説明

創傷治療促進用組成物

揮発性シリコーンオイル、極性脂質、C2−C4脂肪族アルコール、および創傷治療剤、特に低〜中サイズの天然または合成ペプチドを含有する脂質層形成の創傷治療促進組成物。また、創傷上に該脂質層を形成する方法および該組成物を具備した医療用パッチも開示されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬理学的に有効な量の創傷治療促進剤を含有する層を形成することができる創傷治療促進組成物、該組成物の製造方法およびそれを創傷上に適用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
創傷治療促進剤、特に短鎖長または中鎖長のペプチドは本技術分野で知られている。いくつかの例を挙げれば下記のとおりである。
【0003】
特許文献1には、創傷組織の再上皮化を促進する方法であって、その促進に有効な量のオクタペプチドアンギオテンシンIIを創傷に適用することによる方法が開示されている。
【0004】
甲状腺ホルモン(1-34) またはそのアミノ末端フラグメントの皮下注射は、閉経後婦人の椎骨骨折の治癒を増大させる(非特許文献1)。
【0005】
特許文献2には、少なくとも25個のアミノ酸の新規な創傷治療ペプチドおよび、該ペプチドがその中に分散されるガラクト脂質含有の二層形成脂質担体を含有する、上皮細胞再生のための該細胞への局所用医薬組成物が開示されている。
【0006】
特許文献3には、ガラクト脂質物質および創傷治療に有用な別の活性成分を含有する医薬組成物が開示されている。
【0007】
特許文献4には、1種またはそれ以上の医薬上または化粧上の活性剤、オリゴマーもしくはポリマーのジ有機シロキサンをベースとする1種またはそれ以上の有機珪素化合物、および1種またはそれ以上のリン脂質を含有する医薬組成物または化粧用組成物が開示されている。表皮に適用する場合、特許文献4の組成物は、それで処理した表皮の中にまたは植物の外層の中に短時間内で直接浸透し、それ故に身体の内部に迅速に吸収されるのでそれはこすり落とされることはできない。ヒトまたは動物に局所的に使用することを意図する実施態様では、該組成物の有機珪素化合物は大気圧で15℃〜150℃の沸点を有する。
【0008】
しかしながら、創傷、特に皮膚の創傷への創傷治療促進剤の投与は依然として問題である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】U.S.特許No. 5,015,629
【特許文献2】U.S.特許No. 7,452,864
【特許文献3】WO 2008/084253 A1
【特許文献4】WO 01/87344 A1
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】R M Neeret al.: Effect of Parathyroid Hormone (1-34) on Fractures and Bone MineralDensity in Postmenopausal Women with Osteoporosis, NEJM 344:19 (2001) 1434-1441
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、創傷治療促進剤、特に短いかまたは中間の長さのペプチドを、ヒトを含む哺乳類の創傷に投与するための組成物を提供することである。該組成物において該ペプチドは溶解された形態で存在し、そして該組成物は創傷上に粘着層を形成するように創傷に容易に適用可能である。
【0012】
本発明の別の目的は、創傷を刺激しないような組成物を提供することである。
【0013】
本発明のさらに別の目的は、皮膚に適用する場合に腫脹を惹起しないような組成物を提供することである。
【0014】
本発明のさらなる目的は、皮膚に適用する場合に燃えるようにヒリヒリする感覚を与えないような組成物を提供することである。
【0015】
本発明のさらに別の目的は、以下の発明の概要、実施例の形態で記載された本発明の好ましい実施態様、および添付の特許請求の範囲から自明であろう。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明によれば、極性脂質、揮発性シリコーンオイル、低級アルコール、および組成物に溶解される創傷治療促進剤、特に短いかまたは中間の鎖長のペプチド、を含有するかまたは実質的にそれらからなる前記種類の組成物が開示される。本発明の組成物は単一層からなる。該組成物の粘度は低いために噴霧法による創傷への組成物の投与が可能である。創傷上に噴霧すると、組成物は創傷上に粘着層を形成し、そこから溶媒は蒸発するかまたは、アルコールに関しては創傷組織によって部分的に吸収される。
【0017】
本発明の創傷治療促進剤はペプチド、特に短〜中の鎖長のペプチド、より好ましくは6〜120個のアミノ酸のペプチド、最も好ましくは8〜45個のアミノ酸のペプチドである。本発明のペプチドは天然ペプチドまたは合成ペプチドであることができる。本発明のペプチドは、天然アミノ酸からなることができるか、または天然アミノ酸および非天然アミノ酸を含有することができる。本発明の好ましい創傷治療促進ペプチドの例としては、アンギオテンシンII、アンギオテンシンIIの創傷治療フラグメント、類似体もしくは誘導体、ヒト甲状腺ホルモン、ヒト甲状腺ホルモンの創傷治療フラグメント、類似体もしくは誘導体、カテリシジンポリペプチドLL37、カテリシジンポリペプチドLL37の創傷治療フラグメント、類似体もしくは誘導体を挙げることができる。創傷治療のためのカテリシジンLL37およびその誘導体の使用は、U.S.特許No. 7,452, 864に開示されており、これは参照により本願明細書中に組み込まれる。
【0018】
本発明の好ましい特徴によれば、本発明の創傷治療促進剤は前炎症性サイトカインの阻害剤であり、例えばU.S.特許No. 7,427,589に開示されているものであり、これは参照により本願明細書中に組み込まれる。
【0019】
有利に遮断される本発明の前炎症性サイトカインは、特に腫瘍壊死因子(TNF)、インターロイキン1 (IL-1)、インターロイキン6 (IL-6)、インターロイキン8 (IL-8)、インターロイキン12 (IL-12)、インターロイキン15 (IL-15)、インターロイキン17 (IL-17)、インターロイキン18 (IL-1)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子 (GM-CSF)、マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)、単球化学走化性タンパク質-1 (MCP-1)、マクロファージ炎症性タンパク質1 (MIP-1)、RANTES (活性化に応じて調整され、正常なT細胞が発現し、そして恐らくは分泌される、上皮細胞誘導の好中球誘引物質-78 (ENA-78)、オンコスタチン-M (OSM)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、血小板誘導増殖因子(PDGF)、および血管内皮細胞増殖因子(VEGF)からなる群より選択され、そして特にTNF (TNF-αとも称される)およびIL-1 (IL-1αおよびIL-1βの双方を包含する)である。
【0020】
本発明によれば、前炎症性サイトカインの好ましい阻害剤は、(a)特異的TNF遮断薬、例えばモノクローナル抗体、例えばインフリキシマブ、CDP-571 (ヒュミケーダー、Humicader、登録商標)、D2E7、およびCDP-870; 可溶性サイトカイン受容体、例えばエタネルセプト、レネルセプト、PEG化TNF受容体型I、TBP-1; TNF受容体アンタゴニスト; アンチセンスオリゴヌクレオチド、例えばISIS-104838; (b)非特異的TNF遮断物質、例えば(b1)MMP阻害剤(すなわちマトリックスメタロプロテイナーゼ阻害剤、またはTACE阻害剤、すなわちTNF-α変換酵素阻害剤)、テトラサイクリンン類、例えばドキシサイクリン、リメサイクリン、オキシテトラサイクリン、テトラサイクリン、ミノサイクリンおよび合成テトラサイクリン誘導体、例えばCMT、すなわち化学的に改変されたテトラサイクリン類; プリノマスタット(AG3340); バチマスタット; マリマスタット; KB-R7785; TIMP-1、TIMP-2、adTIMP-1 (TIMP-1のアデノウイルスデリバリー)、adTIMP-2 (TIMP-2のアデノウイルスデリバリー); (b2)キノロン類、例えばノルフロキサシン、レボフロキサシン、エノキサシン、スパルフロキサシン、テマフロキサシン、モキシフロキサシン、ガチフロキサシン、ゲミフロキサシン、グレパフロキサシン、トロバフロキサシン、オフロキサシン、シプロフロキサシン、ペフロキサシン、ロメフロキサシン、テマフロキサシン; (b3)サリドマイド誘導体、例えばSelCID (すなわち選択的サイトカイン阻害剤)、CC-1088、CDC-501、CDC-801、およびリノマイド(ロキニメックス、Roquininex(登録商標)); (b4)ラザロイド類、例えば非グルココルチコイド 21-アミノステロイド類、例えばU-74389G (16-デスメチルチリラザド)およびU-74500; (b4)プロスタグランジン類; イロプロスト(プロスタサイクリン); (b5)シクロスポリン; (b6)ペントキシフィリン誘導体; (b7)ヒドロキサム酸誘導体; (b8)ナフトピラン類; (b9)ホスホジエステラーゼI、II、III、IVおよびV阻害剤、例えばCC-1088、Ro 20-1724、ロリプラム、アムリノン、ピモベンダン、ベスナリノン、SB 207499 (アリフロ、Ariflo(登録商標)); (b10)メランコルチンアゴニスト、例えばHP-228; (c)他のTNF遮断物質、例えば(c1)ラクトフェリン、およびラクトフェリンから誘導されるペプチド、例えばU.S.特許No. 7,253,143 B1(参照により本願明細書に組み込まれる)に開示されたもの; (c2) CT3、ITF-2357、PD-168787、CLX-1100、M-PGA、NCS-700、PMS-601、RDP-58、TNF-484A、PCM-4、CBP-1011、SR-31747、AGT-1、ソリマスタット、CH-3697、NR58-3.14.3、RIP-3、Sch-23863、イッサムプロジェクトナンバー11649、ファルマプロジェクトナンバー6181、6019および 4657、SH-636; (d)特異的IL-1αおよびIL-1β遮断物質、例えば:モノクローナル抗体、可溶性サイトカイン受容体、IL-1型II受容体(デコイRII)、受容体アンタゴニスト; IL-1ra、(オルトゲン、Orthogen(登録商標), オルトキン、Orthokin(登録商標))、アンチセンスオリゴヌクレオチド類; (e)非特異的IL-1α およびIL-1β遮断物質、例えば: (e1)MMP阻害剤(すなわちマトリックスメタロプロテイナーゼ阻害剤); (e2)テトラサイクリン類、例えばドキシサイクリン、トロバフロキサシン、リメサイクリン、オキシテトラサイクリン、テトラサイクリン、ミノサイクリン、および合成テトラサイクリン誘導体、例えばCMT、すなわち化学的に改変されたテトラサイクリン類; (e3)プリノマスタット(AG3340)、バチマスタット、マリマスタット、KB-R7785、TIMP-1、TIMP-2、adTIMP-1、adTIMP-2; (e4)キノロン類、例えばノルフロキサシン、レボフロキサシン、エノキサシン、スパルフロキサシン、テマフロキサシン、モキシフロキサシン、ガチフロキサシン、ゲミフロキサシン、クレパフロキサシン、トロバフロキサシン、オフロキサシン、シプロフロキサシン、ペフロキサシン、ロメフロキサシン、テマフロキサシン; (e5)プロスタグランジン類; イロプロスト(プロスタサイクリン); (e6)シクロスポリン; (e7)ペントキシフィリン誘導体; (e8)ヒドロキサム酸誘導体; (e9)ホスホジエステラーゼI、II、III、IVおよびV阻害剤、CC-1088、Ro 20-1724、ロリプラム、アムリノン、ピモベンダン、ベスナリノン、SB 207499; (f)特異的IL-6遮断物質、例えば: (f1) モノクローナル抗体; (f2)可溶性サイトカイン受容体; (f3)受容体アンタゴニスト; (f4)アンチセンスオリゴヌクレオチド; (g)非特異的IL-6遮断物質、例えば: (g1)MMP阻害剤(すなわちマトリックスメタロプロテイナーゼ阻害剤)例えばテトラサイクリン類、例えばドキシサイクリン、リメサイクリン、オキシテトラサイクリン、テトラサイクリン、ミノサイクリン、および合成テトラサイクリン誘導体、例えばCMT、すなわち化学的に改変されたテトラサイクリン類; プリノマスタット(AG3340)、バチマスタット、マリマスタット、KB-R7785、TIMP-1、TIMP-2、adTIMP-1、adTIMP-2; (g2)キノロン類、例えばノルフロキサシン、レボフロキサシン、エノキサシン、スパルフロキサシン、テマフロキサシン、モキシフロキサシン、ガチフロキサシン、ゲミフロキサシン、グレパフロキサシン、トロバフロキサシン、オフロキサシン、シプロフロキサシン、ペフロキサシン、ロメフロキサシン、テマフロキサシン; (g3)プロスタグランジン類; イロプロスト(プロスタサイクリン); (g4)シクロスポリン; (g5)ペントキシフィリン誘導体; (g6)ヒドロキサム酸誘導体; (g7)ホスホジエステラ−ゼ1、II、III、IVおよびV阻害剤; CC-11088、Ro 20-1724、ロリプラム、アムリノン、ピモベンダン、ベスナリノン、SB 207499; (g8)メラニンアゴニストおよびメランコルチンアゴニスト; HP-228; (h)非特異的IL-8遮断物質、例えば: モノクローナル抗体、可溶性サイトカイン受容体、受容体アンタゴニスト、アンチセンスオリゴヌクレオチド; (i)非特異性IL-8遮断物質、例えば: (i1)キノロン類、例えばノルフロキサシン、レボフロキサシン、エノキサシン、スパルフロキサシン、テマフロキサシン、モキシフロキサシン、ガチフロキサシン、ゲミフロキサシン、グレパフロキサシン、トロバフロキサシン、オフロキサシン、シプロフロキサシン、ペフロキサシン、ロメフロキサシン、テマフロキサシン; (i2)サリドマイド誘導体、例えばSelCID (すなわち選択的サイトカイン阻害剤)、例えば; CC-1088、CDC-501、CDC-801 およびリノマイド(ロキニメックス、Roquininex(登録商標)); (i3)ラザロイド類; (i4)シクロスポリン; (i5)ペントキシフィリン誘導体である。
【0021】
さらにまた、本発明ではU.S.特許No. 7,253,143(参照により本明細書中に組み込まれる)に開示されているヒトラクトフェリンの配列をベースとするペプチドも有用である。
【0022】
本発明の第2の好ましい特徴によれば、創傷治療促進剤は、その組み換え変種を含むヒトプラスミノーゲンおよび/または別の血漿成分例えばヘパリン、例えばヘパリンの創傷治療促進フラグメントである。
【0023】
本発明の第3の好ましい特徴によれば、創傷治療剤はキニンアンタゴニスト、特にブラジキニンアンタゴニストまたはカリジンアンタゴニストであり、例えば参照により本願明細書中に組み込まれるU.S.特許No. 6,221,845に開示されているHOE140, NPC17751,
NPC349, CP0127, NPC-1776, WIN 64338, デス-Arg9-ブラジキニン, デス-Arg9-D-Arg-ブラジキニンおよびSar4-デス-Arg9-ブラジキニンからなる群より選択されるキニンアンタゴニストである。
【0024】
本発明の第4の好ましい特徴によれば、創傷治療剤は、連鎖球菌性Mタンパク質、フィブリノーゲンおよびβ2インテグリンとの間の相互作用の阻害剤であり、例えばテトラペプチドGly-Pro-Arg-Proである。
【0025】
本発明の第5の好ましい特徴によれば、創傷治療剤は、慢性創傷を治療するためのU.S.特許No. 6,063,757に開示された組み換え体ヒト2.5Sβ-神経成長因子;口内のヘルペス、アフタ性口内炎、癌創傷、外科的創傷、じょくそう(decubitus)潰瘍、水虫を治療するためのUS 20030092682 A1に開示されたドキシサイクリンおよび/またはセファクロル;湿疹、にきび、ヘルペス, 乾癬症、皮膚病を治療するためのEP 1300138 A2に開示されたフラボノイドおよび、場合により、桂皮酸誘導体;慢性皮膚潰瘍、例えば糖尿病性潰瘍を治療するためのU.S.特許No. 7,049,294に開示されたトロンビン誘導ペプチド; 皮膚損傷を治療するためのUS 20090069307 A1に開示されたピリジン化合物; 皮膚創傷、皮膚潰瘍、床擦れ、アトピー性皮膚炎を治療するためのU.S.特許No. 7,247,620に開示されたベクターコード化肝細胞成長因子;非糖尿病性の慢性創傷および急性創傷を治療するためのUS 20020065286 A1に開示された環状グアノシン3',5'-モノホスフェートタイプ5ホスホジエステラーゼ阻害剤;口唇ヘルペス、ヘルペス、光線皮膚炎、熱傷、床ずれを治療するためのU.S.特許No. 6,455,565に開示されたヒスタミン;皮膚損傷を治療するためのU.S.特許No. 6,682,732に開示されたキサンチンオキシドレダクターゼ;床ずれを含む潰瘍を治療するためのEP 1013280 A1に開示された毛様体神経向性因子;じょくそう潰瘍を治療するためのUS 20060166885 A1に開示されたエリスロポイエチン;じょくそう潰瘍を治療するためのUS 20080188546 A1に開示されたN-アシルヒドロキシプロリン;創傷治療を促進するためのUS 20090192088 A1に開示された血管内皮成長因子2 ポリペプチドまたはその活性フラグメント;創傷治療を促進するためのUS 20090215884 A1に開示されたインゲノール化合物;創傷、例えば糖尿病性潰瘍を治療するためのUS 20060286157 A1に開示された、骨から単離されたかまたは組み換えタンパク質から生産された、骨形成成長因子のような成長因子を含有するタンパク質混合物、すなわちBMP-2、PMP-3、BMP-4、BMP-5、BMP-7、TGF-β1、TGF-β2、TGF-β3、FGF-2の2種またはそれ以上を包含する該混合物;急性創傷、例えば裂傷、すり傷、血腫および皮膚病を治療するためのUS 20080241210 A1に開示されたヒトタンパク質1556A;創傷治療を促進するための U.S.特許No. 6,495,532に開示されたリゾホスファチジン酸;創傷治療を促進するためのEP 1658855 A2に開示された物質P;創傷治療を促進するためのUS 20090220450 A1に開示された、抗コネキシン43剤および、創傷治療を促進するのに有効なペプチドまたはタンパク質、例えば上皮成長因子の組合せ;創傷治療を促進するためのUS 20090170910 A1に開示されたp38マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ阻害剤;創傷治療を促進するためのU.S.特許No. 5,525,335に開示されたトランスグルタミナーゼ;創傷治療を促進するためのUS 20070161625 A1に開示されたフェノチアジニウム化合物からなる群の1種である。
【0026】
本発明組成物により治療が促進され得る創傷は、例えば皮膚の切創、すり傷もしくはその他の損傷により形成される浅いかまたは深い創傷、または皮膚の熱傷もしくはやけどによりまたは皮膚の化学的火傷により惹起される創傷であることができるが、しかしまた骨折、細菌もしくはウイルスの感染により惹起される皮膚創傷または床擦れであることもできる。さらに、本発明組成物により治療が促進され得る皮膚創傷は、ヒリヒリする、炎症を起こした、やけどしたまたは機械的に損傷した皮膚も包含する。したがって、本出願願で使用する「皮膚創傷」の用語は、例えば細菌もしくはウイルスの感染または過度の熱により惹起される膨れを包含する。湿疹、皮膚炎および乾癬症に罹った皮膚は、「皮膚創傷」の用語に包含される。
【0027】
本発明の第6の好ましい特徴によれば、創傷治療剤は湿疹および/または皮膚炎および/または乾癬症を有効に治療する剤であり、例えば杜松タール、樟脳、メンソール、ベンゾカイン、ブタンベンピクレート、ジブカイン、ジブカイン塩酸塩、ジメチソキン塩酸塩、ジクロニン塩酸塩、リドカイン、メタクレゾール、リドカイン塩酸塩、プラモキシン塩酸塩、テトラカイン、テトラカイン塩酸塩、ベンジルアルコール、樟脳入りメタクレゾール、フェノール、フェノラートナトリウム、レゾルシノール、ジフェンヒドラミン塩酸塩、コルチコステロイド例えばヒドロコルチゾンおよびヒドロコルチゾンアセテート、並びにそれらの組合せがある。他の有用なコルチコステロイドとしては、テトラヒドロコルチゾール; プレドニゾン; プレドニゾロン; 6α-メチルプレドニゾロン; フルドロコルチゾン; 11-デスオキシコルチゾール; コルチゾン; コルチコステロン; トリアムシノロン; パラメタゾン; ベタメタゾン; デキサメタゾン;デスオキシコルチコステロンアセテート; デスオキシコルチコステロンピバレート; フルドロコルチゾンアセテート; フルプレドニゾロン(fuprednisolone); メプレドニゾン; メチルプレドニゾロン; メチルプレドニゾロンアセテート; パラメタゾンアセテートを挙げることができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明は、特定の種類の溶媒、揮発性シリコーンオイルが、場合により低級脂肪族アルコールとの組み合わせで、短いかまたは中程度の長さのペプチドの混入に適した極性脂質含有組成物を処方するのに特に有用である、という発見に基づいている。創傷表面に適用後、本発明組成物は不安定な極性脂質層を形成し、その層から揮発性シリコーンオイルおよび、存在する場合には低級脂肪族アルコールが迅速に蒸発し、創傷治療促進剤を含有する極性脂質から実質的になる安定な油状の極性脂質層が得られる。本発明組成物の低粘度は、極性脂質が、高粘度の層状相、六方晶系相および種々の立方晶系相のようなリオトロピック液晶を形成することができないことによるようである。本発明組成物は、20重量%もの高い極性脂質の濃度でさえ透明であり、そして低粘度を有する。
【0029】
対照的に、シリコーンオイル成分が対応する計量された量の水により置き換えられている以外は本発明のものに対応する極性脂質組成物は、低い膜脂質濃度では僅かに粘性の分散液であり、または試験した最高の膜脂質濃度である、組成物の20重量%の膜脂質では濃厚なゲルである。後者の組成物の高粘度では噴霧法によって該組成物を投与することはできない。水に代わる希釈剤として本発明の揮発性シリコーンオイルを使用することによって、ほんの取るに足らない程度に粘度に影響するが、驚く程に高い量の極性脂質を混入させることが可能である。
【0030】
本発明で有用な医薬品等級のシリコーンオイルは、本技術分野で知られている。シリコーンオイルは環状シロキサン、すなわちシクロメチコン、または短い線状のシロキサン、すなわちジメチコンのいずれかであることができる。特に有用なシリコーンオイルの例としては、デカメチルシクロペンタシロキサン(Dow Corning(登録商標)345流体)およびドデカメチルシクロヘキサシロキサン(Dow Corning(登録商標)246流体)を挙げることができる。ペンタシロキサンおよびヘキサシロキサンはより好ましいが、テトラ-, ヘプタ-, およびオクタシロキサンもまた潜在的に有用である。本発明のシリコーンオイルは純粋な形態または混合物で使用することができる。
【0031】
化学的不活性の外に、本発明でのシリコーンオイルの有用性はそれの揮発性により決定される。180℃より高い、特に200℃より高いそれの高沸点にもかかわらず、本発明のシリコーンオイルは容易に蒸発する。これは、この種の化合物の気化熱が低いことによる。本発明では、25℃での気化熱(kJ/kg)が約100 kJ/kg〜約300 kJ/kg、より好ましくは約120 kJ/kg〜約200 kJ/kgであるシリコーンオイルが特に有用である。さらにより好ましいのは、25℃で140 kJ/kg〜約180 kJ/kgの気化熱を有するシリコーンオイルである。
【0032】
本発明のシリコーンオイルは、少なくとも以下の有利な特徴: i)極性脂質物質の高含有量を混入させることができる能力; ii) 熱力学的に安定な溶液の形成; iii)得られた溶液の粘度が低いためにそれを例えば噴霧法、点滴、塗りまたは注入に適合させ得る、という特徴を本発明組成物に提供する。
【0033】
本発明の低級脂肪族アルコールはC2〜C4アルコールまたは該アルコールの混合物、特にC2〜C3アルコールおよびtert-ブタノールから選択されるアルコールである。特に好ましいのはエタノールである。
【0034】
本発明の好ましい特徴によれば、C2〜C4アルコールは1,2-プロパンジオール、および/またはグリセロールを、特にそれぞれに組成物の5重量%までまたは15重量%までの量で含有するのがよい。
【0035】
本発明の極性脂質は、膜脂質、例えばリン脂質、糖脂質、スフィンゴ脂質またはそれらの混合物であるのが好ましい。特に好ましいリン脂質はホスファチジルコリンである。他の好ましいリン脂質は、ホスファチジルエタノールアミンおよびホスファチジルイノシトールである。好ましい糖脂質はガラクト脂質である。好ましいガラクト脂質は、ジガラクトシル-1,2-ジアシルグリセロールそれ自体、および他のガラクト脂質および/またはリン脂質および/またはスフィンゴ脂質との混合物でのそれである。
【0036】
技術的規模の本発明の商業用極性脂質は、約50〜60重量%までの非極性脂質で構成されるように相当量の非極性脂質を含むことができる。したがって、本発明のさらに好ましい特徴によれば、本発明組成物の極性脂質成分は、30重量%またはそれ以上まで、例えば50重量%または60重量%までおよびさらに75重量%までの量で非極性脂質を含有する。好ましい非極性脂質は、モノ-, ジ- およびトリグリセリド並びにそれらの混合物を包含する。より高い含有量のモノ- およびジグリセリド、特にモノグリセリドは、対応する含有量のトリグリセリドよりも本発明の極性脂質として許容され得る。本発明の非極性脂質はまた、脂肪酸およびそれらの塩、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、脂肪アルコール、脂肪アミン、およびそれらの混合物をも包含することができる。
【0037】
本発明の油状極性脂質を溶解するための低級脂肪族アルコール、例えば無水エタノールの使用は、鎖融解温度が低い脂質に対して特に有利である。鎖融解温度は、膜脂質のアシル鎖が過剰の水の中で固体様状態から融解状態または液体様状態への相転移を受ける温度である。リポイド(Lipoid) S75、リポイドS45、 ホスホリポン(Phospholipon)50、リポイドS100、およびDOPCのような膜脂質物質は全て、0℃より低い鎖融解温度を有し、そしてそれ故に50重量%までのおよびさらにより高い濃度で無水エタノール中に容易に溶解することができる。
【0038】
本発明組成物を製造するためには、極性脂質、特にレシチンのような膜脂質混合物または分画されたオートオイルを二者択一的に低級脂肪族アルコールに溶解し、次いで本発明の揮発性シリコーンオイルで希釈して、低粘性、噴霧可能な、均一液体を生成させるのがよい。分画されたオートオイルは、粗製オートオイルから得られ、しかも極性脂質中で強化される。それは典型的には、約50重量%の非極性脂質例えばトリアシルグリセロールおよびジアシルグリセロール、並びに約50重量%の極性脂質例えばリン脂質および糖脂質を含む。典型的には、分画されたオートオイル中のジガラクトシルジアシルグリセロールの含有量は約20重量%である。適切な分画されたオートオイルは、例えばWO 99/44585 A1に開示されている。
【0039】
ホスファチジルエタノールアミン、特にジオレイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)のような脂質もまた、それ自体でまたは他の極性脂質との混合物で本発明の極性脂質成分として使用することができる。DOPEは水中で-16℃の鎖融解温度を有し、そして高められた温度(>60 ℃)において50重量%またはより高い質量で無水エタノール中に溶解することができる。このような溶液は、DC 345のような揮発性シリコーンオイルで希釈され、透明な低粘性の液体を生成することができる。
【0040】
1重量%または2重量%およびさらに約5重量%までのような少量の水は許容され得るけれども、本発明の創傷治療促進組成物は実質的に水を含まないのが好ましく、特に5重量%より少ない、好ましくは2重量%より少ない、もしくは1重量%より少ない、そしてさらには0.5重量%より少ない、もしくは0.2重量%より少ない水含有量を有するのが好ましい。
【0041】
好ましい特徴によれば、本発明の創傷治療促進組成物は10重量%〜30重量%の膜脂質、10重量%〜30重量%のエタノール、0.01重量%〜5重量%の創傷治療剤を含有し、残りは揮発性シリコーンオイルであるが、但し揮発性シリコーンオイルの含有量は40重量%またはそれ以上である。
【0042】
本発明の別の好ましい特徴によれば、医薬担体組成物、すなわち、本発明の創傷治療促進剤を含有しないが、該剤の混入に適している本発明組成物が開示さている。担体組成物は約30重量%〜約90重量%のシリコーンオイル、約5重量%〜約45重量%の極性脂質、および約5重量%〜約45重量%のC2〜C4アルコール特にエタノール、場合により5重量%またはそれより少ない水を含有することができる。
【0043】
本発明のさらに別の好ましい特徴によれば、図3の相図の面積Fにより構成される重量%割合の極性脂質、揮発性シリコーンオイルおよびエタノールから実質的になり、場合により5重量%またはそれより少ない水を含有する創傷治療促進剤担体組成物が開示される。
【0044】
本発明の組成物は、所望の方法で、すなわち、無制限またはほぼ無制限の水損失を、例えば単位時間当たり50%またはそれより多いような実質的に減少した水損失に可能ならしめることから、水損失を抑制するように設計することができる。
【0045】
水損失の抑制は、創傷治療において重要な因子である。水損失の抑制は、組成物による創傷治療促進剤の投与に付加的であることができる。
【0046】
以下に、本発明を図で説明される多くの好ましい実施例でより詳細に記載するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】実施例1の組成物を説明する三成分相図である。
【図2】浅い皮膚創傷に適用した、本発明組成物を含有する医療用パッチの断面表示である。
【図3】創傷治療促進剤のための担体組成物および創傷治療促進剤を含有する該組成物を包含する本発明組成物を形成する脂質層の別の三成分相図である。
【図4】本発明の創傷治療促進剤担体組成物による経表皮水損失の抑制を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
物質
【0049】
【表1】

【0050】
製剤実験で使用したアルコールは、エタノール99.9 %(“EtOH”,VWR社製)、2-プロパノールHPLC等級(“IPA”,ラスバーン(Rathburn)社製)、グリセロール99.5 %(“Gro”,VWR社製)および1,2-プロパンジオール,Ph.Eur.(“PD”,フルカ/シグマアルドリッチ(Fluka/Sigma-Aldrich)社製)であった。製剤実験で使用した物質は、以下の供給者:ダウコーニング(Dow Corning)社,ミッドランド,MI州,米国;リポイド(Lipoid)社,Ludwigshafen,ドイツ;オーフスカールハムンスエーデン(Aarhus Karlshamn
Sweden)AB社,Karlshamn,スエーデン;LTPリピッドテクノロジーズプロバイダー(Lipid Technologies Provider)AB社,Karlshamn,スエーデン;スエディッシュオートファイバー(Swedish Oat Fiber)AB社,Varobacka,スエーデン;シグマアルドリッチ(Sigma-Aldrich)社,セントルイス,MO州,米国;クローダ(Croda)社,Goole,イーストヨークシャ,英国;ラスバーンケミカルズ(Rathburn Chemicals)社,Walkerburn,Scotland,英国;VWRインターナショナル(International)AB社,Spanga,スエーデン;ポリペプチドラボラトリーズ(PolyPeptide Laboratories)A/S社,Hillerod,デンマーク;デルマゲン(Dermagen)AB社,Lund,スエーデンにより提供された。
【実施例】
【0051】
創傷治療組成物
実施例1.ヒト甲状腺ホルモンの製剤

【0052】
あらかじめ計った量のヒト甲状腺ホルモンに、リン脂質を50.0 % (w/w)の濃度で無水エタノールに溶解することにより製造した50 % (w/w) エタノール性リン脂質溶液を加えた。リン脂質の完全な溶解は、バス型ソニケーター(bath-type sonicator)中約40℃で短い超音波処理をし、穏和に混合することにより成就した。得られた透明な黄色溶液をシリコーンオイルで希釈し、そして室温で空気の漏れないガラス製バイアルに保存した。
【0053】
実施例2. アンギオテンシンIIの製剤

【0054】
あらかじめ計った量のアンギオテンシンIIに、実施例1に記載のように製造した50 % (w/w) エタノール性リン脂質溶液を加えた。バス型ソニケーター中約35℃で処理後、透明な溶液が得られた。その溶液を揮発性シリコーンオイルで希釈し、得られた透明な淡茶色〜黄色の溶液を室温で空気の漏れないガラス製バイアルに保存した。
【0055】
この製剤の外観は室温で1ヶ月間未変化であった。相分離または沈澱およびその後の沈降の兆候は全く観察されなかった。これは優れた物理的安定性を示唆している。
【0056】
実施例3. 抗菌性カテリシジンポリペプチド LL37の製剤

【0057】
あらかじめ計った量のLL37に、実施例1に記載のように製造した33% (w/w) エタノール性リン脂質溶液(1:1,質量基準)を加えた。バス型ソニケーター中約35°Cで処理後、透明な溶液が得られた。その得られた溶液を揮発性シリコーンオイルで希釈した。その透明な淡茶色〜黄色の溶液を室温で空気の漏れないガラス製バイアルに保存した。
【0058】
この組成物の外観は室温で1ヶ月より長く未変化であった、すなわち、相分離または沈澱およびその後の沈降の兆候は全く観察されなかった。これは優れた物理的安定性を示唆している。
【0059】
実施例4. サイトカイン阻害剤創傷治療組成物

【0060】
あらかじめ計った量のシクロスポリンに、28.5 % (w/w) エタノール性リン脂質溶液を加えた。バス型ソニケーター中約35°Cで処理後、透明な溶液が得られた。その得られた溶液を揮発性シリコーンオイルで希釈した。その透明な淡茶色〜黄色の溶液を室温で空気の漏れないガラス製バイアルに保存した。この組成物の外観は室温で1ヶ月より長く未変化であった。
【0061】
実施例5. シリコーンオイル/脂質ビヒクル中のDPK-060創傷治療促進ペプチド組成物
正確に計った量のペプチドDPK-060を、脂質、グリセロール、1,2-プロパンジオールおよびエタノールの混合物中に40℃で攪拌下に溶解した。
【0062】
【表2】

【0063】
シリコーンオイル(DC345)およびイソプロパノールを加えた。その混合物を、均一、透明および無色〜茶色がかった黄色の液体が得られるまで40 °Cで穏和に攪拌した。表2はDPK-060組成物の代表例を示している。
【0064】
実施例6. シリコーンオイル/脂質ビヒクル中のLL-37ペプチド組成物
正確に計った量のペプチドLL-37を、脂質、グリセロールおよびエタノールの混合物中に40 ℃で攪拌下に溶解した。シリコーンオイル(DC345) およびイソプロパノールを加え、その混合物を、均一、透明および僅かに黄色〜茶色がかった黄色の液体が得られるまで40℃で穏和に攪拌した。表3はLL-37組成物の代表例を示している。
【0065】
【表3】

【0066】
創傷治療促進剤担体組成物
実施例7.リン脂質ベースの担体組成物
リン脂質を、DC 345揮発性シリコーンオイルおよびアルコールの混合物に溶解した。その脂質を正確に計り、そしてシリコーンオイルおよびアルコールと混合した。その混合物を、均一、透明および無色または僅かに黄色の液体が得られるまで40 ℃で穏和に攪拌した。表4aはホスファチジルコリンをベースとする組成物の例を示し、そして表4bはホスファチジルエタノールアミンをベースとする組成物の例を示している。
【0067】
【表4a】

【0068】
【表4b】

【0069】
実施例8.アシルグリセロールベースの担体組成物
商業的に入手可能なモノグリセリド製品は、モノアシル-, ジアシル- および少量のトリアシルグリセロールの混合物である。このアシルグリセロール製品を、DC 345揮発性シリコーンオイルおよびアルコールの混合物中に溶解した。脂質を正確に計り、そしてシリコーンオイルおよびアルコールと混合した。その混合物を、均一、透明および無色の液体が得られるまで40 ℃で穏和に攪拌した。表5はアシルグリセロールをベースとする組成物の例を示している。
【0070】
【表5】

【0071】
実施例9. コレステロールをベースとする担体組成物
コレステロールを含有する組成物は、DC 345揮発性シリコーンオイルおよびアルコールを一緒に混合することにより製造した。脂質を正確に計り、そしてシリコーンオイルおよびアルコールと混合した。その混合物を、均一、透明および無色の液体が得られるまで40℃で穏和に攪拌した。表6はコレステロールをベースとする組成物の例を示している。
【0072】
【表6】

【0073】
実施例10. ガラクト脂質強化物質をベースとする担体組成物
ガラクト脂質強化物質の二つの例を用いて、DC 345揮発性シリコーンオイルおよびアルコールとの混合物を製造した。脂質を正確に計り、そしてシリコーンオイルおよびアルコールと混合した。その混合物を、均一、透明および僅かに黄色〜茶色がかった黄色の液体が得られるまで40℃で穏和に攪拌した。表7はガラクト脂質強化脂質をベースとする組成物の例を示している。
【0074】
【表7】

【0075】
実施例11. 脂質組合せをベースとする担体組成物
揮発性シリコーンオイル/アルコールの混合物中で種々の性質を有する脂質を組合わせることができる能力を試験した。各脂質物質を正確に計り、そしてシリコーンオイルおよびアルコールと混合した。その混合物を、均一、透明および無色または僅かに黄色の液体が得られるまで40℃で穏和に攪拌した。表8は脂質の種々の組合せをベースとする組成物の例を示している。
【0076】
【表8】

【0077】
実施例12.商業的に入手し得るレシチンをベースとする担体組成物
商業的に入手可能なレシチン製品は、極性脂質(主としてリン脂質)および非極性脂質(主としてトリグリセリド)の混合物で存在する。以下の実施例で使用する物質は、全て大豆から得られそして主要の極性脂質としてホスファチジルコリンを含む。脂質を正確に計り、そしてシリコーンオイルおよびアルコールと混合した。その混合物を、均一、透明および黄色または茶色がかった黄色の液体が得られるまで40 ℃で穏和に攪拌した。表9はレシチンをベースとする組成物の例を示している。
【0078】
【表9】

【0079】
実施例13. 種々のシリコーンオイルを有する担体組成物
種々の揮発性シリコーンオイルを使用することができる可能性を、DC 345を2つの他のシリコーンオイル、DC 245およびDC 246によって置き換えることによって試験した。脂質を計り、そしてシリコーンオイルおよびアルコールと混合した。その混合物を、均一、透明および無色の液体が得られるまで40 °Cで穏和に攪拌した。表10はDC 245およびDC 246を含有する組成物の例を示している。
【0080】
【表10】

【0081】
実施例14. 脂質および少量の水をベースとする担体組成物
少量の水を本発明のビヒクルに加えることができる可能性を試験した。脂質を正確に計り、そしてシリコーンオイルおよびアルコールと混合した。少量の水および場合によりイソプロパノールを加えた。その混合物を、均一、透明および無色または茶色がかった黄色の液体が得られるまで40 ℃で穏和に攪拌した。表11は少量の水を有する組成物の例を示している。
【0082】
【表11】

【0083】
実施例15. 混和性の試験
表12には、揮発性シリコーンオイルまたは水のいずれかを有するエタノール性リン脂質溶液の混和性に関するデータが示されている。シリコーンオイル中に低い含有量のPL/エタノールを有する混合物は、沈澱直後に透明な外観を有したが、しかし室温で1ヶ月以内に分離した。他方、PL/エタノールが20 %の濃度を有する製剤は、揮発性シリコーンオイルと混和性であり、この期間中外観の変化はなかった。したがって該製剤は物理的に安定であるとみなすことができる。
【0084】
【表12】

【0085】
表12のリン脂質は、リポイド社(Lipoid GmbH, Ludwigshafen, ドイツ)製のリポイドS75である。大豆由来のこのリン脂質物質は、約68〜73 %のホスファチジルコリン(PC)を含む。 他の適当なリン脂質物質は、例えば、リポイドS45,ホスホリポン50,およびリポイドS100であって、全て大豆由来で、リポイド社製であり、PC含有量の範囲は約50%から100 %までにわたっている。さらに別の有用なリン脂質は、合成のジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)、ジオレイルホスファチジルコリン(DOPC)およびジパルミトイルホスファチジルコリン (DPPC)である。
【0086】
実施例16. 医療用パッチ
図2は、創傷血清および凝固した血液で満たされた浅い皮膚創傷1に適用した実施例3の組成物を含有する医療用パッチを図式的に説明している。円形のパッチ(それは丸いか四角かまたはいずれか他の適当な形体を有することができる)は、実施例3の組成物を染み込ませた綿ガーゼのパッド3を含有する。綿ガーゼパッド3の前面は創傷1に面している。ガーゼ層3の後面は可とう性ポリマー裏打ち(backing)4に付着しており、該裏打ち4はシリコーンオイル蒸気およびアルコール蒸気に浸透性である。裏打ち4はパッド3よりも大きな面積を有し、該パッド3は裏打ち4上の中心に配置されている。パッド3で被われていない、裏打ち4の前面の周囲5は、創傷1を取り囲んでいる無傷の皮膚7に医療用パッチを付着させるための医療用接着剤6を具備している。適用前に、接着剤6は切り取り式ホイル(示されていない)により保護されている。創傷1に適用後、パッド3により支持されたLL37ペプチド含有の安定な極性脂質層8が、アルコールおよび揮発性シリコーンオイルの蒸発によってガーゼ層3と創傷1との間の境界に形成される。支持された極性脂質層8から漏れるペプチドLL37は、創傷血清を介して創傷1の治療を促進する。本発明の医療用パッチは、溶媒蒸気を浸透させない密閉ポリマー容器中に滅菌状態で提供されるのが適切である。
【0087】
実施例17. 創傷治療試験
左親指の切り傷のある志願者(男性, 66才)を実施例3の製剤の1滴で処置した。その滴は創傷表面に容易に広がった。溶媒は迅速に蒸発し、創傷治療ペプチド含有の薄い脂質層が残った。溶媒の蒸発は、創傷および取り囲んでいる皮膚上にいずれかの冷却感を付与しなかったし、また刺激を惹起させることもなかった。創傷は2日以内で治癒した。志願者によれば、他の方法では、該創傷はかなり長期(2週間まで)の治療時間を必要とするであろうとのことであった。
【0088】
実施例18. 経上皮水損失の抑制
A, B, C(表13)と称する本発明の脂質層形成組成物3種を、皮膚表面からの経皮水損失(TEWL)に及ぼすそれらの効果について試験した。それらの効果を、TEWLのための慣用剤である白色ワセリン(ACO hud社製, スエーデン)の効果と比較した。各組成物を、皮膚疾患の証拠を全く示さなかった5人の女性および5人の男性からなる10人の健康な個人(平均年齢34才、SD18才)の皮膚に適用した。適用前に、前腕の手のひら面を、純粋アルコール中に浸したペーパーティッシュで迅速に洗浄した。5個の2 x 2 cmの長方形面積を手のひら前腕上に鉛筆でマークし、そして基底TEWLについて測定した。各組成物およびワセリンをそれらの面積にランダムに適用し; それらの面積の1個は未処置対照として残した。2つの投与量、3 μl/cm2および6 μl/cm2を調べた。ワセリンは半分の量、すなわち1.5 μl/cm2 および3 μl/cm2を使用した。高投与量を右前腕に適用し、そして低投与量を左前腕に適用した。これらの製剤は、置換式マイクロピペット(Gilson社製)を用いて表面上に分配した。各組成物を該面積上に小滴で適用し、蒸発は、表面に僅かに風を与えることにより促進した。ワセリンは指先で広げた。
【0089】
【表13】

【0090】
デルマラブ装置(DermaLab equipment)(オープンチャンバ; コルテックステクノロジー(Cortex Technology)社製, Hadsund, デンマーク)を使用して適用前および適用後30分にTEWLを測定した。記録された、経上皮水損失の減少は、図4に示されるとおりである。本発明の組成物1は効果においてワセリンに匹敵したが、一方本発明の組成物2および3は、TEWLに関して有意の効果を発揮しなかった。
【0091】
実施例19. DPK-060含有本発明組成物の細菌増殖阻止効果
E. coli ATCC 25922、P. aeruginosa ATCC 27853、およびS. aureus ATCC 29213の菌株における組成物KL-DPK-40, -42, -43, -45, -47および-49〜-53 (表2)の増殖阻止効果を、ラジアル拡散分析(radial diffusion assay)を使用して調べた。組成物KL-DPK-43, -45, -47, -49, -52, および-53、特にKL-DPK-45および-49は良好な増殖阻止効果を示したが、一方プラセボ製剤KL-DPK-50 および-51はいずれの効果も示さなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
揮発性シリコーンオイル、極性脂質、C2−C4脂肪族アルコール、創傷治療促進剤を含有する脂質層形成の創傷治療促進組成物。
【請求項2】
実質的に、揮発性シリコーンオイル、極性脂質、場合によりC2−C4脂肪族アルコール、創傷治療促進剤からなる、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記極性脂質が膜脂質を含有するかまたは膜脂質である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記膜脂質がリン脂質、糖脂質、スフィンゴ脂質およびそれらの混合物から選択される、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記C2−C4脂肪族アルコールがエタノールである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
前記脂肪族アルコールが、プロパン-1,2-ジオールおよびグリセロールであるか、またはそれらを該アルコールの10重量%までの量で含有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
さらに、5重量%より少ない水、特に1重量%より少ない水を含有する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
前記シリコーンオイルがシロキサン、特にデカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサンまたはそれらの混合物である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
前記シリコーンオイルが180℃より高い、特に200℃より高い沸点を有する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
前記シリコーンオイルが、25 ℃ において約100 kJ/kg〜約300 kJ/kg、特に120 kJ/kg〜200 kJ/kg、最も好ましくは140 kJ/kg〜180 kJ/kgの気化熱(kJ/kg)を有する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
前記創傷治療促進剤がペプチドである、請求項1〜10のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
前記ペプチドが短〜中鎖長ペプチド、特に6〜120個のアミノ酸、特に8〜45個のアミノ酸のペプチドである、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記ペプチドが、アンギオテンシンII、アンギオテンシンIIの創傷治療フラグメント、類似体若しくは誘導体、ヒト甲状腺ホルモン、ヒト甲状腺ホルモンの創傷治療フラグメント、類似体若しくは誘導体、カテリシジンポリペプチドLL37、カテリシジンポリペプチドLL37の創傷治療フラグメント、類似体若しくは誘導体、DPK-060から選択される、請求項11に記載の組成物。
【請求項14】
創傷治療促進剤を含有する安定な極性脂質層を創傷上に形成する方法であって、該方法が、
請求項1〜13のいずれか1項に記載の組成物を提供し;
所望量の該組成物の創傷に適用して、シリコーンオイルおよび場合によりC2−C4脂肪族アルコールを含む脂質層をその上に形成し;
シリコーンオイルおよび存在する場合にはC2−C4脂肪族アルコールを創傷表面の温度で蒸発させて安定な極性脂質層を該創傷上に形成する;
ことを含む上記方法。
【請求項15】
適用が噴霧法による、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記組成物の適用量が、1 μm〜500 μmの厚さの安定な極性脂質層を得られるように選択される、請求項14または15に記載の方法。
【請求項17】
創傷治療促進組成物の製造方法であって、
薬理学的に有効な量の創傷治療促進剤を提供し;
上記創傷治療促進剤をC2〜C4脂肪族アルコール中に溶解してアルコール性創傷治療促進剤溶液を形成し;
上記アルコール性溶液を極性脂質およびシリコーンオイルと混合して前記創傷治療促進組成物を形成する;
ことを含む方法。
【請求項18】
前記混合が20℃〜50℃の温度での超音波処理により促進される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記シリコーンオイルが180℃より高い、特に200℃より高い沸点を有する、請求項17または18に記載の方法。
【請求項20】
前記創傷治療促進剤が短鎖長または中鎖長のペプチドである、請求項17〜19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
請求項1〜13のいずれか1項に記載の創傷治療促進組成物が含侵された創傷ドレッシング。
【請求項22】
創傷治療促進組成物が含侵されたパッチおよび、シリコーンオイル蒸気およびアルコール蒸気の通過を可能にするために多孔性である裏打ちを含有する請求項21に記載の創傷ドレッシング。
【請求項23】
蒸気が漏れないポリマー容器に密閉された請求項21または22に記載の創傷ドレッシング。
【請求項24】
創傷治療を促進するための請求項1〜13のいずれか1項に記載の組成物の使用。
【請求項25】
前記創傷が皮膚の切創またはすり傷により惹起される創傷である、請求項24に記載の使用。
【請求項26】
前記創傷が皮膚の熱傷またはやけどである、請求項24に記載の使用。
【請求項27】
前記創傷が皮膚の化学的火傷である、請求項24に記載の使用。
【請求項28】
前記創傷が細菌またはウイルスの感染により惹起される皮膚創傷である、請求項24に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2013−510085(P2013−510085A)
【公表日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−536746(P2012−536746)
【出願日】平成22年11月3日(2010.11.3)
【国際出願番号】PCT/SE2010/000269
【国際公開番号】WO2011/056116
【国際公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(512112035)リピドール エービー (2)
【Fターム(参考)】