副腎毒性バイオマーカー

【課題】
本発明は、投与化合物が示しうる副腎毒性を、少ない労力で迅速にかつ簡便に検出するためのバイオマーカーの用途を提供することを課題とする。
【解決手段】
本発明者らはメタボロミクスの手法を用いて、副腎毒性バイオマーカーの探索を実施し、プレグネノン酸(pregnenoic acid)が副腎毒性と相関して増加するバイオマーカーとして有用であることを見出したことによって、上記課題を解決した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、副腎毒性検出用バイオマーカーに関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品を開発するに当たり、医薬品候補化合物はしばしば副腎毒性を認める場合がある。本毒性が認められた場合には医薬品への適用可否の判断要因となるため、副腎毒性を評価することは重要である。副腎毒性の検出方法としては、病理組織学的検査が用いられている。しかし、病理組織学的検査は組織標本の作製及び顕微鏡による観察など多大な労力を要するため、医薬品候補化合物の迅速かつ簡便な評価が困難である。そこで、病理組織学的検査に代わる迅速かつ簡便な副腎毒性検出方法の開発が待ち望まれていた。
副腎毒性に関係するバイオマーカーを見出すことができれば、迅速かつ簡便に副腎毒性を検出することが可能となる。バイオマーカー探索方法の一つとして近年メタボロミクスが盛んであり、その手法を用いて、様々な毒性バイオマーカーの探索が試みられている。
例えば、メタボロミクスにより、肝毒性、腎毒性、心筋毒性及び神経毒性のバイオマーカー候補(非特許文献1)や、骨格筋毒性のバイオマーカー候補(非特許文献2)が見出されている。しかし副腎毒性を検出可能なバイオマーカーについては報告がない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Clinical Biochemistry 2011 vol44 pp119−135
【非特許文献2】Analytical Biochemistry 2011 vol410 pp84−91
【非特許文献3】Journal of Steroid Biochemistry 1978 vol9 pp1093−1097
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、化合物が示す副腎毒性を、少ない労力で迅速にかつ簡便に検出するためのバイオマーカーを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題に鑑み、本発明者らはメタボロミクスの手法を用いて、副腎毒性バイオマーカーの探索を実施し、プレグネノン酸(pregnenoic acid)が副腎毒性と相関して増加するバイオマーカーとして有用であることを見出した。
【0006】
まず、副腎毒性を示すアミノグルテチミド(AG。以下同じ)又はケトコナゾール(KZ。以下同じ)等を投与した哺乳動物及び投与しない哺乳動物の、副腎抽出物、尿及び血漿を高速液体クロマトグラフ/質量分析計で測定し、化合物投与によって量に変動が見られた物質を選抜した。その物質を核磁気共鳴法(NMR)で同定したところ、化合物投与により増量したm/z345の代謝物がプレグネノン酸であることを突き止めた。
【0007】
プレグネノン酸は、ラット及びウサギの肝臓、副腎、卵巣、子宮、筋肉又は腎臓のホモジネートとデオキシコルチコステロンを培養した際に生じることが知られている(非特許文献3)。しかしプレグネノン酸と副腎毒性との関連については報告が無い。
本研究により、プレグネノン酸は新規の副腎毒性バイオマーカー足りうることが明らかとなった。
下記にプレグネノン酸の構造式を示す。
【化1】

【0008】
本発明は、
[1]プレグネノン酸からなる、副腎障害検出用バイオマーカー
[2]プレグネノン酸を指標とする、被検物質による副腎毒性の判定方法
[3]被検物質で処理した哺乳動物より採取した試料中のプレグネノン酸を検出することを特徴とする、請求項2記載の方法
[4]前記試料が副腎、血清、血漿、又は尿である、請求項3に記載の方法
[5]プレグネノン酸を指標とする、副腎関連疾患の判定方法
[6]プレグネノン酸を指標とする、被検物質による副腎毒性の判定方法であって、
(1)被検物質を投与していない哺乳動物より採取した試料中のプレグネノン酸を検出し、
(2)被検物質を投与した哺乳動物より採取した試料中のプレグネノン酸を検出し、
(3)両者を比較して、後者のプレグネノン酸濃度が高い場合に、該被検物質が副腎毒性を示すと判定することを特徴とする方法
[7]プレグネノン酸を指標とする、被検物質による副腎毒性の判定方法であって、
(1)被検物質を投与していない哺乳動物より採取した試料中のプレグネノン酸をクロマトグラフィー及び/又は質量分析法で検出し、
(2)被検物質を投与した哺乳動物より採取した試料中のプレグネノン酸をクロマトグラフィー及び/又は質量分析法で検出し、
(3)両者を比較して、後者のプレグネノン酸濃度が高い場合に、該被検物質が副腎毒性を示すと判定することを特徴とする方法
[8]前記試料が副腎、血清、血漿、又は尿である、前記[6]又は[7]記載の方法。
[9]プレグネノン酸を特異的に認識することを特徴とする、被検物質の副腎毒性検出用抗体
[10]プレグネノン酸を特異的に認識する抗体を含有することを特徴とする、被検物質の副腎毒性検出用組成物
[11]プレグネノン酸を特異的に認識する抗体を含有することを特徴とする、被検物質の副腎毒性検出用キット
[12]プレグネノン酸を特異的に認識する抗体を用いた、副腎毒性の低い化合物をスクリーニングする方法
[13]プレグネノン酸を特異的に認識する抗体を用いることを特徴とする、イムノアッセイ。
などを提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のバイオマーカーを用いれば、哺乳動物を用いた医薬化合物の非臨床評価の際、従来法より少ない労力で、迅速かつ簡便に副腎毒性を予測することができる。
非侵襲的に試料を取得した場合は、i)使用動物数を減らすことができる、ii)同一個体を用いることで個体差が生じない、iii)臨床試験で化合物が副作用として副腎毒性を生じないかの確認、ができる、というメリットもある。
従って、本発明により哺乳動物に対する副腎毒性の弱い化合物をこれまで以上に効率良くスクリーニングすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】ラットにAG及びKZを各200mg/kg投与し、4時間、24時間後に摘出した副腎中のプレグネノン酸ピーク面積値を、箱ヒゲ図で示した。箱の下端、上端は第1四分位数及び第3四分位数を示し、箱から伸びる棒の下端及び上端は、最小値及び最大値を示す。箱の中の線は中央値を示す。縦軸は副腎中でのプレグネノン酸のピーク面積値を示し、横軸は各時点における投与化合物を示す。
【図2】ラットに40、200mg/kgのAG又は30、100、200mg/kgのKZを投与し、0−4時間、20−24時間で回収した尿中のプレグネノン酸のピーク面積値を、箱ヒゲ図で示した。
【図3】ラットに8、40、200mg/kgのAG又は10、30、100、200mg/kgのKZを7日間反復経口投与し、投与2及び7日後0−4時間で回収した尿中のプレグネノン酸ピーク面積値を、箱ヒゲ図で示した。
【図4】ラットに50、100mg/kgのメチラポン(MET。以下同じ)を7日間反復皮下投与し、投与2及び7日目の0−4時間で回収した尿中のプレグネノン酸ピーク面積値を、箱ヒゲ図で示した。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において
「プレグネノン酸」とは、(化1)に示される構造を有する化合物をいう。
「メタボロミクス」とは、生体の内因性代謝物を網羅的に検出・解析する方法であり、薬物投与による生体のレスポンスとその経時変化を包括的・定量的・即時的に評価することができる方法である。それゆえ、医薬品の毒性や有効性予測に有用である。
【0012】
「バイオマーカー」とは、生体由来の物質で、生体内の生物学的変化を定量的に把握するための指標となるものをいう。
【0013】
「副腎障害」とは、副腎に生じる障害のことであり、哺乳動物の副腎に機能異常、機能低下及び/又は病変を生じる現象を言う。本明細書では、副腎毒性化合物により生じた機能異常、機能低下及び/又は病変、副腎関連疾患により生じた機能異常、機能低下及び/又は病変、ならびに外傷等による副腎の機能異常及び/又は機能低下も含む。
【0014】
「副腎毒性」とは、医薬候補化合物又は医薬品等の化合物が、哺乳動物の副腎に機能異常、機能低下及び/又は病変を生じさせる性質をいう。副腎毒性を有する化合物等を哺乳動物に高用量投与すると、副腎皮質束状帯に肥大や空胞化などの病変を生じさせる。例えば、AG、KZ及びMETなどは副腎毒性を有することが知られているが、単なる例示でありこれに限らない。
【0015】
「試料」とは、副腎、血液、血漿、血清又は尿のことをいう。
【0016】
「副腎関連疾患」とは、哺乳動物の副腎の機能異常及び/又は機能低下を生じる疾患のことで、例えばアジソン病(慢性副腎皮質機能低下症)などが挙げられる。
【0017】
「被検物質」とは、例えば、生物の細胞抽出物、該生物の無細胞抽出物、該生物の細胞培養上清などの試料中に含まれた物質、生物学的に産生された物質、化学的に合成された化合物、ペプチド、ペプチドミメティックス、各種タンパク質、核酸、核酸アナログ、抗体、抗体断片などが挙げられる。前記化合物には、コンビナトリアルケミストリーにより得られたコンビナトリアルライブラリーの化合物も含まれる。前記抗体及び抗体断片には、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、単鎖抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、Fabフラグメントなどが含まれる。前記核酸及び核酸アナログには、アンチセンス核酸、リボザイム、PNA(Peptide Nucleic Acid)などが含まれる。ここで、前記生物としては、例えば、植物、動物、微生物などが挙げられる。
【0018】
本発明の一態様としては、化合物が示しうる副腎毒性を検出するためのバイオマーカー及びその用途に関する。
本発明のバイオマーカーとしては例えばプレグネノン酸が挙げられる。哺乳動物から採取した試料中のプレグネノン酸を検出することで、化合物によって哺乳動物に引き起こされる副腎毒性を予測することができる。
【0019】
本発明の方法では、哺乳動物の副腎中、血液中、血漿中又は尿中プレグネノン酸量を判定指標に用いることができる。適用対象となる哺乳動物に特に制限はなく、ヒト、サル、ラット、マウス、ハムスター、モルモット、イヌ、ネコ、ウサギ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ウシ等が挙げられる。好ましくは、ヒト、サル、ラット、マウス、イヌ等である。動物の性別、齢、体重等は特に制限されない。非哺乳動物中のプレグネノン酸量を判定指標に用いることもできる。
【0020】
哺乳動物に被検物質を投与する方法は特に制限されない。例えば被検物質を固形、半固形、液状、エアロゾル等の形態で経口的又は非経口的(例:静脈内、筋肉内、腹腔内、動脈内、皮下、皮内又は気道内等)に投与することができる。被検物質の投与量は、化合物の種類、動物種、体重、投与形態、投与期間等によって異なる。被検物質は特に限定されないが、医薬品候補化合物であることが望ましい。
【0021】
哺乳動物からの試料の採取方法及び採取の時期は特に制限されない。
試料としては副腎、血液、血漿、血清又は尿が挙げられる。被検動物への侵襲が少ないことから血液、血漿、血清が好ましい。非侵襲的で被検動物に苦痛を与えることなく、繰り返し採取可能な尿を用いることが特に好ましい。
【0022】
非侵襲的に試料を取得した場合は、i)使用動物数を減らすことができる、ii)同一個体を用いることで個体差が生じない、などのメリットもある。
【0023】
副腎ホモジネートを調製する場合は、一般薬理試験で用いられる手法等が用いられる。
【0024】
血液は、ヒトであれば通常の採血方法により静脈より採取し、非ヒト哺乳動物であれば、尾静脈、頸静脈などから採取する。
血漿は、例えば、ヘパリン、EDTA、等の抗凝固剤を添加して、遠心分離又は血漿分離膜濾過により、血球を分離除去することで取得できる。
血清は、例えば、血液を一定時間以上放置して生じた血餅を遠心分離し、上清を採取することで取得できる。
【0025】
尿の採取法は、ヒトであれば通常の検尿の方法が挙げられる。非ヒト哺乳動物であれば、仙椎刺激もしくは膀胱圧迫により新鮮尿を強制採取するか自然排泄尿を蓄尿し取得できる。一定期間、蓄尿して採取することもできる。
【0026】
採取の時期は予備実験の結果に従い、試料取得時期を適宜設定することも可能である。例えば蓄尿する場合は、哺乳動物への化合物投与から0〜4時間、20〜24時間が好ましいが、特に限定されるものではない。
【0027】
プレグネノン酸の検出方法は特に限定されないが、好ましくは一般的にメタボロミクスに用いられる公知の方法であるクロマトグラフィー、質量分析法、又は抗体を用いた方法から適宜選択することができる。さらに好ましくは、例えばクロマトグラフィー及び質量分析法、並びにクロマトグラフィー及び抗体を用いた方法、の組み合わせで検出することもできる。「検出」とは微量の成分などを検査して見つけ出すことをいうが、本明細書中において「検出」にはある物質の濃度の測定、当該物質の有無の検出、又はクロマトグラフィーもしくは質量分析法における当該物質に起因するピーク面積の測定、も含む。厳密な定量は必ずしも必要ではなく、定性的にプレグネノン酸を検出してもよい。
【0028】
クロマトグラフィーの例としては、ガスクロマトグラフィー(GC)、液体クロマトグラフィー(LC)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、キャピラリーゾーン電気泳動(CZE)、超臨界流体クロマトグラフィー(SFC)、薄層クロマトグラフィー(TLC)などが挙げられる。操作性及び分離能の観点からHPLCが好ましい。
【0029】
質量分析法(MS)の例としてはクロマトグラフィーと組み合わせ可能なものが好ましいが、特に限定されない。例えば、質量分析計としては四重極型質量分析計(QMS)、イオントラップ型質量分析計(ITMS)、飛行時間型質量分析計(TOFMS)、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴型質量分析計(FT−ICRMS)、マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析計(MALDI−TOFMS)などが挙げられる。上記質量分析計を複数組み合わせたタンデム質量分析計なども挙げられる。
【0030】
クロマトグラフィーと質量分析の組み合わせの例としては、液体クロマトグラフィー−質量分析(LC−MS)法などが挙げられる。
【0031】
HPLCでプレグネノン酸を検出するための手段としては、何らかのプローブを付加して化学発光、蛍光、電気化学的に検出することもできる。
【0032】
上記以外のプレグネノン酸の検出方法としては、免疫定量法が挙げられる。
免疫定量法によれば、さらに迅速、簡便に試料中のプレグネノン酸を検出できる。免疫定量法においては、プレグネノン酸に特異的に結合する物質が使用される。このような物質としては例えば抗プレグネノン酸抗体が挙げられるが、プレグネノン酸に特異的に結合するものであれば、抗プレグネノン酸抗体に限らず使用することができる。抗プレグネノン酸抗体やその他のプレグネノン酸に特異的に結合する物質を用いて、被検物質の副腎毒性を検出することができる。
【0033】
免疫定量法の具体例としては、放射免疫測定法(ラジオイムノアッセイ、RIA法)、免疫蛍光測定法(Fluoro immunoassay、FIA)、免疫発光測定法(Luminescent immunoassay)、酵素免疫測定法(Enzyme immunoassay、EIAあるいはenzyme−linked immunosorbent assay、ELISA)、ラテックス凝集法、ウエスタンブロット法などが挙げられる。ELISAの具体的方法として競合イムノアッセイやサンドイッチイムノアッセイなどが挙げられる。
【0034】
抗プレグネノン酸ポリクローナル抗体は、免疫学的手法、ファージディスプレイ法、リボソームディスプレイ法などを利用して調製することができる。免疫学的手法によるポリクローナル抗体取得には、合成品又は哺乳動物から精製したプレグネノン酸を抗原として用いることが出来る。免疫惹起作用を増強するために、抗原に加えてアジュバントを投与してもよい。
アジュバントとしては不完全フロイントアジュバントなどが使用される。また、免疫惹起作用増強のためには例えばプレグネノン酸にハプテン(不完全抗原ともいう)を結合させてもよい。プレグネノン酸やハプテン結合プレグネノン酸を抗原として用いて例えばウサギ等の動物に免疫を施す。必要に応じて免疫を繰返し、十分に抗体価が上昇した時点で血清を取得する。血清からアフィニティー精製することで抗プレグネノン酸ポリクローナル抗体を調製することができる。免疫方法は上記のような一般的な方法が用いられるが、これに限られない。
【0035】
モノクローナル抗体については、上記と同様の手順で免疫操作を実施し、十分抗体価が上昇した時点で動物から抗体産生細胞を摘出する。この抗体産生細胞とミエローマ(骨髄腫細胞)とを融合してハイブリドーマを得る。このハイブリドーマからプレグネノン酸に対して高い特異性を有する抗体を産生するクローンを、例えば、スポット法、凝集反応法、ウエスタンブロット法、ELISA法などの一般に抗体の検出に用いられている種々の方法を用いて選択することで、モノクローナル抗体産生細胞を取得することができる。選択されたクローンの培養液を精製することにより、目的の抗体が得られる。又はイブリドーマと適合性のある哺乳動物、例えばマウスなどの腹腔に、ハイブリドーマを接種して、所望抗体をマウス腹水として大量に回収することもできる。モノクローナル抗体産生細胞の選択や抗体の採取方法は上記一般的な方法が用いられるがこれに限られない。
【0036】
抗体の挙動を検出可能とするため抗体そのものが種々の物質で標識されうる。種々の物質としては化学発光物質、酵素、蛍光物質、着色ビーズ、放射性同位元素、元素、金属類、ビオチンが挙げられる。以下に具体例を示すがこれらに限定されるものではない。化学発光物質とは例えばルミノールやアクリジニウムエステルなどをさす。酵素とは例えばβ−ガラクトシダーゼやアルカリホスファターゼやペルオキシダーゼなどをさす。蛍光物質とは例えばユウロピウムクリプテートやFITCやRITC(などをさす。着色ビーズとは例えばプロテインAビーズ、wheat germ agglutinin(WGA)ビーズ、ストレプトアビジンビーズなどをさす。放射性同位元素とは例えば14Cや125Iや3Hなどをさす。元素とは例えばユウロピウムなどのランタニド元素をさす。金属類とは例えばフェリチンや金コロイドなどをさす。
【0037】
被検物質により生じうる副腎毒性の判定は、哺乳動物より採取した試料中のプレグネノン酸を指標として行う。
【0038】
副腎毒性の判定の一例として、(1)被検物質を投与した哺乳動物より採取した試料中のプレグネノン酸を検出し、(2)予め副腎毒性判定のために設定したカットオフ値よりもプレグネノン酸濃度が高い場合に、該被検物質が「副腎毒性を示す」又は「副腎毒性を示す可能性が高い」と判定することができる。
また、予め副腎毒性判定のために設定したカットオフ値と試料中のプレグネノン酸濃度が同じ、又は予め副腎毒性判定のために設定したカットオフ値よりも試料中のプレグネノン酸濃度の方が低い場合、該被検物質は「副腎毒性を示さない」又は「副腎毒性を示す可能性が低い」と判定することができる。
【0039】
好ましくは、(1)被検物質を投与された哺乳動物より採取した試料中のプレグネノン酸をクロマトグラフィー及び/又は質量分析法で検出し、
(2)予め副腎毒性判定のために設定したカットオフ値よりもプレグネノン酸濃度が高い場合に、該化合物が「副腎毒性を示す」又は「副腎毒性を示す可能性が高い」と判定する。ただし、この判定方法に特に限定されるものではない。
【0040】
カットオフ値は予備実験の結果から定めることができる。例えば、ケトコナゾールを投与しない動物由来の試料、副腎毒性を示すことが知られているケトコナゾールを投与した哺乳動物由来の試料を調製し、両者に含まれるプレグネノン酸を比較し、前者の中間値及び後者の中間値の間の、ある値をカットオフ値と定めることもできる。具体的には、ケトコナゾールを200mg/kg投与した哺乳動物由来試料と、ケトコナゾールを投与しない哺乳動物由来試料中のそれぞれのプレグネノン酸のピーク面積の中間値が8×10と1×10であった場合、2×10をカットオフ値と定めることができる。また、ケトコナゾールを投与しない動物に代えて、溶媒を投与した哺乳動物、副腎毒性を示さない化合物を投与した哺乳動物を利用してもよい。
この記載によりカットオフ値やその設定方法が特に限定されるものではない。カットオフ値は実験条件で変動するものであることに留意する。
【0041】
副腎毒性の判定の別の例として、(1)被検物質を投与していない哺乳動物より採取した試料中のプレグネノン酸を検出し、(2)被検物質を投与した哺乳動物より採取した試料中のプレグネノン酸を検出し、(3)両者を比較して、後者のプレグネノン酸濃度が高い場合に、該被検物質が「副腎毒性を示す」又は「副腎毒性を示す可能性が高い」と判定することができる。好ましくは、(1)被検物質を投与していない哺乳動物より採取した試料中のプレグネノン酸をクロマトグラフィー及び/又は質量分析法で検出し、(2)被検物質を投与した哺乳動物より採取した試料中のプレグネノン酸をクロマトグラフィー及び/又は質量分析法で検出し、(3)両者を比較して、後者のプレグネノン酸濃度が高い場合に、該被検物質が「副腎毒性を示す」又は「副腎毒性を示す可能性が高い」と判定する。
被検物質を投与していない哺乳動物に代えて、溶媒を投与した哺乳動物、副腎毒性を示さない化合物を投与した哺乳動物を利用してもよい。
【0042】
実施例にはピーク面積値を掲載しているが、複数の既知濃度のプレグネノン酸を用い作成した検量線によって、プレグネノン酸濃度を算出することができる。
ただし判定には実験誤差も十分考慮する。
【0043】
副腎毒性の判定の別例として、相対比で判定することもできる。被検物質を投与した哺乳動物試料等から検出されたプレグネノン酸量が、被検物質を投与していないものより、投与したものの方が例えば2倍以上である場合に、該化合物が副腎毒性を示すと判定する。好ましくは3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍、100倍、1000倍などが考えられるが、特に限定されるものではない。
【0044】
副腎毒性のポジティブコントロールとして、例えばステロイド合成を阻害する既知化合物(例えばAG、KZ及びMET)を用いることもできる。
【0045】
副腎毒性判定の別例として、プレグネノン酸に加えて他の副腎毒性に関するバイオマーカーを組み合わせて評価することもできる。例えばプレグネノン酸と他のバイオマーカーを同時に測定し、両者を組み合わせて判定する。他の態様としてプレグネノン酸の検出結果に基づき一次的な副腎毒性を判定し、他のバイオマーカーの検出結果に基づき、最終判定することも出来る。逆に他のバイオマーカーにより一次的な副腎毒性を判定し、プレグネノン酸で最終判定することもできる。
この態様によれば、信頼性がさらに向上しうる。
【0046】
副腎毒性判定の別例として、臨床試験において医薬品候補化合物を評価することができる。すなわち、被験者から尿又は体液(血液等)を採取し、それらに含まれるプレグネノン酸により、当該化合物が副腎毒性を示さない又は副腎毒性を示す可能性が低いかが評価できる。
【0047】
プレグネノン酸の用途として、副腎毒性を示さない被検物質又は副腎毒性を示す可能性が低い被検物質のスクリーニングに用いることができる。
該スクリーニング方法の一実施形態として、被検物質を哺乳動物に投与し、該哺乳動物由来の試料中のプレグネノン酸を測定することで、哺乳動物に対し副腎毒性を示さない被検物質を選択することが出来る。哺乳動物は好ましくは、医薬品の毒性試験に通常使用される、マウス、ラット、ウサギ、イヌ又はサルである。被検物質の調製、投与経路、投与用量、投与回数などの実験条件は公知の医薬品の毒性試験に準じて行うことができる。例えば「医薬品 非臨床試験ガイドライン解説2010」(薬事日報社)に記載の方法にて試験することができる。
前述したように、哺乳動物由来試料中のプレグネノン酸を測定することで、副腎毒性を示す可能性の低い化合物のスクリーニングに用いることができる。また、培養細胞や培養組織等に被検物質を曝露し、細胞の培養上清又は組織中のプレグネノン酸を測定することで、副腎毒性を示さない又は副腎毒性を示す可能性の低い被検物質のスクリーニングを実施することも可能である。
前述したように、既知の副腎毒性化合物をポジティブコントロールとして用いることもできる。
【0048】
本発明のキットは、抗プレグネノン酸モノクローナル抗体を含むことを特徴とする。
抗プレグネノン酸抗体で哺乳動物由来試料中のプレグネノン酸を検出すれば、投与された被検物質の副腎毒性を迅速・簡便に検出できる。このようなキットは、更に一般的にアッセイを実行するために必要な1つ以上の構成要素を含む。構成要素は、標準品、試薬(希釈液、緩衝液など)、容器及び/又は装置であり得る。
【0049】
キットに含まれる抗プレグネノン酸モノクローナル抗体は、当業者に公知の任意の支持材料(例えば、マイクロタイタープレートにおけるウェルやニトロセルロースなどの適切な膜)に付着されて提供され得る。このようなキットはまた、抗体結合の直接的検出又は間接的検出に適切な種々の物質により標識され得る。
【0050】
哺乳動物由来試料中のプレグネノン酸を検出することにより、哺乳動物における副腎関連疾患を判定することもできる。
一例としては、
プレグネノン酸を指標とする、副腎関連疾患の検査方法であって、
(1)哺乳動物より採取した試料中のプレグネノン酸を検出し、
(2)健常な哺乳動物より採取した試料中のプレグネノン酸を検出し、
(3)両者を比較して、(1)の方が高濃度であれば、(1)記載の哺乳動物が副腎関連疾患に罹患していると判定することを特徴とする方法、が挙げられる。
該方法を用いれば、例えば先天性副腎過形成の判定をすることができる。
ここで「健常な哺乳動物」とは、副腎に障害や病変の見られない、哺乳動物のことをいう。
【実施例1】
【0051】
以下、実施例を示してこの出願の発明をさらに詳細かつ具体的に説明するが、この出願の発明は以下の例によって限定されるものではない。
(副腎毒性バイオマーカーの探索)
ステロイド合成阻害により副腎皮質束状帯に肥大や空胞化を惹起することが知られているAG(40、200mg/kg)及びKZ(30、100、200mg/kg)を0.5w/v%メチルセルロース水溶液懸濁下、雌性Crl:CD(SD)ラット(1群4匹)に単回経口投与し,投与後0−4時間、20−24時間の尿及び投与後4、24時間後の副腎を採取した。
【0052】
病理検査は投与24時間後の器官・組織について10%中性緩衝ホルマリン液で固定し、常法によりパラフィン切片を作製後、ヘマトキシリン・エオジン染色を施して光学顕微鏡観察を行なった。その結果を表1に示した。
【0053】
【表1】

【0054】
副腎は3倍量の1%ギ酸含有メタノールを加えホモジナイズ後、10℃下、3500rpmにて10分間遠心し、上清を窒素気流下乾固した。残渣に内標準物質を含む水/メタノール(99:1)混液50μLを加え、攪拌し、測定用試料とした。尿試料各20μLに内標準物質としてデキサメタゾン、4−フルオロ−L−フェニルアラニン、ペンタフルオロオクタン酸及び4−フルオロメチルマンデル酸を含む水/メタノール(99:1)混液60μLを加え、攪拌し、測定試料とした。これら測定用試料をLC−MS測定に供した。用いた機器は、LCシステム部分はParadigm MS4 system (Microm BioResources Inc.)、オートサンプラー部分はHTC−PAL (AMR Inc.)、質量分析計はLTQ Orbitrap (サーモフィッシャーサイエンティフィック製)を用いた。LC/MSの条件は、カラム:Develosil ODS−HG−5(5μm、1.5mm i.d. x150mm、野村化学製)、カラム温度:室温、流速:125μL/分、イオンスプレー電圧:3kV、シースガス流速:10、Auxガス流速:30、キャピラリー温度:300℃、チューブレンズ:70V、キャピラリー電圧:49V、スキャン範囲:m/z 50−1000、イオンモード:正イオン検出、分解能:60000に設定した。
【0055】
移動相には、移動相成分Aとして0.1%ギ酸水溶液(v/v)、移動相成分Bとして0.1%ギ酸アセトニトリル溶液(v/v)を用い、流速:125μL/分でグラジエントさせる条件で溶出させた。組成は、5分間5%の移動相成分Bを流した後、25分間で移動相成分Bを5〜95%まで直線的に増加させ、5分間95%の移動相成分Bを流した後、1分間で移動相成分Bを5%に戻し、その後のサンプル注入までの4分間で再平衡化した。
【0056】
その結果、図1及び図2に示すように副腎及び尿においてAG及びKZ単回投与により共に用量依存的に増加するバイオマーカーとしてm/z345の代謝物を見出した。本化合物についてMS/MS及びNMRによる構造推定及び標準物質による同定を行った結果、変動する代謝物はプレグネノン酸であることが判明した。
これらの結果から、プレグネノン酸は副腎毒性のバイオマーカーとなりうることが明らかになった。
【実施例2】
【0057】
(アミノグルテチミド及びケトコナゾールの反復投与)
雌性Crl:CD(SD)ラット(1群4匹)にAG(8、40、200mg/kg)及びKZ(10、30、100、200mg/kg)を7日間反復経口投与し、投与2及び7日目の0−4時間の尿を採取し、実施例1と同様の方法により測定を行った。
【0058】
その結果、図3に示すように反復投与時においてもAG及びKZにより用量依存的なプレグネノン酸の増加が認められた。また病理所見の結果を表2に記載した。
【0059】
【表2】

【実施例3】
【0060】
(メチラポンによるプレグネノン酸の増加)
雌性Crl:CD(SD)ラット(1群4匹)に生理食塩液を媒体としてMET(50、100mg/kg)を反復皮下投与し、投与2及び7日後の0−4時間尿を採取し、実施例1と同様の方法により測定を行った。
【0061】
その結果、図4に示すようにAGやKZと同様、ステロイド合成阻害により副腎毒性を惹起することが知られるMET投与時においても用量依存的なプレグネノン酸の増加が認められた。またMET(50、100mg/kg)反復皮下投与群の病理所見の結果を表3に記載した。
【表3】

以上より、プレグネノン酸は尿中バイオマーカーとしてステロイド合成阻害に基づく副腎毒性の予測にも利用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明により、被検物質の副腎毒性を検出、副腎毒性を示さない化合物の簡便かつ迅速なスクリーニング等が可能になった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレグネノン酸からなる、副腎障害検出用バイオマーカー。
【請求項2】
プレグネノン酸を指標とする、被検物質による副腎毒性の判定方法。
【請求項3】
被検物質を投与した哺乳動物より採取した試料中のプレグネノン酸を検出することを特徴とする、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記試料が副腎、血清、血漿、又は尿である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
プレグネノン酸を指標とする、副腎関連疾患の判定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−36923(P2013−36923A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−174793(P2011−174793)
【出願日】平成23年8月10日(2011.8.10)
【出願人】(000001926)塩野義製薬株式会社 (229)
【Fターム(参考)】