説明

削孔機

【課題】削孔に係わる作業精度と作業効率を簡便かつ安価な手法で改善する。
【解決手段】台車1とブーム4とガイドシェル5とドリフター6と削孔ロッド7を備えるドリルジャンボに、作業員による操作を案内するためのガイド手段を備える。ガイド手段は、削孔ロッドによる削孔角度および削孔距離を検知する検知手段と、予め設定した目標削孔角度および目標削孔距離を表示するとともに前記検知手段により検知した実際の削孔角度および削孔距離を併せて表示する表示手段としてのモニタを備える。検知手段は、台車とブームとガイドシェルとドリフターの位置およびそれらの姿勢を検出するセンサ13〜17と、各センサによる検出情報に基づいてその時点の削孔角度および削孔距離を演算し記憶する演算記憶手段としてのプログラマブルコントローラとにより構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は岩盤を削孔するための削孔機、特に大規模なトンネル掘削に際して発破孔を削孔するためのいわゆるドリルジャンボと称される形式の削孔機に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の削孔機は従来よりたとえば山岳トンネルを発破掘削により構築する場合に多用されているが、その場合の削孔作業は作業員の技能に頼るところが多く、作業員の技能の差によって作業精度や作業効率が大きく影響され、それに起因してトンネル断面を必要以上に大きく掘削してしまう無駄な余堀が生じることも多い。
【0003】
余堀を低減するためには削孔位置やその方向を予め設定した位置と方向に厳密に合致させる必要があるので、作業員の技能に頼らずにそれを可能とするべく、たとえば特許文献1に示されるような自動削孔システムの提案もなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2965938号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に示されるような自動削孔システムによれば作業精度と作業効率の改善を図ることができ、余堀も低減できると考えられるが、そのための自動削孔システムは極めて複雑であり、必然的に削孔機全体の複雑化と高価格化が不可避であり、またその操作も煩雑で面倒なものも多く、広く普及するには至っていない。
【0006】
上記事情に鑑み、本発明は削孔に係わる作業精度と作業効率を簡便かつ安価な手法で改善し得る有効適切な削孔機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、自走可能かつアウトリガーにより定位置に配置可能な台車と、該台車の前方において任意方向に旋回可能なブームと、ブーム先端に回転自在に装着されたガイドシェルと、ガイドシェルに案内されて進退するドリフターと、ドリフターに装着されて岩盤を削孔する削孔ロッドと、作業員による操作を案内するためのガイド手段を備えてなる削孔機であって、前記ガイド手段は、削孔角度および削孔距離を検知する検知手段と、予め設定した目標削孔角度および目標削孔距離を表示するとともに前記検知手段により検知した実際の削孔角度および削孔距離を併せて表示する表示手段を備え、前記検知手段は、前記台車と前記ブームと前記ガイドシェルと前記ドリフターの位置およびそれらの姿勢を検出するセンサと、該センサによる検出情報に基づいてその時点の削孔角度および削孔距離を演算し記憶する演算記憶手段とにより構成されてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の削孔機によれば、ガイド手段に予め目標削孔角度(目標さし角)および目標削孔距離を入力しておき、そのガイド手段により表示される情報に基づいて削孔角度(さし角)が目標削孔角度に合致するようにブームやガイドシェル、ドリフターを操作して削孔角度を設定するとともに、目標削孔距離に合致するまで削孔を行うことにより、目標どうりの高精度の削孔を容易に行うことが可能となる。したがって従来一般のドリルジャンボのように作業員に高度の技能は要求されず、また作業員の技能の差による影響も回避でき、削孔に係わる作業精度と作業効率の改善を図ることができ、その結果、トンネル掘削に際しては余堀を充分に低減することが可能となる。
また、本発明の削孔機におけるガイド手段は作業員の操作を補助することを目的とするものであってそれ自体で全自動的に削孔を行うものではないから、単なるセンサと演算記憶手段と表示手段とにより簡便に構成することができ、したがってこれを通常のドリルジャンボに搭載するに要するコストは些少であるし、その操作も何ら面倒ではなく、削孔作業の精度と効率を簡易にかつ安価に改善し得るものとして極めて有効である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施形態である削孔機の外観を示す図である。
【図2】同削孔機におけるセンサの設置位置を示す模式図である。
【図3】同削孔機におけるガイド手段の概要を示す図である。
【図4】同ガイド手段における表示画面の具体例を示す図である。
【図5】同ガイド手段における表示画面の他の例を示す図である。
【図6】同削孔機による削孔手順を示すもので、削孔開始時点で初期設定状況を示す図である。
【図7】同、削孔開始時点の目標表示画面を示す図である。
【図8】同、表示画面上で削孔方向とさし角を設定する状況を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は本発明の実施形態である削孔機の外観を示す図、図2はこの削孔機におけるセンサの設置位置を示す模式図である。
本実施形態の削孔機はいわゆるドリルジャンボと称されるものであって、基本的には従来一般のドリルジャンボと同様に、車輪2により自走可能かつアウトリガ3により定位置に配置可能な台車1と、台車1の前方において任意方向に旋回可能かつ伸縮自在なブーム4と、ブーム4の先端にガイドシェル受部(揺動部)5aおよびガイドシェル受部(回転部)5bを介して装着されたガイドシェル5と、ガイドシェル5に案内されて進退するドリフター6と、ドリフター6に装着されて岩盤を削孔する削孔ロッド7を備えているものである。
なお、ガイドシェル受部(揺動部)5aの中心軸とガイドシェル受部(回転部)5bの回転軸は一致しており、ガイドシェル5の中心軸はガイドシェル受部(回転部)5bの回転軸に対して平行な状態を維持して360°回転自在になっている。また、削孔ロッド7はその方向をガイドシェル5の中心軸方向と平行な状態を維持してガイドシェル5上を移動するものである。
【0011】
以上のようなドリルジャンボとしての基本構成に加えて、本実施形態の削孔機には作業員による削孔作業を案内するためのガイド手段10が搭載されている。
本実施形態におけるガイド手段10は、図3に示すように表示手段としてのモニタ11と検知手段12とにより構成されており、さらに検知手段12は複数のセンサ13〜17と演算記憶手段としてのプログラマブルコントローラ18により構成されている。
【0012】
具体的には、図2に示すように台車1にはその左右方向および前後方向の傾斜を検出するセンサ13が設置され、ブーム4の基部にはブーム全体の水平方向回転角を検出するセンサ14が装着され、ブーム4とガイドシェル受部5aの連結部にはそれらの間の相対水平角度を検出するセンサ15が装着され、ガイドシェル受部5aの先端部にはガイドシェル受部5bの鉛直方向の傾斜角度を検出するセンサ16が装着され、さらに台車1にはドリフター6の移動量を検出するためのセンサ17としてのエンコーダが装着されていて、それらセンサ13〜17により台車1の傾斜状態、ブーム4のスイング状態とチルト状態、ガイドシェル5およびドリフター6の向きと位置とが刻々と検出されるようになっている。
【0013】
そして、図3に示すように各センサ13〜17の検出情報はプログラマブルコントローラ18により統合的に処理されてその時点での削孔角度(さし角)と削孔距離が検知されて記憶され、その検知情報はたとえば図4に示すような表示画面としてモニタ11に刻々と表示されるようになっていて、作業員はモニタ11を監視することのみでその時点での削孔状況をリアルタイムで確認し得るようになっている。
また、同じく図4に示しているようにモニタ11には予め設定された目標削孔角度(目標さし角)や目標削孔距離も併せて表示されるようになっていて、目標情報と実際の削孔状況とがたとえば色分け表示により明確に目視確認可能とされている。
したがって、作業員はその時点での実際の削孔角度が目標角度とずれている場合にはそのことをモニタ11により容易にかつ確実に確認でき、その際には目標削孔角度に合致するようにブーム4およびガイドシェル5を操作して削孔角度を修正しつつ削孔を行えば良く、そのような操作を目標削孔距離に到達するまで行うことにより容易に目標どうりに削孔できるようになっている。
【0014】
なお、図3に示すようにガイド装置10の電源は台車1(ドリルジャンボ本体)から所要電圧に変換して供給すれば良い。
また、演算記憶手段としてのプログラマブルコントローラ18には、予め設定した目標設定角度と目標設定距離を入力するための入力手段19としてのタッチパネルやキーボードを備えておくと良い。
【0015】
また、図5に示すように、モニタ11は実際の削孔状況を表示するための角度表示画面の他に、目標削孔角度や目標削孔距離を入力するための設定入力画面や、各センサー13〜17からの入力信号情報を表示するための機器情報画面に切り替え可能としておくと良い。
さらに、モニタ11は削孔機を操作する作業員が監視可能な位置に少なくとも1台あれば良く、通常は削孔機の運転席に設置すれば良いが、必要に応じて図3に示すように2台ないしそれ以上のモニタ11を必要個所に設けても良く、プログラマブルコントローラ18から情報を伝送可能な場合には監視室等の遠方位置に設置してそこで作業状況を監視するようにしても良い。
また、プログラマブルコントローラ18も、削孔ロッド7の振動を受ける削孔機に搭載せずに監視室等の別途個所に設置して、有線あるいは無線での信号伝送を行うようにしても良い。
【0016】
本実施形態の削孔機によってトンネル掘削に際して、図6(a)に示すように切羽に削孔を行う場合における具体的な削孔手順を説明する。
・削孔機の初期設定
台車1を切羽に臨む位置に水平に設置した後、図6(b)に示すようにガイドシェル5に装着した2つのターゲット20をトンネル軸線に平行な基準ビームに合致させるようにブーム4やガイドシェル5を操作し、ガイドシェル5をトンネル軸に対して平行にセットする。
これにより、その状態での各センサ13〜17の検出値がプログラマブルコントローラ18に初期値として入力され、それ以降に台車1やブーム4、ガイドシェル5の位置が変化してもトンネル軸に対するガイドシェル5の相対位置や相対傾斜角度(水平方向および鉛直方向)を検知できるし、ガイドシェル5をトンネル軸に対して所望の傾斜角度となるように角度設定することが可能となる。
【0017】
・目標の設定
各削孔位置ごとに所望のさし角を設定する。具体的には、たとえば図6(a)に黒丸で示す位置に削孔する場合、ガイド手段10の設定入力画面(図5(b)参照)でその中心角αとそこでのさし角を入力し、それらの設定値を削孔番号とともに記憶する。また、各削孔ごとに目標とする削孔距離を設定してそれも入力する。
各削孔位置でのさし角が設定されれば、プログラマブルコントローラ18での演算処理により、各削孔位置における水平面でのトンネル軸方向に対する水平振れ角と、その水平振れ角方向(削孔方向)における鉛直面での鉛直振れ角(傾斜角度)が求められ、その情報が記憶される。
なお、上記の目標設定は当初に一度行ってしまえばそれ以降は切羽での削孔パターンが変化した場合に行えば良く、削孔パターンが変化しなければそれまでの設定をそのまま踏襲すれば良い。
【0018】
・目標の表示
角度表示画面(図5(a)参照)で削孔しようとする位置の削孔番号を指定すると、たとえば図7に示すような目標情報が表示される(図7は図6(a)に黒丸で示した削孔を指定した場合の表示例である)。この目標表示画面は、削孔するべき位置とそのさし角を線分により表示するもので、その線分の基準線(0°線)からの中心角が削孔位置を示す中心角αを表示すると同時に、線分の長さがさし角の大きさを表示するものであって、図7(a)〜(b)に示すようにさし角が大きいほど線分が長く表示されるようになっている。
【0019】
・ガイドシェルの位置決め
別途の投影手段により切羽に削孔位置を投影し、ブーム4を適宜旋回、伸張させ、ガイドシェル5を適宜回転させる等してその削孔位置に削孔ロッド7の先端を合わせると、その時点でのガイドシェル5の実際の方向とさし角がたとえば図8に示すような線分として画面に表示される。図8(a)はガイドシェル5の方向が目標の方向に対して水平に近い方向にずれており、かつさし角が目標よりも小さい状態であることを示している。
そこで、削孔ロッド7の先端を削孔位置に当てた状態のままで、画面を見ながら、目標の方向とさし角を示す線分と実際の方向とさし角を示す線分の双方が合致するようにガイドシェル5やブーム4を操作する。この際、画面に表示されている線分の方向は実際のガイドシェル5の方向と同じであるし、さし角の調整は線分の長さの変化として表示されるから、感覚的に操作がし易くガイドシェル5の方向とさし角の双方の調整を容易に行うことができる。
【0020】
・削孔
以上の操作により図8(b)に示すように画面上において双方の線分が合致すれば、ガイドシェル5の実際の方向とさし角が目標に合致したから、その状態で削孔を開始すれば良い。
削孔を開始すると表示画面に削孔距離が数値として刻々と表示されるから、それを監視しつつ削孔を行い、目標距離に達した時点で削孔を停止する。以降は同様の手順を繰り返して次の削孔を行えば良い。
【0021】
本発明の削孔機は上記のようなガイド手段10を備えたことにより、従来一般のドリルジャンボのように作業員に高度の技能は要求されず、また作業員の技能の差による影響も回避でき、削孔に係わる作業精度と作業効率の改善を図ることができ、その結果、トンネル掘削に際しては余堀を充分に低減することが可能となる。
勿論、本発明におけるガイド手段10は作業員の操作を補助することを目的とするものであって、特許文献1に示されるような複雑かつ高度な自動削孔システムのようにそれ自体で全自動的に削孔を行うものではないから、単なるセンサ13〜17とプログラマブルコントローラ18とモニタ11により簡便に構成できるものであり、したがってこれを通常のドリルジャンボに搭載するに要するコストは些少であるし、その操作も何ら面倒ではなく、削孔作業の精度と効率を簡易にかつ安価に改善し得るものとして極めて有効である。
【0022】
以上で本発明の一実施形態を説明したが、上記実施形態はあくまで好適な一例であって、本発明は上記実施形態に限定されるものでは勿論なく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で各部の具体的な構成や操作手順その他については適宜の設計的変更や応用が可能であることは言うまでもない。
【0023】
たとえば、本発明においては、削孔ロッドによって削孔を開始してから削孔を終了するまでの間の削孔ロッドの動きに連動して、連続的または所定時間(たとえば0.1秒〜数秒程度)毎に、実際の削孔長とさし角と中心角αを記憶するための記憶手段をプログラマブルコントローラに備えておくと良い。ここで削孔ロッドの動きとは、削孔ロッドのガイドシェル上の前後方向の動きと、削孔ロッドに圧縮空気を供給して回転・打撃を与えることによる動きをいい、それらの動きの双方もしくは一方を検知するためのセンサおよびプログラマブルコントローラへの信号伝達手段を備えておけば良い。
【0024】
また、削孔オペレータを特定するための個人情報(識別番号等)の入力手段を備えておき、その情報を実際の削孔と関連づけて記憶する記憶手段をプログラマブルコントローラに備えておくと良い。この場合、プログラマブルコントローラに備えた比較演算手段、あるいは別途に備えた比較演算手段によって、削孔後に計画と実際との差を比較演算して、実際の削孔状況(さし角、中心角、削孔長)を計画の削孔情報とともに出力して双方を比較することにより、後日、計画どうりに削孔できたかどうかを確認することができるし、特定のオペレータの技量判断や削孔技術の向上に役立てることができる。
また、実際の削孔に対する実際の余堀り量が発破後の断面を計測すれば分かるから、これとの比較でさし角設定が適切であったかどうかの検討に役立てることもできる。
なお、削孔開始から終了までの記憶手段への入力は、削孔オペレータが手動でオンオフするようにしても良く、所定の削孔に対する削孔オペレータの特定が別途の記録によって把握できれば削孔オペレータ識別情報入力手段およびその記憶手段は備えなくても良い。
【符号の説明】
【0025】
1 台車
2 車輪
3 アウトリガ
4 ブーム
5 ガイドシェル
5a ガイドシェル受部(揺動部)
5b ガイドシェル受部(回転部)
6 ドリフター
7 削孔ロッド
10 ガイド手段
11 モニタ(表示手段)
12 検知手段
13〜17 センサ
18 プログラマブルコントローラ(演算記憶手段)
19 入力手段(タッチパネル、キーボード)
20 ターゲット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自走可能かつアウトリガーにより定位置に配置可能な台車と、該台車の前方において任意方向に旋回可能なブームと、ブーム先端に回転自在に装着されたガイドシェルと、ガイドシェルに案内されて進退するドリフターと、ドリフターに装着されて岩盤を削孔する削孔ロッドと、作業員による操作を案内するためのガイド手段を備えてなる削孔機であって、
前記ガイド手段は、削孔角度および削孔距離を検知する検知手段と、予め設定した目標削孔角度および目標削孔距離を表示するとともに前記検知手段により検知した実際の削孔角度および削孔距離を併せて表示する表示手段を備え、
前記検知手段は、前記台車と前記ブームと前記ガイドシェルと前記ドリフターの位置およびそれらの姿勢を検出するセンサと、該センサによる検出情報に基づいてその時点の削孔角度および削孔距離を演算し記憶する演算記憶手段とにより構成されてなることを特徴とする削孔機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−216183(P2010−216183A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−66288(P2009−66288)
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【出願人】(391066157)ドリルマシン株式会社 (6)
【Fターム(参考)】