説明

削孔機における先端ビットの偏位方向検出装置及び削孔方法

【課題】 削孔管の先端に取り付けた先端ビットの向きを正確に検出することにより、精度の高い削孔を行うことが可能な、削孔機における先端ビットの偏位方向検出装置及び削孔方法を提供する。
【解決手段】 削孔管20の先端部に設けた先端ビット40に取り付けた固定磁石部60と、固定磁石部60に対向するように、削孔管20内に挿入するジャイロスコープ30の先端部に取り付けられ、当該ジャイロスコープ30の中心軸方向を回転軸として回転可能であり、固定磁石部60との間に生じる吸引力及び反発力により、固定磁石部60に対して所定位置に停止する回転磁石部70と、回転磁石部70の回転角度を計測する回転角度計測器80と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、削孔機における先端ビットの偏位方向検出装置及びこれを用いた削孔方法に関するものであり、特に、いわゆる曲がりボーリング工法における先端ビットの偏位方向の検出に適した装置及びこれを用いた削孔方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地震による液状化現象を防止するため、地上から建造物の下方に向かって斜めに削孔を行い、建造物の下方に薬液注入作業孔を形成するための工法として、曲がりボーリング工法が知られている。この曲がりボーリング工法では、削孔管の先端に取り付けた先端ビットの向きを正確に把握する必要があり、従来、種々の装置や方法が提案されている。例えば、削孔管の先端に取り付けた先端ビットの位置を検出するための方法として、削孔管内の先端部付近までジャイロスコープを挿入した後、ジャイロスコープからの信号を記録しながら、削孔管からジャイロスコープを引き抜いて、削孔軌跡を計測する方法が開示されている(特許文献1参照)。
【0003】
この特許文献1に記載された技術は、ジャイロスコープの先端に、ジャイロスコープに対して回転自在に構成された捻れ検知装置の雄型あるいは雌型を設けると共に、削孔ロッドの先端部に、削孔方向決定部材に対して固定されている捻れ検知装置の雌型あるいは雄型を設ける。そして、ジャイロスコープ先端の雄型あるいは雌型を回転させて削孔ロッド先端部の雌型あるいは雄型と係合させ、その際に雄型あるいは雌型が回転した角度を検出する工程と、捻れ検知装置の雄型と雌型とが係合した地点から地上側の収納位置までジャイロスコープを引き込む工程と、その際にジャイロスコープからの信号を記録して削孔軌跡を計測する工程とを含んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3763399号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述した特許文献1に記載された技術は、削孔管の先端部におけるジャイロスコープの初期位置を決定するために、雄型と雌型とを係合させなければならない。この際、削孔管内に異物が存在すると、雄型と雌型とが係合していないにもかかわらず、係合状態であると誤認識してしまうおそれがある。また、雄型と雌型との係合時に、係合部分に異物が詰まると、雄型と雌型との係合を解除できないおそれもある。
【0006】
このような状態となると、削孔管の先端に設けた先端ビットの向きを正確に把握することができず、精度の高い削孔を行うことができないばかりでなく、削孔が不可能となってしまう場合もある。
【0007】
本発明は、上述した事情に鑑み提案されたもので、削孔管の先端に取り付けた先端ビットの向きを正確に検出することにより、精度の高い削孔を行うことが可能な、削孔機における先端ビットの偏位方向検出装置及び削孔方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の削孔機における先端ビットの偏位方向検出装置及び削孔方法は、上述した目的を達成するため、以下の特徴点を有している。すなわち、本発明の削孔機における先端ビットの偏位方向検出装置は、削孔管先端部の先端ビットに取り付けた固定磁石部と、固定磁石部に対向するように、削孔管内に挿入するジャイロスコープの先端部に取り付けられ、当該ジャイロスコープの中心軸方向を回転軸として回転可能であり、固定磁石部との間に生じる吸引力及び反発力により、固定磁石部に対して所定位置に停止する回転磁石部と、回転磁石部の回転角度を計測する回転角度計測器と、を備えたことを特徴とするものである。
【0009】
この先端ビットの偏位方向検出装置において、固定磁石部は、円形状に配置された複数の磁石からなり、各磁石は、複数のN極が連続する部分と、複数のS極が連続する部分とに二分割して配置されており、回転磁石部は、円形状に配置された複数の磁石からなり、各磁石は、固定磁石部におけるN極及びS極の配置と対となるように、複数のS極が連続する部分と、複数のN極が連続する部分とに二分割して配置された構成とすることが可能である。
【0010】
また、本発明の削孔方法は、上述した先端ビットの偏位方向検出装置を用いたもので、削孔管内にジャイロスコープを挿入する工程と、固定磁石部に対して、回転磁石部を近接させる工程と、回転磁石部の回転角度を計測する工程と、ジャイロスコープを削孔管内から引き抜きながらジャイロスコープからの信号を記録して削孔軌跡を計測する工程と、を含むことを特徴とするものである。
【0011】
このような構成からなる先端ビットの偏位方向検出装置及び削孔方法では、削孔管内にジャイロスコープを挿入し、ジャイロスコープの先端部に取り付けた回転磁石部が、削孔管先端部の先端ビットに取り付けた固定磁石部に近接すると、回転磁石部と固定磁石部との間に生じる吸引力及び反発力の作用により、回転磁石部のN極と固定磁石部のS極、及び回転磁石部のS極と固定磁石部のN極とが対向するように、回転磁石部が回転する。そして、回転角度計測器により、回転磁石部の回転角度を計測することにより、先端ビットの偏位方向を検出することができる。
【0012】
また、ジャイロスコープを削孔管内から引き抜きながらジャイロスコープからの信号を記録することにより、削孔軌跡を計測することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の削孔機における先端ビットの偏位方向検出装置及び削孔方法では、削孔管先端部に取り付けられた先端ビットの偏位方向を検出する際に、先端ビットに取り付けた固定磁石部に、ジャイロスコープの先端部に取り付けた回転磁石部を近接させるだけで、先端ビットの偏位方向を検出することができる。すなわち、先端ビットとジャイロスコープとの間に機械的な係合状態を生じさせる必要がなく、万が一、削孔管内に異物が存在したとしても、この異物に邪魔されることなく、先端ビットの向きを正確に把握することが可能となる。また、従来の技術のように、先端ビットとジャイロスコープとが噛み合ってしまい、削孔管内からジャイロスコープを引き抜くことができないという不都合が生じることがない。さらに、削孔管内に鉄粉等が存在した場合には、ジャイロスコープに取り付けた回転磁石部により鉄粉を吸着して、削孔管内から取り除くことができる。
【0014】
このように、本発明の削孔機における先端ビットの偏位方向検出装置及び削孔方法によれば、先端ビットの偏位方向及び削孔軌跡を正確に把握することができるので、精度の高い削孔を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係る削孔機及び付属機器の全体構成を示す概略図。
【図2】本発明の実施形態に係る削孔機において、削孔管内にジャイロスコープを挿入した状態を示す概略図。
【図3】本発明の実施形態に係る削孔機において、削孔管内からジャイロスコープを引き抜いた状態を示す概略図。
【図4】本発明の実施形態に係る偏位方向検出装置の拡大図。
【図5】本発明の実施形態に係る回転磁石部及び回転角度計測器の拡大図。
【図6】本発明の実施形態に係る偏位方向検出装置の動作原理の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の削孔機における先端ビットの偏位方向検出装置及び削孔方法の実施形態を説明する。図1〜図6は本発明の実施形態に係る先端ビットの偏位方向検出装置を説明するもので、図1は削孔機及び付属機器の全体構成を示す概略図、図2は削孔管内にジャイロスコープを挿入した状態を示す概略図、図3は削孔管内からジャイロスコープを引き抜いた状態を示す概略図、図4は偏位方向検出装置の拡大図、図5は回転磁石部及び回転角度計測器の拡大図、図6は偏位方向検出装置の動作原理の説明図である。
【0017】
<削孔機>
本発明で使用する削孔機10としては、従来から公知の水平削孔機を利用することができる。この削孔機10は、図1〜図3に示すように、基台11と、基台11上に載置され、削孔管20を接続及び切断するための接続切断装置12と、削孔管20の挿入角度を調整するための角度調整装置13と、削孔管20を推進するための推進駆動装置14と、を備えている。また、削孔機10の後方には、ジャイロスコープ30に接続された信号ケーブル31を巻き取ると共に、ジャイロスコープ30の挿入及び引き込みを行うためのリール15が配置されている。
【0018】
<先端ビット>
削孔管20の先端部には、先端ビット40が取り付けられている。この先端ビット40は、図4に示すように、先端部が先細状となるようなテーパー部41を有しており、直線削孔時には、削孔管20及び先端ビット40を回転させながら削孔し、曲線削孔時には、削孔管20及び先端ビット40を回転させない状態で地盤中に圧入させて、先端ビット40のテーパー部41に作用する土圧により曲線推進するようになっている。
【0019】
<偏位方向検出装置>
本発明の実施形態に係る偏位方向検出装置50は、図4及び図5に示すように、先端ビット40の基端部に取り付けた固定磁石部60と、ジャイロスコープ30の先端部に回転可能に取り付けた回転磁石部70と、回転磁石部70の回転角度を検出するための回転角度計測器80とからなる。
【0020】
すなわち、先端ビット40の基端部には、先端ビット40と一体となるようにして固定磁石部60が取り付けられている。一方、ジャイロスコープ30の先端部には、固定磁石部60に対向するようにして、ジャイロスコープ30に対して回転可能な回転磁石部70が取り付けられている。この回転磁石部70は、固定磁石部60との間に生じる吸引力及び反発力により、固定磁石部60に対して所定位置に停止するようになっている。また、偏位方向検出装置50を構成する回転磁石部70及び回転角度計測器80は、削孔管20の内径よりも小さい外径を有する筒状のケーシング51内に収容されている。
【0021】
<固定磁石部/回転磁石部>
固定磁石部60は、図6に示すように、円形状に配置された複数の磁石61からなり、各磁石61は、複数のN極が連続する部分と、複数のS極が連続する部分とに二分割して配置されている。一方、回転磁石部70は、図6に示すように、円形状に配置された複数の磁石71からなり、各磁石71は、固定磁石部60におけるN極及びS極の配置と対となるように、複数のS極が連続する部分と、複数のN極が連続する部分とに二分割して配置されている。このように、固定磁石部60及び回転磁石部70を複数の磁石61、71により構成することにより、製造コストを削減することができる。
【0022】
<回転角度計測器>
また、図4及び図5に示すように、ジャイロスコープ30の先端部と回転磁石部70との間には、回転磁石部70の回転角度を計測するための回転角度計測器80が取り付けられている。すなわち、図5に示すように、ジャイロスコープ30の先端部に回転角度計測器80が固定されており、この回転角度計測器80の回転軸82の先端に回転磁石部70が取り付けられている。回転角度計測器80は、例えばパルスエンコーダ(ロータリーエンコーダ)からなり、256パルス(8ビット/回転)のパルスエンコーダを使用した場合には、約1.4度単位で回転磁石部70の回転を計測することができる。なお、回転角度計測器80の信号ケーブル81は、ジャイロスコープ30の信号ケーブル31と共に、削孔管20の基端部へ導かれて、コンピュータ(図示せず)に接続されている。
【0023】
<先端ビットの偏位方向の検出>
本発明の偏位方向検出装置50を用いて先端ビット40の向きを検出するには、まず、削孔管20内にジャイロスコープ30を挿入し、ジャイロスコープ30の先端部に取り付けた回転磁石部70を、削孔管20の先端部の先端ビット40に取り付けた固定磁石部60に近接させる。すると、図6に示すように、回転磁石部70と固定磁石部60との間に生じる吸引力及び反発力の作用により、回転磁石部70のN極と固定磁石部60のS極、及び回転磁石部70のS極と固定磁石部60のN極とが対向するように、回転磁石部70が回転する。
【0024】
そして、回転角度計測器80を用いて、基準位置から回転磁石部70がどれだけ回転したかを計測することにより、先端ビット40の向きを検出することができる。この際、基準位置をどのように設定してもよいが、例えば、固定磁石部60では、先端ビット40のテーパー部41が、掘進方向に対して真上側(又は真下側)へ向いている状態を基準位置とし、回転磁石部70では、この状態で回転磁石部70のN極と固定磁石部60のS極とが対向すると共に、回転磁石部70のS極と固定磁石部60のN極とが対向する位置を基準位置として設定しておく。そして、回転磁石部70が基準位置となっている状態で削孔管20内へ挿入し、固定磁石部60に近接した際に、回転磁石部70が基準位置からどれだけ回転したかを計測するにより、テーパー部41(先端ビット40)の向きを把握することができる。
【0025】
<削孔方法>
次に、本発明の削孔方法について説明する。
本発明の削孔方法は、地上に設置した削孔機10の接続切断装置12により削孔管20を接続しながら、推進駆動装置14により削孔管20を地盤中に貫入して、先端ビット40により削孔を行う。そして、削孔の進行に伴って随時、リール15を回転させて、削孔管20内へジャイロスコープ30を挿入し(図2参照)、回転磁石部70を固定磁石部60へ近接させ、回転角度計測器80により先端ビット40の向きを検出する。
【0026】
この状態から、リール15を逆回転させて、ジャイロスコープ30を引き込みながら、ジャイロスコープ30の引き込み軌跡(削孔軌跡)を計測する(図3参照)。ジャイロスコープ30の信号ケーブル31及び回転角度計測器80の信号ケーブル81は、コンピュータ(図示せず)に接続されており、コンピュータにより先端ビット40の向き及びジャイロスコープ30の引き込み軌跡(削孔軌跡)を演算し、ディスプレイ装置等に表示する。
【0027】
そして、計測された先端ビット40の向きに基づいて、以降の削孔方向を予測して、ディスプレイ装置等に表示する。このようにして予測された先端ビット40の方向が、予定の計画線と異なる場合には、削孔管20及び先端ビット40を回転させて削孔方向を制御すればよい。この際、削孔管20及び先端ビット40の回転に伴い、ディスプレイ装置に表示される予定計画線も変化させる。このように、削孔の進行に伴って随時、削孔軌跡を計測しながら削孔方向を修正することにより、精度の高い削孔を行うことができる。
【符号の説明】
【0028】
10 削孔機
11 基台
12 接続切断装置
13 角度調整装置
14 推進駆動装置
15 リール
20 削孔管
30 ジャイロスコープ
31 信号ケーブル
40 先端ビット
41 テーパー部
50 偏位方向検出装置
51 ケーシング
60 固定磁石部
61 磁石
70 回転磁石部
71 磁石
80 回転角度計測器
81 信号ケーブル
82 回転軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
削孔機における先端ビットの向きを検出するための装置であって、
削孔管先端部の先端ビットに取り付けた固定磁石部と、
前記固定磁石部に対向するように、前記削孔管内に挿入するジャイロスコープの先端部に取り付けられ、当該ジャイロスコープの中心軸方向を回転軸として回転可能であり、前記固定磁石部との間に生じる吸引力及び反発力により、前記固定磁石部に対して所定位置に停止する回転磁石部と、
前記回転磁石部の回転角度を計測する回転角度計測器と、
を備えたことを特徴とする削孔機における先端ビットの偏位方向検出装置。
【請求項2】
前記固定磁石部は、円形状に配置された複数の磁石からなり、各磁石は、複数のN極が連続する部分と、複数のS極が連続する部分とに二分割して配置されており、
前記回転磁石部は、円形状に配置された複数の磁石からなり、各磁石は、前記固定磁石部におけるN極及びS極の配置と対となるように、複数のS極が連続する部分と、複数のN極が連続する部分とに二分割して配置されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の削孔機における先端ビットの偏位方向検出装置。
【請求項3】
削孔機を用いた削孔方法であって、
削孔管先端部の先端ビットに取り付けた固定磁石部と、
当該固定磁石部に対向するように、ジャイロスコープの先端部に取り付けられ、前記ジャイロスコープの中心軸方向を回転軸として回転可能であり、前記固定磁石部との間に生じる吸引力及び反発力により、前記固定磁石部に対して所定位置に停止する回転磁石部と、を備えた先端ビットの偏位方向検出装置を用いて、
前記削孔管内に前記ジャイロスコープを挿入する工程と、
前記固定磁石部に対して、前記回転磁石部を近接させる工程と、
前記回転磁石部の回転角度を計測する工程と、
前記ジャイロスコープを前記削孔管内から引き抜きながらジャイロスコープからの信号を記録して削孔軌跡を計測する工程と、
を含むことを特徴とする削孔機における削孔方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−140824(P2011−140824A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−2618(P2010−2618)
【出願日】平成22年1月8日(2010.1.8)
【出願人】(000201478)前田建設工業株式会社 (358)
【出願人】(594081766)株式会社村田製作所 (2)
【Fターム(参考)】