説明

副腎のβ−11−ヒドロキシラーゼの定量用トレーサーとしての18F標識アルキル−1−[(1R)−1−フェニルエチル]−1H−イミダゾール−5−カルボキシレートの合成と評価

(R)−3−(1−フェニルエチル)−3H−イミダゾール−4−カルボン酸エステルの放射性標識誘導体及びその一段階製造法を提供する。この放射性標識化合物、並びにその薬学的に許容される塩及び溶媒和化合物は、放射性医薬品として、特に、副腎皮質腫瘤、例えば偶発腫、腺腫、原発性又は転移性副腎皮質癌を診断するための陽電子放射断層撮影(PET)での使用に有用である。これらに関連したキット及びPETによる検査方法も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(R)−3−(1−フェニルエチル)−3H−イミダゾール−4−カルボン酸エステルの放射性標識誘導体、並びにこれらの化合物の製造方法に関する。本発明は、これらの放射性標識化合物の、インビボ造影用の放射性医薬品としての使用にも関する。具体的には、これらの化合物は副腎皮質組織と選択的に結合し、偶発腫、腺腫、原発性又は転移性副腎皮質癌のような副腎皮質腫瘤の診断を容易にする。
【背景技術】
【0002】
本発明は、副腎皮質における各種のミトコンドリアチトクロムP−450(Vanden Bossche,1984)と選択的に相互作用する一群の置換(R)−3−(1−フェニルエチル)−3H−イミダゾール−4−カルボン酸エステルに関する。放射性ハロゲン(ヨウ素123、臭素76、フッ素18など)で標識すると、これらの化合物は、偶発腫、腺腫、原発性又は転移性副腎皮質癌のような副腎皮質腫瘤の診断のための放射性トレーサーの役目を果たす。また、β線放出放射性核種(ヨウ素131、臭素82)で標識すると、これらの放射性トレーサーは放射性核種治療に使用できる。主な用途は、腫瘍の診断である(Khan 2003)。
【0003】
具体的には、本発明の化合物は、ステロイドP450β水酸化の強力阻害剤であり、副腎皮質膜と高い親和性で結合する。実際、本発明の化合物は、臨床で用いられている公知の阻害剤(メチラポン、ケトコナゾール)に比べてほぼ1000倍の選択的親和性を有することが判明した。したがって、静脈内投与すると、本発明の標識誘導体は副腎に迅速に蓄積され、診断上有用な放射活性レベルに達する。
【0004】
親化合物のメトミデート及びエトミデート(メチル及びエチルエステル、それぞれMTO及びETOと略す。)は、短期作用型睡眠薬として臨床で用いられている。これらの化合物は、ヒトの副腎皮質組織切片とインキュベートすると、11−デオキシコルチゾールのコルチゾールへの転化並びに11−デオキシコルチコステロン(DOC)のコルチコステロン及びアルドステロンへの転化をブロックすることが示されている(Weber 1993; Engelhardt 1994)。また、メチルエステルであるメトミデート(MTO)も、ステロイドの110水酸化の同程度の強力阻害剤であることが判明している。酵素の阻害には、キラル炭素原子のメチル置換基が(R)立体配置であることが必須である(Vanden Bossche,1984)。
【0005】
臨床所見によれば、放射性トレーサー[O−メチル−11C]メトミデートは、腺腫を始めとする副腎皮質由来の病変部では多量に取り込まれるが、副腎皮質由来以外の病変部ではごく少量しか取り込まれない(Bergstrom、1998、2000)。特異的取り込みが原発性副腎皮質癌の多発性肺転移で報告されている(Mitterhauser、2002)。ただし、良性(例えば腺腫)と悪性(例えば癌)の識別は、主に病変の大きさと形状に依拠しており、腫瘍取り込みの不規則性及び多発性病変が悪性の指標とされる(Khan 2003)。
【0006】
11Cメトミデートは、副腎及び副腎由来の腫瘍のシンチグラフィーに「理想的」な生物学的特性を有しているが、この放射性医薬品が利用できるのは、PET設備のある病院に限られる。11Cはサイクロトロンで生成され、半減期20分で崩壊してしまうので、11Cメトミデートは使用直前に合成する必要がある。
【0007】
一方、ハロゲン化は、十分な融通性、調製及び出荷の時間的余裕をもたらす(ヨウ素123のT1/2は13.2時間、Br76のT1/2は16時間)。
【0008】
メチラポンのような酵素阻害剤も副腎シンチグラフィー用に放射性ヨウ素で標識されているが、こうした化合物が臨床診断に使用された例はない(Wieland、1982;Robien & Zolle、1983)。公知の阻害剤の結合親和性(IC50値)をエトミデートと比較すると、エトミデート及びメトミデートの効力の高さが明らかに認められる。
【0009】
副腎皮質及び副腎皮質由来の腫瘍の造影に利用できる放射性トレーサーは、標識コレステロール誘導体である。その例として、6β−[131I]−ヨードメチル−19−ノルコレステロール(NP−59)(Basmadjian、1975)及び6β−[75Se]−セレノメチル−19−ノルコレステロール(Scintadren(登録商標))(Sakar、1976)が挙げられる。しかし、NP−59及びScintadren(登録商標)はいずれも副腎に蓄積するのが遅く、何日かかかるので、標識として長寿命放射性核種が必要とされる(ヨウ素131のT1/2は8.04日、セレン75のT1/2は120日)。また、ヨウ素131はβ線も放出するので、相当な被爆を伴う。診断にβ放射体を用いることは、もはや最新技術とはいえない。
【0010】
患者のケアに関する上述の薬剤の短所(高い放射能被爆、繰返し造影操作)の点から、エトミデート及びメトミデートの放射性標識誘導体を開発できれば、副腎疾患の検出及び経過観察のための放射性核種造影プロセスを大幅に改善できる。
【0011】
18F]FETO(エトミデートの[18F]フルオロエチルエステル、(R)−1−(1−フェニルエチル)−1Hイミダゾール−5−カルボン酸の20−[18F]フルオロエチルエステル)の従前の研究では、[11C]MTO及び[11C]ETOの類似体は、以下の二段階法で調製されていた。まず、kryptofix/アセトニトリル法で、[18F]フッ化物を2−ブロモエチルトリフレートと反応させて、2−ブロモ−[18F]フルオロエタン([18F]BFE)を得る。第2段階で、[18F]BFEを、(R)−1−(1−フェニルエチル)−1H−イミダゾール−5−カルボン酸のテトラブチルアンモニウム塩と反応させて、[18F]FETOを得る。全合成時間は約80分であった(Wadsak & Mitterhauser 2003)。
【0012】
改良一段階18Fフッ素化合成法を開発できれば、反応時間が短く(つまり、製造に際しての18F標識化合物の合成が迅速)、副反応の回避により収率が向上し、再現性が向上し、自動化も容易となるので、望ましい。
【0013】
こうして開発された化合物は、偶発腫、腺腫、原発性又は転移性副腎皮質癌のような副腎皮質腫瘤の診断のための放射性医薬品として使用できるし、また、治療のモニタリングにも使用できる。
【0014】
なお、本明細書における文献の引用及び記載は、それらの文献が本発明の先行技術であることを認めるものではない。
【特許文献1】米国特許出願公開第2005/033060号明細書
【非特許文献1】Wadsak et al, “Synthesis of [18F]FETO, a novel potential 11-β hydroxylase inhibitor”, Journal of Labelled Compounds and Radiopharmaceuticals, Vol. 46, No. 4, pp. 379-388 (2003)
【非特許文献2】Wadsak et al, “[18F]FETO for adrenocortical PET imaging: a pilot study in healthy volunteers”, Eur. J. Nucl. Med. Mol. Imaging, Vol. 33 No. 6, pp. 669-72 (2006)
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、次の式Iの化合物並びにその薬学的に許容される塩及び溶媒和化合物を提供する。
【0016】
【化1】

式中、
1はH、Cl、Br、I、F、Me、NO2又はOMeであり、
2はアルキル基であり、
3は炭素原子数1〜4の直鎖又は枝分れアルキル鎖である。
【0017】
好ましい実施形態では、R1がパラ位のハロゲンであり、R2がメチル又はエチル基であり、R3の炭素原子数が1又は2である式Iの化合物も提供する。
【0018】
本発明は、標識の合成方法であって、
(a)乾燥18Fを用意し、
(b)次の式IIの出発物質の溶液を用意し
【0019】
【化2】

(式中、
1はH、Cl、Br、I、F、Me、NO2又はOMeであり、
2はアルキル基であり、
3は炭素原子数1〜4の直鎖又は枝分れアルキル鎖であり、
Lは脱離基である。)、
(c)出発物質の溶液を乾燥18Fに加えて、混合物を所定時間加熱し、
(d)得られた式Iの化合物を回収する
ことを含む方法も提供する。
【0020】
好ましい実施形態では、LはTsO、MsO、Cl又はBrである。
【0021】
別の実施形態では、本発明は、有効量の式Iの化合物並びにその薬学的に許容される塩及び溶媒和化合物を含むPETトレーサー用キットを提供する。
【0022】
さらに別の実施形態では、本発明は、副腎皮質腫瘤のインビボ診断又は造影のため被検者のPETを実施する方法であって、本発明の式Iの化合物又はその薬学的に許容される塩及び溶媒和化合物の有効量を被検者に投与し、被検者の体内における式Iの化合物の分布をPETで測定することを含む方法を提供する。
【0023】
本発明は、また、副腎皮質腫瘤関連疾患用の薬剤による被検者の治療効果をモニタリングする方法であって、本発明の式Iの化合物又はその薬学的に許容される塩及び溶媒和化合物の有効量を被検者に投与し、式Iの化合物の取り込みをPETで検出することを含む方法も提供する。
【0024】
本発明のその他の特徴及び利点は、以下の詳細な説明から明らかとなろう。なお、詳細な説明及び実施例は、本発明の好ましい実施形態を示すものではあるが、例示のためのものにすぎない。詳細な説明から本発明の技術的思想及び技術的範囲に属する様々な変更及び修正は当業者には自明であるからである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の一つの目的は、新規な合成方法及び得られる18F標識化合物を提供することである。かかる化合物は、放射性医薬品、特にPETトレーサーとして有用である。
【0026】
本発明の別の目的は、Tracerab(商標)、Fastlab(商標)(共にGeneral Electric社製)及びSynthia(商標)(Uppsala Imanet社(スウェーデン)製)のような自動装置による生体化合物の新規一段階18F標識法を提供することである。
【0027】
この合成方法を使用する他の利点としては、以下の点が挙げられる。
1.反応時間が短く、製造のための18F標識化合物の合成が速くなる。
2.副反応の回避により収率が向上する。
3.再現性が向上する。
4.合成手順が簡単で、製造に携わる化学者であれば誰でも合成を実施できる。
5.合成を容易に自動化できる。
6.市販用前駆体を簡単に製造できる。
【0028】
有効な18F標識同族体は特に価値がある。これらは高い活性で製造でき、近くの使用現場に分配できるからである。
【0029】
本発明は、次の式Iの化合物並びにその薬学的に許容される塩及び溶媒和化合物を提供する。
【0030】
【化3】

式中、
1はH、Cl、Br、I、F、Me、NO2又はOMeであり、
2はアルキル基であり、
3は炭素原子数1〜4の直鎖又は枝分れアルキル鎖である。
【0031】
好ましい実施形態では、R1がパラ位のハロゲンであり、R2がメチル又はエチル基であり、R3の炭素原子数が1又は2である式Iの化合物も提供する。
【0032】
これらの化合物並びにその薬学的に許容される塩及び/又は溶媒和化合物は、様々なPET検査における有益なPETトレーサーを与える。特に、これらの化合物は副腎皮質組織と選択的に結合し、偶発腫、腺腫、原発性又は転移性副腎皮質癌のような副腎皮質腫瘤の診断を容易にする。
【0033】
本発明の一実施形態では、式Iの化合物を含むPETトレーサー用キットを提供する。
【0034】
明らかであろうが、本発明は、本発明の標識化合物の薬学的に許容される塩及び溶媒和化合物、並びにかかる標識化合物、その薬学的に許容される塩及び溶媒和化合物の2種以上を含む混合物も包含する。
【0035】
「薬学的に許容される」という用語は、動物、特にヒトの治療に適合していることをいう。
【0036】
「薬学的に許容される塩」という用語は、被検者の治療に薬理学的に適切又は適合した形態の塩をいう。
【0037】
本発明の化合物が塩基である場合、所望の薬学的に許容される塩は当技術分野で公知の適当な方法で調製することができ、例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸などの無機酸、或いは酢酸、マレイン酸、コハク酸、マンデル酸、フマル酸、マロン酸、ピルビン酸、シュウ酸、グリコール酸、サリチル酸、ピラノシジル酸(グルクロン酸、ガラクツロン酸など)、α−ヒドロキシ酸(クエン酸、酒石酸など)、アミノ酸(アスパラギン酸、グルタミン酸など)、芳香族酸(安息香酸、ケイ皮酸など)、スルホン酸(p−トルエンスルホン酸、エタンスルホン酸など)などの有機酸で遊離の塩基を処理することによって調製できる。
【0038】
本発明の化合物が化合物が酸である場合、所望の薬学的に許容される塩は当技術分野で公知の適当な方法で調製することができ、例えば、アミン(第一級、第二級又第は三級)、水酸化アルカリ金属又は水酸化アルカリ土類金属などの無機塩基又は有機塩基で遊離の酸を処理することによって調製できる。適当な塩の具体例としては、アミノ酸(グリシン、アルギニンなど)、アンモニア、第一級、第二級及び第三級アミン及び環状アミン(ピペリジン、モルホリン、ピペラジンなど)から誘導される有機塩、並びにナトリウム、カルシウム、カリウム、マグネシウム、マンガン、鉄、銅、亜鉛、アルミニウム、リチウムから誘導される無機塩が挙げられる。
【0039】
本明細書で用いる「溶媒和化合物」という用語は、本発明の化合物において適当な溶媒の分子が結晶格子に組み込まれたものを意味する。適当な溶媒は、投与する用量で生理学的に許容される溶媒である。適当な溶媒の具体例としては、エタノール、水などが挙げられる。溶媒が水の場合には、分子は「水和物」と呼ばれる。
【0040】
本発明は、標識の合成方法であって、
(e)乾燥18Fを用意し、
(f)次の式IIの出発物質の溶液を用意し
【0041】
【化4】

(式中、
1はH、Cl、Br、I、F、Me、NO2又はOMeであり、
2はアルキル基であり、
3は炭素原子数1〜4の直鎖又は枝分れアルキル鎖であり、
Lは脱離基である。)、
(g)出発物質の溶液を乾燥18Fに加えて、混合物を所定時間加熱し、
(h)得られた式Iの化合物を回収する
ことを含む方法も提供する。
【0042】
好ましい実施形態では、LはTsO、MsO、Cl又はBrである。
【0043】
式Iの化合物を合成するための一般的な反応スキームは、以下に示す一段階プロセスである。
【0044】
【化5】

式Iの化合物は、対応出発材料を、乾燥18Fと共に加熱した後、液体クロマトグラフィーで精製することによって得ることができる。全合成時間は25分程度とすることができる。
【0045】
乾燥18Fは、Scanditronix MC−17サイクロトロンを用いた18O濃縮(95%)水のプロトン照射による18O(p,n)18F核反応によって調製できる。照射後、内容物を、プレコンディショニングしておいたQMAカートリッジに流す。次に、樹脂に吸着した18Fを、kryptofixとK2CO3とを含有するアセトニトリルと水の混合物で溶出させる。溶液を次いで窒素気流中110℃で蒸発及び無水アセトニトリルと共蒸発させて乾燥させる。
【0046】
本発明の出発材料は次の式IIの化合物である。
【0047】
【化6】

式中、
1はH、Cl、Br、I、F、Me、NO2又はOMeであり、
2は、メチルやエチルのようなアルキル基であり、
3は炭素原子数1〜4の直鎖又は枝分れアルキル鎖であり、
Lは脱離基、好ましくはTsO、MsO、Cl又はBrである。
【0048】
好ましい実施形態では、トシレート誘導体は、対応アルコールから以下の通り合成できる。
【0049】
【化7】

式中、
1はH、Cl、Br、I、F、Me、NO2又はOMeであり、
2は、メチルやエチルのようなアルキル基であり、
3は炭素原子数1〜4の直鎖又は枝分れアルキル鎖であり、
Lは、TsO、MsO、Cl、Brのような脱離基である。
【0050】
化合物(III)及びその誘導体は、文献(Godefroi他、1965)に記載の方法で合成することもできる。水酸化テトラブチルアンモニウムで予め処理しておいた化合物(III)とハロアルコールとの反応で、対応アルコール(IV)が生成する。化合物Vは、p−トルエンスルホニルクロリドとIVとの反応で容易に調製できる。
【0051】
一段階18Fフッ素化であることから、本合成は、TracerLab(商標)、FastLab(商標)又はSynthia(商標)のような自動化装置を用いて容易に自動化できる。N,N−ジメチルホルムアミドのような無水溶媒中での前駆体と乾燥18Fとの反応によって、式Iの標識化合物が得られる。
【0052】
本発明の式Iの18F標識化合物又はその薬学的に許容される塩及び溶媒和化合物は、好適には、インビボ投与に適した生物学的に適合した形態で被検者に投与される放射性医薬組成物に製剤化される。したがって、本発明は、別の態様では、本発明の放射性標識化合物又はその薬学的に許容される塩及び溶媒和化合物を、適当な希釈剤又は担体との混合物として含む医薬組成物を提供する。
【0053】
本明細書で用いる「有効量」という用語は、臨床結果を含めて所望の結果を得るのに十分な量を意味し、そのため「有効量」は適用される対象に応じて左右される。
【0054】
本明細書で用いる「被検者」という用語は、ヒトを含めた動物界のすべての動物を意味する。被検者は好ましくはヒトである。
【0055】
本発明の好ましい実施形態では、炭素同位体で標識したケトン又はその薬学的に許容される塩及び溶媒和化合物を有効量含むPETトレーサー用のキットを提供する。
【0056】
かかるキットは、ヒトへの投与(例えば、血流への直接投与)に適した滅菌製品を与えるように設計されている。適当なキットは、式Iの化合物又はその薬学的に許容される塩及び溶媒和化合物の有効量を収容した容器(例えば、セプタム封止バイアル)を含む。
【0057】
キットは、適宜、放射線防護剤、抗菌保存剤、pH調整剤又は賦形剤のような追加成分をさらに含んでいてもよい。
【0058】
「放射線防護剤」という用語は、水の放射線分解で生じる含酸素フリーラジカルのような反応性の高いフリーラジカルを捕捉することによって、酸化還元反応のような分解反応を抑制する化合物を意味する。本発明の放射線防護剤は、好適には、アスコルビン酸、パラアミノ安息香酸(つまり4−アミノ安息香酸)、ゲンチシン酸(つまり2,5−ジヒドロキシ安息香酸)及びそれらの塩から選択される。
【0059】
「抗菌保存剤」という用語は、細菌、酵母又はカビなどの有害微生物の増殖を阻害する薬剤を意味する。抗菌保存剤は、用量に応じてある程度の殺菌作用を示すこともある。本発明における抗菌保存剤の主な役割は、再構成後の医薬組成物(つまり、放射性診断薬自体)における微生物の増殖を阻害することである。ただし、抗菌保存剤を、再構成前の本発明のキットの1以上の成分での有害微生物の増殖を防止するために使用してもよい。適当な抗菌保存剤としては、パラベン類、即ちエチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベン又はこれらの混合物、ベンジルアルコール、フェノール、クレゾール、セトリミド及びチオメルサールが挙げられる。好ましい抗菌保存剤はパラベンである。
【0060】
「pH調整剤」という用語は、再構成したキットのpHが、ヒトへの投与に関する許容範囲(概してpH4.0〜10.5)内に収まるようにするのに有用な化合物又は化合物の混合物を意味する。かかる適当なpH調整剤としては、トリシン、リン酸塩又はTRIS(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン)のような薬学的に許容される緩衝剤、並びに炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム又はこれらの混合物のような薬学的に許容される塩基が挙げられる。リガンドコンジュゲートを酸塩の形態で用いる場合には、pH調整剤を適宜別のバイアル又は容器に入れて用意し、キットのユーザーが多段階操作の一部としてpHを調整できるようにしてもよい。
【0061】
「賦形剤」という用語は、薬学的に許容される増量剤を意味し、製造時及び凍結乾燥時の材料の取扱いを容易にする。適当な賦形剤としては、塩化ナトリウムのような無機塩並びに水溶性糖類又は糖アルコール、例えばスクロース、マルトース、マンニトール又はトレハロースが挙げられる。
【0062】
本発明は、副腎皮質腫瘤腫瘤のインビボ診断又は造影のため被検者の陽電子放射断層撮影(PET)を実施する方法であって、本発明の式Iの化合物又はその薬学的に許容される塩及び溶媒和化合物の有効量を被検者に投与し、被検者の体内における式Iの化合物の分布をPETで測定することを含む方法も包含する。好ましい実施形態では、本発明は、被検者のPETを実施する方法であって、本発明のキットを被検者に投与し、被検者の体内における式Iの化合物の分布をPETで測定することを含む方法を提供する。
【0063】
本発明は、副腎皮質腫瘤関連疾患用の薬剤による被検者の治療効果をモニタリングする方法であって、本発明の式Iの化合物又はその薬学的に許容される塩及び溶媒和化合物の有効量を被検者に投与し、式Iの化合物の取り込みをPETで検出することを含む方法も提供する。
【0064】
本発明の方法では、当業者には自明であろうが、本発明の放射性標識化合物は、選択した投与経路に応じて様々な形態で被検者に投与できる。本発明の組成物は好ましくは静脈内投与によって投与され、放射性医薬組成物も例えば化合物を全身に投与するのに適した生理学的・放射線学的に許容されるベヒクルと製剤化することができる。
【0065】
本発明を以下の実施例でさらに説明するが、これらの実施例は本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0066】
例1(参考合成例)
a)2−フルオロエチル1−[(1R)−1−フェニルエチル]−1H−イミダゾール−5−カルボキシレートの調製
(R)−1−(1−フェニルエチル)−1H−イミダゾール−5−カルボン酸(200mg)をジクロロメタン(2ml)に溶解し、次いで前駆体を活性化するための相間移動触媒として水酸化テトラブチルアンモニウム(TBAH、40%、660mg)を加えた。次いで、溶媒を蒸発させ、ジクロロメタンと共に2回共蒸発させた。
【0067】
乾燥錯体をアルゴン雰囲気中で無水DMF(3ml)及び1−ブロモ−2−フルオロエタン(200mg)で再構成した。反応混合物を150℃で4.5時間加熱した。過剰の1−ブロモ−2−フルオロエタンを減圧下で蒸発させた。残留物をH2O及びジクロロメタンで抽出し、MgSO4で乾燥させ、減圧下で蒸発させた。
【0068】
分取用TLC(溶出液=CH2Cl2/MeOH,9:1)を行って、生成物を分離した(9.7mg、収率4%)。1H−及び13C−NMR並びにLC−MS分析を行った。
【0069】
実施例2(前駆体の合成)
a)2−ヒドロキシエチル1−[(1R)−1−フェニルエチル]−1H−イミダゾール−5−カルボキシレートの調製
1−[(1R)−1−フェニルエチル]−1H−イミダゾール−5−カルボン酸メチルは、Godefroi et al,J. Med. Chem, 8, 1965, 220に記載の通り合成した。水(37ml)中の水酸化ナトリウム(2.64g)の溶液に、1−[(1R)−1−フェニルエチル]−1H−イミダゾール−5−カルボン酸メチル(2.16g)を加えた。100℃で1時間還流した後、溶液を水(47ml)及び酢酸(24ml)で希釈した。溶液を次いでCH2Cl2及びエーテルで抽出し、MgSO4で乾燥し、少量となるまで濃縮して、生成物を得た(1.74g、86%)。1H−及び13C−NMR並びにLC−MS分析を行った。
【0070】
b)2−ヒドロキシエチル1−[(1R)−1−フェニルエチル]−1H−イミダゾール−5−カルボキシレートの調製
(R)−1−(1−フェニルエチル)−1H−イミダゾール−5−カルボン酸(1.740g)をCH2Cl2(2ml)に溶解し、TBAH(40%水溶液、4.64g)を添加することによって、前駆体を活性化させた。次いで、CH2Cl2を蒸発させ、CH2Cl2と共に2回共蒸発させた。その後、減圧下で錯体を乾燥させた。
【0071】
乾燥錯体を無水アセトニトリル(7ml)で再構成し、窒素気流下で2−ヨードエタノール(1.65ml)を加えた。80℃で1時間撹拌した後、溶液を蒸発させた。混合物をCH2Cl2及び炭酸水素ナトリウムで抽出し、MgSO4で乾燥し、少量となるまで乾燥させた。
【0072】
粗生成物でフラッシュクロマトグラフィー(溶出液=CH2Cl2/MeOH,9:1)を実施して、標記化合物(1.7g)を分離した。1H−NMR及びLC−MS分析を行った。
【0073】
c)2−{[(4−メチルフェニル)スルホニル]オキシ}エチル1−[(1R)−1−フェニルエチル]−1H−イミダゾール−5−カルボキシレートの調製
乾燥ピリジン(13ml)中の2−ヒドロキシエチル1−[(1R)−1−フェニルエチル]−1H−イミダゾール−5−カルボキシレート(1.73g)の溶液(0℃)に、塩化パラトルエンスルホニル(1.7g)を加え、混合物を窒素気流下で1時間、さらに室温で2時間磁気撹拌子で攪拌した。反応後にTLCを実施した(溶出液=CH2Cl2/MeOH,9:1)。
【0074】
CH2Cl2を加え、得られた混合物をまず2MのHClで、次にH2Oで抽出した後、MgSO4で乾燥した。濾過後に溶媒を蒸発させて、赤黄色の粗生成物を得た。
【0075】
粗生成物でフラッシュクロマトグラフィー(溶出液=CH2Cl2/MeOH,9:1)を実施して、標記化合物(1.27g)を分離した。1H−NMR及びLC−MS分析を行った。
【0076】
実施例3(18F標識の合成)
a)18Fの一般的合成法
18F]フッ化物は、Uppsala Imanet社で、Scanditronix MC−17サイクロトロンを用いた18O濃縮(95%)水のプロトン照射による18O(p,n)18F核反応によって製造した。
【0077】
b)(18O濃縮(95%)水を用いた)[K/K2.2.2]+ 18-の合成
照射後、標的物質を、プレコンディショニングしておいたQMAカートリッジに流した。カラムはヘリウムで5分間パージしておいた。13.8mgのkryptofix 2.2.2及び3.2mgのK2CO3を含有するアセトニトリル/水混液(体積比96:4)3mlを用いて、樹脂に吸着した[18F]フッ化物を反応バイアルに溶出させ、溶液を次いで蒸発させ、以下に示す通り窒素気流中110℃で無水アセトニトリル(2×1ml)と共に共蒸発させて乾燥させた。
【0078】
c)Synthiaを用いた[18F]標識2−フルオロエチル1−[(1R)−1−フェニルエチル]−1H−イミダゾール−5−カルボキシレートの調製
無水DMF(0.5ml)中の2−{[(4−メチルフェニル)スルホニル]オキシ}エチル1−[(1R)−1−フェニルエチル]−1H−イミダゾール−5−カルボキシレート(5.0mg)の溶液を乾燥[K/K2.2.2]+ 18-に加えた。反応混合物を、150℃で15分間加熱した。粗混合物を、50%KH2PO4(25mM)及び50% MeCN/H2O(50:7)の均一濃度溶出液及び流速1.5ml/分の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析・精製した。
【0079】
d)Tracerlabを用いた[18F]標識2−フルオロエチル1−[(1R)−1−フェニルエチル]−1H−イミダゾール−5−カルボキシレートの調製
無水DMF(0.8ml)中の2−{[(4−メチルフェニル)スルホニル]オキシ}エチル1−[(1R)−1−フェニルエチル]−1H−イミダゾール−5−カルボキシレート(4.4mg)の溶液を乾燥[K/K2.2.2]+ 18-に加えた。反応混合物を、150℃で15分間加熱した。粗混合物を、50%KH2PO4(25mM)及び50% MeCN/H2O(50:7)の均一濃度溶出液及び流速1.5ml/分の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析・精製した。
各種の具体的形態及び参考文献の引用について
本発明の技術的範囲は、本明細書に記載した特定の実施形態に限定されるものではない。本明細書に記載した実施形態に加えて本発明の様々な変更は、本明細書の記載内容及び図面から当業者には自明である。かかる変更も、特許請求の範囲に記載された技術的範囲に属する。
【0080】
本明細書では、様々な刊行物及び特許出願を引用するが、それらの開示内容は援用によって本明細書の内容の一部をなす。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の式Iの化合物並びにその薬学的に許容される塩及び溶媒和化合物。
【化1】

式中、
1はH、Cl、Br、I、F、Me、NO2又はOMeであり、
2はアルキル基であり、
3は炭素原子数1〜4の直鎖又は枝分れアルキル鎖である。
【請求項2】
1がパラ位のハロゲンであり、R2がメチル又はエチル基であり、R3の炭素原子数が1又は2である、請求項1記載の化合物。
【請求項3】
標識の合成方法であって、
(a)乾燥18Fを用意し、
(b)次の式IIの出発物質の溶液を用意し
【化2】

(式中、
1はH、Cl、Br、I、F、Me、NO2又はOMeであり、
2はアルキル基であり、
3は炭素原子数1〜4の直鎖又は枝分れアルキル鎖であり、
Lは脱離基である。)、
(c)出発物質の溶液を乾燥18Fに加えて、混合物を所定時間加熱し、
(d)得られた式Iの化合物を回収する
を含む方法。
【請求項4】
1がパラ位のハロゲンであり、R2がメチル又はエチル基であり、R3の炭素原子数が1又は2である、請求項3記載の方法。
【請求項5】
LがTsO、MsO、Cl又はBrである、請求項3記載の方法。
【請求項6】
標識の合成が自動化装置で実施される、請求項3記載の方法。
【請求項7】
次の式Iの化合物並びにその薬学的に許容される塩及び溶媒和化合物を含むPET検査用キット。
【化3】

式中、
1はH、Cl、Br、I、F、Me、NO2又はOMeであり、
2はアルキル基であり、
3は炭素原子数1〜4の直鎖又は枝分れアルキル鎖である。
【請求項8】
放射線防護剤、抗菌保存剤、pH調整剤又は賦形剤をさらに含む、請求項7記載のキット。
【請求項9】
前記放射線防護剤が、アスコルビン酸、パラアミノ安息香酸、ゲンチシン酸及びそれらの塩から選択される、請求項8記載のキット。
【請求項10】
前記抗菌保存剤が、パラベン、ベンジルアルコール、フェノール、クレゾール、セトリミド及びチオメルサールから選択される、請求項8記載のキット。
【請求項11】
前記pH調整剤が、薬学的に許容される緩衝液、薬学的に許容される塩基又はそれらの混合物である、請求項8記載のキット。
【請求項12】
前記賦形剤が無機塩、水溶性の糖又は糖アルコールである、請求項8記載のキット。
【請求項13】
副腎皮質腫瘤のインビボ診断又は造影のため被検者のPETを実施する方法であって、本発明の式Iの化合物又はその薬学的に許容される塩及び溶媒和化合物の有効量を被検者に投与し、被検者の体内における式Iの化合物の分布をPETで測定することを含む方法。
【請求項14】
副腎皮質腫瘤が、偶発腫、腺腫、原発性又は転移性副腎皮質癌である、請求項13記載の方法。
【請求項15】
副腎皮質腫瘤関連疾患用の薬剤による被検者の治療効果をモニタリングする方法であって、本発明の式Iの化合物又はその薬学的に許容される塩及び溶媒和化合物の有効量を被検者に投与し、式Iの化合物の取り込みをPETで検出することを含む方法。

【公表番号】特表2009−539822(P2009−539822A)
【公表日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−513791(P2009−513791)
【出願日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際出願番号】PCT/IB2007/001528
【国際公開番号】WO2007/144725
【国際公開日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(305040710)ジーイー・ヘルスケア・リミテッド (99)
【Fターム(参考)】