説明

前立腺癌に関連する遺伝子およびポリペプチド

本願は、前立腺癌において発現が著しく上昇している新規ヒト遺伝子ELOVL7を提供する。該遺伝子および該遺伝子がコードするポリペプチドは、例えば前立腺癌の診断において、該疾患に対する薬剤開発のための、および前立腺癌の細胞増殖を減衰させるための標的分子として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、生物科学の分野、より詳細には、癌の治療および診断に関する。特に、本発明は新規遺伝子ELOVL7がコードする新規ポリペプチド、およびELOVL7と前立腺癌(PRC)との関係に関する。さらに、本発明はELOVL7遺伝子に関する。本発明の遺伝子およびポリペプチドは、例えば、疾患に対する薬剤の開発、およびPRCの細胞増殖を減衰させるための分子標的として、PRCの診断に使用することができる。
【0002】
本出願は、2005年7月27日に提出された米国特許仮出願第60/703,107号の恩典を主張し、その内容はその全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0003】
背景技術
PRCは、男性の最も一般的な悪性腫瘍であって、アメリカ合衆国およびヨーロッパにおいて第二位の癌関連死亡原因となっており(Gronberg H. Lancet 2003; 361:859-64)、おそらく西洋式の食事の普及および高齢人口の急増によってほとんどの先進国においてPRCの罹患率が著しく増加している(Gronberg H. Lancet 2003; 361:859-64、Hsing AW, Devesa SS. Epidemiol Rev 2001; 23:3-13)。外科的および放射線治療は限局性疾患に対しては効果的であるが、治療したPRC患者の30%近くにはなお疾患再発が生じる(Feldman BJ, Feldman D. Nat Rev Cancer 2001; 1:34-45、Han M, et. al., J Urol 2001; 166:416-9、Isaacs W, et. al.,Cancer Cell 2002; 2:113-6)。比較的初期段階では、PRCは通常アンドロゲン依存性であるため、再発もしくは進行疾患を有する患者の大部分はアンドロゲン除去療法に好ましい反応を示す。しかし、しばしばアンドロゲン非依存性の表現型を獲得し、アンドロゲン除去療法に不応答性もしくは非常に低応答性となる。現在、進行性または再発性のアンドロゲン非依存性PRCに有効な抗癌剤もしくは治療法はない。このため、前立腺腫瘍形成もしくはホルモン不応答の分子メカニズムに基づく新規治療法の開発が強く熱望されている。
【0004】
本発明者らは以前、LMM(Laser Microbeam Microdissection)によって臨床癌組織より純化したPRC細胞を用いた網羅的ゲノムcDNAマイクロアレイ解析を行い、正常前立腺上皮細胞と比較して、PRC細胞および/またはその前駆体であるPINで明らかに発現レベルが増大している多数の遺伝子を同定した(Ashida S, et al., Cancer Res 2004; 64:5963-72)。本明細書において、転写活性化された遺伝子の中で、長鎖脂肪酸合成に重要な役割を果たすと考えられる新規遺伝子であるELOVL7(Genebank登録番号NM_024930、配列番号:15をコードする配列番号:14)の性質を報告する。ELOVL(elongation of very long chain fatty acids)ファミリーは酵母ELOのヒト相同体であり、長鎖脂肪酸の伸長反応を触媒する(Leonard AE, et. al., Prog Lipid Res 2004; 43: 36-54、Wang Y, et. al., J Lipid Res 2005; 46: 706-15)。二つの炭素ユニットを脂肪酸鎖のカルボキシル末端へ付加する伸長系は、4つの酵素:縮合酵素(エロンガーゼ(elongase)、β-ケトアシルCoA合成酵素)、β-ケトアシルCoA還元酵素、β-ヒドロキシアシルCoA脱水素酵素、およびtrans-2,3-エノイル-CoA還元酵素(Leonard AE, et. al., Prog Lipid Res 2004; 43: 36-54)からなり、脂肪酸伸長速度はエロンガーゼの活性によって決定される(Wang Y, et. al., J Lipid Res 2005; 46: 706-15)。これまで6個の異なる脂肪酸エロンガーゼサブタイプ(ELOVL1-6)が哺乳類で報告されており、これら複数の伸長酵素はそれぞれ異なる鎖長の飽和または不飽和脂肪酸に対して特異的に働くと考えられている(Leonard AE, et. al., Prog Lipid Res 2004; 43: 36-54、Wang Y, et. al., J Lipid Res 2005; 46: 706-15、Suneja SK, et. al., Biochim Biophys Acta. 1990; 1042: 81-5)。長鎖脂肪酸の代謝経路は、膜脂質組成物の維持およびエイコサノイドのような特定の細胞シグナル分子の前駆体の産生に重要な役割を果たす(Leonard AE, et. al., Prog Lipid Res 2004; 43: 36-54、Wang Y, et. al., J Lipid Res 2005; 46: 706-15)。したがって、これらの代謝経路は癌細胞に必須の活性を含むと考えられる。
【0005】
cDNAマイクロアレイ技術により、正常および悪性細胞における遺伝子発現の網羅的なプロファイルが提供され、悪性細胞と、対応する正常細胞における遺伝子発現を比較することができる(Okabe et al., Cancer Res 61:2129-37 (2001)、Kitahara et al., Cancer Res 61: 3544-9 (2001)、Lin et al., Oncogene 21:4120-8 (2002)、Hasegawa et al., Cancer Res 62:7012-7 (2002))。この手法は、癌細胞の複雑な性質についての理解を可能とし、腫瘍形成のメカニズムの理解を助ける。腫瘍において発現制御されていない遺伝子の同定により、より詳細で正確な個々の癌の診断につながり、かつ新規治療標的の開発を可能とする(Bienz and Clevers, Cell 103:311-20 (2000))。網羅的ゲノムの観点から腫瘍の根底にあるメカニズムを明らかにし、診断用標的分子の発見および新規治療標的の開発のために、本発明者らは23,040遺伝子のcDNAマイクロアレイを用いて腫瘍細胞の発現プロファイルを分析した(Okabe et al., Cancer Res 61:2129-37 (2001)、Kitahara et al., Cancer Res 61:3544-9 (2001)、Lin et al., Oncogene 21:4120-8 (2002)、Hasegawa et al., Cancer Res 62:7012-7 (2002))。
【0006】
腫瘍形成のメカニズムを解明するための研究により、抗腫瘍薬の分子標的の同定が既に進行している。例えば、活性が翻訳後のファルネシル化に依存するRasに関連する増殖-シグナル伝達経路を阻害するために当初開発されたファルネシルトランスフェラーゼインヒビター(FTI)は、動物モデルにおいてRas依存的腫瘍を治療するために有効である(Sun J, et.al., Oncogene 16: 1467-73 (1998))。組み合わせまたは抗癌剤および抗HER-2モノクローナル抗体であるトラスツズマブを用いたヒトに対する臨床試験により、癌原遺伝子受容体であるHER2/neuに拮抗し、乳癌患者の臨床応答および全体的な生存率を改善することが明らかとなった(Molina MA, et.al., Cancer Res 61:4744-4749 (2001))。bcr-abl融合タンパク質を選択的に不活化するチロシンキナーゼインヒビターであるSTI-571は、bcr-ablチロシンキナーゼの恒常的活性化が白血球の形質転換において重要な役割を果たしている慢性骨髄性白血病を治療するために開発されている。これらの種類の薬剤は、特定の遺伝子産物の発癌活性を抑制するように設計されている(O'Dwyer ME and Druker BJ, Curr Opin Oncol 12:594-7(2000))。したがって、癌性細胞において共通に上方制御されている遺伝子産物は、新規抗癌剤を開発するための有力な標的となりうる。実際に、癌の増殖および進行の原因となる効果を有する、異常な発現をしている分子を標的とした新規薬剤は、ある種の癌に効果的であることが証明されている。そのような薬剤には乳癌に対するハーセプチン、CMLに対するグリベック(STI571)、および非小細胞肺癌に対するイレッサ(ZD1839)のような薬剤が含まれる。
【0007】
いくつかの分子は、PRCにおいて過剰発現していることが知られており、治療標的またはPRCのマーカーとして同定された(Xu et al., Cancer Res 60: 6568-72 (2000); Luo et al., Cancer Res 62: 2220-6 (2002))。しかし、これらのほとんどが、他の主要臓器においても高発現している。このため、このような分子を標的とした薬剤はおそらく癌細胞に毒性であるが、他の臓器の正常に増殖している細胞にも悪影響を及ぼしてしまう。
【0008】
CD8+細胞障害性Tリンパ球(CTL)は、MHCクラスI分子上に提示された腫瘍関連抗原(TAA)に由来するエピトープペプチドを認識して、腫瘍細胞を溶解することが証明されている。TAAの最初の例としてMAGEファミリーが発見されて以来、免疫学的手法を用いて他にも多くのTAAが発見されている(Boon, Int J Cancer 54: 177-80 (1993)、Boon and van der Bruggen, J Exp Med 183: 725-9 (1996)、van der Bruggen et al., Science 254: 1643-7 (1991)、Brichard et al., J Exp Med 178: 489-95 (1993)、Kawakami et al., J Exp Med 180: 347-52 (1994))。発見されたTAAのいくつかは、現在、免疫療法の標的として臨床開発段階にある。これまで発見されたTAAには、MAGE(van der Bruggen et al., Science 254: 1643-7 (1991))、gp100(Kawakami et al., J Exp Med 180: 347-52 (1994))、SART(Shichijo et al., J Exp Med 187: 277-88 (1998))およびNY-ESO-1(Chen et al., Proc Natl Acad Sci USA 94: 1914-8 (1997))が含まれる。一方、腫瘍細胞において特に過剰発現されることが示されている遺伝子産物は、細胞性免疫応答を誘導する標的として認識されることが示されている。そのような遺伝子産物には、p53(Umano et al., Brit J Cancer 84: 1052-7 (2001))、HER2/neu(Tanaka et al., Brit J Cancer 84: 94-9 (2001))、CEA(Nukaya et al., Int J Cancer 80: 92-7 (1999))等が含まれる。
【0009】
TAAに関する基礎および臨床研究における著しい進歩にもかかわらず(Rosenberg et al., Nature Med 4: 321-7 (1998)、Mukherji et al., Proc Natl Acad Sci USA 92: 8078-82 (1995)、Hu et al., Cancer Res 56: 2479-83 (1996))、結腸直腸癌を含む腺癌の治療に現在利用できる物は、ごく限られた数の候補TAAに過ぎない。癌細胞において多量に発現されると共にその発現が癌細胞に限定されるTAAは、免疫療法の標的として有望な候補となるであろう。さらに、強力で特異的な抗腫瘍免疫応答を誘導する新規TAAが同定されれば、様々なタイプの癌におけるペプチドワクチン療法の臨床利用が促進されると期待される(Boon and van der Bruggen, J Exp Med 183: 725-9 (1996)、van der Bruggen et al., Science 254: 1643-7 (1991)、Brichard et al., J Exp Med 178: 489-95 (1993)、Kawakami et al.,J Exp Med 180: 347-52 (1994)、Shichijo et al., J Exp Med 187: 277-88 (1998)、Chen et al., Proc Natl Acad Sci USA 94: 1914-8 (1997)、Harris, J Natl Cancer Inst 88: 1442-55 (1996)、Butterfield et al., Cancer Res 59: 3134-42 (1999)、Vissers et al., Cancer Res 59: 5554-9 (1999)、van der Burg et al., J Immunol 156: 3308-14 (1996)、Tanaka et al., Cancer Res 57: 4465-8 (1997)、Fujie et al., Int J Cancer 80: 169-72 (1999)、Kikuchi et al., Int J Cancer 81: 459-66 (1999)、Oiso et al., Int J Cancer 81: 387-94 (1999))。
【0010】
特定の健康なドナー由来のペプチド刺激された末梢血単核細胞(PBMC)は、ペプチドに応答して有意なレベルのIFN-αまたはγを産生するが、51Cr-放出アッセイにおいてHLA-A24または-A0201限定的に腫瘍細胞に対して細胞障害性を発揮することがまれであることは繰り返し報告されている(Kawano et al., Cancer Res 60: 3550-8 (2000)、Nishizaka et al., Cancer Res 60: 4830-7 (2000)、Tamura et al., Jpn J Cancer Res 92: 762-7 (2001))。しかし、HLA-A24およびHLA-A0201はいずれも、白人の個体群のみならず、日本人において共通のHLA対立遺伝子の一つである(Date et al., Tissue Antigens 47: 93-101 (1996)、Kondo et al., J Immunol 155: 4307-12 (1995)、Kubo et al., J Immunol 152: 3913-24 (1994)、Imanishi et al., Proceeding of the eleventh International Histocompatibility Workshop and Conference Oxford University Press, Oxford, 1065 (1992)、Williams et al., Tissue Antigen 49: 129 (1997))。このように、これらのHLAによって提示される癌の抗原性ペプチドは、日本人および白人の個体群における癌の治療において特に有用となる可能性がある。さらに、インビトロでの低親和性CTLの誘導は、通常、高濃度のペプチドの使用によって抗原提示細胞(APCs)上に高レベルの特異的なペプチド/MHC複合体が生成されることによって起こり、これよりCTLが効果的に活性化することが知られている(Alexander-Miller et al., Proc Natl Acad Sci USA 93: 4102-7 (1996))。
【発明の開示】
【0011】
発明の概要
PRCのメカニズムを明らかにし、これらの腫瘍の治療のための新規診断マーカーおよび/または薬剤標的を同定するため、本発明者らはレーザーマイクロビームマイクロダイセクションと組み合わせた網羅的ゲノムcDNAマイクロアレイを用いてPRCにおける遺伝子発現プロファイルを解析した。以前の研究において、PRC細胞(PRC)および非浸潤性前駆細胞(PIN)の正確な発現プロファイルは、レーザーマイクロダイセクションと併用した網羅的ゲノムcDNAマイクロアレイにより行われた。浸潤性PRCと正常前立腺上皮細胞、または非浸潤性前駆体であるPINとの発現プロファイル比較により、本発明者らは、浸潤性PRCおよび前駆体PINの両方で上方制御された88個の遺伝子および下方制御された207個の遺伝子を見出した。本発明において、PRC細胞で過剰発現している新規遺伝子ELOVL7に注目した。
【0012】
抗ELOVL7ポリクローナル抗体を用いた免疫組織化学解析により、長鎖脂肪酸伸長を含むと考えられる281アミノ酸タンパク質であるELOVL7が、正常前立腺上皮細胞と比較してPRC細胞において発現上昇することが確認された。
【0013】
脂肪酸エロンガーゼの新規メンバーであるELOVL7がPRC細胞において特異的に過剰発現する遺伝子として同定された。本発明者らは、siRNAによるELOVL7の発現阻害により劇的にPRC細胞増殖が減少することを示し、このことはELOVL7の発現がPRC細胞の細胞増殖または生存に必須であることを示している。いくつかの疫学的または実験的研究は、関連する長鎖脂肪酸代謝が前立腺腫瘍形成およびPRC進行に何らかの重要な役割を果たすであろうことを示唆した。インビボでの脂肪酸解析、およびインビトロでの脂肪酸伸長分析によって、ELOVL7が脂肪酸エロンガーゼとしての実際の活性を有し、好ましくは、食肉に豊富に含まれる飽和長鎖脂肪酸(SLFA)の伸長に関与することを検証した。これらの知見は、恐らくELOVL7が長鎖脂肪酸およびそれらの誘導体の代謝を通してPRC細胞の増殖および生存に関与していること、この分子がPRCの新規治療法の開発または予防法の有用な標的であることを示唆している。
【0014】
ELOVL7は281アミノ酸のタンパク質をコードする。ノーザンブロット解析により、ELOVL7の発現が前立腺、腎臓、および他のいくつかの組織に限局することが示された。
【0015】
本発明はこの遺伝子がコードするポリペプチドのみならず、その作製法および使用法を提供する。より詳細には、本発明はPRC細胞で発現が上昇している新規ヒトポリペプチドELOVL7またはその機能同等物を提供する。
【0016】
より好ましい態様として、ELOVL7ポリペプチドは、配列番号:14のオープンリーディングフレームによってコードされる281アミノ酸のタンパク質を含む。好ましくは、ELOVL7ポリペプチドは配列番号:15に示されるアミノ酸配列を含む(Genebank登録番号NM_024930、配列番号:15をコードする配列番号:14)。本願はまた、ELOVL7ポリヌクレオチド配列の少なくとも一部分、または配列番号:14に示される配列と少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%一致するポリヌクレオチド配列がコードする単離されたタンパク質を提供する。
【0017】
本発明はさらに、対応する非癌性前立腺上皮細胞と比較してPRCの大部分において著しく発現が上昇している新規ヒト遺伝子であるELOVL7を提供する。単離したELOVL7遺伝子は配列番号:14に記載されるポリヌクレオチド配列を含む。特に、ELOVL7のcDNAは846ヌクレオチドのオープンリーディングフレーム(配列番号:14)を含む3815ヌクレオチドを含む。本発明はELOVL7タンパク質もしくはその機能的同等物をコードする範囲内で、配列番号:14に示されるポリヌクレオチド配列にハイブリダイズし、かつ配列番号:14のポリヌクレオチド配列と少なくとも15%、より好ましくは25%相補的なポリヌクレオチドをさらに含む。そのようなポリヌクレオチドの例として、配列番号:14の配列によってコードされるELOVL7の縮退および対立遺伝子変異体がある。
【0018】
本明細書で使用される場合、単離された遺伝子とは、ポリヌクレオチドであって、その構造が任意の天然に存在するポリヌクレオチドの構造に対して、または3つを超える別々の遺伝子にまたがる天然に存在するゲノムポリヌクレオチドの任意の断片の構造に対して同一でないポリヌクレオチドである。従って、この用語は、例えば、以下のものを含む。(a)天然に存在する生物体のゲノムにおいて、天然に存在するゲノムDNA分子の一部の配列を有するDNA;(b)生じる分子が任意の天然に存在するベクターまたはゲノムDNAとは同一でないように、ベクターまたは原核生物もしくは真核生物のゲノムDNAに組み込まれているポリヌクレオチド;(c)cDNA、ゲノム断片、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって生成された断片、または制限断片のような別々の分子;および(d)ハイブリッド遺伝子、すなわち、融合ポリペプチドをコードする遺伝子の一部である組換えヌクレオチド配列。
【0019】
従って、一つの局面において、本発明は本明細書に記載されるポリペプチドまたはその断片をコードする単離されたポリヌクレオチドを提供する。好ましくは、単離されたポリヌクレオチドは配列番号:14に示されたヌクレオチド配列と少なくとも60%同一なヌクレオチド配列を含む。より好ましくは、単離された核酸分子が、配列番号:14に示されたヌクレオチド配列と少なくとも 65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上同一である。参照配列、例えば、配列番号:14と同等またはそれ以上の長さである単離されたポリヌクレオチドの場合、参照配列の全長と比較される。単離されたポリヌクレオチドが参照配列より短い、例えば、配列番号:14より短い場合、同一長の参照配列のセグメント(相同性計算によって要求される任意のループは除く)と比較される。
【0020】
本発明はまた、トランスフェクトによりタンパク質を作製する方法、もしくはELOVL7タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列によって宿主細胞を形質転換する方法、およびそのポリヌクレオチドを発現させる方法を提供する。さらに、本発明は、ELOVL7タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含むベクター、およびELOVL7タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む宿主細胞を提供する。そのようなベクターおよび宿主細胞を、ELOVL7タンパク質の生成のために使用してもよい。
【0021】
ELOVL7タンパク質を特異的に認識する結合剤はまた、本願によって提供される。例えば、結合剤にはELOVL7タンパク質に対する抗体であってもよい。または、結合剤は、タンパク質またはタンパク質に特異的に結合する合成ポリペプチドに特異的なリガンドであってもよい(例えばWO2004044011を参照されたい)。ELOVL7遺伝子のアンチセンスポリヌクレオチド(例えばアンチセンスDNA)、リボザイム、およびsiRNA(低分子干渉RNA)もまた提供される。
【0022】
さらに、本発明は、対象由来の生体試料における遺伝子の発現レベルを決定する段階、正常試料のELOVL7遺伝子の発現レベルと比較する段階、および試料中のELOVL7の高発現レベルが、対象がPRCを有するか、または発症のリスクを有することを示す段階を含むPRCの診断方法を提供する。
【0023】
さらに、本発明によって、PRCを治療または予防するための化合物のスクリーニング方法も提供される。その方法は、ELOVL7ポリペプチドを被験化合物と接触させること、および、ELOVL7へ結合する、またはELOVL7の生物学的活性を変化させる被験化合物を選択することを含む。いくつかの態様において、スクリーニング方法はELOVL7の脂肪酸伸長活性を検出することによって行いうる。これらの態様において、脂肪酸伸長活性は、本明細書に記載のインビトロでの脂肪酸伸長分析を用いて決定することができる。
【0024】
本発明は、ELOVL7ポリペプチドを発現する細胞、またはレポーター遺伝子の上流にELOVL7の転写制御領域を含むベクターを導入した細胞と、被験化合物を接触させる段階、およびELOVL7ポリペプチドの発現レベルを抑制する被験化合物を選択する段階を含む、PRCを治療または予防するための化合物をスクリーニングする方法を提供する。
【0025】
本願はまた、PRCを治療または予防するための薬学的組成物を提供する。薬学的組成物は、例えば、抗癌剤であってもよい。薬学的組成物は、それぞれ配列番号:14に示され記載されるELOVL7ポリヌクレオチド配列に対するアンチセンスS-オリゴヌクレオチド、siRNA分子、またはリボザイムの少なくとも一部を含みうる。適切なsiRNAは配列番号:7の配列を標的とする。このため、本発明のsiRNAは配列番号:7からなるヌクレオチド配列を含む。好ましくは、これは、本発明によるPRCの治療または予防のための標的として選択される。本発明の薬学的組成物は、PRCのような細胞増殖性疾患の治療または予防のための、本発明の化合物のスクリーニング方法によって選択された化合物を含みうる。
【0026】
薬学的組成物の作用機序はPRCのような癌性細胞の増殖を阻害することが望まれる。薬学的組成物をヒトおよび家畜用哺乳動物を含む哺乳動物へ適用してもよい。
【0027】
本発明は、さらに、本発明によって提供される薬学的組成物を用いたPRCの治療または予防の方法を提供する。
【0028】
さらに、本発明は、ELOVL7ポリペプチドを投与する段階を含む、癌を治療または予防するための方法を提供する。抗腫瘍免疫はELOVL7ポリペプチドの投与によって誘導されると予想される。このため、本発明はまた、ELOVL7ポリペプチド、ならびにELOVL7ポリペプチドを含む癌を治療または予防するための薬学的組成物を投与する段階を含む、抗腫瘍免疫を誘導する方法を提供する。
【0029】
以上の発明の概要および以下の詳細な説明は好ましい態様であって、本発明、または本発明の他の態様を制限するものではないと理解されるべきである。
【0030】
発明の詳細な説明
本明細書で用いる場合、「1つの(a)、(an)」および「その(the)」という単語は、特記しない限り、「少なくとも1つの」を意味する。
【0031】
PRCのメカニズムを開示し、これらの腫瘍の治療および/または予防のための新規診断マーカーおよび/または薬剤標的を同定するために、本発明者らは、レーザーマイクロビームマイクロダイセクションと併用した網羅的ゲノムcDNAマイクロアレイを用いてPRCにおける遺伝子発現プロファイルを解析した。結果として、PRCに特異的に過剰発現するELOVL7が同定された。さらに、低分子干渉RNA(siRNA)を用いたELOVL7遺伝子の発現抑制により、癌性細胞の増殖が有意に抑制された。これらの所見は、ELOVL7が癌細胞に発癌活性を与えること、およびこれらのタンパク質の活性の阻害がPRCのような増殖性疾患の治療および予防のための有望な方法となりうることを示唆する。
【0032】
ELOVL7
本願は、正常前立腺上皮細胞と比較して、PRC細胞で著しく発現が上昇している新規ヒト遺伝子であるELOVL7を同定する。ELOVL7のcDNAは、配列番号:14に示される、846ヌクレオチドのオープンリーディングフレームを含む3815ヌクレオチドからなる。オープンリーディングフレームは推定281アミノ酸のタンパク質をコードする。
【0033】
このため、本発明は、ELOVL7タンパク質をコードする範囲内において、配列番号:15のアミノ酸配列およびその機能的同等物を含むポリペプチドを含む遺伝子によってコードされる、実質的に純粋なポリペプチドを提供する。配列番号:15の機能的に同等なポリペプチドとして、ヒトELOVL7タンパク質に対応する他の生物の相同タンパク質、およびヒトELOVL7タンパク質の変異体が含まれる。
【0034】
本発明において、「機能的に同等な」という用語は、対象ポリペプチドが、ELOVL7タンパク質のように脂肪酸伸長活性を有するまたは細胞増殖を促進する活性を有し、ならびに癌細胞に発癌活性を付与する活性を有することを意味する。対象ポリペプチドが細胞増殖活性を有するか否かは、対象ポリペプチドをコードするDNAをそれぞれのポリペプチドを発現する細胞に導入し、細胞増殖の促進またはコロニー形成活性の上昇を検出することによって判定することができる。このような細胞には、例えばNIH3T3、COS7、およびHEK293が含まれる。
【0035】
機能的に同等なポリペプチドを検出する有用な手段として、ポリペプチドの脂肪酸伸長活性を測定することがある。このため、例えば、変異体ポリペプチド(例えば、配列番号:15と少なくとも約80%の同一性を有するポリペプチド、または配列番号:14にストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチド)は脂肪酸伸長活性を決定するために試験される。脂肪酸伸長活性を検出する方法は以下に開示する。典型的には、方法は分析を行うのに適切な試薬を被験ポリペプチドと接触させることを含む。そのような試薬は、例えば、脂肪酸基質(例えば、アラキドイルCoA)、マロニルCoA、NADPH、および伸長産物を検出するための試薬を含む。方法はさらに、脂肪酸基質の脂肪酸伸長のレベルを検出すること、および脂肪酸伸長レベルを脂肪酸伸長活性と関連づけることによって、脂肪酸伸長活性を評価することを含む。
【0036】
所定のタンパク質と機能的に同等なポリペプチドを作製するための方法は当業者に周知であり、これにはタンパク質に変異を導入する既知の方法が含まれる。例えば、当業者は、ヒトELOVL7タンパク質と機能的に同等なポリペプチドを、これらのタンパク質のアミノ酸配列に部位特異的突然変異誘発法によって適切な変異を導入することによって作製することができる(Hashimoto-Gotoh et al., Gene 152:271-5 (1995)、Zoller and Smith, Methods Enzymol 100: 468-500 (1983)、Kramer et al., Nucleic Acids Res. 12:9441-9456 (1984)、Kramer and Fritz, Methods Enzymol 154: 350-67 (1987)、Kunkel, Proc Natl Acad Sci USA 82: 488-92 (1985)、Kunkel, Methods Enzymol 85: 2763-6 (1988))。アミノ酸変異は自然下でも起こりうる。生じた変異ポリペプチドがヒトELOVL7タンパク質と機能的に同等であるという条件で、1つまたは複数のアミノ酸が変異したヒトELOVL7タンパク質のアミノ酸配列を有するタンパク質が本発明のポリペプチドに含まれる。このような変異体において変異させるアミノ酸の数は一般に10アミノ酸またはそれ未満、好ましくは6アミノ酸またはそれ未満、より好ましくは3アミノ酸またはそれ未満である。
【0037】
ある特定のアミノ酸配列の1つまたは複数のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/もしくは付加によって改変されたアミノ酸配列を有するタンパク質である変異タンパク質、または改変タンパク質は、元の生物学的活性を保持することが知られている(Mark et al., Proc Natl Acad Sci USA 81: 5662-6 (1984)、Zoller and Smith, Nucleic Acids Res 10:6487-500 (1982)、Dalbadie-McFarland et al., Proc Natl Acad Sci USA 79: 6409-13 (1982))。
【0038】
変異させるアミノ酸残基は、アミノ酸側鎖の特性が保存される別のアミノ酸に変異させることが好ましい(保存的アミノ酸置換として知られる方法)。アミノ酸側鎖の特性の例には、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、および、以下の官能基または特徴を共通して有する側鎖がある:脂肪族側鎖(G、A、V、L、I、P);水酸基含有側鎖(S、T、Y);硫黄原子含有側鎖(C、M);カルボン酸およびアミド含有側鎖(D、N、E、Q);塩基含有側鎖(R、K、H);および芳香族含有側鎖(H、F、Y、W)。括弧内の文字はアミノ酸の一文字略号を示すことに注意されたい。
【0039】
ヒトELOVL7タンパク質のアミノ酸配列に1つまたは複数のアミノ酸残基が付加されたポリペプチドの一例は、ヒトELOVL7タンパク質を含む融合タンパク質である。融合タンパク質とは、ヒトELOVL7タンパク質と他のペプチドまたはタンパク質との融合物のことであり、これは本発明に含まれる。融合タンパク質は、本発明のヒトELOVL7タンパク質をコードするDNAを、他のペプチドまたはタンパク質をコードするDNAとフレームが合致するように連結し、この融合DNAを発現ベクターに挿入して、それを宿主において発現させるといった当業者に周知の技法によって作製しうる。本発明のタンパク質と融合させるペプチドまたはタンパク質には制限はない。
【0040】
本発明のタンパク質と融合させるペプチドとして用いうる既知のペプチドには、例えば、FLAG(Hopp et al., Biotechnology 6: 1204-10 (1988))、6個のHis(ヒスチジン)残基を含む6×His、10×His、インフルエンザ凝集素(HA)、ヒトc-myc断片、VSP-GP断片、p18HIV断片、T7タグ、HSVタグ、Eタグ、SV40T抗原断片、lckタグ、α-チューブリン断片、Bタグ、プロテインC断片などが含まれる。本発明のタンパク質と融合させうるタンパク質の例には、GST(グルタチオン-S-トランスフェラーゼ)、インフルエンザ凝集素(HA)、免疫グロブリン定常領域、β-ガラクトシダーゼ、MBP(マルトース結合タンパク質)などが含まれる。
【0041】
融合タンパク質は、上述のような融合ペプチドまたは融合タンパク質をコードする市販のDNAと、本発明のポリペプチドをコードするDNAとを融合させ、作製された融合DNAを発現させることによって作製しうる。
【0042】
機能的に同等なポリペプチドを単離するための当技術分野で知られた別の方法には、例えば、ハイブリダイゼーション法を用いる方法がある(Sambrook et al., 「Molecular Cloning」第2版、9.47-9.58、Cold Spring Harbor Lab. Press (1989))。当業者は、ヒトELOVL7タンパク質をコードするDNA配列(すなわち、配列番号:14)の全体または部分に対して高い相同性を有するDNAを容易に単離して、単離されたDNAからヒトELOVL7タンパク質と機能的に同等なポリペプチドを単離することができる。本発明のポリペプチドには、ヒトELOVL7タンパク質をコードするDNA配列の全体または部分とハイブリダイズするDNAによってコードされ、ヒトELOVL7タンパク質と機能的に同等なポリペプチドが含まれる。これらのポリペプチドには、ヒト由来のタンパク質に対応する哺乳動物の相同体(例えば、サル、ラット、ウサギ、およびウシの遺伝子によってコードされるポリペプチド)が含まれる。ヒトELOVL7タンパク質をコードするDNAに対して高度に相同なcDNAを動物から単離する際には、前立腺からの組織を用いることが特に好ましい。
【0043】
ヒトELOVL7タンパク質と機能的に同等なポリペプチドをコードするDNAを単離するためのハイブリダイゼーションの条件は、当業者によって規定通りに選択されうる。例えば、30分間またはそれ以上にわたる68℃でのプレハイブリダイゼーションを「Rapid-hyb緩衝液」(Amersham LIFE SCIENCE)を用いて行い、標識したプローブを添加した上で、1時間またはそれ以上にわたって68℃で加温することによって、ハイブリダイゼーションを行ってもよい。それに続く洗浄段階は、例えば、低ストリンジェント条件下で行いうる。低ストリンジェント条件とは、例えば、42℃、2×SSC、0.1%SDS、または好ましくは50℃、2×SSC、0.1%SDSのことである。より好ましくは、高ストリンジェント条件を用いる。高ストリンジェント条件とは、例えば、室温の2×SSC、0.01%SDS中での20分間の洗浄を3回行った後に、37℃の1×SSC、0.1%SDS中での20分間の洗浄を3回行い、50℃の1×SSC、0.1%SDSで20分間の洗浄を2回行うことである。しかし、温度および塩濃度などのいくつかの要因はハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響を及ぼすと考えられ、当業者は必要なストリンジェンシーを得るためにこれらの要因を適切に選択することができる。
【0044】
ハイブリダイゼーションの代わりに、遺伝子増幅法、例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法を、ヒトELOVL7タンパク質と機能的に同等なポリペプチドをコードするDNAを、タンパク質をコードするDNAの配列情報(配列番号:14)に基づいて合成したプライマーを用いて単離するために用いることもできる。
【0045】
以上のハイブリダイゼーション法または遺伝子増幅法によって単離されたDNAによってコードされる、ヒトELOVL7タンパク質と機能的に同等なポリペプチドは、通常、ヒトELOVL7タンパク質のアミノ酸配列に対して高い相同性を有する。「高い相同性」とは典型的には、ポリペプチド配列またはポリヌクレオチド配列と参照配列との間の40%またはそれ以上、好ましくは60%またはそれ以上、より好ましくは80%またはそれ以上、さらにより好ましくは85%、90%、93%、95%、98%、99%またはそれ以上の相同性を指す。パーセント相同性(パーセント同一性とも呼ばれる)は、典型的には、二つの最適にアライメントされた配列間で実行される。比較するための配列のアライメントの方法は当業者に周知である。最適な配列のアライメントおよび比較は、例えば、「Wilbur and Lipman、Proc Natl Acad Sci USA 80: 726-30 (1983)」中のアルゴリズムを用いて行うことができる。
【0046】
本発明のポリペプチドはアミノ酸配列、分子量、等電点、糖鎖の存在もしくは非存在、または形態において、作製に使用する細胞または宿主、または使用する精製法に依存して多様性を有する。しかしながら、本発明のヒトELOVL7タンパク質と機能的に同等である限り、本発明の範囲内である。
【0047】
本発明のポリペプチドは、当業者に周知の方法により、組換えタンパク質、または天然タンパク質として調製することができる。組換えタンパク質は、本発明のポリペプチドをコードするDNA(例えば、配列番号:14のヌクレオチド配列を含むDNA)を適切な発現ベクターに挿入し、そのベクターを適切な宿主細胞に導入して抽出物を得て、そして抽出物をクロマトグラフィー、例えばイオン交換クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、ゲル濾過、もしくは本発明のタンパク質に対する抗体を固定したカラムを用いるアフィニティークロマトグラフィーにかけることによって、または上述のカラムの複数を組み合わせることによってポリペプチドを精製することにより、調製することができる。
【0048】
同様に、本発明のポリペプチドを宿主細胞(例えば、動物細胞および大腸菌)の内部でグルタチオン-S-トランスフェラーゼタンパク質との融合タンパク質として、または多数のヒスチジンを追加した組換えタンパク質として発現させる場合には、発現した組換えタンパク質をグルタチオンカラムまたはニッケルカラムを用いて精製することができる。または、本発明のポリペプチドをc-myc、多数のヒスチジン、またはFLAGで標識したタンパク質として発現させる場合には、それぞれc-myc、His、またはFLAGに対する抗体を用いてそれを検出して精製することができる。
【0049】
融合タンパク質を精製した後に、必要に応じてトロンビンまたは第Xa因子で切断することにより、目的のポリペプチド以外の領域を除外することも可能である。
【0050】
天然のタンパク質は、当業者に公知の方法によって、例えば、下記のELOVL7タンパク質と結合する抗体を結合させたアフィニティーカラムを、本発明のポリペプチドを発現する組織または細胞の抽出物と接触させることによって単離することができる。抗体はポリクローナル抗体でもモノクローナル抗体でもよい。
【0051】
本発明はまた、本発明のポリペプチドの部分ペプチドも含む。部分ペプチドは、本発明のポリペプチドに対して特異的なアミノ酸配列を有し、少なくとも7アミノ酸、好ましくは8アミノ酸またはそれ以上、より好ましくは9アミノ酸またはそれ以上からなる。部分ペプチドは、例えば、本発明のポリペプチドに対する抗体の作製、本発明のポリペプチドと結合する化合物のスクリーニング、および本発明のポリペプチドの阻害物質のスクリーニングのために用いることができる。
【0052】
本発明の部分ペプチドは、遺伝子操作により、公知のペプチド合成方法により、または本発明のポリペプチドを適切なペプチダーゼで消化することにより、作製される。ペプチド合成のために、例えば、固相合成または液相合成を用いうる。
【0053】
さらに、本発明は、上述のELOVL7ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを提供する。本発明のポリヌクレオチドは、上記のように本発明のポリペプチドのインビボもしくはインビトロでの産生のために用いることができ、または本発明のタンパク質をコードする遺伝子の遺伝的異常に起因する疾患に対する遺伝子治療のために用いることもできる。本発明のポリペプチドをコードする限り、mRNA、RNA、cDNA、ゲノムDNA、化学合成されたポリヌクレオチドを含む、本発明のポリヌクレオチドのいかなる形態も用いうる。本発明のポリヌクレオチドには、得られたDNAが本発明のポリペプチドをコードする限り、所定のヌクレオチド配列と同様に変質した配列を含むDNAが含まれる。
【0054】
本発明のポリヌクレオチドは、当業者に公知の方法によって作製することができる。例えば、本発明のポリヌクレオチドは、本発明のポリペプチドを発現する細胞からcDNAライブラリーを調製し、プローブとして本発明のDNA(例えば、配列番号:14)の部分配列を用いたハイブリダイゼーションを行うことによって作製される。例えば、cDNAライブラリーは、Sambrook et al., Molecular Cloning, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)に記載の方法で調製される;また、市販のcDNAライブラリーを使用してもよい。cDNAライブラリーはまた、本発明のポリペプチドを発現する細胞からRNAを抽出し、本発明のDNA配列(例えば、配列番号:14)に基づくオリゴDNAを合成し、プライマーとしてオリゴDNAを用いてPCRを行い、本発明のタンパク質をコードするcDNAを増幅することによって作製することができる。
【0055】
さらに、得られたcDNAのヌクレオチドのシークエンシングを行うことにより、cDNAによりコードされる翻訳領域を規定通りに決定し、本発明のポリペプチドのアミノ酸配列を容易に得ることができる。その上、得られたcDNAまたはその部分をプローブとして用いてゲノムDNAライブラリーをスクリーニングすることにより、ゲノムDNAを単離することができる。
【0056】
より詳細には、最初に、本発明の対象ポリペプチドが発現される細胞、組織、または臓器(例えば、前立腺)からmRNAを調製する。mRNAの単離には公知の方法を用いうる;例えば、全RNAをグアニジン超遠心(Chirgwin et al., Biochemistry 18:5294-9 (1979))またはAGPC法(Chomczynski and Sacchi, Anal Biochem 162:156-9 (1987))によって調製しうる。さらに、mRNAをmRNA精製キット(Pharmacia)などを用いて全RNAから精製してもよい。または、mRNAをQuickPrep mRNA精製キット(Pharmacia)によって直接精製してもよい。
【0057】
得られたmRNAは、逆転写酵素を用いてcDNAを合成するために用いられる。cDNAは、AMV逆転写酵素第一鎖cDNA合成キット(Seikagaku Kogyo)などの市販のキットを用いて合成することができる。または、本明細書に記載のプライマー等、5'-Ampli FINDER RACEキット(Clontech)、およびポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いる5'-RACE法(Frohman et al., Proc Natl Acad Sci USA 85: 8998-9002 (1988)、Belyavsky et al., Nucleic Acids Res 17: 2919-32 (1989))に従って、cDNAの合成および増幅を行いうる。
【0058】
所望のDNA断片をPCR産物から調製し、ベクターDNAと連結する。この組換えベクターを大腸菌などの形質転換に用い、選択したコロニーから所望の組換えベクターを調製する。所望のDNAのヌクレオチド配列を、ジデオキシヌクレオチド鎖終結法などの従来の方法によって検証する。
【0059】
本発明のポリヌクレオチドのヌクレオチド配列を、発現のために用いた宿主におけるコドン使用頻度を考慮に入れることにより、より効率的に発現されるように設計することができる(Grantham et al., Nucleic Acids Res 9: 43-74 (1981))。本発明のポリヌクレオチドの配列を、市販のキットまたは従来の方法によって改変することもできる。例えば、制限酵素による消化、合成オリゴヌクレオチドもしくは適切なポリヌクレオチド断片の挿入、リンカーの付加、または開始コドン(ATG)および/もしくは終止コドン(TAA、TGAまたはTAG)の挿入によって配列を改変することができる。
【0060】
詳細には、本発明のポリヌクレオチドは、配列番号:14のヌクレオチド配列を含むDNAを含む。
【0061】
さらに、本発明は、配列番号:14のヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、上記の本発明のELOVL7タンパク質と機能的に同等なポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチドを提供する。当業者はストリンジェント条件を適切に選択することができる。例えば、低ストリンジェント条件を用いることができる。より好ましくは、高ストリンジェント条件を用いる。これらの条件は上記のものと同じである。上記のハイブリダイズさせるDNAはcDNAまたは染色体DNAであることが好ましい。
【0062】
本発明はまた、ヒトELOVL7タンパク質(配列番号:14)をコードするポリヌクレオチドもしくはその相補鎖に相補的であり、かつ少なくとも15ヌクレオチドを含むポリヌクレオチドを提供する。好ましくは、本発明のポリヌクレオチドは、本発明のELOVL7ポリペプチドをコードするDNAと特異的にハイブリダイズするポリヌクレオチドである。本明細書において用いられる「特異的にハイブリダイズする」という用語は、通常のハイブリダイゼーション条件、好ましくはストリンジェントなハイブリダイゼーション条件で、他のタンパク質をコードするDNAとのクロス-ハイブリダイゼーションが有意に生じないことを意味する。そのようなポリヌクレオチドには、本発明のポリペプチドをコードするDNAまたはその相補鎖と特異的にハイブリダイズする、プローブ、プライマー、ヌクレオチド、およびヌクレオチド誘導体(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチドおよびリボザイム)が含まれる。その上、そのようなポリヌクレオチドはDNAチップの調製に使用することができる。
【0063】
ベクターおよび宿主細胞
本発明はまた、本発明のポリヌクレオチドが導入されたベクターおよび宿主細胞も提供する。本発明のベクターは、宿主内で本発明のポリヌクレオチド、特にDNAを保存し、本発明のポリペプチドを発現させ、または遺伝子治療用に本発明のポリヌクレオチドを投与するために有用である。
【0064】
大腸菌が宿主細胞であって、ベクターを大腸菌(例えば、JM109、DH5α、HB101、またはXL1Blue)において大量に増幅および産生させる場合には、ベクターは、大腸菌内で増幅させるための「ori」、および、形質転換された大腸菌を選択するためのマーカー遺伝子(例えば、アンピシリン、テトラサイクリン、カナマイシン、クロラムフェニコールなどの薬剤によって選択される薬剤耐性遺伝子)を有する必要がある。例えば、M13シリーズのベクター、pUCシリーズのベクター、pBR322、pBluescript、pCR-Scriptなどを用いることができる。さらに、上記のベクター同様、pGEM-T、pDIRECT、およびpT7も、cDNAのサブクローニングおよび抽出のために用いることができる。本発明のタンパク質の産生のためにベクターを用いる場合、発現ベクターは特に有用である。例えば、大腸菌内で発現させる発現ベクターは、大腸菌内で増幅させるための上記の特徴を有する必要がある。JM109、DH5α、HB101、またはXL1Blueなどの大腸菌を宿主細胞として用いる場合、ベクターは、大腸菌で所望の遺伝子を効率的に発現しうるプロモーター、例えば、lacZプロモーター(Ward et al., Nature 341: 544-6 (1989);FASEB J 6: 2422-7 (1992))、araBプロモーター(Better et al., Science 240: 1041-3 (1988))、またはT7プロモーターなどを有する必要がある。その点に関して、例えば、pGEX-5X-1(Pharmacia)、「QIAexpressシステム」(Qiagen)、pEGFP、およびpET(この場合、宿主はT7 RNAポリメラーゼを発現するBL21であることが好ましい)を上記のベクターの代わりに用いてもよい。さらに、ベクターは、ポリペプチド分泌のためのシグナル配列をも含みうる。大腸菌のペリプラズムへのポリペプチド分泌を指令するシグナル配列の一例は、pelBシグナル配列(Lei et al., J Bacteriol 169: 4379 (1987))である。ベクターを標的宿主細胞に導入するための手段には、例えば、塩化カルシウム法およびエレクトロポレーション法が含まれる。
【0065】
大腸菌に加えて、例えば、哺乳動物由来の発現ベクター(例えば、pcDNA3(Invitrogen)およびpEGF-BOS(Mizushima and Nagata, Nucleic Acids Res 18(17): 5322 (1990))、pEF、pCDM8)、昆虫細胞由来の発現ベクター(例えば、「Bac-to-BACバキュロウィルス発現系」(GIBCO BRL)、pBacPAK8)、植物由来の発現ベクター(例えば、pMH1、pMH2)、動物ウィルス由来の発現ベクター(例えば、pHSV、pMV、pAdexLcw)、レトロウィルス由来の発現ベクター(例えば、pZIpneo)、酵母由来の発現ベクター(例えば、「Pichia発現キット」(Invitrogen)、pNV11、SP-Q01)、および枯草菌(Bacillus subtilis)由来の発現ベクター(例えば、pPL608、pKTH50)を、本発明のポリペプチドを産生するために用いることもできる。
【0066】
CHO細胞、COS細胞、またはNIH3T3細胞のような動物細胞内でベクターを発現させるためには、ベクターは、そのような細胞における発現に必要なプロモーター、例えば、SV40プロモーター(Mulligan et al., Nature 277: 108 (1979))、MMLV-LTRプロモーター、EF1αプロモーター(Mizushima et al., Nucleic Acids Res 18: 5322 (1990))、CMVプロモーターなど、および好ましくは、形質転換体を選択するためのマーカー遺伝子(例えば、薬剤(例えば、ネオマイシン、G418)によって選択される薬剤耐性遺伝子)を有する必要がある。これらの特徴を備えた公知のベクターの例には、例えば、pMAM、pDR2、pBK-RSV、pBK-CMV、pOPRSV、およびpOP13が含まれる。
【0067】
ポリペプチドの作製
さらに、本発明は、本発明のポリペプチドを作製するための方法を提供する。ポリペプチドは、ポリペプチドをコードする遺伝子を含む発現ベクターを保有する宿主細胞を培養することによって作製される。必要に応じて、本方法を、遺伝子を安定的に発現させるため、およびそれと同時に、細胞内で遺伝子のコピー数を増幅するために用いることもできる。例えば、相補的DHFR遺伝子を含むベクター(例えば、pCHO I)を、核酸合成経路が欠失したCHO細胞に導入した後に、メトトレキサート(MTX)によって増幅することができる。さらに、遺伝子の一過性発現の場合には、SV40の複製起点を含むベクター(pcDなど)を、SV40T抗原を発現する遺伝子を染色体上に有するCOS細胞に形質転換導入する方法を用いることができる。
【0068】
以上のようにして得られた本発明のポリペプチドは、宿主細胞の内部または外部(培地など)から単離して、実質的に純粋な均一なポリペプチドとして精製することができる。所定のポリペプチドに言及して本明細書で用いられる「実質的に純粋な」という用語は、そのポリペプチドが他の生体高分子を実質的に含まないことを意味する。実質的に純粋なポリペプチドは、乾燥重量にして純度が少なくとも75%(例えば、少なくとも80、85、95、または99%)である。純度は任意の適切な標準的方法により、例えばカラムクロマトグラフィー、ポリアクリルアミドゲル電気泳動、またはHPLC分析によって測定しうる。ポリペプチドの単離および精製のための方法は任意の特定の方法に限定されない;実際には任意の標準的な方法を用いうる。
【0069】
例えば、カラムクロマトグラフィー、フィルター、限外濾過、塩析、溶媒沈殿、溶媒抽出、蒸留、免疫沈降、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動、透析、および再結晶化を適切に選択し、組み合わせて、ポリペプチドの単離および精製を行ってもよい。
【0070】
クロマトグラフィーの例には、例えば、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過、逆相クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィーなどが含まれる(Strategies for Protein Purification and Characterization: A Laboratory Course Manual. Ed. Daniel R. Marshak et al., Cold Spring Harbor Laboratory Press (1996))。これらのクロマトグラフィーを、HPLCおよびFPLCなどの液体クロマトグラフィーによって行ってもよい。したがって、本発明は、以上の方法によって調製された高純度のポリペプチドを提供する。
【0071】
本発明のポリペプチドを、精製前または精製後に適切なタンパク質修飾酵素で処理することにより、任意に修飾、または部分的に欠失させてもよい。有用なタンパク質修飾酵素には、トリプシン、キモトリプシン、リシルエンドペプチダーゼ、タンパク質キナーゼ、グルコシダーゼなどが含まれるが、これらに限定されない。
【0072】
抗体
本発明は、本発明のポリペプチドと結合する抗体を提供する。本発明の抗体は、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体などの任意の形態で用いることができ、これにはウサギなどの動物を本発明のポリペプチドで免疫することによって得られる抗血清、すべてのクラスのポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体、ヒト抗体、ならびに遺伝子組換えによって作製されたヒト化抗体が含まれる。
【0073】
抗体を得るための抗原として用いられる本発明のポリペプチドは、任意の動物種に由来するものでよいが、好ましくはヒト、マウス、またはラットなどの哺乳動物、より好ましくはヒトに由来する。ヒト由来のポリペプチドは、本明細書に開示するヌクレオチドまたはアミノ酸配列から得られる。
【0074】
本発明によれば、免疫化抗原として用いるポリペプチドは、完全タンパク質、またはタンパク質の部分ペプチドであってもよい。部分ペプチドは、例えば、本発明のポリペプチドのアミノ(N)末端またはカルボキシ(C)末端断片を含みうる。
【0075】
本明細書において、抗体は、本発明のポリペプチドの完全長または断片のいずれかと反応するタンパク質として定義される。
【0076】
本発明のポリペプチドをコードする遺伝子またはその断片を、本明細書に記載したような宿主細胞の形質転換に用いられる公知の発現ベクターに挿入してもよい。所望のポリペプチドまたはその断片を、任意の標準的な方法によって宿主細胞の内部または外部から回収した後、抗原として用いてもよい。または、ポリペプチドを発現する細胞全体もしくはその溶解物、または化学合成したポリペプチドを抗原として用いてもよい。
【0077】
任意の哺乳動物が抗原により免疫されるが、細胞融合に用いる親細胞との適合性を考慮に入れることが好ましい。一般に、齧歯類、ウサギ目、または霊長類の動物が用いられる。齧歯類の動物には、例えば、マウス、ラット、およびハムスターが含まれる。ウサギ目の動物には、例えばウサギが含まれる。霊長類の動物には、例えば、カニクイザル、アカゲザル、マントヒヒ、およびチンパンジーのような狭鼻猿類(旧世界サル)のサルが含まれる。
【0078】
動物を抗原で免疫するための方法は当技術分野で公知である。抗原の腹腔内注射または皮下注射は、哺乳動物の免疫化のための標準的な方法である。より詳細には、抗原を適切な量のリン酸緩衝食塩水(PBS)、生理食塩水などで希釈および懸濁してもよい。必要に応じて、抗原懸濁液を、フロイント完全アジュバントなどの適切な量の標準的アジュバントと混合して乳濁液とし、哺乳動物に対して投与してもよい。好ましくは、その後、適切な量のフロイント不完全アジュバントと混合した抗原の投与を4から21日毎に数回投与する。適切な担体を免疫化のために用いてもよい。上記のような免疫化の後に、血清を、所望の抗体の量の増加について、標準的な方法によって調べる。
【0079】
本発明のポリペプチドに対するポリクローナル抗体は、血清中の所望の抗体の増加について調べられた被免疫哺乳動物から血液を採集し、従来の任意の方法によって血液から血清を分離することによって調製してもよい。ポリクローナル抗体にはポリクローナル抗体を含む血清が含まれ、同様に、ポリクローナル抗体を含む分画を血清から単離してもよい。例えば、本発明のポリペプチドを結合させたアフィニティーカラムを用い、さらに、この分画をプロテインAまたはプロテインGカラムを用いて精製して、本発明のポリペプチドのみを認識する分画から免疫グロブリンGまたはMを調製することができる。
【0080】
モノクローナル抗体を調製するためには、抗原で免疫した哺乳動物から免疫細胞を採集し、上記のように血清中の所望の抗体の増加レベルを確かめ、細胞融合に供する。細胞融合に用いる免疫細胞は脾臓から入手することが好ましい。上記の免疫細胞と融合させるためのその他の好ましい親細胞には、例えば、哺乳動物の骨髄腫細胞、より好ましくは、薬剤によって融合細胞を選択するための獲得特性を有する骨髄腫細胞が含まれる。
【0081】
上記の免疫細胞および骨髄腫細胞は、公知の方法、例えば、Milstein et al.,(Galfre and Milstein, Methods Enzymol 73: 3-46 (1981))の方法に従って融合させることができる。
【0082】
細胞融合によって得られたハイブリドーマは、それらをHAT培地(ヒポキサンチン、アミノプテリン、およびチミジン含有培地)などの標準的な選択培地中で培養することによって選択しうる。典型的には細胞培養は、HAT培地中で、所望のハイブリドーマを除く他のすべての細胞(非融合細胞)が死滅するのに十分な期間である、数日間から数週間にわたって続けられる。その後、所望の抗体を産生するハイブリドーマ細胞のスクリーニングおよびクローニングのために標準的な限界希釈を行う。
【0083】
ハイブリドーマ調製のために非ヒト動物を抗原で免疫する上記の方法に加えて、EBウィルスに感染したようなヒトリンパ球を、ポリペプチド、ポリペプチド発現細胞、またはそれらの溶解物によりインビトロで免疫することもできる。続いて、免疫したリンパ球を、無限に分裂しうるU266などのヒト由来の骨髄腫細胞と融合させ、ポリペプチドと結合しうる所望のヒト抗体を産生するハイブリドーマを得ることができる(未審査である特開昭63-17688号)。
【0084】
続いて、得られたハイブリドーマをマウスの腹腔内に移植し、腹水を取り出す。得られたモノクローナル抗体は、例えば、硫酸アンモニウム沈殿、プロテインAもしくはプロテインGカラム、DEAEイオン交換クロマトグラフィー、または本発明のポリペプチドを結合させたアフィニティーカラムによって精製することができる。本発明の抗体は、本発明のポリペプチドの精製および検出のためだけでなく、本発明のポリペプチドのアンタゴニストの候補としても用いることができる。さらに、この抗体を、本発明のポリペプチドに関連する疾患に対する抗体療法に応用することもできる。得られた抗体を人体に対して投与する場合(抗体療法)、免疫原性を抑えるために、ヒト抗体またはヒト化抗体が好ましい。
【0085】
例えば、ヒト抗体遺伝子のレパートリーを有するトランスジェニック動物は、ポリペプチド、ポリペプチド発現細胞、またはそれらの溶解物から選択される抗原で免疫されてもよい。さらに、抗体産生細胞を動物から採集し、骨髄腫細胞と融合させてハイブリドーマを得、そのハイブリドーマからポリペプチドに対するヒト抗体を調製することができる(国際公開公報第92-03918号、国際公開公報第93-2227号、国際公開公報第94-02602号、国際公開公報第94-25585号、国際公開公報第96-33735号、および国際公開公報第96-34096号を参照のこと)。
【0086】
または、免疫したリンパ球のような抗体を産生する免疫細胞を、癌遺伝子によって不死化させ、モノクローナル抗体の調製に用いることもできる。
【0087】
このようにして得られるモノクローナル抗体はまた、遺伝子操作技術を用いて組換えにより調製してもよい(例えば、Borrebaeck and Larrick, Therapeutic Monoclonal Antibodies, published in the United Kingdom by MacMillan Publishers LTD (1990)を参照されたい)。例えば、抗体をコードするDNAを、抗体を産生するハイブリドーマまたは免疫リンパ球などの免疫細胞からクローニングして、適切なベクターに挿入し、宿主細胞に導入して組換え抗体を調製してもよい。本発明はまた、上記のように調製した組換え抗体も提供する。
【0088】
さらに、本発明の抗体は、本発明のポリペプチドの1つまたは複数と結合する限り、抗体の断片または修飾抗体であってもよい。例えば、抗体断片は、Fab、F(ab')2、Fv、またはH鎖およびL鎖由来のFv断片を適切なリンカーによって連結した一本鎖Fv(scFv)であってもよい(Huston et al., Proc Natl Acad Sci USA 85: 5879-83 (1988))。より詳細には、パパインまたはペプシンなどの酵素で抗体を処理することによって抗体断片を作製してもよい。または、抗体断片をコードする遺伝子を構築して発現ベクターに挿入し、適切な宿主細胞において発現させてもよい(例えば、Co et al., J Immunol 152: 2968-76 (1994)、Better and Horwitz, Methods Enzymol 178: 476-96 (1989)、Pluckthun and Skerra, Methods Enzymol 178: 497-515 (1989)、Lamoyi, Methods Enzymol 121: 652-63 (1986)、Rousseaux et al., Methods Enzymol 121: 663-9 (1986)、Bird and Walker, Trends Biotechnol 9: 132-7 (1991)を参照されたい)。
【0089】
抗体を、ポリエチレングリコール(PEG)などの種々の分子と結合させることによって修飾することもできる。本発明は、このような修飾抗体を提供する。修飾抗体は抗体を化学的に修飾することによって得ることができる。これらの修飾方法は当技術分野で慣例的である。
【0090】
または、本発明の抗体を、非ヒト抗体由来の可変領域とヒト抗体由来の定常領域とのキメラ抗体として、または、非ヒト抗体由来の相補性決定領域(CDR)、ヒト抗体由来のフレームワーク領域(FR)および定常領域を含むヒト化抗体として得ることができる。このような抗体は、公知の技術に従って調製することができる。ヒト化は、齧歯類CDRまたはヒト抗体の配列に対応するCDR配列を置き換えることによって行われる(例えば、Verhoeyen et al., Science 239:1534-1536 (1988)を参照されたい)。従って、そのようなヒト化抗体はキメラ抗体であり、完全なヒト可変ドメインよりも実質的に短い長さが、非ヒト種由来の対応する配列によって置換されている。
【0091】
ヒトフレームワーク領域および定常領域に加え、ヒト可変領域を含む完全長ヒト抗体もまた、用いられる。そのような抗体は、当技術分野で公知の様々な技術を用いて作製される。例えば、インビトロの方法は、バクテリオファージ上に提示されたヒト抗体断片の組換えライブラリーの使用を含む(例えば、Hoogenboom & Winter, J. Mol. Biol. 227:381 (1992))。同様に、ヒト抗体は、例えば、内在性免疫グロブリン遺伝子が部分的に、または完全に不活性化されたマウスのようなトランスジェニック動物へヒト免疫グロブリン座を導入することによって作製してもよい。この手法は、例えば、米国特許第6,150,584; 5,545,807; 5,545,806; 5,569,825; 5,625,126; 5,633,425; 5,661,016号に記載されている。
【0092】
以上のようにして得られた抗体を均一性のために精製してもよい。例えば、抗体の分離および精製は、一般的なタンパク質に対して用いられる分離法および精製法に従って行うことができる。例えば、アフィニティークロマトグラフィーなどのカラムクロマトグラフィー、フィルター、限外濾過、塩析、透析、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動、および等電点電気泳動など(Antibodies: A Laboratory Manual. Ed Harlow and David Lane, Cold Spring Harbor Laboratory (1988))を適切に選択および組み合わせて用いることにより、抗体を分離および単離することができるが、これらに限定されない。プロテインAカラムおよびプロテインGカラムをアフィニティーカラムとして使用することができる。使用するプロテインAカラムの例には、例えば、Hyper D、POROS、およびSepharose F.F.(Pharmacia)が含まれる。
【0093】
クロマトグラフィーの例には、アフィニティークロマトグラフィーの他に、例えば、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過、逆相クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィーなどが含まれる(Strategies for Protein Purification and Characterization: A Laboratory Course Manual. Ed Daniel R. Marshak et al., Cold Spring Harbor Laboratory Press (1996))。クロマトグラフィーの手段は、HPLCおよびFPLCなどの液相クロマトグラフィーによって行うことができる。
【0094】
例えば、吸光度、酵素結合免疫吸着アッセイ法(ELISA)、酵素免疫分析法(EIA)、放射免疫分析法(RIA)および/または免疫蛍光検査法を用いて、本発明の抗体の抗原結合活性を測定ことができる。ELISAの場合、本発明の抗体をプレート上に固定化し、本発明のポリペプチドをプレートへ添加した後に、抗体産生細胞の培養上清または精製抗体などの所望の抗体を含む試料を添加する。続いて、一次抗体を認識し、アルカリホスファターゼのような酵素で標識された二次抗体を添加し、プレートをインキュベートする。次に、洗浄後に、p-ニトロフェニルリン酸のような酵素基質をプレートに添加して、試料の抗原結合活性を評価するために吸光度を測定する。C末端またはN末端断片のようなポリペプチドの断片を、抗体の結合活性を評価するための抗原として用いてもよい。BIAcore(Pharmacia)を、本発明の抗体の活性の評価に用いてもよい。
【0095】
以上の方法は、本発明の抗体を本発明のポリペプチドを含むと考えられる試料に曝露させ、抗体およびポリペプチドによって形成された免疫複合体を検出または測定することにより、本発明のポリペプチドの検出または測定を可能にする。
【0096】
本発明のポリペプチドの検出または測定の方法は、ポリペプチドを特異的に検出または測定することが可能であるため、本方法はポリペプチドが用いられる種々の実験に有用になりうる。
【0097】
アンチセンスポリヌクレオチド、低分子干渉RNAおよびリボザイム
本発明は、配列番号:14のヌクレオチド配列内の任意の部位にハイブリダイズするアンチセンスオリゴヌクレオチドを含む。このアンチセンスオリゴヌクレオチドは、好ましくは配列番号:14のヌクレオチド配列の少なくとも約15個の連続したヌクレオチド配列に対するものである。上記の少なくとも15個の連続したヌクレオチド内に開始コドンを含むアンチセンスオリゴヌクレオチドは、より好ましい。
【0098】
アンチセンスオリゴヌクレオチドの誘導体もしくは修飾産物はまた、アンチセンスオリゴヌクレオチドとして使用される。そのような修飾産物の例として、メチルホスホネート型またはエチルホスホネート型などの低級アルキルホスホネート修飾物、ホスホロチオエート修飾物、およびホスホロアミデート修飾物が含まれる。
【0099】
本明細書で用いる「アンチセンスオリゴヌクレオチド」という用語は、DNAまたはmRNAの特定領域を構成するものに対応するヌクレオチドが完全に相補的であるものだけでなく、DNAまたはmRNAおよびアンチセンスオリゴヌクレオチドが配列番号:14のヌクレオチド配列と特異的にハイブリダイズしうるならば、1つまたは複数のヌクレオチドにミスマッチがあるものも含まれる。
【0100】
このようなポリヌクレオチドは、「少なくとも約15個の連続したヌクレオチド配列の領域」内に、少なくとも70%またはそれ以上、好ましくは80%またはそれ以上、より好ましくは90%またはそれ以上、さらにより好ましくは95%またはそれ以上の相同性を有するものとして含まれる。相同性の決定には本明細書に述べるアルゴリズムを用いうる。当技術分野で公知のアルゴリズムは相同性を決定するために用いられる。さらに、アンチセンスオリゴヌクレオチドの誘導体もしくは修飾産物もまた、本発明においてアンチセンスオリゴヌクレオチドとして使用することができる。そのような修飾産物の例として、メチルホスホネート型またはエチルホスホネート型などの低級アルキルホスホネート修飾物、ホスホロチオエート修飾物、およびホスホロアミデート修飾物が含まれる。
【0101】
そのようなアンチセンスポリヌクレオチドは、本発明のポリペプチドをコードするDNAの単離もしくは検出のためのプローブとして、または増幅のプライマーとして有用である。
【0102】
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチド誘導体は、ポリペプチドをコードするDNAまたはmRNAと結合し、その転写または翻訳を阻害して、mRNAの分解を促進し、本発明のポリペプチドの発現を阻害して、それによってポリペプチドの機能を阻害することにより、本発明のポリペプチドを産生する細胞に対して作用する。
【0103】
本発明はまた、配列番号:14のヌクレオチド配列のセンス鎖核酸およびアンチセンス鎖核酸の組み合わせを含む、低分子干渉RNA(siRNA)も含む。より詳細には、ELOVL7の発現を抑制するためのそのようなsiRNAには、配列番号:7のヌクレオチド配列を標的とするものが含まれる。
【0104】
「siRNA」という用語は、標的mRNAの翻訳を妨げる二本鎖RNA分子を指す。siRNAを細胞に導入するために、RNAを転写するための鋳型としてDNAを用いることを含む、標準的な技法が用いられる。siRNAは、ヒトELOVL7タンパク質をコードするポリヌクレオチド(配列番号:14)のセンス核酸配列およびアンチセンス核酸配列を含む。siRNAは、例えばヘアピンのように、単一の転写物(二本鎖RNA)が標的遺伝子由来のセンス配列および相補的アンチセンス配列の両方を有するように構築される。
【0105】
標的細胞におけるELOVL7に対応する転写物に対するsiRNAの結合は、細胞によるタンパク質の産生を減少させる。オリゴヌクレオチドの長さは少なくとも10ヌクレオチドであり、天然の転写物と同じぐらい長くてもよい。好ましくは、オリゴヌクレオチドは約75、約50、約25ヌクレオチド長未満である。最も好ましくは、オリゴヌクレオチドは約19〜約25ヌクレオチド長である。癌細胞の増殖を阻害するELOVL7のsiRNAオリゴヌクレオチドの例には、配列番号:7を含む標的配列が含まれる。さらに、siRNAの阻害活性を高めるために、ヌクレオチド「u」が標的配列のアンチセンス鎖の3'末端に付加される。付加される「u」の数は、少なくとも約2個、一般的には約2〜約10個であり、好ましくは約2〜約5個である。付加する「u」は、siRNAのアンチセンス鎖の3'末端で単鎖を形成する。
【0106】
ELOVL7のsiRNAは、mRNA転写物に結合できる形態で細胞へ直接導入される。これらの態様において、本発明のsiRNA分子は典型的には、上記のようにアンチセンス分子に対して修飾される。他の修飾もまた可能であり、例えば、コレステロール結合siRNAにより薬理学的性質が改善されることが示された(Song et al. Nature Med. 9:347-351 (2003))。または、ELOVL7のsiRNAをコードするDNAが、ベクター内に含まれてもよい。
【0107】
ベクターは、例えば、両鎖の発現が(DNA分子の転写により)可能となる様式で、ELOVL7配列に隣接する機能的に連結された制御配列を有する発現ベクター中にELOVL7標的配列をクローニングすることによって作製される(Lee, N.S., (2002) Nature Biotechnology 20:500-505)。ELOVL7のmRNAに対するアンチセンス鎖であるRNA分子を第1のプロモーター(例えば、クローニングされたDNAの3'側にあるプロモーター配列)によって転写させ、ELOVL7のmRNAに対するセンス鎖であるRNA分子を第2のプロモーター(例えば、クローニングされたDNAの5'側にあるプロモーター配列)によって転写させる。そのセンス鎖とアンチセンス鎖は、インビボでハイブリダイズして、ELOVL7遺伝子をサイレンシングするためのsiRNA構築物を生じる。または、2つの構築物を利用して、siRNA構築物のセンス鎖およびアンチセンス鎖を作製することもできる。クローニングされたELOVL7は、例えばヘアピンのような二次構造を有する構築物をコードすることも可能であり、ここで、単一の転写物が標的遺伝子由来のセンス配列および相補的アンチセンス配列の両方を有する。
【0108】
さらに、ヘアピンループ構造を形成させる目的で、任意のヌクレオチド配列からなるループ配列をセンス配列とアンチセンス配列との間に配置することができる。したがって、本発明はまた、一般式
5'-[A]-[B]-[A']-3'
を有するsiRNAを提供し、式中、[A]は、ELOVL7遺伝子のmRNAまたはcDNAに特異的にハイブリダイズする配列に対応するリボヌクレオチド配列である。好ましい態様において、
[A]は、配列番号:14の3531-3549ヌクレオチドの配列(配列番号:7)に対応するリボヌクレオチド配列であり、
[B]は、約3〜約23ヌクレオチドからなるリボヌクレオチド配列であり、および
[A']は、[A]の相補配列からなるリボヌクレオチド配列である。
ループ配列は、好ましくは3〜23ヌクレオチド長を有する任意の配列からなりうる。例えば、ループ配列は以下の配列からなる群より選択される(http://www.ambion.com/techlib/tb/tb_506.html)。本発明のsiRNAにおいて、siRNAの阻害活性を高めるために、ヌクレオチド「u」は[A']の3'末端に付加される。付加される「u」の数は、少なくとも約2個、一般的には約2〜約10個であり、より好ましくは約2〜約5個である。さらに、23ヌクレオチドからなるループ配列もまた、活性siRNAを提供する(Jacque, J.-M., et al.,(2002) Nature 418:435-438)。
CCC、CCACC、またはCCACACC:Jacque, J. M., et al., Nature, Vol. 418: 435-438 (2002);
UUCG:Lee, N.S., et al., (2002) Nature Biotechnology 20: 500-505、Fruscoloni, P., et.al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 100(4): 1639-1644 (2003);および、
UUCAAGAGA:Dykxhoorn, D. M., et al., Nature Reviews Molecular Cell Biology 4: 457-467 (2002)。
【0109】
例えば、本発明のヘアピン構造を有する好ましいsiRNAを以下に示す。以下の構造において、ループ配列は、CCC、UUCG、CCACC、CCACACC、およびUUCAAGAGAからなる群より選択され得る。好ましいループ配列は、UUCAAGAGA(DNAでは「ttcaagaga」)である。
caagcaacaacaacaacaa-[B]- uuguuguuguuguugcuug(配列番号:7を標的配列とする)
【0110】
ELOVL7配列に隣接する制御配列は、それらの発現が独立に、または時間的もしくは空間的様式で調節可能なように、同一または異なる場合もある。siRNAは、ELOVL7遺伝子の鋳型を、例えば低分子核内RNA(snRNA)U6またはヒトH1 RNAプロモーター由来のRNAポリメラーゼIII転写ユニットを含むベクター中にクローニングすることにより、細胞内で転写される。ベクターを細胞に導入するために、トランスフェクション促進剤を使用することができる。FuGENE(Rochediagnostices)、Lipofectamine 2000(Invitrogen)、Oligofectamine(Invitrogen)、およびNucleofector(和光純薬工業)は、トランスフェクション促進剤として有用である。
【0111】
siRNAのヌクレオチド配列は、アンビオン社(Ambion)のウェブサイト(http://www.ambion.com/techlib/misc/siRNA_finder.html)から利用可能なsiRNA設計用のコンピュータプログラムを用いて設計することができる。siRNAに関するヌクレオチド配列は、コンピュータプログラムにより、以下のプロトコルに基づいて選択される。
【0112】
siRNA標的部位の選択:
1.目的の転写物のAUG開始コドンから開始して、AAジヌクレオチド配列を求めて下流へとスキャンする。各AAおよび3'側に隣接した19ヌクレオチドの出現をsiRNA標的の可能性がある部位として記録する。TuschlらはGenes Dev 13(24): 3191-7 (1999)において、siRNAを5'および3'非翻訳領域(UTR)ならびに開始コドン付近(75塩基以内)の領域に対しては設計しないように推奨しており、これは、これらの領域には調節タンパク質の結合部位が多く含まれる可能性があるためである。UTR結合タンパク質および/または翻訳開始複合体は、siRNAエンドヌクレアーゼ複合体の結合を妨げる可能性がある。
2.標的の可能性がある部位をヒトゲノムデータベースと比較し、他のコード配列の有意な相同性を有する任意の標的配列を検討から除外する。相同性検索はBLASTを用いて行うことができ、これはNCBIサーバー:www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/(Altschul SF, et al, Nucleic Acids Res. 1997;25(17):3389-402; Altschul SF, et al, J Mol Biol. 1990;215(3):403-10)に提供されている。
3.合成用の適格な標的配列を選択する。アンビオン社では、好ましいいくつかの標的配列を、その遺伝子の長さに従って、評価用に選択することができる。
【0113】
オリゴヌクレオチド、およびELOVL7 mRNAの様々な部分に相補的なオリゴヌクレオチドを、標準的な方法によってインビトロで、腫瘍細胞において(例えば、PC3、LNCaP、22Rv1またはDU145などのPRC細胞株を用いて)ELOVL7の産生を減少させる能力について試験した。siRNAの候補組成物の非存在下で培養した細胞と比較して、候補siRNA組成物と接触させた細胞におけるELOVL7遺伝子産生の減少を、ELOVL7特異的抗体または他の検出方法を用いて検出する。次に、インビトロでの細胞を用いた、または細胞を用いない分析においてELOVL7の産生を減少させる配列を、細胞増殖に対する阻害効果に関して試験する。インビトロでの細胞を用いた分析において細胞増殖を阻害する配列を、ラットまたはマウスにおいてインビボで試験を行い、ELOVL7の産生を減少させ、悪性腫瘍を有する動物において腫瘍細胞の増殖を減少させることを確認する。
【0114】
標的配列の核酸配列を含む二重鎖分子、例えば配列番号:14の3531-3549ヌクレオチド(配列番号:7)もまた本発明に含まれる。本発明において、二重鎖分子は、センス鎖およびアンチセンス鎖を有し、センス鎖が配列番号:7に対応するリボヌクレオチド配列を含み、アンチセンス鎖が該センス鎖に相補的なリボヌクレオチド配列を含み、該センス鎖と該アンチセンス鎖が互いにハイブリダイズして該二重鎖分子が形成され、該二重鎖分子がELOVL7遺伝子を発現する細胞に導入された場合、該遺伝子の発現を阻害する。本発明において、単離された核酸がRNAまたはその誘導体である場合、塩基「t」はヌクレオチド配列において「u」に置換する必要がある。本明細書において用いられる「相補的」という用語は、核酸分子のヌクレオチドユニット間でのWatson-CrickまたはHoogsteen塩基対形成を指し、「結合」は二つの核酸間もしくは化合物間、または関連する核酸間もしくは化合物間、またはその組み合わせ間での物理的または化学的な相互作用を意味する。
【0115】
相補的核酸配列は適した条件下でハイブリダイズして、ミスマッチをほとんどもしくは全く含まない安定な二重鎖を形成する。さらに、本発明の単離されたヌクレオチドのセンス鎖およびアンチセンス鎖は、ハイブリダイズすることで二重鎖ヌクレオチドまたはヘアピンループ構造を形成しうる。好ましい態様において、そのような二重鎖は10マッチ毎に1以下のミスマッチを含む。特に好ましい態様において、二重鎖は完全に相補的であり、1つのミスマッチも含まない。核酸分子は長さが3815ヌクレオチド(配列番号:14)未満である。例えば、核酸分子は500、200または75ヌクレオチド未満の長さである。本明細書に記載の一つまたは複数の核酸を含むベクター、およびそのベクターを含む細胞もまた本発明に含まれる。本発明の単離された核酸は、ELOVL7のsiRNAまたはそのsiRNAをコードするDNAに有用である。核酸がsiRNAまたはそれをコードしているDNAに対して用いられる場合、センス鎖は、好ましくは約19ヌクレオチドより長く、より好ましくは約21ヌクレオチドより長い。
【0116】
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはsiRNAは、本発明のポリペプチドの発現を阻害し、そのため、本発明のポリペプチドの生物学的活性を抑制するのに有用である。同様に、本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはsiRNAを含む発現阻害剤も、それらが本発明のポリペプチドの生物学的活性を阻害しうるという点で有用である。したがって、本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはsiRNAを含む組成物はPRCの治療に有用である。哺乳動物細胞における発現を阻害するELOVL7のsiRNAオリゴヌクレオチドの例には、配列番号:7を含む標的配列が含まれる。さらに、そのsiRNAの阻害活性を高めるために、核酸「u」を標的配列のアンチセンス鎖の3'末端に付加することができる。付加される「u」の数は、少なくとも約2個、一般的には約2〜約10個であり、より好ましくは約2〜約5個である。付加する「u」は、siRNAのアンチセンス鎖の3'末端で単鎖を形成する。
【0117】
また、本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはsiRNAを含む発現阻害剤は、本発明のポリペプチドの生物学的活性を阻害しうるという点で有用である。したがって、本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはsiRNAを含む組成物は、PRCのような細胞増殖性疾患の治療に有用である。
【0118】
さらに、本発明は、本発明のELOVL7ポリペプチドの発現を阻害するリボザイムを提供する。
【0119】
一般的に、リボザイムは高分子リボザイムと低分子リボザイムに分類される。高分子リボザイムは核酸のリン酸エステル結合を切断する酵素として知られている。高分子リボザイムとの反応後、反応部位は5'リン酸および3'水酸基からなる。高分子リボザイムはさらに、(1)グアノシンによる5'スプライシング部位でのエステル転移反応を触媒するグループIイントロンRNA、(2)ラリアット構造を経る2段階反応による自己スプライシングを触媒するグループIIイントロンRNA;および(3)加水分解反応によりtRNA前駆体を5'部位で切断するリボヌクレアーゼPのRNA構成要素に分類される。一方、低分子リボザイムは高分子リボザイムと比較して小さいサイズ(約40 bp)を有し、RNAを切断して5'水酸基と2'-3'環状リン酸塩を産生する。ハンマーヘッド型リボザイム(Koizumi et al., FEBS Lett 228: 225 (1988))およびヘアピン型リボザイム(Buzayan, Nature 323: 349-53 (1986); Kikuchi and Sasaki, Nucleic Acids Res 19: 6751 (1992))は低分子リボザイムに含まれる。リボザイムの設計および構築の方法は当技術分野で公知である(Koizumi et al., FEBS Lett 228: 225 (1988); Koizumi et al., Nucleic Acids Res 17: 7059 (1989); Kikuchi and Sasaki, Nucleic Acids Res 19: 6751 (1992)を参照されたい)。したがって、本発明のポリペプチドの発現を阻害するリボザイムは、配列情報(配列番号:14)およびこれら従来の方法に基づいて構築することができる。
【0120】
ELOVL7遺伝子に対するリボザイムは過剰発現したELOVL7タンパク質の発現を阻害し、したがってそのタンパク質の生物学的活性を抑制するために有用である。そのため、そのようなリボザイムはPRCの治療および予防に有用である。
【0121】
前立腺癌の診断
さらに、本発明は、遺伝子の発現レベルおよび本発明のポリペプチドの活性レベルを診断マーカーとして利用してPRCのような細胞増殖性疾患を診断するための方法を提供する。
【0122】
いくつかの態様において、この診断方法は、以下の段階を含む:(a)本発明のELOVL7遺伝子の発現レベルを検出する段階、および(b)発現レベルの上昇をPRCと関連づける段階を含む。
【0123】
生体試料におけるELOVL7遺伝子の発現レベルは、ELOVL7遺伝子に対応するmRNA、またはELOVL7遺伝子によってコードされるタンパク質を定量することによって評価することができる。mRNAの定量法は当業者に公知である。例えば、ELOVL7遺伝子に対応するmRNAのレベルは、ノーザンブロット分析またはRT-PCRによって評価できる。ELOVL7遺伝子の完全長ヌクレオチド配列は配列番号:14に示されているため、当業者は、ELOVL7遺伝子を定量するためのプローブまたはプライマーのヌクレオチド配列を設計することができる。
【0124】
ELOVL7遺伝子の発現レベルはまた、遺伝子によってコードされるタンパク質の量に基づいて分析することができる。ELOVL7タンパク質の量を決定するための方法を以下に示す。例えば、免疫測定法は、生物材料におけるタンパク質の測定に有用である。マーカー遺伝子(ELOVL7遺伝子)がPRC患者の試料において発現している限り、任意の生物材料を生体試料としてタンパク質またはその活性の測定に使用することができる。例えばそのような生体試料として、前立腺の腺管上皮細胞を挙げることができる。また、血液および尿のような体液もまた解析されうる。
【0125】
生体試料におけるELOVL7遺伝子の発現レベルまたはELOVL7ポリペプチドのタンパク質レベルを評価し、正常試料(例えば、疾患を有しない患者からの試料)における発現レベルと比較する。このような比較によって標的遺伝子の発現レベルまたはタンパク質レベルが正常試料におけるレベルよりも高いことが示された場合には、その対象はPRCに罹患していると判断される。正常対象由来および診断対象由来の生体試料におけるELOVL7遺伝子の発現レベルは、同時に決定してもよい。または、あらかじめ対照群から採集しておいた試料の遺伝子発現レベルを分析することで得た結果に基づく統計学的方法によって、発現またはタンパク質レベルの正常範囲を決定することができる。対象の試料を比較して得た結果をその正常範囲と比較する;その結果が正常範囲内に収まらない場合には、対象はPRCに罹患しているか、または発症のリスクを有すると判断される。
【0126】
本発明において、PRCのような細胞増殖性疾患を診断するための診断薬も提供される。本発明の診断薬は、本発明のポリヌクレオチドまたはポリペプチドと結合する化合物を含む。好ましくは、本発明のポリヌクレオチドとハイブリダイズするオリゴヌクレオチド、または本発明のポリペプチドと結合する抗体をこのような化合物として用いうる。
【0127】
PRCを診断する本方法を、対象におけるPRCの治療効果を評価するために適用することができる。本方法に従って、被験細胞集団のような生体試料を、PRCの治療を受けている対象から得ることができる。評価のための方法は、PRCを診断する従来の方法に従って行うことができる。
【0128】
必要に応じて、生体試料を、治療前、治療中、または治療後の様々な時点で対象から採取する。次に、生体試料におけるELOVL7遺伝子の発現レベルを決定し、例えばPRCの状態が明らかとなっている細胞を含む参照細胞集団(すなわち、癌性細胞もしくは非癌性細胞)由来の対照レベルと比較する。対照レベルは治療を受けたことがない生体試料で測定される。
【0129】
対照レベルが非癌性細胞を含む生体試料由来である場合、対象由来の生体試料における発現レベルと対照レベルの類似性により、治療の有効性が示される。対象由来の生体試料におけるELOVL7遺伝子の発現レベルと対照レベルの差により、あまり好ましくない臨床結果または予後が示される。
【0130】
「有効」という用語は、治療によって、異常に上方制御された遺伝子(ELOVL7遺伝子)の発現が減少するか、または対象におけるPRC細胞の大きさ、波及度、もしくは増殖能が減少することを意味する。治療を予防的に適用する場合、「有効」とは、治療がPRCの発生を遅らせる、もしくは防止することを意味する。PRCの評価は、標準的な臨床プロトコルを用いて行うことができる。さらに、治療の有効性は、PRCの診断または治療のための任意の公知の方法と関連させて判断される。
【0131】
その上、PRC診断の本方法は、被験細胞集団のような患者由来の生体試料におけるELOVL7遺伝子の発現レベルを対照レベルと比較することにより、PRCを有する対象の予後を評価するためにも適用することができる。または、患者由来の生体試料におけるELOVL7遺伝子の発現レベルを、患者の予後を評価するために全病期にわたって測定することができる。
【0132】
正常対照レベルと比較してELOVL7遺伝子の発現レベルが増加していることは、予後があまり好ましくないことを示している。ELOVL7遺伝子の発現レベルが減少していることは、患者にとってより好ましい予後を示している。
【0133】
化合物のスクリーニング
ELOVL7遺伝子、その遺伝子がコードするタンパク質、またはその遺伝子の転写制御領域を用いて、遺伝子の発現もしくはその遺伝子がコードするポリペプチドの生物学的活性を変化させる化合物をスクリーニングすることができる。そのような化合物を、PRCの治療または予防のための薬物として使用する。
【0134】
したがって、本発明は、本発明のポリペプチドを用いた、PRCを治療または予防するための化合物のスクリーニング方法を提供する。このスクリーニング方法の1つの態様には、(a)被験化合物を本発明のポリペプチドと接触させる段階、(b)本発明のポリペプチドと被験化合物との結合活性を検出する段階、および(c)本発明のポリペプチドと結合する化合物を選択する段階が含まれる。
【0135】
スクリーニングに用いる本発明のポリペプチドは、組換えポリペプチドでも天然由来のタンパク質でもよく、またはそれらの部分ペプチドでもよい。被験化合物と接触させる本発明のポリペプチドは、例えば、精製ポリペプチド、可溶性タンパク質、担体と結合した形態、または他のポリペプチドと融合した融合タンパク質でありうる。
【0136】
本発明のポリペプチドを用いて、例えば本発明のポリペプチドと結合するタンパク質をスクリーニングする方法として、当業者に周知の多くの方法を用いることができる。このようなスクリーニングは、例えば、免疫沈降法により、詳細には以下の方法で行うことができる。pSV2neo、pcDNA I、pcDNA 3.1、pCAGGS、およびpCD8といった外来遺伝子用の発現ベクターに遺伝子を挿入することにより、本発明のポリペプチドをコードする遺伝子を宿主細胞(例えば、動物細胞)などで発現させる。発現に用いるプロモーターは、一般に用いうる任意のプロモーターでよく、これには例えば、SV40初期プロモーター(Rigby in Williamson (ed.), Genetic Engineering, vol. 3. Academic Press, London, 83-141 (1982))、EF-αプロモーター(Kim et al., Gene 91: 217-23 (1990))、CAGプロモーター(Niwa et al., Gene 108: 193-200 (1991))、RSV LTRプロモーター(Cullen, Methods in Enzymology 152: 684-704 (1987))、SRαプロモーター(Takebe et al., Mol Cell Biol 8: 466 (1988))、CMV最初期プロモーター(Seed and Aruffo, Proc Natl Acad Sci USA 84: 3365-9 (1987))、SV40後期プロモーター(Gheysen and Fiers, J Mol Appl Genet 1: 385-94 (1982))、アデノウィルス後期プロモーター(Kaufman et al., Mol Cell Biol 9: 946-58 (1989))、HSV TKプロモーターなどが含まれる。外来遺伝子を発現させるための宿主細胞への遺伝子の導入は、任意の方法に従って行うことができ、これには例えば、エレクトロポレーション法(Chu et al., Nucleic Acids Res 15: 1311-26 (1987))、リン酸カルシウム法(Chen and Okayama, Mol Cell Biol 7: 2745-52 (1987))、DEAEデキストラン法(Lopata et al., Nucleic Acids Res 12: 5707-17 (1984)、Sussman and Milman, Mol Cell Biol 4: 1641-3 (1984))、リポフェクチン法(Derijard B., et al., Cell 7: 1025-37 (1994)、Lamb et al., Nature Genetics 5: 22-30 (1993)、Rabindran et al., Science 259: 230-4 (1993))などがある。本発明のポリペプチドは、本発明のポリペプチドのN末端またはC末端に、特異性が判明しているモノクローナル抗体のエピトープを導入することにより、モノクローナル抗体の認識部位(エピトープ)を含む融合タンパク質として発現させることができる。市販のエピトープ-抗体系を用いることもできる(Experimental Medicine 13: 85-90 (1995))。マルチクローニングサイトを用いることによって、例えばβ-ガラクトシダーゼ、マルトース結合タンパク質、グルタチオンS-トランスフェラーゼ、緑色蛍光タンパク質(GFP)などとの融合タンパク質を発現させるベクターが市販されている。
【0137】
融合によって本発明のポリペプチドの性質を変えないように数個〜十数個のアミノ酸からなる小さなエピトープのみを導入することによって作製された融合タンパク質も報告されている。ポリヒスチジン(Hisタグ)、インフルエンザ凝集素HA、ヒトc-myc、FLAG、水疱性口内炎ウィルス糖タンパク質(VSV-GP)、T7遺伝子10タンパク質(T7タグ)、ヒト単純ヘルペスウィルス糖タンパク質(HSVタグ)、Eタグ(モノクローナルファージ上のエピトープ)などのエピトープ、およびそれらを認識するモノクローナル抗体を、本発明のポリペプチドと結合するタンパク質のスクリーニングのためのエピトープ-抗体系として用いることができる(Experimental Medicine 13: 85-90 (1995))。
【0138】
免疫沈降において、適切な界面活性剤を用いて調製した細胞溶解物にこれらの抗体を添加することにより、免疫複合体を形成させる。免疫複合体は、本発明のポリペプチド、そのポリペプチドとの結合能があるポリペプチド、および抗体からなる。以上のエピトープに対する抗体を用いることに加えて、免疫沈降を本発明のポリペプチドに対する抗体を用いて行うこともでき、これらの抗体は上述の通りに調製することができる。
【0139】
免疫複合体は、抗体がマウスIgG抗体である場合、例えばプロテインAセファロースまたはプロテインGセファロースによって沈降させることができる。本発明のポリペプチドをGSTなどのエピトープとの融合タンパク質として作製する場合には、これらのエピトープと特異的に結合する基質、例えばグルタチオン-セファロース4Bを用いて、本発明のポリペプチドに対する抗体を用いる時と同じ方法で免疫複合体を形成させることができる。
【0140】
免疫沈降は、例えば、文献中に記載された方法に基づいてまたは従って行うことができる(Harlow and Lane, Antibodies, 511-52, Cold Spring Harbor Laboratory publications, New York (1988))。
【0141】
SDS-PAGEは免疫沈降したタンパク質の分析に一般に用いられており、結合したタンパク質はゲルを適切な濃度で用いてタンパク質の分子量によって分析することができる。本発明のポリペプチドと結合したタンパク質をクマシー染色または銀染色のような一般的な染色法によって検出することは困難であるため、タンパク質の検出感度は、放射性同位体である35S-メチオニンまたは35S-システインを含む培養液中で細胞を培養し、細胞内のタンパク質を標識した上でタンパク質を検出することによって改善することができる。タンパク質の分子量が明らかな場合には、標的タンパク質をSDS-ポリアクリルアミドゲルから直接精製して、その配列を決定することができる。
【0142】
ポリペプチドを使用して本発明のポリペプチドと結合するタンパク質のスクリーニングを行なうための方法として、例えば、ウエスト-ウェスタンブロット分析(Skolnik et al., Cell 65: 83-90 (1991))を用いることができる。詳細には、本発明のポリペプチドと結合するタンパク質は、細胞、組織、臓器(例えば、前立腺のような組織)、または本発明のポリペプチドと結合するタンパク質を発現すると予想される培養細胞(例えば、PC3、DU145、LNCaP、22Rv11)から、ファージベクター(例えば、ZAP)を用いてcDNAライブラリーを作製し、タンパク質をLB-アガロース上で発現させ、発現したタンパク質をフィルター上に固定し、精製および標識された本発明のポリペプチドを上記のフィルターと反応させ、そして本発明のポリペプチドと結合したタンパク質を発現するプラークを標識によって検出することにより得ることができる。本発明のポリペプチドは、ビオチンとアビジンとの結合を利用することにより、または本発明のポリペプチドと特異的に結合する抗体、もしくは本発明のポリペプチドと融合したペプチドもしくはポリペプチド(例えば、GST)を利用することにより、標識しうる。放射性同位体または蛍光などを用いる方法を用いてもよい。
【0143】
または、本発明のスクリーニング法の別の態様においては、細胞を利用するツーハイブリッドシステムを使用してもよい(「MATCHMAKERツーハイブリッドシステム」、「哺乳動物用MATCHMAKERツーハイブリッドアッセイキット」、「MATCHMAKERワンハイブリッドシステム」(Clontech);「HybriZAPツーハイブリッドベクターシステム」(Stratagene);参考文献「Dalton and Treisman, Cell 68: 597-612 (1992)」、「Fields and Sternglanz, Trends Genet 10: 286-92 (1994)」)。
【0144】
ツーハイブリッドシステムでは、本発明のポリペプチドをSRF結合領域またはGAL4結合領域と融合させて、酵母細胞で発現させる。本発明のポリペプチドに結合するタンパク質を発現すると予想される細胞からcDNAライブラリーが調製され、そのようなライブラリーは、発現した場合にVP16またはGAL4転写活性化領域と融合している。続いてcDNAライブラリーを上記の酵母細胞に導入し、検出された陽性クローンからライブラリーに由来するcDNAを単離する(本発明のポリペプチドに結合するタンパク質を酵母細胞で発現させた場合、この2つの結合によってレポーター遺伝子が活性化され、陽性クローンが検出されるようになる)。cDNAによってコードされるタンパク質は上記のようにして単離したcDNAを大腸菌に導入してタンパク質を発現させることによって調製することができる。
【0145】
レポーター遺伝子として、HIS3遺伝子のほかに、例えば、Ade2遺伝子、lacZ遺伝子、CAT遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子などを用いることができる。
【0146】
本発明のポリペプチドと結合する化合物を、アフィニティークロマトグラフィーを用いてスクリーニングすることもできる。例えば、本発明のポリペプチドをアフィニティーカラムの担体上に固定化し、本発明のポリペプチドと結合しうるタンパク質を含む被験化合物をカラムに加えてもよい。本明細書における被験化合物は、例えば、細胞抽出物、細胞溶解物などでありうる。被験化合物のローディング後に、カラムを洗浄し、本発明のポリペプチドと結合した化合物を調製することができる。
【0147】
被験化合物がタンパク質である場合には、得られたタンパク質のアミノ酸配列を分析して、その配列に基づいてオリゴDNAを合成し、そのオリゴDNAを、タンパク質をコードするDNAを得るためのプローブとして用いて、cDNAライブラリーをスクリーニングする。
【0148】
表面プラズモン共鳴現象を利用するバイオセンサーを、結合した化合物の検出または定量のための手段として本発明に用いることもできる。このようなバイオセンサーを用いると、ごく微量のポリペプチドのみを用いて、標識なしで、本発明のポリペプチドと被験化合物との相互作用を表面プラズモン共鳴シグナルとしてリアルタイムに観察することができる(例えば、BIAcore、Pharmacia)。このため、BIAcoreなどのバイオセンサーを用いて、本発明のポリペプチドと被験化合物との結合を評価することが可能である。
【0149】
本発明の固定化されたポリペプチドを、合成化合物、または天然物バンク、またはランダムファージペプチドディスプレイライブラリーに対して曝露させた場合に、結合する分子をスクリーニングする方法、および、本発明のタンパク質と結合するタンパク質だけでなく化合物(アゴニストおよびアンタゴニストを含む)も単離するために、コンビナトリアル化学技法に基づくハイスループット技法を用いたスクリーニング方法(Wrighton et al., Science 273: 458-64 (1996)、Verdine, Nature 384: 11-13 (1996)、Hogan, Nature 384: 17-9 (1996))は当業者に周知である。
【0150】
または、本発明は、以下の段階を含む、本発明のポリペプチドを用いた、PRCを治療または予防するための化合物のスクリーニング方法を提供する:
(a)本発明のポリペプチドと被験化合物を接触させる段階;
(b)段階(a)のポリペプチドの生物学的活性を検出する段階;および
(c)被験化合物の非存在下で検出される生物学的活性と比較して、ポリペプチドの生物学的活性を抑制する化合物を選択する段階。
【0151】
本発明のELOVL7タンパク質はPRC細胞の細胞増殖を促進する活性を有するため、この活性を指標として用いて、本発明のタンパク質のこの活性を阻害する化合物をスクリーニングすることができる。
【0152】
ELOVL7タンパク質の生物学的活性を含む限り、任意のポリペプチドをスクリーニングに使用することができる。このような生物学的活性には、ヒトELOVL7タンパク質の細胞増殖活性が含まれる。例えば、ヒトELOVL7タンパク質を用いることができ、これらのタンパク質と機能的に同等なポリペプチドを用いることもできる。このようなポリペプチドを、細胞によって内因的にまたは外因的に発現させてもよい。
【0153】
または、被験化合物の存在下でELOVL7タンパク質の脂肪酸伸長活性を直接検出することによって、分析を行うこともできる。これらの態様において、インビトロでのELOVL7の活性を、当技術分野で公知の方法を用いて検出する。例えば、Moonらによって述べられた手法(Moon YA, et al. J Biol Chem. 2001; 276:45358-45366)を一般に用いて、分画遠心法によってマイクロソームを、本発明のELOVL7ポリペプチドを発現する細胞から単離することもできる。マイクロソームを調製する好ましい方法は以下に記載する。典型的には、反応混合物は、本発明のELOVL7ポリペプチド(例えば、配列番号:15または配列番号:15と少なくとも約80%同一のポリペプチド)を含むマイクロソーム、および分析を行うための適切な試薬を含む。そのような試薬は、例えば、脂肪酸基質(例えば、アラキドイルCoA)、マロニルCoA、NADPH、および伸長産物を検出するための試薬を含む。試料における各脂肪酸レベルは、以下に記載するように、例えば、ガスクロマトグラフィー、マススペクトロメトリーを用いて解析することができる。本発明の脂肪酸伸長活性分析を行うために有用な上記の試薬を含むキットも提供される。
【0154】
このスクリーニングによって単離される化合物は、本発明のポリペプチドのアンタゴニストの候補である。「アゴニスト」という用語は、本発明のポリペプチドと結合することによってその機能を活性化する分子を指す。同様に、「アンタゴニスト」という用語は、本発明のポリペプチドと結合することによってその機能を阻害する分子を指す。さらに、「アゴニスト」としてこのスクリーニングによって単離された化合物は、本発明のポリペプチドと分子(DNAおよびタンパク質を含む)とのインビボでの相互作用を阻害する化合物の候補である。
【0155】
本方法において検出しようとする生物学的活性が細胞増殖である場合、実施例に記載されるように、例えば、本発明のポリペプチドを発現する細胞を調製し、この細胞を被験化合物の存在下で培養して、細胞増殖の速度を決定し、細胞周期などを測定し、さらにコロニー形成活性を測定することにより、それを検出することができる。
【0156】
さらなる態様において、本発明は、PRCを治療または予防するための化合物をスクリーニングする方法を提供する。上に詳述したように、ELOVL7の発現レベルを調節することにより、PRCの発症および進行を制御することができる。したがって、PRCの治療または予防に用いられる化合物は、ELOVL7の発現レベルを指標として用いるスクリーニングによって同定することができる。本発明において、このようなスクリーニングは例えば以下の段階を含みうる:
a) 被験化合物を、ELOVL7を発現する細胞と接触させる段階;および
b) 被験化合物の非存在下で検出される発現レベルと比較して、ELOVL7の発現レベルを低下させる化合物を選択する段階。
【0157】
少なくとも一つのELOVL7を発現する細胞には、例えば、PRCから樹立された細胞株が含まれる。このような細胞を、本発明の上記のスクリーニングに用いることができる(例えば、PC3、DU145、LNCaP、22Rv1)。発現レベルは、当業者に周知の方法によって評価することができる。本スクリーニング方法において、ELOVL7の発現レベルを低下させる化合物を、PRCの治療または予防に用いる候補薬剤として選択することができる。
【0158】
または、本発明のスクリーニング方法は以下の段階を含みうる:
a) 被験化合物を、マーカー遺伝子の転写制御領域およびその転写制御領域の調節下で発現されるレポーター遺伝子を含むベクターを導入した細胞と接触させる段階であって、マーカー遺伝子がELOVL7である、段階;
b) 該レポーター遺伝子の発現レベルまたは活性を測定する段階;および
c) 対照と比較して該レポーター遺伝子の発現レベルまたは活性を低下させる化合物を選択する段階。
【0159】
適切なレポーター遺伝子および宿主細胞は、当技術分野において周知である。スクリーニングに必要なレポーター構築物は、マーカー遺伝子の転写制御領域を用いて調製することができる。マーカー遺伝子の転写制御領域が当業者に公知である場合、その既知の配列情報を用いてレポーター構築物を調製することができる。マーカー遺伝子の転写制御領域が未知である場合、マーカー遺伝子のヌクレオチド配列情報に基づいて、転写制御領域を含むヌクレオチドセグメントをゲノムライブラリーから単離することができる。
【0160】
タンパク質の結合に用いる支持体の例には、アガロース、セルロース、およびデキストランなどの不溶性多糖類、ならびにポリアクリルアミド、ポリスチレン、およびシリコンなどの合成樹脂が含まれる。上記の材料から調製された市販のビーズおよびプレート(例えば、マルチウェルプレート、バイオセンサーチップなど)を用いることが好ましい。ビーズを用いる場合には、それらをカラムに充填してもよい。
【0161】
タンパク質の支持体への結合は、化学的結合および物理的吸着などの慣行的方法に従って行うことができる。または、タンパク質は、タンパク質を特異的に認識する抗体を介して支持体に結合させてもよい。さらに、アビジンおよびビオチンを用いて、タンパク質を支持体に結合させることもできる。
【0162】
タンパク質間の結合は、緩衝液がタンパク質間の結合を阻害しない限り、以下に限定されないが、例えばリン酸緩衝液およびTris緩衝液などの緩衝液中で行われる。
【0163】
本発明において、表面プラズモン共鳴現象を使用するバイオセンサーを、結合したタンパク質を検出または定量するための手段として用いることもできる。このようなバイオセンサーを用いると、ごく微量のポリペプチドのみを用いて、標識なしで、タンパク質間の相互作用を表面プラズモン共鳴シグナルとしてリアルタイムに観察することができる(例えば、BIAcore、Pharmacia)。
【0164】
または、ELOVL7ポリペプチドを標識し、結合したタンパク質の標識を用いて、結合したタンパク質を検出または測定することもできる。具体的には、タンパク質の一方をあらかじめ標識した後に、標識したタンパク質を被験化合物の存在下でもう一方のタンパク質と接触させ、次いで洗浄後に結合したタンパク質を標識によって検出または測定する。
【0165】
本方法におけるタンパク質の標識には、放射性同位体(例えば、3H、14C、32P、33P、35S、125I、131I)、酵素(例えば、アルカリホスファターゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、β-グルコシダーゼ)、蛍光物質(例えば、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、ローダミン)、およびビオチン/アビジンなどの標識物質を用いることができる。タンパク質を放射性同位体で標識する場合、検出または測定は液体シンチレーションによって行うことができる。または、酵素で標識したタンパク質は、酵素の基質を添加して呈色などのような基質の酵素的変化を吸光光度計で検出することにより、検出または測定しうる。さらに、蛍光物質を標識として用いる場合には、蛍光光度計を用いて結合したタンパク質を検出または測定し得る。
【0166】
本スクリーニングに抗体を用いる場合、抗体を上記の標識物質のいずれかで標識し、標識物質に基づいて検出または測定することが好ましい。または、ELOVL7ポリペプチドまたはアクチンに対する抗体を一次抗体として使用して、標識物質で標識した二次抗体によって検出してもよい。さらに、本発明のスクリーニングにおいてタンパク質に結合した抗体は、プロテインGまたはプロテインAカラムを用いて検出または測定することもできる。
【0167】
例えば、細胞抽出物、細胞培養上清、発酵微生物の産物、海洋生物からの抽出物、植物抽出物、精製タンパク質または粗タンパク質、ペプチド、非ペプチド化合物、合成微小分子化合物、および天然化合物などの任意の被験化合物を、本発明のスクリーニング法に用いることができる。本発明の被験化合物は、(1) 生物学的ライブラリー、(2) 空間的な位置づけ可能な平行固相または液相ライブラリー、(3) 逆重畳を必要とする合成ライブラリー法、(4) 「1ビーズ1化合物」ライブラリー法、および(5) アフィニティークロマトグラフィー選択を用いる合成ライブラリー法を含む、当技術分野で公知のコンビナトリアルライブラリー法における任意の多くの方法で入手することもできる。アフィニティークロマトグラフィー選択を用いる生物学的ライブラリー法は、ペプチドライブラリーに限定されるが、他の4つの方法はペプチド、非ペプチドオリゴマー、または化合物の低分子ライブラリーに適用可能である(Lam (1997) Anticancer Drug Des. 12: 145)。分子ライブラリーを合成する方法の例は、当技術分野に見出すことができる(DeWitt et al. (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 6909、Erb et al. (1994) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91: 11422、Zuckermann et al. (1994) J. Med. Chem. 37: 2678、Cho et al. (1993) Science 261: 1303、Carell et al. (1994) Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 33: 2059、Carell et al. (1994) Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 33: 2061、Gallop et al. (1994) J. Med. Chem. 37: 1233)。化合物のライブラリーは、溶液中に存在してもよく(Houghten (1992) Biotechniques 13: 412を参照されたい)、またはビーズ(Lam (1991) Nature 354: 82)、チップ(Fodor (1993) Nature 364: 555)、細菌(米国特許第5,223,409号)、胞子(米国特許第5,571,698号、同第5,403,484号、および同第5,223,409号)、プラスミド(Cull et al. (1992) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89: 1865)、もしくはファージ(Scott and Smith (1990) Science 249: 386、Delvin (1990) Science 249: 404、Cwirla et al. (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87: 6378、Felici (1991) J. Mol. Biol. 222: 301、米国特許出願第20020103360号)上に存在してもよい。
【0168】
本発明のスクリーニング法によって単離された化合物は、本発明のポリペプチドの活性を阻害する薬物の候補となり、例えばPRCのような細胞増殖性疾患の治療または予防に適用することができる。本発明のスクリーニング方法によって得られる化合物の構造の一部が、付加、欠失、および/または置換によって変換された化合物もまた、本発明のスクリーニング法によって得られる化合物に含まれる。
【0169】
前立腺癌を治療または予防するための薬学的組成物
本発明のスクリーニング方法によって選別される任意の化合物を含む前立腺癌を治療または予防するための組成物が本発明によって提供される。
【0170】
本発明のスクリーニング方法によって単離された化合物を細胞増殖性疾患(例えば、PRC)を治療するための薬剤として、ヒト、または例えば、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ブタ、ウシ、サル、ヒヒ、およびチンパンジーのような他の哺乳動物へ投与する場合、単離された化合物を直接投与することもできるし、または公知の薬学的調製法を用いて剤形に製剤化することもできる。例えば、必要に応じて、薬物は、糖衣錠、カプセル剤、エリキシル剤およびマイクロカプセルとして経口摂取されるか、または、水もしくは他の任意の薬学的に許容される液体を用いた滅菌溶液もしくは懸濁液の注射剤形で非経口摂取されうる。例えば、化合物は、薬学的に許容される担体または溶媒、具体的には滅菌水、生理食塩液、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定化剤、着香料、賦形剤、溶剤、保存剤、結合剤などと共に混合され、一般的に許容される投薬実施に必要な単位投与剤形となる。これらの調製物に含まれる活性成分の量は指示範囲内の適用量である。
【0171】
錠剤およびカプセル剤に混合することができる添加剤の例として、ゼラチン、コーンスターチ、トラガカントゴム、およびアラビアゴムのような結合剤;結晶セルロースのような賦形剤;コーンスターチ、ゼラチン、およびアルギン酸のような膨張剤;ステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤;スクロース、ラクトース、またはサッカリンのような甘味料;ならびにペパーミント、アカモノ油、およびチェリーのような着香料がある。単位投与剤形がカプセル剤である場合、油のような液体担体も同様に上記の成分に含むことができる。注射用滅菌混合物は、注射用蒸留水のような溶剤を用いて通常の投薬実施に従って製剤化することができる。
【0172】
生理食塩水、グルコース、ならびにD-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、および塩化ナトリウムのような補助剤を含む他の等張液は、注射用水溶液として用いることができる。これらは、特にエタノールのようなアルコール、プロピレングリコールおよびポリエチレングリコールのような多価アルコール、ポリソルベート80(登録商標)およびHCO-50のような非イオン性界面活性剤のような適切な溶解剤と共に用いることができる。
【0173】
溶解剤としての安息香酸ベンジルまたはベンジルアルコールと組み合わせて、ゴマ油または大豆油を油性液体として用いることができ、リン酸緩衝液および酢酸ナトリウム緩衝液のような緩衝液;塩酸プロカインのような鎮痛剤;ベンジルアルコールおよびフェノールのような安定化剤、ならびに抗酸化剤と共に製剤化してもよい。調製された注射剤は適したアンプルに充填してもよい。
【0174】
当業者に周知の方法を用いて、本発明の薬学的化合物を患者に、例えば動脈内、静脈内、または経皮注射として投与してもよく、同様に鼻腔内、気管支内、筋肉内、または経口投与としても投与してもよい。投与の用量および方法は、患者の体重および年齢ならびに投与法に応じて変化する;また一方、当業者は、それらを規定通りに選択することができる。該化合物がDNAにコードされる場合、DNAを遺伝子治療用ベクターに挿入して、治療を行うためにベクターを投与することができる。投与の用量および方法は、患者の体重、年齢、および症状に応じて変化するが、当業者はそれらを適切に選択することができる。
【0175】
症状によって異なるが、例えば、本発明のポリペプチドに結合してその活性を調節する化合物の用量は、平均的な成人(体重60 kg)に経口投与する場合、約0.1 mg〜約100 mg/日、好ましくは約1.0 mg〜約50 mg/日、より好ましくは約1.0 mg〜約20 mg/日である。
【0176】
平均的な成人(体重60 kg)に注射剤形で非経口投与する場合、患者、標的臓器、症状、および投与法によって多少の差があるが、約0.01 mg〜約30 mg/日、好ましくは約0.1〜約20 mg/日、およびより好ましくは約0.1〜約10 mg/日を静脈内注射することが都合がよい。同様に、他の動物の場合においても、体重60 kgに変換した量を投与することが可能である。
【0177】
さらに、本発明は、ELOVL7遺伝子の発現を阻害する活性成分を含むPRCを治療または予防するための薬学的組成物を提供する。そのような活性成分には、ELOVL7遺伝子に対するアンチセンスポリヌクレオチド、siRNA、またはリボザイム、またはそのアンチセンスポリヌクレオチド、siRNA、もしくはリボザイムの発現ベクターのような誘導体が含まれる。
【0178】
これらの活性成分は、誘導体に対して不活性である適切な基剤と混合することによって、リニメント剤または湿布剤のような外用調製物として調製することができる。同様に、必要に応じて、賦形剤、等張剤、溶解剤、安定化剤、保存剤、鎮痛剤等を加えることによって、錠剤、粉剤、顆粒剤、カプセル剤、リポソームカプセル、注射剤、溶液、点鼻液、および凍結乾燥剤として調製することができる。これらは従来の方法によって製剤化することができる。
【0179】
活性成分は、患部に直接塗布することによって、または患部に達するように血管に注入することによって患者に投与される。封入剤も、持続性および膜透過性を増加させるために使用される。封入剤の例として、リポソーム、ポリ-L-リジン、脂質、コレステロール、リポフェクチン、またはこれらの誘導体が含まれる。
【0180】
本発明の組成物の用量は、患者の病態に応じて適切に調節して、所望の量で用いることができる。例えば、0.1〜100 mg/kg、好ましくは0.1〜50 mg/kgの用量範囲を投与することができる。
【0181】
本発明の別の態様として、ELOVL7遺伝子によってコードされるポリペプチドに対する抗体またはそのポリペプチドへ結合する抗体の断片を含むPRCを治療または予防するための組成物がある。
【0182】
症状に応じて多少の差があるが、PRCを治療または予防するための抗体またはその断片の用量は、平均的な成人(体重60 kg)に経口投与する場合、約0.1 mg〜約100 mg/日、好ましくは約1.0 mg〜約50 mg/日、より好ましくは約1.0 mg〜約20 mg/日である。
【0183】
平均的な成人(体重60 kg)に注射剤形で非経口投与する場合、患者の状態、疾患の症状および投与法によって多少の差があるが、約0.01 mg〜約30 mg/日、好ましくは約0.1〜約20 mg/日、より好ましくは約0.1〜約10 mg/日を静脈内注射することが都合がよい。同様に、他の動物の場合においても、体重60 kgに変換した量を投与することが可能である。
【0184】
前立腺癌を治療または予防するための方法
本発明は、対象におけるPRCを治療または予防するための方法を提供する。治療用化合物は、PRCに罹患しているか、または発症のリスクを有する(または感受性である)対象に対して予防的または治療的に投与される。そのような対象は、標準的な臨床的方法を用いて、またはELOVL7の異常な発現レベルもしくは活性を検出することによって同定される。予防的投与は、疾患または障害を予防するため、またはその進行を遅らせるために、疾患の明白な臨床的症状の徴候が現れる前に行われる。
【0185】
治療法には、ELOVL7遺伝子の発現または機能を減少させる段階が含まれる。これらの方法では、対象において過剰発現している遺伝子(ELOVL7遺伝子)を減少させる化合物の有効量を用いて対象を治療する。投与は、全身投与もしくは局所投与でありうる。治療用化合物はPRC様細胞において内在的に存在するそのような遺伝子の発現レベルを減少させる化合物を含む(すなわち、過剰発現遺伝子の発現を下方制御する化合物)。そのような治療用化合物の投与は、対象の細胞において異常に過剰発現した遺伝子の効果に対抗し、対象の臨床状態を改善すると予想される。そのような化合物は、上記の本発明のスクリーニング方法によって得ることができる。
【0186】
ELOVL7遺伝子の発現は、その遺伝子の発現を阻害もしくは拮抗する核酸を対象に投与することを含む、当技術分野で公知のいくつかの方法で阻害してもよい。その遺伝子の発現を妨害するアンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、またはリボザイムを、その遺伝子の発現を阻害するために用いうる。
【0187】
上述したように、ELOVL7遺伝子のヌクレオチド配列に対応するアンチセンスオリゴヌクレオチドを用いて、ELOVL7遺伝子の発現レベルを減少させることができる。詳細には、本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドは、ELOVL7遺伝子がコードするポリペプチドもしくはそれに対応するmRNAに結合し、それによって、遺伝子の転写または翻訳を阻害し、mRNAの分解を促進し、および/またはその遺伝子によってコードされるタンパク質の発現を阻害して、最終的にELOVL7タンパク質の機能を阻害することによって作用しうる。
【0188】
そのアンチセンスオリゴヌクレオチドおよびその誘導体は、誘導体に対して不活性である適切な基剤と混合することによって、リニメント剤または湿布剤のような外用調製物として作製し、本発明のPRCを治療または予防するための方法に利用することができる。
【0189】
過剰発現した遺伝子の一つまたは複数の遺伝子産物を阻害する核酸は、ELOVL7遺伝子をコードするヌクレオチド配列のセンス鎖核酸とアンチセンス鎖核酸の組み合わせを含む低分子干渉RNA(siRNA)も含む。siRNAを細胞に導入するための標準的な方法は、本発明の治療または予防に用いられ、これらの技術には、DNAがRNAを転写する鋳型となる技術が含まれる。そのsiRNAは、単一の転写物が、標的遺伝子のセンス配列および相補的なアンチセンス配列の双方を有する、例えばヘアピンのように構築される。
【0190】
方法は、ELOVL7遺伝子の発現が上方制御された細胞の遺伝子発現の抑制に利用される。標的細胞における、ELOVL7遺伝子の転写物に対するsiRNAの結合は、細胞によるELOVL7タンパク質の産生を減少させる。
【0191】
過剰発現した遺伝子の遺伝子産物を阻害する核酸はまた、過剰発現遺伝子(ELOVL7遺伝子)に対するリボザイムを含む。
【0192】
さらに、本発明は、本発明のポリペプチドに対する抗体を用いた、PRCのような細胞増殖性疾患の治療または予防のための方法を提供する。本方法に従って、本発明のポリペプチドに対する抗体の薬学的有効量を投与する。ELOVL7タンパク質の発現はPRC細胞で上方制御され、これらのタンパク質の発現抑制は細胞増殖活性の低下をもたらすため、抗体とこれらのタンパク質との結合により、細胞増殖性疾患の治療または予防が可能であると考えられる。このため、本発明のポリペプチドに対する抗体は、本発明のタンパク質の活性を低下させるのに十分な用量で投与され、これは0.1〜約250mg/kg/日の範囲である。成人に対する用量の範囲は、一般に約5mg 〜約17.5g/日であり、好ましくは約5mg 〜約10g/日、最も好ましくは約100mg 〜約3g/日である。
【0193】
または、腫瘍細胞に特異的な細胞表面マーカーと結合する抗体を薬物送達のためのツールとして用いることもできる。例えば、細胞障害物質と結合させた抗体を、腫瘍細胞を損傷させるのに十分な用量で投与する。
【0194】
本発明はまた、抗腫瘍免疫を誘導する方法であって、ELOVL7タンパク質もしくはその免疫活性断片、またはタンパク質をコードするポリヌクレオチド、またはその断片を投与する段階を含む方法にも関する。ELOVL7タンパク質またはその免疫活性断片は、PRCのような細胞増殖性疾患に対するワクチンとして有用である。場合によっては、タンパク質またはその断片を、T細胞受容体(TCR)と結合した形態、またはマクロファージ、樹状細胞(DC)もしくはB細胞などの抗原提示細胞(APC)によって提示された形態として投与することもできる。DCの抗原提示能力が高いことから、APCの中でDCを用いることが最も好ましい。
【0195】
本発明において、細胞増殖性疾患に対するワクチンとは、動物に接種した時に抗腫瘍免疫を誘導する機能を有する物質を指す。一般に、抗腫瘍免疫には以下のような免疫応答が含まれる:
‐腫瘍に対する細胞障害性リンパ球の誘導
‐腫瘍を認識する抗体の誘導、および
‐抗腫瘍サイトカイン産生の誘導。
【0196】
このため、動物に接種した時にある特定のタンパク質がこれらの免疫応答を誘導する場合、そのタンパク質は抗腫瘍免疫誘導作用を有すると判定される。タンパク質による抗腫瘍免疫の誘導は、宿主におけるタンパク質に対する免疫系の応答を、インビボまたはインビトロで観察することによって検出しうる。
【0197】
例えば、細胞障害性Tリンパ球の誘導を検出するための方法はよく知られている。生体の内部に進入する外来物質は、抗原提示細胞(APC)の作用によってT細胞およびB細胞に対して提示される。APCにより提示された抗原に対して抗原特異的な様式で応答するT細胞は、抗原による刺激のために細胞障害性T細胞(または細胞障害性Tリンパ球;CTL)へと分化し、その後増殖する(これはT細胞の活性化と呼ばれる)。したがって、特定のペプチドによるCTL誘導は、そのペプチドをAPCによりT細胞に対して提示させ、CTLの誘導を検出することによって評価することができる。さらに、APCにはCD4+ T細胞、CD8+ T細胞、マクロファージ、好酸球およびNK細胞を活性化する作用もある。CD4+ T細胞およびCD8+ T細胞も抗腫瘍免疫において重要であるため、これらの細胞の活性化作用を指標として用いてペプチドの抗腫瘍免疫誘導作用を評価することができる。
【0198】
樹状細胞(DC)をAPCとして用いてCTLの誘導作用を評価するための方法は、当技術分野で周知である。DCはAPCの中でも最も強いCTL誘導作用を有する代表的なAPCである。この方法では、まず被験ポリペプチドをDCと接触させ、続いてこのDCをT細胞と接触させる。DCとの接触後に目的の細胞に対する細胞障害作用を有するT細胞が検出されれば、被験ポリペプチドが細胞障害性T細胞を誘導する活性を有することが示される。腫瘍に対するCTLの活性は、例えば、51Cr標識した腫瘍細胞の溶解を指標として用いて検出することができる。または、3H-チミジン取り込み活性またはLDH(ラクトースデヒドロゲナーゼ)放出を指標として用いて腫瘍細胞の損傷の程度を評価する方法も周知である。
【0199】
DC以外に、末梢血単核細胞(PBMC)をAPCとして用いてもよい。CTLの誘導は、PBMCをGM-CSFおよびIL-4の存在下で培養することによって増強されうることが報告されている。同様に、CTLは、PBMCをキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)およびIL-7の存在下で培養することによっても誘導されることが示されている。
【0200】
これらの方法によってCTL誘導活性を有することが確認された被験ポリペプチドは、DC活性化作用とそれに続くCTL誘導活性とを有するポリペプチドである。このため、腫瘍細胞に対するCTLを誘導するポリペプチドは腫瘍に対するワクチンとして有用である。さらに、ポリペプチドとの接触によって腫瘍に対するCTLを誘導する能力を獲得したAPCも腫瘍に対するワクチンとして有用である。さらに、APCによるポリペプチド抗原の提示によって細胞障害性を獲得したCTLを腫瘍に対するワクチンとして用いることもできる。APCおよびCTLに起因する抗腫瘍免疫を用いた、腫瘍に対するこのような治療方法は、細胞免疫療法と呼ばれる。
【0201】
一般に、細胞免疫療法にポリペプチドを用いる場合、構造の異なる複数のポリペプチドを併用し、それらをDCと接触させることによってCTL誘導の効率が高まることが知られている。このため、DCをタンパク質断片で刺激する場合には、多くの種類の断片の混合物を用いることが有利である。
【0202】
または、ポリペプチドによる抗腫瘍免疫の誘導を、腫瘍に対する抗体産生の誘導を観察することによって確認することもできる。例えば、ポリペプチドに対する抗体が、ポリペプチドで免疫した実験動物において誘導された場合、および腫瘍細胞の増殖がこのような抗体によって抑制された場合、そのポリペプチドは抗腫瘍免疫を誘導する能力があると判定することができる。
【0203】
抗腫瘍免疫は本発明のワクチンを投与することによって誘導され、抗腫瘍免疫の誘導により、PRCのような細胞増殖性疾患の治療および予防が可能になる。癌に対する治療法または癌の発生の予防は、癌性細胞の増殖阻害、癌の退縮、および癌の発生の抑制などの任意の段階のいずれかを含む。癌を有する個体の死亡率の低下、血液中の腫瘍マーカーの減少、癌に付随する検出可能な症状の緩和なども癌の治療または予防の効果に含まれる。このような治療効果および予防効果は統計学的に有意であることが好ましい。例えば、観測値で、細胞増殖性疾患に対するワクチンの治療効果または予防効果をワクチン投与を行わない対照と比較して、5%またはそれ未満は有意水準である。統計分析には、例えば、スチューデントのt検定、マン-ホイットニーのU検定またはANOVAを用いうる。
【0204】
免疫学的活性を有する上記のタンパク質、またはタンパク質をコードするベクターを、アジュバントと併用してもよい。アジュバントとは、免疫学的活性を有するタンパク質と一緒に(または連続して)投与した場合に、そのタンパク質に対する免疫応答を増強する化合物を指す。アジュバントの例には、コレラ毒素、サルモネラ毒素、ミョウバンなどが含まれるが、これらに限定されない。さらに、本発明のワクチンを薬学的に許容される担体と適宜配合してもよい。このような担体の例には、滅菌水、生理食塩水、リン酸緩衝液、培養液などが含まれる。さらに、ワクチンは、必要に応じて安定化剤、懸濁剤、保存剤、界面活性剤などを含んでもよい。ワクチンは全身または局所的に投与される。ワクチン投与は単回投与によって行ってもよく、または多回投与による追加刺激を行ってもよい。
【0205】
APCまたはCTLを本発明のワクチンとして用いる場合、腫瘍を、例えばエクスビボの方法によって治療または予防することができる。より具体的に述べると、治療的または予防的療法を受ける対象のPBMCを採集し、細胞をエクスビボでポリペプチドと接触させ、APCまたはCTLの誘導後に、細胞を対象に投与しうる。ポリペプチドをコードするベクターをPBMC中にエクスビボで導入することによってAPCを誘導することもできる。インビトロで誘導されたAPCまたはCTLは投与前にクローニングすることができる。標的細胞を損傷させる高い活性を有する細胞のクローニングおよび増殖を行うことにより、細胞免疫療法をより効率的に行うことができる。さらに、このようにして単離されたAPCおよびCTLは、細胞が由来する個体に対する細胞免疫療法のみならず、他の個体の同様の種類の腫瘍に対する細胞免疫療法にも用いうる。
【0206】
さらに、ELOVL7ポリペプチドの薬学的有効量を含む、PRCのような細胞増殖性疾患の治療または予防のための薬学的組成物を提供する。本薬学的組成物は抗腫瘍免疫を生じさせるために用いうる。ELOVL7の通常の発現は、前立腺に限定されている。このため、この遺伝子の抑制は、他の臓器に悪影響を及ぼさない。したがって、ELOVL7ポリペプチドは細胞増殖性疾患、特にPRCを治療するのに好ましい。さらに、癌性細胞で特異的に発現しているタンパク質のペプチド断片は、癌に対する免疫応答を誘導することが分かっているため、ELOVL7のペプチド断片はPRCのような細胞増殖性疾患を治療または予防するための薬学的組成物に利用することができる。本発明において、ポリペプチドまたはその断片は抗腫瘍免疫を誘導するのに十分な用量で投与され、これは0.1mg〜10mg、好ましくは0.3mg〜5mg、より好ましくは0.8mg〜1.5mgの範囲である。投与は反復される。抗腫瘍免疫を誘導するには、例えば、1mgのペプチドまたはその断片を2週間毎に4回投与してもよい。
【0207】
さらに、ELOVL7をコードするポリヌクレオチド、またはその断片は抗腫瘍免疫を引き起こすために使用することができる。そのようなポリヌクレオチドは、治療を受ける対象においてELOVL7またはその断片を発現させる発現ベクターに組み込まれてもよい。したがって、本発明は、抗腫瘍免疫を誘導するための方法を含み、ELOVL7をコードするポリヌクレオチドまたはその断片は、PRCのような細胞増殖性疾患を罹患しているか、または発症するリスクを有する対象へ投与される。
【0208】
以下の実施例は、本発明を例示するとともに、当業者によるその作製および使用を補助する目的で提示される。実施例はいかなる形でも本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0209】
別に定義する場合を除き、本明細書で用いるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する当業者が一般的に理解しているものと同じ意味を有する。本発明の実施または検討においては本明細書に記載したものと同様または同等の方法および材料を用いることができるが、好ましい方法および材料を以下に説明する。本明細書中に引用する任意の特許、特許出願および刊行物は参照により本明細書に組み入れられる。
【0210】
発明を実施するための最良の形態
本発明を以下の実施例によって詳細に例示するが、これらの実施例に限定されない。
【0211】
細胞株および組織
ヒトPRC細胞株である LNCaP、DU-145、22Rv1、およびPC-3 を、American Type Culture Collection(ATCC、ロックビル、メリーランド州)から入手した。すべての細胞は以下の培地で単層培養した:10%ウシ胎仔血清および1%抗生物質/抗真菌剤溶液(Sigma-Aldrich)を加えた、LNCaPおよび22Rv1用として、RPMI1640(Sigma-Aldrich、セントルイス、ミズーリ州);およびDU-145用として、DMEM(Sigma-Aldrich);およびPC-3用として、F-12(Invitrogen、カールスバッド、カリフォルニア州)。細胞を37℃で5%CO2の加湿空気を含むインキュベーターで維持した。すでに記載ているように、凍結もしくはパラフィン包埋したPRC組織は、適切なインフォームドコンセントを得た上で、前立腺全摘除術を受けたPRC患者から入手した(Ashida S.,et. al., Cancer Res 2004;64:5963-72)。
【0212】
半定量的RT-PCR
全RNAを、製造者の説明書に従って、細胞株、微小切除したPRC細胞、およびPRC組織塊からTRIzol試薬(Invitrogen)を用いて抽出した。抽出した全RNAをDNaseI(Roche Diagnostic、マンハイム、ドイツ)で処理し、オリゴd(T)12-18プライマーを用いてSuperscript reverse transcriptase II(Invitrogen)で単鎖cDNAへ逆転写した。各単鎖cDNAを適切に希釈を調製して、定量対照としてのβ2-MGを用いてcDNA用量を標準化し、単鎖cDNAをPCR鋳型として用いてPCR反応を行った。プライマー配列は以下の通りである:
β2-MG(フォワード: 5'-CACCCCCACTGAAAAAGAGA-3'(配列番号:1)、リバース: 5'-TACCTGTGGAGCAAGGTGC-3' (配列番号:2))、および
ELOVL7(フォワード: 5'-TCTATGAATCCTTGAGGGCCTA-3' (配列番号:3)、リバース:5'- TGACAACATCCACAGAATGTTCC-3' (配列番号:4))。
PCRは以下の条件でGeneAmp PCR system 9700(PE Applied Biosystems、フォスター、カリフォルニア州)を用いて行った:95℃で5分間の初期変性、95℃で30秒間の変性を、β2-MGの場合は20サイクル、ELOVL7の場合は30サイクル、55℃で30秒間のアニーリング、および、72℃で30秒間の伸長。
【0213】
ノーザンブロット解析
ヒト多組織ブロット(BD Bioscience、パロアルト、カリフォルニア州)を、Mega Label Kit(Amersham、ピスカタウェイ、ニュージャージー州)を用いて標識した32P標識ELOVL7cDNAと20時間ハイブリダイズさせた。ELOVL7のcDNAプローブを、以下のプライマーを用いて、785 bpのPCR産物として調製した:
ELOVL7(フォワード:5'-AGAGCACAGCTAAATGAAACTGC-3' (配列番号:5)、リバース:5'- TGACAACATCCACAGAATGTTCC-3' (配列番号:6))。
プレハイブリダイゼーション、ハイブリダイゼーション、および洗浄は製造業者の説明書に従って行った。ブロットは-80℃で7日間、オートラジオグラフィーを行った。
【0214】
ELOVL7に対する抗体の作製および免疫組織化学解析
ELOVL7のN末端ペプチド(SDLTSRTVHLYDNWIKDA)(配列番号:16)およびC末端ペプチド(CHFWYRAYTKGQRLPKTVK)(配列番号:17)は、MBL(名古屋、日本)によって作製され、ウサギへ免疫される。免疫されたウサギの血清は、これらのペプチドで精製された。パラフィン包埋組織切片は脱パラフィン化され、高pHの抗原回復液(DAKO、カーピンテリア、カリフォルニア州)中で600Wのマイクロ波処理を1分間、4回行い、その後ペルオキシダーゼブロック試薬(DAKO)、続いてタンパク質ブロック試薬(DAKO)で処理した。組織切片は、ELOVL7に対するポリクローナル抗体、その後西洋ワサビペルオキシダーゼ結合二次抗体(DAKO)とともにインキュベートした。抗原はジアミノベンジジン染色(DAKO)を用いて可視化し、切片をヘマトキシリンで対比染色した。
【0215】
siRNA発現ベクターの構築および細胞生存率分析
PRC細胞でのELOVL7の生物学的機能を調べるため、本発明者らは、これまでに記述のあるように、標的遺伝子に対するショートヘアピンRNAの発現用としてpsiU6BX3.0ベクターを用いた(Anazawa Y, et al., Cancer Res. 2005;65:4578-86)。siRNAを発現させるために設計したプラスミドを、psiU6BXベクターに二重鎖オリゴヌクレオチドをクローニングすることによって調製した。ELOVL7に対する標的配列のオリゴヌクレオチド配列は、以下の通りである:
si#5のセンス鎖配列:5'-CAAGCAACAACAACAACAA-3'(配列番号:7)および
陰性対照としてのsiEGFP:5'-GAAGCAGCACGACTTCTTC-3'(配列番号:11)。
ELOVL7を高発現しているPRC細胞株であるLNCaPおよび22Rv1細胞(2×106)を、10cmディッシュで培養し、供給者のプロトコルに従って、FuGene6試薬(Roche)を用いてpsiU6-ELOVL7 (si#5)またはpsiU6-siEGFPをトランスフェクトし、800 μg/mlのジェネテシンを含む適切な培地で2週間培養した。細胞を100%メタノールで固定し、コロニー形成試験のため0.1%のクリスタルバイオレット-H2Oで染色した。MTT分析において、細胞生存率を、トランスフェクション10日後にCell-counting kit-8(DOJINDO、熊本、日本)を用いて測定した。吸光度は490nmと参照として630nmでマイクロプレートリーダー 550(Bio-Rad)を用いて測定した。事前に、内在性ELOVL7発現におけるこれらのsiRNA発現ベクターのノックダウン効果を、上述のプライマーを用いてRT-PCRによってトランスフェクション7日後に評価した。
【0216】
ELOVL7の低分子干渉RNAに用いたオリゴヌクレオチド配列を以下に示す。
【表1】

【0217】
ELOVL7ノックダウン細胞における脂肪酸分析
LNCaP細胞を、siRNA発現ベクター(si5または対照siEGFP)を用いてトランスフェクトし、ジェネテシンとともに7日間インキュベートした。事前に、ELOVL7発現に対するノックダウン効果を評価し、細胞生存率または活性細胞数は7日目では影響がなかった。7日目に、Folch液(メタノール:クロロホルム、 1:2、体積:体積)によって、脂質を細胞から抽出し、窒素雰囲気下で蒸発させた。0.5M HClで水和した後、遊離脂肪酸をクロロホルムで抽出し、0.4Kメトキシド/メタノールおよび14%三フッ化ホウ素メタノールでメチルエステル化した。細胞におけるそれぞれの脂肪酸レベルは、ガスクロマトグラフィーマススペクトロメトリー(GC-17A、Shimazu、京都、日本)に従った。
【0218】
昆虫細胞での組換えタンパク質の発現
ELOVL7を発現する組換えバキュロウィルスは、製造業者の説明書に従ってBacPAKバキュロウィルス発現システム(Clontech)を用いて作製された。全長ELOVL7cDNA(Genbank登録番号 NM_024930)は、NH2末端で6×HISタグ配列を含むように設計された以下のプライマーを用いてPCR増幅し、pBacPAK9ベクターへクローニングした。ELOVL7に対するフォワードプライマーは、
5'-CCCCTGGGATCCACCATGGGTCATCATCATCACCATCACGAATTCGCCTTCAGTGATCTTACATCG-3'(配列番号:18)および
リバースプライマーは、
5'-CCGCTCGAGTCAATTATCTTTGTTTTTGCAAGTTCC-3'(配列番号:19)
である。ヨトウガ(sf21)細胞は、10%ウシ胎児血清および50μg/mlのゲンタマイシン(Sigma-Aldrich)を添加したグレース昆虫培地(GIBCO)で、27℃で培養し、望ましい組換えバキュロウィルスを感染させた。感染72時間後、細胞を回収しPBSで一度洗浄した。マイクロソームは、Moonらによる方法(Moon YA, et al. J Biol Chem. 2001; 276:45358-45366)を修正した分画遠心法を用いて単離した。簡単に述べると、細胞を、0.25Mスクロース、10 mM Tris-Cl (pH7.4)、1 mM EDTA、および0.1% protease inhibitor cocktail III (Calbiochem、サンディエゴ、カリフォルニア州)に懸濁させ、マイクロソン超音波細胞破砕機で破砕した。細胞破砕物は、4℃、5000rpmで10分間で遠心分離し、上清を回収して、4℃、15,000rpmで20分間で遠心分離した。得られた上清を、Beckman TLA 100.2 ローターを用いて4℃、55,000rpmで30分間で遠心分離し、ペレットを、50 mM Tris-Cl (pH7.4)、1 mM EDTA、20%グリセロールおよび上記のprotease inhibitor cocktail III を含む緩衝液に懸濁した。マイクロソームのアリコートを、液体窒素で急速凍結して-80℃で保存し、ウェスタンブロット解析およびインビトロでの脂肪酸伸長分析に用いた。
【0219】
ウェスタンブロット解析
マイクロソームタンパク質を、タンパク質の凝集を防ぐため4℃で一晩、SDS試料用緩衝液で変性させた。それぞれ30μgのSDS試料を、15%SDS-PAGEゲルでローディングし、ニトロセルロース膜へブロットした。タンパク質のバンドは、化学発光検出システム(ECL, Amersham)で可視化した。
【0220】
インビトロ脂肪酸伸長分析
脂肪酸伸長活性を、上記のバキュロウィルス感染Sf21細胞から調製したマイクロソームで測定した。反応混合物は、全反応容量である0.45 ml中に10〜200μgのマイクロソームを含む。反応成分は、0.1 M Tris-Cl(pH 7.4)、3 mMアラキドイルCoA、7.5 mMマロニルCoA、20 mM NADPH、および0.6 mM脂肪酸非含有BSA(Sigma-Aldrich)であった。反応混合物のガラスチューブ内の気相は、氷上で5分間窒素ガスで置換された後、シリンジを用いてマイクロソームをガラスチューブ内へ注入した。反応は、5分間、37℃でインキュベートされ、Folch液(メタノール:クロロホルム 1:2、体積:体積)で停止させた。反応サンプル中のそれぞれの脂肪酸レベルは、上記のガスクロマトグラフィーマススペクトロメトリーを用いて解析された。
【0221】
結果
新規遺伝子ELOVL7の同定およびその発現パターン
本発明者らは以前、27,000遺伝子に相当するcDNAマイクロアレイ解析とLMMシステムを併用することによって臨床PRC組織から純化されたPRC細胞およびPINの網羅的ゲノムの発現プロファイルを報告した(Ashida S., et. al., Cancer Res 2004;64:5963-72)。正常前立腺上皮細胞と比較してPRC細胞および/またはPIN細胞でトランス活性化されたいくつかの遺伝子の中で、本明細書ではELOVL7に注目した。半定量的RT-PCRにより、図1Aに示したように、正常前立腺上皮細胞と比較して、12の臨床PRC試料のうち8のPRC細胞においてELOVL7発現の上昇を確認した。ELOVL7の組織分布を調べるためのノーザンブロット解析により、おおよそ3.8 kbのELOVL7転写物を前立腺、腎臓およびその他いくつかの組織で確認したが(図1B)、RT-PCR解析(図1C)では、PRC細胞におけるELOVL7の発現が、正常腎臓または前立腺において明らかに上昇していたことから、PRC細胞において異所的な発現をしていることが示された。PRC細胞におけるさらなるELOVL7タンパク質の発現調査のため、N末端またはC末端ペプチドの免疫によってELOVL7に対するポリクローナル抗体を作製し、免疫組織化学解析を行った。図2Aに示したように、ELOVL7に対する強い免疫化学シグナルが、測定した12のPRCすべてで、主にPRC細胞の細胞質に検出されたが、一方、多組織ノーザンブロット解析の結果に一致して非癌性前立腺上皮細胞およびPIN(図 2B、C)では弱いシグナルが観察された。測定した12すべてのPRCは抗ELOVL7抗体に強い免疫反応性を示した。
【0222】
ELOVL7の発現のノックダウンによる前立腺癌細胞の増殖の減衰
PRC細胞増殖におけるELOVL7発現の役割を調べるため、ELOVL7に特異的なsiRNAを発現するように設計されたいくつかの発現ベクターを構築し、それらをELOVL7を内在的に発現しているPRC細胞株であるLNCaPおよび22Rv1へトランスフェクトした。LNCaP細胞で試験した5個のプラスミドのうち、ELOVL7-si#5が内在性ELOVL7転写物の有意なノックダウン効果を示し(図3A)、このトランスフェクションはコロニー数の減少をもたらし(図3B)、同様に、LNCaP細胞のMTT分析により測定された生存細胞も減少させたが(図3C)、一方、陰性対照(siEGFP)はELOVL7発現のノックダウン効果はほとんど示さず、LNCaPの細胞生存率にも影響を与えなかった。図3D、EおよびFに示したように、同様の知見が他のPRC細胞株である22Rv1細胞においても得られた。
【0223】
ELOVL7のノックダウンによる脂肪酸分画の変化
次に、ELOVL7発現のノックダウンによる脂肪酸合成への影響を試験した。ELOVL7に有意なノックダウン効果が確認されたELOVL7-si5、またはLNCaP細胞に陰性対照としてのsiEGFPをトランスフェクトした。ELOVL7の発現は明らかにノックダウンされたが、siELOVL7をトランスフェクトされた細胞の細胞生存率はsiEGFPトランスフェクション細胞と比較して有意な変化がない、トランスフェクション後7日目に、細胞を回収して、ガスクロマトグラフィーを用いて脂肪酸分画を解析した。ELOVL7-si5トランスフェクションは、siEGFPトランスフェクションと比較して、長鎖および超長鎖飽和脂肪酸レベル(C20:0 p=0.02、C22:0 p=0.008、C24:0 p=0.003)を有意に減少(20-30%)させたが(図 4)、一方、ELOVL7-si5のトランスフェクションはモノ不飽和脂肪酸およびポリ不飽和脂肪酸レベルには影響を与えなかった。これらの知見は、ELOVL7がモノ不飽和長鎖脂肪酸の伸長活性に優先的に関与していることを示した。
【0224】
インビトロ脂肪酸伸長分析
脂肪酸エロンガーゼとしてのELOVL7の実際の活性についてより詳細に検討するために、BacPAKバキュロウィルス発現システムを用いて組換えELOVL7タンパク質を作製した。この組換えバキュロウィルスはおよそ30kDaのタンパク質を産生し、抗Hisモノクローナル抗体を用いたウェスタンブロット解析により、発現したELOVL7タンパク質は細胞のマイクロソームに存在することが示された(図 5A)。ELOVL7発現ウィルスをトランスフェクトした、またはしなかった昆虫細胞のマイクロソーム分画をインビトロでの脂肪酸伸長分析の酵素原料として用いた。伸長活性は5分間の反応の前後でそれぞれの脂肪酸レベルの増加として測定された。まず、ステアロイルCoA(C18:0)は、上記のsiRNA実験の結果から伸長活性における基質として経験的に選択された。しかし、マイクロソームにおける半分の脂肪酸は、脂肪酸分画の違いをマスクしたステアリン酸(C18:0)を含むことが明らかとなった。そのため、アラキドイルCoA(C20:0)が、基質として用いられた。図5Bは、5分間の反応の前後でのそれぞれの脂肪酸レベルの増加を示し、対照マイクロソームはC22:0およびC24:0は全くないがC20:0を産生しているのに対し、感染細胞のマイクロソームはC22:0およびC24:0を産生したことを示した。対照マイクロソームによるC20:0の産生はSf21昆虫細胞の内在性脂肪酸伸長活性によるものと考えられ、ヒトELOVL7タンパク質を含むマイクロソームにおいて、C20:0から、C22:0、C24:0またはそれ以上への伸長が活発に進行し、C20:0の産生が非常に少ないという結果になった(図 5B)。その上、この脂肪酸鎖伸長活性は、酵素源である感染細胞のマイクロソームの用量に依存した(図 5C)。これらのデータは、マイクロソーム中のELOVL7による、C22:0およびC24:0を産生する実際の脂肪酸エロンガーゼ活性を示した。
【0225】
考察
本発明において、本発明者はPRCにおけるトランス活性化遺伝子の一つとして、新規遺伝子ELOVL7に注目した。ノーザンブロット解析により、ELOVL7は前立腺および腎臓に発現することが示されたが、RT-PCR解析では、PRC細胞のELOVL7発現は正常腎臓および他の生存に必須な組織より明らかに高いことが示された。ELOVL7発現のこれらの知見は、PRC細胞における特徴的な発現および好ましい分子標的である可能性を明らかにし、生存に必須な組織での副作用が最小となるような新規治療法のための分子標的としてELOVL7を見なすことができた。ポリクローナル抗体を用いた免疫組織化学による実験においても、PRC細胞におけるELOVL7発現の上方制御が示された。
【0226】
これまでのところ、哺乳動物において6つのELOVLファミリーメンバー(ELOVL1−6)が報告されており、このうち数個は組織特異的発現を示し、または特異的脂肪酸基質を使用する。PRCおよび他の臓器における網羅的ゲノム発現データ(Ashida S., et. al., Cancer Res 2004;64:5963-72)によると、7つのELOVLファミリーメンバー(ELOVL1-7)の中で、ELOVL7は前立腺およびPRC細胞において高レベルで発現している。ELOVL発現パターンに対するこれらの知見は、ELOVL7がおそらく前立腺およびPRCで特異的に機能し、長鎖脂肪酸のさまざまな代謝経路の外に前立腺において特異的な経路に関連するという推測を導くことができる。このように、前立腺またはPRCにおけるELOVL7が関連する特異的基質または経路の同定は、さらに調査すべきである。
【0227】
いくつかの疫学調査において、高脂肪食の摂取は前立腺癌に強く関係していることが明らかとされている(Kolonel LN, et.al., J. Natl. Cancer Inst. 1999;91:414-28、Schulman CC, et.al.,Urology. 2001;58:318-34)。以前のマイクロアレイ試験によると、脂肪またはコレステロール代謝に関連するいくつかの遺伝子が前立腺癌とその前駆体であるPINにおいて上方制御されており(Ashida S, et. al.,Cancer Res. 2004;64:5963-72)、脂質またはコレステロール代謝および脂質代謝関連遺伝子はおそらく代謝経路または抗アポトーシス効果を介してPRCの発症および進行の何らかの重要な役割を果たすいくつかの証拠がある(De Schrijver E, et. al., Cancer Res. 2003; 63: 3799-804、Baron A, et. al., J. Cell Biochem. 2004; 91: 47-53)。これらのうち、長鎖非必須脂肪酸の前駆体であるパルミチン酸の合成を担う酵素である脂肪酸シンセターゼ(FAS)は、広範囲の癌において上方制御されていることが報告されており、適切な薬剤標的として提案されている(De Schrijver E, et. al., Cancer Res. 2003; 63: 3799-804、Baron A, et. al., J. Cell Biochem. 2004; 91: 47-53)。さらに、コレステロールの上昇自体がPRC細胞増殖を促進し、いくつかのコレステロール合成阻害剤が癌の予防または治療の有望な薬剤として期待されている(Zhuang L, et. al., J. Clin. Invest. 2005; 115: 959-68)。コレステロールと同様に、高脂肪食に豊富に含まれる長鎖脂肪酸が、膜安定化、細胞シグナル伝達経路および他の未知なる機能を介してPRCの増殖に関与している。ELOVL7に対するsiRNAを用いた機能解析により、ELOVL7発現がPRCの増殖または前立腺腫瘍発生に必須であることを示し、ELOVL7の酵素機能またはPRCにおけるELOVL7が関連する長鎖脂肪酸経路を直接的に標的とすることは、PRCに対する新規治療または予防の有望な手法であると考えられる。
【0228】
インビボおよびインビトロでの脂肪酸解析により、様々な脂質代謝の中で、ELOVL7は、癌発症の促進もしくは抑制効果を有することが知られているポリ不飽和脂肪酸(De Schrijver E, et al. Cancer Res. 2003; 63: 3799-804、Baron A., et al. J. Cell Biochem. 2004; 91: 47-53、Diggle CP. Prog Lipid Res. 2002; 41; 240-53)よりむしろ飽和長鎖脂肪酸または超長鎖脂肪酸(SLFA)の伸長または合成に関与することが示唆された。SLFAは動物性食肉にコレステロールと同様に非常に豊富に存在し、疫学的もしくは栄養学的研究によって、前立腺癌発症のリスクと強く関連していると考えられており(Kolonel LN, et al. J Natl Cancer Inst. 1999; 91:414-28、Schulman CC, et al. Urology 2001; 58: 318-34)、実際に、SLFAは浸潤性前立腺癌組織においてより多量に存在した(Freeman VL, et al. J Urol 2000; 164: 2168-72)。しかし、SLFAが発癌または癌の進行にどのように関与するかは不明である。コレステロールと同様にSLFAは、様々なシグナル伝達タンパク質が分布し、活発に機能する細胞膜の脂質ラフトに含まれ(Zhuang L, et al. J Clin Invest 2005; 115: 959-68.; Pike LJ. J Lipid Res 2003; 44: 655-67)、PC細胞においてELOVL7により産生されるSLFAは、増殖または抗アポトーシスシグナル伝達のために脂質ラフトのプラットフォームの質および量を向上しうる。ELOVL7に対するsiRNAを用いた機能解析により、ELOVL7の発現が前立腺癌の増殖または前立腺腫瘍発生に必須であることを示し、前立腺癌でELOVL7が関連するELOVL7酵素機能またはSLFAの経路を直接的に標的とすることが、前立腺癌に対する新規治療または予防の方法のための有望な手法であると考えられる。
【0229】
つまり、ELOVL7が関与する詳細な経路または基質は不明であるが、ELOVL7による飽和長鎖脂肪酸代謝はPRCの増殖または発症に必須であり、ELOVL7の阻害は、PRCの分子治療または予防のための新しい有望な手法を提供しうる。
【0230】
産業上の利用可能性
ヒト遺伝子ELOVL7の発現は、非癌性前立腺上皮細胞と比較して、PRCにおいて顕著に上昇している。従って、この遺伝子はPRCの診断マーカーとして有用であり、それにコードされるタンパク質はPRCの診断的分析に有用である。
【0231】
本発明者らはまた、新規タンパク質ELOVL7の発現が細胞増殖を促進させ、ELOVL7遺伝子に対応する低分子干渉RNAによってその細胞増殖が抑制されることを示している。これらの知見は、ELOVL7タンパク質が発癌活性を刺激することを示している。このように、これらの新規腫瘍性タンパク質は、抗癌剤の開発の標的として有用である。例えば、ELOVL7の発現を遮断する、またはその活性を阻害する物質は、抗癌剤、特にPRCの治療のための抗癌剤として治療的有用性を見出される。そのような物質には、アンチセンスオリゴヌクレオチド、低分子干渉RNA、ELOVL7遺伝子に対するリボザイム、ELOVL7を認識する抗体が含まれる。
【0232】
本発明を、その特定の態様に言及しながら詳細に説明してきたが、発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、様々な変更および修正を行うことができることは当業者には明らかであると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0233】
【図1】図1は、PRC細胞におけるELOVL7 mRNAの発現レベルおよびELOVL7 mRNAの組織分布を示す。図1(A)は、12の癌組織から微小切除した癌細胞(T)および正常上皮細胞(N)におけるELOVL7の半定量的RT-PCR解析を示す写真である。12の水平な線は、臨床のN/T組み合わせを意味する。β2-MGはそれぞれのcDNA量を定量化するために用いられた。図1(B)は、ELOVL7が前立腺、膵臓、腎臓で発現しており、主なELOVL7転写物の長さは約4.0kbであることを実証した多組織ノーザンブロット解析示す写真である。ここで、P.B.白血球は末梢血白血球を意味する。図1(C)は、PRC細胞でのELOVL7発現と、正常な腎臓および前立腺でのELOVL7発現との比較を示す写真であり、これは、PRCによってPRC細胞でのELOVL7の発現が正常な腎臓または前立腺における発現よりも明らかにより高いことを実証している。
【図2】図2は、抗ELOVL7抗体によるPRC組織の免疫組織化学解析を示している。抗ELOVL7抗体との免疫反応性は、実験したPRC組織で観察され、PRC細胞の細胞質において強陽性の免疫染色像(A)を示し、一方、PRCの前駆体であるPIN(B)および非癌性前立腺上皮細胞(C)では、細胞質において微弱な免疫陽性が観察された。12のPRC標本の免疫組織化学分析からの代表的なデータを示している。
【図3】図3は、LNCaPおよび22Rv1細胞において、siRNAによるELOVL7発現のノックダウンにより、PRC細胞増殖および細胞生存率が減衰したことを示す。図3(A)は、LNCaP前立腺細胞株におけるELOVL7に対するsiRNAのノックダウン効果を示す写真である。半定量的RT-PCRは、ELOVL7(si#5)に対するsiRNA発現ベクターおよび陰性対照ベクター(siEGFP)をトランスフェクトした細胞を用いて行われた。β2-MGはRNAを定量化するために用いた。図3(B)は、ELOVL7に対するsiRNA発現ベクター(si#5)および陰性対照ベクター(siEGFP)をトランスフェクトしたLNCaP細胞のコロニー形成試験を示す写真である。細胞を、ジェネテシンとともに14日間インキュベートした後、0.1%のクリスタルバイオレット染色で可視化した。図3(C)は、ELOVL7に対するsiRNA発現ベクター(si#5)および陰性対照ベクター(siEGFP)をそれぞれトランスフェクトしたLNCaP細胞のMTT分析を示す棒グラフである。ジェネテシンとともに14日間インキュベートした後に、それぞれの平均値をSD(標準偏差)を示すエラーバーとともにプロットした。Y軸のABSは、マイクロプレートリーダーで測定した、490nmおよび参照としての690nmでの吸光度を意味する。これらの実験は3回行われた。**はp値<0.01(スチューデントのt検定)を意味する。図3(D)は、22Rv1前立腺細胞株におけるELOVL7に対するsiRNAのノックダウン効果を示す。半定量的RT-PCRは、ELOVL7に対するsiRNA発現ベクター(si#5)および陰性対照ベクター(siEGFP)をトランスフェクトした細胞を用いて行われた。β2-MGを用いてRNAを定量化した。図3(E)は、ELOVL7に対するsiRNA発現ベクター(si#5)および陰性対照ベクター(siEGFP)をトランスフェクトした22Rv1細胞のコロニー形成試験を示す。細胞を、ジェネテシンとともに14日間インキュベートした後、0.1%のクリスタルバイオレット染色で可視化した。図3(F)は、提示したELOVL7に対するsiRNA発現ベクター(si#5)および陰性対照ベクター(siEGFP)をトランスフェクトした22Rv1細胞のMTT分析を示す。ジェネテシンとともに14日間インキュベートした後、それぞれの平均値をSD(標準偏差)を示すエラーバーとともにプロットした。Y軸のABSは、マイクロプレートリーダーで測定した、490nmおよび参照としての690nmでの吸光度を意味する。これらの実験は3回行われた。**はp値<0.01(スチューデントのt検定)を意味する。
【図4】ELOVL7のノックダウンによる脂肪酸分画の変化を示す。ELOVL7-si5または対照siRNAをLNCaP細胞へトランスフェクトした7日後、そこから脂質を抽出し、ガスクロマトグラフィーにより脂肪酸分画の解析が行われた。siEGFPトランスフェクションと比較すると、ELOVL7-si5のトランスフェクションにより、長鎖飽和脂肪酸(C20:0 p=0.002、C22:0 p=0.008、C24:0 p=0.003)レベルの有意な減少(20%〜30%)が示されたが、一方、ELOVL7-si5のトランスフェクションは、PC細胞において、モノ不飽和脂肪酸(n-9)およびポリ不飽和脂肪酸(n-6およびn-3)のレベルに影響を及ぼさなかった。
【図5】ヒト組換えELOVL7タンパク質の発現およびインビトロでの脂肪酸エロンガーゼ活性を示す。(A)感染または非感染昆虫細胞由来のマイクロソームタンパク質 30μg を、15%SDS-PAGEゲルにロードし、1/1000希釈の抗His抗体を用いたウェスタンブロット解析により、感染した昆虫細胞のマイクロソームにおいて30kDaの組換えヒトELOVL7を検出した。(B)感染した昆虫細胞由来のマイクロソーム 50μg を用いたインビトロでの脂肪酸伸長活性を示す。5分間の反応前後におけるそれぞれの脂肪酸レベルの増加が示され、感染細胞由来のマイクロソームでは、有意にC22:0およびC24:0を産生していたが、一方対照マイクロソームではC20:0は産生していたがC22:0およびC24:0は全く産生していなかった。対照マイクロソームによるC20:0の産生は、Sf21昆虫細胞の内在性脂肪酸伸長活性によるものと考えられ、ヒトELOVL7タンパク質を含むマイクロソームにおいて、C20:0から、C22:0およびC24:0またはそれ以上への伸長反応が活発に進行し、これによりC20:0の産生がより少なくなるという結果となった。(C)脂肪酸鎖伸長活性は酵素源である感染細胞のマイクロソームの用量に依存した。反応混合物は、0.45mlの全反応体積において10〜200μgのマイクロソームを含む。反応構成物は、0.1 M Tris-Cl (pH 7.4)、3 mMアラキドニルCoA、7.5 mMマロニルCoA、20 mM NADPH、および0.6 mM脂肪酸非含有BSAである。3回の独立した実験から同様の結果が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の段階を含む、前立腺癌の診断方法:
(a)生体試料における配列番号:15のアミノ酸配列をコードする遺伝子の発現レベルを検出する段階;および
(b)その発現レベルの上昇を疾病と関連付ける段階。
【請求項2】
発現レベルが、以下からなる群より選択されるいずれか一つの方法によって検出される、請求項1記載の方法:
(a)配列番号:15のアミノ酸配列をコードするmRNAを検出する段階;
(b)配列番号:15のアミノ酸配列を含むタンパク質を検出する段階;および
(c)配列番号:15のアミノ酸配列を含むタンパク質の生物学的活性を検出する段階。
【請求項3】
以下の段階を含む、前立腺癌を治療または予防するための化合物をスクリーニングする方法:
(a)以下からなる群より選択されるポリペプチドに被験化合物を接触させる段階;
(1)配列番号:15のアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(2)配列番号:15のアミノ酸配列または配列番号:15と少なくとも約80%の相同性を有する配列を含むポリペプチド;および
(3)配列番号:15のアミノ酸配列からなるポリペプチドと同等の生物学的活性を有し、配列番号:14のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドへストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドがコードするポリペプチド;
(b)ポリペプチドと被験化合物との結合活性を検出する段階;および
(c)ポリペプチドに結合する化合物を選択する段階。
【請求項4】
以下の段階を含む、前立腺癌を治療または予防するための化合物をスクリーニングする方法:
(a)以下からなる群より選択されるポリペプチドに被験化合物を接触させる段階;
(1)配列番号:15のアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(2)配列番号:15のアミノ酸配列または配列番号:15と少なくとも約80%の相同性を有する配列を含むポリペプチド;および
(3)配列番号:15のアミノ酸配列からなるポリペプチドと同等の生物学的活性を有し、配列番号:14のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドへストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドがコードするポリペプチド;
(b)段階(a)のポリペプチドの生物学的活性を検出する段階;ならびに
(c)被験化合物の非存在下において検出される生物学的活性と比較して、該ポリペプチドの生物学的活性を抑制する化合物を選択する段階。
【請求項5】
生物学的活性が細胞増殖活性である、請求項4記載の方法。
【請求項6】
生物学的活性が脂肪酸伸長活性である、請求項4記載の方法。
【請求項7】
以下の段階を含む、前立腺癌を治療または予防するための化合物をスクリーニングする方法:
(a)配列番号:14のヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドを発現する細胞に被験化合物を接触させる段階;および
(b)被験化合物の非存在下において検出される発現レベルと比較して、配列番号:14のヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドの発現レベル、または該ヌクレオチドがコードするタンパク質の生物学的活性を低下させる化合物を選択する段階。
【請求項8】
生物学的活性が脂肪酸伸長活性である、請求項7記載の方法。
【請求項9】
細胞が前立腺癌細胞である、請求項7記載の方法。
【請求項10】
以下の段階を含む、前立腺癌を治療または予防するための化合物をスクリーニングする方法:
(a)マーカー遺伝子が配列番号:14からなるヌクレオチド配列を含み、該マーカー遺伝子の転写制御領域と、転写制御領域の制御下で発現されるレポーター遺伝子とを含むベクターが導入されている細胞に被験化合物を接触させる段階;
(b)該レポーター遺伝子の発現レベルまたは活性を測定する段階;および
(c)被験化合物の非存在下で検出される該レポーター遺伝子の発現レベルまたは活性と比較して、該レポーター遺伝子の発現レベルまたは活性を低下させる化合物を選択する段階。
【請求項11】
活性が脂肪酸伸長活性である、請求項10記載の方法。
【請求項12】
活性成分として、以下からなる群より選択されるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに対するアンチセンスポリヌクレオチドまたは低分子干渉RNAの薬学的有効量、および薬学的に許容される担体を含む、前立腺癌を治療または予防するための組成物:
(a)配列番号:15のアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(b)一つまたは複数のアミノ酸が置換、欠損、挿入および/または付加された配列番号:15のアミノ酸配列を含み、配列番号:15のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の生物学的活性を有するポリペプチド;ならびに
(c)配列番号:15のアミノ酸配列からなるポリペプチドと同等の生物学的活性を有し、配列番号:14のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドへストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドがコードするポリペプチド。
【請求項13】
標的配列として、低分子干渉RNAが配列番号:7のヌクレオチド配列を含む、請求項12記載の組成物。
【請求項14】
siRNAが、一般式
5'-[A]-[B]-[A']-3'
を有し、式中
[A]は、配列番号:7のヌクレオチド配列に対応するリボヌクレオチド配列であり、
[B]は、3〜23ヌクレオチドからなるリボヌクレオチド配列であり、かつ
[A']は、[A]の相補配列からなるリボヌクレオチド配列である、
請求項13記載の組成物。
【請求項15】
トランスフェクション促進剤を含む、請求項12記載の組成物。
【請求項16】
活性成分として以下からなる群より選択されるポリペプチドに対する抗体の薬学的有効量、および薬学的に許容される担体を含む、前立腺癌を治療または予防するための組成物:
(a)配列番号:15のアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(b)一つまたは複数のアミノ酸が置換、欠損、挿入および/または付加された配列番号:15のアミノ酸配列を含み、配列番号:15のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の生物学的活性を有するポリペプチド;ならびに
(c)配列番号:15のアミノ酸配列からなるポリペプチドと同等の生物学的活性を有し、配列番号:14のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドへストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドがコードするポリペプチド。
【請求項17】
活性成分として請求項3〜11のいずれか一項記載の方法によって選択される化合物の薬学的有効量、および薬学的に許容される担体を含む、前立腺癌を治療または予防するための組成物。
【請求項18】
以下からなる群より選択されるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに対するアンチセンスポリヌクレオチドまたは低分子干渉RNAの薬学的有効量を投与する段階を含む、前立腺癌を治療または予防するための方法:
(1)配列番号:15のアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(2)一つまたは複数のアミノ酸が置換、欠損、挿入および/または付加された配列番号:15のアミノ酸配列を含み、配列番号:15のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の生物学的活性を有するポリペプチド;ならびに
(3)配列番号:15のアミノ酸配列からなるポリペプチドと同等の生物学的活性を有し、配列番号:14のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドへストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドがコードするポリペプチド。
【請求項19】
標的配列として、siRNAが配列番号:7のヌクレオチド配列を含む、請求項18記載の方法。
【請求項20】
siRNAが、一般式
5'-[A]-[B]-[A']-3'
を有し、式中
[A]は、配列番号:7のヌクレオチド配列に対応するリボヌクレオチド配列であり、
[B]は、3〜23ヌクレオチドからなるリボヌクレオチド配列であり、かつ
[A']は、[A]の相補配列からなるリボヌクレオチド配列である、
請求項19記載の方法。
【請求項21】
組成物がトランスフェクション促進剤を含む、請求項18記載の方法。
【請求項22】
以下からなる群より選択されるポリペプチドに対する抗体の薬学的有効量を投与する段階を含む、前立腺癌を治療または予防するための方法:
(a)配列番号:15のアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(b)一つまたは複数のアミノ酸が置換、欠損、挿入および/または付加された配列番号:15のアミノ酸配列を含み、配列番号:15のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の生物学的活性を有するポリペプチド;ならびに
(c)配列番号:15のアミノ酸配列からなるポリペプチドと同等の生物学的活性を有し、配列番号:14のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドへストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドがコードするポリペプチド。
【請求項23】
請求項3〜11のいずれか一項記載の方法によって選択される化合物の薬学的有効量を投与する段階を含む、前立腺癌を治療または予防するための方法。
【請求項24】
(a)〜(c)からなる群より選択されるポリペプチド、または該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの薬学的有効量を投与する段階を含む、前立腺癌を治療または予防するための方法:
(a)配列番号:15のアミノ酸配列を含むポリペプチド、またはその断片;
(b)一つまたは複数のアミノ酸が置換、欠損、挿入および/または付加された配列番号:15のアミノ酸配列を含み、配列番号:15のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の生物学的活性を有するポリペプチド、またはその断片;
(c)配列番号:15のアミノ酸配列からなるポリペプチドと同等の生物学的活性を有し、配列番号:14のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドへストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドがコードするポリペプチド、またはその断片。
【請求項25】
(a)〜(c)からなる群より選択されるポリペプチドを抗原提示細胞と接触させる段階、または該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドもしくは該ポリヌクレオチドを含むベクターを抗原提示細胞へ導入する段階を含む、抗腫瘍免疫を誘導するための方法:
(a)配列番号:15のアミノ酸配列を含むポリペプチド、またはその断片;
(b)一つまたは複数のアミノ酸が置換、欠損、挿入および/または付加された配列番号:15のアミノ酸配列を含み、配列番号:15のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の生物学的活性を有するポリペプチド、またはその断片;
(c)配列番号:15のアミノ酸配列からなるポリペプチドと同等の生物学的活性を有し、配列番号:14のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドへストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドがコードするポリペプチド、またはその断片。
【請求項26】
対象へ抗原提示細胞を投与する段階をさらに含む、請求項25記載の抗腫瘍免疫を誘導するための方法。
【請求項27】
活性成分として(a)〜(c)の群より選択されるポリペプチド、または該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの薬学的有効量、および薬学的に許容される担体を含む、前立腺癌を治療または予防するための薬学的組成物:
(a)配列番号:15のアミノ酸配列を含むポリペプチド、またはその断片;
(b)一つまたは複数のアミノ酸が置換、欠損、挿入および/または付加された配列番号:15のアミノ酸配列を含み、配列番号:15のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の生物学的活性を有するポリペプチド、またはその断片;
(c)配列番号:15のアミノ酸配列からなるポリペプチドと同等の生物学的活性を有し、配列番号:14のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドへストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドがコードするポリペプチド、またはその断片。
【請求項28】
ポリヌクレオチドが発現ベクターに組み入れられる、請求項27記載の薬学的組成物。
【請求項29】
配列番号:15のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドへハイブリダイズするオリゴヌクレオチド、または配列番号:15のアミノ酸配列を含むポリペプチドに結合する抗体を含む診断薬。
【請求項30】
センス鎖が、配列番号:7に対応するリボヌクレオチド配列を含み、アンチセンス鎖が、該センス鎖に相補的であるリボヌクレオチド配列を含み、該センス鎖と該アンチセンス鎖が、互いにハイブリダイズすることで形成される二重鎖分子であって、ELOVL7遺伝子を発現する細胞へ導入された場合に該遺伝子の発現を抑制する、センス鎖とアンチセンス鎖を含む二重鎖分子。
【請求項31】
センス鎖が、配列番号:14における約19〜約25の連続するヌクレオチドを含む、請求項30記載の二重鎖分子。
【請求項32】
センス鎖が、配列番号:7に対応するリボヌクレオチド配列からなる、請求項30記載の二重鎖分子。
【請求項33】
単一リボヌクレオチド転写物が、センス鎖とアンチセンス鎖を含み、二重鎖分子が該センス鎖と該アンチセンス鎖を連結する単鎖リボヌクレオチド配列をさらに含む、請求項30記載の二重鎖分子。
【請求項34】
請求項30記載の二重鎖分子をコードするベクター。
【請求項35】
ベクターが二次構造を有する転写物をコードし、該転写物がセンス鎖およびアンチセンス鎖を含む、請求項34記載のベクター。
【請求項36】
転写物が、センス鎖とアンチセンス鎖を連結する単鎖リボヌクレオチド配列をさらに含む、請求項34記載のベクター。
【請求項37】
以下の構成物を含む、脂肪酸伸長活性を制御するための被験化合物の活性を検出するためのキット:
(a)以下からなる群より選択されるポリペプチド:
(1)配列番号:15のアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(2)配列番号:15のアミノ酸配列または配列番号:15と少なくとも約80%の相同性を有する配列を含むポリペプチド;および
(3)配列番号:15のアミノ酸配列からなるポリペプチドと同等の生物学的活性を有し、配列番号:14のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドへストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドがコードするポリペプチド;
(b)基質としての脂肪酸;
(c)(b)の伸長産物の検出が可能な試薬;
(d)マロニルCoA;ならびに
(e)NADPH。
【請求項38】
以下の段階を含む、ポリペプチドの脂肪酸伸長活性を測定する方法:
(a)脂肪酸の脂肪酸伸長が可能な条件下で、以下からなる群より選択されるポリペプチドを脂肪酸と接触させる段階:
(1)配列番号:15のアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(2)配列番号:15のアミノ酸配列、または配列番号:15と少なくとも約80%の相同性を有する配列を含むポリペプチド;および
(3)配列番号:15のアミノ酸配列からなるポリペプチドと同等の生物学的活性を有し、配列番号:14のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドへストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドがコードするポリペプチド;
(b)段階(a)の脂肪酸の脂肪酸伸長レベルを検出する段階;ならびに
(c)段階(b)の脂肪酸伸長レベルを脂肪酸伸長活性と関連付けることで、脂肪酸伸長活性を測定する段階。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2009−502114(P2009−502114A)
【公表日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−503309(P2008−503309)
【出願日】平成18年7月19日(2006.7.19)
【国際出願番号】PCT/JP2006/314714
【国際公開番号】WO2007/013479
【国際公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【出願人】(502240113)オンコセラピー・サイエンス株式会社 (142)
【Fターム(参考)】