説明

剥離紙

【課題】剥離紙の剥離剤として水性シリコーンを用いながら、空気の噛み込みが発生せず、平坦性に優れるため剥離性が良好であり、かつ剥離強度が経時的に変化しない剥離紙を提供する。
【解決手段】基紙と、前記基紙上に設けられた目止め層と、前記目止め層上に設けられた剥離層とからなり、前記目止め層は、顔料および接着剤を含有し、前記剥離層は、水性シリコーンと、変性ポリビニルアルコールとを含む、剥離紙。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、剥離紙に関するものであり、より詳しくは、粘着層を有する壁紙に使用する剥離紙に関するものである。
【背景技術】
【0002】
剥離紙は、粘着シートの剥離紙(一般の粘着テープやラベルなど)、産業用基材(例えば、マーキングシート、金属箔、建築用壁紙等の剥離紙など)、包装用紙(例えば、紙袋、ブックカバーなど)、工程剥離紙(例えば、合成皮革、プリプレグ、プラスチックフィルム等の工程剥離紙)などとして多用されている。
【0003】
建築用壁紙の使用方法について説明する。建築の内装仕上げは一般的に、コンクリート壁面や柱の表面に、両面に紙層を施した石膏ボードを張設し、その表面に壁紙を貼り合わせる方法がある。壁紙の貼り付けは、用いる接着剤(粘着剤)の種類により、水溶性の接着剤を塗布した再湿型、熱溶融性の接着剤を塗布した感熱型、粘着剤を塗布した感圧型の3種類に分類され、それぞれ一長一短がある。
【0004】
再湿型は、水塗りのため手軽に利用できる反面、作業上、水や水刷毛が必要であり、乾燥時間を含めて仕上がりまでに多くの時間を要する問題がある。感熱型は、スチームアイロン等を用いた加熱溶着のため作業時間が短く済む利点があるものの、作業上、熱源やアイロンが必要であり、またその加熱作業にある程度の技巧を必要とすることから、経済性と作業の簡便性に劣る傾向がある。
【0005】
他方、粘着剤を利用した感圧型は、原紙の裏面に粘着剤を塗布し、常態としてその粘着剤を剥離紙の貼付により保護したものであり、その剥離紙を剥がしながら粘着剤で下地材に貼り付けるようにしたことにより、水も熱源も使用せず、常温で貼ることができるという特長を有し、とりわけ貼り付け方法の点で優れている。
【0006】
次に、粘着剤を保護するために用いる剥離紙について説明する。剥離紙には、剥離性を付与するために剥離剤を塗布または含浸させたものが挙げられる(特許文献1を参照)。剥離剤のうちシリコーンには、有機溶剤に分散させた溶剤性シリコーン、水に分散・乳化させた水性シリコーン、無溶剤性シリコーンの3種類がある。
【0007】
剥離紙や工程紙の用途には、従来から均一な塗工層を有し、良好な剥離性が得られる溶剤性シリコーンが使用されていたが、昨今の環境問題に対する意識の高さから、有機溶媒を使用せず環境負荷の少ない水性シリコーンを使用した剥離紙に対する要望が大きくなってきており、水性シリコーンを使用した剥離紙に関する技術も開示されている(特許文献2を参照)。
【0008】
一方で、剥離紙の剥離剤として水性シリコーンを用いた場合、基紙が非塗工紙であれば、シリコーンが基紙に沈み込むため、一定期間放置後すると製造直後より剥離性が大幅に低下する問題がある。このため、基紙に水溶性高分子からなる目止め層を設けた後に剥離剤を塗工する技術が開示されている(特許文献2を参照)が、充分にシリコーンの沈み込みを防止できない問題があった。特に壁紙等の建材用途に使用する場合は、広い面積を剥離する必要があるため、剥離性が低下すると作業員の負担が増加し、作業効率の低下を招く可能性がある。
【0009】
シリコーンの沈み込みを更に防止するために、平坦性の高い無機顔料を含有する顔料塗工層を設けることで、シリコーンの沈み込みを抑制しやすくなり剥離性を向上させることができ、建材用途等の広い面積を剥離する場合においても、作業員の負担を軽くできる。しかしながら、目止め層として顔料塗工層を設けた剥離紙は通気性が低下するため、壁紙の製造工程のうち、剥離紙と粘着層を貼り合せて壁紙を製造する際に空気が噛み込んで、壁紙(表面)や剥離紙(裏面)に膨れが発生する問題がある。膨れを防止するために、空気が抜けやすいよう剥離紙にエンボス加工を設ける方法もあるが(特許文献3を参照)、壁紙を巻取った際には、剥離紙と壁紙表面が接するため、エンボス模様が壁紙表面に転写し、見栄えが悪くなる問題があった。
【0010】
特に、広くても幅1メートル程度の粘着層を有する基材に剥離紙を貼り合わせる一般の粘着テープとは異なり、建材用途等においては、幅数メートルと広い粘着層を有する基材に剥離紙を貼り合わせ、大面積の壁紙を製造するため、空気が充分に逃げられず、空気の噛み込みが発生しやすい問題がある。
【0011】
上述のごとく、水性シリコーンを用いた剥離紙であって、エンボス加工等の表面処理を行わず、かつ無機顔料を含有する目止め層を有し剥離性に優れた剥離紙でありながら、幅広の粘着層を有する基材に剥離紙を貼り合わせても空気の噛み込みが発生しない程度に通気性が良好な剥離紙は、いまだ得られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平07−252799号公報
【特許文献2】特開2003−147693号公報
【特許文献3】特開平09−141812号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上述した現状に鑑み、剥離紙の剥離剤として水性シリコーンを用いながら、空気の噛み込みが発生せず、平坦性に優れるため剥離性が良好であり、かつ剥離強度が経時的に変化しない剥離紙を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、基紙と、前記基紙上に設けられた目止め層と、前記目止め層上に設けられた剥離層とからなり、前記目止め層は、顔料および接着剤を含有し、前記剥離層は、水性シリコーンと、変性ポリビニルアルコールとを含む、ことを特徴とする、剥離紙に関する。
【0015】
好ましくは、前記剥離紙の離解繊維長において、繊維長0.2mm以上0.5mm未満の繊維が全繊維に対して占める割合が15〜35質量%であり、前記基紙の米坪が80〜200g/mであり、前記剥離紙の透気度が300〜5,000秒である。
【0016】
好ましくは、前記顔料を構成する全粒子のうち、粒子径0.5μm以上2.0μm未満の粒子が占める割合が50%以上である。
【0017】
好ましくは、前記変性ポリビニルアルコールがシラノール変性ポリビニルアルコールであり、前記シラノール変性ポリビニルアルコールの重合度が1,000〜2,500であり、前記シラノール変性ポリビニルアルコールのケン化度が98モル%以上である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、剥離紙の剥離剤として水性シリコーンを用いながら、空気の噛み込みが発生せず、平坦性に優れるため剥離性が良好であり、かつ剥離強度が経時的に変化しない剥離紙を提供できる。また、ラミネート層を有しておらず、リサイクル適性に優れた剥離紙を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明について実施形態を示して詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に限定して解釈されない。
【0020】
本発明の剥離紙は、基紙と、前記基紙上に設けられた目止め層と、前記目止め層上に設けられた剥離層とからなり、前記目止め層は、顔料および接着剤を含有し、前記剥離層は、水性シリコーンと、変性ポリビニルアルコールとを含む。
【0021】
(基紙)
基紙の材料としては、通常の原料パルプを使用することができる。例えば、未晒針葉樹パルプ(NUKP)、未晒広葉樹パルプ(LUKP)、晒針葉樹パルプ(NBKP)、晒広葉樹パルプ(LBKP)等の化学パルプ;ストーングランドパルプ(SGP)、加圧ストーングランドパルプ(PGW)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、ケミグランドパルプ(CGP)、サーモグランドパルプ(TGP)、グランドパルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、リファイナーメカニカルパルプ(RMP)等の機械パルプ等を使用することができる。また、古紙からなる古紙パルプを使用することも可能であり、例えば、雑誌古紙、チラシ古紙、オフィス古紙等から製造される離解・脱墨古紙パルプ、離解・脱墨・漂白古紙パルプ等があげられる。本発明では、これらの中から1種又は2種以上を適宜選択して使用することができる。この中でもリグニン等の不純物が除去され漂白された、繊維の柔軟性が向上した晒パルプが好ましく、繊維長のより小さい広葉樹晒パルプ(LBKP)を用いることが好ましい。
【0022】
本発明の剥離紙に用いるパルプは、繊維長0.2mm以上0.5mm未満の繊維が全パルプ繊維のうち15〜35質量%を占めることが好ましく、20〜30質量%を占めることが更に好ましい。微細繊維が多く、繊維長0.2mm以上0.5mm未満の繊維が占める割合が35質量%を超過すると、通気性が低下しやすくなり、空気の噛み込みが発生しやすくなるため好ましくない。叩解を進めず微細繊維が少なく、繊維長0.2mm以上0.5mm未満の繊維が占める割合が15質量%を下回ると、目止め層の顔料が基紙に沈み込み易くなり、目止め効果が少なくなり、剥離性が低下しやすいため好ましくない。目止め層は後述するとおり通気性を低下させやすいため、特に本発明のごとく目止め層の塗工量を片面あたり5〜15g/m程度と少なくする場合、特に効果的にシリコーンの浸透を防止する必要があり、顔料が沈み込みにくい基紙を使用することが好ましい。
【0023】
更に、繊維長0.5mm以上1.2mm未満の繊維が全パルプ繊維のうち好ましくは55〜85質量%、より好ましくは60〜80質量%であると、更に透気性および剥離性に優れた剥離紙が得られる。
【0024】
繊維長の調整は公知の技術で行うことができ、例えばリファイナー等で叩解条件を変更し、フリーネスを調整することで上記範囲内とすることが可能である。針葉樹晒パルプのフリーネスは、500〜600mlが好ましく、より好ましくは520〜580mlである。600mlを超えると、叩解が進まず長繊維長分が多くなり、500ml未満であると短繊維長分が多くなる。同様に広葉樹晒パルプのフリーネスは400〜500mlが好ましく、より好ましくは420〜480mlである。
【0025】
基紙を構成する全パルプ100質量部のうち針葉樹晒パルプの配合率は2〜30質量部が好ましく、5〜20質量部が更に好ましい。2質量部未満であれば充分な強度を有する剥離紙が得られないため好ましくなく、30質量部を超過すると、叩解により微細繊維が多くなり通気性が低下しやすくなる可能性があるため好ましくない。叩解前の針葉樹晒パルプは繊維長が2〜5mmと、広葉樹晒パルプの繊維長(0.5〜1.5mm)よりも長いため、針葉樹晒パルプの配合率が高い場合に、繊維長0.2mm以上0.5mm未満の繊維がパルプ繊維全体の15〜35質量%となるよう叩解を進めると、繊維長0.2mm未満の微細繊維が発生しやすく、通気性が低下しやすい傾向がある。広葉樹晒パルプの配合率は、針葉樹晒パルプを補完するように、70〜98質量部が好ましく、80〜95質量部がより好ましい。
【0026】
なお、本明細書における繊維長とは、基紙又は剥離紙をJIS−P8220(1998)離解方法に準拠して標準離解機にて試料を離解処理した後、得られた離解パルプを、JAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法 No.52「パルプ及び紙−繊維長試験方法−光学的自動計測法」に準拠して、カヤニ繊維長測定機FS−100を用いてパルプ重量繊維長を測定した値である。
【0027】
上述のとおり、本発明においては、所望の通気性および剥離性を得るために、フリーネスを500〜600mlに調整した針葉樹晒パルプを2〜30質量部、フリーネスを400〜500mlに調整した広葉樹晒パルプを70〜98質量部使用し、全体として繊維長0.2mm以上0.5mm未満の繊維がパルプ繊維全体の15〜35質量%、好ましくは20〜30質量%を占めるように調整し、更に、繊維長0.5mm以上1.2mm未満の繊維がパルプ繊維全体の55〜85質量%、好ましくは60〜80質量%を占めるように調整することで、特に透気性および剥離性に優れた剥離紙を得ることができる。
【0028】
本形態においては、上述した繊維長0.2mm以上0.5mm未満の繊維がパルプ繊維全体の15〜35質量%を占めるパルプ繊維から、効率的に基紙を得るために、次に記載する凝結剤および凝集剤を組み合わせることが好ましい。
【0029】
<凝結剤>
凝結剤の種類としては、一般に製紙用途で使用されている凝結剤であれば特に限定されないが、2種類以上のポリマー成分をグラフト重合して得られる凝結剤であれば、後述する凝集剤との相互作用により微細繊維が紙に歩留りやすく、地合が良好な基紙が得られるため好ましい。前記ポリマー成分としては、例えば、ポリアクリルアミド(PAM)、ポリビニルアミン(PVAm)、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(ポリダドマック、PDADMAC)、ポリアミン(PAm)、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリアクリル酸塩、ポリメタクリル酸塩等があげられる。これらの中でも、ポリエチレンイミン、ポリアミン、ポリダドマック、ポリアクリルアミドからなる群から選ばれる2種類以上のポリマー成分をグラフト重合して得られる凝結剤が好ましい。更に好ましくはポリエチレンイミンを主鎖とし、ポリアミン、又はポリダドマックをグラフト鎖としたものであり、特に好ましくはポリアミンをグラフト鎖としたものである。これらの構造の凝結剤を用いることにより、充分に微細繊維の歩留りを向上させつつ、逆に微細繊維が一カ所に集まりすぎて塊状となることもないため、地合に優れた基紙が得られやすいため好ましい。加えて、微細繊維の歩留り低下により、歩留らなかった微細繊維が抄紙機内部に堆積し、異物欠陥となって紙品質を低下することもない。
【0030】
また、2種類以上のポリマー成分の重合状態は、2種類以上の成分が交互に、またはランダムに入り混じったランダム共重合体とするのは好ましくない。ランダム共重合体では、各成分の特性が組み合わさって均一な凝集性能を示すため、従来の一種類の成分からなる凝結剤と同様に、微細繊維の歩留り向上、凝集塊の発生抑制、異物発生の防止を満足させにくい。凝集能力を有する主鎖に対し、同じく凝集能力を有するグラフト鎖をグラフト重合することで、微細繊維の歩留り向上、凝集塊の発生抑制、異物発生の防止を満足する凝結剤が得られる。
【0031】
前記凝結剤の形状は、主鎖に対して複数本のグラフト鎖がグラフト重合した直鎖状であっても良く、主鎖に結合したグラフト鎖に更に、グラフト鎖成分や主鎖成分がグラフト重合した樹形図状(枝葉状)であっても良く、主鎖に結合したグラフト鎖同士が架橋した網目状であっても良く、主鎖あるいはグラフト鎖の一部が結晶化したミセル状であっても良い。より好ましくは、微細繊維の歩留りが高く凝集塊の発生が少ない、網目状または樹形図状であり、最も好ましくは樹形図状である。
【0032】
主鎖に対するグラフト鎖の割合は、構造や分子量によって異なるが、概ね5〜70質量%が好ましく、10〜50質量%がより好ましい。5質量%を下回ると微細繊維の歩留りが低下しやすく異物欠陥の発生を抑制する効果が少なくなり、70質量%を上回るとグラフト鎖が大きく凝集能力が増加しすぎて、凝集塊が発生し地合が低下しやすいため好ましくない。
【0033】
前記凝結剤の分子量は、50万〜300万が好ましく、100万〜200万が好ましい。分子量が50万を下回ると微細繊維の歩留りが低下し、得られる紙の密度が低下するため紙の剛性が低下する。分子量が300万を超過すると、微細繊維の周囲に凝結剤が集中し、凝集塊が発生し地合が悪化しやすくなる。尚、本発明で言う分子量とは、ゲル浸透クロマトグラフィー法(GPC法)によって測定した重量平均分子量を言う。
【0034】
前記凝結剤は正電荷(カチオン性)であることが好ましい。電荷密度は、10〜25meq/gが好ましく、15〜20meq/gが更に好ましい。25meq/gを超過すると、微細繊維やアニオントラッシュを集めて異物化し易く、10meq/gを下回ると、微細繊維やアニオントラッシュを集め難く紙表面が粗くなり、得られる剥離紙の剥離性が悪化する。尚、本発明の電荷密度は、規定液にアニオン性高分子を用いたコロイド滴定法によって測定した。
【0035】
前記凝結剤の添加量は、パルプ総量に対して0.01〜0.15質量%が好ましく、0.03〜0.10質量%が更に好ましい。0.15質量%を超過すると、微細繊維の周囲に凝結剤が集中しやすく、異物欠陥が増加するため好ましくなく、0.01質量%を下回ると、微細繊維の歩留りが低下し、同じく異物欠陥が増加する。
【0036】
本発明では、2種類以上のポリマー成分をグラフト重合した凝結剤を用いることにより、繊維長0.2mm以上0.5mm未満の繊維がパルプ繊維全体の15〜35質量%、好ましくは20〜30質量%を占め、更に繊維長0.5mm以上1.2mm未満の繊維がパルプ繊維全体の55〜85質量%、好ましくは60〜80質量%を占めるパルプ繊維を抄造した場合においても、通気性を向上できるが、更に、主鎖とグラフト鎖の割合や、得られたグラフト重合体の分子構造、分子量、電荷密度を規定し、添加量を最適化することで、繊維長0.2mm以上0.5mm未満の繊維の歩留りを向上できるため、通気性が高く空気の噛み込みが発生しにくく、剥離強度を軽くでき、経時での剥離強度の変化も少ない剥離紙を効率的に製造することができる。
【0037】
<凝集剤>
本形態においては、前記凝結剤を添加した後、さらに当該パルプの調製段階に続く抄紙工程前段で、特定の凝集剤を添加することにより、更に優れた、微細繊維の歩留り向上による異物欠陥の発生防止効果、凝集塊の発生抑制効果を達成できる。凝集剤の成分としては、ベントナイトやコロイダルシリカなどの無機凝集剤、ポリアクリルアミド(PAM)、ポリビニルアミン(PVAm)、ポリアミン(PAm)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリエチレンイミン(PEI)等の有機高分子系凝集剤のいずれをも用いることができる。但し、より好ましくはポリビニルアミン、ポリアクリルアミド、特に好ましくはポリアクリルアミドが、凝集能力が高いため好ましい。ポリアクリルアミドを添加した後に抄紙する場合、凝集塊が発生しやすくなる可能性があるため、凝集剤はスクリーンの前に添加し、発生した凝集塊をスクリーンで一旦、破壊し、適度に凝集性を弱めることが好ましい。かかるスクリーンは、目開きが0.33〜0.37mmのスリットタイプが、凝集塊の発生抑制効果に優れるため好ましい。
【0038】
凝集剤の分子量は、好ましくは1000万〜2000万であり、更に好ましくは1200万〜1600万である。2000万を超過すると、微細繊維やアニオントラッシュを集めて異物化しやすくなり、1000万を下回ると、適度に繊維が凝集せず、得られる紙の強度が低下するため、剛性が低下する。
【0039】
凝集剤の電荷密度は、好ましくは1〜10meq/gであり、更に好ましくは1〜5meq/gである。10meq/gを超過すると、微細繊維やアニオントラッシュを集めて異物化しやすくなり、1meq/gを下回ると、微細繊維やアニオントラッシュを集め難く、歩留りが低下して異物が発生するため好ましくない。
【0040】
凝集剤の添加量は、パルプ総量に対して、好ましくは0.05〜0.30質量%であり、更に好ましくは0.10〜0.20質量%である。0.30質量%を超過すると、微細繊維やアニオントラッシュを集めて異物化しやすくなり、0.05質量%を下回ると、適度に繊維が凝集せず、歩留りが低下して異物が発生するため好ましくない。
【0041】
また、凝集剤の添加は、微細繊維を含むパルプ繊維と凝結剤を混合してから20分以上40分以下の間に添加することが好ましい。20分未満では、微細繊維の歩留りが低下し、40分を超過すると、凝集塊ができやすくなる問題が発生する。
【0042】
このように、凝集剤の分子量や電荷密度、添加量を調整することで、異物欠陥と凝集塊の発生を抑制できる理由は、前記特定の凝結剤(グラフト重合体)により形成された、微細繊維が細かく分散されて凝集塊を形成していない状態を、そのまま紙に抄き込むことができるためと考えられる。
【0043】
上述のとおり、繊維長0.2mm以上0.5mm未満の繊維がパルプ繊維全体の15〜35質量%、好ましくは20〜30質量%と微細繊維が多く含まれ、更に繊維長0.5mm以上1.2mm未満の繊維がパルプ繊維全体の55〜85質量%、好ましくは60〜80質量%を占めるパルプ繊維の歩留りを向上させ、効率的に基紙を製造するには、2種類以上のポリマー成分をグラフト重合した凝結剤、好ましくはポリエチレンイミンを主鎖とし、ポリアミン、又はポリダドマックをグラフト鎖とし、特に好ましくはポリアミンをグラフト鎖とし、主鎖に対するグラフト鎖の割合が5〜70質量%、好ましくは10〜50質量%であり、分子量が50万〜300万、好ましくは100万〜200万であり、電荷密度が10〜25meq/g、好ましくは15〜20meq/gである凝結剤を、パルプ総量に対して0.01〜0.15質量%、好ましくは0.03〜0.10質量%添加することが好ましい。加えて、凝集剤として、ポリビニルアミンまたはポリアクリルアミド、好ましくはポリアクリルアミドを用い、分子量が1000万〜2000万、好ましくは1200万〜1600万であり、電荷密度が1〜10meq/g、好ましくは1〜5meq/gの凝集剤を、パルプ総量に対して、0.05〜0.30質量%、好ましくは0.10〜0.20質量%添加することが好ましい。このような構成とすることで、繊維長0.2mm以上0.5mm未満の繊維がパルプ繊維全体の15〜35質量%、好ましくは20〜30質量%と微細繊維の多いパルプの歩留りを向上でき、凝集塊の発生がなく地合が良好な基紙を効率的に製造することができる。
【0044】
本発明で使用する基紙は、米坪が80〜200g/mであることが好ましい。米坪が200g/mを超えると基紙の剛性が高くなりすぎ、粘着層を有する壁紙などの基材と貼り合せる時に空気の噛み込みが発生しやすくなる。また、壁紙を壁に貼り付ける時、剛性の高い基紙が貼り付け作業性を悪化させる場合がある。一方、米坪が80g/mを下回ると、粘着層を有する壁紙などの基材との貼り合せ適性は向上するが、壁紙を壁に貼り付ける時に基紙の強度不足により、基紙の破れ等を生じる場合がある。
【0045】
(目止め層)
前記基紙上には、顔料および接着剤からなる顔料塗工層を目止め層として設ける。目止め層として、顔料を含まない、水溶性高分子(澱粉やポリビニルアルコール等)や合成高分子(ラテックス等)のみを塗工した場合には、得られる剥離紙の平坦性に劣るため、剥離性が悪く、作業性に劣る問題がある。
【0046】
また、顔料を含まない目止め層上に水性シリコーンを塗布すると、シリコーンが原紙に沈み込み、経時変化で剥離強度が向上し、剥離し難くなる問題があるため、目止め層は顔料塗工層である必要がある。
【0047】
(顔料)
目止め層に用いる顔料としては、一般に製紙用途で使用している顔料であれば特に限定されず、例えば、炭酸カルシウム、クレー(カオリン、ディッカイト、ナクライト、ハロイサイト、アンチゴライト、クリソタイル、パイロフィライト、モンモリロナイト、ヘクトライト、テトラシリリックマイカ、ナトリウムテニオライト、マーガライト、タルク、バーミキュライト、ザンソフィライト、緑泥石等)、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化珪素、非晶質シリカ、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、水酸化アルミニウム、アルミナ、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛等が挙げられ、必要に応じて1種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0048】
上記顔料の中でも、より平坦性に優れ、剥離剤塗布後に剥離性を向上させやすくするためには、平板状顔料であるクレーを使用することが好ましい。但し、クレーは基紙表面を覆って通気性が低下しやすい傾向があるため、平板状ではない顔料、特に炭酸カルシウムを併用することにより、透気度を5,000秒以下、好ましくは4,000秒以下の剥離紙が得られやすいため好ましい。クレーと炭酸カルシウムとの割合は、質量基準で10:90〜70:30であることが好ましく、20:80〜60:40が更に好ましい。クレーの配合比が10を下回ると目止め層表面の平坦性に劣り、剥離性が低下し易いため好ましくなく、70を超過すると、通気性が低下しやすく、空気の噛み込みが発生しやすいため好ましくない。
【0049】
顔料を構成する全粒子のうち、粒子径0.5μm以上2.0μm未満の粒子が50%以上を占めることが好ましく、60%以上を占めることがより好ましい。粒子径が大きい顔料が多く、0.5μm以上2.0μm未満の粒子が顔料全体の50%を下回ると、目止め層の平坦性に劣り剥離性が悪くなる傾向があるため好ましくない。逆に粒子径が小さい顔料が多く、0.5〜2.0μm未満の粒子が顔料全体の50%を下回ると、通気性が低下し易く空気の噛み込みが発生しやすいため好ましくない。
【0050】
尚、本発明の面積粒子径は次のように測定した。走査電子顕微鏡(型番:S−2150、(株)日立製作所製)を用いて基紙表面の顔料粒子を撮影した。顔料粒子は真円ではないため、粒子全体を内包できる最小の円(粒子に外接する最小の円)の直径を面積粒子径とした。撮影は倍率12000倍で10枚行い、写真毎に10点ずつ、合計100点の顔料粒子について面積粒子径を求めた。また、粒子の数を面積粒子径0.1μmごとに集計して粒子径分布とした。
【0051】
上述のとおり、基紙として、繊維長0.2mm以上0.5mm未満の繊維がパルプ繊維全体の15〜35質量%、好ましくは20〜30質量%と微細繊維が多く含まれ、更に繊維長0.5mm以上1.2mm未満の繊維がパルプ繊維全体の55〜85質量%、好ましくは60〜80質量%を占めるパルプ繊維からなる基紙を用い、更に目止め層における顔料として、クレーと炭酸カルシウムとの割合が質量基準で10:90〜70:30、好ましくは20:80〜60:40であり、顔料を構成する全粒子のうち、粒子径0.5μm以上2.0μm未満の顔料粒子が50%以上、好ましくは60%以上を占める顔料を使用すると、後述する剥離層を0.3〜1.8g/m設けた後の剥離紙の透気度を300〜5,000秒、好ましくは500〜4,000秒とすることができ、本発明の課題である、平坦性に優れかつ空気の噛み込みを防止できる剥離紙が得られるため好ましい。
【0052】
(接着剤)
目止め層に用いる接着剤としては特に限定されず、一般的に製紙用途で使用できる接着剤を使用することができる。例えばカゼイン、大豆蛋白等の蛋白質類;メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体ラテックス、スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス等の共役ジエン系ラテックス、アクリル酸エステルおよび/又はメタクリル酸エステルの重合体ラテックスもしくは共重合体ラテックス等のアクリル系ラテックス、エチレン−酢酸ビニル重合体ラテックス等のビニル系ラテックス、あるいはこれらの各種共重合体ラテックスをカルボキシル基等の官能基含有単量体で変性したアルカリ部分溶解性又は非溶解性のラテックス等のラテックス類;ポリビニルアルコール、オレフィン−無水マレイン酸樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、ウレタン樹脂等の合成樹脂系接着剤;酸化澱粉、陽性化澱粉、エステル化澱粉、デキストリン等の澱粉又は澱粉誘導体;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体等の、通常塗工紙に用いられる接着剤が例示され、これらの中から1種又は2種以上を選択して併用することができる。
【0053】
これら接着剤の中でも、特にスチレン−ブタジエン共重合体ラテックスが接着性と熱安定性が高いため好ましい。スチレン−ブタジエン共重合体ラテックスは、少なくともスチレンとブタジエンを共重合して得られるラテックスであり、スチレンとブタジエンに加えて、メタクリル酸メチルとアクリロニトリルを共重合して得られるスチレン−ブタジエン−メタクリル酸メチル−アクリロニトリル共重合体ラテックスがより好ましい。
【0054】
なかでも、モノマー成分としてブタジエンを40〜65質量%含む重合体ラテックスを使用することが好ましく、45〜60質量%がより好ましい。ブタジエン成分が40質量%を下回ると、顔料への接着性が劣り、表面強度が低下して剥離時に目止め層が脱落するトラブルが発生しやすいため好ましくない。ブタジエン成分が65質量%を超過すると、塗工層の通気性が低下し空気の噛み込みを抑制しにくいため好ましくない。
【0055】
ブタジエン成分を40〜65質量%、より好ましくは45〜60質量%の範囲で含有するラテックスを接着剤として用い、粒子径0.5μm以上2.0μmの粒子が50質量%以上、好ましくは60質量%以上を占める顔料を含有する目止め層を用いると、剥離性が良好であり、かつ空気の噛み込みを更に低減できる剥離紙を得ることができる。
【0056】
ブタジエン以外のモノマー成分としては、スチレンを10〜35質量%含むことが好ましく、より好ましくは15〜25質量%である。スチレン成分は塗工層に耐水性を付与する効果があるため、10質量%を下回ると剥離剤が目止め層に浸透しやすくなり、剥離性が低下しやすくなるため好ましくない。特に本発明のごとく剥離層が後述のごとく片面あたり0.3〜1.8g/mと少ない場合は、より剥離剤を目止め層表面に留める必要があるため、上記範囲内でスチレン成分を含むことが好ましい。スチレン成分が35質量%を超過すると顔料を保持しにくくなり、表面強度が低下するため好ましくない。
【0057】
目止め層の顔料と接着剤との割合は、顔料100質量部に対して、接着剤5〜15質量部であることが好ましく、7質量部〜13質量部であることが更に好ましい。含有量が5部を下回ると、顔料を十分に固定できず表面強度に劣るため好ましくない。15質量部を超過すると、ラテックスの造膜作用により、通気性が低下して空気の噛み込みを防止しにくいため好ましくない。
【0058】
スチレン−ブタジエン共重合体ラテックスの構造は、粒子内部と表面部で構成成分やガラス転移温度が同じである単一型よりも、粒子内部と表面部で構成成分やガラス転移温度が異なるコア−シェル型や、粒子の内部から外部に向けて組成が連続的に変化している傾斜型を使用することが好ましい。特に傾斜型は、顔料を固定する効果が高く、配合量を最小限に抑えることができ、例えば顔料100質量部に対してラテックス5質量部程度であっても、粒子径0.5μm以上2.0μm未満の粒子が50質量%以上を占める顔料を接着する効果が高く、充分な表面強度と通気性を付与することができる。特に本発明のごとく通気性が必要である剥離紙においては、通気性を悪化させる接着剤成分は少ないことが好ましいが、従来一般の単一型のラテックスでは、配合量を5質量部程度とすると表面強度が低くなりやすく、剥離性と通気性(空気の噛み込み防止)の双方に優れた剥離紙は得られにくかった。
【0059】
傾斜型の中でも、表面強度と通気性のバランスを考慮して、粒子内部のTgは−30〜−10℃のものが好ましく、粒子外部の表層Tgは10〜30℃のものが好ましく、その差は20〜60℃が好ましい。内部Tgが−30℃未満又は−10℃を超過すると、充分な柔軟性が得られず表面強度が低下する可能性がある。表層Tgが10℃未満ではラテックスの接着作用が強く充分な通気性が得られにくく、表層Tgが30℃を超過すると、充分な表面強度が得られない可能性があるため好ましくない。
【0060】
また、上記スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス以外にも、上述した一般に製紙用途に用いることができる接着剤を併用することができる。
【0061】
上記目止め層の塗料は、片面あたり5〜15g/mの塗工量(乾燥質量)で塗工することで、本発明の課題である、平坦性および剥離性に優れ、通気性が良好であり空気の噛み込みが抑制できる剥離紙を得ることができる。塗工量が片面あたり5g/m未満と少ない場合は充分な平坦性が得られず、塗工量が片面あたり15g/mを超過して多い場合は通気性が低下しやすく、空気の噛み込みが発生しやすくなる可能性があるため好ましくない。
【0062】
上記のとおり、顔料として粒子径0.5μm以上2.0μm未満の粒子が50質量%以上を占める顔料を用い、かつ、接着剤としてブタジエン成分を40〜65質量%、好ましくは45〜60質量%含む傾斜型のスチレン−ブタジエン重合体ラテックスを、顔料100質量部に対して5〜15質量部使用した塗料を、片面あたり5〜15g/m塗工することにより、剥離性が良好であり、かつ空気の噛み込みを更に低減できる剥離紙を得ることができる。
【0063】
目止め層は、公知の種々の方式により塗工されることができるが、特にフィルム転写方式により塗工されることが好ましい。フィルム転写方式は、塗工塗料をロールに塗工した後に、塗料を紙に転写する方式のため、低塗工量で基紙表面に均一な塗工層を形成できることから、均一で良好な剥離性、通気性が得られるため好ましい。例えばツーロールサイズプレスのように塗工液の液溜りを形成し塗工する方式では、顔料が基紙内部にまで入り込みやすいため目止め効果に劣り、ブレード塗工方式の場合は、均一な厚さの塗工層が得られないため、通気性や目止め効果にムラがある剥離紙となるため好ましくない。
【0064】
(剥離層)
基紙上に目止め層を設けた上に、水性シリコーンを主成分とする剥離層を設けるが、本発明では、水性シリコーンと共に、変性ポリビニルアルコールを使用する。
【0065】
本発明で用いる水性シリコーンは、シリコーン化合物を乳化剤等の界面活性剤を用いて水中に乳化したシリコーンエマルジョンであっても良く、親水基による変性等によりシリコーン化合物を水中に分散させて得られたシリコーン分散体でも良い。
【0066】
変性ポリビニルアルコールとは、ポリビニルアルコールに、各種の官能基を導入したものである。例示すればシラノール変性ポリビニルアルコール、カルボキシル変性ポリビニルアルコール、カチオン変成ポリビニルアルコール、アセトアセチル変性ポリビニルアルコール、アセタール変性ポリビニルアルコール等である。この中でも、特に水性シリコーンとの親和性が高く、水性シリコーンの基紙への沈み込みを防止できる効果の高いシラノール変性ポリビニルアルコールを使用することが好ましい。
【0067】
使用する変性ポリビニルアルコールは、ケン化度が90mol%を超える完全ケン化タイプや、ケン化度が90mol%以下の部分ケン化タイプの、いずれをも使用することができるが、部分ケン化タイプよりは完全ケン化タイプを用いると、よりシリコーンの基紙への沈み込みを防止することができるため、剥離強度の経時安定性が向上するため好ましい。特に、シラノール変性ポリビニルアルコールのケン化度は、98モル%以上であることが好ましい。
【0068】
変性ポリビニルアルコールの重合度は、1,000〜2,500が好ましく、1,200〜2,000がより好ましい。重合度が1,000を下回ると、ポリビニルアルコールが基紙に浸み込みやすく、シリコーンが基紙に吸収されやすくなり、経時変化により剥離強度が強くなる傾向がある。重合度が2,500を超過すると、ポリビニルアルコールが原紙に浸み込みにくく、剥離層中でシリコーンの架橋が進み、経時変化で剥離強度が弱くなる傾向にある。
【0069】
剥離層を形成する塗工液における変性ポリビニルアルコールの含有量としては、水性シリコーン100質量部に対して、10〜70質量部が好ましく、20〜60質量部がより好ましい。含有量が10質量部を下回ると、シリコーンの沈み込みを防止する効果が充分に得られず、剥離性が経時的に低下しやすい。70質量部を上回ると、ポリビニルアルコール自体が粘着剤と親和性が高く、剥離性が経時的に低下しやすいので好ましくない。
【0070】
すなわち、変性ポリビニルアルコールが水性シリコーンの基紙への吸収を調整する作用を有するため、水性シリコーンと変性ポリビニルアルコール、好ましくはシラノール変性ポリビニルアルコールを併用することで、剥離強度の経時変化を抑制することができる。
【0071】
変性ポリビニルアルコールとともに、未変性のポリビニルアルコール;カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)等のセルロース誘導体から選択される一種以上の水溶性樹脂を併用することもできる。
【0072】
本発明の剥離紙の剥離層においては、上記樹脂以外に、一般に製紙用途で用いられる接着剤を使用しても良い。接着剤としては具体的には、例えば、カゼイン、大豆蛋白等の蛋白質類;スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体ラテックス、スチレン−メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体ラテックス等の共役ジエン系ラテックス;アクリル酸エステルおよび/又はメタクリル酸エステルの重合体ラテックス若しくは共重合体ラテックス等のアクリル系ラテックス;エチレン−酢酸ビニル重合体ラテックス等のビニル系ラテックス;これらの各種共重合体ラテックスをカルボキシル基等の官能基含有単量体で変性したアルカリ質量部分溶解性又は非溶解性のラテックス等のラテックス類;オレフィン−無水マレイン酸樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、ウレタン樹脂等の合成樹脂系接着剤;酸化澱粉、陽性化澱粉、エステル化澱粉、デキストリン等の澱粉類等を挙げることができ、これらの中から1種又は2種以上を適宜選択して使用することができる。
【0073】
本発明の剥離紙の剥離層には、上記以外にも、一般に製紙用途で使用できる顔料、蛍光増白剤、蛍光増白剤の被染着物質、消泡剤、離型剤、着色剤、保水剤等の通常使用される各種薬品を適宜配合することもできる。
【0074】
剥離層用塗工液の塗工は、一般の塗工紙用途設備で行えば足り、例えば、ブレードコーター、エアーナイフコーター、トランスファーロールコーター、ロッドメタリングサイズプレスコーター、カーテンコーター等の塗工装置を設けたオンマシンコーター又はオフマシンコーターによって、原紙上に一層又は多層に分けて塗工液を塗工できる。中でも、塗工層表面の高い平坦性が確保されるという点から、エアーナイフコーターを用いることが好ましい。また、ドライヤーパートでの乾燥方法としては、例えば、熱風加熱、ガスヒーター加熱、赤外線ヒーター加熱等の各種加熱乾燥方式を適宜採用することができる。
【0075】
剥離層の塗工量は乾燥質量で0.3〜1.8g/mが好ましく、0.5〜1.5g/mがより好ましい。0.3g/m未満では原紙の被覆性が低下し、良好な剥離性が得られない。1.8g/mを超過すると、乾燥ムラが発生しやすく、剥離層の表面強度が低下し、剥離層の一部が取られ易くなるだけでなく、空気の噛み込みが発生しやすくなるため好ましくない。
【0076】
このようにして得られる本発明の剥離紙は、剥離強度が経時で変化し難い、優れた剥離紙となる。剥離強度は後述する剥離強度測定方法による剥離強度で0.03〜0.30N/25mm以下であることが好ましく、0.05〜0.20N/25mm以下であることがより好ましく、0.08〜0.15N/25mm以下であることが更に好ましい。剥離強度は製造直後とエージング後いずれの時点で測定しても剥離強度がともに上記範囲に入ることが好ましい。このような剥離紙であることにより、経時で安定した剥離紙となる。エージングの期間は通常1ヶ月以上であり、1ヶ月以上の期間を置いた場合には、剥離強度の変化が緩やかになり、これ以上の変化は無視しえる程度となる。剥離強度が0.0.3N/25mmを下回ると、剥離性が軽すぎて粘着層と剥離紙が自然に剥離する浮き剥がれが発生しやすいため好ましくない。剥離強度が0.30N/25mmを超過すると、剥離性に劣るため好ましくない。特に壁紙用の剥離紙等、剥離面積が大きい産業用途の剥離紙として使用した場合は、剥離作業の負担が大きく、作業性が低下しやすいため好ましくない。
【0077】
上述の通り構成することにより、本発明の剥離紙は、JIS P 8117に基づいて測定した透気度が300〜5,000秒、好ましくは軽質炭酸カルシウムを使用することで500〜4,000秒、より好ましくは1,000〜3,000秒とすることができる。透気度が300秒未満になると、目止め層上に水性シリコーンを塗布すると、シリコーンが原紙に沈み込み、経時変化で剥離強度が向上し、剥離し難くなる問題が発生しやすくなる。一方、透気度が5,000秒を超過すると、壁紙の製造工程のうち、剥離紙と粘着層を貼り合せて壁紙を製造する際に空気が噛み込んで、壁紙(表面)や剥離紙(裏面)に膨れが発生する問題がある。
【0078】
(用途)
本発明の剥離紙は、壁紙、合成皮革、プリプレグ、プラスチックフィルム等の各種シート製造用の剥離紙として用いることができ、特に剥離性が良好であるため、大面積であっても容易に剥離を行うことができる産業用途、例えば粘着層を有する壁紙用途に好ましく用いられる。この場合、本発明の剥離紙は、壁紙の粘着層を被覆することで使用される。
【実施例】
【0079】
次に、実施例、比較例を挙げて本発明による作用効果を明らかにするが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0080】
1.実施例1〜32、比較例1〜6の剥離紙の製造
〔基紙〕
表に記載のフリーネスに調整した針葉樹晒クラフトパルプ10質量部および広葉樹晒クラフトパルプ90質量部を混合し、絶乾パルプ1tあたりカチオン化澱粉を5kg、サイズ剤0.2kg、凝結剤0.05質量%、凝集剤0.15質量%をそれぞれ有効成分基準で内添し、填料として軽質炭酸カルシウムを灰分10%となるよう内添した。その後、長網抄紙機で抄造・乾燥後、米坪120g/mの基紙を得た。
【0081】
凝結剤として、ハイモ(株)製のポリアミングラフトポリエチレンイミン(品番:SC924、主鎖:ポリエチレンイミン、グラフト鎖:ポリアミングラフト、重合形態:グラフト重合、形状:樹形図状、分子量:100万、電荷密度:18meq/g)を使用した。
【0082】
凝集剤として、ハイモ(株)製のカチオンPAM(品番:ND270、分子量:1,400万、電荷密度:3meq/g))を使用した。
【0083】
〔目止め層〕
基紙に対し、顔料として表に記載のとおりに平均粒子径を調整したクレーおよび炭酸カルシウム、シリカを合計で100質量部と、接着剤として日本エイアンドエル(株)製のスチレン−ブタジエンラテックス(品番:PA5036、コア−シェル型、Tg−20℃〜20℃)10質量部を含む塗工液を、片面あたり8.0g/mの塗工量(乾燥質量)となるよう、ロッドメタリングサイズプレスコーターで、原紙の両面に塗工し、目止め層を設けた。なお、用いた顔料は以下のとおりである。
【0084】
・クレー:カオリンクレー(品番:カピムNP、イメリス社製)
・炭カル:重質炭酸カルシウム(品番:エスカロン#90、三共製粉(株)製)
・シリカ:合成非晶質シリカ(型番:ニップジェルAZ−204、東ソー・シリカ社製)
クレーは表1の平均粒子径となるよう、湿式粉砕機(品番:プラネタリーミル、セイシン企業製)を用いて粉砕した。炭酸カルシウムおよびシリカはそのまま用いた。
【0085】
〔剥離層〕
表に示す剥離剤(シリコーン剥離剤)に対し、表に記載の水溶性樹脂を常温にて混合撹拌して剥離層用の塗工液を得た。なお、用いたシリコーン、水溶性樹脂は以下のとおりである。また、水溶性樹脂の配合量は、シリコーン100質量部に対する値である。
【0086】
剥離剤(シリコーン剥離剤の種類)
・水性(品番:KM−3951、信越シリコーン(株)製)
・溶剤系(品番:KS−3601、信越シリコーン(株)製)
・無溶剤系(品番:KNS−316、信越シリコーン(株)製)
・未変性ポリビニルアルコール(クラレ(株)社製)
品番:PVA−405、ケン化度:80〜83、重合度500。
品番:PVA−217、ケン化度:87〜89、重合度1700。
品番:PVA−117、ケン化度:98〜99、重合度1700。
・Si−PVA:シラノール変性ポリビニルアルコール(型番:R−1130、クラレ社製、ケン化度98〜99モル%、重合度1700)
・Acac−PVA:アセトアセチル化ポリビニルアルコール(品番:ゴーセファイマーZ410、日本合成化学社製、ケン化度98〜99モル%、重合度2100)
水性シリコーンの質量は、剥離剤そのものの質量であり、水を含む質量とする。また実施例20〜23に用いたポリビニルアルコールは表に記載の重合度に調整し、実施例24のポリビニルアルコールはケン化度を87〜89モル%に調整したものを用いた。
【0087】
上記塗工液を、前述した基紙にエアーナイフコーターで、片面あたり乾燥質量が表1に記載の値となるように目止め層表面に片面塗工し、熱風乾燥機で乾燥させた。
【0088】
2.評価方法
以上のようにして製造した剥離紙について、以下のとおり測定・評価を行った。結果は、表1に示した。
【0089】
1)繊維長
繊維長とは、基紙又は剥離紙をJIS−P8220(1998)離解方法に準拠して標準離解機にて試料を離解処理した後、得られた離解パルプを、JAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法 No.52「パルプ及び紙−繊維長試験方法−光学的自動計測法」に準拠して、カヤニ繊維長測定機FS−100を用いてパルプ重量繊維長を測定した値である。
【0090】
2)面積粒子径
走査電子顕微鏡(型番:S−2150、(株)日立製作所製)を用いて基紙表面の顔料粒子を撮影した。顔料粒子は真円ではないため、粒子全体を内包できる最小の円(粒子に外接する最小の円)の直径を面積粒子径とした。撮影は倍率12,000倍で10枚行い、写真毎に10点ずつ、合計100点の顔料粒子について面積粒子径を求めた。また、粒子の数を面積粒子径0.1μmごとに集計して粒子径分布とした。
【0091】
3)透気度(通気性)
JISP8117:1998「紙および板紙−透気度試験方法−ガーレー試験機法」に準じて、剥離層面から空気を供給して測定した。
【0092】
4)空気の噛み込み
幅1,500mmの剥離紙に、幅1,200mmのアクリル樹脂テープ(品番:WF017、コニシ社製)を速度50m/分で貼合した。貼合長さ10mあたりの空気の噛み込みの発生を、目視で次のとおり評価した。
◎:噛み込みが発生しない。
○:噛み込みが1個発生したが、実使用可能。
△:噛み込みが2〜3個発生したが、実使用可能。
×:噛み込みが4個以上発生し、実使用不可能。
【0093】
5)リサイクル適性
A4サイズ(210mm×297mm)の工程剥離紙を約5cm角に切り、水1リットル中に沈め、常温で30分間、100RPMで攪拌した後のパルプ原料の遊離性を目視で次のとおり評価した。
○:ほぼ全てのパルプが遊離し、リサイクル適性が良い。
×:ラミネート等に付着した一部のパルプが遊離せず、リサイクル適性が悪い。
【0094】
6)剥離強度
剥離紙を50mm×150mmの試験片として切り取り、これの剥離層に25mm×150mmのアクリル樹脂テープ(品番:WF017、コニシ社製)を貼付し、2kgローラーを一往復させて貼合した。所定時間放置した後、アクリル樹脂テープの、試験片に貼合していない面を、両面テープでSUS鋼板に固定し、試験片をアクリル樹脂テープに対し、180°の方向に100mm/分の速度で剥がした際の応力を、万能引張試験機(STPOGRAPH V1−C、東洋精機製)で測定した。応力の極大部を高い順に10点、極小部を小さい順に10点取り、合計20点の平均値を剥離強度とした。
【0095】
以上の測定は、剥離層を設けた直後と、剥離層を設けた後に温度23℃、湿度50%で1ヶ月間エージングした後に実施した。結果を表1に示す。
【0096】
【表1】

【0097】
表1に示すように、実施例1〜32では、剥離層に水性シリコーンと変性ポリビニルアルコールとを含有しているため、剥離強度の経時変化が少なく、優れた剥離紙が得られ、空気の噛み込みを抑制できる剥離紙が得られた。他方、目止め層を設けない比較例1は剥離強度に劣り、目止め層の代わりにポリエチレンラミネート層を設け、剥離層に水性シリコーンに変えて溶剤系シリコーンを含有する比較例2および無溶剤系シリコーンを含有する比較例3は、従来一般に用いられている剥離紙であるが、水に離解しない合成樹脂成分が多く、リサイクル適性に劣る剥離紙である。水溶性樹脂として未変性のポリビニルアルコールを用いた比較例4〜6は、剥離強度の経時変化が大きく、空気の噛み込みが発生し、本発明の課題を満足しない。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明の剥離紙は、種々のシート製造用の剥離紙として使用することができ、特に壁紙用途として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基紙と、前記基紙上に設けられた目止め層と、前記目止め層上に設けられた剥離層とからなり、
前記目止め層は、顔料および接着剤を含有し、
前記剥離層は、水性シリコーンと、変性ポリビニルアルコールとを含む、ことを特徴とする、剥離紙。
【請求項2】
前記剥離紙の離解繊維長において、繊維長0.2mm以上0.5mm未満の繊維が全繊維に対して占める割合が15〜35質量%であり、前記基紙の米坪が80〜200g/mであり、前記剥離紙の透気度が300〜5,000秒であることを特徴とする、請求項1に記載の剥離紙。
【請求項3】
前記顔料を構成する全粒子のうち、粒子径0.5μm以上2.0μm未満の粒子が占める割合が50%以上であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の剥離紙。
【請求項4】
前記変性ポリビニルアルコールがシラノール変性ポリビニルアルコールであり、前記シラノール変性ポリビニルアルコールの重合度が1,000〜2,500であり、前記シラノール変性ポリビニルアルコールのケン化度が98モル%以上であることを特徴とする、請求項1〜3いずれか1項に記載の剥離紙。

【公開番号】特開2010−236128(P2010−236128A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−85189(P2009−85189)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(390029148)大王製紙株式会社 (2,041)
【Fターム(参考)】