剥離抑制装置
【課題】外部から流体を吸い込むための吸込口と、吸い込まれた前記流体の流路を内部に形成する内壁面とを有する流路形成構造体において、吸込口の正面方向の側方から吸込口へ向かう流れ(例えば、横風)があっても、流路内における吸込口近傍での流体剥離を抑制できる剥離抑制装置を提供する。
【解決手段】流路形成構造体の剥離抑制装置であって、吸込口3aおよびその正面近傍領域を、吸込口3aの正面方向の周りから囲むように該正面方向に延び、該正面方向の側方から吸込口3aへ向かう流体の流れを抑制する側方流抑制部材7からなる。
【解決手段】流路形成構造体の剥離抑制装置であって、吸込口3aおよびその正面近傍領域を、吸込口3aの正面方向の周りから囲むように該正面方向に延び、該正面方向の側方から吸込口3aへ向かう流体の流れを抑制する側方流抑制部材7からなる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流れの剥離を抑制する剥離抑制装置に関する。より詳しくは、流体の吸込口を有する流路形成構造体において、流路形成構造体の内部に形成される流路内の吸込口近傍領域で流れが剥離することを抑制する剥離抑制装置に関する。
【背景技術】
【0002】
流体の吸込口には、例えば、内部にファンが設置された換気用ダクトの吸込口や、ハッシュハウス内に設けられたジェットエンジンの気流吸込口や、所定のプラントまたは水路へ水流を吸い込むための吸込口や、エンジンテストセルの外気吸込口などがある。
【0003】
流れの剥離とは、物体の表面に沿っていた流れがある位置で表面から離れて逆流が生じてしまう現象をいう。流れの剥離が生じている部分はその逆流のために、速度分布の不均一性が大きくなってしまう。また、流れが再度物体の表面に付着し逆流域が消滅するさらに下流の領域でも、しばらくは速度分布の不均一性が残ってしまう。
【0004】
このような流れの剥離を、図12を例にとり説明する。図12において、吸込口3aから吸い込まれた流体が流路5へ導入される。吸込口3aは流路5の先端に位置しており、流路5は流路形成構造体3の内壁面3bにより形成されている。図12において、送風機6を用いて吸込口3aから流路5内へ空気を吸い込む。図12の場合、このように空気が吸い込まれると、横風の影響によって流れの剥離が吸込口3a近傍において発生してしまう。その影響で空気の速度分布は、図12の破線Aの方向において不均一になってしまう。
【0005】
このような流れの剥離が生じ速度分布の不均一性が大きくなってしまうと、例えば、図12の例のように送風機6が設置される吸込口3aの場合には、送風機6の振動やストールを引き起こしてしまったり、エンジンテストセルの外気吸込口の場合には、外気吸込口からの不均一な流れが原因で、エンジン吸入口近傍に流れる流れも不均一になり、正確なテストが妨げられる可能性がある。また、上記流れの剥離が生じてしまうと、流体の圧力損失が大きくなるため、流体を吸込口から吸い込むのに要する動力(例えば、送風機の動力)が大きくなってしまう。このように、流れの剥離は好ましくない結果を引き起こすため、流れの剥離を抑制することが望まれる。
流れの剥離を防止する技術が、下記の特許文献1、2に記載されている。
【0006】
特許文献1は室外機の空気送出口における流れの剥離を防止するものである。特許文献1の室外機は、その内部に設けられた軸流ファンと、軸流ファンからの空気を整流して外部へ送出するための開口部11を形成するベルマウス13(図13参照)と、を備える。特許文献1によると、図13に示すように、ベルマウス13を構成する環状部の内壁面に、軸流ファンの回転方向に沿った曲線状の溝13aを多数形成している。これにより、ベルマウス13の環状部内壁面における流れの剥離を防止している。
【0007】
特許文献2は、空気の流れを乱して流れの剥離を抑制するものである。図14は、特許文献2の構成を示している。特許文献2では、図14に示すように、空気調和装置に内装されるターボファンの吸込側に配置されたベルマウス15(開口15aを有する)に対し、断面円弧状に形成された案内部15bの表面に複数の突起17を設けている。これら突起17により、案内部15bに沿って流れる空気の流れを乱して剥離の発生を抑制している。
【特許文献1】特開2004−239579号公報 「空気調和機の室外機」
【特許文献2】特開平10−184594 「ベルマウス」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に記載の発明は、室外機の空気送出口近傍における騒音を抑制する為に空気流れの剥離を防止するためのものであり、流体の吸込口近傍における剥離を防止するためのものではない。
【0009】
また、特許文献2に記載の発明では、正面からの流れに対しては有効であるが図12のように横風が起こった場合には、流れの剥離を抑制できない。
【0010】
そこで、本発明の目的は、外部から流体を吸い込むための吸込口と、吸い込まれた前記流体の流路を内部に形成する内壁面とを有する流路形成構造体において、吸込口の正面方向の側方から吸込口へ向かう流れ(例えば、横風)があっても、流路内における吸込口近傍での流体剥離を抑制できる剥離抑制装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明によると、外部から流体を吸い込むための吸込口と、吸い込まれた前記流体の流路を内部に形成する内壁面とを有する流路形成構造体の剥離抑制装置であって、前記吸込口およびその正面近傍領域を吸込口の正面方向の周りから囲むように、該正面方向に延び、該正面方向の側方から前記吸込口へ向かう流体の流れを抑制する側方流抑制部材からなる、ことを特徴とする剥離抑制装置が提供される。
【0012】
上記剥離抑制装置の構成では、側方流抑制部材が、吸込口およびその正面近傍領域を吸込口の正面方向の周りから囲んで、前記側方から吸込口へ向かう流体の流れを抑制することにより、前記側方からの流れ(例えば、横風)がある場合でも、流路内における吸込口近傍の流体速度を、吸込方向と垂直な流路断面に関して均一にすることができる。これにより、流路内における吸込口近傍における流れの剥離を抑制でき、速度分布を均一にすることができる。
【0013】
本発明の好ましい実施形態によると、前記側方流抑制部材は、前記吸込口およびその正面近傍領域を吸込口の正面方向の周りから囲む内壁面を有し、該内壁面は、前記正面方向と平行に延びている。
【0014】
上記構成では、側方流抑制部材の内壁面は、前記正面方向と平行に延びているので、吸込口の正面側から吸込口へ真直ぐ向かう流体の流れを妨げることがない。
【0015】
本発明の好ましい実施形態によると、前記側方流抑制部材は、前記吸込口およびその正面近傍領域を吸込口の正面方向の周りから囲む内壁面を有する壁部を持ち、前記内壁面には、前記壁部を貫通する多数の貫通孔が形成されている。
また、本発明の好ましい実施形態によると、前記側方流抑制部材は、前記吸込口およびその正面近傍領域を吸込口の正面方向の周りから囲む円筒形であり、前記側方流抑制部材の側面には多数の貫通孔が形成されている。
【0016】
このような貫通孔が無い場合には、流路への吸い込みにより、側方流抑制部材の内側における圧力が吸込方向と垂直な断面に関して不均一となる。これに対し、多数の貫通孔を前記壁部又は前記側面に一様に設けた場合には、側方流抑制部材の内側における圧力を吸込方向と垂直な断面に関してより均一化でき、その結果、流路内における吸込口近傍の流体速度が、吸込方向と垂直な流路断面に関して均一に低下する。これにより、流れの剥離抑制効果をさらに高めることができる。
【0017】
本発明の好ましい実施形態によると、前記側方流抑制部材の前記内壁面または前記側面の面積に対する前記多数の貫通孔の面積の割合(開口率)が、40%程度である。
【0018】
このように、前記貫通孔の開口率を40%程度に限定することで、最も効果的に、流路内における吸込流体の速度を、吸込口近傍での吸込方向と垂直な流路断面に関して均一にできる。これにより、流れの剥離抑制効果を、最も効果的に高めることができる。
【0019】
本発明の好ましい実施形態によると、前記側方流抑制部材は、前記吸込口およびその正面近傍領域を吸込口の正面方向の周りから囲む内壁面を有し、該内壁面は、吸込口を区画する外周位置から前記正面方向と垂直な方向に間隔をおいて位置している。
【0020】
このように、側方流抑制部材の前記内壁面を吸込口の外周位置から間隔をおいて配置することで、流路内の流体速度を、吸込口近傍での吸込方向と垂直な流路断面に関して、大きく均一化できる。これにより、より効果的に流れの剥離を抑制できる。
【発明の効果】
【0021】
上述した本発明の剥離抑制装置によると、外部から流体を吸い込むための吸込口と、吸い込まれた前記流体の流路を内部に形成する内壁面とを有する流路形成構造体において、吸込口の正面方向の側方から吸込口へ向かう流れ(例えば、横風)があっても、流路内における吸込口近傍での流体剥離を抑制でき、速度分布を均一にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明を実施するための最良の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0023】
図1において、流路形成構造体3は、外部から流体を吸い込むための吸込口3aと、吸い込まれた流体の流路5を形成する内壁面3bとを有する。図1の例では、流路形成構造体3は円筒形である。即ち、吸込口3aは円形であり、流路5内における流体の流れ方向と垂直な、流路5の断面も円形である。なお、流路5内には、外部から流体を吸い込むための吸引装置(図1の例では、送風機6)が設けられている。
【0024】
吸込口3a近傍の流路5における流れの剥離を抑制するために、剥離抑制装置が設けられる。
剥離抑制装置は、吸込口3aおよびその正面近傍領域を吸込口3aの正面方向の周りから囲むように、該正面方向に延び、該正面方向の側方から吸込口3aへ向かう流体の流れを抑制する側方流抑制部材7からなる。側方流抑制部材7の内壁面7aは、吸込口3aおよびその正面近傍領域を吸込口3aの正面方向の周りから囲むように、前記正面方向と平行に延びている。また、図1の例では、側方流抑制部材7の内壁面7aは吸込口3aの外周位置から間隔をおいて配置されており、この間隔は、前記側方から吸込口3aへ向かう流体の流れを抑制できる範囲内の大きさである。また、図1の例では、側方流抑制部材7は、円筒形であり、流路形成構造体3と同軸に配置される。
【0025】
上述の剥離抑制装置では、側方流抑制部材7が、吸込口3aの正面方向の側方から吸込口3aを囲んで、側方から吸込口3aへ向かう流体の流れを抑制するので、その結果、側方から吸込口3aに向かう流体の流れ(例えば、横風)があっても、この流れが、正面から吸込口3aに向かう流体の流れに与える影響を抑制できる。従って、流路5内における吸込口3a近傍の流体速度を、吸込方向と垂直な流路断面(図1の破線Aが示す断面)に関して均一にすることができる。これにより、流路5内における吸込口3a近傍での流れの剥離を抑制できる。
また、側方流抑制部材7の内壁面7aは、前記正面方向と平行に延びているので、正面から吸込口3aへ真直ぐ向かう流体の流れを妨げることがないとともに、側方流抑制部材7の内壁面7aにより吸込口3aへの流体の流れを前記正面方向と平行な方向に整流できる。これにより、流れの剥離をより効果的に抑制できる。
【0026】
本実施形態によると、側方流抑制部材7は、内壁面7aを有する壁部7bを持ち、内壁面7aには、壁部7bを貫通する多数の貫通孔が形成されている。図1の例では、側方流抑制部材7は、吸込口3aの正面方向の側方から吸込口3aを囲む円筒形パンチングメタルであり、この円筒形の側面7aには多数の貫通孔が一様に形成されている。このような貫通孔が無い場合には、流路5への吸い込みにより、側方流抑制部材7の内側における圧力が吸込方向と垂直な断面に関して不均一となる。これに対し、多数の貫通孔を壁部7b又は側面7aに一様に設けた場合には、側方流抑制部材7の内側における圧力を吸込方向(図1の左から右への方向)と垂直な断面に関してより均一化でき、その結果、流路5内における吸込口3a近傍の流体速度が、吸込方向と垂直な流路断面に関して均一になる。これにより、流れの剥離抑制効果をさらに高めることができる。
【0027】
好ましくは、側方流抑制部材7の側面7aの面積に対する前記多数の貫通孔の面積の割合(以下、開口率と言う)が、40%程度である。
【0028】
このように、貫通孔の開口率を40%程度に限定することで、最も効果的に、流路5内における吸込流体の速度を、吸込口3a近傍での吸込方向と垂直な流路断面に関して均一にできる。これは、後述の数値シミュレーションにより確認されている。従って、貫通孔の開口率を40%程度に限定することで、流れの剥離抑制効果を、最も効果的に高めることができる。
【0029】
上述した剥離抑制装置による剥離抑制効果を確認するために、流体の数値シミュレーションを行った。
【0030】
以下で述べる数値シミュレーションは次の条件で行われた。
流路形成構造体3および側方流抑制部材7は、図1に示すように、共に円筒形であるとし、流路形成構造体3および側方流抑制部材7が同軸に配置されているとした。
吸込口3aの正面方向の側方から吸込口3aに向かう流体を、図1に示すように、流路形成構造体3の軸と垂直な方向からの一様流とした。なお、この一様流の流速をUとする。また、この一様流は図1の下側から上側に向かう一様流とした。
吸込速度をV0とする。この吸込速度は、図1の矢印V0の位置付近における、吸込方向(図1の左から右の方向)と垂直な流路断面における平均吸込速度である。
側方流抑制部材7の長さを、図1で示す長さLで示す。即ち、側方流抑制部材7の長さLは、吸込口3aの正面方向において、図1に示すように、側方流抑制部材7の吸込口3a位置から正面方向先端までの長さである。
以下において、流路形成構造体3の円筒形半径、即ち、吸込口3aの半径をDとし、側方流抑制部材7の円筒形半径をD1とする。なお、以下のシミュレーションでは、前記正面方向と反対方向において、図1に示すように、側方流抑制部材7の吸込口3a位置から当該反対方向先端までの長さを2Dとした。
【0031】
図2は、本実施形態との比較のために側方流抑制部材7を設けないで行ったシミュレーションの結果を示している。図2において、色が濃い部分での流体速度が、他の領域での流体速度よりも大きくなっているのが分かる。このように、側方流抑制部材7を設けない場合には、流れの剥離が生じてしまい、流体速度分布の不均一性が大きくなってしまう。なお、図2のシミュレーションは、風速比U/V0を1.2に固定して行った。
【0032】
図3、図5,図7,図9は、側方流抑制部材7を設けた場合のシミュレーションの結果を示している。図3は、側方流抑制部材7の円筒形半径D1を変化させた場合の結果を示し、図5は、側方流抑制部材7の長さLを変化させた場合を示し、図7は、側方流抑制部材7の開口率βを変化させた場合を示し、図9は風速比U/V0を変化させた場合を示している。以下において、図1の破線Aで示す流路断面における流体速度とその均一性について評価した。
【0033】
図3は、側方流体抑制部材の円筒形半径D1を変化させて行った数値シミュレーション結果を示している。これら数値シミュレーションは、風速比U/V0を1.2に固定し、側方流抑制部材7の長さLを3Dに固定し、側方流抑制部材7の開口率を40%に固定して行った。図3において、(A)は半径D1を9D/7とした場合を示し、(B)は半径D1を2Dとした場合を示し、(C)は半径D1を3Dとした場合を示し、(D)は半径D1を4Dとした場合を示している。また、図4は、図2と図3の場合におけるVrms/V0の値を示しおり、一段目が図2の場合を示している。Vrmsは、図1の流路5内断面Aにおける、吸込方向(図1の左から右への方向)の流体速度の空間分布の標準偏差である(以下、同様)。即ち、断面Aにおける吸込方向流体速度の分布が一様であれば、Vrms=0であり、吸込口3aで剥離などが起き、断面Aでの吸込方向流体速度の分布に偏りがつけばつくほど、Vrmsの値は大きくなる。
流体速度の均一性について図2の結果と図3の結果とを比較すると、図3の場合のほうが、断面A(図1参照)における流体速度の均一性が大きく向上しているのが分かる。このように、側方流抑制部材7を設けることで、流体速度の均一性が大きく向上していることが分かる。従って、側方流抑制部材7を設けることで、剥離抑制効果が得られる。
半径D1の大きさについては、図4に示すように、1D<D1≦4Dで、流体速度が均一化され剥離抑制効果が得られることが分かる。また、D1=9D/7の場合、即ち、側方流抑制部材7を流路形成構造体3の先端に設けた場合でも流路5内の流体速度が均一化されるが、2D≦D1≦4Dで流路5内の流体速度が大きく均一化されている。このことから、流路形成構造体3の外壁面と側方流抑制部材7との間に隙間を設けることで、流路5内の流体速度を大きく均一化できることが分かる。言い換えると、側方流抑制部材7の内壁面7aを吸込口3aの外周位置から間隔をおいて配置することで、流路5内の流体速度を大きく均一化できる。
【0034】
図5は、側方流抑制部材7の長さLを変化させて行った数値シミュレーション結果を示している。これら数値シミュレーションは、風速比U/V0を1.2に固定し、円筒形半径D1を2Dに固定し、側方流抑制部材7の開口率を40%に固定して行った。図5において、(A)は長さLを0とした場合を示し、(B)は長さLを0.5Dとした場合を示し、(C)は長さLを1.0Dとした場合を示している。また、図6は、図2と図5の場合におけるVrms/V0の値を示しており、一段目が図2の場合を示している。
流体速度の均一性について図2の結果と図5の結果とを比較すると、図5の場合のほうが、断面A(図1参照)における流体速度の均一性が大きく向上しているのが分かる。このように、側方流抑制部材7を設けることで、流体速度の均一性が大きく向上していることが分かる。従って、側方流抑制部材7を設けることで、剥離抑制効果が得られる。
長さLの大きさについては、長さLがゼロの場合には、図5、図6に示すように、流体速度の均一性は図2の場合とあまり変わらない。しかし、長さL≧0.5D以上で流体速度が均一化され剥離抑制効果が得られている。言い換えると、側方流抑制部材7が、吸込口3aの正面方向に位置する吸込口3a近傍領域をこの正面方向の周りから囲むことで剥離抑制効果が得られる。
【0035】
図7は、側方流抑制部材7の開口率βを変化させて行った数値シミュレーションを示している。これら数値シミュレーションは、風速比U/V0を1.2に固定し、円筒形半径D1を2Dに固定し、側方流抑制部材7の長さLをDに固定して行った。図7において、(A)は開口率βを0%とした場合を示し、(B)は開口率βを40%とした場合を示し、(C)は開口率βを50%とした場合を示し、(D)は開口率βを60%とした場合を示し、(E)は開口率βを70%とした場合を示している。また、図8は、図2と図7の場合におけるVrms/V0の値を示しており、一段目が図2の場合を示している。
流体速度の均一性について図2の結果と図7の結果とを比較すると、図7の場合のほうが、断面A(図1参照)における流体速度の均一性が向上しており、特に、図7の(B)、(C)の場合では流体速度の均一性が大きく向上しているのが分かる。
開口率βについて述べると、図8に示すように、開口率βが40%と50%の場合に、流体速度の均一性が大きく向上されている。特に、開口率βが40%の場合に、流体速度の均一性が最も向上している。従って、開口率βが40%の場合に、流れの剥離効果が最も高くなる。
【0036】
図9は、風速比U/V0を変化させて行った数値シミュレーションを示している。これら数値シミュレーションは、円筒形半径D1を2Dに固定し、側方流抑制部材7の長さLをDに固定し、側方流抑制部材7の開口率βを40%に固定して行った。なお、比較のため各風速比U/V0において、側方流抑制部材7を設けない場合についてもシミュレーションを行った。図9において、上の段が側方流抑制部材7を設けない場合であり、下の段が側方流抑制部材7を設けた場合であり、左から順に、1列目が風速比U/V0=0の場合であり、2列目が風速比U/V0=0.6の場合であり、3列目が風速比U/V0=1.2の場合であり、4列目が風速比U/V0=2.3の場合である。また、図10は図9のシミュレーション結果をまとめたものである。
流体速度の均一性について図9の上の段と下の段とを比較すると、図10に示すように、U/V0=0以外はどの風速比U/V0でも、側方流抑制部材7を設けることで、断面A(図1参照)における流体速度の均一性が大きく向上しているのが分かる。
このように、側方流抑制部材7を設けることで、U/V0=0以外はどの風速比U/V0でも、流体速度の均一性が大きく向上していることが分かる。従って、側方流抑制部材7を設けることにより剥離抑制効果が得られる。
【0037】
図11は、本発明の他の実施形態による剥離抑制装置を示している。図11において、流路形成構造体3は、外壁面3cを形成する構造体であり、外部から流体を吸い込むための吸込口3aと、吸い込まれた前記流体の流路5を内部に形成する内壁面3bとを有する。
この場合、剥離抑制装置は、その一方端部を外壁面3cに固定して設けられた側方流抑制部材7からなる。他の構成は、図1の実施形態と同様である。図11の剥離抑制装置でも、図1の剥離抑制装置と同様の剥離抑制効果が得られる。
【0038】
本発明は上述した実施の形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、上記実施形態では、側方流抑制部材7は円筒形であったが、本発明はこれに限定されず、吸込口が他の形状の場合には、側方流抑制部材をこの形状に合わせた他の形状とすることができる。
また、横風とは、流路形成構造体の吸込口の正面方向の側方から吸込口へ向かう流れのであり、図1で示した横風だけでなく、斜め上方からの吸込口へ向かう流れのように、流路形成構造体の側方に対して横向方向の成分を含む流れを含むものとする。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の実施形態による剥離抑制装置の構成を示す図である。
【図2】吸込口付近の流体の流れについて、剥離抑制装置を設けずに行ったシミュレーション結果を示している。
【図3】吸込口付近の流体の流れについて、本発明の実施形態による剥離抑制装置を設け、かつ、側方流抑制部材の円筒形半径D1を変化させて行ったシミュレーション結果を示している。
【図4】Vrms/V0について図2と図3との比較を示している。
【図5】吸込口付近の流体の流れについて、本発明の実施形態による剥離抑制装置を設け、かつ、側方流抑制部材の長さLを変化させて行ったシミュレーション結果を示している。
【図6】Vrms/V0について図2と図5との比較を示している。
【図7】吸込口付近の流体の流れについて、本発明の実施形態による剥離抑制装置を設け、かつ、側方流抑制部材の開口率βを変化させて行ったシミュレーション結果を示している。
【図8】Vrms/V0について図2と図7との比較を示している。
【図9】吸込口付近の流体の流れについて、本発明の実施形態による剥離抑制装置を設け、かつ、風速比U/V0を変化させて行ったシミュレーション結果を示している。
【図10】図9についてVrms/V0と各風速比U/V0との関係を示している。
【図11】本発明の他の実施形態による剥離抑制装置の構成を示す図である。
【図12】吸込口近傍における流れの剥離を説明するための図である。
【図13】特許文献1の構成を示す図である。
【図14】特許文献2の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0040】
3 流路形成構造体
3a 吸込口
3b 内壁面
3c 外壁面
5 流路
6 送風機
7 側方流抑制部材
7a 内壁面、側面
7b 壁部
【技術分野】
【0001】
本発明は、流れの剥離を抑制する剥離抑制装置に関する。より詳しくは、流体の吸込口を有する流路形成構造体において、流路形成構造体の内部に形成される流路内の吸込口近傍領域で流れが剥離することを抑制する剥離抑制装置に関する。
【背景技術】
【0002】
流体の吸込口には、例えば、内部にファンが設置された換気用ダクトの吸込口や、ハッシュハウス内に設けられたジェットエンジンの気流吸込口や、所定のプラントまたは水路へ水流を吸い込むための吸込口や、エンジンテストセルの外気吸込口などがある。
【0003】
流れの剥離とは、物体の表面に沿っていた流れがある位置で表面から離れて逆流が生じてしまう現象をいう。流れの剥離が生じている部分はその逆流のために、速度分布の不均一性が大きくなってしまう。また、流れが再度物体の表面に付着し逆流域が消滅するさらに下流の領域でも、しばらくは速度分布の不均一性が残ってしまう。
【0004】
このような流れの剥離を、図12を例にとり説明する。図12において、吸込口3aから吸い込まれた流体が流路5へ導入される。吸込口3aは流路5の先端に位置しており、流路5は流路形成構造体3の内壁面3bにより形成されている。図12において、送風機6を用いて吸込口3aから流路5内へ空気を吸い込む。図12の場合、このように空気が吸い込まれると、横風の影響によって流れの剥離が吸込口3a近傍において発生してしまう。その影響で空気の速度分布は、図12の破線Aの方向において不均一になってしまう。
【0005】
このような流れの剥離が生じ速度分布の不均一性が大きくなってしまうと、例えば、図12の例のように送風機6が設置される吸込口3aの場合には、送風機6の振動やストールを引き起こしてしまったり、エンジンテストセルの外気吸込口の場合には、外気吸込口からの不均一な流れが原因で、エンジン吸入口近傍に流れる流れも不均一になり、正確なテストが妨げられる可能性がある。また、上記流れの剥離が生じてしまうと、流体の圧力損失が大きくなるため、流体を吸込口から吸い込むのに要する動力(例えば、送風機の動力)が大きくなってしまう。このように、流れの剥離は好ましくない結果を引き起こすため、流れの剥離を抑制することが望まれる。
流れの剥離を防止する技術が、下記の特許文献1、2に記載されている。
【0006】
特許文献1は室外機の空気送出口における流れの剥離を防止するものである。特許文献1の室外機は、その内部に設けられた軸流ファンと、軸流ファンからの空気を整流して外部へ送出するための開口部11を形成するベルマウス13(図13参照)と、を備える。特許文献1によると、図13に示すように、ベルマウス13を構成する環状部の内壁面に、軸流ファンの回転方向に沿った曲線状の溝13aを多数形成している。これにより、ベルマウス13の環状部内壁面における流れの剥離を防止している。
【0007】
特許文献2は、空気の流れを乱して流れの剥離を抑制するものである。図14は、特許文献2の構成を示している。特許文献2では、図14に示すように、空気調和装置に内装されるターボファンの吸込側に配置されたベルマウス15(開口15aを有する)に対し、断面円弧状に形成された案内部15bの表面に複数の突起17を設けている。これら突起17により、案内部15bに沿って流れる空気の流れを乱して剥離の発生を抑制している。
【特許文献1】特開2004−239579号公報 「空気調和機の室外機」
【特許文献2】特開平10−184594 「ベルマウス」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に記載の発明は、室外機の空気送出口近傍における騒音を抑制する為に空気流れの剥離を防止するためのものであり、流体の吸込口近傍における剥離を防止するためのものではない。
【0009】
また、特許文献2に記載の発明では、正面からの流れに対しては有効であるが図12のように横風が起こった場合には、流れの剥離を抑制できない。
【0010】
そこで、本発明の目的は、外部から流体を吸い込むための吸込口と、吸い込まれた前記流体の流路を内部に形成する内壁面とを有する流路形成構造体において、吸込口の正面方向の側方から吸込口へ向かう流れ(例えば、横風)があっても、流路内における吸込口近傍での流体剥離を抑制できる剥離抑制装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明によると、外部から流体を吸い込むための吸込口と、吸い込まれた前記流体の流路を内部に形成する内壁面とを有する流路形成構造体の剥離抑制装置であって、前記吸込口およびその正面近傍領域を吸込口の正面方向の周りから囲むように、該正面方向に延び、該正面方向の側方から前記吸込口へ向かう流体の流れを抑制する側方流抑制部材からなる、ことを特徴とする剥離抑制装置が提供される。
【0012】
上記剥離抑制装置の構成では、側方流抑制部材が、吸込口およびその正面近傍領域を吸込口の正面方向の周りから囲んで、前記側方から吸込口へ向かう流体の流れを抑制することにより、前記側方からの流れ(例えば、横風)がある場合でも、流路内における吸込口近傍の流体速度を、吸込方向と垂直な流路断面に関して均一にすることができる。これにより、流路内における吸込口近傍における流れの剥離を抑制でき、速度分布を均一にすることができる。
【0013】
本発明の好ましい実施形態によると、前記側方流抑制部材は、前記吸込口およびその正面近傍領域を吸込口の正面方向の周りから囲む内壁面を有し、該内壁面は、前記正面方向と平行に延びている。
【0014】
上記構成では、側方流抑制部材の内壁面は、前記正面方向と平行に延びているので、吸込口の正面側から吸込口へ真直ぐ向かう流体の流れを妨げることがない。
【0015】
本発明の好ましい実施形態によると、前記側方流抑制部材は、前記吸込口およびその正面近傍領域を吸込口の正面方向の周りから囲む内壁面を有する壁部を持ち、前記内壁面には、前記壁部を貫通する多数の貫通孔が形成されている。
また、本発明の好ましい実施形態によると、前記側方流抑制部材は、前記吸込口およびその正面近傍領域を吸込口の正面方向の周りから囲む円筒形であり、前記側方流抑制部材の側面には多数の貫通孔が形成されている。
【0016】
このような貫通孔が無い場合には、流路への吸い込みにより、側方流抑制部材の内側における圧力が吸込方向と垂直な断面に関して不均一となる。これに対し、多数の貫通孔を前記壁部又は前記側面に一様に設けた場合には、側方流抑制部材の内側における圧力を吸込方向と垂直な断面に関してより均一化でき、その結果、流路内における吸込口近傍の流体速度が、吸込方向と垂直な流路断面に関して均一に低下する。これにより、流れの剥離抑制効果をさらに高めることができる。
【0017】
本発明の好ましい実施形態によると、前記側方流抑制部材の前記内壁面または前記側面の面積に対する前記多数の貫通孔の面積の割合(開口率)が、40%程度である。
【0018】
このように、前記貫通孔の開口率を40%程度に限定することで、最も効果的に、流路内における吸込流体の速度を、吸込口近傍での吸込方向と垂直な流路断面に関して均一にできる。これにより、流れの剥離抑制効果を、最も効果的に高めることができる。
【0019】
本発明の好ましい実施形態によると、前記側方流抑制部材は、前記吸込口およびその正面近傍領域を吸込口の正面方向の周りから囲む内壁面を有し、該内壁面は、吸込口を区画する外周位置から前記正面方向と垂直な方向に間隔をおいて位置している。
【0020】
このように、側方流抑制部材の前記内壁面を吸込口の外周位置から間隔をおいて配置することで、流路内の流体速度を、吸込口近傍での吸込方向と垂直な流路断面に関して、大きく均一化できる。これにより、より効果的に流れの剥離を抑制できる。
【発明の効果】
【0021】
上述した本発明の剥離抑制装置によると、外部から流体を吸い込むための吸込口と、吸い込まれた前記流体の流路を内部に形成する内壁面とを有する流路形成構造体において、吸込口の正面方向の側方から吸込口へ向かう流れ(例えば、横風)があっても、流路内における吸込口近傍での流体剥離を抑制でき、速度分布を均一にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明を実施するための最良の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0023】
図1において、流路形成構造体3は、外部から流体を吸い込むための吸込口3aと、吸い込まれた流体の流路5を形成する内壁面3bとを有する。図1の例では、流路形成構造体3は円筒形である。即ち、吸込口3aは円形であり、流路5内における流体の流れ方向と垂直な、流路5の断面も円形である。なお、流路5内には、外部から流体を吸い込むための吸引装置(図1の例では、送風機6)が設けられている。
【0024】
吸込口3a近傍の流路5における流れの剥離を抑制するために、剥離抑制装置が設けられる。
剥離抑制装置は、吸込口3aおよびその正面近傍領域を吸込口3aの正面方向の周りから囲むように、該正面方向に延び、該正面方向の側方から吸込口3aへ向かう流体の流れを抑制する側方流抑制部材7からなる。側方流抑制部材7の内壁面7aは、吸込口3aおよびその正面近傍領域を吸込口3aの正面方向の周りから囲むように、前記正面方向と平行に延びている。また、図1の例では、側方流抑制部材7の内壁面7aは吸込口3aの外周位置から間隔をおいて配置されており、この間隔は、前記側方から吸込口3aへ向かう流体の流れを抑制できる範囲内の大きさである。また、図1の例では、側方流抑制部材7は、円筒形であり、流路形成構造体3と同軸に配置される。
【0025】
上述の剥離抑制装置では、側方流抑制部材7が、吸込口3aの正面方向の側方から吸込口3aを囲んで、側方から吸込口3aへ向かう流体の流れを抑制するので、その結果、側方から吸込口3aに向かう流体の流れ(例えば、横風)があっても、この流れが、正面から吸込口3aに向かう流体の流れに与える影響を抑制できる。従って、流路5内における吸込口3a近傍の流体速度を、吸込方向と垂直な流路断面(図1の破線Aが示す断面)に関して均一にすることができる。これにより、流路5内における吸込口3a近傍での流れの剥離を抑制できる。
また、側方流抑制部材7の内壁面7aは、前記正面方向と平行に延びているので、正面から吸込口3aへ真直ぐ向かう流体の流れを妨げることがないとともに、側方流抑制部材7の内壁面7aにより吸込口3aへの流体の流れを前記正面方向と平行な方向に整流できる。これにより、流れの剥離をより効果的に抑制できる。
【0026】
本実施形態によると、側方流抑制部材7は、内壁面7aを有する壁部7bを持ち、内壁面7aには、壁部7bを貫通する多数の貫通孔が形成されている。図1の例では、側方流抑制部材7は、吸込口3aの正面方向の側方から吸込口3aを囲む円筒形パンチングメタルであり、この円筒形の側面7aには多数の貫通孔が一様に形成されている。このような貫通孔が無い場合には、流路5への吸い込みにより、側方流抑制部材7の内側における圧力が吸込方向と垂直な断面に関して不均一となる。これに対し、多数の貫通孔を壁部7b又は側面7aに一様に設けた場合には、側方流抑制部材7の内側における圧力を吸込方向(図1の左から右への方向)と垂直な断面に関してより均一化でき、その結果、流路5内における吸込口3a近傍の流体速度が、吸込方向と垂直な流路断面に関して均一になる。これにより、流れの剥離抑制効果をさらに高めることができる。
【0027】
好ましくは、側方流抑制部材7の側面7aの面積に対する前記多数の貫通孔の面積の割合(以下、開口率と言う)が、40%程度である。
【0028】
このように、貫通孔の開口率を40%程度に限定することで、最も効果的に、流路5内における吸込流体の速度を、吸込口3a近傍での吸込方向と垂直な流路断面に関して均一にできる。これは、後述の数値シミュレーションにより確認されている。従って、貫通孔の開口率を40%程度に限定することで、流れの剥離抑制効果を、最も効果的に高めることができる。
【0029】
上述した剥離抑制装置による剥離抑制効果を確認するために、流体の数値シミュレーションを行った。
【0030】
以下で述べる数値シミュレーションは次の条件で行われた。
流路形成構造体3および側方流抑制部材7は、図1に示すように、共に円筒形であるとし、流路形成構造体3および側方流抑制部材7が同軸に配置されているとした。
吸込口3aの正面方向の側方から吸込口3aに向かう流体を、図1に示すように、流路形成構造体3の軸と垂直な方向からの一様流とした。なお、この一様流の流速をUとする。また、この一様流は図1の下側から上側に向かう一様流とした。
吸込速度をV0とする。この吸込速度は、図1の矢印V0の位置付近における、吸込方向(図1の左から右の方向)と垂直な流路断面における平均吸込速度である。
側方流抑制部材7の長さを、図1で示す長さLで示す。即ち、側方流抑制部材7の長さLは、吸込口3aの正面方向において、図1に示すように、側方流抑制部材7の吸込口3a位置から正面方向先端までの長さである。
以下において、流路形成構造体3の円筒形半径、即ち、吸込口3aの半径をDとし、側方流抑制部材7の円筒形半径をD1とする。なお、以下のシミュレーションでは、前記正面方向と反対方向において、図1に示すように、側方流抑制部材7の吸込口3a位置から当該反対方向先端までの長さを2Dとした。
【0031】
図2は、本実施形態との比較のために側方流抑制部材7を設けないで行ったシミュレーションの結果を示している。図2において、色が濃い部分での流体速度が、他の領域での流体速度よりも大きくなっているのが分かる。このように、側方流抑制部材7を設けない場合には、流れの剥離が生じてしまい、流体速度分布の不均一性が大きくなってしまう。なお、図2のシミュレーションは、風速比U/V0を1.2に固定して行った。
【0032】
図3、図5,図7,図9は、側方流抑制部材7を設けた場合のシミュレーションの結果を示している。図3は、側方流抑制部材7の円筒形半径D1を変化させた場合の結果を示し、図5は、側方流抑制部材7の長さLを変化させた場合を示し、図7は、側方流抑制部材7の開口率βを変化させた場合を示し、図9は風速比U/V0を変化させた場合を示している。以下において、図1の破線Aで示す流路断面における流体速度とその均一性について評価した。
【0033】
図3は、側方流体抑制部材の円筒形半径D1を変化させて行った数値シミュレーション結果を示している。これら数値シミュレーションは、風速比U/V0を1.2に固定し、側方流抑制部材7の長さLを3Dに固定し、側方流抑制部材7の開口率を40%に固定して行った。図3において、(A)は半径D1を9D/7とした場合を示し、(B)は半径D1を2Dとした場合を示し、(C)は半径D1を3Dとした場合を示し、(D)は半径D1を4Dとした場合を示している。また、図4は、図2と図3の場合におけるVrms/V0の値を示しおり、一段目が図2の場合を示している。Vrmsは、図1の流路5内断面Aにおける、吸込方向(図1の左から右への方向)の流体速度の空間分布の標準偏差である(以下、同様)。即ち、断面Aにおける吸込方向流体速度の分布が一様であれば、Vrms=0であり、吸込口3aで剥離などが起き、断面Aでの吸込方向流体速度の分布に偏りがつけばつくほど、Vrmsの値は大きくなる。
流体速度の均一性について図2の結果と図3の結果とを比較すると、図3の場合のほうが、断面A(図1参照)における流体速度の均一性が大きく向上しているのが分かる。このように、側方流抑制部材7を設けることで、流体速度の均一性が大きく向上していることが分かる。従って、側方流抑制部材7を設けることで、剥離抑制効果が得られる。
半径D1の大きさについては、図4に示すように、1D<D1≦4Dで、流体速度が均一化され剥離抑制効果が得られることが分かる。また、D1=9D/7の場合、即ち、側方流抑制部材7を流路形成構造体3の先端に設けた場合でも流路5内の流体速度が均一化されるが、2D≦D1≦4Dで流路5内の流体速度が大きく均一化されている。このことから、流路形成構造体3の外壁面と側方流抑制部材7との間に隙間を設けることで、流路5内の流体速度を大きく均一化できることが分かる。言い換えると、側方流抑制部材7の内壁面7aを吸込口3aの外周位置から間隔をおいて配置することで、流路5内の流体速度を大きく均一化できる。
【0034】
図5は、側方流抑制部材7の長さLを変化させて行った数値シミュレーション結果を示している。これら数値シミュレーションは、風速比U/V0を1.2に固定し、円筒形半径D1を2Dに固定し、側方流抑制部材7の開口率を40%に固定して行った。図5において、(A)は長さLを0とした場合を示し、(B)は長さLを0.5Dとした場合を示し、(C)は長さLを1.0Dとした場合を示している。また、図6は、図2と図5の場合におけるVrms/V0の値を示しており、一段目が図2の場合を示している。
流体速度の均一性について図2の結果と図5の結果とを比較すると、図5の場合のほうが、断面A(図1参照)における流体速度の均一性が大きく向上しているのが分かる。このように、側方流抑制部材7を設けることで、流体速度の均一性が大きく向上していることが分かる。従って、側方流抑制部材7を設けることで、剥離抑制効果が得られる。
長さLの大きさについては、長さLがゼロの場合には、図5、図6に示すように、流体速度の均一性は図2の場合とあまり変わらない。しかし、長さL≧0.5D以上で流体速度が均一化され剥離抑制効果が得られている。言い換えると、側方流抑制部材7が、吸込口3aの正面方向に位置する吸込口3a近傍領域をこの正面方向の周りから囲むことで剥離抑制効果が得られる。
【0035】
図7は、側方流抑制部材7の開口率βを変化させて行った数値シミュレーションを示している。これら数値シミュレーションは、風速比U/V0を1.2に固定し、円筒形半径D1を2Dに固定し、側方流抑制部材7の長さLをDに固定して行った。図7において、(A)は開口率βを0%とした場合を示し、(B)は開口率βを40%とした場合を示し、(C)は開口率βを50%とした場合を示し、(D)は開口率βを60%とした場合を示し、(E)は開口率βを70%とした場合を示している。また、図8は、図2と図7の場合におけるVrms/V0の値を示しており、一段目が図2の場合を示している。
流体速度の均一性について図2の結果と図7の結果とを比較すると、図7の場合のほうが、断面A(図1参照)における流体速度の均一性が向上しており、特に、図7の(B)、(C)の場合では流体速度の均一性が大きく向上しているのが分かる。
開口率βについて述べると、図8に示すように、開口率βが40%と50%の場合に、流体速度の均一性が大きく向上されている。特に、開口率βが40%の場合に、流体速度の均一性が最も向上している。従って、開口率βが40%の場合に、流れの剥離効果が最も高くなる。
【0036】
図9は、風速比U/V0を変化させて行った数値シミュレーションを示している。これら数値シミュレーションは、円筒形半径D1を2Dに固定し、側方流抑制部材7の長さLをDに固定し、側方流抑制部材7の開口率βを40%に固定して行った。なお、比較のため各風速比U/V0において、側方流抑制部材7を設けない場合についてもシミュレーションを行った。図9において、上の段が側方流抑制部材7を設けない場合であり、下の段が側方流抑制部材7を設けた場合であり、左から順に、1列目が風速比U/V0=0の場合であり、2列目が風速比U/V0=0.6の場合であり、3列目が風速比U/V0=1.2の場合であり、4列目が風速比U/V0=2.3の場合である。また、図10は図9のシミュレーション結果をまとめたものである。
流体速度の均一性について図9の上の段と下の段とを比較すると、図10に示すように、U/V0=0以外はどの風速比U/V0でも、側方流抑制部材7を設けることで、断面A(図1参照)における流体速度の均一性が大きく向上しているのが分かる。
このように、側方流抑制部材7を設けることで、U/V0=0以外はどの風速比U/V0でも、流体速度の均一性が大きく向上していることが分かる。従って、側方流抑制部材7を設けることにより剥離抑制効果が得られる。
【0037】
図11は、本発明の他の実施形態による剥離抑制装置を示している。図11において、流路形成構造体3は、外壁面3cを形成する構造体であり、外部から流体を吸い込むための吸込口3aと、吸い込まれた前記流体の流路5を内部に形成する内壁面3bとを有する。
この場合、剥離抑制装置は、その一方端部を外壁面3cに固定して設けられた側方流抑制部材7からなる。他の構成は、図1の実施形態と同様である。図11の剥離抑制装置でも、図1の剥離抑制装置と同様の剥離抑制効果が得られる。
【0038】
本発明は上述した実施の形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、上記実施形態では、側方流抑制部材7は円筒形であったが、本発明はこれに限定されず、吸込口が他の形状の場合には、側方流抑制部材をこの形状に合わせた他の形状とすることができる。
また、横風とは、流路形成構造体の吸込口の正面方向の側方から吸込口へ向かう流れのであり、図1で示した横風だけでなく、斜め上方からの吸込口へ向かう流れのように、流路形成構造体の側方に対して横向方向の成分を含む流れを含むものとする。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の実施形態による剥離抑制装置の構成を示す図である。
【図2】吸込口付近の流体の流れについて、剥離抑制装置を設けずに行ったシミュレーション結果を示している。
【図3】吸込口付近の流体の流れについて、本発明の実施形態による剥離抑制装置を設け、かつ、側方流抑制部材の円筒形半径D1を変化させて行ったシミュレーション結果を示している。
【図4】Vrms/V0について図2と図3との比較を示している。
【図5】吸込口付近の流体の流れについて、本発明の実施形態による剥離抑制装置を設け、かつ、側方流抑制部材の長さLを変化させて行ったシミュレーション結果を示している。
【図6】Vrms/V0について図2と図5との比較を示している。
【図7】吸込口付近の流体の流れについて、本発明の実施形態による剥離抑制装置を設け、かつ、側方流抑制部材の開口率βを変化させて行ったシミュレーション結果を示している。
【図8】Vrms/V0について図2と図7との比較を示している。
【図9】吸込口付近の流体の流れについて、本発明の実施形態による剥離抑制装置を設け、かつ、風速比U/V0を変化させて行ったシミュレーション結果を示している。
【図10】図9についてVrms/V0と各風速比U/V0との関係を示している。
【図11】本発明の他の実施形態による剥離抑制装置の構成を示す図である。
【図12】吸込口近傍における流れの剥離を説明するための図である。
【図13】特許文献1の構成を示す図である。
【図14】特許文献2の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0040】
3 流路形成構造体
3a 吸込口
3b 内壁面
3c 外壁面
5 流路
6 送風機
7 側方流抑制部材
7a 内壁面、側面
7b 壁部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部から流体を吸い込むための吸込口と、吸い込まれた前記流体の流路を内部に形成する内壁面とを有する流路形成構造体の剥離抑制装置であって、
前記吸込口およびその正面近傍領域を吸込口の正面方向の周りから囲むように、該正面方向に延び、該正面方向の側方から前記吸込口へ向かう流体の流れを抑制する側方流抑制部材からなる、ことを特徴とする剥離抑制装置。
【請求項2】
前記側方流抑制部材は、前記吸込口およびその正面近傍領域を吸込口の正面方向の周りから囲む内壁面を有し、該内壁面は、前記正面方向と平行に延びている、ことを特徴とする請求項1に記載の剥離抑制装置。
【請求項3】
前記側方流抑制部材は、前記吸込口およびその正面近傍領域を吸込口の正面方向の周りから囲む内壁面を有する壁部を持ち、前記内壁面には、前記壁部を貫通する多数の貫通孔が形成されている、ことを特徴とする請求項1に記載の剥離抑制装置。
【請求項4】
前記側方流抑制部材は、前記吸込口およびその正面近傍領域を吸込口の正面方向の周りから囲む円筒形であり、前記側方流抑制部材の側面には多数の貫通孔が形成されている、ことを特徴とする請求項1に記載の剥離抑制装置。
【請求項5】
前記側方流抑制部材の前記内壁面または前記側面の面積に対する前記多数の貫通孔の面積の割合が、40%程度である、ことを特徴とする請求項3または4に記載の剥離抑制装置。
【請求項6】
前記側方流抑制部材は、前記吸込口およびその正面近傍領域を吸込口の正面方向の周りから囲む内壁面を有し、該内壁面は、吸込口を区画する外周位置から前記正面方向と垂直な方向に間隔をおいて位置している、ことを特徴とする請求項1に記載の剥離抑制装置。
【請求項1】
外部から流体を吸い込むための吸込口と、吸い込まれた前記流体の流路を内部に形成する内壁面とを有する流路形成構造体の剥離抑制装置であって、
前記吸込口およびその正面近傍領域を吸込口の正面方向の周りから囲むように、該正面方向に延び、該正面方向の側方から前記吸込口へ向かう流体の流れを抑制する側方流抑制部材からなる、ことを特徴とする剥離抑制装置。
【請求項2】
前記側方流抑制部材は、前記吸込口およびその正面近傍領域を吸込口の正面方向の周りから囲む内壁面を有し、該内壁面は、前記正面方向と平行に延びている、ことを特徴とする請求項1に記載の剥離抑制装置。
【請求項3】
前記側方流抑制部材は、前記吸込口およびその正面近傍領域を吸込口の正面方向の周りから囲む内壁面を有する壁部を持ち、前記内壁面には、前記壁部を貫通する多数の貫通孔が形成されている、ことを特徴とする請求項1に記載の剥離抑制装置。
【請求項4】
前記側方流抑制部材は、前記吸込口およびその正面近傍領域を吸込口の正面方向の周りから囲む円筒形であり、前記側方流抑制部材の側面には多数の貫通孔が形成されている、ことを特徴とする請求項1に記載の剥離抑制装置。
【請求項5】
前記側方流抑制部材の前記内壁面または前記側面の面積に対する前記多数の貫通孔の面積の割合が、40%程度である、ことを特徴とする請求項3または4に記載の剥離抑制装置。
【請求項6】
前記側方流抑制部材は、前記吸込口およびその正面近傍領域を吸込口の正面方向の周りから囲む内壁面を有し、該内壁面は、吸込口を区画する外周位置から前記正面方向と垂直な方向に間隔をおいて位置している、ことを特徴とする請求項1に記載の剥離抑制装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2008−157048(P2008−157048A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−344107(P2006−344107)
【出願日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】
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