説明

剛性に優れた高強度薄鋼板およびその製造方法

【課題】板厚が1.6 mm以下の薄鋼板でも、引張強度が1180MPa以上と高く、かつ圧延直角方向のヤング率が230GPa以上を満足する剛性に優れた高強度薄鋼板を提供する。
【解決手段】質量%で、C:0.12〜0.20%、Si:0.5〜1.5%、Mn:1.0〜3.0%、P:0.05%以下、S:0.01%以下、Al:0.5%以下、N:0.01%以下およびTi:0.02〜0.20%を含有し、かつ次式(1),(2)に示す関係を満足し、残部はFeおよび不可避的不純物からなる組成とし、面積率で、フェライト相:50%以上、マルテンサイト相:35〜45%で、かつフェライト相とマルテンサイト相の合計が95%以上であり、フェライトの平均粒径が4.0μm以下、マルテンサイトの平均粒径が3.0μm以下である組織とし、さらに圧延直角方向の引張強さ(TS)が1180MPa以上、ヤング率が230 GPa以上で、引張強さ(TS)と全伸び(EL)との積で表わされる強度−伸びバランス(TS×EL)が15000MPa・%以上とする。
0.11≦[%C]−(12/47.9)×[%Ti*]≦0.15 --- (1)
ここで、Ti*=[%Ti]−(47.9/14)×[%N]−(47.9/32.1)×[%S] --- (2)
[%M]はM元素の含有量(質量%)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として自動車の車体用として好適な剛性に優れた高強度薄鋼板およびその製造方法に関する。本発明の高強度薄鋼板は、自動車のセンターピラー、サイドシル、サイドフレームおよびクロスメンバーなど、剛性の板厚感受性指数が1に近いコラム状あるいはそれに近い断面形状の構造用部材に適用して好適なもので、1180MPa以上の引張強度を有し、かつ延性にも優れている。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境問題に対する関心の高まりを受けて、自動車でも排ガス規制が行われるなど、自動車における車体の軽量化は極めて重要な課題である。そのため、鋼板の高強度化により板厚を減少させることによって、車体の軽量化が図られているが、最近では、鋼板の高強度化が顕著に進んだ結果、板厚:1.6 mmを下回るような鋼板の使用が増加しており、部品によっては引張強度が1180MPa以上の鋼板を使用するケースもあり、このような高強度化による軽量化のためには、薄肉化による部品剛性の低下を同時に改善することが不可欠になってきている。鋼板の薄肉化による部品剛性低下の問題は、引張強度が590MPa以上の鋼板で顕在化してきている。
【0003】
一般に、部品の剛性を高めるには、部品形状を変更したり、またスポット溶接がなされている部品に対しては、溶接点を増加するか、あるいはレーザ溶接に切り替えるなどの溶接条件を変更することが有効とされている。
しかし、自動車用部品として用いられる場合、自動車内の限られた空間で部品形状を変更することは容易ではないし、また溶接条件の変更にしてもコストの増加を伴うなどの問題がある。
【0004】
そこで、部品形状や溶接条件を変更することなく、部品の剛性を高めるためには、部品に使用される部材のヤング率を高めることが有効となる。
ヤング率は、集合組織に強く支配され、体心立方格子である鋼の場合は、原子の最稠密方向である<111>方向が最も高く、逆に原子密度の小さい<100>方向が最も小さいことが知られている。結晶方位に異方性の小さい通常の鉄のヤング率は、およそ210GPa程度であることは広く知られているが、結晶方位に異方性を持たせ、特定方向の原子密度を高めることができれば、その方向のヤング率を高めることが可能となる。
【0005】
従来より、鋼板のヤング率に関しては、集合組織を制御することで特定方向のヤング率を高めることが種々検討されてきている。
例えば、特許文献1には、極低炭素鋼にNbまたはTiを添加した鋼を用い、熱間圧延工程において、Ar3〜(Ar3+150℃)の温度域での圧下率を85%以上とすることにより、未再結晶オーステナイトからのフェライト変態を促進させることで、熱延板段階で{311}<011>方位および{332}<113>方位のフェライトを発達させ、その後の冷延、再結晶焼鈍により、{211}<011>を主方位として、圧延方向と直角方向のヤング率を高める技術が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、C量が0.02〜0.15%の低炭素鋼にNbやMo,Bを添加し、Ar3〜950℃の温度域での圧下率を50%以上とすることで、{211}<011>方位を発達させることによって、ヤング率を高めた熱延鋼板の製造方法が開示されている。
【0007】
さらに、特許文献3および4には、低炭素鋼にNb添加した鋼を用い、炭窒化物として固定されないC量を規定すると共に、熱間圧延工程において950℃以下での総圧下量を30%以上として、未再結晶オーステナイトからのフェライト変態を促進させることで、熱延板段階で{113}<110>方位のフェライトを発達させ、その後の冷延、再結晶焼鈍により、{112}<110>を主方位として、圧延方向と直角方向のヤング率を高める技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5-255804号公報
【特許文献2】特開平8-311541号公報
【特許文献3】特開2006-183131号公報
【特許文献4】特開2005-314792号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前述した従来技術には、以下に述べるような問題があった。
すなわち、特許文献1に開示の技術は、C量が0.01%以下の極低炭素鋼を用い、集合組織を制御することで、鋼板のヤング率を高めているが、得られる引張強度はせいぜい450 MPa程度にすぎず、この技術の適用によってさらなる高強度化を図るには限界があった。
【0010】
特許文献2に開示の技術は、対象とする鋼板が熱延鋼板であるため、冷間加工による集合組織制御を利用することができず、一層の高ヤング率化は困難であるだけでなく、板厚が2.0mmを下回るような高強度鋼板を低温仕上げ圧延により安定的に製造することも難しいという問題があった。
【0011】
特許文献3に開示の技術は、合金添加量を増加させ、マルテンサイト分率を増加させることによって引張強度を上昇させているが、全伸びが低くなっており、強度−伸びバランス(TS×El)も低下することから、高強度化に併せて加工性も向上することは難しかった。
また、特許文献3および4に開示の技術は、熱間圧延工程において950℃以下での総圧下量を30%以上とすることでヤング率を高めているが、950℃以下の温度域は圧延荷重が高いため総圧下量:30%以上を確保することが難しいという問題があった。
【0012】
このように、従来の技術は、高ヤング率化に関しては、板厚の厚い熱延鋼板や軟質鋼板を対象にしたものや、強度レベルが980MPa級までのもの、高強度材であっても延性に乏しいもの、製造性に困難を伴うものであるため、かような従来技術を用いて、板厚が1.6mm以下でTSが1180MPa以上の高強度鋼板において、高延性でありながら高ヤング率化することは困難であった。
【0013】
本発明は、上記の課題を解決したもので、圧延直角方向の引張強度が1180MPa以上と高く、かつ圧延直角方向のヤング率が230GPa以上を満足する剛性に優れた高強度薄鋼板を、その有利な製造方法と共に提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
さて、鋼のヤング率は、集合組織に大きく依存し、体心立方格子である普通鋼の場合は、原子の最密方向である<111>方向で高く、逆に原子密度の小さい<100>方向で低いことから、(112)[1-10]方位を発達させれば 、鋼板の圧延直角方向に<111>方向が揃うため、この方向のヤング率を高めることができる。
また、鋼の強化法には種々の方法があり、例えば、軟質なフェライト相を硬質なマルテンサイト相で強化したDP鋼は、概ね良好な延性を持つことが知られているが、980MPa以上の超高強度鋼ではマルテンサイト相の体積率が総じて高くなる傾向があるため、延性が低下するだけでなく、圧延直角方向のヤング率を高めるのに効果的な(112)[1-10]方位を発達させることが難しかった。
【0015】
そこで、発明者らは、上記の問題を解決すべく、TSが1180MPa以上の高強度薄鋼板において、圧延方向に対して直角方向のヤング率について検討したところ、固溶強化、微細化強化、析出強化を利用することで、TSが1180MPa以上の超高強度においてもマルテンサイトの体積率を低く抑えることが可能となり、かつフェライトを(112)[1-10]への集積を高め ることで、高延性でありながら高強度化と高剛性化の両立を図れることを見出した。
本発明は、上記の知見に立脚するものである。
【0016】
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.質量%で、C:0.12〜0.20%、Si:0.5〜1.5%、Mn:1.0〜3.0%、P:0.05%以下、S:0.01%以下、Al:0.5%以下、N:0.01%以下およびTi:0.02〜0.20%を含有し、かつ下記(1)式および(2)式に示す関係を満足し、残部はFeおよび不可避的不純物からなる組成を有し、
面積率で、フェライト相:50%以上、マルテンサイト相:35〜45%で、かつフェライト相とマルテンサイト相の合計が95%以上であり、フェライトの平均粒径が4.0μm以下、マルテンサイトの平均粒径が3.0μm以下である組織を有し、
圧延直角方向の引張強さ(TS)が1180MPa以上、ヤング率が230 GPa以上で、引張強さ(TS)と全伸び(EL)との積で表わされる強度−伸びバランス(TS×EL)が15000MPa・%以上であることを特徴とする剛性に優れた高強度薄鋼板。

0.11≦[%C]−(12/47.9)×[%Ti*]≦0.15 --- (1)
ここで、Ti*=[%Ti]−(47.9/14)×[%N]−(47.9/32.1)×[%S] --- (2)
[%M]はM元素の含有量(質量%)
【0017】
2.前記鋼板が、前記組成に加えて、さらに質量%で、Nb:0.02〜0.10%を含有し、かつ前記(1)式に代えて下記式(3)の関係を満足することを特徴とする前記1に記載の剛性に優れた高強度薄鋼板。

0.11≦[%C]−(12/92.9)×[%Nb]−(12/47.9)×[%Ti*]≦0.15 --- (3)
ここで、[%M]はM元素の含有量(質量%)
【0018】
3.前記鋼板が、前記組成に加えて、さらに質量%で、Cr:0.1〜1.0%、Ni:0.1〜1.0%、Mo:0.1〜1.0%、Cu:0.1〜2.0%およびB:0.0005〜0.0030%のうちから選んだ一種または二種以上を含有することを特徴とする前記1または2に記載の剛性に優れた高強度薄鋼板。
【0019】
4.質量%で、C:0.12〜0.20%、Si:0.5〜1.5%、Mn:1.0〜3.0%、P:0.05%以下、S:0.01%以下、Al:0.5%以下、N:0.01%以下およびTi:0.02〜0.20%を含有し、かつC,N,SおよびTiの含有量が下記(1)式および(2)式に示す関係を満足し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成からなる鋼素材を、熱間圧延工程において、仕上圧延を850〜950℃で終了したのち、650℃以下で巻取り、酸洗後、60%以上の圧下率で冷間圧延を行ったのち、焼鈍工程において、(Ac1−100℃)からAc1までの平均昇温速度:15℃/s以上の速度で780〜880℃の均熱温度まで加熱し、該均熱温度で150s以下の時間保持したのち、少なくとも350℃までの平均冷却速度を5〜50℃/sとして350℃以下まで冷却することを特徴とする剛性に優れた高強度薄鋼板の製造方法。

0.11≦[%C]−(12/47.9)×[%Ti*]≦0.15 --- (1)
ここで、Ti*=[%Ti]−(47.9/14)×[%N]−(47.9/32.1)×[%S] --- (2)
[%M]はM元素の含有量(質量%)
【0020】
5.前記鋼素材が、前記組成に加えて、さらに質量%で、Nb:0.02〜0.10%を含有し、かつ前記(1)式に代えて下記式(3)の関係を満足することを特徴とする前記4に記載の剛性に優れた高強度薄鋼板の製造方法。

0.11≦[%C]−(12/92.9)×[%Nb]−(12/47.9)×[%Ti*]≦0.15 --- (3)
【0021】
6.前記鋼素材が、前記組成に加えて、さらに質量%で、Cr:0.1〜1.0%、Ni:0.1〜1.0%、Mo:0.1〜1.0%、Cu:0.1〜2.0%およびB:0.0005〜0.0030%のうちから選んだ一種または二種以上を含有することを特徴とする前記4または5に記載の剛性に優れた高強度薄鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、引張強度が1180MPa以上で、圧延直角方向のヤング率が230GPa以上、より好ましくは235GPa以上で、しかもTS×Elが15000MPa・%以上を満足する高強度薄鋼板を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を具体的に説明する。
まず、本発明において鋼板の成分組成を前記の範囲に限定した理由について説明する。なお、鋼板の成分組成における元素の含有量の単位はいずれも「質量%」であるが、以下、特に断らない限り単に「%」で示す。
【0024】
C:0.12〜0.20%
Cは、オーステナイトを安定化させる元素であり、冷間圧延後の焼鈍時における冷却過程において、焼入れ性を高め、低温変態相の生成を大きく促進させることで、高強度化に大きく寄与することができる。ここに、1180MPa以上の高強度を得るためには、C含有量は0.12%以上とする必要がある。一方、C含有量が0.20%よりも多くなると、硬質な低温変態相の分率が大きくなり、鋼が極端に高強度化するだけでなく、加工性が劣化してしまう。また、多量Cの含有は、冷間圧延後の焼鈍工程において、高ヤング率化に有利な方位の再結晶を抑制してしまう。さらに、多量Cの含有は、溶接性の劣化も招く。このため、C含有量は0.20%以下とする必要がある。好ましくは0.18%以下である。より好ましくは0.16%以下である。
【0025】
Si:0.5〜1.5%
Siは、本発明における重要な元素の1つである。Siは、熱間圧延において、Ar3変態点を上昇させることから、Ar3直上での圧延を行う際に、加工オーステナイトの再結晶が促進されるため、1.5%を超える多量のSiを含有させた場合には、高ヤング率化に必要な結晶方位を得ることができなくなる。また、多量のSi添加は、鋼板の溶接性を劣化させるだけでなく、熱間圧延工程での加熱時に、スラブ表面におけるファイヤライトの生成を促進させ、いわゆる赤スケールと呼ばれる表面模様の発生を助長する。さらに、冷延鋼板として使用される場合には、表面に生成するSi酸化物が化成処理性を劣化させ、また溶融亜鉛めっき鋼板として使用される場合には、表面に生成するSi酸化物が不めっきを誘発する。このため、Si含有量は1.5%以下とする必要がある。なお、表面性状を必要とする鋼板や 溶融亜鉛めっき鋼板の場合には、Si含有量を1.2%以下とすることが好ましい。
一方、Siは、フェライトを安定化させる元素であり、冷間圧延後の焼鈍工程における二相域均熱後の冷却過程において、フェライト変態を促進し、オーステナイト中にCを濃化させることで、オーステナイトを安定化させ、低温変態相の生成を促進することができる。さらに、Siは固溶強化により鋼の強度を高めることが可能である。このような効果を得るためには、Si含有量は0.5%以上とする必要がある。好ましくは0.7%以上である。
【0026】
Mn:1.0〜3.0%
Mnも、本発明における重要な元素の1つである。Mnは、オーステナイト安定化元素であり、冷間圧延後の焼鈍工程における加熱過程において、Ac1変態点を低下させ、未再結晶フェライトからのオーステナイト変態を促進し、均熱後の冷却過程において生成する低温変態相の方位に関し、ヤング率の向上に有利な方位を発達させることができ、低温変態相の生成に伴うヤング率の低下を抑制することができる。
また、Mnは、焼鈍工程における均熱焼鈍後の冷却過程においては、焼入れ性を高め、低温変態相の生成を大きく促進させることで、高強度化に大きく寄与することもできる。さらに、固溶強化元素として作用することで、鋼の高強度化にも寄与する。このような効果を得るためには、Mn含有量は1.0%以上とする必要がある。
一方、3.0%を超える多量Mnの含有は、焼鈍後の冷却時にフェライトの生成を著しく抑制し、さらに多量のMn含有は鋼板の溶接性も劣化させてしまう。従って、Mn含有量は3.0%以下とし、より好ましくは2.5%以下である。
【0027】
P:0.05%以下
Pは、粒界に偏析して、鋼板の延性および靱性を低下させるだけでなく、溶接性も劣化させる。また、合金化溶融亜鉛めっき鋼板として使用する場合には、合金化速度を遅延させる不都合が生じる。このため、P含有量は0.05%以下とした。
【0028】
S:0.01%以下
Sは、熱延での延性を著しく低下させて熱間割れを誘発し、表面性状を著しく劣化させる。また、Sは、不純物元素として粗大なMnSを形成することにより、延性および穴拡げ性を低下させるため、極力低減することが望ましい。これらの問題はS量が0.01%を超えると顕著となるため、S量は0.01%以下とした。なお、穴拡げ性をとくに向上させる観点からは、S量は0.005%以下とすることが好ましい。
【0029】
Al:0.5%以下
Alは、フェライト安定化元素であり、焼鈍時のAc3点を大きく上昇させることから、未再結晶フェライトからのオーステナイト変態を抑制することによって、冷却時のオーステナイトからフェライトが生成する際に、ヤング率に有利な方位の発達を妨げることになる。このため、Al含有量は0.5%以下とした。好ましくは0.1%以下である。一方、Alは、鋼の脱酸元素として有用であるため、Al含有量は0.01%以上とすることが好ましい。
【0030】
N:0.01%以下
Nは、多量に含有すると、熱間圧延中にスラブ割れを伴い、表面疵が発生するおそれがある。従って、N量は0.01%以下とする必要がある。
【0031】
Ti:0.02〜0.20%
Tiは、本発明における最も重要な元素である。すなわち、Tiは、焼鈍工程における加熱過程において、加工フェライトの再結晶を抑制することによって、未再結晶フェライトからのオーステナイト変態を促進させ、焼鈍後の冷却過程において生成するフェライトに関して、ヤング率の向上に優位な方位を発達させることができる。また、Tiの微細析出物は、強度の上昇に寄与し、さらにフェライトおよびマルテンサイトの微細化にも有利に作用する。このような作用を得るためには、Ti含有量を0.02%以上とする必要がある。好ましくは0.04%以上である。
一方、多量のTiを添加しても、通常の熱間圧延工程における再加熱時においては、炭窒化物を全量固溶させることができず、粗大な炭窒化物が残るため、かえって強度上昇効果や再結晶抑制効果が阻害される。また、連続鋳造からスラブを一旦冷却したのち再加熱を行う工程を経ることなく、連続鋳造後そのまま熱間圧延を開始する場合においても、Tiの添加量が0.20%を超えた分の強度上昇効果および再結晶抑制効果に対する寄与分は小さく、さらに合金コストの増加も招いてしまう。従って、Ti含有量は0.20%以下とする必要がある。
【0032】
以上、本発明の基本組成について説明したが、本発明では、上記の基本組成を単に満足させだけでは不十分で、C,N,SおよびTiの含有量について、下記(1)式および(2)式に示す関係を満足させる必要がある。

0.11≦[%C]−(12/47.9)×[%Ti*]≦0.15 --- (1)
ここで、Ti*=[%Ti]−(47.9/14)×[%N]−(47.9/32.1)×[%S] --- (2)
[%M]はM元素の含有量(質量%)
上記の関係式は、炭化物として固定されないC量を規定するものであるが、このC量が0.15%を超えて多量に存在すると、マルテンサイトの分率が増加し、ヤング率が低下するだけでなく、延性も低下する。従って、式(1)で算出される炭化物として固定されないC量は0.15%以下とする必要がある。一方、炭化物として固定されないC量が0.11%未満と少ないと、冷間圧延後の2相域における焼鈍においてオーステナイト中のC量が減少し、ひいては冷却後に生成するマルテンサイト相が減少するため、1180MPa以上の高強度化が困難となる。このため、炭化物として固定されないC量は0.11%以上とする必要がある。好ましくは0.12%以上である。
【0033】
また、本発明では、以下に述べる元素を適宜含有させることができる。
Nb:0.02〜0.10%
Nbは、Tiと同様に、本発明における重要な元素である。冷間圧延後の焼鈍工程における加熱過程において、加工フェライトの再結晶を抑制することによって、未再結晶フェライトからのオーステナイト変態を促進させ、またオーステナイト粒の粗大化を抑制すると共に、焼鈍均熱後の冷却過程において生成するフェライトに関し、ヤング率の向上に有利な方位を発達させることができる。さらに、Nbの微細な炭窒化物は、強度の上昇にも有効に寄与する。さらに、フェライトおよびマルテンサイトの微細化に有利にも働く。このような作用を有するために、Nbの含有量を0.02%以上とする必要がある。
一方、多量のNbを添加しても、通常の熱間圧延工程における再加熱時では、炭窒化物は全量固溶させることができず、粗大な炭窒化物が残るため、熱間圧延工程における加工オーステナイトの再結晶抑制効果や、冷間圧延後の焼鈍工程における加工フェライトの再結晶抑制効果を得ることはできない。また、連続鋳造からスラブを一旦冷却したのち再加熱を行う工程を経ることなく、連続鋳造後そのまま熱間圧延を開始する場合においても、Nbの添加量が0.10%を超えた分の再結晶抑制効果に対する寄与は小さく、その上、合金コストの増加も招いてしまう。したがって、Nb含有量は0.10%以下とする必要がある。好ましくは0.08%以下である。
【0034】
また、Tiに加えてNbを含有する場合には、上記(1)式に代えて下記(3)式に示す関係式を満足させる必要がある。

0.11≦[%C]−(12/92.9)×[%Nb]−(12/47.9)×[%Ti*]≦0.15 --- (3)
Nbは、炭化物を形成することで、炭化物として固定されないC量を減少させるので、炭化物として固定されないC量を0.11〜0.15%とするためは、Nb添加した場合は、[%C]−(12/92.9)×[%Nb]−(12/47.9)×[%Ti*]の値を0.11〜0.15%にする必要がある。好ましくは0.11〜0.13%である。
【0035】
Cr:0.1〜1.0%
Crは、セメンタイトの生成を抑制することによって、焼入れ性を高める元素であり、焼鈍工程における均熱後の冷却過程において、マルテンサイト相の生成を大きく促進する効果がある。この効果を得るためには、Crを0.1%以上含有させることが好ましい。一方、多量にCrを添加しても効果が飽和するだけでなく、合金コストの増加を招くことから、Crは1.0%以下で添加することが好ましい。また、溶融亜鉛めっき鋼板として使用される場合には、表面に生成するCrの酸化物が不めっきを誘発してしまうため、Cr含有量は0.5%以下とすることが好ましい。
【0036】
Ni:0.1〜1.0%
Niは、焼入れ性を高める元素であり、焼鈍工程における均熱後の冷却過程において、マルテンサイト相の生成を促進させることができる。また、Niは、固溶強化元素として、鋼の高強度化にも有効に寄与する。さらに、Cu添加鋼の場合には、熱間圧延時において、熱間延性の低下に伴う割れにより表面欠陥が誘発されるが、Niを複合含有させることによって表面欠陥の発生を抑制することができる。このような作用を得るためには、Ni含有量は0.1%以上とすることが好ましい。一方、多量のNi添加は、均熱後の冷却過程において高ヤング率化に必要なフェライトの生成を阻害し、また合金コストが増加することから、Niは1.0%以下で含有させることが好ましい。
【0037】
Mo:0.1〜1.0%
Moは、焼入れ性を高める元素であり、焼鈍工程における均熱後の冷却過程において、マルテンサイト相の生成を促進させことによって、高強度化に寄与することができる。この効果を得るためには、Mo含有量は0.1%以上とすることが好ましい。一方、多量にMoを添加しても効果が飽和するだけでなく、合金コストが増加することから、Moは1.0%以下で含有させることが好ましい。より好ましくは0.5%以下である。
【0038】
Cu:0.1〜2.0%
Cuは、焼入れ性を高める元素であり、焼鈍工程における均熱後の冷却過程において、マルテンサイト相の生成を促進させることで、高強度化に寄与する。この効果を得るためには、Cu含有量を0.1%以上とするのが好ましい。一方、過剰なCu添加は熱間延性を低下させ、熱間圧延時の割れに伴う表面欠陥を誘発するため、Cu含有量は2.0%以下とすることが好ましい。
【0039】
B:0.0005〜0.0030%
Bは、オーステナイトからフェライトへの変態を抑制することで焼入れ性を高める元素であり、焼鈍工程における均熱後の冷却過程において、マルテンサイトの生成を促進させることで高強度化に寄与する。この効果を得るためには、B含有量を0.0005%以上とするのが好ましい。一方、Bの過剰な添加は、均熱後の冷却時のフェライト生成を著しく阻害し、ヤング率を低下させることから、0.0030%以下で含有させることが好ましい。
【0040】
次に、本発明の組織の限定理由について説明する。
本発明の鋼板は、フェライト相を主相としていて、面積率で50%以上のフェライト相を有し、マルテンサイト相を35〜45%で含む組織である。
フェライト相は、ヤング率の向上に有利な集合組織の発達に有効であることから、面積率で50%以上とする必要がある。また、マルテンサイト相を含有させることにより、強度および強度−伸びバランスが向上することから、面積率で35%以上のマルテンサイト相を含む必要がある。一方、マルテンサイト相の面積率が45%を超えると圧延直角方向のヤング率を確保することができなくなるので、マルテンサイト相の面積率は45%以下とする必要がある。さらに、強度−伸びバランスを向上させるためには、フェライト相の面積率とマルテンサイト相の面積率の合計を95%以上とする必要がある。
フェライト相およびマルテンサイト相以外の相としては、パーライト、ベイナイトおよびセメンタイトを挙げることができるが、これらの相は5%以下であれば含んでいても問題はない。好ましくは3%以下、より好ましくは1%以下ある。
【0041】
また、フェライトの平均粒径が4.0μmを超えると強度が低下するため、マルテンサイト相の分率の増加や添加元素の増加が必要となり、ヤング率の低下や製造コストの上昇を招く。従って、フェライトの平均粒径は4.0μm以下とする必要がある。特に1180MPa以上の引張強度を安定的に満足するためには3.5μm以下とすることが好ましい。また、マルテンサイトの平均粒径が3.0μmを超えると、加工・変形を受けた際にボイドの連結が進行しやすくなり、結果として鋼板の延性が低下するため、3.0μm以下にする必要がある。より好ましくは2.5μm以下である
【0042】
なお、フェライト相およびマルテンサイト相の面積率は、鋼板断面をナイタール腐食した後、走査型電子顕微鏡(SEM)観察を行い、25μm×30μm域の写真を3枚撮影し、これらの写真を画像処理してフェライト相およびマルテンサイト相の面積を測定することにより、求めた。また、平均粒径は、SEM写真より視野のフェライト相およびマルテンサイト相の各面積の合計を当該相の個数で除して平均面積を求め、その1/2乗の値とした。
【0043】
以上の成分組成ならびに組織とすることにより、圧延直角方向の引張強さ(TS)が1180MPa以上、ヤング率が230 GPa以上で、強度−伸びバランス(TS×EL)が15000MPa・%以上という剛性に優れた高強度薄鋼板を得ることができる。
【0044】
次に、本発明鋼板の好適製造方法について説明する。
本発明の鋼板を製造するに当たっては、まず目的とする強度レベルに応じて上記した組成に従う化学成分の鋼を溶製する。溶製方法は、通常の転炉法、電炉法など適宜適用することができる。溶製された鋼は、スラブに鋳造後、そのまま、あるいは一旦冷却してから加熱し、仕上温度: 850〜950℃の条件で熱間圧延を施す。ついで、650℃以下で巻取り、酸洗後、60%以上の圧下率で冷間圧延を行う。その後、焼鈍工程において、(Ac1−100℃)からAc1までの温度域を平均昇温速度:15℃/s以上の速度で加熱し、780〜880℃の均熱温度で150s以下の時間保持したのち、少なくとも350℃までの平均冷却速度を5〜50℃/sとして350℃以下まで冷却する
以下、各製造条件を上記の範囲に限定した理由について説明する。
【0045】
[仕上温度:850〜950℃]
仕上温度を950℃以下とすることによって、未再結晶オーステナイトからフェライトへの変態が進み、微細なフェライト組織が得られ、さらに冷間圧延および焼鈍により(112)[1-10]方位への集積度を高めることができる。一方、仕上温度が850℃を下回ると、Ar3変態点を下回るおそれが大きくなり、熱延組織に加工組織が混じる結果、冷延焼鈍後に(112)[1-10]方位への集積が妨げられる。また、変形抵抗の増加により圧延荷重が大幅に増大するなど、製造上の困難が伴う。従って、仕上温度は850〜950℃の範囲とする必要がある。
【0046】
[巻取り温度:650℃以下]
仕上圧延後の巻取り温度が650℃を上回ると、TiおよびNbの炭窒化物が粗大化してしまい、冷間圧延後の焼鈍工程における加熱段階において、フェライトの再結晶を抑制する効果や、オーステナイト粒の粗大化を抑制する効果が小さくなるため、巻取り温度は650℃以下とすることが好ましい。一方、巻取り温度が400℃を下回ると硬質な低温変態相が多く生成して、その後の冷間圧延での変形が不均一となり、ヤング率に有利な方位への集積が妨げられ、その結果、焼鈍後の集合組織が発達せず、ヤング率を向上させることが困難となる。さらに、巻取り後の冷間圧延での荷重が増加するため、巻取り温度は400℃以上にすることが好ましい。
【0047】
[冷間圧延率:60%以上]
上記の巻取り後は、酸洗を施した後、60%以上の圧下率での冷間圧延に供する。この冷間圧延により、ヤング率の向上に有効な(112)[1-10]方位を集積させる。すなわち、冷間圧延により(112)[1-10]方位を発達させることによって、その後の焼鈍工程後の組織でも、(112)[1-10]方位を持つフェライト粒を増やし、ヤング率を高くする。このような効果を得るには、冷間圧延時の圧延率を60%以上とする必要がある。より好ましくは65%以上である。一方、冷間圧延率が大きくなると、圧延荷重が大きくなって製造が困難になるため、圧延率の上限は85%とすることが好ましい。
【0048】
[(Ac1−100℃)からAc1までの平均昇温速度:15℃/s以上]
焼鈍後の鋼板のヤング率を高めるには、焼鈍の加熱過程において、冷間圧延によって発達した(112)[1-10]方位をもつフェライトの再結晶を抑制し、加工フェライトからオーステナイトへ変態させる必要があり 、そのためには平均で15℃/s以上の昇温速度が必要である。
ここに、Ac1は、質量%で表されるC,Si,Mn,Al,Ni,Cr,Cu,Mo,Ti,NbおよびBの含有量に基づき、次式(4)から求めたAc1変態温度である。
Ac1=750.8−26.6[%C]+17.6[%Si]−11.6[%Mn]−169.4[%Al]−23.0[%Ni]+24.1[%Cr]
−22.9[%Cu]+22.5[%Mo]−5.7[%Ti]+232.6[%Nb]−894.7[%B] --- (4)
ここで、[%M]はM元素の含有量(質量%)
【0049】
[均熱温度:780〜880℃、均熱時間:150s以下]
焼鈍工程の均熱時に十分な量のフェライトがオーステナイトに変態し、冷却時にフェライトに再変態することで集合組織が発達し、ヤング率が向上する。また、均熱温度が低い場合には、圧延組織が残存し、伸びが低下する。これらのため、均熱温度は780℃以上とする必要がある。一方、均熱温度が高すぎると、オーステ ナイト粒が粗大になり、焼鈍後冷却時に再変態したフェライトが(112)[1-10]方位に集積することが難しくなる。このため、均熱温度は880℃以下とする必要がある。また、この温度域での長時間保持によってもオーステナイト粒の粗大化が起こるため、均熱時間は150s以下とする必要がある。
【0050】
[均熱温度から少なくとも350℃までの平均冷却速度:5〜50℃/s]
本発明の製造方法では、上記した均熱処理後の冷却条件を制御することが肝要である。すなわち、均熱後の冷却時にフェライトを生成させることにより、ヤング率の向上に有利な集合組織が発達する。そこで、この冷却時に50%以上のフェライトを生成させる。そのためには冷却速度の上限を50℃/sとする必要がある。一方、冷却が遅すぎる場合、マルテンサイトが生成しないため、冷却速度を5℃/s以上にする必要がある。好ましくは10℃/s以上である。
また、冷却停止温度が高い場合には、マルテンサイトが生成せずにベイナイトやパーライトが生成し、強度の低下とYS/TS比の上昇を招くことになる。あるいは、マルテンサイトが生成しても冷却中での焼戻しによりマルテンサイトの硬度が低下するため、強度向上への寄与が小さくなるばかりでなく、良好なTS−Elバランスが得られなくなる。このため、少なくとも350℃までは所定の冷却速度で冷却する必要がある。さらに、TS−Elバランスをより良くするためには、所定の冷却速度での冷却を少なくとも300℃まで行うことが好ましい。
【0051】
その後は、過時効帯を通過させる処理を施してもよい。また、溶融亜鉛めっき鋼板として製造する場合には、溶融亜鉛中を通板させてもよく、さらに合金化溶融亜鉛めっき鋼板として製造する場合には、合金化処理を行ってもよい。
なお、鋼板の形状調整のために調質圧延を施しても良く、圧下率が0.8%以下であれば、ヤング率や引張特性に大きな変化はない。好ましくは、0.6%以下である。
【実施例】
【0052】
次に、本発明の実施例について説明する。なお、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
実施例1
まず、表1に示す成分組成の鋼Aを真空溶解炉にて溶製し、熱間圧延後、酸洗し、冷間圧延したのち、焼鈍を施して冷延鋼板を作製した。その際、熱間圧延に先立つ加熱条件:1250℃で1時間、熱間圧延の仕上温度:880℃ 、熱間圧延後の板厚:4.4mm、巻取り条件:600℃で1時間保持後に炉冷する巻取り相当処理、冷間圧延の圧下率:68%、冷間圧延後の板厚:1.4mm、(Ac1−100℃)からAc1までの平均昇温速度:20℃/s、均熱温度:830℃での保持時間:60s、300℃までの平均冷却速度:15℃/sとし、その後室温までの冷却:空冷を基本条件とした。この基本条件を表2に示す。
さらに、上記の基本条件のうち、冷間圧延の圧下率、焼鈍工程における(Ac1−100℃)からAc1までの昇温速度、均熱温度、急冷停止温度および急冷停止温度までの冷却速度を、表3に示すように変化させた。
【0053】
上記焼鈍後に、鋼板の圧延方向に対し直角な方向から10mm×50mmの試験片を切り出し、横振動型の共振周波数測定装置を用いて、American Society to Testing Materialsの基準(C1259)に従ってヤング率(Ec)を測定した。また、0.5%の調質圧延を施した冷延鋼板から、圧延方向に対し直角な方向よりJIS5号引張試験片を切り出し、引張特性(引張強さTSと伸びEl)を測定した。
なお、フェライト相の面積率(α)およびマルテンサイト相の面積率(M)、さらに各相の平均結晶粒径は、前述した方法により求めた。
得られた結果を、表2および表3に併記する。
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】

【0056】
【表3】

【0057】
基本条件に従って作製した冷延鋼板(鋼板:A1)は、表2に示したように、TS:1224MPa、El:13.2%、TS×El:16157MPa・%、Ec:239GPa、フェライトの面積率:63%、マルテンサイトの面積率:37%、フェライト粒径:3.2μm、マルテンサイト粒径:2.3μmであり、強度−伸びバランスが良好で高ヤング率のものとなった。
また、冷間圧延の圧下率、焼鈍条件を変化させた場合でも、これら条件が本発明の範囲を満足する場合(鋼板:A3,A4,A7)はいずれも、TSが1180MPa以上、TS×Elが15000MPa・%以上およびEが230GPa以上という優れた値が得られた。
【0058】
実施例2
さらに、表4に示す成分の鋼B〜Mを真空溶解炉にて溶製し、表5に示す条件にて熱間圧延、酸洗、冷間圧延および焼鈍を順次行った。なお、熱延板の板厚はいずれも4.4mmである。
かくして得られた冷延鋼板について、実施例1と同様の調査を行った。
得られた結果を表5に併記する。
【0059】
【表4】

【0060】
【表5】

【0061】
表5に示したとおり、本発明に従い得られた鋼板(鋼板:B〜F,K〜M)はいずれも、TSが1180MPa以上、TS×Elが15000MPa・%以上およびEcが230GPa以上という優れた値が得られている。
これに対し、成分組成が本発明の適正範囲を逸脱した比較例(鋼板:G〜J)はいずれも、引張強度(TS)、強度−伸びバランス(TS×El)、ヤング率(Ec)の少なくともいずれか一つの特性が劣っている。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明によって、引張強度が1180MPa以上と高強度で、ヤング率が230GPa以上と高剛性を兼ね備えた薄鋼板の提供が可能になる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.12〜0.20%、Si:0.5〜1.5%、Mn:1.0〜3.0%、P:0.05%以下、S:0.01%以下、Al:0.5%以下、N:0.01%以下およびTi:0.02〜0.20%を含有し、かつ下記(1)式および(2)式に示す関係を満足し、残部はFeおよび不可避的不純物からなる組成を有し、
面積率で、フェライト相:50%以上、マルテンサイト相:35〜45%で、かつフェライト相とマルテンサイト相の合計が95%以上であり、フェライトの平均粒径が4.0μm以下、マルテンサイトの平均粒径が3.0μm以下である組織を有し、
圧延直角方向の引張強さ(TS)が1180MPa以上、ヤング率が230 GPa以上で、引張強さ(TS)と全伸び(EL)との積で表わされる強度−伸びバランス(TS×EL)が15000MPa・%以上であることを特徴とする剛性に優れた高強度薄鋼板。

0.11≦[%C]−(12/47.9)×[%Ti*]≦0.15 --- (1)
ここで、Ti*=[%Ti]−(47.9/14)×[%N]−(47.9/32.1)×[%S] --- (2)
[%M]はM元素の含有量(質量%)
【請求項2】
前記鋼板が、前記組成に加えて、さらに質量%で、Nb:0.02〜0.10%を含有し、かつ前記(1)式に代えて下記式(3)の関係を満足することを特徴とする請求項1に記載の剛性に優れた高強度薄鋼板。

0.11≦[%C]−(12/92.9)×[%Nb]−(12/47.9)×[%Ti*]≦0.15 --- (3)
【請求項3】
前記鋼板が、前記組成に加えて、さらに質量%で、Cr:0.1〜1.0%、Ni:0.1〜1.0%、Mo:0.1〜1.0%、Cu:0.1〜2.0%およびB:0.0005〜0.0030%のうちから選んだ一種または二種以上を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の剛性に優れた高強度薄鋼板。
【請求項4】
質量%で、C:0.12〜0.20%、Si:0.5〜1.5%、Mn:1.0〜3.0%、P:0.05%以下、S:0.01%以下、Al:0.5%以下、N:0.01%以下およびTi:0.02〜0.20%を含有し、かつC,N,SおよびTiの含有量が下記(1)式および(2)式に示す関係を満足し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成からなる鋼素材を、熱間圧延工程において、仕上圧延を850〜950℃で終了したのち、650℃以下で巻取り、酸洗後、60%以上の圧下率で冷間圧延を行ったのち、焼鈍工程において、(Ac1−100℃)からAc1までの平均昇温速度:15℃/s以上の速度で780〜880℃の均熱温度まで加熱し、該均熱温度で150s以下の時間保持したのち、少なくとも350℃までの平均冷却速度を5〜50℃/sとして350℃以下まで冷却することを特徴とする剛性に優れた高強度薄鋼板の製造方法。

0.11≦[%C]−(12/47.9)×[%Ti*]≦0.15 --- (1)
ここで、Ti*=[%Ti]−(47.9/14)×[%N]−(47.9/32.1)×[%S] --- (2)
[%M]はM元素の含有量(質量%)
【請求項5】
前記鋼素材が、前記組成に加えて、さらに質量%で、Nb:0.02〜0.10%を含有し、かつ前記(1)式に代えて下記式(3)の関係を満足することを特徴とする請求項4に記載の剛性に優れた高強度薄鋼板の製造方法。

0.11≦[%C]−(12/92.9)×[%Nb]−(12/47.9)×[%Ti*]≦0.15 --- (3)
【請求項6】
前記鋼素材が、前記組成に加えて、さらに質量%で、Cr:0.1〜1.0%、Ni:0.1〜1.0%、Mo:0.1〜1.0%、Cu:0.1〜2.0%およびB:0.0005〜0.0030%のうちから選んだ一種または二種以上を含有することを特徴とする請求項4または5に記載の剛性に優れた高強度薄鋼板の製造方法。

【公開番号】特開2013−104113(P2013−104113A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−250065(P2011−250065)
【出願日】平成23年11月15日(2011.11.15)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】