説明

割断用スクライブ線の形成方法及び装置

【課題】 エネルギ吸収効率の低い比較的透明な基板であっても、それに作り込まれたデバイス回路に熱的損傷を与えることなく、これに割断に必要な十分な深さのスクライブ線を形成すること。
【解決手段】 レーザ発振器をQスイッチ駆動して得られるパルス状レーザビームを、前記基板と前記ビームとを相対的に移動させることにより、前記基板上の割断予定線上の基板端縁を一端とする所定微少区間に限って照射する第1のステップと、レーザ発振器を連続駆動して得られるCWレーザビームを、前記基板と前記ビームとを相対的に移動させることにより、前記基板上に設定される割断予定線上の一方の基板端縁から他方の基板端縁に至る全区間に亘って照射する第2のステップとを含んで構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デバイス回路が作り込まれた透明な基板に、レーザ発振器から生成される所定波長のレーザビームを照射しつつ、基板とビームとを相対的に移動させることにより、基板上に基板割断用のスクライブ線を形成する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、多数のデバイス回路が縦横に作り込まれた基板(ウエハ)を個々の回路チップに分断するためには、基板上の分断予定線に沿って予めスクライブ線を形成した後、エキスパンダなどの割断装置を用いて、スクライブ線に沿って基板を割断するといった方法が採用されている。
【0003】
このとき、スクライブ線の形成にカッタなどを用いた機械的加工方法を採用すると、パーティクルが発生して後工程に支障を来すため、昨今、レーザ発振器から生成される所定波長のCWレーザビームを照射しつつ、基板とビームとを相対的に移動することにより、基板上に基板割断用のスクライブ線を形成する方法が採用されている。
【0004】
このようなCWレーザビームを使用した割断用スクライブ線の形成方法にあっては、基板内部に作り込まれたデバイス回路に対する熱的影響をできる限り抑制しつつ、割断に必要とされる所定深さのスクライブ線を確実に形成せねばならない。
【0005】
対象となる基板が、シリコンウエアなどのような不透明な基板の場合、CWレーザビームに対するエネルギ吸収効率は比較的高いため、さほどレーザビームのパワーを上げずとも、割断に必要な所定深さのスクライブ線を容易に形成することができる。
【0006】
しかし、対象となる基板が、例えばサファイア基板などのような透明度の高い基板の場合、CWレーザビームに対するエネルギ吸収効率が低いため、レーザビームのパワーを相当に高めないと、割断に必要な所定深さのスクライブ線を形成することができない。ところが、このようにレーザビームのパワーを高めると、基板内部に作り込まれたデバイス回路が熱的影響を受けて損傷する虞れがある。
【0007】
一方、透明度の比較的高い基板であっても、レーザ発振器をQスイッチ駆動して得られるパルス状レーザビームを使用すれば、レーザビーム照射点の周囲に与える熱的影響を極力抑制しつつ、スクライブ線を形成できることが知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−114075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述のパルス状レーザビームを使用する割断用スクライブ線の形成方法にあっても、熱的影響は極小化できるものの、その反面十分な深さのスクライブ線を形成するためには、やはりレーザビームのパワーを相当に上げねばならず、デバイス回路に対する熱的影響を考慮すると、結局、十分な深さを確保することが困難となるといった問題点があった。
【0010】
この発明は、このような従来の問題点に着目してなされたものであり、その目的とするところは、比較的透明度の高い基板であっても、それに作り込まれたデバイス回路に対する熱的影響を最小に留めつつ、割断に必要な所定深さのスクライブ線を確実に形成することが可能な割断用スクライブ線の形成方法及び装置を提供することにある。
【0011】
また、この発明の他の目的とするところは、レーザビームを用いた従前のスクライブ線形成システムに大幅な変更を与えることなく、低コストに実現することが可能な割断用スクライブ線の形成方法及び装置を提供することにある。
【0012】
この発明のさらに他の目的並びに作用効果については、明細書の以下の記述を参照することにより、当業者であれば容易に理解される筈である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述の「発明が解決しようとする課題」は、以下の構成を有する割断用スクライブ線の形成方法により解決することができるものと考えられる。
【0014】
すなわち、この割断用スクライブ線の形成方法は、デバイス回路が作り込まれた透明な基板に、レーザ発振器から生成される所定波長のレーザビームを照射しつつ、基板とビームとを相対的に移動させることにより、基板上に基板割断用のスクライブ線を形成するものであって、第1のステップと第2のステップとを包含するものである。
【0015】
第1のステップは、レーザ発振器をQスイッチ駆動して得られるパルス状レーザビームを、基板とビームとを相対的に移動させることにより、前記基板上に設定された割断予定線上の基板端縁から所定微少区間に限って照射するものである。
【0016】
第2のステップは、レーザ発振器を連続駆動して得られるCWレーザビームを、基板とビームとを相対的に移動させることにより、前記基板上に設定された割断予定線上の基板端縁に相当する一端から基板端縁に相当する他端に至る全区間に亘って照射するものである。
【0017】
ここで、『デバイス回路』とは、当該基板に組み込まれたデバイスを構成する回路であって、一般には集積回路により構成される。また、液晶ディスプレイ上のガラス基板などの場合には、液晶デバイス回路の電極を含む各回路パターンがこれに相当する。すなわち、この発明は、サファイア基板などの比較的透明度の高い基板上に作り込まれた多数のデバイス回路を個々のチップに分断するといった用途に限らず、ガラス基板上に携帯電話用の液晶ディスプレイパターンを多数作り込んだ後、これを個々のディスプレイパターンに分割するといった用途にも応用することが可能である。
【0018】
また、『基板とビームとを相対的に移動』とあるのは、ビーム自体を首振り走査する場合と、XYステージを介して基板側を移動させる場合の双方及びそれらの組み合わせを含むことを意味している。
【0019】
このような割断用スクライブ線の形成方法によれば、第1のステップを実行することによって、基板上に設定された割断予定線上の基板端縁から所定微少区間は、瞬間的な高い尖頭値エネルギを有するパルス状レーザビームを受けて、その表面が瞬間的に破壊され、粗面化されて、比較的浅い一定の領域は多重反射によるエネルギ吸収が生じやすい変性領域とされる。続いて、第2のステップが実行されると、上述の変性領域の上に、CWレーザビームが照射されることによって、そのCWレーザビームのエネルギは基板へと効率よく吸収されて高温化することで、レーザビームの移動と共に、上述の微少区間は基板材料の溶融化が進む。続いて、上述の微少区間から変性化されていない基板領域にさしかかると、微少区間に隣接する変性化されていない基板材料部分についても、隣接領域から伝達される熱によって高温化及び溶融化が引き起こされ、以後順次隣接する領域が雪崩れをうつように溶融化されて、比較的に低パワーのCWレーザビームであっても、割断予定線の全区間に亘ってこれを溶融化させ、スクライブ線を構成する十分な深さの溝を形成することができる。
【0020】
そのため、パルス状レーザビームそれ自体は基板内部に作り込まれたデバイス回路に熱的影響を与えにくいことに加え、CWレーザビームについても比較的低エネルギのものを使用することができるため、対象となる基板が比較的に透明度の高いものであっても、内部に作り込まれたデバイス回路に対する熱的影響を最小に留めつつ、割断に必要な所定深さのスクライブ線を確実に形成することができる。
【0021】
加えて、この割断用スクライブ線の形成方法によれば、2種類の照射態様を有するレーザビームを使用しつつも、各態様のレーザビームは単に駆動方法が異なるだけであって、発振器それ自体の基本的構造は同一であるから、従前のシステム構成を大幅に変更することなくこれを低コストに実現することが可能となる。
【0022】
上述の割断用スクライブ線の形成方法において、第1のステップの処理が、基板上に設定された縦横の割断予定線に沿って、レーザビームの光軸を縦断走査または横断走査させながら、基板外領域から基板内領域へと進入直後の所定微少区間に限りパルス状レーザビームを基板に照射する処理を包含し、かつ第2のステップの処理が、基板上に設定された縦横の割断予定線に沿って、レーザビームの光軸を縦断走査または横断走査させながら、基板外領域から基板内領域へと進入してから基板内領域から基板外領域へと退出するに至る全区間に亘ってCWレーザビームを基板に照射する処理を包含するものであれば、比較的透明度の高いウエハ上に縦横に作り込まれた多数のデバイス回路を、個々の回路チップに分断するといった用途において、ビームとXYステージとの走査を組み合わせて、効率よくスクライブ線を形成することができる。
【0023】
また、上述の回路チップ分割に際して、本発明者等の実験によれば、透明基板が縦横に区画された各矩形領域内にデバイス回路が作り込まれたサファイア基板のとき、レーザ発振器がYVOレーザ発振器であると、内部に作り込まれたデバイス回路に対する熱的影響を全く与えることなく、割断に必要な深さのスクライブ線を確実に形成できることが確認された。
【0024】
上述の「発明が解決しようとする課題」は、以下の構成を有する割断用スクライブ線の形成装置により解決することができるものと考えられる。
【0025】
すなわち、この割断用スクライブ線の形成装置は、デバイス回路が作り込まれた透明な基板を載置固定するためのXYステージと、レーザ発振器をパルス駆動又は連続駆動することにより、パルス状レーザビームとCWレーザビームとのいずれかを択一的に出射可能なレーザビーム発生手段と、前記レーザビーム発生手段から発生するレーザビームを前記XYステージに載置固定された基板に対して所定の光軸をもって照射するためのビーム導入光学系と、前記XYステージと前記光軸とを相対的に移動させることにより、前記基板上の割断予定線に沿うように光軸を前記XYステージ上で移動させる際の光軸の移動経路を設定するための経路設定手段と、前記基板上に設定される割断予定線に沿って、基板端縁に相当する一端から基板端縁に相当する他端に向けて計測されるべき所定の微少距離を設定するための微少距離設定手段と、前記経路設定手段にて設定された光軸の移動経路に沿って、前記光軸が移動するように、前記XYステージの動きを制御するビーム移動制御手段と、前記ビーム移動制御手段により前記光軸を前記設定経路に沿って移動させている1回目の走査において、前記レーザビーム発生手段から適宜のタイミングでパルス状レーザビームを出射させることにより、前記基板上に設定された割断予定線上の基板端縁に相当する一端から、前記微少距離設定手段にて設定された微少距離区間に限って、前記基板上にパルス状レーザビームを照射する第1のビーム照射制御手段と、前記ビーム移動制御手段により前記光軸を前記設定経路に沿って移動させている2回目の走査において、前記レーザビーム発生手段から適宜のタイミングでCWレーザビームを出射させることにより、前記基板上に設定された割断予定線上の基板端縁に相当する一端から基板端縁に相当する他端に至る全区間に限って、前記基板上にパルス状レーザビームを照射する第2のビーム照射制御手段と、を含んで構成される。
【0026】
このような構成によれば、光軸の移動経路及び基板端縁からの微少距離さえ設定しておけば、ビーム移動制御手段、第1のビーム照射制御手段、及び第2のビーム照射制御手段の作用によって、割断に必要な所定深さのスクライブ線を基板上に自動的に形成することができる。
【0027】
上述の割断用スクライブ線の形成装置において、前記第1のビーム照射制御手段は、前記光軸が基板外領域から基板内領域へと移行する直前において、前記パルス状レーザビームを照射開始すると共に、前記光軸が前記微少区間を通過するのを待って、前記パルス状レーザビームを照射停止するものであり、かつ前記第2のビーム照射制御手段は、前記光軸が基板外領域から基板内領域へと移行する直前において、前記CWレーザビームを照射開始すると共に、前記光軸が基板内領域から基板外領域へと移行する直後において、前記CWレーザビームを照射停止するものであってもよい。
【0028】
このような構成によれば、パルス状レーザビーム及びCWレーザビームは、割断用スクライブ線の形成に必要とされる期間以外は照射停止に維持されているため、最小のエネルギー消費で、必要な割断用スクライブ線を生成することができる。
【0029】
また、上述の回路チップ分割に際して、本発明者等の実験によれば、透明基板が縦横に区画された各矩形領域内にデバイス回路が作り込まれたサファイア基板のとき、レーザ発振器がYVOレーザ発振器であると、内部に作り込まれたデバイス回路に対する熱的影響を全く与えることなく、割断に必要な深さのスクライブ線を確実に形成できることが確認された。
【発明の効果】
【0030】
本発明の割断用スクライブ線の形成方法及び装置によれば、対象となる基板が比較的に透明度の高い基板であったとしても、これに作り込まれたデバイス回路に対する熱的影響を最小に留めつつ、割断に必要な深さを有するスクライブ線を確実に形成することができ、しかも従来システムに対して軽微な変更を加えるだけで、これを低コストに実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明方法を実施するためのシステム全体を光学系を中心として示す構成図である。
【図2】Qスイッチ発振パルスレーザの走査軌跡の説明図である。
【図3】CWレーザの走査軌跡の説明図である。
【図4】本発明方法を説明するための工程図である。
【図5】本発明方法を実施するためのシステム全体を電気系を中心として示す構成図である。
【図6】制御用PCにおける設定用画面の説明図である。
【図7】本発明に係る装置の基板1個あたりの一巡動作を示すフローチャートである。
【図8】加工プロセスにおける制御用PCの処理内容を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下に、この発明に係る割断用スクライブ線の形成方法の好適な実施の一形態を添付図面を参照しながら詳細に説明する。なお、言うまでもないことであるが、以下に説明する一実施形態は、本発明に含まれる実施形態の一例を示すものに過ぎず、本発明の及ぶ範囲は特許請求の範囲の構成によって特定される。
【0033】
本発明方法を実施するためのシステム全体を光学系を中心として示す構成図が図1に示されている。同図に示されるように、このシステムは、XYステージ機構1と、載物台2と、導入光学系3と、アッテネータ4と、レーザ発振器5と、パルス発生器6と、発振器制御ユニット7とを含んで構成される。
【0034】
XYステージ1は、図では模式化して示されているが、当業者にはよく知られているように、X方向駆動機構1aとY方向駆動機構1bとを有するもので、それらの駆動機構によって載物台2をXY方向の任意の位置へと移動可能に構成されている。なお、この例では、載物台2上の所定位置には、スクライブ線形成の対象となるサファイア基板8が搭載固定されている。当業者にはよく知られているように、基板の固定には真空吸着装置等を利用することができる。
【0035】
レーザ発振器5は、この例にあっては、不可視赤外光(波長1.064μm)を発するYVOレーザが採用されている。このレーザ発振器5は、パルス発生器6から与えられるパルス列の態様に応じて、第1のモードと第2のモードとからなる2つの駆動モードでレーザ発振を行うように構成されている。パルス発生器6からのパルス発生態様の切り替えは、発振器制御ユニット7からの制御で行われる。
【0036】
すなわち、発振器制御ユニット7からの制御で、パルス発生器6から第1の態様のパルス列信号がレーザ発振器5へと送られると、レーザ発振器5からは、Qスイッチ駆動して得られるパルス状レーザビームが出射される。このパルス状レーザビームのパルス間隔は、パルス発生器6から与えられるパルス列によって制御される。一方、発振器制御ユニット7からの制御によって、パルス発生器6から、第2の態様のパルス列がレーザ発振器5に与えられると、レーザ発振器5からは、連続駆動により得られたCWレーザビームが出射される。
【0037】
なお、Qスイッチ駆動により得られるパルス状レーザビーム及び連続駆動により得られるCWレーザビームについては、この種の技術分野における当業者において周知であるから、その詳細については各種公知文献に委ねることとする。
【0038】
レーザ発振器5から出射されるパルス状レーザビームまたはCWレーザビームは、アッテネータ4によって強度調整された後、ミラーやレンズなどの各種光学要素で構成された導入光学系3を経て、サファイア基板8上へパルス状レーザビーム31またはCWレーザビーム32として照射される。
【0039】
Qスイッチ発振パルスレーザの走査軌跡の説明図が図2に、CWレーザの走査軌跡の説明図が図3にそれぞれ示されている。
【0040】
図2に示されるように、導入光学系3から出射されるパルス状レーザビーム31は、図中破線で示される縦方向及び横方向の光軸移動経路9に沿って走査される。なお、図中破線で示される光軸移動経路9は、あくまでも、光軸の移動経路を示すものであって、レーザビームそれ自体が出射されているか否かを示すものではない。後述するように、レーザビームの出射している領域は、光軸移動経路9を示す破線上に太い実線または細い実線によって図示される。
【0041】
サファイア基板8は、オリフラ部分12を除いて真円形輪郭を有する。その内部領域8aは割断予定線(図3中、基板内の細い実線9a,9bにより示される)により縦横に区画され、各矩形領域(区画領域)8cには目的とするデバイス回路(図示せず)が作り込まれている。すなわち、図示の例にあっては、例えば、サファイア基板8は外径6インチ(150mm)とされ、その内部には、9本の縦方向割断予定線9aと9本の横方向の割断予定線9bとによって多数の矩形領域8cが区画され、それらの区画内に目的とするデバイス回路が作り込まれているのである。もっとも、隣接するデバイス回路とデバイス回路との間には、割断用の割断代(図示せず)が設けられており、後述するスクライブ線の形成はこの割断代の中心線に沿って行われることとなる。
【0042】
そして、この発明の第1のステップにおいては、図中破線で示される光軸移動経路9に沿って、左右端部で方向を転じながら、横方向の割断用予定線9bに沿って光軸を移動させつつ、基板内領域8bから基板内領域8aに進入した直後の所定微少区間Lに限って、図中太い実線で示されるパルスレーザ照射線10のごとく、パルス状レーザ31bの照射を行うのである。
【0043】
横方向の割断予定線9bの全てについて、パルス状レーザビーム31の限定的照射が完了したならば、横方向から縦方向へと方向を転じ、縦方向の割断予定線9aに沿って、光軸を移動させながら、基板外領域8bから基板内領域8aへと進入した直後の所定微少区間Lに限って、パルス状レーザビーム31を照射することによって、図中太い実線で示されるパルスレーザ照射線10を形成するのである。
【0044】
すると、図4(a)に示されるように、サファイア基板8上において、パルス状レーザビーム31が照射された微少区間Lについては、パルスオン時の急加熱による溶融とパルスオフ時の急冷却による固化とで、表面が破壊されて粗面化すると共に、その比較的表層についても、レーザビームの多重反射の生じやすい変性領域81とされる。なお、図において、P1は基板外領域8bにある光軸位置、P2は基板内領域8aにある光軸位置である。
【0045】
再び、図3に戻って、第2のステップにおいては、図中破線で示す予定される光軸移動経路9に沿って、第1のステップと同様に横方向及び縦方向へと光軸を移動させつつ、基板外領域8bから基板内領域8aへと進入した後、再び基板外領域8bへと脱出するに至る、横方向の割断予定線9b及び縦方向の割断予定線9aの全区間に亘って、図中細線実線で示されるように、CWレーザビーム32の照射を行う。
【0046】
このとき、CWレーザビーム32の強度は、仮にパルスレーザ照射線10が存在しない場合、単独照射によっては、サファイア基板8の透明度が高いことから、十分にエネルギが吸収されず、そのため、割断に必要な十分な深さのスクライブ線が形成できない程度の比較的低強度のものとされる。
【0047】
すなわち、従前にあっては、このような低強度のパワーのCWレーザビームによっては、内部に作り込まれたデバイス回路への影響は回避できるものの、スクライブ線については割断に必要な十分な深さのものが得られないのであるが、この第2のステップにおいては、基板外領域8bから基板内領域8aへと進入した直後、そのような比較的低強度のCWレーザビームは、パルスレーザ照射線10の上に照射されるため、レーザビームのエネルギは効率よく基板に吸収されて、その部分を溶融に必要な高温にまで昇温させる。
【0048】
すると、図4(b)に示されるように、微少区間Lに存在する変性領域81は十分な高温にまで昇温されると共に、その下層に位置する変性化されていない領域と共に溶融及び収縮して、割断用のスクライブ線となる溝領域82が形成される。
【0049】
加えて、この変性領域81のみならず、これに隣接するサファイア基板8は、変性領域81が高温化されることによって、その熱が伝達されて雪崩れをうつように溶融化が進み、結果として、変性領域81が存在しないサファイア基板8の表面についても、割断予定線に沿って、溝領域82が進行する結果となる。
【0050】
そして、基板外領域8bから基板内領域8aへと光軸が進入するたびに、変性領域81を基点として溝領域82が連続的に形成されることで、基板上に設けられた縦方向の割断予定線9a及び横方向の割断予定線9bの全域に亘って、割断に必要な十分な深さを有するスクライブ線が、基板8に作り込まれたデバイス回路に熱的損傷を与えることなく確実に形成されることとなるのである。
【0051】
このように、この実施形態によれば、基板8上に設定された縦横の割断予定線9a,9bに沿って、レーザビームの光軸を縦断または横断させながら、基板外領域8bから基板内領域8aへと進入直後の所定微少区間Lに限りパルス状レーザビーム31を基板8に照射すると共に、同割断予定線に沿って、レーザビームの光軸を縦断または横断させながら、基板外領域8bから基板内領域8aへと進入してから基板外領域8bへと退出するに至る縦方向の割断予定線9aまたは横方向の割断予定線9bの全区間に亘ってCWレーザビームを基板に照射するものであるから、縦横に区画された各矩形領域8c内にデバイス回路が作り込まれたサファイア基板8に対して、割断用のスクライブ線をYVOレーザ発振器を用いて形成するような場合、これを比較的短時間でかつ低コストに実現することができる。
【0052】
次に、本発明方法を実施するための装置の一例について、図5〜図8を参照しながら説明する。
本発明方法を実施するためのシステム全体を電気系を中心として示す構成図が図5に示されている。同図に示されるように、このシステムは、XYステージ機構(図1のXYステージ機構1に相当する)101と、導入光学系(図1の導入光学系3に相当する)103と、アッテネータ(図1のアッテネータ4に相当する)104と、レーザ発振器(図1のレーザ発振器5に相当する)105と、パルス発振器(図1のパルス発振器6に相当する)106と、制御ユニット107と、サーボユニット112と、制御用PC111とを含んで構成されている。
【0053】
XYステージ機構101は、図1のXYステージ機構1と同様に、図示しないが、X方向駆動機構、Y方向駆動機構、及び載物台(θ駆動機構を含む)を含んでおり、それぞれの機構は、モータやシリンダ等で構成されるX軸アクチュエータ101a、Y軸アクチュエータ101b、及びθ軸アクチュエータ101cを介して駆動される。
【0054】
システムの全体は、制御用パーソナルコンピュータ(PC)111によって統括制御される。すなわち、XYステージのX方向移動、Y方向移動をそれぞれ可能とするX軸アクチュエータ101a、Y軸アクチュエータ101bの動作は、サーボドライブユニット112を介して制御用PC111によって制御される。
【0055】
レーザ発振器105の駆動モード(パルス駆動又は連続駆動)を決めるパルス発振器106の動作は、制御ユニット107及び制御用PCサポート110を介して制御用PC111により制御される。同様にして、パルス発振器106の電源となるレーザ電源109は、制御ユニット107及び制御用PCサポート110を介して制御用PC111により制御される。
【0056】
XYステージのX方向、Y方向、及びθ方向の移動は、第1操作卓107aに設けられた操作ボタン(「CENTER」、「ALIGN」等)の操作により、手動にても制御可能とされている。また、載物台を覆う保護カバー(図示せず)の開閉動作を管理するカバー開閉駆動機構113は、後述するように、第2操作卓107bに設けられた操作ボタン(「CLOSE」)の操作により、手動にても開閉制御可能とされている。なお、第1操作卓107aには、後述するように、加工プロセスの起動を指示するための操作ボタン(「START」)が設けられている。
【0057】
システムの運転開始に先立つ準備段階において、制御用PC111に表示される設定用画面の説明図が図6に示されている。同図に示されるように、運転準備として設定される情報としては、この例にあっては、加工対象となる基板の形状やサイズに関する情報(「ウェハの直径 X軸」、「ウェハの直径 Y軸」、「オリフラ長さ」)、光軸の移動経路や速度に関する情報(「チップサイズ(加工ピッチ) X軸」、「チップサイズ(加工ピッチ) Y軸」、「加工速度(Q−SWパルス)」、「加工速度(CWパルス)」、「ウェハ加工原点 X軸」、「ウェハ加工原点 Y軸」、「加工オーバーラン量 X軸」、「加工オーバーラン量 Y軸」)、及び基板上に設定される割断予定線に沿って、基板端縁に相当する一端から基板端縁に相当する他端に向けて計測されるべき所定の微少距離に関する情報(「切込量」)が含まれている。
【0058】
次に、本発明に係る装置の基板1個あたりの一巡動作を示すフローチャートが図7に示されている。
同図に示されるように、1個の基板に関して、所定の割断用のスクライブ線加工を行う場合には、先ず、ワーク(基板)108を載物台にセットしたのち(ステップ201)、第2操作卓107bの「CLOSE」ボタンを押すことで、カバー開閉駆動機構113の作用を介して、載物台を覆う保護カバーを閉じる(ステップ202)。
【0059】
続いて、第1操作卓107aの「CENTER」ボタンを押すことで、X軸アクチュエータ101a、Y軸アクチュエータ101b、及びサーボドライブユニット112の作用を介して、ワークセンタにステージを移動させる(ステップ203)。ワークセンタへのステージ移動に際しては、予め設定された情報(「ウェハ加工原点 X軸」、「ウェハ加工原点 Y軸」)が参照される。
【0060】
続いて、第1操作卓107aの「ALIGN」ボタンを押すことで、X軸アクチュエータ101aの作用を介して、ステージをX方向へと数回往復させながら(ステップ204)、スクライブラインの上下動がなくなるよう、第1操作卓107aのスイッチの操作で、θ軸アクチュエータ101cの作用を介して、θ軸角度を調製することで、アライメント作業を行う(ステップ205)。
【0061】
このようにして、アライメント(調整)作業が完了したならば、第1操作卓107aにある「START」ボタンを押すことで、割断用スクライブ線の加工プロセスへと移行する(ステップ206)。この加工プロセスは、本発明の要部であって、後述するように、1回目の加工として行われるQ−SWレーザによる切欠加工(基板端縁における微少距離加工)と2回目の加工として行われるCWレーザによるスクライブ加工(一方の基板端縁から他方の基板端縁に至る全長加工)とを含んでいる。
【0062】
ここで、本発明の要部である加工プロセスについて詳細に説明する。加工プロセスにおける制御用PC111の処理内容を示すフローチャートが図8に示されている。
同図に示されるように、「START」ボタンを押すことで、加工開始指令がONされたものと判定されると(ステップ301、302YES)、設定経路への光軸追従走査処理、すなわち、先に制御用PC111に設定された加工対象となる基板の形状やサイズに関する情報(「ウェハの直径 X軸」、「ウェハの直径 Y軸」、「オリフラ長さ」)、及び光軸の移動経路や速度に関する情報(「チップサイズ(加工ピッチ) X軸」、「チップサイズ(加工ピッチ) Y軸」、「加工速度(Q−SWパルス)」、「加工速度(CWパルス)」、「ウェハ加工原点 X軸」、「ウェハ加工原点 Y軸」、「加工オーバーラン量 X軸」、「加工オーバーラン量 Y軸」)にて特定された光軸の移動経路(例えば、図2に波線で示す光軸移動経路9)に沿って、光軸が移動するように、XYステージの動きを、X軸アクチュエータ101a、Y軸アクチュエータ101b、及びサーボドライブユニット112を介して制御するビーム移動制御手段に相当する処理、が実行される(ステップ303)。
【0063】
同時に、上述の設定経路への光軸追従走査処理(ステップ303)をサイクリックに実行しつつ、その間に、光軸位置が基板外領域8bから基板内領域8aへの移行直前に達したか否か(ステップ304)、光軸位置が先に設定された情報(「切込量」)で特定される微少区間を通過したか否か(ステップ308)、光軸位置が基板内領域8aから基板外領域8bへの移行直後に達したか否か(ステップ311)、及び光軸位置が経路9の全体を通過したか否か(ステップ314)が判定される。
【0064】
なお、以上の判定処理は、先に制御用PC111に設定された加工対象となる基板の形状やサイズに関する情報(「ウェハの直径 X軸」、「ウェハの直径 Y軸」、「オリフラ長さ」)、光軸の移動経路や速度に関する情報(「チップサイズ(加工ピッチ) X軸」、「チップサイズ(加工ピッチ) Y軸」、「加工速度(Q−SWパルス)」、「加工速度(CWパルス)」、「ウェハ加工原点 X軸」、「ウェハ加工原点 Y軸」、「加工オーバーラン量 X軸」、「加工オーバーラン量 Y軸」)、及び基板上に設定される割断予定線に沿って、基板端縁に相当する一端から基板端縁に相当する他端に向けて計測されるべき所定の微少距離に関する情報(「切込量」)に基づいて、現在の光軸位置と基板位置とを比較することにより行われる。
【0065】
この状態において、光軸位置が基板外領域8bから基板内領域8aへの移行直前に達したと判定されると(ステップ304YES)、そのときの経路走査回数が1回目であることを条件として(ステップ305、1回目)、パルスレーザの照射が開始される(ステップ306)。既に述べたように、このパルスレーザの照射開始は、制御用PC111の制御下にあって、制御ユニット107を介して、レーザ電源109及びパルス発生器106を所定のモードで動作させることにより行われる。
【0066】
続いて、光軸位置が先に設定された情報(「切込量」)で特定される微少区間を通過したと判定されると(ステップ308YES)、そのときの経路走査回数が1回目であることを条件として(ステップ309、1回目)、パルスレーザの照射が停止される(ステップ310)。これにより、先に図2を参照して説明したように、基板8上に設定される割断予定線9上の基板端縁8dの近傍には、微少距離Lからなるパルス状レーザ照射線(切込線)10が形成される。
【0067】
以後、光軸位置が基板外領域8bから基板内領域8aへの移行直前に達したと判定される毎に(ステップ304YES)、そのときの経路走査回数が1回目であることを条件として(ステップ305、1回目)、パルスレーザの照射が開始される(ステップ306)と共に、光軸位置が先に設定された情報(「切込量」)で特定される微少区間を通過したと判定される毎に(ステップ308YES)、パルスレーザの照射が停止される(ステップ310)結果、図2に太い実線で示されるように、加工対象となる基板8上には、微少距離Lを有するパルス状レーザ照射線(切込線)10が基板端縁8dに隣接して形成される。
【0068】
以上を繰り返す間に、予定された移動経路9の全てを通過したと判定されると(ステップ314YES)、移動経路の走査回数が1回目であることを条件として(ステップ315、1回目)、走査回数を1回目から2回目に切り替えたのち、(ステップ303)へと戻って、2回目の光軸追従走査が開始される。
【0069】
2回目の光軸追従走査においても、光軸位置が基板外領域8bから基板内領域8aへの移行直前に達したか否か(ステップ304)、光軸位置が先に設定された情報(「切込量」)で特定される微少区間を通過したか否か(ステップ308)、光軸位置が基板内領域8aから基板外領域8bへの移行直後に達したか否か(ステップ311)、及び光軸位置が経路9の全体を通過したか否か(ステップ314)が1回目と同様に判定される。
【0070】
この状態において、光軸位置が基板外領域8bから基板内領域8aへの移行直前に達したと判定されると(ステップ304YES)、そのときの経路走査回数が2回目であることを条件として(ステップ305、2回目)、CWレーザの照射が開始される(ステップ307)。既に述べたように、このCWレーザの照射開始は、制御用PC111の制御下にあって、制御ユニット107を介して、レーザ電源109及びパルス発生器106を所定のモードで動作させることにより行われる。
【0071】
この2回目の光軸追従走査においては、光軸が微少区間を通過しても(ステップ309YES)、CWレーザの照射は継続されるのに対して(ステップ309、2回目)、光軸位置が基板内領域8aから基板外領域8bへの移行直後に達したと判定されると(ステップ311YES)、そのときの経路走査回数が2回目であることを条件として(ステップ305、2回目)、CWレーザの照射は停止される(ステップ313)。
【0072】
以後、光軸位置が基板外領域8bから基板内領域8aへの移行直前に達したと判定される毎に(ステップ304YES)、そのときの経路走査回数が2回目であることを条件として(ステップ305、2回目)、CWレーザの照射が開始される(ステップ307)と共に、光軸位置が基板内領域8aから基板外領域8bへの移行直後に達したと判定されると(ステップ311YES)、そのときの経路走査回数が2回目であることを条件として(ステップ312、2回目)、CWレーザの照射は停止される(ステップ313)結果、図2に細い実線で示されるように、加工対象となる基板8上には、CWレーザ照射線11が、一方の基板端縁8dと他方の基板端縁8dとの間の全長に亘って形成される。
【0073】
以上を繰り返す間に、予定された移動経路9の全てを通過したと判定されると(ステップ314YES)、移動経路の走査回数が2回目であることを条件として(ステップ315、2回目)、走査回数を2回目から1回目に切り替えたのち、処理は終了する。その後、再び、図7に戻って、加工プロセス(ステップ206)が終了すると、ステージは原点位置に復帰され(ステップ207)、その後、保護カバーが自動的に開いて(ステップ208)、ワークの取り出しが行われ(ステップ209)、これにより基板1個あたりの一巡動作が完了することになる。
【0074】
以上の通り、本発明方法を実施するための装置は、デバイス回路が作り込まれた透明な基板を載置固定するためのXYステージ(XYステージ機構101、X軸アクチュエータ101a、Y軸アクチュエータ101b等で構成)と、レーザ発振器をパルス駆動又は連続駆動することにより、パルス状レーザビームとCWレーザビームとのいずれかを択一的に出射可能なレーザビーム発生手段(アッテネータ104、レーザ発振器105、パルス発振器106、制御ユニット107、レーザ電源109等で構成)と、前記レーザビーム発生手段から発生するレーザビームを前記XYステージに載置固定された基板に対して所定の光軸をもって照射するためのビーム導入光学系(導入光学系103等で構成)と、前記XYステージと前記光軸とを相対的に移動させることにより、前記基板上の割断予定線に沿うように光軸を前記XYステージ上で移動させる際の光軸の移動経路を設定するための経路設定手段(制御用PC111等で構成)と、前記基板上に設定される割断予定線に沿って、基板端縁に相当する一端から基板端縁に相当する他端に向けて計測されるべき所定の微少距離を設定するための微少距離設定手段(制御用PC111等で構成)と、前記経路設定手段にて設定された光軸の移動経路に沿って、前記光軸が移動するように、前記XYステージの動きを制御するビーム移動制御手段(ステップ303、X軸アクチュエータ101a、Y軸アクチュエータ101b等で構成)と、前記ビーム移動制御手段により前記光軸を前記設定経路に沿って移動させている1回目の走査において、前記レーザビーム発生手段から適宜のタイミングでパルス状レーザビームを出射させることにより、前記基板上に設定された割断予定線上の基板端縁に相当する一端から、前記微少距離設定手段にて設定された微少距離区間に限って、前記基板上にパルス状レーザビームを照射する第1のビーム照射制御手段(ステップ304〜306、ステップ308〜310等で構成)と、前記ビーム移動制御手段により前記光軸を前記設定経路に沿って移動させている2回目の走査において、前記レーザビーム発生手段から適宜のタイミングでCWレーザビームを出射させることにより、前記基板上に設定された割断予定線上の基板端縁に相当する一端から基板端縁に相当する他端に至る全区間に限って、前記基板上にCWレーザビームを照射する第2のビーム照射制御手段(ステップ304、305、307、ステップ311〜313等で構成)と、を具備するものである。
【0075】
そして、このような構成によれば、光軸の移動経路及び基板端縁からの微少距離さえ設定しておけば、ビーム移動制御手段、第1のビーム照射制御手段、及び第2のビーム照射制御手段の作用によって、割断に必要な所定深さのスクライブ線を基板上に自動的に形成することができる。
【0076】
しかも、上述の割断用スクライブ線の形成装置においては、前記第1のビーム照射制御手段は、前記光軸が基板外領域から基板内領域へと移行する直前において、前記パルス状レーザビームを照射開始すると共に、前記光軸が前記微少区間を通過するのを待って、前記パルス状レーザビームを照射停止するものであり、かつ前記第2のビーム照射制御手段は、前記光軸が基板外領域から基板内領域へと移行する直前において、前記CWレーザビームを照射開始すると共に、前記光軸が基板内領域から基板外領域へと移行する直後において、前記CWレーザビームを照射停止するものであるから、パルス状レーザビーム及びCWレーザビームは、割断用スクライブ線の形成に必要とされる期間以外は照射停止に維持されているため、最小のエネルギー消費で、必要な割断用スクライブ線を生成することができる利点もある。
【実施例】
【0077】
本発明者等の実験によれば、第1のステップ(パルス状レーザ照射線10の形成)におけるXYステージ機構による光軸の移動速度を100mm/s、パルス状レーザビーム31の出力を20W(繰り返し周波数50kHz)、第2のステップ(CWレーザ照射線11の形成)におけるXYステージ機構による光軸の移動速度を40mm/s、CWレーザの出力を20Wとしたとき、240〜260μmの深さを有するスクライブ線を得ることができた。従来の単一発振方法のレーザ(CWレーザ)のみを用いた方法により得られたスクライブ線の深さが50μm前後であったことを考慮すると、本発明においては、従前のものに比べ4〜5倍程度のスクライブ線深さを獲得できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明に係る割断用スクライブ線の形成方法によれば、デバイス回路が作り込まれた透明な基板(例えば、サファイア基板、液晶ガラス基板)などに対して、それらのデバイス回路に対する熱的影響を最小に留めつつ、これに割断に必要な十分な深さを有するスクライブ線を形成することができ、しかも従前のシステムを大幅に変更することなくこれを低コストに実現することができる。
【符号の説明】
【0079】
1 XYステージ機構
2 載物台
3 導入光学系
4 アッテネータ
5 レーザ発振器
6 パルス発生器
7 発振器制御ユニット
8 サファイア基板
8a 基板内領域
8b 基板外領域
8c 矩形領域
8d 基板端縁
9 光軸移動経路
9a 縦方向の割断予定線
9b 横方向の割断予定線
10 パルスレーザ照射線
11 CWレーザ照射線
12 オリフラ部分
31 パルス状レーザビーム
32 CWレーザビーム
81 変性領域
82 溝領域
101 XYステージ機構
101a X軸アクチュエータ
101b Y軸アクチュエータ
101c θ軸アクチュエータ
103 導入光学系
104 アッテネータ
105 レーザ発振器
106 パルス発振器
107 制御ユニット
108 基板
109 レーザ電源
110 制御用PCサポート
111 制御用PC
112 サーボドライブユニット
113 カバー開閉駆動機構
L 微少区間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
デバイス回路が作り込まれた透明な基板に、レーザ発振器から生成される所定波長のレーザビームを照射しつつ、前記基板と前記ビームとを相対的に移動させることにより、前記基板上に基板割断用のスクライブ線を形成する方法であって、
前記レーザ発振器をQスイッチ駆動して得られるパルス状レーザビームを、前記基板と前記ビームとを相対的に移動させることにより、前記基板上に設定された割断予定線上の基板端縁から所定微少区間に限って照射する第1のステップと、
前記レーザ発振器を連続駆動して得られるCWレーザビームを、前記基板と前記ビームとを相対的に移動させることにより、前記基板上に設定された割断予定線上の一方の基板端縁から他方の基板端縁に至る全区間に亘って照射する第2のステップとを包含する、ことを特徴とする割断用スクライブ線の形成方法。
【請求項2】
前記第1のステップの処理が、前記基板上に設定された縦横の割断予定線に沿って、レーザビームの光軸を縦断走査又は横断走査させながら、基板外領域から基板内領域へと進入直後の所定微少区間に限りパルス状レーザビームを基板に照射する処理を包含し、かつ
前記第2のステップの処理が、前記基板上に設定された縦横の割断予定線に沿って、レーザビームの光軸を縦断走査又は横断走査させながら、基板外領域から基板内領域へと進入してから基板内領域から基板外領域へと退出するに至る全区間に亘ってCWレーザビームを基板に照射する処理を包含する、ことを特徴とする請求項1に記載の割断用スクライブ線の形成方法。
【請求項3】
前記透明基板が、縦横の割断予定線により区画されてなる各矩形領域内にデバイス回路が作り込まれたサファイア基板であり、かつ前記レーザ発振器がYVOレーザ発振器である、ことを特徴とする請求項2に記載の割断用スクライブ線の形成方法。
【請求項4】
デバイス回路が作り込まれた透明な基板を載置固定するためのXYステージと、
レーザ発振器をパルス駆動又は連続駆動することにより、パルス状レーザビームとCWレーザビームとのいずれかを択一的に出射可能なレーザビーム発生手段と、
前記レーザビーム発生手段から発生するレーザビームを前記XYステージに載置固定された基板に対して所定の光軸をもって照射するためのビーム導入光学系と、
前記XYステージと前記光軸とを相対的に移動させることにより、前記基板上の割断予定線に沿うように光軸を前記XYステージ上で移動させる際の光軸の移動経路を設定するための経路設定手段と、
前記基板上に設定される割断予定線に沿って、基板端縁に相当する一端から基板端縁に相当する他端に向けて計測されるべき所定の微少距離を設定するための微少距離設定手段と、
前記経路設定手段にて設定された光軸の移動経路に沿って、前記光軸が移動するように、前記XYステージの動きを制御するビーム移動制御手段と、
前記ビーム移動制御手段により前記光軸を前記設定経路に沿って移動させている1回目の走査において、前記レーザビーム発生手段から適宜のタイミングでパルス状レーザビームを出射させることにより、前記基板上に設定された割断予定線上の基板端縁に相当する一端から、前記微少距離設定手段にて設定された微少距離区間に限って、前記基板上にパルス状レーザビームを照射する第1のビーム照射制御手段と、
前記ビーム移動制御手段により前記光軸を前記設定経路に沿って移動させている2回目の走査において、前記レーザビーム発生手段から適宜のタイミングでCWレーザビームを出射させることにより、前記基板上に設定された割断予定線上の基板端縁に相当する一端から基板端縁に相当する他端に至る全区間に限って、前記基板上にCWレーザビームを照射する第2のビーム照射制御手段と、
を具備する、ことを特徴とする割断用スクライブ線の形成装置。
【請求項5】
前記第1のビーム照射制御手段は、前記光軸が基板外領域から基板内領域へと移行する直前において、前記パルス状レーザビームを照射開始すると共に、前記光軸が前記微少区間を通過するのを待って、前記パルス状レーザビームを照射停止するものであり、かつ
前記第2のビーム照射制御手段は、前記光軸が基板外領域から基板内領域へと移行する直前において、前記CWレーザビームを照射開始すると共に、前記光軸が基板内領域から基板外領域へと移行する直後において、前記CWレーザビームを照射停止するものである、ことを特徴とする請求項4に記載の割断用スクライブ線の形成装置。
【請求項6】
前記透明基板が、縦横の割断予定線により区画されてなる各矩形領域内にデバイス回路が作り込まれたサファイア基板であり、かつ前記レーザ発振器がYVOレーザ発振器である、ことを特徴とする請求項5に記載の割断用スクライブ線の形成装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2010−93244(P2010−93244A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−210004(P2009−210004)
【出願日】平成21年9月11日(2009.9.11)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】