説明

剥離及び開封防止媒体

【課題】 引き剥がしや貼替えによる導電性検査においても偽造、改ざんの有無を高精度に識別する剥離及び開封防止媒体を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明の剥離防止媒体1は、下部基材2、第一接着受像層4、第一導電層5を積層した下部積層体と、上部基材3、第二接着受像層4´、第二導電層5´を積層した上部積層体とを融着し、金属ナノインキで印刷された縦画線と横画線によるマトリクス状の印刷画線X、Y、Z周辺にフラッシュ光を照射し、導電性を発現させて情報として担持することで、剥離時に点Zの部分は、交差した部分の導電性が悪化し、第一導電層5と第二導電層5´の間の電気伝導性もなくなり、抵抗測定器6を用いて、導電層部分を形成している第一導電層5、第二導電層5´のマトリクス状の印刷画線の各々の両端部を測定端子A、B、C、D、E、F、G、Hとし、各端子の組合せと導通の関係を測定することで改ざんの状況を検知する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、剥離及び開封防止媒体に関し、特に、封筒等を故意に開封したり、または、書類、カード、身分証明書等の層を剥離したり、貼り替えたりして偽造、改ざん等をした場合、機械により自動判別することができ、また、開封をチェックすることが可能となる剥離及び開封防止媒体である。
【背景技術】
【0002】
従来、機密文書や個人情報に係わる書類の入った封書を郵送する場合、封書口を折り返して糊付けし、「開封禁止」、「親展」等の印を押印して、指定した相手以外が開封しないようにしたものや、また、接着層の接着強度を部分的に調整した粘着ラベルを、コンパクトディスクやフレキシブルディスクの入った封筒の開封部分に貼り付けておき、開封した場合に粘着ラベルの層が一部分、封筒側に残留して「開封済」の文字が形成されることにより、開封して記録媒体を使用したことが判別できるようにしていた。
【0003】
裏面に粘着剤が塗布されたプラスチック製フィルムの表面に、文字や模様を印刷したラベルの少なくとも一部の導電性塗料を用いて印刷しておくことで、通電試験機で検査することにより電気的にラベルの真偽を判別するラベル(例えば、特許文献1参照。)がある。
【0004】
また、封印紙の接着面に線状導電材を交互に近接させ面状に敷設した検知回路を有し、封印紙の剥離、切断等を線状導電材の切断、又は線状導電材の短絡として検知できるように、2芯シールド線や終端抵抗を利用することで信号電流の方向を外部からの読取りができないようにし、電線やシールに加えられた短絡や剥離を、電流値の変化としてとらえ信号を発する構造とした、封印破棄検知シール(例えば、特許文献2参照。)がある。
【0005】
また、金属薄膜層を所定の個別情報にしたがって、パターン状に部分的に除去することによって形成された絶縁層と導電層の組み合わせによる個別情報記録部はセンサヘッドのスキャンにより、電波の反射波形として検出され、この検出信号を処理することによって個別情報として読取る、個別情報の記録・読取り方法およびこの方法に使用される記録媒体(例えば、特許文献3参照。)がある。
【0006】
【特許文献1】特開平8−54825号公報
【特許文献2】特開2000−29390号公報
【特許文献3】特許第3006734号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般に公知の技術は、警告文字等を人が目視により判断するため、「親展」や「開封済」の警告を見落とす恐れがある。また、警告を無視して開封した後で、形跡が残らないように再び貼付する恐れもあった。
【0008】
特許文献1は、プラスチック製フィルムのラベルの表面における少なくとも一部が導電性塗料を用いて文字や模様を印刷しているので、ラベルの裏面の粘着剤を巧く剥がすことができれば張り替えることができるという問題があった。また、プラスチック製フィルムの表面に導電性材料を印刷しているため、露出した導電性材料が外的要因により断線し、誤判別する危険性がある。また、通電試験機の電極を接触させて測定する方式であるため、外包体で包まれた箱等の開封を外部から測定できない。
【0009】
特許文献2は、封印紙の剥離、切断等の破棄行為を確実に検知するためには、封印破棄シールの封印紙を不透明にして、封印紙の下側にある線状導電材を見えなくする必要がある。しかしながら、これを、カードや身分証明書等の偽造又は改ざんの検知に用いる場合は、層構成として、上から封印破棄シール、顔写真等の情報体、基材の順になるが、封印破棄シールは封印紙の接着面にのみ線状導電材があるため、封印破棄シールと顔写真等の間が剥離された場合は検知できるが、顔写真等の情報体と基材の間が剥離された場合は検知することができない。
【0010】
特許文献3は、導電層を部分的に除去することによって、絶縁層と導電層による個別情報を記録するものであるため、導電層を減らすことはできるが、逆に増やすことはできず、また、導電層どうしを電気的に溶着・接着することができない。このため、上部基材側導電層と下部基材側導電層の間に顔写真等の情報体を挟んで構成されたカードや身分証明書等の剥離による偽造又は改ざんを、上部基材側導電層と下部基材側導電層の間の電気的導通が失われることによって検知する方法を実現することが難しい。
【0011】
本発明は、上記従来の問題点をかんがみてなされたもので、人による見落としをなくすと共に、露出した導電性材料が断線して誤判別することがなく、また、非接触により剥離を即座に検知することができ、更にカードや身分証明書の引き剥がし又は張り替えによる導電性検査においても偽造、改ざんの有無を高精度に識別する剥離及び開封防止媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1記載の本発明の剥離及び開封防止媒体は、下部基材と上部基材の間に第一の積層体と第二の積層体が積層されて形成され、第一の積層体は、下部基材と接する側から第一の接着受像層、第一の導電層が順次積層され、第二の積層体は、上部基材と接する側から第二の接着受像層、第二の導電層が順次積層され、第一の導電層と第二の導電層は、熱融着により結合されて成る構成である。
【0013】
請求項2記載の本発明の剥離及び開封防止媒体は、請求項1を前提とし、第一の積層体における第一の導電層の上方表面又は第二の積層体における第二の導電層の上方表面のいずれかに第三の導電層を設けて成る構成である。
【0014】
請求項3記載の本発明の剥離及び開封防止媒体は、第一の導電層、第二の導電層及び第三の導電層は、金属ナノインキ又はその錯体による印刷により形成され、第一の導電層、第二の導電層及び第三の導電層が熱融着されて、金属ナノインキ又はその錯体によるマトリクス状の印刷画線が形成され、第一の導電層及び第二の導電層の印刷画線部分に、照射エネルギーを照射して第一の導電層及び第二の導電層間に電気的な伝導性を得ることで、情報記録が可能となる。
【0015】
請求項1、2又は3記載の本発明の剥離及び開封防止媒体は、第一の導電層、第二の導電層及び第三の導電層は、金属ナノインキ又はその錯体によるマトリクス状の印刷画線が形成され、第一の導電層及び第二の導電層における印刷画線部分の情報記録された周辺のマトリクス状の印刷画線上に、照射エネルギーを照射して第一の導電層及び第二の導電層間に電気的な伝導性を部分的に得ることで、所望の位置に情報記録が可能であり、かつ、マトリクス状の印刷画線上における剥離の位置情報が検知できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、以上の構成とすることにより、人による見落としがなくなり、露出した導電性材料が断線して誤判別することがなく、かつ、カードや身分証明書の引き剥がし又は張り替えによる導電性検査を、機械により自動的に測定することで、偽造又は改ざんの有無を高精度に識別することが可能な剥離及び開封防止媒体が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明の実施の形態による剥離及び開封防止媒体について、図面を用いて説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる実施するための最良の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他のいろいろな実施の形態が含まれる。
【0018】
(実施の形態)
図1は、本発明の一実施の形態における剥離及び開封防止媒体の基本的な構成を示す概略断面図である。本実施の形態は、特に剥離防止媒体に情報を担持する方法、構成、剥離防止媒体を剥離したときの状態及び剥離検知の方法を説明するものである。開封防止媒体においても同様であるので、以下の実施の形態においては、剥離防止媒体について説明する。
本実施の形態の特徴は、下部積層体と上部積層体にそれぞれ部分的に導電層を配置し、下部積層体と上部積層体とを熱溶着することにより導電層を結合し、導電性のマトリクス又は導電性のループを構成する点にある。この剥離防止媒体を剥離すると、下部積層体と上部積層体の導電層が切断されて、電気的な導通が変化することにより剥離した部分や形跡が検知できるものである。
【0019】
図1(a)及び(b)を用いて、本実施の形態における剥離防止媒体1の一例を説明する。図1(a)は、剥離防止媒体1の構成を示す概略断面図である。下部積層体は、下部基材2、第一接着受像層4、第一導電層5をこの順に積層し、上部積層体は、上部基材3、第二接着受像層4´、第二導電層5´をこの順に積層する。
本実施の形態では、導電層は、一例として金属ナノインキを用いて印刷して形成する場合を説明する。下部基材2の第一導電層5は、金属ナノインキを用いて縦画線の形状を印刷し、同様に、上部基材3の第二導電層5´は金属ナノインキを用いて横画線の形状を印刷する。下部積層体と上部積層体とを、ラミネータ等により熱と圧力を印加して融着することにより、図1(b)に示すような金属ナノインキで印刷された縦画線と横画線によるマトリクス状の印刷画線が形成された剥離防止媒体1が得られる。
【0020】
なお、本実施の形態における一例として、第一導電層5と第二導電層5´に用いる金属ナノインキは、数10nmの金属コロイド粒子が溶液中に均一に分散しているインク組成物である。金属コロイド粒子の金属量は、インク組成物全量に対して1〜70質量%含有されることが好ましい。また、本実施の形態で使用する金属コロイド粒子としては、高分子顔料分散剤の存在下で金属化合物を還元して得られたものであることが好ましい。さらに、金属コロイド粒子としては、金コロイド粒子が好ましい。なお、金属コロイド粒子は目的に合う材料であれば、金以外に、銀、銅等の微粒子や錯体でも良い。
【0021】
第一導電層5、第二導電層5´の印刷方法としては特に限定されず、インクジェットプリンタ、平圧印刷機、凸版印刷機、平版印刷機、凹版印刷機又はスクリーン印刷機等の印刷機械を用いる他、スプレー塗装、静電塗装、電着塗装、ロール塗装、カーテンフロー塗装又は浸漬塗装等の塗装方法によっても行うことが可能である。また、導電層の厚さは、得られる導電率又は用途等に合わせて任意に設定することができる。
【0022】
第一導電層5、第二導電層5´の印刷を、例えば、インクジェットプリンタによって実施する場合には、インクジェットプリンタ用に濃度及び表面張力を調整したインク組成物を使用して、基材上にマトリクス状等の画像を形成する。この工程により得られる印刷画線が、本実施の形態における剥離防止媒体1の剥離防止を検知するための媒体となる。
【0023】
また、一般に金属ナノインキの導電性が発現するために、又は導電性を高めるためには、電気炉等を用いて温度250〜500℃程度を数十分から数時間かけて加熱する。そのため、基材等は耐熱性の材料を選ぶ必要がある。基材としては、電気回路の基板のようなものも対象とする。
しかし、本実施の形態に用いる上部基材及び下部基材は、材料が特に限定されるものではなく、インクジェット方式で印刷することができる紙又はプラスチックのような耐熱性の悪い被記録材も使用が可能である。その理由は、電気炉等の基材を劣化させる方法を用いずに、フラッシュ光又はレーザ光等の照射エネルギーを用いるためである。第一導電層5と第二導電層5´を印刷している金属ナノインキは、フラッシュ光等による照射エネルギーを吸収して溶融する。
【0024】
なお、第一接着受像層4、第二接着受像層4´は、例えば120℃以下の低温度で溶融接着する材料を選択し、導電層に用いる金ナノインキは、例えば、120℃以上の熱で加熱することで導電性が発現する材料を選定する。
【0025】
図1(c)を用いて、本実施の形態における剥離防止媒体1への情報の担持方法を説明する。
本実施の形態において、金属ナノインキに導電性を発現させるためのエネルギーは、前述したように、電気炉等で数十分から数時間かけて加熱する方法ではなく、フラッシュ光、レーザ光等のエネルギー線を照射することで導電性を発現する方法を好適に用いることが可能である。フラッシュ光又はレーザ光等によりエネルギー線を金属ナノインキで印刷した印刷画線に照射することで、導電性を発現させて情報として担持するものである。
【0026】
ここで、エネルギー線を照射して導電性を発現する方法について説明する。インクジェット用金ナノインキを使用し、市販のインクジェットプリンタによってベタ印字を施して、印字部分を室温で風乾し、記録物を得る。次に印字した印字部分の一部の箇所に、十分なエネルギーのフラッシュ光を照射し、テスタ等の抵抗測定器により2mm離れた2点間の導通を確認した。エネルギー照射前である記録物の抵抗値509kΩに対し、照射後には抵抗値20Ωに低下し、導通性が発現したことを確認した。
【0027】
次に、この方法を、本実施の形態の剥離防止媒体1に用いる。このフラッシュ光の照射エネルギーを、剥離防止媒体1の上から金属ナノインキで印刷したマトリクス状の印刷画線を構成する第一導電層5、第二導電層5´の部分に向けて照射すると、第一導電層5又は第二導電層5´が導電性を発現し、また、第一導電層5と第二導電層5´が交差した周辺部分に照射すると、二つの導電層の間に電気的な伝導性が得られ、結果として、第一導電層5の縦画線と第二導電層5´の横画線が部分的に導通となる。このように、あらかじめ意図した場所を導通とすることで情報を付与する。
【0028】
図1(c)は、点線で囲んだ部分にフラッシュ光を照射し、導電性を発現させた例である。点X、Y、Zの部分は照射エネルギーを受けたため、第一導電層5又は第二導電層5´が導電性を発現するとともに、二つの導電層が交差した部分の第一導電層5の縦画線と第二導電層5´の横画線が導通となる。一方、点Wの部分は照射エネルギーを受けないため、導電性が発現せず、二つの導電層が交差した部分も非導通である。
【0029】
次に、図1(d)を用いて、本実施の形態における剥離防止媒体1を剥離したときの状態を説明する。
図1(d)は、上記のようにして作製した情報を担持した剥離防止媒体1を右から中ほどまで剥離した状態を示す、剥離後の状態と断面図である。点Zの部分は、交差した部分は導電性が悪化し、第一導電層5と第二導電層5´の間の電気伝導性もなくなる。
【0030】
図1(e)、(f)及び(g)を用いて、本実施の形態における剥離防止媒体1の剥離検知の方法を説明する。
図1(e)は、抵抗測定器6を用いて、剥離防止媒体1の導電層部分を形成している第一導電層5、第二導電層5´のマトリクス状の印刷画線における各々の両端部を測定端子A、B、C、D、E、F、G、Hとし、各端子の組合せと導通の関係を測定する状態を示す図である。
【0031】
図1(f)の表1は、剥離前の各測定端子における電気伝導の測定結果を示す。
点D、Eと他点の間に導通がない理由は、点D、Eが照射エネルギーを受けていないことが理由である。よって、表1の結果は、剥離防止媒体1に担持した元情報を示していることが解る。
図1(g)の表2は、剥離後の各測定端子における電気伝導の測定結果を示す。測定端子B、Cと他点の間に導通がなくなった理由は、上部基材3側と下部基材2側を剥離したことにより、図1(d)に示す点Zの部分において、第一導電層5の縦画線と第二導電層5´の横画線の導通経路が破断したためである。
このように、剥離前と剥離後の電気伝導を測定することで、剥離防止媒体1に担持した導電性の元情報が変化することから、本実施の形態においては、剥離防止媒体1が右側から剥離されたことが推定され、改ざんの状況を知ることができる。
【0032】
(実施例1) 図2に、本発明の実施の形態を用いた実施例として、剥離防止媒体を身分証明書等の媒体に用いた実施例1を示す。
本実施例1は、顔写真の表面と裏面に巻込むように導電層を配設して導電性を発現させ、剥離した際に何処かで導電性が切断されることにより剥離の形跡が検知できるようにしている。
【0033】
図2は、情報を担持した剥離防止媒体を身分証明書に利用した場合の、構成及び剥離検知の方法について説明するものである。
本実施例の身分証明書の作製手順は、上部積層体及び下部積層体は、各々に層を構成して半製品として作製し、身分証明書を発行する際に、顔写真の挿入又は個人情報の記載等を行って、上部積層体と下部積層体を溶着して完成する形態である。
【0034】
図2(a)は、下部積層体の平面図と該平面図のB−B'の矢視断面図を示す。下部積層体は下部基材2、第一接着受像層4及び第一導電層5を積層し、第一導電層5は金ナノインキを用いて印刷を行う。
図2(b)は、上部積層体の平面図と該平面図のA−A'の矢視断面図を示す。上部積層体は上部基材3、第二接着受像層4´及び第二導電層51´を積層し、第二導電層5´は金ナノインキを用いて印刷を行う。
このように構成した下部積層体と上部積層体とを溶着すると、上部基材3の第二導電層5´と下部基材2の第一導電層5とが接続されて一本になり、導電層のループが完成する。
【0035】
なお、金ナノインキはインクジェットプリンタにより印刷できるように、以下の配合とした。
[導電性材料の組成]
金微粒子 2〜30 重量部
[溶媒の組成]
水 40〜70 重量部
アルコール 20〜50 重量部
助剤 1〜30 重量部
金ナノインキに用いる金微粒子は、電気炉等を用い、温度150℃において、5分間以上加熱すると導電性が発現する材料を用いたが、加熱温度や導電性が目的に合えば、他の金属の材料でも良い。
【0036】
上部基材3、下部基材2、第一接着受像層4及び第二接着受像層4´は、本実施例では、基材としての機能、インクジェットインキで印刷できる受像層の機能及び120℃以上の温度で溶融し、接着する機能を有する材料として、市販のラミネートシートを上部基材3+第一接着受像層4又は下部基材2+第二接着受像層4´の替わりとして用いた。なお、基材と接着受像層は目的に合うものを作製しても良い。本実施例における印刷方法としては、ラミネートシートにエプソン社製プリンタを用いて印刷を行った。
【0037】
図2(c)、(d)は身分証明書を完成する工程を示している。
図2(c)において、下部積層体、顔写真7、上部積層体の順に重ね、顔写真7は第一導電層5と第二導電層5´の間に配設して、ラミネータにより、150℃以上の熱と圧力を印加して熱接着し、身分証明書を完成した。その際に、下部積層体の第一導電層5と上部積層体の第二導電層5´が接続されて連続した一本になり、顔写真7の表面と裏面を導電層で巻込むように形成された身分証明書が完成する。図2(d)は、完成身分証明書とその断面図である。
なお、本実施例では、接着受像層を接着する目的と、金ナノインキの導電性を発現させる目的のために、ラミネータの熱を150℃で行ったが、別の接着受像層や金ナノインキを選定した場合には、その特性に合わせる必要がある。
【0038】
図2(e)は、本実施例における剥離検知の方法を説明するものである。
図2(e)は、作製した身分証明書の左端にある、第一導電層5の測定端子8bと第二の導電層5´における測定端子8aの二つの測定端子に、抵抗測定器6の電極を接触させて、導電層の電気的な導通を測定している状態である。剥離前は二つの測定端子8a、8bの間に導通があったが、顔写真7を取り替えるために身分証明書を剥離した後は、顔写真7の表面と裏面に巻込むように構成した導電層の導通の経路が複数部分で切断されたため、二つの測定端子8a、8bに導通がなくなった。このように、身分証明書に担持した導電層の導通が変化したことから、剥離の痕跡を判別することができる。
【0039】
また、本実施例1による別の形態を、図3を用いて説明する。
図2に示した構成の場合、身分証明書の上辺又は下辺から剥離した場合は、横方向にクラックを発生させながら縦方向に剥離が進む。そのため、縦方向の導電性はなくなるが、横方向には残ることがある。一方、左辺又は右辺から剥離した場合は、縦方向にクラックを発生させながら横方向に剥離が進む。このため、横方向の導電性はなくなるが、縦方向には残ることがある。このようなことから、剥離の形跡を検知できない恐れがある。
そこで、図3(a)、(b)は、顔写真7の表面と裏面に導電層4を配設する際に、導電層9を九十九折りにして顔写真7を巻込むことにより、縦に向けて剥離したときは縦画線、また、横に向けて剥離したときは横画線の導電性が切断されやすくなる構成とした。つまり、剥離時に導電性に異方性が残っても確実に改ざんの形跡を検知できるようにしたものである。
【0040】
また、図3(c)、(d)は、顔写真7の表面と裏面を巻込むように、導電層9を配設することにより、縦に向けて剥離したときは縦画線又は横に向けて剥離したときは横画線の導電性が切断されやすくなる構成とした。さらに、顔写真7を幾重にも巻込んで導電層9を配設することにより、顔写真7等の上から摩耗又は切削により情報を改ざんしようとしたときに、導電性が切断される面積を広くとることができるようになる。つまり、剥離のみでなく、顔写真を削ることにより改ざんした場合にも確実に改ざんの形跡を検知できる。
【0041】
(実施例2) 図4に、本発明の実施の形態を用いた別の形態の実施例である、情報を担持した剥離防止媒体を身分証明書等の媒体に用いた実施例2を示す。本実施例の特徴は、下部積層体と上部積層体との間で部分的に導電性を発現させる構成であり、剥離した際に下部積層体と上部積層体の間の導電性が部分的に変化することにより剥離の部位や状況の形跡が検知できるような構成としている。
【0042】
本実施例の情報を担持した剥離防止媒体について、構成、情報を担持する方法、剥離状態、剥離検知の方法の順に説明する。本実施例2の身分証明書の作製手順は、実施例1と同様であるので、説明を省略する。
【0043】
図4は、情報を担持した剥離防止媒体を身分証明書に利用した実施例2を説明する図である。図4(a)に、下部積層体の平面図と概略断面図を示す。下部積層体は、下部基材2、第一接着受像層4及び第一導電層5を積層し、第一導電層5は、金ナノインキを用いて横画線の形状をインクジェットプリンタで印刷した。
【0044】
図4(b)に、上部積層体の平面図と概略断面図を示す。上部積層体は、上部基材3、第二接着受像層4´及び第二導電層5´を積層し、第二導電層5´は、金ナノインキを用いて、縦画線の形状をインクジェットプリンタで印刷した。
【0045】
なお、金ナノインキは、インクジェットプリンタにより印刷できるように、以下の配合とした。
[導電性材料の組成]
金微粒子 2〜30 重量部
[溶媒の組成]
水 40〜70 重量部
アルコール 20〜50 重量部
助剤 1〜30 重量部
金ナノインキに用いる金微粒子は、電気炉等を用い、温度150℃において、5分間以上加熱すると導電性が発現する材料を用いたが、加熱温度や導電性が目的に合えば、他の金属のナノ材料が取り得る。
【0046】
基材と接着受像層は、本実施例では、基材の機能、インクジェットインキが印刷できる受像の機能及び110℃〜140℃の温度で溶融し、接着する機能のものとして、市販のラミネートシートを用いたが、目的に合うものを作製しても良い。
印刷方法は、インクジェットプリンタ(エプソン社製、PX−V630型)を用いてラミネートシートに印刷を行った。
【0047】
上記第一導電層5と第二導電層5´を金ナノインキで印刷して風乾させ、インキ皮膜を形成した後、上記第一導電層5と第二導電層5´を形成している画線の全体にフラッシュ(SUNPAK社製、B3000S型、ガイドナンバー30)の照射パワーを1/2の値に調節してフラッシュ光を0.1ms以内の時間で照射した。
照射後の確認として、マルチメータ等の一般的な抵抗測定器6を用いた計測方法を使用して、フラッシュ光を照射した上記第一導電層5と第二導電層5´の導電層部分の抵抗値を接触方式により確認した。その結果、フラッシュ光照射前の抵抗値が約2MΩであったのに対し、照射後の抵抗値は5Ωであった。よって、フラッシュ光を照射したインキ皮膜の部分は、導電性が発現したことが確認できた。
【0048】
図4(c)は、図4(a)の下部積層体に更に第三導電層5"を形成した平面図と概略断面図である。第三導電層5"は、金ナノインキをインクジェットプリンタを用いて、第一導電層5の上部にベタ状に印刷して形成したが、金ナノインキの付着量を多くしたい場合は、更に重ね印刷することも有効である。
なお、第三導電層5"の目的は、第一導電層5と第二導電層5´による縦及び横画線の電気的な導通を向上させるためであり、第三導電層5"を介して導電性を向上させるためのつなぎの役割なので、導電性が得られれば第三導電層5"はなくてもよい。
第三導電層5"のつなぎの役割とは、第三導電層5"がない場合は、第一導電層5と第二導電層5´の画線が点として接触しているだけである。一方、第三導電層5"がある場合は、第一導電層5と第二導電層5´の接触点の周囲にある第三導電層5"を介して広い面積で接触できるため、導電性を向上させることができる。この役目を「つなぎ」と称す。
【0049】
また、金ナノインキを用いた例を示したが、金以外の材料として、銀ナノインキや銅ナノインキも取り得るが、加熱温度、導電性、保存安定性等の特性が十分であれば用いることができる。
【0050】
また、印刷方法としては、インクジェットプリンタに限定されるものではなく、平圧印刷機、凸版印刷機、平版印刷機、凹版印刷機又はスクリーン印刷機等の印刷機械を用いる方法や、スプレー塗装、静電塗装、電着塗装、ロール塗装、カーテンフロー塗装又は浸漬塗装等の塗装方法によっても行うことが可能である。
【0051】
図4(d)、(e)は、身分証明書を完成する工程を示す。
図4(d)において、図4(c)の下部積層体、顔写真7、図4(b)の上部積層体の順に重ねて、ラミネータにより熱と圧力を印加して熱接着し、身分証明書を完成する。その際に、下部積層体の第一導電層5と上部積層体の第二導電層5´が重なって、縦画線と横画線によるマトリクス状の印刷画像が形成された身分証明書が完成する。図4(e)は、身分証明書の内部の平面図と概略断面図である。
なお、上記したように、第一導電層5の横画線と第二導電層5´の縦画線にはフラッシュ光を照射しているので、各々あらかじめ導電性があるが、両者の間にある第三導電層5"は導電性のない状態にある。
また、本実施例では、図4(e)に示すように、顔写真7を挟む際に、顔写真7が縦画線と横画線で囲まれるように配置している。また、ラミネータの温度は、接着受像層の溶融に必要な温度とし、かつ、導電層の導電性が発現しない温度として、120℃に設定した。
【0052】
図4(f)は、導電発現と電気伝導度により、導電性の情報を担持する方法を示す図である。本実施例では、顔写真7が剥離されたことを検知するため、顔写真7を囲むように、点X、Y、Z、Wの4点に、身分証明書の上からフラッシュ光を照射した。照射の位置は、顔写真7が配置されている縦画線と横画線が交差する部分を中心とし、照射の範囲は、各点を中心に十分広い面積とした。用いたフラッシュは、SUNPAK社製(B3000S型、ガイドナンバー30)で、照射パワーは1/2の値に調節してフラッシュ光を0.1ms以内の時間で照射した。
4点の周辺が照射エネルギーを受けた際に、第一導電層5と第二導電層5´の間にある第三導電層5"が導電性を発現したため、第一導電層5と第二導電層5´には電気的な導通が得られた。
【0053】
図4(g)に、身分証明書の剥離状態と電気伝導性の状態変化を示す。図4(g)に示すように、身分証明書の右側から、点Zと点Wに架かる位置まで剥離させた。その結果、身分証明書の右側から点Zと点Wまでの範囲が剥離したため、第一導電層5と第二導電層5´の間の電気的な導通が切断された。また、第一導電層5自体及び第二導電層5´自体にも剥離によりクラックが入ったため、更に導電性が悪化したものと考えられる。
【0054】
図4(f)の表3及び図4(g)の表4を用いて、本実施例における剥離検知の方法を説明する。図4(f)の表3は、剥離前の上部積層体の測定端子A、B、C、D及び下部積層体の測定端子E、F、G、Hの各組合せによる導通の状態を示した表である。測定端子B、Cに対しF、Gの導通が得られたのは、身分証明書の上から顔写真7を囲む点X、Y、Z、Wに照射エネルギーを与えた際に、導電性が発現したことが理由であり、一方、他の部分に導通がないのは、照射エネルギーを与えてないことが理由である。つまり、表3の状態は、身分証明書に担持した既定の情報を示している。
【0055】
一方、図4(g)の表4は、剥離後の上部積層体の測定端子A、B、C、D及び下部積層体の測定端子E、F、G、Hの各組合せによる導通の状態を示した表である。測定端子Bに対しF、Gの導通が失われたのは、上部積層体と下部積層体を剥離したことにより、点Z、Wの部分で縦画線と横画線の導電性の経路が破断したためである。
【0056】
また、本実施例2による別の形態を、図5を用いて説明する。
図4に示す実施例2との相違は、下部積層体と上部積層体の間に顔写真7の他のデータパネルを挟んだ点である。
図5(a)に、層の構成を示した。実施例2と同様に、下部基材2、第一接着受像層4及び第一導電層5を積層し、更に第三導電層5"を形成した下部積層体と、上部積層体の間に顔写真7とデータパネルとを挟んで構成する。顔写真7とデータパネルを挟む際に、顔写真7とデータパネルとが第一導電層5と第二導電層5´による縦画線と横画線で囲まれる位置に配置している。
【0057】
図5(b)に、データの担持状態を示した。本実施例では顔写真7とデータパネルの二つの部分が剥離されたか否かを検知するため、この二つの部分を囲むように、身分証明書の上から、8箇所にフラッシュ光を照射した。
図5(c)の表5は剥離前の、表6は剥離後の上部積層体の測定端子A、B、C、D及び下部積層体の測定端子E、F、G、Hの各組合せによる導通の状態を示したものである。表6において、測定端子A,Bに対しE、Fの導通が失われたのは、上部積層体と下部積層体とを剥離して、データパネルを差し替えたことにより、データパネルの周囲における四つの部分で、縦画線と横画線の導電性の経路が破断したためであり、データパネルのみが差し替えられたことが解る。
結果として、上部積層体と下部積層体とを剥離したことにより、身分証明書に担持した導電性の元情報が変化したことから、右側からデータパネルが剥離されたことが推定できる。
このように、本実施例では、身分証明書の全面に渡って剥離の状況を判別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明に係る剥離及び開封防止媒体の実施の形態を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態を用いた実施例1を説明する図である。
【図3】実施例1の別の形態を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態を用いた実施例2を示す図である。
【図5】実施例2の別の形態を示す図である。
【符号の説明】
【0059】
1 剥離防止媒体
2 下部基材
3 上部基材
4 第一接着受像層
4´ 第二接着受像層
5 第一導電層
5´ 第二導電層
5" 第三導電層
6 抵抗測定器
7 顔写真
8a、8b 測定端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部基材と上部基材の間に第一の積層体と第二の積層体が積層されて形成され、前記第一の積層体は、前記下部基材と接する側から第一の接着受像層、第一の導電層が順次積層され、前記第二の積層体は、前記上部基材と接する側から第二の接着受像層、第二の導電層が順次積層され、前記第一の導電層と前記第二の導電層は、熱融着により結合されて成ることを特徴とする剥離及び開封防止媒体。
【請求項2】
前記第一の積層体における第一の導電層の上方表面又は前記第二の積層体における第二の導電層の上方表面のいずれかに第三の導電層を設けて成る請求項1に記載の剥離及び開封防止媒体。
【請求項3】
前記第一の導電層、前記第二の導電層及び前記第三の導電層は、金属ナノインキ又はその錯体による印刷により形成され、前記第一の導電層、前記第二の導電層及び前記第三の導電層が熱融着されて、前記金属ナノインキ又はその錯体によるマトリクス状の印刷画線が形成され、
前記第一の導電層及び前記第二の導電層の印刷画線部分に、照射エネルギーを照射して前記第一の導電層及び前記第二の導電層間に電気的な伝導性を得ることで、情報記録が可能である請求項1又は2記載の剥離及び開封防止媒体。
【請求項4】
前記第一の導電層、前記第二の導電層及び前記第三の導電層は、金属ナノインキ又はその錯体によるマトリクス状の印刷画線が形成され、
前記第一の導電層及び前記第二の導電層における印刷画線部分の前記情報記録された周辺のマトリクス状の印刷画線上に、照射エネルギーを照射して前記第一の導電層及び前記第二の導電層間に電気的な伝導性を部分的に得ることで、所望の位置に情報記録が可能であり、かつ、前記マトリクス状の印刷画線上における剥離の位置情報が検知できる請求項1、2又は3記載の剥離防止媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−19912(P2010−19912A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−178106(P2008−178106)
【出願日】平成20年7月8日(2008.7.8)
【出願人】(303017679)独立行政法人 国立印刷局 (471)
【Fターム(参考)】