説明

前処理電着塗装装置

【課題】 電着液から前処理液への熱の授受が行われないので、エネルギー効率が低いという従来の前処理電着塗装装置の問題を解決し、従来に比べて熱エネルギー効率が向上した前処理電着塗装装置を提供する。
【解決手段】 前処理電着塗装装置は、電着液から前処理液への余剰熱授受装置を備える。余剰熱授受装置が電着液から余剰熱を受け、前処理液に授けることにより、電着液は冷却されて適正温度に維持され、前処理液は加温されて適正温度に維持される。電着液から前処理液への熱の授受が行われるので、本発明に係る前処理電着塗装装置は従来に比べてエネルギー効率が高い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前処理電着塗装装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
前処理電着塗装装置が特許文献1等に開示されている。
前処理電着塗装装置の予備洗浄槽、脱脂槽、化成槽においては、前処理液から大気中に放出される熱を補給して処理液を35〜45℃の適正温度に維持するために、前処理液を加温する必用がある。他方、前処理電着塗装装置の電着槽においては、電着液を電流が流れる際にジュール熱が発生し、電着液を攪拌する際に摩擦熱が発生して、電着液から大気中に放出される熱を超える熱、すなわち余剰熱が電着液に供給されるので、電着液を28℃前後の適正温度に維持するために、電着液を冷却し電着液から余剰熱を奪う必用がある。
従来の前処理電着塗装装置においては、前処理液の加温と、電着液の冷却とは別個独立に行われており、電着液から前処理液への熱の授受は行われていなかった。
【特許文献1】特開平6−173087号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の前処理電着塗装装置には、電着液から前処理液への熱の授受が行われないので、エネルギー効率が低いという問題があった。
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、従来に比べて熱エネルギー効率が向上した前処理電着塗装装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するために、本発明においては、電着液から前処理液への余剰熱授受装置を備えることを特徴とする前処理電着塗装装置を提供する。
本発明に係る前処理電着塗装装置においては、余剰熱授受装置が電着液から余剰熱を受け、前処理液に授ける。この結果、電着液は冷却されて適正温度に維持され、前処理液は加温されて適正温度に維持される。電着液から前処理液への熱の授受が行われるので、本発明に係る前処理電着塗装装置は従来に比べてエネルギー効率が高い。
【0005】
本発明の好ましい態様においては、余剰熱授受装置は、電着液の冷却媒体と前処理液の加温媒体との間で熱の授受を行わせるヒートポンプチラーを有している。
電着液を冷却する冷却媒体の温度は13〜20℃であり、前処理液を加温する加温媒体の温度は45〜55℃である。ヒートポンプチラーを用いることにより、低温の冷却媒体から高温の加熱媒体へ支障なく熱を移動させることができる。
【0006】
本発明の好ましい態様においては、前処理電着塗装装置は、前処理液を加温する加温媒体の熱の一部を直接大気中に放出する放熱装置を備えている。
電着液から大気中に放出される熱量に比べてジュール熱や摩擦熱の熱量が遥かに多いので、電着液の余剰熱は一年を通じて略一定である。一方、前処理液から大気中に放出される熱は夏季には少なく冬季には多いので、前処理液に補給すべき熱量は、夏季には少なく冬季には多い。従って、電着液の余剰熱の全量を前処理液に供給すると、夏季において前処理液に過剰な熱が補給され、前処理液の温度が適正値を超える場合を生ずる。前処理液を加温する加温媒体の熱の一部を直接大気中に放出し、電着液の余剰熱の一部を直接大気中に放出することにより、夏季に前処理液への過剰な熱補給を防止し、前処理液の温度を適正値に維持することができる。
【0007】
本発明の好ましい態様においては、前処理電着塗装装置は、前処理液を加温する加温媒体を加熱する加熱装置を備えている。
前述の如く、電着液の余剰熱は一年を通じて略一定であり、前処理液から大気中に放出される熱は冬季には多く、前処理液に補給すべき熱量は冬季には多いので、電着液の余剰熱の全量を前処理液に供給しても、冬季においては前処理液に補給される熱が不足する場合を生ずる。前処理液を加温する加温媒体を加熱することにより、冬季に電着液の余剰熱を超える熱を前処理液に補給して、前処理液の温度を適正値に維持することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る前処理電着塗装装置においては、余剰熱授受装置が電着液から余剰熱を受け、前処理液に授ける。この結果、電着液は冷却されて適正温度に維持され、前処理液は加温されて適正温度に維持される。電着液から前処理液への熱の授受が行われるので、本発明に係る前処理電着塗装装置は従来に比べてエネルギー効率が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の実施例に係る塗装前処理装置を説明する。
図1に示すように、前処理電着塗装装置Aは、塗装前処理装置A’と電着塗装装置A”とを備えている。塗装前処理装置A’は、被処理物の移動方向に沿って上流から下流へ向けて順次配設された予備洗浄槽1、脱脂槽2、化成槽3を備えている。脱脂槽2と化成槽3との間に図示しない水洗槽、表面調整槽が配設され、化成槽3の下流に水洗槽が配設されている。電着塗装装置A”は、被処理物の移動方向に沿って塗装前処理装置A’の下流に配設されている。電着塗装装置A”は、電着槽4を備えている。電着槽4の下流に図示しない水洗槽が配設されている。
【0010】
予備洗浄槽1内の前処理液を槽外へ導いた後槽内へ戻す循環路1aが予備洗浄槽1に付設されている。循環路1aと同様の循環路2a、3aが脱脂槽2、化成槽3に付設されている。
前処理液を加温する加温媒体が循環して流れる加温媒体回路5が配設されている。加温媒体回路5を流れる加温媒体と循環路1a、2a、3aを流れる前処理液との間で熱交換を行わせる熱交換機6、7、8が配設されている。
放熱器9が加温媒体回路5に接続されている。熱交換機6、7、8、放熱器9は、加温媒体回路5内の加温媒体流に関して、互いに並列に配設されている。加温媒体の熱交換機6、7、8を経由する流れを切り入りするバルブ10と、加温媒体の放熱器9を経由する流れを切り入りするバルブ11とが配設されている。
【0011】
電着槽4内の前処理液を槽外へ導いた後槽内へ戻す循環路4aが電着槽4に付設されている。
電着液を冷却する冷却媒体が循環して流れる冷却媒体回路12が配設されている。冷却媒体回路12を流れる冷却媒体と循環路4aを流れる電着液との間で熱交換を行わせる熱交換機13が配設されている。
【0012】
ヒートポンプチラー14が配設されている。ヒートポンプチラー14は、配管を介して圧縮機14a、凝縮器14b、膨張弁14c、蒸発器14dが環状に順次接続された冷媒回路を備えている。ヒートポンプチラー14の冷媒回路を代替フロン等の冷媒が流れる。
加温媒体回路5はヒートポンプチラー14の凝縮器14bを経由しており、冷却媒体回路12はヒートポンプチラー14の蒸発器14dを経由している。
【0013】
前処理電着塗装装置Aの作動を説明する。
予備洗浄槽1、脱脂槽2、化成槽3においては、前処理液から大気中に放出される熱を補給して処理液を35〜45℃の適正温度に維持するために、前処理液を加温する必用がある。他方、電着槽4においては、電着液を電流が流れる際にジュール熱が発生し、電着液を攪拌する際に摩擦熱が発生して、電着液から大気中に放出される熱を超える熱、すなわち余剰熱が電着液に供給されるので、電着液を28℃前後の適正温度に維持するために、電着液を冷却し電着液から余剰熱を奪う必用がある。
【0014】
前処理電着塗装装置Aにおいては、循環路4aを流れる電着液と冷却媒体回路12を流れる冷却媒体との間で熱交換器13を介して熱交換が行われる。この結果、余剰熱は電着液から冷却媒体へ移動する。余剰熱が奪われることにより、電着液は冷却され、28℃前後の適正温度に維持される。電着液から余剰熱を奪った冷却媒体は18〜20℃まで加温される。
ヒートポンプチラー14の蒸発器14dを経由する冷却媒体と、ヒートポンプチラー14の蒸発器14dを流れるヒートポンプチラー14の冷媒との間で熱交換が行われ、冷却媒体回路12を流れる冷却媒体からヒートポンプチラー14の冷媒へ余剰熱が移動する。余剰熱が奪われることにより、冷却媒体は13〜15℃まで冷却される。
【0015】
冷却媒体回路12を流れる冷却媒体から余剰熱を奪って気化したヒートポンプチラー14の冷媒は、圧縮機14aにより圧縮された後、凝縮器14bへ流入する。凝縮器14bを流れるヒートポンプチラー14の冷媒と、凝縮器14bを経由する加温媒体との間で熱交換が行われ、ヒートポンプチラー14の冷媒から加温媒体回路5を流れる加温媒体へ余剰熱が移動する。余剰熱が奪われたヒートポンプチラー14の冷媒は液化され、膨張弁14cを経由した後蒸発器14dへ流入する。ヒートポンプチラー14の冷媒から余剰熱を奪った加温媒体は50〜55℃まで加温される。
【0016】
加温媒体回路5を流れる加温媒体と循環路1a、2a、3aを流れる前処理液との間で熱交換器6、7、8を介して熱交換が行われる。この結果、余剰熱は加温媒体から前処理液へ移動する。余剰熱が奪われることにより加温媒体は45〜50℃まで冷却される。加温媒体から余剰熱を奪うことにより前処理液は35〜45℃の適正温度に維持される。
【0017】
熱交換器6、7、8、13、加温媒体回路5、冷却媒体回路12、ヒートポンプラチー14により構成される余剰熱授受装置を介して、電着液から前処理液へ余剰熱の授受が行われるので、前処理電着塗装装置Aは従来の前処理電着塗装装置に比べてエネルギー効率が高い。
【0018】
電着液を冷却する冷却媒体の温度は13〜20℃であり、前処理液を加温する加温媒体の温度は45〜55℃である。ヒートポンプチラー14を用いることにより、低温の冷却媒体から高温の加熱媒体へ支障なく余剰熱を移動させることができる。
【0019】
電着液から大気中に放出される熱量に比べてジュール熱や摩擦熱の熱量が遥かに多いので、電着液の余剰熱は一年を通じて略一定である。一方、前処理液から大気中に放出される熱は夏季には少なく冬季には多いので、前処理液に補給すべき熱量は、夏季には少なく冬季には多い。従って、電着液の余剰熱の全量を前処理液に供給すると、夏季において前処理液に過剰な熱が補給され、前処理液の温度が適正値を超える場合を生ずる。
前処理電着塗装装置Aにおいては、夏季には、バルブ10、11を交互に開閉して、加温媒体を放熱器9へ適時導き、電着液から冷却媒体とヒートポンプチラー14の冷媒とを介して加温媒体へ移動してきた余剰熱の一部を、直接大気中へ放出する。この結果、夏季に前処理液への過剰な熱補給が防止され、前処理液の温度が適正値に維持される。
【0020】
図1に一点鎖線で示すように、加温冷媒回路5を流れる加温媒体を加熱する加熱装置15、16、17を配設しても良い。
前述の如く、電着液の余剰熱は一年を通じて略一定であり、前処理液から大気中に放出される熱は冬季には多く、前処理液に補給すべき熱量は冬季には多いので、電着液の余剰熱の全量を前処理液に供給しても、冬季においては前処理液に補給される熱が不足する場合を生ずる。前処理液を加温する加温媒体を加熱することにより、冬季に電着液の余剰熱を超える熱を前処理液に補給して、前処理液の温度を適正値に維持することができる。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明は、前処理電着塗装装置に広く利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施例に係る前処理電着塗装装置のブロック図である。
【符号の説明】
【0023】
A 前処理電着塗装装置
A’塗装前処理装置
A”電着塗装装置
1 予備洗浄槽
2 脱脂槽
3 化成槽
4 電着槽
5 加温媒体回路
6、7、8、13 熱交換器
9 放熱器
10、11 バルブ
12 冷却媒体回路
14 ヒートポンプチラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電着液から前処理液への余剰熱授受装置を備えることを特徴とする前処理電着塗装装置。
【請求項2】
余剰熱授受装置は、電着液の冷却媒体と前処理液の加温媒体との間で熱の授受を行わせるヒートポンプチラーを有していることを特徴とする請求項1に記載の前処理電着塗装装置。
【請求項3】
前記加温媒体の熱の一部を直接大気中に放出する放熱装置を備えていることを特徴とする請求項2に記載の前処理電着塗装装置。
【請求項4】
前記加温媒体を加熱する加熱装置を備えていることを特徴とする請求項2又は3に記載の前処理電着塗装装置。

【図1】
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【公開番号】特開2008−56980(P2008−56980A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−234591(P2006−234591)
【出願日】平成18年8月30日(2006.8.30)
【出願人】(391022658)パーカーエンジニアリング株式会社 (21)