説明

剥離性水性保護コート剤

【課題】 熱可塑性樹脂基材上のアクリル樹脂コート層やITO蒸着層をアルカリや酸から保護できる塗膜を形成し、さらに工程上で不要になればその塗膜を剥離することができるコート剤を提供する。
【解決手段】 酸変性ポリオレフィン樹脂(A)、フッ素樹脂(B)および水性媒体を含有し、(B)の含有量が、(A)100質量部に対して、0.5〜20質量部であることを特徴とする剥離性水性保護コート剤。アクリルハードコート層またはITO蒸着層を積層した熱可塑性樹脂基材のアクリルハードコート層またはITO蒸着層面に、前記コート剤から水性媒体を除去してなる塗膜を形成してなる積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂基材に積層されたアクリルハードコート層やITO蒸着層を保護するためのコート剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂からなる基材上に、アクリル樹脂やITOなどのコート層や蒸着層を積層した積層体は、タッチパネルなどの電子材料に広く用いられている。しかしながらその製造工程においてエッチングなどの処理を行うと、熱可塑性樹脂基材上のアクリルハードコート層やITO蒸着層は基材から剥がれやすく、その特性が著しく低下しやすいものであった。
熱可塑性樹脂基材に、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂などを塗布して、剥離性接着剤として使用することが知られている(特許文献1)。しかしながら、アクリルハードコート層やITO蒸着層上にこれらの樹脂を保護コート層として積層しても、耐アルカリ性、耐酸性などの性能を充分に付与することができなかった。また、上記樹脂からなる保護コート層は、アクリルハードコート層やITO蒸着層との密着性が良好なために、タッチパネルなどの製造工程中に保護コート層が不要になった場合に、容易に剥離することができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−035646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、上記問題を解決し、熱可塑性樹脂基材上のアクリル樹脂コート層やITO蒸着層をアルカリや酸から保護できる塗膜を形成し、さらに工程上で不要になればその塗膜を剥離することができるコート剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意検討した結果、酸変性ポリオレフィン樹脂とフッ素樹脂とを特定の割合で含有するコート剤が上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)酸変性ポリオレフィン樹脂(A)、フッ素樹脂(B)および水性媒体を含有し、(B)の含有量が、(A)100質量部に対して、0.5〜20質量部であることを特徴とする剥離性水性保護コート剤。
(2)フッ素樹脂(B)がフルオロオレフィンであることを特徴とする(1)記載のコート剤。
(3)アクリルハードコート層またはITO蒸着層を積層した熱可塑性樹脂基材のアクリルハードコート層またはITO蒸着層面に、(1)または(2)記載のコート剤から水性媒体を除去してなる塗膜を形成してなる積層体。
【発明の効果】
【0006】
本発明のコート剤から得られる塗膜は、耐アルカリ性、耐酸性に優れるため、アクリルハードコート層やITO蒸着層を効果的に保護することができる。また、本発明のコート剤から得られる塗膜は、工程上で不要になれば剥離することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下本発明を詳細に説明する。
本発明のコート剤は、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)と、フッ素樹脂(B)と、水性媒体とを含有する水性のコート剤である。
本発明においては、塗膜を形成する樹脂として、ポリオレフィン樹脂を使用する。そして、ポリオレフィン樹脂は、酸変性ポリオレフィン樹脂であることが必要である。酸変性されていないポリオレフィン樹脂では、水性媒体に樹脂が十分に分散せず、水性のコート剤を得ることができない。しかし、ポリオレフィン樹脂を酸変性することにより、水性媒体中に安定に分散することができる。
【0008】
酸変性ポリオレフィン樹脂(A)は、不飽和カルボン酸成分とオレフィン成分とを含有する。
酸変性ポリオレフィン樹脂(A)における不飽和カルボン酸成分の含有量は、得られる塗膜とアクリルハードコート層やITO蒸着層との密着性の点から、0.1〜25質量%であることが好ましく、0.5〜15質量%がより好ましく、1〜8質量%がさらに好ましく、1〜5質量%が特に好ましい。
不飽和カルボン酸成分を導入するための不飽和カルボン酸やその無水物としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、クロトン酸等のほか、不飽和ジカルボン酸のハーフエステル、ハーフアミド等が挙げられる。中でもアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸が好ましく、特にアクリル酸、無水マレイン酸が好ましい。
また、不飽和カルボン酸成分は、ポリオレフィン樹脂中に共重合されていればよく、その形態は限定されず、例えば、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合等が挙げられる。
【0009】
酸変性ポリオレフィン樹脂(A)におけるオレフィン成分の含有量は、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。オレフィン成分の含有量が50質量%未満では、耐アルカリ性、耐酸性などのポリオレフィン樹脂由来の特性が失われてしまう。
オレフィン成分としては、エチレン、プロピレン、イソブチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン等のアルケンや、ノルボルネンのようなシクロアルケンが例示され、これらの混合物を用いることもできる。中でも、エチレン、プロピレン、イソブチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン等の炭素数2〜6のアルケンが好ましく、この中で、エチレン、プロピレン、イソブチレン、1−ブテン等の炭素数2〜4のアルケンがより好ましく、特にエチレンが好ましい。
【0010】
酸変性ポリオレフィン樹脂(A)は、得られる塗膜とアクリルハードコート層やITO蒸着層との密着性を向上させる理由から、(メタ)アクリル酸エステル成分を含有していることが好ましい。酸変性ポリオレフィン樹脂(A)における(メタ)アクリル酸エステル成分の含有量は、0.5〜40質量%であることが好ましく、1〜35質量%であることがより好ましく、3〜30質量%であることがさらに好ましく、5〜25質量%であることが特に好ましく、10〜25質量%であることが最も好ましい。この成分の含有量が0.5質量%未満では、アクリルハードコート層やITO蒸着層との密着性が低下するおそれがあり、また、40質量%を超えると、オレフィン樹脂由来の性質が失われ、耐アルカリ性や耐酸性が低下するおそれがある。
(メタ)アクリル酸エステル成分としては、(メタ)アクリル酸と炭素数1〜30のアルコールとのエステル化物が挙げられ、中でも入手のし易さの点から、(メタ)アクリル酸と炭素数1〜20のアルコールとのエステル化物が好ましい。そのような化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル等が挙げられる。これらの混合物を用いてもよい。この中で、密着性の点から、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸オクチルがより好ましく、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチルがより好ましく、アクリル酸エチルが特に好ましい。なお、「(メタ)アクリル酸〜」とは、「アクリル酸〜またはメタクリル酸〜」を意味する。
【0011】
また、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)は、他の成分を10質量%以下程度含有していてもよい。他の成分としては、ジエン類、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチル等のマレイン酸エステル類、(メタ)アクリル酸アミド類、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテルなどのアルキルビニルエーテル類、ぎ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等のビニルエステル類ならびにビニルエステル類を塩基性化合物等でケン化して得られるビニルアルコール、2−ヒドロキシエチルアクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、スチレン、置換スチレン、一酸化炭素、二酸化硫黄などが挙げられ、これらの混合物を用いることもできる。
【0012】
酸変性ポリオレフィン樹脂(A)としては、たとえば、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸−無水マレイン酸共重合体、酸変性ポリエチレン、酸変性ポリプロピレン、酸変性エチレン−プロピレン樹脂、酸変性エチレン−ブテン樹脂、酸変性プロピレン−ブテン樹脂、酸変性エチレン−プロピレン−ブテン樹脂、あるいはこれらの酸変性樹脂にさらにアクリル酸エステル等でアクリル変性したもの等が挙げられる。さらに、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)は、5〜40質量%の範囲で塩素化されていてもよい。
【0013】
酸変性ポリオレフィン樹脂(A)は、分子量の目安となる190℃、2160g荷重におけるメルトフローレートが、通常0.01〜5000g/10分、好ましくは0.1〜1000g/10分、より好ましくは1〜500g/10分、さらに好ましくは2〜300g/10分、特に好ましくは2〜200g/10分のものを用いることができる。酸変性ポリオレフィン樹脂(A)のメルトフローレートが0.01g/10分未満では、アクリルハードコート層やITO蒸着層との密着性が低下する。一方、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)のメルトフローレートが5000g/10分を超えると、塗膜は硬くてもろくなり、剥離性が低下してしまう。
【0014】
本発明のコート剤は、フッ素樹脂(B)を含有することが必要である。コート剤がフッ素樹脂(B)を含有することにより、形成された塗膜はアクリルハードコート層やITO蒸着層から剥離することができる。
【0015】
コート剤におけるフッ素樹脂(B)の含有量は、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)100質量部に対して、0.5〜20質量部であることが必要であり、0.5〜15質量部であることが好ましく、0.5〜10質量部であることがより好ましく、0.5〜5質量部であることが特に好ましい。フッ素樹脂(B)の含有量が0.5質量部未満の場合や、20質量部を超える場合には、密着性、耐溶剤性、耐アルカリ性、耐酸性が発現しなくなったり、剥離性が低下する傾向にある。
【0016】
フッ素樹脂としては、フッ化ビニリデン、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、ペンタフルオロプロピレン、ヘキサフルオロプロピレンなどのフルオロオレフィンが挙げられる。
【0017】
本発明の剥離性水性保護コート剤は、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)とフッ素樹脂(B)と水性媒体とを含有する。コート剤の媒体は、作業者や作業環境への安全性の観点から、水を主成分とすることが好ましい。酸変性ポリオレフィン樹脂(A)やフッ素樹脂(B)の水性化、溶解、乾燥負荷低減などの目的のために、媒体には、水以外に有機溶剤が含まれていても差し支えない。また媒体には、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)等を水性化する際に添加される水溶性の塩基性化合物を含む場合もある。
【0018】
上述のように、本発明のコート剤においては、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の水性化を促進し、分散粒子径を小さくするために、水性化の際に有機溶剤を添加することが好ましい。使用する有機溶剤量は、水性媒体中の40質量%以下が好ましく、1〜40質量%であることがより好ましく、2〜35質量%がさらに好ましく、3〜30質量%が特に好ましい。有機溶剤量が40質量%を超える場合には、実質的に水性媒体とはみなせなくなり、使用する有機溶剤によっては水性分散体の安定性が低下してしまう場合がある。なお、水性化の際に添加した有機溶剤は、ストリッピングと呼ばれる脱溶剤操作で系外へ留去させて適度に減量してもよく、有機溶剤量を低くしても、特に性能面での影響はない。
本発明において使用される有機溶剤としては、沸点が30〜250℃のものが好ましく、50〜200℃のものが特に好ましい。これらの有機溶剤は2種以上を混合して使用してもよい。なお、有機溶剤の沸点が30℃未満の場合は、樹脂の水性化時に揮発する割合が多くなり、水性化の効率が十分に高まらない場合がある。沸点が250℃を超える有機溶剤は樹脂塗膜から乾燥によって飛散させることが困難であり、塗膜の耐水性が低下する場合がある。
上記の有機溶剤の中でも、樹脂の水性化促進に効果が高く、しかも水性媒体中から有機溶剤を除去し易いという点から、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルが好ましく、低温乾燥性の点からエタノール、n−プロパノール、イソプロパノールが特に好ましい。
【0019】
また本発明のコート剤において、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)中のカルボキシル基は、塩基性化合物によって中和されていることが好ましい。中和によって生成したカルボキシルアニオン間の電気反発力によって微粒子間の凝集が防がれ、水性分散体に安定性が付与される。水性化の際に用いる塩基性化合物はカルボキシル基を中和できるものであればよい。従って、このような目的で添加される塩基性化合物は、水性化助剤といえるが、本発明の効果を損なわないためには塩基性化合物は揮発性のものが用いられる。
水性分散体に添加する塩基性化合物として、塗膜形成時に揮発するアンモニア又は有機アミン化合物が塗膜の耐水性の面から好ましく、中でも沸点が30〜250℃、さらには50〜200℃の有機アミン化合物が好ましい。沸点が30℃未満の場合は、後述する樹脂の水性化時に揮発する割合が多くなり、水性化が完全に進行しない場合がある。沸点が250℃を超えると樹脂塗膜から乾燥によって有機アミン化合物を飛散させることが困難になり、塗膜の耐水性が低下する場合がある。
有機アミン化合物の具体例としては、トリエチルアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、アミノエタノールアミン、N−メチル−N,N−ジエタノールアミン、イソプロピルアミン、イミノビスプロピルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、3−エトキシプロピルアミン、3−ジエチルアミノプロピルアミン、sec−ブチルアミン、プロピルアミン、メチルアミノプロピルアミン、3−メトキシプロピルアミン、モノエタノールアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン等を挙げることができる。
塩基性化合物の添加量は酸変性ポリオレフィン樹脂(A)中のカルボキシル基に対して0.5〜3.0倍当量であることが好ましく、0.8〜2.5倍当量がより好ましく、1.01〜2.0倍当量が特に好ましい。0.5倍当量未満では、塩基性化合物の添加効果が認められず、3.0倍当量を超えると塗膜形成時の乾燥時間が長くなったり、水性分散体が着色する場合がある。
【0020】
次に、本発明のコート剤の製造方法を説明する。
本発明のコート剤の製造方法としては、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)とフッ素樹脂(B)とを水性媒体中に均一に分散または溶解することができる方法であれば、特に限定されるものではない。たとえば、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の分散体とフッ素樹脂(B)の分散体とを混合し、さらに必要に応じて水または有機溶媒などを添加する方法が挙げられる。酸変性ポリオレフィン樹脂(A)やフッ素樹脂(B)を水性分散体とする方法としては、これらの成分を、水性媒体、塩基性化合物とともに加熱、攪拌する方法が挙げられる。この際、必要に応じて乳化剤等の水性化助剤を使用してもよい。
また、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)とフッ素樹脂(B)の各原料樹脂を混合した後、水や有機溶媒と混合して水性分散化または溶解させる方法も挙げられ、必要に応じて塩基性化合物や乳化剤を使用すればよい。
いずれの製法においても、工程後や工程中に、水や有機溶剤を留去したり、水や有機溶媒により希釈することによって任意に濃度調整を行うことができる。
【0021】
本発明に使用可能な酸変性ポリオレフィン樹脂(A)としては、アルケマ社製のHX−8290、LX−4110、TX−8030、HX−8210などが挙げられる。また、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の水性分散体としては、三井化学社製のケミパールSA−100、ケミパールS−75N、日本製紙社製のスーパークロンE−723などが挙げられる。
また、本発明に使用可能なフッ素樹脂(B)のうち、市販のフッ素樹脂の分散体としては、旭硝子社製アサヒガードEシリーズが挙げられる。具体的には、「AG−E060」、「AG−E061」、「AG−E082」などが挙げられる。
【0022】
本発明のコート剤における樹脂含有率は、成膜条件、目的とする塗膜厚さや要求される耐性等に応じて適宜選択され、特に限定されるものではない。コート剤の粘性を適度に保ち、かつ良好な塗膜形成能を発現させる点で、1〜60質量%であることが好ましく、3〜55質量%であることがより好ましく、5〜50質量%であることがさらに好ましく、5〜45質量%であることが特に好ましい。
【0023】
なお、本発明のコート剤には、乳化剤等の不揮発性の水性化助剤を使用してもよいが、アクリルハードコート層やITO蒸着層との密着性の観点から、コート剤中の含有量を5質量%以下とすることが好ましく、使用しないことが最も好ましい。不揮発性の水性化助剤としては、乳化剤、保護コロイド作用を有する化合物、変性ワックス類、高酸価の酸変性化合物、水溶性高分子などが挙げられる。
【0024】
乳化剤としては、カチオン性乳化剤、アニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤、あるいは両性乳化剤が挙げられ、一般に乳化重合に用いられるもののほか、界面活性剤類も含まれる。例えば、アニオン性乳化剤としては、高級アルコールの硫酸エステル塩、高級アルキルスルホン酸塩、高級カルボン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルサルフェート塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルサルフェート塩、ビニルスルホサクシネート等が挙げられ、ノニオン性乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、エチレンオキサイドプロピレンオキサイドブロック共重合体、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体などのポリオキシエチレン構造を有する化合物やポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどのソルビタン誘導体等が挙げられ、両性乳化剤としては、ラウリルベタイン、ラウリルジメチルアミンオキサイド等が挙げられる。
保護コロイド作用を有する化合物、変性ワックス類、高酸価の酸変性化合物、水溶性高分子としては、ポリビニルアルコール、カルボキシル基変性ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、変性デンプン、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸およびその塩、カルボキシル基含有ポリエチレンワックス、カルボキシル基含有ポリプロピレンワックス、カルボキシル基含有ポリエチレン−プロピレンワックスなどの数平均分子量が通常は5000以下の酸変性ポリオレフィンワックス類およびその塩、アクリル酸−無水マレイン酸共重合体およびその塩、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、イソブチレン−無水マレイン酸交互共重合体、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合体等の不飽和カルボン酸含有量が10質量%以上のカルボキシル基含有ポリマーおよびその塩、ポリイタコン酸およびその塩、アミノ基を有する水溶性アクリル系共重合体、ゼラチン、アラビアゴム、カゼイン等、一般に微粒子の分散安定剤として用いられている化合物が挙げられる。
【0025】
本発明のコート剤には、必要に応じて、ブロッキング防止剤、レベリング剤、消泡剤、ワキ防止剤、顔料分散剤、紫外線吸収剤等の各種薬剤を添加してもよい。
【0026】
本発明のコート剤には、必要に応じて他の重合体を添加することができる。例えば、ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビリニデン、スチレン−マレイン酸樹脂、スチレン−ブタジエン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン樹脂、(メタ)アクリルアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、変性ナイロン樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂が挙げられ、2種以上使用してもよい。添加時期は特に限定されず、たとえば、上記重合体の液状物を適宜添加すればよい。
【0027】
本発明のコート剤を熱可塑性樹脂基材上のアクリルハードコート層やITO蒸着層に塗工する方法は特に限定されず、スクリーンコーティング、グラビアロールコーティング、リバースロールコーティング、ワイヤーバーコーティング、リップコーティング、エアナイフコーティング、カーテンフローコーティング、スプレーコーティング、浸漬コーティング、はけ塗り法等が採用できる。塗工後の乾燥方法としては、熱風乾燥法が挙げられる。乾燥温度は50〜150℃が好ましく、乾燥時間は20秒〜20分が好ましい。
コート剤の塗布量については、基材によって適宜、決定すればよい。塗膜の厚みは、耐アルカリ性や耐酸性を十分高めるためには少なくとも0.1μmより厚くすることが好ましく、0.1〜15μmであることがより好ましく、0.2〜12μmがさらに好ましく、0.3〜10μmが特に好ましい。
【0028】
熱可塑性樹脂基材のアクリルハードコート層やITO蒸着層上に、本発明のコート剤から水性媒体を除去してなる塗膜を設ければ、アルカリや酸からアクリルハードコート層やITO蒸着層を保護することができる。このようにして得られる塗膜は、電子材料のエッチング保護膜などとして使用することができる。
【0029】
熱可塑性樹脂基材における熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂や、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアリレート、ポリカーボネート等のポリエステル系樹脂や、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂や、ポリスチレン、ABS等のスチレン系樹脂や、ポリ塩化ビニル樹脂、金属、紙、糸等を用いることができる。成形性と耐熱性の点からポリエチレンテレフタレートまたはポリプロピレンを使用することが好適である。
熱可塑性樹脂基材の厚さは特に限定されるものではないが、通常0.5〜1000μm、好ましくは1〜500μm、より好ましくは1〜100μm、特に好ましくは1〜50μmである。
【実施例】
【0030】
以下に実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
なお、各種の特性については以下の方法によって測定または評価した。
【0031】
1.水性分散体の特性
(1)ポリオレフィン樹脂の構成
オルトジクロロベンゼン(d)中、120℃にてH−NMR分析(バリアン社製、300MHz)を行い求めた。
(2)ポリオレフィン樹脂のメルトフローレート
JIS 6730記載の方法(190℃、2160g荷重)で測定した値である。
(3)ポリオレフィン樹脂の融点
DSC(Perkin Elmer社製DSC−7)を用いて昇温速度10℃/分で測定した値である。
(4)ポリオレフィン樹脂水性分散体の固形分濃度
ポリオレフィン樹脂水性分散体を適量秤量し、これを150℃で残存物(固形分)の質量が恒量に達するまで加熱し、固形分濃度を求めた。
【0032】
2.塗膜の特性
以下の評価においては、下記の方法で製造したアクリルハードコート層積層ポリエチレンテレフタレート基材と、ITO蒸着層積層ポリエチレンテレフタレート基材(アルドリッチ社製639281)とを用い、これらのアクリルハードコート層面とITO蒸着層面とに、コート剤を乾燥後の膜厚が10μmになるようにマイヤーバーNo.34を用いて塗布した後、90℃で1分間乾燥し、次いで室温で1日放置して得られた積層フィルムを用いた。
【0033】
(アクリルハードコート層積層ポリエチレンテレフタレート基材の製造)
多官能アクリル系樹脂の混合物(荒川化学工業社製ビームセット371、固形分濃度100%)100質量部に、光開始剤(チバ・スペシャリティケミカルズ社製イルガキュア184)5質量部を添加し、固形分濃度が50質量%になるようにトルエンで希釈して、アクリルハードコート層形成用コート剤を調製した。
次に、厚さ188μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(ユニチカ社製エンブレッドSA)の一方の面に、上記アクリルハードコート層形成用コート剤を、硬化後の厚さが3μmになるようにマイヤーバーNo.8にて塗布したのち、これに紫外線を光量300mJ/cmで照射して、アクリルハードコート層積層ポリエチレンテレフタレート基材を作製した。
【0034】
(1)密着性(テープ剥離試験)
積層フィルムのコート剤塗布面にセロハンテープ(ニチバン社製TF−12)を貼り付け、テープを一気に剥がした場合の剥がれの程度を次の基準で目視評価した。
○:全く剥がれなし。
×:全て剥がれた。
【0035】
(2)塗膜の透明性
積層フィルムのコート剤塗布面の状態を目視観察した。
○:塗膜は透明に見える。
×:塗膜は白濁して曇って見える。
【0036】
(3)耐溶剤性
積層フィルムを80%エタノールに20℃で96時間浸漬し、塗膜の状態を目視にて評価した。
○:変化なし。
×:塗膜のすべてが剥がれるか又は白色になっている。
【0037】
(4)耐アルカリ性
積層フィルムを3%水酸化カリウムに40℃で1時間浸漬し、塗膜の状態を目視にて評価した。
○:変化なし。
×:塗膜のすべてが剥がれるか又は白色になっている。
【0038】
(5)耐酸性
積層フィルムを10%リン酸水溶液に40℃で2時間浸漬し、塗膜の状態を目視にて評価した。
○:変化なし。
×:塗膜のすべてが剥がれるか又は白色になっている。
【0039】
(6)剥離性
積層フィルムの塗膜端部を爪で引っかいて評価を行った。
○:簡単に塗膜が剥離できる。
×:密着性が良好なため、塗膜が剥離できない。
【0040】
使用した酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の組成を表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
(酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体E−1の製造)
ヒーター付きの密閉できる耐圧1Lガラス容器を備えた撹拌機を用いて、100.0gの酸変性ポリオレフィン樹脂(ア)〔ボンダインLX−4110、アルケマ社製〕、100.0gのイソプロパノール(以下、IPA)、5.15gのトリエチルアミン(以下、TEA)および294.85gの蒸留水をガラス容器内に仕込み、撹拌翼の回転速度を300rpmとして撹拌したところ、容器底部には樹脂粒状物の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこでこの状態を保ちつつ、10分後にヒーターの電源を入れ加熱した。そして系内温度を130℃に保ってさらに30分間撹拌した。その後、空冷にて、回転速度300rpmのまま攪拌しつつ室温(約25℃)まで冷却した後、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)し、乳白色の均一な酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体E−1を得た。この水性分散体の各種特性を表2に示した。
【0043】
(酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体E−2の製造)
酸変性ポリオレフィン樹脂(イ)〔ボンダインTX−8030、アルケマ社製〕を用いた以外は、E−1と同様の操作で酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体E−2を得た。この水性分散体の各種特性を表2に示した。
【0044】
(酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体E−3の製造)
酸変性ポリオレフィン樹脂(ウ)〔ボンダインHX−8210、アルケマ社製〕125.5g、IPA100.0g、TEA6.47g、蒸留水268.03gを用いた以外は、E−1と同様の操作で酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体E−3を得た。この水性分散体の各種特性を表2に示した。
【0045】
【表2】

【0046】
(フッ素樹脂水性分散体:F−1)
旭硝子社製アサヒガードAG−E060(フッ素樹脂含有水性分散体、カチオン性、固形分濃度20質量%)を使用した。
(フッ素樹脂水性分散体:F−2)
旭硝子社製アサヒガードAG−E061(フッ素樹脂含有水性分散体、固形分濃度20質量%)を使用した。
(フッ素樹脂水性分散体:F−3)
旭硝子社製アサヒガードAG−E082(フッ素樹脂含有水性分散体、固形分濃度20質量%)を使用した。
【0047】
表3に、用いたフッ素樹脂分散体を示す。
【0048】
【表3】

【0049】
実施例1
酸変性ポリオレフィン水性分散体E−1とフッ素樹脂F−1とを、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)とフッ素樹脂(B)の固形分質量比が100/0.5になるように配合し、室温にてメカニカルスターラーで攪拌(100rpm)・混合し、コート剤J−1を調製した。
【0050】
実施例2〜25
表4、表5、表6に示すように、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)とフッ素樹脂(B)の種類や混合比を変えた以外は、実施例1と同様の操作を行ってコート剤J−2〜J−25を得た。
【0051】
実施例1〜25の評価結果を表4、表5、表6に示す。
【0052】
【表4】

【0053】
【表5】

【0054】
【表6】

【0055】
比較例1〜12
表7、表8に示すように、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)とフッ素樹脂(B)の種類や混合比を変えた以外は、実施例1と同様の操作を行ってコート剤H−1〜H−12を得た。比較例1〜12の評価結果を表7、表8に示す。
【0056】
【表7】

【0057】
【表8】

【0058】
実施例1〜25のコート剤から形成された塗膜は、アクリルハードコート層やITO蒸着層との密着性が良好であり、耐溶剤性、耐アルカリ性、耐酸性などの耐性に優れ、また、この塗膜は剥離性にも優れており、密着性と剥離性とが両立していた。
【0059】
これに対し、比較例1〜3のコート剤はフッ素樹脂(B)を含有していないため、得られた塗膜は剥離性に劣っていた。
比較例4、6、8のコート剤は、フッ素樹脂(B)の含有量が本発明で規定するよりも下方に外れていたため、得られた塗膜は剥離性に劣っていた。
比較例5、7、9のコート剤は、フッ素樹脂(B)の含有量が本発明で規定するよりも上方に外れていたため、得られた塗膜は、密着性、耐溶剤性、耐アルカリ性、耐酸性が低下していた。
比較例10〜12のコート剤は酸変性ポリオレフィン樹脂(A)を含有していないため、得られた塗膜は、密着性、耐溶剤性、耐アルカリ性、耐酸性が発現しなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸変性ポリオレフィン樹脂(A)、フッ素樹脂(B)および水性媒体を含有し、(B)の含有量が、(A)100質量部に対して、0.5〜20質量部であることを特徴とする剥離性水性保護コート剤。
【請求項2】
フッ素樹脂(B)がフルオロオレフィンであることを特徴とする請求項1記載のコート剤。
【請求項3】
アクリルハードコート層またはITO蒸着層を積層した熱可塑性樹脂基材のアクリルハードコート層またはITO蒸着層面に、請求項1または2記載のコート剤から水性媒体を除去してなる塗膜を形成してなる積層体。

【公開番号】特開2010−254902(P2010−254902A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−109322(P2009−109322)
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】