副甲状腺機能亢進症および高カルシウム血症性障害の治療のためのポリカチオン性カルシウムモジュレーターペプチド
本発明は、副甲状腺機能亢進症、骨疾患および/または高カルシウム血症性障害を治療するための方法およびキットを提供する。詳細には、ポリカチオン性カルシウムモジュレーターペプチドを用いて血清PTHおよび血清カルシウムを低下させるための方法を提供する。カルシウムモジュレーターペプチドは、例えば原発性、二次性、もしくは三次性の副甲状腺機能亢進症、悪性腫瘍の高カルシウム血症、転移性骨疾患、または骨粗鬆症を有する対象を治療するために用いることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2006年11月16日に提出された米国仮出願第60/859,597号の優先権を主張する。この文書の内容はその全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
技術分野
本発明は、ポリカチオン性カルシウムモジュレーターペプチド(calcium modulator peptide)およびその薬学的組成物、ならびに、そのような治療を必要とする対象において、副甲状腺ホルモン(PTH)を低下させるため、および/または高カルシウム血症を治療するための方法における、そのようなペプチドおよび組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
カルシウム恒常性
カルシウム恒常性は、身体が適切なカルシウムレベルを維持する機構である。この過程は高度に制御されており、カルシウム吸収、輸送、骨中での貯蔵、他の組織への沈着、および排泄の間での複雑なやり取りを伴う。
【0004】
PTHは血清カルシウムレベルの最も重要な制御因子であり、骨吸収の過程を通じて骨からのカルシウムの放出を増強すること;尿細管からのカルシウムの再吸収を増加させること;および、活性型ビタミンDである1,25-(OH)2ビタミンDの産生を増加させることにより腸管におけるカルシウム吸収を増強することによって、血中のカルシウム濃度を上昇させる働きをする。PTHはまた、腎臓からのリン排泄も刺激し、骨からの放出も増加させる。
【0005】
PTH分泌は、副甲状腺細胞の細胞表面に発現されるGタンパク質共役型受容体であるカルシウム感知受容体(CaSR)によって制御され、それは細胞外カルシウムイオン(Ca2+)の濃度のわずかな変動を検出して、PTHの分泌を変更することによって応答する。Ca2+によるCaSRの活性化はPTH分泌を数秒〜数分以内に阻害するが、この過程は受容体のプロテインキナーゼC(PKC)リン酸化によって調節されうる。CaSRは骨芽細胞上および腎臓内でも発現され、後者ではそれは腎Ca2+排泄を制御する。
【0006】
加えて、PTHはリン恒常性も制御する。PTHは頂端膜(刷子縁膜)および側底膜の両方にある副甲状腺ホルモン受容体1(PTHR1)を刺激する。PTHR1刺激は、刷子縁膜上の腎Na+/リン酸(NaPi-IIa)共輸送体の内部移行による減少の帰結として、リン酸(Pi)の尿中排泄の増加を招く。PKC活性化は同様にPi排泄を減少させると予想される。
【0007】
PTHはまた、骨中での骨芽細胞および破骨細胞の制御にも関与する。PTHは、カルシウムの骨吸収および腎吸収を増加させることにより、血清Ca2+を増加させる。PTHは骨芽細胞を刺激してRANKリガンド(RANKL)を産生させ、それがRANK受容体と結合して破骨細胞を活性化し、骨吸収の増加および血清Ca2+の増加を招く。オステオプロテジェリン(OPG)はRANKLのデコイ受容体であり、骨吸収を阻害する。骨粗鬆症は、破骨細胞による骨吸収の過程と骨芽細胞による骨形成の過程とのアンバランスによって引き起こされる。
【0008】
高カルシウム血症および副甲状腺機能亢進症
ヒトの身体はおよそ1kgのカルシウムを含み、その99%は骨中に存在する。正常な状態では、流血中カルシウムイオン(Ca2+)は約8〜10mg/dL(すなわち、2.25〜2.5mmol/L;600mg前後)のレベルに厳重に維持される。元素カルシウム(Ca2+)にしておよそ1gが毎日摂取される。この量のうち、およそ200mg/日が吸収され、800mg/日は排泄される。加えて、およそ500mg/日が骨吸収によって放出されるか骨中に沈着する。1日に約10gのCa2+が腎臓を通して濾過され、そのうち約200mgが尿中に現れて、残りは再吸収される。
【0009】
高カルシウム血症は、血中のカルシウムレベルが上昇していることである。急性高カルシウム血症は、胃腸症状(食欲不振、悪心、嘔吐);腎症状(多尿症、多渇症)、神経筋症状(抑鬱、錯乱、昏迷、昏睡)および心症状(徐脈、第1度房室)をもたらす恐れがある。慢性高カルシウム血症でも、胃腸症状(消化障害、便秘、膵炎);腎症状(腎結石、腎石灰化)、神経筋症状(脱力感)および心症状(高血圧ブロック(hypertension block)、ジギタリス感受性)が伴ってみられる。心拍リズム異常がもたらされる恐れがあり、QT間隔短縮およびT波幅増大のEKG所見は高カルシウム血症を示唆する。高カルシウム血症は無症候性のこともあり、症状はカルシウムレベルが高い時(12.0mg/dLまたは3mmol/l)により高い頻度で起こる。重症高カルシウム血症(15〜16mg/dLまたは3.75〜4mmol/lを上回る)は医学的な緊急事態とみなされる:これらのレベルでは、昏睡および心停止が起こる恐れがある。
【0010】
高カルシウム血症は往々にして副甲状腺機能亢進症によって引き起こされ、過剰な骨吸収および血清カルシウムレベルの上昇を招く。原発性で散発性の副甲状腺機能亢進症では、PTHは単一の副甲状腺腺腫によって過剰発現される;頻度はより低いが、複数の腺腫またはびまん性副甲状腺過形成が原因のこともある。PTH分泌増加は骨吸収の正味の増加を招き、これはCa2+およびリン酸(Pi)の放出を伴う。PTHはまた、Ca2+の腎再吸収も増強するとともにリン酸(Pi)の再吸収を阻害し、血清カルシウムの正味の上昇およびリン酸の低下を結果的にもたらす。
【0011】
二次性副甲状腺機能亢進症は、血漿Ca2+レベルの低下がPTH分泌を刺激した時に起こる。二次性副甲状腺機能亢進症の最も重要な原因は、多発性嚢胞腎もしくは慢性腎盂腎炎におけるもののような慢性腎機能不全、または血液透析患者におけるもののような慢性腎不全である。カルシウム摂取不足、GI障害、腎機能不全、ビタミンD欠乏および腎性高カルシウム尿症に起因する低カルシウム血症に反応して、過剰なPTHが産生されることがある。三次性副甲状腺機能亢進症は、長期的な二次性副甲状腺機能亢進症および高カルシウム血症の後に起こることがある。
【0012】
悪性腫瘍は、非PTH媒介性高カルシウム血症の最も頻度の高い原因である。悪性腫瘍の高カルシウム血症は、癌の多くはないが重篤な合併症であり、癌患者の10%〜20%が罹患し、固形腫瘍および白血病のいずれでも起こりうる。この病状は突発性であり、予後が極めて不良であり、生存期間中央値は6週に過ぎない。増殖因子(GF)は、腫瘍細胞における副甲状腺ホルモン関連タンパク質(PTHrP)の産生を制御する。腫瘍細胞は自己分泌GFによって刺激されてPTHrPの産生を増加させ、骨吸収の増強を招く可能性がある。骨に転移した腫瘍細胞もPTHrPを分泌することがあり、これは骨を吸収してさらにGFを放出することができ、続いてそれがパラ分泌様式で作用してPTHrP産生をさらに増強する。
【0013】
カルシウム模倣薬
カルシウム模倣薬(calcimimetic agent)は、さまざまな組織に対するカルシウムの作用を模倣する薬物である。副甲状腺のカルシウム感知受容体(CaSR)に対する活性を有するフェニルアルキルアミン系カルシウム模倣薬が記載されている。Nemeth et al., Proc. Natl. Acad. Sci., 95:4040-4045 (1998)(非特許文献1)を参照。そのような薬物の1つであるシナカルセト(Cinacalcet)は、副甲状腺機能亢進症の治療用に販売されている。さらにCaSRは、他の二価および多価カチオン、ならびにスペルミン、ヘキササイクリン(hexacyclin)、ポリリジン、ポリアルギニン、プロタミン、アミロイドβ-ペプチド、ネオマイシンおよびゲンタマイシンなどの有機ポリカチオンも感知して応答することができるが、これらのカチオンはCaSRに対する選択性を欠く上に効力も比較的弱いことが報告されている。Nagano & Nemeth, J. Pharmacol. Sci., 97:355-360 (2005)(非特許文献2)を参照;同じくBrown et al., J. Bone Miner. Res., 6:1217-1225 (1991)(非特許文献3)も参照のこと。
【0014】
プロテインキナーゼC
プロテインキナーゼC(PKC)は、細胞増殖、遺伝子発現およびイオンチャンネル活性の制御を含む、種々の細胞機能に関与するシグナル伝達において鍵となる酵素である。PKCファミリーのアイソザイムは少なくとも11種類のプロテインキナーゼを含み、それらはその相同性および活性化因子に対する感受性に基づいて少なくとも3つのサブファミリーに分類することができる。古典的サブファミリーまたはcPKCサブファミリーのメンバーであるα、β(βI、βII)およびγアイソザイムは、アイソザイム特有の(可変またはV)領域が間に介在する4つの相同ドメイン(C1、C2、C3およびC4)を含み、カルシウム、ホスファチジルセリン(PS)およびジアシルグリセロール(DG)またはホルボールエステルを活性化のために必要とする。新規サブファミリーまたはnPKCサブファミリーのメンバーであるδ、ε、ηおよびθアイソザイムは、活性化のためにカルシウムを必要としない。さらに、非定型サブファミリーまたはaPKCサブファミリーのメンバーであるζおよびλ/ιアイソザイムは、DG、ホルボールエステルおよびカルシウムに対する感受性がない。
【0015】
PKCアイソザイムの細胞内分布に関する研究により、PKCの活性化は細胞内でのその再分布(転位とも呼ばれる)をもたらし、その結果、活性化されたPKCアイソザイムは原形質膜、細胞骨格要素、核および他の細胞内区画と結びつくことが示されている。各種のPKCアイソザイムの特有の細胞機能はそれらの細胞内位置によって決まるように思われる。例えば、活性化βI PKCは核の内部に認められるが、活性化βII PKCは心筋細胞の核周囲および細胞周辺部に認められる。さらに、同じ細胞内で、ε PKCは、活性化の後または固定細胞に対する外因性の活性化ε PKCの添加後に、横紋構造(おそらく収縮要素)および細胞間接着部と結合する。細胞の異なる場所への各種のPKCアイソザイムの局在は、敷衍すれば、活性化Cキナーゼ受容体(RACK)と呼ばれる特異的な係留分子に対する活性化アイソザイムの結合に起因するように思われる。
【0016】
RACKは、活性化PKCアイソザイムをその各々の細胞内部位に選択的に係留させることによって働くと考えられている。RACKは活性化PKCのみと結合し、必ずしもその酵素の基質というわけではない。RACKに対する結合がキナーゼの触媒ドメインによって媒介されるわけでもない。PKCの転位は、活性化されたその酵素と細胞顆粒画分に係留されたRACKとの結合を反映しており、PKCがその細胞応答を生じるためにはRACKとの結合が必要である。インビボでのPKCとRACKとの結合の阻害により、PKC転位およびPKCを介した機能が阻害される。
【0017】
RACK1およびRACK2をコードするcDNAクローンが同定されている。いずれもGタンパク質のβサブユニットの相同体であり、これは別の移行性プロテインキナーゼであるβアドレナリン受容体キナーゼβ-ARKの受容体である。Gタンパク質と同様に、RACK1およびRACK2は7つのWD40反復配列を有する。最近のデータから、RACK1は活性化βII PKCに対する選択的係留タンパク質であることが示唆されている。複数の研究により、RACK2(β'-COPとも呼ばれる)はεPKCに対する選択的結合タンパク質であることが示されている。Csukai et al. J. Biol. Chem. 1997;272:29200-29206(非特許文献4)。
【0018】
PKCアイソザイムの適正な機能のためにはPKCの転位が必要である。RACK上のPKC結合部位またはPKC上のRACK結合部位のいずれかを模倣するペプチドは、その酵素のインビボでの機能を選択的に阻害する、PKCのアイソザイム特異的転位阻害薬である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】Nemeth et al., Proc. Natl. Acad. Sci., 95:4040-4045 (1998)
【非特許文献2】Nagano & Nemeth, J. Pharmacol. Sci., 97:355-360 (2005)
【非特許文献3】Brown et al., J. Bone Miner. Res., 6:1217-1225 (1991)
【非特許文献4】Csukai et al. J. Biol. Chem. 1997;272:29200-29206
【発明の概要】
【0020】
本発明は、ポリカチオン性カルシウムモジュレーターペプチドおよびその薬学的組成物と、そのような治療を必要とする対象において、副甲状腺ホルモン(PTH)を低下させるため、および/または高カルシウム血症を治療するための方法におけるそのようなペプチドおよび組成物の使用とに関する。
【0021】
1つの局面において、本発明は、対象における副甲状腺ホルモン(PTH)レベルを低下させるための方法を提供し、本方法は、カルシウムモジュレーターペプチドの治療的有効量をそれを必要とする対象に投与し、それによって血清PTHを低下させる段階を含む。
【0022】
もう1つの局面において、本発明は、高カルシウム血症を治療するための方法を提供し、本方法は、カルシウムモジュレーターペプチドの治療的有効量をそれを必要とする対象に投与し、それによって血清カルシウムが低下する段階を含む。
【0023】
もう1つの局面において、本発明は、骨疾患を治療するための方法を提供し、本方法は、ポリカチオン性カルシウムモジュレーターペプチドの治療的有効量をそれを必要とする対象に投与し、それによって骨代謝回転が低下する段階を含む。
【0024】
いくつかの態様において、カルシウムモジュレーターペプチドは、
a)生理的pHで正に荷電する5〜20個のアミノ酸、アミノ末端、カルボキシ末端、および第1のチオール含有残基を含むポリカチオン性ペプチドであって、アミノ末端、カルボキシ末端、またはその両方で化学修飾されている、ポリカチオン性ペプチドと、
b)第1のチオール含有残基とジスルフィド結合している第2のチオール含有残基を含むカーゴペプチドと
を含む。
【0025】
他の態様において、カルシウムモジュレーターペプチドは、
a)生理的pHで正に荷電する少なくとも3個のアミノ酸、第1のアミノ末端、第1のカルボキシ末端、および第1のチオール含有残基を含む第1のポリカチオン性ペプチドであって、第1のアミノ末端、第1のカルボキシ末端、またはその両方で化学修飾されている、第1のポリカチオン性ペプチドと、
b)生理的pHで正に荷電する少なくとも3個のアミノ酸、第2のアミノ末端、第2のカルボキシ末端、および第2のチオール含有残基を含む第2のポリカチオン性ペプチドであって、第2のアミノ末端、第2のカルボキシ末端、またはその両方で化学修飾されている、第2のポリカチオン性ペプチドと
を含み、かつカルシウムモジュレーターペプチドは、生理的pHで正に荷電する6〜30個のアミノ酸を含む。
【0026】
さらなる態様において、カルシウムモジュレーターペプチドは、生理的pHで正に荷電する5〜20個のアミノ酸、アミノ末端、カルボキシ末端、および第1のチオール含有残基を含む、ポリカチオン性ペプチドを含み、
このポリカチオン性ペプチドはアミノ末端、カルボキシ末端、またはその両方で化学修飾されており、かつ
第1のチオール含有残基はチオール基を含み、それは遊離チオールとして、または保護された形態で存在しうる。
【0027】
いくつかの態様において、カルシウムモジュレーターペプチドの治療的有効量は、カルシウムモジュレーターペプチドの投与後少なくとも10時間にわたり、血清PTHを少なくとも20%低下させるのに十分である。ある態様において、PTHレベルの低下は、血清インタクトPTHの低下として決定される。他の態様において、カルシウムモジュレーターペプチドの治療的有効量は、カルシウムモジュレーターペプチドの投与後少なくとも10時間にわたり、血清インタクトPTHを治療前ベースラインレベル未満へと少なくとも20%低下させるのに十分である。
【0028】
他の態様において、カルシウムモジュレーターペプチドの治療的有効量は、カルシウムモジュレーターペプチドの投与後少なくとも48時間にわたり、血清PTHを30%〜70%低下させるのに十分である。
【0029】
ある態様において、カルシウムモジュレーターペプチドの治療的有効量は、カルシウムモジュレーターペプチドの投与後少なくとも10時間にわたり、血清カルシウムを少なくとも5%低下させるのに十分である。
【0030】
他の態様において、カルシウムモジュレーターペプチドの治療的有効量は、カルシウムモジュレーターペプチドの投与後少なくとも48時間にわたり、血清カルシウムを5%〜20%低下させるのに十分である。
【0031】
本発明の方法は、血清PTHレベルの上昇、血清カルシウムレベルの上昇、またはその両方を特徴とする障害または疾患に罹患した対象を治療するために有用である。いくつかの態様において、本発明の方法はまた、血清リン酸塩レベルの低下を特徴とする障害または疾患に罹患した対象を治療するためにも有用である可能性がある。
【0032】
いくつかの態様において、対象はヒトである。他の態様において、対象はヒトであり、血清PTHが低下している。ある態様において、対象はヒトであり、血清カルシウムが低下している。さらなる態様において、対象はヒトであり、骨代謝回転が低下している。
【0033】
いくつかの態様において、対象は、原発性副甲状腺機能亢進症、二次性副甲状腺機能亢進症、三次性副甲状腺機能亢進症、悪性腫瘍の高カルシウム血症、転移性骨疾患(例えば、骨肉腫)、ページェット病、骨関節炎、関節リウマチ、骨軟化症、軟骨石灰化症、軟骨無形成症、骨軟骨炎、骨形成不全症、先天性低ホスファターゼ血症、線維腫性病変、線維性骨異形成、多発性骨髄腫、骨溶解性骨疾患、プロテーゼ周囲骨溶解、歯周病、骨粗鬆症、異常骨代謝回転または高代謝回転型骨疾患に罹患している。
【0034】
特定の態様において、対象は原発性、二次性または三次性の副甲状腺機能亢進症に罹患している。好ましい態様において、対象は二次性副甲状腺機能亢進症(時にはSHPTと呼ばれる)に罹患している。SHPTに罹患している対象における血清PTHの低下は、骨代謝回転を低下させると期待される。他の態様において、対象は、悪性腫瘍の高カルシウム血症、または転移性骨疾患(例えば、骨癌)に罹患している。さらなる態様において、対象は骨粗鬆症に罹患している。
【0035】
1つの局面において、本発明は、以下のものを含むカルシウムモジュレーターペプチドを提供する:
a)生理的pHで正に荷電する5〜20個のアミノ酸、アミノ末端、カルボキシ末端、および第1のチオール含有残基を含むポリカチオン性ペプチドであって、アミノ末端、カルボキシ末端、またはその両方で化学修飾されている、ポリカチオン性ペプチドと、
b)第1のチオール含有残基とジスルフィド結合している第2のチオール含有残基を含むカーゴペプチド。
【0036】
もう1つの局面において、本発明は、
a)生理的pHで正に荷電する少なくとも3個のアミノ酸、第1のアミノ末端、第1のカルボキシ末端、および第1のチオール含有残基を含む第1のポリカチオン性ペプチドであって、第1のアミノ末端、第1のカルボキシ末端、またはその両方で化学修飾されている、第1のポリカチオン性ペプチドと、
b)生理的pHで正に荷電する少なくとも3個のアミノ酸、第2のアミノ末端、第2のカルボキシ末端、および第2のチオール含有残基を含む第2のポリカチオン性ペプチドであって、第2のアミノ末端、第2のカルボキシ末端、またはその両方で化学修飾されている、第2のポリカチオン性ペプチドと
を含み、かつ生理的pHで正に荷電する6〜30個のアミノ酸を含む、カルシウムモジュレーターペプチドを提供する。
【0037】
1つのさらなる局面において、本発明は、生理的pHで正に荷電する5〜20個のアミノ酸、アミノ末端、カルボキシ末端、および第1のチオール含有残基を含むポリカチオン性ペプチドを含むカルシウムモジュレーターペプチドを提供し、このポリカチオン性ペプチドはアミノ末端、カルボキシ末端、またはその両方で化学修飾されており、かつ第1のチオール含有残基は、遊離チオールとして、または保護された形態で存在しうるチオール基を含む。
【0038】
そのようないくつかの態様において、ポリカチオン性ペプチドは、第1のチオール含有残基とジスルフィド結合している第2のチオール含有残基をさらに含む。そのような場合に、ジスルフィド結合の形成は、環状ポリカチオン性カルシウムモジュレーターペプチドを形成する。
【0039】
もう1つの局面において、本発明は、ポリエチレングリコール(PEG)とコンジュゲートしてPEG化ペプチドを形成した、本明細書に記載するようなカルシウムを調節するペプチド(calcium modulating peptide)を提供する。好ましい態様において、PEGの平均分子量は約5kDa〜約40kDaである。
【0040】
1つのさらなる局面において、本発明は、本明細書にさらに記載するようなカルシウムを調節するペプチドと、1つまたは複数の薬学的に許容される添加剤とを含む薬学的組成物を提供する。
【0041】
本発明の方法において有用なペプチドは、従来の液相もしくは固相手法を用いて化学合成することもでき、または組換え的に生産することもできる。少なくとも1つの薬学的に許容される添加剤と記載のペプチドとを含む薬学的組成物は、本明細書で提供する方法との使用も想定されている。
【0042】
本発明の方法は、副甲状腺機能亢進症、骨疾患、および他の高カルシウム血症障害の治療のために有用である可能性がある。例示的な疾患には、以下のものが非限定的に含まれる:副甲状腺機能亢進症(原発性、二次性および三次性)、悪性腫瘍の高カルシウム血症、転移性骨疾患、ページェット病、骨関節炎、関節リウマチ、骨軟化症、軟骨石灰化症、軟骨無形成症、骨軟骨炎、骨形成不全症、先天性低ホスファターゼ血症、線維腫性病変、線維性骨異形成、多発性骨髄腫、骨溶解性骨疾患、プロテーゼ周囲骨溶解、歯周病、骨粗鬆症、異常骨代謝回転、および他の型の高代謝回転型骨疾患。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】KAI-1455を12.5mg/kgで12時間の静脈内注入により投与されたイヌにおけるPTHレベル、血清カルシウムレベルおよび血清リン酸塩レベル(iP)の間の関係を示している。
【図2】KAI-1455を25mg/kgの用量で12時間にわたる静脈内注入によって与えられ、12時間の注入中およびさらにEOI後の3〜6時間にカルシウム補充(2mg元素カルシウム/kg/hr)を受けたイヌにおける血清カルシウムレベルを示している。
【図3】KAI-1455を25mg/kgの用量で12時間にわたる静脈内注入によって与えられ、12時間の注入中およびさらにEOI後の3〜6時間にカルシウム補充(2mg元素カルシウム/kg/hr)を受けたイヌにおける血清リン酸塩レベルを示している。
【図4】KAI-1455を18、54、81および162mg/kg/hrの用量で12時間にわたる静脈内注入によって投与された対象のヒト血漿におけるKAI-1455の血漿中薬物動態を示している。KAI-1455の濃度(ng/mL)を、投薬前、および投薬中の1、3、6、9、12時間の時点、ならびに注入終了から2、5、7、10、15、20、30および60分後に決定した。
【図5】KAI-1455を18、54、81および162mg/kgの用量で12時間にわたる静脈内注入によって投与されたヒトにおける、注入開始時ならびに注入開始から3、6、9、12、15、18、21、24および48時間後のイオン化カルシウム(mmol/L)を示している。
【図6】KAI-1455を18、54、81および162mg/kgの用量で12時間にわたる静脈内注入によって投与されたヒトにおける、注入開始時ならびに注入開始から3、6、9、12、15、18、21、24および48時間後の総カルシウム(mg/dL)を示している。
【図7】KAI-1455を18、54、81および162mg/kgの用量で12時間にわたる静脈内注入によって投与されたヒトにおける、注入開始時ならびに注入開始から3、6、9、12、15、18、21、24および48時間後のカルシウムレベルの変化率を示している。
【図8】KAI-1455を18、54、81および162mg/kgの用量で12時間にわたる静脈内注入によって投与されたヒトにおける、注入開始時ならびに注入開始から3、6、12、15、18、24および48時間後の血漿PTHレベル(pg/mL)を示している。
【図9】KAI-1455を18、54、81および162mg/kgの用量で12時間にわたる静脈内注入によって投与されたヒトにおける、注入開始時ならびに注入開始から3、6、12、15、18、24および48時間後の血漿PTHレベルの変化率を示している。
【図10】KAI-1455を54および108mg/kgの用量で4時間にわたる静脈内注入によって投与されたヒトにおける、注入開始時ならびに注入開始から2、3、4、6、8、12、16および36時間後のイオン化カルシウム(mmol/L)を示している。
【図11】KAI-1455を54および108mg/kg/hrの用量で4時間にわたる静脈内注入によって投与されたヒトにおける、注入開始時ならびに注入開始から2、3、4、6、8、12、16および36時間時間後の総カルシウム(mg/dL)を示している。
【図12】KAI-1455を54および108mg/kg/hrの用量で4時間にわたる静脈内注入によって投与されたヒトにおける、注入開始時ならびに注入開始から2、3、4、6、8、12、16および36時間時間後の血漿PTHレベル(pg/mL)を示している。
【図13】KP-1524(SEQ ID NO:9)を9mg/kg/hrの投薬速度で3時間にわたる静脈内注入によって投与された麻酔ラット(n=4)における、注入前ならびに1、2、3および4時間の時点の総カルシウム(mg/dL)および血漿PTH(pg/mL)を示している。
【図14】KP-9706(SEQ ID NO:6)を9mg/kg/hrの投薬速度で3時間にわたる静脈内注入によって投与された麻酔ラット(n=4)における、注入前ならびに1、2、3、4、および24時間の時点の総カルシウム(mg/dL)レベルを示している。
【図15】KAI-1455(SEQ ID NO:7)、KP-9706(SEQ ID NO:6)およびKP-9803(SEQ ID NO:8)に関する、ラットEDTA血漿におけるインビトロ血漿中安定性データを示している。
【発明を実施するための形態】
【0044】
発明の詳細な説明
本発明は、副甲状腺機能亢進症、骨疾患および/または他の高カルシウム血症性障害を予防、治療または緩和するためにポリカチオン性ペプチドを用いる方法に関する。
【0045】
本明細書で用いる場合、「副甲状腺機能亢進症」という用語は、別に指示する場合を除き、原発性、二次性、および三次性の副甲状腺機能亢進症のことを指す。好ましい態様においては、二次性副甲状腺機能亢進症を有する対象を、血漿PTHレベルを低下させるために、本発明のカルシウムモジュレーターペプチドを用いて治療する。中程度に重症な副甲状腺機能亢進症を有する未治療のSHPT患者はしばしば、300pg/mlを上回るベースラインの流血中インタクトPTHレベル、および600pg/mLを上回るレベルを有する。好ましい態様において、血清PTHの低下は、治療前ベースラインレベル未満へのインタクトPTHの低下として測定される。
【0046】
本明細書で用いる場合、「カルシウムモジュレーターペプチド」とは、1つまたは複数のポリカチオン性ペプチドと生理的pHで正に荷電する合計3〜30個のアミノ酸とを含むペプチドのことであり、ここで正に荷電したアミノ酸はポリカチオン性ペプチドの内部に含まれ、このカルシウムモジュレーターペプチドは、1つもしくは複数の標的組織におけるまたは対象における、血清PTHおよび/またはカルシウムレベルを低下させることができる。ある態様において、カルシウムモジュレーターペプチドは、カルシウムモジュレーターペプチドの治療的有効量がそのような治療を必要とする対象に投与された場合に、血清PTHおよび/または血清カルシウムレベルを低下させることができる。好ましい態様において、カルシウムモジュレーターペプチドは、生理的pHで正に荷電する5〜20個のアミノ酸を含む。特に好ましい態様において、カルシウムモジュレーターペプチドは、生理的pHで正に荷電する6〜12個のアミノ酸を含む。本発明のカルシウムモジュレーターペプチドは、正に荷電したアミノ酸残基を含め、合計約4〜35個のアミノ酸残基を含む。
【0047】
ある態様において、本発明のカルシウムモジュレーターペプチドは、それぞれがチオール含有残基を含むポリカチオン性ペプチドおよびカーゴペプチドを含み、チオール含有残基はジスルフィド結合によって結びついている。
【0048】
他の態様において、カルシウムモジュレーターペプチドは、ジスルフィド結合によって結びついた、それぞれがチオール含有残基を含む2つのポリカチオン性ペプチドを含む。そのようないくつかの態様において、第1のポリカチオン性ペプチドと第2のポリカチオン性ペプチドは同じであり、このためジスルフィド結合の形成はホモ二量体構造を形成する。他の態様において、第1のポリカチオン性ペプチドと第2のポリカチオン性ペプチドは異なり、このためジスルフィド結合の形成はヘテロ二量体構造を形成する。
【0049】
さらなる態様において、カルシウムモジュレーターペプチドは単一のポリカチオン性ペプチドと少なくとも1つのチオール含有残基とを含み、ここでチオール含有残基は遊離チオールを含むか、またはチオール部分は保護された形態として存在する。そのようないくつかの態様において、カルシウムモジュレーターペプチドは、単一のポリカチオン性ペプチドと、互いにジスルフィド結合した2つのチオール含有残基(すなわち、チオール部分はジスルフィド基として内部で「保護」されている)とを含み、ジスルフィド結合の形成は環状カルシウムモジュレーターペプチドをもたらす。
【0050】
本明細書で用いる場合、「ポリカチオン性ペプチド」とは、生理的pHで正に荷電する2〜30個のアミノ酸と少なくとも1つのチオール含有残基とを含むペプチドを指し、ここでポリカチオン性ペプチドはペプチドのアミノ末端、カルボキシ末端、またはその両方で化学修飾されている(すなわち、「キャッピングされている」)。
【0051】
ポリカチオン性ペプチドの長さは、合計で3〜35アミノ酸残基、好ましくは合計で5〜25アミノ酸残基であってよく、単一の正に荷電したアミノ酸残基の繰り返しからなってもよく、または種々の天然もしくは非天然のアミノ酸残基を含んでもよい。好ましい態様において、ポリカチオン性ペプチドは、5〜20個の正に荷電したアミノ酸、好ましくは5〜15個の正に荷電したアミノ酸、より好ましくは6〜12個の正に荷電したアミノ酸を含む。
【0052】
いくつかの態様において、カルシウムを調節するペプチドはポリカチオン性ペプチドを1つしか含まない。他の態様において、カルシウムを調節するペプチドは2つのポリカチオン性ペプチドを含み、そのそれぞれは好ましくは3〜10個の正に荷電したアミノ酸を含む。
【0053】
好ましいポリカチオン性ペプチドには、TAT由来ペプチド、例えばSEQ ID NO:5の配列を有するキャッピングされたCys-TATペプチド、またはSEQ ID NO:29の配列を有する切断型ペプチドが含まれる。3〜7個のアルギニン残基を含むポリカチオン性ペプチドも同じく好ましい。いくつかの態様において、アルギニン残基はSEQ ID NO:19〜26の配列を有するキャッピングされたポリアルギニンペプチドのように連続的である。他の態様において、ポリカチオン性ペプチドは、SEQ ID NO:32を有するペプチドのように非連続的な3〜7個のアルギニン残基を含みうる。
【0054】
本明細書で用いる場合、「正に荷電したアミノ酸」という用語は、生理的pH(血漿中はほぼ7.4)で正に荷電するアミノ酸残基を指す。
【0055】
正に荷電したアミノ酸は、生理的pHで正に荷電し、L配置もしくはD配置のいずれかを有する、天然もしくは非天然のアミノ酸、またはそれらのラセミ体、または任意の程度のキラル純度を有するそれらの混合物から独立に選択される。いくつかの態様において、正に荷電したアミノ酸は天然のアミノ酸から選択される。他の態様において、正に荷電したアミノ酸は天然および/または非天然のアミノ酸から選択される。特定の態様において、正に荷電したアミノ酸は、ヒスチジン、リジン、アルギニン、2,3-ジアミノプロピオン酸(Dap)、2,4-ジアミノ酪酸(Dab)、オルニチン、およびホモアルギニンからなる群より独立に選択される。
【0056】
ひとたび治療用ペプチドが対象の血漿に入ると、それはペプチダーゼによる攻撃を受けやすくなる。エキソペプチダーゼは典型的には、アミノ酸残基をペプチドまたはタンパク質のアミノ末端またはカルボキシ末端から切断する非特異的な酵素である。アミノ酸配列の内部を切断するエンドペプチダーゼも非特異的でありうる;しかし、エンドペプチダーゼは往々にして、特定のアミノ配列(認識部位)を認識して、そのような部位またはその付近にあるペプチドを切断する。
【0057】
ペプチド組成物をタンパク質分解から保護する一つの方法は、ペプチドのアミノ末端および/またはカルボキシ末端を「化学修飾」または「キャッピング」することを伴う。本明細書で用いる場合、「化学修飾された」または「キャッピングされた」という用語は、共有結合性修飾を介したペプチドの末端へのブロッキング基の導入のことを指して互換的に用いられる。適したブロッキング基は、ペプチドの生物活性を低下させることなくペプチドの末端をキャッピングする役を果たす。
【0058】
理論に拘束されることは望まないが、ポリカチオン性ペプチドの少なくとも1つの末端のキャッピングは、治療的に意味のあるレベルでのインビボでのPTHおよび/またはカルシウム低下を達成するための十分な血漿中安定性および曝露を得るために重要と考えられている。そのようなブロッキング基または「キャッピング」基は、血清プロテアーゼによるタンパク質分解からペプチドを保護するために有用と思われる。
【0059】
記載したペプチドのアミノ末端のアセチル化は、タンパク質分解からペプチドを保護する好ましい方法である。記載したペプチドのカルボキシ末端のアミド化も、タンパク質分解からペプチドを保護する好ましい方法である。しかし、他のキャッピング基も可能である。例えば、アミノ末端をアシル化またはスルホニル化によってキャッピングしてアミドまたはスルホンアミドを形成させることができる。同様に、カルボキシ末端をエステル化すること、または二級アミドおよびアシルスルホンアミドなどに変換することもできる。いくつかの態様において、アミノ末端またはカルボキシ末端はPEG化の部位を含むことができ、すなわち、アミノ末端またはカルボキシ末端を、適した官能化がなされたPEGとの反応によって化学修飾することができる。
【0060】
ペプチドをエンドペプチダーゼから保護することは、典型的には、エンドペプチダーゼ認識部位の同定およびペプチドからの削除を伴う。プロテアーゼ認識部位は当業者に周知である。したがって、可能性のあるエンドプロテアーゼ認識部位を同定し、続いて認識部位の内部のアミノ酸配列を変更することによってその部位を削除することが可能である。認識部位を破壊するために認識配列中の残基を移動または除去することができる。好ましくは、同定されたプロテアーゼ認識部位を含むアミノ酸の1つまたは複数を用いて保存的置換を行う。
【0061】
好ましい態様においては、ポリカチオン性ペプチドのアミノ末端がアセチル化によって化学修飾されて、N-アセチルペプチドがもたらされる。さらに好ましい態様においては、ポリカチオン性ペプチドのカルボキシ末端がアミド化によって化学修飾されて、C末端に第一カルボキサミドがもたらされる。1つの特に好ましい態様においては、アミノ末端およびカルボキシ末端の両方が、それぞれアセチル化およびアミド化によってキャッピングされる。
【0062】
本明細書で用いる場合、「チオール含有残基」という用語は、それがポリペプチド中に組み込まれ得るようにアミノ基および/またはカルボキシ基を含む、チオール含有アミノ酸またはチオール含有化合物のことを指し、ここでチオール基は保護された形態にあっても保護されていない形態にあってもよく、そのチオール基が遊離形態にある場合にはジスルフィド結合を形成することができる。
【0063】
チオール含有残基の代表的な例には、例えば、システイン、ホモ-システイン、およびメルカプトプロピオン酸が含まれる。チオール含有残基がキラル中心を含む場合には、それはL配置もしくはD配置で、またはラセミ体として、または任意の程度のキラル純度で存在してよい。頻度の高い態様において、チオール含有残基はシステインまたはホモシステインを含む。
【0064】
チオール含有残基は、アミノ末端、カルボキシ末端または他のいくつかの位置を含む、ポリカチオン性ペプチド鎖に沿った任意の位置に配置されてよい。化学合成が容易になるように、チオール含有残基は往々にして、保護された形態にあるチオール部分を含む構成単位を用いてペプチド鎖と結び付けられる。
【0065】
いくつかの態様において、ポリカチオン性ペプチドとカーゴペプチドとの間または第1と第2のポリカチオン性ペプチドの間に、ジスルフィド結合を形成するチオール含有残基は同一である(すなわち、システインとシステイン、またはホモシステインとホモシステイン)。他の態様において、2つのチオール含有残基は異なってもよい。
【0066】
ある態様において、チオール含有アミノ酸は保護された形態にあってよい。チオール部分のための適した保護基には、例えば、チオエステル誘導体、特にチオアセチルまたはチオベンゾイル誘導体;チオカーボネート;ヘミチオアセタール、例えば1-エトキシエチル、メトキシメチルおよびポリオキシメチレンチオエステルなど;ならびにジスルフィド保護基、例えばチオール含有残基の遊離チオールと置換型または非置換型チオフェノール部分との間に形成されるジスルフィドなどが含まれる。
【0067】
いくつかの態様において、チオール保護基はインビボで切断可能であってよい。そのような保護されたチオール含有残基は、プロドラッグとして機能して、遊離チオールを遮蔽し、そのような保護されたチオール含有残基を含むカルシウムモジュレーターペプチドの物理化学的、薬物動態的、および/または薬力学的特性を修飾することができる。
【0068】
連結チオール含有残基は、ポリカチオン性ペプチドおよび/またはカーゴペプチドの配列中の任意の位置に配置することができる。例えば、第1および第2のチオール含有残基は、ある態様では2つのポリカチオン性ペプチドのアミノ末端に位置してよく、または別の態様ではポリカチオン性ペプチドおよびカーゴペプチドのアミノ末端に位置してよい。連結チオール含有残基はペプチドのカルボキシ末端に配置することができ、または代替的にはポリカチオン性ペプチドおよびカーゴペプチドのうち一方のアミノ末端、およびもう一方のペプチドのカルボキシ末端に配置することもできる。加えて、連結チオール含有残基をポリカチオン性ペプチドおよび/またはカーゴペプチドの一方または両方の配列内部の任意の場所に配置することもできる。
【0069】
いくつかの態様において、第1のチオール含有残基は、第1のポリカチオン性またはポリカチオン性ペプチドのアミノ末端またはカルボキシ末端に位置する。他の態様において、第1のチオール含有残基は、第1のポリカチオン性またはポリカチオン性ペプチドのアミノ末端またはカルボキシ末端以外の場所に位置する。いくつかの態様において、第2のチオール含有残基は、第2のポリカチオン性ペプチドまたはカーゴペプチドのアミノ末端またはカルボキシ末端に位置する。他の態様において、第2のチオール含有残基は、第2のポリカチオン性ペプチドまたはカーゴペプチドのアミノ末端またはカルボキシ末端以外の場所に位置する。
【0070】
好ましい態様において、第1および第2のチオール含有残基はどちらもシステイン残基である。他の態様においては、2つのポリカチオン性ペプチドの間に、またはポリカチオン性ペプチドとカーゴペプチドとの間にジスルフィド結合を形成させるために、ホモシステイン類似体を用いることもできる。例えば、カーゴペプチド、ポリカチオン性ペプチドまたはその両方にホモシステインを用いることができ、それは組成物を安定化してジスルフィド結合交換を減少させる可能性がある。他のシステイン相同体もジスルフィド結合形成のために有用である。同様に、システインおよびホモシステインの立体異性体もジスルフィド結合交換を阻害すると考えられる。
【0071】
いくつかの態様において、第2のチオール含有残基は、第1および第2のチオール含有残基の間のジスルフィド結合の形成が環状ポリカチオン性ペプチドを形作るような、ポリカチオン性ペプチド中の別の残基である。
【0072】
本明細書で用いる場合、「カーゴペプチド」という用語は、第2のチオール含有残基を含む、5〜25アミノ酸のペプチドのことを指す。頻度の高い態様において、カーゴペプチドは、第1および第2のチオール含有残基の間の分子間ジスルフィド結合の形成を通じてポリカチオン性ペプチドと共有結合される。場合によっては、カーゴペプチドは正に荷電したアミノ酸残基を含んでもよい。しかし、正に荷電したアミノ酸残基の存在は、カーゴペプチドの必要な特徴ではない。ある態様において、カーゴペプチドはアイソザイム特異的なPKCモジュレーターペプチドを含む。
【0073】
本明細書で用いる場合、化合物は、PKCアイソザイムを区別することのできない非特異的なペプチドまたは化合物とは異なり、それが骨リモデリングおよび/またはカルシウム恒常性に関与する特定のPKCアイソザイムに対して作用するならば「アイソザイム特異的」である。
【0074】
本明細書で用いる場合、「PKCモジュレーターペプチド」は、1つまたは複数の標的組織におけるPKCアイソザイムの活性を、完全または部分的に活性化または阻害しうる化合物と定義される。PKCモジュレーターペプチドは、異なる組織において、異なるアイソザイム特異性、活性化もしくは阻害作用、および/または異なるレベルの活性化もしくは阻害作用(完全もしくは部分的)を示してもよい。
【0075】
いくつかの態様において、カーゴペプチドはPKCモジュレーターペプチドであり、PKCモジュレーターペプチドは、SEQ ID NO:1および2からなる群より選択されるペプチドに対して50%を上回る配列同一性を含むアミノ酸配列を含む。他の方法において、PKCモジュレーターペプチドは、SEQ ID NO:1および2からなる群より選択されるペプチドの5〜9個の連続した残基を含むアミノ酸配列を含む。ある方法において、PKCモジュレーターペプチドは、SEQ ID NO:1および2からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む。他の態様において、カーゴペプチドはPKCモジュレーターペプチドであり、PKCモジュレーターペプチドは、PKC調節活性を有することが判明しているペプチドに対して50%を上回る配列同一性を含むアミノ酸配列を含む。
【0076】
他の態様において、本発明のカルシウムモジュレーターペプチドは、SEQ ID NO:6、7、8、9、10、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、28、28、31、および32からなる群より選択されるペプチドに対して50%を上回る配列同一性を含むアミノ酸配列を含む。さらなる態様において、カルシウムモジュレーターペプチドは、SEQ ID NO:6、7、8、9、10、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、28、28、31、および32からなる群より選択されるペプチドの6〜15個の連続した残基を含むアミノ酸配列を含む。ある方法において、カルシウムモジュレーターペプチドは、SEQ ID NO:7、9、10、および12からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む。
【0077】
特定の態様において、カルシウムモジュレーターペプチドは、本明細書でさらに記載するように、カーゴペプチドとジスルフィド結合したポリカチオン性ペプチドを含む。好ましい態様において、カルシウムモジュレーターペプチドは、SEQ ID NO:7、SEQ ID NO:9、SEQ ID NO:10、またはSEQ ID NO:12の配列を有するペプチドから選択される。
【0078】
他の態様において、カルシウムモジュレーターペプチドは、本明細書でさらに記載するように、第2のポリカチオン性ペプチドとジスルフィド結合した第1のポリカチオン性ペプチドを含む。好ましい態様において、カルシウムモジュレーターペプチドは、SEQ ID NO:13、SEQ ID NO:15、SEQ ID NO:16、SEQ ID NO:17、SEQ ID NO:18の配列を有するペプチドから選択される。
【0079】
他の態様において、カルシウムモジュレーターペプチドは、第1のチオール含有残基を含む単一のポリカチオン性ペプチドを含み、本明細書でさらに記載するように、ここでチオール基は保護された形態または保護されていない形態で存在する。いくつかのそのような態様において、カルシウムモジュレーターペプチドは、ジスルフィド結合の形成が環状ペプチドを形作るように、第2のチオール含有残基をさらに含む。好ましい態様において、カルシウムモジュレーターペプチドは、SEQ ID NO:5、SEQ ID NO:14、SEQ ID NO:19〜26、SEQ ID NO:29、またはSEQ ID NO:32の配列を有するペプチドから選択される。
【0080】
KAI-1455(SEQ ID NO:7)は、アイソザイム特異的なPKCモジュレーターペプチドをカーゴペプチドとして含む。他のカーゴペプチドを含むカルシウムを調節するペプチド、例えば、KP-1524(SEQ ID NO:9)も、ラットにおける総カルシウムおよびPTHレベルをKAI-1455と同等なレベルで有意に低下させた(実施例11および12)。理論に拘束されることは望まないが、カーゴペプチドに対するジスルフィド結合は、インビボでポリカチオン性ペプチドを保護して、血漿中でのその作用持続時間を延長させるプロドラッグとして作用することが可能である。理論に拘束されることは望まないが、カーゴペプチドは、カルシウムおよびPTHの調節活性を増強または安定化するプロドラッグ形態をもたらしうる可能性がある。
【0081】
本発明のカルシウムを調節するペプチドは少なくとも1つのチオール含有残基を含み、ここでチオール基は遊離チオール、保護されたチオールとして存在してもよく、または第2のチオール含有残基とジスルフィド結合していてもよい。頻度の高い態様において、カルシウムを調節するペプチドは、互いにジスルフィド結合している少なくとも2つのチオール含有残基を含む。
【0082】
遊離チオール基を有する単一のチオール含有残基を含むカルシウムを調節するペプチドは、KAI-1455に関して示されているものと同等なレベルの活性をインビトロで示している。例えば、遊離チオールを含むN末端システイン残基を有するキャッピングされたTAT由来ペプチド(SEQ ID NO:5)は、インビトロで検査した場合、KAI-1455と同等な活性を示した。
【0083】
遊離チオール基を有する単一のチオール含有残基を含むカルシウムを調節するペプチドは、それ自体で本発明の方法に有用な可能性もあり、または、本明細書でさらに記載するように、遊離チオール基をインビボで切断可能な保護基の内部に保護することによって、チオール基をプロドラッグとして投与することもできる。治療薬を含むチオールの保護のための、そのような基は当技術分野で公知である。
【0084】
もう1つの局面において、本発明は、ポリカチオン性ペプチド(本明細書でさらに記載したような)と少なくとも1つの薬学的に許容される添加剤とを含む薬学的組成物を提供する。
【0085】
もう1つの局面において、本発明は、副甲状腺機能亢進症、高カルシウム血症および/または骨疾患を治療するための方法を提供し、本方法は、本明細書に記載したようなカルシウムモジュレーターペプチドの治療的有効量を投与する段階を含み、再吸収抑制性ビスホスフォネート薬、インテグリン遮断薬、ホルモン補充治療薬、選択的エストロゲン受容体調節薬、カテプシンK阻害薬、ビタミンD療法、抗炎症薬、低用量PTH療法、カルシトニン、RANKリガンドの阻害薬、RANKリガンドに対する抗体、オステオプロテグリン、アデノシン拮抗薬、およびATPプロトンポンプ阻害薬からなる群より選択される薬剤の治療的有効量によって対象を治療する段階をさらに含む。
【0086】
本発明のもう1つの局面において、カルシウムモジュレーターペプチドは、血清PTHまたはPTHの影響を低下させるために有効な量で投与される。
【0087】
いくつかの態様において、血清PTHの低下は、カルシウムモジュレーターペプチドの投与後少なくとも10時間にわたって、ベースラインの治療前レベルよりも少なくとも1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、25%または30%低い。特定の態様において、血清PTHの低下は投与後10時間の時点で少なくとも20%である。好ましい態様において、血清PTHの低下は、カルシウムモジュレーターペプチドの投与後少なくとも48時間にわたって、ベースラインの治療前レベルよりも15〜40%、好ましくは20〜50%、より好ましくは30〜70%低い。
【0088】
本発明のもう1つの局面において、カルシウムモジュレーターペプチドは、血清カルシウムまたはカルシウムの影響を低下させるために有効な量で投与される。
【0089】
いくつかの態様において、血清カルシウムの低下は、カルシウムモジュレーターペプチドの投与後少なくとも10時間にわたって、ベースラインの治療前レベルよりも少なくとも1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、または25%低い。好ましい態様において、血清カルシウムの低下は、投与後10時間の時点で少なくとも5%である。好ましい態様において、血清カルシウムの低下は、カルシウムモジュレーターペプチドの投与後少なくとも48時間にわたって、ベースラインの治療前レベルよりも5〜10%、好ましくは5〜20%低い。
【0090】
もう1つの局面において、本発明は、それを必要とする対象における副甲状腺機能亢進症および/または高カルシウム血症を治療するための方法を提供し、本方法は、SEQ ID NO:7、SEQ ID NO:9、SEQ ID NO:10、またはSEQ ID NO:12からなる群より選択されるペプチドに対して50%を上回る配列同一性を含むアミノ酸配列を含むポリカチオン性ペプチドの治療的有効量を投与し、それによって血清PTHおよび/またはカルシウムを低下させる段階を含む。
【0091】
本出願においては、別に明記する場合を除き、用語の定義および本出願の手法の実例は、以下のもののような、いくつかの周知の参考文献のいずれかに見いだすことができる:Sambrook, J., et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989);Goeddel, D., ed., Gene Expression Technology, Methods in Enzymology, 185, Academic Press, San Diego, CA (1991);「Guide to Protein Purification」, Deutshcer, M.P., ed., Methods in Enzymology, Academic Press, San Diego, CA (1989);Innis, et al., PCR Protocols: A Guide to Methods and Applications, Academic Press, San Diego, CA (1990);Freshney, R.I., Culture of Animal Cells: A Manual of Basic Technique, 2nd Ed., Alan Liss, Inc. New York, NY (1987);Murray, E.J., ed., Gene Transfer and Expression Protocols, pp. 109-128, The Humana Press Inc., Clifton, NJ and Lewin, B., Genes VI, Oxford University Press, New York (1997)。
【0092】
本発明は、本発明の好ましい態様に関する以下の詳細な説明、および本明細書に含まれる実施例を参照することによってより容易に理解されよう。しかし、本発明の方法を開示および記載する前に、本発明が特定の核酸、特定のポリペプチド、特定の細胞種、特定の宿主細胞、特定の条件、または特定の方法などには限定されず、それらが当然ながら異なってもよく、その中でのさまざまな修正および変更が当業者には明らかと考えられることが理解される必要がある。また、本明細書で用いる用語は特定の態様を説明することのみが目的であり、本発明の範囲を限定することは意図していないことも理解される必要がある。さらに、本明細書で特に定義しない限り、本明細書で用いる用語は、関連技術分野で公知であるその慣例的な意味が与えられることも理解される必要がある。
【0093】
本明細書で用いる場合、単数形の「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」は、別の指示がなされない限り、複数のものに関する言及も含む。例えば、「1つの(a)」モジュレーターペプチドは、複数のモジュレーターペプチドの1つを含む。
【0094】
本明細書で用いる場合、「治療的有効量」とは、所望の治療効果を生じさせるために必要な量のことである。例えば、高カルシウム血症の対象における血清カルシウムを低下させるための方法において、治療的有効量は、血清カルシウムレベルを少なくとも1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%または25%低下させるために必要な量である。
【0095】
本明細書で用いる場合、「対象」とは、高カルシウム血症および/または骨疾患を有するヒト対象または動物対象のことを指す。
【0096】
本明細書で用いる場合、「ペプチド」および「ポリペプチド」は互換的に用いられ、ペプチド結合によって連結したアミノ酸配列の鎖で構成される化合物のことを指す。別に指示する場合を除き、ペプチドの配列はアミノ末端からカルボキシル末端への順序で与えられる。
【0097】
2つのアミノ酸配列の相同性の割合を決定するためには、最適な比較を目的として配列のアラインメントを行う(例えば、もう一方のポリペプチドとの最適なアラインメントのために一方のポリペプチドの配列中にギャップを導入することができる)。続いて、対応するアミノ酸位置にあるアミノ酸残基を比較する。一方の配列中の位置が、もう一方の配列中の対応する位置にあるものと同じアミノ酸残基で占められている場合には、これらの分子はその位置で同一である。本明細書で用いる場合、アミノ酸または核酸の「相同性」は、アミノ酸または核酸の「同一性」と等価である。したがって、2つの配列間の配列同一性の割合は、配列によって共有される同一な位置の数の関数である(すなわち、配列同一性の割合=同一な位置の数/位置の総数×100)。
【0098】
本発明の目的において、2つのポリペプチド配列間の配列同一性の割合は、Vector NTI 6.0(PC)ソフトウエアパッケージ(InforMax, 7600 Wisconsin Ave., Bethesda, MD 20814)を用いて決定される。ギャップオープンペナルティ(gap opening penalty)10およびギャップ伸長ペナルティ(gap extension penalty)0.1が、2つのポリペプチドの同一性の割合の決定のために用いられる。他のすべてのパラメーターはデフォルト設定に設定される。
【0099】
ペプチドまたはペプチド断片は、それが親ペプチドまたはポリペプチドの少なくとも5アミノ酸残基の連続した配列に対して同一または相同なアミノ酸配列を有するならば、親ペプチドまたはポリペプチドに「由来する」。
【0100】
本明細書で用いる場合、「保存的アミノ酸置換」とは、選択されたポリペプチドまたはタンパク質の活性および三次構造の意味のある変化を引き起こさない置換のことである。そのような置換は、典型的には、選択されたアミノ酸残基を、類似の物理化学特性を有する異なる残基によって置き換えることを伴う。物理化学特性によるアミノ酸のグループ分けは当業者に公知である。例えば、類似の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーが当技術分野で定義されており、これには塩基性側鎖(例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β分枝側鎖(例えば、トレオニン、バリン、イソロイシン)および芳香族側鎖(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)が含まれる。
【0101】
本発明のもう1つの局面は、単離されたポリペプチドおよびそれらの生物活性部分に関する。本明細書で用いる場合、「単離された」もしくは「精製された」ポリペプチド、またはそれらの生物活性部分は、組換えDNA法によって生産された場合には細胞材料のいくつかを、または化学合成された場合には前駆化学物質もしくは他の化学物質を含まない。「細胞材料を実質的に含まない」という言葉には、ポリペプチドが、自然下でまたは組換え的に生産された細胞の細胞成分のいくつかから分離されているようなポリペプチドの調製物が含まれる。
【0102】
ポリペプチドまたはその生物活性部分が組換え的に生産された場合、それは好ましくは培養基も実質的に含まない、すなわち、培養基はポリペプチド調製物の容積の約20%未満、より好ましくは約10%未満、最も好ましくは約5%未満に相当する。「前駆化学物質または他の化学物質を実質的に含まない」という言葉には、ポリペプチドがポリペプチドの合成に関与する前駆化学物質または他の化学物質から分離されているような、ポリペプチドの調製物が含まれる。1つの態様において、「前駆化学物質または他の化学物質を実質的に含まない」という言葉には、前駆化学物質または他の化学物質を約30%未満(乾燥重量比で)、より好ましくは前駆化学物質または他の化学物質を約20%未満、さらにより好ましくは前駆化学物質または他の化学物質を約10%未満、最も好ましくは前駆化学物質または他の化学物質を約5%未満しか有しない、ポリペプチドの調製物が含まれる。好ましい態様において、単離されたポリペプチドまたはその生物活性部分は、ドメインポリペプチドが由来する同じ生物から混入したポリペプチドを含まない。
【0103】
ポリカチオン性ペプチドをカーゴペプチドとコンジュゲートさせるための非限定的な方法には、ジスルフィド結合を介したコンジュゲーション、および一本鎖または線状ポリペプチドとしての合成が含まれる。ポリカチオン性ペプチドはまた、リンカーを介してカーゴペプチドとコンジュゲートさせることもできる。いくつかの態様において、リンカーは1〜5アミノ酸のペプチド、2〜4アミノ酸のペプチドまたは2〜3アミノ酸のペプチドである。
【0104】
PKCアイソザイムのペプチドモジュレーター
PKCアイソザイムの種々のペプチドモジュレーターがこれまでに記載されている。例えば、米国特許第5,783,405号は、β、θ、δ、ε、およびγアイソザイムを含むPKCアイソザイムの活性を調節する数多くのペプチドを記載している。出願中の米国特許出願第10/843,271号は、δPKCモジュレーターペプチドおよびそれらの誘導体を記載している。米国特許第6,165,977号は、εPKC調節ペプチドおよびそれらの誘導体を記載している。米国特許第6,855,693号は、α、βI、βII、γ、δ、ε、η、μ、θ、およびζアイソザイムからの種々のモジュレーターペプチドおよび修飾断片を記載している。それぞれの特許および特許出願は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0105】
PKCアイソザイム特異的な阻害ペプチドは、特定のアイソザイムのC2/V1ドメインに位置する特異的なRACK結合部位に由来してよい。アイソザイム特異的なペプチドモジュレーターは、対応するRACK中の配列に類似している、各PKCアイソザイム中のプソイドRACK(ΨRACK)配列に由来してもよい。ΨRACK配列は、PKCのRACK結合部位との分子内相互作用を生じ、不活性または「閉鎖」コンフォメーションを安定化すると考えられている。この分子内相互作用を妨げるペプチドは不活性型を不安定化して、PKC転位およびRACK結合を増強することができる。Chen et al. Proc. Nat. Acad. Sci. 2001; 98:11114-11119。
【0106】
アイソザイム特異的なペプチドモジュレーターは、細胞膜を越えるペプチドの輸送を容易にするのに有効な担体部分とコンジュゲートさせることができる。担体部分の例には、TAT由来ペプチド、アンテナペディア担体ペプチドおよびポリアルギニンペプチドが非限定的に含まれる。TATとコンジュゲートさせたペプチドは、循環を介して臓器内に有効に送達されることが報告されており、この送達様式は、この送達が即時的であり、そのため、シグナル伝達モジュレーターによって誘導される順応を受けにくいと考えられるため、遺伝子の標的指向性送達を上回る利点をもたらすと思われる。
【0107】
アミノ酸配列HDAPIGYD(SEQ ID NO:1)を含むΨεRACKは、RACK結合部位を露出するコンフォメーションにあるεPKCと結合してそれを安定化し、それによってεPKCとそのRACKとの結合を可能にするように設計された、アイソザイム選択的ペプチドである。ΨεRACKは、PKCの低分子活性化因子(ジアシルグリセロール(DAG)またはホルボールエステル)とはいくつかの重要な点で異なる。第1に、ΨεRACKは、DAGまたはホルボールエステルと比べるとεPKC上の異なる部位と結合する。第2に、ΨεRACKはεPKCアイソフォーム中のそのアイソフォームに特有な部位のみと結合するが、DAGおよびホルボールエステルはすべてのPKCに共通する部位と結合する。ΨεRACKのこの特異性は、非選択的分子を上回る大きな利点を与える。最後に、ΨεRACK治療は、長期間にわたって投与された場合であってもεPKC転位に関してわずかな生理的シフトしかもたらさない。これらのデータにより、ΨεRACKはεPKCの活性を強化するが、PKCがDAGによって活性化される様式のようにPKCを直接的には活性化しないことが示唆される。
【0108】
εPKCの転位は、虚血プレコンディショニングにおいて重要な役割を果たすことが報告されている。ΨεRACK(SEQ ID NO:1)はインビボおよびエクスビボで虚血-再灌流傷害に対する心保護効果を示しており、εPKCの脱感作もダウンレギュレーションも引き起こすことなく虚血-再灌流傷害中の致死性不整脈の発生率を低下させている。
【0109】
εPKCはまた、神経系、内分泌系、外分泌系、炎症系、および免疫系の活性化の制御にも役割を果たすことが報告されている。εPKCの制御された活性化はアルツハイマー病の発症において防御的役割を果たす可能性があり、一方制御されない慢性的な活性化は、悪性腫瘍および糖尿病などの重篤疾患をもたらす可能性がある。
【0110】
生体膜を越える輸送を容易にするために、N末端システインを含み、アミノ酸配列
を含むΨεRACKペプチドを、ポリカチオン性ペプチドと共有結合させることができる。
【0111】
ジスルフィド結合を介してTAT(SEQ ID NO:4)とコンジュゲートしたSEQ ID NO:2のペプチドを含むε-PKCモジュレーターペプチド(SEQ ID NO:6)、およびジスルフィド結合を介してN-アシル化C-アミド化TAT(SEQ ID NO:5)とコンジュゲートしたSEQ ID NO:2のペプチドを含むカルシウムモジュレーターペプチド(SEQ ID NO:7)を調製した。本明細書においてKAI-1455(またはKP-1455)とも称するSEQ ID NO:7を含むペプチドは、以下に示す構造を有する。
【0112】
驚くべきことに、KAI-1455(SEQ ID NO:7)は、高用量動物毒性試験において血清カルシウムレベルの有意な低下を引き起こした。KAI-1455の静脈内注入後の血清カルシウムレベルの低下は、3つの種(ラット、イヌ、および臨床状況下のヒト対象)で観察された。カルシウム最低値は注入の終了時に起こるようである一方、カルシウム抑制は注入の終了後24時間以上にわたって持続しうる。血清カルシウムに対する影響は用量依存的かつ可逆的である。
【0113】
男性志願者に対する12時間注入によって投与されたKAI-1455(SEQ ID NO:7)の単一用量増加試験では、イオン化カルシウムおよび総カルシウムの有意な低下が観察され、最大の低下はEOIの前後であった。15%を上回るカルシウムの最大変化率は最も高い濃度(162mg/kg、12時間)で観察された。同じ試験中に、血漿PTHレベル(pg/mL)の用量依存的な低下が観察され、最大の低下はEOIで観察された。最高用量群(162mg/kg、12時間)の対象については、PTHの有意な低下がEOI時およびEOIの12時間後に観察され、治療前のベースラインレベルを下回る持続的低下がEOIの36時間後も依然として観察された。81および162mg/kg用量群の対象では血漿PTHレベルの40%を上回る最大の低下率が観察され、レベルはEOIの12時間後にも依然としてベースラインよりも有意に低かった。
【0114】
低用量のKAI-1455を3時間の静脈内注入によって投与されたイヌでは、血清カルシウムの有意な変化は観察されなかった。しかし、注入終了の直前である2.75時間の時点ではPTHレベルは上昇していた。低カルシウム血症を生じさせるのに十分な用量のKAI-1455が投与されたイヌでは、血清PTHの低下が観察された。
【0115】
血清カルシウムと骨代謝とPTHとの関係に基づき、本発明者らは、本発明のカルシウムモジュレーターペプチド、例えばKAI-1455などは、副甲状腺機能亢進症ならびにさまざまな形態の骨疾患および/または高カルシウム血症の治療のために有益であると考えている。これらの化合物は、非経口的に投与することができ、胃腸有害作用を伴わないと可能性があり、シトクロムP450によって代謝されず、血清PTHおよびカルシウムのより効果的な低下をもたらし得ることから、現行の治療薬と比べて利点がある可能性がある。
【0116】
本発明の方法は単独で用いてもよく、または高カルシウム血症および/もしくは骨疾患の治療のための他のアプローチと併用してもよい。そのような他のアプローチには、再吸収抑制性ビスホスフォネート薬、例えばアレンドロネートおよびリセドロネートなど;インテグリン遮断薬、例えばαvβ3拮抗薬など;ホルモン補充療法に用いられる抱合型エストロゲン、例えばPREMPRO(商標)、PREMARIN(商標)およびENDOMETRION(商標)など;選択的エストロゲン受容体調節薬(SERM)、例えばラロキシフェン、ドロロキシフェン、CP-336,156(Pfizer)、およびラソフォキシフェンなど;カテプシンK阻害薬;ビタミンD療法;低用量PTH治療(エストロゲンと併用または単独で);カルシトニン;RANKリガンドの阻害薬;RANKリガンドに対する抗体;オステオプロテグリン;アデノシン拮抗薬;およびATPプロトンポンプ阻害薬など、薬剤による治療が非限定的に含まれる。
【0117】
PTHは典型的には骨吸収にかかわるが、ある種の条件下ではPTHが骨芽細胞の蓄積および骨成長を刺激することが見いだされている。PTHの骨形成作用は、前骨芽細胞(preosteoblast)の増殖の刺激、および静止状態の管壁細胞を活動性骨芽細胞へ転換することを通じて起こると考えられている。PTHにはまた、アポトーシスを防ぐことによって骨芽細胞の活性および/または寿命を増大させることで、骨を構築する働きもある。したがって、PTHのわずかな増加には同化作用があり、これが骨成長を招く可能性がある。
【0118】
1つの態様において、カルシウムモジュレーターペプチドは、PTHレベルおよび血清カルシウムレベルの両方を低下させるのに十分な用量で投与される。もう1つの態様において、カルシウムモジュレーターペプチドは、血清カルシウムレベルに有意な影響を及ぼすことなくPTHを低下させるのに十分な用量で投与される。1つのさらなる態様において、カルシウムモジュレーターペプチドは、血清カルシウムレベルに有意な影響を及ぼすことなくPTHを上昇させるのに十分な用量で投与される。
【0119】
製剤
これらの製剤または組成物を調製するための方法は、本発明の化合物を担体と、さらに任意で1つまたは複数の副成分と会合させる段階を含む。一般に、製剤は、本発明の化合物を液体担体または微細固体担体またはその両方と均質によく会合させ、続いて、必要であれば生成物を成形することによって調製することができる。
【0120】
非経口的投与に適した本発明の薬学的組成物は、1つまたは複数の本発明の化合物を、1つまたは複数の薬学的に許容される無菌で等張性の水性もしくは非水性溶液、分散液、懸濁液もしくは乳濁液、または使用直前に無菌の注射液もしくは分散液中に再構成することのできる無菌の粉末と組み合わせて含み、それは糖、アルコール、抗酸化薬、緩衝剤、静菌薬、製剤を意図したレシピエントの血液と等張にするための溶質、または懸濁化剤もしくは増粘剤を含んでもよい。
【0121】
本発明の薬学的組成物中に用いうる、適した水性および非水性の担体の例には、水、エタノール、ポリオール(グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなど)およびそれらの適した混合物、オリーブ油などの植物油、およびオレイン酸エチルなどの注射可能な有機エステルが含まれる。適度な流動性は、例えば、レシチンなどコーティング材料の使用、分散液の場合には必要な粒径の維持、および界面活性剤の使用によって維持することができる。
【0122】
これらの組成物はまた、保存料、湿潤剤、乳化剤、および分散剤などの補助剤を含んでもよい。本発明の化合物に対する微生物の作用の防止は、さまざまな抗菌薬および抗真菌薬、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノールソルビンなどを含めることによって確実にすることができる。また、糖、塩化ナトリウムなどの等張剤を組成物に含めることも望ましい場合がある。加えて、注射用剤形の長期的吸収は、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンのように吸収を遅らせる薬剤を含めることによって実現することができる。
【0123】
場合によっては、薬物の効果を延長させるために、皮下または筋肉内注射による薬物の吸収を緩徐にすることが望ましい。これは、難水溶性の結晶性または非晶質材料の懸濁液の使用によって達成することができる。この場合、薬物の吸収の速度はその溶解速度に依存し、これはひいては結晶サイズおよび結晶形態に依存する。または、非経口的に投与された剤形の遅延吸収は、薬物を油性媒体中に溶解または懸濁化することによって達成される。
【0124】
例えば、ポリカチオン性ペプチドは、固体形態の薬物を液体で再構成することによって作られる液体の形態でヒトに送達することができる。この溶液をさらに、0.9%塩化ナトリウム注射液、5%デキストロース注射液、および乳酸加リンゲル注射液などの注入液で希釈することもできる。再構成されて希釈された溶液を、最大の効力で送達するためには4〜6時間以内に用いることが好ましい。または、ポリカチオン性ペプチドを、錠剤またはカプセル剤の形態でヒトに送達することもできる。
【0125】
注射用のデポー形態は、本発明の化合物のマイクロカプセルマトリックスを、ポリラクチド-ポリグリコリドなどの生分解性ポリマー中に形成させることによって作られる。薬物とポリマーとの比、および用いる具体的なポリマーの性質に応じて、薬物放出の速度を制御することができる。他の生分解性ポリマーの例には、ポリ(オルトエステル)およびポリ(無水物)が含まれる。デポー注射製剤は、薬物を、体組織と適合性のあるリポソームまたはマイクロエマルションの中に封入することによっても調製される。
【0126】
経口投与に適した本発明の製剤は、それぞれが本発明の化合物の所定の量を有効成分として含む、カプセル剤、カシェ剤、丸剤、錠剤、ロゼンジ剤(風味を付けた基剤、通常はスクロースおよびアラビアゴムまたはトラガカントゴム)、粉剤、顆粒剤の形態で、または水性もしくは非水性の液体中にある溶液もしくは懸濁液として、または水中油型もしくは油中水型の乳濁液として、またはエリキシル剤もしくはシロップ剤として、またはトローチ剤(ゼラチンおよびグリセリン、またはスクロースおよびアラビアゴムなどの不活性基剤を用いる)として、および/または、うがい液などとしての形態で投与することができる。また、本発明の化合物を、ボーラス剤、舐剤、または膏薬として投与することもできる。
【0127】
本発明の化合物をヒトおよび動物に対して薬剤として投与する場合、それらはそれ自体で、または例えば、0.1〜99%(より好ましくは、10〜30%)の有効成分を薬学的に許容される担体との組み合わせで含む薬学的組成物として、投与することができる。これらの化合物は、ヒトおよび他の動物に対して治療のために、例えば、皮下注射、皮下デポー、静脈内注射、および静脈内または皮下注入を含む任意の適した投与経路によって投与することができる。
【0128】
選択される投与経路にかかわらず、適した水和形態で用いることのできる本発明の化合物および/または本発明の薬学的組成物は、当業者に公知である従来の方法によって、薬学的に許容される剤形へと製剤化される。
【0129】
本発明の薬学的組成物中の有効成分の実際の投薬量レベルは、患者に毒性となることなく、特定の患者、組成物、および投与様式に対して所望の治療反応を達成するのに有効な量の活性成分が得られるように、変更することができる。
【0130】
選択される投薬量レベルは、用いられる本発明の特定の組成物、またはそのエステル、塩もしくはアミドの活性、投与経路、投与の時間、用いられる特定の化合物の排出または代謝の速度、吸収の速度および程度、治療の期間、用いられる特定の組成物と併用される他の薬物、化合物および/または材料、治療される患者の年齢、性別、体重、状態、全身の健康状態および病歴、ならびに医学技術分野で周知である同様の要因を含む、種々の要因に依存すると考えられる。
【0131】
当技術分野における通常の技能を有する医師または獣医であれば、必要な薬学的組成物の有効量を容易に決定して処方することができる。例えば、医師または獣医は、薬学的組成物中に用いられる本発明の化合物の用量を、所望の治療効果を達成するために必要なものよりも少ないレベルで開始し、所望の効果が得られるまで投薬量を徐々に増加させることができると考えられる。
【0132】
一般に、本発明の組成物の適した一日量は、治療効果を生じさせるために有効な最小用量である化合物の量であると考えられる。そのような有効量は一般に、上記の要因に依存すると考えられる。一般に、患者に対する本発明の化合物の経口、静脈内、脳室内、および皮下への用量は、指定の効果のために用いられる場合、体重1kg当たり1時間当たり約1mcg〜約5mgの範囲であると考えられる。他の態様において、用量は体重1kg当たり1時間当たり約5mcg〜約2.5mgの範囲であると考えられる。さらなる態様において、用量は体重1kg当たり1時間当たり約5mcg〜約1mgの範囲であると考えられる。
【0133】
所望であれば、活性化合物の有効な一日量を、一日を通じて適切な間隔で別々に投与される、2回、3回、4回、5回、6回またはそれ以上の分割用量として、任意で単位投薬剤形として投与することもできる。1つの態様において、化合物は1日に1回投与される。さらなる態様において、化合物は静脈内または他の経路を通じて連続的に投与される。他の態様において、化合物は毎日よりも低い頻度で、例えば毎週またはそれ未満で投与される。
【0134】
本発明の化合物を単独で投与することは可能であるが、化合物を薬学的製剤(組成物)として投与することが好ましい。
【0135】
この治療を受ける対象は、霊長動物、特にヒト、および他の哺乳動物、例えばウマ、ウシ、ブタ、およびヒツジ;ならびに家禽およびペット全般を含む、それを必要とする任意の動物である。
【0136】
本発明の化合物は、それ自体として、または薬学的に許容される担体との混合物として、投与することができ、ペニシリン、セファロスポリン、アミノ配糖体、および糖ペプチドなどの抗菌薬とともに投与することもできる。そのような連結的な治療法は、最初に投与されたものの治療効果が完全には消失しないうちに次のものを投与するようなやり方での、活性化合物の逐次的、同時または別々の投与を含む。
【0137】
開示した化合物の考えられる投与経路
これらの化合物は、ヒトおよび他の動物に対して治療のために任意の適した投与経路によって投与することができる。本明細書で用いる場合、投与の「経路」という用語には、皮下注射、皮下デポー、静脈内注射、静脈内または皮下注入、眼内注射、皮内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、気管内投与、脂肪内投与、関節内投与、髄腔内投与、硬膜外投与、吸入、鼻腔内投与、経口投与、舌下投与、口腔内投与、直腸内投与、膣内投与、槽内投与および局所投与、または局所送達を介した投与(例えば、カテーテルまたはステントによる)が非限定的に含まれる。ポリカチオン性ペプチドを、徐放性剤形として投与または同時投与することもできる。開示される化合物は、全身投与された場合に効能を有する。
【0138】
上記のように、本発明の方法は単独で用いてもよく、または高カルシウム血症および/もしくは骨疾患の治療のための他のアプローチと併用してもよい。そのような他のアプローチには、ビスホスフォネート薬、インテグリン遮断薬、ホルモン補充療法、選択的エストロゲン受容体調節薬、カテプシンK阻害薬、ビタミンD療法、抗炎症薬、低用量PTH療法(エストロゲンと併用または単独で)、カルシトニン、RANKリガンドの阻害薬、RANKリガンドに対する抗体、オステオプロテグリン、アデノシン拮抗薬、およびATPプロトンポンプ阻害薬などの薬剤による治療が非限定的に含まれる。
【0139】
併用レジメンに用いられる治療法(治療薬または手順)の具体的な組み合わせは、所望の治療薬および/または手順の適合性、ならびに達成しようとする所望の治療効果を考慮に入れていると考えられる。用いられる複数の治療法が同じ障害に対して所望の効果を達成してもよく(例えば、本発明の化合物を、同じ障害を治療するために用いられる別の薬剤と同時に投与する)、またはそれらは異なる効果(何らかの有害作用の抑制)を達成してもよいことも理解される。本明細書で用いる場合、特定の疾患または病状を治療または予防するために通常投与される追加の治療薬は、「治療される疾患または病状に対して適切である」ことが知られている。
【0140】
本明細書で定義したような本発明の併用治療は、本治療の個々の成分の同時、逐次的、または別々の投与によって達成することができる。
【0141】
本発明の化合物またはその薬学的に許容される組成物はまた、プロテーゼ、人工弁、血管グラフト、ステント、およびカテーテルなどの植え込み型医療デバイスのコーティングのための組成物中に組み入れることもできる。したがって、本発明は、もう1つの局面において、以上に概説したような本発明の化合物、およびこの植え込み型デバイスのコーティングに適した担体を含む、植え込み型デバイスのコーティングのための組成物を含む。さらにもう1つの局面において、本発明は、以上に概説したような本発明の化合物およびこの植え込み型デバイスのコーティングに適した担体を含む組成物によってコーティングされた、植え込み型デバイスも含む。
【0142】
例えば、血管ステントは、再狭窄(傷害後の血管壁の再狭小化)を克服するために用いられている。しかし、ステントまたは他の植え込み型デバイスを用いる患者には、血塊形成または血小板活性化のリスクがある。これらの望ましくない影響は、キナーゼ阻害薬を含む薬学的に許容される組成物でデバイスをプレコーティングすることによって予防または軽減することができる。適したコーティング剤およびコーティングされた植え込み型デバイスの一般的な調製は、米国特許第6,099,562号;第5,886,026号;および第5,304,121号に記載されており、これらはその全体が参照により本明細書に組み入れられる。コーティング剤は典型的には、ヒドロゲルポリマー、ポリメチルジシロキサン、ポリカプロラクトン、ポリエチレングリコール、ポリ乳酸、エチレン酢酸ビニル、およびそれらの混合物などの生体適合性ポリマー材料である。組成物に制御放出特性を与えるために、コーティング剤を任意で、フルオロシリコン、多糖類、ポリエチレングリコール、リン脂質またはそれらの組み合わせによる適した塗膜によってさらに被覆してもよい。
【0143】
治療効能を決定するための考えられる臨床マーカー
本発明の治療方法の有効性の判定は、種々の方法によって行うことができる。
【0144】
血清カルシウムの正常レベルは8.0〜10.8mg/dL(2.0〜2.7mmol/L)の範囲にある。ある場合には、治療の有効性を、総血清カルシウムおよびイオン化血清カルシウム、アルブミン、血清PTH、PTHrP、リン酸、ビタミンD、およびマグネシウムを非限定的に含む、カルシウムと関係のある血清マーカーおよび尿マーカーの測定によって判定することができる。
【0145】
また別の場合には、有効性を、骨密度(BMD)の測定によって、または血清中もしくは尿中の骨形成および/もしくは骨吸収に関する生化学マーカーの測定によって、判定することもできる。可能性のある骨形成マーカーには、総アルカリホスファターゼ、骨アルカリホスファターゼ、オステオカルシン、低カルボキシル化オステオカルシン、C末端プロコラーゲンI型プロペプチド、およびN末端プロコラーゲンI型プロペプチドが非限定的に含まれる。可能性のある骨吸収マーカーには、ヒドロキシプロリン、ヒドロキシリジン、グリコシル-ガラクトシルヒドロキシリジン、ガラクトシルヒドロキシリジン、ピリジノリン、デオキシピリジノリン、I型コラーゲンのN末端架橋テロペプチド、I型コラーゲンのC末端架橋テロペプチド、MMPにより生成されるI型コラーゲンのC末端架橋テロペプチド、骨シアロタンパク質、酸性ホスファターゼ、および酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼが非限定的に含まれる。
【0146】
本発明の治療方法がそれを必要とする対象に投与される場合、この治療方法は、例えば以下の1つまたは複数によって測定されるような効果を生じるであろうと期待される:総血清カルシウム、イオン化血清カルシウム、アルブミン、血清PTH、PTHrP、リン酸、ビタミンD、マグネシウム、骨密度(BMD)、総アルカリホスファターゼ、骨アルカリホスファターゼ、オステオカルシン、低カルボキシル化オステオカルシン、C末端プロコラーゲンI型プロペプチド、N末端プロコラーゲンI型プロペプチド、ヒドロキシプロリン、ヒドロキシリジン、グリコシル-ガラクトシルヒドロキシリジン、ガラクトシル ヒドロキシリジン、ピリジノリン、デオキシピリジノリン、I型コラーゲンのN末端架橋テロペプチド、I型コラーゲンのC末端架橋テロペプチド、MMPにより生成されるI型コラーゲンのC末端架橋テロペプチド、骨シアロタンパク質、酸性ホスファターゼおよび酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ。効果には、予防的治療および既存の疾患の治療が含まれる。
【0147】
生物学的に有効な分子を、共有結合または非共有結合性相互作用によって本発明のペプチドと機能的に連結させてもよい。特定の態様において、機能的に連結された生物学的に有効な分子は、連結された分子の一部としてペプチドに特性を付与することにより、本発明の上記の態様のペプチドの薬物動態を変更することができる。生物学的に有効な分子がペプチドに付与しうる特性のいくつかには、以下が非限定的に含まれる:体内の離散的な部位へのペプチドの送達;ペプチドの活性を体内の所望の部位に集中させて、他の箇所へのその影響を軽減すること;ペプチドによる治療の副作用を軽減すること;ペプチドの透過性を変化させること;ペプチドの身体への生物学的利用能または送達速度を変化させること;ペプチドによる治療の効果の長さを変化させること;ペプチドの安定性を変更すること;ペプチドの効果の開始および減衰の速度を変更すること;ペプチドに効果を持たせることによって許容作用をもたらすこと。
【0148】
1つのさらなる局面において、本発明のカルシウムを調節するペプチドをポリエチレングリコール(PEG)とコンジュゲートさせてもよい。選択されるPEGは、任意の好都合な分子量のものであってよく、線状でも分枝状でもよく、任意でリンカーを介してコンジュゲートさせてもよい。PEGの平均分子量は好ましくは、約2キロダルトン(kDa)から約100kDaまで、より好ましくは約5kDaから約40kDaまでの範囲であると考えられる。
【0149】
カルシウムを調節するペプチドは、カーゴペプチドおよび/または1つもしくは複数のポリカチオン性ペプチド上の任意の位置に位置する適したアミノ酸残基を介してPEGとコンジュゲートさせることができる。本明細書でさらに記載するように、ポリカチオン性ペプチドおよびカーゴペプチドは、任意で、例えばリジンなどの追加の塩基性残基を含んでいる、PEGがコンジュゲートされる追加のアミノ酸残基を含んでもよい。
【0150】
PEG化ペプチドは、コンジュゲートされたペプチドの血漿中半減期を延長させることが当技術分野で公知である。PEG化ペプチドの形成のための種々の方法が、当技術分野で公知である。例えば、PEG部分をアミノ末端、カルボキシ末端に、または特許請求するペプチドの側鎖を通じて、任意で架橋基の存在を通じて、連結させることができる。他の態様において、PEG部分はシステインなどのチオール含有アミノ酸のイオウと連結させてもよく、またはリジンもしくはアルギニンなどの塩基性アミノ酸の側鎖に結び付けてもよい。
【0151】
PEG基は一般に、PEG部分上の反応基(例えば、アルデヒド、アミノ、チオール、エステル、またはカルボン酸基)を介した本発明の化合物上の反応基(例えば、アルデヒド、アミノ、エステル、酸、またはチオール基)へのアシル化または還元的アルキル化によって、本発明のペプチドに結合されると考えられ、それはポリカチオン性ペプチドまたはカーゴペプチドのアミノ末端、カルボキシ末端、または側鎖位置のいずれに位置してもよい。合成ペプチドのPEG化の調製のための1つのアプローチは、溶液中でのコンジュゲート結合を介して、それぞれが他方に対して相互に反応性である官能基を有するペプチドおよびPEG部分を化合させることからなる。ペプチドは従来の液相合成または固相合成を用いて容易に調製することができる。ペプチドおよびPEGのコンジュゲーションは典型的には水相中で行われ、逆相HPLCによってモニターすることができる。PEG化ペプチドは、当業者に公知の標準的な手法を用いて、容易に精製および特性決定を行うことができる。
【0152】
本発明のペプチドの1つまたは複数の個々の残基を、特定の側鎖または末端残基と反応することが知られているさまざまな誘導体化剤によって修飾することもできる。例えば、リジニル残基およびアミノ末端残基を、リジニル残基またはアミノ残基の電荷を逆転させる無水コハク酸または他の類似の無水カルボン酸と反応させることができる。他の適した試薬には、例えば、ピコリンイミド酸メチルなどのイミドエステル;ピリドキサル;ピリドキサルリン酸;クロロボロヒドリド;トリニトロベンゼンスルホン酸;O-メチルイソ尿素;2,4,-ペンタンジオン;およびグリオキシレートを用いるトランスアミナーゼ触媒反応が含まれる。アルギニル残基は、フェニルグリオキサール、2,3-ブタンジオン、1,2-シクロヘキサンジオン、およびニンヒドリンといった従来の試薬との反応によって修飾することができる。
【0153】
加えて、本発明のポリカチオン性ペプチドを、生体分析用ELISA測定用の抗体の開発のため、ならびに免疫原性を評価するために有用な免疫原性残基を与える非カチオン性残基を含むように修飾することもできる。例えば、ポリカチオン性ペプチドを、チロシンおよび/またはグリシン残基の組み入れによって修飾することができる。スペクトル標識をチロシル残基に導入するためのチロシル残基の特異的修飾には特に関心が持たれる。非限定的な例には、芳香族ジアゾニウム化合物またはテトラニトロメタンとの反応が含まれる。最も一般的には、N-アセチルイミダゾールおよびテトラニトロメタンが、それぞれO-アセチルチロシル誘導体および3-ニトロ誘導体を形成させるために用いられる。
【0154】
開示した化合物を含むキット
本発明はまた、本発明の治療レジメンを実施するためのキットも提供する。そのようなキットは、薬学的に許容される形態にある、CaSRモジュレーターとしての活性を有するポリカチオン性ペプチドの治療的有効量を、単独で、または薬学的に許容される形態にある他の作用物質との組み合わせで含む。好ましい薬学的形態には、滅菌食塩水、デキストロース溶液、緩衝液、または他の薬学的に許容される無菌の流体と組み合わせたペプチドが含まれる。または、組成物を凍結乾燥または乾燥保存することもできる。この場合には、キットはさらに、注射用の溶液を形成させるための、好ましくは無菌の、薬学的に許容される溶液を含んでもよい。もう1つの態様において、キットはさらに、組成物を注射するための、好ましくは無菌の形態でパッケージ化された、針またはシリンジを含んでもよい。他の態様において、キットはさらに、組成物を対象に投与するための指示手段を含む。指示手段は、書面による添付文書、音声テープ、音声映像テープ、または対象への組成物の投与について指示するための任意の他の手段であってよい。
【0155】
1つの態様において、キットは、(i)CaSRモジュレーターとしての活性を有するカルシウムモジュレーターペプチドを含む第1の容器と、(ii)使用に関する指示手段とを含む。
【0156】
もう1つの態様において、キットは、(i)CaSRモジュレーターとしての活性を有するカルシウムモジュレーターペプチドを含む第1の容器と、(ii)抗高カルシウム血症薬を含む第2の容器と、(iii)使用に関する指示手段とを含む。
【0157】
1つの態様において、抗高カルシウム血症薬は、ビスホスフォネート薬、ホルモン補充治療薬、ビタミンD療法、低用量PTH(エストロゲンと併用または単独で)、およびカルシトニンからなる群より選択される。
【0158】
関連した局面において、本発明は、上記のキットの内容物を含む製造品を提供する。例えば、本発明は、単独での、または他の作用物質と組み合わせた、CaSRモジュレーターとしての活性を有するポリカチオン性ペプチドの治療的有効量と、本明細書に記載した疾患を治療するための使用法を示す指示手段とを含む、製造品を提供する。
【0159】
本発明のポリペプチドは、本明細書において、それらのSEQ ID NO:によって、またはKAI-番号および/もしくはKP-番号として指定された内部参照番号によって呼ばれ、それらは本明細書において互換的に用いられる。例えば、SEQ ID NO:7を有するペプチドは、本明細書においてKAI-1455またはKP-1455とさまざまに呼ぶことができる。そのような番号を互換的に用いることができ、それらが同じポリペプチド配列を指すことは当業者には理解されるであろう。
【0160】
他に明記する場合を除き、本明細書に言及されたすべての文書はその全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0161】
実施例
以下の実施例は、本発明を限定するためではなく、それを例示するために提供される。本発明の原理となる特徴は、本発明の範囲を逸脱することなく、さまざまな態様において用いることができる。当業者は、本発明の真の精神および範囲を逸脱することなく、さまざまな修正を加えることができる。
【0162】
実施例1
被験物および媒体/対照物の調製
適量のKAI-1455(SEQ ID NO:7)を、注射液(ITRにより供給)中の32.5mg/mLマンニトールおよび32.5mg/mLスクロースの溶液中に溶解させて、原液濃度10mg/mLのKAI-1455を得た。必要に応じてpHは〜5に調整した。原液を注射用滅菌食塩水で希釈して最終的な投薬溶液の濃度を得た。動物への投与の前に、溶液を0.22pm PVDFフィルター(Millipore)に通して濾過して滅菌容器/バッグに入れ、投薬の少し前まで冷蔵し、その後は室温まで温度を上昇させた。
【0163】
媒体対照の溶液は、WFI中にある適した容積の32.5mg/mLマンニトール/32.5mg/mLスクロース溶液を用意して、これをSF1でおよそ4.44倍に希釈することによって調製した(すなわち、被験物の高用量溶液の場合と同じ希釈比)。
【0164】
実施例2
14日の回復期間をおいたラットにおけるKAI-1455の単一用量連続静脈内注入による毒性および毒物動態/組織分布試験
この試験は、Charles River Laboratories, Raleigh, NCから入手したSprague Dawleyラット(系統Crl:CD(SD))にて行った。合計42匹のラット(雄21匹および雌21匹)を試験に含め、各群当たりn=3とした。治療開始時の平均体重の範囲は7〜11kgであった。治療を始めた時点の平均齢はカテーテル留置時で6〜7週であり、治療開始時は10〜12週であった。治療開始時の平均体重は100〜400グラムであった。
【0165】
被験物および対照/媒体物の投与:
動物には納入元により大腿静脈を介してカテーテル留置が施された。適切な用量を、大腿静脈に留置されたカテーテルを介して静脈内注入により投与した。KAI-1455(SEQ ID NO:7)は、10、20および45mg/kgの用量で24時間、ならびに45mg/kgで6時間にわたる連続静脈内注入によってラットに投与した。すべての動物には、およそ6または24時間にわたる単一用量連続投与として投薬を行った。投薬容積は20mL/kgとした;投薬速度は24時間注入を行う動物では0.83mL/kg/時間とし、6時間注入を行う動物では3.33mL/kg/時間とした。投薬前期間中は滅菌食塩水溶液を維持速度で注入した。個々の動物の絶対的投薬容積は第1日の体重を基にした。最終投薬の完了後に動物から注入路の接続を外した。最終投薬後に動物へのカテーテルを切断して縛り、留置したままとした。
【0166】
指定した投薬期間にわたって各動物に標的投薬容積を送達するために外部ポンプ機器を利用した。ポンプを介した注入を維持するために係留機器およびハーネス機器を用いた。
【0167】
結果:
KAI-1455を45mg/kgで24時間にわたり投与された動物は、極度の低カルシウム血症のために瀕死の状態となり、第2日に安楽死させた。他のすべての用量群では、注入終了後24〜42時間にわたりカルシウムレベルは正常であった。KAI-1455を20mg/kgで投与された動物は、投薬後第3日の時点で血清カルシウムの用量依存的な低下を示した。これらの動物におけるカルシウムレベルは第14日までに正常に回復し、このことはKAI-1455による治療によって引き起こされた総血清カルシウムの低下が可逆的であることを示している。血清カルシウムレベルは表1に提示されている。
【0168】
(表1)注入終了から2、3および14日後の総血清カルシウム(mg/dL)
【0169】
KAI-1455を45mg/kgで24時間にわたり投与されたラットにおいて、EOIの24時間後に血清リン酸塩レベルの顕著な上昇が観察された。20mg/kg用量群では血清リン酸塩の持続的と考えられる上昇が観察された。他のすべての用量群ではEOIの24〜42時間後の血清リン酸塩は正常であった(非提示データ)。
【0170】
実施例3
ビーグル犬におけるKAI-1455の単一用量(24時間)連続静脈内注入による毒性および毒物動態/組織分布試験
この試験は、Marshall BioResources, Incから入手したビーグル犬にて行った。合計24匹のイヌを試験に含め(雄12匹、雌12匹)、各群当たり性別毎にn=3とした。治療開始時の平均体重の範囲は7〜11kgであった。治療を始めた時点の平均齢の範囲は7〜11月齢であった。
【0171】
被験物および対照/媒体物の投与:
KAI-1455(SEQ ID NO:7)および対照物を、橈側皮静脈または伏在静脈の1つに挿入し、医療グレードのチューブによって注入ポンプに接続した使い捨て留置カテーテル(Abbocath(登録商標)またはAngiocath(登録商標))を介して、投薬速度0.83mL/kg/時間での静脈内注入により24時間にわたり単一用量を投与した。注入された実際の容積(mL)は、各動物の最新の実際の体重に基づいて計算した。
【0172】
KAI-1455は10、20および40mg/kgの用量で24時間にわたり投与した。血清カルシウムレベル(mmol/L)を第3日に、注入終了(EOI)24時間後の時点で測定した。
【0173】
注入を始める前には、注入ポンプが起動してすぐに動物への投薬が確実に開始されるように、各イヌの注入ラインに適切な投薬溶液をあらかじめ充填した。これにより、動物に全用量が投与されることが保証された。注入バッグは適切な間隔で交換し(必要であれば)、注入を始める前および終了時に重量を記録した。
【0174】
結果:
注入終了から24時間後に総血清カルシウムの用量依存的な低下が観察された。血清カルシウムレベルは表2に示されている。
【0175】
(表2)投薬24時間後の総血清カルシウムレベル
【0176】
実施例4
ビーグル犬に12時間の静脈内注入として投与されたKAI-1455の安全性薬理試験
KAI-1455(SEQ ID NO:7)を、用量1、5および12.5mg/kgでの12時間にわたる連続静脈内注入によってビーグル犬に投与した(各群当たりn=3)。血清カルシウムに対する影響を、注入終了(EOI)の直後である12時間の時点、およびEOIの24時間後に判定した。
【0177】
結果:
用量依存的な血清カルシウムの低下がEOI時に観察された。最大のカルシウム低下はEOIの時点で観察された。カルシウムレベルの部分的な回復がEOIの24時間後に観察されたが、12.5mg/kg用量群では、動物は依然としてベースラインに比して血清カルシウムの測定可能な低下を示した。血清カルシウムレベルは表3に示されている。
【0178】
(表3)投薬前、注入終了(EOI)時およびEOIの12時間後の総血清カルシウム(mg/dL)
【0179】
血清リン酸塩レベルの用量依存的な上昇がEOI時およびEOIの24時間後に観察された。血清リン酸塩レベルは表4に示されている。
【0180】
(表4)投薬前および注入終了(EOI)時の血清リン酸塩(mg/dL)
【0181】
12.5mg/kg用量群の動物では、PTHの有意な低下がEOI時およびEOIの24時間後に観察された。血漿PTHレベルはEOI時にはベースラインの治療前レベルの約15%に低下し、EOIの24時間後にはベースラインの治療前レベルの約50%という持続的低下がみられた。PTHレベル(pg/mL)は表5に示されている。
【0182】
(表5)投薬前および注入終了時のPTH(pg/mL)
【0183】
PTH、血清カルシウムおよび血清リン酸塩レベルの関係は図1に示されている。カルシウムレベルの低下は血清リン酸塩の上昇およびPTHの低下と一致する。
【0184】
実施例5
Sprague DawleyラットにおけるKAI-1455の単一用量カルシウム注入試験
この試験は、KAI-1455(SEQ ID NO:7)の単一用量45mg/kgでのおよそ24時間の静脈内注入中の血清カルシウムの変化の経時的推移を調べるため、およびカルシウム補充がラットにおけるKAI-1455注入の毒性に伴う臨床徴候を緩和する能力を探るためにデザインした。
【0185】
試験は、Charles River Laboratories, Hollister, CAから入手したSprague Dawleyラット(系統Crl:CD(SD)IGS BR)にて行った。合計20匹のラット(各群当たり性別毎にn=5)を試験に含めた。治療を始めた時点の平均齢は5〜8週であった(受け取り時点)。治療開始時の平均体重は160〜380グラムであった。
【0186】
被験物および対照/媒体物の投与:
動物には納入元により頸静脈にカテーテル留置が施された。動物を表6に従って群に割り付けて治療を行った。
【0187】
(表6)群の割り付け
静脈内注入時間の合計は〜24時間であった。
* 2回目の〜12時間の注入中に、第2群には、カルシウム(KAI-1455投薬溶液と混合)を最終濃度0.8mg/mL元素カルシウムとして含む輸液剤を投与した。
** 注入の最初の12時間部分については輸液剤中の被験物の最終濃度は〜2.25mg/mLであり、2回目の12時間注入では〜0.75mg/mLであった。
*** 注入の最初の12時間については、注入速度は〜0.83mL/kg/時間(〜10mL/kg総容積)であり、2回目の12時間の注入期間については、注入速度は〜2.5mL/kg/時間(〜30mL/kg総容積)であった。
【0188】
個々の動物に対する絶対的投薬容積は最新の体重に基づいて計算した。
【0189】
3種の被験物投薬溶液を試験のために調製した。注入の最初の12時間での投与については、10mg/mL原液をSFIで希釈してKAI-1455の最終濃度2.25mg/mLを得ることによって両群に対して単一の溶液を調製した。第1のセットの投薬シリンジにはこの溶液を注入用に充填した。
【0190】
第1群については、注入の2回目の12時間における投与のための投薬溶液は、10mg/mL原液をSFIで希釈してKAI-1455の最終濃度0.75mg/mLを得ることによって調製した。第1群に対する第2のセットの投薬シリンジにはこの溶液を注入用に充填した。
【0191】
第2群については、注入の2回目の12時間における投与のための投薬溶液には、元素カルシウムにして最終濃度0.8mg/mLのグルコン酸カルシウムとともに、KAI-1455を濃度0.75mg/mLで含めた。溶液は、10mg/mL原液を必要なSFIのより大容積中にまず希釈し、続いて適量のグルコン酸カルシウムを添加し、その後にさらにSFIを添加して所望の容積に到達させることによって調製した。第2群に対する第2のセットの投薬シリンジにはこの溶液を注入用に充填した。
【0192】
市販の10%グルコン酸カルシウム注射液をカルシウム補充のために用いた。この溶液は1mL当たり9mgの元素カルシウムを含む。2回目の12時間注入における第2群に対する投薬溶液中の元素カルシウムの所望の最終濃度は〜0.8mg/mLであった。
【0193】
血液採取および試料採取の方法:
血液は、拘束下にある意識のある動物の末梢静脈静脈穿刺によって採取した。各時点(終止時点を除く)で、一晩絶食させた動物からおよそ1.1mLの血液を採取した。すべての動物について、イオン化カルシウム、PTHおよび総血清カルシウムを注入前、試験開始12時間の時点(カルシウム補充の前)、注入完了前および剖検時に測定した。
【0194】
結果:
カルシウム注入を始める前の12時間の時点で、すべての動物について平均総カルシウムは10.5mg/dLから8.0mg/dLに低下していた。注入の2回目の12時間において、KAI-1455単独を投与されたラットでは平均総カルシウムは6.8mg/dLにさらに低下し、KAI-1455およびカルシウムを投与されたラットでは7.6mg/dLに低下した(図8)。KAI-1455およびカルシウム補充を受けた8匹のラットはいずれも死亡しなかった(ラット2匹はカルシウム注入前に死亡した;1匹は12時間の採血に関係し、もう1匹は注入開始5時間後に死亡した)が、一方、KAI-1455単独を投与されたラットでは10匹のうち3匹(30%)が死亡した。24時間のKAI-1455注入の後半における静脈内注入によるカルシウム補充(2mg/kg/hr)は、KAI-1455に伴う血清カルシウムの低下を部分的に減弱させ、これは高用量のKAI-1455注入に伴う死亡を予防するのに十分であった。観察されたカルシウム低下は48時間(EOIの24時間後)までに回復した。
【0195】
実施例6
ビーグル犬におけるKAI-1455の単一用量カルシウム注入試験
低カルシウム血症に関する用量反応および経時的推移、ならびにカルシウム補充を与えることによって低カルシウム血症の予防および毒性の臨床徴候の緩和を行える可能性について、イヌでの試験を行った。
【0196】
低カルシウム血症および他のエンドポイントに関する用量反応を十分に特徴付けること、ならびに血清カルシウムの変化、臨床徴候、PTH、QT延長および動物に対する他の影響の関係を調べることを目的として、3匹のイヌに用量12.5、1.0および5mg/kg(12時間にわたり注入)を連続投与した(投薬の間には適切な休薬期間をおいた)。
【0197】
試験のこの相に続いて、同じイヌを用いて、カルシウム補充が毒性を予防または緩和する能力について調べた。この後者の相では、3匹のイヌすべてに対して25mg/kgのKAI-1455を12時間にわたり投与した(すなわち、明らかな瀕死状態が以前にみられた用量)が、ただし、注入開始時にKAI-1455とともにグルコン酸カルシウムの注入による補充を2mg元素カルシウム/kg/hrの速度(すなわち、上記のラットでのカルシウム補充試験に用いたのと同じ速度)で行った。血清カルシウムを注入中は3時間毎に、注入後は定期的にモニターした。
【0198】
結果:
KAI-1455注入中はカルシウムのわずかな上昇がみられたが、カルシウム補充を行うと12時間の注入の終了時までに正常化の傾向を示し、その後はカルシウムレベルは低下し始めた(図2)。EOIの〜3時間後の時点で、動物は低カルシウム血症の症状を呈し始めた。カルシウム注入を再開して〜3時間継続したところ、動物の症状は迅速に解消された。KAI-1455注入から24時間後に測定したカルシウム濃度は再び正常レベル未満に逆戻りし、このことは、追加のカルシウム補充後も、KAI-1455の効果が(顕著さははるかに落ちるものの)依然として続いていることを示している。血清リン酸塩レベルは12時間の注入中は上昇し、EOIの6時間後の時点でもベースラインよりも高く保たれていた(図3)。
【0199】
実施例7
SEQ ID NOの表
(表7)ペプチド配列および対応するSEQ ID NO
【0200】
実施例8
ヒト志願者におけるKAI-1455の単回用量増加試験
試験デザイン:
KAI-1455(SEQ ID NO:7)の二重盲検無作為化プラセボ対照単回用量増加試験をヒト健常志願者において実施した。最初の試験デザインは、7つのコホートに対する12時間にわたる静脈内注入によるKAI-1455(SEQ ID NO:7)の投与を必要とし、初回用量は1mg/kgであった。用量漸増は直前の用量の安全性次第とした。各コホートに対して4人の若い男性被験者を無作為に割り付けた(n=4)。コホートは無作為化し、それにより3人の被験者が実薬を投与され、1人の被験者がプラセボを投与された。
【0201】
被験者を用量コホート別に1週間の追跡期間にわたりモニターした。臨床上および検査上の安全性、薬物動態、血清イオン化カルシウム(iCa)、総カルシウム、リン酸および血漿PTHを含む試験エンドポイントを各被験者について評価した。
【0202】
結果:
KAI-1455は、12時間にわたる1〜162mg/kgの範囲の用量で一般に安全であり、忍容性も良好であった。KAI-1455には血清カルシウムおよび血漿PTHの用量依存的な低下が伴ってみられる。血清カルシウムおよび血漿PTHの低下は、注入終了(EOI)時に最低値に達したが、最高用量の注入終了後も最長36時間にわたって抑制されたままであった。0.1mg/kg/時間以下の投薬速度では、12時間の注入による血清カルシウムの平均最大低下率は10%未満であった。
【0203】
血漿中薬物動態:
用量18、54、81および162mg/kgのKAI-1455(SEQ ID NO:7)を、12時間にわたる静脈内注入によって男性健常志願者に投与した。KAI-1455の血漿中濃度(ng/mL)を12時間の注入期間中の1、3、6、9および12時間の時点で測定し、注入終了(EOI)後は最長1時間にわたって測定した。最高用量では、約100ng/mLという持続的な血漿中濃度が9〜12時間の時点で達成され、EOIの約30分後までに徐々にベースラインに戻った(図4)。
【0204】
処置群別のイオン化カルシウム:
血清イオン化カルシウム(mmol/L)を、注入開始時ならびに注入開始から3、6、9、12、15、18、21、24および48時間後の時点で測定した。イオン化カルシウムの用量依存的な低下が観察され、カルシウムの最大の低下は約15時間および18時間の時点(すなわち、EOIの3〜6時間後)に観察された。最高用量では、カルシウムの最大の低下はEOIの12時間後も維持された。54、81および162mg/kg用量群では、EOIの12時間後にカルシウムレベルの部分的な回復が観察され、被験者はEOIの12および36時間後の時点でも依然としてベースラインに比してイオン化カルシウムの有意な低下を示した(図5)。
【0205】
処置群別の総カルシウム:
総カルシウムレベル(mg/dL)を、注入開始時ならびに注入開始から3、6、9、12、15、18、21、24および48時間後に測定した。総カルシウムについても用量依存的な低下が観察され、カルシウムの最大の低下は約15および18時間の時点(すなわち、EOIの3〜6時間後)に観察された。最高用量では、カルシウムの最大の低下がEOIの12時間後も維持された。54、81および162mg/kg用量群では、EOIの12時間後にカルシウムレベルの部分的な回復が観察され、被験者はEOIの12および36時間後の時点でも依然としてベースラインに比して総カルシウムの有意な低下を示した(図6)。
【0206】
処置群別のカルシウムの変化率:
カルシウムの変化率を各処置群に関して測定した。最大変化率は約15および18時間の時点(すなわち、EOIの3〜6時間後)に観察された。162mg/kg用量群では、15%を上回るカルシウムの最大低下率が観察された(図7)。
【0207】
処置群別の血漿PTH:
処置群別の血漿PTHレベル(pg/mL)を、注入開始時ならびに注入開始から3、6、12、15、18、24および48時間後に測定した。血漿PTHの最大の低下はEOI時に観察された。162mg/kg用量群の被験者ではPTHの有意な低下がEOI時およびEOIの12時間後に観察され、EOIの36時間後にも依然として治療前ベースラインレベルを下回る持続的な低下が観察された(図8)。
【0208】
処置群別の血漿PTHの変化率:
血漿PTHレベルの変化率を各処置群に関して測定した。最大変化率はEOI時に観察された。81および162mg/kg用量群の被験者では40%を上回る血漿PTHレベルの最大変化率が観察され、レベルはEOIの12時間後にも依然としてベースラインよりも有意に低く、EOIの36時間後にはPTHレベルがベースラインに向かって回復しつつあった(図9)。
【0209】
実施例9
ヒト志願者におけるKAI-1455の4時間注入試験
試験デザイン:
2つの追加コホートに対して、KAI-1455(SEQ ID NO:7)を54または108mg/kgの用量で静脈内注入により4時間にわたって投与した。これらのコホートは、12時間注入についての最大耐量が規定された後に組み入れた。各コホートに4人の若い男性被験者を割り付けた(n=4)。コホートは、3人の被験者が実薬を投与され、1人の被験者がプラセボを投与されるように無作為化した。
【0210】
被験者を注入終了(EOI)後36時間にわたってモニターした。イオン化カルシウム(iCa)および血漿PTHを含む試験エンドポイントを各処置群について評価した。0.2mg/kg/時間以下の投薬速度では、4時間の注入による血清カルシウムの平均最大低下率は10%未満であった。
【0211】
処置群別のイオン化カルシウム:
血清イオン化カルシウム(mmol/L)を、注入開始時ならびに注入開始から2、3、4、6、8、12、16および36時間後の時点で測定した。イオン化カルシウムの用量依存的な低下が観察され、イオン化カルシウムの最大の低下は54mg/kg用量群ではEOIの約4時間後に、108mg/kg用量群ではEOIの12時間後に観察された(図10)。
【0212】
処置群別の総カルシウム:
総カルシウム(mg/dL)の低下について、同じく注入開始時ならびに注入開始から2、3、4、6、8、12、16および36時間後の時点で測定した。イオン化カルシウムの用量依存的な低下が観察され、総カルシウムの最大の低下は54mg/kg用量群ではEOIの約8時間後に、108mg/kg用量群ではEOIの12時間後に観察され、108mg/kg用量群ではEOIの32時間後にも総カルシウムの有意な低下が観察された(図11)。
【0213】
処置群別の血漿PTH:
処置群別の血漿PTHレベル(pg/mL)を、注入開始時ならびに注入開始から2、3、4、6、8、12、16および36時間後に測定した。血漿PTHの最大の低下はEOI時に観察された。108mg/kg用量群の被験者では、血漿PTHの有意な低下がEOI時およびEOIの8時間後に観察された(図12)。
【0214】
実施例10
麻酔ラットにおけるKP-1524の4時間注入試験
試験デザイン:
この試験は、カルシウムモジュレーターペプチドが総カルシウムおよび/または血漿PTHレベルを低下させる能力に対するカーゴペプチドの影響を評価するためにデザインした。
【0215】
材料および方法:
イソフルランで麻酔したラット(n=4)に対して、KP-1524(SEQ ID NO:9)を9mg/kgの投薬速度で静脈内注入により3時間にわたって投与した。対照動物(n=4)には食塩水を注入した。血液試料を注入前ならびに1、2、3および4時間の時点で採取した。総カルシウム(mg/dL)およびPTH(pg/mL)を測定した。
【0216】
結果:
投与を受けた動物は総カルシウムおよびPTHレベルの有意な低下を示した。総カルシウム(mg/dL)の最大の低下はEOIの1時間後に観察された(図13(A))。血漿PTH(pg/mL)の最大の低下は2時間の時点までに観察され、血漿PTHの有意な低下はEOIの1時間後にも持続した(図13(B))。食塩水を投与した動物で観察された血漿PTHレベルの上昇は、おそらく利尿によるものと考えられる。
【0217】
実施例11
麻酔ラットにおけるKAI-1455およびKP-1524の3時間注入試験
材料および方法:
イソフルランで麻酔したラット(n=3)に対して、KAI-1455(SEQ ID NO:7)およびKP-1524(SEQ ID NO:9)を9mg/kgの投薬速度で静脈内注入により3時間にわたって投与した。対照動物(n=2)には食塩水を注入した。血液試料を注入前ならびに1、2、3、6および24時間の時点で採取した。総カルシウム(mg/dL)およびPTH(pg/mL)を測定した。
【0218】
結果:
投与を受けた動物は総カルシウムおよびPTHレベルの有意な低下を示し、最大の低下はEOI前後で観察された。総カルシウムの低下はKAI-1455およびKP-1524のいずれについてもEOIの4時間後まで維持され、総カルシウムおよびPTHの低下は2つのペプチドに関して同等であった(非提示データ)。
【0219】
実施例12
麻酔ラットにおけるKAI-9706の3時間注入試験
試験デザイン:
この試験は、カルシウムおよび血漿PTHの低下に対するカチオン性ペプチド上のキャッピング基の寄与について評価するためにデザインした。
【0220】
材料および方法:
イソフルランで麻酔したラット(n=4)に対して、KP-9706(SEQ ID NO:6)を9mg/kgの投薬速度で静脈内注入により3時間にわたって投与した。対照動物(n=4)には食塩水を注入した。血液試料を注入前ならびに1、2、3、4および24時間の時点で採取した。総カルシウム(mg/dL)およびPTH(pg/mL)を測定した。
【0221】
結果:
KP-9706は、総カルシウム(図14)および血漿PTHレベル(非提示データ)のいずれの低下も示さなかった。
【0222】
実施例13
ラットEDTA血漿におけるインビトロ血漿中安定性
材料および方法:
ラットEDTA血漿におけるインビトロ血漿中安定性を、KAI-1455(SEQ ID NO:7)、KP-9706(SEQ ID NO:6)およびKP-9803(SEQ ID NO:8)に関して評価した。
【0223】
結果:
キャッピングされたカルシウムモジュレーターペプチドであるKAI-1455(SEQ ID NO:7)は、キャッピングされていないペプチドであるKP-9706(SEQ ID NO:6)およびKP-9803(SEQ ID NO:8)のどちらよりも血漿中で実質的により安定であった。KAI-1455のラットEDTA血漿中での半減期(t1/2)はおよそ50分であることが示された。KP-9706(SEQ ID NO:6)およびKP-9803(SEQ ID NO:8)の半減期はそれぞれおよそ5分および10分であることが示された(図15)。ヒトおよびイヌの血漿でも同様の結果が観察された(非提示データ)。
【0224】
実施例14
麻酔ラットにおけるKAI-1586およびKAI-1633の3時間注入試験
試験デザイン:
この試験は、総カルシウムおよび血漿PTHの低下に対するカルシウムモジュレーターペプチド上のジスルフィド結合および/またはシステイン残基の寄与について評価するためにデザインした。
【0225】
材料および方法:
イソフルランで麻酔したラット(n=3)に対して、KAI-1633(SEQ ID NO:11)を9mg/kgの投薬速度で静脈内注入により3時間にわたって投与した。対照動物(n=4)には食塩水を注入した。血液試料を注入前ならびに1、2、3、4および24時間の時点で採取した。総カルシウム(mg/dL)およびPTH(pg/mL)を測定した。
【0226】
結果:
KAI-1633は総カルシウムおよび血漿PTHレベルの低下を示さなかった(非提示データ)。9mg/kgのKAI-1633についての定常状態血漿中濃度は、ELISAにより約3500ng/mLであると決定された。これに比して、9mg/kgでのKAI-1455についての定常状態血漿中濃度は、ELISAにより約2200ng/mLであると決定された。この定常状態薬物動態データは、KAI-1455およびKAI-1633が類似した全身曝露を示すことを示唆している。総カルシウムおよび血漿PTHを低下させる有効性に関して観察された差異は、2つの化合物の薬物動態の違いのみに理由があると考えることはできない。
【0227】
実施例15
代表的な態様
以下の代表的な態様は、本発明を限定するためではなく、本発明を例示するために含められる。
【0228】
1.必要とする対象における副甲状腺ホルモン(PTH)レベルを低下させるための医薬の調製におけるカルシウムモジュレーターペプチドの使用であって、カルシウムモジュレーターペプチドが
a)生理的pHで正に荷電する5〜20個のアミノ酸、アミノ末端、カルボキシ末端、および第1のチオール含有残基を含むポリカチオン性ペプチドであって、アミノ末端、カルボキシ末端、またはその両方で化学修飾されている、ポリカチオン性ペプチドと、
b)第1のチオール含有残基とジスルフィド結合している第2のチオール含有残基を含むカーゴペプチドと
を含む、使用。
2.必要とする対象における副甲状腺ホルモン(PTH)レベルを低下させるための医薬の調製におけるカルシウムモジュレーターペプチドの使用であって、カルシウムモジュレーターペプチドが
a)生理的pHで正に荷電する少なくとも3個のアミノ酸、第1のアミノ末端、第1のカルボキシ末端、および第1のチオール含有残基を含む第1のポリカチオン性ペプチドであって、第1のアミノ末端、第1のカルボキシ末端、またはその両方で化学修飾されている、第1のポリカチオン性ペプチドと、
b)生理的pHで正に荷電する少なくとも3個のアミノ酸、第2のアミノ末端、第2のカルボキシ末端、および第2のチオール含有残基を含む第2のポリカチオン性ペプチドであって、第2のアミノ末端、第2のカルボキシ末端、またはその両方で化学修飾されている、第2のポリカチオン性ペプチドと
を含み、かつカルシウムモジュレーターペプチドが生理的pHで正に荷電する6〜30個のアミノ酸を含む、使用。
3.必要とする対象における副甲状腺ホルモン(PTH)レベルを低下させるための医薬の調製におけるカルシウムモジュレーターペプチドの使用であって、
カルシウムモジュレーターペプチドが、生理的pHで正に荷電する5〜20個のアミノ酸、アミノ末端、カルボキシ末端、および第1のチオール含有残基を含むポリカチオン性ペプチドを含み、
該ポリカチオン性ペプチドがアミノ末端、カルボキシ末端、またはその両方で化学修飾されており、かつ
第1のチオール含有残基が、遊離チオールとしてまたは保護された形態で存在しうるチオール基を含む、
使用。
4.対象へのカルシウムモジュレーターペプチドの治療的有効量の投与により、血清PTHが低下する、態様1、2または3のいずれか1つに記載の使用。
5.カルシウムモジュレーターペプチドの治療的有効量が、カルシウムモジュレーターペプチドの投与後少なくとも10時間にわたって血清PTHを少なくとも20%低下させるのに十分である、態様4記載の使用。
6.カルシウムモジュレーターペプチドの治療的有効量が、カルシウムモジュレーターペプチドの投与後少なくとも48時間にわたって血清PTHを少なくとも30%〜70%低下させるのに十分である、態様4記載の使用。
7.必要とする対象における血清カルシウムレベルを低下させるための医薬の調製におけるカルシウムモジュレーターペプチドの使用であって、カルシウムモジュレーターペプチドが、
a)生理的pHで正に荷電する5〜20個のアミノ酸、アミノ末端、カルボキシ末端、および第1のチオール含有残基を含むポリカチオン性ペプチドであって、アミノ末端、カルボキシ末端、またはその両方で化学修飾されている、ポリカチオン性ペプチドと、
b)第1のチオール含有残基とジスルフィド結合している第2のチオール含有残基を含むカーゴペプチドと
を含む、使用。
8.必要とする対象における血清カルシウムレベルを低下させるための医薬の調製におけるカルシウムモジュレーターペプチドの使用であって、カルシウムモジュレーターペプチドが、
a)生理的pHで正に荷電する少なくとも3個のアミノ酸、第1のアミノ末端、第1のカルボキシ末端、および第1のチオール含有残基を含む第1のポリカチオン性ペプチドであって、第1のアミノ末端、第1のカルボキシ末端、またはその両方で化学修飾されている、第1のポリカチオン性ペプチドと、
b)生理的pHで正に荷電する少なくとも3個のアミノ酸、第2のアミノ末端、第2のカルボキシ末端、および第2のチオール含有残基を含む第2のポリカチオン性ペプチドであって、第2のアミノ末端、第2のカルボキシ末端、またはその両方で化学修飾されている、第2のポリカチオン性ペプチドと
を含み、かつカルシウムモジュレーターペプチドが生理的pHで正に荷電する6〜16個のアミノ酸を含む、使用。
9.必要とする対象における血清カルシウムレベルを低下させるための医薬の調製におけるカルシウムモジュレーターペプチドの使用であって、
カルシウムモジュレーターペプチドが、生理的pHで正に荷電する5〜20個のアミノ酸、アミノ末端、カルボキシ末端、および第1のチオール含有残基を含むポリカチオン性ペプチドを含み、
該ポリカチオン性ペプチドがアミノ末端、カルボキシ末端、またはその両方で化学修飾されており、かつ
第1のチオール含有残基が、遊離チオールとしてまたは保護された形態で存在しうるチオール基を含む、
使用。
10.対象へのカルシウムモジュレーターペプチドの治療的有効量の投与により、血清カルシウムが低下する、態様7、8または9のいずれか1つに記載の使用。
11.カルシウムモジュレーターペプチドの治療的有効量が、カルシウムモジュレーターペプチドの投与後少なくとも10時間にわたって血清カルシウムを少なくとも5%低下させるのに十分である、態様10記載の使用。
12.カルシウムモジュレーターペプチドの治療的有効量が、カルシウムモジュレーターペプチドの投与後少なくとも48時間にわたって血清カルシウムを5%〜20%低下させるのに十分である、態様10記載の使用。
13.対象が、原発性副甲状腺機能亢進症、二次性副甲状腺機能亢進症、三次性副甲状腺機能亢進症、悪性腫瘍の高カルシウム血症、転移性骨疾患、ページェット病、骨関節炎、関節リウマチ、骨軟化症、軟骨石灰化症、軟骨無形成症、骨軟骨炎、骨形成不全症、先天性低ホスファターゼ血症、線維腫性病変、線維性骨異形成、多発性骨髄腫、骨溶解性骨疾患、プロテーゼ周囲骨溶解、歯周病、骨粗鬆症、異常骨代謝回転、または高代謝回転型骨疾患に罹患している、態様1〜12のいずれか1つに記載の使用。
14.対象が二次性副甲状腺機能亢進症に罹患している、態様1〜13のいずれか1つに記載の使用。
15.a)生理的pHで正に荷電する5〜20個のアミノ酸、アミノ末端、カルボキシ末端、および第1のチオール含有残基を含むポリカチオン性ペプチドであって、アミノ末端、カルボキシ末端、またはその両方で化学修飾されている、ポリカチオン性ペプチドと、
b)第1のチオール含有残基とジスルフィド結合している第2のチオール含有残基を含むカーゴペプチドと
を含む、カルシウムモジュレーターペプチド。
16.a)生理的pHで正に荷電する少なくとも3個のアミノ酸、第1のアミノ末端、第1のカルボキシ末端、および第1のチオール含有残基を含む第1のポリカチオン性ペプチドであって、第1のアミノ末端、第1のカルボキシ末端、またはその両方で化学修飾されている、第1のポリカチオン性ペプチドと、
b)生理的pHで正に荷電する少なくとも3個のアミノ酸、第2のアミノ末端、第2のカルボキシ末端、および第2のチオール含有残基を含む第2のポリカチオン性ペプチドであって、第2のアミノ末端、第2のカルボキシ末端、またはその両方で化学修飾されている、第2のポリカチオン性ペプチドと
を含み、かつ生理的pHで正に荷電する6〜16個のアミノ酸を含む、カルシウムモジュレーターペプチド。
17.生理的pHで正に荷電する5〜20個のアミノ酸、アミノ末端、カルボキシ末端、および第1のチオール含有残基を含むポリカチオン性ペプチドを含む、カルシウムモジュレーターペプチドであって、
該ポリカチオン性ペプチドがアミノ末端、カルボキシ末端、またはその両方で化学修飾されており、かつ
第1のチオール含有残基が、遊離チオールとしてまたは保護された形態で存在しうるチオール基を含む、
カルシウムモジュレーターペプチド。
18.第1のチオール含有残基とジスルフィド結合している第2のチオール含有残基をさらに含む、態様17記載のカルシウムモジュレーターペプチド。
19.正に荷電したアミノ酸が、アルギニン、リジン、ヒスチジン、2,3-ジアミノプロピオン酸(Dap)、2,4-ジアミノ酪酸(Dab)、オルニチン、およびホモアルギニンからなる群より独立に選択される、態様15〜18のいずれか1つに記載のカルシウムモジュレーターペプチド。
20.第1のチオール含有残基がポリカチオン性ペプチドのアミノ末端またはカルボキシ末端に位置する、態様15〜19のいずれか1つに記載のカルシウムモジュレーターペプチド。
21.第1のチオール含有残基が、ポリカチオン性ペプチドのアミノ末端またはカルボキシ末端以外の位置に位置する、態様15〜19のいずれか1つに記載のカルシウムモジュレーターペプチド。
22.第2のチオール含有残基がカーゴペプチドのアミノ末端またはカルボキシ末端に位置する、態様15、16または18のいずれか1つに記載のカルシウムモジュレーターペプチド。
23.第2のチオール含有残基が、カーゴペプチドのアミノ末端またはカルボキシ末端以外の位置に位置する、態様15、16または18のいずれか1つに記載のカルシウムモジュレーターペプチド。
24.ポリカチオン性ペプチドのアミノ末端がアセトアミドとして化学修飾されている、態様15〜23のいずれか1つに記載のカルシウムモジュレーターペプチド。
25.ポリカチオン性ペプチドのカルボキシ末端が第一カルボキサミドとして化学修飾されている、態様15〜24のいずれか1つに記載のカルシウムモジュレーターペプチド。
26.ポリカチオン性ペプチドのアミノ末端がアセトアミドとして化学修飾されており、かつポリカチオン性ペプチドのカルボキシ末端が第一カルボキサミドとして化学修飾されている、態様15〜25のいずれか1つに記載のカルシウムモジュレーターペプチド。
27.第1のチオール含有残基、および存在する場第2のチオール含有残基が、システイン、ホモシステインおよびメルカプトプロピオン酸からなる群より独立に選択される、態様15〜26のいずれか1つに記載のカルシウムモジュレーターペプチド。
28.ポリエチレングリコール(PEG)とコンジュゲートしている、前記態様のいずれか1つに記載のカルシウムモジュレーターペプチド。
29.SEQ ID NO:13、SEQ ID NO:15、SEQ ID NO:16、SEQ ID NO:17、またはSEQ ID NO:18のアミノ酸配列を有する、カルシウムモジュレーターペプチド。
30.前記態様のいずれか1つに記載のカルシウムモジュレーターペプチドと、少なくとも1つの薬学的に許容される添加剤とを含む、薬学的組成物。
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2006年11月16日に提出された米国仮出願第60/859,597号の優先権を主張する。この文書の内容はその全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
技術分野
本発明は、ポリカチオン性カルシウムモジュレーターペプチド(calcium modulator peptide)およびその薬学的組成物、ならびに、そのような治療を必要とする対象において、副甲状腺ホルモン(PTH)を低下させるため、および/または高カルシウム血症を治療するための方法における、そのようなペプチドおよび組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
カルシウム恒常性
カルシウム恒常性は、身体が適切なカルシウムレベルを維持する機構である。この過程は高度に制御されており、カルシウム吸収、輸送、骨中での貯蔵、他の組織への沈着、および排泄の間での複雑なやり取りを伴う。
【0004】
PTHは血清カルシウムレベルの最も重要な制御因子であり、骨吸収の過程を通じて骨からのカルシウムの放出を増強すること;尿細管からのカルシウムの再吸収を増加させること;および、活性型ビタミンDである1,25-(OH)2ビタミンDの産生を増加させることにより腸管におけるカルシウム吸収を増強することによって、血中のカルシウム濃度を上昇させる働きをする。PTHはまた、腎臓からのリン排泄も刺激し、骨からの放出も増加させる。
【0005】
PTH分泌は、副甲状腺細胞の細胞表面に発現されるGタンパク質共役型受容体であるカルシウム感知受容体(CaSR)によって制御され、それは細胞外カルシウムイオン(Ca2+)の濃度のわずかな変動を検出して、PTHの分泌を変更することによって応答する。Ca2+によるCaSRの活性化はPTH分泌を数秒〜数分以内に阻害するが、この過程は受容体のプロテインキナーゼC(PKC)リン酸化によって調節されうる。CaSRは骨芽細胞上および腎臓内でも発現され、後者ではそれは腎Ca2+排泄を制御する。
【0006】
加えて、PTHはリン恒常性も制御する。PTHは頂端膜(刷子縁膜)および側底膜の両方にある副甲状腺ホルモン受容体1(PTHR1)を刺激する。PTHR1刺激は、刷子縁膜上の腎Na+/リン酸(NaPi-IIa)共輸送体の内部移行による減少の帰結として、リン酸(Pi)の尿中排泄の増加を招く。PKC活性化は同様にPi排泄を減少させると予想される。
【0007】
PTHはまた、骨中での骨芽細胞および破骨細胞の制御にも関与する。PTHは、カルシウムの骨吸収および腎吸収を増加させることにより、血清Ca2+を増加させる。PTHは骨芽細胞を刺激してRANKリガンド(RANKL)を産生させ、それがRANK受容体と結合して破骨細胞を活性化し、骨吸収の増加および血清Ca2+の増加を招く。オステオプロテジェリン(OPG)はRANKLのデコイ受容体であり、骨吸収を阻害する。骨粗鬆症は、破骨細胞による骨吸収の過程と骨芽細胞による骨形成の過程とのアンバランスによって引き起こされる。
【0008】
高カルシウム血症および副甲状腺機能亢進症
ヒトの身体はおよそ1kgのカルシウムを含み、その99%は骨中に存在する。正常な状態では、流血中カルシウムイオン(Ca2+)は約8〜10mg/dL(すなわち、2.25〜2.5mmol/L;600mg前後)のレベルに厳重に維持される。元素カルシウム(Ca2+)にしておよそ1gが毎日摂取される。この量のうち、およそ200mg/日が吸収され、800mg/日は排泄される。加えて、およそ500mg/日が骨吸収によって放出されるか骨中に沈着する。1日に約10gのCa2+が腎臓を通して濾過され、そのうち約200mgが尿中に現れて、残りは再吸収される。
【0009】
高カルシウム血症は、血中のカルシウムレベルが上昇していることである。急性高カルシウム血症は、胃腸症状(食欲不振、悪心、嘔吐);腎症状(多尿症、多渇症)、神経筋症状(抑鬱、錯乱、昏迷、昏睡)および心症状(徐脈、第1度房室)をもたらす恐れがある。慢性高カルシウム血症でも、胃腸症状(消化障害、便秘、膵炎);腎症状(腎結石、腎石灰化)、神経筋症状(脱力感)および心症状(高血圧ブロック(hypertension block)、ジギタリス感受性)が伴ってみられる。心拍リズム異常がもたらされる恐れがあり、QT間隔短縮およびT波幅増大のEKG所見は高カルシウム血症を示唆する。高カルシウム血症は無症候性のこともあり、症状はカルシウムレベルが高い時(12.0mg/dLまたは3mmol/l)により高い頻度で起こる。重症高カルシウム血症(15〜16mg/dLまたは3.75〜4mmol/lを上回る)は医学的な緊急事態とみなされる:これらのレベルでは、昏睡および心停止が起こる恐れがある。
【0010】
高カルシウム血症は往々にして副甲状腺機能亢進症によって引き起こされ、過剰な骨吸収および血清カルシウムレベルの上昇を招く。原発性で散発性の副甲状腺機能亢進症では、PTHは単一の副甲状腺腺腫によって過剰発現される;頻度はより低いが、複数の腺腫またはびまん性副甲状腺過形成が原因のこともある。PTH分泌増加は骨吸収の正味の増加を招き、これはCa2+およびリン酸(Pi)の放出を伴う。PTHはまた、Ca2+の腎再吸収も増強するとともにリン酸(Pi)の再吸収を阻害し、血清カルシウムの正味の上昇およびリン酸の低下を結果的にもたらす。
【0011】
二次性副甲状腺機能亢進症は、血漿Ca2+レベルの低下がPTH分泌を刺激した時に起こる。二次性副甲状腺機能亢進症の最も重要な原因は、多発性嚢胞腎もしくは慢性腎盂腎炎におけるもののような慢性腎機能不全、または血液透析患者におけるもののような慢性腎不全である。カルシウム摂取不足、GI障害、腎機能不全、ビタミンD欠乏および腎性高カルシウム尿症に起因する低カルシウム血症に反応して、過剰なPTHが産生されることがある。三次性副甲状腺機能亢進症は、長期的な二次性副甲状腺機能亢進症および高カルシウム血症の後に起こることがある。
【0012】
悪性腫瘍は、非PTH媒介性高カルシウム血症の最も頻度の高い原因である。悪性腫瘍の高カルシウム血症は、癌の多くはないが重篤な合併症であり、癌患者の10%〜20%が罹患し、固形腫瘍および白血病のいずれでも起こりうる。この病状は突発性であり、予後が極めて不良であり、生存期間中央値は6週に過ぎない。増殖因子(GF)は、腫瘍細胞における副甲状腺ホルモン関連タンパク質(PTHrP)の産生を制御する。腫瘍細胞は自己分泌GFによって刺激されてPTHrPの産生を増加させ、骨吸収の増強を招く可能性がある。骨に転移した腫瘍細胞もPTHrPを分泌することがあり、これは骨を吸収してさらにGFを放出することができ、続いてそれがパラ分泌様式で作用してPTHrP産生をさらに増強する。
【0013】
カルシウム模倣薬
カルシウム模倣薬(calcimimetic agent)は、さまざまな組織に対するカルシウムの作用を模倣する薬物である。副甲状腺のカルシウム感知受容体(CaSR)に対する活性を有するフェニルアルキルアミン系カルシウム模倣薬が記載されている。Nemeth et al., Proc. Natl. Acad. Sci., 95:4040-4045 (1998)(非特許文献1)を参照。そのような薬物の1つであるシナカルセト(Cinacalcet)は、副甲状腺機能亢進症の治療用に販売されている。さらにCaSRは、他の二価および多価カチオン、ならびにスペルミン、ヘキササイクリン(hexacyclin)、ポリリジン、ポリアルギニン、プロタミン、アミロイドβ-ペプチド、ネオマイシンおよびゲンタマイシンなどの有機ポリカチオンも感知して応答することができるが、これらのカチオンはCaSRに対する選択性を欠く上に効力も比較的弱いことが報告されている。Nagano & Nemeth, J. Pharmacol. Sci., 97:355-360 (2005)(非特許文献2)を参照;同じくBrown et al., J. Bone Miner. Res., 6:1217-1225 (1991)(非特許文献3)も参照のこと。
【0014】
プロテインキナーゼC
プロテインキナーゼC(PKC)は、細胞増殖、遺伝子発現およびイオンチャンネル活性の制御を含む、種々の細胞機能に関与するシグナル伝達において鍵となる酵素である。PKCファミリーのアイソザイムは少なくとも11種類のプロテインキナーゼを含み、それらはその相同性および活性化因子に対する感受性に基づいて少なくとも3つのサブファミリーに分類することができる。古典的サブファミリーまたはcPKCサブファミリーのメンバーであるα、β(βI、βII)およびγアイソザイムは、アイソザイム特有の(可変またはV)領域が間に介在する4つの相同ドメイン(C1、C2、C3およびC4)を含み、カルシウム、ホスファチジルセリン(PS)およびジアシルグリセロール(DG)またはホルボールエステルを活性化のために必要とする。新規サブファミリーまたはnPKCサブファミリーのメンバーであるδ、ε、ηおよびθアイソザイムは、活性化のためにカルシウムを必要としない。さらに、非定型サブファミリーまたはaPKCサブファミリーのメンバーであるζおよびλ/ιアイソザイムは、DG、ホルボールエステルおよびカルシウムに対する感受性がない。
【0015】
PKCアイソザイムの細胞内分布に関する研究により、PKCの活性化は細胞内でのその再分布(転位とも呼ばれる)をもたらし、その結果、活性化されたPKCアイソザイムは原形質膜、細胞骨格要素、核および他の細胞内区画と結びつくことが示されている。各種のPKCアイソザイムの特有の細胞機能はそれらの細胞内位置によって決まるように思われる。例えば、活性化βI PKCは核の内部に認められるが、活性化βII PKCは心筋細胞の核周囲および細胞周辺部に認められる。さらに、同じ細胞内で、ε PKCは、活性化の後または固定細胞に対する外因性の活性化ε PKCの添加後に、横紋構造(おそらく収縮要素)および細胞間接着部と結合する。細胞の異なる場所への各種のPKCアイソザイムの局在は、敷衍すれば、活性化Cキナーゼ受容体(RACK)と呼ばれる特異的な係留分子に対する活性化アイソザイムの結合に起因するように思われる。
【0016】
RACKは、活性化PKCアイソザイムをその各々の細胞内部位に選択的に係留させることによって働くと考えられている。RACKは活性化PKCのみと結合し、必ずしもその酵素の基質というわけではない。RACKに対する結合がキナーゼの触媒ドメインによって媒介されるわけでもない。PKCの転位は、活性化されたその酵素と細胞顆粒画分に係留されたRACKとの結合を反映しており、PKCがその細胞応答を生じるためにはRACKとの結合が必要である。インビボでのPKCとRACKとの結合の阻害により、PKC転位およびPKCを介した機能が阻害される。
【0017】
RACK1およびRACK2をコードするcDNAクローンが同定されている。いずれもGタンパク質のβサブユニットの相同体であり、これは別の移行性プロテインキナーゼであるβアドレナリン受容体キナーゼβ-ARKの受容体である。Gタンパク質と同様に、RACK1およびRACK2は7つのWD40反復配列を有する。最近のデータから、RACK1は活性化βII PKCに対する選択的係留タンパク質であることが示唆されている。複数の研究により、RACK2(β'-COPとも呼ばれる)はεPKCに対する選択的結合タンパク質であることが示されている。Csukai et al. J. Biol. Chem. 1997;272:29200-29206(非特許文献4)。
【0018】
PKCアイソザイムの適正な機能のためにはPKCの転位が必要である。RACK上のPKC結合部位またはPKC上のRACK結合部位のいずれかを模倣するペプチドは、その酵素のインビボでの機能を選択的に阻害する、PKCのアイソザイム特異的転位阻害薬である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】Nemeth et al., Proc. Natl. Acad. Sci., 95:4040-4045 (1998)
【非特許文献2】Nagano & Nemeth, J. Pharmacol. Sci., 97:355-360 (2005)
【非特許文献3】Brown et al., J. Bone Miner. Res., 6:1217-1225 (1991)
【非特許文献4】Csukai et al. J. Biol. Chem. 1997;272:29200-29206
【発明の概要】
【0020】
本発明は、ポリカチオン性カルシウムモジュレーターペプチドおよびその薬学的組成物と、そのような治療を必要とする対象において、副甲状腺ホルモン(PTH)を低下させるため、および/または高カルシウム血症を治療するための方法におけるそのようなペプチドおよび組成物の使用とに関する。
【0021】
1つの局面において、本発明は、対象における副甲状腺ホルモン(PTH)レベルを低下させるための方法を提供し、本方法は、カルシウムモジュレーターペプチドの治療的有効量をそれを必要とする対象に投与し、それによって血清PTHを低下させる段階を含む。
【0022】
もう1つの局面において、本発明は、高カルシウム血症を治療するための方法を提供し、本方法は、カルシウムモジュレーターペプチドの治療的有効量をそれを必要とする対象に投与し、それによって血清カルシウムが低下する段階を含む。
【0023】
もう1つの局面において、本発明は、骨疾患を治療するための方法を提供し、本方法は、ポリカチオン性カルシウムモジュレーターペプチドの治療的有効量をそれを必要とする対象に投与し、それによって骨代謝回転が低下する段階を含む。
【0024】
いくつかの態様において、カルシウムモジュレーターペプチドは、
a)生理的pHで正に荷電する5〜20個のアミノ酸、アミノ末端、カルボキシ末端、および第1のチオール含有残基を含むポリカチオン性ペプチドであって、アミノ末端、カルボキシ末端、またはその両方で化学修飾されている、ポリカチオン性ペプチドと、
b)第1のチオール含有残基とジスルフィド結合している第2のチオール含有残基を含むカーゴペプチドと
を含む。
【0025】
他の態様において、カルシウムモジュレーターペプチドは、
a)生理的pHで正に荷電する少なくとも3個のアミノ酸、第1のアミノ末端、第1のカルボキシ末端、および第1のチオール含有残基を含む第1のポリカチオン性ペプチドであって、第1のアミノ末端、第1のカルボキシ末端、またはその両方で化学修飾されている、第1のポリカチオン性ペプチドと、
b)生理的pHで正に荷電する少なくとも3個のアミノ酸、第2のアミノ末端、第2のカルボキシ末端、および第2のチオール含有残基を含む第2のポリカチオン性ペプチドであって、第2のアミノ末端、第2のカルボキシ末端、またはその両方で化学修飾されている、第2のポリカチオン性ペプチドと
を含み、かつカルシウムモジュレーターペプチドは、生理的pHで正に荷電する6〜30個のアミノ酸を含む。
【0026】
さらなる態様において、カルシウムモジュレーターペプチドは、生理的pHで正に荷電する5〜20個のアミノ酸、アミノ末端、カルボキシ末端、および第1のチオール含有残基を含む、ポリカチオン性ペプチドを含み、
このポリカチオン性ペプチドはアミノ末端、カルボキシ末端、またはその両方で化学修飾されており、かつ
第1のチオール含有残基はチオール基を含み、それは遊離チオールとして、または保護された形態で存在しうる。
【0027】
いくつかの態様において、カルシウムモジュレーターペプチドの治療的有効量は、カルシウムモジュレーターペプチドの投与後少なくとも10時間にわたり、血清PTHを少なくとも20%低下させるのに十分である。ある態様において、PTHレベルの低下は、血清インタクトPTHの低下として決定される。他の態様において、カルシウムモジュレーターペプチドの治療的有効量は、カルシウムモジュレーターペプチドの投与後少なくとも10時間にわたり、血清インタクトPTHを治療前ベースラインレベル未満へと少なくとも20%低下させるのに十分である。
【0028】
他の態様において、カルシウムモジュレーターペプチドの治療的有効量は、カルシウムモジュレーターペプチドの投与後少なくとも48時間にわたり、血清PTHを30%〜70%低下させるのに十分である。
【0029】
ある態様において、カルシウムモジュレーターペプチドの治療的有効量は、カルシウムモジュレーターペプチドの投与後少なくとも10時間にわたり、血清カルシウムを少なくとも5%低下させるのに十分である。
【0030】
他の態様において、カルシウムモジュレーターペプチドの治療的有効量は、カルシウムモジュレーターペプチドの投与後少なくとも48時間にわたり、血清カルシウムを5%〜20%低下させるのに十分である。
【0031】
本発明の方法は、血清PTHレベルの上昇、血清カルシウムレベルの上昇、またはその両方を特徴とする障害または疾患に罹患した対象を治療するために有用である。いくつかの態様において、本発明の方法はまた、血清リン酸塩レベルの低下を特徴とする障害または疾患に罹患した対象を治療するためにも有用である可能性がある。
【0032】
いくつかの態様において、対象はヒトである。他の態様において、対象はヒトであり、血清PTHが低下している。ある態様において、対象はヒトであり、血清カルシウムが低下している。さらなる態様において、対象はヒトであり、骨代謝回転が低下している。
【0033】
いくつかの態様において、対象は、原発性副甲状腺機能亢進症、二次性副甲状腺機能亢進症、三次性副甲状腺機能亢進症、悪性腫瘍の高カルシウム血症、転移性骨疾患(例えば、骨肉腫)、ページェット病、骨関節炎、関節リウマチ、骨軟化症、軟骨石灰化症、軟骨無形成症、骨軟骨炎、骨形成不全症、先天性低ホスファターゼ血症、線維腫性病変、線維性骨異形成、多発性骨髄腫、骨溶解性骨疾患、プロテーゼ周囲骨溶解、歯周病、骨粗鬆症、異常骨代謝回転または高代謝回転型骨疾患に罹患している。
【0034】
特定の態様において、対象は原発性、二次性または三次性の副甲状腺機能亢進症に罹患している。好ましい態様において、対象は二次性副甲状腺機能亢進症(時にはSHPTと呼ばれる)に罹患している。SHPTに罹患している対象における血清PTHの低下は、骨代謝回転を低下させると期待される。他の態様において、対象は、悪性腫瘍の高カルシウム血症、または転移性骨疾患(例えば、骨癌)に罹患している。さらなる態様において、対象は骨粗鬆症に罹患している。
【0035】
1つの局面において、本発明は、以下のものを含むカルシウムモジュレーターペプチドを提供する:
a)生理的pHで正に荷電する5〜20個のアミノ酸、アミノ末端、カルボキシ末端、および第1のチオール含有残基を含むポリカチオン性ペプチドであって、アミノ末端、カルボキシ末端、またはその両方で化学修飾されている、ポリカチオン性ペプチドと、
b)第1のチオール含有残基とジスルフィド結合している第2のチオール含有残基を含むカーゴペプチド。
【0036】
もう1つの局面において、本発明は、
a)生理的pHで正に荷電する少なくとも3個のアミノ酸、第1のアミノ末端、第1のカルボキシ末端、および第1のチオール含有残基を含む第1のポリカチオン性ペプチドであって、第1のアミノ末端、第1のカルボキシ末端、またはその両方で化学修飾されている、第1のポリカチオン性ペプチドと、
b)生理的pHで正に荷電する少なくとも3個のアミノ酸、第2のアミノ末端、第2のカルボキシ末端、および第2のチオール含有残基を含む第2のポリカチオン性ペプチドであって、第2のアミノ末端、第2のカルボキシ末端、またはその両方で化学修飾されている、第2のポリカチオン性ペプチドと
を含み、かつ生理的pHで正に荷電する6〜30個のアミノ酸を含む、カルシウムモジュレーターペプチドを提供する。
【0037】
1つのさらなる局面において、本発明は、生理的pHで正に荷電する5〜20個のアミノ酸、アミノ末端、カルボキシ末端、および第1のチオール含有残基を含むポリカチオン性ペプチドを含むカルシウムモジュレーターペプチドを提供し、このポリカチオン性ペプチドはアミノ末端、カルボキシ末端、またはその両方で化学修飾されており、かつ第1のチオール含有残基は、遊離チオールとして、または保護された形態で存在しうるチオール基を含む。
【0038】
そのようないくつかの態様において、ポリカチオン性ペプチドは、第1のチオール含有残基とジスルフィド結合している第2のチオール含有残基をさらに含む。そのような場合に、ジスルフィド結合の形成は、環状ポリカチオン性カルシウムモジュレーターペプチドを形成する。
【0039】
もう1つの局面において、本発明は、ポリエチレングリコール(PEG)とコンジュゲートしてPEG化ペプチドを形成した、本明細書に記載するようなカルシウムを調節するペプチド(calcium modulating peptide)を提供する。好ましい態様において、PEGの平均分子量は約5kDa〜約40kDaである。
【0040】
1つのさらなる局面において、本発明は、本明細書にさらに記載するようなカルシウムを調節するペプチドと、1つまたは複数の薬学的に許容される添加剤とを含む薬学的組成物を提供する。
【0041】
本発明の方法において有用なペプチドは、従来の液相もしくは固相手法を用いて化学合成することもでき、または組換え的に生産することもできる。少なくとも1つの薬学的に許容される添加剤と記載のペプチドとを含む薬学的組成物は、本明細書で提供する方法との使用も想定されている。
【0042】
本発明の方法は、副甲状腺機能亢進症、骨疾患、および他の高カルシウム血症障害の治療のために有用である可能性がある。例示的な疾患には、以下のものが非限定的に含まれる:副甲状腺機能亢進症(原発性、二次性および三次性)、悪性腫瘍の高カルシウム血症、転移性骨疾患、ページェット病、骨関節炎、関節リウマチ、骨軟化症、軟骨石灰化症、軟骨無形成症、骨軟骨炎、骨形成不全症、先天性低ホスファターゼ血症、線維腫性病変、線維性骨異形成、多発性骨髄腫、骨溶解性骨疾患、プロテーゼ周囲骨溶解、歯周病、骨粗鬆症、異常骨代謝回転、および他の型の高代謝回転型骨疾患。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】KAI-1455を12.5mg/kgで12時間の静脈内注入により投与されたイヌにおけるPTHレベル、血清カルシウムレベルおよび血清リン酸塩レベル(iP)の間の関係を示している。
【図2】KAI-1455を25mg/kgの用量で12時間にわたる静脈内注入によって与えられ、12時間の注入中およびさらにEOI後の3〜6時間にカルシウム補充(2mg元素カルシウム/kg/hr)を受けたイヌにおける血清カルシウムレベルを示している。
【図3】KAI-1455を25mg/kgの用量で12時間にわたる静脈内注入によって与えられ、12時間の注入中およびさらにEOI後の3〜6時間にカルシウム補充(2mg元素カルシウム/kg/hr)を受けたイヌにおける血清リン酸塩レベルを示している。
【図4】KAI-1455を18、54、81および162mg/kg/hrの用量で12時間にわたる静脈内注入によって投与された対象のヒト血漿におけるKAI-1455の血漿中薬物動態を示している。KAI-1455の濃度(ng/mL)を、投薬前、および投薬中の1、3、6、9、12時間の時点、ならびに注入終了から2、5、7、10、15、20、30および60分後に決定した。
【図5】KAI-1455を18、54、81および162mg/kgの用量で12時間にわたる静脈内注入によって投与されたヒトにおける、注入開始時ならびに注入開始から3、6、9、12、15、18、21、24および48時間後のイオン化カルシウム(mmol/L)を示している。
【図6】KAI-1455を18、54、81および162mg/kgの用量で12時間にわたる静脈内注入によって投与されたヒトにおける、注入開始時ならびに注入開始から3、6、9、12、15、18、21、24および48時間後の総カルシウム(mg/dL)を示している。
【図7】KAI-1455を18、54、81および162mg/kgの用量で12時間にわたる静脈内注入によって投与されたヒトにおける、注入開始時ならびに注入開始から3、6、9、12、15、18、21、24および48時間後のカルシウムレベルの変化率を示している。
【図8】KAI-1455を18、54、81および162mg/kgの用量で12時間にわたる静脈内注入によって投与されたヒトにおける、注入開始時ならびに注入開始から3、6、12、15、18、24および48時間後の血漿PTHレベル(pg/mL)を示している。
【図9】KAI-1455を18、54、81および162mg/kgの用量で12時間にわたる静脈内注入によって投与されたヒトにおける、注入開始時ならびに注入開始から3、6、12、15、18、24および48時間後の血漿PTHレベルの変化率を示している。
【図10】KAI-1455を54および108mg/kgの用量で4時間にわたる静脈内注入によって投与されたヒトにおける、注入開始時ならびに注入開始から2、3、4、6、8、12、16および36時間後のイオン化カルシウム(mmol/L)を示している。
【図11】KAI-1455を54および108mg/kg/hrの用量で4時間にわたる静脈内注入によって投与されたヒトにおける、注入開始時ならびに注入開始から2、3、4、6、8、12、16および36時間時間後の総カルシウム(mg/dL)を示している。
【図12】KAI-1455を54および108mg/kg/hrの用量で4時間にわたる静脈内注入によって投与されたヒトにおける、注入開始時ならびに注入開始から2、3、4、6、8、12、16および36時間時間後の血漿PTHレベル(pg/mL)を示している。
【図13】KP-1524(SEQ ID NO:9)を9mg/kg/hrの投薬速度で3時間にわたる静脈内注入によって投与された麻酔ラット(n=4)における、注入前ならびに1、2、3および4時間の時点の総カルシウム(mg/dL)および血漿PTH(pg/mL)を示している。
【図14】KP-9706(SEQ ID NO:6)を9mg/kg/hrの投薬速度で3時間にわたる静脈内注入によって投与された麻酔ラット(n=4)における、注入前ならびに1、2、3、4、および24時間の時点の総カルシウム(mg/dL)レベルを示している。
【図15】KAI-1455(SEQ ID NO:7)、KP-9706(SEQ ID NO:6)およびKP-9803(SEQ ID NO:8)に関する、ラットEDTA血漿におけるインビトロ血漿中安定性データを示している。
【発明を実施するための形態】
【0044】
発明の詳細な説明
本発明は、副甲状腺機能亢進症、骨疾患および/または他の高カルシウム血症性障害を予防、治療または緩和するためにポリカチオン性ペプチドを用いる方法に関する。
【0045】
本明細書で用いる場合、「副甲状腺機能亢進症」という用語は、別に指示する場合を除き、原発性、二次性、および三次性の副甲状腺機能亢進症のことを指す。好ましい態様においては、二次性副甲状腺機能亢進症を有する対象を、血漿PTHレベルを低下させるために、本発明のカルシウムモジュレーターペプチドを用いて治療する。中程度に重症な副甲状腺機能亢進症を有する未治療のSHPT患者はしばしば、300pg/mlを上回るベースラインの流血中インタクトPTHレベル、および600pg/mLを上回るレベルを有する。好ましい態様において、血清PTHの低下は、治療前ベースラインレベル未満へのインタクトPTHの低下として測定される。
【0046】
本明細書で用いる場合、「カルシウムモジュレーターペプチド」とは、1つまたは複数のポリカチオン性ペプチドと生理的pHで正に荷電する合計3〜30個のアミノ酸とを含むペプチドのことであり、ここで正に荷電したアミノ酸はポリカチオン性ペプチドの内部に含まれ、このカルシウムモジュレーターペプチドは、1つもしくは複数の標的組織におけるまたは対象における、血清PTHおよび/またはカルシウムレベルを低下させることができる。ある態様において、カルシウムモジュレーターペプチドは、カルシウムモジュレーターペプチドの治療的有効量がそのような治療を必要とする対象に投与された場合に、血清PTHおよび/または血清カルシウムレベルを低下させることができる。好ましい態様において、カルシウムモジュレーターペプチドは、生理的pHで正に荷電する5〜20個のアミノ酸を含む。特に好ましい態様において、カルシウムモジュレーターペプチドは、生理的pHで正に荷電する6〜12個のアミノ酸を含む。本発明のカルシウムモジュレーターペプチドは、正に荷電したアミノ酸残基を含め、合計約4〜35個のアミノ酸残基を含む。
【0047】
ある態様において、本発明のカルシウムモジュレーターペプチドは、それぞれがチオール含有残基を含むポリカチオン性ペプチドおよびカーゴペプチドを含み、チオール含有残基はジスルフィド結合によって結びついている。
【0048】
他の態様において、カルシウムモジュレーターペプチドは、ジスルフィド結合によって結びついた、それぞれがチオール含有残基を含む2つのポリカチオン性ペプチドを含む。そのようないくつかの態様において、第1のポリカチオン性ペプチドと第2のポリカチオン性ペプチドは同じであり、このためジスルフィド結合の形成はホモ二量体構造を形成する。他の態様において、第1のポリカチオン性ペプチドと第2のポリカチオン性ペプチドは異なり、このためジスルフィド結合の形成はヘテロ二量体構造を形成する。
【0049】
さらなる態様において、カルシウムモジュレーターペプチドは単一のポリカチオン性ペプチドと少なくとも1つのチオール含有残基とを含み、ここでチオール含有残基は遊離チオールを含むか、またはチオール部分は保護された形態として存在する。そのようないくつかの態様において、カルシウムモジュレーターペプチドは、単一のポリカチオン性ペプチドと、互いにジスルフィド結合した2つのチオール含有残基(すなわち、チオール部分はジスルフィド基として内部で「保護」されている)とを含み、ジスルフィド結合の形成は環状カルシウムモジュレーターペプチドをもたらす。
【0050】
本明細書で用いる場合、「ポリカチオン性ペプチド」とは、生理的pHで正に荷電する2〜30個のアミノ酸と少なくとも1つのチオール含有残基とを含むペプチドを指し、ここでポリカチオン性ペプチドはペプチドのアミノ末端、カルボキシ末端、またはその両方で化学修飾されている(すなわち、「キャッピングされている」)。
【0051】
ポリカチオン性ペプチドの長さは、合計で3〜35アミノ酸残基、好ましくは合計で5〜25アミノ酸残基であってよく、単一の正に荷電したアミノ酸残基の繰り返しからなってもよく、または種々の天然もしくは非天然のアミノ酸残基を含んでもよい。好ましい態様において、ポリカチオン性ペプチドは、5〜20個の正に荷電したアミノ酸、好ましくは5〜15個の正に荷電したアミノ酸、より好ましくは6〜12個の正に荷電したアミノ酸を含む。
【0052】
いくつかの態様において、カルシウムを調節するペプチドはポリカチオン性ペプチドを1つしか含まない。他の態様において、カルシウムを調節するペプチドは2つのポリカチオン性ペプチドを含み、そのそれぞれは好ましくは3〜10個の正に荷電したアミノ酸を含む。
【0053】
好ましいポリカチオン性ペプチドには、TAT由来ペプチド、例えばSEQ ID NO:5の配列を有するキャッピングされたCys-TATペプチド、またはSEQ ID NO:29の配列を有する切断型ペプチドが含まれる。3〜7個のアルギニン残基を含むポリカチオン性ペプチドも同じく好ましい。いくつかの態様において、アルギニン残基はSEQ ID NO:19〜26の配列を有するキャッピングされたポリアルギニンペプチドのように連続的である。他の態様において、ポリカチオン性ペプチドは、SEQ ID NO:32を有するペプチドのように非連続的な3〜7個のアルギニン残基を含みうる。
【0054】
本明細書で用いる場合、「正に荷電したアミノ酸」という用語は、生理的pH(血漿中はほぼ7.4)で正に荷電するアミノ酸残基を指す。
【0055】
正に荷電したアミノ酸は、生理的pHで正に荷電し、L配置もしくはD配置のいずれかを有する、天然もしくは非天然のアミノ酸、またはそれらのラセミ体、または任意の程度のキラル純度を有するそれらの混合物から独立に選択される。いくつかの態様において、正に荷電したアミノ酸は天然のアミノ酸から選択される。他の態様において、正に荷電したアミノ酸は天然および/または非天然のアミノ酸から選択される。特定の態様において、正に荷電したアミノ酸は、ヒスチジン、リジン、アルギニン、2,3-ジアミノプロピオン酸(Dap)、2,4-ジアミノ酪酸(Dab)、オルニチン、およびホモアルギニンからなる群より独立に選択される。
【0056】
ひとたび治療用ペプチドが対象の血漿に入ると、それはペプチダーゼによる攻撃を受けやすくなる。エキソペプチダーゼは典型的には、アミノ酸残基をペプチドまたはタンパク質のアミノ末端またはカルボキシ末端から切断する非特異的な酵素である。アミノ酸配列の内部を切断するエンドペプチダーゼも非特異的でありうる;しかし、エンドペプチダーゼは往々にして、特定のアミノ配列(認識部位)を認識して、そのような部位またはその付近にあるペプチドを切断する。
【0057】
ペプチド組成物をタンパク質分解から保護する一つの方法は、ペプチドのアミノ末端および/またはカルボキシ末端を「化学修飾」または「キャッピング」することを伴う。本明細書で用いる場合、「化学修飾された」または「キャッピングされた」という用語は、共有結合性修飾を介したペプチドの末端へのブロッキング基の導入のことを指して互換的に用いられる。適したブロッキング基は、ペプチドの生物活性を低下させることなくペプチドの末端をキャッピングする役を果たす。
【0058】
理論に拘束されることは望まないが、ポリカチオン性ペプチドの少なくとも1つの末端のキャッピングは、治療的に意味のあるレベルでのインビボでのPTHおよび/またはカルシウム低下を達成するための十分な血漿中安定性および曝露を得るために重要と考えられている。そのようなブロッキング基または「キャッピング」基は、血清プロテアーゼによるタンパク質分解からペプチドを保護するために有用と思われる。
【0059】
記載したペプチドのアミノ末端のアセチル化は、タンパク質分解からペプチドを保護する好ましい方法である。記載したペプチドのカルボキシ末端のアミド化も、タンパク質分解からペプチドを保護する好ましい方法である。しかし、他のキャッピング基も可能である。例えば、アミノ末端をアシル化またはスルホニル化によってキャッピングしてアミドまたはスルホンアミドを形成させることができる。同様に、カルボキシ末端をエステル化すること、または二級アミドおよびアシルスルホンアミドなどに変換することもできる。いくつかの態様において、アミノ末端またはカルボキシ末端はPEG化の部位を含むことができ、すなわち、アミノ末端またはカルボキシ末端を、適した官能化がなされたPEGとの反応によって化学修飾することができる。
【0060】
ペプチドをエンドペプチダーゼから保護することは、典型的には、エンドペプチダーゼ認識部位の同定およびペプチドからの削除を伴う。プロテアーゼ認識部位は当業者に周知である。したがって、可能性のあるエンドプロテアーゼ認識部位を同定し、続いて認識部位の内部のアミノ酸配列を変更することによってその部位を削除することが可能である。認識部位を破壊するために認識配列中の残基を移動または除去することができる。好ましくは、同定されたプロテアーゼ認識部位を含むアミノ酸の1つまたは複数を用いて保存的置換を行う。
【0061】
好ましい態様においては、ポリカチオン性ペプチドのアミノ末端がアセチル化によって化学修飾されて、N-アセチルペプチドがもたらされる。さらに好ましい態様においては、ポリカチオン性ペプチドのカルボキシ末端がアミド化によって化学修飾されて、C末端に第一カルボキサミドがもたらされる。1つの特に好ましい態様においては、アミノ末端およびカルボキシ末端の両方が、それぞれアセチル化およびアミド化によってキャッピングされる。
【0062】
本明細書で用いる場合、「チオール含有残基」という用語は、それがポリペプチド中に組み込まれ得るようにアミノ基および/またはカルボキシ基を含む、チオール含有アミノ酸またはチオール含有化合物のことを指し、ここでチオール基は保護された形態にあっても保護されていない形態にあってもよく、そのチオール基が遊離形態にある場合にはジスルフィド結合を形成することができる。
【0063】
チオール含有残基の代表的な例には、例えば、システイン、ホモ-システイン、およびメルカプトプロピオン酸が含まれる。チオール含有残基がキラル中心を含む場合には、それはL配置もしくはD配置で、またはラセミ体として、または任意の程度のキラル純度で存在してよい。頻度の高い態様において、チオール含有残基はシステインまたはホモシステインを含む。
【0064】
チオール含有残基は、アミノ末端、カルボキシ末端または他のいくつかの位置を含む、ポリカチオン性ペプチド鎖に沿った任意の位置に配置されてよい。化学合成が容易になるように、チオール含有残基は往々にして、保護された形態にあるチオール部分を含む構成単位を用いてペプチド鎖と結び付けられる。
【0065】
いくつかの態様において、ポリカチオン性ペプチドとカーゴペプチドとの間または第1と第2のポリカチオン性ペプチドの間に、ジスルフィド結合を形成するチオール含有残基は同一である(すなわち、システインとシステイン、またはホモシステインとホモシステイン)。他の態様において、2つのチオール含有残基は異なってもよい。
【0066】
ある態様において、チオール含有アミノ酸は保護された形態にあってよい。チオール部分のための適した保護基には、例えば、チオエステル誘導体、特にチオアセチルまたはチオベンゾイル誘導体;チオカーボネート;ヘミチオアセタール、例えば1-エトキシエチル、メトキシメチルおよびポリオキシメチレンチオエステルなど;ならびにジスルフィド保護基、例えばチオール含有残基の遊離チオールと置換型または非置換型チオフェノール部分との間に形成されるジスルフィドなどが含まれる。
【0067】
いくつかの態様において、チオール保護基はインビボで切断可能であってよい。そのような保護されたチオール含有残基は、プロドラッグとして機能して、遊離チオールを遮蔽し、そのような保護されたチオール含有残基を含むカルシウムモジュレーターペプチドの物理化学的、薬物動態的、および/または薬力学的特性を修飾することができる。
【0068】
連結チオール含有残基は、ポリカチオン性ペプチドおよび/またはカーゴペプチドの配列中の任意の位置に配置することができる。例えば、第1および第2のチオール含有残基は、ある態様では2つのポリカチオン性ペプチドのアミノ末端に位置してよく、または別の態様ではポリカチオン性ペプチドおよびカーゴペプチドのアミノ末端に位置してよい。連結チオール含有残基はペプチドのカルボキシ末端に配置することができ、または代替的にはポリカチオン性ペプチドおよびカーゴペプチドのうち一方のアミノ末端、およびもう一方のペプチドのカルボキシ末端に配置することもできる。加えて、連結チオール含有残基をポリカチオン性ペプチドおよび/またはカーゴペプチドの一方または両方の配列内部の任意の場所に配置することもできる。
【0069】
いくつかの態様において、第1のチオール含有残基は、第1のポリカチオン性またはポリカチオン性ペプチドのアミノ末端またはカルボキシ末端に位置する。他の態様において、第1のチオール含有残基は、第1のポリカチオン性またはポリカチオン性ペプチドのアミノ末端またはカルボキシ末端以外の場所に位置する。いくつかの態様において、第2のチオール含有残基は、第2のポリカチオン性ペプチドまたはカーゴペプチドのアミノ末端またはカルボキシ末端に位置する。他の態様において、第2のチオール含有残基は、第2のポリカチオン性ペプチドまたはカーゴペプチドのアミノ末端またはカルボキシ末端以外の場所に位置する。
【0070】
好ましい態様において、第1および第2のチオール含有残基はどちらもシステイン残基である。他の態様においては、2つのポリカチオン性ペプチドの間に、またはポリカチオン性ペプチドとカーゴペプチドとの間にジスルフィド結合を形成させるために、ホモシステイン類似体を用いることもできる。例えば、カーゴペプチド、ポリカチオン性ペプチドまたはその両方にホモシステインを用いることができ、それは組成物を安定化してジスルフィド結合交換を減少させる可能性がある。他のシステイン相同体もジスルフィド結合形成のために有用である。同様に、システインおよびホモシステインの立体異性体もジスルフィド結合交換を阻害すると考えられる。
【0071】
いくつかの態様において、第2のチオール含有残基は、第1および第2のチオール含有残基の間のジスルフィド結合の形成が環状ポリカチオン性ペプチドを形作るような、ポリカチオン性ペプチド中の別の残基である。
【0072】
本明細書で用いる場合、「カーゴペプチド」という用語は、第2のチオール含有残基を含む、5〜25アミノ酸のペプチドのことを指す。頻度の高い態様において、カーゴペプチドは、第1および第2のチオール含有残基の間の分子間ジスルフィド結合の形成を通じてポリカチオン性ペプチドと共有結合される。場合によっては、カーゴペプチドは正に荷電したアミノ酸残基を含んでもよい。しかし、正に荷電したアミノ酸残基の存在は、カーゴペプチドの必要な特徴ではない。ある態様において、カーゴペプチドはアイソザイム特異的なPKCモジュレーターペプチドを含む。
【0073】
本明細書で用いる場合、化合物は、PKCアイソザイムを区別することのできない非特異的なペプチドまたは化合物とは異なり、それが骨リモデリングおよび/またはカルシウム恒常性に関与する特定のPKCアイソザイムに対して作用するならば「アイソザイム特異的」である。
【0074】
本明細書で用いる場合、「PKCモジュレーターペプチド」は、1つまたは複数の標的組織におけるPKCアイソザイムの活性を、完全または部分的に活性化または阻害しうる化合物と定義される。PKCモジュレーターペプチドは、異なる組織において、異なるアイソザイム特異性、活性化もしくは阻害作用、および/または異なるレベルの活性化もしくは阻害作用(完全もしくは部分的)を示してもよい。
【0075】
いくつかの態様において、カーゴペプチドはPKCモジュレーターペプチドであり、PKCモジュレーターペプチドは、SEQ ID NO:1および2からなる群より選択されるペプチドに対して50%を上回る配列同一性を含むアミノ酸配列を含む。他の方法において、PKCモジュレーターペプチドは、SEQ ID NO:1および2からなる群より選択されるペプチドの5〜9個の連続した残基を含むアミノ酸配列を含む。ある方法において、PKCモジュレーターペプチドは、SEQ ID NO:1および2からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む。他の態様において、カーゴペプチドはPKCモジュレーターペプチドであり、PKCモジュレーターペプチドは、PKC調節活性を有することが判明しているペプチドに対して50%を上回る配列同一性を含むアミノ酸配列を含む。
【0076】
他の態様において、本発明のカルシウムモジュレーターペプチドは、SEQ ID NO:6、7、8、9、10、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、28、28、31、および32からなる群より選択されるペプチドに対して50%を上回る配列同一性を含むアミノ酸配列を含む。さらなる態様において、カルシウムモジュレーターペプチドは、SEQ ID NO:6、7、8、9、10、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、28、28、31、および32からなる群より選択されるペプチドの6〜15個の連続した残基を含むアミノ酸配列を含む。ある方法において、カルシウムモジュレーターペプチドは、SEQ ID NO:7、9、10、および12からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む。
【0077】
特定の態様において、カルシウムモジュレーターペプチドは、本明細書でさらに記載するように、カーゴペプチドとジスルフィド結合したポリカチオン性ペプチドを含む。好ましい態様において、カルシウムモジュレーターペプチドは、SEQ ID NO:7、SEQ ID NO:9、SEQ ID NO:10、またはSEQ ID NO:12の配列を有するペプチドから選択される。
【0078】
他の態様において、カルシウムモジュレーターペプチドは、本明細書でさらに記載するように、第2のポリカチオン性ペプチドとジスルフィド結合した第1のポリカチオン性ペプチドを含む。好ましい態様において、カルシウムモジュレーターペプチドは、SEQ ID NO:13、SEQ ID NO:15、SEQ ID NO:16、SEQ ID NO:17、SEQ ID NO:18の配列を有するペプチドから選択される。
【0079】
他の態様において、カルシウムモジュレーターペプチドは、第1のチオール含有残基を含む単一のポリカチオン性ペプチドを含み、本明細書でさらに記載するように、ここでチオール基は保護された形態または保護されていない形態で存在する。いくつかのそのような態様において、カルシウムモジュレーターペプチドは、ジスルフィド結合の形成が環状ペプチドを形作るように、第2のチオール含有残基をさらに含む。好ましい態様において、カルシウムモジュレーターペプチドは、SEQ ID NO:5、SEQ ID NO:14、SEQ ID NO:19〜26、SEQ ID NO:29、またはSEQ ID NO:32の配列を有するペプチドから選択される。
【0080】
KAI-1455(SEQ ID NO:7)は、アイソザイム特異的なPKCモジュレーターペプチドをカーゴペプチドとして含む。他のカーゴペプチドを含むカルシウムを調節するペプチド、例えば、KP-1524(SEQ ID NO:9)も、ラットにおける総カルシウムおよびPTHレベルをKAI-1455と同等なレベルで有意に低下させた(実施例11および12)。理論に拘束されることは望まないが、カーゴペプチドに対するジスルフィド結合は、インビボでポリカチオン性ペプチドを保護して、血漿中でのその作用持続時間を延長させるプロドラッグとして作用することが可能である。理論に拘束されることは望まないが、カーゴペプチドは、カルシウムおよびPTHの調節活性を増強または安定化するプロドラッグ形態をもたらしうる可能性がある。
【0081】
本発明のカルシウムを調節するペプチドは少なくとも1つのチオール含有残基を含み、ここでチオール基は遊離チオール、保護されたチオールとして存在してもよく、または第2のチオール含有残基とジスルフィド結合していてもよい。頻度の高い態様において、カルシウムを調節するペプチドは、互いにジスルフィド結合している少なくとも2つのチオール含有残基を含む。
【0082】
遊離チオール基を有する単一のチオール含有残基を含むカルシウムを調節するペプチドは、KAI-1455に関して示されているものと同等なレベルの活性をインビトロで示している。例えば、遊離チオールを含むN末端システイン残基を有するキャッピングされたTAT由来ペプチド(SEQ ID NO:5)は、インビトロで検査した場合、KAI-1455と同等な活性を示した。
【0083】
遊離チオール基を有する単一のチオール含有残基を含むカルシウムを調節するペプチドは、それ自体で本発明の方法に有用な可能性もあり、または、本明細書でさらに記載するように、遊離チオール基をインビボで切断可能な保護基の内部に保護することによって、チオール基をプロドラッグとして投与することもできる。治療薬を含むチオールの保護のための、そのような基は当技術分野で公知である。
【0084】
もう1つの局面において、本発明は、ポリカチオン性ペプチド(本明細書でさらに記載したような)と少なくとも1つの薬学的に許容される添加剤とを含む薬学的組成物を提供する。
【0085】
もう1つの局面において、本発明は、副甲状腺機能亢進症、高カルシウム血症および/または骨疾患を治療するための方法を提供し、本方法は、本明細書に記載したようなカルシウムモジュレーターペプチドの治療的有効量を投与する段階を含み、再吸収抑制性ビスホスフォネート薬、インテグリン遮断薬、ホルモン補充治療薬、選択的エストロゲン受容体調節薬、カテプシンK阻害薬、ビタミンD療法、抗炎症薬、低用量PTH療法、カルシトニン、RANKリガンドの阻害薬、RANKリガンドに対する抗体、オステオプロテグリン、アデノシン拮抗薬、およびATPプロトンポンプ阻害薬からなる群より選択される薬剤の治療的有効量によって対象を治療する段階をさらに含む。
【0086】
本発明のもう1つの局面において、カルシウムモジュレーターペプチドは、血清PTHまたはPTHの影響を低下させるために有効な量で投与される。
【0087】
いくつかの態様において、血清PTHの低下は、カルシウムモジュレーターペプチドの投与後少なくとも10時間にわたって、ベースラインの治療前レベルよりも少なくとも1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、25%または30%低い。特定の態様において、血清PTHの低下は投与後10時間の時点で少なくとも20%である。好ましい態様において、血清PTHの低下は、カルシウムモジュレーターペプチドの投与後少なくとも48時間にわたって、ベースラインの治療前レベルよりも15〜40%、好ましくは20〜50%、より好ましくは30〜70%低い。
【0088】
本発明のもう1つの局面において、カルシウムモジュレーターペプチドは、血清カルシウムまたはカルシウムの影響を低下させるために有効な量で投与される。
【0089】
いくつかの態様において、血清カルシウムの低下は、カルシウムモジュレーターペプチドの投与後少なくとも10時間にわたって、ベースラインの治療前レベルよりも少なくとも1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、または25%低い。好ましい態様において、血清カルシウムの低下は、投与後10時間の時点で少なくとも5%である。好ましい態様において、血清カルシウムの低下は、カルシウムモジュレーターペプチドの投与後少なくとも48時間にわたって、ベースラインの治療前レベルよりも5〜10%、好ましくは5〜20%低い。
【0090】
もう1つの局面において、本発明は、それを必要とする対象における副甲状腺機能亢進症および/または高カルシウム血症を治療するための方法を提供し、本方法は、SEQ ID NO:7、SEQ ID NO:9、SEQ ID NO:10、またはSEQ ID NO:12からなる群より選択されるペプチドに対して50%を上回る配列同一性を含むアミノ酸配列を含むポリカチオン性ペプチドの治療的有効量を投与し、それによって血清PTHおよび/またはカルシウムを低下させる段階を含む。
【0091】
本出願においては、別に明記する場合を除き、用語の定義および本出願の手法の実例は、以下のもののような、いくつかの周知の参考文献のいずれかに見いだすことができる:Sambrook, J., et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989);Goeddel, D., ed., Gene Expression Technology, Methods in Enzymology, 185, Academic Press, San Diego, CA (1991);「Guide to Protein Purification」, Deutshcer, M.P., ed., Methods in Enzymology, Academic Press, San Diego, CA (1989);Innis, et al., PCR Protocols: A Guide to Methods and Applications, Academic Press, San Diego, CA (1990);Freshney, R.I., Culture of Animal Cells: A Manual of Basic Technique, 2nd Ed., Alan Liss, Inc. New York, NY (1987);Murray, E.J., ed., Gene Transfer and Expression Protocols, pp. 109-128, The Humana Press Inc., Clifton, NJ and Lewin, B., Genes VI, Oxford University Press, New York (1997)。
【0092】
本発明は、本発明の好ましい態様に関する以下の詳細な説明、および本明細書に含まれる実施例を参照することによってより容易に理解されよう。しかし、本発明の方法を開示および記載する前に、本発明が特定の核酸、特定のポリペプチド、特定の細胞種、特定の宿主細胞、特定の条件、または特定の方法などには限定されず、それらが当然ながら異なってもよく、その中でのさまざまな修正および変更が当業者には明らかと考えられることが理解される必要がある。また、本明細書で用いる用語は特定の態様を説明することのみが目的であり、本発明の範囲を限定することは意図していないことも理解される必要がある。さらに、本明細書で特に定義しない限り、本明細書で用いる用語は、関連技術分野で公知であるその慣例的な意味が与えられることも理解される必要がある。
【0093】
本明細書で用いる場合、単数形の「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」は、別の指示がなされない限り、複数のものに関する言及も含む。例えば、「1つの(a)」モジュレーターペプチドは、複数のモジュレーターペプチドの1つを含む。
【0094】
本明細書で用いる場合、「治療的有効量」とは、所望の治療効果を生じさせるために必要な量のことである。例えば、高カルシウム血症の対象における血清カルシウムを低下させるための方法において、治療的有効量は、血清カルシウムレベルを少なくとも1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%または25%低下させるために必要な量である。
【0095】
本明細書で用いる場合、「対象」とは、高カルシウム血症および/または骨疾患を有するヒト対象または動物対象のことを指す。
【0096】
本明細書で用いる場合、「ペプチド」および「ポリペプチド」は互換的に用いられ、ペプチド結合によって連結したアミノ酸配列の鎖で構成される化合物のことを指す。別に指示する場合を除き、ペプチドの配列はアミノ末端からカルボキシル末端への順序で与えられる。
【0097】
2つのアミノ酸配列の相同性の割合を決定するためには、最適な比較を目的として配列のアラインメントを行う(例えば、もう一方のポリペプチドとの最適なアラインメントのために一方のポリペプチドの配列中にギャップを導入することができる)。続いて、対応するアミノ酸位置にあるアミノ酸残基を比較する。一方の配列中の位置が、もう一方の配列中の対応する位置にあるものと同じアミノ酸残基で占められている場合には、これらの分子はその位置で同一である。本明細書で用いる場合、アミノ酸または核酸の「相同性」は、アミノ酸または核酸の「同一性」と等価である。したがって、2つの配列間の配列同一性の割合は、配列によって共有される同一な位置の数の関数である(すなわち、配列同一性の割合=同一な位置の数/位置の総数×100)。
【0098】
本発明の目的において、2つのポリペプチド配列間の配列同一性の割合は、Vector NTI 6.0(PC)ソフトウエアパッケージ(InforMax, 7600 Wisconsin Ave., Bethesda, MD 20814)を用いて決定される。ギャップオープンペナルティ(gap opening penalty)10およびギャップ伸長ペナルティ(gap extension penalty)0.1が、2つのポリペプチドの同一性の割合の決定のために用いられる。他のすべてのパラメーターはデフォルト設定に設定される。
【0099】
ペプチドまたはペプチド断片は、それが親ペプチドまたはポリペプチドの少なくとも5アミノ酸残基の連続した配列に対して同一または相同なアミノ酸配列を有するならば、親ペプチドまたはポリペプチドに「由来する」。
【0100】
本明細書で用いる場合、「保存的アミノ酸置換」とは、選択されたポリペプチドまたはタンパク質の活性および三次構造の意味のある変化を引き起こさない置換のことである。そのような置換は、典型的には、選択されたアミノ酸残基を、類似の物理化学特性を有する異なる残基によって置き換えることを伴う。物理化学特性によるアミノ酸のグループ分けは当業者に公知である。例えば、類似の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーが当技術分野で定義されており、これには塩基性側鎖(例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β分枝側鎖(例えば、トレオニン、バリン、イソロイシン)および芳香族側鎖(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)が含まれる。
【0101】
本発明のもう1つの局面は、単離されたポリペプチドおよびそれらの生物活性部分に関する。本明細書で用いる場合、「単離された」もしくは「精製された」ポリペプチド、またはそれらの生物活性部分は、組換えDNA法によって生産された場合には細胞材料のいくつかを、または化学合成された場合には前駆化学物質もしくは他の化学物質を含まない。「細胞材料を実質的に含まない」という言葉には、ポリペプチドが、自然下でまたは組換え的に生産された細胞の細胞成分のいくつかから分離されているようなポリペプチドの調製物が含まれる。
【0102】
ポリペプチドまたはその生物活性部分が組換え的に生産された場合、それは好ましくは培養基も実質的に含まない、すなわち、培養基はポリペプチド調製物の容積の約20%未満、より好ましくは約10%未満、最も好ましくは約5%未満に相当する。「前駆化学物質または他の化学物質を実質的に含まない」という言葉には、ポリペプチドがポリペプチドの合成に関与する前駆化学物質または他の化学物質から分離されているような、ポリペプチドの調製物が含まれる。1つの態様において、「前駆化学物質または他の化学物質を実質的に含まない」という言葉には、前駆化学物質または他の化学物質を約30%未満(乾燥重量比で)、より好ましくは前駆化学物質または他の化学物質を約20%未満、さらにより好ましくは前駆化学物質または他の化学物質を約10%未満、最も好ましくは前駆化学物質または他の化学物質を約5%未満しか有しない、ポリペプチドの調製物が含まれる。好ましい態様において、単離されたポリペプチドまたはその生物活性部分は、ドメインポリペプチドが由来する同じ生物から混入したポリペプチドを含まない。
【0103】
ポリカチオン性ペプチドをカーゴペプチドとコンジュゲートさせるための非限定的な方法には、ジスルフィド結合を介したコンジュゲーション、および一本鎖または線状ポリペプチドとしての合成が含まれる。ポリカチオン性ペプチドはまた、リンカーを介してカーゴペプチドとコンジュゲートさせることもできる。いくつかの態様において、リンカーは1〜5アミノ酸のペプチド、2〜4アミノ酸のペプチドまたは2〜3アミノ酸のペプチドである。
【0104】
PKCアイソザイムのペプチドモジュレーター
PKCアイソザイムの種々のペプチドモジュレーターがこれまでに記載されている。例えば、米国特許第5,783,405号は、β、θ、δ、ε、およびγアイソザイムを含むPKCアイソザイムの活性を調節する数多くのペプチドを記載している。出願中の米国特許出願第10/843,271号は、δPKCモジュレーターペプチドおよびそれらの誘導体を記載している。米国特許第6,165,977号は、εPKC調節ペプチドおよびそれらの誘導体を記載している。米国特許第6,855,693号は、α、βI、βII、γ、δ、ε、η、μ、θ、およびζアイソザイムからの種々のモジュレーターペプチドおよび修飾断片を記載している。それぞれの特許および特許出願は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0105】
PKCアイソザイム特異的な阻害ペプチドは、特定のアイソザイムのC2/V1ドメインに位置する特異的なRACK結合部位に由来してよい。アイソザイム特異的なペプチドモジュレーターは、対応するRACK中の配列に類似している、各PKCアイソザイム中のプソイドRACK(ΨRACK)配列に由来してもよい。ΨRACK配列は、PKCのRACK結合部位との分子内相互作用を生じ、不活性または「閉鎖」コンフォメーションを安定化すると考えられている。この分子内相互作用を妨げるペプチドは不活性型を不安定化して、PKC転位およびRACK結合を増強することができる。Chen et al. Proc. Nat. Acad. Sci. 2001; 98:11114-11119。
【0106】
アイソザイム特異的なペプチドモジュレーターは、細胞膜を越えるペプチドの輸送を容易にするのに有効な担体部分とコンジュゲートさせることができる。担体部分の例には、TAT由来ペプチド、アンテナペディア担体ペプチドおよびポリアルギニンペプチドが非限定的に含まれる。TATとコンジュゲートさせたペプチドは、循環を介して臓器内に有効に送達されることが報告されており、この送達様式は、この送達が即時的であり、そのため、シグナル伝達モジュレーターによって誘導される順応を受けにくいと考えられるため、遺伝子の標的指向性送達を上回る利点をもたらすと思われる。
【0107】
アミノ酸配列HDAPIGYD(SEQ ID NO:1)を含むΨεRACKは、RACK結合部位を露出するコンフォメーションにあるεPKCと結合してそれを安定化し、それによってεPKCとそのRACKとの結合を可能にするように設計された、アイソザイム選択的ペプチドである。ΨεRACKは、PKCの低分子活性化因子(ジアシルグリセロール(DAG)またはホルボールエステル)とはいくつかの重要な点で異なる。第1に、ΨεRACKは、DAGまたはホルボールエステルと比べるとεPKC上の異なる部位と結合する。第2に、ΨεRACKはεPKCアイソフォーム中のそのアイソフォームに特有な部位のみと結合するが、DAGおよびホルボールエステルはすべてのPKCに共通する部位と結合する。ΨεRACKのこの特異性は、非選択的分子を上回る大きな利点を与える。最後に、ΨεRACK治療は、長期間にわたって投与された場合であってもεPKC転位に関してわずかな生理的シフトしかもたらさない。これらのデータにより、ΨεRACKはεPKCの活性を強化するが、PKCがDAGによって活性化される様式のようにPKCを直接的には活性化しないことが示唆される。
【0108】
εPKCの転位は、虚血プレコンディショニングにおいて重要な役割を果たすことが報告されている。ΨεRACK(SEQ ID NO:1)はインビボおよびエクスビボで虚血-再灌流傷害に対する心保護効果を示しており、εPKCの脱感作もダウンレギュレーションも引き起こすことなく虚血-再灌流傷害中の致死性不整脈の発生率を低下させている。
【0109】
εPKCはまた、神経系、内分泌系、外分泌系、炎症系、および免疫系の活性化の制御にも役割を果たすことが報告されている。εPKCの制御された活性化はアルツハイマー病の発症において防御的役割を果たす可能性があり、一方制御されない慢性的な活性化は、悪性腫瘍および糖尿病などの重篤疾患をもたらす可能性がある。
【0110】
生体膜を越える輸送を容易にするために、N末端システインを含み、アミノ酸配列
を含むΨεRACKペプチドを、ポリカチオン性ペプチドと共有結合させることができる。
【0111】
ジスルフィド結合を介してTAT(SEQ ID NO:4)とコンジュゲートしたSEQ ID NO:2のペプチドを含むε-PKCモジュレーターペプチド(SEQ ID NO:6)、およびジスルフィド結合を介してN-アシル化C-アミド化TAT(SEQ ID NO:5)とコンジュゲートしたSEQ ID NO:2のペプチドを含むカルシウムモジュレーターペプチド(SEQ ID NO:7)を調製した。本明細書においてKAI-1455(またはKP-1455)とも称するSEQ ID NO:7を含むペプチドは、以下に示す構造を有する。
【0112】
驚くべきことに、KAI-1455(SEQ ID NO:7)は、高用量動物毒性試験において血清カルシウムレベルの有意な低下を引き起こした。KAI-1455の静脈内注入後の血清カルシウムレベルの低下は、3つの種(ラット、イヌ、および臨床状況下のヒト対象)で観察された。カルシウム最低値は注入の終了時に起こるようである一方、カルシウム抑制は注入の終了後24時間以上にわたって持続しうる。血清カルシウムに対する影響は用量依存的かつ可逆的である。
【0113】
男性志願者に対する12時間注入によって投与されたKAI-1455(SEQ ID NO:7)の単一用量増加試験では、イオン化カルシウムおよび総カルシウムの有意な低下が観察され、最大の低下はEOIの前後であった。15%を上回るカルシウムの最大変化率は最も高い濃度(162mg/kg、12時間)で観察された。同じ試験中に、血漿PTHレベル(pg/mL)の用量依存的な低下が観察され、最大の低下はEOIで観察された。最高用量群(162mg/kg、12時間)の対象については、PTHの有意な低下がEOI時およびEOIの12時間後に観察され、治療前のベースラインレベルを下回る持続的低下がEOIの36時間後も依然として観察された。81および162mg/kg用量群の対象では血漿PTHレベルの40%を上回る最大の低下率が観察され、レベルはEOIの12時間後にも依然としてベースラインよりも有意に低かった。
【0114】
低用量のKAI-1455を3時間の静脈内注入によって投与されたイヌでは、血清カルシウムの有意な変化は観察されなかった。しかし、注入終了の直前である2.75時間の時点ではPTHレベルは上昇していた。低カルシウム血症を生じさせるのに十分な用量のKAI-1455が投与されたイヌでは、血清PTHの低下が観察された。
【0115】
血清カルシウムと骨代謝とPTHとの関係に基づき、本発明者らは、本発明のカルシウムモジュレーターペプチド、例えばKAI-1455などは、副甲状腺機能亢進症ならびにさまざまな形態の骨疾患および/または高カルシウム血症の治療のために有益であると考えている。これらの化合物は、非経口的に投与することができ、胃腸有害作用を伴わないと可能性があり、シトクロムP450によって代謝されず、血清PTHおよびカルシウムのより効果的な低下をもたらし得ることから、現行の治療薬と比べて利点がある可能性がある。
【0116】
本発明の方法は単独で用いてもよく、または高カルシウム血症および/もしくは骨疾患の治療のための他のアプローチと併用してもよい。そのような他のアプローチには、再吸収抑制性ビスホスフォネート薬、例えばアレンドロネートおよびリセドロネートなど;インテグリン遮断薬、例えばαvβ3拮抗薬など;ホルモン補充療法に用いられる抱合型エストロゲン、例えばPREMPRO(商標)、PREMARIN(商標)およびENDOMETRION(商標)など;選択的エストロゲン受容体調節薬(SERM)、例えばラロキシフェン、ドロロキシフェン、CP-336,156(Pfizer)、およびラソフォキシフェンなど;カテプシンK阻害薬;ビタミンD療法;低用量PTH治療(エストロゲンと併用または単独で);カルシトニン;RANKリガンドの阻害薬;RANKリガンドに対する抗体;オステオプロテグリン;アデノシン拮抗薬;およびATPプロトンポンプ阻害薬など、薬剤による治療が非限定的に含まれる。
【0117】
PTHは典型的には骨吸収にかかわるが、ある種の条件下ではPTHが骨芽細胞の蓄積および骨成長を刺激することが見いだされている。PTHの骨形成作用は、前骨芽細胞(preosteoblast)の増殖の刺激、および静止状態の管壁細胞を活動性骨芽細胞へ転換することを通じて起こると考えられている。PTHにはまた、アポトーシスを防ぐことによって骨芽細胞の活性および/または寿命を増大させることで、骨を構築する働きもある。したがって、PTHのわずかな増加には同化作用があり、これが骨成長を招く可能性がある。
【0118】
1つの態様において、カルシウムモジュレーターペプチドは、PTHレベルおよび血清カルシウムレベルの両方を低下させるのに十分な用量で投与される。もう1つの態様において、カルシウムモジュレーターペプチドは、血清カルシウムレベルに有意な影響を及ぼすことなくPTHを低下させるのに十分な用量で投与される。1つのさらなる態様において、カルシウムモジュレーターペプチドは、血清カルシウムレベルに有意な影響を及ぼすことなくPTHを上昇させるのに十分な用量で投与される。
【0119】
製剤
これらの製剤または組成物を調製するための方法は、本発明の化合物を担体と、さらに任意で1つまたは複数の副成分と会合させる段階を含む。一般に、製剤は、本発明の化合物を液体担体または微細固体担体またはその両方と均質によく会合させ、続いて、必要であれば生成物を成形することによって調製することができる。
【0120】
非経口的投与に適した本発明の薬学的組成物は、1つまたは複数の本発明の化合物を、1つまたは複数の薬学的に許容される無菌で等張性の水性もしくは非水性溶液、分散液、懸濁液もしくは乳濁液、または使用直前に無菌の注射液もしくは分散液中に再構成することのできる無菌の粉末と組み合わせて含み、それは糖、アルコール、抗酸化薬、緩衝剤、静菌薬、製剤を意図したレシピエントの血液と等張にするための溶質、または懸濁化剤もしくは増粘剤を含んでもよい。
【0121】
本発明の薬学的組成物中に用いうる、適した水性および非水性の担体の例には、水、エタノール、ポリオール(グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなど)およびそれらの適した混合物、オリーブ油などの植物油、およびオレイン酸エチルなどの注射可能な有機エステルが含まれる。適度な流動性は、例えば、レシチンなどコーティング材料の使用、分散液の場合には必要な粒径の維持、および界面活性剤の使用によって維持することができる。
【0122】
これらの組成物はまた、保存料、湿潤剤、乳化剤、および分散剤などの補助剤を含んでもよい。本発明の化合物に対する微生物の作用の防止は、さまざまな抗菌薬および抗真菌薬、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノールソルビンなどを含めることによって確実にすることができる。また、糖、塩化ナトリウムなどの等張剤を組成物に含めることも望ましい場合がある。加えて、注射用剤形の長期的吸収は、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンのように吸収を遅らせる薬剤を含めることによって実現することができる。
【0123】
場合によっては、薬物の効果を延長させるために、皮下または筋肉内注射による薬物の吸収を緩徐にすることが望ましい。これは、難水溶性の結晶性または非晶質材料の懸濁液の使用によって達成することができる。この場合、薬物の吸収の速度はその溶解速度に依存し、これはひいては結晶サイズおよび結晶形態に依存する。または、非経口的に投与された剤形の遅延吸収は、薬物を油性媒体中に溶解または懸濁化することによって達成される。
【0124】
例えば、ポリカチオン性ペプチドは、固体形態の薬物を液体で再構成することによって作られる液体の形態でヒトに送達することができる。この溶液をさらに、0.9%塩化ナトリウム注射液、5%デキストロース注射液、および乳酸加リンゲル注射液などの注入液で希釈することもできる。再構成されて希釈された溶液を、最大の効力で送達するためには4〜6時間以内に用いることが好ましい。または、ポリカチオン性ペプチドを、錠剤またはカプセル剤の形態でヒトに送達することもできる。
【0125】
注射用のデポー形態は、本発明の化合物のマイクロカプセルマトリックスを、ポリラクチド-ポリグリコリドなどの生分解性ポリマー中に形成させることによって作られる。薬物とポリマーとの比、および用いる具体的なポリマーの性質に応じて、薬物放出の速度を制御することができる。他の生分解性ポリマーの例には、ポリ(オルトエステル)およびポリ(無水物)が含まれる。デポー注射製剤は、薬物を、体組織と適合性のあるリポソームまたはマイクロエマルションの中に封入することによっても調製される。
【0126】
経口投与に適した本発明の製剤は、それぞれが本発明の化合物の所定の量を有効成分として含む、カプセル剤、カシェ剤、丸剤、錠剤、ロゼンジ剤(風味を付けた基剤、通常はスクロースおよびアラビアゴムまたはトラガカントゴム)、粉剤、顆粒剤の形態で、または水性もしくは非水性の液体中にある溶液もしくは懸濁液として、または水中油型もしくは油中水型の乳濁液として、またはエリキシル剤もしくはシロップ剤として、またはトローチ剤(ゼラチンおよびグリセリン、またはスクロースおよびアラビアゴムなどの不活性基剤を用いる)として、および/または、うがい液などとしての形態で投与することができる。また、本発明の化合物を、ボーラス剤、舐剤、または膏薬として投与することもできる。
【0127】
本発明の化合物をヒトおよび動物に対して薬剤として投与する場合、それらはそれ自体で、または例えば、0.1〜99%(より好ましくは、10〜30%)の有効成分を薬学的に許容される担体との組み合わせで含む薬学的組成物として、投与することができる。これらの化合物は、ヒトおよび他の動物に対して治療のために、例えば、皮下注射、皮下デポー、静脈内注射、および静脈内または皮下注入を含む任意の適した投与経路によって投与することができる。
【0128】
選択される投与経路にかかわらず、適した水和形態で用いることのできる本発明の化合物および/または本発明の薬学的組成物は、当業者に公知である従来の方法によって、薬学的に許容される剤形へと製剤化される。
【0129】
本発明の薬学的組成物中の有効成分の実際の投薬量レベルは、患者に毒性となることなく、特定の患者、組成物、および投与様式に対して所望の治療反応を達成するのに有効な量の活性成分が得られるように、変更することができる。
【0130】
選択される投薬量レベルは、用いられる本発明の特定の組成物、またはそのエステル、塩もしくはアミドの活性、投与経路、投与の時間、用いられる特定の化合物の排出または代謝の速度、吸収の速度および程度、治療の期間、用いられる特定の組成物と併用される他の薬物、化合物および/または材料、治療される患者の年齢、性別、体重、状態、全身の健康状態および病歴、ならびに医学技術分野で周知である同様の要因を含む、種々の要因に依存すると考えられる。
【0131】
当技術分野における通常の技能を有する医師または獣医であれば、必要な薬学的組成物の有効量を容易に決定して処方することができる。例えば、医師または獣医は、薬学的組成物中に用いられる本発明の化合物の用量を、所望の治療効果を達成するために必要なものよりも少ないレベルで開始し、所望の効果が得られるまで投薬量を徐々に増加させることができると考えられる。
【0132】
一般に、本発明の組成物の適した一日量は、治療効果を生じさせるために有効な最小用量である化合物の量であると考えられる。そのような有効量は一般に、上記の要因に依存すると考えられる。一般に、患者に対する本発明の化合物の経口、静脈内、脳室内、および皮下への用量は、指定の効果のために用いられる場合、体重1kg当たり1時間当たり約1mcg〜約5mgの範囲であると考えられる。他の態様において、用量は体重1kg当たり1時間当たり約5mcg〜約2.5mgの範囲であると考えられる。さらなる態様において、用量は体重1kg当たり1時間当たり約5mcg〜約1mgの範囲であると考えられる。
【0133】
所望であれば、活性化合物の有効な一日量を、一日を通じて適切な間隔で別々に投与される、2回、3回、4回、5回、6回またはそれ以上の分割用量として、任意で単位投薬剤形として投与することもできる。1つの態様において、化合物は1日に1回投与される。さらなる態様において、化合物は静脈内または他の経路を通じて連続的に投与される。他の態様において、化合物は毎日よりも低い頻度で、例えば毎週またはそれ未満で投与される。
【0134】
本発明の化合物を単独で投与することは可能であるが、化合物を薬学的製剤(組成物)として投与することが好ましい。
【0135】
この治療を受ける対象は、霊長動物、特にヒト、および他の哺乳動物、例えばウマ、ウシ、ブタ、およびヒツジ;ならびに家禽およびペット全般を含む、それを必要とする任意の動物である。
【0136】
本発明の化合物は、それ自体として、または薬学的に許容される担体との混合物として、投与することができ、ペニシリン、セファロスポリン、アミノ配糖体、および糖ペプチドなどの抗菌薬とともに投与することもできる。そのような連結的な治療法は、最初に投与されたものの治療効果が完全には消失しないうちに次のものを投与するようなやり方での、活性化合物の逐次的、同時または別々の投与を含む。
【0137】
開示した化合物の考えられる投与経路
これらの化合物は、ヒトおよび他の動物に対して治療のために任意の適した投与経路によって投与することができる。本明細書で用いる場合、投与の「経路」という用語には、皮下注射、皮下デポー、静脈内注射、静脈内または皮下注入、眼内注射、皮内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、気管内投与、脂肪内投与、関節内投与、髄腔内投与、硬膜外投与、吸入、鼻腔内投与、経口投与、舌下投与、口腔内投与、直腸内投与、膣内投与、槽内投与および局所投与、または局所送達を介した投与(例えば、カテーテルまたはステントによる)が非限定的に含まれる。ポリカチオン性ペプチドを、徐放性剤形として投与または同時投与することもできる。開示される化合物は、全身投与された場合に効能を有する。
【0138】
上記のように、本発明の方法は単独で用いてもよく、または高カルシウム血症および/もしくは骨疾患の治療のための他のアプローチと併用してもよい。そのような他のアプローチには、ビスホスフォネート薬、インテグリン遮断薬、ホルモン補充療法、選択的エストロゲン受容体調節薬、カテプシンK阻害薬、ビタミンD療法、抗炎症薬、低用量PTH療法(エストロゲンと併用または単独で)、カルシトニン、RANKリガンドの阻害薬、RANKリガンドに対する抗体、オステオプロテグリン、アデノシン拮抗薬、およびATPプロトンポンプ阻害薬などの薬剤による治療が非限定的に含まれる。
【0139】
併用レジメンに用いられる治療法(治療薬または手順)の具体的な組み合わせは、所望の治療薬および/または手順の適合性、ならびに達成しようとする所望の治療効果を考慮に入れていると考えられる。用いられる複数の治療法が同じ障害に対して所望の効果を達成してもよく(例えば、本発明の化合物を、同じ障害を治療するために用いられる別の薬剤と同時に投与する)、またはそれらは異なる効果(何らかの有害作用の抑制)を達成してもよいことも理解される。本明細書で用いる場合、特定の疾患または病状を治療または予防するために通常投与される追加の治療薬は、「治療される疾患または病状に対して適切である」ことが知られている。
【0140】
本明細書で定義したような本発明の併用治療は、本治療の個々の成分の同時、逐次的、または別々の投与によって達成することができる。
【0141】
本発明の化合物またはその薬学的に許容される組成物はまた、プロテーゼ、人工弁、血管グラフト、ステント、およびカテーテルなどの植え込み型医療デバイスのコーティングのための組成物中に組み入れることもできる。したがって、本発明は、もう1つの局面において、以上に概説したような本発明の化合物、およびこの植え込み型デバイスのコーティングに適した担体を含む、植え込み型デバイスのコーティングのための組成物を含む。さらにもう1つの局面において、本発明は、以上に概説したような本発明の化合物およびこの植え込み型デバイスのコーティングに適した担体を含む組成物によってコーティングされた、植え込み型デバイスも含む。
【0142】
例えば、血管ステントは、再狭窄(傷害後の血管壁の再狭小化)を克服するために用いられている。しかし、ステントまたは他の植え込み型デバイスを用いる患者には、血塊形成または血小板活性化のリスクがある。これらの望ましくない影響は、キナーゼ阻害薬を含む薬学的に許容される組成物でデバイスをプレコーティングすることによって予防または軽減することができる。適したコーティング剤およびコーティングされた植え込み型デバイスの一般的な調製は、米国特許第6,099,562号;第5,886,026号;および第5,304,121号に記載されており、これらはその全体が参照により本明細書に組み入れられる。コーティング剤は典型的には、ヒドロゲルポリマー、ポリメチルジシロキサン、ポリカプロラクトン、ポリエチレングリコール、ポリ乳酸、エチレン酢酸ビニル、およびそれらの混合物などの生体適合性ポリマー材料である。組成物に制御放出特性を与えるために、コーティング剤を任意で、フルオロシリコン、多糖類、ポリエチレングリコール、リン脂質またはそれらの組み合わせによる適した塗膜によってさらに被覆してもよい。
【0143】
治療効能を決定するための考えられる臨床マーカー
本発明の治療方法の有効性の判定は、種々の方法によって行うことができる。
【0144】
血清カルシウムの正常レベルは8.0〜10.8mg/dL(2.0〜2.7mmol/L)の範囲にある。ある場合には、治療の有効性を、総血清カルシウムおよびイオン化血清カルシウム、アルブミン、血清PTH、PTHrP、リン酸、ビタミンD、およびマグネシウムを非限定的に含む、カルシウムと関係のある血清マーカーおよび尿マーカーの測定によって判定することができる。
【0145】
また別の場合には、有効性を、骨密度(BMD)の測定によって、または血清中もしくは尿中の骨形成および/もしくは骨吸収に関する生化学マーカーの測定によって、判定することもできる。可能性のある骨形成マーカーには、総アルカリホスファターゼ、骨アルカリホスファターゼ、オステオカルシン、低カルボキシル化オステオカルシン、C末端プロコラーゲンI型プロペプチド、およびN末端プロコラーゲンI型プロペプチドが非限定的に含まれる。可能性のある骨吸収マーカーには、ヒドロキシプロリン、ヒドロキシリジン、グリコシル-ガラクトシルヒドロキシリジン、ガラクトシルヒドロキシリジン、ピリジノリン、デオキシピリジノリン、I型コラーゲンのN末端架橋テロペプチド、I型コラーゲンのC末端架橋テロペプチド、MMPにより生成されるI型コラーゲンのC末端架橋テロペプチド、骨シアロタンパク質、酸性ホスファターゼ、および酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼが非限定的に含まれる。
【0146】
本発明の治療方法がそれを必要とする対象に投与される場合、この治療方法は、例えば以下の1つまたは複数によって測定されるような効果を生じるであろうと期待される:総血清カルシウム、イオン化血清カルシウム、アルブミン、血清PTH、PTHrP、リン酸、ビタミンD、マグネシウム、骨密度(BMD)、総アルカリホスファターゼ、骨アルカリホスファターゼ、オステオカルシン、低カルボキシル化オステオカルシン、C末端プロコラーゲンI型プロペプチド、N末端プロコラーゲンI型プロペプチド、ヒドロキシプロリン、ヒドロキシリジン、グリコシル-ガラクトシルヒドロキシリジン、ガラクトシル ヒドロキシリジン、ピリジノリン、デオキシピリジノリン、I型コラーゲンのN末端架橋テロペプチド、I型コラーゲンのC末端架橋テロペプチド、MMPにより生成されるI型コラーゲンのC末端架橋テロペプチド、骨シアロタンパク質、酸性ホスファターゼおよび酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ。効果には、予防的治療および既存の疾患の治療が含まれる。
【0147】
生物学的に有効な分子を、共有結合または非共有結合性相互作用によって本発明のペプチドと機能的に連結させてもよい。特定の態様において、機能的に連結された生物学的に有効な分子は、連結された分子の一部としてペプチドに特性を付与することにより、本発明の上記の態様のペプチドの薬物動態を変更することができる。生物学的に有効な分子がペプチドに付与しうる特性のいくつかには、以下が非限定的に含まれる:体内の離散的な部位へのペプチドの送達;ペプチドの活性を体内の所望の部位に集中させて、他の箇所へのその影響を軽減すること;ペプチドによる治療の副作用を軽減すること;ペプチドの透過性を変化させること;ペプチドの身体への生物学的利用能または送達速度を変化させること;ペプチドによる治療の効果の長さを変化させること;ペプチドの安定性を変更すること;ペプチドの効果の開始および減衰の速度を変更すること;ペプチドに効果を持たせることによって許容作用をもたらすこと。
【0148】
1つのさらなる局面において、本発明のカルシウムを調節するペプチドをポリエチレングリコール(PEG)とコンジュゲートさせてもよい。選択されるPEGは、任意の好都合な分子量のものであってよく、線状でも分枝状でもよく、任意でリンカーを介してコンジュゲートさせてもよい。PEGの平均分子量は好ましくは、約2キロダルトン(kDa)から約100kDaまで、より好ましくは約5kDaから約40kDaまでの範囲であると考えられる。
【0149】
カルシウムを調節するペプチドは、カーゴペプチドおよび/または1つもしくは複数のポリカチオン性ペプチド上の任意の位置に位置する適したアミノ酸残基を介してPEGとコンジュゲートさせることができる。本明細書でさらに記載するように、ポリカチオン性ペプチドおよびカーゴペプチドは、任意で、例えばリジンなどの追加の塩基性残基を含んでいる、PEGがコンジュゲートされる追加のアミノ酸残基を含んでもよい。
【0150】
PEG化ペプチドは、コンジュゲートされたペプチドの血漿中半減期を延長させることが当技術分野で公知である。PEG化ペプチドの形成のための種々の方法が、当技術分野で公知である。例えば、PEG部分をアミノ末端、カルボキシ末端に、または特許請求するペプチドの側鎖を通じて、任意で架橋基の存在を通じて、連結させることができる。他の態様において、PEG部分はシステインなどのチオール含有アミノ酸のイオウと連結させてもよく、またはリジンもしくはアルギニンなどの塩基性アミノ酸の側鎖に結び付けてもよい。
【0151】
PEG基は一般に、PEG部分上の反応基(例えば、アルデヒド、アミノ、チオール、エステル、またはカルボン酸基)を介した本発明の化合物上の反応基(例えば、アルデヒド、アミノ、エステル、酸、またはチオール基)へのアシル化または還元的アルキル化によって、本発明のペプチドに結合されると考えられ、それはポリカチオン性ペプチドまたはカーゴペプチドのアミノ末端、カルボキシ末端、または側鎖位置のいずれに位置してもよい。合成ペプチドのPEG化の調製のための1つのアプローチは、溶液中でのコンジュゲート結合を介して、それぞれが他方に対して相互に反応性である官能基を有するペプチドおよびPEG部分を化合させることからなる。ペプチドは従来の液相合成または固相合成を用いて容易に調製することができる。ペプチドおよびPEGのコンジュゲーションは典型的には水相中で行われ、逆相HPLCによってモニターすることができる。PEG化ペプチドは、当業者に公知の標準的な手法を用いて、容易に精製および特性決定を行うことができる。
【0152】
本発明のペプチドの1つまたは複数の個々の残基を、特定の側鎖または末端残基と反応することが知られているさまざまな誘導体化剤によって修飾することもできる。例えば、リジニル残基およびアミノ末端残基を、リジニル残基またはアミノ残基の電荷を逆転させる無水コハク酸または他の類似の無水カルボン酸と反応させることができる。他の適した試薬には、例えば、ピコリンイミド酸メチルなどのイミドエステル;ピリドキサル;ピリドキサルリン酸;クロロボロヒドリド;トリニトロベンゼンスルホン酸;O-メチルイソ尿素;2,4,-ペンタンジオン;およびグリオキシレートを用いるトランスアミナーゼ触媒反応が含まれる。アルギニル残基は、フェニルグリオキサール、2,3-ブタンジオン、1,2-シクロヘキサンジオン、およびニンヒドリンといった従来の試薬との反応によって修飾することができる。
【0153】
加えて、本発明のポリカチオン性ペプチドを、生体分析用ELISA測定用の抗体の開発のため、ならびに免疫原性を評価するために有用な免疫原性残基を与える非カチオン性残基を含むように修飾することもできる。例えば、ポリカチオン性ペプチドを、チロシンおよび/またはグリシン残基の組み入れによって修飾することができる。スペクトル標識をチロシル残基に導入するためのチロシル残基の特異的修飾には特に関心が持たれる。非限定的な例には、芳香族ジアゾニウム化合物またはテトラニトロメタンとの反応が含まれる。最も一般的には、N-アセチルイミダゾールおよびテトラニトロメタンが、それぞれO-アセチルチロシル誘導体および3-ニトロ誘導体を形成させるために用いられる。
【0154】
開示した化合物を含むキット
本発明はまた、本発明の治療レジメンを実施するためのキットも提供する。そのようなキットは、薬学的に許容される形態にある、CaSRモジュレーターとしての活性を有するポリカチオン性ペプチドの治療的有効量を、単独で、または薬学的に許容される形態にある他の作用物質との組み合わせで含む。好ましい薬学的形態には、滅菌食塩水、デキストロース溶液、緩衝液、または他の薬学的に許容される無菌の流体と組み合わせたペプチドが含まれる。または、組成物を凍結乾燥または乾燥保存することもできる。この場合には、キットはさらに、注射用の溶液を形成させるための、好ましくは無菌の、薬学的に許容される溶液を含んでもよい。もう1つの態様において、キットはさらに、組成物を注射するための、好ましくは無菌の形態でパッケージ化された、針またはシリンジを含んでもよい。他の態様において、キットはさらに、組成物を対象に投与するための指示手段を含む。指示手段は、書面による添付文書、音声テープ、音声映像テープ、または対象への組成物の投与について指示するための任意の他の手段であってよい。
【0155】
1つの態様において、キットは、(i)CaSRモジュレーターとしての活性を有するカルシウムモジュレーターペプチドを含む第1の容器と、(ii)使用に関する指示手段とを含む。
【0156】
もう1つの態様において、キットは、(i)CaSRモジュレーターとしての活性を有するカルシウムモジュレーターペプチドを含む第1の容器と、(ii)抗高カルシウム血症薬を含む第2の容器と、(iii)使用に関する指示手段とを含む。
【0157】
1つの態様において、抗高カルシウム血症薬は、ビスホスフォネート薬、ホルモン補充治療薬、ビタミンD療法、低用量PTH(エストロゲンと併用または単独で)、およびカルシトニンからなる群より選択される。
【0158】
関連した局面において、本発明は、上記のキットの内容物を含む製造品を提供する。例えば、本発明は、単独での、または他の作用物質と組み合わせた、CaSRモジュレーターとしての活性を有するポリカチオン性ペプチドの治療的有効量と、本明細書に記載した疾患を治療するための使用法を示す指示手段とを含む、製造品を提供する。
【0159】
本発明のポリペプチドは、本明細書において、それらのSEQ ID NO:によって、またはKAI-番号および/もしくはKP-番号として指定された内部参照番号によって呼ばれ、それらは本明細書において互換的に用いられる。例えば、SEQ ID NO:7を有するペプチドは、本明細書においてKAI-1455またはKP-1455とさまざまに呼ぶことができる。そのような番号を互換的に用いることができ、それらが同じポリペプチド配列を指すことは当業者には理解されるであろう。
【0160】
他に明記する場合を除き、本明細書に言及されたすべての文書はその全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0161】
実施例
以下の実施例は、本発明を限定するためではなく、それを例示するために提供される。本発明の原理となる特徴は、本発明の範囲を逸脱することなく、さまざまな態様において用いることができる。当業者は、本発明の真の精神および範囲を逸脱することなく、さまざまな修正を加えることができる。
【0162】
実施例1
被験物および媒体/対照物の調製
適量のKAI-1455(SEQ ID NO:7)を、注射液(ITRにより供給)中の32.5mg/mLマンニトールおよび32.5mg/mLスクロースの溶液中に溶解させて、原液濃度10mg/mLのKAI-1455を得た。必要に応じてpHは〜5に調整した。原液を注射用滅菌食塩水で希釈して最終的な投薬溶液の濃度を得た。動物への投与の前に、溶液を0.22pm PVDFフィルター(Millipore)に通して濾過して滅菌容器/バッグに入れ、投薬の少し前まで冷蔵し、その後は室温まで温度を上昇させた。
【0163】
媒体対照の溶液は、WFI中にある適した容積の32.5mg/mLマンニトール/32.5mg/mLスクロース溶液を用意して、これをSF1でおよそ4.44倍に希釈することによって調製した(すなわち、被験物の高用量溶液の場合と同じ希釈比)。
【0164】
実施例2
14日の回復期間をおいたラットにおけるKAI-1455の単一用量連続静脈内注入による毒性および毒物動態/組織分布試験
この試験は、Charles River Laboratories, Raleigh, NCから入手したSprague Dawleyラット(系統Crl:CD(SD))にて行った。合計42匹のラット(雄21匹および雌21匹)を試験に含め、各群当たりn=3とした。治療開始時の平均体重の範囲は7〜11kgであった。治療を始めた時点の平均齢はカテーテル留置時で6〜7週であり、治療開始時は10〜12週であった。治療開始時の平均体重は100〜400グラムであった。
【0165】
被験物および対照/媒体物の投与:
動物には納入元により大腿静脈を介してカテーテル留置が施された。適切な用量を、大腿静脈に留置されたカテーテルを介して静脈内注入により投与した。KAI-1455(SEQ ID NO:7)は、10、20および45mg/kgの用量で24時間、ならびに45mg/kgで6時間にわたる連続静脈内注入によってラットに投与した。すべての動物には、およそ6または24時間にわたる単一用量連続投与として投薬を行った。投薬容積は20mL/kgとした;投薬速度は24時間注入を行う動物では0.83mL/kg/時間とし、6時間注入を行う動物では3.33mL/kg/時間とした。投薬前期間中は滅菌食塩水溶液を維持速度で注入した。個々の動物の絶対的投薬容積は第1日の体重を基にした。最終投薬の完了後に動物から注入路の接続を外した。最終投薬後に動物へのカテーテルを切断して縛り、留置したままとした。
【0166】
指定した投薬期間にわたって各動物に標的投薬容積を送達するために外部ポンプ機器を利用した。ポンプを介した注入を維持するために係留機器およびハーネス機器を用いた。
【0167】
結果:
KAI-1455を45mg/kgで24時間にわたり投与された動物は、極度の低カルシウム血症のために瀕死の状態となり、第2日に安楽死させた。他のすべての用量群では、注入終了後24〜42時間にわたりカルシウムレベルは正常であった。KAI-1455を20mg/kgで投与された動物は、投薬後第3日の時点で血清カルシウムの用量依存的な低下を示した。これらの動物におけるカルシウムレベルは第14日までに正常に回復し、このことはKAI-1455による治療によって引き起こされた総血清カルシウムの低下が可逆的であることを示している。血清カルシウムレベルは表1に提示されている。
【0168】
(表1)注入終了から2、3および14日後の総血清カルシウム(mg/dL)
【0169】
KAI-1455を45mg/kgで24時間にわたり投与されたラットにおいて、EOIの24時間後に血清リン酸塩レベルの顕著な上昇が観察された。20mg/kg用量群では血清リン酸塩の持続的と考えられる上昇が観察された。他のすべての用量群ではEOIの24〜42時間後の血清リン酸塩は正常であった(非提示データ)。
【0170】
実施例3
ビーグル犬におけるKAI-1455の単一用量(24時間)連続静脈内注入による毒性および毒物動態/組織分布試験
この試験は、Marshall BioResources, Incから入手したビーグル犬にて行った。合計24匹のイヌを試験に含め(雄12匹、雌12匹)、各群当たり性別毎にn=3とした。治療開始時の平均体重の範囲は7〜11kgであった。治療を始めた時点の平均齢の範囲は7〜11月齢であった。
【0171】
被験物および対照/媒体物の投与:
KAI-1455(SEQ ID NO:7)および対照物を、橈側皮静脈または伏在静脈の1つに挿入し、医療グレードのチューブによって注入ポンプに接続した使い捨て留置カテーテル(Abbocath(登録商標)またはAngiocath(登録商標))を介して、投薬速度0.83mL/kg/時間での静脈内注入により24時間にわたり単一用量を投与した。注入された実際の容積(mL)は、各動物の最新の実際の体重に基づいて計算した。
【0172】
KAI-1455は10、20および40mg/kgの用量で24時間にわたり投与した。血清カルシウムレベル(mmol/L)を第3日に、注入終了(EOI)24時間後の時点で測定した。
【0173】
注入を始める前には、注入ポンプが起動してすぐに動物への投薬が確実に開始されるように、各イヌの注入ラインに適切な投薬溶液をあらかじめ充填した。これにより、動物に全用量が投与されることが保証された。注入バッグは適切な間隔で交換し(必要であれば)、注入を始める前および終了時に重量を記録した。
【0174】
結果:
注入終了から24時間後に総血清カルシウムの用量依存的な低下が観察された。血清カルシウムレベルは表2に示されている。
【0175】
(表2)投薬24時間後の総血清カルシウムレベル
【0176】
実施例4
ビーグル犬に12時間の静脈内注入として投与されたKAI-1455の安全性薬理試験
KAI-1455(SEQ ID NO:7)を、用量1、5および12.5mg/kgでの12時間にわたる連続静脈内注入によってビーグル犬に投与した(各群当たりn=3)。血清カルシウムに対する影響を、注入終了(EOI)の直後である12時間の時点、およびEOIの24時間後に判定した。
【0177】
結果:
用量依存的な血清カルシウムの低下がEOI時に観察された。最大のカルシウム低下はEOIの時点で観察された。カルシウムレベルの部分的な回復がEOIの24時間後に観察されたが、12.5mg/kg用量群では、動物は依然としてベースラインに比して血清カルシウムの測定可能な低下を示した。血清カルシウムレベルは表3に示されている。
【0178】
(表3)投薬前、注入終了(EOI)時およびEOIの12時間後の総血清カルシウム(mg/dL)
【0179】
血清リン酸塩レベルの用量依存的な上昇がEOI時およびEOIの24時間後に観察された。血清リン酸塩レベルは表4に示されている。
【0180】
(表4)投薬前および注入終了(EOI)時の血清リン酸塩(mg/dL)
【0181】
12.5mg/kg用量群の動物では、PTHの有意な低下がEOI時およびEOIの24時間後に観察された。血漿PTHレベルはEOI時にはベースラインの治療前レベルの約15%に低下し、EOIの24時間後にはベースラインの治療前レベルの約50%という持続的低下がみられた。PTHレベル(pg/mL)は表5に示されている。
【0182】
(表5)投薬前および注入終了時のPTH(pg/mL)
【0183】
PTH、血清カルシウムおよび血清リン酸塩レベルの関係は図1に示されている。カルシウムレベルの低下は血清リン酸塩の上昇およびPTHの低下と一致する。
【0184】
実施例5
Sprague DawleyラットにおけるKAI-1455の単一用量カルシウム注入試験
この試験は、KAI-1455(SEQ ID NO:7)の単一用量45mg/kgでのおよそ24時間の静脈内注入中の血清カルシウムの変化の経時的推移を調べるため、およびカルシウム補充がラットにおけるKAI-1455注入の毒性に伴う臨床徴候を緩和する能力を探るためにデザインした。
【0185】
試験は、Charles River Laboratories, Hollister, CAから入手したSprague Dawleyラット(系統Crl:CD(SD)IGS BR)にて行った。合計20匹のラット(各群当たり性別毎にn=5)を試験に含めた。治療を始めた時点の平均齢は5〜8週であった(受け取り時点)。治療開始時の平均体重は160〜380グラムであった。
【0186】
被験物および対照/媒体物の投与:
動物には納入元により頸静脈にカテーテル留置が施された。動物を表6に従って群に割り付けて治療を行った。
【0187】
(表6)群の割り付け
静脈内注入時間の合計は〜24時間であった。
* 2回目の〜12時間の注入中に、第2群には、カルシウム(KAI-1455投薬溶液と混合)を最終濃度0.8mg/mL元素カルシウムとして含む輸液剤を投与した。
** 注入の最初の12時間部分については輸液剤中の被験物の最終濃度は〜2.25mg/mLであり、2回目の12時間注入では〜0.75mg/mLであった。
*** 注入の最初の12時間については、注入速度は〜0.83mL/kg/時間(〜10mL/kg総容積)であり、2回目の12時間の注入期間については、注入速度は〜2.5mL/kg/時間(〜30mL/kg総容積)であった。
【0188】
個々の動物に対する絶対的投薬容積は最新の体重に基づいて計算した。
【0189】
3種の被験物投薬溶液を試験のために調製した。注入の最初の12時間での投与については、10mg/mL原液をSFIで希釈してKAI-1455の最終濃度2.25mg/mLを得ることによって両群に対して単一の溶液を調製した。第1のセットの投薬シリンジにはこの溶液を注入用に充填した。
【0190】
第1群については、注入の2回目の12時間における投与のための投薬溶液は、10mg/mL原液をSFIで希釈してKAI-1455の最終濃度0.75mg/mLを得ることによって調製した。第1群に対する第2のセットの投薬シリンジにはこの溶液を注入用に充填した。
【0191】
第2群については、注入の2回目の12時間における投与のための投薬溶液には、元素カルシウムにして最終濃度0.8mg/mLのグルコン酸カルシウムとともに、KAI-1455を濃度0.75mg/mLで含めた。溶液は、10mg/mL原液を必要なSFIのより大容積中にまず希釈し、続いて適量のグルコン酸カルシウムを添加し、その後にさらにSFIを添加して所望の容積に到達させることによって調製した。第2群に対する第2のセットの投薬シリンジにはこの溶液を注入用に充填した。
【0192】
市販の10%グルコン酸カルシウム注射液をカルシウム補充のために用いた。この溶液は1mL当たり9mgの元素カルシウムを含む。2回目の12時間注入における第2群に対する投薬溶液中の元素カルシウムの所望の最終濃度は〜0.8mg/mLであった。
【0193】
血液採取および試料採取の方法:
血液は、拘束下にある意識のある動物の末梢静脈静脈穿刺によって採取した。各時点(終止時点を除く)で、一晩絶食させた動物からおよそ1.1mLの血液を採取した。すべての動物について、イオン化カルシウム、PTHおよび総血清カルシウムを注入前、試験開始12時間の時点(カルシウム補充の前)、注入完了前および剖検時に測定した。
【0194】
結果:
カルシウム注入を始める前の12時間の時点で、すべての動物について平均総カルシウムは10.5mg/dLから8.0mg/dLに低下していた。注入の2回目の12時間において、KAI-1455単独を投与されたラットでは平均総カルシウムは6.8mg/dLにさらに低下し、KAI-1455およびカルシウムを投与されたラットでは7.6mg/dLに低下した(図8)。KAI-1455およびカルシウム補充を受けた8匹のラットはいずれも死亡しなかった(ラット2匹はカルシウム注入前に死亡した;1匹は12時間の採血に関係し、もう1匹は注入開始5時間後に死亡した)が、一方、KAI-1455単独を投与されたラットでは10匹のうち3匹(30%)が死亡した。24時間のKAI-1455注入の後半における静脈内注入によるカルシウム補充(2mg/kg/hr)は、KAI-1455に伴う血清カルシウムの低下を部分的に減弱させ、これは高用量のKAI-1455注入に伴う死亡を予防するのに十分であった。観察されたカルシウム低下は48時間(EOIの24時間後)までに回復した。
【0195】
実施例6
ビーグル犬におけるKAI-1455の単一用量カルシウム注入試験
低カルシウム血症に関する用量反応および経時的推移、ならびにカルシウム補充を与えることによって低カルシウム血症の予防および毒性の臨床徴候の緩和を行える可能性について、イヌでの試験を行った。
【0196】
低カルシウム血症および他のエンドポイントに関する用量反応を十分に特徴付けること、ならびに血清カルシウムの変化、臨床徴候、PTH、QT延長および動物に対する他の影響の関係を調べることを目的として、3匹のイヌに用量12.5、1.0および5mg/kg(12時間にわたり注入)を連続投与した(投薬の間には適切な休薬期間をおいた)。
【0197】
試験のこの相に続いて、同じイヌを用いて、カルシウム補充が毒性を予防または緩和する能力について調べた。この後者の相では、3匹のイヌすべてに対して25mg/kgのKAI-1455を12時間にわたり投与した(すなわち、明らかな瀕死状態が以前にみられた用量)が、ただし、注入開始時にKAI-1455とともにグルコン酸カルシウムの注入による補充を2mg元素カルシウム/kg/hrの速度(すなわち、上記のラットでのカルシウム補充試験に用いたのと同じ速度)で行った。血清カルシウムを注入中は3時間毎に、注入後は定期的にモニターした。
【0198】
結果:
KAI-1455注入中はカルシウムのわずかな上昇がみられたが、カルシウム補充を行うと12時間の注入の終了時までに正常化の傾向を示し、その後はカルシウムレベルは低下し始めた(図2)。EOIの〜3時間後の時点で、動物は低カルシウム血症の症状を呈し始めた。カルシウム注入を再開して〜3時間継続したところ、動物の症状は迅速に解消された。KAI-1455注入から24時間後に測定したカルシウム濃度は再び正常レベル未満に逆戻りし、このことは、追加のカルシウム補充後も、KAI-1455の効果が(顕著さははるかに落ちるものの)依然として続いていることを示している。血清リン酸塩レベルは12時間の注入中は上昇し、EOIの6時間後の時点でもベースラインよりも高く保たれていた(図3)。
【0199】
実施例7
SEQ ID NOの表
(表7)ペプチド配列および対応するSEQ ID NO
【0200】
実施例8
ヒト志願者におけるKAI-1455の単回用量増加試験
試験デザイン:
KAI-1455(SEQ ID NO:7)の二重盲検無作為化プラセボ対照単回用量増加試験をヒト健常志願者において実施した。最初の試験デザインは、7つのコホートに対する12時間にわたる静脈内注入によるKAI-1455(SEQ ID NO:7)の投与を必要とし、初回用量は1mg/kgであった。用量漸増は直前の用量の安全性次第とした。各コホートに対して4人の若い男性被験者を無作為に割り付けた(n=4)。コホートは無作為化し、それにより3人の被験者が実薬を投与され、1人の被験者がプラセボを投与された。
【0201】
被験者を用量コホート別に1週間の追跡期間にわたりモニターした。臨床上および検査上の安全性、薬物動態、血清イオン化カルシウム(iCa)、総カルシウム、リン酸および血漿PTHを含む試験エンドポイントを各被験者について評価した。
【0202】
結果:
KAI-1455は、12時間にわたる1〜162mg/kgの範囲の用量で一般に安全であり、忍容性も良好であった。KAI-1455には血清カルシウムおよび血漿PTHの用量依存的な低下が伴ってみられる。血清カルシウムおよび血漿PTHの低下は、注入終了(EOI)時に最低値に達したが、最高用量の注入終了後も最長36時間にわたって抑制されたままであった。0.1mg/kg/時間以下の投薬速度では、12時間の注入による血清カルシウムの平均最大低下率は10%未満であった。
【0203】
血漿中薬物動態:
用量18、54、81および162mg/kgのKAI-1455(SEQ ID NO:7)を、12時間にわたる静脈内注入によって男性健常志願者に投与した。KAI-1455の血漿中濃度(ng/mL)を12時間の注入期間中の1、3、6、9および12時間の時点で測定し、注入終了(EOI)後は最長1時間にわたって測定した。最高用量では、約100ng/mLという持続的な血漿中濃度が9〜12時間の時点で達成され、EOIの約30分後までに徐々にベースラインに戻った(図4)。
【0204】
処置群別のイオン化カルシウム:
血清イオン化カルシウム(mmol/L)を、注入開始時ならびに注入開始から3、6、9、12、15、18、21、24および48時間後の時点で測定した。イオン化カルシウムの用量依存的な低下が観察され、カルシウムの最大の低下は約15時間および18時間の時点(すなわち、EOIの3〜6時間後)に観察された。最高用量では、カルシウムの最大の低下はEOIの12時間後も維持された。54、81および162mg/kg用量群では、EOIの12時間後にカルシウムレベルの部分的な回復が観察され、被験者はEOIの12および36時間後の時点でも依然としてベースラインに比してイオン化カルシウムの有意な低下を示した(図5)。
【0205】
処置群別の総カルシウム:
総カルシウムレベル(mg/dL)を、注入開始時ならびに注入開始から3、6、9、12、15、18、21、24および48時間後に測定した。総カルシウムについても用量依存的な低下が観察され、カルシウムの最大の低下は約15および18時間の時点(すなわち、EOIの3〜6時間後)に観察された。最高用量では、カルシウムの最大の低下がEOIの12時間後も維持された。54、81および162mg/kg用量群では、EOIの12時間後にカルシウムレベルの部分的な回復が観察され、被験者はEOIの12および36時間後の時点でも依然としてベースラインに比して総カルシウムの有意な低下を示した(図6)。
【0206】
処置群別のカルシウムの変化率:
カルシウムの変化率を各処置群に関して測定した。最大変化率は約15および18時間の時点(すなわち、EOIの3〜6時間後)に観察された。162mg/kg用量群では、15%を上回るカルシウムの最大低下率が観察された(図7)。
【0207】
処置群別の血漿PTH:
処置群別の血漿PTHレベル(pg/mL)を、注入開始時ならびに注入開始から3、6、12、15、18、24および48時間後に測定した。血漿PTHの最大の低下はEOI時に観察された。162mg/kg用量群の被験者ではPTHの有意な低下がEOI時およびEOIの12時間後に観察され、EOIの36時間後にも依然として治療前ベースラインレベルを下回る持続的な低下が観察された(図8)。
【0208】
処置群別の血漿PTHの変化率:
血漿PTHレベルの変化率を各処置群に関して測定した。最大変化率はEOI時に観察された。81および162mg/kg用量群の被験者では40%を上回る血漿PTHレベルの最大変化率が観察され、レベルはEOIの12時間後にも依然としてベースラインよりも有意に低く、EOIの36時間後にはPTHレベルがベースラインに向かって回復しつつあった(図9)。
【0209】
実施例9
ヒト志願者におけるKAI-1455の4時間注入試験
試験デザイン:
2つの追加コホートに対して、KAI-1455(SEQ ID NO:7)を54または108mg/kgの用量で静脈内注入により4時間にわたって投与した。これらのコホートは、12時間注入についての最大耐量が規定された後に組み入れた。各コホートに4人の若い男性被験者を割り付けた(n=4)。コホートは、3人の被験者が実薬を投与され、1人の被験者がプラセボを投与されるように無作為化した。
【0210】
被験者を注入終了(EOI)後36時間にわたってモニターした。イオン化カルシウム(iCa)および血漿PTHを含む試験エンドポイントを各処置群について評価した。0.2mg/kg/時間以下の投薬速度では、4時間の注入による血清カルシウムの平均最大低下率は10%未満であった。
【0211】
処置群別のイオン化カルシウム:
血清イオン化カルシウム(mmol/L)を、注入開始時ならびに注入開始から2、3、4、6、8、12、16および36時間後の時点で測定した。イオン化カルシウムの用量依存的な低下が観察され、イオン化カルシウムの最大の低下は54mg/kg用量群ではEOIの約4時間後に、108mg/kg用量群ではEOIの12時間後に観察された(図10)。
【0212】
処置群別の総カルシウム:
総カルシウム(mg/dL)の低下について、同じく注入開始時ならびに注入開始から2、3、4、6、8、12、16および36時間後の時点で測定した。イオン化カルシウムの用量依存的な低下が観察され、総カルシウムの最大の低下は54mg/kg用量群ではEOIの約8時間後に、108mg/kg用量群ではEOIの12時間後に観察され、108mg/kg用量群ではEOIの32時間後にも総カルシウムの有意な低下が観察された(図11)。
【0213】
処置群別の血漿PTH:
処置群別の血漿PTHレベル(pg/mL)を、注入開始時ならびに注入開始から2、3、4、6、8、12、16および36時間後に測定した。血漿PTHの最大の低下はEOI時に観察された。108mg/kg用量群の被験者では、血漿PTHの有意な低下がEOI時およびEOIの8時間後に観察された(図12)。
【0214】
実施例10
麻酔ラットにおけるKP-1524の4時間注入試験
試験デザイン:
この試験は、カルシウムモジュレーターペプチドが総カルシウムおよび/または血漿PTHレベルを低下させる能力に対するカーゴペプチドの影響を評価するためにデザインした。
【0215】
材料および方法:
イソフルランで麻酔したラット(n=4)に対して、KP-1524(SEQ ID NO:9)を9mg/kgの投薬速度で静脈内注入により3時間にわたって投与した。対照動物(n=4)には食塩水を注入した。血液試料を注入前ならびに1、2、3および4時間の時点で採取した。総カルシウム(mg/dL)およびPTH(pg/mL)を測定した。
【0216】
結果:
投与を受けた動物は総カルシウムおよびPTHレベルの有意な低下を示した。総カルシウム(mg/dL)の最大の低下はEOIの1時間後に観察された(図13(A))。血漿PTH(pg/mL)の最大の低下は2時間の時点までに観察され、血漿PTHの有意な低下はEOIの1時間後にも持続した(図13(B))。食塩水を投与した動物で観察された血漿PTHレベルの上昇は、おそらく利尿によるものと考えられる。
【0217】
実施例11
麻酔ラットにおけるKAI-1455およびKP-1524の3時間注入試験
材料および方法:
イソフルランで麻酔したラット(n=3)に対して、KAI-1455(SEQ ID NO:7)およびKP-1524(SEQ ID NO:9)を9mg/kgの投薬速度で静脈内注入により3時間にわたって投与した。対照動物(n=2)には食塩水を注入した。血液試料を注入前ならびに1、2、3、6および24時間の時点で採取した。総カルシウム(mg/dL)およびPTH(pg/mL)を測定した。
【0218】
結果:
投与を受けた動物は総カルシウムおよびPTHレベルの有意な低下を示し、最大の低下はEOI前後で観察された。総カルシウムの低下はKAI-1455およびKP-1524のいずれについてもEOIの4時間後まで維持され、総カルシウムおよびPTHの低下は2つのペプチドに関して同等であった(非提示データ)。
【0219】
実施例12
麻酔ラットにおけるKAI-9706の3時間注入試験
試験デザイン:
この試験は、カルシウムおよび血漿PTHの低下に対するカチオン性ペプチド上のキャッピング基の寄与について評価するためにデザインした。
【0220】
材料および方法:
イソフルランで麻酔したラット(n=4)に対して、KP-9706(SEQ ID NO:6)を9mg/kgの投薬速度で静脈内注入により3時間にわたって投与した。対照動物(n=4)には食塩水を注入した。血液試料を注入前ならびに1、2、3、4および24時間の時点で採取した。総カルシウム(mg/dL)およびPTH(pg/mL)を測定した。
【0221】
結果:
KP-9706は、総カルシウム(図14)および血漿PTHレベル(非提示データ)のいずれの低下も示さなかった。
【0222】
実施例13
ラットEDTA血漿におけるインビトロ血漿中安定性
材料および方法:
ラットEDTA血漿におけるインビトロ血漿中安定性を、KAI-1455(SEQ ID NO:7)、KP-9706(SEQ ID NO:6)およびKP-9803(SEQ ID NO:8)に関して評価した。
【0223】
結果:
キャッピングされたカルシウムモジュレーターペプチドであるKAI-1455(SEQ ID NO:7)は、キャッピングされていないペプチドであるKP-9706(SEQ ID NO:6)およびKP-9803(SEQ ID NO:8)のどちらよりも血漿中で実質的により安定であった。KAI-1455のラットEDTA血漿中での半減期(t1/2)はおよそ50分であることが示された。KP-9706(SEQ ID NO:6)およびKP-9803(SEQ ID NO:8)の半減期はそれぞれおよそ5分および10分であることが示された(図15)。ヒトおよびイヌの血漿でも同様の結果が観察された(非提示データ)。
【0224】
実施例14
麻酔ラットにおけるKAI-1586およびKAI-1633の3時間注入試験
試験デザイン:
この試験は、総カルシウムおよび血漿PTHの低下に対するカルシウムモジュレーターペプチド上のジスルフィド結合および/またはシステイン残基の寄与について評価するためにデザインした。
【0225】
材料および方法:
イソフルランで麻酔したラット(n=3)に対して、KAI-1633(SEQ ID NO:11)を9mg/kgの投薬速度で静脈内注入により3時間にわたって投与した。対照動物(n=4)には食塩水を注入した。血液試料を注入前ならびに1、2、3、4および24時間の時点で採取した。総カルシウム(mg/dL)およびPTH(pg/mL)を測定した。
【0226】
結果:
KAI-1633は総カルシウムおよび血漿PTHレベルの低下を示さなかった(非提示データ)。9mg/kgのKAI-1633についての定常状態血漿中濃度は、ELISAにより約3500ng/mLであると決定された。これに比して、9mg/kgでのKAI-1455についての定常状態血漿中濃度は、ELISAにより約2200ng/mLであると決定された。この定常状態薬物動態データは、KAI-1455およびKAI-1633が類似した全身曝露を示すことを示唆している。総カルシウムおよび血漿PTHを低下させる有効性に関して観察された差異は、2つの化合物の薬物動態の違いのみに理由があると考えることはできない。
【0227】
実施例15
代表的な態様
以下の代表的な態様は、本発明を限定するためではなく、本発明を例示するために含められる。
【0228】
1.必要とする対象における副甲状腺ホルモン(PTH)レベルを低下させるための医薬の調製におけるカルシウムモジュレーターペプチドの使用であって、カルシウムモジュレーターペプチドが
a)生理的pHで正に荷電する5〜20個のアミノ酸、アミノ末端、カルボキシ末端、および第1のチオール含有残基を含むポリカチオン性ペプチドであって、アミノ末端、カルボキシ末端、またはその両方で化学修飾されている、ポリカチオン性ペプチドと、
b)第1のチオール含有残基とジスルフィド結合している第2のチオール含有残基を含むカーゴペプチドと
を含む、使用。
2.必要とする対象における副甲状腺ホルモン(PTH)レベルを低下させるための医薬の調製におけるカルシウムモジュレーターペプチドの使用であって、カルシウムモジュレーターペプチドが
a)生理的pHで正に荷電する少なくとも3個のアミノ酸、第1のアミノ末端、第1のカルボキシ末端、および第1のチオール含有残基を含む第1のポリカチオン性ペプチドであって、第1のアミノ末端、第1のカルボキシ末端、またはその両方で化学修飾されている、第1のポリカチオン性ペプチドと、
b)生理的pHで正に荷電する少なくとも3個のアミノ酸、第2のアミノ末端、第2のカルボキシ末端、および第2のチオール含有残基を含む第2のポリカチオン性ペプチドであって、第2のアミノ末端、第2のカルボキシ末端、またはその両方で化学修飾されている、第2のポリカチオン性ペプチドと
を含み、かつカルシウムモジュレーターペプチドが生理的pHで正に荷電する6〜30個のアミノ酸を含む、使用。
3.必要とする対象における副甲状腺ホルモン(PTH)レベルを低下させるための医薬の調製におけるカルシウムモジュレーターペプチドの使用であって、
カルシウムモジュレーターペプチドが、生理的pHで正に荷電する5〜20個のアミノ酸、アミノ末端、カルボキシ末端、および第1のチオール含有残基を含むポリカチオン性ペプチドを含み、
該ポリカチオン性ペプチドがアミノ末端、カルボキシ末端、またはその両方で化学修飾されており、かつ
第1のチオール含有残基が、遊離チオールとしてまたは保護された形態で存在しうるチオール基を含む、
使用。
4.対象へのカルシウムモジュレーターペプチドの治療的有効量の投与により、血清PTHが低下する、態様1、2または3のいずれか1つに記載の使用。
5.カルシウムモジュレーターペプチドの治療的有効量が、カルシウムモジュレーターペプチドの投与後少なくとも10時間にわたって血清PTHを少なくとも20%低下させるのに十分である、態様4記載の使用。
6.カルシウムモジュレーターペプチドの治療的有効量が、カルシウムモジュレーターペプチドの投与後少なくとも48時間にわたって血清PTHを少なくとも30%〜70%低下させるのに十分である、態様4記載の使用。
7.必要とする対象における血清カルシウムレベルを低下させるための医薬の調製におけるカルシウムモジュレーターペプチドの使用であって、カルシウムモジュレーターペプチドが、
a)生理的pHで正に荷電する5〜20個のアミノ酸、アミノ末端、カルボキシ末端、および第1のチオール含有残基を含むポリカチオン性ペプチドであって、アミノ末端、カルボキシ末端、またはその両方で化学修飾されている、ポリカチオン性ペプチドと、
b)第1のチオール含有残基とジスルフィド結合している第2のチオール含有残基を含むカーゴペプチドと
を含む、使用。
8.必要とする対象における血清カルシウムレベルを低下させるための医薬の調製におけるカルシウムモジュレーターペプチドの使用であって、カルシウムモジュレーターペプチドが、
a)生理的pHで正に荷電する少なくとも3個のアミノ酸、第1のアミノ末端、第1のカルボキシ末端、および第1のチオール含有残基を含む第1のポリカチオン性ペプチドであって、第1のアミノ末端、第1のカルボキシ末端、またはその両方で化学修飾されている、第1のポリカチオン性ペプチドと、
b)生理的pHで正に荷電する少なくとも3個のアミノ酸、第2のアミノ末端、第2のカルボキシ末端、および第2のチオール含有残基を含む第2のポリカチオン性ペプチドであって、第2のアミノ末端、第2のカルボキシ末端、またはその両方で化学修飾されている、第2のポリカチオン性ペプチドと
を含み、かつカルシウムモジュレーターペプチドが生理的pHで正に荷電する6〜16個のアミノ酸を含む、使用。
9.必要とする対象における血清カルシウムレベルを低下させるための医薬の調製におけるカルシウムモジュレーターペプチドの使用であって、
カルシウムモジュレーターペプチドが、生理的pHで正に荷電する5〜20個のアミノ酸、アミノ末端、カルボキシ末端、および第1のチオール含有残基を含むポリカチオン性ペプチドを含み、
該ポリカチオン性ペプチドがアミノ末端、カルボキシ末端、またはその両方で化学修飾されており、かつ
第1のチオール含有残基が、遊離チオールとしてまたは保護された形態で存在しうるチオール基を含む、
使用。
10.対象へのカルシウムモジュレーターペプチドの治療的有効量の投与により、血清カルシウムが低下する、態様7、8または9のいずれか1つに記載の使用。
11.カルシウムモジュレーターペプチドの治療的有効量が、カルシウムモジュレーターペプチドの投与後少なくとも10時間にわたって血清カルシウムを少なくとも5%低下させるのに十分である、態様10記載の使用。
12.カルシウムモジュレーターペプチドの治療的有効量が、カルシウムモジュレーターペプチドの投与後少なくとも48時間にわたって血清カルシウムを5%〜20%低下させるのに十分である、態様10記載の使用。
13.対象が、原発性副甲状腺機能亢進症、二次性副甲状腺機能亢進症、三次性副甲状腺機能亢進症、悪性腫瘍の高カルシウム血症、転移性骨疾患、ページェット病、骨関節炎、関節リウマチ、骨軟化症、軟骨石灰化症、軟骨無形成症、骨軟骨炎、骨形成不全症、先天性低ホスファターゼ血症、線維腫性病変、線維性骨異形成、多発性骨髄腫、骨溶解性骨疾患、プロテーゼ周囲骨溶解、歯周病、骨粗鬆症、異常骨代謝回転、または高代謝回転型骨疾患に罹患している、態様1〜12のいずれか1つに記載の使用。
14.対象が二次性副甲状腺機能亢進症に罹患している、態様1〜13のいずれか1つに記載の使用。
15.a)生理的pHで正に荷電する5〜20個のアミノ酸、アミノ末端、カルボキシ末端、および第1のチオール含有残基を含むポリカチオン性ペプチドであって、アミノ末端、カルボキシ末端、またはその両方で化学修飾されている、ポリカチオン性ペプチドと、
b)第1のチオール含有残基とジスルフィド結合している第2のチオール含有残基を含むカーゴペプチドと
を含む、カルシウムモジュレーターペプチド。
16.a)生理的pHで正に荷電する少なくとも3個のアミノ酸、第1のアミノ末端、第1のカルボキシ末端、および第1のチオール含有残基を含む第1のポリカチオン性ペプチドであって、第1のアミノ末端、第1のカルボキシ末端、またはその両方で化学修飾されている、第1のポリカチオン性ペプチドと、
b)生理的pHで正に荷電する少なくとも3個のアミノ酸、第2のアミノ末端、第2のカルボキシ末端、および第2のチオール含有残基を含む第2のポリカチオン性ペプチドであって、第2のアミノ末端、第2のカルボキシ末端、またはその両方で化学修飾されている、第2のポリカチオン性ペプチドと
を含み、かつ生理的pHで正に荷電する6〜16個のアミノ酸を含む、カルシウムモジュレーターペプチド。
17.生理的pHで正に荷電する5〜20個のアミノ酸、アミノ末端、カルボキシ末端、および第1のチオール含有残基を含むポリカチオン性ペプチドを含む、カルシウムモジュレーターペプチドであって、
該ポリカチオン性ペプチドがアミノ末端、カルボキシ末端、またはその両方で化学修飾されており、かつ
第1のチオール含有残基が、遊離チオールとしてまたは保護された形態で存在しうるチオール基を含む、
カルシウムモジュレーターペプチド。
18.第1のチオール含有残基とジスルフィド結合している第2のチオール含有残基をさらに含む、態様17記載のカルシウムモジュレーターペプチド。
19.正に荷電したアミノ酸が、アルギニン、リジン、ヒスチジン、2,3-ジアミノプロピオン酸(Dap)、2,4-ジアミノ酪酸(Dab)、オルニチン、およびホモアルギニンからなる群より独立に選択される、態様15〜18のいずれか1つに記載のカルシウムモジュレーターペプチド。
20.第1のチオール含有残基がポリカチオン性ペプチドのアミノ末端またはカルボキシ末端に位置する、態様15〜19のいずれか1つに記載のカルシウムモジュレーターペプチド。
21.第1のチオール含有残基が、ポリカチオン性ペプチドのアミノ末端またはカルボキシ末端以外の位置に位置する、態様15〜19のいずれか1つに記載のカルシウムモジュレーターペプチド。
22.第2のチオール含有残基がカーゴペプチドのアミノ末端またはカルボキシ末端に位置する、態様15、16または18のいずれか1つに記載のカルシウムモジュレーターペプチド。
23.第2のチオール含有残基が、カーゴペプチドのアミノ末端またはカルボキシ末端以外の位置に位置する、態様15、16または18のいずれか1つに記載のカルシウムモジュレーターペプチド。
24.ポリカチオン性ペプチドのアミノ末端がアセトアミドとして化学修飾されている、態様15〜23のいずれか1つに記載のカルシウムモジュレーターペプチド。
25.ポリカチオン性ペプチドのカルボキシ末端が第一カルボキサミドとして化学修飾されている、態様15〜24のいずれか1つに記載のカルシウムモジュレーターペプチド。
26.ポリカチオン性ペプチドのアミノ末端がアセトアミドとして化学修飾されており、かつポリカチオン性ペプチドのカルボキシ末端が第一カルボキサミドとして化学修飾されている、態様15〜25のいずれか1つに記載のカルシウムモジュレーターペプチド。
27.第1のチオール含有残基、および存在する場第2のチオール含有残基が、システイン、ホモシステインおよびメルカプトプロピオン酸からなる群より独立に選択される、態様15〜26のいずれか1つに記載のカルシウムモジュレーターペプチド。
28.ポリエチレングリコール(PEG)とコンジュゲートしている、前記態様のいずれか1つに記載のカルシウムモジュレーターペプチド。
29.SEQ ID NO:13、SEQ ID NO:15、SEQ ID NO:16、SEQ ID NO:17、またはSEQ ID NO:18のアミノ酸配列を有する、カルシウムモジュレーターペプチド。
30.前記態様のいずれか1つに記載のカルシウムモジュレーターペプチドと、少なくとも1つの薬学的に許容される添加剤とを含む、薬学的組成物。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
必要とする対象における副甲状腺ホルモン(PTH)レベルを低下させるための医薬の調製におけるカルシウムモジュレーターペプチドの使用であって、カルシウムモジュレーターペプチドが、
a)生理的pHで正に荷電する5〜20個のアミノ酸、アミノ末端、カルボキシ末端、および第1のチオール含有残基を含むポリカチオン性ペプチドであって、アミノ末端、カルボキシ末端、またはその両方で化学修飾されている、ポリカチオン性ペプチドと、
b)第1のチオール含有残基とジスルフィド結合している第2のチオール含有残基を含むカーゴペプチドと
を含む、使用。
【請求項2】
必要とする対象における副甲状腺ホルモン(PTH)レベルを低下させるための医薬の調製におけるカルシウムモジュレーターペプチドの使用であって、カルシウムモジュレーターペプチドが
a)生理的pHで正に荷電する少なくとも3個のアミノ酸、第1のアミノ末端、第1のカルボキシ末端、および第1のチオール含有残基を含む第1のポリカチオン性ペプチドであって、第1のアミノ末端、第1のカルボキシ末端、またはその両方で化学修飾されている、第1のポリカチオン性ペプチドと、
b)生理的pHで正に荷電する少なくとも3個のアミノ酸、第2のアミノ末端、第2のカルボキシ末端、および第2のチオール含有残基を含む第2のポリカチオン性ペプチドであって、第2のアミノ末端、第2のカルボキシ末端、またはその両方で化学修飾されている、第2のポリカチオン性ペプチドと
を含み、かつカルシウムモジュレーターペプチドが生理的pHで正に荷電する6〜30個のアミノ酸を含む、使用。
【請求項3】
必要とする対象における副甲状腺ホルモン(PTH)レベルを低下させるための医薬の調製におけるカルシウムモジュレーターペプチドの使用であって、
カルシウムモジュレーターペプチドが、生理的pHで正に荷電する5〜20個のアミノ酸、アミノ末端、カルボキシ末端、および第1のチオール含有残基を含むポリカチオン性ペプチドを含み、
該ポリカチオン性ペプチドがアミノ末端、カルボキシ末端、またはその両方で化学修飾されており、かつ
第1のチオール含有残基が、遊離チオールとしてまたは保護された形態で存在しうるチオール基を含む、
使用。
【請求項4】
対象へのカルシウムモジュレーターペプチドの治療的有効量の投与により、血清PTHが低下する、請求項1、2または3のいずれか一項記載の使用。
【請求項5】
カルシウムモジュレーターペプチドの治療的有効量が、カルシウムモジュレーターペプチドの投与後少なくとも10時間にわたって血清PTHを少なくとも20%低下させるのに十分である、請求項4記載の使用。
【請求項6】
カルシウムモジュレーターペプチドの治療的有効量が、カルシウムモジュレーターペプチドの投与後少なくとも48時間にわたって血清PTHを少なくとも30%〜70%低下させるのに十分である、請求項4記載の使用。
【請求項7】
必要とする対象における血清カルシウムレベルを低下させるための医薬の調製におけるカルシウムモジュレーターペプチドの使用であって、カルシウムモジュレーターペプチドが、
a)生理的pHで正に荷電する5〜20個のアミノ酸、アミノ末端、カルボキシ末端、および第1のチオール含有残基を含むポリカチオン性ペプチドであって、アミノ末端、カルボキシ末端、またはその両方で化学修飾されている、ポリカチオン性ペプチドと、
b)第1のチオール含有残基とジスルフィド結合している第2のチオール含有残基を含むカーゴペプチドと
を含む、使用。
【請求項8】
必要とする対象における血清カルシウムレベルを低下させるための医薬の調製におけるカルシウムモジュレーターペプチドの使用であって、カルシウムモジュレーターペプチドが、
a)生理的pHで正に荷電する少なくとも3個のアミノ酸、第1のアミノ末端、第1のカルボキシ末端、および第1のチオール含有残基を含む第1のポリカチオン性ペプチドであって、第1のアミノ末端、第1のカルボキシ末端、またはその両方で化学修飾されている、第1のポリカチオン性ペプチドと、
b)生理的pHで正に荷電する少なくとも3個のアミノ酸、第2のアミノ末端、第2のカルボキシ末端、および第2のチオール含有残基を含む第2のポリカチオン性ペプチドであって、第2のアミノ末端、第2のカルボキシ末端、またはその両方で化学修飾されている、第2のポリカチオン性ペプチドと
を含み、かつカルシウムモジュレーターペプチドが生理的pHで正に荷電する6〜16個のアミノ酸を含む、使用。
【請求項9】
必要とする対象における血清カルシウムレベルを低下させるための医薬の調製におけるカルシウムモジュレーターペプチドの使用であって、
カルシウムモジュレーターペプチドが、生理的pHで正に荷電する5〜20個のアミノ酸、アミノ末端、カルボキシ末端、および第1のチオール含有残基を含むポリカチオン性ペプチドを含み、
該ポリカチオン性ペプチドがアミノ末端、カルボキシ末端、またはその両方で化学修飾されており、かつ
第1のチオール含有残基が、遊離チオールとしてまたは保護された形態で存在しうるチオール基を含む、
使用。
【請求項10】
対象へのカルシウムモジュレーターペプチドの治療的有効量の投与により、血清カルシウムが低下する、請求項7、8または9のいずれか一項記載の使用。
【請求項11】
カルシウムモジュレーターペプチドの治療的有効量が、カルシウムモジュレーターペプチドの投与後少なくとも10時間にわたって血清カルシウムを少なくとも5%低下させるのに十分である、請求項10記載の使用。
【請求項12】
カルシウムモジュレーターペプチドの治療的有効量が、カルシウムモジュレーターペプチドの投与後少なくとも48時間にわたって血清カルシウムを5%〜20%低下させるのに十分である、請求項10記載の使用。
【請求項13】
対象が、原発性副甲状腺機能亢進症、二次性副甲状腺機能亢進症、三次性副甲状腺機能亢進症、悪性腫瘍の高カルシウム血症、転移性骨疾患、ページェット病、骨関節炎、関節リウマチ、骨軟化症、軟骨石灰化症、軟骨無形成症、骨軟骨炎、骨形成不全症、先天性低ホスファターゼ血症、線維腫性病変、線維性骨異形成、多発性骨髄腫、骨溶解性骨疾患、プロテーゼ周囲骨溶解、歯周病、骨粗鬆症、異常骨代謝回転、または高代謝回転型骨疾患に罹患している、請求項1〜12のいずれか一項記載の使用。
【請求項14】
対象が二次性副甲状腺機能亢進症に罹患している、請求項1〜13のいずれか一項記載の使用。
【請求項15】
a)生理的pHで正に荷電する5〜20個のアミノ酸、アミノ末端、カルボキシ末端、および第1のチオール含有残基を含むポリカチオン性ペプチドであって、アミノ末端、カルボキシ末端、またはその両方で化学修飾されている、ポリカチオン性ペプチドと、
b)第1のチオール含有残基とジスルフィド結合している第2のチオール含有残基を含むカーゴペプチドと
を含む、カルシウムモジュレーターペプチド。
【請求項16】
a)生理的pHで正に荷電する少なくとも3個のアミノ酸、第1のアミノ末端、第1のカルボキシ末端、および第1のチオール含有残基を含む第1のポリカチオン性ペプチドであって、第1のアミノ末端、第1のカルボキシ末端、またはその両方で化学修飾されている、第1のポリカチオン性ペプチドと、
b)生理的pHで正に荷電する少なくとも3個のアミノ酸、第2のアミノ末端、第2のカルボキシ末端、および第2のチオール含有残基を含む第2のポリカチオン性ペプチドであって、第2のアミノ末端、第2のカルボキシ末端、またはその両方で化学修飾されている、第2のポリカチオン性ペプチドと
を含み、かつ生理的pHで正に荷電する6〜16個のアミノ酸を含む、カルシウムモジュレーターペプチド。
【請求項17】
生理的pHで正に荷電する5〜20個のアミノ酸、アミノ末端、カルボキシ末端、および第1のチオール含有残基を含むポリカチオン性ペプチドを含む、カルシウムモジュレーターペプチドであって、
該ポリカチオン性ペプチドがアミノ末端、カルボキシ末端、またはその両方で化学修飾されており、かつ
第1のチオール含有残基が、遊離チオールとしてまたは保護された形態で存在しうるチオール基を含む、
カルシウムモジュレーターペプチド。
【請求項18】
第1のチオール含有残基とジスルフィド結合している第2のチオール含有残基をさらに含む、請求項17記載のカルシウムモジュレーターペプチド。
【請求項19】
正に荷電したアミノ酸が、アルギニン、リジン、ヒスチジン、2,3-ジアミノプロピオン酸(Dap)、2,4-ジアミノ酪酸(Dab)、オルニチン、およびホモアルギニンからなる群より独立に選択される、請求項15〜18のいずれか一項記載のカルシウムモジュレーターペプチド。
【請求項20】
第1のチオール含有残基がポリカチオン性ペプチドのアミノ末端またはカルボキシ末端に位置する、請求項15〜19のいずれか一項記載のカルシウムモジュレーターペプチド。
【請求項21】
第1のチオール含有残基が、ポリカチオン性ペプチドのアミノ末端またはカルボキシ末端以外の位置に位置する、請求項15〜19のいずれか一項記載のカルシウムモジュレーターペプチド。
【請求項22】
第2のチオール含有残基がカーゴペプチドのアミノ末端またはカルボキシ末端に位置する、請求項15、16または18のいずれか一項記載のカルシウムモジュレーターペプチド。
【請求項23】
第2のチオール含有残基が、カーゴペプチドのアミノ末端またはカルボキシ末端以外の位置に位置する、請求項15、16または18のいずれか一項記載のカルシウムモジュレーターペプチド。
【請求項24】
ポリカチオン性ペプチドのアミノ末端がアセトアミドとして化学修飾されている、請求項15〜23のいずれか一項記載のカルシウムモジュレーターペプチド。
【請求項25】
ポリカチオン性ペプチドのカルボキシ末端が第一カルボキサミドとして化学修飾されている、請求項15〜24のいずれか一項記載のカルシウムモジュレーターペプチド。
【請求項26】
ポリカチオン性ペプチドのアミノ末端がアセトアミドとして化学修飾されており、かつポリカチオン性ペプチドのカルボキシ末端が第一カルボキサミドとして化学修飾されている、請求項15〜25のいずれか一項記載のカルシウムモジュレーターペプチド。
【請求項27】
第1のチオール含有残基、および存在する場合第2のチオール含有残基が、システイン、ホモシステインおよびメルカプトプロピオン酸からなる群より独立に選択される、請求項15〜26のいずれか一項記載のカルシウムモジュレーターペプチド。
【請求項28】
ポリエチレングリコール(PEG)とコンジュゲートしている、前記請求項のいずれか一項記載のカルシウムモジュレーターペプチド。
【請求項29】
SEQ ID NO:13、SEQ ID NO:15、SEQ ID NO:16、SEQ ID NO:17、またはSEQ ID NO:18のアミノ酸配列を有する、カルシウムモジュレーターペプチド。
【請求項30】
前記請求項のいずれか一項記載のカルシウムモジュレーターペプチドと、少なくとも1つの薬学的に許容される添加剤とを含む、薬学的組成物。
【請求項1】
必要とする対象における副甲状腺ホルモン(PTH)レベルを低下させるための医薬の調製におけるカルシウムモジュレーターペプチドの使用であって、カルシウムモジュレーターペプチドが、
a)生理的pHで正に荷電する5〜20個のアミノ酸、アミノ末端、カルボキシ末端、および第1のチオール含有残基を含むポリカチオン性ペプチドであって、アミノ末端、カルボキシ末端、またはその両方で化学修飾されている、ポリカチオン性ペプチドと、
b)第1のチオール含有残基とジスルフィド結合している第2のチオール含有残基を含むカーゴペプチドと
を含む、使用。
【請求項2】
必要とする対象における副甲状腺ホルモン(PTH)レベルを低下させるための医薬の調製におけるカルシウムモジュレーターペプチドの使用であって、カルシウムモジュレーターペプチドが
a)生理的pHで正に荷電する少なくとも3個のアミノ酸、第1のアミノ末端、第1のカルボキシ末端、および第1のチオール含有残基を含む第1のポリカチオン性ペプチドであって、第1のアミノ末端、第1のカルボキシ末端、またはその両方で化学修飾されている、第1のポリカチオン性ペプチドと、
b)生理的pHで正に荷電する少なくとも3個のアミノ酸、第2のアミノ末端、第2のカルボキシ末端、および第2のチオール含有残基を含む第2のポリカチオン性ペプチドであって、第2のアミノ末端、第2のカルボキシ末端、またはその両方で化学修飾されている、第2のポリカチオン性ペプチドと
を含み、かつカルシウムモジュレーターペプチドが生理的pHで正に荷電する6〜30個のアミノ酸を含む、使用。
【請求項3】
必要とする対象における副甲状腺ホルモン(PTH)レベルを低下させるための医薬の調製におけるカルシウムモジュレーターペプチドの使用であって、
カルシウムモジュレーターペプチドが、生理的pHで正に荷電する5〜20個のアミノ酸、アミノ末端、カルボキシ末端、および第1のチオール含有残基を含むポリカチオン性ペプチドを含み、
該ポリカチオン性ペプチドがアミノ末端、カルボキシ末端、またはその両方で化学修飾されており、かつ
第1のチオール含有残基が、遊離チオールとしてまたは保護された形態で存在しうるチオール基を含む、
使用。
【請求項4】
対象へのカルシウムモジュレーターペプチドの治療的有効量の投与により、血清PTHが低下する、請求項1、2または3のいずれか一項記載の使用。
【請求項5】
カルシウムモジュレーターペプチドの治療的有効量が、カルシウムモジュレーターペプチドの投与後少なくとも10時間にわたって血清PTHを少なくとも20%低下させるのに十分である、請求項4記載の使用。
【請求項6】
カルシウムモジュレーターペプチドの治療的有効量が、カルシウムモジュレーターペプチドの投与後少なくとも48時間にわたって血清PTHを少なくとも30%〜70%低下させるのに十分である、請求項4記載の使用。
【請求項7】
必要とする対象における血清カルシウムレベルを低下させるための医薬の調製におけるカルシウムモジュレーターペプチドの使用であって、カルシウムモジュレーターペプチドが、
a)生理的pHで正に荷電する5〜20個のアミノ酸、アミノ末端、カルボキシ末端、および第1のチオール含有残基を含むポリカチオン性ペプチドであって、アミノ末端、カルボキシ末端、またはその両方で化学修飾されている、ポリカチオン性ペプチドと、
b)第1のチオール含有残基とジスルフィド結合している第2のチオール含有残基を含むカーゴペプチドと
を含む、使用。
【請求項8】
必要とする対象における血清カルシウムレベルを低下させるための医薬の調製におけるカルシウムモジュレーターペプチドの使用であって、カルシウムモジュレーターペプチドが、
a)生理的pHで正に荷電する少なくとも3個のアミノ酸、第1のアミノ末端、第1のカルボキシ末端、および第1のチオール含有残基を含む第1のポリカチオン性ペプチドであって、第1のアミノ末端、第1のカルボキシ末端、またはその両方で化学修飾されている、第1のポリカチオン性ペプチドと、
b)生理的pHで正に荷電する少なくとも3個のアミノ酸、第2のアミノ末端、第2のカルボキシ末端、および第2のチオール含有残基を含む第2のポリカチオン性ペプチドであって、第2のアミノ末端、第2のカルボキシ末端、またはその両方で化学修飾されている、第2のポリカチオン性ペプチドと
を含み、かつカルシウムモジュレーターペプチドが生理的pHで正に荷電する6〜16個のアミノ酸を含む、使用。
【請求項9】
必要とする対象における血清カルシウムレベルを低下させるための医薬の調製におけるカルシウムモジュレーターペプチドの使用であって、
カルシウムモジュレーターペプチドが、生理的pHで正に荷電する5〜20個のアミノ酸、アミノ末端、カルボキシ末端、および第1のチオール含有残基を含むポリカチオン性ペプチドを含み、
該ポリカチオン性ペプチドがアミノ末端、カルボキシ末端、またはその両方で化学修飾されており、かつ
第1のチオール含有残基が、遊離チオールとしてまたは保護された形態で存在しうるチオール基を含む、
使用。
【請求項10】
対象へのカルシウムモジュレーターペプチドの治療的有効量の投与により、血清カルシウムが低下する、請求項7、8または9のいずれか一項記載の使用。
【請求項11】
カルシウムモジュレーターペプチドの治療的有効量が、カルシウムモジュレーターペプチドの投与後少なくとも10時間にわたって血清カルシウムを少なくとも5%低下させるのに十分である、請求項10記載の使用。
【請求項12】
カルシウムモジュレーターペプチドの治療的有効量が、カルシウムモジュレーターペプチドの投与後少なくとも48時間にわたって血清カルシウムを5%〜20%低下させるのに十分である、請求項10記載の使用。
【請求項13】
対象が、原発性副甲状腺機能亢進症、二次性副甲状腺機能亢進症、三次性副甲状腺機能亢進症、悪性腫瘍の高カルシウム血症、転移性骨疾患、ページェット病、骨関節炎、関節リウマチ、骨軟化症、軟骨石灰化症、軟骨無形成症、骨軟骨炎、骨形成不全症、先天性低ホスファターゼ血症、線維腫性病変、線維性骨異形成、多発性骨髄腫、骨溶解性骨疾患、プロテーゼ周囲骨溶解、歯周病、骨粗鬆症、異常骨代謝回転、または高代謝回転型骨疾患に罹患している、請求項1〜12のいずれか一項記載の使用。
【請求項14】
対象が二次性副甲状腺機能亢進症に罹患している、請求項1〜13のいずれか一項記載の使用。
【請求項15】
a)生理的pHで正に荷電する5〜20個のアミノ酸、アミノ末端、カルボキシ末端、および第1のチオール含有残基を含むポリカチオン性ペプチドであって、アミノ末端、カルボキシ末端、またはその両方で化学修飾されている、ポリカチオン性ペプチドと、
b)第1のチオール含有残基とジスルフィド結合している第2のチオール含有残基を含むカーゴペプチドと
を含む、カルシウムモジュレーターペプチド。
【請求項16】
a)生理的pHで正に荷電する少なくとも3個のアミノ酸、第1のアミノ末端、第1のカルボキシ末端、および第1のチオール含有残基を含む第1のポリカチオン性ペプチドであって、第1のアミノ末端、第1のカルボキシ末端、またはその両方で化学修飾されている、第1のポリカチオン性ペプチドと、
b)生理的pHで正に荷電する少なくとも3個のアミノ酸、第2のアミノ末端、第2のカルボキシ末端、および第2のチオール含有残基を含む第2のポリカチオン性ペプチドであって、第2のアミノ末端、第2のカルボキシ末端、またはその両方で化学修飾されている、第2のポリカチオン性ペプチドと
を含み、かつ生理的pHで正に荷電する6〜16個のアミノ酸を含む、カルシウムモジュレーターペプチド。
【請求項17】
生理的pHで正に荷電する5〜20個のアミノ酸、アミノ末端、カルボキシ末端、および第1のチオール含有残基を含むポリカチオン性ペプチドを含む、カルシウムモジュレーターペプチドであって、
該ポリカチオン性ペプチドがアミノ末端、カルボキシ末端、またはその両方で化学修飾されており、かつ
第1のチオール含有残基が、遊離チオールとしてまたは保護された形態で存在しうるチオール基を含む、
カルシウムモジュレーターペプチド。
【請求項18】
第1のチオール含有残基とジスルフィド結合している第2のチオール含有残基をさらに含む、請求項17記載のカルシウムモジュレーターペプチド。
【請求項19】
正に荷電したアミノ酸が、アルギニン、リジン、ヒスチジン、2,3-ジアミノプロピオン酸(Dap)、2,4-ジアミノ酪酸(Dab)、オルニチン、およびホモアルギニンからなる群より独立に選択される、請求項15〜18のいずれか一項記載のカルシウムモジュレーターペプチド。
【請求項20】
第1のチオール含有残基がポリカチオン性ペプチドのアミノ末端またはカルボキシ末端に位置する、請求項15〜19のいずれか一項記載のカルシウムモジュレーターペプチド。
【請求項21】
第1のチオール含有残基が、ポリカチオン性ペプチドのアミノ末端またはカルボキシ末端以外の位置に位置する、請求項15〜19のいずれか一項記載のカルシウムモジュレーターペプチド。
【請求項22】
第2のチオール含有残基がカーゴペプチドのアミノ末端またはカルボキシ末端に位置する、請求項15、16または18のいずれか一項記載のカルシウムモジュレーターペプチド。
【請求項23】
第2のチオール含有残基が、カーゴペプチドのアミノ末端またはカルボキシ末端以外の位置に位置する、請求項15、16または18のいずれか一項記載のカルシウムモジュレーターペプチド。
【請求項24】
ポリカチオン性ペプチドのアミノ末端がアセトアミドとして化学修飾されている、請求項15〜23のいずれか一項記載のカルシウムモジュレーターペプチド。
【請求項25】
ポリカチオン性ペプチドのカルボキシ末端が第一カルボキサミドとして化学修飾されている、請求項15〜24のいずれか一項記載のカルシウムモジュレーターペプチド。
【請求項26】
ポリカチオン性ペプチドのアミノ末端がアセトアミドとして化学修飾されており、かつポリカチオン性ペプチドのカルボキシ末端が第一カルボキサミドとして化学修飾されている、請求項15〜25のいずれか一項記載のカルシウムモジュレーターペプチド。
【請求項27】
第1のチオール含有残基、および存在する場合第2のチオール含有残基が、システイン、ホモシステインおよびメルカプトプロピオン酸からなる群より独立に選択される、請求項15〜26のいずれか一項記載のカルシウムモジュレーターペプチド。
【請求項28】
ポリエチレングリコール(PEG)とコンジュゲートしている、前記請求項のいずれか一項記載のカルシウムモジュレーターペプチド。
【請求項29】
SEQ ID NO:13、SEQ ID NO:15、SEQ ID NO:16、SEQ ID NO:17、またはSEQ ID NO:18のアミノ酸配列を有する、カルシウムモジュレーターペプチド。
【請求項30】
前記請求項のいずれか一項記載のカルシウムモジュレーターペプチドと、少なくとも1つの薬学的に許容される添加剤とを含む、薬学的組成物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公表番号】特表2010−510244(P2010−510244A)
【公表日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−537400(P2009−537400)
【出願日】平成19年11月16日(2007.11.16)
【国際出願番号】PCT/US2007/085024
【国際公開番号】WO2008/067199
【国際公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【出願人】(508083415)カイ ファーマシューティカルズ インコーポレーティッド (7)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年11月16日(2007.11.16)
【国際出願番号】PCT/US2007/085024
【国際公開番号】WO2008/067199
【国際公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【出願人】(508083415)カイ ファーマシューティカルズ インコーポレーティッド (7)
【Fターム(参考)】
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