説明

剥離剤を用いない木質系型枠

【課題】 地球温暖化抑制に向け、南洋材合板型枠から国産材型枠への転換が進められている。また転用回数などの製品性能や製品価格がニーズを満足させ、更に型枠施工作業の軽減に向け剥離剤不要の木製型枠や防水性を持つ木製型枠が求められている。
【解決手段】 国産の板材や桟木は、十分な乾燥材を用いる。常温では固体である天然油脂系脂肪酸あるいはワックス類を加熱溶融した高温液相下において、所定の寸法に仕上げた木製部材を浸漬し、その後所定の規格に釘打ち組み立てる。高温液相下での浸漬を省くことは可能である。次いで、剥離性に優れたシートを型枠の面材や型枠外周部の桟木に粘着剤で貼る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、コンクリート型枠工事に用いられる木質系型枠の性能向上並びに型枠工事作業の軽減化に関するものである。
【背景技術】
【0001】
従来の木質系型枠は、面材部の製造法により幾つかに分類される。面材部の寸法規格は、60cm×180cm、90cm×180cm、1m×2mのものが多い。
▲1▼国産板材型枠 合板型枠の出現以前の従来型枠であり、スギなどの国産材を素材とする複数枚の板材を合わせ面材とする。2m以上の長尺型枠や曲線形型枠では、現在でも使用されている。
▲2▼南洋材合板型枠 熱帯雨林の南洋材を素材とし、剥離性に優れた塗装合板を面材とし、国産板材型枠に取って代わった、現在では最も一般的なもの。
【0002】
しかしながら、熱帯雨林環境保全の観点から、南洋材合板型枠に替わる次のような型枠が増加しつつある。
▲3▼成型木材型枠 微細粉末状の木材及びプラスチックの混合成型材を面材とする。
▲4▼国産材合板型枠 南洋材に替えスギなどの国産材を素材とする合板を面材とする。
▲5▼国産幅接ぎ面材型枠 スギなど複数枚の国産板材の接着による幅接ぎ材を面材とする。
【0003】
更に、近年では地球温暖化現象抑制に向けた二酸化炭素削減の国際的数値目標が明らかにされるに従い、間伐材の利用拡大を目指す▲1▼国産板材型枠利用の再検討も急速に進められ都道府県行政の積極的対応も見られる。一方、嘗て国産板材型枠から南洋材合板型枠に推移した経過からも、国産板材型枠の転用回数の向上など性能向上が必須とされている。
【0004】
剥離材を用いず転用回数の向上に向けた木材表面処理法の事例を以下に示す。
【非特許文献1】http://forest−enj.co.jp「針葉樹型枠パネルの生産方式について」集成幅接ぎ木材の面材にフィルムをシュリンク包装したもので、大型設備が必要。また、フィルムは、プラスチックの一種。防水処理は行われない。
【非特許文献2】「有限会社キャム LDM木製型枠カタログ2004」液相処理法によるパラフィン単層では剥離性は弱いため、高融点ワックス及びパラフィンワックスの複層式剥離層形成法及び防水処理法。製造工程が多く、型枠単価が高い。パラフィンは、化石燃料を原料としている。
【非特許文献3】「徳島県森林林業研究所 技術情報カードNo.57」徳島産スギ合板の転用回数と面材硬度及び損傷の比較試験。エマルジョン型パラフィン塗布面材の吸水性試験。
【参考技術4】
木材圧縮や薬剤注入硬化反応による木材の表面硬化法があるが、防水性能、剥離性の有無は不確実であり、製造コストは高い。
総じて、現状の南洋材合板型枠より安価な製品価格及び型枠施工コストを実現する程の転用回数の向上に向けた木材表面処理法は確立していない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
わが国の森林資源整備促進の観点から、国産針葉樹合板型枠や複数枚の板材を張り合わせ、面材とする国産板材型枠の性能向上が必須である。
第1の課題は、コンクリート表面仕上がりが不良になりやすいなど、型枠性能が低い点である。その1として、転用回数が小さい。コンクリートの剥離性が悪いため、国産材、特にスギ板の場合、木材組織が柔らかく剥離剤では型枠施工後のケレン作業が避けられず、面材部が損傷を受ける。木材表面が毛羽たち転用回数は少なく、合板型枠では10回とも言われるが、板材では3回程度に過ぎない。その2として、コンクリートが漏れ出しやすい。木材は外気の湿度により伸縮するため板材と板材との隙間は避けられず、打設時にコンクリートが漏れ出し、やはりコンクリート表面仕上がりが不良になる。その3として、板材の場合、抜け節部の不整形が避けられない。またその補修作業は、板材型枠製品コストの要因となっている。また大規模工場生産となる合板と中小製材業生産となる板材による面材の製造法の違いから、板材型枠の価格は総じて高くなる。
【0006】
第2の課題は、合板型枠を含め木製型枠は剥離剤を要しコスト面のみならず、型枠組立作業者の衣服の汚れや労働環境面への影響も考慮すべき点である。
【0007】
第3の課題は、合板型枠を含め木製型枠は、桟木や面材部が降雨時の吸水により重量が増加し、型枠工事の重労働化を招いている点である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1に、スギなど国産材においては、塗料物性のみでの剥離性やケレン作業時の耐磨耗性などの改善は困難であるため、木質系型枠の構成部材を釘打ち組み立て、高撥水性の粘着シートを面材部及び型枠外周部の桟木に貼る。型枠工事転用時の剥離剤塗布は不要となる。
【0009】
第2に、常温では固体である特定な天然油脂系脂肪酸あるいはワックス類を高温に溶融したタンク内に木質系型枠の構成部材を浸漬し、防水処理を行う。次いで高撥水性の粘着シートを、面材部及び型枠外周部の桟木に貼る。型枠工事転用時の剥離剤塗布は不要となる。二酸化炭素削減の世論から、化石燃料に依存しない前者が望ましい。
【0010】
第3に、木質系型枠面材部の抜け節の埋め込み補修には、前述第1で用いる常温では固体である特定な天然油脂系脂肪酸あるいはワックス類を別途流し込む。
【発明の効果】
【0011】
天然油脂系脂肪酸あるいはワックスを用いる高温液相浸漬処理により、既に十分乾燥された板材や桟木は、撥水性や防水性を持つ。これにより板材に表われやすい木材の接線方向の伸縮や幅反りが抑制され、板材と板材の隙間の発生が抑制される。
また、コンクリート打設時や雨天時の木材の吸湿も抑制され、型枠重量は軽量安定し、型枠工事現場の作業効率の向上や労働環境も改善される。
【0012】
十分な剥離姓を付与したシートを、粘着剤により木製型枠の面材及び桟木外周部に貼ることで、面材の薄板と薄板の隙間にコンクリートが入り込むこともなく、合板面材に近い平面が形成される。シート貼付けにより型枠転用ごとのケレン作業及び剥離剤塗布作業も不要となり、転用時には硬質ブラシやワイヤータワシで付着コンクリートを容易に擦り取ることができ転用回数も倍加する。更に、外材より柔らかい木質の国産の板材面材もシートで保護されるため、コンクリート打設時にも木材表面の損傷がほぼなくなり、シートのみの張替えも可能であり転用回数が大幅に増加する。
【0013】
合板製造は大規模な製造設備が必要で地域ごとの立地は困難であるが、特定な油性高温液相下での浸漬防水処理法や複数枚の板による面材化や剥離性をもつシートを貼る本方法は簡易な製造設備で可能である。総じて型枠施工コストが削減され、地域完結型の新たな間伐材利用製品となり得る。型枠の使用量は膨大な数量であるため、間伐材の利用が大いに図られ、間伐など森林の整備も促進される。なお、薄板の利用とともに、製材木取りにおける梁や桁あるいは柱角製材の有利性にも繋がり、林産業の要である中小製材業経営の適正化も予想され得る。
【実施例】
【0014】
厚さ12mm、幅12cm、長さ60cmの小幅板4枚張り合わせの面材とするため、十分に乾燥したこれら4枚と桟木3本を2組使用した。板材8枚を特定な天然油脂系脂肪酸を90℃に加熱溶融したタンクにおよそ10分浸漬した。木材の自然法冷後に釘打ち組み立て、剥離性をもつシートを板材と平行に面材部に貼った。この小型型枠を2枚作成し、中2日でコンクリート打設を高さ30cm、厚さ15cm、幅60cmとする連続転用試験を行った。結果は、剥離材は用いず5回の転用可能を確認した。いずれの回も、付着したコンクリートは市販の家庭用ワイヤータワシによる水洗いとした。5回の転用後のシート表面は多少損傷を受けているものの再度転用可能な状況であったが中断した。
この段階で、シートを剥がし、板材の表面損傷のないことを確認し、シートの張り替えが可能である事を確認した。従来の板材型枠の3ないし4倍の転用回数である。
【0015】
特定な天然油脂系脂肪酸を用いる木材の防水処理効果を確認するため、防水処理を行った面材による小型型枠と無処理の小型型枠を各1体ずつ試作した。いずれも剥離性をもつシートを面材部に貼った。型枠の寸法は1m×70cmとした。この2枚の型枠を水中で4日間浸漬した。水中浸漬前の防水処理試験体重量は、6.15kg、無処理試験体は6.60kgであった。吸水後の防水処理試験体重量は、7.95kg、無処理試験体は9.45kgであった。吸水による重量増加は防水処理型枠では1.80kgであったが、無処理型枠では2.85kgであった。1m×2mの型枠の重量はおよそ17kgであるが、防水処理効果で最大でも25kg程度と考えられ、作業の軽減がもたらされる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高撥水性の粘着シートを面材部及び型枠外周部の桟木に粘着剤で貼り付ける、コンクリート剥離剤を用いない木質系型枠
【請求項2】
常温では固体であり撥水性を有する天然油脂系脂肪酸又はワックス類の高温溶融液相下において浸漬被覆処理した面材及び桟木を釘打ち組み立て、その後高撥水性の粘着シートを面材部及び型枠外周部の桟木に貼り付け、コンクリート剥離性を用いず、且つ防水性のある木質系型枠
【請求項3】
木質系型枠面材部の抜け節の埋め込み補修に、常温では固体であり撥水性を有する天然油脂系脂肪酸又はワックスを流し固める方法。

【公開番号】特開2008−63928(P2008−63928A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−274504(P2006−274504)
【出願日】平成18年9月6日(2006.9.6)
【出願人】(597142206)
【Fターム(参考)】