説明

前立腺癌バイオマーカー

癌の診断および/または予後に、そして癌、例えば前立腺癌における治療決定をするために少なくとも有用なバイオマーカーが開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、米国特許仮出願第60/972,694号(2007年9月14日出願)および第61/054,925号(2008年5月21日出願)(これらの記載内容はともに、参照により本明細書中で援用される)の利益を主張する。
【0002】
癌の診断および/または予後に、そして癌、例えば前立腺癌における治療決定をするために少なくとも有用なバイオマーカーが開示される。
【0003】
(政府支援の承認)
本発明は、アメリカ国立衛生研究所からの助成金番号PO1 CA56666に準じた米合衆国政府の支援で実行された;米国政府は本発明において一定の権利を有する。
【背景技術】
【0004】
腫瘍遺伝学者は、例えば「ケアの標準」として特徴づけられる化学療法薬の異なる組合せ、ならびに特定の癌に関する表示値を保有しないが、その癌における効力についての証拠が存在する多数の薬剤を含めて、彼等に利用可能な多数の治療選択肢を有する。良好な治療結果のための最良の機会は、患者が最適な利用可能な癌治療(単数または複数)を即座に受けるということ、ならびにこのような治療(単数または複数)が診断後できるだけ素早く開始されるということを必要とする。他方で、いくつかの癌治療は、生活の質に有意の悪影響を及ぼす;したがって、癌患者は潜在的に有害なおよび/または非有効な治療(単数または複数)を不必要に受けない、ということが同様に重要である。
【0005】
前立腺癌は、該当する適例を提供する。2008年、前立腺癌単独は、男性におけるすべての癌の25%を占め、男性におけるすべての癌死の10%を示す(Jemal et al., CA Cancer J. Clin. 58: 71-96, 2008)、と概算されている。前立腺癌は、典型的には、直腸診(「DRE」)および/または前立腺特異的抗原(PSA)スクリーニングにより診断される。DREに関する異常知見および/または血清PSAレベル上昇(例えば、>4 ng/ml)は、前立腺癌の存在を示し得る。PSAまたはDRE試験が異常である場合、経直腸的超音波を用いて前立腺をマッピングし、任意の疑わしい領域を示す。前立腺の種々の区分の生検を用いて、前立腺癌が存在するか否かを確定する。
【0006】
年齢に伴って増大する出現率ならびに血清PSA試験の日常的利用可能性は、診断を受ける加齢男性の数を劇的に増大させた。ほとんどの男性において、当該疾患は徐々に進行するが、しかし有意数が転移性疾患に進行し、そのうちアンドロゲン非依存性になる。癌がまだ前立腺に限局されている時に診断がなされれば、予後は良好である;しかし前立腺癌のほぼ3分の1が、腫瘍が局所的に広がった後に診断され、10症例のうちの1症例では、疾患は診断時に遠位の転移を有する。進行性前立腺癌を有する男性に関する5年生存率は、33.6%に過ぎない。適切な治療の選択は、通常は、患者の年齢ならびに前立腺癌の段階により左右される。この決定は、所定の患者の臨床段階および生物学的潜在性を術前に確定するための利用可能な正確な方法の欠如により、複雑にされる。
【0007】
重要な臨床的問題点は、局在性前立腺癌を有するこのような患者を如何に積極果敢に治療するかである。通常の治療選択肢は、前立腺癌の段階に依っている。低グリーソン数を有し、その腫瘍が前立腺以外に広がらない10年またはそれ未満の平均余命を有する男性は、しばしば治療されない。より攻撃的な癌のための治療選択肢としては、根治的前立腺切除術および/または放射線療法が挙げられる。アンドロゲン枯渇療法(例えばゴナドトロピン放出ホルモンアゴニスト(例えばロイプロリド、ゴセレリン等)および/または両側性睾丸摘出術)も、単独で、あるいは外科手術または放射線と組合せて用いられる。しかしながら、これらの予後指標は、個々の患者に関する臨床結果を正確に予測しない。それゆえ、より精確な分子マーカーを同定するのを手助けするために、再発の恐れが高い腫瘍を決定する分子的異常の重要な理解が必要とされる。
【0008】
多数の腫瘍型と違って、前立腺癌進行においては、特定パターンの癌遺伝子発現は一貫して同定されてはいないが、しかし個々の症例で重要であると思われる多数の候補遺伝子および経路が同定されている(Tomlins et al., Annu. Rev. Pathol. 1: 243-71, 2006)。いくつかのグループは、原発性癌腫の遺伝子発現を正常前立腺と比較することにより、前立腺癌進行を検査しようとしてきた。前立腺癌において観察される技術の差、ならびに真の生物学的不均質性のため、これらの研究は、数千の候補遺伝子を報告しているが、しかし適度な合意を共有しただけであった。それにもかかわらず、2〜3の遺伝子、例えばヘプシン(HPN)(Rhodes et al., Cancer Res. 62: 4427-33, 2002)、アルファ−メチルアシル−CoAラセマーゼ(AMACR)(Rubin et al.,JAMA 287: 1662-70, 2002)、およびZeste相同体2(EZH2)エンハンサー(Varambally et al., Nature 419: 624-9, 2002)が明らかになっており、これらは、前立腺発癌に及ぼす有望な役割を有する。極く最近、アンドロゲン調節性膜貫通プロテアーゼ、セリン2(TMPRSS2)と赤芽球形質転換特異的(ETS)DNA転写因子ファミリーとの融合を同定するために、生命情報科学アプローチおよび遺伝子発現方法が用いられた(Tomlins et al., Science 310: 644-8, 2005)。この融合は、一般に前立腺癌において出現し、より攻撃的な腫瘍において広く認められることが示されている(Attard et al., Oncogene 27: 253-63, 2008;Demichelis et al., Oncogene 26: 4596-9, 2007;Nam et al., Br. J. Cancer 97: 1690-5, 2007)。多数の研究が、その遺伝子発現により分離可能な異なるクラスの腫瘍を示しており(Rhodes et al., Cancer Res. 62: 4427-33, 2002;Glinsky et al., J. Clin. Invest. 113: 913-23, 2004;Lapointe et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 101: 811-6, 2004;Singh et al., Cancer Cell 1: 203-9, 2002;Yu et al., J. Clin. Oncol. 22: 2790-9, 2004)、これは、既知の臨床的不均質性に関連づけ得る。原発性前立腺癌に対して転移性前立腺癌における遺伝子調節不全を探求する多数の遺伝子発現研究が実施されてきた(Varambally et al., Nature 419: 624-9, 2002;Lapointe et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 101: 811-6, 2004;LaTulippe et al., Cancer Res. 62: 4499-506, 2002)。
【0009】
種々の提唱されたパネルの臨床的有用性に影響を及ぼす別の因子は、妥当化のための大半の試料利用可能性がホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)組織としてのみ存在する、という事実である。これと対照的に、今日までに実行されたcDNAマイクロアレイ試験の多くは、典型的には、急速凍結組織を使用している(Bibikova et al., Genomics 89: 666-72, 2007;van’t Veer et al., Nature 415: 530-6, 2002)。FFPE組織における遺伝子発現を実施し、分析する能力は、すでに利用可能な臨床情報、例えば組織学的等級および臨床段階を遺伝子特異的シグネチャーと相関させることにより、研究を大いに加速する。
【0010】
治療を必要としない前立腺癌がある一方、ほとんど常に致命的であるものもあると考えると、さらに、疾患治療がいくらよく見ても不快であり得ることを考えると、予期される疾患経過、例えば癌再発の見込み、患者の長期生存率等を介護者に予測させ、したがって最も適切な治療選択肢を選択させる方法が強く求められている。
【発明の概要】
【0011】
前立腺癌に罹患した被験者における当該疾患を特徴づける表8に列挙された1つまたは複数の遺伝子の発現変更(例えば、増大または低減)により少なくとも一部は特徴づけされる、前立腺癌再発の遺伝子シグネチャーが、本明細書中で開示される。例えば、表8に列挙されたwingless型MMTV組込み部位ファミリー成員5(WNT5A)、チミジンキナーゼ1(TK1)および増殖停止特異的遺伝子1(GAS1)および/またはその他の遺伝子の遺伝子発現は、前立腺癌結果、例えば前立腺切除を有する(またはその候補である)患者における疾患再発または非再発を予報するために用いられ得る。特定の例において、WNT5AおよびTK1の過剰発現ならびにGAS1の下方調節は、前立腺癌が再発するであろう見込み増大を、したがって不十分な予後を示す。開示された遺伝子シグネチャーは、例えば癌再発に関して前立腺癌患者をスクリーニングするために有用であり、これは、前立腺癌における予後を、ならびに治療決定を行うのを手助けし得る。この発見を具体化する方法および組成物(キットを含めて)が記載される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1A〜Dは、再発または非再発前立腺癌を有する患者からのホルマリン固定パラフィン包埋(「FFPE」)組織試料からのRNA回収に関するいくつかのパネルを含む。(A)組織回収からRNA定量化までの例示的方法ステップを一般的に略述する流れ図を示す。(B)RNA単離のためのFFPEブロックからの組織コア(直径1.0mm、長さ2〜5mm)を同定し、手動で回収する(ビーチャー・パンチを用いての)ためのスキームを示す。(C)ヘマトキシリンおよびエオシン(「H&E」)で染色された代表的組織切片であり、癌性細胞が病理学者により同定され、組織コアが単離した場合を模式的に示す。(D)実施例1に記載される発現分析のために用いられるRNA品質の査定方法を示す。アジレント・バイオアナライザ(商標)電気泳動RNA検定をすべての試料に関して実行し、トレースはRNA完全性の代用物として許容可能であると確定された。実時間PCRをすべての試料中のRPL13aハウスキーピング遺伝子に関して実行し、解離曲線は1つのRNA種のみの存在を示したが、これは、さらなる分析のために適したRNA品質も示した。系対照として、DASL(商標)検定を、新たに単離されたRNA試料に関する癌DAP分析のために実行した。
【図2】図2A〜Cは、再発または非再発前立腺癌を有する患者からのFFPE組織試料から単離されたRNAのDASL(商標)遺伝子発現解析に関するいくつかのパネルを含む。(A)すべての評価可能な遺伝子(367)およびすべての試料(24例の前立腺試験および4例の対照乳房検体、すなわちCTRL1−MCF7、CTRL2−乳房/MCF7、CTRL3−乳房1およびCTRL4−乳房2)に関するランク不変正規化を用いたクラスター分析。対照乳癌試料(新たに単離されたRNA)は前立腺癌試料とは別個に群れを成した。相関(1−r)値は軸上に表示されている。(B)陰性対照試料プロットは、関係のないプローブとの高試験試料結合を示す>300というシグナルを有する有意数のRNA試料を示す。(C)低背景結合を有する試料に関してのみのクラスター分析(検出のためのp値<0.05)。
【図3】図3A〜Cは、9例の試料に関する再発(n=4)および非再発(n=5)群間の(A)WNT5A、(B)TK1および(C)GAS1の示差的発現を示す一連の棒グラフである。再発および非再発群間の平均シグナル強度は:WNT5Aに関しては2861.29および338.35;TK1に関しては2156.17および752.25;GAS1に関しては130.52および2387.13である。
【図4】図4は、WNT5A、GAS1およびTK1を含み、27試料の全組に適合したロジスティック回帰モデルの性能を示すROC曲線である。曲線下面積は0.846であって、これは、当該モデルがデータと非常によく合致することを示す。100無作為選択試験症例を用いて、AUC概算値を改良するために、ブートストラップ再サンプリングを用いた。垂直軸(Y軸)は真陽性率(感受性)、すなわち、再発の場合の再発試料のスコアリングを示し;水平軸(X軸)は、偽陽性率(1−特異性)、すなわち、再発の場合の非再発試料のスコアリングを示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(配列表)
添付の配列表に列挙された核酸およびアミノ酸配列は、37C.F.R.1.822で定義されているように、ヌクレオチド塩基に関する標準文字略号、ならびにアミノ酸に関しては3文字コードを用いて示される。各核酸配列の1つの鎖のみが示されているが、しかし相補鎖は表示された鎖に対する任意の参照により含まれると理解される。本明細書中で参照される配列データベース寄託番号はすべて、本出願の出願日に利用可能であったような寄託番号により同定された配列のバージョンを指すと理解される。添付の配列表中の各配列を、以下で説明する:
配列番号1:ヒトGAS1核酸(cDNA)配列(CDS=残基411〜1448)(例えばGENBANK(商標)寄託番号NM_002048.1(GI:4503918)参照);
配列番号2:ヒトGAS1アミノ酸配列(例えばGENBANK(商標)寄託番号NP_002039.1(GI:4503919)参照);
配列番号3:ヒトWNT5Aをコードする核酸配列(CDS=残基319〜1461)(例えばGENBANK(商標)寄託番号NM_003392.3(GI:40806204)参照);
配列番号4:ヒトWNT5Aアミノ酸配列(例えばGENBANK(商標)寄託番号NP_003383.2(GI:40806205)参照);
配列番号5:ヒトTK1核酸(cDNA)配列(CDS=残基85〜915)(例えばGENBANK(商標)寄託番号NM_003258.3(GI:155969679)参照);
配列番号6:ヒトTK1アミノ酸配列(例えばGENBANK(商標)寄託番号NP_003249.2(GI:155969680)参照);
配列番号7および8:それぞれ、少なくともRPL13aのqRT−PCR検定のために有用な順方向および逆方向プライマー(OMIM寄託番号113703;GENBANK(商標)寄託番号NM_000977(GI:15431296)(mRNA変異体1)およびNM_033251(GI:15431294)(mRNA変異体2));
配列番号9〜17:例示的Illuminaプローブ配列;
配列番号18〜21:例示的WNT5Aプライマー配列;
配列番号22〜23:例示的TK1プライマー配列;
配列番号24〜25:例示的GAS1プライマー配列。
【0014】
I.用語
別記しない限り、技術用語は、慣用的用法に従って用いられる。分子生物学における一般用語の定義は、Benjamin Lewin, Genes V(出版:Oxford University Press, 1994 (ISBN 0-19-854287-9));Kendrew et al. (eds.), The Encyclopedia of Molecular Biology(出版:Blackwell Science Ltd., 1994 (ISBN 0-632-02182-9));ならびにRobert A. Meyers (ed.), Molecular Biology and Biotechnology: a Comprehensive Desk Reference(出版:VCH Publishers, Inc., 1995 (ISBN 1-56081-569-8))に見出され得る。
【0015】
種々の開示された実施形態の再検討を促すために、特定用語の以下の説明を提示する:
【0016】
核酸分子の増幅:核酸分子、例えばWNT5A、TK1またはGAS1核酸分子のコピー数を増大させるために用いられる方法を指す。その結果生じる生成物は、単位複製配列または増幅産物と呼ばれ得る。核酸分子の増幅方法は当該技術分野で知られており、例としては、MDA、PCR(例えば、RT−PCRおよびqRT−PCR)、DOP−PCR、RCA、T7/プリマーゼ依存性増幅、SDA、3SR、NASBAおよびLAMPなどが挙げられる。
【0017】
癌:悪性新生物、例えば分化の喪失、増殖率増大、周囲組織の浸潤を伴う特徴的脱分化を受けた、且つ転移し得るもの。
【0018】
相補的:例えばワトソン−クリック、フーグスティーンまたは逆フーグスティーン塩基対を形成することにより鎖が互いと結合する(ハイブリダイズする)時、2つの分子が安定二重鎖または三重鎖を形成するのに十分な数の相補的ヌクレオチドを共有する場合、核酸は別の核酸と「相補的」であるといわれる。安定結合は、核酸分子(例えば、核酸プローブまたはプライマー)が、必要条件下で標的核酸配列(例えば、WNT5A、TK1またはGAS1標的核酸配列)と検出可能的に結合されたままである場合に生じる。
【0019】
相補性とは、一核酸分子(例えば、核酸プローブまたはプライマー)塩基対中の塩基が、第二の核酸分子(例えば、標的核酸配列)中の塩基と塩基対合する程度である。相補性は、百分率、すなわち、2つの分子間、または2つの分子の特定領域またはドメイン内に塩基対を形成するヌクレオチドの割合により記載されるのが便利である。例えば、核酸プローブまたはプライマーの15連続ヌクレオチド領域のうちの10ヌクレオチドが標的核酸分子と塩基対を形成する場合、プローブまたはプライマーのその領域は、標的核酸分子と66.67%の相補性を有するといわれる。
【0020】
本発明の開示において、「十分な相補性」とは、十分数の塩基対が一核酸分子またはその領域(例えば、プローブまたはプライマーの領域)と標的核酸配列(例えば、WNT5a、TK1またはGAS1核酸配列)との間に存在して、検出可能な結合を達成する、ということを意味する。結合状態の確立に関与する定性的および定量的考察の徹底的処理は、Beltz et al Methods Enzymol. 100: 266-285, 1983により、ならびにSambrook et al.(ed.), Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nded., vol. 1-3, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY, 1989により提供される。
【0021】
接触:ある作用物質を別の作用物質の極近位に運んで、それにより当該作用物質を相互作用させること。例えば、抗体(または他の特異的結合剤)は、生物学的試料を含有する顕微鏡スライドまたはその他の表面に適用され、それにより、抗体に特異的である試料中のタンパク質(あるいはタンパク質−タンパク質相互作用またはタンパク質核酸相互作用)の検出を可能にし得る。別の例では、オリゴヌクレオチドプローブまたはプライマー(または他の核酸結合剤)は、生物学的試料から得られる核酸分子とともにインキュベートされ(そしていくつかの例では、核酸分子の増幅を可能にする条件下で)、それにより、プローブまたはプライマーとの十分な相補性を有する試料中の核酸分子(または核酸−核酸相互作用)の検出を可能にし得る。
【0022】
検出する:作用物質(例えば、核酸分子またはタンパク質)あるいは相互作用(例えば、2つのタンパク質間の、タンパク質および核酸間の、または2つの核酸分子間の結合、)が存在するか否かを確定すること。いくつかの例では、これはさらに定量化を含み得る。特定の例では、標識からの発光シグナルが検出される。巨視的数の分子が同時に観察され得るよう、検出は大量であり得る。検出は、顕微鏡を用いた単一分子からのシグナルの同定、ならびに背景ノイズを低減するための全反射のような技法も含み得る。
【0023】
例えば、特定のタンパク質(例えば、WNT5A、TK1またはGAS1)に特異的な抗体の使用は、前立腺癌組織を含有する試料のような試料におけるタンパク質またはタンパク質-タンパク質相互作用の検出を可能にする。別の例では、特定の遺伝子(例えば、WNT5A、TK1またはGAS1)に特異的なプローブまたはプライマーの使用は、前立腺癌組織を含有する試料のような試料中の所望の核酸分子の検出を可能にする。
【0024】
診断:例えば1つまたは複数の診断手順の結果から医学的症状または疾患を同定するプロセス。特定の例では、診断は、被験者の予後を確定すること、例えば付加的治療の非存在下で疾患(例えば前立腺癌)を有する被験者のありそうな結果(例えば、平均余命)を確定すること、例えば前立腺切除後のヒト被験者における前立腺癌のありそうな再発を予測することを包含する。
【0025】
[核酸配列の]示差的発現:核酸配列は、その発現産物(例えば、転写物(例えばmRNA)および/またはタンパク質)のうちの1つまたは複数の量が、別の組織(または細胞)型と比較した場合に、ある組織(または細胞)型においてより高いかまたはより低い場合、示差的に発現される。例えば、再発前立腺癌組織(または細胞)中でその転写物またはタンパク質がより高く発現され、そして非再発前立腺癌組織(または細胞)中でより低く発現される遺伝子、例えばWNT5Aおよび/またはTK1は、示差的に発現される。別の例では、非再発前立腺癌組織(または細胞)中でその転写物またはタンパク質がより高く発現され、そして再発前立腺癌組織(または細胞)中でより低く発現される遺伝子、例えばGAS1は、示差的に発現される。
【0026】
遺伝子:ポリペプチド、前駆体またはRNA(例えばmRNA)の産生に必要なコード配列を含む核酸(例えば、ゲノムDNA、cDNAまたはRNA)配列。ポリペプチドは、全長コード配列により、あるいは全長または断片の所望の活性または機能特性(例えば、酵素活性、リガンド結合、シグナル伝達、免疫原性など)が保持される限り、コード配列の任意の部分により、コードされ得る。当該用語は、構造遺伝子のコード部分、ならびに遺伝子が全長mRNAに対応するよう5’または3’のいずれかの末端上の約1kbまたはそれより長い距離の間で5’および3’末端の両方のコード領域に隣接して位置する配列も包含する。コード領域の5’に位置し、mRNA上に存在する配列は、5’非翻訳配列と呼ばれる。コード領域の3’またはその下流に位置し、mRNA上に存在する配列は、3’非翻訳配列と呼ばれる。ゲノム中に存在する(またはそれから単離される)ような遺伝子は、「イントロン」と呼ばれる非コード配列により中断されるコード領域(「エキソン」)を含有する。イントロンは、プロセシングされたRNA(例えばmRNA)転写物中には存在しない。
【0027】
遺伝子発現:ゲノム中にコードされた遺伝情報を変換し、核酸配列(例えばmRNA)をポリペプチドに介入する多段階プロセス。遺伝子のゲノム配列は「転写されて」、RNA(例えば、mRNA、転写物とも呼ばれる)を産生する。mRNAは、「転写されて」、対応するタンパク質を産生する。遺伝子発現は、当該プロセスの多数の段階で調節され得る。遺伝子発現の増大または低減は、任意の遺伝子発現産物(すなわち、mRNAおよび/またはタンパク質)の、それぞれ、増大または低減により検出され得る。遺伝子発現の増大または低減は、ゲノム変化の結果、例えば被験者遺伝子配列を含めたゲノムの領域の、それぞれ、増幅または欠失でもあり得る。
【0028】
標識:例えば分光測光法、フローサイトメトリーまたは顕微鏡検査により検出し得る作用物質。例えば1つまたは複数の標識は抗体に結合され、それにより標的タンパク質(例えば、WNT5A、TK1またはGAS1)の検出を可能にし得る。さらに、1つまたは複数の標識は核酸分子に結合され、それにより標的核酸分子(例えば、WNT5A、TK1またはGAS1 DNAまたはRNA)の検出を可能にし得る。例示的標識としては、放射性同位体、蛍光団、発色団、リガンド、化学発光物質、酵素およびその組合せが挙げられる。
【0029】
正常細胞または組織: 非腫瘍、非悪性細胞および組織。
【0030】
特異的結合(またはこのような語句の明白な派生、例えば特異的に結合する、〜に特異的な、など):1つの結合相手(例えば、遺伝子特異的プローブまたはタンパク質特異的抗体)ともう1つの結合相手(例えば、遺伝子特異的プローブまたはタンパク質特異的抗体の標的)の間の特別な相互関係。このような相互作用は、結合相手間の(あるいはしばしば、各結合相手の特定領域または部分間の)1つ、または典型的には複数の非共有結合により媒介される。非特異的結合部位と対照的に、特異的結合部位は飽和可能である。したがって、特異的結合を特徴づけるための1つの例示的方法は、特異的結合曲線によるものである。特異的結合曲線は、例えば、第一結合相手濃度の一関数としての、固定量の他方の結合相手に結合される一方の結合相手(第一結合相手)の量を示す。第一結合相手濃度はこれらの条件下で増大するので、結合される第一結合相手の量は飽和する。非特異的結合部位に別様に対照して、互いとの直接的会合(例えば、プローブ−mRNAまたは抗体−タンパク質相互作用)に関与する特異的結合相手は、過剰量のいずれかの特異的結合相手によりこのような会合から競合的に除去され得る(または移転させられる)。このような競合検定(または置換検定)は、当該技術分野で非常によく知られている。
【0031】
被験者:
任意の多細胞脊椎動物、例えばヒトおよび非ヒト哺乳類(例えば、獣医学的被験者)を含む。いくつかの例では、被験者は、癌を有するか、あるいは癌、例えば前立腺癌を有することが疑われる者である。
【0032】
別記しない限り、本明細書中で用いられる技術用語および科学用語はすべて、開示された発明が属する当該技術分野の当業者により一般に理解されるものと同一の意味を有する。単数用語「1つの(a)」、「1つの(an)」および「その(the)」は、明らかに別記しない限り、複数の指示物を含む。同様に、「または」という単語は、明らかに別記しない限り、「および」を含むよう意図される。「〜から成る(comprising)」は、「〜を含む(including)」を意味する;それゆえ、「AまたはBから成る」は、「Aを含む」かまたは「Bを含む」かまたは「AおよびBを含む」。
【0033】
開示された本発明の実施形態の実行および/または試験のための適切な方法および材料は、以下に記載される。このような方法および材料は、単に例示であって、限定するものではない。本明細書中に記載されるものと類似のまたは等価のその他の方法および材料も、用いられ得る。例えば、開示された発明が関連する当該技術分野でよく知られた慣用的方法は、種々の一般的な、そしてより具体的な参考文献、例えばSambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2d ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989;Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 3d ed., Cold Spring Harbor Press, 2001;Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publishing Associates, 1992 (and Supplements to 2000);Ausubel et al., Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology, 4th ed., Wiley & Sons, 1999;Harlow and Lane, Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring HarborLaboratory Press, 1990;およびHarlow and Lane, Using Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring HarborLaboratory Press, 1999に記載されている。
【0034】
本明細書中で参照されるGenBank(登録商標)寄託番号に関連した配列はすべて、参照により本明細書中で援用される(例えば、2008年9月15日に存在する配列は、参照により本明細書中で援用される)。
II.前立腺癌バイオマーカー
【0035】
その発現が、当該疾患に罹患した被験者における前立腺癌を特徴づける遺伝子(例えば、表8参照)が、本明細書中で開示される。この発見を具体化する方法および組成物が記載される。
A.使用方法
【0036】
本開示は、再発対非再発前立腺癌において示差的に発現される多数の遺伝子を同定する。治療(例えば、前立腺切除)後の前立腺癌の再発は、より攻撃的な癌、患者に関するより悪い予後、疾患進行の見込み増大、治療の失敗(または不適切な治療)、および/または代替的(または付加的)治療の必要性を(少なくとも)示す。したがって、本発明の発見は、特に、前立腺癌組織を特徴づけるための、前立腺癌患者の診断または予後のための、前立腺癌患者における治療結果を予測するための、そして前立腺癌患者のための治療様式を指図する(例えば有用な治療様式を選択する)ための種々の方法を可能にする。
【0037】
開示される方法は、前立腺癌を有する任意の被験者から得られる生物学的試料を用いて実施され得る。典型的被験者は、ヒト男性である;しかしながら、癌を発症し得る前立腺を有する任意の哺乳類は、開示される方法に有用な生物学的試料の供給源として役立ち得る。開示される方法に有用な例示的生物学的試料としては、組織試料(例えば、前立腺生検および/または前立腺切除組織)または前立腺細胞試料(例えば、前立腺マッサージにより、尿中で、または微細針吸引液中で収集され得る)が挙げられる。試料は、新鮮であるか、または収集後加工処理され得る(例えば、目的達成のため)。いくつかの例では、加工処理された試料は固定され(例えばホルマリン固定され)、および/または蝋−(例えばパラフィン−)包埋され得る。封入細胞および組織調製物のための固定液は当該技術分野でよく知られており、例としては、95%アルコール性ブワン固定液;95%アルコール固定液;B5固定液、ブワン固定液、ホルマリン固定液、カルノフスキー固定液(グルタルアルデヒド)、ハートマン固定液、ホランド固定液、オルト溶液(重クロム酸塩固定液)およびツェンカー固定液が挙げられるが、これらに限定されない(例えばCarson, Histotechology: A Self-Instructional Text, Chicago: ASCP Press, 1997参照)。特定の方法実施形態は、FFPE前立腺癌組織試料を包含する。いくつかの例では、試料(またはその分画)は、固体支持体上に存在する。開示される方法で有用な固体支持体は、生物学的試料に耐えることのみを必要とし、そして任意に、しかし有益には、試料中の構成成分(例えば、タンパク質および/または核酸配列)の便利な検出を可能にする。例示的支持体としては、顕微鏡スライド(例えば、ガラス製顕微鏡スライドまたはプラスチック製顕微鏡スライド)、カバースリップ(例えば、ガラス製カバースリップまたはプラスチック製カバースリップ)、組織培養皿、多ウエルプレート、膜(例えば、ニトロセルロースまたはフッ化ポリビニリデン(PVDF))またはBIACORE(商標)チップが挙げられる。
【0038】
例示的方法は、表8に開示された遺伝子のうちの1つまたは複数の発現レベルを、被験者からの前立腺組織標本中で確定することを包含する。開示される方法において有用な遺伝子(単数または複数)は、表8中の任意の個々の遺伝子(例えばGAS1、WNT5AまたはTK1)、あるいは表8中の2つまたはそれより多くの遺伝子の任意の組合せ(例えば、表8中の遺伝子のうちの任意の2、3、4、5、6、7、8、9、10、12、15、20、25または33すべて、あるいは表8中の遺伝子のうちの少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも8、少なくとも9、少なくとも10、少なくとも12、少なくとも15、少なくとも20または少なくとも25)を包含する(またはそれらからなる)。特定の実施形態では、表8中のものから選択される遺伝子の組合せとしては、GAS1、WNT5A、TK1、GAS1とWNT5A、GAS1とTK1、WNT5AとTK1、またはGAS1、WNT5AとTK1が挙げられる。さらに特定の実施形態では、開示される方法に有用な遺伝子は、任意の組合せでのGAS1、WNT5AおよびTK1のうちの2つまたはそれより多くからなる(例えば、GAS1とWNT5A、GAS1とTK1、WNT5AとTK1、またはGAS1、WNT5AとTK1)。他の方法実施形態における当該遺伝子は、GAS1、WNT5A、TK1、E2F5またはMSH2、あるいはその任意の組合せを含む(またはそれらからなる)。
【0039】
例示的方法では、標準値または対照試料と比較した場合、WNT5Aおよび/またはTK1の発現は増大され、および/またはGAS1の発現は低減される。他の方法では、表8中の別の遺伝子(すなわち、WNT5A、TK1またはGAS1以外の遺伝子、例えばE2F5および/またはMSH2)の発現は、増大される。いくつかのこのような方法において、WNT5Aおよび/またはTK1(および/または表8中の別の遺伝子、例えばE2F5および/またはMSH2)の相対的に増大された発現、および/またはGAS1の相対的に低減された発現は、例えば、被験者における前立腺癌進行のより高い見込み、前立腺癌が手術(前立腺切除)後に再発するという見込みの増大、試料が収集される患者に関する不十分な予後、および/または外科的処置(例えば、前立腺切除)が失敗するというより高い見込み、そして前立腺癌のための非外科手術的または代替的処置の必要性増大を示す。
【0040】
いくつかの方法では、1つまたは複数の当該遺伝子(例えば、WNT5A、TK1およびGAS1)の発現が、標準値または対照試料と比較して測定される。標準値としては、正常前立腺における1つまたは複数の当該遺伝子の平均発現(例えば前立腺癌試料における遺伝子の発現値と類似の方法で算定される)、前立腺癌が術後に再発しなかったことが知られている患者または患者集団から得られる前立腺試料における1つまたは複数の当該遺伝子の平均発現、あるいは前立腺癌が術後に再発したことが知られている患者または患者集団から得られる前立腺試料中の1つまたは複数の当該遺伝子の平均発現が挙げられるが、これらに限定されない。対照試料としては、例えば、正常前立腺組織または細胞、前立腺癌が術後に再発しなかったことが知られている患者または患者集団から収集される前立腺組織または細胞、前立腺癌が術後に再発したことが知られている患者または患者集団から収集される前立腺組織または細胞、被験者または無前立腺疾患個体から収集されるリンパ球、および/または被験者または無前立腺疾患個体の頬スワブにより収集される細胞が挙げられ得る。
【0041】
他の方法では、当該遺伝子(単数または複数)の発現は、各試料中のハウスキーピング遺伝子(例えばGAPDH(グリセルアルデヒド3−ホスフェートデヒドロゲナーゼ)、SDHA(スクシネートデヒドロゲナーゼ)、HPRT1(ヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ1)、HBS1L(HBS1様タンパク質)、β−アクチンおよびAHSP(アルファヘモグロビン安定化タンパク質)のうちの1つまたは複数)に関して得られる値に比して、試験試料(すなわち、前立腺癌患者試料)および対照試料において測定されて、正規化試験および対照値を生じて;次に、試験試料の正規化値が対照試料の正規化値と比較されて、当該遺伝子(単数または複数)の相対的発現(例えば、発現増大または低減)を得る。
【0042】
遺伝子発現における増大または低減は、例えば試験試料中の特定遺伝子発現産物(例えば転写物(例えばmRNA)またはタンパク質)の発現が、適用可能な対照(例えば標準値または対照試料)の、それぞれ、少なくとも約1%、少なくとも約2%、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約50%、少なくとも約75%、少なくとも約100%、少なくとも約150%、または少なくとも約200%高いかまたは低い、ということを意味し得る。代替的には、相対的発現(すなわち、増大または低減)は、倍数による差に関してであり得る;例えば、試験試料中の特定遺伝子発現産物(例えば転写物(例えばmRNA)またはタンパク質)の発現は、適用可能な対照(例えば標準値または対照試料)の、それぞれ、少なくとも約2倍、少なくとも約3倍、少なくとも約4倍、少なくとも約5倍、少なくとも約8倍、少なくとも約10倍、少なくとも約20倍、少なくとも約50倍、少なくとも約100倍、少なくとも約200倍高いかまたは低い。
【0043】
免疫組織化学により確定されるようなタンパク質発現が遺伝子発現の測定として用いられるいくつかの方法実施形態では、タンパク質発現のスコアリングは半定量的であり得る;例えば、タンパク質発現レベルは、0、1、2または3(例えば、いくつかの場合、各レベルでのプラス(またはマイナス)値、例えば1+、2+、3+)として記録され、0は検出可能なタンパク質発現が実質的になく、そして3(3+)は最高検出タンパク質発現である。このような方法では、対応する遺伝子発現における増大または低減は、適用可能な対照(例えば、標準値または対照試料)と比較した場合のスコアの差として測定される;すなわち、対照に関するスコア0と比較した場合の試験試料における3+のスコアは試験試料における遺伝子発現増大を表し、そして対照に関する3+のスコアと比較した場合の試験試料における0というスコアは試験試料における遺伝子発現低減を表わす。
【0044】
例示的方法は、前立腺癌再発の見込みを予測する。再発は、前立腺癌が初期(またはその後の)治療(単数または複数)後に再発したことを意味する。代表的初期治療としては、放射線治療、化学療法、抗ホルモン治療、および/または外科手術(例えば前立腺切除術)が挙げられる。典型的には、初期前立腺癌治療後、血中PSAレベルは安定且つ低レベルに低減し、いくつかの場合には、最終的にほとんど検出可能でなくなる。いくつかの例では、前立腺癌の再発は、PSAレベルを上げる(例えば、2.0〜2.5ng/mL以上)ことにより、および/または血液、前立腺生検または吸引液中の、リンパ節における(例えば骨盤または他の場所における)、あるいは転移部位(例えば、排尿の制御を手助けする筋肉、直腸、骨盤の壁、骨または他の器官)での前立腺癌細胞の同定により、示される。血清PSAレベルは、以下のように特徴づけられ得る(以下の範囲の多少の変動は当該技術分野では普通である):
【0045】
【表1】

【0046】
その他の例示的方法は、前立腺癌進行の見込みを予測する。前立腺癌進行は、前立腺癌の1つまたは複数の指標(例えば血清PSAレベル)が、疾患が治療とは無関係に進んでいることを示す、ということを意味する。いくつかの例では、前立腺癌進行は、PSAレベルを上げる(例えば、2.0〜2.5ng/mL以上)ことにより、および/または血液、前立腺生検または吸引液中の、リンパ節における(例えば骨盤または他の場所における)、あるいは転移部位(例えば、排尿の制御を手助けする筋肉、直腸、骨盤の壁、骨または他の器官)での前立腺癌細胞(またはその数の増大)の同定により、示される。
【0047】
前立腺癌進行または前立腺癌再発の見込み増大は、任意の既知の計量により定量され得る。例えば、見込み増大は、少なくとも10%の発生機会(例えば、少なくとも25%の機会、少なくとも50%の発生機会、少なくとも60%の発生機会、少なくとも75%の発生機会または80%以上でさえある発生機会)を意味する。
【0048】
いくつかの方法実施形態は、前立腺癌予後のために有用である。予後は、疾患の考え得る結果(典型的には治療とは無関係)である。本明細書中に開示される遺伝子シグネチャー(単数または複数)は、前立腺癌再発のかなり前に収集された試料におけるこのような再発を予測する。それゆえ、このような遺伝子シグネチャーは癌の攻撃性の代用であり、再発中の癌はさらに攻撃的である。不良な(またはより不良な)予後は、より攻撃的な癌を有する被験者に関してありそうに思われる。いくつかの方法実施形態では、予後不良は、新生物性疾患の初期診断後の患者の生存は5年未満(例えば、1年未満生存または2年未満生存)である。いくつかの方法実施形態では、良好な予後は、新生物疾患の初期診断後の患者の2年より長い生存(例えば3年より長い生存、5年より長い生存または7年より長い生存)である。
【0049】
さらに他の方法実施形態は、前立腺癌患者における治療結果を予測し、前立腺癌患者のための治療様式を指図する(例えば、有用な治療様式を選択する)ために有用である。本明細書中の他の箇所で考察されるように、開示される遺伝子の発現は、前立腺癌治療(例えば前立腺切除)が失敗すると思われる(例えば、疾患が再発する)、ということを予測する。それゆえ、開示される遺伝子シグネチャー(単数または複数)は、治療(例えば前立腺切除)の考え得る成功に関して前立腺患者に助言するために介護者により用いられ得る。特定の被験者の病歴の状況で考察すると、患者および介護者は、治療(例えば外科手術、例えば前立腺切除術を実施)するか否か、および/または代替的治療(例えば外部照射放射線療法、近接照射療法、化学療法、または監視的待機)を提供するか否かについての良好に知らされた決定をなし得る。
【0050】
1.遺伝子発現レベルの確定(例えば、遺伝子発現プロファイリング)
遺伝子発現レベルは、当該技術分野で知られた任意の技法を用いて、開示される方法で確定され得る。例示的技法としては、例えば、ポリヌクレオチド(例えば、ゲノム核酸配列および/または転写物(例えば、mRNA))のハイブリダイゼーション解析に基づいた方法、ポリヌクレオチドのシーケンシングに基づいた方法、タンパク質の検出に基づいた方法(例えば、免疫組織化学およびプロテオミクス・ベースの方法)が挙げられる。
【0051】
前記のように、遺伝子発現レベルは、ゲノムにおける変更(例えば、遺伝子増幅、遺伝子欠失、あるいはその他の染色体再構成または染色体重複(多染色体性)あるいは1つまたは複数の染色体の損失)により影響を及ぼされ得る。したがって、いくつかの実施形態では、遺伝子発現レベルはこのようなゲノム変更を検出することにより推測されるかまたは確定され得る。当該遺伝子を保有するゲノム配列は、例えば遺伝子特異的ゲノムプローブと細胞核中に広げられた中期のまたは核中に存在するような染色体とのin situハイブリダイゼーションにより定量され得る。遺伝子特異的ゲノムプローブの作製は、当該技術分野でよく知られている(例えば米国特許第5447841号、第5756696号、第6872817号、第6596479号、第6500612号、第6607877号、第6344315号、第6475720号、第6132961号、第7115709号、第6280929号、第5491224号、第5663319号、第5776688号、第5663319号、第5776688号、第6277569号、第6569626号、米国特許出願第11/849,060号およびPCT出願PCT/US07/77444号参照)。いくつかの例示的方法では、遺伝子増幅または欠失の定量化は、遺伝子特異的ゲノムプローブに関する結合部位の数を対照ゲノムプローブ(例えば、当該遺伝子が位置する染色体の動原体に特異的なゲノムプローブ)と比較することにより、促進され得る。いくつかの例では、遺伝子増幅または欠失は、遺伝子特異的ゲノムプローブ対対照(例えば動原体)プローブの比により確定され得る。例えば、2より大きい(例えば、3より大きい、4より大きい、5より大きい、あるいは10またはそれ以上の)比は、遺伝子特異的プローブが結合する遺伝子(または染色体領域)の増幅を示す。別の例では、1未満の比は、遺伝子特異的プローブが結合する遺伝子(または染色体領域)の欠失を示す。特定の方法実施形態では、遺伝子増幅または欠失は、遺伝子の発現産物(例えば、mRNAまたはタンパク質)における、それぞれ、対応する増大または低減により成し遂げられるのが有益であり得る;しかしながら、一旦相関関係が確立されると、連続同時検出は必要でない(そして不必要な資源および時間を浪費し得る)。
【0052】
遺伝子発現レベルは、遺伝子転写物(例えば、mRNA)の定量化によっても確定され得る。試料中のmRNA発現の定量化のために当該技術分野で知られている一般的に用いられる方法としては、ノーザンブロッティングおよびin situハイブリダイゼーション(例えば、Parker and Barnes, Meth. Mol. Biol., 106: 247-283, 1999);RNAアーゼ保護検定(例えば、Hod, Biotechniques, 13: 852-854, 1992);ならびにPCRベースの方法、例えば逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)(Weis et al., Trends in Genetics, 8: 263-264, 1992)および実時間定量的PCR(qRT−PCRとも呼ばれる))が挙げられるが、これらに限定されない。代替的には、特定の二重鎖、例えばDNA二重鎖、RNA二重鎖およびDNA−RNAハイブリッド二重鎖またはDNA−タンパク質二重鎖を認識し得る抗体が用いられ得る。シーケンシングベースの遺伝子発現解析のための代表的方法としては、網羅的遺伝子発現解析(SAGE)、ならびに大規模並列処理特徴配列決定(MPSS)による遺伝子発現解析が挙げられる。
【0053】
mRNAレベルの確定を包含するいくつかの方法実施形態は、標的試料、例えば前立腺癌組織試料から単離されるRNA(例えば、総RNA)を利用する。RNA(例えば、総RNA)単離のための一般的方法は当該技術分野でよく知られており、分子生物学の標準テキスト、例えばAusubel et al., Current Protocols of Molecular Biology, John Wiley and Sons (1997)に開示されている。パラフィン包埋組織からのRNA抽出のための方法は、本明細書中の実施例に、そして例えばRupp and Locker (Lab. Invest., 56: A67, 1987)およびDeAndres et al. (Bio Techniques, 18: 42044, 1995)により開示されている。特定の例では、RNA単離は、メーカーの使用説明書に従って、製造業者、例えばQiagenから入手される精製キット、緩衝液セットおよびプロテアーゼを用いて実施され得る。他の市販RNA単離キットとしては、MASTERPURE(商標)完全DNAおよびRNA精製キット(EPICENTRE(商標) Biotechnologies)およびパラフィンブロックRNA単離キット(Ambion, Inc.)が挙げられる。
【0054】
MassARRAY(商標)遺伝子発現プロファイリング方法(Sequenom, Inc.)では、総RNAの逆転写から得られるcDNAは、単一塩基を除いてすべての位置における標的化cDNA領域を整合し、内部標準として役立つ合成DNA分子(競合体)でスパイクされる。cDNA/競合体混合物は、標準PCRにより増幅され、後PCRエビアルカリ性ホスファターゼ(SAP)酵素処理に付され、これが残存ヌクレオチドの脱リン酸化を生じる。アルカリ性ホスファターゼの不活性化後、競合体およびcDNAからのPCR産物はプライマー伸長に付され、これが、競合体−およびcDNA−由来PCR産物に関する別個の大量シグナルを生じる。精製後、これらの生成物は、マトリックス支援レーザ脱離イオン化飛行時間型(MALDI−TOF)質量分光分析による分析に必要な構成成分を前負荷されるチップアレイ上に分配される。反応に存在するcDNAは次に、発生された質量スペクトルにおけるピーク領域の比を分析することにより、定量される。さらなる詳細に関しては、例えばDing and Cantor, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 100: 3059-3064, 2003を参照されたい。
【0055】
PCRを包含するmRNA発現を確定するための他の方法としては、例えば、示差的表示(Liang and Pardee, Science, 257: 967-971, 1992);増幅断片長多形性(Kawamoto et al., Genome Res., 12: 1305-1312, 1999);BEADARRAY(商標)技法(Illumina, San Diego, CA, USA; Oliphant et al., Discovery of Markers for Disease (Supplement to Biotechniques), June 2002; Ferguson et al., Anal. Chem., 72: 5618, 2000;および本明細書中の実施例);XMAP(商標)技法(Luminex Corp., Austin, TX, USA);BADGE検定(Yang et al., Genome Res., 11: 1888-1898, 2001);ならびに包括的遺伝子発現プロファイリング(HiCEP)解析(Fukumura et al., Nucl. Acids. Res., 31(16):e94, 2003)が挙げられる。
【0056】
示差的遺伝子発現は、マイクロアレイ技法を用いても確定され得る。これらの方法では、特定結合相手、例えば、当該RNAに特異的なプローブ(例えばcDNAまたはオリゴヌクレオチド)、または当該タンパク質に特異的な抗体は、マイクロチップ基板上でプレート化されるかまたは配置される。マイクロアレイは、マイクロアレイ上の特定の結合相手のうちの1つまたは複数に関して、1つまたは複数の標的(例えば、mRNAまたはタンパク質)を含有する試料と接触される。配置された特異的結合相手は、当該試料中のそれらの同族標的と特異的な検出可能な相互作用を形成する(例えばハイブリダイズされるかまたは特異的に結合する)。
【0057】
網羅的遺伝子発現解析(SAGE)は、各転写物のための個々のハイブリダイゼーションプローブの提供を必要とせずに、多数の遺伝子転写物の同時的且つ定量的解析を可能にする。SAGE法では、転写物を一意に同定するのに十分な情報を含有する短い配列タグ(約10〜14bp)が生成されるが、但し、タグは各転写物内の一意の位置から得られる。次に、多数の転写物は一緒に連結されて、長い連続分子を形成し、これはシーケンシングされて、多数のタグの同一性を同時的に明示する。転写物の任意の集団の発現パターンは、個々のタグの存在度を確定し、各タグに対応する遺伝子を同定することにより定量され得る(例えばVelculescu et al., Science, 270:484-487, 1995およびVelculescu et al., Cell, 88: 243-51, 1997参照)。
【0058】
大規模並列処理特徴配列決定(MPSS)による遺伝子発現解析は、Brenner等(Nature Biotechnology, 18: 630-634, 2000)により最初に記載された。それは、非ゲルベースのシグネチャー・シーケンシングを、別個の直径5μmのマイクロビーズ上の多数の鋳型のin vitroクローニングと組合せるシーケンシングアプローチである。DNA鋳型のマイクロビーズライブラリーは、in vitroクローニングにより構築される。この結果、高密度でのフローセル中の鋳型含有マイクロビーズの平面アレイのアセンブリーが生じる。各マイクロビーズ上のクローン化鋳型の自由末端は、DNA断片分離を必要としない蛍光ベースのシグネチャー・シーケンシング法を用いて同時的に分析される。
【0059】
いくつかの例では、示差的遺伝子発現は、in situハイブリダイゼーション技法、例えば蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)または色原体in situハイブリダイゼーション(CISH)を用いて確定される。これらの方法では、特定の結合相手、例えば標的cDNAまたはmRNA(例えば、GAS1、TK1またはWNT5A DNAまたはmRNA分子)に特異的な蛍光体または色原体で標識されるプローブは、試料、例えば支持体(例えば、スライドガラス)上に封入される前立腺癌試料と接触される。特定の結合相手は、試料中のそれらの同族標的と特定の検出可能な相互作用を形成する(例えば、それらとハイブリダイズする)。例えば、プローブと標的核酸との間のハイブリダイゼーションは、例えばプローブと会合された標識を検出することにより検出され得る。いくつかの例では、顕微鏡検査、例えば蛍光顕微鏡検査が用いられる。
【0060】
免疫組織化学(IHC)は、開示された方法においてタンパク質発現産物を検出するための有用な例示的一技法である。各タンパク質発現マーカーに特異的な抗体(例えば、モノクローナルおよび/またはポリクローナル抗体)は、発現を検出するために用いられる。抗体は、放射性標識、蛍光標識、ハプテン標識、例えばビオチン、あるいは酵素、例えばホースラディッシュペルオキシダーゼまたはアルカリ性ホスファターゼを用いて抗体それ自体を直接標識することにより、検出され得る。代替的には、非標識化一次抗体は、一次抗体に特異的な標識化二次抗体(抗血清、ポリクローナル抗血清またはモノクローナル抗体を包含する)と協力して用いられる。IHCプロトコールおよびキットは当該技術分野でよく知られており、市販されている。
【0061】
プロテオーム解析は、開示された方法においてタンパク質発現産物を検出するために有用な別の例示的技法である。「プロテオーム」という用語は、ある時点で試料(例えば、組織、生物体または細胞培養)中に存在するタンパク質の総量として定義される。プロテオミクスは、特に、試料中のタンパク質発現の全体的変化についての研究を包含する(「発現プロテオミクス」とも呼ばれる)。例示的プロテオミクス検定は、(i)例えば2−Dゲル電気泳動による試料中の個々のタンパク質の分離;(ii)例えば、質量分光分析またはN末端シーケンシングによるゲルから回収される個々のタンパク質の同定;ならびに(iii)データの解析を包含する。
【0062】
B.例示的前立腺癌バイオマーカー
1.増殖停止特異的1(GAS1)
ヒト増殖停止特異的1(GAS1)遺伝子は、遺伝子地図遺伝子座9q21.3−q22.1で第9染色体上に位置し、45kDaのグリコホスファチジルイノシトール(GPI)結合タンパク質をコードする。例示的GAS1配列は、例えばGenBank(登録商標)から公的に利用可能である(例えば、寄託番号NP_002039.2およびAAH55747.1(タンパク質)およびBC132682.1およびNM_008086.1(cDNA))。GAS1タンパク質(例えば配列番号2参照)は、推定腫瘍サプレッサーである。それは、増殖抑制に一役を果たす(Del Sal et al., Cell, 70: 595-607, 1992)。特に、GAS1は、S期に入ることを遮断し、正常および形質転換細胞の周期循環を阻止する。GAS1は、GDNFα受容体に関連し、Retシグナル伝達を調節する(Cabrera et al., J. Biol. Chem., 281(20): 14330-9, 2006)。
【0063】
Del Sal等(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 91: 1848-1852, 1994)は、ヒトGAS1 cDNAをクローン化した(例えば配列番号1参照)。誘導345−アミノ酸タンパク質は、2つの推定膜貫通ドメイン、RGDコンセンサス認識配列、および1つの潜在的N−グリコシル化部位を含有した。Stebel等(FEBS Lett., 481: 152-8, 2000)は、GAS1タンパク質が同時翻訳修飾、例えばシグナルペプチド切断、N結合型グリコシル化、およびグリコシルホスファチジルイノシトール・アンカー付加を受ける、ということを実証した。
【0064】
Del Sal等(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 91: 1848-1852, 1994)は、ヒトGAS1遺伝子の過剰発現が、肺および膀胱癌細胞株における細胞増殖を遮断するが、しかし骨肉種細胞株ではまたはアデノウイルス5型形質転換細胞株では遮断しない、ということを実証した。Del Sal等(Cell, 70: 595-607, 1992)は、SV40形質転換NIH 3T3細胞もネズミGAS1過剰発現に不応性である、ということを以前に示したが、これは、細胞芽細胞腫および/またはp53遺伝子産物がGAS1の増殖抑制作用を媒介するのに能動的な役割を有する、ということを示唆する。MartinelliとFan(Genes Dev., 21: 1231-1243, 2007)は、GAS1が、マウスおよびニワトリを発生するに際してヘッジホッグ・シグナル伝達(ヘッジホッグが低濃度で作用する領域で特に注目に値する効果)を積極的に調節する、ということを見出した。
【0065】
Seppala等(J. Clin. Invest., 117: 1575-1584, 2007)は、GAS1-/-マウスを生成し、ミクロフォーム全前脳胞症、例えば顔面中央形成不全、顎骨前方切歯融合、および口蓋裂を、重症耳欠陥のほかに観察した;しかしながら、前脳は総じて無傷のままであった。これらの欠陥は、転写源から離れた細胞におけるShhシグナル伝達の欠損に関連づけられた。
【0066】
2.ウイングレス型MMMTV組込み部位ファミリー成員5A(WNT5A)
ヒトWNT5A遺伝子は、遺伝子地図遺伝子座3p21−p14で第3染色体上に位置する。Wnt遺伝子は、ショウジョウバエからヒトまでの範囲の種において発現される少なくとも13の既知の成員を有する癌原遺伝子の一ファミリーに属する。Wntは、発生様式、細胞増殖、分化、細胞極性および形態形成運動における役割を含めた多様な生物学的機能を調節する脂質修飾分泌糖タンパク質である(Logan and Nusse, Annu. Rev. Cell. Dev. Biol. 20: 781-810, 2004)。Wntファミリー遺伝子の転写は、精確な時間的および空間的方式で、発生的に調節されると思われる。
【0067】
Gavin等(Genes Dev., 4: 2319-2332, 1990)は、マウスにおける、WNT5Aを含めた、Wnt遺伝子ファミリーの6つの新規の成員を同定した。Wnt遺伝子は、38〜43kDの富Cys推定糖タンパク質をコードするが、これらは、分泌増殖因子に典型的な特徴を有する(例えば、相対的間隔が保持される疎水性シグナル配列および21の保存システイン残基)(例えば配列番号4参照)。
【0068】
Clark等(Genomics, 18: 249-260, 1993)は、ヒトWnt5A cDNAをクローン化した(例えば配列番号3参照)。他の例示的WNT5A配列は、例えばGenBank(登録商標)から公的に利用可能である(例えば、寄託番号AAH74783.2およびAAV69750.1(タンパク質)およびNM_003392.3およびNM_009524.2(cDNA))。He等(Science, 275: 1652-1654, 1997)は、ヒト・フリズルド−5がWNT5Aのための受容体である、ということを示した。Wntリガンドはフリズルドファミリーの受容体を利用し、シグナル伝達は通常は2つの経路に分けられる:すなわち、β−カテニンを介して作用する「正準経路」と、Ca2+およびに平面極性経路を介して作用する「非正準経路」である(Veeman et al., Dev. Cell 5: 367-77, 2003)。WNT5Aタンパク質は、ヒストンメチル化を実行することにより転写に影響を及ぼし、細胞移動を増大し、細胞極性に影響を及ぼし、内皮増殖を誘導し、ある種のメタロプロテイナーゼの発現を増大することが示されている。
【0069】
3.可溶性チミジンキナーゼ(TK1)
ヒトTK1遺伝子は、遺伝子地図遺伝子座17q25.2−q25.3で第17染色体上に位置する。例示的cDNAおよびタンパク質配列に関しては、それぞれ、配列番号5および6を参照されたい。他の例示的TK1配列は、例えばGenBank(登録商標)から公的に利用可能である(例えば、寄託番号NP_003249.3およびNP_033413.1(タンパク質)ならびにAB451268.1およびNM_052800.1(cDNA))。
【0070】
チミジンキナーゼ(EC2.7.1.21)は、チミジンのデオキシチミジン一リン酸へのリン酸化を触媒する。Lin等(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 80: 6528-6532, 1983)は、TK1遺伝子をクローン化し、その最大サイズを14kb、その最小サイズを4〜5kbであると概算した。遺伝子は、多数の非コード挿入物および多数のAlu配列を含有する。SherleyとKelly(J. Biol. Chem., 263: 375-382, 1988)は、HeLa細胞から酵素を精製し、特性化した。TK遺伝子の5’フランキング領域で、Sauve等(DNA Sequence, 1: 13-23, 1990)は、トランス作用性因子のための結合部位として作用し得るヌクレオチド配列、ならびに潜在的シス作用性配列の位置を突き止めた。後者は、ヒト増殖細胞核抗原(PCNA)遺伝子のプロモーターのものと比較された。TKおよびPCNAはともに、細胞周期のG1/S境界で最大に発現される。
【0071】
4.変異体配列
本明細書中で提供される具体的な配列、そして一般に公的に利用可能である配列のほかに、このような配列の変異体が特定被験者において存在し得る、と当業者は理解する。例えば、特定の遺伝子またはタンパク質に関する多形性が存在し得る。さらに、配列は異なる生物体間で変わり得る。特定の例では、変異体配列は、その対応するネイティブ配列の生物学的活性を保持する。例えば、特定被験者に存在する配列(例えば、表8に列挙されたWNT5A、TK1またはGAS1配列、あるいは任意のその他の遺伝子/タンパク質)は、保存的アミノ酸変化(例えば、極高度に保存された置換、高度保存置換または保存置換)、例えば1〜5または1〜10の保存的アミノ酸置換を有し得る。保存的アミノ酸置換の例を、表1に示す。
【0072】
【表2】

【0073】
いくつかの実施形態では、WNT5A、TK1またはGAS1配列は、それぞれネイティブWNT5A、TK1またはGAS1配列の配列変異体、例えば配列番号1〜6で記述される配列と少なくとも99%、少なくとも98%、少なくとも95%、少なくとも92%、少なくとも90%、少なくとも85%、少なくとも80%、少なくとも75%、少なくとも70%、少なくとも65%、または少なくとも60%の配列同一性(または本明細書中で言及されるGenBank(登録商標)寄託番号とのこのような量の配列同一性)を有する核酸またはタンパク質配列であって、この場合、結果的に生じる変異体はWNT5A、TK1またはGAS1生物学的活性を保持する。「配列同一性」は、2つのアミノ酸配列間(または2つの核酸配列間)の類似性を記述するために一般に用いられる語句である。配列同一性は、典型的には、同一性百分率に換算して表される:百分率が高いほど、2つの配列の類似性は大きい。
【0074】
特定の例では、表8に列挙された遺伝子またはタンパク質の配列変異体は、ネイティブ配列と比較して1つまたは複数の保存的アミノ酸置換を有するか、あるいはネイティブ配列との特定百分率の配列同一性(例えば、少なくとも99%、少なくとも98%、少なくとも95%、少なくとも92%、少なくとも90%、少なくとも85%、少なくとも80%、少なくとも75%、少なくとも70%、少なくとも65%、または少なくとも60%の配列同一性)を有する。特定の例では、このような変異体は、ネイティブタンパク質または核酸分子の有意量の生物学的活性を保持する。
【0075】
比較のために配列を整列させるための、および配列同一性を確定するための方法は、当該技術分野でよく知られている。種々のプログラムおよびアラインメント・アルゴリズムは、以下の:Smith and Waterman, Adv. Appl. Math., 2: 482, 1981;Needleman and Wunsch, J. Mol. Biol., 48: 443, 1970;Pearson and Lipman, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85: 2444, 1988;Higgins and Sharp, Gene, 73: 237-244, 1988;Higgins and Sharp, CABIOS, 5: 151-153, 1989;Corpet et al., Nucleic Acids Research, 16: 10881-10890, 1988;Huang, et al., Computer Applications in the Biosciences, 8: 155-165, 1992;Pearson et al., Methods in Molecular Biology, 24: 307-331, 1994;Tatiana et al., FEMS Microbiol. Lett., 174: 247-250, 1999に記載されている。Altschul等は、配列−アラインメント方法および相同性算定についての詳細な考察も提示している(J. Mol. Biol., 215: 403-410, 1990)。
【0076】
米国立生物工学情報センター(NCBI)基本ローカル配列検索ツール(BLAST(商標)、Altschul et al., J. Mol. Biol., 215: 403-410, 1990)は、配列解析プログラムblastp、blastn、blastx、tblastnおよびtblastxと結びつけて用いるために、国立生物工学情報センター(NCBI, Bethesda, MD)を含めたいくつかの情報源から、ならびにインターネット上で、公的に入手可能である。このプログラムを用いて配列同一性を確定するための方法の説明は、BLAST(商標)に関するヘルプ・セクション下でインターネット上で利用可能である。
【0077】
約15アミノ酸より大きいアミノ酸配列の比較のために、デフォルトBLOSUM62マトリックス組を使用するBLAST(商標)(Blastp)プログラムの「Blast2配列」機能が用いられて、パラメーターをデフォルトする(ギャップ開始コスト[デフォルト=5];ギャップ継続コスト[デフォルト=2];塩基不一致ペナルティ値[デフォルト=3];塩基一致スコア値[デフォルト=1];出現期待値(E)[デフォルト=10.0];ワードサイズ[デフォルト=3];および候補配列の最大表示数(V)[デフォルト=100])。短いペプチド(約15アミノ酸より小さい)を整列する場合、アラインメントは、組成物ベースの統計学を用いて、パラメーターをデフォルトする(予測閾値=20000、ワードサイズ=2、ギャップコスト:存在=9および拡張=1)ためのPAM30マトリックス組を使用するBlast2配列機能「短い塩基のほぼ完全一致に関する検索」を用いて実施されるべきである。
【0078】
C.組成物
その発現が当該疾患に悩む被験者における前立腺癌を特徴づける遺伝子(例えば表8参照)が、本明細書中で開示される。したがって、生物学的試料中のこのような遺伝子の検出を促す組成物が、ここで可能にされる。
1.キット
【0079】
開示された方法の実行を促すために有用なキットも意図される。一実施形態では、表8に開示された遺伝子のうちの1つまたは複数(例えば、表8に開示された遺伝子のうちの少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも5つ、少なくとも7つまたは少なくとも10)を検出するためのキットが提供される。具体的一例では、例えば1〜10(例えば1、2、3、4または5)のハウスキーピング遺伝子またはタンパク質(例えばβ−アクチン、GAPDH、SDHA、HPRT1、HBS1LおよびAHSP)と組合せて、少なくともWNT5A、TK1およびGAS1核酸またはタンパク質分子を検出するためのキットが提供される。さらに他の具体例では、WNT5A、TK1およびGAS1核酸またはタンパク質分子のみを検出するためのキットが提供される。検出手段は、遺伝子および/または遺伝子発現産物、例えばmRNAまたはタンパク質を伴うゲノム変更を検出するための手段を包含し得る。特定の例では、表8に列挙された遺伝子またはタンパク質のうちの1つまたは複数を検出するための手段(例えば、少なくともWNT5A、TK1およびGAS1を検出するための手段)は、別個の容器またはバイアル中に包装される。いくつかの例では、表8に列挙された遺伝子またはタンパク質のうちの1つまたは複数を検出するための手段(例えば、少なくともWNT5A、TK1およびGAS1を検出するための手段)は、アレイ上に存在する(以下で考察)。
【0080】
例示的キットとしては、開示遺伝子または遺伝子産物のうちの1つまたは複数の検出のための少なくとも1つの手段(少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4または少なくとも5つの検出手段)、例えば、少なくともWNT5A、TK1およびGAS1の検出を可能にする手段が挙げられる。いくつかの例では、このようなキットはさらに、1つまたは複数(例えば1〜3つ)のハウスキーピング遺伝子またはタンパク質の検出のための少なくとも1つの手段を包含し得る。検出手段としては、開示される遺伝子を含めたゲノム配列に特異的な核酸プローブ、開示遺伝子によりコードされる転写物(例えばmRNA)に特異的な核酸プローブ、開示遺伝子の特異的増幅のための一対のプライマー(例えばこのような遺伝子のゲノム配列またはcDNA配列)、開示遺伝子によりコードされるタンパク質に特異的な抗体または抗体断片が挙げられるが、これらに限定されない。特定のキット実施形態としては、例えば、WNT5A転写物に特異的な核酸プローブ、TK1転写物に特異的な核酸プローブ、GAS1転写物に特異的な核酸プローブ、WNT5A転写物の特異的増幅のための一対のプライマー、TK1転写物の特異的増幅のための一対のプライマー、GAS1転写物の特異的増幅のための一対のプライマー、WNT5Aタンパク質に特異的な抗体、TK1タンパク質に特異的な抗体、およびGAS1タンパク質に特異的な抗体から選択される1つまたは複数(例えば2、3または4つ)の検出手段が挙げられ得る。特定のキット実施形態はさらに、例えば、ハウスキーピング転写物に特異的な核酸プローブ、ハウスキーピング転写物の特異的増幅のための一対のプライマー、およびハウスキーピングタンパク質に特異的な抗体から選択される1つまたは複数(例えば2または3つ)の検出手段を包含し得る。例示的ハウスキーピング遺伝子/タンパク質としては、GAPDH、SDHA、HPRT1、HBS1L、β−アクチンおよびAHSPが挙げられる。
【0081】
いくつかのキット実施形態では、一次検出手段(例えば、核酸プローブ、核酸プライマーまたは抗体)は、例えば、蛍光団、発色団または検出可能な生成物を生成し得る酵素(例えば、アルカリ性ホスファターゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼおよび当該技術分野で一般に知られている他のもの)で直接的に標識され得る。他のキット実施形態は、二次検出手段;例えば二次抗体(例えば、ヤギ抗ウサギ抗体、ウサギ抗マウス抗体、抗ハプテン抗体)または非抗体ハプテン結合分子(例えば、アビジンまたはストレプトアビジン)を包含する。いくつかのこのような場合、二次検出手段は、検出可能部分で直接的に標識される。他の場合には、二次(またはより高次の)抗体は、ハプテン(例えば、ビオチン、DNPおよび/またはFITC)と接合され、これは、検出可能的に標識された同族ハプテン結合分子(例えば、ストレプトアビジン(SA)ホースラディッシュペルオキシダーゼ、SAアルカリ性ホスファターゼおよび/またはSA QDot(商標))により検出可能である。いくつかのキット実施形態は、比色試薬(例えば、DABおよび/またはAEC)を、このような比色試薬の発色のために酵素で標識される一次または二次(またはより高次の)検出手段(例えば、抗体)と同時に用いられるよう適切な容器中に含み得る。
【0082】
いくつかの実施形態では、キットは、陽性または陰性対照試料、例えば、表8に列挙された特定の遺伝子または遺伝子産物を発現するかまたは発現しないことが知られている細胞株または組織を包含する。特定の例では、対照試料はFFPEである。試料の例としては、正常(例えば、非癌性)細胞または組織、乳癌細胞株または組織、前立腺切除後(例えば前立腺切除後少なくとも5年、または少なくとも10年)、前立腺癌再発を有していないことが分かっている被験者からの前立腺癌試料、ならびに前立腺切除後に前立腺癌再発を有したことが分かっている被験者からの前立腺癌試料が挙げられるが、これらに限定されない。
【0083】
いくつかの実施形態では、キットは、例えば、開示遺伝子またはその発現産物(例えば、mRNAまたはタンパク質)を特異的に結合するプローブまたは抗体の使用の手段、あるいは特定のプライマーまたはプローブに関する使用の手段を開示する使用説明書を包含する。使用説明書は、電子形態(例えばコンピューター・ディスケットまたはコンパクトディスク)で書かれ得るし、あるいは視覚的であり得る(例えば、ビデオファイル)。キットは、キットが意図される特定の適用を促すための付加的構成成分も包含し得る。したがって、例えばキットは、特定の開示された方法の実行のためにルーチン的に用いられる緩衝剤およびその他の試薬を包含し得る。このようなキットおよび適切な内容物は、当業者によく知られている。
【0084】
ある種のキット実施形態は、キャリア手段、例えば箱、袋、小かばん、プラスチック・カートン(例えば、成形プラスチックまたはその他の透明パッケージ)、包装紙(例えば、密封または密封可能なプラスチック製、紙製または金属製包装紙)、あるいはその他の容器を包含し得る。いくつかの例では、キット構成成分は、単一包装単位、例えば箱またはその他の容器中に封入され、これらの包装単位は、キットの1つまたは複数の構成成分が配置され得る区画を有し得る。他の例では、キットは、例えば試験されるべき1つまたは複数の生物学的試料を保持し得る1つまたは複数の容器、例えばバイアル、管等を包含する。
【0085】
他のキット実施形態は、例えば注射器、綿棒またはゴム手袋を包含し、これらは生物学的試料を取扱い、収集し、および/または加工処理するために有用であり得る。キットは、任意に、ある位置から別の位置に生物学的試料を移動するために有用な用具、例えばスポイト、注射器等も含有し得る。さらに他のキット実施形態は、使用済みのまたはもはや必要とされない品目(例えば、被験者試料)を廃棄するための廃棄手段を包含し得る。このような廃棄手段としては、廃棄物質からの漏出物を含入し得る容器、例えばプラスチック、金属またはその他の不浸透性袋、箱または容器が挙げられるが、これらに限定されない。
【0086】
2.アレイ
遺伝子(例えば、ゲノム配列および対応する転写物)およびタンパク質の検出のためのマイクロアレイは、当該技術分野でよく知られている。マイクロアレイとしては、多数の(例えば数百のまたは数千でさえある)特異的結合剤(例えば、cDNAプローブ、mRNAプローブまたは抗体)がその上に固定される固体表面(例えば、スライドガラス)が挙げられる。特異的結合剤は、アレイ上にアドレス呼出可能(例えば、格子)フォーマットで明瞭に配置される。アレイ上のアドレス呼出可能位置の数は、例えば少なくとも3から、少なくとも10、少なくとも20、少なくとも30、少なくとも33、少なくとも40、少なくとも50、少なくとも75、少なくとも100、少なくとも150、少なくとも200、少なくとも300、少なくとも500、少なくとも550、少なくとも600、少なくとも800、少なくとも1000、少なくとも10,000またはそれ以上まで変わり得る。アレイは、配置される特異的結合剤に関する標的(例えば、mRNA、cDNAまたはタンパク質(適用可能な場合))を含有すると考えられる生物学的試料と接触される。特異的結合剤は、試料中に存在するそれらの同族標的と相互作用する。すべての固定化結合剤の間の標的の結合パターンは、遺伝子発現のプロフィールを提供する。特定実施形態では、種々のスキャナーおよびソフトウェアプログラムを用いて、「作動」される(例えば、固定化特異的結合剤に結合される)遺伝子のパターンをプロファイルし得る。代表的マイクロアレイは、例えば米国特許第5412087号、第5445934号、第5744305号、第6897073号、第7247469号、第7166431号、第7060431号、第7033754号、第6998274号、第6942968号、第6890764号、第6858394号、第6770441号、第6620584号、第6544732号、第6429027号、第6396995号、第6355431号に記載されている。
【0087】
タンパク質アレイであれ、核酸アレイであれ、表8に開示された遺伝子(または遺伝子産物)のうちの少なくとも3つを検出するためのアレイが、本明細書中で開示される。特定実施形態では、開示アレイは、開示された遺伝子のうちの少なくとも4、少なくとも5、少なくとも10、少なくとも15、少なくとも20、少なくとも25、または33すべてに特異的な結合剤からなる。特定アレイ実施形態は、GAS1、WNT5A、TK1、E2F5およびMSH2発現産物(例えば、mRNA、cDNAまたはタンパク質)に特異的な核酸プローブまたは抗体からなる。より特定的なアレイ実施形態は、GAS1、WNT5AおよびTK1発現産物(例えば、mRNA、cDNAまたはタンパク質)に特異的な核酸プローブまたは抗体からなる。その他のアレイ実施形態は、表8中の33遺伝子のうちの各1つに関する発現産物(例えば、mRNA、cDNAまたはタンパク質)に特異的な核酸プローブまたは抗体からなる;したがって、アレイは、以下の遺伝子のすべてに対応するmRNA、cDNAまたはタンパク質に特異的な核酸プローブまたは抗体からなる:CDC25C、E2F5、MMP3、CYP1A1、FGF8、WNT5A、CHEK1、CSF2、CDC2、IL1A、ALK、MYBL2、MYCL1、MYCN、TERT、ALOX12、BRCA2、FANCA、GAS1、LMO1、PLG、TDGF1、TK1、BLM、MSH2、NAT2、DMBT1、FLT3、GFI1、MOS、TP73、HMMRおよびINHA。特定例では、アレイはさらに、ハウスキーピング遺伝子または遺伝子産物、例えばmRNA、cDNAまたはタンパク質に特異的な核酸プローブまたは抗体を包含する。
【0088】
a.核酸アレイ
一例では、アレイは、表8に列挙された遺伝子のうちの少なくとも3つ、例えば開示遺伝子のうちの少なくとも4つ、少なくとも5つ、少なくとも10、少なくとも15、少なくとも20、少なくとも25、または33すべてとハイブリダイズし得る核酸プローブを包含し、例えば、少なくともWNT5A、TK1およびGAS1とハイブリダイズし得る核酸プローブを包含する(例えば、配列番号1、3または5あるいはその相補鎖とハイブリダイズし得る核酸プローブを包含する)。特定例では、アレイは、表8中に列挙された33遺伝子すべてを認識し得るプローブを包含する。このようなアレイのあるもの(ならびに本明細書中に記載される方法)は、さらに、ハウスキーピング遺伝子(例えばGAPDH(グリセルアルデヒド3−ホスフェートデヒドロゲナーゼ)、SDHA(スクシネートデヒドロゲナーゼ)、HPRT1(ヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ1)、HBS1L(HBS1様タンパク質)、β−アクチンおよびAHSP(アルファヘモグロビン安定化タンパク質)のうちの1つまたは複数))に特異的なオリゴヌクレオチドを包含し得る。
【0089】
一例では、表8に列挙された遺伝子のうちの少なくとも3つ(例えば少なくともWNT5A、TK1およびGAS1)の検出、例えば被験者から(例えば前立腺癌試料から)得られた核酸配列(例えば、cDNAまたはmRNA)の検出に用いるために、一組のオリゴヌクレオチドプローブが固体支持体の表面に結合される。さらに、内部対照核酸配列が用いられる場合(例えば再発中の前立腺癌を有さなかった被験者から得られた核酸配列、またはハウスキーピング遺伝子核酸配列)、核酸プローブは、この対照核酸分子の存在を検出するために含まれ得る。
【0090】
アレイに結合されるオリゴヌクレオチドプローブは、例えば高緊縮条件下で、被験者から得られたか、または被験者から増幅された配列と特異的に結合し得る。当該方法とともに用いる作用物質は、表8に列挙された標的遺伝子配列を認識するオリゴヌクレオチドプローブを包含する。このような配列は、既知の遺伝子配列を検査し、表8に列挙された特定遺伝子と特異的にハイブリダイズするが、しかし他の遺伝子配列とは特異的にハイブリダイズしないプローブ配列を選択することにより、確定され得る。
【0091】
本発明の開示に従う方法および装置は、適切な条件下で、オリゴヌクレオチドプローブが、相補的塩基配列を有する核酸分子と塩基対合二重鎖を形成する、という事実を利用する。二重鎖の安定性は、多数の因子、例えばオリゴヌクレオチドプローブの長さ、塩基組成、ならびにハイブリダイゼーションが実行される溶液の組成に依っている。二重鎖安定性に及ぼす塩基組成の作用は、特定溶液中での、例えば高濃度の第三級または第四級アミンの存在下で、ハイブリダイゼーションを実行することにより、低減され得る。二重鎖の熱安定性は、配列間の配列類似性の程度にも依っている。標的配列とアレイに結合されるオリゴヌクレオチドとの間に形成されると予測される種類の二重鎖の予想温度Tmに近い温度でハイブリダイゼーションを実行することにより、ミスマッチ二重鎖の形成率は実質的に低減され得る。
【0092】
アレイに用いられる各オリゴヌクレオチドプローブの長さは、標的配列の結合を最適にするよう選択され得る。具体的スクリーニング条件下で特定遺伝子配列とともに用いるための最適長は、経験的に確定され得る。したがって、アレイに含まれているオリゴヌクレオチド配列の組の各々の個々の素子に関する長さは、スクリーニングのために最適化され得る。一例では、オリゴヌクレオチドプローブは、少なくとも12ヌクレオチド長、例えば約20〜約35ヌクレオチド長、または約25〜約40ヌクレオチド長である。
【0093】
アレイを形成するオリゴヌクレオチドプローブ配列は、支持体に直接的に連結され得る。代替的には、オリゴヌクレオチドプローブは、オリゴヌクレオチド(標的遺伝子配列と非特異的にハイブリダイズしない)、あるいは固体支持体とのスペーサーまたはリンカーとして役立つその他の分子により、支持体に結合され得る。
【0094】
b.タンパク質アレイ
別の例では、アレイは、タンパク質配列(またはこのようなタンパク質の断片、あるいはこのようなタンパク質またはタンパク質断片に特異的な抗体)を包含し、これらは、表3に列挙されたタンパク質配列のうちの少なくとも3つ、例えば開示タンパク質のうちの少なくとも4つ、少なくとも5つ、少なくとも10、少なくとも15、少なくとも20、少なくとも25または33全部を包含し、例えば、少なくともWNT5A、TK1およびGAS1と特異的に結合し得る(例えば、それぞれ、配列番号2、4または6と安定的に結合し得る)タンパク質結合剤を包含する。特定例では、アレイは、表8に列挙された33のタンパク質すべてを認識し得るタンパク質結合剤を包含する。このようなアレイ(ならびに本明細書中に記載される方法)のいくつかは、さらに、ハウスキーピングタンパク質(例えばGAPDH、SDHA、HPRT1、HBS1L、β−アクチンおよびAHSPのうちの1つまたは複数)に特異的なタンパク質結合剤を包含し得る。
【0095】
アレイを形成するタンパク質または抗体は、支持体に直接的に連結され得る。代替的には、タンパク質または抗体は、固体支持体とのスペーサーまたはリンカーにより支持体に結合され得る。タンパク質発現における変化は、例えば、タンパク質特異的結合剤(これはいくつかの例では標識される)を用いて検出され得る。ある例では、タンパク質発現における変化を検出することは、被験者の前立腺癌試料から得られるタンパク質試料を、タンパク質特異的結合剤(例えばアレイ上に存在し得る)と接触させること;ならびに結合剤が試料により結合されるか否かを検出し、それにより試料中に存在する標的タンパク質のレベルを測定することを包含する。試料中の標的タンパク質(例えばWNT5A、TK1およびGAS1)のレベルの差は、特定例において、再発前立腺癌を有していなかった被験者からの類似の試料中に見出される同一標的タンパク質のレベルと比較して、被験者が予後不良を有する、ということを示す。
c.アレイ基板
【0096】
アレイ固体支持体は、有機ポリマーから形成され得る。固体支持体のための適切な材料としては、以下の:ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブチレン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリビニルピロリジン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニリデンジフルオリド、ポリフルオロエチレン−プロピレン、ポリエチレンビニルアルコール、ポリメチルペンテン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリスルホン、ヒドロキシル化二軸配向ポリプロピレン、アミノ化二軸配向ポリプロピレン、チオール化二軸配向ポリプロピレン、エチレンアクリル酸、エチレンメタクリル酸、ならびにそのコポリマーの配合物が挙げられるが、これらに限定されない(例えば、米国特許第5,985,567号)。
【0097】
概して、固体支持体表面を形成するために用いられ得る材料の適切な特徴としては、以下のものが挙げられる:活性化時に、支持体の表面が生体分子、例えばオリゴヌクレオチドまたはそれに対する抗体を共有的に結合し得るよう、表面活性化に応じ易いこと;生体分子の「in situ」合成に応じ易いこと;オリゴヌクレオチドまたは抗体に占有されない支持体上の領域が非特異的結合に応じ易くないよう、あるいは非特異的結合が生じた場合、このような材料が、オリゴヌクレオチドまたは抗体を除去することなく表面から容易に除去され得るよう、化学的に不活性であること。
【0098】
一例では、固体支持体表面はポリプロピレンである。ポリプロピレンは、化学的に不活性で且つ疎水性である。非特異的結合は一般的に回避可能であり、検出感度は改良される。ポリプロピレンは、種々の有機酸(例えば蟻酸)、有機作用物質(例えばアセトンまたはエタノール)、塩基(例えば水酸化ナトリウム)、塩(例えば塩化ナトリウム)、酸化剤(例えば過酢酸)、ならびに無機酸(例えば塩酸)に対する良好な化学的耐性を有する。ポリプロピレンは低蛍光背景も提供し、これが、背景干渉を最小限にして、当該シグナルの感度を増大する。
【0099】
別の例では、表面活性化有機ポリマーが固体支持表面として用いられる。表面活性化有機ポリマーの一例は、高周波プラズマ放電によりアミノ化されるポリプロピレン材料である。このような材料は、核酸分子の結合のために容易に利用され得る。ヌクレオチド分子がポリマーと結合され得るよう、活性化有機ポリマー上のアミン基はヌクレオチド分子と反応性である。他の反応基、例えばカルボキシル化、ヒドロキシル化、チオール化または活性エステル基も用いられ得る。
【0100】
d.アレイフォーマット
本発明の開示に従って、広範な種々のアレイフォーマットが用いられ得る。一例としては、当該技術分野でディップスティックと一般的に呼ばれるオリゴヌクレオチド帯域の線状アレイが挙げられる。別の適切なフォーマットとしては、別個の細胞の二次元パターン(例えば、64×64アレイで4096平方)が挙げられる。当業者に理解されているように、他のアレイフォーマット、例えばスロット(長方形)および円形アレイ(これらに限定されない)は、使用するのに同様に適している(例えば米国特許第5,981,185号)。一例では、アレイは、糸、膜または皮膜である高分子媒質上に形成される。有機高分子媒質の一例は、約1ミル(0.001インチ)〜約20ミルのオーダーの厚みを有するポリプロピレン・シートであるが、しかし皮膜の厚みは重要でなく、かなり広範囲に亘って変更され得る。特に、二軸配向ポリプロピレン(BOPP)皮膜が、アレイの調製のために開示される;それらの耐久性のほかに、BOPP皮膜は、低背景蛍光を示す。
【0101】
本発明の開示のアレイフォーマットは、種々の異なる型のフォーマットに含まれ得る。「フォーマット」は、固体支持体が添付され得る任意のフォーマット、微量滴定プレート、試験管、無機シート、ディップスティック等を包含する。例えば、固体支持体がポリプロピレン糸である場合、1つまたは複数のポリプロピレン糸はプラスチック製ディップスティック型デバイスに添付され得る;ポリプロピレン膜は、スライドガラスに添付され得る。特定フォーマットは、それ自体且つ自然に、重要ではない。必要であるものはすべて、固体支持体またはその上に吸収される任意のバイオポリマーの機能的振る舞いに影響を及ぼすことなく、固体支持体がそれに添付され得るもの、ならびにフォーマット(例えばディップスティックまたはスライド)が、デバイスが導入される任意の材料に対して安定であるもの(例えば、臨床試料およびハイブリダイゼーション溶液)である。
【0102】
本発明に開示のアレイは、種々のアプローチにより調製され得る。一例では、オリゴヌクレオチドまたはタンパク質配列は、別々に合成され、次に固体支持体に結合される(例えば米国特許第6,013,789号参照)。別の例では、配列は、支持体上に直接合成されて、所望のアレイを提供する(例えば、米国特許第5,554,501号参照)。オリゴヌクレオチドおよびタンパク質を固体支持体に共有結合するために、そしてオリゴヌクレオチドまたはタンパク質を支持体上に直接合成するための適切な方法は、当業者に知られている;適切な方法の要約は、Matson et al., Anal. Biochem. 217: 306-10, 1994に見出され得る。一例では、オリゴヌクレオチドは、固体支持体上にオリゴヌクレオチドを調製するための慣用的化学技法を用いて、支持体上に合成される(例えばPCT出願WO85/01051およびWO89/10977または米国特許第5,554,501号参照)。
【0103】
適切なアレイは、予定パターンで4つの塩基に関する前駆体を被せることにより、アレイのセル中にオリゴヌクレオチドを合成するために自動化手段を用いて生成され得る。要するに、基板を横断して、平行横列(総計で、送達系におけるチャンネルの数に対応する)で、オリゴヌクレオチドプローブ集団を作製するために、多チャンネル自動化化学送達系が用いられる。第1の方向でのオリゴヌクレオチド合成の完了後、次に、基板は90°回転されて、第1の組に対してここで直角を成す第2の(2°)組の横列内で合成を進行させる。このプロセスは、その交差が複数の別個のセルを生じる多チャンネルアレイを作製する。
【0104】
オリゴヌクレオチドプローブは、オリゴヌクレオチドの3’末端により、またはオリゴヌクレオチドの5’末端により、支持体に結合され得る。一例では、オリゴヌクレオチドは、3’末端により固体支持体に結合される。しかしながら、当業者は、固体支持体との結合に適しているのはオリゴヌクレオチドの3’末端の使用か、5’末端の使用かを確定し得る。概して、3’末端および5’末端の領域におけるオリゴヌクレオチドプローブの内部相補性が、支持体への結合を決定する。特定例では、アレイ上のオリゴヌクレオチドプローブは、オリゴヌクレオチドプローブ:標的配列ハイブリダイゼーション複合体の検出を可能にする1つまたは複数の標識を包含する。
【0105】
3.タンパク質特異的結合剤
いくつかの例では、表8に列挙された遺伝子または遺伝子産物のうちの1つまたは複数(例えば、少なくとも3つ)を検出するために用いられる手段は、タンパク質特異的結合剤、例えば抗体またはその断片である。例えば、表8に列挙されたタンパク質、例えばWNT5A、TK1またはGAS1(例えば、それぞれ、配列番号2、4または6)に特異的な抗体またはアプタマーは、市販供給元から入手可能であるか、または当該技術分野で一般的な技法を用いて調製され得る。このような特異的結合剤は、本明細書中で提供される予後方法にも用いられ得る。
【0106】
特異的結合試薬としては、例えば抗体あるいはその機能的断片または組換え誘導体、アプタマー、鏡像アプタマー、あるいは以下の足場のいずれか1つまたは複数を基礎にした工学処理非免疫グロブリン結合タンパク質が挙げられる:フィブロネクチン(例えばADNECTINS(商標)またはモノボディ)、CTLA−4(例えばEVIBODIES(商標))、テンダミスタット(例えばMcConnell and Hoess, J. Mol. Biol., 250: 460-470, 1995)、ネオカルジノスタチン(例えばHeyd et al., Biochem., 42: 5674-83, 2003)、CBM4−2(例えばCicortas-Gunnarsson et al., Protein Eng. Des. Sel., 17: 213-21, 2004)、リポカリン(例えばANTICALINS(商標);Schlehuber and Skerra, Drug Discov. Today, 10: 23-33, 2005)、T細胞受容体(例えばChlewicki et al., J. Mol. Biol., 346:223-39, 2005)、プロテインAドメイン(例えばAFFIBODIES(商標);Engfeldt et al., ChemBioChem, 6: 1043-1050, 2005)、Im9(例えばBernath et al., J. Mol. Biol., 345: 1015-26, 2005)、アンキリン反復タンパク質(例えばDARPins;Amstutz et al., J. Biol. Chem., 280: 24715-22, 2005)、テトラトリコペプチド反復タンパク質(例えばCortajarena et al., Protein Eng. Des. Sel., 17: 399-409, 2004)、ジンクフィンガードメイン(例えばBianchi et al., J. Mol. Biol., 247: 154-60,1995)、pVIII(例えばPetrenko et al., Protein Eng., 15: 943-50, 2002)、GCN4(Sia and Kim, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 100: 9756-61, 2003)、鳥類膵臓ポリペプチド(APP)(例えばChin et al., Bioorg. Med. Chem. Lett., 11: 1501-5, 2001)、WWドメイン(例えばDalby et al., Protein Sci., 9: 2366-76, 2000)、SH3ドメイン(例えばHiipakka et al., J. Mol. Biol., 293: 1097-106, 1999)、SH2ドメイン(Malabarba et al., Oncogene, 20: 5186-5194, 2001)、PDZドメイン(例えばTELOBODIES(商標);Schneider et al., Nat. Biotechnol., 17: 170-5, 1999)、TEM−1 β−ラクタマーゼ(例えばLegendre et al., Protein Sci., 11: 1506-18, 2002)、緑色蛍光タンパク質(GFP)(例えばZeytun et al., Nat. Biotechnol., 22: 601, 2004)、チオレドキシン(例えばペプチドアプタマー:Lu et al., Biotechnol., 13: 366-372, 1995)、ブドウ球菌ヌクレアーゼ(例えばNorman, et al., Science, 285: 591-5, 1999)、PHDフィンガー(例えばKwan et al., Structure, 11: 803-13,2003)、キモトリプシン阻害薬2(CI2)(例えばKarlsson et al., Br. J. Cancer, 91: 1488-94,2004)、ウシ膵臓トリプシン阻害薬(BPTI)(例えばRoberts, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89: 2429-33, 1992)、ならびに多数の他のもの(Binz et al., Nat. Biotechnol.,23(10): 1257-68, 2005による再検討および補足項目を参照)。
【0107】
特異的結合試薬は、抗体も包含する。「抗体」という用語は、特定抗原と特異的に結合するか、またはそれと免疫学的に反応性である免疫グロブリン分子(またはその組合せ)を指し、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、遺伝子工学処理抗体および別のやり方で修飾された形態の抗体を包含し、例としては、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヘテロ共役抗体(例えば二重特異性抗体、ダイアボディ、トリアボディおよびテトラボディ)、一本鎖Fv抗体(scFv)、ポリペプチドとの特異的抗原結合を付与するのに十分である免疫グロブリンの少なくとも一部を含有するポリペプチド、抗体の抗原結合断片が挙げられるが、これらに限定されない。抗体断片としては、タンパク質分解性抗体断片[例えば、F(ab’)2断片、Fab’断片、Fab’−SH断片、Fab断片、FvおよびrIgG]、組換え抗体断片(例えばsFv断片、dsFv断片、二重特異性sFv断片、二重特異性dsFv断片、ダイアボディおよびトリアボディ)、相補性決定領域(CDR)断片、ラクダ抗体(例えば米国特許第6,015,695号;第6,005,079号;第5,874,541号;第5,840,526号;第5,800,988号および第5,759,808号参照)、ならびに軟骨魚および硬骨魚により産生される抗体およびその単離結合ドメイン(例えば国際特許出願WO03014161参照)が挙げられる。
【0108】
Fab断片は、VL、VH、CLおよびCH1ドメインからなる一価断片である;F(ab’)2断片は、ヒンジ領域でジスルフィド架橋により連結される2つのFab断片を含む二価断片である;Fd断片は、VHおよびCHIドメインからなる;Fv断片は、抗体の一本のアームのVLおよびVHドメインからなる;ならびにdAb断片はVHドメインからなる(例えばWard et al., Nature 341: 544-546, 1989参照)。一本鎖抗体(scFv)は、VLおよびVH領域が対合されて、それらを単一タンパク質鎖となし得る合成リンカーを介して一価分子を形成する(例えばBird et al., Science, 242: 423-426, 1988;Huston et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85: 5879-5883, 1988参照)。ダイアボディは、VHおよびVLドメインが単一ポリペプチド鎖上で、しかし、同一鎖上の2つのドメイン間の対合を可能にするには短すぎるリンカーを用いて発現され、それにより当該ドメインをもう一方の鎖の相補的ドメインと強いて対合させて、2つの抗原結合部位を作製する二価二重特異性抗体である(例えばHolliger et al., Pro. Natl Acad. Sci. USA, 90: 6444-6448, 1993;Poljak et al., Structure, 2: 1121-1123, 1994参照)。キメラ抗体は、1つの抗体からの1つまたは複数の領域および1つまたは複数の他の抗体からの1つまたは複数の領域を含有する抗体である。抗体は、1つまたは複数の結合部位を有し得る。1つより多くの結合部位が存在する場合、結合部位は互いに同一であるか、または異なり得る。例えば、天然免疫グロブリンは2つの同一結合部位を有し、一本鎖抗体またはFab断片は1つの結合部位を有するが、一方、「二重特異性」または「二機能性」抗体は2つの異なる結合部位を有する。
【0109】
いくつかの例では、抗体は、試料中の他の分子に関する結合定数より少なくとも10−1大きい、10−1大きいまたは10−1大きい結合定数で、標的タンパク質(例えば、表8に列挙されたタンパク質のうちの1つ、例えばWNT5A、TK1またはGAS1)と特異的に結合する。いくつかの例では、特異的結合試薬(例えば抗体(例えばモノクローナル抗体)またはその断片)は、1nMまたはそれ未満の平衡定数(K)を有する。例えば、特異的結合剤は、少なくとも約0.1×10−8M、少なくとも約0.3×10−8M、少なくとも約0.5×10−8M、少なくとも約0.75×10−8M、少なくとも約1.0×10−8M、少なくとも約1.3×10−8M、少なくとも約1.5×10−8Mまたは少なくとも約2.0×10−8Mの結合親和性で、標的タンパク質と結合し得る。Kd値は、例えば、競合的ELISA(酵素結合免疫吸着検定)により、または表面プラズモン共鳴装置、例えばBiacore T100(Biacore, Inc., Piscataway, NJから入手可能)を用いて確定され得る。
【0110】
抗体(例えばモノクローナルまたはポリクローナル抗体)の生成方法は、当該技術分野で十分に確立されている(例えばHarlow and Lane, Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory New York, 1988参照)。例えば、WNT5A、TK1またはGAS1(例えば、それぞれ配列番号2、4または6)のような表8に列挙されたタンパク質のうちの1つのペプチド断片は、担体分子(またはこのようなエピトープまたは共役RDPをコードする核酸)と共役され、非ヒト哺乳類(マウスやウサギ)に注射され、その後、追加抗原注射されて、抗体応答を生じる。免疫感作動物から単離された血清は、その中に含入されるポリクローナル抗体に関して単離され得るし、あるいは免疫感作動物からの脾臓は、ハイブリドーマおよびモノクローナル抗体の産生のために用いられ得る。いくつかの例では、抗体は使用前に精製される。
【0111】
一例では、表8に列挙されたタンパク質のうちの1つ、例えばWNT5A、TK1またはGAS1(例えば、それぞれ配列番号2、4または6)に対するモノクローナル抗体は、KohlerとMilstein(Nature,256: 495, 1975)の古典的方法またはその派生的方法に従って、ネズミハイブリドーマから調製され得る。要するに、マウス(例えば、Balb/c)は、2〜3ミリグラムの選択ペプチド断片(例えばWNT5A、TK1またはGAS1のエピトープ)またはその担体共役体を、2〜3週間の期間に亘って、反復的に接種される。次にマウスは屠殺され、脾臓の抗体産生細胞が単離される。脾臓細胞は、ポリエチレングリコールにより、マウス骨髄腫細胞と融合され、そして、アミノプテリンを含む選択培地(HAT培地)上での系の増殖により、余分量の非融合細胞が破壊される。上首尾に融合された細胞は希釈され、希釈アリコートは微量滴定プレートのウエル中に置かれて、培養の増殖が継続される。抗体産生クローンは、元々は、Engvall(Enzymol., 70:419, 1980)により記載されたような免疫検定手法、例えばELISAにより、およびその派生的方法により、ウエルの上清液中の抗体の検出によって同定される。選択陽性クローンは拡張され、それらのモノクローナル抗体産物が使用のために収穫され得る。
【0112】
抗体の商業的供給元としては、Santa Cruz Biotechnology, Inc.(Santa Cruz, CA)、Sigma-Aldrich (St. Louis, MO)、およびAbcam(Cambridge, UK)が挙げられる。表2は、WNT5A、TK1およびGAS1に対する抗体の商業的供給元の例を示す。
【0113】
【表3】

【0114】
開示される特異的結合剤は、アプタマーも包含する。一例では、アプタマーは、特異的配列依存性形状を有し、高親和性および特異性で標的タンパク質(例えば、表8に列挙されたタンパク質のうちの1つ、例えばWNT5A、TK1またはGAS1)と結合する一本鎖核酸分子(例えばDNAまたはRNA)である。アプタマーは一般的に、100より少ないヌクレオチド、75より少ないヌクレオチド、または50より少ないヌクレオチド(例えば、10〜95ヌクレオチド、25〜80ヌクレオチド、30〜75ヌクレオチド、または25〜50ヌクレオチド)を含む。具体的一実施形態では、開示特異的結合試薬は、鏡像アプタマー(SPIEGELMER(商標)とも呼ばれる)である。鏡像アプタマーは、D−オリゴヌクレオチド(例えばアプタマー)と比較して、酵素的分解に対する高耐性を示す高親和性L−エナンチオマー核酸(例えばL−リボースまたはL−2’−デオキシリボース単位)である。アプタマーおよび鏡像アプタマーの標的結合特性は、例えばWlotzka et al., Proc. Natl. Acad. Sci. 99(13): 8898-8902, 2002に記載されたようなオリゴヌクレオチドの無作為プールから出発するin vitro選択プロセスにより意図される。アプタマーの生成方法は、当該技術分野で知られている(例えばFitzwater and Polisky (Methods Enzymol., 267: 275-301, 1996);Murphy et al., Nucl. Acids Res. 31: e110, 2003参照)。
【0115】
別の例では、アプタマーは、高親和性および特異性で標的タンパク質(例えば、表8に列挙されたタンパク質のうちの1つ、例えばWNT5A、TK1またはGAS1)と結合するペプチドアプタマーである。ペプチドアプタマーは、タンパク質足場に両端で結合されるペプチドループ(例えば、標的タンパク質と特異的である)を包含する。この二重構造束縛は、ペプチドアプタマーの結合親和性を、抗体に匹敵するレベル(ナノモル範囲)に大いに増大する。可変ループ長は、典型的には8〜20アミノ酸(例えば8〜12アミノ酸)であり、足場は、安定で、可溶性で、小さく且つ非毒性である任意のタンパク質(例えば、チオレドキシン−A、ステフィンA三重突然変異体、緑色蛍光タンパク質、エグリンCおよび細胞性転写因子Sp1)であり得る。ペプチドアプタマー選択は、異なる系、例えば酵母2ハイブリッド系(例えばGal4酵母2ハイブリッド系)またはLexA相互作用トラップ系を用いてなされ得る。
【0116】
特異的結合剤は、任意に、検出可能部分で直接的に標識され得る。有用な検出作用物質としては、蛍光化合物(例えばフルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、5−ジメチルアミン−1−ナフタレンスルホニルクロリド、フィコエリスリン、ランタニド蛍光体またはシアニンファミリーの染料(例えばCy−3またはCy−5)等);生物発光化合物(例えばルシフェラーゼ、緑色蛍光タンパク質(GFP)または黄色蛍光タンパク質);検出可能な反応産物を産生し得る酵素(西洋ワサビペルオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、アルカリ性ホスファターゼまたはグルコースオキシダーゼ等)、あるいは放射性標識(例えばH、14C、15N、35S、90Y、99Tc、111In、125Iまたは131I)が挙げられる。
【0117】
4.核酸プローブおよびプライマー
いくつかの例では、表8に列挙された遺伝子または遺伝子産物のうちの1つまたは複数(例えば少なくとも3つ)を検出するために用いられる手段は、核酸プローブまたはプライマーである。例えば、表8に列挙された遺伝子に特異的な核酸プローブまたはプライマーは、市販供給元から得られるか、当該技術分野で一般的な技法を用いて調製され得る。このような作用物質は、本明細書中で提供される方法にも用いられ得る。
【0118】
核酸プローブおよびプライマーは、標的核酸分子(例えばゲノム標的核酸分子)とハイブリダイズし得る核酸分子である。例えば、表8に列挙された遺伝子(例えばWNT5A、TK1またはGAS1)に特異的なプローブは、標的とハイブリダイズされる場合、直接または間接的に検出され得る。表8に列挙された遺伝子、例えばWNT5A、TK1またはGAS1に特異的なプライマーは、標的とハイブリダイズされる場合、標的遺伝子を増殖し得るし、その結果生じるアンプリコンは直接または間接的に検出され得る。したがって、プローブおよびプライマーは、標的核酸分子の検出を可能にし、いくつかの例では、その定量化を可能にする。
【0119】
プローブおよびプライマーは、標的核酸分子(例えばDNAまたはRNA、例えばcDNAまたはmRNA)の相補領域と塩基対を形成し、それにより二重鎖分子を形成することにより、標的核酸配列と「ハイブリダイズ」し得る。特定程度の緊縮性を生じるハイブリダイゼーション条件は、ハイブリダイゼーション方法の性質、ハイブリダイズする核酸配列の組成および長さによって変わる。一般的に、ハイブリダイゼーションの温度ならびにハイブリダイゼーション緩衝液のイオン強度(例えばNa濃度)は、ハイブリダイゼーションの緊縮度を確定する。特定の緊縮度を得るためのハイブリダイゼーション条件に関する計算は、Sambrook et al., (1989) Molecular Cloning, second edition, Cold Spring Harbor Laboratory Plainview, NY (chapters 9 and 11)で考察されている。以下にハイブリダイゼーション条件の例を示すが、これらに限定されない:
極高い緊縮度(少なくとも90%の同一性を共有する配列を検出する)
ハイブリダイゼーション: 5×SSC、65℃で16時間
2回洗浄: 2×SSC、各々、室温(RT)で15分
2回洗浄: 0.5×SSC、各々、65℃で20分
高緊縮度(少なくとも80%の同一性を共有する配列を検出する)
ハイブリダイゼーション: 5×〜6×SSC、65℃〜70℃で16〜20時間
2回洗浄: 2×SSC、各々、RTで5〜20分
2回洗浄: 1×SSC、各々、55℃〜70℃で30分
緊縮度(少なくとも50%の同一性を共有する配列を検出する)
ハイブリダイゼーション: 6×SSC、RT〜55℃で16〜20時間
2回洗浄: 2×〜3×SSC、各々、RT〜55℃で20〜30分
【0120】
プローブおよびプライマーの商業的供給元としては、Invitrogen(Santa Cruz, CA)が挙げられる。表3は、WNT5A、TK1およびGAS1プライマー対の例を示す。プローブの例は、実施例の節の下記の表6に示す。
【0121】
【表4】

【0122】
標的核酸(例えば、表8に列挙された遺伝子、例えばWNT5A、TK1またはGAS1)に特異的なプローブまたはプライマーの生成方法は、当該技術分野では慣例的手順である(Sambrook et al., (1989) Molecular Cloning, second edition, Cold Spring Harbor Laboratory Plainview, NY)。例えば、配列番号1、3または5のいずれかに特異的であるプローブおよびプライマー、例えばこのような配列(またはその相補鎖)の少なくとも12〜50連続ヌクレオチドに特異的なプローブまたはプライマーが生成され得る。プローブおよびプライマーは、一般的に、少なくとも12ヌクレオチド長、例えば少なくとも15、少なくとも18、少なくとも20、少なくとも25、または少なくとも30ヌクレオチド、例えば12〜100、12〜50、12〜30または15〜25ヌクレオチド長である。一般的には、プローブは、検出可能部分または「標識」を包含する。例えばプローブは、プローブを検出可能にさせる「標識」と、直接または間接的に結合され得る。いくつかの例では、プライマーは、結果的にアンプリコンに組入れられるようになり、それによりアンプリコンの検出を可能にする標識を包含する。
【0123】
以下の実施例は、ある特定の特徴および/または実施形態を例証するために提供される。これらの実施例は、本発明を記載された特定の特徴または実施形態に限定しないよう意図されるべきである。
【実施例1】
【0124】
緊縮制御はFFPE組織試料から単離されたRNAから信頼性が高い遺伝子発現シグネチャーを得るために有益である
科学的および医学的に価値のある組織試料(例えば癌患者から収集されたもの)を保管することは、そうでなければ壊れ易い組織の長期安定化を要する。ホルマリン固定およびパラフィン包埋は、このような組織試料を保管するために一般に用いられる一方法である。
【0125】
保管FFPE組織試料から単離されるRNAは、癌における遺伝子異常のシグネチャーを同定するための常習的供給源である(例えばGianni et al., J. Clin. Oncol., 23(29): 7265-77, 2005;Mina et al., Breast Cancer Res. Treat., 103(2):197-208, 2007)。このような試料から単離されるRNAの品質は、遺伝子発現解析の結果に直接的に影響する。
【0126】
本実施例は、遺伝子発現解析のためのRNA品質が高度発現ハウスキーピング遺伝子に関して、qRT−PCRのような代理検定からは、あるいは例えばアジレント・BIOANALYZER(商標)におけるマイクロ流体分離により推論され得ない、ということを実証する。その代わりに、このような解析のためのRNA試料の適合性を確定するために、より厳密な方法、例えば本実施例で実証されるものが、好ましくは用いられる。
【0127】
患者試料およびRNA単離
多重mRNA解析のために、アリゾナ大学前立腺癌バンクから、患者症例のサブセット(n=28)を選択した。外科手術(前立腺切除)後少なくとも5年、前立腺癌再発を有するかまたは有さない個体を、解析のために選択した。患者は、異常直腸診(「DRE」)または血清PSAレベル上昇(>0.4ng/ml)を提示し、正常DREとその後の陽性6箇所生検を示した。癌再発を、PSAレベル上昇により確定した。前立腺切除術中に除去された組織から、試料を収集した;次に、病理学技術分野における標準方法を用いて、表面にインクでしるしをつけて、10%中性緩衝ホルマリン中で一晩固定し、パラフィンブロック中に完全に包埋した。保管組織ブロックの年数は、6〜13年の範囲であった。
【0128】
図1A〜Cに例示したように、試験FFPEコアから全RNAを単離した。要するに、選択患者からのFFPE組織ブロックから、4μm組織切片を切り出した。標準(手動)方法を用いて組織切片をヘマトキシリンおよびエオシン(「H&E」)で染色して、グリーソン合計スコア、腫瘍容積、位置および病理学的段階を確定した。病理学会認定病理専門医が組織切片を再検討し、前立腺癌の各切片領域で同定した。組織パンチを同定領域で作製して、RNA単離のためにコアを収集した。最低9年の追跡調査を有する男性のみを、試験に含めた。0.3ng/mlより高い血清PSA値に戻った場合を、再発と定義した。再発患者14名および非再発患者14名を、遺伝子発現試験のために選択した(表4)。
【0129】
【表5】

【0130】
【表6】

【0131】
各患者からのH&E染色スライドを用いて、腫瘍および隣接正常の代表領域を病理学医が選択した。ビーチャー・パンチを用いて、FFPEブロックからのコア(直径1.0mm、長さ2〜5mm)をRNA単離のためにRNアーゼ無含有エッペンドルフ管中に手動で回収した。コア採取具をキシレン中に浸漬し、患者試料間でブンゼンバーナーを用いて燃焼して、RNA持込を防止した。
【0132】
FFPEブロックからの組織コアを、数回混合しながら、室温で5分間、キシレン中で脱パラフィン化し、無水エタノールで2回洗浄した。次に組織をブロットして、55℃で10分間乾燥した。各組織ペレットに、16μlの10%SDSおよび40μlのプロテイナーゼK(20mg/ml)を含有する組織溶解緩衝液100μlを付加し、55℃で一晩インキュベートした。次に、HIGH PURE(商標)RNA単離キット(Roche Applied Science; Indianapolis, IN, USA)を用いて、溶解試料から総RNAを単離した。NanoDrop-1000(NanoDrop Technologies Inc., DE)を用いてUV分光法により、総RNAを定量した。RIBOGREEN(商標)検定(Molecular Probes, Eugene, OR)で、RNAの量を確定した。表5に示すように、試料はすべて、400ngより多い総RNAを有した。RNA単離方法の流れ図を、図1Aに示す。
【0133】
【表7】

【0134】
対照RNA試料を乳癌細胞株MCF7または正常乳房組織から新たに単離し、脱パラフィン化ステップなしで前記の方法を用いて定量した。
定量的実時間PCR(qRT−PCR)
【0135】
定量的実時間PCR(qRT−PCR)をApplied Biosystems(ABI)7500PCR系(SDS v1.4;Applied Biosystems Inc., CA)で実施して、DASL(登録商標)遺伝子発現解析(Illumina Corporation, CA)に関して潜在的に有用であると試料を定量した。メーカーの使用説明書に従って、SYBR(登録商標)Green RT−PCR試薬(Applied Biosystems)を用いて、ハウスキーピング遺伝子RPL13a(OMIM寄託番号113703;GENBANK(商標)寄託番号NM_000977(GI:15431296)(mRNA変異体1)およびNM_033251(GI:15431294)(mRNA変異体2))の発現を測定することにより、qRT−PCR検定を実行した。順方向プライマーは5’−GTACGCTGTGAAGGCATCAA−3’(配列番号7)であり、逆方向プライマーは5’−GTTGGTGTTCATCCGCTTG−3’(配列番号8)であって、その結果生じたアプリコンサイズは90bpであった。
【0136】
各反応は、25μLのSYBR Green PCR Master Mix(ABI)、1μLのcDNA鋳型および250nMの各順方向および逆方向プライマーを総反応容積50μL中に含有した。MicroAmp光学接着カバー(ABI)で閉じたMicroAmp光学96ウエル反応プレート(ABI)中で三重反復実験で、すべての検定を実行した。PCRは、95℃で10分間の初期酵素活性化と、その後の、95℃で15秒間、60℃で1分間の40サイクルとで構成された。最終生成物に到達するために、60℃〜95℃の傾斜(ABI)を用いて、解離曲線を作成した。
【0137】
ABI 7500系ソフトウエアでデルタ−デルタCT法を用いて、各試料中の各転写物の発現レベルの相対的定量化を算定した。正常前立腺RNAを較正物質として用い、ヒトベータアクチン(ACTB)遺伝子を内因性対照として用いた。周期閾値(CT)は19〜28の範囲であり、DASL(商標)検定による解析のために許容可能であるとみなされた。解離曲線解析は単一ピークも生じるが、これは、良好な品質のRNAを示す。分解を示すより小さな断片の有意の存在は観察されなかった。
【0138】
RNA試料もアジレントBIOANALYZER(商標)で検査して、全体的RNA品質を査定した。RNANano 6000シリーズ II LabChip(Agilent)を用いて、RNA品質を確定した。qRT−PCRで予備定量化した全試料が、BIOANALYZER(商標)査定により許容可能な品質であると判定された。
【0139】
単一対照遺伝子発現または全体的RNAのこれらの測定は、保管資料の何れにおいても許容不可能なレベルの分解を示さなかった。さらに、ブロックの年数とこれらの解析のためのRNAを抽出する能力との間に相関は認めされなかった。
cDNA合成およびDASL発現解析
【0140】
28例の元の前立腺癌試料および4例の対照からの総RNAを、Illumina DASL(商標)BeadChipプラットホームでの発現解析に付した。このcDNA媒介性アニーリング、選択、伸長および結紮検定(DASL)は、FFPE組織に由来するものを含めてRNAから発現プロフィールを生成するよう意図される(Fan et al., Genome Res. 14: 878-85, 2004)。DASL検定を、Illuminaからの標準ヒト癌パネル(10の公的に利用可能な癌遺伝子リストから収集された502の独特の癌遺伝子からなる(これらのリスト上のこのような遺伝子の出現頻度、ならびに癌に関連したこれらの遺伝子の文献引用頻度に基づいている))と、ならびにUniversal-16 BeadChipとともに用いた。標準Illuminaプロトコールに従って、検定を実施した(例えばIllumina BeadStation DASL(商標)システムマニュアル;Fan et al., Genome Res. 14: 878-85, 2004およびRavo et al., Lab. Invest. 88: 430-40, 2008参照)。要するに、Illuminaからのヒト癌パネルは、502の独特の癌遺伝子mRNAに関する選択プローブ群のプールを含み、各mRNAは3つの別個のプローブにより3つの位置で標的化される。
【0141】
各試料に関して、反応のための投入量を200ng(40ng/ul濃度で5ul)に正規化した。これを、メーカーの使用説明書に従って、ビオチニル化無作為九量体、オリゴ−デオキシチミジン18プライマーおよびIllumina供給試薬を用いて、cDNAに転化した。その結果生じたビオチニル化cDNAをアニーリングして、オリゴヌクレオチドを検定し、ストレプトアビジン共役常磁性粒子と結合して、cDNA/オリゴ複合体を選択した。オリゴ体ハイブリダイゼーション後、誤ハイブリダイズ化および非ハイブリダイズ化オリゴ体を洗い落とし、一方、結合オリゴ体を伸長させて、結紮し、共有PCRプライマーでその後増幅されるべき鋳型を生成した。蛍光標識相補鎖を、標準プロトコールに従って、Universal DASL 16×1ビーズチップとハイブリダイズさせた。Universal−16ビーズチップ・プラットホームは、16の個々のアレイで構成され、各試料に関して、3回の技術的反復を実施した。ハイブリダイゼーション後、Illuminaビーズアレイ読取機500系を用いてアレイを走査した。強度データ抽出および処理を、Bead Studio Gene Expression Module(GX バージョン3)を用いて実施した。
【0142】
転写物当たり3部位を分析し、例えば示差的遺伝子発現、ランク不変規格化を用いるクラスターリング、ならびにヒートマップに関するデータ解析はすべて、Bead Studio(Illumina)で実行した。ヒートマップは、各遺伝子の非正規化シグナルデータに関する対数(底2)変換ならびに平均シグナル減法を用いた。マップ上に赤色で示した値は、平均に比して過剰発現される;緑色で示す値は、平均に比して過少発現される;黒色で示した値は、平均に比して変化がない。
【0143】
DASL検定データ(下記で考察)の正当性を立証するために、以下の遺伝子:GAS1、TK1およびWNT5A(検定ID:Hs00266715_sl、Hs00177406_mlおよびHs00180103_ml)に関するTaqMan遺伝子発現検定(ABI)を用いて、メーカーの使用説明書に基づいて、試験試料に関してqRT−PCRを実施した。Illuminaプラットホームにおける標的配列に最も近い配列を尋問する検定を選択した(表6)。
【0144】
【表8】

【0145】
結果
癌DASL検定プール(DAP)において検定された502の遺伝子のうち、RNAメッセージは全試料に関するこれらの遺伝子のうちの367に関して検出可能であった。367の評価可能な遺伝子すべて、ならびに全試料(24例の再発または非再発前立腺癌試料、ならびに4例の対照乳房検体)に関して、ランク不変規格化を用いて、クラスター解析を実施した。対照乳癌試料(新たに単離されたRNA)は、前立腺癌試料とは別個に群れを成した(図2A参照)。さらに、乳癌細胞株MCF−7は、この細胞株を正常細胞と区別するプロフィールを発現した。これらのデータは、乳癌および前立腺癌に関する(Axelsen et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 104: 13122-7, 2007;Su et al., Cancer Res. 61: 7388-93, 2001)、ならびにMCF−7細胞株(Tsai et al., Cancer Res. 67: 3845-52, 2007)および正常検体(Axelsen et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 104: 13122-7, 2007)に関する予測される関係を確証し、前立腺癌試料のさらなる解析のためにこの検定の適合性を実証した。
【0146】
意外にも、図2Aに示したように、前立腺癌再発に関する明白な分子シグネチャーは、全遺伝子に関する全試料における教師なしクラスター解析で確定された。これらの予期せぬ結果に関する説明の1つは、前立腺試料から単離されたRNAは、癌が再発するかしないかという見込みとは関係なく、このような試料を一緒に群れにさせる混合品質のものであったというもの、そして新たに単離された対照RNAが対照試料に別個の一団を形成させる上品質を有した、というものである。
【0147】
図2Bに示したように、陰性対照試料プロットは、>300のシグナルを有する有意数のRNA試料を示したが、これは、関連性のないプローブとの試験試料の予期せぬ高い結合を示す。したがって、シグネチャーの確定は、特定試料に関して得られた検出の緊縮度によっていた。この結果は、元のRNA試料がqRT−PCRまたはBIOANALYZER(商標)検定により示されたよりも多く分解された場合に起こり得る。
【0148】
低背景反応性を有する9つの試料のサブセットを選択した。「低」背景を有する試料を、対照の新たに単離されたRNAに匹敵するシグナルを有するものと定義した。この試料サブセットのクラスター解析は、再発および非再発前立腺癌試料の遺伝子発現プロフィール間の明白な区別を示した(図2C)。
【0149】
合理的な遺伝子シグネチャーの確定は、特定試料に関して得られた検出の緊縮度に左右される。特に、関連性のないプローブと低結合であると定義された低陰性対照シグナルを有する試料は、最も信頼性が高いことが見出された。前立腺癌患者の本発明のコホートの遺伝子発現プロファイリングのための後者指示方法の結果は、実施例3でさらに詳細に説明する。
【0150】
本実施例は、FFPE組織から単離されたmRNAに関する高度多重解析を実行することの実現可能性を実証する。しかしながら、FFPEからのRNA品質は、新鮮な試料に比べてかなり劣化していた。よって、これらの解析のためのRNA試料の適合性を確定するために用いられる方法(単数または複数)は、さらなる考察を受け入れる。例えば、FFPE組織からのRNA品質は、高度発現ハウスキーピング遺伝子に関して、qRT−PCRのような代理検定からは、あるいは例えばBIOANALYZER(商標)におけるマイクロ流体分離により推論され得ない。
【0151】
有益には、無関連プローブ(すなわち、陰性対照プローブ)との試料の背景結合の確定は、FFPE試料を用いる遺伝子発現解析の目的のためのRNA品質の信頼できる指標として役立ち得る。
【実施例2】
【0152】
前立腺癌段階づけおよび再発
個体の臨床パラメーターを統計分析に付して、再発および非再発試料群間に有意差が存在するか否かを確定した(上記表4参照)。
【0153】
臨床パラメーター、例えば年齢、追跡調査期間、提示PSAおよびグリーソンスコアを、スチューデントt検定で評価して、非再発および再発被験者間の平均の差を査定した。フィッシャーの正確確率検定を用いて、Tスコアの割合の間の差を検出した。統計学的有意を、p<0.05で査定した。これらを、Stata 10統計学的ソフトウエア(StataCorp IC, College Station, TX)を用いて実行した。
【0154】
非再発および再発試料間の連続変数(年齢、追跡調査期間、提示PSAおよびグリーソンスコア)の中での差は、統計学的に有意でなかった(表7)。しかしながら段階T2を有する被験者の割合は、再発被験者と比較した場合、非再発被験者では統計学的に有意に高かった(表7)。段階T3を有する被験者の割合は、再発被験者と比較した場合、非再発被験者では統計学的に有意に低い、ということも観察された(表7)。
【0155】
【表9】

【0156】
本実施例は、腫瘍段階および癌再発を除いて、比較される種々の臨床パラメーターの中で、無痛性前立腺疾患を有する男性と、前立腺切除後に再発を示している進行性疾患を有する男性との間に有意差が認められなかった、ということを示す。非再発群よりも再発群のほうがより多数の患者が段階T3を有する(表7)が、しかし、同様に非再発群における高次腫瘍段階を有する患者の多数の症例が存在し、非再発症例のうちの2つは最初の外科手術の時点で閉鎖リンパ節転移(T4a)を有するため、これは癌再発の強力な予測因子ではあり得ない(表5)。これは、選択遺伝子が再発のより良好な予測因子であり、腫瘍の等級または段階とは無関係である、ということを示した以前の報告と一致する(Lapointe et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 101: 811-6, 2004)。
【実施例3】
【0157】
再発または非再発前立腺癌を有する患者の遺伝子発現プロファイリング
本実施例は、再発および非再発前立腺癌を有する患者において示差的に発現される遺伝子を提供する。このような情報は、患者が不必要に治療されないかおよび/または適切に治療されるよう、個別化治療決定するのを手助けするのに少なくとも有用である。
【0158】
実施例1に記載したように、9例の試料(再発前立腺癌を有する患者からの4例(TMA#52−R;TMA#36−R;TMA#38−R;TMA#51−R)および非再発前立腺癌を有する患者からの5例(TMA#58−NR;TMA#56−NR;TMA#63−NR;TMA#65−NR;TMA#23−NR))を、許容可能的低レベルの背景シグナル(すなわち無関係(陰性対照)プローブとの低結合性)に基づいて、継続的解析のために選択した。このような試料は、本開示全体を通して、適切な場合、呼称「NR」(すなわち非再発性)または「R」(すなわち再発性)とのいくつかの組合せで、少なくとも(または単に)数字(例えば、52、36,38等)でも呼ばれ得る。
【0159】
陰性対照オリゴヌクレオチドは、ヒトゲノム中に出現しない27の無作為配列を標的にする(Illumina Product Guide 2006/7)。これらのプローブの平均シグナルは、系背景を規定した。これらのプローブに関するシグナルの平均偏差は、ノイズを規定した。これは、背景の包括的測定値であり、画像形成系背景、ならびに染料の非特異的結合または交差ハイブリダイゼーションに起因する任意のシグナルを表した。Bead Studioアプリケーションは、遺伝子発現検出限界を確立するためにこれらのプローブのシグナルおよびシグナル標準偏差を用いた。
【0160】
解析用試料を選択するためにこれらの判定基準を用いた結果、前立腺癌の2つの群の間で有意に(検出p値≦0.001)示差的に発現されると同定された33遺伝子シグネチャー(表8)を生じ、再発したものとしなかったものとが明白に分類された。各試料中の33の遺伝子すべてに関する平均シグナルを、表9に示す。表9に示した検出p値は、試験試料を用いて特定プローブ組に関して検出されたシグナル−ノイズにおける信頼の測定値を表す。検出p値スコアを用いて、結果をフィルタリングして、その後の分析から特定のノイズ試料を除去し得る。本発明の結果に関しては、検出p値フィルタリングを適用しなかった。
【0161】
【表10】

【0162】
【表11】

【0163】
【表12】

【0164】
【表13】

【0165】
非再発試料に関する平均シグナル(遺伝子転写レベルと、したがって遺伝子発現レベルと関係がある)を、再発試料中の同一遺伝子に関する平均シグナルと(またはこの逆)比較することにより、2つの試料間の遺伝子の相対的発現を確定し得る。例えば、表9において、非再発試料23−NRにおけるWNT5Aに関する平均シグナルは2582.846であり、再発試料36−Rにおける平均シグナルは4704.357である。したがって、WNT5Aは、再発前立腺癌試料においてより高度に発現される。
【0166】
非再発試料のいずれかにおけるWNT5A遺伝子発現を比較することにより、再発試料のいずれかと比較した場合と同様の結果が得られるし、あるいは、非再発試料すべてからの平均シグナルの平均を取ることにより、再発試料のすべての平均シグナルの平均と比較した場合と同様の結果が得られる。このような遺伝子の相対的発現(例えば、再発前立腺癌におけるより高い発現、または再発前立腺癌におけるより低い発現)を確定するために、表9における遺伝子の各々に関して、類似の比較を実施し得る。表10は、表9で報告した再発および非再発試料からの遺伝子発現シグナルのこのような平均を示す。
【0167】
【表14】

【0168】
個々の再発および非再発試料に関する生データを比較した場合、表10の平均化発現データは、再発前立腺癌試料においてWNT5Aがより高度に発現される、ということを実証している。したがって、WNT5A発現増大は、ヒト患者における前立腺癌再発の見込み増大のマーカーの一例として役立ち得る。同様に、表10のデータは、再発前立腺癌試料において、TK1がより高度に発現され、GAS1は余り発現されない、ということを示す。したがって、TK1発現増大および/またはGAS1発現低減も、ヒト患者における前立腺癌再発の見込み増大の例示的マーカー(単数または複数)として役立ち得る。
【0169】
3例の遺伝子、WNT5A、TK1およびGAS1の発現を、より特定的に調べた。図3A〜Cは、9つの試料の各々におけるこのような遺伝子の相対的発現を示し、そして、少なくとも、これらの遺伝子の任意の1つまたは任意の組合せの発現により非再発前立腺癌がさらに区別され得る、ということを明瞭に実証する。WNT5AおよびTK1発現は、非再発症例と比較して再発症例で増大された(ぞれぞれ図3Aおよび3B)。これと対照して、GAS1発現は、再発症例と比較して、非再発症例で顕著に増大された(図3C)。
【0170】
本実施例は、無痛性前立腺癌腫におけるGAS1の過剰発現を実証する最初のものである。ラット去勢モデルを用いて、GAS1は、アポトーシスを受けている腹側前立腺の分泌上皮で上方調節されることが示されている(Bielke et al., Cell. Death Differ. 1997; 4: 114-24)。特定の機序に縛られることなく考えると、非再発症例におけるGAS1の発現増大は、増殖の抑制を生じるかまたはアポトーシスを増大する。
【0171】
再発および非再発患者群間の示差的発現を示す9試料のサブセットを、ABI TaqMan検定を用いてqRT−PCR分析に付して、DASL検定で得られたデータの正当性を立証した。qRT−PCR検定は、少なくともWNT5A、TK1およびGAS1に関して、DASL検定発現データを確証した。
【実施例4】
【0172】
GAS1、TK1およびWNT5Aを用いた遺伝子発現プロファイリング
より大きな試料組(表4、28被験者)を用いて、WNT5A、TK1およびGAS1に関して認められた示差的発現の有意を査定した。非再発群からの1つの外れ値試料(患者番号61)は、高背景シグナルを示し、さらにすべての遺伝子に非応答性であった。したがって、27の試料を分析した。
【0173】
WNT5A、TK1およびGAS1に関して27の個々の前立腺試料に関して記録された平均シグナル強度を、非パラメトリックなマン・ホイットニーU検定で解析した。2つのデータ組が別個の分布から得られるという信頼度を測定するマン・ホイットニーU検定は、WNT5AおよびGAS1に関する再発および非再発試料がp<0.05のレベルで統計学的に有意である差を示す、ということを示した。TK1に関する非再発および再発間の示差的発現は、p<0.01で有意であった(表11)。TK1の発現と再発との間に顕著な相関が認められた。TK1に関して、非再発試料は低発現レベルで見出され、再発試料はより高い発現レベルで存在するように思われる。GAS1およびWNT5Aも多少の相関を示すが、しかしTK1よりもGAS1およびWNT5Aに関して、より多くの再発および非再発試料が全発現レベルで見出される。したがって、この試料組に関しては、非再発および再発試料に関する発現レベルの分布は、3つの遺伝子の各々に関して異なった。
【0174】
【表15】

【0175】
従来の試験は、WNT5A、GAS1およびTK1に関する別個の再発および非再発分布を実証したが、しかしこれらの分布は重複しており、再発を確実に予測するそれらの能力は別々の問題であって、これはロジスティック回帰モデルを用いて査定された。ロジスティック回帰分析を用いて、WNT5A、TK1およびGAS1のその発現レベルに基づいた個々の患者に関する再発の確率を予測するモデルを開発した。このようなモデルの予測を評価するために一般に用いられる統計値は、結果から構築される受診者動作特性(ROC)曲線下面積(AUC)である。AUCは、無作為選択再発患者が無作為選択非再発患者より高いロジスティックモデルスコアを有する確率を表す。2つの交差妥当化法を用いて、AUCを概算した;leave-one-out交差妥当化(LOOCV)および6倍交差妥当化。両方法は、試料を訓練組(ロジスティックモデルパラメーターを較正するために用いられる)と試験組に分配し、これから、AUCが確定される。試料が少数であるため、100例の無作為選択試験症例を用いて、AUC概算を改良するために、ブートストラップ再試料採取を用いた。leave-one-out交差妥当化の場合、他の試料のすべてに関して訓練されたモデルに対して各試料を試験し、結果を組合せて、単一ROC曲線を構築した。
【0176】
ロジスティック回帰モデルを27試料の全組に適合させて、ROC曲線を構築して、モデルがデータと如何に良好に適合するかを評価した。3つの遺伝子パネルに関して、0.846というROC曲線下面積(AUC)を達成した(図4)。これは、Laxman等(Cancer Res. 68: 645-9, 2008)により近年同定された遺伝子パネル(SPINK1、PCA3、GOLPH2およびTMPRSS2:ERG)に関する0.758というAUC、ならびにPSA血清試験に関する0.508というAUCと都合よく匹敵する。したがって、いくつかの例では、開示された方法は、少なくとも0.846のAUCを有する。
【0177】
モデル訓練組に含まれない試料に関する再発を予測するモデルの能力を査定した。ブートストラップ法およびleave-one-out交差妥当化の両方を用いた。ブートストラップ法を用いて0.734というAUCが見出され、そして0.690というAUCがleave-one-out交差妥当化技法を用いて判明した。比較のために、Laxman等(Cancer Res. 68: 645-9, 2008)は、leave-one-out法を用いて、それらの遺伝子パネルに関して0.736のAUCを算定した。したがって、いくつかの例では、開示された方法は、少なくとも0.690、例えば少なくとも0.734、少なくとも0.75、少なくとも0.8または少なくとも0.85のAUCを有する。例えば、少なくともGAS1、WNT5AおよびTK1発現レベルが前立腺癌組織試料で確定される場合、試料が得られる被験者の予後の確定の感度および特異性は、少なくとも70%、例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも95%または少なくとも98%である。
【0178】
前立腺癌再発を予測するために低複雑性分子シグネチャーを同定する目的で、広範に利用可能な保管FFPE組織から回収されるmRNAに基づいて、高多重化バイオマーカー検定を利用して、本明細書中で提供される実施例を実施したが、これは、ルーチンの臨床病理学業務に利用され得る。本明細書中で提供される結果は、例えば前立腺切除術後に再発するかまたは再発しない前立腺癌間を区別するためにその発現(独立してまたは任意の組合せでの)が用いられ得る多数の遺伝子(表8)を提供する。したがって、表8の遺伝子のうちの任意の1つまたは複数(例えば任意の2つ、3つ、4つ、5つまたは6つ)、あるいは任意の組合せは、(少なくとも)患者における前立腺癌再発の見込みを確定するために用いられ得る。この方法により同定される遺伝子シグネチャーの一例は、WNT5AおよびTK1の過剰発現により、ならびにGAS1の下方調節により特徴づけられる。この新規の3遺伝子シグネチャーは、追跡調査の少なくとも5年前に取り出された外科的検体中の再発および非再発前立腺癌を区別する。本明細書中の結果は、さらに、前立腺癌再発の見込みを予測するこれら3つの遺伝子の能力がPSA血清試験より有意に良好である、ということを示す。
【実施例5】
【0179】
発現を検出するためのin situハイブリダイゼーション
本実施例は、in situハイブリダイゼーション、例えばFISHまたはCISHを用いて遺伝子発現を検出するために用いられ得る例示的方法を提供する。特定の材料および方法が提供されるが、しかし変更は成され得ると当業者は理解する。
【0180】
前立腺癌組織試料、例えばFFPE試料を、試料中に存在する核酸分子の検出を可能にする条件下で顕微鏡スライド上に封入した。例えば、試料中のcDNAまたはmRNAを検出し得る。極高または高緊縮条件下で試料中のcDNAまたはmRNAとハイブリダイズするために十分な相補性を有する核酸プローブとともに、スライドをインキュベートする。プローブは、RNAまたはDNAであり得る。GAS1、TK1およびWNT5A核酸配列(例えばヒト配列)に特異的である別個のプローブを、試料とともに同時的にまたは逐次的にインキュベートするか、あるいは試料の連続切片とともにインキュベートする。例えば、各プローブは、3つのプローブ間の区別を可能にするために異なる蛍光体または色原体を含み得る。プローブとその遺伝子標的とのハイブリダイゼーションを可能にする条件下でプローブを試料と接触させた後、非ハイブリダイズ化プローブを除去し(例えば洗い落とし)、例えば、顕微鏡を用いて残留シグナルを検出する。いくつかの例では、シグナルは定量される。
【0181】
いくつかの例では、例えば、表8に列挙された1つまたは複数の他の遺伝子、あるいは1つまたは複数のハウスキーピング遺伝子(例えばβアクチン)の発現を検出するために、さらなるプローブが用いられる。いくつかの例では、GAS1、TK1およびWNT5Aの発現は、(同一プローブを用いて)対照試料、例えば乳癌細胞、再発前立腺癌を有したことがない被験者からの前立腺癌細胞、再発前立腺癌を有した被験者からの前立腺癌細胞、あるいは正常(非癌)細胞でも検出される。
【0182】
GAS1、TK1およびWNT5Aに関する結果的に生じたハイブリダイゼーションシグナルを、対照、例えば非再発癌または再発癌におけるGAS1、TK1およびWNT5A発現を表す値と比較する。非再発癌におけるGAS1、TK1およびWNT5A発現を表す値と比較して、TK1およびWNT5Aの発現が増大され、GAS1の発現が低減される場合、これは、癌が再発すると思われるので被験者が予後不良(例えば1または2年未満の生存)を有する、ということを示す。同様に、再発癌におけるGAS1、TK1およびWNT5A発現を表す値に比してGAS1、TK1およびWNT5A発現が同様である場合、これは、癌が再発すると思われるので被験者が予後不良を有する、ということを示す。非再発癌におけるGAS1、TK1およびWNT5A発現を表す値に比してGAS1、TK1およびWNT5A発現が同様である(例えば差が2倍以下)場合、これは、癌が再発しないと思われるので被験者が良好な予後を有する、ということを示す。
【実施例6】
【0183】
発現を検出するための核酸増幅
本実施例は、核酸増幅方法、例えばPCRを用いて、遺伝子発現を検出するために用いられ得る例示的方法を提供する。試料中の標的核酸分子の増幅は、結果的に生じるアンプリコンの検出を可能にし、したがって標的核酸分子の発現の検出を可能にする。特定の材料および方法が提供されるが、しかし変更が成され得ると当業者は理解する。
【0184】
前立腺癌組織試料、例えばFFPE試料または新鮮な組織試料(例えば外科手術検体)から、RNAを抽出する。RNAの抽出方法は当該技術分野では慣例であり、例示的方法は、本開示の他の箇所で提示されている。例えば、市販のキットを用いてRNAを抽出し得る。その結果生じたRNAを、実施例1に記載したように分析して、それが適切な質および量を有するか否かを確定し得る。
【0185】
その結果生じたRNAは、例えばRT−PCR、例えばqRT−PCRを用いて、DNAを生成するために用いられ得る。PCTを実施する方法は、当該技術分野で慣例である。例えばRNAを、標的遺伝子(例えば、GAS1、WNT5AおよびTK1)に特異的な一対のオリゴヌクレオチドプライマーとともにインキュベートする。このようなプライマーは、極高または高緊縮条件下でRNAとハイブリダイズするために十分な相補性を有する。GAS1、TK1およびWNT5A核酸配列(例えばヒト配列)に特異的なプライマー対を、別個のRNA試料とともにインキュベートする(例えば3つの別個のPCR反応を実施する)か、あるいは複数のプライマー対を、単一試料とともにインキュベートし得る(例えば、プライマー対が示差的に標識されて、各プライマー対から生成されるアンプリコン間の区別を可能にする場合)。例えば、各プライマー対は、アンプリコン間の区別を可能にするために異なる蛍光体を含み得る。アンプリコンは実時間で検出され得るし、あるいは増幅反応後に検出され得る。アンプリコンは、通常は、例えば分光法を用いて、アンプリコンと会合された標識を検出することにより検出され得る。いくつかの例では、シグナルは定量される。
【0186】
いくつかの例では、例えば、表8に列挙された1つまたは複数の他の遺伝子、あるいは1つまたは複数のハウスキーピング遺伝子(例えばβアクチン)の発現を検出するために、さらなるプライマー対が用いられる。いくつかの例では、GAS1、TK1およびWNT5Aの発現は、(同一プローブを用いて)対照試料、例えば乳癌細胞、再発前立腺癌を有したことがない被験者からの前立腺癌細胞、再発前立腺癌を有した被験者からの前立腺癌細胞、あるいは正常(非癌)細胞でも検出される。
【0187】
GAS1、TK1およびWNT5Aに関する結果的に生じたアンプリコンシグナルを、対照、例えば非再発癌または再発癌におけるGAS1、TK1およびWNT5A発現を表す値と比較する。非再発癌におけるGAS1、TK1およびWNT5A発現を表す値と比較して、TK1およびWNT5Aの発現が増大され、GAS1の発現が低減される場合、これは、癌が再発すると思われるので被験者が予後不良(例えば、1または2年未満生存)を有する、ということを示す。同様に、再発癌におけるGAS1、TK1およびWNT5A発現を表す値に比してGAS1、TK1およびWNT5A発現が同様である場合、これは、癌が再発すると思われるので被験者が予後不良を有する、ということを示す。非再発癌におけるGAS1、TK1およびWNT5A発現を表す値に比してGAS1、TK1およびWNT5A発現が同様である(例えば差が2倍以下)場合、これは、癌が再発しないと思われるので被験者が良好な予後を有する、ということを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前立腺癌組織の特徴づけ方法であって、対照標準と、あるいは対照試料における予後遺伝子の発現と比較した場合の、前立腺癌を有する被験者からの前立腺組織試料において、WNT5A、TK1またはGAS1あるいはその任意の組合せを含む1つまたは複数の予後遺伝子の発現レベルを確定することを包含する方法であり、対照標準または対照試料における予後遺伝子の発現と比較した場合の前立腺組織試料におけるWNT5A、TK1またはGAS1あるいはその任意の組合せの示差的発現が前立腺癌組織を特徴づける方法。
【請求項2】
前立腺癌組織を特徴づけすることが、前立腺切除後の疾患再発の見込みを予測すること、あるいは前立腺癌進行の見込みを予測することを包含する請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記1つまたは複数の予後遺伝子が、表8に列挙される任意の1つまたは複数の他の遺伝子または他の遺伝子の組合せをさらに含む請求項2記載の方法であって、前記他の遺伝子の発現増大が被験者における前立腺癌の再発の見込みがより低いことを示し、そして前記他の遺伝子がWNT5A、TK1またはGAS1でない方法。
【請求項4】
前記発現レベルを確定することが、前記1つまたは複数の予後遺伝子の各々の発現産物のレベルを測定することを包含する請求項1、2または3記載の方法。
【請求項5】
前記発現産物がmRNAまたはタンパク質である請求項1、2または3記載の方法。
【請求項6】
前記発現レベルを確定することが前記1つまたは複数の予後遺伝子の前記ゲノム配列(単数または複数)における変更(単数または複数)を検出することを包含する請求項1、2または3記載の方法。
【請求項7】
前記ゲノム配列における前記変更が少なくとも1つのWNT5AまたはTK1対立遺伝子の増幅、あるいは少なくとも1つのGAS1対立遺伝子の欠失である請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記1つまたは複数の予後遺伝子がWNT5A、TK1またはGAS1あるいはその任意の組合せからなる請求項1または2記載の方法。
【請求項9】
前記予後遺伝子がGAS1を含む請求項1または2記載の方法。
【請求項10】
前記1つまたは複数の予後遺伝子がWNT5A、TK1およびGAS1からなる請求項5記載の方法。
【請求項11】
前記前立腺組織試料が固定され、蝋包埋された前立腺組織試料である請求項1または2記載の方法。
【請求項12】
前記前立腺試料が前立腺癌診断後に、且つ、被験者における前立腺切除前に収集される請求項2記載の方法。
【請求項13】
前記前立腺組織試料が前立腺切除中に除去された組織から収集される請求項2記載の方法。
【請求項14】
疾患再発が前記前立腺切除の5年以内に起きる請求項2記載の方法。
【請求項15】
前立腺癌進行の見込みを予測するためのキットであって、生物学的試料において、WNT5Aゲノム配列、WNT5A転写物またはWNT5Aタンパク質を検出するための手段、生物学的試料において、TK1ゲノム配列、TK1転写物またはTK1タンパク質を検出するための手段、あるいは生物学的試料において、GAS1ゲノム配列、GAS1転写物またはGAS1タンパク質を検出するための手段、あるいは前記のいずれかの任意の組合せを包含するキット。
【請求項16】
生物学的試料において、WNT5A転写物またはタンパク質を検出するための手段、生物学的試料において、TK1転写物またはタンパク質を検出するための手段、ならびに生物学的試料において、GAS1転写物またはタンパク質を検出するための手段を包含する請求項15記載のキット。
【請求項17】
WNT5A転写物に特異的な核酸プローブ、TK1転写物に特異的な核酸プローブ、ならびにGAS1転写物に特異的な核酸プローブを包含する請求項15記載のキット。
【請求項18】
WNT5A転写物の特異的増幅のための一対のプライマー、TK1転写物の特異的増幅のための一対のプライマー、ならびにGAS1転写物の特異的増幅のための一対のプライマーを包含する請求項15記載のキット。
【請求項19】
WNT5Aタンパク質に特異的な抗体、TK1タンパク質に特異的な抗体、ならびにGAS1タンパク質に特異的な抗体を包含する請求項15記載のキット。
【請求項20】
以下の:
WNT5A転写物に特異的な核酸プローブ、TK1転写物に特異的な核酸プローブ、GAS1転写物に特異的な核酸プローブ、WNT5A転写物の特異的増幅のための一対のプライマー、TK1転写物の特異的増幅のための一対のプライマー、GAS1転写物の特異的増幅のための一対のプライマー、WNT5Aタンパク質に特異的な抗体、TK1タンパク質に特異的な抗体、ならびにGAS1タンパク質に特異的な抗体
からなる群から選択される少なくとも2つの検出手段を包含する請求項15記載のキット。
【請求項21】
以下の:
WNT5A転写物に特異的な核酸プローブ、TK1転写物に特異的な核酸プローブ、GAS1転写物に特異的な核酸プローブ、WNT5A転写物の特異的増幅のための一対のプライマー、TK1転写物の特異的増幅のための一対のプライマー、GAS1転写物の特異的増幅のための一対のプライマー、WNT5Aタンパク質に特異的な抗体、TK1タンパク質に特異的な抗体、ならびにGAS1タンパク質に特異的な抗体
からなる群から選択される少なくとも3つの検出手段を包含する請求項20記載のキット。
【請求項22】
以下の:
ハウスキーピング遺伝子転写物に特異的な核酸プローブ、ハウスキーピング遺伝子転写物の特異的増幅のための一対のプライマー、ならびにハウスキーピングタンパク質に特異的な抗体
からなる群から選択される検出手段をさらに包含する請求項20または21記載のキット。
【請求項23】
以下の遺伝子の各々からの転写物に特異的な核酸プローブからなるアレイ:CDC25C、E2F5、MMP3、CYP1A1、FGF8、WNT5A、CHEK1、CSF2、CDC2、IL1A、ALK、MYBL2、MYCL1、MYCN、TERT、ALOX12、BRCA2、FANCA、GAS1、LMO1、PLG、TDGF1、TK1、BLM、MSH2、NAT2、DMBT1、FLT3、GF11、MOS、TP73、HMMRおよびINHA。
【請求項24】
WNT5A転写物、TK1転写物およびGAS1転写物に特異的な核酸プローブからなるアレイ。
【請求項25】
WNT5A転写物、TK1転写物およびGAS1転写物ならびにハウスキーピング転写物に特異的な核酸プローブからなるアレイ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公表番号】特表2010−538658(P2010−538658A)
【公表日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−525066(P2010−525066)
【出願日】平成20年9月15日(2008.9.15)
【国際出願番号】PCT/US2008/076407
【国際公開番号】WO2009/036427
【国際公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(599075070)ベンタナ・メデイカル・システムズ・インコーポレーテツド (31)
【Fターム(参考)】