説明

前庭刺激装置および関連する使用の方法

前庭刺激を患者にもたらすために装置および関連する方法は、耳挿入体上またはその近傍に配置された作用要素を備えている。作用要素の例として、制限されないが、少なくとも1つの電極、少なくとも1つの温度計、および少なくとも1つの熱電変換素子が挙げられる。装置は、作用要素を調整するコンピュータ化された制御モジュールを備えている。装置は、耳挿入体を含んでいる。耳挿入体は、作用要素が患者の外耳道と係合し、これによって、患者の前庭系にアクセスすることを可能とするものである。患者に加えられる前庭刺激は、治療目的または診断目的のために、脳の所望の領域を直接刺激するように、特化されている。好ましい実施形態では、装置は、患者の生理学変化を促進するのに十分な前庭刺激をもたらすようになっている。生理的変化は、概日温度サイクルの時間偏移、アスコルビン酸生成、セロトニン生成、アセチルコリン生成、ヒスタミン生成、および熱ショックタンパク質の生成から成る群から選択されるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者の前庭系に前庭刺激を送達し、これによって、該患者の体に生理的変化を生じさせるのに有用な装置および関連する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱的前庭刺激は、前庭系の機能を試験する診断処置として古くから知られている。通常の病院内において、急性脳損傷または慢性的脳損傷を患っている間の意識のレベルを評価するために、水温度刺激試験がいまだに用いられている。脳損傷は、頭部外傷または脳卒中のような中枢神経系の事故によって生じることがある。他の脳損傷として、代謝異常(例えば、腎臓疾患、糖尿病など)、発作、または毒性レベルの規制物質またはアルコールの存在によって生じるものが挙げられる。意識があることを確認するための一般的な技術として、加熱(または冷却)された水または空気による外耳道の簡単な潅注が挙げられる。これらの処置が行われる典型的な場所は、病院の緊急室である。しかし、水温度刺激試験は、集中治療室においても用いられ、また内科病棟階または外科病棟階に入れられた患者を治療するのにも用いられている。低温潅注は、脳卒中患者の認知障害の一時的な回復を試験する研究においても用いられてきている。「前庭刺激は、正常な機能を失った皮質領域を復帰させる視床皮質系のメカニズムを活性化させる?」という表題の非特許文献1を参照されたい。
【0003】
流出する潅注流体を洗浄する不便さを軽減させるために、膨張性バルーンが外耳道内に挿入されるように、かつ潅注流体を含むように構成された「閉流路式」装置が開発されている。例えば、Fotiに付与された特許文献1およびGramsに付与された特許文献2を参照されたい。さらに最近の他の開発例として、乳様突起領域に印加されるガルバニー(galvanic)電流によって前庭迷路器官に加えられる電気的刺激が挙げられる。一研究例では、この電流は、頭の片側または両方に独立してまたは同時に加えられるようになっている。眼球の監視によって、前庭刺激に関連付けられた眼球の運動に基づく脳活動のレベルが明らかになってきている。「ビデオ眼球運動記録法を用いて、昏睡患者におけるガルバニー電流によって引き起こされる前庭−眼球運動を監視する方法」という表題の非特許文献2を参照されたい。
【0004】
さらに最近になって、熱的前庭刺激は、他の目的にも適用されてきている。「熱的前庭潅注が偏頭痛発作にいかに影響を及ぼすか」という表題の非特許文献3は、低温熱的前庭刺激による偏頭痛の症状の軽減について述べている。
【0005】
「健康な患者における冷水熱的刺激による空間および言語に関する記憶の改善」という表題の非特許文献4は、表題に記されている結果について述べている。最後の段落において、著者らは、「障害反対側の耳の前庭刺激に起因する活性化は、顧みられない患者の症状を一時的に改善することがある」と述べている。これらの研究結果は、「熱的刺激が、側性認知機能を、それらの認知機能が空間的なものであるかどうかにかかわらず、改善し得る」ことを示している。
【0006】
「前庭刺激システムおよび方法」という表題のLattnerに付与された特許文献3は、「患者の呼吸機能を改良または制御し、・・・睡眠を誘発し、および/または目まいをなくす」のに用いられる装置について記載している(カラム3、55−60行)。この装置は、侵襲的でもよいし、または非侵襲的でもよく(カラム7、45−50行)、刺激は、電気的刺激、機械的刺激、磁気的刺激、または熱的刺激の1つまたは複数とすることができるとされている(カラム7、50−55行)。熱刺激は、加熱または冷却された液体によって行うことができるとされている(カラム8、65行)。
【0007】
「神経系疾患の治療に対する外耳道インターフェイス」という表題のFischellらに付与された特許文献4も、神経系疾患を治療するためのシステムについて述べている。治療の対象として示唆されている疾患の例として、眩暈、(高所から下を見たときの)目まい、船酔い、および乗り物酔い(時差ぼけ)(段落17)、および発作(段落11)が挙げられている。
【0008】
「騒音前庭刺激は、中枢神経変性疾患の自律神経応答性および運動応答性を改善する」という表題の非特許文献5は、「騒音GVS(ガルバニー前庭刺激)は、(標準的なレボドパ治療に対して反応しない患者を含む)多系統委縮症またはパーキンソン病のいずれかまたは両方を患っている患者の神経変性脳を向上させるのに有効である」と述べている(要約書)。
【0009】
「熱的前庭刺激によって生じる視床痛症候群の急速な軽減」という表題の非特許文献6は、苦痛の治療における熱的前庭刺激の利用について述べている。
【0010】
熱的前庭刺激の種々の使い方の一般的な概要は、「熱的前庭刺激の研究:認知神経科学、臨床的な神経科学および神経哲学への影響」という表題の非特許文献7に記載されている。
【0011】
外耳道は、異物に対して敏感である(Gramsに付与された特許文献2のカラム2、28行)。完全に外耳道内に挿入される形式(CIC式)の補聴器は、この補聴器を軟質で弾性を有する個々に鋳込まれた装置として作製することによって、この問題を解消している(例えば、Clavadetscherらに付与された特許文献5を参照されたい)。しかし、装置の個々の鋳込みは、時間が掛かり、複雑であり、かつコストが高くなる可能性がある。従って、着用者にとって快適でかつ便利な方法によって、外耳道を介して前庭刺激および他の治療をもたらすのに有用な新規の装置が必要とされている。
【0012】
外耳道と内耳を挿入体を介して係合することによって、脳を対象とする多くの治療技術および診断技術が可能になることも重要である。これまでの研究は、患者の脳組織の特定領域を刺激することによって、脳化学および血液化学の変化を生じさせる治療効果を強調していた。例えば、(視床下部内の)脳の視交叉上核(SCN)領域は、人の概日サイクルを制御し、多くの人体リズム(例えば、睡眠−覚醒サイクル、温度変動、内分泌活性、および代謝活性)を同期化された24時間クロックに合わせて維持している。「概日クロックおよび神経系疾患に対する臨床学的影響の最新の見解」という表題の非特許文献8を参照されたい。この「体内時計(core clock)」は、人体の最も基本的な細胞活性を支配する「電気的発火(electrical firing)」および「遺伝子発現」を制御するものである。「時計仕掛けの網状組織:健常者および患者の脳および末梢における概日計時」という表題の非特許文献9を参照されたい。予期されるように、患者の概日サイクルの監視は、多くの疾患の診断および治療に有用である。前述のTurekらの非特許文献8を参照されたい。また、(生理的監視のために移植装置を必要とする)特許文献6(Zhangら、2008年)を参照されたい。
【0013】
これらの方向に沿って、Fullerらは、「概日リズムの生成、熱制御機能、摂取機能、および自律神経系機能に関与する神経回路は、視床下部内に位置している」と述べており、その一方、研究論文によって、視床下部は、前庭核によって影響されることが分かっている。「概日調整および恒常性制御のための神経系前庭の変調:前庭−視床下部の連結?」という表題の非特許文献10を参照されたい。「哺乳類の概日リズム調整組織に影響を及ぼす神経系前庭の遺伝子的証拠」という表題の非特許文献11も参照されたい。体のマスタークロックが視床下部のSCN領域内に配置されているので、治療環境内において患者の概日サイクルを管理する前庭系を制御して監視し、かつ刺激する必要がある。また、SCN脳組織を刺激し、概日クロックを変調することを対象とする装置も、さらに継続的に必要とされている。少なくとも1つの研究論文が、これに関して光治療が有用であることを示唆している。特許文献7(Campbell et al. 2000年)を参照されたい。
【0014】
制御された前庭刺激を行う装置および関連する方法から、脳の他の領域も潜在的な利得を得ることが分かっている。研究者らは、前庭系が(細胞虚血および興奮毒性脳障害の阻止を支援する可能性を有する脳の領域である)室頂核への直接的なルートをもたらすことを確認している。「小脳室頂核の電気的刺激がネズミの脳(試験管内)をスタウロスポリンによるアポトーシスから保護する」という表題の非特許文献12、および「猿に対して異なる頻度および異なる方位で垂直方向前庭刺激を与えている最中の室頂核の活動」という表題の非特許文献13を参照されたい。進行中の研究によっても、前庭系が海馬からのアセチルコリンの脳外放出に関連していることが確認されている。「ネズミの海馬からのアセチルコリンの放出に及ぼす前庭刺激の影響:生体内微小透析による研究」という表題の非特許文献14を参照されたい。同様の結果が、視床下部の前庭刺激を介してヒスタミンの生成が増していることを示している。「ネズミの視床下部(生体内)からのヒスタミン放出に及ぼす片側前庭刺激の影響」という表題の非特許文献15を参照されたい。
【0015】
また、前庭刺激は、種々の疾患状態を治療するのに用いることができる血液化学変化にも関連している。第1に、冷水前庭刺激の結果として、人体内のアスコルビン酸の濃度が高くなることが分かっている。「冷水前庭刺激による脳皮質内の細胞外アスコルビン酸の変化:生体内微小透析法のサンプリングを伴うオンライン電気化学的検出」という表題の非特許文献16を参照されたい。また、内耳が、過剰な音響から保護するための熱ショックタンパク質の生成を刺激する論理上の箇所であることが、研究によって示唆されている。「過剰音響を受ける感覚有毛細胞の生存には、熱ショックを転写する因子HSF1が必要である」という表題の非特許文献17を参照されたい。前庭刺激は、熱ショックタンパク質の応答を誘発する1つの方法である。
【0016】
開発の対象となるさらに他の領域として、前庭刺激と患者の脳の島領域との間の関連性が挙げられる。この島領域は、患者の感覚系(特に、聴覚系)、運動関連、および前庭活性にとって重要である。「聴覚処理における島(ライルの島)およびその役割」という表題の非特許文献18を参照されたい。島は、特に熱刺激に対して反応する。「島皮質の温度感覚活性」という表題の非特許文献19を参照されたい。従って、島は、熱的前庭刺激の効果を研究するための重要な領域である。これは、(生理的および心理的な臨床結果を達成する手段としての瞑想を含む)健康に対する心身一体的アプローチを用いる研究および治療に、特に当てはまることである。十分な瞑想と島の活動との間の相関関係を示している研究もある。「深い瞑想による感情の神経回路の調整:瞑想熟達の効果」という表題の非特許文献20を参照されたい。体が熱刺激に晒されたときに島の応答が認められることを考慮すると、島は、一過性熱感管理の分野および体温の他の急激な変化の分野において、重要な可能性を有していることになる。
【0017】
従って、患者の前庭系を刺激する技術の進展は、種々の医学的疾患の治療および診断に有用となる生理的な応答性を十分に活用するのに、役立つことになるだろう。これらの疾患の例として、制限されないが、アルツハイマー病、糖尿病、肥満、心臓疾患、癲癇、目まい、聴覚過敏症、線維筋痛症、閉経、幻肢痛、偏頭痛、および処方薬が概日サイクルの特定時期において随意的に効くことが必要とされる多くの疾患が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】米国特許第4,190,033号明細書
【特許文献2】米国特許第4,244,377号明細書
【特許文献3】米国特許第6,748,275号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2003/0195588号明細書
【特許文献5】米国特許第6,249,587号明細書
【特許文献6】国際特許出願第PCT/US2007/020425号明細書
【特許文献7】米国特許第6,135,117号明細書
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】Schiff and Pulver, “Does Vestibular Stimulation Activate Thalamocortical Mechanism that Reintegrate Impaired Cortical Regions ?”,Proceedings of the Royal Society of London(B) 266: 421-423 (1999)
【非特許文献2】Schlosser, et al., “Using Video-Oculography for Galvanic Evoked Vestibular-Ocular Monitoring in Comatose Patients”, Journal of Neuroscience Methods 145: 127-131 (2005)
【非特許文献3】O. Kolev, “How caloric vestibular irrigation influences migraine attacks”, Cephalalgia 10, 167-9 (1990)
【非特許文献4】D. Bachtold et al., “Spatial-and verbal memory improvement bycold-water caloric stimulation in healthy subjects”, Exp Brain Res 136: 128-132 (2001) (オンライン版、200年11月16日)
【非特許文献5】Y. Yamamoto et al., “Noisy vestibular stimulation improves autonomic and motor responsiveness in central neurodegenerative disorders”, Ann Neurol. 58: 175-181 (2005)
【非特許文献6】V. Ramachandran et al., “Rapid Relief of Thalamic Pain Syndrome Induced by Vestibular Caloric Stimulation”, Neurocase, iFirst, 1-4 (2007)
【非特許文献7】S. Miller and T. Ngo, “Studies of caloric vestibular stimulation: implications for the cognitive neurosciences, the clinical neurosciences and neurophilosophy”, Acta Neuropsychiatrica 19: 183-203 (2007)
【非特許文献8】Turek et al., “Current Understanding of the Circadian Clock and the Clinical Implications for Neurological Disorders”, Archives of Neurology; 58: 1781-1787 (2001)
【非特許文献9】Hastings, et al., “A Clockwork Web: Circadian Timing in Brain and Periphery, in Health and Disease”, Nature Reviews-Neuroscience 4: 649-661 (2003)
【非特許文献10】Fuller, et al., “Neurovestibular Modulation of Circadian and Homeostatic Regulation: Vestibulohypothalamic Connection ? “, Proceedings of the Nationnal Academy of Sciences 99:24 15723-15728
【非特許文献11】Fuller and Fuller, “Generic Evidence for a Neurovestibular Inflouence on the Mammalian Circadian Pacemaker”, Journal of Biological Rhythms 21: 177-184 (2006)
【非特許文献12】Zhou, et al., “Electrical Stimulation of Cerebellar Fastigial Nucleus Protects Rat Brain, in vitro, From Staurosporine-Induced Apoptosis”, Journal of Neurochemistry 79 (2): 328-338
【非特許文献13】Siebold, et al,. “Fastigial Nucleus Activity During Different Frequencies and Orientations of Vertical Vestibular Stimulation in the Monkey”, Journal of Neurophysiology 82: 34-41 (1999)
【非特許文献14】Horii, et al., “Effects of Vestibular Stimulation on Acetylcholine Release from Rat Hippocampus: An In Vivo Microdialysis Study”, Journal of Neurophysiology 72 : 2 605-611 (1994)
【非特許文献15】Horii, et al., “Effect of Unilateral Vestibular Stimulation on Histamine Release from the Hypothalamus of Rats In Vivo”, Journal of Neurophysiology 70 : 5 1822-1826 (1993)
【非特許文献16】Zhang, et al., “Change of Extracellular Ascorbic Acid in the Brain Cortex Following Ice Water Vestibular Stimulation: An On-line Electrochemical Detection Coupled with In-vivo Microdialysis Sampling”, Chinese Medical Journal 121: 12: 1120-1125 (2008)
【非特許文献17】Sugahara, et al., “Heat Shock Transcription Factor HSF1 is Required for Survival of Sensory Hair Cells Acoustic Overexposure”, Hearing Research 182: 88-96 (2003)
【非特許文献18】Bamiou et al., “The insula (Island of Reil) and its role in Auditory Processing”, Brain Research Reviews 42:143-154 (2003)
【非特許文献19】Craig et al., “Thermosensory Activation of Insular Cortex”, Nature Neuroscience 3: 2: 184-190 (2000)
【非特許文献20】Lutz et al., “Regulation of the Neural Circuitry of Emotion by Compassion Mediation: Effects of Mediative Expertise”, Public Library of Science-PloS One 3: 3:1-10 (2008)
【発明の概要】
【0020】
本発明は、熱的前庭刺激および電気的前庭刺激、および他の形態の治療を前庭系を介して患者に送達するための耳内装置を提供するものである。一実施形態では、本装置は、(a)
着用者の外耳道内に挿入可能となるように寸法決めされた耳挿入体であって、内部分を有している、耳挿入体と、(b)耳挿入体の内部分上に取り付けられた少なくとも1つの熱電変換素子と、(c)耳挿入体の内部分に接続されて少なくとも1つの熱電変換素子を覆っているスリーブまたはシースであって、該スリーブを介して、熱が前記少なくとも1つの熱電変換素子の各々と外耳道との間に伝達され、熱的前庭刺激を着用者に送達することが可能となっているスリーブと、を備えている。前記装置は、スリーブの有無にかかわらず、完全に機能するようになっている。何故なら、熱電変換素子を外耳道に直接接触させることができるからである。
【0021】
従って、いくつかの実施形態では、本発明は、熱的前庭刺激を患者に送達するための耳内装置において、(a)着用者の外耳道内に挿入可能となるように寸法決めされた耳挿入体であって、耳挿入体は、内部分を有しており、内部分は、少なくとも着用者の外耳道の長さ寸法の大部分を占めるほど大きい長さ寸法を有している、耳挿入体と、(b)耳挿入体の内部分上に取り付けられた少なくとも1つの熱電変換素子と、(c)耳挿入体の内部分に接続されて少なくとも1つの熱電変換素子を覆っているスリーブであって、スリーブは、弾性材料から構成されており、スリーブは、耳挿入体の内部分に適合して係合するように構成された内面部分と、外耳道に適合して係合するように構成された外面部分と、を有しており、これによって、熱がスリーブを通って少なくとも1つの変換素子の各々と外耳道との間に伝達され、熱的前庭刺激を着用者に送達することが可能となっている、スリーブと、を備えていることを特徴とする耳内装置を提供している。いくつかの実施形態では、耳挿入体の内部分は、着用者の外耳道に対応する形状を有しており、いくつかの実施形態では、スリーブの外面部分は、着用者の外耳道に対応する形状を有している。いくつかの実施形態では、スリーブは、耳挿入体の内部分に離脱可能に接続されている。いくつかの実施形態では、耳挿入体は、耳挿入体が左の外耳道または右の外耳道のいずれに挿入されるように構成されているかを示すために、耳挿入体に関連付けられた識別子を備えている。いくつかの実施形態では、スリーブは、(i)スリーブが左の外耳道または右の外耳体のいずれに挿入されるように構成されているかを示すために、または(ii)耳挿入体が左の外耳道または右の外耳道のいずれかに挿入されるように構成されているとき、スリーブが耳挿入体の内部分に係合されるように構成されているかどうかを示すために、スリーブに関連付けられた識別子を備えている。いくつかの実施形態では、耳挿入体は、外部分を有しており、外部分は、着用者の外耳の少なくとも一部を覆うように構成されている。いくつかの実施形態では、耳挿入体は、着用者の外耳道内に完全に配置されるように構成されている。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの熱電変換素子は、耳挿入体の内部分上に互いに離間して配置された少なくとも2つの個別に制御可能な熱電変換素子を含んでいる。いくつかの実施形態では、耳挿入体は、耳挿入体と操作可能に関連付けられた外部変換素子をさらに備えており、外部変換素子は、熱的刺激、電気的刺激、または機械的刺激を着用者に送達するために、着用者の乳様突起上または該乳様突起に隣接して配置されるように構成されている。いくつかの実施形態では、耳挿入体は、耳の通気を容易にするために、耳挿入体内に形成された通路を有している。いくつかの実施形態では、耳挿入体は、音響刺激を着用者に送達するために、耳挿入体に操作可能に関連付けられた音響変換素子をさらに備えている。
【0022】
他の実施形態では、本発明は、熱的前庭刺激を患者に送達するための耳内装置において、(a)着用者の外耳道内に挿入可能となるように寸法決めされた予成形耳挿入体であって、挿入体は、内部分を有しており、内部分は、少なくとも着用者の外耳道の長さ寸法の大部分を占めるほど大きい長さ寸法を有している、予成形耳挿入体と、(b)耳挿入体の内部分上に取り付けられた少なくとも1つの熱電変換素子であって、予成形耳挿入体は、外耳道に適合して係合するように構成された表面部分を有しており、これによって、熱がスリーブを通って少なくとも1つの熱電変換素子の各々と外耳道との間に伝達され、熱的前庭刺激を着用者に伝達することが可能となっている、熱電変換素子と、を備えていることを特徴とする耳内装置を提供している。いくつかの実施形態では、耳挿入体は、外部分を有しており、外部分は、着用者の外耳の少なくとも一部を覆うように構成されている。いくつかの実施形態では、耳挿入体は、着用者の外耳道内に完全に配置されるように構成されている。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの熱電変換素子は、耳挿入体の内部分上に互いに離間して配置された少なくとも2つの個別に制御可能な熱電変換素子を含んでいる。いくつかの実施形態では、耳挿入体は、圧縮性材料から形成されている。いくつかの実施形態では、耳挿入体は、耳挿入体に操作可能に関連付けられた外部変換素子をさらに備えており、外部変換素子は、熱的刺激、電気的刺激、および機械的刺激を着用者に送達するために、着用者の乳様突起上または該乳様突起に隣接して配置されるように構成されている。いくつかの実施形態では、耳挿入体は、耳の通気を容易にするために、耳挿入体内に形成された通路を画定しており、いくつかの実施形態では、耳挿入体は、音響刺激を着用者に送達するために、耳挿入体に操作可能に関連付けられた音響変換素子をさらに備えている。
【0023】
本発明のさらに他の態様は、熱的前庭刺激を患者に伝達させる方法において、(i)ここに記載されている装置を患者の(左または右、または両方の)外耳道内に配置するステップと、次いで、(ii)少なくとも1つの熱電変換素子を、熱的前庭刺激を着用者に伝達させるのに十分な時間にわたって十分な温度に達するまで、(例えば、少なくとも1つの変換素子を加熱または冷却することによって)、作動させるステップと、を含んでいることを特徴とする方法である。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの熱電変換素子が、耳挿入体の内部分上に互いに離間して配置された少なくとも2つの個別に制御可能な熱電変換素子を含んでおり、作動ステップは、少なくとも2つの個別に制御可能な熱電変換素子を個別にかつ選択的に作動させることを含んでいる。
【0024】
好ましい実施形態では、耳内装置は、患者の耳を通して刺激をもたらすことによって、患者の概日温度サイクルを制御するようになっている。この実施形態では、本発明は、計時要素および温度要素を含むと共に、前述の特徴を単独で含むかまたは組合せて含んでいる。本装置は、患者の概日温度サイクルに基づくデータに従って熱的前庭刺激を制御するために、耳挿入体、温度要素、および変換素子と電子的に連通しているコンピュータ化された制御モジュールをさらに備えている。
【0025】
また、本装置は、患者の前庭系に電気的刺激をもたらすために、耳挿入体に取り付けられた電極を備えていてもよい。熱的前庭刺激と組合せて、電気的刺激は、血液化学および/または脳化学の所望の変化を生じさせるのに十分な程度に、患者の脳に前庭刺激をもたらすことが可能である。特に、本発明による前庭刺激は、生化学的物質、例えば、制限されないが、アスコルビン酸、セロトニン、熱ショックタンパク質、アセチルコリン、およびヒスタミンの生成を促進することになる。
【0026】
図面および以下に述べる発明を実施するための形態において、本発明をさらに詳細に説明する。なお、ここに引用する全ての米国特許文献は、参照することによって、その全体がここに含まれるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】着用者(人)の耳内に挿入された本発明の装置を示す断面図である(図の解剖学的部分は、Gramsらの米国特許第4,244,377号明細書の図2に基づいて描かれている)。
【図2】図1の装置のさらに他の断面図である。
【図3】耳挿入体の内部分が着用者の外耳道に対応する形状を有している、本発明の一実施形態の側断面図である。
【図4】耳挿入体から取り外された、図3の装置のスリーブの側断面図である。
【図5】スリーブ外側部分が着用者の外耳道に対応する形状を有している、本発明の他の実施形態の側断面図である。
【図6】耳挿入体から取り外された、図5の装置のスリーブの側断面図である。
【図7】異なる長さ寸法を有し、かつ異なる変換素子配置を有している本発明の種々の代替的実施形態を示す図である。
【図8】異なる長さ寸法を有し、かつ異なる変換素子配置を有している本発明の種々の代替的実施形態を示す図である。
【図9】異なる長さ寸法を有し、かつ異なる変換素子配置を有している本発明の種々の代替的実施形態を示す図である。
【図10】異なる長さ寸法を有し、かつ異なる変換素子配置を有している本発明の種々の代替的実施形態を示す図である。
【図11】異なる変換素子配置を示している、本発明の実施形態の断面図である。
【図12】異なる変換素子配置を示している、本発明の実施形態の断面図である。
【図13】着用者の耳の背後に配置されるように構成された体外部分を備えている本発明の実施形態を示す図である。
【図14】着用者の乳様突起上または該乳様突起に隣接して配置された付加的な外部変換素子を示している、着用者の背後から見た図13の実施形態のさらに他の図である。
【図15】電源および制御装置に操作可能に関連付けられた本発明の装置の概略図である。
【図16】備えている構成部品がモジュール式になっている装置の概略図である。
【図17】外耳道と係合するモジュール式挿入体の一部の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の装置および方法は、医学的診断および医学的治療の目的のために、前庭系を利用して、患者の生理的応答および/または心理的応答を生じさせるものである。本明細書における「患者(individual)」および「着用者(wearer)」という用語は、制限されないが、本発明の装置を着用する人または本発明の方法を行う人を指している。他の実施形態では、患者は、装置を試験するのに用いられる動物、治療を受ける動物、または医学的研究に用いられる動物を指すこともある。獣医が目的とするものは、ここに開示されている範囲内に含まれるものとする。
【0029】
「前庭系(Vestibular system)」という用語は、医術に属する意味を有しており、制限されないが、前庭器官および内耳神経として知られている内耳の部分を指している。従って、前庭系は、制限されないが、内耳神経からの信号を処理する脳の部分をさらに含んでいる。
【0030】
着用者(人)の耳に挿入される本発明の装置10の第1の実施形態が、図1および図2に概略的に示されている(図の解剖学的部分は、Gramsらの米国特許第4,244,377号明細書の図2に基づいて描かれている)。前述したように、一実施形態では、装置10は、前庭刺激を着用者に送達するための耳内装置である。この装置は、着用者の外耳道20内に挿入可能となるように寸法決めされた耳挿入体11を備えている。耳挿入体は、内部分12を有している。この内部分は、好ましくは、少なくとも着用者の外耳道の長さ寸法の大部分を占めるほど大きい長さ寸法(例えば、着用者の外耳道の長さ寸法の少なくとも50,60,70、または80%の長さ)を有している。
【0031】
ここに開示されている装置は、耳挿入体11上に、作用要素を組み入れている。これらの作用要素は、外耳道と係合し、これによって、患者の前庭系にアクセスするためのものである。本明細書における目的では、本発明を制限しない限りにおいて、「作用要素」という用語は、着用者の外耳道20の変化を生じさせる前庭刺激装置10の部分、領域、または構成要素を意味している。この変化は、患者の前庭系に影響を与えることができる外耳道20のどのような生理的、構造的、または物理的な応答であってもよい。作用要素という用語の例として、制限されないが、前庭系を制御するのに有用な温度要素、例えば、温度計、熱電変換素子、電極、および他の構成要素が挙げられる。
【0032】
図2に示されているように、少なくとも1つの熱電変換素子30が耳挿入体の内部分12上に取り付けられている。どのような適切な熱電デバイスまたは熱電変換素子が、本発明を行うのに用いられてもよい。熱電変換素子の例として、制限されないが、米国特許第7,205,675号明細書、第7,098,383号明細書、7,024,865号明細書、第5,974,806号明細書、および米国特許出願公開第2004/0199266号明細書に開示されているものが挙げられる。また、S. Riffat and X. Ma、「熱電素子:現在および将来的な用途の概説」、Applied Thermal Engineering 23, 913−935(2003)も参照されたい。変換素子は、感熱繊維式変換素子であってもよい。この例として、制限されないが、米国特許第7,202,443号明細書、第6,977,360号明細書、および第6,229,123号明細書に記載されているものが挙げられる。変換素子は、典型的には、外部電源35および制御装置38に接続可能なリード31を備えている。あるいは、これらの電源および制御装置は、以下にさらに説明するように、本装置内に含まれていてもよい。ここに開示されているこの装置は、(制限されないが、螺旋形状を含む)あらゆる形状および寸法を有する熱電変換素子の多数の実施形態をさらに含んでいる。
【0033】
いくつかの実施形態では、複数の熱電変換素子が、任意の適切な技術によって、例えば、制限されないが、Hillerらの米国特許第7,147,739号明細書に記載されているような技術によって、細長の柔軟な帯片上に取り付けられていてもよい。変換素子から電流を生成することが望まれる他の実施形態では、変換素子は、機械的変換素子または圧電変換素子であってもよい。この例として、制限されないが、圧電素子および酸化亜鉛ナノワイヤ・ナノ発電機の両方が挙げられる。例えば、X. Wang、“超音波によって駆動される直流ナノ発電機”、Science 316: 102−105(April6,2007)、Z. Wang、“酸化亜鉛ナノワイヤ・アレイに基づく圧電ナノ発電機”、Science 312: 242−246(April14,2006)、およびP.Patel−Predd、“振動によって燃料供給されるナノ発電機”、MIT Technology Review (April5,2007) を参照されたい。
【0034】
いくつかの実施形態では、変換素子として、薄膜熱電デバイスまたは薄膜熱電変換素子が好ましい。この例として、制限されないが、米国特許第6,300,150号明細書、および米国特許出願公開第2007/0028956号明細書および第2006/0086118号明細書に記載されている薄膜熱電デバイスが挙げられる。このような薄膜熱電デバイスは、有利には、温度検知機能を含んでいるとよい。この場合、別の温度センサを設けることなく、該デバイスによって、温度検知を行うことができる。
【0035】
耳挿入体11は、どのような適切な材料から形成されていてもよく、例えば、(特に耳挿入体が患者の外耳道に適合するように形作られている場合には)柔軟材料から形成されていてもよく、(例えば、よりクッション性のあるスリーブが用いられているときには)剛性材料から形成されていてもよい。耳挿入体11は、どのような適切な技術、例えば、成形または鋳込みによって形成されていてもよい。この場合、熱電デバイス30または変換素子(および任意の付随するワイヤまたはリード)は、従来の技術に従って、鋳込みまたは成形によって適所に固定されることになる。
【0036】
いくつかの実施形態において、耳挿入体11は、Niederdrankに付与された米国特許第6,819,770号明細書に記載されているように、耳の自然の通気を容易にするかまたは可能にするために、耳挿入体11内に形成された通路を有することができる。いくつかの実施形態では、必要に応じて、耳挿入体11は、着用者に聴覚刺激または音響刺激を送達するための音響変換素子を有することもできる。
【0037】
図2に示されているように、スリーブまたはシース40が、耳挿入体の内部分12に接続されているとよい(例えば、該内部分に離脱可能に接続されていてもよいし、または該内部分に永久的に接続されていてもよいし、または該内部分に形成されていてもよい)。図4に最も明瞭に示されているように、スリーブは、閉じた内側端部分41および開いた外側端部分42を有しているとよい。いくつかの実施形態では、スリーブ40は、耳挿入体の内部分12に適合して係合されるように構成された内面部分45と、着用者の外耳道20に適合して係合されるように構成された外面部分46と、を有している。従って、スリーブ40を通って、少なくとも1つの熱電変換素子30の各々と外耳道20との間に(すなわち、熱電変換素子30の各々から外耳道20にまたはその逆に)、熱を伝達させ、これによって、熱的前庭刺激を着用者に送達することが可能となっている。
【0038】
図3および図4に示されているようないくつかの実施形態では、耳挿入体の内部分12は、着用者の外耳道20に対応する形状(すなわち予成形された形状)を有している。このような実施形態では、スリーブ40は、耳挿入体の内部分12の形状に対応するように構成されているが、スリーブ挿入体の内部分12に取り付けられたときのみ、着用者の外耳道20に一致するようになっている。図5および図6に示されているような他の実施形態では、耳挿入体の内部分12は、着用者の外耳道20の形状に対応する形状を有していないが、その代りに、スリーブの外面部分46が、着用者の外耳道に対応する形状(すなわち、予成形された形状)を有している。これらの実施形態のいずれにおいても、組み立てられたとき、耳挿入体の内部分12に適合して係合するスリーブ内面部分45と、着用者の外耳道20に適合して係合する外面部分46と、がもたらされるようになっている。その結果、これらの実施形態のいずれにおいても、前述したように、スリーブ40を通して、少なくとも1つの熱電変換素子30の各々と外耳道20との間に、熱を伝達させることができる。
【0039】
スリーブ40は、どのような適切な弾性材料および/またはどのような適切な圧縮性材料、例えば、ポリマー、布地(織布または不織布)、またはそれらの複合物から構成されていてもよいし、成っていてもよいし、または基本的に成っていてもよい。いくつかの実施形態では、ポリマーは、ヒドロゲルポリマー、熱伝導性樹脂、および/または粘弾性ポリマーから構成されている(なお、全ての粘弾性ポリマーではないが、一部の粘弾性ポリマーは、ヒドロゲルポリマーであり、全てのヒドロゲルポリマーではないが、一部のヒドロゲルポリマーは、粘弾性ポリマーであることを理解されたい)。多くの適切なヒドロゲルポリマー、例えば、生分解性または生腐食性ヒドロゲルポリマー、および安定ヒドロゲルポリマー(例えば、シリコーンヒドロゲルポリマー)が、知られている。ヒドロゲルポリマーの例として、制限されないが、米国特許第7,213,918号、第7,171,276号、第7,105,588号、第7,070,809号、第7,060,051号、および第6,960,625号のそれぞれの明細書に記載されているものが挙げられる。適切な粘弾性ポリマーの例として、制限されないが、例えば、米国特許第7,217,203号、第7,208,531号、および第7,191,483号のそれぞれの明細書に記載されているものが挙げられる。とりわけ、米国特許第7,176,419号明細書に記載されている加熱パッドシステムに用いられているエステル基粘弾性形状記憶発泡体が、本発明のスリーブを作製するのに適している。いくつかの実施形態では、スリーブ40は、0.1W/m×Kから50W/m×Kの熱伝導性およびショアAスケールで0から50の硬度を有している。
【0040】
スリーブ40は、成形または鋳込みのようなどのような適切な技術によって作製されていてもよい。いくつかの好ましい実施形態では、スリーブ40は、離脱可能になっている一方、他の実施形態では、スリーブは、耳挿入体11に形成されており、または該耳挿入体に一体に形成されており、または該耳挿入体に半永久的に接続されている。スリーブ40は、その(鼓膜に最近接している)内側端41およびその外側端42の両方において開いていてもよいし、または外側端42のみにおいて開いていてもよい。耳挿入体11が耳の通気を容易にするために該耳挿入体内に形成された通路を有しているとき、スリーブ40は、好ましくは、通路の近位端および遠位端の両方において開いている。スリーブ40は、透明であってもよいし、またはスリーブが左側外耳道装置または右側外耳道装置のいずれに用いられるものであるかを示す指標、スリーブの大きさを示す指標、スリーブが挿入体上においていかに方向付けされているべきかを示す指標、などをもたらすために、全体的または部分的に、例えば、スリーブの1つまたは複数の画定された箇所(例えば、内側部分、外部分、上部分、下部分、前部分、後部分)において、顔料によって彩色されていてもよい。
【0041】
本発明の装置は、単独で用いられてもよいし、または対で用いられてもよい。耳挿入体11は、前記耳挿入体が左の外耳道または右の外耳道のいずれに挿入されるように構成されているかを示すために、関連付けられた識別子を任意選択的に備えていてもよい。同様に、スリーブ40は、(i)前記スリーブ40が左の外耳道または右の外耳道のいずれに挿入されるように構成されているかを示すために、または(ii)前記耳挿入体が左の外耳道または右の外耳道のいずれかに挿入されるように構成されているとき、前記スリーブ40が前記耳挿入体の内部分に係合されるように構成されているかを示すために、関連付けられた識別子を任意選択的に備えていてもよい。このような識別子は、印刷、スタンプ、または鋳込みによる記号、例えば、左用の「L」および右用の「R」のような記号、または左および右を示すカラーコード、などであればよい。
【0042】
図1、図2、図3および図5において、耳挿入体11は、外部分13を有している。外部分13は、着用者の外耳22の少なくとも一部(例えば、一部または全て)を覆うように構成されている。これによって、着用したとき、半耳介型補聴器または全耳介型補聴器と同様の外観が得られることになる。しかし、どのような適切な構成、例えば、装置が着用者の外耳孔内に配置されているかまたは該外耳道内に完全に含まれている図9および図10にさらに示されているような構成が利用されてもよい。また、図10では、装置の内側部分14は、図9の装置の内側部分14のように、鼓膜に当接していないことに留意されたい。
【0043】
図7〜図12は、本発明の装置における種々の変換素子配置を示している。単一の熱電変換素子30が用いられてもよいが、いくつかの実施形態では、少なくとも2つ、3つ、または4つ(または5つ以上)の個別に制御可能な熱電変換素子30a,30b,30c,30dを備えていると好ましい。この場合、これらの熱電変換素子は、耳挿入体の内部分12において互いに離間しているとよい。図7〜図9に示されているように、変換素子は、挿入体11に沿って長手方向に配置されていてもよいし、図10に示されているように、挿入体に沿って横方向に配置されていてもよい。他の配置、例えば、傾斜した配置、および前述の配置の組合せが用いられてもよい。さらに、変換素子は、矩形状に描かれているが、どのような適切な規則的または不規則な形状が用いられてもよい。
【0044】
図13および図14は、本発明のさらに他の実施形態を示している。この実施形態では、外部ハウジング50が、(ここでは、管状の)ブリッジ部材51によって耳挿入体に接続されている。外部ハウジング50は、着用者の耳の背後に配置されるように構成されている。ハウジング50は、コンピュータ化された制御モジュール、制御回路、バッテリのような電源、オンオフスイッチ52のようなコントロール機器、などを含むことができる。図示されている実施形態では、ハウジングは、その内側面54に取り付けられた外部変換素子53を有している。この外部変換素子は、着用者に(例えば、確率的に)閾値以下のレベルまたは閾値以上のレベルの熱的刺激、電気的刺激、または機械的刺激を送達することができるようになっており、この刺激は、単独でまたは外耳道変換素子からの刺激と協働して、どのような適切なパターンで与えられてもよい。外部変換素子は、着用者の乳様突起25と接触するようにまたは該乳様突起に隣接するように、ハウジングに位置決めされていてもよいことに留意されたい。
【0045】
図15は、制御装置60と操作可能に関連付けられた本発明の装置を概略的に示している。この制御装置は、電源61に操作可能に関連付けられている。制御装置および電源は、装置内(例えば、図13,14と関連して説明した外部ハウジング内)に含まれていてもよいし、ベルトで着帯されてもよいし、パーソナルコンピュータのような固定されたユニットに接続された他のハウジング内に含まれていてもよいし、またはどのような他の適切な構成であってもよい。好ましい実施形態では、制御装置は、コンピュータ化された制御モジュール70を備えている。制御モジュール70は、前庭刺激の大きさ、持続期間、波形パターン、および他の特性を制御するコンピュータ命令(すなわち、ソフトウエア)によってプログラム化されている。
【0046】
図15に示されているように、装置が患者または着用者の外耳道20内に配置された時点で、(個別のリード31a,31b,31cによって制御装置に操作可能に関連付けられた)少なくとも1つの熱電変換素子30a,30b,30cが、熱的前庭刺激を着用者に送達するのに十分な時間にわたって十分な温度に達するまで、作動されることになる。調整可能、すなわち、プログラム化可能な制御モジュール70を用いて、特定の着用者に対する刺激および特定の目的または疾患に対する刺激を最適化することができる。(図15に示されているような)少なくとも2つの個別に制御可能な熱電変換素子が互いに離間して耳挿入体の内部分に配置されている場合、作動ステップは、少なくとも2つの個別に制御可能な熱電変換素子を個別にかつ選択的に作動させること(例えば、それらの1つまたは2つのみを作動させること、1つの変換素子を加熱すると共に他の変換素子を冷却すること、変換素子を順次作動させること、異なる変換素子を異なる程度に作動させること、前述の一部または全てを組み合わせて行うこと、など)を含むことができる。個別かつ選択的な作動のパターンは、例えば、予めプログラム化されていてもよいし、実験的に決定されてもよいし、または着用者によって最適されるか、またはプログラマー(例えば、臨床医)によって着用者と連携してプログラミング期間において最適化されてもよい。
【0047】
制御モジュールは、Campbellに付与された米国特許第5,762,612号明細書に記載されているような着用者の「仮想環境」を作り出す多モード刺激システムの一部であってもよい。必要に応じて、装置は、Fischerらの米国特許出願公開第2007/0112277号明細書(2007年5月17日)およびJ.Fradenの米国特許出願公開第2005/0209516号明細書(2005年9月22日)に記載されているような外耳道内に配置されたセンサまたは監視プローブを含むこともできる。
【0048】
本発明の装置の患者または着用者は、多くの場合、制限されないが、人の患者、例えば、任意の成長段階(例えば、未成年、青年、成人、および老年)にある男性患者および女性患者である。従って、耳および外耳道20の形状が、患者または着用者によって異なるので、耳挿入体およびスリーブの異なる寸法および異なる組合せが、異なる着用者に適合させるために必要となる可能性が高い。しかし、挿入体とスリーブとの最適な組を統計的な形状分析を用いることによって得ることができるので(例えば、R. Paulsen、「耳内補聴器設計への応用を伴う人の外耳道の統計的形状分析」、Kongens Lyngby 2004を参照されたい)、特に圧縮性スリーブ40の部分によって高められる患者間の適応性によって、個々の着用者ごとに装置を特別注文で成形することなく、本発明の装置を入手し易いものとすることができる。
【0049】
いくつかの実施形態では、本発明の挿入体11は、特定の着用者の外耳道20に適合するように、従って、適合して係合するように、予成形されている。このような予成形された挿入体11は、耳の型を形成することによって、作製することができる。次いで、この耳の型を用いて、米国特許第6,249,587号明細書に記載されているのと同様の方法によって、鋳込みを行うことができる。あるいは、これに代わって、この耳の型をスキャンし、それを利用して、米国特許第7,162,323号明細書および第6,986,739号明細書に記載されているような後続の鋳込み、三次元的インクジェット印刷、および/または(材料の堆積または除去による)他の三次元的構造を得ることができる(S. Fuller、「インクジェット印刷されたナノ粒子微小電子機械システム」、Journal of Microelectromechanical Systems 11, 54−60(2002) も参照されたい)。このような予成形された装置の場合、スリーブを設ける必要はないが、この場合、耳挿入体自体が、軟質の弾性材料(例えば、ショアAスケールで0から50の硬度を有する材料)から構成されているかまたは該材料から形成されていると好ましい。
【0050】
本発明は、種々の異なる目的に対して有用である。本装置は、D. Bachtold らの前述の文献に記載されているような空間および言語に関する記憶機能を高めるために、用いられてもよい。本装置は、Lattnerに付与された米国特許第6,748,275号明細書に記載されているような患者の呼吸機能を改善または制御するために、睡眠を誘発するために、および/または眩暈または(高所から下を見たときの)目まいをなくすために、個別にまたは対で用いられてもよい。本装置は、O, Kolevの前述の文献およびFischellらに付与された米国特許出願公開第2003/0195588号明細書に記載されているような神経系疾患、頭痛(偏頭痛を含む)、船酔い、乗り物酔いを治療するのに用いられてもよい。本装置は、Y. Yamamotoらの前述の文献に記載されているようなパーキンソン病のような中枢神経変性疾患を患っている患者の自律神経系応答性および/または運動応答性を改善または促進するのに用いられてもよい。本装置は、V. Ramachandranらの前述の文献に記載されているような視床痛症候群のような苦痛を治療するのに利用されてもよい。本装置は、Campbellに付与された米国特許第5,762,612号明細書に記載されているような「仮想環境」による教育、娯楽、または教育システムに利用されてもよい。
【0051】
本発明の装置10は、診断目的に有効である。意識のレベルを決めるために、前述の水温度刺激試験の代わりに、ここに開示されている耳内装置を用いることができるが、この耳内装置は、より効率的であり、水の流出を回避し、調整可能な範囲内の刺激をもたらすことができる。意識のレベルは、装置10によって可能となる唯一の診断手段ではない。本発明の装置を用いる医療担当者は、任意の時刻に脳のどの領域が積極的に関与しているかを決めるために前庭刺激を脳スキャンと組み合わせることができる設備を備えていることにもなる。前庭刺激中に、前庭刺激に晒されている健康な脳を患者の脳スキャンと比較することによって、医療専門家は、異なる活動レベルを示す領域を迅速に見つけることになるだろう。これらの活動レベルの差は、疾患状態にある患者の脳の領域を識別するのに、極めて重要なものとなる可能性がある。このような情報によって、より正確な診断およびより迅速な医学的介入が可能になる。
【0052】
本発明の方法および装置に対する特に興味深い他の1つの分野は、幻肢痛の診断および治療にある。幻肢痛は、患者が、切断された、すなわち、失われた脚がまだ存在していると継続して感じている疾患である。この感覚は、多くの場合、苦痛として現れることになる。最新の研究によって、幻肢痛と関連している脳の領域が視床であることが示唆されている。Brown, C. J.、「視床の幻感覚」、Canadian Medical Association Journal 158: 711(1998)を参照されたい。
【0053】
背景技術において述べたように、ここに記載されている装置10は、患者の概日リズムを追跡、監視、および調整するのに有用である。体内温度が概日サイクルによって変動することは、よく知られている。従って、一実施形態では、装置10は、患者の耳を通して刺激をもたらすことによって、患者の概日温度サイクルを制御するようになっている。この実施形態による装置は、患者の外耳道と類似して形作られ、かつ該外耳道と係合するようになっている耳挿入体を備えている。この挿入体に取り付けられた温度要素が、好ましくは、疾患していない状態において、患者の体内温度の経時的な変化を測定するようになっている。この実施形態によれば、本発明のシステムは、少なくとも24時間の期間にわたって、温度の表示値を追跡し、その測定値をデータセットとして記録するようになっている。これらの測定値は、該患者に特有の基準概日温度サイクルを確立するのに有用である。
【0054】
耳挿入体11は、熱的前庭刺激を患者にもたらすために、挿入体11に取り付けられた少なくとも1つの熱電変換素子30をさらに備えている。熱電変換素子30は、挿入体11内に完全に収容されていてもよいし、または前述した別のスリーブ40に取り付けられていてもよい。装置10において用いられる熱電変換素子30は、今日の業界において一般的な熱電クーラーであるとよい。熱電変換素子30は、外耳道20への熱伝達および該外耳道からの熱伝達を可能とし、これによって、必要に応じて、外耳道20の温度を上昇かつ降下させることによって、熱的刺激を人の内耳にもたらすことができる。外耳道は、患者の前庭系への有効なルートとして機能することになる。
【0055】
前述の温度要素75は、装置を着用している患者の体内温度を測定するものである。温度要素75は、この患者の概日温度サイクルを監視することができる。好ましい実施形態では、監視機能は、挿入体、温度要素75、および変換素子30と電子的に連通しているコンピュータ化された制御モジュール70によって、達成されることになる。制御モジュール70は、変換素子と患者の外耳道との間の熱伝達率を調整するために、制御モジュール70内に記憶された命令、すなわち、コンピュータ指令を含んでいる。熱伝達率の調整は、制御モジュール70からの信号に応じて、行われることになる。制御モジュール70は、全装置10の前述した外部分13内に配置されていてもよい。外部分13は、便利には、外耳の周囲に適合するようになっている。他の実施形態では、制御モジュール70は、治療の効果を達成することができるどのような周辺装置内に含まれていてもよいし、または該周辺装置に組み合されていてもよい(すなわち、制御モジュール70は、パーソナルコンピュータまたは全医学システムの一部としての他の医学装置内に収容されていてもよい)。
【0056】
制御モジュール70に戻された温度要素75の信号は、実時間で、制御モジュール70からの出力を即座に調整するのに利用されてもよい。代替的に、別の実施形態では、制御モジュール70は、既知の時間帯における概日温度サイクルを定めるために、体内温度の履歴データを記憶するようになっていてもよい。後者の実施形態では、制御モジュール70は、将来のいつかに生じ得る概日サイクルの特定時点において患者に導かれる前庭刺激を調整するように、プログラム化されているとよい。実時間の前庭刺激が用いられようとまたはプログラム化された刺激始動、すなわち、遅れて生じる刺激始動が用いられようと、本発明による装置10およびシステムは、熱的刺激を患者の前庭系にもたらし、これによって、外耳道の温度を上昇かつ降下させるように機能することになる。制御モジュール70は、予め設定された命令、および関数、例えば、ランプ(階段状)関数、方形波関数、および他の数学的アルゴリズムに従って、前庭刺激を加えるようにプログラム化されていてもよい。
【0057】
患者の概日サイクルを制御するのに用いられる装置10の実施形態では、該装置は、(単純なクロック80であるとよい)時間管理要素を内蔵している。このクロック80も、コンピュータされた制御モジュール70および全刺激システムの一部である他の構成部品に電子的に連通している。この装置10のクロック80によって、ユーザは、時間領域において患者の生理的なデータを追跡し、これによって、現在を含む所定時間における治療介入の計画を立てるように、制御モジュール70をプログラム化することが可能になる。装置10は、サマータイムおよび旅行中に跨ぐ時間帯のような自然の時間変化を考慮して、クロック80の時刻を調整する機構を備えている。時刻を調整するこの機構は、時間変化を上げ下げする単純な方向矢印型のものであってもよいし、時間管理の技術分野において有用とされているさらに精緻な電子機器であってもよい。いずれにしても、装置10は、患者が今いる現在時刻を維持するようになっている。このように、制御モジュール70は、患者の概日サイクルの位相偏移を考慮した命令を関連するソフトウエア内にプログラム化することができる。最も一般的な位相偏移は、時間領域において生じ、制御モジュールは、関連するクロックと連携して、患者の概日サイクルを現在の時間帯に同期化するように前庭刺激をもたらすことができるプログラムを含んでいる。
【0058】
別の実施形態では、装置10は、患者またはその患者の医療従事者に、患者の体内の現在の概日サイクルが、患者が現在いる実際の地理学的時間(すなわち、現地時間)に一致していないことを、警告するのに有用である。換言すると、ここに記載されている装置は、患者の基準概日サイクル、実時間概日サイクル、および現在の地理学的時間を、患者が必要に応じて医学的介入を調整することを可能とするように、比較するのに十分な人工知能を含んでいる。
【0059】
一例を挙げれば、ある薬剤は、任意選択的に、患者の概日温度サイクルの特定時点に効くようになっている。患者が通常日課に従って生活しているとき、その患者の医療従事者は、該患者がある薬剤を摂取するべき時刻を決めることができる。もし該患者の概日サイクルが、日課の著しい変化によって、任意の時点において偏移した場合、投与の処方時間が不正確になる可能性がある。同じことが、患者が旅行中に時間帯を跨いだときにも当てはまる。ここに記載されている内耳装置は、これらの状況のいずれの最中においても多くの介入を可能とするものである。第1に、装置10は、外耳道20に係合しているセンサ(30,75)からのフィードバックを用いて、ある生理的パラメータ、例えば、温度の概日サイクルが偏移していること、従って、薬物を適切に摂取する時刻を偏移させるべきであることを、患者に警告することができる。
【0060】
別の実施形態では、医療従事者は、基準からの概日偏移が患者の健康に有害であることを決めることが可能である。この場合、医療従事者には、患者の概日クロックを地理学的時間に一致させるように再設定する方法が必要である。これを達成するために、装置10内の制御モジュール70は、その患者の概日サイクルを実際に移動させ、かつ変化させるように前庭刺激をもたらすように、プログラム化されているとよい。前述したように、概日サイクルを再設定する最も直接的な経路は、脳のSCN領域を通るようになっている。何故なら、前庭系は、SCNにおける体内マスタークロックへの直接的なルートだからである。
【0061】
従って、本発明の1つの目的は、電流、熱伝達、光、圧力差、および他の源の形態にあるエネルギーを前庭系に導くことによって、患者の脳を刺激する機構およびコンピュータ化された方法を提供することにある。このエネルギーは、前庭系を通って、最終的には脳に伝達されることになる。生理的パラメータを試験および最適化することによって、外耳道20に係合している要素(30,75)からの出力を管理するコンピュータソフトウエア命令を装置10内に含ませることができる。例えば、本発明をどのようにも制限することなく、コンピュータ化された制御モジュール70は、熱電変換素子30からの熱出力および/または電極85からの電気出力を、その患者の脳化学、血液化学、および概日サイクルに実際に影響を与える大きさおよび時間間隔で管理するようになっている。電気的前庭刺激を利用する実施形態では、異なるパターンまたは波形が用いられてもよい。これらのパターンの例として、均一パルス、ランダムパルス、振幅変調パルス、およびランプパルスが挙げられる。
【0062】
前庭刺激を介して影響される脳の領域の例として、制限されないが、SCN、小脳室頂核、島皮質、およびこれらに隣接する脳の区域が挙げられる。患者の脳の適切な領域を前庭系を介して刺激することによって、コンピュータ化された制御モジュール70および耳挿入体11の関連する要素は、人の脳の適切な領域を前庭系を介して刺激することによって、患者の体内の生化学的な変化および他の生理的変化を誘発するようにプログラム化されてもよい。特に、耳挿入体11は、治療値のセロトニン生成、アスコルビン酸生成、アセチルコリン放出、ヒスタミン放出、および/または熱ショックタンパク質の生成を引き起こすように、プログラム化されてもよい。
【0063】
前庭刺激装置10の別の実施形態が、図16および図17に示されている。本発明をどのようにも制限するものではないこの実施形態では、装置は、前述した耳挿入体11、熱電変換素子30、電極85、およびコンピュータ化された制御モジュール70を備えている。しかし、図16および図17に示されているように、任意の変換素子63または電極64を備えている挿入体11の作用要素(30,70,85)は、装置10における制御を高めるために、調整可能な位置を占めている。挿入体上の作用要素の位置を調整するこの能力によって、該当する人に対して専用となるように刺激を導く融通性を高めることができる。出力の方向および位置のわずかな変更によって、異なる患者に対する適応性を高めることができる。図16および図17に示されているように、装置の一実施形態は、モジュール部分60〜62を備えている。これらのモジュール部分は、互いに適合するようになっており、出力部の配置を種々変更するために分離されるようになっている。また、図16および図17に示されているモジュール構造によれば、取換え可能な耳挿入体を装置の外部分内に収容された単一の制御モジュールと共に用いられるようにすることが可能である。
【0064】
取り換え可能な耳挿入体62は、本発明の範囲内において種々の変更を行うのに有用である。例えば、一人の患者が、わずかな数の作用要素による治療を必要とすることがあり、または多くの数の作用要素による治療を必要とすることがある。ここに述べたように、装置10は、所望の結果を得るのに必要な電極64、変換素子63、または他の作用要素の数を増減する融通性を備えている。また、図16および図17に示されている装置のモジュール特性によって、装置10の一部または要素を全体の装置を交換することなく、取り換えることができる。耳挿入体62の交換は、コンピュータ化された制御モジュールよりも安価に行うことができる。従って、図16および図17は、耳挿入体11の一部かまたは可能であれば前述したスリーブ40のいずれかの上に配置された作用要素が、標準的な電気コネクタを介して、外部分60に取り付けられるようになっている、モジュール式の前庭刺激装置の一実施形態を概略的に示していることになる。
【0065】
前庭刺激装置10は、人が補聴器を着用するのと同じように、単一のユーザによって着用される専用の一片の機器として使用可能である。しかし、別の実施形態では、装置10は、大きな医学システムに内蔵されていてもよい。一実施形態では、コンピュータ化された制御モジュール70は、付加的な機能性をもたらすために、周辺機器に接続されている。好ましい実施形態では、装置10は、生理的パラメータを監視する他の装置を含む大きな治療システムの一部である。ここに記載されている装置に接続される周辺機器の種類は制限されるものではないが、1つの有用な周辺センサとして、ガルバニー皮膚抵抗を測定するものが挙げられる。皮膚抵抗は、患者が受けているある生理的変化およびある感情変化を評価する上で重要な因子である。皮膚抵抗の追跡データが概日サイクル、例えば、温度サイクルの追跡データと組み合わされると、その結果として、患者を治療する広範なより心身一体的なアプローチが得られることになる。また、皮膚抵抗は、概日サイクルに対する変化および位相偏移に関する情報をもたらし、従って、現在施されている前庭刺激の有効性に対するフィードバックチェックとして有用である。従って、一態様では、装置10、特に、コンピュータ化された制御モジュール70は、周辺装置によって収集されたデータ、例えば、ガルバニー皮膚抵抗を処理し、それに沿って装置10の出力を調整することになる。
【0066】
このガルバニー皮膚抵抗モデルとの連携は、本装置が前庭刺激を患者の脳に送達する方法を実行する上で、有益である。一実施形態では、本方法は、(i)熱変換素子30および電極85を着用者の前庭系を刺激する位置において耳挿入体11上に配置することと、(ii)変換素子30および電極85を制御装置38に電子的に接続することと、(iii)制御装置38に患者からのガルバニー皮膚抵抗データおよび温度データを供給することと、を含んでいる。次いで、装置10は、変換素子30および電極85を制御装置38を介して作動させることになる。変換素子は、前庭刺激を患者に送達するのに十分な時間にわたって十分な温度に達するように、外耳道内の熱交換を調整するようになっている。同様に、電極85は、制御装置38内の予め設定された関数に従って、電気的刺激を前庭系にもたらすようになっている。制御装置38、変換素子30、および電極85は、連携して前庭刺激を送達することになる。ここで、前庭刺激は、熱的刺激、電気的刺激、およびそれらの組合せから選択されることになる。本方法は、患者の生理的変化を測定するステップをさらに含んでいる。ここで、生理的変化は、脳化学変化および血液化学変化から成る群から選択されるようになっている。生理的変化を測定するステップは、概日温度サイクルの時間偏移、アスコルビン酸生成、セロトニン生成、ヒスタミン生成、アセチルコリン生成、および熱ショックタンパク質の生成から成る群から選択されるようになっている。
【0067】
本発明の装置10は、前述の種々の要素の組み合わせおよび副次的な組合せを含む多くの実施形態において、前庭刺激を効果的にもたらし、従って、脳組織刺激を導くものである。耳挿入体が(一実施形態では離脱可能および廃棄可能になっている)前述のスリーブ40と併用される場合または併用されない場合のいずれも、この装置の範囲内に完全に含まれている。同様に、装置10は、治療効果をもたらすのに役に立つ他の特徴を含んでいてもよい。例えば、いくつかの治療は、装置の作用要素が特定位置にある場合に最適化されるようになっていてもよいし、他の治療は、患者の頭が特定位置にある場合に最適化されるようになっていてもよい。この場合、本装置は、患者の頭が既知の基準に対して位置付けられている角度を測定する傾斜計を備えていてもよい。好ましい実施形態では、本装置は、患者の頭が位置付けられている現在の角度を患者または医療従事者に示す傾斜メータを含んでいてもよい。当然ながら、傾斜計は、特定の患者の自然な頭の位置に合わせて調整する較正装置を備えている。
【0068】
ここに開示されている装置は、今日知られている補聴器および他の内耳装置において一般的に用いられている標準的な特徴を含んでいる。例えば、前庭刺激がクロックに関連して施されていないことを前提とした場合、本装置は、長い非活動期間中に作動されることになる自動停止モードを含むようになっている。本装置に利用可能な他の有用な特徴の例として、バッテリ作動および外耳に着帯される外部分用のパッドが挙げられる。コンピュータ化された制御モジュール70用のハウジング50は、着用する患者の好みに合わせて、様式化されかつ適当に着色されたモデルとして入手可能になっていてもよい。
【0069】
以上の説明は、本発明の例示にすぎず、本発明を制限すると解釈されてはならない。本発明は、以下の請求項によって定義されており、請求項の等価物は、請求項に含まれるものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱的前庭刺激を患者に送達するための耳内装置において、
(a)前記患者の外耳道内に挿入可能となるように寸法決めされた耳挿入体であって、前記耳挿入体は、内部分を有しており、前記内部分は、少なくとも前記患者の前記外耳道の長さ寸法の大部分を占めるほど大きい長さ寸法を有している、耳挿入体と、
(b)前記耳挿入体の前記内部分上に取り付けられた少なくとも1つの熱電変換素子と、
(c)前記耳挿入体の前記内部分に接続されて前記少なくとも1つの熱電変換素子を覆っているスリーブであって、前記スリーブは、前記耳挿入体の前記内部分に適合して係合するように構成された内面部分と、前記外耳道に適合して係合するように構成された外面部分とをさらに有しており、これによって、熱が前記スリーブを通って前記変換素子と前記外耳道との間に伝達され、前庭刺激を前記患者に送達するようになっている、スリーブと、
を備えていることを特徴とする耳内装置。
【請求項2】
前記スリーブは、前記スリーブが前記変換素子と前記外耳道の特定部分との間の熱伝達率を制御するために、熱伝導率が異なっている部分を備えていることを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記スリーブは、前記外耳道の少なくとも一部にわたって、熱伝達を実質的に均一に分布させていることを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記熱的前庭刺激は、前記外耳道の温度の上昇を含んでいることを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記熱的前庭刺激は、前記外耳道の温度の降下を含んでいることを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記変換素子は、前記前庭系の特定領域に導かれる制御された前庭刺激をもたらすために、前記挿入体上に調整可能な位置を占めていることを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記耳挿入体の前記内部分は、前記患者の前記外耳道に対応する形状を有していることを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記スリーブの前記外面部分は、前記患者の前記外耳道に対応する形状を有していることを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項9】
前記スリーブは、ポリマー、布地、またはそれらの複合物から構成されていることを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項10】
前記スリーブは、ヒドロゲルポリマーから構成されていることを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項11】
前記スリーブは、粘弾性ポリマーから構成されていることを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項12】
前記スリーブは、前記耳挿入体の前記内部分に離脱可能に接続されていることを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項13】
前記耳挿入体は、前記耳挿入体が左の外耳道または右の外耳道のいずれに挿入されるように構成されているかを示すために、前記耳挿入体に関連付けられた識別子を備えていることを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項14】
前記スリーブは、(i)前記スリーブが左の外耳道または右の外耳体のいずれに挿入されるように構成されているかを示すために、または(ii)前記耳挿入体が左の外耳道または右の外耳道のいずれかに挿入されるように構成されているとき、前記スリーブが前記耳挿入体の前記内部分に係合されるように構成されているかどうかを示すために、前記スリーブに関連付けられた識別子を備えていることを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項15】
前記耳挿入体は、外部分を有しており、前記外部分は、患者の前記外耳の少なくとも一部を覆うように構成されていることを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項16】
前記耳挿入体は、前記患者の前記外耳道内に完全に配置されるように構成されていることを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項17】
前記少なくとも1つの熱電変換素子は、前記耳挿入体の前記内部分上に互いに離間して配置された少なくとも2つの個別に制御可能な熱電変換素子を含んでいることを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項18】
前記少なくとも1つの熱電変換素子の各々は、薄膜熱電変換素子であることを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項19】
前記耳挿入体は、前記耳挿入体に操作可能に関連付けられた外部変換素子をさらに備えており、前記外部変換素子は、熱的刺激、電気的刺激、または機械的刺激を前記患者に送達するために、前記患者の乳様突起上または該乳様突起に隣接して配置されるように構成されていることを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項20】
前記耳挿入体は、前記耳の通気を容易にするために、前記耳挿入体内に形成された通路を有しており、前記耳挿入体は、音響刺激を前記患者に送達するために、前記耳挿入体に操作可能に関連付けられた音響変換素子をさらに備えていることを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項21】
熱的前庭刺激を患者に送達するための耳内装置において、
(a)前記患者の外耳道内に挿入可能となるように寸法決めされた耳挿入体であって、前記耳挿入体は、内部分を有しており、前記内部分は、少なくとも前記患者の前記外耳道の長さ寸法の大部分を占めるほど大きい長さ寸法を有している、耳挿入体と、
(b)前記耳挿入体の前記内部分上に互いに離間して取り付けられた少なくとも2つの個別に制御可能な熱電変換素子と、
(c)前記耳挿入体の前記内部分に離脱可能に接続されて前記熱電変換素子の前記少なくとも1つを覆っているスリーブであって、前記スリーブは、弾性材料から構成されており、前記スリーブは、前記耳挿入体の前記内部分に適合して係合するように構成された内面部分と、前記外耳道に適合して係合するように構成された外面部分とを有しており、これによって、熱が前記スリーブを通って前記少なくとも1つの熱電変換素子と前記外耳道との間に伝達され、熱的前庭刺激を前記患者に送達することが可能となっている、スリーブと、
を備えていることを特徴とする耳内装置。
【請求項22】
前記耳挿入体の前記内部分は、前記患者の前記外耳道に対応する形状を有していることを特徴とする、請求項21に記載の装置。
【請求項23】
前記スリーブの前記外面部分は、前記患者の前記外耳道に対応する形状を有していることを特徴とする、請求項21に記載の装置。
【請求項24】
前記スリーブは、ポリマー、布地、またはそれらの複合物から構成されていることを特徴とする、請求項21に記載の装置。
【請求項25】
前記スリーブは、0.1W/m×Kから50W/m×Kの熱伝導率およびショアAスケールで0から50の硬度を有していることを特徴とする、請求項21に記載の装置。
【請求項26】
熱的前庭刺激を患者に伝達させる方法において、
(i)請求項1の装置を患者の外耳道内に配置するステップと、次いで、
(ii)前記少なくとも1つの熱電変換素子を、熱的前庭刺激を前記患者に伝達させるのに十分な時間にわたって十分な温度に達するまで作動させるステップと、
を含んでいることを特徴とする方法。
【請求項27】
前記少なくとも1つの熱電変換素子は、前記耳挿入体の前記内部分上に互いに離間して配置された少なくとも2つの個別に制御可能な熱電変換素子を含んでおり、前記作動ステップは、前記少なくとも2つの個別に制御可能な熱電変換素子を個別にかつ選択的に作動させることを含んでいることを特徴とする、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記少なくとも1つの熱電変換素子は、加熱されるかまたは冷却されるようになっていることを特徴とする、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
耳挿入体に組み合されて、前庭刺激を患者に送達するための耳内装置を組み合わせてもたらすように、用いられるスリーブであって、前記耳挿入体は、患者の外耳道内に挿入可能となるように寸法決めされており、前記挿入体は、外部分および内部分を有しており、前記内部分は、少なくとも前記患者の前記外耳道の長さ寸法の大部分を占めるほど大きい長さ寸法を有しており、少なくとも1つの熱電変換素子が前記耳挿入体の前記内部分上に取り付けられている、スリーブにおいて、
弾性材料から形成された細長の中空スリーブであって、前記スリーブは、前記耳挿入体の前記内部分に適合して係合するように構成された内面部分と、前記外耳道に適合して係合するように構成された外面部分とを備えており、これによって、熱が前記スリーブを通って前記少なくとも1つの熱電変換素子と前記外耳道との間に伝達され、前庭刺激を前記患者に送達することが可能となっている中空スリーブ、
を含んでいることを特徴とするスリーブ。
【請求項30】
前記スリーブは、ポリマー、布地、またはそれらの複合物から構成されていることを特徴とする請求項29に記載のスリーブ。
【請求項31】
前記スリーブは、ヒドロゲルポリマーから構成されていることを特徴とする、請求項29に記載のスリーブ。
【請求項32】
前記スリーブは、粘弾性ポリマーから構成されていることを特徴とする、請求項29に記載のスリーブ。
【請求項33】
熱的前庭刺激を患者に送達するための耳内装置において、
(a)患者の外耳道内に挿入可能となるように寸法決めされた予成形耳挿入体であって、前記挿入体は、内部分を有しており、前記内部分は、少なくとも前記患者の前記外耳道の長さ寸法の大部分を占めるほど大きい長さ寸法を有している、予成形耳挿入体と、
(b)前記耳挿入体の前記内部分上に取り付けられた少なくとも1つの熱電変換素子であって、前記予成形耳挿入体は、前記外耳道に適合して係合するように構成された表面部分を有しており、これによって、熱が前記少なくとも1つの熱電変換素子の各々と前記外耳道との間に伝達され、前庭刺激を前記患者に伝達することが可能となっている、熱電変換素子と、
を備えていることを特徴とする耳内装置。
【請求項34】
前記耳挿入体は、外部分を有しており、前記外部分は、患者の外耳の少なくとも一部を覆うように構成されていることを特徴とする、請求項33に記載の装置。
【請求項35】
前記耳挿入体は、前記患者の前記外耳道内に完全に配置されるように構成されていることを特徴とする、請求項33に記載の装置。
【請求項36】
前記少なくとも1つの熱電変換素子は、前記耳挿入体の前記内部分上に互いに離間して配置された少なくとも2つの個別に制御可能な熱電変換素子を含んでいることを特徴とする、請求項33に記載の装置。
【請求項37】
前記少なくとも1つの熱電変換素子の各々は、薄膜熱電変換素子であることを特徴とする、請求項33に記載の装置。
【請求項38】
前記耳挿入体は、前記耳挿入体に操作可能に関連付けられた外部変換素子をさらに備えており、前記外部変換素子は、熱的刺激、電気的刺激、または機械的刺激を前記患者に送達するために、前記患者の乳様突起上または該乳様突起に隣接して配置されるように構成されていることを特徴とする、請求項33に記載の装置。
【請求項39】
前記耳挿入体は、耳の通気を容易にするために、前記耳挿入体内に形成された通路を画定しており、前記耳挿入体は、音響刺激を前記患者に送達するために、前記耳挿入体に操作可能に関連付けられた音響変換素子をさらに備えていることを特徴とする、請求項33に記載の装置。
【請求項40】
前記耳挿入体は、圧縮性材料から構成されていることを特徴とする、請求項33に記載の装置。
【請求項41】
熱的前庭刺激を患者に伝達させる方法において、
(i)請求項29に記載のスリーブを前記患者の外耳道内に配置するステップと、次いで、
(ii)前記少なくとも1つの熱電変換素子を、熱的前庭刺激を前記患者に伝達するのに十分な時間にわたって十分な温度に達するまで、作動させるステップと、
を含んでいることを特徴とする方法。
【請求項42】
前記少なくとも1つの熱電変換素子は、前記耳挿入体の前記内部分上に互いに離間して配置された少なくとも2つの個別に制御可能な熱電変換素子を含んでおり、前記作動ステップは、前記少なくとも2つの個別に制御可能な熱電変換素子を個別にかつ選択的に作動させることを含んでいることを特徴とする、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記少なくとも1つの熱電変換素子は、加熱されるかまたは冷却されるようになっていることを特徴とする、請求項41に記載の方法。
【請求項44】
患者の耳を通して刺激をもたらすことによって、前記患者の概日温度サイクルを制御するための装置において、
前記患者の外耳道に係合するようになっている耳挿入体と、
前記患者の体内温度の変化を測定する位置において、前記挿入体に取り付けられた温度要素と、
熱的前庭刺激をもたらすために、前記挿入体に取り付けられた熱電変換素子と、
前記挿入体、前記温度要素、および前記変換素子に電子的に連通しているコンピュータ化された制御モジュールであって、前記温度要素からの信号に応じて前記変換素子と前記外耳道との間の熱伝達率を調整するために、前記制御モジュールに記憶されたコンピュータ指令を含んでいる、制御モジュールと、
を備えていることを特徴とする装置。
【請求項45】
電極をさらに備えており、前記電極は、前記電極が電気的前庭刺激をもたらすことを可能にする位置において、前記耳挿入体上に取り付けられていることを特徴とする、請求項44に記載の装置。
【請求項46】
前記熱的刺激は、前記耳挿入体の温度の上昇を含んでいることを特徴とする、請求項44に記載の装置。
【請求項47】
前記熱的刺激は、前記耳挿入体の温度の降下を含んでいることを特徴とする、請求項44に記載の装置。
【請求項48】
前記制御モジュールは、ランプ関数を介して、前庭刺激を前記外耳道に加えるようになっていることを特徴とする、請求項44あるいは45に記載の装置。
【請求項49】
前記装置は、前記コンピュータ化された制御モジュールに電子的に連通しているクロックをさらに備えており、前記コンピュータ化された制御モジュールは、前記クロックおよび前記温度要素からの信号を介して、前記患者の基準概日温度サイクルを追跡するようになっていることを特徴とする、請求項44あるいは45に記載の装置。
【請求項50】
前記装置は、前記クロックの時刻を調整する機構をさらに備えていることを特徴とする、請求項49に記載の装置。
【請求項51】
前記装置は、前記患者の概日温度サイクルに対する時間領域位相の変化を追跡するようになっていることを特徴とする、請求項49に記載の装置。
【請求項52】
前記挿入体は、前記装置が前記患者の脳に刺激をもたらすような位置において、前記外耳道と係合するようになっており、前記刺激は、熱的前庭刺激、電気的前庭刺激、または両方の組合せから成る群から選択されるようになっていることを特徴とする、請求項44,45,49のいずれか一項に記載の装置。
【請求項53】
前記装置は、前記刺激を脳の視床下部の視交叉上核(SCN)領域およびそれに隣接する前記脳の区域にもたらすようになっていることを特徴とする、請求項52に記載の装置。
【請求項54】
前記装置は、前記刺激を脳の小脳室頂核領域およびそれに隣接する前記脳の区域にもたらすようになっていることを特徴とする、請求項52に記載の装置。
【請求項55】
前記装置は、前記刺激を脳の島皮質領域およびそれに隣接する前記脳の区域にもたらすようになっていることを特徴とする、請求項52に記載の装置。
【請求項56】
前記コンピュータ化された制御モジュールは、前記脳内にアセチルコリンの放出を誘発するのに十分な前庭刺激をもたらす一連のプログラム化された命令に従って、制御信号を前記耳挿入体に導くようになっていることを特徴とする、請求項52に記載の装置。
【請求項57】
前記コンピュータ化された制御モジュールは、前記患者の体内にヒスタミンの放出を誘発するのに十分な前庭刺激をもたらす一連のプログラム化された命令に従って、制御信号を前記耳挿入体に導くようになっていることを特徴とする、請求項52に記載の装置。
【請求項58】
前記コンピュータ化された制御モジュールは、前記患者の脳内にセロトニンの放出を誘発させる一連のプログラム化された命令に従って、制御信号を前記耳挿入体に導くようになっていることを特徴とする、請求項52に記載の装置。
【請求項59】
前記コンピュータされた制御モジュールは、前記患者の体内に熱ショックタンパク質の生成を誘発させる一連のプログラム化された命令に従って、制御信号を前記変換素子および前記電極に導くようになっていることを特徴とする、請求項52に記載の装置。
【請求項60】
前記コンピュータされた制御モジュールは、前記患者の体内にアスコルビン酸の生成を誘発させる一連のプログラム化された命令に従って、制御信号を前記変換素子および前記電極に導くようになっていることを特徴とする、請求項52に記載の装置。
【請求項61】
前記刺激は、時間領域において前記患者の基準概日温度サイクルの位相を偏移させるようになっていることを特徴とする、請求項52に記載の装置。
【請求項62】
患者の耳を通して刺激をもたらすことによって、前記患者内の血液化学および/または脳化学を変質させるための装置において、
前記患者の外耳道に係合するようになっている耳挿入体と、
熱的前庭刺激を前記患者にもたらすために前記挿入体に取り付けられた熱電変換素子、および電気的前庭刺激を前記患者にもたらすために前記挿入体に取り付けられた電極であって、前記変換素子および前記電極は、前記患者の血液化学および/または脳化学に好ましい変化を生じさせる制御された前庭刺激をもたらすように、前記挿入体上の調整可能な位置を占めている、熱電変換素子および電極と、
前記挿入体、前記変換素子、および前記電極と電子的に連通しているコンピュータ化された制御モジュールであって、前記制御モジュールからの信号に応じて前記変換素子および前記電極の出力を調整するために、前記制御モジュールに記憶されたコンピュータ指令を含んでいる、制御モジュールと、
を備えていることを特徴とする装置。
【請求項63】
前記熱的刺激は、前記外耳道の温度の上昇を含んでいることを特徴とする、請求項62に記載の装置。
【請求項64】
前記熱的刺激は、前記外耳道の温度の降下を含んでいることを特徴とする、請求項62に記載の装置。
【請求項65】
前記熱的刺激は、ランプ関数を介してもたらされることを特徴とする、請求項62に記載の装置。
【請求項66】
前記電気的刺激は、ランプ関数を介してもたらされることを特徴とする、請求項62に記載の装置。
【請求項67】
前記挿入体は、前記装置が前記患者の脳に刺激をもたらすような位置において、前記外耳道に係合されており、前記刺激は、熱的前庭刺激、電気的前庭刺激、またはそれらの組合せから成る群から選択されるようになっていることを特徴とする、請求項62に記載の装置。
【請求項68】
前記装置は、前記刺激を脳の島皮質領域およびそれに隣接する前記脳の区域にもたらすようになっていることを特徴とする、請求項62に記載の装置。
【請求項69】
前記装置は、前記刺激を脳の視床下部の視交叉上核(SCN)およびそれに隣接する前記脳の区域にもたらすようになっていることを特徴とする、請求項62に記載の装置。
【請求項70】
前記装置は、前記刺激を脳の小脳室頂核領域およびそれに隣接する前記脳の区域にもたらすようになっていることを特徴とする、請求項62に記載の装置。
【請求項71】
前記制御モジュールは、周辺装置からデータを受信し、該データを処理することができるようになっていることを特徴とする、請求項62に記載の装置。
【請求項72】
前記装置は、クロックおよび温度要素をさらに備えており、前記クロックおよび前記温度要素は、いずれも、前記前庭刺激の時間を計るために、および前記患者の概日温度サイクルを追跡するために、前記コンピュータ化された制御モジュールに電子的に連通していることを特徴とする、請求項62に記載の装置。
【請求項73】
前記装置は、前記クロックの時刻を調整する機構をさらに備えていることを特徴とする、請求項72に記載の装置。
【請求項74】
前記刺激は、時間領域において前記患者の基準概日温度サイクルの位相を偏移させるようになっていることを特徴とする、請求項72に記載の装置。
【請求項75】
前記制御モジュールは、ガルバニー皮膚抵抗を測定する周辺機器からデータを受信することができるようになっていることを特徴とする、請求項72に記載の装置。
【請求項76】
前記制御モジュールは、前記変換素子および前記電極の出力を調整するときに前記ガルバニー皮膚抵抗を処理するようになっていることを特徴とする、請求項75に記載の装置。
【請求項77】
前記コンピュータ化された制御モジュールは、前記患者の脳内にセロトニンの生成を誘発させる一連のプログラム化された命令に従って、制御信号を前記変換素子および前記電極に導くようになっていることを特徴とする、請求項62に記載の装置。
【請求項78】
前記コンピュータ化された制御モジュールは、前記患者の体内にアスコルビン酸の生成を誘発させる一連のプログラム化された命令に従って、制御信号を前記変換素子および前記電極に導くようになっていることを特徴とする、請求項62に記載の装置。
【請求項79】
前記コンピュータ化された制御モジュールは、前記患者の体内に熱ショックタンパク質の生成を誘発させる一連のプログラム化された命令に従って、制御信号を前記変換素子および前記電極に導くようになっていることを特徴とする、請求項62に記載の装置。
【請求項80】
前記コンピュータ化された制御モジュールは、前記患者の体内にアセチルコリンの生成を誘発させる一連のプログラム化された命令に従って、制御信号を前記変換素子および前記電極に導くようになっていることを特徴とする、請求項62に記載の装置。
【請求項81】
前記コンピュータ化された制御モジュールは、前記患者の体内にヒスタミンの放出を誘発する一連のプログラム化された命令に従って、制御信号を前記変換素子および前記電極に導くようになっていることを特徴とする、請求項62に記載の装置。
【請求項82】
前記挿入体の少なくとも一部に離脱可能に接続されて該一部を覆っているスリーブをさらに備えており、前記スリーブは、弾性材料から構成されており、前記スリーブは、前記耳挿入体に適合して係合するように構成された内面部分と、前記外耳道に適合して係合するように構成された外面部分とを有しており、これによって、前庭刺激が前記スリーブを通してもたらされることが可能となっていることを特徴とする、請求項62に記載の装置。
【請求項83】
前記スリーブは、前記耳に薬剤を送達する薬剤溶出膜から構成されていることを特徴とする、請求項80に記載の装置。
【請求項84】
前記スリーブは、前記スリーブが前記変換素子と前記外耳道の特定部分との間の熱伝達率を制御するために、熱伝導率が異なっている部分を備えていることを特徴とする、請求項81に記載の装置。
【請求項85】
前記患者の頭が既知の基準から位置付けられている角度を測定する傾斜計をさらに備えていることを特徴とする、請求項44,45,62のいずれか一項に記載の装置。
【請求項86】
前記制御モジュールは、前記患者の体外において着用されるハウジングの内側に配置されていることを特徴とする、請求項44,45,62のいずれか一項に記載の装置。
【請求項87】
前記ハウジングは、前記患者の耳の外部に着用されていることを特徴とする、請求項44,45,62のいずれか一項に記載の装置。
【請求項88】
前記装置が特定期間にわたって使用されていないとき、前記装置への電力を自動的に遮断するための機構をさらに備えていることを特徴とする、請求項1,21,29,33,41,44,62のいずれか一項に記載の装置。
【請求項89】
前庭刺激を患者の脳に送達する方法において、
熱変換素子および電極を、前記患者の前庭系を刺激する位置において、耳挿入体上に配置するステップと、
前記変換素子および前記電極を制御装置に電子的に接続するステップと、
前記制御装置に前記患者からのガルバニー皮膚抵抗データおよび温度データを供給するステップと、
前庭刺激を前記患者に送達するのに十分な時間にわたって十分な温度に達するまで、前記変換素子および前記電極を前記制御装置を介して作動させるステップであって、前記前庭刺激は、熱的刺激、電気的刺激、およびそれらの組合せから成る群から選択されるようになっている、ステップと、
を含んでいることを特徴とする方法。
【請求項90】
前記患者の生理的変化を測定するステップをさらに含んでおり、前記生理的変化は、脳化学変化および血液化学変化から成る群から選択されるようになっていることを特徴とする、請求項89に記載の方法。
【請求項91】
概日温度サイクルの時間偏移、アスコルビン酸生成、セロトニン生成、アセチルコリン生成、ヒスタミン生成、および熱ショックタンパク質の生成から成る群から選択される生理的変化を測定するステップをさらに含んでいることを特徴とする、請求項90に記載の方法。
【請求項92】
治療を必要とする患者の幻肢痛を治療する方法において、
熱変換素子および電極を、前記患者の前庭系を刺激する位置において、耳挿入体上に配置するステップと、
前記変換素子および前記電極を制御装置に電子的に接続するステップと、
前庭刺激を前記患者に送達するのに十分な時間にわたって、前記変換素子および前記電極を前記制御装置を介して作動させるステップであって、前記前庭刺激は、熱的刺激、電気的刺激、およびそれらの組合せから成る群から選択されるようになっている、ステップと、
を含んでいることを特徴とする方法。
【請求項93】
幻肢痛の診断または治療のために、前庭刺激を患者に施すための請求項1,21,44,45のいずれか一項に記載の装置の使用。
【請求項94】
アルツハイマー病の診断または治療のために、前庭刺激を患者に施すための請求項1,21,44,45のいずれか一項に記載の装置の使用。
【請求項95】
幻肢痛の診断または治療のために、前庭刺激を患者に施すための請求項1,21,44,45のいずれか一項に記載の装置の使用。
【請求項96】
糖尿病、肥満、心臓疾患、癲癇、目まい、聴覚過敏症、線維筋痛症、偏頭痛、および閉経から成る群から選択される医学的疾患の診断または治療のために、前庭刺激を患者に施すための請求項1,21,44,45のいずれか一項に記載の装置の使用。
【請求項97】
患者の意識のレベルを診断するために、前庭刺激を患者に施すための請求項1,21,44,45のいずれか一項に記載の装置の使用。
【請求項98】
前庭刺激を患者の脳の視床領域に施すための請求項1,21,44,45のいずれか一項に記載の装置の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公表番号】特表2010−535542(P2010−535542A)
【公表日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−519241(P2010−519241)
【出願日】平成20年8月1日(2008.8.1)
【国際出願番号】PCT/US2008/071935
【国際公開番号】WO2009/020862
【国際公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【出願人】(510025832)サイオン・ニューロスティム,リミテッド・ライアビリティ・カンパニー (1)
【Fターム(参考)】