説明

前立腺マッサージ器

【課題】シリコーンと同様な柔軟な表面性状を備え、衛生的で無臭で廉価な前立腺マッサージ器を提案すること。
【解決手段】前立腺マッサージ器1の挿入部2は、ポリカーボネート樹脂製の樹脂成形体5の表面が表面被覆層6で覆われており、表面被覆層6は、2液硬化型アクリル系ポリウレタン樹脂塗料からなる下地層7と、2液硬化型ポリウレタン樹脂塗料からなる仕上げ層8からなる二層構造の塗布層である。仕上げ層8はシリコーンと同様な柔軟で感触の良い表面性状をしている。また、仕上げ層8には抗菌剤および帯電防止剤が添加されているので、塵、埃が付着して汚れることがなく、大腸菌などが繁殖して不衛生な状態になることもなく、無臭であるので患者に不快感を与えることもない。さらに、シリコーン製、ゴム製のものに比べて安価に製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非病原菌性前立腺炎症などの治療のために直腸内に挿入して用いられている前立腺マッサージ器に関する。
【背景技術】
【0002】
非病原菌性前立腺炎症などの治療を行うための器具としては、特許文献1〜4に記載されているように、直腸内に挿入して直腸壁を介して前立腺をマッサージ可能な前立腺マッサージ器が知られている。このような前立腺マッサージ器における直腸内に挿入される挿入部は一般的にプラスチック素材、金属素材から形成されている。特許文献1に開示の前立腺マッサージ器においては、ゴム、プラスチック、軟質金属等の素材で形成され、柔軟性を備えた弾性体が用いられており、特許文献2においては、錆びにくいステンレス鋼、剛性が高く耐久性のあるプラスチックを用いることが記載されており、特許文献4においては、プラスチック、ポリマー、ゴム、エラストマー、シリコーン、金属などを用いて製造できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3023553号公報
【特許文献2】実用新案登録第3123076号公報
【特許文献3】特開2004−181160号公報
【特許文献4】特開2009−207896号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、前立腺マッサージ器における大腸内に挿入される挿入部は、大腸粘膜などを傷つけることの無いように、また患者に対して違和感を与えないように、柔軟で肌に馴染みやすい表面性状の素材から形成することが望ましい。このためには、例えば、挿入部の表面を柔軟なゴムで覆った構成、あるいは、挿入部をシリコーン製とすることが望ましい。しかしながら、ゴム製あるいはシリコーン製のものは、その表面に埃、塵などが付着して汚れやすいので衛生的でなく、油染み(ブリード)が付き易いとう問題がある。また、ゴム、シリコーンには素材自体に独特の臭いがあり、患者に不快感を与えることもある。これらに加えて、ポリカーボネート樹脂などの安価なプラスチック素材に比べて、ゴム、シリコーンは高価であり、製造コストが高くなってしまうという問題点がある。
【0005】
本発明の課題は、このような点に鑑みて、シリコーン等と同様な柔軟な表面性状を備え、衛生的で無臭の廉価な前立腺マッサージ器を提案すること。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明は、前立腺をマッサージするために直腸内に挿入される挿入部を備えた前立腺マッサージ器において、
挿入部は、樹脂製あるいは金属製の挿入部本体部材と、当該挿入部本体部材の表面を被覆している表面被覆層とを備え、
表面被覆層は少なくとも仕上げ層を含み、
当該仕上げ層は、前記挿入部本体部材よりも柔軟であり、少なくとも大腸菌に対する抗菌性能と、帯電防止性能とが備わっていることを特徴としている。
【0007】
ここで、表面被覆層を多層構造としてもよい。例えば、表面被覆層は、少なくとも、仕上げ層、および、当該仕上げ層と前記挿入部本体部材の表面部分との密着性を高めるための下地層を含む層構成とし、仕上げ層を、前記挿入部本体部材よりも柔軟であり、少なくとも大腸菌に対する抗菌性能と、帯電防止性能とが備わった層とすることができる。
【0008】
この場合、前立腺マッサージ器の装飾性などを高めるためには、表面被覆層における下地層をカラー塗料の層とし、仕上げ層を透明あるいは半透明な層とすればよい。あるいは、下地層と仕上げ層の間に装飾層を形成しておいてもよい。例えば、下地層自体に絵柄、ロゴなどの模様を形成しておくことができる。あるいは、下地層の表面に絵柄、ロゴなどをカラー印刷した装飾層を形成しておくことができる。このようにすれば、透明な仕上げ層によって保護されているので色落ちなどが生ずることなく装飾性を維持をできる。
【0009】
また、下地層および仕上げ層は一般的には焼き付け塗装によって形成された塗膜層とすればよい。この代わりに、下地層を焼き付け塗装によって形成された塗膜層とし、仕上げ層を、樹脂フィルムを下地層の表面に真空蒸着することによって形成されたフィルム蒸着層とすることも可能である。
【0010】
次に、挿入部本体部材はポリカーボネート樹脂から製造することができる。この場合には、下地層を2液硬化型アクリル系ポリウレタン樹脂塗料の層とし、仕上げ層を、2液硬化型ポリウレタン樹脂塗料の層に抗菌剤および帯電防止剤が添加されたものとすることが望ましい。
【0011】
また、仕上げ層として用いる2液硬化型ポリウレタン樹脂塗料として、
酢酸イソブチル、
メリルイソブチルケトン
ジイソブチルケトン
二酸化珪素
トルエン、および
酢酸エチル
を主成分として含むものを用いることが望ましい。
【0012】
下地層として用いる2液硬化型アクリル系ポリウレタン樹脂塗料として、
酸化チタン、
トルエン、
キシレン、
エチルベンゼン、および
メチルイソブチルケトン
を主成分として含むものを用いることが望ましい。
【0013】
一方、抗菌剤としては、例えば、酸化銀を含むものを用いることができ、帯電防止剤としては、例えば、イオン伝導性の導電性付与剤を用いることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の前立腺マッサージ器では、その挿入部における表面被覆層、またはその仕上げ層が柔軟な素材から形成され、患者にとって違和感のない感触を与えることができ、治療中に粘膜などを痛めることもない。また、表面被覆層または仕上げ層は抗菌性能および帯電防止性能を備えた多機能層であるので、衛生的であり、表面が汚れにくい。さらに、表面被覆層で覆われ患者の肌等に触れることのない挿入部本体部材は、表面性状を考慮することなく、一般的なプラスチック素材、金属素材などの安価な素材を用いて製造することができるので、ゴム、シリコーンなどを用いる場合に比べて、前立腺マッサージ器の製造コストを下げることができ、患者に不快感を与えることの無いように無臭素材を用いることも容易である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(a)は本発明を適用した前立腺マッサージ器を示す側面図であり、(b)はその拡大部分断面図である。
【図2】図1の前立腺マッサージ器の表面被覆層の塗布作業工程を示す概略工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、図面を参照して本発明を適用した前立腺マッサージ器の実施の形態を説明する。
【0017】
図1を参照して説明すると、本実施の形態に係る前立腺マッサージ器1は、大腸に挿入される先端が丸みを帯びた棒状の挿入部2を備えており、この挿入部2の後端には小径の括れ部3が繋がっており、この括れ部の後端には直交方向に延びる握り部4が繋がっている。この構成の前立腺マッサージ器1は、樹脂成形体5と、この樹脂成形体5の表面の全体を被覆している表面被覆層6から構成されている。樹脂成形体5の代わりに金属製の筒状体を用いることも可能である。
【0018】
本例では、図1(b)に示すように、その挿入部2の表面被覆層6は、ポリカーボネート樹脂からなる樹脂成形体5の表面5aに形成した下地層7と、この下地層7の表面に形成した仕上げ層8からなる2層構造の塗膜層である。括れ部3および握り部4も同様な表面被覆層6とすることもできるが、異なる素材からなる1層あるいは多層の表面被覆層とすることもできる。下地層7は、樹脂成形体5と仕上げ層8の密着性を高めるためのものであり、黄色、肌色などに着色された層である。仕上げ層8は、樹脂成形体5(挿入部本体部材)よりも柔軟な表面性状の透明な層であり、大腸菌(黄色ブドウ球菌)に対する抗菌性能と、所定の帯電防止性能とが備わっている多機能層である。
【0019】
本例の下地層7は2液硬化型アクリル系ポリウレタン樹脂塗料の塗布層であり、仕上げ層8は2液硬化型ポリウレタン樹脂塗料の層に抗菌剤および帯電防止剤が添加された塗布層である。具体的には、下地層7として用いる2液硬化型アクリル系ポリウレタン樹脂塗料は、
酸化チタン、
トルエン、
キシレン、
エチルベンゼン、および
メチルイソブチルケトン
を主成分として含むものである。
【0020】
仕上げ層8として用いる2液硬化型ポリウレタン樹脂塗料は、
酢酸イソブチル、
メリルイソブチルケトン、
ジイソブチルケトン、
二酸化珪素、
トルエン、および
酢酸エチル
を主成分として含むものである。
【0021】
また、先に述べたように、仕上げ層8の塗料には抗菌剤および帯電防止剤が添加されており、抗菌剤としては、例えば、酸化銀を含むものを用いることができ、帯電防止剤としては、イオン伝導性の導電性付与剤を用いることができる。また、仕上げ層8に用いる塗装液としては、例えば、上記構成の塗料、硬化剤、シンナーなどの塗料希釈剤、抗菌剤、帯電防止剤を含むものを用いることができる。
【0022】
ここで、本例では、前立腺マッサージ器1の装飾性などを高めるために、表面被覆層6における下地層7が黄色、肌色などのカラー塗料の層となっており、仕上げ層8は透明な層となっている。この代わりに、下地層7の表面に絵柄、ロゴなどのカラー印刷を施し、その上に仕上げ層8を形成することも可能である。また、本例では、後述のように(図2参照)、下地層7および仕上げ層8は焼き付け塗装によって形成された塗膜層であるが、下地層7を焼き付け塗装によって形成された塗膜層とし、仕上げ層8を、樹脂フィルムを下地層の表面に真空蒸着することによって形成されたフィルム蒸着層とすることも可能である。
【0023】
次に、図2に示す概略工程図を参照して、挿入部2の表面被覆層6の塗布作業手順の一例を説明する。まず、前立腺マッサージ器1の表面塗装前の基材(樹脂成形体5)を乾燥させた後に、その表面に付着している離型剤、油分などをアルコールで拭き取る(ST1:乾燥・脱脂工程)。次に、表面被覆層6を形成する必要のない不要部分、本例では、括れ部3および握り部4の表面のマスキングを行い(ST2:マスキング工程)、しかる後に、基材表面に対してエアーブローを行って基材表面に付着している塵などを除去する(ST3:エアーブロー工程)。
【0024】
このようにして基材の表面の下地処理を行った後に、当該表面に下地層7を形成するための下塗りを行う(ST4:下塗り工程)。例えば、手塗りにより2液硬化型アクリル系ポリウレタン樹脂塗料を塗布する。塗布後に塗膜を加熱乾燥することにより下地層7が形成される(ST5:乾燥工程)。
【0025】
次に、下地層7の表面に対してエアーブローを行って当該表面に付着している塵などを除去し(ST6:エアーブロー工程)、しかる後に、下地層7の表面に仕上げ層8を形成するための上塗りを行う(ST7:上塗り工程)。例えば、手塗りにより、抗菌剤および帯電防止剤が添加されている2液硬化型ポリウレタン樹脂塗料を塗布する。塗布後に塗膜を加熱乾燥することにより仕上げ層8が形成される(ST8:乾燥工程)。
【0026】
このようにして得られた前立腺マッサージ器1の挿入部2では、ポリウレタン樹脂からなる仕上げ層8がポリカーボネート樹脂製の挿入部本体部材(樹脂成形体5)に比べて柔軟であり肌に対する感触が改善されており、シリコーン製の挿入部と同様な感触が得られることが確認された。また、抗菌活性値(JISZ2801抗菌性試験方法)が2.2以上、大腸菌に対しては5.1以上であり、十分な抗菌性が付与されており衛生的であることが確認された。さらに、電気抵抗値(IEC法)の平均値が2.43×10−10Ωであり、塵、埃などの異物が付着しにくく衛生的であることが確認された。これに加えて、前立腺マッサージ器1はシリコーン製などのものとは異なり無臭であるので、患者に不快感を与えることがないことも確認された。
【0027】
(その他の実施の形態)
上記の例では、表面被覆層として、下地層および仕上げ層の二層構造のものを採用している。この代わりに、上記の仕上げ層のみからなる表面被覆層を用いることもできる。この場合には、挿入部本体部材(樹脂成形体5)の表面にロゴ、絵柄などを直接に印刷しておけばよい。また、表面被覆層として、下地層、中間層および仕上げ層の三層構造のものを採用し、中間層をロゴ、絵柄等が形成された装飾層とすることもできる。
【符号の説明】
【0028】
1 前立腺マッサージ器
2 挿入部
3 括れ部
4 握り部
5 樹脂成形体(挿入部本体部材)
6 表面被覆層
7 下地層
8 仕上げ層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前立腺をマッサージするために直腸内に挿入される挿入部を備えた前立腺マッサージ器において、
前記挿入部は、樹脂製あるいは金属製の挿入部本体部材と、当該挿入部本体部材の表面を被覆している表面被覆層とを備え、
前記表面被覆層は、少なくとも仕上げ層を含み、
当該仕上げ層は、前記挿入部本体部材よりも柔軟であり、少なくとも大腸菌に対する抗菌性能と、帯電防止性能とが備わっていることを特徴とする前立腺マッサージ器。
【請求項2】
請求項1において、
前記仕上げ層は焼き付け塗装によって形成された塗膜層であることを特徴とする前立腺マッサージ器。
【請求項3】
請求項1において、
前記仕上げ層は、樹脂フィルムを前記挿入部本体部材の表面に真空蒸着することによって形成されたフィルム蒸着層であることを特徴とする前立腺マッサージ器。
【請求項4】
請求項1ないし3のうちのいずれかの項において、
前記挿入部本体部材はポリカーボネート樹脂からなる樹脂成形品であり、
前記仕上げ層は、2液硬化型ポリウレタン樹脂塗料の層に抗菌剤および帯電防止剤が添加されたものであることを特徴とする前立腺マッサージ器。
【請求項5】
請求項4において、
前記仕上げ層の2液硬化型ポリウレタン樹脂塗料は、
酢酸イソブチル、
メリルイソブチルケトン、
ジイソブチルケトン、
二酸化珪素、
トルエン、および
酢酸エチル
を含むことを特徴とする前立腺マッサージ器。
【請求項6】
請求項1において、
前記表面被覆層は、少なくとも、前記仕上げ層および、当該仕上げ層と前記胴部の表面部分との密着性を高めるための下地層を含んでいることを特徴とする前立腺マッサージ器。
【請求項7】
請求項6において、
前記下地層はカラー塗料の層であり、
前記仕上げ層は透明あるいは半透明な層であることを特徴とする前立腺マッサージ器。
【請求項8】
請求項6または7において、
前記下地層と前記仕上げ層の間に装飾層が形成されていることを特徴とする前立腺マッサージ器。
【請求項9】
請求項6ないし8のうちのいずれかの項において、
前記下地層および前記仕上げ層は焼き付け塗装によって形成された塗膜層であることを特徴とする前立腺マッサージ器。
【請求項10】
請求項6ないし9のうちのいずれかの項において、
前記下地層は焼き付け塗装によって形成された塗膜層であり、
前記仕上げ層は、樹脂フィルムを前記下地層の表面に真空蒸着することによって形成されたフィルム蒸着層であることを特徴とする前立腺マッサージ器。
【請求項11】
請求項6ないし10のうちのいずれかの項において、
前記挿入部本体部材はポリカーボネート樹脂からなる樹脂成形品であり、
前記下地層は2液硬化型アクリル系ポリウレタン樹脂塗料の層であり、
前記仕上げ層は、2液硬化型ポリウレタン樹脂塗料の層に抗菌剤および帯電防止剤が添加されたものであることを特徴とする前立腺マッサージ器。
【請求項12】
請求項11において、
前記仕上げ層の2液硬化型ポリウレタン樹脂塗料は、
酢酸イソブチル、
メリルイソブチルケトン、
ジイソブチルケトン、
二酸化珪素、
トルエン、および
酢酸エチル
を含むことを特徴とする前立腺マッサージ器。
【請求項13】
請求項12において、
前記下地層の2液硬化型アクリル系ポリウレタン樹脂塗料は、
酸化チタン、
トルエン、
キシレン、
エチルベンゼン、および
メチルイソブチルケトン
を含むことを特徴とする前立腺マッサージ器。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−223253(P2012−223253A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−91494(P2011−91494)
【出願日】平成23年4月15日(2011.4.15)
【出願人】(500154928)有限会社 光漢堂 (2)
【Fターム(参考)】