときには(S21:No)、警告メッセージ「電源を切ってから刺繍装置と刺繍用のカードをセットして下さい」が表示される(S23)。
【0022】以上説明したように、刺繍縫製開始時に、ミシンMに刺繍装置30と刺繍用の縫目模様を格納したROMカード26とが装着されたという刺繍縫製条件の不備のときには、作業者に警告メッセージがディスプレイ10に表示されるので、刺繍縫製開始時における刺繍縫製条件の不備を未然に警告することができる。
【0023】尚、前記警告メッセージ表示制御のS19、S22、S23、S26において、警告メッセージを表示するのに加えて、警告ブザーを鳴動させるとともに、起動・停止スイッチ12の操作でミシンモータ16が駆動されないように、ミシンモータ16の駆動回路を不作動にするように制御してもよい。また、合成音声や警告ランプの点滅などにより警告するようにしてもよい。更に、電源投入時にもこの制御を実行するようにしてもよいが、但し、S21、S25でNoと判定されたときに、電源投入直後のときには、刺繍模様縫い以外の模様縫いに限って実行できるようにすることが望ましい。尚、ミシンMに装着されたROMカード26が刺繍模様用のカードか否かを、ROMカード26に形成された突起部やスリットや形状、或いはROMカード26のコネクタ28に設けられた複数のピンのうち接地されたピン位置など各種の判別要素により判別することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の構成を示す機能ブロック図である。
【図2】刺繍装置を装着した電子制御式ジグザグミシンの正面図である。
【図3】刺繍装置の平面図である。
【図4】刺繍装置の側面図である。
【図5】電子制御式ジグザグミシンの制御系のブロック図である。
【図6】刺繍装置とROMカードを装着した時のミシンの制御系のブロック図である。
【図7】警告メッセージ表示制御のルーチンの概略フローチャートである。
【符号の説明】
M 電子制御式ジグザグミシン
10 液晶ディスプレイ
14 コネクタ
20 入力インターフェース
22 CPU
23 ROM
26 ROMカード
30 刺繍装置
C 制御装置
L2 接続線
P2 入力ポート

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ミシン本体に着脱自在に装着される刺繍装置と、複数の縫目模様の縫目情報を夫々格納した複数の外部記憶手段であって、ミシン本体に着脱自在に択一的に装着される複数の外部記憶手段とを備えた刺繍装置付きミシンにおいて、前記刺繍装置の装着状態を検出する検出手段と、前記ミシン本体に装着された外部記憶手段が刺繍用の縫目模様を格納した外部記憶手段か否かを判別する判別手段と、刺繍縫製開始時に、前記検出手段と判別手段からの出力に基いて、刺繍装置が装着され且つ刺繍用の縫目模様を格納した外部記憶手段が装着されたという条件が不備のときに作業者に警告を行なう警告手段と、を備えたことを特徴とする刺繍装置付きミシン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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