説明

前癌状態から癌への悪性化の過程で発現量が変化する遺伝子の利用

【課題】癌発生過程において起きる前癌症状である異形性について、その進行を正確に診断し、予後の予測、治療方針の決定に役立つ検査方法を提供する。
【解決手段】口腔扁平上皮癌(OSCC)の前癌症状である白板症状(LP)の組織から得られ、OSCCとLPの間で発現量に明確な差のある、特定の塩基配列を有する33個のマーカー遺伝子およびそれに対するヌクレオチドプローブ、ならびに該遺伝子にコードされるポリペプチドおよびそれに対する抗体を利用して、その発現量を測定する工程を含む検査方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌の病態に伴い発現が変化する遺伝子の発現解析、診断のためのキットなど、その利用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
白板症(Leukoplakias:LP)は口腔癌においてしばしば観察される前癌症状であり、口腔扁平上皮癌(oral squamous cell carcinoma:OSCC)までの癌化の様々な程度を呈する(非特許文献1)。白板症、OSCCのそれぞれに関連する組織学的な特徴が示されてきた(非特許文献2)。異形成(Dysplasias)は組織病理学的知見に基づきmild、moderate、severeに分類され、一般的には、これらの状態は癌発生過程において続いて起きる一連のものであると考えられている。にもかかわらず、病理学的診断とこれらの病変をもつ患者の経過との不一致に時々遭遇する。そこで、病変が悪性化する前と、その後、即ちOSCCの初期における、heterozygosityの減少やmaicrosatellite insabilityのようなclonal genetic changeの検出は癌患者の観察の有効な手法となる可能性が示唆されたが、依然として、OSCCのステージングやグレーディングはその多くの部分を臨床病理学的観察に依存しているのが現状である(非特許文献3)。本発明者らは、口腔癌におけるさまざまな遺伝子イベントの解析をおこない、これまでにケラチン遺伝子ファミリーおよびトランスグルタミナーゼ‐3遺伝子(TG−3)の発現が、口腔癌への進行過程に対応し変化することを見出している(非特許文献4)が、前記のような病理学的診断と患者の経過との不一致を説明するには至っていない。癌はステージやグレードにより治療方針が大きく異なるため、より正確かつ客観的な診断方法が求められている。
【非特許文献1】Lopez MらGene promoter hypermethylation in oral rinses of eukoplakia patients--a diagnostic and/or prognostic tool? Eur J Cancer 2003; 39: 2306-9.
【非特許文献2】Bloor BKらGene expression of differentiation-specific keratins in oral epithelial dysplasia and squamous cell carcinoma. Oral Oncol 2001; 37: 251-61.
【非特許文献3】Forastiere Aら Head and neck cancer. N Engl J Med 2001; 345: 1890-900.
【非特許文献4】Ohkura Sら Differential expression of the keratin-4, -13, -14, -17 and transglutaminase 3 genes during the development of oral sqamous cell carcinoma from leukoplakia. Oral Oncol 2005; 41: 607-13.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、さらに多くの遺伝子について解析し、癌およびその前癌状態において特異的な発現を示す遺伝子を見出し、癌の検査方法、検査薬、治療薬のスクリーニング方法、治療用ベクター、治療方法などへの該遺伝子の利用を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは口腔扁平上皮癌(OSCC)と前癌症状である白板症状(LP)の各検体組織について、cDNAマイクロアレイ分析、定量的RT−PCR分析を用いて遺伝子発現プロファイル分析を実施した。そして、OSCCとLPとの間で発現量に明確な差が見られた33個のマーカー遺伝子について、それらの発現量の差異に基づき、教師なしクラスター解析を行なった。その結果、検体組織をI〜Vの5つのグループに、またマーカー遺伝子をa〜dの4つのクラスターに分類することができた。
【0005】
グループIに分類された殆どのLP組織ではクラスターaおよびクラスターbの遺伝子の発現レベルが高かった。予後の悪いグループIIに分類されるOSCC組織ではクラスターaの遺伝子の発現は高レベルで維持されるが、クラスターbの遺伝子の発現は顕著に減少した。クラスターbの遺伝子の発現は、グループIII、グループIV及びグループVに分類されるOSCC組織では更に減少した。クラスターbの遺伝子の発現減少は前癌状態から悪性化への推移の重要な境界マーカーと考えられた。OSCC組織ではクラスターc及びクラスターdの遺伝子の発現がグループVからグループIIに向うほど減少するが、クラスターaの遺伝子の発現は、逆にグループVからグループIIに向うほど増加する傾向にあった。各グループに分類された患者の予後は、逆にグループVからグループIIに向うほど悪かったことから、クラスターaの遺伝子の高発現レベルとクラスターc及びクラスターdの遺伝子の低発現とをあわせて、OSCC患者の予後の悪さの指標とし、その逆は予後の良さを示す指標とすることができる。
【0006】
グループIIに分類されるOSCC検体は他のグループ分類されるOSCCより悪性化が進行した表現型を示したにもかかわらず、その遺伝子発現プロファイルは、クラスターbの遺伝子を除けば、グループIに分類された前癌状態のLP検体のそれと大変良く類似しており、一方でグループIII、IVおよびVのOSCCの発現プロファイルとは大きな差異を示した。このことはOSCCの発達において異なる系統があることを示唆している。即ち、悪性度の高いグループIIのOSCCはLP組織より直接発達し、悪性度の低いその他のグループのOSCCは未同定の前癌症状から発達することが示唆された。このように、前記33個のマーカー遺伝子の発現プロファイルが口腔癌のより正確な新しい診断の指標として有用であり、さらには、それらが口腔癌や他の癌の癌化過程の更なる解明に重要な情報を提供するものと考えられる。また、癌化の過程で発現量が増加する前記遺伝子の発現調節領域の下流に致死効果をもたらす遺伝子を連結したキメラ遺伝子は、癌細胞中で発現し、該細胞の増殖を抑制すると考えられる。一方、癌化とともに発現量が減少する前記の遺伝子のcDNAを、癌化した細胞中で高発現させた場合、該細胞の増殖が抑制されることを見出し、本発明を完成した。
即ち、本発明は、
〔1〕以下の(1)または(2)に記載の少なくとも1つの遺伝子の発現量の変化を調べる工程を含む、癌の検査方法、
(1)配列番号:1〜33のいずれかに記載の塩基配列を含むDNAをcDNAとする遺伝子
(2)配列番号:1〜33のいずれかに記載の塩基配列からなるDNAにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAをcDNAとする遺伝子
〔2〕前記〔1〕に記載の検査方法であって、遺伝子の発現量の変化を該遺伝子にコードされるポリペプチドの発現量の変化により調べることを特徴とする以下、
(a)被検者からポリペプチド試料を調製する工程、
(b)該ポリペプチド試料に含まれる〔1〕に記載の遺伝子にコードされるポリペプチドの量を測定する工程、
(c)測定されたポリペプチドの量を対照と比較する工程を含む検査方法、
〔3〕前記〔1〕に記載の検査方法であって、遺伝子の発現量の変化を該遺伝子mRNAの発現量の変化により調べることを特徴とする以下、
(a)被検者からRNA試料を調製する工程、
(b)該RNA試料に含まれる〔1〕に記載のポリペプチドをコードするRNAの量を測定する工程、
(c)測定されたRNAの量を対照と比較する工程を含む検査方法、
〔4〕前記〔1〕に記載の検査方法であって、遺伝子の発現量の変化を該遺伝子mRNAが変換されたcDNAの量の変化により調べることを特徴する以下、
(a)被検者からcDNA試料を調製する工程、
(b)該cDNA試料に含まれる〔1〕に記載のポリペプチドをコードするcDNAの量を測定する工程、
(c)測定されたcDNAの量を対照と比較する工程を含む検査方法、
〔5〕前記〔1〕に記載の検査方法であって、以下、
(a)(i)被検者から調製したcRNA試料またはcDNA試料、および
(ii)〔1〕に記載のDNAとハイブリダイズするヌクレオチドプローブが固定された基板、を提供する工程、
(b)工程(a)(i)のcRNA試料またはcDNA試料と工程(a)(ii)の基板を接触させる工程、
(c)該cRNA試料またはcDNA試料と該基板に固定されたヌクレオチドプローブとのハイブリダイズの強度を検出することにより、〔1〕に記載の遺伝子の発現量を測定する工程、
(d)測定された遺伝子の発現量を対照と比較する工程を含む検査方法、
〔6〕前記〔1〕に記載の検査方法であって、以下、
(a)(i)被検者から調製したcRNAまたはcDNA、および
(ii)〔1〕に記載のcDNAの完全長または一部を増幅するヌクレオチドプライマーを提供する工程、
(b)工程(a)(ii)のヌクレオチドプライマーを用いて、工程(a)(i)のcRNAまたはcDNAの完全長または一部を増幅する工程、
(c)増幅された該cRNA試料またはcDNA試料を検出することにより、〔1〕に記載の遺伝子の発現量を測定する工程、
(d)測定された遺伝子の発現量を対照と比較する工程を含む検査方法、
〔7〕前記〔1〕に記載のcDNAにハイブリダイズするプローブを含む、癌の検査薬、
〔8〕前記〔1〕に記載のcDNAの完全長または一部を増幅するプライマー含む、癌の検査薬、
〔9〕前記〔1〕に記載のポリペプチドと結合する抗体を含む、癌の検査薬、
〔10〕被験試料における、抗癌活性の有無を評価する方法であって、
(a)癌細胞に被験試料を接触させる工程、
(b)(i)被験試料を接触させた癌細胞から調製したcRNA試料またはcDNA試料、および
(ii)〔1〕に記載のcDNAとそれぞれハイブリダイズするヌクレオチドプローブが固定された基板、を提供する工程
(c)工程(b)(i)のcRNA試料またはcDNA試料と工程(b)(ii)の基板を接触させる工程
(d)該cRNA試料またはcDNA試料と該基板に固定されたヌクレオチドプローブとのハイブリダイズの強度を検出することにより、該cRNA試料またはcDNA試料に含まれる〔1〕に記載の遺伝子に対応するcRNAまたはcDNAの量を測定する工程を含み、上記測定量が、被験試料を接触させないときに比べ、対照における該ポリヌクレオチドの測定量まで回復している場合に、被験試料が抗癌活性を有すると判定される方法、
〔11〕抗癌活性を有する試料のスクリーニング方法であって、
(a)〔10〕に記載の評価方法により、複数の被験試料における、抗癌活性の有無を評価する工程
(b)複数の被験試料から、抗癌活性を有すると評価された試料を選択する工程を含むスクリーニング方法、
〔12〕前記〔11〕に記載の工程に、さらに抗癌活性を有すると評価された試料と医薬上許容される担体とを混合する工程を含む、抗癌活性を有する医薬組成物の製造方法、
〔13〕癌が口腔癌である、〔1〕から〔12〕のいずれか1つに記載の方法、
〔14〕口腔癌が扁平上皮癌である、前記〔13〕に記載の方法、
〔15〕前記〔1〕に記載のいずれかの遺伝子のプロモーター領域の3’側に細胞障害性タンパク質をコードするDNAが機能的に結合したDNA。
〔16〕前記〔15〕に記載のDNAが挿入されたベクター、
〔17〕遺伝子治療用である、〔16〕に記載のベクター、
〔18〕前記〔16〕または〔17〕に記載のベクターを保持する形質転換細胞、
〔19〕前記〔17〕に記載のベクターを投与する工程を含む、癌の治療方法、
〔20〕前記〔18〕に記載の形質転換細胞を投与する工程を含む、癌の治療方法、
〔21〕癌が口腔癌である、〔19〕または〔20〕のいずれかに記載の治療方法、
〔22〕口腔癌が扁平上皮癌である、〔21〕に記載の治療方法、
〔23〕前記〔1〕に記載のDNAにコードされるポリペプチドを発現するベクターであって、癌細胞において高発現する遺伝子のプロモーター領域の3’側に該ポリペプチドのコーディング領域が機能的に結合したポリヌクレオチドが挿入されたベクター、
〔24〕遺伝子治療用である、〔23〕に記載のベクター、
〔25〕前記〔23〕または〔24〕に記載のベクターを保持する形質転換細胞、
〔26〕前記〔24〕に記載のベクターを投与する工程を含む、癌の治療方法、
〔27〕前記〔25〕に記載の形質転換細胞を投与する工程を含む、癌の治療方法、
〔28〕癌が口腔癌である、〔26〕または〔27〕のいずれかに記載の治療方法、
〔29〕口腔癌が扁平上皮癌である、〔28〕に記載の治療方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によって、癌の検査や治療がより適切になるものと期待される。例えば、本発明者らが見出した遺伝子の発現の検査薬を利用することで、癌の早期検査や予後予測が可能となり適切な治療方法が選択できる。また、該遺伝子の発現調節をおこなうプロモーター領域を利用することで、癌の遺伝子治療が可能になる。該遺伝子のcDNAを含むベクターを利用することで癌の遺伝子治療が可能となる。さらに、該DNAの発現プロファイル を指標として抗癌活性を有する試料のスクリーニングが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は、癌組織および前癌組織において特異的に発現する遺伝子を指標とした癌の検査方法(診断方法)を提供する。特異的に発現する遺伝子のcDNAの一例を配列番号:1〜33として記載する。
【0009】
本発明における癌組織および前癌組織において特異的に発現する遺伝子には、上記遺伝子と機能的に同等な遺伝子が含まれる。ここで「機能的に同等」とは、対象となる遺伝子中のコーディング配列にコードされるポリペプチドが、配列番号:1〜33のいずれかに記載の塩基配列を含むDNA中のコーディング配列にコードされるポリペプチドと同等の生物学的機能、生化学的機能を有することを指す。
【0010】
あるポリペプチドと機能的に同等なポリペプチドをコードするDNAを調製する方法としては、ハイブリダイゼーション技術(Sambrook, J et al., Molecular Cloning 2nd ed., 9.47-9.58, Cold Spring Harbor Lab. Press, 1989)を利用する方法が挙げられる。即ち、当業者においては、配列番号:1〜33のいずれかに記載の塩基配列もしくはその一部を利用して、これと相同性の高いDNAを単離することは、周知の技術である。
【0011】
本発明において、配列番号:1〜33のいずれかに記載の塩基配列を含むDNAをcDNAとする遺伝子と機能的に同等な遺伝子としては、例えば、ヒト、サル、マウス、ラット、モルモット、ブタ、ウシ、ヒツジ、ヤギなど由来の変異体、アレル、バリアント、ホモログ等が挙げられるが、これらに制限されるものではない。
【0012】
配列番号:1〜33のいずれかに記載の塩基配列を含むDNAをcDNAとする遺伝子と機能的に同等な遺伝子を単離するためのハイブリダイゼーションの条件は、当業者であれば適宜選択することができる。ハイブリダイゼーションの条件としては、例えば、低ストリンジェントな条件が挙げられる。低ストリンジェントな条件とは、ハイブリダイゼーション後の洗浄において、例えば42℃、5×SSC、0.1%SDSの条件であり、好ましくは50℃、5×SSC 、0.1%SDSの条件である。より好ましいハイブリダイゼーションの条件としては、高ストリンジェントな条件が挙げられる。高ストリンジェントな条件とは、例えば65℃、0.1×SSC及び0.1%SDSの条件である。これらの条件において、温度を上げる程に高い相同性を有するDNAが効率的に得られることが期待できる。但し、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響する要素としては温度や塩濃度など複数の要素が考えられ、当業者であればこれら要素を適宜選択することで同様のストリンジェンシーを実現することが可能である。
【0013】
また、配列番号:1〜33のいずれかに記載の塩基配列情報を基に合成したプライマーを用いる遺伝子増幅法、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法を利用して、配列番号:1〜33のいずれかに記載のcDNAと機能的に同等なcDNAを単離することも可能である。
【0014】
これらハイブリダイゼーション技術や遺伝子増幅技術により単離される、配列番号:1〜33のいずれかに記載のcDNAと機能的に同等なcDNAは、通常、アミノ酸配列レベルにおいて高い相同性を有する。高い相同性とは、アミノ酸レベルにおいて、通常、少なくとも50%以上の同一性、好ましくは75%以上の同一性、さらに好ましくは85%以上の同一性、さらに好ましくは95%以上の同一性を指す。
【0015】
アミノ酸配列や塩基配列の同一性は、Karlin and AltschulによるアルゴリズムBLAST(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 5873-5877, 1993)によって決定することができる。このアルゴリズムに基づいて、BLASTNやBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている(Altschul et al. J. Mol. Biol. 215: 403-410, 1990)。BLASTに基づいてBLASTNによって塩基配列を解析する場合には、パラメーターはたとえばscore = 100、wordlength = 12とする。また、BLASTに基づいてBLASTXによってアミノ酸配列を解析する場合には、パラメーターはたとえばscore = 50、wordlength = 3とする。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合には、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。これらの解析方法の具体的な手法は公知である(http://www.ncbi.nlm.nih.gov.)。
【0016】
本発明に係る遺伝子または該遺伝子と機能的に同等な遺伝子の発現を指標とすることで癌(好ましくは口腔癌)を検査することが可能である。例えば、配列番号:1〜14のいずれかに記載の塩基配列を含むDNAをcDNAとする遺伝子もしくは該遺伝子と機能的に同等な遺伝子の発現上昇、または、配列番号:15〜33のいずれかに記載の塩基配列を含むDNAをcDNAとする遺伝子もしくは該遺伝子と機能的に同等な遺伝子の発現低下を指標として、癌の判定を行うことが可能である。配列番号:30〜33に記載の塩基配列を含むDNAをcDNAとする遺伝子もしくは該遺伝子と機能的に同等な遺伝子の発現減少は前癌状態から悪性化への推移の境界マーカーとして使用できる。
【0017】
また、配列番号:1または15〜29のいずれかに記載の塩基配列を含むDNAをcDNAとする遺伝子もしくは該遺伝子と機能的に同等な遺伝子の発現および配列番号:2〜14のいずれかに記載の塩基配列を含むDNAをcDNAとする遺伝子もしくは該遺伝子と機能的に同等な遺伝子の発現を指標として癌の予後予測を行うことが可能である。例えば、前者の遺伝子群の高発現および後者の遺伝子群の低発現は予後の悪さの指標とし、またその逆は予後の良さを示す指標とすることができる。
【0018】
本発明における検査方法としては、上記の本発明に係る遺伝子にコードされるポリペプチドの発現量を測定する工程を含む検査方法、または、本発明に係る遺伝子のうち複数の遺伝子または該遺伝子にコードされるポリペプチドの発現量を測定する工程を含む検査方法、が挙げられる。このような検査方法は、癌治療効果のモニタリングにおいてもまた使用することができる。ここで、上記遺伝子の発現量とは、通常、該遺伝子DNAから転写されるmRNAの発現量を意味するが、該mRNAから変換されたcDNAやcRNAの量もまた上記「遺伝子の発現量」に包含される。以下に本発明の検査方法の具体的な態様を記載するが、本発明の検査方法は、それらの方法に限定されるものではない。
【0019】
本発明の遺伝子または該遺伝子にコードされるポリペプチドの発現量を測定する工程を含む検査方法の一つの態様としては、まず、被検者からポリペプチド試料を調製する。本発明において、被検者からのポリペプチド試料としては、例えば、被検者の血液、尿、唾液、生検や手術により採取した組織または細胞から、当業者に周知の方法で調製したポリペプチド試料が挙げられる。
【0020】
本発明の方法においては、次いで、該ポリペプチド試料に含まれる本発明に係るDNAにコードされるポリペプチドの量を測定する。次いで、測定されたポリペプチドの量を対照と比較する。なお、本発明において「対照」は前癌状態および/または正常状態の細胞、組織または個体をさす。
【0021】
このような方法としては、当業者に周知の方法、例えば、酵素結合免疫測定法(ELISA)、二重モノクローナル抗体サンドイッチイムノアッセイ法(米国特許第4,376,110号)、モノクローナルポリクローナル抗体サンドイッチアッセイ法(Wideら、Kirkham及びHunter編集、「ラジオイムノアッセイ法(Radioimmunoassay)」、E. and S. Livingstone、エジンバラ、(1970))、免疫蛍光法、ウェスタンブロッティング法、ドットブロッティング法、免疫沈降法、プロテインチップによる解析法(蛋白質 核酸 酵素 Vol.47 No.5(2002)、蛋白質 核酸 酵素 Vol.47 No.8(2002))、2次元電気泳動法、SDSポリアクリルアミド電気泳動法が挙げられるが、上記検査方法は、これらに限定されない。
【0022】
上記方法のうちELISA法の具体的な態様を以下に述べるが、本発明は、この方法に限定されるものではない。ELISA法においては、対象となる融合タンパク質が、マイクロタイターウェルの表面に吸着される。その後表面上の残余のタンパク質−結合部位が、ウシ血清アルブミン(BSA)、熱失活した正常ヤギ血清(NGS)、又はBLOTTO(保存剤、塩及び消泡剤を含む脂肪非含有乾燥ミルクの緩衝液)などの適当な物質でブロッキングされる。その後ウェルを、特異的抗体を含むことが疑わしい試料と共にインキュベーションする。試料は、希釈せずに適用するか、もしくはより頻繁には通常BSA、NGS、又はBLOTTOのようなタンパク質を少量(0.1〜5.0質量%)含有する緩衝液中に希釈することができる。特異的結合が生じるのに十分な時間インキュベーションした後、ウェルを洗浄し、非結合のタンパク質を除去し、かつ次にレポーター基で標識した抗−種(anti-species)特異的免疫グロブリン抗体と共にインキュベーションする。このレポーター基は様々な酵素から選択することができ、例えばホースラディッシュペルオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、アルカリホスファターゼ、及びグルコースオキシダーゼがある。特異的結合が生じるのに十分な時間経過後、次にウェルを再度洗浄し、非結合の複合体を除去し、かつ該酵素の基質を添加する。色を発色させ、ウェルの内容物の光学密度を、肉眼で又は装置により決定する。
【0023】
本発明においては、上記方法により、例えば、LP検体に比し、OSCC検体および/または中度(moderate-)から重度異形成(severe-dysplasia)検体で有意に高発現している4つの分泌タンパク質、ImmunoGglobulin J polypeptide, linker protein (遺伝子ID:SC43)、Follistatin, transcript variant FST317 (遺伝子ID:SC13)、Parathyroid hormone-like hormone (遺伝子ID:SC27)、Transforming growth Factor, beta-induced, 68kDa (遺伝子ID:SC41)を検出することで、口腔扁平上皮癌の早期検査を行うことができる。
【0024】
検査方法の別の態様としては、まず、被検者からRNA試料を調製する。次いで、該RNA試料に含まれる本発明に係る遺伝子のmRNAの量を測定する。次いで、測定されたmRNAの量を対照と比較する。その他の態様としては、まず、被検者からcDNA試料を調製する。次いで、該cDNA試料に含まれる本発明に係る遺伝子のmRNAに対応するcDNAの量を測定する。次いで、測定されたcDNAの量を対照と比較する。このような方法としては、当業者に周知の方法、例えばノーザンブロッティング法、RT−PCR法等を挙げることができる。より望ましくは定量的RT−PCR法である。定量的RT−PCRに使用するプライマーの一例は、配列番号:34から99に示すプライマーが挙げられるが、機能的に同等な他のプライマーを用いることもできる。被験者からcRNA試料またはcDNA試料を調整する工程、本発明に係るcDNAの完全長または一部を増幅するヌクレオチドプライマーを用いて、該cDNAを増幅する工程、増幅された該cDNA試料を検出する工程により、本発明に係る遺伝子の発現量を測定することができる。
【0025】
検査方法の別の態様としては、まず、被検者から調製したcRNA試料またはcDNA試料、および、本発明に係るDNAとハイブリダイズするヌクレオチドプローブが固定された基板を提供する。次いで、該cRNA試料またはcDNA試料と該基板を接触させる。次いで、該cRNA試料またはcDNA試料と該基板に固定されたヌクレオチドプローブとのハイブリダイズの強度を検出することにより、該cRNA試料またはcDNA試料に含まれる本発明に係るDNAの発現量を測定する。さらに、測定されたDNAの発現量を対照と比較する。このような方法としては、マイクロアレイ法(SNP遺伝子多型の戦略、松原謙一・榊佳之、中山書店、p128−135)が例示できる。
【0026】
被検者からのcRNA試料やcDNA試料の調製は、例えば、被検者の生検から抽出したmRNAを鋳型にして、当業者に周知の方法で行うことができる。例えば被検者の癌罹患部などから、mRNAを単離する。mRNAの単離は、公知の方法、例えば、グアニジン超遠心法(Chirgwin, J. M. et al., Biochemistry (1979) 18, 5294-5299)、AGPC法(Chomczynski, P. and Sacchi, N., Anal. Biochem. (1987) 162, 156-159)等により総RNAを調製し、mRNA Purification Kit (Pharmacia社)等を使用して総RNAからmRNAを精製する。また、QuickPrep mRNA Purification Kit (Pharmacia社)を用いることによりmRNAを直接調製することもできる。得られたmRNAから逆転写酵素を用いてcDNAを合成する。cDNAの合成は、AMV Reverse Transcriptase First-strand cDNA Synthesis Kit (生化学工業社)等を用いて行うこともできる。また、cRNAの合成は、例えば、Luo, Lらの方法(Nat. Med. (1999) 5: 117-122)にしたがって行うことができる。調製したcRNA試料やcDNA試料には、必要に応じて、当業者に周知の方法によって検出のための標識を施すことができる。
【0027】
本発明において「基板」とは、ヌクレオチドを固定することが可能な板状の材料を意味する。本発明においてヌクレオチドには、オリゴヌクレオチドおよびポリヌクレオチドが含まれる。本発明に係る基板は、ヌクレオチドを固定することが可能であれば特に制限はないが、一般にDNAアレイ技術で使用される基板を好適に用いることができる。
【0028】
一般にDNAアレイは、高密度に基板にプリントされた何千ものヌクレオチドで構成されている。通常これらのDNAは非透過性(non-porous)の基板の表層にプリントされる。基板の表層は、一般的にはガラスであるが、透過性(porous)の膜、例えばニトロセルロースメンブレンを使用することができる。
【0029】
本発明において、ヌクレオチドの固定(アレイ)方法として、Affymetrix社開発によるオリゴヌクレオチドを基本としたアレイが例示できる。オリゴヌクレオチドのアレイにおいて、オリゴヌクレオチドは通常インサイチュ(in situ)で合成される。例えば、photolithographicの技術(Affymetrix社)等によるオリゴヌクレオチドのインサイチュ合成法が既に知られており、このような技術を本発明に係る基板の作製に利用することもできる。
【0030】
基板に固定するヌクレオチドプローブは、本発明に係るDNAと特異的にハイブリダイズするものであれば特に制限されない。ここで「特異的にハイブリダイズする」とは、通常のハイブリダイゼーション条件下、好ましくはストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下(例えば、サムブルックら,Molecular Cloning, Cold Spring Harbour Laboratory Press, New York, USA, 第2版1989に記載の条件)において、本発明に係るDNA以外のDNAとクロスハイブリダイゼーションを有意に生じないことを意味する。特異的なハイブリダイズが可能であれば、検出するDNAの塩基配列に対し、完全に相補的である必要はない。
【0031】
また、本発明に係るヌクレオチドには、オリゴヌクレオチドやcDNAなどが含まれる。基板に結合するヌクレオチドプローブの長さは、通常cDNAを固定する場合100〜4000ベースであり、好ましくは200〜4000ベースであり、さらに好ましくは500〜4000ベースである。オリゴヌクレオチドを固定する場合は、通常15〜500ベースであり、好ましくは30〜200ベースであり、さらに好ましくは50〜200ベースである。
【0032】
本発明において、該cRNA試料やcDNA試料と基板に固定されたヌクレオチドプローブとのハイブリダイズの有無または強度を検出する方法としては、例えば、蛍光シグナルをスキャナー等によって読み取ることによって行うことができる。
【0033】
上記の方法においては、本発明に係るDNAの発現量が対照と比較して有意に上昇または減少している場合、被検者は、癌を今後発症する疑いがある(危険性が高い)、もしくは癌に罹患していると判定される。
【0034】
また、本発明に係るDNAうち複数のDNAまたは該DNAにコードされるポリペプチドの発現量を測定する工程を含む検査方法の一つの態様としては、マイクロアレイ法を利用して、本発明に係るDNAのうち複数のDNAの発現プロファイル を解析する方法が挙げられる。まず、被検者から調製したcRNA試料またはcDNA試料、および、本発明に係るDNAのうち複数のDNAとそれぞれハイブリダイズするヌクレオチドプローブが固定された基板を提供する。次いで、該cRNA試料またはcDNA試料と該基板を接触させる。次いで、該cRNA試料またはcDNA試料と該基板に固定されたヌクレオチドプローブとのハイブリダイズの強度を検出することにより、該cRNA試料またはcDNA試料に含まれる本発明に係るDNAのうち複数のDNAの発現量を測定する。さらに、測定された発現量を対照と比較する。
【0035】
基板に固定するヌクレオチドプローブは、本発明のうち複数のDNAと特異的にハイブリダイズすることが可能なヌクレオチドであれば特に制限はない。また、基板に固定するヌクレオチドプローブは、本発明においてその発現を検出したい本発明に係るDNAに応じて、その種類の数が決定される。例えば、本発明に係るDNAとして10個の発現を検出したい場合、10個それぞれのDNAと特異的にハイブリダイズするヌクレオチドプローブを基板に固定する。その際、それぞれのDNAに対応したヌクレオチドプローブは必ずしも1種類に限定される必要はなく、検出したい本発明に係るDNAの任意の領域と相補性を有する複数種のヌクレオチドプローブの混合物であってもよい。
【0036】
本発明はまた、本発明の癌の検査方法に用いるための検査薬を提供する。このような検査薬としては、本発明に係るDNAにコードされるポリペプチドに結合する抗体を含む検査薬が例示できる。
【0037】
上記ポリペプチドに結合する抗体を作成するには、まず、本発明に係るDNAを公知の発現ベクター系に挿入し、該ベクターで宿主細胞を形質転換させ、該宿主細胞内外から本発明に係るDNAにコードされるポリペプチド又はその断片を公知の方法で得て、これらを感作抗原として用いればよい。
【0038】
感作抗原で免疫される哺乳動物としては、特に限定されるものではないが、細胞融合に使用する親細胞との適合性を考慮して選択するのが好ましく、一般的には、げっ歯目、ウサギ目、霊長目の動物が使用される。
【0039】
感作抗原を動物に免疫するには、公知の方法にしたがって行われる。一般的方法としては、感作抗原を哺乳動物の腹腔内又は皮下に注射する。次いで、血清中に所望の抗体レベルが上昇するのを常法により確認する。
【0040】
本発明に係る遺伝子にコードされるポリペプチドに対するポリクローナル抗体を得るには、血清中の所望の抗体レベルが上昇したことを確認した後、抗原を感作した哺乳動物の血液を取り出す。この血液から公知の方法により血清を分離する。ポリクローナル抗体としては、ポリクローナル抗体を含む血清を使用してもよいし、必要に応じこの血清からポリクローナル抗体を含む画分をさらに単離して、これを使用してもよい。例えば、本発明に係る蛋白質をカップリングさせたアフィニティーカラムを用いて、本発明に係るポリペプチドのみを認識する画分を得て、さらにこの画分をプロテインAあるいはプロテインGカラムを利用して精製することにより、免疫グロブリンGあるいはMを調製することができる。
【0041】
モノクローナル抗体を得るには、上記抗原を感作した哺乳動物の血清中に所望の抗体レベルが上昇するのを確認した後に、哺乳動物から免疫細胞を取り出し、細胞融合に付せばよい。この際、細胞融合に使用される好ましい免疫細胞として、特に脾細胞が挙げられる。前記免疫細胞と融合される他方の親細胞としては、好ましくは哺乳動物のミエローマ細胞、より好ましくは、薬剤による融合細胞選別のための特性を獲得したミエローマ細胞が挙げられる。
【0042】
前記免疫細胞とミエローマ細胞の細胞融合は基本的には公知の方法、例えば、ミルステインらの方法(Galfre, G. and Milstein, C., Methods Enzymol. (1981) 73, 3-46)等に準じて行うことができる。
【0043】
細胞融合により得られたハイブリドーマは、通常の選択培養液、例えば、HAT培養液(ヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジンを含む培養液)で培養することにより選択される。当該HAT培養液での培養は、目的とするハイブリドーマ以外の細胞(非融合細胞)が死滅するのに十分な時間、通常、数日〜数週間継続して行う。次いで、通常の限界希釈法を実施し、目的とする抗体を産生するハイブリドーマのスクリーニングおよびクローニングを行う。
【0044】
また、ヒト以外の動物に抗原を免疫して上記ハイブリドーマを得る他に、ヒトリンパ球、例えばEBウィルスに感染したヒトリンパ球をin vitroで蛋白質、蛋白質発現細胞又はその溶解物で感作し、感作リンパ球をヒト由来の永久分裂能を有するミエローマ細胞、例えばU266と融合させ、蛋白質への結合活性を有する所望のヒト抗体を産生するハイブリドーマを得ることもできる(特開昭63−17688号公報)。
【0045】
次いで、得られたハイブリドーマをマウス腹腔内に移植し、同マウスより腹水を回収し、得られたモノクローナル抗体を、例えば、硫安沈殿、プロテインA、プロテインGカラム、DEAEイオン交換クロマトグラフィー、本発明に係るDNAにコードされるポリペプチドをカップリングしたアフィニティーカラムなどにより精製することで調製することが可能である。
【0046】
このように得られたモノクローナル抗体はまた、遺伝子組換え技術を用いて産生させた組換え型抗体として得ることができる(例えば、Borrebaeck, C. A. K. and Larrick, J. W., THERAPEUTIC MONOCLONAL ANTIBODIES, Published in the United Kingdom by MACMILLAN PUBLISHERS LTD, 1990 参照)。組換え型抗体は、それをコードするDNAをハイブリドーマ又は抗体を産生する感作リンパ球等の免疫細胞からクローニングし、適当なベクターに組み込んで、これを宿主に導入し産生させる。
【0047】
さらに、上記抗体は、本発明に係るDNAにコードされるポリペプチドに結合する限り、その抗体断片や抗体修飾物であってよい。例えば、抗体断片としては、Fab、F(ab’)2、Fv又はH鎖とL鎖のFvを適当なリンカーで連結させたシングルチェインFv(scFv)(Huston, J. S. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. (1988) 85, 5879-5883)が挙げられる。具体的には、抗体を酵素、例えば、パパイン、ペプシンで処理し抗体断片を生成させるか、又は、これら抗体断片をコードする遺伝子を構築し、これを発現ベクターに導入した後、適当な宿主細胞で発現させる(例えば、CO, M. S. et al., J. Immunol. (1994) 152, 2968-2976; Better, M. and Horwitz, A. H., Methods Enzymol. (1989) 178, 476-496; Pluckthun, A. and Skerra, A., Methods Enzymol. (1989) 178, 497-515; Lamoyi, E., Methods Enzymol. (1986) 121, 652-663; Rousseaux, J. et al., Methods Enzymol. (1986) 121, 663-669; Bird, R. E. and Walker, B. W., Trends Biotechnol. (1991) 9, 132-137参照)。
【0048】
抗体修飾物として、ポリエチレングリコール(PEG)等の各種分子と結合した抗体を使用することもできる。本発明の「抗体」にはこれらの抗体修飾物も包含される。このような抗体修飾物を得るには、得られた抗体に化学的な修飾を施すことによって得ることができる。これらの方法はこの分野において既に確立されている。
【0049】
また、本発明に係るDNAにコードされるポリペプチドに対する抗体は、公知の技術を使用して非ヒト抗体由来の可変領域とヒト抗体由来の定常領域からなるキメラ抗体又は非ヒト抗体由来のCDR(相補性決定領域)とヒト抗体由来のFR(フレームワーク領域)及び定常領域からなるヒト型化抗体として得ることができる。
【0050】
前記のように得られた抗体は、均一にまで精製することができる。本発明で使用される抗体の分離、精製は、通常の蛋白質の分離、精製方法を適用すればよい。例えば、アフィニティークロマトグラフィー等のクロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、透析、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動等を適宜選択、組み合わせれば、抗体を分離、精製することができる(Antibodies: A Laboratory Manual. Ed Harlow and David Lane, Cold Spring Harbor Laboratory, 1988)が、これらに限定されるものではない。上記で得られた抗体の濃度測定は吸光度の測定又は酵素結合免疫吸着検定法(Enzyme-linked immunosorbent assay; ELISA)等により行うことができる。
【0051】
アフィニティークロマトグラフィーに用いるカラムとしては、プロテインAカラム、プロテインGカラムが挙げられる。例えば、プロテインAを用いたカラムとして、Hyper D、POROS、Sepharose F. F.(Pharmacia)等が挙げられる。
【0052】
アフィニティークロマトグラフィー以外のクロマトグラフィーとしては、例えば、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過、逆相クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー等が挙げられる(Strategies for Protein Purification and Characterization: A Laboratory Course Manual. Ed Daniel R. Marshak et al., Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1996)。これらのクロマトグラフィーはHPLC、FPLC等の液相クロマトグラフィーを用いて行うことができる。
【0053】
このようにして得られた抗体は、上記の検査方法に使用することができるだけでなく、本発明に係るDNAにコードされるポリペプチドを標的としたイメージングを行うことを特徴とする、癌の検査方法にも利用することができる。該方法の1つの態様としては、上記ポリペプチドに結合する抗体を作成する。次いで、該抗体をポジトロン放出同位元素で標識する。次いで、標識が付された抗体を被検者に投与する。次いで、ポジトロン放出断層撮影法で放射能を検出する。次いで、検出された放射能を対照と比較する。特に、微小転移巣の検出、癌の浸潤度の判定は手術適用時に重要な要素であり、特異的な細胞表面マーカーを標的としたイメージングにより実施可能である。このようなイメージング技術は、口腔癌を含めた治療への応答性評価の目的にも利用可能である。
【0054】
また、本発明の検査薬には、本発明に係るDNAにハイブリダイズし、少なくとも15ヌクレオチドの鎖長を有するオリゴヌクレオチドを含む検査薬もまた含まれる。該オリゴヌクレオチドは、本発明に係るDNAに特異的にハイブリダイズするものである。特異的なハイブリダイズが可能であれば、該オリゴヌクレオチドは、本発明に係るDNAに対し、完全に相補的である必要はない。
【0055】
本発明に係るcDNAにハイブリダイズし、少なくとも15ヌクレオチドの鎖長を有するオリゴヌクレオチドを含む検査薬としては、上記本発明の検査方法に使用しうるプローブ(該プローブが固定された基板の形態であってもよい)やプライマーが挙げられる。上記オリゴヌクレオチドをプライマーとして用いる場合、その長さは、通常15bp〜100bpであり、好ましくは17bp〜30bpである。プライマーは、本発明に係るDNAの少なくとも一部を増幅しうるものであれば、特に制限されない。定量的RT−PCRに使用するプライマーの一例は、配列番号34から配列番号99で示されたプライマーであり、これらと同等の機能を有するプライマーも本発明の検査薬のプライマーに含まれる。
【0056】
また、上記オリゴヌクレオチドをプローブとして使用する場合、該プローブは、本発明に係るDNAに特異的にハイブリダイズするものであれば、特に制限されない。該プローブは、合成オリゴヌクレオチドであってもよく、通常少なくとも15bp以上の鎖長を有する。
【0057】
本発明のオリゴヌクレオチドは、例えば市販のオリゴヌクレオチド合成機により作製することができる。プローブは、制限酵素処理等によって取得される二本鎖DNA断片として作製することもできる。
【0058】
本発明のオリゴヌクレオチドをプローブとして用いる場合は、適宜標識して用いることが好ましい。標識する方法としては、T4ポリヌクレオチドキナーゼを用いて、オリゴヌクレオチドの5’端を32Pでリン酸化することにより標識する方法、およびクレノウ酵素等のDNAポリメラーゼを用い、ランダムヘキサマーオリゴヌクレオチド等をプライマーとして32P等のアイソトープ、蛍光色素、またはビオチン等によって標識された基質塩基を取り込ませる方法(ランダムプライム法等)を例示することができる。
【0059】
本発明の検査薬には、有効成分であるオリゴヌクレオチドや抗体以外に、例えば、滅菌水、生理食塩水、植物油、界面活性剤、脂質、溶解補助剤、緩衝剤、タンパク質安定剤(BSAやゼラチンなど)、保存剤等が必要に応じて混合されていてもよい。
【0060】
また、本発明においては、本発明に係るDNAのプロモーター領域の3’側に細胞障害性タンパク質をコードするDNAが機能的に結合したDNAを提供する。このようなDNAは抗癌剤として使用できる有用なDNAである。
【0061】
本発明において、「機能的に結合した」とは、本発明に係るDNAのプロモータ―領域に転写因子が結合することにより、細胞障害性タンパク質をコードするDNAの発現が誘導されるように、本発明に係るDNAのプロモータ―領域と細胞障害性タンパク質をコードするDNAとが結合していることをいう。従って、細胞障害性タンパク質をコードするDNAが他の遺伝子と結合しており、他の遺伝子産物との融合タンパク質を形成する場合であっても、本発明に係るDNAのプロモータ―領域に転写因子が結合することによって、該融合タンパク質の発現が誘導されるものであれば、上記「機能的に結合した」の意に含まれる。
【0062】
本発明における細胞障害性タンパク質としては、ジフテリア毒素、HSV由来チミジンキナーゼなどが例示できるが、これらに限定されず、直接的または間接的に細胞に障害を与え、致死的影響を及ぼすタンパク質であれば、本発明における細胞障害性タンパク質に含まれる。
【0063】
本発明に係るDNAのプロモーター領域は、例えば公開されているゲノム配列データより抽出し、PCRにて対応する領域(例えばmRNAの5’末端より約3kbの領域が挙げられるが、これに限定されない)を増幅することで得ることができる。得られたプロモーター領域の3’側に、当業者に周知の方法で、細胞障害性タンパク質をコードするDNAを連結することにより、本発明に係るDNAのプロモーター領域の3’側に細胞障害性タンパク質をコードするDNAが機能的に結合したDNAを構築することができる。また、構築されたDNAを、適当なベクターに組み込み、大腸菌等の宿主細胞で増幅することが可能である。
【0064】
ヒトを含む動物の生体内において、本発明に係るDNAのプロモーター領域の3’側に細胞障害性タンパク質をコードするDNAが機能的に結合したDNAを発現させる方法としては、該DNAを適当なベクターに組み込み、例えば、レトロウイルス法、不活性化HVJ‐エンベロープ法、カチオニックリポソーム法、アデノウイルス法などにより生体内に導入する方法などが挙げられる。これにより、癌の遺伝子治療を行うことが可能である。用いられるベクターとしては、例えば、アデノウイルスベクター(例えばpAdexlcw)やレトロウイルスベクター(例えばpZIPneo)などが挙げられるが、これらに制限されない。ベクターへの本発明に係るDNAの挿入などの一般的な遺伝子操作は、常法に従って行うことが可能である(Molecular Cloning, 5.61-5.63)。生体内への投与は、ex vivo法であっても、in vivo法であってもよい。
【0065】
本発明は、被験試料における抗癌活性の有無を評価する方法および抗癌活性を有する試料のスクリーニング方法を提供する。被験試料における抗癌活性の有無を評価する方法は、本発明に係るDNAのうち複数のDNAの発現プロファイルを指標とする方法である。このような方法としては、まず、癌細胞に被験試料を接触させる。次いで、被験試料を接触させた癌細胞から調製したcRNA試料またはcDNA試料、および、本発明に係るDNAのうち複数のDNAとそれぞれハイブリダイズするヌクレオチドプローブが固定された基板を提供する。次いで、該cRNA試料またはcDNA試料と該基板を接触させる。次いで、該cRNA試料またはcDNA試料と該基板に固定されたヌクレオチドプローブとのハイブリダイズの強度を検出することにより、該cRNA試料またはcDNA試料に含まれる本発明に係るDNAのうち複数のDNAの発現量を測定する。また、前記の定量的RT−PCRに使用するプライマーを用いた、発現量の測定を行うことも可能である。被験試料を接触させた癌細胞から調製したcRNA試料またはcDNA試料を、本発明に係るDNAの完全長または一部を増幅するヌクレオチドプライマーを用いて、増幅した後、増幅された該cRNA試料またはcDNA試料を検出することにより、それらの遺伝子の発現量を測定することができる。
【0066】
本発明の方法における「被検試料」としては、特に制限はなく、例えば、天然化合物、有機化合物、無機化合物、タンパク質、ペプチド等の単一化合物、並びに、化合物ライブラリー、遺伝子ライブラリーの発現産物、細胞抽出物、細胞培養上清、発酵微生物産生物、海洋生物抽出物、植物抽出物、原核細胞抽出物、真核単細胞抽出物もしくは動物細胞抽出物等を挙げることができる。上記被験試料は必要に応じて適宜標識して用いることができる。標識としては、例えば、放射標識、蛍光標識等を挙げることができる。また、「複数の被験試料」としては、特に制限はなく、例えば、上記被験試料に加えて、これらの被験試料を複数種混合した混合物も含まれる。
【0067】
本発明の方法において癌細胞としては、癌組織における細胞、癌組織から採取した細胞を培養した培養細胞株などが挙げられる。また、本発明の方法における癌細胞としては、ヒトの癌の治療薬を同定することに適している生物由来の癌細胞であれば特に制限されない。このような生物としては、好ましくは哺乳動物(例えば、ラットやマウスなどのヒト疾患のモデル哺乳動物、ヒト癌が移植されたモデル哺乳動物)であり、最も好ましくはヒトである。
【0068】
本発明において「癌細胞に被験試料を接触させる」方法としては、癌細胞に被験試料を直接的に接触させる場合だけでなく、癌細胞に被験試料を間接的に接触させる場合(この場合、例えば被験試料を接種した生物由来の細胞を使用する)の双方を含む意である。
【0069】
癌細胞の被験試料での処理は、例えば、単離細胞であれば、Scherfら(U Scherf, D T Ross, M Waltham, L H Smith, J K Lee, L Tanabe, K W Kohn, W C Reinhold, T G Myers, D T Andrews, D A Scudiero, M B Eisen, E A Sausville, Y Pommier, D Botstein, P O Brown & J N Weinstein, A gene expression database for the molecular pharmacology of cancer. Nat Genet. 2000, 24. 236-244)の文献に記載の方法によって行うことができる。また、生物個体であれば、化合物を経口的または非経口的に投与することにより行うことができる。
【0070】
本発明においては、被験試料を処理した場合の本発明のDNAのうち複数のDNAの発現量が、対照における該DNAの発現量まで回復している(癌細胞特異的な発現プロファイル から癌化していない正常細胞の発現プロファイルまたは前癌状態の細胞の発現プロファイルへ転換している)場合に、被験試料が抗癌活性を有すると判定される。
【0071】
さらに、本発明は、抗癌活性を有する試料を効率的にスクリーニングする方法を提供する。該方法においては、上記評価方法を利用して、複数の被験試料について、抗癌活性の有無を評価し、抗癌活性を有すると評価された試料を選択する。
【0072】
さらに、本発明においては、抗癌活性を有する医薬組成物の製造方法を提供する。該製造方法においては、上記スクリーニング方法によって抗癌活性を有すると評価された試料と医薬上許容される担体とを混合する。該担体としては、例えば界面活性剤、賦形剤、着色料、着香料、保存料、安定剤、緩衝剤、懸濁剤、等張化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤等が挙げられるが、これらに制限されず、その他常用の担体を適宜使用することができる。具体的には、軽質無水ケイ酸、乳糖、結晶セルロース、マンニトール、デンプン、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、中鎖脂肪酸トリグリセライド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、白糖、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等を挙げることができる。
【実施例】
【0073】
以下、本発明を実施例により、さらに具体的に説明するが本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
【0074】
(実施例1)
組織学的分析に使用した臨床検体は、口腔扁平上皮癌の27検体、白板症の19検体(うち過形成が4、軽度異形成が3、中度異形成が7、重度異形成が5検体)、これらの検体は、北海道大学病院歯科において、それぞれの患者から手術的に切除されたものであり(表1)、細分し、間質組織を取り除かれた後、−100℃で保存されていたものを使用した。臨床検体は、北海道大学歯学部歯科病院において、患者のinformed consentおよび倫理委員会の承認のもとで外科的摘除時に採取されたものである。患者の主な組織学的特徴を表1に示した。組織学的特徴の表示において、OSCCは口腔扁平上皮癌、Mild/Mod/S dysは、それぞれ軽度異形成、中度異形成、重度異形成を示す。切除部位では、Tはtongue、Pはpalate、LG/UGはlower gingive/upper gingive、FMはfloor of mouth、Buはbuccal mucosa、Siはsinusを示す。性別ではMは男性、Fは女性を示す。*を付した検体、Mod dys 36−40 及び Mod dys 42−44は、同一病変の異なる部位に由来する3試料の混合物である。#を付した検体、Mod dys 47,48 及び Mod dys 32,33は、同一病変の異なる部位に由来する2試料の混合物である。
【0075】
(実施例2)
RNAの抽出はISOGEN(ニッポンジーン社製)を用い、該製造者の推奨する方法にしたがって行った(Kondoh Nら, Identification and characterization of genes associated with human hepatocellular carcinogenesis. Cancer Res 1999; 59: 4990-6.)。白板症5検体(うち過形成(hyperplasia)が1、軽度異形成形(mild)が1、中度異形成(moderate)が1、重度異形成(sever dysplasia)が2検体)から得た総RNA、OSCC5検体から得た総RNAをそれぞれ混合した。
【0076】
(実施例3)
cDNAマイクロアレイ分析はIntelliGene HS Human expression chip(タカラ社製:16,600プローブ)を用いて行った。手短には、前記実施例2で得られたそれぞれの総RNA混合物について4μgずつのRNAを分取し、オリゴ−dTプライマーが連結されたT7−プロモータを用いた一本鎖cDNAの合成のために使用した。続いて、増幅された(a)−RNA合成を、アミノアリル−UTP(Ambion社製、米国)の存在下で行ったのち、3’Cy3−ヒドロキシスクシンイミド エステル又は3’Cy5−ヒドロキシスクシンイミド エステルにて蛍光標識した。精製後、標識されたa−RNAを合わせて、前記IntelliGene HS Human expression chipに対してはイブリダイズした。一晩、70℃でハイブリダイズしたのち、ScanArray Express microarray reader(Perkin Elmer社製)にて蛍光走査を行い、付属のソフトウェアにより定量した。データの信頼性を確かなものとするため、Student t-testによりP<0.001で、定量値の平均値の差が有意であって、3倍以上の変化が見られた場合に特異的な発現であると見なした。
【0077】
16,600の標的cDNAのうち、4,600のcDNAが検出可能な信号を見せた。そのうち63のcDNAは、OSCC組織からのRNA混合物では、LP組織からのRNA混合物に比し、3倍以上の発現であった。一方、55遺伝子はLP組織からのRNA混合物では、OSCCのそれに比し、3倍以上の発現であった。
【0078】
(実施例4)
定量的RT‐PCR分析をマイクロアレイ分析のバリデーションのために行った。OSCCおよびLPの数検体から得られた総RNAを使用し、前記非特許文献4の方法にしたがって定量的RT‐PCR分析を行った。手短には、Superscript II(Invitrogen社製)を使用して、それぞれ1μgの総RNAを逆転写して、一本鎖cDNAを得た。マイクロアレイ分析において3倍又はそれ以上の差が見られる遺伝子に対して、Primer Express software(Perkin Elmer社製)を用いてPCRのためのプライマー対をデザインした(表2)。表中、本発明に係る遺伝子(遺伝子IDで示す)、該遺伝子のためのプライマーの塩基配列及び配列番号を示した。なお遺伝子IDは後記表3の遺伝子IDに対応している。PCRはSybr Green Mastermix(Applied Biosystems社製)を用いて、95℃、15分間の初期ディネーチャー、それに続いて、95℃、30秒間と60℃、1分間の40サイクルの反応をABI Prism 5700 Sequence Detection System(Applied Biosystems社製)にて行った。それぞれの遺伝子の値は、内部標準であるS5リボゾームタンパクのmRNAの発現レベルに対して標準化した。遺伝子の発現量の差について統計的有意性を評価するために、Student t-test(両側)による検定を行った。
【0079】
RT−PCR分析をOSCCの27検体及びLPの15検体(表1中、検体番号1〜27及び28〜42)を用いて行った結果、前記遺伝子マーカーの候補の中で、33個の遺伝子がOSCCにおいて、30個の遺伝子がLPにおいてそれぞれ有意に(P<0.05)高発現していることが明らかになった。口腔における解剖学的な部位が違うことの影響を最小限にするために、ほとんどのLP組織を舌から切除したものを使用したが、さらに、OSCCの9組織およびLPの12組織(いずれも舌のみから得た)を用いて特異的な発現のレベルを確認した。解剖学的な部位の違いにかかわりなく、32個のマーカー遺伝子の発現は、OSCCとLPの間で有意に(P<0.05)変化していた。また、IGJ(SC43)は、1つの過形成(hyperplasia)検体、全ての軽度異形成(mild dysplasia)の検体、いくつかの中度異形成(moderate dysplasia)の検体において、発現が強く抑制されており、これを加えた、33個のマーカー遺伝子に注目した(表3)。
【0080】
これらのうち14遺伝子は、LP検体に比し、OSCC検体および/または中度(moderate)から重度異形成(severe-dysplasia)検体で有意に高発現した(表中、遺伝子IDにSCと示される)。また、19遺伝子は、OSCC組織に比し、LP組織中で有意に高発現であった(同様にLPと示される)。表3には本発明における遺伝子ID、マーカー遺伝子の名称、Genbank accession number、配列番号に加え、後述の実施例5におけるクラスター解析の結果を示したが、クラスターa〜dは後記図1のクラスターa〜dに対応する。
【0081】
(実施例5)
クラスター解析はDNASIS Proソフトウェア(日立ソフトウェアエンジニアリング社製)を用いて行った。教師なし階層クラスタリング(unsupervised hierarchical clustering)により検体間の関係及び遺伝子間の関係を解析した。
【0082】
OSCC組織とLP組織との分類をするために、33個のマーカー遺伝子の発現に基づき、組織検体の教師なしクラスター解析を行った。LP組織とOSCC組織とを明確な区別を試みた。図1に示すように、クラスタリングアルゴリズムの組合せ、Consine Corr(類似性指標)とCentroid(クラスター統合基準)によって、27個のOSCC組織および15個のLP組織は2つのグループに分けられた。その一方は、更に下位グループI及びIIに分けられ;他のものは下位グループIII、IVおよびVに分けられた。15個のLP組織のうち12個のLP組織は、グループIに分類された。一方、グループIII、グループIVおよびグループVはOSCC組織のみから構成された。グループIIには、9個のOSCC組織及び3個のLP組織の両方が含まれることが注目された。
【0083】
一方、前記14個のマーカー遺伝子と前記19個のマーカー遺伝子の分離では、Bray Curtis(類似性指標)及びMedian(クラスター統合基準)の組合せを用いて行った。それらのマーカー遺伝子は4つの下位クラスターに分けられた。クラスターaは15個のLP遺伝子及び1個のSC遺伝子から構成されるが、それらの発現は前記グループI及びIIの双方で上昇し、前記グループIII及びIVでは顕著に減少し、前記グループVでは強く抑制された。
【0084】
クラスターbの4個のLP遺伝子は、前記グループIのLP組織では高発現し、一方、前記グループII、III、IV及びVのLP組織では発現量が有意に低くなった。これに対して、殆どのクラスターcの遺伝子は前記グループVのOSCC組織では高発現し、そして、その発現は前記グループIV、III、II、Iへ向うに従い減少した。クラスターdの遺伝子は前記グループVの殆どのOSCC組織で過剰発現したが、前記グループIV、III、IIおよびIでは明らかに抑制された。また、遺伝子CXCL10(SC1)はグループIIIの組織において特に過剰に発現した。
【0085】
(実施例6)
OSCC組織において顕著に抑制されていたTG−3(Transglutaminase 3 )のcDNAを発現ベクターに機能的に連結したcDNA発現ベクターをヒトOSCC細胞株であるHSC3に導入し、抗生物質を含む選択培地上でさせた。培養後、生存細胞をギムザ染色しこれらの細胞のコロニー形成を観察した。その結果、対照区(ベクターのみ)に比し、TG−3導入区において、HSC3細胞のコロニー形成が著しく阻害された。
【0086】
(実施例7)
前記クラスタリング・アルゴリズムにより、OSCC検体およびLP検体が5グループに分けられたことより、グループII、III、IVおよびVのOSCCの臨床病理学的所見を比較した。グループVに分類された患者は予後が良いのに対して、グループIIの患者は予後が悪く、グループIIIおよびIVの患者はその中間であると考えられる。
【0087】
表4に示すように、グループIIでは、OSCCの8検体のうち6検体がグレード2に分類され(WHO分類)、少なくとも4検体が高度浸潤性の表現型(4C)であり、このグループの患者の予後は悪かった(12ヶ月の間に62%が再発し、60%が死亡した)。グループIII、IV及びV中の殆どのOSCC検体はより低いグレード、より低い浸潤性の表現型(<グレード3)であり、また12ヶ月以内の再発は16%未満(2名/13名)であった。グループIII(6名)およびグループIV(7名)に分類された多くの患者は喫煙(10/13名)及び/または飲酒(7/13名)の習慣のある男性であった。一方、グループV(5名)に分類されたOSCCの患者は、主に女性であり(4/5名)、飲酒および喫煙の習慣はなく、発癌年齢は、その他の患者のそれ(平均61.9歳)より高齢(77から83歳)であり、12ヶ月以内の再発が見られない患者もグループVには存在した。表4中、組織学的特徴の表示は前記表1と同様に、OSCCは口腔扁平上皮癌、Mild/Mod/S dysは、それぞれ軽度異形成、中度異形成、重度異形成を示す。また、組織学的グレード1から3は、WHO組織学的分類(WHO Histological classification: Pindborg JJら Histological typing of cancer and precancer of the oral mucosa. In: International Histological Classification of tumor series / World Health Organization -2nd ed. New York: Springer; 1997. p. 6-13)に従った。浸潤のモードについてはYamamoto-Kohamaの分類(Yamamoto Eら Mode of invasion, bleomycin sensitivity, and clinical course in squamous cell carcinoma of the oral cavity. Cancer 1983; 51: 2175-80.)に従った。アルコールやタバコの摂取についてはYokoyamaらの方法(Yokoyama AらCancer screening of upper aerodigestive tract in Japanese alcoholics with reference to drinking and smoking habits and aldehyde dehydrogenase-2 genotype. Int J Cancer 1996; 68: 313-6)に従った。1年以内の再発については、Yは治療中、XはOSCCによる死亡を示す。
【0088】
グループIに分類された殆どのLP組織ではクラスターaおよびクラスターbの遺伝子の発現レベルが高かった。グループIIに分類されるOSCC検体は他のグループ分類されるOSCCより悪性化が進行した表現型を示したにもかかわらず、その遺伝子発現プロファイルは、クラスターbの遺伝子を除けば、グループIに分類された前癌状態のLP検体のそれと大変良く類似しており、一方でグループIII、IVおよびVのOSCCの発現プロファイルとは大きな差異を示した。
【0089】
予後の悪いグループIIに分類されるOSCC組織ではクラスターaの遺伝子の発現は高レベルで維持されるが、クラスターbの遺伝子の発現は顕著に減少した。クラスターbの発現は、グループIII、グループIV及びグループVに分類されるOSCC組織では更に減少した。クラスターbの遺伝子の発現減少は前癌状態から悪性化への推移の重要な境界マーカーと考えられる。
【0090】
OSCC組織ではクラスターc及びクラスターdの発現がグループVからグループIIに向うほど減少するが、クラスターaの遺伝子の発現は、逆にグループVからグループIIに向うほど増加する傾向にあった。各グループに分類された患者の予後は、逆にグループVからグループIIに向うほど悪かったことから、クラスターaの遺伝子の高発現とクラスターc及びクラスターdの遺伝子の低発現とをあわせて、OSCC患者の予後の悪さの指標として、また、その逆、クラスターaの遺伝子の低発現とクラスターc及びクラスターdの遺伝子の高発現の組み合わせは、予後の良さを示す指標となると考えられる。
【0091】
(実施例8)
定量的RT‐PCR分析をマイクロアレイ分析のバリデーションのために行った。OSCCおよびLPの数検体から得られた総RNAを使用し、前記非特許文献4の方法にしたがって定量的RT‐PCR分析を行った。手短には、Superscript II(Invitrogen社製)を使用して、それぞれ1μgの総RNAを逆転写して、一本鎖cDNAを得た。マイクロアレイ分析において3倍又はそれ以上の差が見られる遺伝子に対して、Primer Express software(Perkin Elmer社製)を用いてPCRのためのプライマー対をデザインした(表2)。表中、本発明に係る遺伝子(遺伝子IDで示す)、該遺伝子のためのプライマーの塩基配列及び配列番号を示した。なお遺伝子IDは後記表5の遺伝子IDに対応している。PCRはSybr Green Mastermix(Applied Biosystems社製)を用いて、95℃、15分間の初期ディネーチャー、それに続いて、95℃、30秒間と60℃、1分間の40サイクルの反応をABI Prism 5700 Sequence Detection System(Applied Biosystems社製)にて行った。それぞれの遺伝子の値は、内部標準である5SリボゾームタンパクmRNAの発現レベルに対して標準化した。遺伝子の発現量の差について統計的有意性を評価するために、Student t-test(両側)による検定を行った。
【0092】
RT−PCR分析をOSCCの27検体及びLPの19検体(表1中、検体番号1〜27及び28〜46)を用いて行った結果、前記遺伝子マーカーの候補の中で、33遺伝子がOSCCにおいて、30遺伝子がLPにおいてそれぞれ有意に(P<0.06)高発現していることが明らかになった。口腔における解剖学的な部位が違うことの影響を最小限にするために、ほとんどのLP組織を舌から切除したものを使用したが、さらに、OSCCの9組織およびLPの12組織(いずれも舌のみから得た)を用いて特異的な発現のレベルを確認した。
【0093】
その結果、15個のマーカー遺伝子はOSCC組織に比しLP組織で過剰に発現しており(表5中、遺伝子IDにLPと表示される)、一方12個のマーカー遺伝子はOSCC組織及び中程度から重度の異形成のいくつかの組織において発現が上昇していた(表5中、SCと表示される)。解剖学的な部位の違いにかかわりなく、これらのうち24のマーカー遺伝子の発現は、OSCCとLPの間で有意に変化していた。また、IGJ(SC43)の発現は、OSCCとLPの間で有意な違いが見られなかったが(p=0.98)、全ての過形成(hyperplasia)の検体及び全ての軽度異形成(mild dysplasia)の検体では強く抑制されており、該遺伝子の発現量により、異形成(dysplasia)はいくつかのサブグループに分けることが可能であると考えられるため、この遺伝子は注目された。SC1はいくつかのOSCCで有意に発現増加しており、SC1及びSC44はともにMod dys 47,48を除くLPで有意に抑制されており、該2遺伝子も注目された。後記図2はこれらの27個のマーカー遺伝子の発現パターンを示す。
【0094】
(実施例9)
OSCCの27組織とLPの19組織(表1中、検体番号1〜46)との分類をするために、前記実施例8の27個のマーカー遺伝子の発現に基づき、組織検体の教師なしクラスター解析を行った。クラスター解析はDNASIS Proソフトウェア(日立ソフトウェアエンジニアリング社製)を用いて行った。教師なし階層クラスタリング(unsupervised hierarchical clustering)により検体間の関係及び遺伝子間の関係を解析した。
LP組織とOSCC組織とを明確な区別を試みた。図2に示すように、クラスタリングアルゴリズムの組合せ、Pearson correlation(類似性指標)とWard(クラスター統合基準)によって、27のOSCC組織及び19のLP組織は2つのクラスターに分けられた(図2中、I及びII)。
殆どのLP組織は、クラスターIに分類された。クラスターIは更にサブクラスターIa及びIbに分けられた。サブクラスターIaに分類されたものは、比較的よく分化した表現形のLP組織であり、過形成及び軽度の異形成が含まれた。一方、サブクラスターIbはOSCC及び中程度〜重度異形成によって構成されていた。中程度の異形成であるMo dys 33は例外であったが、クラスターIIは事実上OSCCによって構成されていた。前記27個のマーカー遺伝子の発現に基づく階層クラスタリングが口腔異形成から口腔癌への移行とよく一致する分類を提供することが示唆された。
【0095】
(実施例10)
教師付き分類はフィッシャーの線形判別分析(LDAと略称する)によって検査された。一組の独立変数(pij)が与えられると、クラス間(interclass)の距離と各クラス内における変動の合計との比率(式4)が最大になるように、線形判別関数(式1)の荷重ベクトル(w)が決定された。
式1;gij wj pij 線形判別関数(linear discriminant function)
式2;mAi∈A gi/NA 判別関数値クラス平均
式3;σA 2i∈A(gi-mA)2/NA 判別関数値クラス内分散
式4;F= |mA -mB|2 /{σA 2B 2} フィッシャーの比(Fisher's Ratio)
A,B: classes
i=1〜Ni: an index for sample (case)
j=1〜Nj: an index for variable (gene)
逐次増加法または遺伝的アルゴリズムによって、一組の独立変数(一つの"モデル")が選択された。該モデルの安定性は、リーブ・ワン・アウト・クロスバリデーション(leave-one-out cross validation)によって検査された。リーブ・ワン・アウトにおいて各検体は一つ一つ次々にマスクされた。残りの検体(Ni-1検体)からLDAモデルが構築され、そのときマスクされた検体のクラスが、該LDAモデルから予測された。
OSCCとLPの間で区別できるマーカー遺伝子セットを識別するために、フィッシャーの線形判別分析(LDA)を用いて、教師付き分類を行った。27個のマーカーの遺伝子の表現は、OSCC組織の27検体と、過形成と異形成を含むLP組織の19検体との間で分析された(表1)。このアプローチは、逐次増加法及び遺伝的アルゴリズムを用いるパラメータ(すなわち遺伝子)選択を含んでいる。前者の方法では、ヌルモデルからスタートし、最も有効な変数が、それぞれのステップにおいて一つ前の一組の変数、すなわち暫定候補、に加えられた。該モデルのスコアが最高値に達したとき、増加ステップは停止された。フィッシャーの比率をスコアとして用いた場合、11個のパラメーターをもつモデルが、最良のモデルとして選択された。該モデルの安定性はleave-one-out cross validationによって評価され(loo)、逐次増加法又は遺伝的アルゴリズムによるモデルの安定性(fit)と比較された(図3)。11個のマーカー遺伝子により最適の予測が可能であったが、このとき、前記fitが97.8%であり前記looが97.8%であった。図4はそれぞれのマーカー遺伝子の発現及びLDAのスコアを示す。OSCC16及びMo dys 33を除くその他の検体セットは11個のマーカーの遺伝子によって適正に区別された。各検体のLDAのスコアは下記の線形判別関数によって与えられる。
score= -0.231 LP1+0.223 LP4-0.0537 LP28-0.0734 LP21-0.892 LP12-0.0617 LP29-0.282 LP8+0.0122 SC1+0.0669 SC13-0.0684 SC43-0.0366SC5
さらに同じアプローチにより、本発明者らは低いグレード(軽度異形成より低い)と高いグレード(中度異形成より高い)並びにOSCCsとの間で区別することを試みた。図5が示すように、7つの遺伝子が用いられた場合、最適予測が得られた。このとき、fitは97.8%でありlooは95.6%であった。各検体のLDAのスコアは下記の線形判別関数によって与えられる。
score=0.372 LP5-0.495 LP4+0.576 LP19-0.0380 P28+0.246 LP17+0.464 LP27-0.0889 SC43
表5中、Aが付された11個の遺伝子が、白板症と口腔癌を判別する遺伝子(predictor)であり、Bが付された7個の遺伝子が、低いグレード(軽度異形成)と高いグレード(中度異形成)を判別する遺伝子(predictor)である。
【0096】
【表1】

【0097】
【表2】

【0098】
【表3】

【0099】
【表4】

【0100】
【表5】

【0101】
【表6】

【0102】
【表7】

【0103】
【表8】

【0104】
【表9】

【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】本発明に係る33個のマーカー遺伝子の発現に基づく教師なし階層クラスタリングによる検体間及びマーカー遺伝子間の関係の解析。
【図2】本発明に係る27個のマーカー遺伝子の発現に基づく教師なし階層クラスタリングによる検体間及びマーカー遺伝子間の関係の解析。
【図3】本発明に係る27個のマーカー遺伝子の発現に基づく教師付き分類のモデルの安定性とパラメーター数の関係。
【図4】各検体における、口腔癌と白板症とを分ける11個のマーカー遺伝子の発現及びLDAのスコア。
【図5】各検体における、低グレード(軽度異形成より低い)と高グレード(中度異形成より高い)を分ける7個のマーカー遺伝子の発現及びLDAのスコア。
【配列表フリーテキスト】
【0106】
SEQ ID NO: 34, RT-PCR Primer for IGJ
SEQ ID NO: 35, RT-PCR Primer for IGJ
SEQ ID NO: 36, RT-PCR Primer for CXCL10
SEQ ID NO: 37, RT-PCR Primer for CXCL10
SEQ ID NO: 38, RT-PCR Primer for RBP1
SEQ ID NO: 39, RT-PCR Primer for RBP1
SEQ ID NO: 40, RT-PCR Primer for PTPRZ1
SEQ ID NO: 41, RT-PCR Primer for PTPRZ1
SEQ ID NO: 42, RT-PCR Primer for FST317
SEQ ID NO: 43, RT-PCR Primer for FST317
SEQ ID NO: 44, RT-PCR Primer for PTHLH
SEQ ID NO: 45, RT-PCR Primer for PTHLH
SEQ ID NO: 46, RT-PCR Primer for EPSTI1
SEQ ID NO: 47, RT-PCR Primer for EPSTI1
SEQ ID NO: 48, RT-PCR Primer for IFI44
SEQ ID NO: 49, RT-PCR Primer for IFI44
SEQ ID NO: 50, RT-PCR Primer for IFIT3
SEQ ID NO: 51, RT-PCR Primer for IFIT3
SEQ ID NO: 52, RT-PCR Primer for USP18
SEQ ID NO: 53, RT-PCR Primer for USP18
SEQ ID NO: 54, RT-PCR Primer for TGFBI
SEQ ID NO: 55, RT-PCR Primer for TGFBI
SEQ ID NO: 56, RT-PCR Primer for CA2
SEQ ID NO: 57, RT-PCR Primer for CA2
SEQ ID NO: 58, RT-PCR Primer for LAMC2
SEQ ID NO: 59, RT-PCR Primer for LAMC2
SEQ ID NO: 60, RT-PCR Primer for BST2
SEQ ID NO: 61, RT-PCR Primer for BST2
SEQ ID NO: 62, RT-PCR Primer for MGP
SEQ ID NO: 63, RT-PCR Primer for MGP
SEQ ID NO: 64, RT-PCR Primer for DPT
SEQ ID NO: 65, RT-PCR Primer for DPT
SEQ ID NO: 66, RT-PCR Primer for MFAP4
SEQ ID NO: 67, RT-PCR Primer for MFAP4
SEQ ID NO: 68, RT-PCR Primer for PRELP
SEQ ID NO: 69, RT-PCR Primer for PRELP
SEQ ID NO: 70, RT-PCR Primer for FXYD6
SEQ ID NO: 71, RT-PCR Primer for FXYD6
SEQ ID NO: 72, RT-PCR Primer for FXYD1
SEQ ID NO: 73, RT-PCR Primer for FXYD1
SEQ ID NO: 74, RT-PCR Primer for SLIT3
SEQ ID NO: 75, RT-PCR Primer for SLIT3
SEQ ID NO: 76, RT-PCR Primer for CKMT2
SEQ ID NO: 77, RT-PCR Primer for CKMT2
SEQ ID NO: 78, RT-PCR Primer for DPYSL3
SEQ ID NO: 79, RT-PCR Primer for DPYSL3
SEQ ID NO: 80, RT-PCR Primer for NR2F2
SEQ ID NO: 81, RT-PCR Primer for NR2F2
SEQ ID NO: 82, RT-PCR Primer for CRYAB
SEQ ID NO: 83, RT-PCR Primer for CRYAB
SEQ ID NO: 84, RT-PCR Primer for MYOM2
SEQ ID NO: 85, RT-PCR Primer for MYOM2
SEQ ID NO: 86, RT-PCR Primer for FOSB
SEQ ID NO: 87, RT-PCR Primer for FOSB
SEQ ID NO: 88, RT-PCR Primer for CLU
SEQ ID NO: 89, RT-PCR Primer for CLU
SEQ ID NO: 90, RT-PCR Primer for CRIP1
SEQ ID NO: 91, RT-PCR Primer for CRIP1
SEQ ID NO: 92, RT-PCR Primer for KRT1
SEQ ID NO: 93, RT-PCR Primer for KRT1
SEQ ID NO: 94, RT-PCR Primer for KRT13
SEQ ID NO: 95, RT-PCR Primer for KRT13
SEQ ID NO: 96, RT-PCR Primer for TG3
SEQ ID NO: 97, RT-PCR Primer for TG3
SEQ ID NO: 98, RT-PCR Primer for C1orf10
SEQ ID NO: 99, RT-PCR Primer for C1orf10

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(1)または(2)に記載の少なくとも1つの遺伝子の発現量の変化を調べる工程を含む、癌の検査方法。
(1)配列番号:1〜33のいずれかに記載の塩基配列を含むDNAをcDNAとする遺伝子
(2)配列番号:1〜33のいずれかに記載の塩基配列からなるDNAにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAをcDNAとする遺伝子
【請求項2】
請求項1に記載の検査方法であって、遺伝子の発現量の変化を該遺伝子にコードされるポリペプチドの発現量の変化により調べることを特徴とする以下、
(a)被検者からポリペプチド試料を調製する工程、
(b)該ポリペプチド試料に含まれる、請求項1に記載の遺伝子にコードされるポリペプチドの量を測定する工程、
(c)測定されたポリペプチドの量を対照と比較する工程を含む検査方法。
【請求項3】
請求項1に記載の検査方法であって、遺伝子の発現量の変化を該遺伝子mRNAの発現量の変化により調べることを特徴とする以下、
(a)被検者からRNA試料を調製する工程、
(b)該RNA試料に含まれる請求項1に記載の遺伝子のmRNAの量を測定する工程、
(c)測定されたmRNAの量を対照と比較する工程を含む検査方法。
【請求項4】
請求項1に記載の検査方法であって、遺伝子の発現量の変化を該遺伝子mRNAが変換されたcDNAの量の変化により調べることを特徴とする以下、
(a)被検者からcDNA試料を調製する工程、
(b)該cDNA試料に含まれる請求項1に記載の遺伝子のcDNAの量を測定する工程、
(c)測定されたcDNAの量を対照と比較する工程を含む検査方法。
【請求項5】
請求項1に記載の検査方法であって、以下、
(a)(i)被検者から調製したcRNA試料またはcDNA試料、および
(ii)請求項1に記載のDNAとハイブリダイズするヌクレオチドプローブが固定された基板、を提供する工程、
(b)工程(a)(i)のcRNA試料またはcDNA試料と工程(a)(ii)の基板を接触させる工程、
(c)該cRNA試料またはcDNA試料と該基板に固定されたヌクレオチドプローブとのハイブリダイズの強度を検出することにより、請求項1に記載の遺伝子の発現量を測定する工程、
(d)測定された遺伝子の発現量を対照と比較する工程を含む検査方法。
【請求項6】
請求項1に記載の検査方法であって、以下、
(a)(i)被検者から調製したcRNAまたはcDNA、および
(ii)請求項1に記載のDNAの完全長または一部を増幅するヌクレオチドプライマーを提供する工程、
(b)工程(a)(ii)のヌクレオチドプライマーを用いて、工程(a)(i)のcRNAまたはcDNAの完全長または一部を増幅する工程、
(c)増幅された該cRNA試料またはcDNA試料を検出することにより、請求項1に記載の遺伝子の発現量を測定する工程、
(d)測定された遺伝子の発現量を対照と比較する工程を含む検査方法。
【請求項7】
請求項1に記載のDNAにハイブリダイズするヌクレオチドプローブを含む、癌の検査薬。
【請求項8】
請求項1に記載のDNAの完全長または一部を増幅するヌクレオチドプライマー含む、癌の検査薬。
【請求項9】
請求項1に記載の遺伝子にコードされるポリペプチドと結合する抗体を含む、癌の検査薬。
【請求項10】
被験試料における、抗癌活性の有無を評価する方法であって、
(a)癌細胞に被験試料を接触させる工程、
(b)(i)被験試料を接触させた癌細胞から調製したcRNA試料またはcDNA試料、および
(ii)請求項1に記載のDNAとそれぞれハイブリダイズするヌクレオチドプローブが固定された基板、を提供する工程
(c)工程(b)(i)のcRNA試料またはcDNA試料と工程(b)(ii)の基板を接触させる工程
(d)該cRNA試料またはcDNA試料と該基板に固定されたヌクレオチドプローブとのハイブリダイズの強度を検出することにより、該cRNA試料またはcDNA試料に含まれる、請求項1に記載の遺伝子に対応するcRNAまたはcDNAの量を測定する工程
を含み、上記測定量が、被験試料を接触させないときに比べ、対照における該ポリヌクレオチドの測定量まで回復している場合に、被験試料が抗癌活性を有すると判定される方法。
【請求項11】
抗癌活性を有する試料のスクリーニング方法であって、
(a)請求項10に記載の評価方法により、複数の被験試料における、抗癌活性の有無を評価する工程
(b)複数の被験試料から、抗癌活性を有すると評価された試料を選択する工程を含むスクリーニング方法。
【請求項12】
請求項11に記載の工程に、さらに抗癌活性を有すると評価された試料と医薬上許容される担体とを混合する工程を含む、抗癌活性を有する医薬組成物の製造方法。
【請求項13】
癌が口腔癌である、請求項1から12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
口腔癌が扁平上皮癌である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
請求項1に記載のいずれかの遺伝子のプロモーター領域の3’側に細胞障害性タンパク質をコードするDNAが機能的に結合したDNA。
【請求項16】
請求項15に記載のDNAが挿入されたベクター。
【請求項17】
遺伝子治療用である、請求項16に記載のベクター。
【請求項18】
請求項16または17に記載のベクターを保持する形質転換細胞。
【請求項19】
請求項17に記載のベクターを投与する工程を含む、癌の治療方法。
【請求項20】
請求項18に記載の形質転換細胞を投与する工程を含む、癌の治療方法。
【請求項21】
癌が口腔癌である、請求項19または20のいずれかに記載の治療方法。
【請求項22】
口腔癌が扁平上皮癌である、請求項21に記載の治療方法。
【請求項23】
請求項1に記載の遺伝子にコードされるポリペプチドを発現するベクターであって、癌細胞において高発現する遺伝子のプロモーター領域の3’側に該ポリペプチドのコーディング領域が機能的に結合したポリヌクレオチドが挿入されたベクター。
【請求項24】
遺伝子治療用である、請求項23に記載のベクター。
【請求項25】
請求項23または24に記載のベクターを保持する形質転換細胞。
【請求項26】
請求項24に記載のベクターを投与する工程を含む、癌の治療方法。
【請求項27】
請求項25に記載の形質転換細胞を投与する工程を含む、癌の治療方法。
【請求項28】
癌が口腔癌である、請求項26または27のいずれかに記載の治療方法。
【請求項29】
口腔癌が扁平上皮癌である、請求項28に記載の治療方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−259426(P2008−259426A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−40084(P2006−40084)
【出願日】平成18年2月17日(2006.2.17)
【出願人】(000000354)石原産業株式会社 (289)
【Fターム(参考)】