説明

削岩機搭載台車における穿孔位置決め制御方法及びトンネル施工機械におけるブーム移動制御方法

【課題】既存の削岩機搭載台車に対し、大掛かりな改造を必要とすることなく極簡単に穿孔位置決め制御機構を持たせるようにする。
【解決手段】モニタ2上に、ガイドシェル先端側の移動目標点P、P…と、ガイドシェル後端側の移動目標点K、K…とをマーク表示し、前記ガイドシェル12の先端側及び後端側を夫々移動目標点P、Kに合わせるようにガイドシェル12を移動制御する。この際、前記ガイドシェルの先端側にモニタ2上で物体認識可能なように発光体25を取り付けておき、発光体25のモニタ上での座標を把握するとともに、カメラ座標系における方向ベクトルを特定し、カメラ座標系において、方向ベクトルに基づき前記カメラの設置点を通り前記ガイドシェルの先端側に向けた空間直線Uを想定し、前記ガイドシェル先端側の移動目標点Pから前記空間直線Uに下ろした垂線の距離Lをモニタ画面上に表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガイドシェル、ブームを作動させるサーボ機構を有しない既存の削岩機搭載台車に対し、穿孔位置決め制御機構を持たせるための穿孔位置決め制御方法、及びブームを作動させるサーボ機構を有しない、既存の多関節ブームを備えるトンネル施工機械に対し、ブーム移動制御機構を持たせるようにしたブーム移動制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、ドリルジャンボを用いた穿孔作業に係り、従来は、切羽断面上の穿孔位置に対してレーザー光を照射し、手作業によるマーキングを行っていたが、近年はトンネル掘削作業の自動化、作業の省力化等の要請に従って、削岩機を支持するガイドシェル、ブームの各関節に各種のセンサー(回転角センサ、変位センサ、近接センサ等)を取付け、ドリルジャンボの基準点の位置を基に各関節の移動量、角度のデータをコンピュータにて演算処理を行い、削岩機の位置決め座標を算出するとともに、ガイドシェル、ブームを作動させるサーボ機構により、前記位置決め座標まで削岩機を自動的に移動させる穿孔位置決め制御方法(従来法1)が採用されるようになってきた。
【0003】
近年は、穿孔位置決め制御システムに関しても種々の改良が試みられ、精度向上が図られている。例えば、下記特許文献1では、ドリルジャンボを用いたトンネル掘削による穿孔作業において、省力化と高精度のトンネル掘削を実現するために、台車後方と削岩機にレーザーターゲットを設け、トンネル抗口側に設置した測量器を用いてドリルジャンボの位置座標を計測し、次に削岩機に設置した視準ターゲットを連続的に視準してその位置を検出し、前記視準ターゲットの位置情報に基づく制御信号により削岩機のサーボ機構を介して削岩機を自動的に動作させ、予め計算された切羽面上の穿孔位置に削岩のビットを誘導して位置決めする穿孔位置決め制御方法(従来法2)が開示されている。
【0004】
また、下記特許文献2では、削岩機の後方に設置されたレーザービーム照射機構を内蔵する自動追尾式測量機と、ガイドシェルの自動位置決め又は位置表示を行う制御装置と前記測量機との間で交信する通信機と、前記制御装置で設定された削岩機のビット位置の位置データを前記通信機を介して測量機へ送信し、前記位置データに基づいてレーザービームを前記測量機から照射させ、前記レーザービームの照射位置と削岩機のビット位置とのずれが生じているとき、前記レーザービームの照射位置と削岩機のビット位置とを一致させるために要する移動量に基づいて、穿孔位置決めの修正を行う修正手段とを備えた削岩機の穿孔位置決めの修正装置(従来法3)が提案されている。この場合、前記修正移動量は、測量器が照射した穿孔位置座標に対して、ビットの座標がずれているとき、制御装置を手動モードに切り換えてオペレーターが、測量器から照射したレーザー光位置に削岩機のビットが一致するまで移動させ、この移動量を計測することにより設定される。
【0005】
更に、下記特許文献3では、走行可能な台車に対して、多関節ブームを介して、削岩機を搭載したガイドシェルを支持した削岩機搭載台車における穿孔位置決め制御方法であって、前記削岩機搭載台車の後部に視準ターゲットを設置するとともに、前記削岩機搭載台車の後方側に前記視準ターゲットの座標を測定可能な測量機器を設置し、かつ前記削岩機搭載台車上に少なくとも1台以上のカメラを設けるとともに、該カメラによって撮影された画像を表示するモニタと、該モニタと信号伝送可能に接続されたコンピュータとを備え、穿孔前に、前記削岩機搭載台車の座標及び姿勢状態を計測することにより、前記カメラの設置座標及び向きを既知とし、切羽面を撮影しているカメラ映像を前記モニタに表示し、前記コンピュータからの信号により前記モニタ上に、切羽削孔点をマーク表示するとともに、削孔姿勢に応じたガイドシェルの後端部位置をマーク表示し、前記削岩機の削孔ビットを前記切羽削孔点のマーク表示点に合わせるとともに、前記ガイドシェルの後端部を前記ガイドシェル後端部位置のマーク表示点に合わせるようにガイドシェルを移動制御する削岩機搭載台車における穿孔位置決め制御方法(従来法4)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−156885号公報
【特許文献2】特開2003−314181号公報
【特許文献3】特開2009−46912号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記従来法1の場合、既存のドリルジャンボに後付けによってセンサを取り付けるには装置の大幅な改造を必要とするため、現実的にはコスト的にかなりの負担を伴うことになる。また、ドリルジャンボは悪環境下での使用となるためサーボ機構の各センサーが故障し易く、その修理に多くの時間が掛かり、穿孔作業を一時的に停止せざるを得なくなることがある。さらに、センサによる計測値は各ブーム、センサーの固有の誤差、たわみ、及び稼働期間に応じて漸次増大していくピン、ブッシュの摩耗によるガタを含んだものであるとともに、ブーム先端へいくほどセンサ誤差が累積されるため、設定された位置決め座標どおりに削岩機を位置決めしても、実際には精度良く削岩機を位置決めできないことがあるなどの問題があった。
【0008】
前記特許文献1(従来法2)の場合も、ドリルジャンボは、ガイドシェル、ブームを作動させるサーボ機構を有することが必須となるため、既存のドリルジャンボに後付けによってセンサを取り付けるには装置の大幅な改造を必要とし、現実的にはコスト的に大きな負担を伴うことになる。また、レーザーの自動追尾機能を利用しているため、削岩機の移動速度をレーザー光の移動速度以下とする必要があり、作業性が悪いなどの問題があった。さらに複数のブームを有するドリルジャンボに適用する場合、測量器を複数導入する必要があるため、コストが嵩むなどの問題があった。
【0009】
前記特許文献2(従来法3)の場合は、修正移動量は、測量器が照射した穿孔位置座標に対して、削岩機ビットの座標がずれているとき、制御装置を手動モードに切り換えてオペレーターが、測量器の照射したレーザー光にビットが一致するまで移動させるものであり、この手動操作による削岩機移動に多くの時間と手間が掛かるとともに、穿孔作業工程と同時には行えず、別工程となるため作業効率が悪くトンネル掘進工程が遅延する原因となる。また、レーザー光照射位置に削岩機ビットを移動するに当たり、人間の勘に頼る部分が大きく、かつ測量器からのレーザー光と削岩機のビットが一致しているか否かをトンネル現場内の切羽で確認する事は非常に困難であるとともに、一致させたとしても数cm〜数十cmの誤差が残ることが多く、精度が向上しない等の問題があった。
【0010】
また、上記従来法1〜3のいずれの方法も、ガイドシェルの位置計測(座標計測及び向き計測)によって座標を特定し、所定の座標位置まで移動制御するものであるが、測量器はトンネル抗口側に設置されるものであるため、削岩機に設けたレーザーターゲットを視準する際に障害物が存在することが多いとともに、この測量操作が煩雑である。また、傷害物等によってガイドシェルの位置計測に誤差が生じると、その誤差がそのまま位置決め精度に反映されることになるなどの問題があった。
【0011】
これらに対して、前記特許文献3(従来法4)の場合は、ガイドシェル、ブームを作動させるサーボ機構を有しない既存の削岩機搭載台車に対し、大掛かりな改造を必要とすることなく極簡単に穿孔位置決め制御機構を持たせることが可能であるとともに、ガイドシェルの位置計測を行うことなく、単にモニタ上に表示されたマーク点にガイドシェルを位置合わせするだけの制御で済むため、削岩機及び/又はガイドシェルの一部が障害物によって隠れても、操作が可能であるとともに、安定的にガイドシェルを所定の削孔位置に高い精度で位置決めできるようになるという利点を有する。
【0012】
しかしながら、前記特許文献3(従来法4)では、カメラの倍率を固定としてあり、各穿孔装置本体に1:1で対応させると、穿孔装置の台数分のカメラが必要になるとともに、仮に1台のカメラによって全体を映し出すように設定すると、倍率が低く、ガイドシェルを精度良くマーク点に位置合わせできない問題があった。そこで、パン・チルト・ズーム機能を備えるカメラを使用することを想定すると、モニタ上でカメラ倍率の設定が任意に変化させることになるため、ガイドシェルとマーク表示点との実距離が分からず、移動させるべき距離が感覚的に掴めないという問題が生じることになる。この場合、ガイドシェルの座標を測量器で絶えず計測し、マーク表示点との実距離を演算によって算出することも可能であるが、これでは従来法1〜3と同様に、測量器が削岩機に設けたレーザーターゲットを視準する際に障害物が存在すると、測量が一時的できなくなることが多いとともに、この測量操作が煩雑であるといった問題が生じることになる。
【0013】
そこで、本発明の第1課題は、ガイドシェル、ブームを作動させるサーボ機構を有しない既存の削岩機搭載台車に対し、大掛かりな改造を必要とすることなく極簡単に穿孔位置決め制御機構を持たせることが可能であるとともに、削岩機及び/又はガイドシェルの一部が障害物によって隠れ、操作できない状態を回避し、安定的にガイドシェルを所定の削孔位置に高い精度で位置決めできるようにすることに加え、パン・チルト・ズーム機能を備えるカメラを使用する前提の下で、測量によることなく、ガイドシェルとマーク表示点とのおおよその実距離を常時、ガイダンスすることで、ガイドシェルの位置合わせ操作を容易化することにある。
【0014】
また、第2課題は、ブームを作動させるサーボ機構を有しない、既存の多関節ブームを備えるトンネル施工機械に対し、大掛かりな改造を必要とすることなく極簡単にブーム移動制御機構を持たせることが可能であるとともに、ブームの一部が障害物によって隠れ、操作できない状態を回避し、安定的にブームを高い精度で移動制御可能とすることにに加え、パン・チルト・ズーム機能を備えるカメラを使用する前提の下で、測量によることなく、多関節ブームとマーク表示点とのおおよその実距離を常時、ガイダンスすることで、多関節ブームの位置合わせ操作を容易化することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記課題を解決するために請求項1に係る本発明として、走行可能な台車に、多関節ブームを介して削岩機を搭載したガイドシェルを支持させた削岩機搭載台車における穿孔位置決め制御方法であって、
切羽面の撮影を行うためのパン・チルト・ズーム機能を備えたカメラと、該カメラによって撮影された画像を表示するモニタと、該モニタと信号伝送可能に接続されたコンピュータとを備え、
穿孔前に、切羽後方側に測量機器を設置し、前記カメラの設置座標を測量して既知とし、切羽面を撮影しているカメラ映像を前記モニタに表示し、前記コンピュータからの信号により前記モニタ上に、ガイドシェル先端側の移動目標点をマーク表示するとともに、ガイドシェル後端側の移動目標点をマーク表示し、
前記ガイドシェルの先端側を前記ガイドシェル先端側の移動目標点となるマーク表示点に合わせるとともに、前記ガイドシェルの後端部を前記ガイドシェル後端側の移動目標点となるマーク表示点に合わせるようにガイドシェルを移動制御するに当たり、
前記ガイドシェルの先端側及び/又は後端側にモニタ上で物体認識可能なように発光体を取り付けておき、この発光体の物体認識処理により、発光体のモニタ上での座標を把握するとともに、カメラ座標系における方向ベクトルを特定し、カメラ座標系又は絶対座標系において、前記方向ベクトルに基づき前記カメラの設置点を通り前記ガイドシェルの先端側及び/又は後端側に向けた空間直線を想定し、前記ガイドシェル先端側及び/又は後端側の移動目標点から前記空間直線に下ろした垂線の距離を前記モニタ画面上に表示することを特徴とする削岩機搭載台車における穿孔位置決め制御方法が提供される。
【0016】
上記請求項1記載の発明においては、切羽面の撮影を行うためのパン・チルト・ズーム機能を備えたカメラと、該カメラによって撮影された画像を表示するモニタと、該モニタと信号伝送可能に接続されたコンピュータとを備え、穿孔前に、切羽後方側に測量機器を設置し、前記カメラの設置座標を測量して既知とする。
【0017】
次いで、切羽面を撮影しているカメラ映像を前記モニタに表示し、前記コンピュータからの信号により前記モニタ上に、ガイドシェル先端側の移動目標点をマーク表示するとともに、削孔姿勢に応じたガイドシェル後端側の移動目標点をマーク表示し、前記ガイドシェルの先端側を前記ガイドシェル先端側の移動目標点となるマーク表示点に合わせるとともに、前記ガイドシェルの後端部を前記ガイドシェル後端側の移動目標点となるマーク表示点に合わせるようにガイドシェルを移動制御する。
【0018】
以上の構成より、先ず、削岩機の誘導機能を有しない既存の削岩機搭載台車に対し、大掛かりな改造を必要とすることなく、極簡単に穿孔位置決め機能を持たせることが可能となる。また、前記カメラはガイドシェルが他の障害物があっても隠れない場所に設置することにより、操作できない状態を回避し、安定的にガイドシェルを所定の削孔位置に位置決めできるようになる。
【0019】
また、本発明では、ガイドシェルの位置計測(座標計測や向き計測)を行うことなく、単にモニタ上に表示されたマーク点にガイドシェルを位置合わせするだけの制御であるため、計測誤差が累積することもなく、オペレーターは熟練を要することなく、ガイドシェルを所定の削孔位置に高い精度で位置決めできるようになる。
次いで、前記ガイドシェルの移動制御に当たり、前記ガイドシェルの先端側及び/又は後端側にモニタ上で物体認識可能なように発光体を取り付けておき、この発光体の物体認識処理により、発光体のモニタ上座標を把握するとともに、カメラ座標系における方向ベクトルを特定し、カメラ座標系又は絶対座標系において、前記方向ベクトルに基づき前記カメラの設置点を通り前記ガイドシェルの先端側及び/又は後端側に向けた空間直線を想定し、前記ガイドシェル先端側及び/又は後端側の移動目標点から前記空間直線に下ろした垂線の距離を前記モニタ画面上に表示する。
【0020】
従って、測量によることなく、ガイドシェルとマーク表示点とのおおよその実距離が常時、ガイダンスされることで、ガイドシェルの位置合わせ操作が容易化される。
【0021】
請求項2に係る本発明として、多関節ブームを備えたトンネル施工機械における前記多関節ブームの移動制御方法であって、
切羽面の撮影を行うためのパン・チルト・ズーム機能を備えたカメラと、該カメラによって撮影された画像を表示するモニタと、該モニタと信号伝送可能に接続されたコンピュータとを備え、
穿孔前に、切羽後方側に測量機器を設置し、前記カメラの設置座標を測量して既知とし、切羽面を撮影しているカメラ映像を前記モニタに表示し、前記コンピュータからの信号により前記モニタ上に、多関節ブームの移動目標点をマーク表示し、
前記多関節ブームを前記移動目標点となるマーク表示点に合わせるように多関節ブームを移動制御するに当たり、
前記多関節ブームにモニタ上で物体認識可能なように発光体を取り付けておき、この発光体の物体認識処理により、発光体のモニタ上での座標を把握するとともに、カメラ座標系における方向ベクトルを特定し、カメラ座標系又は絶対座標系において、前記方向ベクトルに基づき前記カメラの設置点を通り前記多関節ブームに向けた空間直線を想定し、前記多関節ブームの移動目標点から前記空間直線に下ろした垂線の距離を前記モニタ画面上に表示することを特徴とするトンネル施工機械におけるブーム移動制御方法が提供される。
【0022】
上記請求項2記載の発明は、上記請求項1記載の発明の基本原理を、多関節ブームを備えたトンネル施工機械におけるブーム移動制御に応用したものである。
【0023】
請求項3に係る本発明として、前記ガイドシェル先端側及び/又は後端側の移動目標点或いは前記多関節ブームの移動目標点の座標と、前記空間直線と垂線の交点座標との三次元方向の偏差距離をそれぞれ前記モニタ画面上に表示する請求項1記載の削岩機搭載台車における穿孔位置決め制御方法または請求項2記載のトンネル施工機械におけるブーム移動制御方法が提供される。
【0024】
上記請求項3記載の発明においては、ガイドシェル先端側及び/又は後端側の移動目標点または多関節ブームの移動目標点から前記空間直線に下ろした垂線の距離の他に、三次元方向の偏差距離がそれぞれ前記モニタ画面上に表示されるようになるため、ガイドシェル又は多関節ブームの位置合わせ操作が一層容易化されるようになる。
【発明の効果】
【0025】
以上詳説のとおり、請求項1記載の本発明によれば、ガイドシェル、ブームを作動させるサーボ機構を有しない既存の削岩機搭載台車に対し、大掛かりな改造を必要とすることなく極簡単に穿孔位置決め制御機構を持たせることが可能であるとともに、削岩機及び/又はガイドシェルの一部が障害物によって隠れ、操作できない状態を回避し、安定的にガイドシェルを所定の削孔位置に高い精度で位置決めできるようになる。さらに、測量によることなく、ガイドシェルとマーク表示点とのおおよその実距離が常時、ガイダンスされることで、ガイドシェルの位置合わせ操作が容易化される。
【0026】
また、請求項2記載の本発明によれば、ブームを作動させるサーボ機構を有しない、既存の多関節ブームを備えるトンネル施工機械に対し、大掛かりな改造を必要とすることなく極簡単にブーム移動制御機構を持たせることが可能であるとともに、ブームの一部が障害物によって隠れ、操作できない状態を回避し、安定的にブームを高い精度で移動制御可能となる。測量によることなく、多関節ブームとマーク表示点とのおおよその実距離が常時、ガイダンスされることで、多関節ブームの位置合わせ操作が容易化される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】第1形態例に係るドリルジャンボ1の穿孔位置決め方法の装置構成図を示す、(A)は側面図、(B)は平面図である。
【図2】穿孔装置本体10の要部拡大図である。
【図3】ドリルジャンボ1の穿孔位置決め要領を示す図である。
【図4】座標変換の概念及び空間直線の想定概念を示す図である。
【図5】穿孔位置決めガイド要領を示すモニタ画面図である。
【図6】カメラのパン・チルト・ズームのキャリブレーション要領を示す図である。
【図7】第2形態例においてトンネル施工機械例(吹付け機)を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。
〔第1形態例〕
〔削岩機搭載台車1の構造〕
ドリルジャンボ1は、図1に示されるように、多関節ブーム11を介して、削岩機13を搭載したガイドシェル12を、走行可能な台車14により支持した構造を成す穿孔装置である。
【0029】
前記多関節ブーム11、ガイドシェル12及び削岩機13からなる穿孔装置本体10は、具体的には図2に示されるように、台車14の基台15上にブーム台16を旋回軸17によって枢着し、このブーム台16に伸縮ブーム18の基端を俯仰軸19によって枢着している。伸縮ブーム18は基端ブーム18Aと先端ブーム18Bとからなり、先端ブーム18Bが基端ブーム18Aに対して伸縮自在にスライドするようになっている。前記基台15とブーム台16との間には旋回用油圧シリンダ20、伸縮ブーム18の基端ブーム18Aとブーム台16との間には俯仰用油圧シリンダ21が設けられており、これによって伸縮ブーム18は、旋回、俯仰可能となっている。
【0030】
先端ブーム18Bの先端部には、チルトボデイ22がチルト軸23によって枢着され、先端ブーム18Bとの間にチルト用油圧シリンダ24を設けチルト可能になっている。チルトボデイ22には、スイングボデイ25がスイング軸26によって枢着され、チルトボデイ22との間にスイング用油圧シリンダ(図示略)を設けてスイング可能になっている。スイングボデイ25にはガイドロータリ27が設けられており、ロータリ軸28を中心としてローテーション可能になっている。ガイドロータリ27には、マウント軸30でガイドマウンチング29が支持され、このガイドマウンチング29でガイドシェル12を前後スライド可能に支承している。ガイドシェル12には、先端にビット13aを取付けたロッド13bが挿着されている削岩機13が搭載されており、削岩機13は前後方向への送りが与えられて切羽Sの岩盤に穿孔する。
〔ガイドシェル12の位置決め制御のための機器〕
図1に示すように、トンネルの天端に対して、カメラ9が設置される。カメラ9は、パン・チルト・ズーム機能を備えたものを使用し、固定架台には視準ターゲット7を取り付けておく。また、撮影した映像を無線通信によって伝送するために無線通信機5Aが接続されている。
【0031】
また、ドリルジャンボ1には、前記カメラ9によって撮影された画像を表示するモニタ2と、該モニタ2と信号伝送可能に接続されたコンピュータ3と、無線通信機4とが搭載されている。前記カメラ9はドリルジャンボ1上に搭載されたコンピュータ3と信号線によって接続され、前記コンピュータ3には、予め計画された穿孔パターンに従った、各削孔点の座標データが入力されている。
【0032】
前記カメラ9の設置座標は、トンネル後方側に測距・測角を計測可能な測量機器8、例えばトータルステーションを設置し、カメラ9に付設した視準ターゲット7を視準することにより、視準ターゲット7の座標を求め、次いでカメラ9とのオフセット量から計算によって求める。前記トータルステーション8の設置座標は、後方交会法により座標が既知される2つの基準点を視準することにより求める。
【0033】
なお、図示例では前記測量機器8に無線通信機5Bが接続され、前記ドリルジャンボ1のコンピュータ3に接続された無線通信機4と通信可能になっているとともに、前記無線通信機5Bにはコンピューター6が接続され、該コンピューター6の情報も前記コンピュータ3と無線通信機4,5Bを介して送受信可能となっている。前記コンピュータ3と測量機器8,コンピューター6との通信は有線によって行ってもよい。
〔削岩機の穿孔位置決め制御〕
以下、前記削岩機13の穿孔位置決め制御方法について詳述する。なお、座標系としては、図4に示されるように、絶対座標系OWと、カメラ9の設置点を原点とするカメラ座標系OCとが設定される。
【0034】
先ず最初に、図1に示されるように、ドリルジャンボ1を切羽Sへの穿孔のために切羽手前に定位させる。また、前記測量機器8により切羽Sの位置(掘進距離:T.D)を計測するか、切羽Sの位置が掘進距離の管理より予め既知とされる。
【0035】
上記準備測量が完了したならば、カメラ9により切羽面を撮影し、モニタ2に表示する。そして、先ず、カメラ9のキャリブレーションを行う。キャリブレーションは、図6に示されるように、切羽S面に対して、予め2つの視準ターゲット20、21を設置しておき、これらの視準ターゲット20、21を測量して絶対座標系における座標を既知としておく。そして、後述する要領に従って、前記視準ターゲット20、21の絶対座標をカメラ座標に変換した後、透視変換の手順によって行い、モニタ上の対応する座標位置にターゲット点22、23として表示する。次いで、視準ターゲット20とこれに対応するモニタ上のターゲット点22とのズレ量を補正するとともに、視準ターゲット21とこれに対応するモニタ上のターゲット点23とのズレ量を補正することにより、カメラのパン・チルト・ズームが補正される。実際の操作は、ズレ量の補正をマウスによってターゲット点22、23を最初にクリックし、視準ターゲット20、21まで移動することにより行えるようにプログラムしておけば、操作は簡単で済む。
【0036】
次いで、前記コンピュータ3からの信号により前記モニタ2上に、図5に示されるように、ガイドシェル先端側の移動目標点P、P…をマーク表示するとともに、ガイドシェル後端側の移動目標点K、K…をマーク表示する。
【0037】
前記移動目標点P、P…のマーク表示及び移動目標点K、K…のマーク表示は、図4の概念図に示されるように、前記コンピュータ3による以下の演算処理、具体的には絶対座標系における座標点の算出→カメラ座標系への変換→透視変換の手順によって行うことができる。
【0038】
先ず、切羽Sの位置が定まれば、穿孔パターンにより各ガイドシェル先端側の移動目標点P、P…の座標(絶対座標系OW)と、ガイドシェル後端側の移動目標点K、K…の座標(絶対座標系OW)が確定される。
【0039】
次いで、絶対座標系におけるガイドシェル先端側の移動目標点P、P…の座標(絶対座標系OW)と、ガイドシェル後端側の移動目標点K、K…の座標(絶対座標系OW)とを前記カメラ9を原点とするカメラ座標系OCに変換する。
【0040】
絶対座標系OW上での位置をSOW、カメラ座標系OCでの位置をSOCとすると、各座標は下式(1)、下式(2)で表される。また、カメラ座標系OCの絶対座標系OWでの位置をTとする。Tは下式(3)で表される。
【数1】

【数2】

【数3】

【0041】
そして、Rを絶対座標からカメラ座標系への回転行列(姿勢変換行列)とし、上式(1)〜(3)を基に座標変換により、絶対座標上での対象物の位置をカメラ座標系に変換すると、カメラ座標系OCでの対象物の位置は下式(4)で表される。
【数4】

【0042】
そして、カメラ座標系OCにおける対象物の位置を下式(5)のように、透視変換(透視投影)することにより、焦点距離fの位置にできる画像面座標に変換することで画像面座標ζ1(x1,y1),ζ2(x2,y2)が算出される。なお、画像面座標ζの単位(m)と、モニタ上上での単位(pixel)とは単位変換により変換する。
【数5】

【0043】
以上により、モニタ2上でのガイドシェル先端側の移動目標点P、P…の座標と、ガイドシェル後端側の移動目標点K、K…の座標が確定するため、当該位置にマーク表示する。また、カメラには、レンズ歪みや視準方向に伴う画像歪みが生じているため、予めカメラ画像に対して歪み補正を掛けるようにするのが望ましい。
【0044】
以上の要領により、モニタ2にガイドシェル先端側の移動目標点P、P…がマーク表示されるとともに、削孔姿勢に応じたガイドシェル後端側の移動目標点K、K…がマーク表示されたならば、オペレータは、図5に示されるように、前記ガイドシェル12の先端部を前記移動目標点P、P…のマーク表示点に合わせるとともに、前記ガイドシェル12の後端部を前記移動目標点K、K…のマーク表示点に合わせるようにガイドシェル12を移動制御する。
〔移動距離のガイダンス〕
本移動制御方法においては、前記ガイドシェル12の移動制御に伴って、モニタ2上にガイドシェル12と移動目標点P及び/又は移動目標点Kとのおおよその実距離を常時、表示する。なお、本形態例では、ガイドシェル先端側(移動目標点P)についてのみ説明を行う。
【0045】
図4に示されるように、前記ガイドシェル12の先端側にモニタ上で物体認識可能なように、LEDなどの発光体25を取り付けておき、この発光体25の物体認識処理により、発光体25のモニタ上での座標ζ3(x3,y3)を常時把握する。前記物体認識処理は、例えば撮影された画像に対して、エッジ強調処理,所定の輝度レベルによる2値化処理及びラベリング処理などを含む画像処理を施すことによって行うことが可能である。
【0046】
前記発光体25のモニタ上での座標ζ3(x3,y3)が分かれば、カメラ座標系OCにおけるカメラ原点OOC(X0,Y0,Z0)から発光体25に向かう方向ベクトルdaが定まる。カメラ座標系OCにおいて、カメラ原点OOCを通り、ガイドシェル先端の発光体25に向けた空間直線Uが設定される。
【0047】
そして、前記ガイドシェル先端側の移動目標点POC(X1,Y1,Z1)から前記空間直線Uに下ろした垂線との交点Q(X3,Y3,Z3)を設定し、以下の手順によって前記垂線の距離Lを求める。
【0048】
先ず、空間直線U上の点Qは、パラメータsを用いて下式(6)によって表すことができる。
【数6】

【0049】
垂線QPOCと方向ベクトルdaとは垂直であるから、その内積は0となるため、下式(7)が成立する。
【数7】

【0050】
上式(7)からパラメータsは下式(8)により求まる。
【数8】

パラメータsが求まれば、これを上式(6)に代入することにより、点Qの座標が求まるため、移動目標点POC(X1,Y1,Z1)から前記空間直線Uに下ろした垂線Lの距離を演算により求め、図5に示されるように、モニタ2上に表示する。
【0051】
また、移動目標点POC(X1,Y1,Z1)と、点Q(X3,Y3,Z3)との座標が分かっているため、モニタ2上には、前記ガイドシェル先端側の移動目標点POC(X1,Y1,Z1)の座標と、前記点Q(X3,Y3,Z3)との三次元方向の偏差距離ΔX、ΔY、ΔZをそれぞれ前記モニタ画面上に表示するようにしてもよい。
【0052】
なお、点Q(X3,Y3,Z3)の座標計算をカメラ座標系において行ったが、方向ベクトルdaを絶対座標系に逆変換した上で、絶対座標系空間で上記演算を行うようにしてもよい。
【0053】
ところで、上記形態例では、ドリルジャンボ1に本発明を適用した例について述べたが、本発明は多関節ブームを備えるトンネル施工機械のブーム移動制御に対しても同様に適用が可能である。例えば、図7に示される例は、吹付け機30におけるブーム31の移動制御の場合は、羽面を撮影しているカメラ映像を前記モニタ2に表示し、前記コンピュータ3からの信号により前記モニタ2上に、多関節ブーム31の移動目標点をマーク表示する。このマーク表示は移動軌跡線のように連続線としてもよい。そして、前記多関節ブームを前記移動目標点となるマーク表示点に合わせるように多関節ブームを移動制御する。この際、吹付けノズルを保持する多関節ブーム31にモニタ上で物体認識可能なように発光体を取り付けておき、この発光体の物体認識処理により、発光体のモニタ上での座標を把握するとともに、カメラ座標系における方向ベクトルを特定し、カメラ座標系又は絶対座標系において、前記方向ベクトルに基づき前記カメラの設置点を通り前記多関節ブームに向けた空間直線を想定し、前記多関節ブームの移動目標点から前記空間直線に下ろした垂線の距離を前記モニタ画面上に表示する。
【0054】
〔他の形態例〕
(1)実際の穿孔作業に当たっては、削孔位置、差し角を後で検証できるように、削孔中の任意時に画像を保存できる画像記憶装置を併設しておくのが望ましい。
(2)上記形態例では、サーボ機構を有しないドリルジャンボ1に対して本発明を適用することにより、極簡単に穿孔位置決め制御機能を持たせることを可能としたが、サーボ機構を有するドリルジャンボに対して適用してもよい。この場合は、サーボ機構による穿孔位置決め制御と、本発明による穿孔位置決め制御とから任意に選択できるため、一方の制御機構が故障または損傷した場合でも、他方に切り換えることにより安定的に作業を継続できるようになる。
(3)上記形態例では、トンネル施工機械の例として、吹付け機を示したが、他にヘッダ掘削機、支保工建込み用機械などに対しても同様に適用することが可能である。
(4)上記形態例では、トンネル天端にカメラ9を設置するようにしたが、ドリルジャンボ1上の高い位置に設置するようにしてもよい。この場合のカメラ座標の計測は、ドリルジャンボ1の後方面に好ましくは3点の視準ターゲットを設けておき、これらの視準ターゲットの座標計測によって、ドリルジャンボ1の座標及び姿勢を既知とし、演算により前記カメラ9の座標を求めるようにするのがよい。
【符号の説明】
【0055】
1…ドリルジャンボ、2…モニタ、3…コンピュータ、4・5A・5B…無線通信機、6…コンピュータ、8…測量機器、9…カメラ、10…穿孔装置本体、12…ガイドシェル、13…削岩機、S…切羽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行可能な台車に、多関節ブームを介して削岩機を搭載したガイドシェルを支持させた削岩機搭載台車における穿孔位置決め制御方法であって、
切羽面の撮影を行うためのパン・チルト・ズーム機能を備えたカメラと、該カメラによって撮影された画像を表示するモニタと、該モニタと信号伝送可能に接続されたコンピュータとを備え、
穿孔前に、切羽後方側に測量機器を設置し、前記カメラの設置座標を測量して既知とし、切羽面を撮影しているカメラ映像を前記モニタに表示し、前記コンピュータからの信号により前記モニタ上に、ガイドシェル先端側の移動目標点をマーク表示するとともに、ガイドシェル後端側の移動目標点をマーク表示し、
前記ガイドシェルの先端側を前記ガイドシェル先端側の移動目標点となるマーク表示点に合わせるとともに、前記ガイドシェルの後端部を前記ガイドシェル後端側の移動目標点となるマーク表示点に合わせるようにガイドシェルを移動制御するに当たり、
前記ガイドシェルの先端側及び/又は後端側にモニタ上で物体認識可能なように発光体を取り付けておき、この発光体の物体認識処理により、発光体のモニタ上での座標を把握するとともに、カメラ座標系における方向ベクトルを特定し、カメラ座標系又は絶対座標系において、前記方向ベクトルに基づき前記カメラの設置点を通り前記ガイドシェルの先端側及び/又は後端側に向けた空間直線を想定し、前記ガイドシェル先端側及び/又は後端側の移動目標点から前記空間直線に下ろした垂線の距離を前記モニタ画面上に表示することを特徴とする削岩機搭載台車における穿孔位置決め制御方法。
【請求項2】
多関節ブームを備えたトンネル施工機械における前記多関節ブームの移動制御方法であって、
切羽面の撮影を行うためのパン・チルト・ズーム機能を備えたカメラと、該カメラによって撮影された画像を表示するモニタと、該モニタと信号伝送可能に接続されたコンピュータとを備え、
穿孔前に、切羽後方側に測量機器を設置し、前記カメラの設置座標を測量して既知とし、切羽面を撮影しているカメラ映像を前記モニタに表示し、前記コンピュータからの信号により前記モニタ上に、多関節ブームの移動目標点をマーク表示し、
前記多関節ブームを前記移動目標点となるマーク表示点に合わせるように多関節ブームを移動制御するに当たり、
前記多関節ブームにモニタ上で物体認識可能なように発光体を取り付けておき、この発光体の物体認識処理により、発光体のモニタ上での座標を把握するとともに、カメラ座標系における方向ベクトルを特定し、カメラ座標系又は絶対座標系において、前記方向ベクトルに基づき前記カメラの設置点を通り前記多関節ブームに向けた空間直線を想定し、前記多関節ブームの移動目標点から前記空間直線に下ろした垂線の距離を前記モニタ画面上に表示することを特徴とするトンネル施工機械におけるブーム移動制御方法。
【請求項3】
前記ガイドシェル先端側及び/又は後端側の移動目標点或いは前記多関節ブームの移動目標点の座標と、前記空間直線と垂線の交点座標との三次元方向の偏差距離をそれぞれ前記モニタ画面上に表示する請求項1記載の削岩機搭載台車における穿孔位置決め制御方法または請求項2記載のトンネル施工機械におけるブーム移動制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−270518(P2010−270518A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−123934(P2009−123934)
【出願日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【出願人】(591284601)株式会社演算工房 (22)
【Fターム(参考)】