説明

創傷治癒のためのスピノシンの使用

【課題】組織の増殖又は再生を必要としている哺乳類の疾病又は疾患の治療用製剤を製造する方法を提供する。
【解決手段】サッカロポリスポラ・スピノサ(Saccharopolyspora spinosa)の培養によって産生されるマクロライドであるスピノシン因子、個々のスピノシン因子のN−デメチル誘導体、これらの組み合わせ又は生理学的に許容される塩を投与することを含む方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正常及び治癒障害のヒトの両者において創傷治癒を増進し又は促進するための、ヒトにおけるスピノシンの治療的使用に関する。このスピノシン又はその生理学的に許容される誘導体若しくは塩は、軟部組織の増殖及び再生を必要とするヒトにおける治療的指標のために使用することができる。創傷治癒障害は、ヒトが罹患する重大な原因であり、非治癒創傷などの合併症を生じ得る。正常な個体では、創傷治癒は、複雑でない内因性過程を介して実現される。対照的に、創傷治癒障害は、糖尿病、感染、免疫抑制、肥満症及び栄養不良などのいくつかの状態と関連する。
【背景技術】
【0002】
創傷治癒は、細胞外基質、血液細胞、実質細胞、及びサイトカインなどのメディエーターが関わる複雑な生物学的過程である。創傷が止血(出血が止まる時点)されると、治癒過程が始まる。これは3つの段階、すなわち炎症、組織形成(増殖)、及び組織再生(再形成)に分かれる。損傷が起こった後、治癒は非常に速やかに開始される。例えば、皮膚の創傷の再上皮化は、数時間以内に開始される(Singer and Clark, New Eng. J. Med. 341(10): 738−746 (1999))。創傷治癒の過程は、有髄求心性感覚神経によって開始され、これが次に神経原性炎症、免疫応答(Eglezos et al., Adv. Exp. Biol. Med. 273: 499−503(1989); Immunol. Cell Biol. 69: 285−294 (1991))、及び血管緊張(Khalil & Helme, Brain Res. 500: 256−262 (1989); Brain Res. 527: 292−298 (1990))を媒介するが、これらは全て治癒に必須の要素である。感覚神経による治癒の開始の後、治癒過程は、細胞遊走、増殖、及びタンパク質産生に影響を及ぼす増殖因子及びサイトカインによって調節される。止血の際には、フィブリンやフィブロネクチンなどのタンパク質が相互作用して血液を凝固させ、サイトカイン及び増殖因子がアップレギュレートされる。損傷後には、炎症が始まる。
【0003】
炎症反応は、3つの異なったフェーズで生じ、それぞれ明らかに異なるメカニズムによって媒介される。(1)局所的な血管拡張及び毛細血管透過性の増大によって特徴づけられる急性遷移相;(2)白血球及び貪食細胞の浸潤によって最も顕著に特徴づけられる遅延性の亜急性相;並びに(3)組織変性及び線維症が生じる慢性増殖相。炎症過程には多くの異なるメカニズムが関与している。炎症反応を起こす能力は、環境病原菌や損傷に直面することに鑑みれば生存のために必須であるが、一部の状況や疾患においては、明白な利点もなく、炎症反応が過剰なまま持続する。炎症が起きている間、好中球(多形核白血球(PMNs))、単球、及びマクロファージが創傷部位に浸潤する。これらの食細胞は、増殖フェーズのための増殖因子、タンパク質を分解する酵素メディエーター(プロテアーゼ)を放出し、細菌、死細胞、及び瀕死細胞を貪食し、こうして創傷部位を清拭する。
【0004】
次のフェーズでは増殖が始まる。コラーゲンが沈着し、瘢痕組織を形成する。線維芽細胞はプロテオグリカンを産生し、これがコラーゲン線維を結びつける。時間とともに、コラーゲンがプロテアーゼによって分解され、より強力な瘢痕構造に再形成される。
【0005】
スピノシン(A83453因子としても知られる)は、農業用動物、家畜、及びコンパニオン・アニマル用の殺虫剤であり、以下に対して活性を示す。1)鱗翅目の昆虫、2)同翅目のメンバー、3)昆虫双翅目のメンバー、4)鞘翅目のメンバー、及び5)シラミ目のメンバー。農業用動物、家畜、及びコンパニオン・アニマルに投与するのに適した製剤には、種々の懸濁液、溶液、錠剤、カプセル、液体、及び治療が含まれる。
【0006】
スピノサド(主にスピノシンA 85%とスピノシンD 15%とで構成される製品)は、現在、オーストラリア及びニュージーランドにおいて、ヒツジに付いたシラミの処置、並びにヒツジに群がるクロバエの処置及び予防について承認されている。ブラジルでは、スピノサドは、特定のダニ、ハエ、及びシラミの局所処置及び防御のために、並びにウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ブタ、鳥類、及びイヌにおけるウマバエ・ハエウジ病及び皮膚創傷の治療のための消毒剤及び癒合防虫剤として承認されている。
【0007】
スピノシンは、ヒトにシラミが発生するのを防ぐために有用であることが知られている(米国特許第6,063,771号及び欧州特許第1252820号)。また、ヒトに対してシラミ撲滅剤として使用するのに適した製剤も、これらの特許に記述されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
スピノシン及び市販の承認品について駆虫活性が知られているにも関わらず、このスピノシン又はその生理学的に許容される誘導体若しくは塩が、消毒剤/殺菌剤を含む製剤とは独立して創傷治癒活性を有することは、今回初めて発見された。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ヒトの創傷を治療して、治癒が不完全又は慢性の創傷、皮膚病及びアレルギー疾患、特に皮膚に関連した疾患及びこれに関連した状態又は症候を含む創傷の治癒を増進し又は促進するために、これらの必要なヒトに対して、スピノシン又はその生理学的に許容される誘導体若しくは塩を投与することを含む方法に関する。好ましくは、これらの方法は、スピノサド又はその生理学的に許容される誘導体若しくは塩を投与することによって実施される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、ヒトの創傷治癒を増進し又は促進するための方法であって、これらの必要なヒトに対して、スピノシン又はその生理学的に許容される誘導体若しくは塩を投与することを含む方法を提供する。他の側面において、本発明は、ヒトの創傷治癒を増進し又は促進するための、スピノシン又はその生理学的に許容される誘導体若しくは塩の使用、又はスピノシン又はその生理学的に許容される誘導体若しくは塩のいずれかを含む製剤の使用を提供する。
【0011】
スピノシンは、天然由来の発酵産物である。これは、サッカロポリスポラ・スピノサ(Saccharopolyspora spinosa)の培養によって産生されるマクロライドである。発酵により、スピノシンA及びスピノシンD(A83543A及びA83543Dとも呼ばれる)を含むいくつかの因子が産生される。スピノシンA及びスピノシンDは、殺虫剤として最も活性のある2つのスピノシンである。主にこれらの2つのスピノシン(約85%のA及び15%のD)で構成される農業用製品は、スピノサドの名称でDow AgroSciencesから市販されている。スピノサドを含む駆虫用製品は、Eli Lilly and Companyから市販されている。「スピノサド」の名称は、スピノシン「A」及び「D」を短くしたものに由来する。
【0012】
それぞれのスピノシンは、2つの異なる糖(アミノ糖フォロサミン及び中性糖2N,3N,4N−トリ−O−メチルラムノース)が結合した四員環化合物の一部である12員の大環状の環を有する。スピノシンは、この独特の構造により、他の大環状化合物とは一線を画するものとなっている。
【0013】
スピノシンA(A83543A)は、最初にサッカロポリスポラ・スピノサの発酵ブロスから単離され、同定されたスピノシンであった。その後の発酵ブロスの研究により、S.スピノサの親株は、A〜Jで識別される多数のスピノシン(A83543A〜J)を産生することが明らかになった。スピノシンAと比較して、スピノシンB〜Jは、四員環上、及び2N,3N,4N−トリ−O−メチルラムノース上の選択された部位において、フォロサミンのアミノ基の置換パターンが相違することによって特徴づけられる。現在使用しているS.スピノサの株は、主要構成要素がスピノシンA(〜85%)及びスピノシンD(〜15%)であるスピノシンの混合物を産生する。さらなるスピノシン(K〜Wで示される)は、S.スピノサの突然変異株から同定された。
【0014】
本明細書で使用される「スピノシン又はその生理学的に許容される誘導体若しくは塩」という用語は、個々のスピノシン因子(A、B、C、D、E、F、G、H、J、K、L、M、N、O、P、Q、R、S、T、U、V、W、又はY)、個々のスピノシン因子のN−デメチル誘導体、これらの組み合わせ又は生理学的に許容される塩をいう。便宜上、「スピノシン」という用語はまた、本明細書において、個々のスピノシン(又はその生理学的に許容される誘導体若しくは塩)、又はこれらの組み合わせを意味するために使用される。ヒトの創傷治癒のための最も好ましいものは、スピノサド又はその生理学的に許容される誘導体若しくは塩である。
【0015】
欧州特許第375316号には、スピノシンA〜H、及びJ(これを彼らはA83543因子A、B、C、D、E、F、G、H、及びJと呼んだ)、並びにこれらの塩が開示されている。米国特許第5,202,242号において、Mynderse、et al.は、スピノシンL〜N(これを彼らはA83543因子L、M、及びNと呼んだ)、これらのN−デメチル誘導体及びこれらの塩を開示しており、米国特許第5,591,606号及び米国特許第5,631,155号において、Turner、et al.は、スピノシンQ〜T(これを彼らはA83543因子Q、R、S、及びTと呼んだ)、これらのN−デメチル誘導体及びこれらの塩を開示している。これらの特許は、引用することにより本願に援用される。スピノシンK、O、P、U、V、W、及びYは、例えばCarl V. DeAmicis, James E. Dripps, Chris J. Hatton and Laura I. Karr in American Chemical Society’s Symposium Series: Phytochemicals for Pest Control, Chapter 11, “Physical and Biological Properties of Spinosyns: Novel Macrolide Pest−Control Agents from Fermentation,” pages 146−154 (1997)に開示されている。米国特許第6,001,981号において、スピノシンの種々の合成誘導体が記述されており、また米国6,455,504号には、種々のスピノシン類似体が開示されており、これらは両方とも、引用することにより本願に援用される。スピノシンの発酵及び単離に関する詳細並びに合成誘導体を生成するための手順は、これらの参照文献に記載されている。
【0016】
米国特許出願及び欧州特許出願のいずれにも、スピノシン及びその生理学的に許容される誘導体若しくは塩について、種々の剤型、駆虫活性、並びに動物及び農業における投与選択肢が開示されている。
【0017】
米国特許第6,063,771号及び第6,342,482号、並びに欧州特許第1252820号には、ヒトにおけるシラミの発生を防止するための、スピノシン又はその生理学的に許容される誘導体若しくは塩の製剤及びその使用、並びにその製剤を調製する方法が記載されている。
【0018】
上述したように、スピノサド製剤は、Dow AgroSciences, 9330 Zionsville Road, Indianapolis, Indiana, 46268−1054, U.S.A.及び Elanco Animal Health, a Division of Eli Lilly and Company, P.O. Box 708, 2001 W. Main Street, Greenfield, Indiana, 46140, U.S.Aから市販されている。加えて、S.スピノサ及び突然変異株は、Agricultural Research Service Patent Culture Collection (NRRL) National Center for Agricultural Utilization Research, ARS, USDA, 1815 North University Street, Peoria, Illinois, 61604, U.S.Aに寄託されている(NRRL 18395, 18537, 18538, 18539, 18719, 18720, 18743, 18823及び30141(米国特許第6,455,504号)。
【0019】
スピノシンは反応させて塩を形成することができる。生理学的に許容される塩もまた、本発明の方法に有用である。塩は、塩調製のための標準的方法を使用して調製する。例えば、スピノシンAを適切な酸で中和して、酸付加塩を形成することができる。スピノシンの酸付加塩は、特に有用である。適切な酸付加塩として代表的なものには、例えば、硫酸、塩酸、リン酸、酢酸、コハク酸、クエン酸、乳酸、マレイン酸、フマル酸、コール酸、パモン酸、粘液酸、グルタミン酸、ショウノウ酸、グルタル酸、グリコール酸、フタル酸、酒石酸、ギ酸、ラウリン酸、ステアリン酸、サリチル酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、ソルビン酸、ピクリン酸、安息香酸、桂皮酸などの酸といった有機酸又は無機酸との反応によって形成される塩が含まれる。
【0020】
本明細書における全ての比率、割合、及び部は、特に明記しない限り「重量」によるものである。
【0021】
「創傷」は、組織が切れ、裂け、破壊され、火傷し、若しくは外傷を与えられたか、又はこのような損傷を生じる障害若しくは疾患によって生じる、ヒトに対する損傷を意味する。
【0022】
本発明によってもたらされる「治癒」は、創傷が生じる(スピノシンが投与される)ときから創傷が閉じる(創傷が完全に収縮する)までの時間の増進又は促進である。
【0023】
「組織」という用語は、群になって特定の機能を形成する人体における細胞の塊をいう。組織は、骨、皮膚、結合組織、及び脊髄などの神経を含むが、これらに限定されるわけではない。
【0024】
本明細書に使用される「治療すること」、「治療」、及び「療法」という用語は、治療的療法をいう。治療を必要とするものには、創傷、疾患、又は疾病を有するヒトを含む。
【0025】
1つ又は複数のさらなる治療薬と「組み合わせた」投与には、ヒトに対する同時投与(併用)、及び任意の順序での連続投与を含む。
【0026】
「治療上有効な量」は、ヒトに治療効果をもたらすために必要である活性薬剤(例えばスピノシン、最も好ましくはスピノサド)の最小量である。例えば、創傷に有するヒトに対する「治療上有効な量」は、病理学的症候、治癒の進行、関連する生理学的状態の改善を誘導し、増進し、促進し、若しくは生じさせるか、又は治癒に対する耐性を改善するような量である。
【0027】
本明細書に使用される「キャリア」は、使用される投与量及び濃度にて、これに曝露されるヒトに対して非毒性である薬学的に許容されるキャリア、賦形剤、又は安定剤を含む。多くの場合、生理学的に許容されるキャリアは、pH緩衝化された水溶液である。生理学的に許容されるキャリアの例は、リン酸、クエン酸、及びその他の有機酸などの緩衝液、アスコルビン酸を含む抗酸化剤、ポリビニルピロリドンなどの親水性重合体、グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニン、又はリジンなどのアミノ酸、グルコース、マンノース、又はデキストリンを含む単糖、二糖、及びその他の炭水化物、EDTAなどのキレート薬、マンニトール又はソルビトールなどの糖アルコール、ナトリウムなどの塩形成対イオン、及び/又はポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(TWEEN(登録商標))、ポリエチレングリコール(PEG)、及びポリオキシエチレン/ポリオキシプロピレンブロック共重合体(PLURONIC(登録商標))などの非イオン性界面活性剤を含む。
【0028】
本発明のスピノシン、特にスピノサドは、治癒の神経原性の活性化、及びその後の細胞の成長及び増殖に関与する炎症性の活性を刺激する。したがって、本発明の組成物は、創傷治癒、特に皮膚創傷のために、上皮細胞増殖及び基底ケラチノサイトを刺激する際に使用することができる。これらの創傷は、表面的なものであってもよく、皮膚の真皮及び表皮の損傷を含むような深いものであってもよい。
【0029】
スピノシンは、様々な創傷及び状態を治療するために有用である。例えばスピノシンは、種々の創傷治癒モデルにおいてインビボで活性がある。
【0030】
スピノシンが投与されるヒトは、正常な速度で創傷が治癒される者であってもよく、治癒障害の者であってもよい。治癒障害ではない個体に投与するときは、正常な治癒過程を促進するためにスピノシンが投与される。治癒障害である個体に投与するときは、そうでなければ治癒が遅く、又は全く治癒しない創傷治癒を容易にするためにスピノシンが投与される。多くの疾患及び状態により治癒障害が生じ得る。このような疾患及び状態には、糖尿病(例えばII型糖尿病)、ステロイド系及び非ステロイド系薬物による治療、及び虚血性閉塞又は損傷が含まれる。
【0031】
多くの増殖因子が、治癒障害された個体における創傷治癒を増進することが示された。これらの増殖因子には、成長ホルモン放出因子、血小板由来増殖因子、及び塩基性線維芽細胞増殖因子を含む。したがって、本発明はまた、創傷治癒を増進する1つ若しくは複数の増殖因子、又はその他の薬剤と組み合わせて、少なくとも1つのスピノシンを投与することを包含する。
【0032】
本発明のスピノシンは、正常な速度で創傷が治癒するか、又は治癒障害のヒトにおいて外科的手術によって生じる吻合部及びその他の創傷の治癒を増進する。
【0033】
本発明のスピノシン、特にスピノサドは、正常な個体、及び創傷治癒障害をもたらす状態(尿毒症、栄養不良、ビタミン欠乏症、肥満症、感染症、並びにステロイド薬、放射線療法、及び抗癌剤・代謝拮抗剤による全身治療に関連した免疫抑制及び合併症)にある個体において、手術の創傷、切除の創傷、真皮及び表皮の損傷を含む深い創傷、筋断裂などの軟部組織損傷、眼組織創傷、歯組織創傷、口腔創傷、胃腸粘膜の創傷及び潰瘍、糖尿病性潰瘍、皮膚潰瘍、肘潰瘍、動脈潰瘍、静脈うっ血性潰瘍、並びに熱による火傷、極度の高温若しくは低温への曝露、又は化学薬品に対する曝露、を含む創傷の治癒を促進する際に臨床的に有用である。また、組成物は、虚血及び虚血傷害に関連する創傷、例えば静脈循環系帰還の欠陥及び/又は不全によって生じる慢性静脈下腿潰瘍の治癒を増進するためにも、皮膚喪失後の皮膚再建を増進するためにも、表皮の抗張力及び表皮の厚みを増大するためにも、そして創傷床への皮膚移植片の接着性を高めて、創傷床からの再上皮化を促進するためにも有用である。
【0034】
本明細書に使用される「個体」は、ヒトが想定される。
【0035】
スピノシン製剤には、医薬組成物に有用なことが公知である適切な製薬希釈剤を使用してもよい。このような希釈剤は、生理食塩水、緩衝生理食塩水、デキストロース、水、グリセロール、エタノール、及びこれらの組み合わせを含むが、これらに限定されるわけではない。製剤は投与形式に合わせるべきである。好ましくは、医薬組成物は、投与のために処方される。
【0036】
スピノシンは、1つまたは複数の薬理学的に許容される賦形剤と組み合わせた医薬組成物として投与してもよい。ヒト患者に投与する場合、本発明の医薬組成物の1日当たりの用量は、適切な医学的診断に従って主治医によって決定されることが理解されるであろう。任意の特定の患者のための特定の治療的に有効な投与量は、目標とする応答のタイプ及び程度、もしあれば、他の薬剤が使用されるか否かを含む特定の組成物、患者の年齢、体重、全体的な健康状態、性別、及び食事、組成物の投与時間、投与経路、及び排出割合、治療期間、特定の組成物と組み合わせて又は同時に使用される薬物(化学療法薬など)、並びに医療分野において周知の同様の因子を含む種々の因子に依存する。本技術分野において公知の適切な製剤は、Remington’s Pharmaceutical Sciences (latest edition), Mach Publishing Company, Easton, PAにおいて見いだすことができる。したがって、本明細書における目的のためのスピノシンの「有効量」(スピノシンの有効量を含む)は、これらを考慮して決定される。
【0037】
本発明の医薬組成物は、経口、直腸、局所、静脈内、腹腔内、筋肉内、関節内、皮下、鼻腔内、吸入、眼内、又は皮内経路など、所望の形式で投与することができる。非経口投与及び局所投与が、投与経路として好ましい。
【0038】
本明細書に使用される「非経口的」という用語は、静脈内、筋肉内、腹腔内、胸骨内、皮下、及び関節内の注射、並びに注入を含む投与形式をいう。
【0039】
医薬組成物は、特定の症状を治療するために有効な量が投与される。殆どの場合、スピノシンの投与量は、投与経路、症状などを考慮して1日当たり約0.5μg/kg体重〜約50mg/kg体重である。しかしながら、投与量は、0.05μg/kg体重くらいに減らすこともできる。例えば、局所投与の場合の特定のケースでは、投与量は好ましくは1cm当たり約0.2μg〜2μgである。鼻腔内及び眼内投与の場合、投与量は好ましくは約0.05μg/kg〜約50μg/kg体重、より好ましくは約0.5μg/kg〜約5μg/kg体重である。
【0040】
一般的な提案として、非経口的に投与されるスピノシンの薬理学的に有効な合計量は、患者体重の約0.5g/kg/日〜5mg/kg/日の範囲であるが、上述したように、これは治療の裁量の範囲内である。連続投与の場合、スピノシンは、典型的には約10μg/kg/時間〜約100μg/kg/時間の投与速度で、1日当たり1〜4回注射によって、又は例えばミニポンプを用いて連続皮下注入によって、投与される。静脈内バッグ溶液又は瓶溶液を使用してもよい。
【0041】
スピノシン治療の経過は、特定の最小日数(ヒトの場合1〜5日)よりも長く続けた場合に最適なようである。治療の長さにより、変化を観察することが必要であり、効果を生じさせるための治療後の間隔は、所望の効果に応じて変化する。
【0042】
非経口投与の場合、一つの態様では、スピノシンは、薬理学的に許容されるキャリア、すなわち使用される量及び濃度においてレシピエントに対して毒性がなく、かつ製剤のその他の成分と適合するキャリアとともに、一般に所望の純度の程度にて単位投与量を注射できる形態(溶液、懸濁液又はエマルジョン)で混合されて調製される。
【0043】
一般に、製剤は、スピノシンを液体キャリア若しくは微粉固体キャリア、又はその両方と一様かつ完全に接触させることによって調製される。次いで、必要に応じて、その調製物が所望の剤形に成形される。非経口的キャリアの場合、好ましくは、レシピエントの血液と等張性である溶液が使用される。このようなキャリア媒体の例としては、水、生理食塩水、リンゲル液、及びデキストロース溶液が挙げられる。リポソームと同様に、不揮発性油及びオレイン酸エチルなどの非水系溶媒も、本明細書において有用である。本技術分野において公知の適切な製剤は、Remington’s Pharmaceutical Sciences (latest edition), Mach Publishing Company, Easton, PAにおいて見いだすことができる。
【0044】
局所投与の場合、軟膏、クリーム、ゲルなどの製剤を、上述した組成物についての投与量にて使用してもよい。本技術分野において公知の適切な製剤はRemington’s Pharmaceutical Sciences (latest edition), Mach Publishing Company, Easton, PAにおいて見いだすことができる。
【0045】
軟膏は、一般に(1)油脂性基剤、すなわち白色ワセリン又は鉱油などの不揮発性油又は炭化水素からなるもの、又は(2)吸収基材、すなわち脱水ラノリンなどの水を吸収することができる任意の無水物質からなるもの、のいずれかを使用して調製する。慣習的には、基材の形成に続いて、油性又は吸収性であるかに関わらず、活性成分(スピノシン)を所望の濃度を与える量で添加する。
【0046】
クリームは、油/水エマルジョンである。これは、典型的には蝋、ワセリン、鉱油などの固化した油、炭化水素などを含む油相(内相)と、水及び添加した塩などの任意の水溶性物質を含む水相(連続相)とからなる。2つの相を、乳化剤、例えばラウリル硫酸ナトリウム、親水コロイド(例えばアカシアコロイド性粘土、ベーガムなど)などの界面活性剤を使用することによって安定化させる。エマルジョンの形成の際に、慣習的に活性成分(スピノシン)を所望の濃度を達成するための量で添加する。
【0047】
ゲルは、上記したものなどの油脂性基剤、水又はエマルジョン懸濁液基材から選択される基剤を含む。基材に、基材中でマトリックスを形成してその粘性を増大させるゲル化剤を添加する。ゲル化剤の例としては、ヒドロキシプロピルセルロース、アクリル酸重合体などが挙げられる。慣習的に、活性成分(スピノシン)は、ゲル化剤の添加前の状態にて、所望の濃度で製剤に添加する。
【0048】
経口用の医薬製剤は、周知かつ容易に入手可能な成分を使用して、公知の手順によって調製される。組成物を調製する際には、活性成分を通常薬理学的に許容されるキャリアと混合するか、又はキャリアによって希釈するか、又はカプセル、小袋、紙、若しくは他の容器といった形態のキャリア内に封入する。キャリアが希釈剤として用いられる場合、そのキャリアは、活性成分のための媒体、賦形剤、又は培地として作用する固体、半固体、又は液体の材料とすることができる。したがって、組成物は、錠剤、丸剤、粉末、ロゼンジ、懸濁液、エマルジョン、溶液、シロップ、軟及び硬ゼラチンカプセルなどの形態とすることができる。
【0049】
錠剤は、上述した組成物についての用量の、活性のある、又は治療用の成分に加えて、添加物又は賦形剤として公知の多数の不活性材料を含む。希釈剤、結合剤、流動促進剤、及び潤滑剤を含むこれらの材料は、製剤に十分な加工特性及び圧縮特性を与えるのに役立つ。添加される物質のさらなる群は、完成した錠剤に対してさらに望ましい物理的特徴を与えるのに役立つ。この群に含まれる物質としては、崩壊剤、着色剤、並びに咀嚼錠の場合には香料及び甘味料、並びに徐放錠の場合にはポリマー若しくは蝋又はその他の溶解を遅延させる材料が挙げられる。
【0050】
「薬理学的に許容される」とは、キャリア、希釈剤、又は賦形剤が、製剤のその他の成分と適合し、かつレシピエントに有害ではないことを意味する。
【0051】
代表的な製剤を含むさらなる詳細は、Remington’s Pharmaceutical Sciences (latest edition) Mach Publishing Company, Easton, PAにおいて見いだすことができる。
【0052】
また、本組成物は、スピノシン又はその生理学的に許容される誘導体若しくは塩を治療上有効な量だけ含む創傷保護用包帯又はバンデージに用いることも想定される。創傷保護用のバンデージ又は包帯は、外側の編地支持体、好ましくはエラストマー編地支持体と;
内側パットと、を有する。内側パットは、好ましくはフィルム形成材料からなる外膜表面を有し、マトリックス中に治療上有効な量のスピノシン又はその生理学的に許容される誘導体若しくは塩、好ましくはスピノサド又はその生理学的に許容される誘導体若しくは塩が、組成物について上述した用量にて取り込まれている。パッドは、外側の編地支持体と一体であっても分離していてもよい。
【0053】
スピノシンは、理想的には膜のマトリクス中に取り込まれるが、膜によって包まれる内側パッドの材料中に取り込まれていてもよい。
【0054】
治療活性のある薬剤は、移動を防止するとともに、時間経過に従ってスピノシンが徐々に放出されるように、高分子マトリックス中に保持される。
【0055】
別の側面において、創傷用包帯は、液体透過身体側ライナー、分離した外側カバーシート、任意的に非浸透性の液体、及びその間に配置された吸収体を有する吸収パッドを有する。内側及び/又は吸収体は、スピノシンが確実に創傷部位付近に存在するように、マトリックス又は中間構造空間に治療上有効な量のスピノシンを取り込む材料で製造される。
【0056】
包帯の内部表面又はパッドは、好ましくは、天然若しくは合成の膜から、有機若しくは無機、動物若しくは植物由来のフィルム形成材料から、又はプラスチック材料から製造される。例えば、ゼラチンから、又は植物性ゴムから、又は親水性若しくは疎水性のフィルムから、ポリ塩化ビニルポリアセテート又はポリアミドのような、通常の方法でフィルム又は膜として形成され、又はコーティングされるプラスチック材料が製造される。
【0057】
適切なポリマー材料としては、シラスティック又はその他のシリコーンに基づいた材料、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ダクロン、編成ダクロン、ベロアダクロン、ポリグラシン、ナイロン、絹、ポリエチレン(PE)、ポリウレタン、ポリ塩化ビニルシラスティックエラストマー、シリコーン、ゴム、PMMA(ポリ−(メチルメタクリレート))、ラテックス、ポリプロピレン(PP)、ポリオレフィン、セルロース、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)(PHEMA)、ポリ(グリコール酸)、ポリ(アクリロニトリル)(PAN)、フルオロエチレン−コヘキサ−フルオロプロピレン(FEP)、テフロン(PTFE)、これらの共重合体、及びこれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
【0058】
治療活性のある化合物をポリマー材料中に取り込む最も単純な方法は、成型などの前にプラスチック用樹脂に治療活性のある物質を直接配合することである。
【0059】
フィルム又は膜は、理想的には、液体及びガスのいずれも透過するが微生物を透過しない疎水性ポリマーから製造される。フィルム又は膜が疎水性であることは、フィルム又は膜が創傷部位に接着する傾向を減少させるという点で有用な特徴である。
【0060】
製剤中に取り込まれるスピノシンの量は重要ではない。濃度は、所望の量のスピノシンをもたらすと考えられる量で、製剤を創傷部位に容易に適用させるのに十分な範囲内であればよい。
【0061】
創傷に適用される製剤の慣習的な量は、創傷の大きさ及び製剤中のスピノシンの濃度に依存する。一般に、製剤は、創傷1cm当たり約0.1μg〜約5gのスピノシンをもたらす量で適用される。好ましくは、適用されるスピノシンの量は、約0.2μg〜約2g/cm、最も好ましくは、約0.25μg〜約0.5g/cmの範囲である。
【0062】
また、スピノシンは、ヒトの涙腺傷害、障害、及び病態を治療するために、液体、液滴、又は濃厚液すなわちゲルの形態で、眼に投与してもよい。
【0063】
また、スピノシンは、ヒトの鼻粘膜及び洞上皮の障害、傷害、及び病態を治療するために、液滴又はスプレーの形態で、鼻粘膜に対して鼻腔内に投与することができる。
【0064】
スピノシンは、典型的には、媒体中に濃度が約0.01μg/ml〜50mg/ml、好ましくは0.01μg/ml〜10mg/ml、pHが約5〜約8、好ましくは約6〜約7、最も好ましくはpH6.2として、の製剤化される。一定の上述した賦形剤、キャリア、又は安定剤を使用することにより、スピノシンの塩が形成されることが理解されるであろう。
【0065】
スピノシンは、通常、水溶液として、又は再調製のための凍結乾燥製剤として、単回又は複数回投与用の容器、例えば密封されたアンプル又はバイアルに貯蔵される。凍結乾燥製剤の一例としては、3mlのバイアルを1mlの無菌濾過した1%(w/v)スピノシン水溶液で満たし、混合物を凍結乾燥する。輸液は、任意に1つまたは複数の抗酸化剤を含んでいてもよい注射用蒸留水を使用して凍結乾燥されたスピノシンを再溶解することによって調製する。
【0066】
また、投与量は、例えばRIA技術によって定まる、血中スピノシン活性が所定濃度となるように、患者に特有の様式で調整してもよい。したがって、患者の投与量は、RIAによって50〜1000ng/ml、好ましくは150〜500ng/ml程度と測定される規則的な血中濃度の底値が継続するように調整してもよい。
【実施例】
【0067】
<実施例1>スピノサドの局所適用により、ヒツジにミュールシングを施すことによる創傷治癒が改善する(研究番号T9CAL0205)
【0068】
去勢して、尾切りされたメリノ子羊にミュールジングを施す(ミュールシングは、羊毛の生えた皮膚を臀部から手術で除去することを含み、治癒したときには、蛆の発生に対するヒツジの感受性が減少する)。50匹のヒツジを未処置のままにし、381匹の群を7.1gの4mg/g スピノサドエアロゾルで処置した(製剤については表1を参照)。スピノサドエアロゾルは、創傷部位が製剤で湿るまで局所的に適用して、部分に注意する。
【0069】
【表1】

【0070】
群当たり18匹の子羊のミュールシングによる創傷を、治療7日目及び17日目に詳細に観察し、創傷治癒の徴候を評価する(表1)。瘡蓋形成及び創傷収縮は、0(完全又は正常な治癒)〜3(治癒なしと同等)で記録する。出血性/漿液性滲出液及び治癒障害は、0(出血性/滲出液がなく、正常な治癒)〜3(重篤な出血又は治癒障害)まで視覚的に記録する。
【0071】
【表2】


幾何平均。低スコアほど治癒している。
18匹のうちの影響されたヒツジの数。
【0072】
ミュールシングの7日後には、スピノサドで処置したヒツジは、未処置の対照よりもミュールシング創傷の収縮が見られ、これは創傷収縮についての平均スコアがより低いことで確認できる。ミュールシングの17日後までに、スピノサドで処置したヒツジは、未処置の対照ヒツジと比較して、瘡蓋形成が改善され、創傷が収縮し、出血及び漿液性滲出液が減少し、創傷治癒が改善した。
【0073】
ヒツジのミュールシングによる創傷に対するスピノサドの局所適用により、未処置の動物と比較して、治療の17日後には創傷治癒が改善すると考えられる。創傷治癒におけるこの改善は、ホホアカクロバエ蛆の発生などの交絡因子もなく生じる。しかしながら、この実施例で使用した製剤は、抗菌性化合物(クロルヘキシジン)も含んでいた。クロルヘキシジンの細菌感染を防止する能力もまた、この実施例において創傷治癒に有利な効果をもたらしたものと考えられる。
【0074】
<実施例2>スピノサドの局所適用により、ヒツジにミュールシングを施すことによる創傷治癒が改善する(研究番号T9CAL0206)
【0075】
尾切りして、毛を刈り取った雌のメリノ小羊にミュールシングを施す。約46mlの希釈した(125ppm)エキシチノサド(製剤については表3を参照されたい)を、庭用品個人客小売店にて入手できる小さな(2又は5L)加圧式園芸用ハンドスプレー・アプリケーターを使用して、150匹の子羊のミュールシング創傷に適用する。容器又は貯蔵器は、錐状体に形成されており、手動ポンピングによって加圧する。スプレーは錐状体ノズルから噴射される。スピノサドエアロゾル4mg/g(製剤については表1を参照されたい)を、エアゾールスプレーを使用して創傷及び周囲の羊毛が製剤で湿るまで創傷に適用する。50匹のヒツジは、ミュールシング後に未処置のままにする(対照)。
【0076】
【表3】

【0077】
治療の14日後に、子羊を集めて檻に入れる。15分間に亘って子羊を観察して、尾部の痙攣、該領域のかみつき、又は足の踏みつけなどの何らかのうじ発生の徴候を同定する。それぞれの群から25匹の子羊をランダムに選択し、レール上に配置して、これらのミュールジング創傷を、うじ発生及び創傷治癒の徴候について評価する(表4)。瘡蓋形成及び創傷収縮は、0(完全又は正常な治癒)〜3(治癒なしと同等)で記録する。出血性/漿液性滲出液及び治癒障害は、0(出血性/滲出液がなく正常な治癒)〜3(重篤な出血又は治癒障害)まで視覚的に記録する。
【0078】
【表4】


幾何平均。低スコアほど治癒している。
25匹のうちの影響されたヒツジの数。
【0079】
エアロゾル製剤(4mg/L)、又は手動スプレー(125mg/L)のいずれかとしてスピノサドで処置したヒツジは、瘡蓋形成、創傷収縮及び創傷部位の出血及び漿液性滲出液の存在についてのスコアが減少していることによって証明されるように、創傷治癒が改善した。さらに、それぞれの群において調べた25匹のヒツジの中で、未処置の対照群で強調される4匹の治癒障害の動物と比較して、いずれの動物も治癒障害ではない。エキシチノサドで処置した群及びスピノサドエアロゾルで処置した群からのヒツジと比較して、25匹の未処置の対照ヒツジのうちの4匹に、ヒツジキンバエの幼虫が存在する。創傷部位の感染は、未処置群の25匹のヒツジのうちの6匹に存在するが、スピノサドで処置した群には存在しない。
【0080】
スピノサドによってミュールシング創傷の局所治療することにより、上述の実施例1に示したように、未処置の対照動物と比較して創傷治癒が改善する。創傷治癒の改善に伴い、感染率が減少し、ヒツジキンバエ幼虫の存在率も減少する。創傷治癒の改善は、製剤又はミュールジングの創傷に適用したスピノサドの用量に関わらず見られる。さらにまた、スピノサドは、クロルヘキシジン(エキシチノサド)の非存在下でも創傷治癒を増強することができる。このデータは、実施例1及び2で見られる創傷治癒の増強が、クロルヘキシジンの感染を阻害する特性よりもむしろ、スピノサド自体の効果であり得ることを示唆するものである。
【0081】
<実施例3>スピノサドは、熱障害モデルを用いたラットにおける創傷治癒を改善する
a)正常な、若いラットにおけるレーザーで誘導した創傷治癒に対するスピノサドの効果
若い非近交系の雄SDラット(3月齢、約300g)を創傷誘導の24時間前に肩甲間部から毛を除去した。ラットを麻酔して、COレーザーを使用して熱傷を誘導し(ビーム・スポット径を10mmにセットして、それぞれ25ワットのパワー、0.5秒パルスで4回連続して刺激する)、2cmの環状創傷領域を生じさせる。12匹のラット群を生理食塩水、クエン酸(5%)、又はスピノサド(0.5%の5%クエン酸溶液)で処置する。処置は、創傷誘導から5日間に亘って、1日2回、創傷の反対側に100μlの2回の皮内注射によって行う。
【0082】
瘡蓋形成は、一過的に創傷収縮の速度を減少させる(Snowden et al., Aust. J. exp. Biol. Med. Sci. 60:73−82 (1982))。したがって、瘡蓋及び軽く接着している痂皮は、見つけ次第穏やかに取り除いて、相当する全ての創傷を保持して、創傷領域の正確な追跡ができるようにする。
【0083】
創傷は、創傷誘導後に6日間連続して毎日、その後は、完全な創傷閉鎖/再上皮化が生じるまで48時間毎に測定する。正確さのために、火傷(創傷の最大直径)の領域を立体顕微鏡下で追跡し、次いでデジタル・プラニメータで測定した。治癒の最終時点は、完全な創傷収縮が生じたときである(表5)。
【0084】
【表5】

【0085】
創傷治癒に対するスピノサドの効果は、創傷誘導後2日目には顕著になっており、スピノサドで処置したラットは、生理食塩水又はクエン酸で処置した対照よりも創傷が30%小さかった。スピノサドで処置したラットは、12日目には創傷が完全に治癒しており、これは生理食塩水又はクエン酸で処置したものよりも4日早い。
【0086】
これらのデータは、スピノサドの単純な水溶液が、正常な若い健康なラットにおける創傷治癒を促進することができることを示すものである。
【0087】
b)糖尿病(治癒障害)ラットにおけるレーザーで誘導した創傷の治癒に対するスピノサドの効果
ストレプトゾトシンを用いた糖尿病の誘導
糖尿病は、ストレプトゾトシン(STZ)を用いて、3月齢の非近交系雄SDラットに誘導する。ストレプトゾトシン(75mg/kg)を0.1Mの冷却クエン酸ナトリウム緩衝液(pH4)に溶解し、分解を避けるために氷中に保持する。24時間の絶食後に、ラットには、新たに調製した(冷却)STZの単一用量を腹腔内に注射する(Rakienten et al., Cancer Chemotherapy Report 29: 73−82 (1963))。糖尿病の症候は、2〜3日以内にこれらのラットに現れ、これらの糖尿病状態を尿グルコース試験によって確認する。インスリン治療を使用して、状態の異化優性から規則的中断を与えると共に、規則的かつ重篤な高血糖にさせる(Willars et al., J. Neurol. Sci. 91:153−164 (1989))。これらの生理状態の重症度(例えば、殆ど飲食していない、約115gに体重減少、極端に不活発)に応じて、インスリン(プロトファン 2IU/100g)の1〜2回注射を糖尿病ラットに対して皮下に新たに投与する。改善することができなかったか、又は体重の15%以上が減ったラットは、屠殺する。
【0088】
約200gの糖尿病ラットを創傷誘導の24時間前に肩甲間部から毛を除去した。ラットを麻酔して、COレーザーを使用して熱傷を誘導し(ビーム・スポット径を10mmにセットして、それぞれ25ワットのパワー、0.5秒パルスで4回連続して刺激する)、2cmの環状創傷領域を生じさせる。12匹のラット群を生理食塩水、クエン酸(5%)、又はスピノサド(0.5%の5%クエン酸溶液)で処置する。処置は、創傷誘導から5日間に亘って、1日2回、創傷の反対側に100μlの2回の皮内注射によって行う。瘡蓋及び軽く接着している痂皮は、見つけ次第穏やかに取り除いて、相当する全ての創傷を保持して、創傷領域の正確な追跡ができるようにする。創傷は、創傷閉鎖が生じるまで(表6)、上記のとおりに測定する(実施例3a)。
【0089】
【表6】

【0090】
スピノサドで局所的に処置した糖尿病ラットは、創傷領域が減少したことから分かるように、創傷誘導後3日目には、生理食塩水対照と比較して創傷治癒が改善した。創傷の大きさは、スピノサド処置ラットにおいてより急速に収縮し、生理食塩水で処置した対照によりも13、4日早く創傷が治癒する。
【0091】
c)高齢の(治癒障害)ラットにおけるレーザーで誘導した創傷治癒に対するスピノサドの効果
異種交配した雄SDラット(24月齢、約600g)について創傷誘導の24時間前に肩甲間部から毛を除去した。ラットを麻酔して、COレーザーを使用して熱傷を誘導し(ビーム・スポット径を10mmにセットして、それぞれ25ワットのパワー、0.5秒パルスで4回連続して刺激する、2cmの環状創傷領域を生じさせる。12匹のラット群を生理食塩水、クエン酸(5%)、又はスピノサド(0.5%の5%クエン酸溶液)で処置する。処置は、創傷誘導から5日間に亘って、1日2回、創傷の反対側に100μlの2回の皮内注射によって行う。瘡蓋及び軽く接着している痂皮は、見つけ次第穏やかに取り除いて、相当する全ての創傷を保持して、創傷領域の正確な追跡ができるようにする。創傷は、創傷閉鎖が生じるまで(表7)、上記のとおりに測定する(実施例3a)。
【0092】
【表7】

【0093】
スピノサドで局所的に処置した高齢ラットは、創傷領域が減少したことから分かるように、創傷誘導後3日目には、生理食塩水対照と比較して創傷治癒を改善した。創傷の大きさは、スピノサド処置ラットにおいてより急速に収縮し、6日目までの間、生理食塩水で処置したラットにおいては創傷の大きさが増大する。スピノサドで処置したラットでは、生理食塩水対照と比較して、創傷サイズが減少し続け、生理食塩水で処置した対照よりも13、4日早く創傷が治癒する。
【0094】
スピノサドは、局所適用されたか皮内適用されたかに関わらず、創傷治癒の速度を改善する。
【0095】
スピノサドは、慢性感覚神経欠損を有する高齢ラットにおける創傷治癒を改善する。このようなデータは、スピノサドが感覚神経依存的及び非依存的なメカニズムを経て創傷治癒を増強し得ることを示唆している。したがって、スピノサドは、老化と関連する慢性潰瘍形成を治癒し得る。
【0096】
スピノサドは、感覚神経欠損のもう一つの形態である誘導型糖尿病であるラットにおける創傷治癒を改善する。このデータは、スピノサドの創傷治癒特性が、感覚神経依存的及び非依存的な経路を経て調整し得ることをも示唆している。したがって、スピノサドは、慢性潰瘍形成及び糖尿病患者における不十分な治癒に関連するその他の創傷をも治癒し得る。
【0097】
スピノサドは、感覚神経が正常である正常な若い健康なラットにおける治癒を改善する。このような知見は、スピノサドが感覚神経非依存的なメカニズムを介して作動し得ること、又は感覚神経の機能を増強し得ることを示唆している。したがって、スピノサドは、傷害又は手術で生じるものなどの健康なヒト患者における創傷をも増強し得る。
【0098】
実施例3の結果は、スピノサドが多数のメカニズムを経て創傷治癒を刺激し得ること、治癒障害及び正常なヒトの両方の治癒に有効であろうことを示す。
【0099】
糖尿病及び高齢ラットは、一般に健康な若者ラットと比較して(表5)、損傷に対して何らかの有意な反応を起こす前に遅滞期が存在する(表6および7)。この遅滞期は、糖尿病(Gibran et al., J. Surg. Res. 108: 122:128 (2002))及び高齢(Khalil & Helme, J. Gerontol. Biol. Sci. 51A(5): B354−B361 (1996))ラットの求心感覚神経の活性の一般的減退に起因しており、創傷治癒の炎症期に明らかとなる。スピノサドが糖尿病ラットにおいて創傷治癒効果を生じるのは、局所的に求心感覚神経を刺激するか、又は求心感覚神経活性化に非依存的なメカニズムから独立したメカニズムを利用するためかもしれない。
【0100】
スピノサドの効果は、感覚神経が正常な対照動物においてより明白である(表5)。この効果は、初期の炎症期(2〜5日)、増殖期(2〜6日)の初期の要素において特に明らかであり、増殖期(6〜8日)及び再形成期(9〜12日)の後期の要素においてはさらに有利な効果がある。
【0101】
また、スピノサドは、細胞浸潤及び増殖を含む傷の修復の再形成期にも効果を有するように見える。皮膚は、このフェーズの間にコラーゲン及び基質タンパク質を産生することによって傷害に反応し、これにより創傷が収縮及び回復する。したがって、スピノサドは、サイトカイン、ケモカイン、その他の細胞シグナル物質などの、細胞浸潤及び活性化に影響を及ぼすメディエーターに対して効果を有し得るし、創傷部位におけるマトリックスの産生及び皮膚の再形成を直接増強し得る。
【0102】
実施例3は、スピノサドが治癒の3フェーズの全体亘って創傷治癒を改善することを示している。実施例3のデータは、スピノサドが手術又は火傷によって誘導される創傷治癒を助けるという実施例1及び2の結果を確認するものである。スピノサドは、2つの種における創傷治癒を増強した。
【0103】
<実施例4>神経原性炎症の疱疹モデルを用いたラットにおける創傷治癒を増強する際のスピノサドの作用様式の研究
a)血流に対するスピノサド用量の効果
神経原性炎症反応は、十分に確立された方法を使用して評価する(Khalil & Helme, Brain Res. 500: 256−262 (1989))。非近交系雄SDラットにペントバルビトンナトリウム(60mg/kgのi.p)で麻酔を誘導する。15mg/kgの補充注射によって全身麻酔を維持する。この麻酔方法は、末梢の微小血管系における基底血管拡張反応に影響を与えないことが示されている(Khalil & Helme, Brain Res. 500: 256−262 (1989))。ヘパリン/食塩水又は薬物の静脈内投与のために、左頚静脈をポリエチレン管でカニューレ処置する。体温は、37℃に維持する。実験の終了時に、動物をバルビツレートの過剰投与によって屠殺する。
【0104】
疱疹は、40℃に加熱した金属吸引キャップを経て適用される−40kPaの真空加圧を30分間使用して、麻酔したラットの後足の中間域に誘導する。一旦疱疹が確立されたら、表皮(表面上皮)を除去し、吸排気口をもつパースペックスチャンバで疱疹基礎上を圧迫するリンゲル液を、疱疹表面を通して灌流し、ベースライン測定を確立するために4ml/時間にてペリスタル型ポンプによって維持する。相対的血流は、疱疹基礎の直ぐ上に配置したプローブを経てレーザー・ドップラー流量計によって全時間に亘ってモニターし、相対的血流(ボルト)をチャートレコーダで連続的にモニターする。
【0105】
スピノサドを、5%クエン酸のリンゲル液溶液に希釈し、30分間、疱疹基礎を通して灌流する。
【0106】
【表8】

【0107】
疱疹創傷全体に灌流したスピノサドは、0.5%の濃度にて、反応の大きさ及び反応の期間に関して、血流に対して最も大きな効果を示す。0.05%のスピノサドの溶液では、0.5%のスピノサドと比較して反応の大きさが減少するが、血流に対して有利な効果を有する。5%の濃度のスピノサドでは、0.5%のスピノサドで得られた反応と比較して、中間の反応を生じ、期間及びピークの大きさが減少する。0.5%のスピノサドで見られる反応の大きさが維持されたことは、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)神経経路との相互作用を示唆するが、その一方で、より高い濃度のスピノサドで見られる脱感作は、サブスタンスPを媒介した経路と関連していることが多い。これらのデータは、スピノサドが創傷治癒のために必須な血流に対して有利な効果を有することを示す。この作用は、血管に対する直接作用のため、又は血管の反応を次々に媒介する感覚神経からのCGRP及びサブスタンスPなどのペプチドの放出を介している可能性がある。
【0108】
b)0.5%のスピノサドに対するラットの血管反応に対する感覚神経ペプチドアンタゴニスト及び一酸化窒素合成酵素阻害剤の効果
神経原性炎症反応は、十分に確立された方法を使用して評価する(Khalil & Helme, Brain Res. 527: 292−298 (1990))。非近交系雄SDラットにペントバルビトンナトリウム(60mg/kgのi.p)で麻酔を誘導する。全身麻酔は、15mg/kgの補充注射によって維持する。この麻酔方法は、末梢の微小血管系における基底血管拡張反応に影響しないことが示されている(Khalil & Helme, Brain Res. 500: 256−262 (1989))。ヘパリン/食塩水又は薬物の静脈内投与のために、左頚静脈をポリエチレン管でカニューレ処置する。体温は、37℃に維持する。実験の終了時に、動物をバルビツレートの過剰投与によって屠殺する。
【0109】
疱疹は、40℃に加熱した金属吸引キャップを経て適用される−40kPaの真空加圧を30分間使用して、麻酔したラットの後足の中間域に誘導する。一旦疱疹が確立されたら、表皮(表面上皮)を除去し、吸排気口をもつパースペックスチャンバで疱疹基礎上を圧迫するリンゲル液を、疱疹表面を通して灌流し、ベースライン測定を確立するために4ml/時間にてペリスタル型ポンプによって維持する。相対的血流は、疱疹基礎の直ぐ上に配置したプローブを経てレーザー・ドップラー流量計によって全時間に亘ってモニターし、相対的血流(ボルト)をチャートレコーダで連続的にモニターする。
【0110】
スピノサドを、5%クエン酸のリンゲル液溶液に希釈し、30分間、疱疹基礎を通して灌流する。それぞれのラットの一方の足蹠に0.5%のスピノサドを灌流し、その一方で、それぞれのラットの他方の足蹠には、最初に10分間アンタゴニスト又は阻害剤を灌流し、続いて0.5%のスピノサドを30分間同時灌流する。CGRP8−37(CGRPアンタゴニスト;Auspep、VIC、Australia)を1μMにて灌流し、N−ニトロ L−アルギニンメチルエステル(L−NAME、内皮一酸化窒素シンターゼ阻害剤;Cayman Chemical Co., MI, USA)を100μMにて灌流し、スパンチドIIサブスタンスPアンタゴニストII;Auspep、VIC、Australia)を10μMにて灌流する。
【0111】
【表9】

【0112】
CGRP及びSPペプチドアンタゴニスト及びNOS阻害剤の存在下では、スピノサド刺激に応答して血流が減少する(表9)。これらのデータは、血管の血流に対するスピノサドの効果が、CGRP、サブスタンスP、及び一酸化窒素経路を介して媒介されていることを示している。スピノサドの効果に対するCGRP、サブスタンスP、及びeNOの寄与は、それぞれ27%、34%、及び24%である(表9)。CGRPアンタゴニストの存在下における血管の反応プロフィールは、灌流の全体に亘って同様の大きさ反応を有し、CGRPによるスピノサドの効果の媒介が、全時間に亘って一定であることを示唆する。サブスタンスPアンタゴニスト(スパンチド)又はeNOS阻害剤(L−NAME)の存在下における血管の反応プロフィールは、反応が時間とともに減少することを示す。これは、サブスタンスP及びeNOSが、反応の後期段階の間に、スピノサドの効果の媒介よりも多大に関与することを示唆する。
【0113】
これらのデータは、まとめると、血流に対するスピノサドの効果は、感覚神経ペプチドサブスタンスP及びCGRPを媒介し、内皮一酸化窒素を媒介することを示す。このプロセスにおけるeNOの関与は、スピノサドが血管内皮に対して直接、並びに創傷における血管の感覚神経支配を介して作用しているかもしれないことを示唆する。さらにまた、スピノサドの効果は、長期間に亘り、異なる反応段階にて異なるエフェクターを介して媒介される。このような知見は、熱障害モデル(実施例3)、特に治癒障害の(高齢又は糖尿病)ラットにおける創傷の初期の回復における、スピノサド処置ラットと対照ラットとの間の創傷治癒プロフィールの相違を説明し得る。神経ペプチド阻害剤及びアンタゴニストが血流に対するスピノサドの作用を阻害する能力は、スピノサドの初期の創傷治癒特性が、感覚神経経路を介して作用し、神経ペプチドの組み合わせを含むことを示唆する。このような活性は、主に感覚神経活性によって開始される創傷治癒プロセスの初期の炎症段階を増強する(Steinhoff et al., Arch. Dermatol. 139: 1479−1488 (2003))。実際に、実施例3からのデータは、正常な若いラット及び治癒障害のラットにおいて、創傷の収縮に対するスピノサドの効果が、治癒の最初の5日間に明白であることを示している。
【0114】
c)急性炎症の初期及び後期のフェーズにおける血管反応に対するスピノサドの効果
神経原性炎症反応は、十分に確立された方法を使用して評価する(Khalil & Helme, Brain Res. 527: 292−298 (1990))。非近交系雄SDラットにペントバルビトンナトリウム(60mg/kgのi.p)で麻酔を誘導する。全身麻酔は、15mg/kgの補充注射によって維持する。この麻酔方法は、末梢の微小血管系における基底血管拡張反応に影響しないことが示されている(Khalil & Helme, Brain Res. 500: 256−262 (1989))。ヘパリン/食塩水又は薬物の静脈内投与のために、左頚静脈をポリエチレン管でカニューレ処置する。体温は、37℃に維持する。実験の終了時に、動物をバルビツレートの過剰投与によって屠殺する。
【0115】
疱疹は、40℃に加熱した金属吸引キャップを経て適用される−40kPaの真空加圧を30分間使用して、麻酔したラットの後足の中間域に誘導する。一旦疱疹が確立されたら、表皮(表面上皮)を除去し、吸排気口をもつパースペックスチャンバで疱疹基礎上を圧迫するリンゲル液を、疱疹表面を通して灌流し、ベースライン測定を確立するために4ml/時間にてペリスタル型ポンプによって維持する。相対的血流は、疱疹基礎の直ぐ上に配置したプローブを経てレーザー・ドップラー流量計によって全時間に亘ってモニターし、相対的血流(ボルト)をチャートレコーダで連続的にモニターする。
【0116】
スピノサドを、5%クエン酸のリンゲル液溶液に希釈し、30分間、疱疹基礎を通して灌流する。それぞれのラットの一方の足蹠の疱疹には、すぐにスピノサドを灌流し(初期フェーズ)、その一方で、それぞれのラットの他方の足蹠の疱疹には、疱疹誘導の5時間後に灌流する(遅延フェーズ)。
【0117】
【表10】

【0118】
神経原性エフェクターは、主に炎症反応の初期フェーズに含まれ、その一方で、炎症反応の遅延フェーズには、好中球及び単球などの免疫系の成分を含む。スピノサドが炎症反応の初期及び後期においてほぼ同等の効果を有することから(表10)、スピノサドは、炎症(の神経原性メディエーターに対して作用するだけでなく実施例4bにも示してある)、炎症反応の免疫学的メディエーターに対しても有意な効果を有することを示唆する。この結果は、創傷治癒の増殖期〜再形成期の間(6〜12日)の細胞の動員及び活性化における免疫メディエーターが関与するためであることを意味する。実施例3において上記したように、創傷治癒に対するスピノサドの効果は、炎症期、増殖期、及び再形成期において見られる。現在の実施例のデータは、スピノサドが神経原性及び免疫学的経路を刺激してその創傷治癒効果を媒介するという証拠を提供するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組織の増殖又は再生を必要としている哺乳類の疾病又は疾患の治療用製剤を製造するための治療有効量のスピノシン又はその塩の使用。
【請求項2】
前記スピノシンがスピノサド又はその生理学的に許容される塩である、請求項1記載の使用。
【請求項3】
前記スピノシンが局所投与される、請求項1記載の使用。
【請求項4】
前記スピノシンが経口投与される、請求項1記載の使用。
【請求項5】
前記スピノシンが非経口投与される、請求項1記載の使用。
【請求項6】
前記哺乳類がヒツジである、請求項1記載の使用。
【請求項7】
前記哺乳類がヒトである、請求項1記載の使用。
【請求項8】
組織の増殖又は再生を必要としている哺乳類の疾病又は疾患の治療用の経口用製剤を製造するための治療有効量のスピノシン又はその塩の使用。
【請求項9】
前記スピノシンがスピノサド又はその生理学的に許容される塩である、請求項8記載の使用。
【請求項10】
前記哺乳類がヒツジである、請求項8記載の使用。
【請求項11】
前記哺乳類がヒトである、請求項8記載の使用。

【公開番号】特開2011−256177(P2011−256177A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−151165(P2011−151165)
【出願日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【分割の表示】特願2007−510666(P2007−510666)の分割
【原出願日】平成16年4月29日(2004.4.29)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(594197872)イーライ リリー アンド カンパニー (301)
【Fターム(参考)】