説明

前立腺癌のバイオマーカーとしてのアポリポタンパク質A−IIアイソフォーム

本発明は、患者において前立腺癌状態を測定するのに有用であるタンパク質に基づいたバイオマーカーである、ApoA-IIアイソフォームを提供する。特に、本発明のバイオマーカーは、生体試料を前立腺癌または非前立腺癌として分類するために有用である。正常な前立腺特異的抗原(PSA)を有する患者において疾患を検出するApoA-IIの能力により、本発明のバイオマーカーは無痛性疾患を同定するのに有用となる。バイオマーカーは、SELDI質量分析、HPLC、PAGE、およびウェスタンブロッティングにより検出することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、一般的にはアポリポタンパク質A-II(ApoA-II)に、具体的には前立腺癌に特異的であるApoA-IIの新しいアイソフォームおよび新しいApoA-IIアイソフォームを用いる方法に関する。
【0002】
本発明は、National Cancer Institute Early Detection Research Networkに授与された認可番号CA85067、およびVirginia Prostate Centerによる助成金による政府援助でなされた。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
前立腺癌(PCa)は、米国における男性において最も頻繁に診断される癌であり、男性の癌による死亡の2番目に多い原因である(Karp et al., Cancer Res, 56:5547-5556, 1996)。10人の男性に1人が、現在、人生のある時期に前立腺癌を発症している。解剖調査からの予測は、多くも1千百万人のアメリカ人が前立腺癌に罹患していることを示している(Dhom, J Cancer Res Clin Oncol, 106:210-218, 1983)。さらに、アフリカ系アメリカ人男性における前立腺癌の出現率は、白人の対応する人々についてより37%高い(Jaroff, Time, April 1, 1996)。
【0004】
この前立腺癌の高い有病率のために、前立腺癌の早期検出および予後において有用な可能性のあるバイオマーカーについての大規模な探索が行われている。前立腺癌の「最も基準になる検査(gold standard)」診断マーカーは前立腺特異的抗原(PSA)である。PSAはセリンプロテアーゼのヒトカリクレインファミリーのメンバーである(Rittenhouse et al., Crit Rev Clin Lab Sci, 35:275-368, 1998)。PSAはPSAの遊離型として血清に存在する。しかしながら、PSAの大部分はα1-抗キモトリプシン(ACT)との複合体中にある。最近になって、血清における遊離または非複合体化PSAのレベルが、前立腺癌の良性前立腺過形成(BPH)からの識別を向上させうることが実証されている。積極的なPSA検査の急速な組み込みが、結果として、前立腺癌の進行期の同定、加えて前立腺癌の次の死亡における劇的な低減を生じている(McDavid et al., Public Health Rep, 119:174-186, 2004; Carter, N Engl J Med, 350:2292-2294, 2004)。
【0005】
正常男性において、PSAは0〜4ナノグラム/ミリリットルの範囲である。PSAの存在は、標準の抗体に基づいた検出を用いて血液試料から比較的容易に測定されうる。前立腺肥大、良性前立腺過形成(BPH)として知られた状態、は年齢45歳を超える男性の約半分に見出される。BPHに関して、PSAレベルは前立腺サイズに比例して上昇し、前立腺癌の診断をわかりにくくする恐れがある。PSAレベルが通常4〜10ng/mlの範囲にある場合、PSA検査は、直腸指診および/または前立腺針生検のような追加の検査なしに良性前立腺過形成と前立腺癌を区別しうる特異性を欠くように思われる(McCormack et al., Urology, 45:729-744, 1995)。たいていの場合、PSA上昇は癌腫よりむしろBPHまたは前立腺炎のせいである。加えて、前立腺癌を有する男性の有意な割合が正常なPSAレベルを有する。従って、PSA試験は、前立腺癌とBPHを区別するためにはいささか非特異的であり、ある程度の偽陰性結果を生じる(Garnick, Am Inst Med, 118:804-818, 1993)。
【0006】
さらに、広く行き渡った臨床適用と相まってPSAの有意に高い偽陽性率は、前立腺の不必要な生検の数の驚異的な増加へと導いた(Gambert, Geriatrics, 56:22-26, 2001)。加えて、Prostate Cancer Prevention Trial(PCPT)からのもの(Thompson et al., N Engl J Med, 350:2239-2246, 2004)のような最近の報告は、臨床的に進行の遅い疾患から活動的な前立腺癌を分離するPSAの不能を浮き彫りにしている(Platz et al., J Cell Biochem, 91:553-571, 2004)。そのような報告は、単一マーカーが癌の発生に関連した複雑な表現型変化を正確には反映しないだろうという概念を支持している。それゆえに、前立腺癌の診断/予後に用いる複数のタンパク質バイオマーカーを決定する必要性への重視が増加している。プロテオームの大部分を分析できる高処理量方法の開発は、癌診断のための多数のタンパク質パネルの同定を促進する見込みがある。
【0007】
表面増強レーザー脱離/イオン化飛行時間型質量分析(SELDI-TOF-MS)は、タンパク質の複雑な混合物の分離および分析を統合するための有用なツールである。タンパク質プロファイルは、複雑な生物学的混合物からタンパク質を親和性捕捉するための特異的表面化学的性質を用いて作成される。捕捉されたタンパク質は、その後、TOF-MSにより分析され、分子量(質量/電荷またはm/z)の近似値および各タンパク質(イオン)の相対的濃度(強度)を描くスペクトルマップを作成する。技術は、血清のような複雑な体液からタンパク質を分離し、比較タンパク質プロファイルを作成するための便利な高処理量のツールである。SELDIテクロノジーは現在、多数の研究において癌および他の疾患の診断のために広く用いられている(Wiesner, Curr Pharm Biotechnol, 5:45-67, 2004; Tang et al., Mass Spectrom Rev, 23:34-44, 2004; Wulfkuhle et al., Adv Exp Med Biol, 532:59-68, 2003; Wright, Expert Rev Mol Diagn, 2:549-563, 2002により概説されている)。
【0008】
SELDI ProteinChip(登録商標)テクロノジーは癌診断において非常に有望であることが証明されている(Grizzle et al., G. Patrinos, Ansorg, W. (ed.), Molecular Diagnostics, Vol.(印刷中), pp. 印刷中:Elsevier Press, 2004)。Vlahou et al.は、SELDIタンパク質プロファイルのスペクトルピークを用いることが膀胱の移行上皮癌を検出するための感度を有意に増加させることを最初に実証した(Vlahou et al., Am J. Pathol, 158:1491-1502, 2001)。タンパク質プロファイルからのデータへのパターン認識アルゴリズムの適用は卵巣癌の同定に成功したことが報告された(Petricoin et al., Lancet, 359:572-577, 2002)。その後、Qu et al.およびAdam et al.は、前立腺癌の検出のための正確なアッセイとして自動化決定木アルゴリズムを用いるタンパク質発現プロファイリングの利用を実証した(Qu et al., Clin Chem, 48:1835-1843, 2002; Adam et al., Cancer Res, 62:3609-3614, 2002)。
【0009】
実際、これらの最初の刊行物後、このアプローチの癌診断への適用成功の多数の報告がある(Banez et al., J Urol, 170:442-446, 2003; Wadsworth et al., Arch Otolaryngol Head Neck Surg, 130:98-104, 2004; Wadsworth et al., Clin Cancer Res, 10:1625-1632, 2004; Petricoin et al., J Natl Cancer Inst, 94:1576-1578, 2002; Vlahou et al., Clin Breast Cancer, 4:203-209, 2003; Ball et al., Bioinformatics, 18:395-404, 2002; Cazares et al., Clin Cancer Res, 8:2541-2552, 2002; Koopmann et al., Clin Cancer Res., 10:860-868, 2004; Kozak et al., Proc Natl Acad Sci USA, 100:12343-12348, 2003; Li et al., Clin Chem, 48:1296-1304, 2002; Paweletz et al., Dis Markers, 17:301-307, 2001; Poon et al., Clin Chem, 49:752-760, 2003; Won et al., Proteomics, 3:2310-2316, 2003; Xiao et al., Dis Markers, 19:33-39, 2003; Zhukov et al., Lung Cancer, 40:267-279, 2003)。特に、WO 2004/030511 A2(参照により全体として本明細書に組み入れられている)は前立腺癌および良性前立腺過形成を診断するのに有利に利用されうるタンパク質バイオマーカーを同定するためのSELDIの適用を記載している。WO 2004/030511 A2に同定された前立腺癌特異的バイオマーカーは以下の分子量(ダルトンでの)、約3486+/-6; 3963+/-7; 4071+/-7; 4079+/-7; 4475+/-81; 4580+/-8; 5074+/-91; 5298+/-10; 5382+/-97; 6099+/-11; 6542+/-12; 6797+/-12; 6949+/-13; 6990+/-13; 7024+/-13; 7054+/-13; 7820+/-14; 7844+/-14; 7885+/-14; 8067+/-15; 8141+/-15; 8356+/-15; 8943+/-16; 9149+/-16; 9508+/-17; 9656+/-17; および9720+/-18を有する。
【0010】
同様に、前立腺癌を検出するためのバイオマーカーはWO03091695(参照により全体として本明細書に組み入れられている)に同定された。WO03091695に同定された前立腺癌特異的バイオマーカーは以下の分子量(ダルトンでの)、約2,062; 2,540; 2,680; 2,790; 2,996; 3,160; 3,320; 3,936; 4,290; 4,658; 5,149; 5,861; 5,999; 6,158; 6,677; 6,722; 7,808; 7,974; 8,019; 10,300; 10,800; 12,700; 14,703; 14,576; 15,900; 16,100; 16,300; 17,900; 24,346; 28,098; 55,785; および60,958を有する。
【0011】
しかしながら、WO 2004/030511 A2およびWO03091695において質量により同定されたタンパク質マーカーのいずれもそれ以上には同定されなかった。従って、これらのタンパク質バイオマーカーが関連しているタンパク質、またはどの遺伝子によりそれらがコードされているかに関して利用できる情報がない。それでもやはり、これらの発見の全部が、前立腺癌の早期検出/診断を改善するための決定アルゴリズムと連結されたタンパク質発現のプロファイリングの可能性のある有用性を強く支持している。
【0012】
最近の努力は、前立腺癌のマーカーを同定するように行われている。例えば、米国特許出願公開第2003/0073096 A1号(参照により全体として本明細書に組み入れられている)は、前立腺癌のマーカーとしてPin1、リン酸化Ser/Thr-Pro結合のみの異性化を触媒する、必須かつ高度に保存された有糸分裂のペプチジル-プロピルイソメラーゼ(PPIアーゼ)の使用を記載する。加えて、米国特許出願公開第2003/0119033 A1号(参照により全体として本明細書に組み入れられている)はPSAの新規な型を記載する。さらに、米国特許出願公開第2003/0224399 A1号(参照により全体として本明細書に組み入れられている)は、前立腺腫瘍性状態を有する患者の生存についての診断となるバイオマーカーとしてのIAP(アポトーシスのインヒビター)の使用を開示する。米国特許出願公開第2004/0018519 A1号は前立腺癌マーカーとしてPSMA(前立腺特異的膜抗原)の使用を記載する。単一のバイオマーカーは前立腺癌の複雑性を正確には描写しえないため、前立腺癌死亡率を低減させるために追加の診断バイオマーカーが同定されることが重要である。
【0013】
明らかに、前立腺癌との戦いにおいて新しい方法の必要性があり、それゆえに、前立腺癌の診断、病期診断、予後、およびモニタリングのための特定の方法ならびに試薬を提供することが有益であると思われる。本発明者らは、前立腺癌におけるタンパク質発現をプロファイリングすることにより、および前立腺癌において上昇したレベルで発現されたタンパク質の可能性のある群を含むm/zピークのサブセットにより表されるバイオマーカーを同定することによりこの必要性に取り組んだ。具体的には、本発明者らは、任意の2つの群間を識別すること(疾患対非疾患について>0.7)について有意なAUC(曲線下面積)を示し、かつ十分発現されたm/zピーク事象の輪郭をはっきりと描くように観察された、さらなる同定のためのm/zピークをターゲットした。これらの癌バイオマーカーの同定は、プロファイリングに基づいた診断の実行の成功を援助する、加えて前立腺癌の早期検出のためのより伝統的な複数タンパク質抗体アレイまたは多重イムノアッセイの開発を促進すると思われる。それはまた、前立腺癌疾患過程における重要な段階を解明するのを助ける可能性がある。
【発明の開示】
【0014】
発明の簡単な概要
本発明は多くの異なる形で具体的に表現されうるが、いくつかの特定の態様は、本開示が本発明の原理の例示としてのみみなされるべきであるとの理解で本明細書に考察され、本発明を例証された態様に限定することは意図されない。
【0015】
被験体において前立腺癌状態を測定するための方法を提供することが本発明の目的である。本発明の一つの態様において、被験体において前立腺癌状態を測定するための方法が提供され、方法は、(a)被験体由来の生体試料を提供する段階;(b)ApoA-IIアイソフォームを捕捉する能力がある生体特異性捕捉試薬と生体試料を接触させる段階であって、ApoA-IIアイソフォームが(i)アミノ酸配列VKSPELQAEAK(SEQ ID NO:1)および(ii)アミノ酸配列SKEQLTPLIK(SEQ ID NO:2)を含み、かつApoA-IIアイソフォームが約8943ダルトン+/-15の分子量を有し、それによりApoA-IIアイソフォームが生体特異性捕捉試薬に結合する、段階;(c)結合したApoA-IIアイソフォームの量を測定する段階;ならびに(d)結合したApoA-IIアイソフォームの量を前立腺癌状態と相関させる段階を含む。
【0016】
本発明の一つの態様において、前立腺癌状態は、正常に対する前立腺癌である。本発明の方法により測定されるもう一つの前立腺癌状態は、良性前立腺過形成に対する前立腺癌を含む。本発明の他の態様において、前立腺癌状態は、(i)被験体において前立腺癌のスクリーニング、診断、もしくは予後の一部として測定される;(ii)被験体の前立腺癌に対する感受性の測定の一部として測定される;(iii)被験体において前立腺癌の病期もしくは重症度の測定の一部として測定される;(iv)被験体の前立腺癌を発症するリスクの同定の一部として測定される;または(v)抗前立腺癌薬もしくは前立腺癌と診断された被験体へ施された治療の効果のモニターの一部として測定される。
【0017】
生体試料は全血または血清のようなヒトの生理学的液体でありうる。生体試料はまた、前立腺癌組織試料または良性前立腺過形成組織試料のようなヒト前立腺組織試料でありうる。
【0018】
本発明の好ましい態様において、生体特異性捕捉試薬は固体支持体に付着している。固体支持体は質量分析プローブでありうる。生体特異性捕捉試薬はプローブに付着した抗体を含みうる。結合したApoA-IIの量を測定する段階は、結合したApoA-IIアイソフォームをレーザー脱離イオン化質量分析により検出する段階を含みうる。
【0019】
抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、二重特異性抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、一本鎖抗体、およびそれらの活性断片からなる群より選択されうる。
【0020】
本発明のもう一つの態様において、方法は、(e)生体試料におけるApoA-IIアイソフォームの量を、前立腺癌を患っていない1つもしくは複数の被験体由来の生体試料におけるApoA-IIアイソフォームの量と、または前立腺癌を患っていない被験体におけるApoA-IIアイソフォームについて以前に決定された参照範囲と比較する段階を含む。
【0021】
結合したApoA-IIアイソフォームの量を測定する段階は、(i)結合したApoA-IIアイソフォームをレーザー脱離イオン化質量分析により検出すること;(ii)高速液体クロマトグラフィー(HPLC);または(iii)ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)により行うことができる。PAGEは2次元PAGEであってよい。
【0022】
本発明の一つの態様において、被験体において前立腺癌状態を測定するための方法は、(e)生体試料を、前立腺癌特異的バイオマーカーXを捕捉する能力がある生体特異性捕捉試薬と接触させる段階であって、前立腺癌特異的バイオマーカーXがApoA-IIアイソフォームと異なる、段階を含む。
【0023】
本発明のもう一つの好ましい態様において、被験体において前立腺癌状態を測定するための方法が提供され、方法は、(a)被験体由来の生体試料を提供する段階;(b)ApoA-IIアイソフォームの非存在、存在、もしくは量を検出または測定する段階であって、ApoA-IIアイソフォームが(i)アミノ酸配列VKSPELQAEAK(SEQ ID NO:1)および(ii)アミノ酸配列SKEQLTPLIK(SEQ ID NO:2)を含み、かつApoA-IIアイソフォームが約8943ダルトン+/-15の分子量を有する、段階;ならびに(c)ApoA-IIアイソフォームの非存在、存在、または量を前立腺癌状態と相関させる段階を含む。この方法は上で概略が説明された詳細を含む。
【0024】
前立腺癌状態を測定するためのキットを提供することは本発明の目的である。
【0025】
本発明の一つの態様において、前立腺癌状態を測定するためのキットが提供され、キットは、(a)付着した少なくとも1つの生体特異性捕捉試薬を含む固体支持体であって、生体特異性捕捉試薬がApoA-IIアイソフォームを捕捉する能力があり、ApoA-IIアイソフォームが(i)アミノ酸配列VKSPELQAEAK(SEQ ID NO:1)および(ii)アミノ酸配列SKEQLTPLIK(SEQ ID NO:2)を含み、かつApoA-IIアイソフォームが約8943ダルトン+/-15の分子量を有する、固体支持体;ならびに(b)ApoA-IIアイソフォームを検出するために固体支持体を用いることについての使用説明書を含む。好ましい態様において、固体支持体はSELDIプローブである。キットはさらに、(c)ApoA-IIアイソフォームを含む容器を含みうる。
【0026】
本発明のもう一つの態様において、前立腺癌状態を測定するためのキットが提供され、キットは、(a)付着した少なくとも1つの生体特異性捕捉試薬を含む固体支持体であって、生体特異性捕捉試薬がApoA-IIアイソフォームを捕捉する能力があり、ApoA-IIアイソフォームが(i)アミノ酸配列VKSPELQAEAK(SEQ ID NO:1)および(ii)アミノ酸配列SKEQLTPLIK(SEQ ID NO:2)を含み、かつApoA-IIアイソフォームが約8943ダルトン+/-15の分子量を有する、固体支持体;ならびに(b)ApoA-IIアイソフォームを含む容器を含む。生体特異性捕捉試薬を含む固体支持体はSELDIプローブでありうる。
【0027】
本発明のさらにもう一つの態様において、前立腺癌状態を測定するためのキットが提供され、キットは、(a)ApoA-IIアイソフォームに結合する能力がある抗体であって、ApoA-IIアイソフォームが(i)アミノ酸配列VKSPELQAEAK(SEQ ID NO:1)および(ii)アミノ酸配列SKEQLTPLIK(SEQ ID NO:2)を含み、かつApoA-IIアイソフォームが約8943ダルトン+/-15の分子量を有する、抗体;(b)PAGEおよびウェスタンブロッティングのための試薬;ならびに(c)ApoA-IIアイソフォームを検出するための抗体の使用説明書を含む。
【0028】
前立腺癌状態を分類するためのソフトウェアを提供することは本発明のもう一つの目的である。
【0029】
本発明の一つの態様において、ソフトウェアは、(a)生体試料に起因するデータにアクセスするコードであって、データがApoA-IIアイソフォームの測定値を含み、ApoA-IIアイソフォームが(i)アミノ酸配列VKSPELQAEAK(SEQ ID NO:1)および(ii)アミノ酸配列SKEQLTPLIK(SEQ ID NO:2)を含み、かつApoA-IIアイソフォームが約8943ダルトン+/-15の分子量を有する、コード;ならびに(b)生体試料の前立腺癌状態を測定値の関数として分類する分類アルゴリズムを実行するコードを含む。
【0030】
本発明はさらに、(a)被験体由来の試料におけるApoA-IIアイソフォームの相関から決定された前立腺癌状態に関する診断を被験体に伝達する段階であって、ApoA-IIアイソフォームが(i)アミノ酸配列VKSPELQAEAK(SEQ ID NO:1)および(ii)アミノ酸配列SKEQLTPLIK(SEQ ID NO:2)を含み、かつApoA-IIアイソフォームが約8943ダルトン+/-15の分子量を有する、段階を含む方法を提供する。診断はコンピューター処理媒体を通して被験体に伝達してもよい。
【0031】
本発明のもう一つの好ましい態様において、(i)アミノ酸配列VKSPELQAEAK(SEQ ID NO:1)および(ii)アミノ酸配列SKEQLTPLIK(SEQ ID NO:2)を含む精製された生体分子であって、ApoA-IIアイソフォームが約8943ダルトン+/-15の分子量を有する、生体分子が提供される。
【0032】
定義
他に規定がない限り、本明細書に用いられるすべての技術的および科学的用語は、当業者により一般的に理解されている意味をもつ。以下の参考文献は、本発明において用いられる用語の多くの一般的定義を当業者に提供する:Singleton et al., Dictionary of Microbiology and Molecular Biology(第2版 1994); The Cambridge Dictionary of Science and Technology(Walker ed., 1988); The Glossary of Genetics, 第5版, R. Rieger et al.(eds.), Springer Verlag (1991); およびHale & Marham, The Harper Collins Dictionary of Biology (1991)。本明細書に用いられる場合、以下の用語は、他に特定されない限り、それらに属するものとみなされた意味をもつ。
【0033】
「約」とは、およそを意味する。
【0034】
「アミノ酸」とは、天然および合成のアミノ酸、加えて天然アミノ酸と類似した様式で機能するアミノ酸類似体およびアミノ酸模倣体を指す。天然アミノ酸は、遺伝暗号によりコードされたもの、加えて後で修飾されるそれらのアミノ酸、例えば、ヒドロキシプロリン、γ-カルボキシグルタミン酸、およびo-ホスホセリンである。「アミノ酸類似体」は、天然アミノ酸と同じ基本的化学構造、すなわち、水素、カルボキシル基、アミノ基、およびR基に結合している炭素を有する化合物、例えば、ホモセリン、ノルロイシン、メチオニン、スルホキシド、メチオニンメチルスルホニウムを指す。そのような類似体は、改変されたR基(例えば、ノルロイシン)または改変されたペプチドバックボーンを有するが、天然アミノ酸と同じ基本的化学構造を保持している。「アミノ酸模倣体」とは、アミノ酸の一般的な化学構造とは異なる構造を有するが、天然アミノ酸と類似した様式で機能する化学化合物を指す。アミノ酸は本明細書において、それらの一般的に知られた三文字記号によるか、またはIUPAC-IUB Biochemical Nomenclature Commissionにより推奨された一文字記号によるかのいずれかで言及されてもよい。同様に、ヌクレオチドは、それらの一般的に認められている一文字コードにより言及されてもよい。
【0035】
「アミノ酸配列」とは、与えられたペプチドまたはタンパク質に存在する場合のアミノ酸残基の位置関係を指す。
【0036】
「抗体」とは、結合するタンパク質(抗原上の特定のエピトープに結合することが可能な分子)と機能的に定義され、かつ免疫グロブリンコード遺伝子のフレームワーク領域に由来していると当業者により認識されているアミノ酸配列を含むと構造的に定義される、タンパク質を指す。構造的には、最も単純な天然の抗体(例えば、IgG)は、すべてジスルフィド結合により共有結合性に連結された、4つのポリペプチド鎖、2コピーの重(H)鎖および2コピーの軽(L)鎖を含む。結合の特異性は、H鎖およびL鎖の可変(V)決定基に見出される。主に構造的である抗体の領域は定常(C)である。「抗体」という用語は、抗体の抗体全体、機能性断片、修飾体、または誘導体を含む。それはまた、遺伝子操作された産物、すなわち、二重特異性抗体、またはヒト化抗体のようなキメラ抗体でありうる。抗体はポリクローナル混合物またはモノクローナルでありうる。抗体は、天然源由来または組換え供給源由来の無傷免疫グロブリンであることができ、および無傷免疫グロブリンの免疫反応性部分であることができる。抗体は、例えば、Fv(抗体の単一アームのVLおよびVHドメインからなる)、Fd(VHおよびCH1ドメインからなる)、dAB断片(VHドメインからなる; Ward et al., Nature, 341:544-546, 1989)、単離された相補性決定領域(CDR)、Fab(VL、VH、CL、およびCH1ドメインからなる)、およびF(ab)2(ヒンジ領域でジスルフィド結合により連結された2つのFab断片を含む二価断片)、ならびに単鎖を含む様々な形で存在してもよい。重鎖および軽鎖の遺伝子が単一なコード配列へ組み合わされている、一本鎖抗体(SCA)もまた用いることができる。いくつかのSCAは、適したポリペプチドリンカーにより連結された、軽鎖の可変領域、重鎖の可変領域を含む遺伝子操作された分子である。
【0037】
「抗前立腺癌薬」とは、前立腺癌を処置することを目的として、前立腺癌に罹患している患者へ与えられる薬または薬物を指す。
【0038】
「Apo」とはアポリポタンパク質を意味する;「ApoA-II」または「ApoA2」はアポリポタンパク質A-IIを意味する。アポリポタンパク質A-IIは100個のアミノ酸残基(NCBIアクセッション番号NP_001634およびP02652)の前駆体タンパク質として作製される。完全にプロセシングされたApoA-IIは77アミノ酸残基(NCBIアクセッション番号NP_001634およびP02652)を含み、8.7kDaの報告された質量を有する(Gordon et al., J. Biol Chem, 258:14054-14059, 1983; Scanu et al., Biochem Biophys Acta, 351:341-347, 1974)。
【0039】
「ApoA-IIアイソフォーム」とは、アポリポタンパク質A-II由来のペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質を指す。ApoA-IIアイソフォームは、ヒトアポリポタンパク質A-IIとの完全または部分的配列同一性を有するが、Gordon et al.(J. Biol Chem, 258:14054-14059, 1983)およびScanu et al.(Biochem Biophys Acta, 351:341-347, 1974)により報告されているように8.7kDaの報告された質量とは異なる質量を有するポリペプチド、ペプチド、およびタンパク質を含む。具体的には、〜8.8kDaおよび〜8.9kDa、より具体的には、8943+/-15のApoA-IIアイソフォームがこの用語内に含まれる。ApoA-IIアイソフォームの翻訳後修飾バージョンまたは断片が「ApoA-IIアイソフォーム」という用語内に含まれる。
【0040】
「良性前立腺過形成」または「良性前立腺肥大症」または「BPH」とは、前立腺の加齢に関係した非癌性(非悪性)肥大を指す。症状は通常、尿意逼迫、頻尿、および排尿困難、ならびにペニス勃起障害を含む。
【0041】
「生体液」とは宿主由来の液体を指し、全血、血清、血漿、尿、前立腺液、涙、粘液腹水、口腔液、唾液、精液、精漿、粘液、大便、痰、脳脊髄液、骨髄、リンパ液、および胎児液を含む。生体液試料は、細胞、細胞のタンパク質または膜抽出物を含みうる。
【0042】
「生体試料」とは、生きているまたは死んだ生物体から得られる任意の試料を指す。生体試料の例は生体液および生物組織検体を含む。
【0043】
「生体分子」とは、有機分子および特に、タンパク質または核酸のような巨大分子を指す。アミノ酸残基のポリマーを含むペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質がタンパク質内に含まれる。その用語はまた、天然アミノ酸ポリマーおよび非天然アミノ酸ポリマーだけでなく、1つまたは複数のアミノ酸残基が対応する天然アミノ酸の人工化学的模倣体であるアミノ酸ポリマーにも適用できる。本発明のペプチド、ポリペプチド、およびタンパク質は、本明細書に記載されているように、個々のアミノ酸残基および他のアミノ酸変異体のD-アイソフォームならびにL-アイソフォームを有するアミノ酸ポリマーを含む。ペプチドは、分子の一次構造を構成するアミノ酸残基の数により区別される。本発明の目的として、ペプチドは50個までのアミノ酸残基を含む分子であり、ポリペプチドまたはタンパク質は50個またはそれ以上のアミノ酸残基を含む。しかしながら、本発明のペプチド、ポリペプチド、およびタンパク質の合成ならびに/または送達の方法は、当業者により理解されているように、同一ではないが、類似している。それゆえに、適切な場合には、これらの用語は、合成の方法、修飾の方法、または治療用もしくは診断用試薬としての使用を考察する場合、同意語である。
【0044】
「生体特異性捕捉試薬」とは、ApoA-IIアイソフォームのようなマーカーを捕捉する能力がある任意の物質を指す。その用語は、生体分子、例えば、核酸分子(例えば、アプタマー)、ポリペプチド、多糖、脂質、ステロイド、またはこれらの結合体(例えば、糖タンパク質、リポタンパク質、糖脂質、核酸(例えば、DNA)-タンパク質結合体)を含む試薬を含む。特定の場合において、生体特異性吸着剤は、多タンパク質複合体、生体膜、またはウイルスのような巨大分子構造でありうる。生体特異性捕捉試薬の例は、抗体、受容体タンパク質、および核酸である。本発明の生体特異性捕捉試薬は、ApoA-IIアイソフォームを捕捉する生体特異性捕捉試薬を含む。「生体特異性捕捉試薬」および「生体特異性吸着剤」という用語は交換可能に用いられる。
【0045】
「捕捉する」、「捕捉すること」、またはそれらの文法的相当語句は、標的分子を認識し、かつ結合しうる生体特異性捕捉試薬の能力を指す。標的分子はApoA-IIアイソフォームを含む。「捕捉する」という用語の同意語は本発明の範囲内で企図され、限定されるわけではないが、吸着すること(adsorbing)、保存すること(preserving)、保つこと(keeping)、保有すること(holding)、保持すること(retaining)を含む。一般的に、それは、生体特異性捕捉試薬とApoA-IIアイソフォームのようなマーカーの間の検出可能な結合を指す。
【0046】
「分類アルゴリズム」は質量分析から生じたデータを解析するアルゴリズムを指す。それは、特定の生体試料におけるApoA-IIアイソフォームが特定の生物学的状態(例えば、非前立腺癌に対する前立腺癌)と関連しているかどうかを予測する。
【0047】
ソフトウェアの文脈における「コード」とは、ソースコードおよび機械コードを含む。通常、コードはプログラマーにより書かれ、コンピューターではなく人々が読むことができる。ソースコードは、コンピューターがプログラムを読み取るまたは実行できる前にオブジェクトコードまたは機械言語へ変換されなければならない。
【0048】
「コンピューター処理媒体」とは、コンピューターユーザーが一つの端末においてメッセージを作り、そのメッセージが、受信者の端末においてログオンした場合生成される、世界的規模の電子通信のシステムを意味する。それは、電子メール、パーソナルコンピューター間のようなコンピューターネットワーク上で電子的にメッセージを送信および受信するためのシステムを含む。
【0049】
「量を相関させる」とは、一つの試料において測定される物質、分子、またはマーカー(ApoA-IIアイソフォームのような)の量を、もう一つの試料において測定された同じ物質、分子、またはマーカーの量と比較することを意味する。もう一つの試料において測定された同じ物質、分子、またはマーカーの量は所定の前立腺癌状態に特異的でありうる。
【0050】
「量を測定すること(determining the amount)」という用語の同意語は、本発明の範囲内で企図され、限定されるわけではないが、ApoA-IIアイソフォームのような分子の存在、非存在、量、もしくは濃度を検出すること(detecting)、計ること(measuring)、試験すること(testing)、または測定すること(determining)を含む。
【0051】
「HPLC」とは高速液体クロマトグラフィーを意味する。
【0052】
「レーザー脱離イオン化質量分析」とは、分子を脱離させ、揮発させ、かつイオン化するための手段としてレーザーを用いる質量分析計を指す。質量分析計とは、吸気装置、イオン源、イオン光学的アセンブリー、質量分析器、および検出器を含む気相イオン分光計を指す。
【0053】
ポリペプチドの「分子量」は、ダルトンまたはキロダルトン(kD)で与えられる。
【0054】
「PAGE」とはポリアクリルアミドゲル電気泳動を意味し、1次元(1-D)PAGEおよび2次元(2-D)PAGEを含む。
【0055】
「プローブ」とは、質量分析計へ着脱可能に挿入でき、検出のために、ApoA-IIアイソフォームのようなマーカーを提示するための表面特徴または1つもしくは複数の表面特徴を有する基質または支持体を含む。プローブは単一の基質もしくは支持体、または複数の基質もしくは支持体を含みうる。ProteinChip(登録商標)アレイ、バイオチップ、またはチップのような用語もまた、特定の種類のプローブを指すために本明細書に用いられる。
【0056】
「前立腺癌」または「Pca」または「PCa」とは、前立腺における細胞の無制御(悪性)増殖を指す。PCaは前立腺の腺癌である。前立腺は、身体が精液を形成するのを助けるクルミ大の器官である。前立腺は、尿道が膀胱頸と接合しているところに位置する。本明細書に用いられる場合の「前立腺癌」という用語は、前立腺の触知可能な腫瘍の出現、およびまた前立腺における顕微鏡で検出可能な新生物細胞または形質転換細胞の両方を指す。後者の場合、該細胞学的に検出可能な前立腺癌は、患者も医師も癌細胞の存在を検出しない点において無症候性である可能性がある。前立腺癌は通常徐々に進行し、かつ通常検出の前に周囲組織およびリンパ腺へ広がる。前立腺癌が、前立腺の遠位にあるさらなる部位へ転移している場合には、状態は、この状態を器官限定性前立腺癌と区別するために、転移性癌(MC)、または転移した前立腺癌と記載される。
【0057】
「前立腺癌状態」は、非疾患を含む疾患の任意の識別可能な徴候を含む。例えば、疾患状態は、非限定的に、疾患の存在または非存在(例えば、非前立腺癌に対する前立腺癌、または良性前立腺過形成に対する前立腺癌)、被験体における前立腺癌のスクリーニング、診断、または予後の一部として測定されるような前立腺癌状態、被験体の前立腺癌に対する感受性、前立腺癌を発症するリスク、前立腺癌の病期または重症度、前立腺癌の経過(例えば、時間を経た前立腺癌の進行または前立腺癌の退行)、および前立腺癌と診断された被験体へ施された抗前立腺癌薬または治療の効果をモニターすることを含む前立腺癌の処置に対する効果または応答を含む。この状態に基づいて、追加の診断検査または治療手段もしくは計画を含むさらなる手順が示されてもよい。
【0058】
「精製された」とは実質的に純粋であることを意味し、天然で付随している他のタンパク質、脂質、糖、または他の物質を実質的に含まないApoA-IIアイソフォームを指す。精製されたApoA-IIアイソフォームは、しかしながら、共有結合性翻訳後修飾を保持してもよい。本発明の精製されたApoA-IIアイソフォームは、例えば、SELDI分析により単一の主要なピークを生じる。ApoA-IIアイソフォームの純度もまた、PAGE、アミノ末端アミノ酸配列分析、および/またはトリプシンペプチド分析により測定することができる。
【0059】
「SELDI」は表面増強レーザー脱離/イオン化を意味する。
【0060】
「ソフトウェア」はアプリケーションソフトウェアを指し、ハードウェアの機能を制御し、かつその操作を命令する、プログラム、ルーチン、手順、ルール、および記号言語を含む。ソフトウェアは、アセンブラーまたはコンパイラーにより作成されるヒトが実行可能な機械コードにより書かれた両方のソースコードを含む。
【0061】
「固体支持体」または「固相」は交換可能に用いられ、生体特異性捕捉試薬が付着できる表面を指す。
【0062】
「被験体」は生きているおよび死んだ生物体を含む。被験体の例は、哺乳動物、例えば、ヒト、イヌ、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ネコ、マウス、ウサギ、ラット、およびトランスジェニック非ヒト動物を含む。最も好ましくは、被験体はヒトである。
【0063】
参照による組み入れ
本明細書に引用されたすべての刊行物、特許、および特許出願は、あたかも各個々の刊行物、特許、または特許出願が具体的にかつ個々に示されて参照により組み入れられているかのように、参照により全体として本明細書に組み入れられている。
【0064】
発明の詳細な説明
1. 序論
バイオマーカーは、一つの表現型状態(例えば、疾患に罹患している)の被験体から採取された試料において、もう一つの表現型状態(例えば、疾患に罹患していない)と比較して差次的に存在している有機バイオマーカーである。バイオマーカーは、異なる群におけるバイオマーカーの平均値または中央値発現レベルが統計学的に有意であると算定される場合には、異なる表現型状態間で差次的に存在している。統計学的有意性についての一般的な検定は、とりわけ、t検定、ANOVA、クラスカル-ワリス、ウィルコクスン、マン-ホイットニー、およびオッズ比を含む。単独または組み合わせでのバイオマーカーは、被験体がある表現型状態または別の状態に属するという相対的リスクの測定値を提供する。それゆえに、それらは、疾患についてのマーカー(診断法)、薬物の治療効果についてのマーカー(治療的診断法(theranostics))、および薬物毒性についてのマーカーとして有用である。
【0065】
2. 前立腺癌のバイオマーカーとしてのアポリポタンパク質A-IIアイソフォーム
本出願は、前立腺癌に罹患している被験体において、特に、正常(非前立腺癌)に対する前立腺癌で、差次的に存在しているポリペプチドに基づいたバイオマーカーを提供する。本明細書で定義されているように、「正常な」または「健康な」被験体は、前立腺癌またはBPHに関して陰性診断を有する被験体である。従って、正常な個体は前立腺癌またはBPHに罹患していない。「マーカー」または「バイオマーカー」は、正常または健康な被験体から採取された比較生体試料と比較して、前立腺癌またはBPHに罹患している被験体から採取された生体試料に差次的に存在している、有機生体分子、例えば、ポリペプチド(特定の見かけ分子量の)または核酸を指す。「差次的に存在する」という用語は、正常または健康な被験体から採取された比較生体試料と比較した、前立腺癌またはBPHに罹患している被験体から採取された生体試料に存在するバイオマーカーの量および/または頻度における差を指す。例えば、バイオマーカーは、正常または健康な被験体から採取された比較生体試料と比較して、前立腺癌またはBPHに罹患している被験体由来の生体試料において上昇したレベルで、または減少したレベルで存在するポリペプチドでありうる。または、バイオマーカーは、正常または健康な被験体から採取された比較生体試料と比較して、前立腺癌またはBPHに罹患している被験体由来の生体試料において、より高い頻度で、またはより低い頻度で検出されるポリペプチドでありうる。
【0066】
本明細書に用いられる場合、ApoA-IIアイソフォームの「高いレベル」または「上昇した」または「過剰発現」という用語は、測定された参照レベルより上のApoA-IIアイソフォームのレベルに関する。参照レベルは各前立腺癌状態について異なってもよい。従って、例えば、本発明に従って、正常または健康な被験体におけるApoA-IIアイソフォームの参照レベルはカットオフ値として同定され、それより上でApoA-IIのレベルと与えられた前立腺癌状態の間に有意な相関がある。当業者は、いくつかのカットオフ値が、臨床的相関がそのカットオフの両側の値域に対してなお有意であることから、絶対的ではないことを認識するであろう。
【0067】
バイオマーカーは、質量分析により測定されるような質量対電荷比により、飛行時間型質量分析におけるそれらのスペクトルピークの形により、および吸着性表面に対するそれらの結合特性により、特徴付けられてもよい。これらの特徴は、特定の検出された生体分子が本発明のバイオマーカーであるかどうかを決定するための一つの方法を提供する。これらの特徴は生体分子の固有の特徴を示し、生体分子が識別される様式における工程制限を示さない。
【0068】
一つの局面において、本発明は、単離された形でのこれらのバイオマーカーを提供する。本発明の一つの態様において、精製された生体分子が提供され、生体分子は(a)アミノ酸配列VKSPELQAEAK(SEQ ID NO:1)および(b)アミノ酸配列SKEQLTPLIK(SEQ ID NO:2)を含み、精製された生体分子が約8943ダルトン+/-15の分子量を有する。
【0069】
本発明の精製された生体分子は、ヒトアポリポタンパク質A-II前駆体および成熟ヒトアポリポタンパク質A-IIポリペプチドのアミノ酸配列に見出されるアミノ酸配列を含む。具体的には、本発明の精製された生体分子のアミノ酸配列VKSPELQAEAK(SEQ ID NO:1)は、ヒトアポリポタンパク質A-II前駆体の52位〜62位に、および成熟ヒトアポリポタンパク質A-IIポリペプチド(NCBIアクセッション番号NP_001634およびP02652)の29位〜39位に見出される。本発明の精製された生体分子のアミノ酸配列SKEQLTPLIK(SEQ ID NO:2)は、ヒトアポリポタンパク質A-II前駆体の68位〜77位に、および成熟ヒトアポリポタンパク質A-IIポリペプチド(NCBIアクセッション番号NP_001634およびP02652)の45位〜54位に見出される。SEQ ID NO:1およびSEQ ID NO:2を含み、かつ約8943ダルトン+/-15の分子量を有する精製された生体分子は、ApoA-IIアイソフォームと呼ばれている。成熟ヒトアポリポタンパク質A-IIの報告された質量は8.7kDaである(Gordon et al., J. Biol Chem, 258:14054-14059, 1983; Scanu et al., Biochem Biophys Acta, 351:341-347, 1974)。本発明で発見されたApoA-IIアイソフォームは、〜8.8kDaおよび〜8.9kDa、より具体的には8943+/-15の分子量を有する。
【0070】
ApoA-IIアイソフォームは、Ciphergen Biosystems, Inc.(Fremont, CA)(「Ciphergen」)からのProteinChipアレイを用いるSELDIテクノロジーを使用して発見された。生体試料は、前立腺癌と診断された被験体および正常と診断された被験体から収集された。試料は陰イオン交換クロマトグラフィーにより分画された。分画された試料は、SELDIバイオチップへ適用され、試料におけるポリペプチドのスペクトルは、Ciphergen PBSII質量分析計における飛行時間型質量分析により生じた。このように得られたスペクトルは、Ciphergen Biosystems, Inc.からのBiomarker WizardおよびBiomarker Pattern Softwareを含むCiphergen Express(商標)Data Manager Softwareにより解析された。各群についての質量スペクトルは、散布図解析にかけられた。マン-ホイットニー検定解析は、散布図において各タンパク質クラスターについて前立腺癌群および対照群を比較するために用いられ、その2つの群間で有意に(p<0.0001)異なるタンパク質が選択された。この方法は実施例セクションでより詳細に記載されている。
【0071】
本発明のバイオマーカーは、質量分析により測定されるようなそれらの質量対電荷比により特徴付けられる。このように、例えば、本発明のApoA-IIアイソフォームは、8943の質量対電荷比を測定している。質量対電荷比は、Ciphergen Biosystems, Inc. PBS II質量分析計において生じた質量スペクトルから決定された。この計器は、約+/-0.15パーセントの質量精度を有する。さらに、計器は約400〜1000m/dmの質量分解能を有し、mは質量であり、dmは0.5ピーク高さにおける質量スペクトルピーク幅である。バイオマーカーの質量対電荷比はBiomarker Wizard(商標)ソフトウェア(Ciphergen Biosystems, Inc.)を用いて決定された。Biomarker Wizardは、PBSIIにより測定されたような解析されるすべてのスペクトルから同じピークの質量対電荷比をクラスター形成し、クラスターにおいて最大および最小の質量対電荷比をとり、2で割ることにより、質量対電荷比をバイオマーカーに割り当てる。従って、与えられる質量はこれらの特異化を反映している。
【0072】
本発明のバイオマーカーはさらに、クロマトグラフィー表面上でのそれらの結合特性により特徴付けられる。バイオマーカーの多くは、pH4における100mM酢酸ナトリウムでの洗浄後、陽イオン交換吸着体(例えば、Ciphergen(登録商標)WCX ProteinChip(登録商標)アレイ)に結合する。
【0073】
本発明の特定のバイオマーカーのアイデンティティは、実施例セクションに記載されているように決定されている。ApoA-IIアイソフォームについてのようなアイデンティティが決定されているバイオマーカーについて、バイオマーカーの存在または量は、本明細書に記載された方法により、および当技術分野において公知の他の方法により、測定することができる。
【0074】
本発明のバイオマーカーは、最初、質量対電荷比、結合特性、およびスペクトル形状により特徴付けられる。従って、それらはそれらの特定のアイデンティティを知らずに質量分析により検出されうる。しかしながら、バイオマーカーは、例えば、ポリペプチドのアミノ酸配列を決定することにより同定されうる。例えば、バイオマーカーは、トリプシンまたはV8プロテアーゼのようないくつかの酵素を用いてペプチドマッピングされることができ、消化断片の分子量は、様々な酵素により生成された消化断片の分子量に適合する配列についてデータベースを検索するために用いることができる。または、タンパク質バイオマーカーはタンデムMSテクノロジーを用いてシーケンシングすることができる。この方法において、タンパク質は、例えば、ゲル電気泳動により単離される。バイオマーカーを含むバンドは切り出され、タンパク質はプロテアーゼ消化に供される。個々のタンパク質断片は第一質量分析計により分離される。断片は、その後、ペプチドを細分化してポリペプチドラダーを生じる衝突誘発冷却に供される。ポリペプチドラダーはその後、タンデムMSの第二質量分析計により分析される。ポリペプチドラダーのメンバーの質量における差は、配列におけるアミノ酸を同定する。全タンパク質がこのようにシーケンシングすることができ、または配列断片がアイデンティティ候補を見出すためにデータベース検索に供することができる。例えば、バイオマーカーM8943のさらなる分析により、そのトリプシンペプチドがヒトアポリポタンパク質A-IIに見出されるアミノ酸配列と同一であることが実証された。従って、M8943はApoA-IIアイソフォームであると同定されうる。
【0075】
本発明のApoA-IIアイソフォームバイオマーカーは生体分子である。従って、本発明は精製された形でのこれらの生体分子を提供する。ApoA-IIアイソフォームバイオマーカーは、尿または血清のような生体液から単離および精製されうる。それらは、それらの質量、それらの結合特性、およびApoA-IIアイソフォームポリペプチドとしてのそれらのアイデンティティに基づいて当技術分野において公知の任意の方法により単離することができる。例えば、生体分子を含む生体試料は、本明細書に記載されるように、クロマトグラフィー分画に供される、および、例えば、アクリルアミドゲル電気泳動によるさらなる分離に供することができる。バイオマーカーのアイデンティティの知識もまた、免疫親和性クロマトグラフィーによるそれらの単離を可能にする。
【0076】
3. 被験体由来の生体試料の提供
上昇したPSAレベルの検出の域を超える、前立腺癌を診断および病期決定するための他の現行方法は、当技術分野に精通した医者に公知であり、直腸診、経直腸的超音波断層法(TRUS)、または磁気共鳴映像法(MRI)、骨スキャニング、X線、骨格筋調査、静脈性腎盂造影、CATスキャン、および生検を含む(Garnick, Annals of Internal Medicine, 118:803-818, 1993; Garnick, Scientific American 270:72-81, 1994に概説されている)。しかしながら、前立腺癌を診断および病期決定するためのより便利で、かつしばしばより正確な方法は、被験体由来の生体試料を特徴付けることができる。
【0077】
本発明の態様において、生体試料は、前立腺異常を有すると同定された被験体から提供される。または、生体試料は、前立腺異常を有すると同定されたことがない被験体から得ることができる。生体試料は生体液または組織検体であってよい。
【0078】
3.1. 生体液
本発明の目的として、生体液は、本明細書に定義されているような任意の生理学的液体試料、好ましくは哺乳動物の生理学的液体試料、最も好ましくはヒトの生理学的液体試料でありうる。本発明の好ましい態様において、ApoA-IIアイソフォームバイオマーカーの検出のための生体液は血清である。もう一つの好ましい生体液は全血である。しかしながら、もう一つの態様において、ApoA-IIアイソフォームバイオマーカーは尿で検出することができる。
【0079】
3.2. 組織検体
生体試料は組織検体であってよい。従って、本発明の一つの態様において、ApoA-IIアイソフォームバイオマーカーは被験体由来の組織検体において検出される。本発明の方法を実施するのに有用な組織検体の例は、前立腺、中枢神経系、骨、乳房組織、腎組織、子宮内膜、頭/頸部、胆嚢、耳下腺組織、脳、下垂体、腎臓組織、筋肉、食道、胃、小腸、結腸、尿道、肝臓、脾臓、膵臓、甲状腺組織、心臓、肺、膀胱、脂肪組織、リンパ節組織、副腎組織、精巣組織、扁桃腺、および胸腺から採取された試料を含む。好ましくは、生体試料は前立腺組織試料、最も好ましくはヒト前立腺組織試料である。本発明の好ましい態様において、ヒト前立腺組織試料は前立腺癌組織試料である。前立腺癌組織試料は、本明細書に記載された前立腺癌病期のいずれか由来でありうる。もう一つの好ましい態様において、ヒト前立腺組織試料は良性前立腺過形成組織試料である。
【0080】
前立腺は、以下の3つの異なる型の前立腺組織で構成される:中心帯、辺縁帯(PZ)、および移行帯(TZ)。PZは正常前立腺の容積の約70%を含み、一方、中心体およびTZは、それぞれ、約25%および5%である。すべての3つの帯は当技術分野において明確に定義されている(Chapman & Hall USA, 115 Fifth Ave., New York, N.Y., 10003により発刊された、Bostwick and Dundore, Biopsy Pathology of the Prostateを参照)。簡単には、TZは緻密な間質に埋め込まれた小さな単一腺に特徴付けられ、PZは緩い間質に埋め込まれた小さな腺に特徴付けられる。TZ組織はPZと特有の境界を形成する。
【0081】
BPHを有する患者において過形成になるのはTZである。広範なBPHに関して、TZは他の前立腺帯の容積の数倍まで増殖する。TZ組織は近位前立腺尿道を囲むが、それが、制限された尿流がBPHに起因する拡大したTZの症状であることの理由である。対照的に、大半の癌は辺縁帯に見出される。従って、前立腺癌患者の前立腺において、通常、非癌性辺縁帯組織(N-PZ)、腫瘍細胞を含む癌性辺縁帯組織(C-PZ)、および非癌性移行帯組織(TZ)が同定されうる。本発明は、抗ApoA-II抗体が前立腺組織の異なる型においてApoA-IIアイソフォームの異なる量を検出することを発見している(図5参照)。
【0082】
本発明のApoA-IIアイソフォームはまた、癌組織をBPHまたは正常組織から区別することを助ける免疫組織学的マーカーとして用いることができる。本発明に従って、本発明のApoA-IIアイソフォームは、免疫組織化学的アッセイ手順により患者組織試料において検出されうる。患者組織検体における抗原の検出のための免疫組織化学的方法は当技術分野において周知であり、本明細書に記載される必要はない(Taylor, Arch Pathol Lab Med 102:113-121, 1978)。
【0083】
4. 生体試料の生体特異性捕捉試薬との接触
4.1. 生体特異性捕捉試薬
本発明のApoA-IIアイソフォームバイオマーカーは、最初、Gordon et al.(J Biol Chem, 258:14054-14059, 1983)およびScanu et al.(Biochim Biophys Acta, 351:341-347, 1974)により記載されているような成熟ApoA-IIからApoA-IIアイソフォームを検出および区別することができる任意の方法により検出されうる。本発明のApoA-IIアイソフォームを含むことが疑われる生体試料は、ApoA-IIアイソフォームを捕捉する能力がある生体特異性捕捉試薬と接触させられ、ApoA-IIアイソフォームは、(i)アミノ酸配列VKSPELQAEAK(SEQ ID NO:1)および(ii)アミノ酸配列SKEQLTPLIK(SEQ ID NO:2)を含み、かつApoA-IIアイソフォームが約8943ダルトン+/-15の分子量を有する。
【0084】
最初の検出のための好ましい方法は、まずApoA-IIアイソフォームバイオマーカーを、例えば、生体特異性捕捉試薬と接触させ、その後、捕捉されたタンパク質を質量分析により検出する段階を含む。より具体的には、タンパク質は、ApoA-IIアイソフォームバイオマーカーを認識する抗体、アプタマー、またはアフィボディ(affibody)のような生体特異性捕捉試薬を用いて捕捉される。アプタマーは、タンパク質または代謝産物のような特定の分子標的に結合する二本鎖DNAまたは一本鎖RNA分子を含む。アフィボディ、ApoA-IIアイソフォームのような所望の標的タンパク質に対して選択されうるタンパク質結合性ポリペプチドはコンビナトリアルタンパク質ライブラリーから単離されうる(Hansson et al., Immunotechnology, (3-4):237-252, 1999; Nord et al., Eur J Biochem, 15:4269-4277, 2001; Ronnmark et al., J Immunol Methods, (1-2):199-211, 2002)。この方法はまた結果として、ApoA-IIアイソフォームに結合している、または別なふうに抗体により認識される、およびそれ自身、バイオマーカーでありうる、ApoA-IIアイソフォーム相互作用物質の捕捉を生じる。
【0085】
本発明は、例えば、ELISAまたは蛍光に基づいたイムノアッセイを含むサンドイッチイムノアッセイ、および他の酵素イムノアッセイを含む伝統的なイムノアッセイを企図する。SELDIに基づいたイムノアッセイにおいて、バイオマーカーについての生体特異性捕捉試薬は、事前活性化ProteinChipアレイのようなMSプローブの表面に付着している。ApoA-IIアイソフォームバイオマーカーは、その後、この試薬を通してバイオチップ上に特異的に捕捉され、捕捉されたApoA-IIアイソフォームバイオマーカーは質量分析により検出される。
【0086】
プローブは、それが質量分析計へ挿入することができる限り、円形、楕円形、正方形、長方形、もしくは他の多角形、または他の望ましい形を含む幅広い種類の望ましい形状の型をとりうる。プローブは、様々な生体特異性捕捉試薬を支持することができる幅広い種類の材料から作製されうる。例示的な材料は、ガラスおよびセラミックのような絶縁材;シリコンウエハーのような半絶縁材;導電性材(ニッケル、真鍮、スチール、アルミニウム、金のような金属、または導電性ポリマーを含む);有機ポリマー;バイオポリマー、またはそれらの組み合わせを含む。
【0087】
4.1.1. 抗体
生体特異性捕捉試薬は、ApoA-IIアイソフォームに結合する能力がある任意の分子でありうる。好ましい態様において、捕捉試薬は抗体である。このように、本発明の好ましい態様において、ApoA-IIアイソフォームの量を被験体由来の生体試料において評価する段階は、生体試料を、ApoA-IIアイソフォームまたはその断片に反応性の抗体と接触させる段階を含む。抗体の生体試料に結合する量が測定され、あらかじめ定められた基準レベルと比較されうる。
【0088】
抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、二重特異性抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、一本鎖抗体、およびそれらの活性断片からなる群より選択されうる。活性断片は、限定されるわけではないが、Fv、Fd、dAB、CDR、Fab、およびFab2を含む。
【0089】
「ApoA-IIアイソフォームに反応性の抗体」とは、抗体が、ApoA-IIアイソフォームの特定の部分へ特異的に結合するその表面上または空洞中の領域を有することを意味し、すなわち、それはApoA-IIアイソフォームに対する結合親和性(通常、Kaと表される)を有する。
【0090】
本発明のもう一つの局面において、本発明のApoA-IIアイソフォームと特異的免疫反応性であり、かつ本発明のApoA-IIアイソフォームに結合する抗体が提供される。本明細書に用いられる場合の「特異的免疫反応性」という用語は、本発明の抗体が、Gordon et al.(J Biol Chem, 258:14054-14059, 1983)およびScanu et al.(Biochem Biophys Acta, 351:341-347, 1974)により記載されているような成熟ApoA-IIに対して本発明のApoA-IIアイソフォームを優先的に認識かつ結合することを示す。本明細書に用いられる場合の「優先的に認識かつ結合する」という用語は、本発明の抗体が、Gordon et al.(J. Biol Chem, 258:14054-14059, 1983)およびScanu et al.(Biochem Biophys Acta, 351:341-347, 1974)により記載されているような成熟ApoA-IIに対してより本発明のApoA-IIアイソフォームへより密接に結合することを意味する。抗ApoA-IIアイソフォーム抗体のApoA-IIの成熟型への交差反応性は、比較的低い、好ましくは約10%未満、および最も好ましくは約1%未満である。
【0091】
または、本発明のApoA-IIアイソフォームを優先的に認識かつ結合する抗体を用いる代わりに、アポリポタンパク質A-IIと免疫反応性であり、かつアポリポタンパク質A-IIに結合する抗体が本発明の方法に用いることができる。それらの抗体の一部はまた、ApoA-IIアイソフォームを捕捉するために有用である(実施例参照)。結合されたApoA-IIアイソフォームは、その後、例えば、SELDI、他の質量分析技術、および/またはPAGEによりさらに分析してもよい。
【0092】
本発明のApoA-IIアイソフォームと特異的免疫反応性であり、かつ本発明のApoA-IIアイソフォームに結合するポリクローナルおよびモノクローナル抗体、またはそれらの活性断片は、当業者に周知の方法によりApoA-IIアイソフォームまたはその断片を含む抗原から作製されうる(Harlow et al., Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, 1988; Coligan et al., Current Protocols in Immunology, Wiley Interscience, 1991; すべて参照により組み入れられている)。従って、本発明のApoA-IIアイソフォームは、本発明のApoA-IIアイソフォームを優先的に認識かつ結合するモノクローナル抗体を誘発する能力がある免疫原として用いることができる。本発明の免疫原は、本明細書に記載されているようなApoA-IIアイソフォームまたはその断片を含みうる。
【0093】
本発明はまた、Gordon et al.(J Biol Chem, 258:14054-14059, 1983)およびScanu et al.(Biochem Biophys Acta, 351:341-347, 1974)により記載されているような成熟ApoA-IIに対して本発明のApoA-IIアイソフォームを優先的に認識かつ結合するモノクローナル抗体を産生する能力があるハイブリドーマ細胞系を提供する。
【0094】
4.2. 固体支持体に付着した生体特異性捕捉試薬
好ましくは、生体特異性捕捉試薬は固相に結合している。その後、捕捉されたタンパク質はSELDI質量分析により、またはタンパク質を捕捉試薬から溶離させ、伝統的なMALDIによりもしくはSELDIにより溶離されたタンパク質を検出することにより、検出されうる。質量分析の使用は、それが、質量に基づいて、標識の必要性無しに、タンパク質の改変型を区別かつ定量化することができるため、特に魅力的である。
【0095】
生体特異性捕捉試薬は多くの異なる固体支持体へ付着することができる。固体支持体は任意の形状または型であってよい。固体支持体の例は、限定されるわけではないが、ビーズ、膜、チップ、またはマイクロタイタープレートのようなプレートを含む。固体支持体は、例えば、ガラス、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、デキストラン、ナイロン、天然および修飾セルロース、ポリアクリルアミド、アガロース、ならびに磁鉄鉱でできていてよい。
【0096】
抗体のような生体特異性捕捉試薬を固相へ結合させる方法は、当技術分野において周知である。それらは、例えば、二官能性連結試薬を用いることができ、または接触することで分子を結合するエポキシドまたはイミジゾールのような反応基で、固相を誘導体化することができる。ApoA-IIアイソフォームを含む異なる標的タンパク質に対する生体特異性捕捉試薬は、同じ場所で混合することができ、またはそれらは異なる物理的なもしくはアドレス可能な位置において固相へ付着することができる。例えば、誘導体化されたビーズを含む複数のカラムに負荷することができ、各カラムは単一のタンパク質クラスターを捕捉することができる。または、様々なタンパク質クラスターに対する捕捉試薬で誘導体化された異なるビーズを単一のカラムに充填し、それにより単一の場所において分析物をすべて捕捉することができる。従って、Luminex(Austin, TX)のxMAPテクノロジーのような抗体誘導体化ビーズに基づいたテクノロジーはタンパク質クラスターを検出するために用いることができる。しかしながら、生体特異性捕捉試薬は、それらを区別するためにクラスターのメンバーの方へ特異的に方向づけられなければならない。
【0097】
さらにもう一つの態様において、バイオチップの表面は、同じ位置で、または物理的に異なるアドレス可能な位置でのいずれかでタンパク質クラスターに対して方向づけられた生体特異性捕捉試薬で誘導体化されうる。異なるアドレス可能な位置で異なるクラスターを捕捉する一つの利点は、分析がより簡単になることである。
【0098】
本発明の方法の好ましい態様において、固体支持体が質量分析プローブであり、かつ生体特異性捕捉試薬がプローブに付着した抗体を含む場合、結合されたApoA-IIアイソフォームの量を測定する段階は、結合されたApoA-IIアイソフォームをレーザー脱離イオン化質量分析により検出する段階を含む。
【0099】
5. ApoA-IIアイソフォームバイオマーカーの検出
ApoA-IIアイソフォームの同定および対象となる臨床的パラメーターとの相関後、本発明のApoA-IIアイソフォームは本発明の方法のいずれかにおいてバイオマーカーとして用いることができる。現時点では、ApoA-IIアイソフォームの検出は、本明細書に記載されているように、親和性捕捉、続いて質量分析、またはApoA-IIアイソフォームへ特異的に方向づけられた伝統的イムノアッセイを含む任意の特異的検出方法により達成されうる。
【0100】
この目的を達成するために用いることができる検出パラダイムは、光学的方法、電気化学的方法(ボルタメトリーおよびアンペロメトリー技術)、原子間力顕微鏡法、および高周波方法、例えば、多極共鳴分光法を含む。共焦点および非共焦点の両方の顕微鏡法に加えて、光学的方法の例証となるのは、蛍光、ルミネセンス、化学ルミネセンスの検出、吸光度、反射率、透過率、および複屈折または屈折率(例えば、表面プラズモン共鳴、偏光解析法、共振ミラー方法、格子結合器導波管方法、または干渉分光法)である。
【0101】
5.1. バイオチップ
一つの態様において、生体試料はバイオチップを用いて分析される。バイオチップは、一般的に、固体基質または固体支持体を含み、おおむね平らな表面を有し、それに生体特異性捕捉試薬(吸着剤または親和性試薬とも呼ばれる)が付着している。しばしば、バイオチップの表面は複数のアドレス可能な位置を含み、それぞれがそこに結合した捕捉試薬を有する。
【0102】
タンパク質バイオチップは、ポリペプチドの捕捉に適応したバイオチップである。多くのタンパク質バイオチップは当技術分野において記載されている。これらは、例えば、Ciphergen Biosystems, Inc.(Fremont, CA)、Packard BioScience Company(Meriden CT)、Zyomyx(Hayward, CA)、Phylos(Lexington, MA)、およびBiacore(Uppsala, Sweden)により製造されたタンパク質バイオチップを含む。そのようなタンパク質バイオチップの例およびそれらの使用は、参照により全体として本明細書に組み入れられている、以下の特許または公開された特許出願に記載されている:米国特許第6,225,047号;PCT国際公開第WO 99/51773号;米国特許第6,329,209号、PCT国際公開第WO 00/56934号および米国特許第5,242,828号。
【0103】
5.2. 質量分析による検出
好ましい態様において、本発明のApoA-IIアイソフォームバイオマーカーは、質量分析、気相イオンを検出するために質量分析計を用いる方法により検出される。質量分析計の例は、飛行時間型、磁場型、四重極フィルター型、イオントラップ型、イオンサイクロトロン共鳴型、静電場型の分析器、およびこれらのハイブリッドである。
【0104】
さらに好ましい方法において、質量分析計はレーザー脱離/イオン化質量分析計である。レーザー脱離/イオン化質量分析において、分析物は質量分析プローブの表面上に置かれ、装置は、質量分析計のプローブ界面を結合するように、ならびにイオン化および質量分析計への導入のためにイオン化エネルギーに分析物を差し出すように適応している。レーザー脱離質量分析計は、分析物を表面から脱離させるために、それらを揮発させてイオン化し、それらを質量分析計のイオン光学に利用できるようにするために、典型的には紫外線レーザーからのレーザーエネルギーを用いるが、赤外線レーザーからのもまた用いる。
【0105】
5.2.1. SELDI
本発明に用いる好ましい質量分析技術は、例えば、両方ともHutchens and Yipの米国特許第5,719,060号および第6,225,047号に記載されているように、「表面増強レーザー脱離イオン化」または「SELDI」である。これは、分析物(本明細書では、1つまたは複数のApoA-IIアイソフォームバイオマーカー)がSELDI質量分析プローブの表面上に捕捉される脱離/イオン化気相イオン分光測定(例えば、質量分析)の方法を指す。SELDIのいくつかのバージョンがある。
【0106】
SELDIの一つのバージョンは、「親和性捕捉質量分析」と呼ばれる。それはまた、「表面増強親和性捕捉」または「SEAC」とも呼ばれる。このバージョンは、物質と分析物の間の非共有結合性親和性相互作用(吸着)を通して分析物を捕捉するプローブ表面上の物質を有するプローブの使用を含む。物質は、「吸着剤」、「捕捉試薬」、「親和性試薬」、または「結合性部分」と様々に呼ばれる。そのようなプローブは、「親和性捕捉プローブ」と呼ばれ、および「吸着性表面」を有することを意味しうる。捕捉試薬は分析物を結合する能力がある任意の物質でありうる。捕捉試薬は、選択性表面の基質または支持体へ直接的に付着してもよく、または基質もしくは支持体は、例えば、共有結合もしくは配位共有結合を形成する反応を通して、捕捉試薬を結合する能力がある反応性部分を有する反応性表面を有してもよい。エポキシドおよびアシル-イミジゾールは、抗体または細胞受容体のようなポリペプチド捕捉試薬を共有結合しうる有用な反応性部分である。ニトリロ三酢酸およびイミノ二酢酸は、ヒスチジン含有ペプチドと非共有結合性に相互作用する金属イオンを結合するためのキレート剤として機能する有用な反応性部分である。吸着剤は、一般的に、クロマトグラフィー吸着剤および生体特異性吸着剤として分類される。
【0107】
「クロマトグラフィー吸着剤」は、典型的にはクロマトグラフィーに用いられる吸着性物質を指す。クロマトグラフィー吸着剤は、例えば、イオン交換物質、金属キレーター(例えば、ニトリロ三酢酸またはイミノ二酢酸)、固定化金属キレート、疎水性相互作用吸着剤、親水性相互作用吸着剤、色素、単純生体分子(例えば、ヌクレオチド、アミノ酸、単糖、および脂肪酸)、および混合様式吸着剤(例えば、疎水性引力/静電反発力吸着剤)を含む。
【0108】
「生体特異性吸着剤」は、生体分子、例えば、核酸分子(例えば、アプタマー)、ポリペプチド、多糖、脂質、ステロイド、またはこれらの結合体(例えば、糖タンパク質、リポタンパク質、糖脂質、核酸(例えば、DNA)-タンパク質結合体)を含む吸着剤を指す。場合によっては、生体特異性吸着剤は、多タンパク質複合体、生体膜、またはウイルスのような巨大分子構造でありうる。生体特異性吸着剤の例は、抗体、受容体タンパク質、および核酸である。生体特異性吸着剤は、典型的には、クロマトグラフィー吸着剤より標的分析物に対してより高い特異性を有する。SELDIに用いる吸着剤のさらなる例は、米国特許第6,225,047号に見出すことができる。「生体選択性吸着剤」は、少なくとも10-8Mの親和力で分析物に結合する吸着剤を指す。
【0109】
Ciphergen Biosystems, Inc.により製造されるタンパク質バイオチップは、アドレス可能な位置でそれらに付着したクロマトグラフィー吸着剤または生体特異性吸着剤を有する表面を含む。Ciphergen ProteinChip(登録商標)アレイは、NP20(親水性);H4およびH50(疎水性);SAX-2、Q-10、およびLSAX-30(陰イオン交換);WCX-2、CM-10、およびLWCX-30(陽イオン交換);IMAC-3、IMAC-30、およびIMAC40(金属キレート);ならびにPS-10、PS-20(アシル-イミジゾール、エポキシドを有する反応性表面)、およびPG-20(アシル-イミジゾールを通して結合したプロテインG)を含む。疎水性ProteinChipアレイは、イソプロピル官能基またはノニルフェノキシ-ポリ(エチレングリコール)メタクリレート官能基を有する。陰イオン交換ProteinChipアレイは第四アンモニウム官能基を有する。陽イオン交換ProteinChipアレイはカルボキシレート官能基を有する。固定化金属キレートProteinChipアレイは、キレート化により銅、ニッケル、亜鉛、およびガリウムのような遷移金属イオンを吸着するニトリロ三酢酸官能基を有する。事前活性化ProteinChipアレイは、共有結合のためにタンパク質上の基と反応できるアシル-イミジゾール官能基またはエポキシド官能基を有する。
【0110】
そのようなバイオチップは以下にさらに記載されている:米国特許第6,579,719号(Hutchens and Yip, 「Retentate Chromatography」, June 17, 2003);PCT国際公開第WO 00/66265号(Rich et al., 「Probes for a Gas Phase Ion Spectrometer」, November 9, 2000);米国特許第6,555,813号(Beecher et al., 「Sample Holder with Hydrophobic Coating for Gas Phase Mass Spectrometer」, April 29, 2003);米国特許出願第U.S. 2003 0032043 A1号(Pohl and Papanu, 「Latex Based Adsorbent Chip」, July 16, 2002);およびPCT国際公開第WO 03/040700号(Um et al., 「Hydrophobic Surface Chip」, May 15, 2003);米国特許出願第US 2003/0218130 A1号(Boschetti et al., 「Biochips With Surfaces Coated With Polysaccharide-Based Hydrogels」, April 14, 2003)および「Photocrosslinked Hydrogel Surface Coatings」というタイトルを付けられた米国特許出願第60/448,467号(Huang et al., February 21, 2003に出願された);すべては全体として参照により本明細書に組み入れられている。
【0111】
一般的に、吸着性表面を有するプローブは、生体試料と、試料に存在する可能性があるApoA-IIアイソフォームバイオマーカーが吸着剤に結合することを可能にするのに十分な時間、接触させられる。インキュベーション時間後、プローブは結合していない物質を除去するために洗浄される。任意の適した洗浄溶液を用いることができ、好ましくは、水溶液が用いられる。分子が結合されたままである程度は、洗浄のストリンジェンシーを調整することにより操作されうる。洗浄溶液の溶出特性は、例えば、pH、イオン強度、疎水性、カオトロピズムの程度、界面活性剤強度、および温度に依存しうる。プローブがSEAC性質およびSEND性質(本明細書に記載されているような)の両方とももたないならば、エネルギー吸収分子が、結合したバイオマーカーを有する基質または支持体へ適用される。
【0112】
プローブに結合したApoA-IIアイソフォームバイオマーカーは、飛行時間型質量分析計のような気相イオン分光計において検出される。ApoA-IIアイソフォームバイオマーカーはレーザーのようなイオン源によりイオン化され、生じたイオンはイオン光学的アセンブリーにより収集され、その後、質量分析器が、通過するイオンを分散させて分析する。検出器は、その後、検出されたイオンの情報を質量対電荷比へ変換する。ApoA-IIアイソフォームバイオマーカーの検出は、典型的には、シグナル強度の検出を含む。このように、ApoA-IIアイソフォームバイオマーカーの量および質量の両方が測定されうる。
【0113】
SELDIのもう一つのバージョンは、プローブ表面へ化学結合しているエネルギー吸収分子を含むプローブ(「SENDプローブ」)の使用を含む表面増強正味脱離(Surface-Enhanced Neat Desorption)(SEND)である。「エネルギー吸収分子」(EAM)という句は、レーザー脱離/イオン化源からエネルギーを吸収する能力があり、その後、それと接触しての分析物分子の脱離およびイオン化に寄与する分子を意味する。EAMカテゴリーは、しばしば「マトリックス」と呼ばれるMALDIに用いられる分子を含み、桂皮酸誘導体、シナピン酸(SPA)、シアノ-ヒドロキシ-桂皮酸(CHCA)およびジヒドロキシ安息香酸、フェルラ酸、ならびにヒドロキシアセトフェノン誘導体により例示される。特定の態様において、エネルギー吸収分子は、線状または架橋ポリマー、例えば、ポリメタクリレート、へ取り込まれる。例えば、組成物は、α-シアノ-4-メタクリロイルオキシ桂皮酸およびアクリレートのコポリマーでありうる。もう一つの態様において、組成物は、α-シアノ-4-メタクリロイルオキシ桂皮酸、アクリレート、および3-(トリ-エトキシ)シリルプロピルメタクリレートのコポリマーである。もう一つの態様において、組成物は、α-シアノ-4-メタクリロイルオキシ桂皮酸およびオクタデシルメタクリレートのコポリマーである(「C18 SEND」)。SENDは、全体として参照により本明細書に組み入れられている、米国特許第6,124,137号およびPCT国際公開第WO 03/64594号(Kitagawa, 「Monomers And Polymers Having Energy Absorbing Moieties Of Use In Desorption/Ionization Of Analytes」, August 7, 2003)にさらに記載されている。
【0114】
SEAC/SENDは、捕捉試薬およびエネルギー吸収分子が試料提示表面に付着しているSELDIのバージョンである。SEAC/SENDプローブは、それゆえに、外部マトリックスを適用する必要性なしに、親和性捕捉を通しての分析物の捕捉、およびイオン化/脱離を可能にする。C18 SENDバイオチップは、捕捉試薬として機能するC18部分、およびエネルギー吸収部分として機能するCHCA部分を含む、SEAC/SENDのバージョンである。
【0115】
表面増強感光性付着および放出(SEPAR)と呼ばれるSELDIのもう一つのバージョンは、分析物を共有結合し、かつその後、光、例えば、レーザー光、への曝露後その部分における感光性結合を切断することを通して分析物を放出することができる、表面に付着した部分を有するプローブの使用を含む(全体として参照により本明細書に組み入れられている米国特許第5,719,060号参照)。SEPARおよびSELDIの他の型は、本発明に従って、バイオマーカーまたはバイオマーカープロファイルを検出するように容易に適応する。
【0116】
5.2.2. 他の質量分析方法
もう一つの質量分析方法において、ApoA-IIアイソフォームバイオマーカーは、まず、ApoA-IIアイソフォームバイオマーカーを結合するクロマトグラフ性質を有するクロマトグラフィー樹脂上に捕捉されうる。本例において、これは様々な方法を含むことができる。例えば、CM Ceramic HyperD F樹脂のような陽イオン交換樹脂上にApoA-IIアイソフォームバイオマーカーを捕捉し、樹脂を洗浄し、ApoA-IIアイソフォームバイオマーカーを溶出し、MALDIにより検出することができる。または、この方法に先行して、陽イオン交換樹脂への適用前に陰イオン交換樹脂上で試料を分画することができる。もう一つの代替において、陰イオン交換樹脂上で分画し、MALDIにより直接的に検出することができる。さらにもう一つの方法において、ApoA-IIアイソフォームバイオマーカーを結合する抗体を含む免疫クロマトグラフィー樹脂上にApoA-IIアイソフォームバイオマーカーを捕捉し、結合していない物質を除去するために樹脂を洗浄し、樹脂からApoA-IIアイソフォームバイオマーカーを溶出し、溶出されたApoA-IIアイソフォームバイオマーカーをMALDIにより、またはSELDIにより検出することができる。
【0117】
5.2.3. データ解析
飛行時間型質量分析によるApoA-IIアイソフォームバイオマーカーのような分析物の分析は飛行時間スペクトルを生成する。最終的に分析される飛行時間スペクトルは、典型的には、試料に対するイオン化エネルギーの単一パルスからのシグナルを表さず、むしろいくつかのパルスからのシグナルの合計を表す。これはノイズを低減させ、ダイナミックレンジを増加させる。飛行時間データは、その後、データ処理に供される。CiphergenのProteinChip(登録商標)ソフトウェアにおいて、データ処理は典型的には、質量スペクトルを生成するためのTOFからM/Zへの変換、計器偏りを排除するためのベースライン減算、高頻度ノイズを低減させるための高頻度ノイズフィルタリングを含む。
【0118】
ApoA-IIアイソフォームバイオマーカーの脱離および検出により生じたデータは、プログラム可能デジタルコンピューターの使用で解析されうる。コンピュータープログラムは、検出されたApoA-IIアイソフォームのようなバイオマーカーの数、および任意で、シグナルの強度、ならびに検出された各バイオマーカーについての決定された分子量を示すようにデータを解析する。データ解析は、バイオマーカーのシグナル強度を決定する段階、およびあらかじめ定められた統計学的分布から逸脱したデータを除去する段階を含みうる。例えば、観察されたピークは、ある参照に対する各ピークの高さを計算することにより標準化されうる。参照は、スケールにおいてゼロに設定される、計器およびエネルギー吸収分子のような化学物質により生じたバックグラウンドノイズでありうる。
【0119】
コンピューターは、結果として生じたデータをディスプレイのために様々なフォーマットへ変換することができる。標準スペクトルはディスプレイされることができるが、一つの有用なフォーマットにおいて、ピークの高さおよび質量情報のみがスペクトルビューから保持され、より明瞭な画像を生じ、ほとんど同一の分子量を有するバイオマーカーをより容易に見ることを可能にする。もう一つの有用なフォーマットにおいて、2つまたはそれ以上のスペクトルが比較され、便利には、独特のバイオマーカー、および試料間で上方または下方制御されているバイオマーカーを強調表示する。これらのフォーマットのいずれかを用いて、特定のバイオマーカーが試料に存在するかどうかを容易に決定することができる。
【0120】
解析は、一般的に、ApoA-IIアイソフォームのような、分析物からのシグナルを表すスペクトルにおけるピークの同定を含む。ピーク選択は視覚的に行われうるが、ソフトウェアは、ピークの検出を自動化することができるCiphergenのProteinChip(登録商標)ソフトウェアパッケージの一部として利用できる。一般的に、このソフトウェアは、選択された閾値より上のシグナル対ノイズ比を有するシグナルを同定し、ピークシグナルの重心においてピークの質量を標識することにより機能する。一つの有用なアプリケーションにおいて、多数のスペクトルが、質量スペクトルのある選択されたパーセンテージで存在する同一ピークを同定するように比較される。このソフトウェアの一つのバージョンは、限定された質量範囲内で様々なスペクトルに出現するすべてのピークをクラスター形成し、質量(M/Z)を、質量(M/Z)クラスターの中間点近くにあるすべてのピークに割り当てる。
【0121】
データを解析するために用いられるソフトウェアは、シグナルが、本発明によるバイオマーカーに対応するシグナルにおけるピークを表すかどうかを決定するためにシグナルの解析にアルゴリズムを適用するコードを含みうる。ソフトウェアはまた、検査中の特定の臨床的パラメーターの状態を示すバイオマーカーピークまたはバイオマーカーピークの組み合わせが存在するかどうかを決定するために分類ツリーまたはANN解析に、観察されたバイオマーカーピークに関するデータをかけることができる。データの解析は、試料の質量分光分析から直接的にかまたは間接的にかのいずれかで得られる様々なパラメーターに対して「調律され(keyed)」うる。これらのパラメーターは、限定されるわけではないが、1つまたは複数のピーク、ピークまたはピークの群の形状、1つまたは複数のピークの高さ、1つまたは複数のピークの高さの対数、およびピークの高さデータの他の算術操作を含む。
【0122】
5.2.4. 前立腺癌についてのApoA-IIアイソフォームバイオマーカーのSELDI検出のための一般的プロトコール
本発明のApoA-IIアイソフォームの検出のための好ましいプロトコールは以下のとおりである。検査されるべき生体試料、例えば、血清または尿は好ましくはSELDI分析の前に事前分画に供される。これは試料を単純化し、感度を向上させる。事前分画の好ましい方法は、Q HyperD(BioSepra, SA)のような陰イオン交換クロマトグラフィー物質と生体試料を接触させる段階を含む。結合された物質は、その後、pH9、pH7、pH5、およびpH4における緩衝液を用いて段階pH溶出に曝される。ApoA-IIアイソフォームバイオマーカーを含む様々な画分が収集される。
【0123】
検査されるべき生体試料(好ましくは事前分画された)は、陽イオン交換吸着剤(好ましくはWCXProteinChipアレイ(Ciphergen Biosystems, Inc.))またはIMAC吸着剤(好ましくはIMAC3ProteinChipアレイ(Ciphergen Biosystems, Inc.))を含む親和性捕捉プローブと接触させられうる。プローブは、結合していない分子を洗い流すと同時にバイオマーカーを保持する緩衝液で洗浄される。ApoA-IIアイソフォームバイオマーカーについての適切な洗浄緩衝液は実施例に記載されている。ApoA-IIアイソフォームバイオマーカーはその後、レーザー脱離/イオン化質量分析により検出されうる。
【0124】
または、ApoA-IIアイソフォームバイオマーカーを認識する抗体が、事前活性化PS10またはPS20 ProteinChipアレイ(Ciphergen Biosystems, Inc.)のようなプローブの表面に付着しうる。これらの抗体はApoA-IIアイソフォームバイオマーカーを生体試料からプローブ表面上へ捕捉することができる。その後、ApoA-IIアイソフォームバイオマーカーは、例えば、レーザー脱離/イオン化質量分析により検出されうる。
【0125】
5.3. イムノアッセイによる検出
もう一つの態様において、本発明のApoA-IIアイソフォームバイオマーカーはイムノアッセイにより検出することができる。イムノアッセイは、ApoA-IIアイソフォームバイオマーカーを捕捉するために抗体のような生体特異性捕捉試薬を必要とする。さらに、アッセイはApoA-IIアイソフォームタンパク質をGordon et al.(J Biol Chem, 258:14054-14059, 1983)およびScanu et al.(Biochem Biophys Acta, 351:341-347, 1974)により記載されているようなApoA-IIから特異的に区別するように設計してもよい。これは、例えば、1つの抗体が1つより多い型を捕捉し(例えば、ApoA-IIおよびApoA-IIアイソフォームを認識かつ結合する抗体)、第二の区別して標識された抗体が様々な型を特異的に認識かつ結合して、別個の検出を提供する(例えば、ApoA-Iiアイソフォームを優先的に認識かつ結合する抗体)サンドイッチアッセイを用いることにより行うことができる。
【0126】
本発明は生体試料におけるApoA-IIアイソフォームポリペプチドの検出のための様々なインビトロアッセイを企図する。有用なアッセイは、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA;サンドイッチELISAおよび競合ELISAを含む)、ウェスタンブロット法、免疫沈降法、免疫組織化学法、免疫蛍光法、放射免疫アッセイ(RIA)、および/または免疫放射線測定法(IRMA)を含む。これらのアッセイは当技術分野において周知である。
【0127】
ApoA-IIアイソフォームは検出可能な標識を含む抗体を用いることにより検出されうる。「標識抗体」は、検出可能な手段により標識されている抗体を含み、酵素的、放射活性的、蛍光的、化学ルミネセンス的、および/またはバイオルミネセンス的に標識された抗体を含む。
【0128】
抗体を検出可能に標識するために用いることができる酵素は、限定されるわけではないが、西洋ワサビペルオキシダーゼ、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ、ブドウ球菌ヌクレアーゼ、δ-5-ステロイドイソメラーゼ、酵母アルコールデヒドロゲナーゼ、α-グリセロリン酸デヒドロゲナーゼ、、トリオースリン酸イソメラーゼ、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、およびグルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼを含む。
【0129】
抗体の放射性標識についての特に有用な同位元素は、限定されるわけではないが、3H、131I、123I、32P、35S、14C、51Cr、36Cl、57Co、58Co、および好ましくは125Iを含む。
【0130】
最も一般的に用いられる蛍光標識化合物の中では、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、フィコエリトリン、フィコシアニン、アロフィコシアニン、o-フタルアルデヒド、およびフルオレスカミンである。Eu(ユーロピウム)および他のランダニドのような蛍光放射金属原子もまた用いることができる。
【0131】
特に有用な化学ルミネセンス標識化合物の例は、ルミノール、ルシフェリン、イソルミノール、芳香族アクリジニウムエステル、イミダゾール、アクリジニウム塩、および蓚酸エステルである。抗体を標識するという目的のために重要なバイオルミネセンス化合物は、ルシフェリン、ルシフェラーゼ、およびエクオリンである。
【0132】
加えて、本発明のモノクローナル抗体は、低分子量のハプテンに結合されうる。これらのハプテンは、その後、第二反応を用いて特異的に検出されうる。例えば、アビジンと反応するビオチン、または特異的抗ハプテン抗体と反応できる、ジニトロフェニル、ピリドキサル、およびフルオレセインのようなハプテンを用いることが一般的である。
【0133】
本発明の診断および予後アッセイにおいて、抗体の生体試料への結合の量が、標識抗体により放射されたシグナルの強度により、および/または標識抗体に結合した生体試料における細胞の数により、測定されうる。
【0134】
上記検出方法のいずれかの後、結合したApoA-IIアイソフォームは、任意で、PAGE、カラムクロマトグラフィー、または結合したApoA-IIアイソフォームの分子量を測定するための本明細書に記載された任意の他の方法によりさらに分析されうる。
【0135】
さらに、ApoA-IIアイソフォームポリペプチドの検出のためのインビボ技術は、ApoA-IIアイソフォームポリペプチドに対して方向づけられた標識抗体を被験体へ導入する段階を含む。例えば、抗体は、被験体における存在および位置が標準画像化技術により検出されうる放射性マーカーで標識されうる。
【0136】
5.4. PAGEによる検出
本明細書に記載されているようなApoA-IIアイソフォームはそれらの質量により区別されうる。本発明の好ましい態様において、結合したApoA-IIアイソフォームの量を測定する段階は、ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)分析により行われる。PAGEによる分析の後に、任意で、ApoA-IIアイソフォームの抗ApoA-IIアイソフォーム抗体でのウェスタンブロッティングおよび検出が続く。
【0137】
PAGEは1次元(1D)かまたは2次元(2D)のどちらでもよい。2次元PAGEは、タンパク質発現における差を分離および検出するためにプロテオームを探索するための古典的アプローチである(Srinivas et al., Clin Chem, 47:1901-1911, 2001; Adam et al., Proteomics 1:1264-1270, 2001)。さらに、ロボット工学および可能性のあるタンパク質変化を同定するためのソフトウェアプログラムと連結した2D-PAGEテクノロジーにおける進歩はこのプロテオーム系を向上させた。
【0138】
5.5. HPLCによる検出
本明細書に記載されているようなApoA-IIアイソフォームはそれらの質量により区別されうる。本発明の好ましい態様において、結合したApoA-IIアイソフォームの量を測定する段階は、当技術分野において公知であるような高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によりApoA-IIアイソフォームを検出することにより行われる。簡単には、分離技術の組み合わせを用いるHPLCは、より高い分解能で生体試料の分子を分離するために用いることができる。溶出プロファイル上の極めて鋭いピークが生じうる。
【0139】
6. 被験体前立腺癌状態の測定
本発明は、被験体において前立腺癌状態を測定するための方法を提供し、方法は、(a)被験体由来の生体試料を提供する段階;(b)ApoA-IIアイソフォームを捕捉する能力がある生体特異性捕捉試薬と生体試料を接触させる段階であって、ApoA-IIアイソフォームが(i)アミノ酸配列VKSPELQAEAK(SEQ ID NO:1)および(ii)アミノ酸配列SKEQLTPLIK(SEQ ID NO:2)を含み、かつApoA-IIアイソフォームが約8943ダルトン+/-15の分子量を有し、それによりApoA-IIアイソフォームが生体特異性捕捉試薬に結合する、段階;(c)結合したApoA-IIアイソフォームの量を測定する段階;ならびに(d)結合したApoA-IIアイソフォームの量を前立腺癌状態と相関させる段階を含む。このように、本発明のApoA-IIアイソフォームは、前立腺癌を検出するための血清マーカーとして用いることができる。
【0140】
本発明のもう一つの好ましい態様において、被験体において前立腺癌状態を測定するための方法が提供され、方法は、(a)被験体由来の生体試料を提供する段階;(b)ApoA-IIアイソフォームの非存在、存在、もしくは量を検出または測定する段階であって、ApoA-IIアイソフォームが(i)アミノ酸配列VKSPELQAEAK(SEQ ID NO:1)および(ii)アミノ酸配列SKEQLTPLIK(SEQ ID NO:2)を含み、かつApoA-IIアイソフォームが約8943ダルトン+/-15の分子量を有する、段階;ならびに(c)ApoA-IIアイソフォームの非存在、存在、または量を前立腺癌状態と相関させる段階を含む。この方法は、上で概略が説明された詳細を含む。
【0141】
本発明の一つの態様において、方法は、生体試料におけるApoA-IIアイソフォームの量を、前立腺癌を患っていない1つもしくは複数の被験体由来の生体試料におけるApoA-IIアイソフォームの量と、または前立腺癌を患っていない被験体におけるApoA-IIアイソフォームについて前に決定された参照範囲と、比較する段階を含む。
【0142】
6.1. 正常に対する前立腺癌
本発明の好ましい態様において、被験体における前立腺癌状態は、正常に対する前立腺癌、すなわち、前立腺癌被験体と正常または健康な被験体の間の差を測定すること、である。被験体において前立腺癌を診断する方法もまた本発明に含まれる。加えて、本発明は、被験体において前立腺癌転移を診断する方法に関する。
【0143】
これらの方法は、(a)被験体由来の生体試料を提供する段階;(b)ApoA-IIアイソフォームを捕捉する能力がある生体特異性捕捉試薬と生体試料を接触させる段階であって、ApoA-IIアイソフォームが(i)アミノ酸配列VKSPELQAEAK(SEQ ID NO:1)および(ii)アミノ酸配列SKEQLTPLIK(SEQ ID NO:2)を含み、かつApoA-IIアイソフォームが約8943ダルトン+/-15の分子量を有し、それによりApoA-IIアイソフォームが生体特異性捕捉試薬に結合する、段階;(c)結合したApoA-IIアイソフォームの量を測定する段階;ならびに(d)結合したApoA-IIアイソフォームの量を前立腺癌状態と相関させる段階を含む。
【0144】
正常な(すなわち、非癌性)生体試料におけるApoA-IIの量は本明細書に記載されているような様々な方法で評価されうる。一つの態様において、発現のこの正常量は、非癌性であると思われる前立腺細胞においてApoA-IIアイソフォームのレベルを評価することにより、ならびにこの正常量を、癌性および/または転移性であることが疑われる前立腺細胞におけるApoA-IIの量と比較することにより、決定される。または、ApoA-IIアイソフォーム発現の「正常」量は、1つまたは複数の癌に冒されていない個体から得られた1つまたは複数の試料においてApoA-IIアイソフォームの量を評価することにより決定されうる。
【0145】
本発明の方法を用いて、ApoA-IIアイソフォームレベルは、前立腺癌に罹患していることが疑われる被験体由来の生体試料において、および正常または健康な被験体由来の1つもしくは複数の比較生体試料において、測定される。正常または健康な被験体由来の比較生体試料において検出されたApoA-IIアイソフォームレベルより高い、前立腺癌に罹患していることが疑われる被験体由来の生体試料において検出されたApoA-IIアイソフォームレベルは、前立腺癌に罹患していることが疑われる被験体が前立腺癌に罹患している、または罹患している可能性が高いことを示す。
【0146】
6.2. 良性前立腺過形成に対する前立腺癌
本発明のもう一つの好ましい態様において、被験体における前立腺癌状態は、良性前立腺過形成(BPH)に対する前立腺癌、すなわち、前立腺癌被験体と良性前立腺過形成に罹患している被験体の間の差を測定すること、である。
【0147】
BPHに関して、PSAレベルは前立腺サイズと比例して上昇する。大半の場合、PSA上昇は、癌腫よりむしろBPHまたは前立腺炎による。しかしながら、しばしば、前立腺癌の正しい診断はこれらの高いPSAレベルのためにわかりにくくなる。従って、PSAレベルが通常、4〜10ng/mlの範囲にある場合、PSA検査は、デジタル直腸診および/または前立腺針生検のような追加の検査なしで良性前立腺過形成と前立腺癌を区別しうる特異性を欠いているように思われる(McCormack et al., Urology, 45:729-744, 1995)。
【0148】
本発明の方法を用いて、ApoA-IIアイソフォームレベルは、前立腺癌に罹患していることが疑われる被験体由来の生体試料において、および良性前立腺過形成に罹患している被験体由来の1つまたは複数の比較生体試料において、測定される。良性前立腺過形成に罹患している被験体由来の比較生体試料において検出されたApoA-IIアイソフォームレベルより高い、前立腺癌に罹患していることが疑われる被験体由来の生体試料において検出されたApoA-IIアイソフォームレベルは、前立腺癌に罹患していることが疑われる被験体が前立腺癌に罹患している、または罹患している可能性が高いことを示す。
【0149】
6.3. 非前立腺癌に対する前立腺癌
本発明の好ましい態様において、被験体における前立腺癌状態は、非前立腺癌に対する前立腺癌、すなわち、前立腺癌被験体と前立腺癌以外の癌に罹患している被験体の間を、前立腺癌被験体におけるApoA-IIアイソフォームレベルおよび非前立腺癌被験体におけるApoA-IIアイソフォームレベルの検出に基づいて識別すること、である。
【0150】
本発明のApoA-IIアイソフォームは、前立腺癌と、頭頸部扁平上皮癌(HNSCC)、結腸癌、および肺癌のような他の一般的な非前立腺癌の間を識別するために特に有用である(図7)。典型的には、ApoA-IIアイソフォームはそれらの非前立腺癌において上昇したレベルで存在しない、またはそれらの非前立腺癌におけるApoA-IIアイソフォームレベルは、前立腺癌に見出されるApoA-IIアイソフォームレベルより有意に低い。
【0151】
6.4. 被験体における前立腺癌のスクリーニング、診断、または予後
本発明のもう一つの好ましい態様において、被験体における前立腺癌状態は、被験体における前立腺癌のスクリーニング、診断、または予後の一部として測定される。
【0152】
本発明の方法を用いて、ApoA-IIアイソフォームレベルは、前立腺癌についてスクリーニングされることが疑われる被験体由来の生体試料において測定される。正常もしくは健康な被験体由来の比較生体試料において検出されたApoA-IIアイソフォームレベルより高い、またはあらかじめ定められた基準レベルより高い、前立腺癌についてスクリーニングされるべき被験体由来の生体試料において検出されたApoA-IIアイソフォームレベルは、前立腺癌についてスクリーニングされた被験体が前立腺癌に罹患している、または罹患している可能性が高いことを示す。
【0153】
6.5. 被験体の前立腺癌に対する感受性の測定
本発明のもう一つの好ましい態様において、前立腺癌状態は、被験体の前立腺癌に対する感受性の測定の一部として測定される。
【0154】
本発明の方法を用いて、ApoA-IIアイソフォームレベルは、前立腺癌に罹りやすいことが疑われる被験体由来の生体試料において測定される。正常もしくは健康な被験体由来の比較生体試料において検出されたApoA-IIアイソフォームレベルより高い、またはあらかじめ定められた基準レベルより高い、前立腺癌に罹りやすいことが疑われる被験体由来の生体試料において検出されたApoA-IIアイソフォームレベルは、前立腺癌に罹りやすいことが疑われる被験体が、前立腺癌に罹患しているまたは罹患している可能性が高いことを示す。
【0155】
6.6. 被験体の前立腺癌を発症するリスクの同定
本発明の好ましい態様において、前立腺癌状態は、被験体の前立腺癌を発症するリスクの同定の一部として測定される。もう一つの態様において、前立腺癌状態は、被験体の前立腺癌再発のリスクの同定の一部として測定される。
【0156】
ApoA-IIアイソフォームバイオマーカーの量またはパターンは、様々な前立腺癌リスク状態、例えば、高い、中位、または低い、に特有である。前立腺癌を発症するリスクは、ApoA-IIアイソフォームバイオマーカーを測定し、その後、それらを分類アルゴリズムにかけるか、またはそれらを、特定のリスクレベルと関連しているApoA-IIアイソフォームバイオマーカーの参照量および/もしくはパターンと比較するかのいずれかにより、決定されうる。
【0157】
本発明の方法を用いて、ApoA-IIアイソフォームレベルは、前立腺癌を発症するリスクが測定されることになっている被験体由来の生体試料において測定される。正常もしくは健康な被験体由来の比較生体試料において検出されたApoA-IIアイソフォームレベルより高い、またはあらかじめ定められた基準レベルより高い、前立腺癌を発症するリスクが測定されることになっている被験体由来の生体試料において検出されたApoA-IIアイソフォームレベルが、前立腺癌を発症するリスクが測定されることになっている被験体が前立腺癌を発症するリスクを有することを示す。
【0158】
6.7. 前立腺癌の病期または重症度の測定
一つの態様において、本発明は、被験体において前立腺癌の病期または重症度を測定するための方法を提供する。前立腺癌の病期または重症度は腫瘍の異なる臨床病期を指す。腫瘍の臨床病期は、医学の分野で十分確立されている様々なパラメーターにより定義される。パラメーターの一部には、腫瘍の形態、サイズ、腫瘍が患者の身体中に転移している程度などを含む。前立腺癌は、それらの侵襲性に基づいて分類または病期決定されうる(Zagars et al., Cancer 73:1904-1912, 1994)。
【0159】
前立腺癌(PCA)病期は、一般的に、A、B、C、およびDと分類される尺度に従って評価される(ホイットモア-ジューエット(Whitmore-Jewett)システム)。病期A期の腫瘍は顕微鏡でしか見えない;病期A1期は、比較的小領域に限局し、かつ高分化型組織で構成される腫瘍を示す;病期A2期腫瘍は、より散在性でかつあまり分化していない;病期B期腫瘍は直腸診中に触知されるのに十分大きい;および病期C期前立腺癌は、腺全体に広がっており、典型的には、前立腺の境界を通り過ぎて周囲構造へと押し進んでいる。病期D期腫瘍は、例えば、リンパ節、骨、または他の器官へ転移している。
【0160】
または、腫瘍はまた、腫瘍がT1aからT4bまでの徐々に悪化する疾患の尺度でランク付けされるTNM病期決定システムにより病期決定される(例えば、前立腺特異的抗原の上昇した血液レベルにより検出されたT1c腫瘍は、触知不能でかつ目に見えない)。前立腺癌を病期決定するためのTNMシステムは、以下に続く表1に要約されている。病期A2期、B期、またはC期にあると特徴付けられた腫瘍のうち、25%〜50%が、さらなる検査において転移性であると判明している。前立腺腫瘍組織の除去または破壊のための手順を含む方法は、通常、非転移性癌で用いられる。例えば、前立腺全摘出術は好ましくは、病期A期、B期、およびいくつかの病期C期の腫瘍(すなわち、腫瘍増殖が前立腺の境界を越えてまで大幅には広がっていない場合)、および病期T1c期腫瘍で用いられる。X線治療(例えば、外部性または間質性)は好ましくは、病期A期、B期、またはC期腫瘍、およびT1c期腫瘍で用いられる。追加の診断ツールは様々な処置に適した症例を識別するのを助けうる。
【0161】
(表1):前立腺腫瘍分類のTNMシステム

【0162】
前立腺癌を有する患者の予後を測定するためのもう一つの一般的に用いられるシステムは、グリーソン(Gleason)スコアリングシステムである。「グリーソンスコア」または「グリーソングレード」は、顕微鏡下の前立腺癌組織の切片の検査に基づいた1(高分化型)から5(低分化型)までの値である。 グリーソンスコアが低ければ低いほど、前立腺癌組織は正常前立腺組織の構造によく似ており、癌が侵襲性である可能性は少なくなる。
【0163】
「組み合わされたグリーソンスコア」または「グリーソン和」は、前立腺癌組織における10個の組織学的パターンの中で2個の最も多く見られるグリーソンスコアに基づいた2(未分化性が最も少ない)から10(未分化性が最も多い)までの値である。グリーソン和が低ければ低いほど、患者の予後は良い。最も多く見られるグリーソン和は6および7であり、しばしば、癌予後についてグレーゾーンを表す。以下に続く表2A〜表2Dは、PSAレベル、グリーソンスコア、および前立腺癌の病期に基づいた器官限局性前立腺癌の確率を示す。
【0164】
(表2A):器官限局性疾患の確率の予測(PSA=0.0〜4.0ng/mlについて)

【0165】
(表2B):器官限局性疾患の確率の予測(PSA=4.1〜10.0ng/mlについて)

【0166】
(表2C):器官限局性疾患の確率の予測(PSA=10.1〜20.0ng/mlについて)

【0167】
(表2D):器官限局性疾患の確率の予測(PSA>20ng/mlについて)

【0168】
表2A、2B、2C、および2Dにおける数はパーセント予測確率を表す(95%信頼区間);省略符号は確率を計算するための十分なデータの欠損を示す。
【0169】
本明細書に記載されているような前立腺癌の各病期は、ApoA-IIアイソフォームの特有の量を有する。前立腺癌の病期は、ApoA-IIアイソフォームを測定し、その後、それを分類アルゴリズムにかけるか、またはそれを、本明細書に記載されているような特定の前立腺癌病期もしくは重症度と関連しているApoA-IIアイソフォームの参照量および/もしくはパターンと比較するかのいずれかにより決定される。
【0170】
6.8. 前立腺癌の経過(進行、退行)の測定
本発明の一つの好ましい態様において、前立腺癌状態は前立腺癌の経過の測定の一部として測定される。従って、本発明は、被験体において、疾患、特に前立腺癌の経過を測定するための方法を提供する。疾患経過は、疾患進行(悪化)および前立腺癌退行(好転)を含む、時間を経た疾患状態における変化を指す。退行は、腫瘍寛解、腫瘍サイズにおける縮小または減少、癌性細胞の数の減少、および前立腺癌に伴う症状の軽減を含む。時間とともに、ApoA-IIアイソフォームの量または相対的量(例えば、パターン)は変化する。
【0171】
本発明の方法を用いて、ApoA-IIアイソフォームレベルは、様々な時点で被験体由来の生体試料において測定される。2回目(t2)に採取された同じ被験体由来の比較生体試料において検出されたApoA-IIアイソフォームレベルより高い、1回目(t1)に被験体由来生体試料において検出されたApoA-IIアイソフォームレベルは、被験体における前立腺癌の経過が退行していることを示す。同様に、1回目でのApoA-IIアイソフォームレベルと比較して2回目でのより高いApoA-IIアイソフォームレベルは、被験体における前立腺癌の経過が進行していることを示す。
【0172】
ApoA-IIアイソフォームバイオマーカーは前立腺癌の進行で増加しうるが、もう一つのバイオマーカー、Xは減少しうる。それゆえに、前立腺癌または非前立腺癌の方への、時間を経て増加したかまたは減少したかのいずれかのこれらのバイオマーカーの傾向は、前立腺癌の経過を示す。
【0173】
もう一つの態様において、この方法は、そのうちの1つがApoA-IIアイソフォームである1つまたは複数のバイオマーカーを被験体において、少なくとも2つの異なる時点に、例えば、1回目および2回目に、測定する段階、ならびに、もしあれば、量における変化を比較する段階を含む。疾患の経過はこれらの比較に基づいて決定される。
【0174】
6.9. 前立腺癌を有する被験体に施される抗前立腺癌薬または治療の効果のモニタリング
本発明の好ましい態様において、前立腺癌状態は、前立腺癌と診断された被験体に施される抗前立腺癌薬または治療の効果のモニターの一部として測定される。前立腺癌を有する被験体に施される抗前立腺癌薬または治療の効果は、前立腺癌の進行(悪化)および前立腺癌退行(好転)を含みうる。
【0175】
本発明の方法を用いて、ApoA-IIアイソフォームレベルは、抗前立腺癌薬または治療を与えられていることの様々な時点で被験体由来の生体試料において測定される。2回目(t2;例えば、抗前立腺癌薬または治療を与えた後)に採取された同じ被験体由来の比較生体試料において検出されたApoA-IIアイソフォームレベルより高い、1回目(t1;例えば、抗前立腺癌薬または治療を与える前)に被験体由来生体試料において検出されたApoA-IIアイソフォームレベルは、被験体における前立腺癌が退行していることを示す。同様に、1回目でのApoA-IIアイソフォームレベルと比較して2回目でのより高いApoA-IIアイソフォームレベルは、被験体における前立腺癌が進行していることを示す。
【0176】
ApoA-IIアイソフォームバイオマーカーは、前立腺癌を有する被験体に抗前立腺癌薬または治療を与えると減少しうるが、もう一つのバイオマーカー、Xは増加しうる。それゆえに、前立腺癌または非前立腺癌の方への、時間を経て増加したかまたは減少したかのいずれかのこれらのバイオマーカーの傾向は、前立腺癌と診断された被験体に施された抗前立腺癌薬または治療の効果を示す。
【0177】
もう一つの態様において、この方法は、そのうちの1つがApoA-IIアイソフォームである1つまたは複数のバイオマーカーを被験体において、少なくとも2つの異なる時点に、例えば、1回目および2回目に、測定する段階、ならびに、もしあれば、量における変化を比較する段階を含む。抗前立腺癌薬または治療の前立腺癌の進行または退行への効果は、これらの比較に基づいて決定される。従って、この方法は処置に対する応答を測定するために有用である。処置が効果的である場合には、ApoA-IIアイソフォームバイオマーカーは正常へと傾き、一方、処置は効果がない場合には、ApoA-IIアイソフォームバイオマーカーは疾患指示へと傾く。
【0178】
6.10. 単一マーカー
本発明のApoA-IIアイソフォームバイオマーカーは、被験体において前立腺癌状態を評価するための、例えば、前立腺癌を診断するための、診断検査に用いることができる。
【0179】
正しく状態を予測しうる診断検査の能力は、一般的に、アッセイの感度、アッセイの特異性、または受信者動作特性(「ROC」)曲線下の面積として測定される。感度は、陽性であると検査により予測される真陽性のパーセンテージであり、一方、特異性は、陰性であると検査により予測される真陰性のパーセンテージである。ROC曲線は、1-特異性の関数として検査の感度を提供する。ROC曲線下の面積が大きければ大きいほど、検査の予測値が強力である。検査の有用性の他の有用な測定は、陽性予測値および陰性予測値である。陽性予測値は、陽性と判定される実際の陽性のパーセンテージである。陰性予測値は、陰性と判定される実際の陰性のパーセンテージである。
【0180】
本発明のApoA-IIアイソフォームバイオマーカーは、少なくともp0.05、p10-2、p10-3、p10-4、またはp10-5の異なる前立腺癌状態における統計学的差を示す。ApoA-IIアイソフォームバイオマーカーを単独で、または組み合わせて用いる診断検査は、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、および約100%の感度および特異性を示す。
【0181】
ApoA-IIアイソフォームバイオマーカーは前立腺癌において差次的に存在し、それゆえに、それぞれは前立腺癌状態の決定を助けるにおいて個々に有用である。本発明の方法は、第一に、本明細書に記載された方法、例えば、ApoA-IIアイソフォームをSELDIバイオチップ上に捕捉し、続いて質量分析により検出することを用いて被験体の生体試料において選択されたバイオマーカーを測定する段階、および第二に、陽性前立腺癌状態(例えば、前立腺癌)を陰性前立腺癌状態(例えば、正常なまたは健康な)から区別する診断量またはカットオフと測定値を比較する段階を含む。診断量は、被験体が特定の前立腺癌状態を有するとして分類されることより上または下のApoA-IIアイソフォームバイオマーカーの測定量を表す。例えば、ApoA-IIアイソフォームバイオマーカーが前立腺癌中に正常と比較して上方制御されている場合には、診断カットオフより上の測定量は前立腺癌の診断を与える。または、ApoA-IIアイソフォームバイオマーカーが前立腺癌中に下方制御されている場合には、診断カットオフより下の測定量は前立腺癌の診断を与える。当技術分野においてよく理解されているように、アッセイに用いられる特定の診断カットオフを調整することにより、診断医の選択に依存して診断アッセイの感度または特異性を増加させることができる。特定の診断カットオフは、例えば、本明細書で行われたように、異なる前立腺癌状態を有する被験体由来の統計学的に有意な数の試料においてApoA-IIアイソフォームバイオマーカーの量を測定し、特異性および感度の診断医の所望のレベルに合うようにカットオフを引くことにより決定されうる。
【0182】
6.11. マーカーの組み合わせ
個々のバイオマーカーは有用な診断マーカーであるが、バイオマーカーの組み合わせが単一バイオマーカー単独より特定の状態のより優れた予測値を提供することができることが見出されている。具体的には、試料における複数のバイオマーカーの検出は検査の感度および/または特異性を増加させることができる。
【0183】
本発明の一つの型において、被験体において前立腺癌状態を測定するための方法は、被験体由来の生体試料において少なくとも2つのタンパク質バイオマーカーを検出する段階を含む。少なくとも2つのタンパク質バイオマーカーのうちの1つは、本発明のApoA-IIアイソフォームを含む。少なくとも2つのタンパク質バイオマーカーのうちの残りの1つは、前立腺癌特異的バイオマーカーXがApoA-IIアイソフォームと異なる、前立腺癌特異的バイオマーカーXを含む。従って、本発明の一つの態様において、被験体において前立腺癌状態を測定するための方法は、(e)前立腺癌特異的バイオマーカーXを捕捉する能力がある生体特異性捕捉試薬と生体試料を接触させる段階であって、前立腺癌特異的バイオマーカーXがApoA-IIアイソフォームと異なる、段階を含む。前立腺癌特異的バイオマーカーXの非存在、存在、または量が本明細書に記載されているように測定されうる。
【0184】
本発明に有用である前立腺癌特異的バイオマーカーXは、限定されるわけではないが、PSA、PSAの新規の型(全体として参照により本明細書に組み入れられている、米国特許出願公開第2003/0119033 A1号)、Pin1(全体として参照により本明細書に組み入れられている、米国特許出願公開第2003/0073096 A1号)、IAP(全体として参照により本明細書に組み入れられている、米国特許出願公開第2003/0224399 A1号)、PSMA(全体として参照により本明細書に組み入れられている、米国特許出願公開第2004/0018519 A1号)、またはWO 2004/030511 A2およびWO 03091695(全体として参照により本明細書に組み入れられている)に同定されている前立腺癌特異的バイオマーカーのいずれかを含む。
【0185】
6.12. 被験体管理
6.12.1. 被験体処置の管理
前立腺癌状態を測定する方法の特定の態様において、方法はさらに、その状態に基づいて被験体処置を管理する段階を含む。そのような管理は、前立腺癌状態を測定した後の医師または臨床医の行動を含む。例えば、医師が前立腺癌と診断した場合には、抗前立腺癌薬もしくは治療もしくは手術の処方または投与のような特定の処置計画が後に続く。または、前立腺癌、BPH、または非前立腺癌の診断の後に、患者が患っている可能性がある特定の疾患を決定するためにさらなる検査を付け加える場合もある。また、診断検査が前立腺癌状態に関して決定的でない結果を与えた場合には、さらなる検査が要求されうる。これらの検査は、直腸診、経直腸的超音波断層法(TRUS)、または磁気共鳴映像法(MRI)、骨スキャニング、X線、骨格筋調査、静脈性腎盂造影、CATスキャン、および生検を含みうる(Garnick, Annals of Internal Medicine, 118:803-818, 1993; Garnick, Scientific American 270:72-81, 1994に概説されている)。
【0186】
6.12.2. 結果の被験体への伝達
本発明の追加の態様は、前立腺癌状態またはアッセイ結果の、例えば、技術者、医師、または患者への伝達に関する。特定の態様において、コンピューターは、前立腺癌状態、アッセイ結果、または診断を、当事者、例えば、医師および彼らの患者へ伝達するために用いられる。いくつかの態様において、前立腺癌状態、結果、もしくは診断が伝達される国または管轄区と異なる国または管轄区においてアッセイが行われる、またはアッセイ結果が分析される。
【0187】
本発明は、(a)被験体由来の試料におけるApoA-IIアイソフォームの相関から決定された前立腺癌状態に関する診断を被験体に伝達する段階であって、ApoA-IIアイソフォームは(i)アミノ酸配列VKSPELQAEAK(SEQ ID NO:1)および(ii)アミノ酸配列SKEQLTPLIK(SEQ ID NO:2)を含み、かつApoA-IIアイソフォームが約8943ダルトン+/-15の分子量を有する、段階を含む方法を提供する。診断はコンピューター処理媒体を通して被験体に伝達されうる。
【0188】
本発明の好ましい態様において、ApoA-IIアイソフォームバイオマーカーの検査被験体における存在、非存在、または量に基づいた前立腺癌状態または診断は、前立腺癌状態または診断が得られた後できるだけ早く被験体に伝達される。前立腺癌状態または診断は、被験体の処置を行う医師により被験体に伝達されうる。または、前立腺癌状態または診断は、電子メールにより検査被験体に送信されうる、または電話で被験体に伝達されうる。コンピューターは、電子メールまたは電話により前立腺癌状態診断を伝達するために用いることができる。特定の態様において、診断検査の結果を含むメッセージが作成され、通信の熟練技術者によく知られていると思われるコンピューターハードウェアおよびソフトウェアの組み合わせを用いて被験体へ自動的に送達されうる。医療指向型伝達システムの一つの例は、米国特許第6,283,761号に記載されている(全体として参照により本明細書に組み入れられている);しかしながら、本発明は、この特定の伝達システムを利用する方法に限定されない。本発明の方法の特定の態様において、試料のアッセイ段階、疾患の診断段階、およびアッセイ結果、前立腺癌状態、または診断の伝達段階を含む、方法の段階の全部または一部は様々な(例えば、外国)管轄区において行われうる。
【0189】
7. 前立腺癌状態を決定するための分類アルゴリズムの作成
前立腺癌状態を分類、決定、または認定するためのソフトウェアを提供することは、本発明のもう一つの目的である。
【0190】
本発明の一つの態様において、ソフトウェアは、(a)生体試料に起因するデータにアクセスするコードであって、コードがApoA-IIアイソフォームの測定値を含み、、ApoA-IIアイソフォームが(i)アミノ酸配列VKSPELQAEAK(SEQ ID NO:1)および(ii)アミノ酸配列SKEQLTPLIK(SEQ ID NO:2)を含み、かつApoA-IIアイソフォームが約8943ダルトン+/-15の分子量を有する;(b)生体試料の前立腺癌状態を測定値の関数として分類する分類アルゴリズムを実行するコードを含む。
【0191】
いくつかの態様において、「既知試料」のような試料を用いて作成されるスペクトルから導かれたデータは、その後、分類モデルを「訓練する」ために用いることができる。「既知試料」は、あらかじめ分類されている試料である。スペクトルから導かれ、分類モデルを形成するために用いられるデータは、「訓練データ集合」と呼ばれうる。いったん訓練されたならば、分類モデルは、未知試料を用いて生成されたスペクトルから導かれるデータにおいてパターンを認識することができる。分類モデルは、その後、未知試料をクラスへ分類するために用いることができる。これは、例えば、特定の生体試料が特定の生物学的状態(例えば、疾患対非疾患;非前立腺癌に対する前立腺癌)と関連しているかどうかを予測する際、有用でありうる。
【0192】
分類モデルを形成するために用いられる訓練データ集合は、生データまたは前処理されたデータを含みうる。いくつかの態様において、生データは、飛行時間スペクトルまたは質量スペクトルから直接的に得られることができ、その後、任意で、上記のように「前処理され」うる。
【0193】
分類モデルは、データに存在する目的パラメーターに基づいてクラスへデータの集合体を分離しようと試みる任意の適した統計学的分類(または「学習」)方法を用いて形成されうる。分類方法は監督されるかまたは監督されないかのどちらでもよい。監督されるおよび監督されない分類過程の例は、教示が参照により組み入れられている、Jain, 「Statistical Pattern Recognition: A Review」, IEEE Transactions on Pattern Analysis and Machine Intelligence, Vol. 22, NO. 1, January 2000に記載されている。
【0194】
監督された分類において、既知のカテゴリーの例を含む訓練データは、既知のクラスのそれぞれを定義する1つまたは複数の組の関係を学習する学習機構に提示される。その後、新しいデータは、学習機構に適用されることができ、その後、学習機構は、学習された関係を用いて新しいデータを分類する。監督された分類処理の例は、線形回帰処理(例えば、多重線形回帰(MLR)、部分的最小二乗(PLS)回帰、および主成分回帰(PCR))、二分決定木(例えば、CART − 分類および回帰ツリー − のような再帰分割処理)、誤差逆伝搬ネットワークのような人工の神経ネットワーク、判別分析(例えば、ベイズ分類器またはフィッシャー分析)、ロジスティック分類器、およびサポートベクター分類器(サポートベクター機)を含む。
【0195】
好ましい監督された分類方法は、再帰分割処理である。再帰分割処理は、未知試料由来のスペクトルを分類するために再帰分割ツリーを用いる。再帰分割処理についてのさらなる詳細は、Paulse et al., 「Method for analyzing mass spectra」の米国特許出願第2002 0138208 A1に提供されている。
【0196】
他の態様において、作成される分類モデルは、監督されていない学習方法を用いて形成されうる。監督されていない分類は、訓練データ集合が導かれたスペクトルをあらかじめ分類することなく、訓練データ集合における類似性に基づいて分類を学習しようと試みる。監督されていない学習方法は、クラスター分析を含む。クラスター分析は、理想的には、お互いに非常に類似して、かつ他のクラスターのメンバーと非常に異なっているメンバーを有しているはずの「クラスター」または群へデータを分類しようと試みる。その後、類似性は、データ項目間の距離を測定し、お互いにより近いデータ項目を合わせてクラスター形成するいくつかの距離メトリックを用いて測定される。クラスター形成技術は、マックィーン(MacQueen)のK平均法アルゴリズムおよびコホネン(Kohonen)の自己組織化マップアルゴリズムを含む。
【0197】
生物学的情報を分類するにおける使用について主張されている学習アルゴリズムは、例えば、PCT国際公開第WO 01/31580号(Barnhill et al., 「Methods and devices for identifying patterns in biological systems and methods of use thereof」)、米国特許出願第2002 0193950 A1号(Gavin et al., 「Method or analyzing mass spectra」)、米国特許出願第2003 0004402 A1号(Hitt et al., 「Process for discriminating between biological states based on hidden patterns from biological data」)、および米国特許出願第2003 0055615 A1号(Zhang and Zhang, 「Systems and methods for processing biological expression data」)に記載されており、それらのすべては全体として参照により本明細書に組み入れられている。
【0198】
分類モデルは任意の適したデジタルコンピューターにおいて形成され、かつ用いることができる。適したデジタルコンピューターは、Unix、Windows(商標)、またはLinux(商標)に基づいたオペレーティングシステムのような任意の標準または専用オペレーティングシステムを用いるマイクロコンピューター、ミニコンピューター、大型コンピューターを含む。用いられるデジタルコンピューターは、対象となるスペクトルを生成するために用いられる質量分析計と物理的に分離しててもよい、またはそれは質量分析計と連結されててもよい。
【0199】
本発明の態様による訓練データ集合および分類モデルは、デジタルコンピューターにより実行または使用されるコンピューターコードにより具体化されうる。コンピューターデータは、光学または磁気ディスク、スティック、テープなどを含む任意の適したコンピューター可読媒体に保存されることができ、C、C++、ビジュアルベーシックなどを含む任意の適したコンピュータープログラミング言語で書かれうる。
【0200】
上記の学習アルゴリズムは、すでに発見されたバイオマーカーについて分類アルゴリズムを開発するための、または前立腺癌の新しいバイオマーカーを見出すための両方に有用である。分類アルゴリズムは、次に、単独でまたは組み合わせで用いられるバイオマーカーについての診断価値(例えば、カットオフ点)を提供することにより診断検査の基盤を形成する。
【0201】
8. 前立腺癌状態を測定するためのキット
もう一つの局面において、本発明は、前立腺癌状態を測定するためのキットであって、キットが本発明によりApoA-IIアイソフォームバイオマーカーを検出するために用いられる、キットを提供する。
【0202】
本発明の一つの態様において、前立腺癌状態を測定するためのキットが提供され、キットは、(a)付着した少なくとも1つの生体特異性捕捉試薬を含む固体支持体であって、生体特異性捕捉試薬がApoA-IIアイソフォームを捕捉する能力があり、ApoA-IIアイソフォームが(i)アミノ酸配列VKSPELQAEAK(SEQ ID NO:1)および(ii)アミノ酸配列SKEQLTPLIK(SEQ ID NO:2)を含み、かつApoA-IIアイソフォームが約8943ダルトン+/-15の分子量を有する、固体支持体;ならびに(b)ApoA-IIアイソフォームを検出するために固体支持体を用いることについての使用説明書を含む。好ましい態様において、固体支持体はSELDIプローブである。キットはさらに、(c)ApoA-IIアイソフォームを含む容器を含みうる。
【0203】
もう一つの好ましい態様において、本発明のキットは、前立腺癌特異的バイオマーカーXを捕捉する能力がある生体特異性捕捉試薬を含み、前立腺癌特異的バイオマーカーXがApoA-IIアイソフォームと異なっている。有用な前立腺癌特異的バイオマーカーXは本明細書に記載されている。
【0204】
本発明のもう一つの態様において、前立腺癌状態を測定するためのキットが提供され、キットは、(a)付着した少なくとも1つの生体特異性捕捉試薬を含む固体支持体であって、生体特異性捕捉試薬がApoA-IIアイソフォームを捕捉する能力があり、ApoA-IIアイソフォームが(i)アミノ酸配列VKSPELQAEAK(SEQ ID NO:1)および(ii)アミノ酸配列SKEQLTPLIK(SEQ ID NO:2)を含み、かつApoA-IIアイソフォームが約8943ダルトン+/-15の分子量を有する、固体支持体;ならびに(b)ApoA-IIアイソフォームを含む容器を含む。生体特異性捕捉試薬を含む固体支持体はSELDIプローブ、チップ、マイクロタイタープレート、ビーズ、または樹脂でありうる。
【0205】
本発明のさらにもう一つの態様において、前立腺癌状態を測定するためのキットが提供され、キットは、(a)ApoA-IIアイソフォームに結合する能力がある抗体であって、ApoA-IIアイソフォームが(i)アミノ酸配列VKSPELQAEAK(SEQ ID NO:1)および(ii)アミノ酸配列SKEQLTPLIK(SEQ ID NO:2)を含み、かつApoA-IIアイソフォームが約8943ダルトン+/-15の分子量を有する、抗体;(b)PAGEおよびウェスタンブロッティングのための試薬;ならびに(c)ApoA-IIアイソフォームを検出するために抗体を用いることについての使用説明書を含む。
【0206】
一つの態様において、キットは、付着した捕捉試薬を有するチップ、マイクロタイタープレート、またはビーズもしくは樹脂のような固体支持体を含み、捕捉試薬が本発明のApoA-IIアイソフォームバイオマーカーを結合する。このように、例えば、本発明のキットは、ProteinChip(登録商標)アレイのようなSELDIについての質量分析プローブを含みうる。生体特異性捕捉試薬の場合、キットは、反応性表面を有する固体支持体、および生体特異性捕捉試薬を含む容器を含みうる。
【0207】
このように、例えば、本発明のキットは、タンパク質バイオチップ(例えば、Ciphergen H50 ProteinChipアレイ、例えば、ProteinChipアレイ)のような疎水性官能基を有する固体支持体、および固体支持体を洗浄するための酢酸ナトリウム緩衝液、加えて、チップ上で本発明のApoA-IIアイソフォームバイオマーカーを測定するための、および前立腺癌状態を診断するためにこれらの測定値を用いるためのプロトコールを提供する使用説明書を含みうる。
【0208】
キットはまた、洗浄溶液、または洗浄溶液を作製することについての使用説明書を含むことができ、生体特異性捕捉試薬および洗浄溶液の組み合わせは、例えば、質量分析によるその後の検出のための固体支持体上でのApoA-IIアイソフォームバイオマーカーの捕捉を可能にする。キットは、1つより多い型の吸着剤を含むことができ、それぞれは異なる固体支持体上に存在する。
【0209】
さらなる態様において、そのようなキットは、ラベルまたは別々の挿入物の形をとって適切な操作パラメーターについての使用説明書を含みうる。例えば、使用説明書は、生体試料を収集する方法、プローブまたは検出されるべき特定のApoA-IIアイソフォームバイオマーカーを洗浄する方法について消費者に情報を与えうる。
【0210】
さらにもう一つの態様において、キットは、較正のための標準として用いることができるApoA-IIアイソフォームバイオマーカー試料を含む1つまたは複数の容器を含みうる。
【0211】
9. スクリーニングアッセイにおける前立腺癌についてのApoA-IIアイソフォームの使用および前立腺癌を処置するための方法
本発明の方法は、その上、他の適用もある。例えば、ApoA-IIアイソフォームバイオマーカーは、インビトロまたはインビボでApoA-IIアイソフォームバイオマーカーの発現を調節する化合物についてスクリーニングするために用いられることができ、化合物は、次に、患者において前立腺癌を処置または予防するのに有用でありうる。もう一つの例において、ApoA-IIアイソフォームバイオマーカーは、前立腺癌の処置に対する応答をモニターするために用いることができる。さらにもう一つの例において、ApoA-IIアイソフォームバイオマーカーは、被験体が前立腺癌を発症するリスクがあるかどうかを測定するための遺伝研究において用いることができる。
【0212】
治療試験に適した化合物は、最初に、ApoA-IIアイソフォームバイオマーカーと相互作用する化合物を同定することにより同定されうる。例として、スクリーニングは、ApoA-IIアイソフォームバイオマーカーを組換え的に発現させる段階、ApoA-IIアイソフォームバイオマーカーを精製する段階、およびApoA-IIアイソフォームバイオマーカーを基質または支持体へ取り付ける段階を含みうる。試験化合物は、その後、基質または支持体と、典型的には水性条件において、接触させられ、試験化合物とApoA-IIアイソフォームバイオマーカーの間の相互作用が、例えば、塩濃度の関数として溶出率を測定することにより、測定される。特定のタンパク質が、ApoA-IIアイソフォームバイオマーカーを認識かつ切断することができ、その場合、タンパク質は、例えばタンパク質のゲル電気泳動による、標準アッセイにおいてApoA-IIアイソフォームバイオマーカーの消化をモニターすることにより検出されうる。
【0213】
関連態様において、ApoA-IIアイソフォームバイオマーカーの活性を阻害する試験化合物の能力が測定されうる。当業者は、特定のバイオマーカーの活性を測定するために用いられる技術が、ApoA-IIアイソフォームバイオマーカーのようなバイオマーカーの機能および性質によって異なることを認識していると思われる。例えば、バイオマーカーの酵素活性は、適切な基質が利用できるとの条件で、かつ基質の濃度または反応生成物の出現が容易に測定できるとの条件で、アッセイされうる。所定のバイオマーカーの活性を阻害または増強する治療的可能性のある試験化合物の能力は、試験化合物の存在または非存在下において触媒作用の速度を測定することにより決定されうる。本発明のバイオマーカーの1つの非酵素的(例えば、構造的)機能または活性に干渉する試験化合物の能力もまた測定されうる。例えば、本発明のバイオマーカーの1つを含む多タンパク質複合体の自己集合は、試験化合物の存在または非存在下において分光法によりモニターされうる。または、バイオマーカーが転写因子の非酵素的エンハンサーである場合には、転写を増強させるバイオマーカーの能力に干渉する試験化合物が、試験化合物の存在および非存在下においてインビボまたはインビトロでバイオマーカー依存性転写のレベルを測定することにより同定されうる。
【0214】
本発明のApoA-IIアイソフォームバイオマーカーの活性を調節する能力がある試験化合物は、前立腺癌または他の癌を患っている、または発症するリスクがある患者に投与されうる。例えば、特定のApoA-IIアイソフォームバイオマーカーの活性を増加させる試験化合物の投与は、ApoA-IIアイソフォームバイオマーカーの活性がインビボで前立腺癌についてのタンパク質の蓄積を防ぐ場合には、患者における前立腺癌のリスクを減少させうる。逆に、ApoA-IIアイソフォームバイオマーカーの活性を減少させる試験化合物の投与は、ApoA-IIアイソフォームバイオマーカーの増加した活性が前立腺癌の発症の少なくとも一部原因である場合には、患者における前立腺癌のリスクを減少させうる。
【0215】
追加の局面において、本発明は、ApoA-IIアイソフォームの増加したレベルと関連している前立腺癌のような障害の処置に有用な化合物を同定するための方法を提供する。例えば、一つの態様において、細胞抽出物または発現ライブラリーは、ApoA-IIアイソフォームの切り詰め型を形成するようにApoA-IIアイソフォームの切断を触媒する化合物についてスクリーニングされうる。そのようなスクリーニングアッセイの一つの態様において、ApoA-IIアイソフォームの切断は、ApoA-IIアイソフォームが切断されない場合消光されたままであるが、ApoA-IIアイソフォームが切断された場合蛍光を発する、ApoA-IIアイソフォームへフルオロフォアを付着させることにより検出されうる。または、アミノ酸Xおよびアミノ酸yの間のアミド結合を切断不可能にするために改変された完全長ApoA-IIアイソフォームのバージョンが、インビボでその部位において完全長ApoA-IIアイソフォームを切断する細胞プロテアーゼを選択的に結合する、または「トラップする」ために用いることができる。プロテアーゼおよびそれらの標的をスクリーニングおよび同定するための方法は、科学的文献に、例えば、Lopez-Ottin et al.(Nature Reviews, 3:509-519, 2002)にきちんと解説されている。
【0216】
さらにもう一つの態様において、本発明は、切り詰められたApoA-IIアイソフォームの増加したレベルと関連している疾患、例えば前立腺癌の進行または見込みを処置するまたは低下させるための方法を提供する。例えば、完全長ApoA-IIアイソフォームを切断する1つまたは複数のタンパク質が同定された後、コンビナトリアルライブラリーは、同定されたタンパク質の切断活性を阻害する化合物についてスクリーニングされうる。そのような化合物について化学ライブラリーをスクリーニングする方法は、当技術分野において周知である。例えば、Lopez-Otin et al.(Nature Reviews, 3:509-519, 2002)を参照されたい。または、阻害性化合物は、ApoA-IIアイソフォームの構造に基づいて理知的に設計されうる。
【0217】
臨床レベルにおいて、試験化合物をスクリーニングする段階は、被験体が試験化合物に曝された前および後に試験被験体から生体試料を得る段階を含む。本発明のApoA-IIアイソフォームバイオマーカーの1つまたは複数の生体試料におけるレベルは、ApoA-IIアイソフォームバイオマーカーのレベルが試験化合物への曝露後に変化するかどうかを決定するために測定および分析されうる。試料は本明細書に記載されているように質量分析により分析されうる、または試料は当業者に公知の任意の適切な手段により分析されうる。例えば、本発明のApoA-IIアイソフォームバイオマーカーの1つまたは複数のレベルは、ApoA-IIアイソフォームバイオマーカーへ特異的に結合する放射または蛍光標識抗体を用いるウェスタンブロットにより直接的に測定されうる。
【0218】
または、本発明のApoA-IIアイソフォームバイオマーカーをコードするmRNAのレベルにおける変化は測定され、所定の試験化合物の被験体への投与と相関させられうる。さらなる態様において、ApoA-IIアイソフォームバイオマーカーの1つまたは複数の発現のレベルにおける変化は、インビトロ方法および材料を用いて測定されうる。例えば、本発明のApoA-IIアイソフォームバイオマーカーの1つまたは複数を発現する、または発現する能力があるヒト組織培養細胞は、試験化合物と接触させられうる。試験化合物で処置されている被験体は、処置に起因する可能性があるいかなる生理学的効果についても日常的に検査される。特に、試験化合物は、被験体における前立腺癌見込みを減少させるそれらの能力について評価される。または、試験化合物が、前立腺癌と以前に診断された被験体に投与される場合には、試験化合物は前立腺癌の進行を遅らせるまたは停止するそれらの能力についてスクリーニングされる。
【0219】
前述の発明は、明瞭さおよび理解のために例証および例としてかなり詳細に記載されているが、本発明の真意および範囲から必ずしも逸脱することなく、特定のバリエーション、変化、改変、および等価物の置換がそれらになされうることは、本発明の教示に照らせば、当業者にとって容易に明らかであると思われる。結果として、本明細書に記載された態様は様々な改変、変化などを受けやすく、本発明の範囲は、本明細書に添付された特許請求の範囲を参照することによってのみ決定される。
【0220】
本発明の要素のそれぞれが複数の態様を含むように本明細書に記載されているが、他に規定がない限り、本発明の所定の要素の態様のそれぞれは、本発明の残りの要素の態様のそれぞれと共に用いることができ、そのような使用のそれぞれは、本発明の別個の態様を形成することを意図される。
【0221】
本発明は以下の実施例によりさらに例証されており、それらの実施例は、例証となるのみであり、決して本発明の定義および範囲を限定することを意図するものではない。
【0222】
10. 実施例
10.1. 実施例1: 材料および方法
10.1.1. 血清試料
血清試料はVirginia Prostate Center Tissue and Body Fluid Bankから得られた。生検証明済み前立腺癌(PCa)または良性疾患(BPH:複数の陰性生検を有するPSA4〜10ng/ml)のいずれかと診断された、適切に同意した患者から同じプロトコール下で収集された血液試料は、Department of Urology, Eastern Virginia Medical School(EVMS)から得られ、健康な男性コホートの試料(NO;前立腺疾患の証拠をもたないPSA<4.0ng/ml)は、世間一般に公開されている無料検診診療所から得られた。PCaまたはBPHの診断時に得られた治療前試料のみがこの研究に用いられた。頭頸部、結腸、および肺の癌を有する患者由来の血清試料のもう一つの群は、比較研究のために利用された。頭頸部癌患者および対照由来の血清試料は、親切にもPenn State College of Medicine, Hershey, PAのBrendan Stack博士により提供された。結腸癌および対照血清試料は、親切にもUniversity of Pittsburgh Cancer Institute, Pittsburgh, PAのW. Bigbee博士およびR. Schoen博士により提供され、治療前の結腸直腸癌と診断された、または内視鏡検査スクリーニングに従って疾患をもっていないと決定された個体から得られた。肺癌および対照血清の試料は、New York University School of Medicine, Department of Environmental Medicine, New York, NYのWilliam Rom博士により提供された。すべての試料は、機関の審査委員会認可プロトコールを通して適切に同意した患者から得られた。
【0223】
10.1.2. タンパク質精製
対象となるタンパク質の正確な質量および化学親和力は、SELDIプロファイルおよびProteinChip(登録商標)型に基づいて確立され、この情報は2次元精製過程を設計するための基礎を形成した。検証された過剰発現および発現不足の試料からの全未分画血清試料を、アフィニティークロマトグラフィーおよび逆相クロマトグラフィーに並行して供した。単離された画分を、その後、1次元SDS-PAGEを通して質量により分離し、タンパク質バンドの可視化のために銀染色した。
【0224】
a)金属アフィニティークロマトグラフィー
SELDIプロファイリングに用いられるチップ化学(IMAC3-Cu2+)を補完するために、全血清を、Biomek(登録商標)2000 Automated Laboratory Workstation(Beckman Coulter Inc., Fullerton, CA)上で製造会社の使用説明書のとおりIMAC HyperCel(登録商標)濾過(Ciphergen Biosystems Inc., Fremont, CA)に供した。簡単には、IMAC(固定化金属親和性捕獲)樹脂をHPLC水で30分、再生した。樹脂を水で徹底的に洗浄した後、樹脂を0.1M CuSO4で30分、帯電させた。樹脂をその後、HPLC水で、続いてPBSで、徹底的に洗浄した。20マイクロリットルの血清を以前に記載されているように(Adam et al., Cancer Res, 62:3609-3614, 2002)尿素中で処理し、樹脂と40分、インキュベートした。フロースルーにおける結合していないタンパク質を収集し、樹脂をPBSで徹底的に洗浄した後、結合したタンパク質を、PBS中50〜250mMイミダゾールを含む緩衝液において樹脂から溶出した。画分を、1次元(1-D)SDS-PAGEおよびIMAC3-Cu2+ ProteinChip(登録商標)を用いて分析した。
【0225】
b)逆相クロマトグラフィー
Agilent 1100シリーズHPLCシステム(Agilent Technologies Inc., Palo Alto, CA)がすべてのクロマトグラフィー段階に用いられた。血清(20μl)を、尿素を含む緩衝液(最終容量0.75ml)において処理し、その後、緩衝液A(0.5%ACN、0.1%TFA)において1:1に希釈した。0.7mlを、25℃に維持された、急速分解能3.5μm C-8ビーズ(Agilent Technologies)を充填したZorbax Eclipse(登録商標)XDB C-8カラム(150x4.6mm)へ、1ml/分の流速で負荷した。タンパク質を、60分、0〜85%直線的勾配の緩衝液B(100% ACN、0.1% TFA)において1.0ml/分の流速で溶出した。0.5ml画分を自動化時間ベース様式で収集した。溶出物を210nm、214nm、および280nmでモニターした。連続する実行の間に、カラムを、緩衝液Bにおいて徹底的に洗浄し、その後、緩衝液Aにおいて再平衡化した。データの統計学的処理および報告は、LC 3DについてのChemStation(著作権)(Rev. A.09.01; Agilent Technologies)を用いた。溶出された画分を乾燥させ、1-D SDS-PAGEに供した。
【0226】
c)SDS-PAGE
クロマトグラフィーにより収集された個々の画分を、XCell SureLock(商標)ミニ垂直ゲル電気泳動システム(Invitrogen Life Technologies, Carlsbad, CA)を用いて電気泳動に供されるNuPAGE(商標)4〜12%Bis-Trisを用いて分離した。すべての試料を製造会社の使用説明書に基づいて処理した。すべてのゲルをSilverQuest(商標)銀染色キット(Invitrogen Life Tech., Carlsbad, CA)を用いて染色した。
【0227】
10.1.3. LC-MS/MS分析
タンパク質バンドを1-Dポリアクリルアミドゲルから切除した。ゲルスライスを1〜2mm立方体へ切り分けた;500μl超純水で3回洗浄し、100%アセトニトリル中で45分、インキュベートした。ゲルを銀染色した場合には、染色を、まず、製造会社の使用説明書に従ってSilverQuest(商標)脱染溶液を用いて除去した。材料をspeed-vacで乾燥させ、12.5ng/μl改変シーケンシンググレードトリプシン溶液(Promega, Madison, WI)において再水和し、氷浴中40〜45分、インキュベートした。過剰トリプシン溶液をその後、除去し、40〜50μlの50mM重炭酸アンモニウム、pH8.0と交換し、混合物を37℃で一晩、インキュベートした。ペプチドを25μl 50%アセトニトリル、5%ギ酸で2回、抽出し、speed-vacで乾燥させた。消化物を20μl緩衝液A(5%アセトニトリル、0.1%ギ酸、0.005%ヘプタフルオロ酪酸(HFBA))に再懸濁し、3〜6μlを1100psiでのN2圧力容器を用いて5μM直径C-18ビーズ(The Nest Group, Southboro, MA)を充填された12cm×0.075mm溶融石英キャピラリーカラムへ負荷した。供給源へ直接的に-200nl/分の最終流速を生じるプレカラム流スプリッターを用いて、0〜80%直線的勾配の緩衝液B(95%アセトニトリル、0.1%ギ酸、0.005%HFBA)を130μl/分の流速で添加することにより55分に渡ってペプチドを溶出した。Finnigan LCQ(商標)Deca XP(ThermoFinnigan, San Jose, CA)を、単一部位で構成される計器方法、および完全MSスキャン後、最高強度イオンの3つのMS/MSスキャンによる4つのデータ依存性スキャン事象での自動化収集様式において実行した。正規化衝突エネルギーは30に設定され、活性化Qは0.250であり、5×105における最小完全スキャンシグナル強度および1×104における最小MS2強度を伴う。動的排除を、1.50Daに設定された質量幅で2の3分間繰り返し回数を利用して作動させた。配列分析は、National Center for Biotechnology Information(NCBI)ウェブサイト(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)からの非冗長タンパク質データベースのインデックス付きヒトサブセットデータベースを用いてSEQUEST(商標)(ThermoFinnigan, San Jose, CAから得られるTurboSequest)で行われた。
【0228】
10.1.4. ウェスタンブロッティング
試料を、SDS-PAGEにより分析し、転写緩衝液(30mM Tris、150mMグリシン、pH8.0+20%メタノール)において4℃で1 h、100Vでニトロセルロース膜上へ電気的転写させた。非特異的部位をTBS中5%脱脂乳により1 h、ブロックした。膜を、その後、ブロッカーにおける(1:3000)ポリクローナルヤギ抗ApoA-II抗体(Rockland Immnochemicals Inc., Gilbertsville, PA)かまたはマウスモノクローナル抗ApoA-II抗体(Biodesign Intl., Saco, ME)かのいずれかとインキュベートし、続いて、TBST(TBSにおける0.1% Tween 20)における、それぞれ、抗ヤギIgG HRP結合体(Rockland Immnochemicals Inc., Gilbertsville, PA)または抗マウスIgG HRP結合体(Biodesign Intl., Saco, ME)の1:5000希釈とインキュベートした。ブロットを、連続するインキュベーションの間にTBST(TBSにおける0.1% Tween 20)で徹底的に洗浄した。免疫反応性タンパク質バンドを、ECL(商標)ウェスタンブロッティングキット(Amersham Biosciences Corp, Piscataway, NJ)を用いて検出した。検出試薬でオーバーレイされたブロットをECL(商標)hyperfilm(商標)へ1〜30 sec、曝露し、その後、発色させた。
【0229】
10.1.5. 免疫除去
血清から、プロテインAアフィニティー(Schleicher & Schuell Inc., Keene, NH)クロマトグラフィーによりIgGを事前除去した。簡単には、以前に記載されているように(Adam et al., Cancer Res, 62:3609-3614, 2002)、20μlの血清を尿素において処理し、PBSに希釈した。BSAでブロックされたプロテインA-Sepharose樹脂を尿素緩衝液(PBSにおける0.45M尿素)において徹底的に洗浄した。希釈された血清を100μlの処理されたビーズと4℃で2 h、インキュベートした。短時間の回転後、上清を収集し、結合した血清IgGを含むSepharoseビーズを保存した。5μgのマウスモノクローナル抗ApoA-II抗体(Biodesign Intl., Saco, ME)を「IgG除去された」血清に加え、4℃で2 h、インキュベートした。抗体をプロテインA-アガロースビーズを用いて血清から取り出し、保存した。免疫除去された血清をSDS-PAGE、ウェスタンブロッティング、およびSELDIにより分析した。
【0230】
10.1.6. SELDIイムノアッセイ
プロテインGコーティング化PS20ProteinChip(登録商標)を0.25mg/mlマウスモノクローナル抗ApoA-II抗体(Biodesign Intl., Saco, ME)と25℃で2 h、インキュベートした。抗PSA(Biodesign Intl., Saco, ME)を対照として用いた。50マイクロリットルの各血清試料をPBS中0.5%TritonX100に1:1に希釈し、4℃で一晩、チップ上でインキュベートした。チップを、連続するインキュベーションの間に1%〜0.1%TritonX100を含むPBS緩衝液において洗浄した。定量的イムノアッセイについて、滴定曲線を作成するために、ヒト血漿から精製された0〜1000μg/mlのApoA-II(Biodesign Intl., Saco, ME)を血清の代わりにチップへ加えた。
【0231】
10.1.7. 免疫組織化学
免疫組織化学を行うために用いられる方法は、広範囲に他の所で記載されている(Grizzle et al.: M. Hanausek, Walasze, Z.(ed.), John Walker's Methods in Molecular Medicine - Tumor Marker Protocols, pp. 161-179: Humana Press, Inc., Totowa, NJ, 1998; Grizzle et al.: M. Hanausek, Walasze, Z.(ed.), John Walker's Methods in Molecular Medicine - Tumor Marker Protocols, pp. 143-160: Humana Press, Inc., Totowa, NJ, 1998)。二次検出方法の条件を一定に保ち、その後、一次抗体のインキュベーションの濃度および条件を変化させた。最適濃度もまた、様々な抗原回復技術で試験した。ApoA-IIに対するポリクローナル抗体(Rockland Immunochemicals Inc., Gilbertsville, PA)かまたはモノクローナル抗体(Biodesign Intl., Saco, ME)のいずれかを用いて1組の希釈を行った。これらの希釈は、ポリクローナル抗体の最適な希釈が1〜7000、モノクローナル抗体について1〜2000であることを示した。クエン酸、pH6.0、および5分間圧力鍋での煮沸を加えることを、抗原回復方法として用いることを選択した。
【0232】
免疫組織化学的アプローチは簡単には以下のとおり説明される:ホルマリン固定化パラフィン包埋化組織から5つのミクロン切片を切断した。組織切片を60度で2時間、加熱することによりスライドへ付着させ、脱パラフィンし、3回のキシレン浴、続いて無水から70%までの段階的アルコール浴、その後、Tris緩衝液で再水和した。スライドをその後、抗原回復のために、pH6.0、0.01Mクエン酸で満たされたコプリンジャーにおいて5分間、圧力鍋で煮沸した。内因性ペルオキシダーゼを3%過酸化水素の5分間で消失させた。タンパク質ブロックおよび二次抗体は、用いられる一次抗体に特異的であった。Biodesignからの抗アポリポタンパク質A-IIはマウスのモノクローナルであるから、3%ヤギ血清がタンパク質ブロックとして20分間、用いられ、1〜2000の希釈における一次抗体が1時間、インキュベートされ、Richard-Allan Scientific(Kalamazoo, MI)からのビオチン化ヤギ抗マウスが二次検出系として用いられた。Rockland Immunochemicalsからの抗アポリポタンパク質A-IIはヤギポリクローナルであり、それゆえに、3%ウマ血清がタンパク質ブロックとして20分間、用いられた。1〜7000の希釈における一次ポリクローナル抗体との1時間のインキュベーション後、1:1000の希釈におけるビオチン化マウス抗ヤギ(Sigma-Aldrich, St. Louis, MO)が、二次抗体として20分間、適用された。20分間インキュベートされるストレプトアビジンペルオキシダーゼ(Richard-Allan Scientific, Kalamazoo, MI)は、両方の抗体についての標識として用いられた。DAB chromagenはBioGenexキット(BioGenex, San Ramon, CA)からであった。切片を軽くヘマトキシリンで対比染色し、段階的アルコールからキシレンまでを通して脱水し、カバースリップをPermountと共に載せた。
【0233】
10.2. 実施例2:8943 m/zにおけるピークは有意な交差研究予測力を有する
本発明者らは、本発明者らの以前に発表された(PCa)の検出のための血清のタンパク質発現プロファイリング分析(Qu et al., Clin Chem, 48:1835-1843, 2002; Adam et al., Cancer Res, 62:3609-3614, 2002)、ならびに同じ方法を用いた186 PCa、142 BPH、および219 NO試料の別個の集団を含むより最近の研究(未発表データ)からのデータを調べた。本発明者らは、2つのデータセットのそれぞれにおいて識別力価値を保持するいくつかのSELDI-TOF-MSピークを見出した。これらのピークの1つは、〜8.9K m/zピークであり、両方の集団において非常に有意なp値をもった。8.9K m/zピークは、疾患状態対健康な状態において示差的な発現を示した124個の診断上のSELDIピーク(Qu et al., Clin Chem, 48:1835-1843, 2002; Adam et al., Cancer Res, 62:3609-3614, 2002)の1つであった(図1)。8.9K m/zピークについての強度値は2つの研究において類似しており、対応するタンパク質が前立腺の疾患を有する個体由来の血清において一貫して過剰発現されていることを示唆した。全体としては、そのピークは前立腺過形成(BPH)およびPCaにおいて最も強かった。最高の識別力価値は正常と罹患の間であったが、BPHとPCaの間に8.9K m/zピークを用いてかなりの分離があった(表3)。そのピークはペア試験の大部分について有意なAUC(>0.62)を保持し、2年間離れて実行された2つの独立した血清研究において同等に行われ、病的状態を正常状態から分離する際、その一貫して高い有意性を示した。
【0234】
(表3):8.9K m/z SELDIタンパク質ピークの前立腺血清研究分析

【0235】
カットオフ値以上の8.9K m/z強度値を有する群は、ピークの各カットオフ値について真陽性率(感度)および偽陽性率(1-特異性)を計算するための「陽性群」とみなされる。
【0236】
10.3. 実施例3:観察された8.9K m/zピークに対応するタンパク質の単離および精製
前立腺癌検体から8.9K m/zピークを生じるタンパク質を同定するために、全血清を、IMAC-Cu2+アフィニティーFPLCまたはC-8疎水性HPLCを並行して用いて分画した(図2)。本発明者らは、2つの精製スキームを選択し、複数の試料ペアを別々のお互いに確認し合うアプローチとして処理した。正常血清および対照血清のペアを、IMAC HyperCel樹脂またはC-8逆相HPLCのいずれかにおいて分画し(実施例1参照)、結果として生じた画分を、8.9K m/zピークを含む画分を同定するためにSELDI-TOF-MSにより分析した。選択された画分を、その後、SDS-PAGE、およびタンパク質を可視化するための銀染色に供した。各場合において、SDS-PAGE上で6〜10kDaの間の見かけの分子量を有するタンパク質バンドがPCa試料において過剰発現されていることを観察し、それを分析のためにゲルから切除した。
【0237】
10.4. 実施例4:観察された8.9K m/zピークに対応するタンパク質としてのアポリポタンパク質A-IIアイソフォームの同定
SDS-PAGEゲルのそれぞれから単離された差次的に発現されているタンパク質バンドを、記載されているようなタンデム型質量分析に供した。m/z 1200.9(VKSPELQAEAK)(SEQ ID NO:1)、1157.2(SKEQLTPLIK)(SEQ ID NO:2)、および972.6(SPELQAEAK)(SEQ ID NO:3)の3つの主要なトリプシン断片を得たが、それらのうちの2つは同じ領域で重複している。NCBIからの非冗長タンパク質データベースのインデックス付きヒトサブセットにおけるペプチドのSequest(商標)検索は、切除されたタンパク質を、アポリポタンパク質A-II(ApoA-II)に見出されるアミノ酸配列と同一であると同定した。
【0238】
アポリポタンパク質配列の予想されるトリプシン断片(Id)は、これらのペプチドがタンデム型質量分析計により捕獲されうる(範囲400〜2000 m/z)主要の可能なイオンであると示唆している。同じペプチドイオンおよび結果として生じたタンパク質同定が並行の精製スキームのそれぞれについて達成されたことに注目することは重要である。同じタンパク質精製および同定手順が複数の正常および癌の血清試料において繰り返され、毎回、切除されたタンパク質バンドは、アポリポタンパク質A-IIアイソフォーム(ApoA-IIアイソフォーム)であると同定された。
【0239】
10.5. 実施例5:血清ApoA-IIアイソフォームが観察された8.9K m/zピークを生じることの検証
ApoA-IIアイソフォームが単離過程から一貫して生じる過剰発現されたタンパク質であるという同定は高信頼性を伴っていたが、本発明者らは、血清ApoA-IIアイソフォームがSELDI-TOF-MSにおいて観察された8.9K m/zピークを含むことを確認する必要があった。この保証を達成するために、本発明者らはまず、ApoA-IIに特異的なポリクローナル抗体が、単離/精製段階由来の血清画分のウェスタン分析により差次的に発現されたバンド(ApoA-IIアイソフォーム)を認識することを検証した。調べられた画分のすべてが、同じ分子量における顕著な銀染色されたバンドの示差的な発現と一致するApoA-IIアイソフォームの示差的発現を示した。図3において、本発明者らは、ペアのPCaおよび健康な男性(NO)のHPLC分離からの画分を用いたこの比較の例を示す。このように、本発明者らは、ポリクローナル抗ApoA-II抗体が、PCaにおいて過剰発現され、かつ本来標的にされたタンパク質と同じRfで移動する血清タンパク質を認識することを実証した。
【0240】
本発明者らは、ポリクローナル抗ApoA-II抗体が予想されたサイズのタンパク質を認識することにおいて効果的であったことを検証したため、本発明者らは、血清からApoA-IIアイソフォームを選択的に免疫除去するためにこの試薬を用いることができた。この結果もまた、ApoA-IIに対するマウスモノクローナル抗体を用いて確認された(図4)。血清からのApoA-IIアイソフォームの選択的除去は、結果として、PCa血清のSELDI-TOF-MSスペクトルにおいて8.9K m/zピークの欠損を生じるはずである。免疫除去研究は、実施例1に記載されているように、NO、BPH、およびPCa由来の「事前除去された」血清からなる試料の3つの別々のセットを用いて行われた。各場合において、本発明者らは、(i)粗血清、(ii)事前除去された血清、(iii)ApoA-IIを免疫除去された血清、(iv)抗ApoA-II結合したタンパク質、および(v)IgG結合したタンパク質における8.9K m/zの強度を比較した。すべての場合において、免疫除去は8.9K m/zピークを5分の1に有意に低下させた。対照IgG抗体での免疫除去は、結果として、8.9K m/zピークのいかなる低下も生じなかった。
【0241】
本発明者らはさらに、SDS-PAGEにおける分離、およびモノクローナル抗ApoA-II抗体でのイムノブロッティングにより同じ画分を調べた(図4C)。この分析において、免疫除去の段階のそれぞれにおいて抗ApoA-IIにより同定されているような血清ApoA-IIアイソフォーム定常状態レベルは、観察された8.9K m/zピークの相対量と一致していた。さらになお、除去したタンパク質バンドは、SDS-PAGE上で精製されたApoA-IIアイソフォームと共に移動した。免疫除去およびウェスタンブロッティングを用いる複合分析は、SELDI-TOF-MSで観察された8.9K m/zピークがApoA-IIのアイソフォームである可能性が最も高いことを確認した。
【0242】
10.6. 実施例6:ApoA-IIアイソフォームは前立腺癌、PIN、および前立腺基底細胞に発現される
ApoA-IIに対するモノクローナル抗体かまたはポリクローナル抗体かのいずれかを用いる免疫組織化学は、同じ一般的な染色パターンを示した。前立腺腺癌は、前立腺における他の良性要素より強く染色した。癌細胞の染色のパターンは可変性で、主として細胞質および膜であり、まれに核染色がある(図5)。癌細胞の染色は、腫瘍の前進する縁に際立った。組織学的に正常な外見の前立腺は管腔細胞の染色をほとんど示さなかったが、基底細胞は最小から中位までのレベルで染色された。低悪性度および高悪性度PINの両方の管腔細胞ならびに基底細胞もまた可変的に染色した。内皮腔および間質腔における液体もまた可変的に染色した。
【0243】
10.7. 実施例7:ApoA-IIのアイソフォームの血清レベルは前立腺癌において特異的に過剰発現される
免疫除去研究の結果の一つは、抗ApoA-II抗体が血清からのApoA-IIアイソフォームの免疫捕獲において効率的であるという決定であった。従って、この抗体を用いて、本発明者らは、血清ApoA-IIアイソフォームの検出のためのSELDIに基づいたイムノアッセイを開発した。本発明者らは、実施例1に記載されているように、抗ApoA-II抗体でコーティングされたPS20 ProteinChip(登録商標)におけるSELDI-TOF-MS分析のために調製された全血清をインキュベートした。NO、BPH、PCaの三通り試料における8.9K m/zピークの最初の分析において、SELDIに基づいたイムノアッセイにおいて検出される場合の8.9K m/zピークの相対強度は、標準SELDI-TOF-MSにより調べられた同じ試料について観察された相対強度に匹敵した(図6)。
【0244】
本発明者らは次に、SELDIに基づいたイムノアッセイプラットフォームにおいて分析された精製ApoA-IIアイソフォームを用いての8.9K m/zピーク値についての滴定曲線を確立した。精製ApoA-IIアイソフォームの滴定において得られた値を用いて、本発明者らはその後、本発明者らの以前の血清プロファイリング研究の一部であった50個のNO、51個のBPH、および48個のPCaの群をスクリーニングした。イムノアッセイを用いて測定された場合の結果として生じた、血清におけるApoA-IIアイソフォームの相対量は、SELDI-TOF-MS 8.9K m/zトレースを用いて観察された相対的差と匹敵した。従って、イムノアッセイは、8.9K m/zピークのSELDI-TOF-MSプロファイルが血清におけるApoA-IIアイソフォームの実際の濃度を表すことを明らかにしている。この技術を用いて、本発明者らはまた、血清におけるApoA-IIアイソフォームの検出のためのイムノアッセイアプローチの成功を実証している。
【0245】
滴定曲線の確立中において、本発明者らは、ヒト血漿(Biodesign Intl., Saco, ME)から精製されたApoA-IIが質量差に基づいて3つの主要なアイソフォームからなることに気づいた(図6A)。ApoA-IIについて報告された質量は8.7kDaであるが(Gordon et al., J Biol Chem, 258:14054-14059, 1983; Scanu et al., Biochim Biophys Acta, 351:341-347, 1974)、本発明者らは、精製された混合物において、8.7K m/zピークが8.8K m/zピークによって支配されていることを観察した。本発明者らはまた、8.9K m/zピークが、精製されたタンパク質にも見られるApoA-IIの第三の型を含むことを報告する。
【0246】
本発明者らは、頭頸部扁平上皮細胞癌(Head and Neck Squamous Cell Carcinoma)またはHNSCC、結腸、および肺由来の癌および対照の血清試料を含むようにイムノアッセイ分析を拡大した。これらの試料において、8.9K m/zピークは、イムノアッセイまたは標準SELDI-TOF-MS分析のどちらにおいても過剰発現されなかった(図7)。HNSCC癌についての値は上昇したが、それでもなお、PCaまたはBPHのどちらについての値よりも有意に低かった。従って、ApoA-IIの8.9kDaアイソフォームは、他の一般的な癌群と比較した場合、PCaに特異的である。興味深いことに、本発明者らがこれらの血清においてApoA-IIの8.7kDa型および8.8kDa型を調べた時、検出された値は、極めて低く、どちらの疾患状態との相関も失われた(図8)。血清におけるApoA-IIの分子量の発表された結果に反して、本発明者らは、8.9kDa型を前立腺癌および対照の血清における優勢種とみなし、前立腺癌において診断の可能性を有するのがこの型である。
【0247】
10.8. 実施例8:8.9K ApoA-IIアイソフォームは、前立腺特異的抗原(PSA)が検出できない前立腺癌患者由来の血清において過剰発現されている
ApoA-IIアイソフォームのようなバイオマーカーの有用性は、前立腺特異的抗原(PSA)と関連づけて調べられるべきである。本分析において、ApoA-IIアイソフォームは、組み合わされた非癌群に関して相対的に低い特異性を有するバイオマーカーとして現れる可能性が高い。前立腺癌を良性疾患から区別するにおける困難はまたPSAに関する場合でもあり、それに従って、ApoA-IIアイソフォームは類似した偽陽性率を有することを予想される可能性がある。しかしながら、本発明者らはまた、PSA値が<4.0ng/mlである場合癌を対照から識別するApoA-IIアイソフォームの能力を調べた。この範囲において、ApoA-IIアイソフォームは、PSAが癌を検出できない範囲においてこのマーカーを補完することによりPSA検査に貢献するための有用なバイオマーカーであると証明されうる。臨床的カットオフ値として4.0ng/mlを用いて、本発明者らは、40個の癌および154個の対照において8.9K m/zピークの強度を分析した(図9)。8.9K m/zピークの強度の分布がこれらの正常およびPCA試料(PSA 0〜4ng/ml)において比較された場合、NO試料の大部分は0と20の間の平均強度を有し、一方、PCa試料の相当な割合が20より上の平均強度をもった(図9)。従って、8.9K m/zピークの相対強度値は、PSAが癌を検出できなかった場合でさえも強い識別子であった。
【0248】
考察
多重パラメーター診断アッセイの開発、例えば、多種タンパク質を測定するものは現代医学において正確な分子分析についての臨床的需要を満たすための多大なる見込みを有する。血清タンパク質の発現差のそのような診断プラットフォームへの組み込みは、困難な診断目標の実現において重要なパラメーターであることが証明されうる。プロファイルを含むタンパク質の血清レベルの古典的測定はプロファイルを各患者で安定化/標準化するのに役立つため、診断的発現プロファイルを含む個々の差次的に発現されるタンパク質の同定は、ロバストで正確な診断プラットフォームの開発において真の進歩を促進するために必須である。加えて、タンパク質が同定され、かつ特異的な高親和性抗体がそれらに対して産生された場合には、分析のためのより直接的で潜在的により費用のかからない方法が開発されうる。
【0249】
これらの目標の達成において、本発明者らは、ApoA-IIの8.9kDaアイソフォームを、前立腺疾患を検出するタンパク質発現プロファイルの構成要素であると同定している。ApoA-IIは、HDLにおいて2番目に豊富なタンパク質であり(タンパク質質量の25%)、主として肝臓により合成される(Bisgaier and Glickman, Annu Rev Physiol, 45:625-636, 1983)。タンパク質の発現は転写および翻訳レベルの両方において制御される。ヒトにおいて、ApoA-IIは、8707.9Daの単量体質量を有する、Cys-6残基間にジスルフィド架橋により連結された2つの同一の77残基ポリペプチド鎖からなる(Scanu et al., Biochim Biophys Acta, 351:341-347, 1974)。本発明者らがヒト血漿から精製されたApoA-IIを調べた時、本発明者らは質量により分離される3つの種を観察した;具体的には、本発明者らは、8706.5 m/z、および8808.4 m/z、および8943 m/zの種を観察し、8808.4 m/zが精製されたタンパク質において優勢型であった。しかしながら、本発明者らの研究における健康、BPH、およびPCaの症例由来の血清において、優勢種は8943 m/zアイソフォームであり、これはPCaを検出することを特異的にできる唯一の型である。
【0250】
ApoA-IIは、最初に、100アミノ酸残基、成熟タンパク質より23残基長い、で構成されるタンパク質前駆体として合成される(Gordon et al., J Biol Chem, 258:14054-14059, 1983; Tsao et al., J Biol Chem, 260:15222-15231, 1985)。タンパク質の培地への分泌において切断される18個のアミノ酸シグナルペプチドおよび5個のアミノ酸プロセグメントがある(Brewer et al., Proc Natl Acad Sci USA, 69:1304-1308, 1972)。血清ApoA-IIの予想質量に関して、いくつかの研究が、予測および観察されるサイズの範囲は、選択的酸化パターン、システイニル化、シアリル化、およびC末端グルタミンの欠失によって予想されることを決定している(Deterding et al., Electrophoresis, 23:2296-2305, 2002; Lackner et al., J Biol Chem, 260:703-706, 1985; Niederkofler et al., J Lipid Res, 44:630-639, 2003; Schmitz et al., J Lipid Res, 24:1021-1029, 1983)。
【0251】
ApoA-IIはHDL(高密度リポタンパク質)において2番目に豊富なタンパク質であるが、その機能はほとんど知られていない。マウスおよびヒトの両方において、ApoA-IIは、未知の機構により、遊離脂肪酸の血漿レベルに影響を及ぼす(Warden et al., Proc Natl Acad Sci USA, 90:10886-10890, 1993)。インビトロ研究は、ApoA-IIがApoA-IをHDL粒子から置換できる(Edelstein et al., J Biol Chem, 257:7189-7195, 1982)、肝性リパーゼ(HL)を刺激または抑制できる(Jahn et al., FEBS Lett, 131:366-368, 1981)、レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼ(LCAT)を抑制できる(Scanu et al., Ann NY Acad Sci, 348:160-173, 1980)、およびコレステロールエステル転送タンパク質(CETP)の作用を抑制できる(Tailleux et al., Atherosclerosis, 164:1-13, 2002により概説されている)ことを示している。ApoA-II欠乏状態もまた、血漿遊離脂肪酸(FFA)、グルコース、およびインスリンの減少したレベルと関連しており、インスリンに対する過敏性に対応する代謝障害を示唆している(Weng et al., Proc Natl Acad Sci USA, 93:14788-14794, 1996)。大半の研究において、ApoA-IIの一定の定常状態レベルは、機能のホメオスタシス的制御を維持するために必須である。
【0252】
加えて、癌感受性と、アポリポタンパク質を含む脂質代謝経路のタンパク質の間の関係を示唆する報告の数の増加がある(Aspinall et al., J Urol, 154:622-628, 1995; Freeman and Solomon, J Cell Biochem, 91:54-69, 2004; Lehrer, Br J Cancer, 78:1398, 1998; Myers et al., J Urol, 165:1027-1032, 2001; Trougakos and Gonos, The International Journal of Biochemistry & Cell Biology, 34:1430-1448, 2002; Zhang et al., J Urol, 159:548-554, 1998)。例えば、アポリポタンパク質D(ApoD)のようなアポリポタンパク質ファミリーは、PCaにおいて過剰発現されることが示されている(Aspinall et al., J Urol, 154:622-629, 1995; Zhang et al., J Urol, 159:548-554, 1998)。興味深いことに、大量のApoDは、主として、ヒト血漿においてApoA-IIのジスルフィド結合したヘテロダイマーとして生じる(Blanco-Vaca et al., J Lipid Res, 33:1785-1796, 1992)。これらのタンパク質が癌において果たす役割は知られていないが、それらが細胞増殖/アポトーシスの機能に関与している可能性があるといういくつかの証拠がある(Trougakos and Gonos, The International Journal of Biochemistry and Cell Biology, 34:1430-1448, 2002; Vogel et al., J Cell Biochem, 54:299-308, 1994)。実際、本発明者らが本明細書で、正常なおよび腫瘍性の前立腺上皮細胞におけるApoA-IIについて報告している、染色パターンは、この示唆された役割と一致している。
【0253】
正常な前立腺上皮は、2つの別個の区画、基底細胞層および管腔分泌細胞層、で構成される。一過増殖性細胞の第三の区画が最近、記載されている(De Marzo et al., Am J Pathol, 153:911-919, 1998)。基底細胞は、活発に増殖する前立腺上皮の幹細胞であり、性腺摘除後アポトーシスを起こすことに対して抵抗性である。この機能と一致して、それらは、核増殖抗原PCNAを発現させる、アポトーシスインヒビターBcl-2を過剰発現する、細胞周期インヒビターp27の発現を欠く、およびアンドロゲン受容体を欠く、または低レベルのアンドロゲン受容体を発現する(De Marzo et al., Am J Pathol, 153:911-919, 1998)。対照的に、分泌管腔細胞は非増殖性の高度に分化した細胞であり、p27を強く発現し、PCNAの発現を欠き、Bcl-2を過剰発現しない。PSA産生の源であることに加えて、良性分泌細胞は高レベルのアンドロゲン受容体を発現し、性腺摘除後アポトーシスを起こす。
【0254】
良性前立腺過形成性腺は、p27が管腔細胞と比較した場合下方制御されている一過増殖性細胞の隆起した区画を有する多層乳頭状上皮を示す。本発明者らが本明細書で免疫組織化学によりApoA-IIについて評価した良性前立腺の大部分は、基底細胞におけるこのタンパク質の選択的または優先的発現、多細胞層過形成性腺における可変性発現パターン、および分泌性管腔細胞における弱〜無の発現を示した。この染色パターンは、PCNAのような細胞増殖マーカーのものと相関し(De Marzo et al., Am J Pathol, 153:911-919, 1998)、それゆえに、ApoA-IIが増殖性前立腺上皮細胞において優先的に発現されると推測することは興味をそそる。
【0255】
さらに、PINおよび侵襲性癌における本明細書に報告されたApoA-IIアイソフォームの過剰発現は、この仮定と一致している。以前の研究は、PINおよび癌と関連した細胞増殖の増加を有する細胞周期調節異常、加えて腫瘍グリーソンのスコアおよび病期の進行と関連した細胞増殖の漸増する速度を実証している(Diaz et al., Urology, 53:931-938, 1999)。
【0256】
本発明者らは、アポリポタンパク質A-IIについて単一値カットオフを用いることにより、PCaおよびBPHを有する患者が、PSA値<4.0ng/mlを有する無作為に選択された非対称の男性として定義される場合の健康な男性から区別されうることを報告している。ApoA-IIアイソフォームの予想される潜在的偽陽性率はPSAの現行の能力を向上させない可能性があるが、ApoA-IIアイソフォームは、PSAレベルが<4.0ng/mlである、すなわち換言すれば、PSAが疾患を検出できなかったであろうPCaの場合において、疾患と非疾患の間の識別を保持している。従って、PSAと組み合わせたApoA-IIアイソフォームの使用は、この検査の有用性を拡大しうる。本発明者らは今、ApoA-IIアイソフォームがこの集団においてPCaを検出することができるかどうかを決定するために、臨床症状をもたず、かつ正常な前立腺容積を有する4.0ng/ml未満のPSAレベルを有する試料を調べている。これは、かなりの数の進行癌が4.0ng/ml未満のPSA値を有する患者において検出されずにいることを示す前立腺癌予防試験(PCPT)からの最近の結果から見ると、特に重要である(Thompson et al., N Engl J Med, 350:2239-2246, 2004)。
【0257】
PSAと比較したApoA-IIアイソフォームのPCa検出の範囲の潜在的増加に加えて、本発明者らの結果はまた、タンパク質発現プロファイリングの最終的有用性に関して生じることになる問題の一部に取り組む。本発明者らはまた、質量分析により検出されるm/zピークの相対強度が、タンパク質がイムノアッセイにより測定される場合の実際の血清レベルに匹敵することを実証することができた。これは、プラットフォームが血清と同じくらい複雑な混合物において何か特定のタンパク質の相対量を反映することができるかどうかの問題に取り組む助けとなる。さらに、本発明者らは、生物学的疾患へ通常のアプローチにより結びつけられうるm/zピークがあるという証拠を提供し、このタンパク質がSELDI-TOF-MSおよびイムノアッセイの両方による2つの別々の研究において一貫して検出されることを実証する。
【0258】
加えて、ApoA-IIアイソフォームの過剰発現は前立腺癌に特異的であり、ApoA-IIアイソフォームの発現の増加は、頭頸部、結腸、または肺の癌において観察されなかった。従って、ApoA-IIアイソフォームの発現パターンは前立腺疾患に特異的であることができ、ApoA-IIアイソフォームは一般的な癌マーカーでも質量分析の人為的結果でもない。
【0259】
これらの結果は、PCaおよびBPHについての診断となるSELDI-TOF-MSにより検出されたタンパク質ピークを同定する。同定されたタンパク質は、血清タンパク質アポリポタンパク質A-IIの見かけ8.9kDa種であり、ApoA-IIアイソフォームは、頭頸部、結腸、または肺の癌と比較した場合、前立腺癌において特異的に過剰発現される。相関は、質量分析タンパク質発現プロファイリング、および質量分析に基づいたイムノアッセイを用いて観察された。タンパク質発現プロファイリングと共にApoA-IIアイソフォームについての免疫に基づいたアッセイの組み込みは、質量分析単独よりロバストなアッセイプラットフォームを提供しうる。加えて、ApoA-IIアイソフォームは、多重化イムノアッセイまたは抗体アレイへ重要な貢献を与えうる。ApoA-IIアイソフォームの過剰発現はまたPSA<4.0ng/mlを有するPCaを有する患者においても観察されたため、本発明者らは、血清におけるApoA-IIアイソフォームの分析がPCaについての現行の血液検査の有用性を拡大しうることを提案する。
【0260】
本明細書に記載された実施例および態様は例証の目的のためのみであること、ならびにそれらを踏まえての様々な改変または変化が当業者に示唆されるだろうし、本出願の真意および範囲内ならびに添付された特許請求の範囲の範囲内に含まれることができることは理解されている。本明細書に引用されたすべての刊行物、特許、および特許出願は、すべての目的のために全体として参照により本明細書に組み入れられる。
【図面の簡単な説明】
【0261】
【図1】SELDI-TOF MSによるIMAC-Cu2+ ProteinChip(登録商標)表面上に検出された8.9K m/zピークの示差的発現を示す。パネルA:2年間離れて(2000年および2002年)行われた2つの独立した血清研究でのNO(正常、健康)、BPH(良性前立腺過形成)、およびPCa(前立腺癌)試料群における相対的標準化強度を示す8.9K m/zピークのグループ箱ひげクラスタープロット。箱ひげを形成する水平線は、試料群についての統計学的平均を示す。パネルB:NO対PCa分析についてのROC統計値。AUC>0.62は、これらの研究における8.9K m/zピークの非常に有意な識別的値を示す。
【図2】8.9K m/zピークに対応するタンパク質の単離および精製を示す。病的状態において過剰発現された8.9K m/zピークに対応するタンパク質を単離するために、全未分画血清をC-8 HPLC(A)またはIMAC-Cu2+ FPLC(B)のいずれかにかけ、続いて、1次元(1-D)SDS-PAGE上での画分の分離を行った。6.0kDaと10.0kDa分子量マーカー(MW)の間を移動するタンパク質バンドは、2つの並行精製スキームのそれぞれにおいていくつかの独立したペアの試験において癌試料で過剰発現した。対象となるバンド(矢じり)を各ゲルから切除し、LC-MS/MSにより成熟アポリポタンパク質A-IIであると同定した。負荷:純血清;FT:樹脂流入;EL:樹脂溶出。
【図3】血清画分のウェスタンブロッティング分析を示す。PCa(前立腺癌)およびNO(健康な男性)のペアの試料のHPLC分離からの画分をSDS-PAGEにかけ、続いて、銀染色(左パネル)またはウェスタンブロッティング(右パネル)を行った。タンデム型質量分析方法によりアポリポタンパク質A-IIであると同定された銀染色されたゲルからの差次的に発現されたバンドは、イムノブロットにおいて検出されたバンド(矢印)と同じRfで移動する。
【図4】血清からのApoA-II免疫除去を示す。血清ApoA-IIアイソフォームがSELDI上で観察された8.9K m/zピークを生じることを検証するために、マウスモノクローナル抗ApoA-II抗体を、NO(健康)、BHP(良性前立腺過形成)、およびPCa(前立腺癌)血清の3つのそれぞれのセットからApoA-IIを選択的に免疫除去するために用いた。(A)IMAC-Cu2+チップ上で分析された免疫除去PCa血清。(B)SELDIプラットフォーム上の8.9K m/zピークの平均強度における5分の1の低下が、免疫除去されたPCa血清において見られうる。(C)粗PCaおよびNO血清、ならびに抗ApoA-II抗体で免疫除去されたPCaおよびNO血清のペアのウェスタンブロッティングは、SELDI上に観察された8.9K m/zピークの相対強度と一致したタンパク質の発現レベルを示した。純粋なApoA-IIタンパク質は、除去したタンパク質バンドと平行に移動する。負荷:粗血清;除去された上清:IgG免疫除去された血清;IP:ApoA-II免疫除去された血清;IgG溶出:IgG結合したタンパク質;ApoA-II溶出:抗ApoA-II抗体結合したタンパク質。
【図5】パネルA:基底細胞においてさえも最小染色を示す浸潤のない前立腺の下に浸潤する前立腺癌(双頭矢印)。癌における細胞質、膜、および核である染色のパターンは、前進する縁においてわずかに際立っており、可変性である(弱〜強)。挿入画は散在した核(単頭矢印)染色を実証する前立腺癌を示す。パネルB:ほとんど染色をもたない(双頭矢印)浸潤のない前立腺より上に存在する前立腺上皮内腫瘍(PIN)および前立腺癌の管腔細胞において実証された弱〜強の染色(単頭矢印)。パネルC:中位の染色(矢印)を実証する浸潤のない前立腺の基底細胞。内皮腔もまたいくらかの染色を示す。パネルD:膜および細胞質染色(矢印)を有する神経周囲前立腺癌。原倍率×400(A、B)および×600(C、D)。
【図6】血清におけるApoA-IIアイソフォームレベルの検出を示す。50個のNO(健康)、51個のBPH(良性)、および48個のPCa(前立腺癌)試料の群を、マウスmAb抗ApoA-IIコーティング化PS20 ProteinChip(登録商標)におけるSELDIに基づいたイムノアッセイを用いてApoA-IIアイソフォームについてスクリーニングした。(A)SELDIイムノアッセイにおいて純粋なApoA-IIタンパク質から得られたスペクトル。スペクトルは各濃度(0〜1000μg/ml)についてオーバーレイされたレイアウトで示されている。(B)純粋なApoA-IIスペクトルから得られたデータは滴定曲線を確立するために用いられた。(C)血清試料において観察された8.9K m/z領域は、滴定曲線に基づいたApoA-IIアイソフォームの血清レベルを計算するために用いられた。PCa試料におけるApoA-IIアイソフォームの量の約4倍増加はNOと比較して観察された。(D)IMACCu2+ ProteinChip(登録商標)上のSELDI-TOF-MS 8.9K m/zトレースにおいて観察された相対標準化強度。
【図7】比較ApoA-IIアイソフォームSELDIイムノアッセイを示す。SELDIに基づいたイムノアッセイを用いて、ApoA-IIアイソフォームのレベルは、前立腺(7個の癌、7個のBPH、および4個の対照)、頭頸部の癌および対照血清試料において試験された。扁平上皮細胞癌またはHNSCC(6個の癌および4個の対照)、結腸(10個の癌および4個の対照)、および肺(8個の癌および4個の対照)。(A)IMAC-Cu2+ ProteinChip(登録商標)上の8.9K m/zピークの相対標準化強度。(B)SELDIに基づいたイムノアッセイに観察される場合のApoA-IIアイソフォームの血清レベルの相対量。ApoA-IIアイソフォームの量(μg/ml)は、精製されたApoA-IIアイソフォームの滴定に観察された値を用いて計算される。
【図8】血清ApoA-IIアイソフォームの分析を示す。SELDIイムノアッセイにおいて観察される場合のApoA-IIの微小ピークが、前立腺癌、良性前立腺過形成(BPH)、頭頸部扁平上皮細胞癌(HNSCC)、結腸癌、および肺癌由来の血清試料においてそれらのそれぞれの対照と共に分析された。(A)ApoA-IIの8.7K m/zアイソフォームの比較血清レベル。(B)ApoA-IIの8.8K m/zアイソフォームの比較血清レベル。ApoA-IIアイソフォームの量(μg/ml)は純粋なApoA-IIタンパク質の滴定に基づいて計算される。
【図9】低PSAを有する血清試料におけるApoA-IIアイソフォームおよびPSAの推定分布を示す。左のパネルは、0〜4ng/mlの観察されたPSAレベルを有する、健康(正常;上部パネル)の試料および前立腺癌(PCA;下部パネル)の試料のセットについてPSAレベルの推定分布を示す。右のパネルは、同じセットの試料(PSA 0〜4ng/ml)における8.9K m/zピーク(ここでは8946.3として示されている)における平均強度の推定分布を示す。すべてのパネルにおいて、Y軸は推定確率密度関数の値を表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の段階を含む、被験体において前立腺癌状態を測定するための方法:
(a)被験体由来の生体試料を提供する段階;
(b)ApoA-IIアイソフォームを捕捉する能力がある生体特異性捕捉試薬と生体試料を接触させる段階であって、ApoA-IIアイソフォームが以下を含み:
(i)アミノ酸配列VKSPELQAEAK(SEQ ID NO:1);および
(ii)アミノ酸配列SKEQLTPLIK(SEQ ID NO:2);
かつApoA-IIアイソフォームが約8943ダルトン+/-15の分子量を有し、それによりApoA-IIアイソフォームが生体特異性捕捉試薬に結合する、段階;
(c)結合したApoA-IIアイソフォームの量を測定する段階;ならびに
(d)結合したApoA-IIアイソフォームの量を前立腺癌状態と相関させる段階。
【請求項2】
前立腺癌状態が正常に対する前立腺癌である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前立腺癌状態が、良性前立腺過形成に対する前立腺癌である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前立腺癌状態が被験体における前立腺癌のスクリーニング、診断、または予後の一部として測定される、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前立腺癌状態が被験体の前立腺癌に対する感受性の測定の一部として測定される、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前立腺癌状態が被験体において前立腺癌の病期または重症度の測定の一部として測定される、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前立腺癌状態が被験体の前立腺癌を発症するリスクの同定の一部として測定される、請求項1記載の方法。
【請求項8】
前立腺癌状態が、前立腺癌と診断された被験体に施される抗前立腺癌薬または治療の効果のモニターの一部として測定される、請求項1記載の方法。
【請求項9】
生体試料がヒト生理学的液体である、請求項1記載の方法。
【請求項10】
ヒト生理学的液体が全血または全血清である、請求項9記載の方法。
【請求項11】
生体試料がヒト前立腺組織試料である、請求項1記載の方法。
【請求項12】
ヒト前立腺組織試料が前立腺癌組織試料または良性前立腺過形成組織試料である、請求項11記載の方法。
【請求項13】
生体特異性捕捉試薬が固体支持体に付着している、請求項1記載の方法。
【請求項14】
固体支持体が質量分析プローブであり、かつ生体特異性捕捉試薬がプローブに付着した抗体を含み、段階(c)がレーザー脱離イオン化質量分析により結合したApoA-IIアイソフォームを検出する段階を含む、請求項13記載の方法。
【請求項15】
生体特異性捕捉試薬が、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、二重特異性抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、一本鎖抗体、およびそれらの活性断片からなる群より選択される抗体である、請求項1記載の方法。
【請求項16】
以下の段階をさらに含む、請求項1記載の方法:
(e)生体試料におけるApoA-IIアイソフォームの量を、前立腺癌を患っていない1つもしくは複数の被験体由来の生体試料におけるApoA-IIアイソフォームの量と、または前立腺癌を患っていない被験体におけるApoA-IIアイソフォームについての前に決定された参照範囲と比較する段階。
【請求項17】
以下の段階をさらに含む、請求項1記載の方法:
(e)生体試料を、前立腺癌特異的バイオマーカーXを捕捉する能力がある生体特異性捕捉試薬と接触させる段階であって、前立腺癌特異的バイオマーカーXがApoA-IIアイソフォームと異なっている、段階。
【請求項18】
段階(c)が高速液体クロマトグラフィーを含む、請求項1記載の方法。
【請求項19】
段階(c)がポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)およびウェスタンブロッティングを含む、請求項1記載の方法。
【請求項20】
PAGEが2次元PAGEである、請求項19記載の方法。
【請求項21】
以下を含む、前立腺癌状態を測定するためのキット:
(a)付着した少なくとも1つの生体特異性捕捉試薬を含む固体支持体であって、少なくとも1つの生体特異性捕捉試薬がApoA-IIアイソフォームを捕捉する能力があり、ApoA-IIアイソフォームが以下を含み:
(i)アミノ酸配列VKSPELQAEAK(SEQ ID NO:1);および
(ii)アミノ酸配列SKEQLTPLIK(SEQ ID NO:2);
かつApoA-IIアイソフォームが約8943ダルトン+/-15の分子量を有する、固体支持体;ならびに
(b)ApoA-IIアイソフォームを検出するための固体支持体の使用説明書。
【請求項22】
生体特異性捕捉試薬を含む固体支持体がSELDIプローブである、請求項21記載のキット。
【請求項23】
以下をさらに含む、請求項21記載のキット:
(c)ApoA-IIアイソフォームを含む容器。
【請求項24】
以下をさらに含む、請求項21記載のキット:
(c)前立腺癌特異的バイオマーカーXを捕捉する能力がある生体特異性捕捉試薬であって、前立腺癌特異的バイオマーカーXがApoA-IIアイソフォームと異なっている、生体特異性捕捉試薬。
【請求項25】
以下を含む、前立腺癌状態を測定するためのキット:
(a)付着した少なくとも1つの生体特異性捕捉試薬を含む固体支持体であって、少なくとも1つの生体特異性捕捉試薬がApoA-IIアイソフォームを捕捉する能力があり、ApoA-IIアイソフォームが以下を含み:
(i)アミノ酸配列VKSPELQAEAK(SEQ ID NO:1);および
(ii)アミノ酸配列SKEQLTPLIK(SEQ ID NO:2);
かつApoA-IIアイソフォームが約8943ダルトン+/-15の分子量を有する、固体支持体;ならびに
(b)ApoA-IIアイソフォームを含む容器。
【請求項26】
生体特異性捕捉試薬を含む固体支持体が、SELDIプローブである、請求項25記載のキット。
【請求項27】
以下を含む、前立腺癌状態を測定するためのキット:
(a)ApoA-IIアイソフォームに結合する能力がある抗体であって、ApoA-IIアイソフォームが以下を含み:
(i)アミノ酸配列VKSPELQAEAK(SEQ ID NO:1);および
(ii)アミノ酸配列SKEQLTPLIK(SEQ ID NO:2);
かつApoA-IIアイソフォームが約8943ダルトン+/-15の分子量を有する、抗体;
(b)PAGEおよびウェスタンブロッティングのための試薬;ならびに
(c)ApoA-IIアイソフォームを検出するための抗体の使用説明書。
【請求項28】
以下を含む、前立腺癌状態を分類するためのソフトウェア製品:
(a)生体試料に起因するデータにアクセスするコードであって、データがApoA-IIアイソフォームの測定値を含み、ApoA-IIアイソフォームが以下を含み:
(i)アミノ酸配列VKSPELQAEAK(SEQ ID NO:1);および
(ii)アミノ酸配列SKEQLTPLIK(SEQ ID NO:2);
かつApoA-IIアイソフォームが約8943ダルトン+/-15の分子量を有する、コード;ならびに
(b)生体試料の前立腺癌状態を測定値の関数として分類する分類アルゴリズムを実行するコード。
【請求項29】
以下の段階を含む方法:
(a)被験体由来の試料におけるApoA-IIアイソフォームの相関から決定された前立腺癌状態に関する診断を被験体に伝達する段階であって、ApoA-IIアイソフォームが以下を含み:
(i)アミノ酸配列VKSPELQAEAK(SEQ ID NO:1);および
(ii)アミノ酸配列SKEQLTPLIK(SEQ ID NO:2);
かつApoA-IIアイソフォームが約8943ダルトン+/-15の分子量を有する、段階。
【請求項30】
診断がコンピューター処理媒体を通して被験体に伝達される、請求項29記載の方法。
【請求項31】
以下を含む精製された生体分子であって:
(i)アミノ酸配列VKSPELQAEAK(SEQ ID NO:1);および
(ii)アミノ酸配列SKEQLTPLIK(SEQ ID NO:2);
かつ約8943ダルトン+/-15の分子量を有する、精製された生体分子。
【請求項32】
以下の段階を含む、被験体において前立腺癌状態を測定するための方法:
(a)被験体由来の生体試料を提供する段階;
(b)ApoA-IIアイソフォームの非存在、存在、もしくは量を検出または測定する段階であって、ApoA-IIアイソフォームが以下を含み:
(i)アミノ酸配列VKSPELQAEAK(SEQ ID NO:1);および
(ii)アミノ酸配列SKEQLTPLIK(SEQ ID NO:2);
かつApoA-IIアイソフォームが約8943ダルトン+/-15の分子量を有する、段階;ならびに
(c)ApoA-IIアイソフォームの非存在、存在、または量を前立腺癌状態と相関させる段階。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公表番号】特表2008−527351(P2008−527351A)
【公表日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−550497(P2007−550497)
【出願日】平成18年1月6日(2006.1.6)
【国際出願番号】PCT/US2006/000450
【国際公開番号】WO2006/074360
【国際公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.UNIX
【出願人】(507229294)イースタン バージニア メディカル スクール (5)
【Fターム(参考)】