説明

剥離可能な一時的コーティング

本発明は、少なくとも1種の水系フィルム形成ポリマーを含む、基材上に剥離可能な一時的コーティングを形成するための水性コーティング組成物であって、アミノ樹脂系ポリマーの固体粒子をさらに含むことを特徴とする、水性コーティング組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材上に剥離可能な一時的コーティングを形成するための水性コーティング組成物、基材上に剥離可能な一時的コーティングを形成するための方法、および被覆された基材に関する。
【背景技術】
【0002】
上述の種類のコーティング組成物は、ドイツ特許出願DE19921885Aから知られている。知られている組成物は、ポリマー分散液および無機鉱物充填剤粒子を含む。無孔性基材に塗布すると、組成物は、基材への接着性より高い内部粘着性を有するフィルムを形成する。組成物から調製される一時的コーティングは、様々な製品および部品の露出表面の保護に効果的であり、剥離により除去することができる。
【0003】
そのようなコーティングは、自動車およびその部品の一時的保護および/または装飾に好適である。新車の表面塗装仕上げは、組立工程中、および組立工場から小売店までの運搬中の両方において様々な種類の損傷を受けやすい。典型的な損傷源は、酸性雨、鳥の糞、および、列車がレール上を通過する際にレール基盤から生じる、または架空送電線上を擦りながら移動する電気送給器からから生じる硬質の研磨粒子の粉塵である「レールダスト」を含む。多くの車は列車で組立工場またはドックヤードから小売市場まで運搬されるため、レールダストは車メーカーにとって特に難しい問題である。新車に加え、他の製品もまた、運送中だけでなく他の製品への製造および組立中にも磨耗および有害な条件に曝される。例えば、防風窓およびその他のガラス製品は、道路および列車輸送中のかき傷および擦り傷を避けるために、特別に保護されなければならない。甲板積み貨物もまた、塩水およびその他の要因によりもたらされる表面損傷を受けやすい。同様に、多くの製品は、下流の製造者による製造または組立中に保護されなければならない。例えば、高光沢仕上げのプラスチック積層およびその他の材料、例えば浴室の設備およびクロムメッキまたは真鍮表面は、運搬中だけでなく、他の製品への据付または組立中にも保護されなければならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特に、除去時のより良好な剥離性をもたらすコーティング層の改善された機械的特性に関して、および屋外曝露時の一時的コーティングの耐性、特に耐水性に関して、一時的コーティングの特性を改善する継続的な必要性がある。したがって、本発明は、これらの必要性を満たす剥離可能な一時的コーティングを形成するためのコーティング組成物を提供することを目指す。
【課題を解決するための手段】
【0005】
ここで、本発明は、少なくとも1種の水系フィルム形成ポリマーを含む、基材上に剥離可能な一時的コーティングを形成するための水性コーティング組成物を提供し、該組成物は、アミノ樹脂系ポリマーの固体粒子をさらに含む。
【0006】
水性コーティング組成物(a water borne coating composition)における添加剤としてのアミノ樹脂系ポリマーの固体粒子は、一時的コーティング層の剥離性を改善することが見出されている。多くの場合、耐水性が追加的に改善される。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明によるコーティング組成物は、一時的保護コーティングがもはや必要でない場合に剥離することにより容易に除去される一時的コーティングをもたらす。一般に、コーティングはまた、良好な耐水性を有する。
【0008】
水系フィルム形成ポリマーの選択は、少なくとも部分的に、剥離による一時的コーティングの除去の容易性を決定する。一般に、低ガラス転移温度(Tg)を有するフィルム形成ポリマーが好ましい。好適なフィルム形成ポリマーは、19℃以下、または13℃以下、または9℃以下のTgを有し得る。一般に、フィルム形成ポリマーは、−30℃以上、または−25℃以上のTgを有する。
【0009】
同様に、一時的コーティングの柔軟性は、その剥離性に対する有利な効果を有する。そのため、好ましくは、乾燥後に80MPa以下、または50MPa以下の弾性率を有する塗料コートを生成する塗料組成物が使用される。また、塗料コートの弾性率が最大20MPaである場合に良好な結果が得られる。一般に、塗料コートの弾性率は、少なくとも9MPa、または少なくとも10MPaである。一時的コーティングの破断点伸びも同様に、良好な剥離性に関連する。一般に、一時的コーティングの破断点伸びは、基材から剥離された際のコーティングの早期破断を防止するように、少なくとも400%、または少なくとも500%、またはさらに少なくとも600%である。高すぎる破断点伸びは、剥離性に有利ではない。好適には、破断点伸びは1,000%を超えず、好ましくは900%を超えない。これまで、弾性率が5MPaから12MPaの範囲内である時に非常に良好な結果が達成されており、破断点伸びは500%から800%の範囲内である。
【0010】
好適な水系フィルム形成ポリマーの例は、ポリウレタン、ポリエステル、ポリカーボネート、およびオレフィン性不飽和モノマーの重合により調製されたポリマー、例えばポリ(メタ)アクリレートまたは酢酸ビニルのコポリマーである。これらの種類のフィルム形成ポリマーの混合物および/またはハイブリッドを使用することもまた可能である。水系フィルム形成ポリマーの調製は、従来技術により行われる。水の非存在下でポリマーを調製した後、水中に消散させることが可能である。代替として、ポリマーは、例えばエマルジョン重合等により、水性環境において調製することができる。一実施形態において、本発明のコーティング組成物は、少なくとも2種類の異なる水系フィルム形成ポリマーを含む。
【0011】
好適な水系フィルム形成ポリマーは、Synthomer社製アクリル酸エステル−アクリロニトリルコポリマーの水性分散液Revacryl(登録商標)274、Synthomer社製酢酸ビニル−アクリル酸ブチルコポリマーの水性分散液Emultex(登録商標)AC430、Polymer Latex社製メタクリル酸エステル−アクリル酸エステルコポリマーの水性分散液Plextol(登録商標)B500、またはDSM Neoresins製水性ポリウレタン分散液NeoRez(登録商標)R987等、市販されている。
【0012】
アミノ樹脂系ポリマーの固体粒子は、一般に、組成物の総重量に基づき計算して、少なくとも1重量%、または少なくとも2重量%、またはさらに少なくとも4重量%の量でコーティング組成物中に存在する。粒子の量の上限は、組成物の総重量に基づき計算して、好適には25重量%、または20重量%、または14重量%である。平均粒径は、一般に、1μmから150μmの範囲内である。使用される粒子は、一般に、粒径分布を有する。例えば、全粒子の90%が14μm未満であってもよく、全粒子の50%が6.5μm未満であってもよい。
【0013】
一実施形態において、粒子の横寸法および縦寸法は、同様の桁であってもよい。粒子は、例えば、本質的に球状であってもよい。しかしながら、粒子はまた、その他の形状、例えば血小板形状または針状であってもよい。
【0014】
アミノ樹脂系ポリマーは、アミノ樹脂もしくはアミノ樹脂前駆体のホルムアルデヒドとの縮合反応により、またはアミンのその他の縮合および/もしくは付加反応により好適に調製され得る。好適なアミノ樹脂系ポリマーの例は、グアニジン系ポリマー、メラミン系ポリマー、ウレタン系ポリマー、アミド系ポリマー、および尿素系ポリマー、特にメチル尿素系ポリマーである。好適には、アミノ樹脂系ポリマーは架橋されている、すなわちポリマーはデュロプラスト(duroplast)である。架橋は、アミノ樹脂のホルムアルデヒドとの縮合反応において生じ得る。しかしながら、架橋は、追加的な架橋剤によっても生じさせることができる。アミノ樹脂系ポリマーの好適な固体粒子は、例えば、Deuteron GmbH(ドイツ)からDeuteron(登録商標)MKの商標で市販されている。Deuteron(登録商標)MK粒子は、メチル尿素ポリマーに基づいている。
【0015】
本発明はまた、基材上に剥離可能な一時的コーティングを形成するための水性コーティング組成物における、一時的コーティング層の剥離性を改善するための添加剤としての、アミノ樹脂系ポリマーの固体粒子の使用に関する。
【0016】
本発明のコーティング組成物の揮発性成分の主要部は、水からなる。しかしながら、すぐに使用可能なコーティング組成物の揮発性有機含有量(VOC)が420g/lを超えないことを条件として、コーティング組成物は1種または複数種の有機溶媒を含有することができる。好ましくは、210g/lを超えない。そのような有機溶媒の存在は、分散したポリマー粒子の融合を促進して均質なフィルムを形成し得る。したがって、そのような溶媒は、しばしば融合助剤(coalescing agent)と呼ばれる。好適な融合助剤として、ジメチルジプロピレングリコール、ジアセトンアルコールのメチルエーテル、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルグリコールアセテート、ブチルグリコールアセテート、1−メトキシ−2−プロピルアセテート、ブチルプロピオネート、エトキシエチルプロピオネート、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルイソアミルケトン、エチルアミルケトン、ジオキソラン、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルカーボネート、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート、プロピレンカーボネート、ブチロラクトン、カプロラクトン、およびその混合物を挙げることができる。
【0017】
本発明によるコーティング組成物は、コーティング組成物中に従来存在するその他の成分および添加剤、例えば顔料、増量剤、着色剤、顔料分散剤、乳化剤(界面活性剤)、レオロジー調節剤、平滑剤、つや消し剤、湿潤剤、クレーター形成防止剤、消泡剤、殺生物剤、可塑剤、UV吸収剤、光安定剤、および臭気マスキング剤等をさらに含み得る。
【0018】
所望の色を達成するために、コーティング組成物は、1種または複数種の顔料を含有し得る。顔料は有機または無機のいずれかであり得る。一般に、顔料の含有量は、フィルム形成ポリマーの重量に基づき計算して、1重量%から20重量%の範囲内である。代替として、または追加的に、コーティング組成物は、組成物中に全体的または部分的に可溶な1種または複数種の染料を含有し得る。
【0019】
本発明はまた、基材上に一時的コーティングを形成する方法であって、本発明によるコーティング組成物を基材上に塗布し、基材上に剥離可能な一時的コーティング層を形成させる方法に関する。一実施形態において、方法は、一時的コーティング層を剥離することにより除去するステップをさらに含む。
【0020】
コーティング組成物を塗布するために、コーティング組成物を基材に塗布するための任意の既知の方法を使用することができる。そのような塗布方法の例は、展着(例えばはけ塗り、ローリング、ペイントパッドまたはドクターブレード等)、噴霧(例えばエア供給型噴霧、エアレス噴霧、高温噴霧、および静電噴霧等)、フローコーティング(例えば浸漬、カーテンコーティング、ローラコーティング、およびリバースローラコーティング等)、ならびに電着である。
【0021】
本発明の組成物から調製されたコーティング層は、0℃から160℃、または5℃から80℃、または10℃から60℃、例えば周囲温度で乾燥させることができる。オーブン内で高温での乾燥を行うことができる。代替として、乾燥は、赤外線および/または近放射線により補助され得る。
【0022】
コーティング組成物は、基材上に一時的保護コーティングを形成するのに非常に好適である。しかし、代替として、または追加的に、コーティング組成物はまた、特に組成物が顔料を追加的に含む場合、一時的な装飾目的で使用されてもよい。一時的コーティング層を形成するために、組成物を基材に塗布して、剥離可能な一時的コーティング層を形成させる。上でさらに述べたように、一時的保護コーティングは、組立工程中および/もしくはその間、または運搬中の基材の一時的保護に必要となり得る。一時的装飾は、祭事中、自動車に特定の外観および色を与えるために望まれる場合がある。基材の一時的保護および/または装飾の必要性がもはや存在しない場合、一時的コーティング層は、コーティング層を基材から剥離することにより除去することができる。
【0023】
好適には、基材は無孔性基材である。好適な無孔性基材の例は、前処理されていてもいなくてもよい金属、前処理された木材、合成ポリマー材料、およびガラスである。さらなる好適な基材は、例えば乗用車、自転車、列車、トラック、バス、および飛行機等の、運搬用車両および自動車またはそれらの部品の上に存在するような、その他の塗料コートである。
【実施例】
【0024】
【表A】

【0025】
実施例1から3および比較例AからCのコーティング組成物は、表1に示す重量割合で成分を混合することにより調製した。
【0026】
【表1】

【0027】
本発明によるコーティング組成物1から3は、アミノ樹脂系ポリマーの固体粒子を含有する。比較組成物AからCは、そのような粒子を含有しない。液体コーティング組成物を、ベースコートおよび透明トップコートを含む自動車コーティングで事前被覆された金属パネルに塗布した。塗布は、Devilbiss噴霧ガンによる空気補助噴霧により行った。ローリングまたははけ塗りによる塗布が企図される場合、増粘剤、および任意選択で消泡剤を好適に添加することができる。コーティングは、室温で2時間、または60℃で30分間乾燥させた。乾燥した層の厚さは50〜90μmであった。1日後、塗布したコーティングを、手で剥離することにより除去した。剥離性は、ある人々のグループが手でフィルムを剥離する試験により決定した。実施例1から3からのコーティングは、それぞれ実施例AからCと比較して改善された剥離性を示すことが判明した。したがって、アミノ樹脂系ポリマーの固体粒子の添加は、一時的コーティングの除去時のより良好な剥離性をもたらすことが実証された。また、表1から、アミノ樹脂系ポリマーの固体粒子の添加により、弾性率が顕著に増加することが推察され得る。
【0028】
一時的コーティングの感水性は、7日間の水含浸により決定した。実施例1および3のコーティングは、それぞれ、比較例AおよびCよりも改善された耐水性を有することが判明した。したがって、アミノ樹脂系ポリマーの固体粒子の添加は、一時的コーティングの耐水性を改善し得ることが実証された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の水系フィルム形成ポリマーを含む、基材上に剥離可能な一時的コーティングを形成するための水性コーティング組成物であって、アミノ樹脂系ポリマーの固体粒子をさらに含むことを特徴とする、水性コーティング組成物。
【請求項2】
前記アミノ樹脂系ポリマーが、メチル尿素系ポリマーであることを特徴とする、請求項1に記載の水性コーティング組成物。
【請求項3】
前記アミノ樹脂系ポリマーが、架橋ポリマーであることを特徴とする、請求項1に記載の水性コーティング組成物。
【請求項4】
前記アミノ樹脂系ポリマーの固体粒子が、全組成物の重量を基準として、1重量%から25重量%の量で存在することを特徴とする、前記請求項のいずれか一項に記載の水性コーティング組成物。
【請求項5】
融合助剤をさらに含むことを特徴とする、前記請求項のいずれか一項に記載の水性コーティング組成物。
【請求項6】
前記水系フィルム形成ポリマーが、(メタ)アクリレート系コポリマーであることを特徴とする、前記請求項のいずれか一項に記載の水性コーティング組成物。
【請求項7】
少なくとも2種の異なる水系フィルム形成ポリマーを含むことを特徴とする、前記請求項のいずれか一項に記載の水性コーティング組成物。
【請求項8】
基材上に一時的コーティングを形成する方法であって、前記請求項のいずれか一項に記載のコーティング組成物を基材上に塗布し、基材上に剥離可能な一時的コーティング層を形成させることを特徴とする方法。
【請求項9】
前記一時的コーティング層を剥離することにより除去するステップをさらに含むことを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
剥離可能な一時的コーティングで被覆された基材であって、前記剥離可能な一時的コーティングは、請求項1から7のいずれか一項に記載のコーティング組成物から得られることを特徴とする基材。
【請求項11】
自動車またはその一部であることを特徴とする、請求項10に記載の基材。
【請求項12】
基材上に剥離可能な一時的コーティングを形成するための水性コーティング組成物における、一時的コーティング層の剥離性を改善するための添加剤としての、アミノ樹脂系ポリマーの固体粒子の使用。

【公表番号】特表2010−529246(P2010−529246A)
【公表日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−510770(P2010−510770)
【出願日】平成20年6月3日(2008.6.3)
【国際出願番号】PCT/EP2008/056853
【国際公開番号】WO2008/148763
【国際公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【出願人】(500286643)アクゾ ノーベル コーティングス インターナショナル ビー ヴィ (67)
【Fターム(参考)】