説明

創傷治癒のためのマトリックスタンパク質組成物

【課題】活性エナメル物質を使用し、創傷治癒、創傷治癒の向上、軟組織の再生または修復、あるいは炎症の感染の予防または治療のための、薬学的組成物または化粧用組成物の提供。
【解決手段】創傷治癒のための薬学的組成物または化粧用組成物を調製するための活性エナメル物質の調製品の使用。活性エナメル物質が、エナメルマトリックス、エナメルマトリックス誘導体、及び/またはエナメルマトリックスタンパク質である、調製品の使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、治療剤又は予防剤としての、エナメルマトリックス、エナメルマトリックス誘導体、及び/又はエナメルマトリックスタンパク質の使用に関する。該物質は創傷治癒剤、抗菌剤及び/又は抗炎症剤として活性である。
【背景技術】
【0002】
エナメルマトリックス中に存在するようなエナメルマトリックスタンパク質は、エナメルの前駆体として非常によく知られている。特許に、エナメルタンパク質及びエナメルマトリックス誘導体が、硬組織の形成(すなわちエナメル形成、米国特許第4,672,032号、Slavkin ; 特許文献1)、または硬組織間結合(EP-B-O 337 967 ; 特許文献2 及び EP-B-O 263 086 ; 特許文献3)を促進するために記載されている。従って、先行技術は、硬細胞の再生のみに集中し、一方、本発明は、予期しなかった発見である軟組織創傷治癒、及び抗菌、及び抗炎症作用における有益な作用を扱っている。
【特許文献1】米国特許第4,672,032号、Slavkin
【特許文献2】EP-B-O 337 967
【特許文献3】EP-B-O 263 086
【発明の開示】
【0003】
本発明は、エナメルマトリックス、エナメルマトリックス誘導体、及び/又はエナメルマトリックスタンパク質(以降、「活性エナメル物質」という用語も、エナメルマトリックス、エナメルマトリックス誘導体、またはエナメルマトリックスタンパク質として使用する)は、皮膚や粘膜、筋肉、血液、リンパ、血管、神経組織、腺、腱、目、軟骨を含む、コラーゲンまたは上皮含有組織のような軟組織内(すなわち非鉱化組織)の創傷の治癒を向上または改善させるために有効な物質である。実験の節で示すように、エナメルマトリックス、エナメルマトリックス誘導体、及び/又はエナメルマトリックスタンパク質は、軟組織の治癒または予防において特に有効な作用を及ぼす。
【0004】
また、本発明は、i)創傷治癒のため、ii)創傷治癒の向上のため、及び/又はiii)軟組織再生、及び/又は修復のための、薬学的組成物または化粧用組成物を調製するための活性なエナメル物質の調製品の使用に関する。
【0005】
また別の局面では、本発明は創傷治癒の向上または軟組織再生、及び/又は修復を促進する方法で、それらを必要とする個体への、薬学的または予防的な有効量の活性エナメル物質の投与を含む方法に関する。
【0006】
さらにエナメルマトリックス、エナメルマトリックス誘導体、及びエナメルマトリックスタンパク質は、軟細胞及び硬(すなわち鉱化された)細胞の両条件での治療に使用できる、抗菌性及び/又は抗炎症性特徴を有することが見い出された。
【0007】
本発明は、また別の局面で、感染または炎症状態の予防及び/又は治療のための薬学的組成物調製のための活性エナメル物質調製品の使用に関する。
【0008】
創傷治癒
創傷及び/又は潰瘍は通常、皮膚からの、または粘膜表面での、または器官内の梗塞(「発作」)の結果として、突き出ている状態で発見される。創傷は軟組織の欠陥または損傷の結果、または潜在的な状態の結果である可能性がある。実験的に引き起こされた歯周創傷の再生は以前に本発明者らにより記述され、本発明の範囲内であることは意図されない。本発明の明細書においては「皮膚」という用語は、ヒトを含む動物の身体の最も外側の表面に関し、無傷なまたはほぼ無傷な皮膚、及び損傷した皮膚表面を含有する。「粘膜」という用語は、ヒトのような動物の、無傷の、または損傷を受けた粘膜に関し、口、頬側、耳性、鼻側、肺、目、胃腸、膣または直腸の粘膜である可能性がある。
【0009】
本明細書においては、「創傷」という用語は正常で完全な組織構造の崩壊による、身体の損傷を意味する。この用語には「びらん(sore)」、「損傷(lesion)」、「壊死(necrosis)」、または「潰瘍(ulcer)」という用語が含まれるものとする。通常、びらん(sore)という用語は、皮膚及び粘膜のほぼ全ての損傷を意味する一般的な用語であり、潰瘍(ulcer)という用語は、器官または組織表面の局所的な欠陥または掘削であり、壊死組織の脱却により形成される。損傷は一般的にあらゆる組織の欠陥に関する。壊死は感染、損傷、炎症または梗塞により生じた死滅細胞に関する。
【0010】
本明細書において使用される「創傷」という用語は、あらゆる創傷(次の創傷の分類を参照)で、治癒開始以前の、または外科切開(予防的治療)のような特異的な創傷が形成される以前の段階でさえも含む治癒過程のあらゆる特殊な段階での創傷を意味する。
【0011】
本発明に従い予防または治療される創傷の例には、例えば、非感染創、挫傷、切創、裂創、非穿通創(すなわち皮膚の崩壊はないが、隠れた構造物への損傷がある創傷)、開放創、穿通創、穿孔創、刺創、膿創、皮下創等がある。びらんの例には、とこずれ、口角びらん、クロム潰瘍、単純疱疹(cold sore)、褥創等がある。潰瘍の例には、例えば、消化潰瘍、十二指腸潰瘍、胃潰瘍、痛風潰瘍、糖尿病潰瘍、高血圧虚血性潰瘍、うっ滞潰瘍、静脈潰瘍、舌下潰瘍、粘膜下潰瘍、症候性潰瘍、栄養性潰瘍、熱帯潰瘍、例えば淋病により引き起こされる性潰瘍(尿道炎、子宮頚内膜炎及び直腸炎を含む)がある。本発明に従い治療が成功する可能性のある創傷またはびらんに関する状態には、熱傷、炭疽、破傷風、ガス壊疽、スカラティーナ(scalatina)、丹毒、鬚毛瘡、毛包炎、伝染性膿痂疹、あるいは水泡性インペチゴ等がある。「創傷」及び「潰瘍」また、「創傷」及び「びらん」の用語間の使用では、しばしばある重なりが見られ、さらに、これらの用語はしばしば無作為に使用される。従って上記の通り、本明細書においては、「創傷」という用語は、「潰瘍」、「損傷」、「びらん」、及び「梗塞」という用語を含み、これらの用語は特に示されない限りは、無差別に使用される。
【0012】
本発明に従い治療される創傷の種類は、i)外科性、外傷性、感染性、虚血性、熱性、化学性及び水疱性創傷のような一般的創傷、ii)例えば摘出後損傷、特に腫瘍及び膿瘍の治療に伴う歯内治療創傷、細菌、ウィルス、または自己免疫由来の潰瘍及び損傷、物理性、化学性、熱性、感染性及び苔癬様創傷で、ヘルペス潰瘍、アフタ性口内炎、急性壊死性潰瘍性歯肉炎及びバーニングマウス症候群(burning mouse syndrome)が特異的な例である口腔内特異的損傷、iii)腫瘍、熱傷(例えば化学性、熱性)、損傷(細菌性、ウイルス性、自己免疫性)、咬傷及び外科切開などの様な皮膚上の損傷を含む。別の創傷分類方法は、i)外科切開、軽度の剥離、軽度の咬傷による小組織喪失、またはii)重大な組織損失がある。後者の群は虚血性潰瘍、とこずれ、瘻、破裂、重度の咬傷、熱性熱傷、及びドナー側損傷(軟組織及び硬組織内)及び梗塞を含む。
【0013】
活性エナメル物質の治癒効果は口腔に存在する創傷に関して興味深いことが見出された。このような創傷は、歯周手術、抜歯、歯内治療、歯移植組織の挿入、義歯の添加と使用等に関連した身体的損傷または外傷である可能性がある。実験の節で、活性エナメル物質のこのような損傷への有益な作用が示されている。さらに、軟細胞治癒効果も観察された。
【0014】
アフタ性創傷のような口腔損傷の治癒において、外傷創傷、またはヘルペス関連創傷もまた、活性エナメル物質の使用後向上する。外傷創傷、またはヘルペス関連創傷はもちろん口腔以外の身体の他の部分にも位置する。
【0015】
本発明の別の局面で、予防、及び/または、治療する創傷は、非感染創、梗塞、挫傷、切創、裂創、非穿通創、開放創、穿通創、穿孔創、刺創、膿創、皮下創から成る群より選択される。
【0016】
本発明の関連する重要な他の損傷は、虚血潰瘍、とこずれ、瘻、重度の咬傷、熱性熱傷、及びドナ−側創傷のような創傷である。
【0017】
虚血潰瘍及びとこずれは、通常非常に緩慢にしか治癒せず、より改良されより迅速な治癒が当然患者に重要であるような場合には特に緩慢にしか治癒しない。さらに、治癒が改良され、より迅速に起る場合、このような創傷を患う患者の治療に関するコストが大きく軽減される。
【0018】
ドナー側損傷は、例えば移植に関連して、身体の一つの場所から別の場所への硬細胞の移動に関連して例えば起る創傷である。このような操作の結果おこる創傷は非常に苦痛で、従って治癒の向上は非常に価値がある。
【0019】
「皮膚」という用語は、皮膚の上皮層を、また、皮膚表面が少なからず損傷している場合には皮膚の真皮層を含む非常に広い意味において使用される。表皮角質層は別として、皮膚の上皮層は外(上皮)層で、皮膚の深層の結合組織層は真皮と呼ばれる。
【0020】
皮膚は身体の最も露出された部分であるので、例えば破裂、切り傷、剥離、熱傷、凍瘡、または種々の疾病から派生する損傷などのような様々な種の損傷に特に罹患しやすい。さらに、皮膚の多くが事故で破壊される。しかしながら、皮膚の重要なバリア、及び生理機能のため、完全な皮膚は個体の安寧にとり重要で、いかなる裂け目や破裂も、その存在の存続を守るために身体が遭遇しなければならない脅威となる。
【0021】
皮膚上の損傷は別として、損傷は全種類の皮膚(すなわち軟組織及び硬組織)に存在する。粘膜、及びまたは皮膚を含む軟組織上の損傷は、本発明に関して非常に重要である。
【0022】
皮膚上または粘膜上の創傷の治癒は、皮膚または粘膜の修復または再生のいずれかにつながる一連の段階を経る。近年、再生及び修復は、おこる可能性のある二種類の治癒として区別されている。再生は、失われた組織の構造及び機能が完全に新しくなる生物学的過程として定義される。一方、修復は失われた組織の構造及び機能を複製しない新しい組織で、崩壊組織の連続性が修復される生物学的過程である。創傷の大部分は修復により治癒し、形成された新しい組織は構造的また化学的に元来の組織とは異なる(瘢痕組織)ことを意味する。組織修復の初期段階では、ほぼ常時関連する過程に、組織損傷の一帯での一過性結合組織の形成がある。この過程は線維芽細胞による新たな細胞外コラーゲンマトリックスの形成で開始する。この新たなコラーゲンマトリックスはその後、最終治癒過程の間、結合組織の支持体となる。ほとんどの組織で、最終治癒は、結合組織を含む瘢痕組織の形成である。例えば皮膚及び骨のような再生可能な特性を有する組織では、最終治癒は元来の組織の再生を含む。この再生組織はまたしばしば、例えば、治癒した骨折のシックニングのような、いくつかの瘢痕的特徴を有する。
【0023】
通常の状況下で、身体は、完全な皮膚または粘膜のバリアを取り戻すために、傷ついた皮膚または粘膜を治癒させるメカニズムを供給する。軽度の破裂や創傷の修復過程でさえ数時間及び数日間から数週間に渡る期間を費やすかもしれない。しかしながら、潰瘍化においては、治癒は非常に緩慢で、損傷は長期に渡る期間、つまり、数カ月間から数年間も存続することもある。
【0024】
創傷治癒の段階は通常、炎症(通常1〜3日)、移動(通常1〜6日)、増殖(通常3〜24日)及び成熟(通常1〜12ヶ月)を有する。治癒過程は、様々なタイプ細胞の移動、増殖、分化、及びマトリックス組成物の合成を伴う、複雑でよく編成された生理学的過程である。治癒過程は次の三つの過程に分けることができる。
【0025】
i)止血及び炎症
血小板が循環系の外側に存在し、トロンビン及びコラーゲンに曝されると、活性化され凝集する。従って、血小板は凝集し、一時的な栓を形成して修復過程を開始し、止血を確かなものとし、細菌の侵略を防ぐ。活性化された血小板は凝固系を開始し、血小板由来増殖因子(PDGF)や上皮増殖因子(EGF)またトランスフォーミング増殖因子(TGF)のような増殖因子を放出する。
【0026】
創傷部位を侵略する最初の細胞は好中球で、マクロファージに活性化される単球が続く。
【0027】
好中球の主な役割は、汚染細菌から創傷を洗浄、防御し、死滅細胞及び血小板を除去して創傷治癒を向上させることであると考えられる。創傷内に細菌性汚染がないとすると、好中球の湿潤は最初の約48時間以内に終わる。過剰な好中球は血液派生単球の循環プールから補充された組織マクロファージに貪食される。マクロファージは効果的な創傷治癒に不可欠であり、創傷治癒において病原性生物の貪食および細胞残骸の清浄を引き起こすと考えられる。さらにマクロファージは、その後の治癒過程の事象に関連する多くの因子を放出する。マクロファージは、コラーゲンの産生を開始する線維芽細胞を引き付ける。
【0028】
ii)顆粒化細胞の形成及び再上皮化
創傷形成の48時間以内に線維芽細胞が増殖し、創傷の先端の結合細胞から創傷空間へ移動し始める。線維芽細胞はコラーゲン及びグリコサミノグリカンを生産し、とりわけ創傷部の低酸素圧は上皮細胞の増殖を刺激する。上皮細胞は新たな毛細管網の形成を引き起こす。
【0029】
コラゲナーゼ及びプラスミノーゲンアクチベーターは表皮ケラチン細胞から分泌される。もし、創傷が乱されないままで、酸素及び栄養が十分に与えられるなら、表皮ケラチン細胞は創傷上を移動する。表皮ケラチン細胞は生組織上のみを移動すると考えられ、従って、表皮ケラチン細胞は死滅細胞及び創傷の痂皮より下部へ移動する。
【0030】
創傷面積は収縮によりさらに減少する。
【0031】
iii)皮膚再モデリング
再上皮化が完了するやいなや、組織の再モデリングが開始する。この段階は、数年間続き、創傷組織の強度を回復する。全ての上記の治癒過程は相当な時間を費やす。治癒率は、創傷の非感染度、個体の一般的な健康状態、外来の体部の存在等の影響を受ける。感染、浸解、脱水、一般的に不良な健康状態及び栄養不良のような幾つかの病理的状態は、例えば虚血性潰瘍のような慢性潰瘍の形成につながる。
【0032】
少なくとも表面の治癒が起るまで、創傷は継続するか、または新たな感染の危険に曝されたままである。従って、創傷の治癒が迅速であればあるほど、危険がより早期に排除される。
【0033】
従って創傷治癒率に影響を及ぼす、好ましくは、創傷治癒に影響を及ぼす全ての方法は価値が高い。
【0034】
さらにほぼ全ての組織修復過程は早期の結合組織形成を含むので、この過程及びそれに続く過程への刺激は、創傷治癒を向上させることが予想される。
【0035】
本明細書においては、「臨床的治癒」という用語は組織の中断が観察されず、明るい赤みや不連続な膨張組織などの不連続な炎症の兆候が存在する状態を意味する。さらに、その器官が弛緩している、または接触していない場合には、痛みは訴えられない。
【0036】
上記のように、本発明は、創傷治癒剤、すなわち、皮膚または粘膜創傷の治癒を早める、刺激する、または促進する薬剤としての、エナメルマトリックス、エナメルマトリックス誘導体、及び/または、エナメルマトリックスタンパク質の使用に関する。従って、重要な使用は組織再生剤、及び/または修復剤としての使用でもある。さらに創傷治癒作用により、エナメルマトリックス、エナメルマトリックス誘導体、及び/または、エナメルマトリックスタンパク質は沈痛作用を有する。
【0037】
従来、乾燥包帯、または湿性−乾燥包帯(wet-to-dry dressing)が、創傷の手当てに非常に一般的に使用されてきた。これらは次第に、閉鎖包帯を用いる湿潤環境にとって代わられている。欠陥のある身体の一部をうまく修復または交換するために、創傷治癒、線維症、及び微生物侵略の過程はお互いにバランスがとられなければならない。感染を防ぐ入手可能な道具の多くは創傷治癒については妥協する。創傷治癒遅滞や炎症は線維症を再燃させる可能性がある。さらに、上皮増殖因子(EGF)、トランスフォーミング増殖因子α(TGFα)、血小板由来増殖因子(PDGF)、酸性線維芽細胞増殖因子(α-FGF)及びアルカリ性線維芽細胞増殖因子(β-FGF)を含む線維芽細胞増殖因子(FGF)、トランスフォーミング増殖因子β(TGFβ)、インスリン様増殖因子(IGF-1及びIGF-2)のような増殖因子は、創傷治癒過程を指揮し、しばしば創傷治癒促進因子として引用されるが、実際かえって創傷の成功を損なう線維症を促進させることが、以前に示唆された。加速した治癒は、瘢痕形成につながる感染とその結果おこる炎症の危険を軽減することを最も確実に保証するが、正常な創傷治癒過程を加速させる治療の試みは相対的にほとんど成功していない。これは、おそらく修復過程が、多くの因子の協調関係を有するためであると考えられる。上記参照。
【0038】
このため、本発明者らは線維芽細胞の様々な細胞培養物(胚の、皮膚の、歯周軟骨、魚類、鳥類から派生した)において、培地から得られた検体内を例えばELISAで解析した場合、EMDOGAIN(登録商標)で刺激した培養細胞では、刺激しなかった培養細胞に比べ、二倍のTGFβ1が産生されることを観察した(下記実施例1参照)。培養24時間後に該増加がみられたが、その後の数日(2日目と3日目)により顕著であった。2日目の後、細胞増殖は、EMDOGAIN(登録商標)で刺激した細胞培養物で増加した。同様なしかしそれほど顕著ではないTGFβ1産生の増加がヒト上皮細胞で観察される。TGFβ1は創傷表面の上皮化において最も重要であると考えられるため、これらの所見は本発明の概念を支持するものである。
【0039】
口腔内での包帯の使用は一般的である。このようは包帯は、たとえば、止血のためのサージパッドや開放創上のCoe-Pack歯周包帯(Coe Laboratories、the Group、Chicago、USA)等の従来のタイプで、抗生物質溶液内に浸したガーゼ(Gaze)を抜歯した歯槽内に挿入し、治癒が開始する2〜3日後に除去することが必要である。口腔手術後はクロルヘキシジンのような防腐薬での消毒が通常なされる。一般的または局所的な抗生物質が処方されることもある。
【0040】
一般的に創傷の治療に関連して、例えば、無菌についての注意、汚染の問題、包帯/包帯剤の正しい使用等の治療/使用が、十分な教育をうけた看護婦等により行われることが必要とされる、特定の予防措置を考慮しなければならない。従って、創傷治癒剤が1日に数回使用されるものである場合、創傷治療はしばしば非常に高額となる。従って、使用回数が減少する場合または、治癒過程が向上し、創傷治癒に要する期間が短縮される場合には、創傷治癒治療に関するコストの望ましい減少が得られる。
【0041】
本発明者らはエナメルマトリックス、エナメルマトリックス誘導体、及び/または、エナメルマトリックスタンパク質が創傷治癒の特性を有することを見出した。さらに、エナメルマトリックス、エナメルマトリックス誘導体、及び/またはエナメルマトリックスタンパク質の使用は創傷治癒を向上させることが示唆された。特に、本発明者らはエナメルマトリックス誘導体、及び/またはエナメルマトリックスタンパク質の使用後、炎症段階が短期化し、熱っぽさ、赤み、浮腫や痛みのような特徴的兆候が目立たなくなり、新たな組織がより迅速に形成されることを観察した。観察された創傷治癒の期間(例えば手術後)は、エナメルマトリックス、エナメルマトリックス誘導体、及び/またはエナメルマトリックスタンパク質を使用しない場合の手術に比べ、有意に短くなった。
【0042】
エナメルマトリックス、エナメルマトリックス誘導体、及び/またはエナメルマトリックスタンパク質の治療、及び/または、予防効果は、当然、実験動物またはヒトを用いたインビボでの試験(実験の節参照)により証明される可能性がある。しかし、エナメルマトリックス、エナメルマトリックス誘導体、及び/または、エナメルマトリックスタンパク質の効能と効果は、例えば、細胞培養を含む試験のような比較的簡便なインビボでの試験を実施して得ることができる。
【0043】
さらに、創傷治癒作用を評価するために使用できるいくつかのパラメーターがある。これらには以下のパラメーターが含まれる:
−計算機援用面積計(開放創治癒率の評価)
−レーザードップラーイメージング(創傷灌流の評価)
−表面張力計(創傷の強度評価)
−組織病理学/細胞学(創傷組織及び流体の顕微鏡評価)
−生化学(HPLC/RIA)(様々な薬剤と組織治癒の生化学的構成要素の評価)
−電子診断(創傷治癒と神経支配との関係の評価)
−シンチグラフィー(創傷組織の放射性核種イメージング)。
【0044】
創傷/潰瘍の治療に関連して、挫滅壊死細胞除去及び清浄が特に重要である。創傷/潰瘍の清浄、及び/または挫滅壊死細胞除去は治癒過程の必要条件であり、さらに、創傷治癒剤を使用する場合、このような薬剤は、死滅組織または汚染された組織ではなく新鮮で生きている細胞へ作用を働かせなけらばならない。壊死組織の挫滅壊死細胞除去は少なくとも4つの異なった方法:i)鋭利挫滅壊死組織切除(sharp debridement)、ii)物理的挫滅壊死組織切除、iii)酵素的挫滅壊死組織切除、iv)自己分解挫滅壊死組織切除で行うことができる。
【0045】
従って本発明は、創傷の治癒または予防のためのエナメルマトリックス、エナメルマトリックス誘導体、及び/または、エナメルマトリックスタンパク質の使用と組み合わせた挫滅壊死組織切除方法の使用にも関する。このような組み合わせた治療は次の二つの段階すなわちi)挫滅壊死組織切除方法、ii)エナメルマトリックス、エナメルマトリックス誘導体、及び/または、エナメルマトリックスタンパク質の使用を含み、二つの段階は望ましい回数実行でき、また適切な順序で実行できる。
【0046】
創傷が挫滅壊死組織切除される場合、エナメルマトリックス、エナメルマトリックス誘導体、及び/または、エナメルマトリックスタンパク質は直接的に創傷上または創傷中に添加されるか、または、エナメルマトリックス、エナメルマトリックス誘導体、及び/または、エナメルマトリックスタンパク質が取り込まれる、例えば乾燥包帯または湿性で清潔な包帯剤のような、いずれかの好ましい薬学的組成物の形態で使用される。エナメルマトリックス、エナメルマトリックス誘導体、及び/または、エナメルマトリックスタンパク質はまた、創傷の清浄と関連して当然使用できる。
【0047】
後述のように、エナメルマトリックス、エナメルマトリックス誘導体、及び/または、エナメルマトリックスタンパク質を使用でき、また適切な調製品または薬学的組成物内で使用できる。
【0048】
感染軽減作用
本発明のまた別の局面では、エナメルマトリックス、エナメルマトリックス誘導体、及び/または、エナメルマトリックスタンパク質は、抗菌作用を有する治療剤または予防剤として用いことができる。エナメルマトリックス、エナメルマトリックス誘導体、及び/または、エナメルマトリックスタンパク質は感染軽減特性を示す。
【0049】
本明細書においては、感染軽減作用という用語は、組織または個体をエナメルマトリックス、エナメルマトリックス誘導体、及び/または、エナメルマトリックスタンパク質で治療した場合の、個体組織内の感染への、エナメルマトリックス、エナメルマトリックス誘導体、及び/または、エナメルマトリックスタンパク質による治療または予防作用に関する。
【0050】
感染という用語は身体組織における微生物の侵略及び増殖、または組織上の集積に関し、競合的代謝、酵素、毒素、細胞内複製、または抗原-抗体反応により医療的には明白でなく、また局所的細胞損傷が起る可能性がある。
【0051】
本発明に従えば、予防または治療する感染は、微生物により引き起こされるかもしれない。本発明に係る関心対象の微生物には細菌、ウイルス、酵母、糸状菌、原生動物、及びリケッチアが含まれる。
【0052】
本明細書において「抗菌作用」という用語は細菌の成長が抑制される、または細菌が破壊することを意味する。この用語は一定の細菌に限定されるものでなく、一般的にあらゆる細菌を含む。しかしながら、本発明は、i)ヒト人を含む哺乳動物に疾病を引き起こす病原性細菌、及びまたは、ii)通常哺乳動物の体内に存在し、一定の状況下で体内に好ましくない状態を引き起こす細菌に集中する。
【0053】
また、本発明は、皮膚、粘膜表面、または爪、歯の表面等の身体の表面での細菌の増殖を防ぐ、または治療するための、活性エナメル物質の使用に関する。
【0054】
防御される細菌状態の一般的及び特異的記載
エナメルマトリックス、エナメルマトリックス誘導体、及び/または、エナメルマトリックスタンパク質は、抗菌剤と共に、または抗菌剤を使用しないで、細菌による感染の治療のために使用できる。活性エナメル物質で治療されるグラム陰性細菌は、Neisseria(例えばN. meningitis、N. gonorrhoeae)、及びAcinetobacterのような球菌、Bacteroides (例えばB. fragilis)、Bordetella (例えばB. pertussis、B. parapertussis)、Brucella (例えばB. melitentis、 B. abortus Bang、B suis)、Campylobacter (例えばC. jejuni、C. coli、C. fetus)、Citrobacter、Enterobacter、Escherichia (例えば大腸菌)、Haemophilus (例えばH. influenzae、 H. parainfluenzae)、Klebsiella (例えばK. pneumoniae)、Legionella (例えばL. pneumophila)、Pasteurella (例えばP. yersinia、P. multocida)、Proteus (例えばP. mirabilis、P. vulgaris)、Pseudomonas (例えばP. aeruginosa、P. pseudomallei、P. mallei)、Salmonella (例えばS. enteritidis、S. infantitis、S. dublin、S. typhi、S. paratyphi、S. schottmulleri、S. choleraesuis、S. typhimurium、または2500の他の血清型のいずれか)、Serratia (例えばS. marscences、S. liquifaciens)、Shigella (例えばS. sonnei、S. flexneri、S. dysenteriae、S. boydii)、Vibrio (例えばV. cholerae、V. el tor)及びYersinia (例えばY. enterocolitica、Y. pseudotuberculosis、Y. pestis)のような桿菌であることができる。活性エナメル物質で治療されるグラム陽性細菌は、Streptococcus (例えばS. pneumoniae、S. viridans、S. faecalis、S. pyogenes)、Staphylococcus (例えばS. aureus、S. epidermidis、S. saprophyticus、S. albus)のような球菌、Actinomyces (例えばA. israelli)、Bacillus (例えばB. cereus、B. subtilis、B. anthracis)、Clostridium (例えばC. botulinum、C. tetani、C. perfringens、C. difficile)、Corynebacterium (例えばC. diphtheriae)、Listeria及びProvidenciaのような桿菌であることができる。感染を引き起こす他の細菌には、Propionobacterium acne及びPityosporon ovaleが含まれる。
【0055】
エナメルマトリックス、エナメルマトリックス誘導体、及び/または、エナメルマトリックスタンパク質はまた、例えばBorrelia、Leptospira、TreponemaまたはPseudomonas等のようなスピロヘータにより引き起こされる感染の治療に利用できる。
【0056】
エナメルマトリックス、エナメルマトリックス誘導体、及び/またはエナメルマトリックスタンパク質と組み合わせて使用される殺菌剤は、例えばβ-ラクタム及びバンコマイシン、好ましくは、アンジノシリン、アンピシリン、アモキシリン、アズロシリン、バカンピシリン、ベンザチン、ピニシリンG、カルベニシリン、クロキサシリン、サイクラシリン、ジクロキサシリン、メチシリン、メズロシリン、ナフシリン、オキサシリン、ペニシリンG、ペニシリンV、ピペラシリン、及びチカルシリンのようなペニシリン、第一世代薬剤セファドロキシル、セファゾリン、セファレキシン、セファロチン、セファピリン、及びセフラジン、第二世代薬剤、セファクロール、セファマンドール、セフォニシド、セフォラニド、セフォキシチン、及びセフロキシチム、または、第三世代薬剤、セファロスポリンズセフォペラゾン、セフォタキシム、セフォテタン、セフタジジン、セフチゾキシム、セフトリアキソン、及びモクサラクタム、イミペネンのようなカルバペネン、またはアズトレオナンのようなモノバクタンのように、細胞壁合成の抑制を通じての抗菌作用を有する殺菌剤であることができる。
【0057】
クロラムフェニコール;他のテトラシクリン、好ましくはデメクロシクリン、ドキシシクリン、メタシクリン、ミノシクリン、及びオキシテトラシクリン;アミカシン、ゲンタマイシン、カナマイシン、メオマイシン、ネチルマイシン、パロモマイシン、スペクチノマイシン、ストレプトマイシン、及びトブラマイシンのようなアミノグリコシド;コリスチン、コリスチマターテ、及びポリミキシンB等のポリミキシン;及びエルスロマイシン及びリンコマイシンのようなタンパク質合成の抑制作用を有する別の殺菌剤である事もできる。
【0058】
スルファシチン、スリファジアジン、スルフィソキサゾール、スルファメトキサゾール、スルファメチゾール、及びスルファピリジン、トリメトプリン、キノロン、ノボビオシン、ピリメタミン、及びリファンピンのような特殊なスルフォンアミドにおける核酸合成の抑制作用を有する殺菌剤である事ができる。
【0059】
本発明の特定の態様においては、感染は口腔に存在し、感染は細菌状態であることができる。
【0060】
接触する口腔細菌は抑制されるか、さもなければ対抗する。実例(条件なし)としては、以下のものが含まれる:
−例えばStreptococcus mutants、Lactobacillus sppのようなカリエスを引き起こす細菌、
−例えばActinobacillus actinomycetemcomitans、Porphyromonas gingivalis、Prevotella intermedia、Peptostreptococcus micros、Campylobacter (Fusobacteria、Staphylococci)、B. forsythusのような歯周疾患を引き起こす細菌、
−例えばStraphylococcus、Actinomyces及びBacillusのような歯槽炎をひき起こす細菌、
−Spirochetes及び上記のような歯根尖損傷を引き起こす細菌。
【0061】
抗炎症作用
本発明は抗炎症作用を有する治療剤または予防剤としてのエナメルマトリックス、エナメルマトリックス誘導体、及び/または、エナメルマトリックスタンパク質の使用に関する。
【0062】
炎症の発現を抑制するために幾つかの薬剤が使用され、それらにはアドレノコルチコステロイド、いわゆる非ステロイド抗炎症剤、またはNSAIDを含む大きな群、及び免疫抑制剤のような薬剤が含まれる。アドレノコルチコステロイド、特にグルココルチコイドを薬理学的な投与量で使用すれば、効力のある抗炎症作用を有する。これらは、脈間透過性を減少させ、その結果、顆粒化細胞が移動し、炎症過程の初期脈間段階を特異的に抑制する。グルココルチコイドはまた、後期炎症及び修復過程を妨害し、間葉細胞の増殖と細胞外高分子の産生を抑止するもので、プロテオグリカンやコラーゲンが含まれる。グルココルチコイドは例えばマクロファージ機能や、体液性抗体の産生や細胞免疫、及びおそらくはリソソーム酵素の放出を抑制することが実験で示された。
【0063】
組織損傷の度合いは、生物の抗原/抗体反応、及び影響下の部位内の炎症産物の保持の度合いに左右される。局所的炎症の仲介体の集積は該過程を速める。ほとんどの場合該過程は緩慢で、組織の免疫湿潤および炎症細胞を含む顆粒化細胞の形成を伴う。
【0064】
本明細書において、「抗炎症作用」という用語は、炎症の防御または抑制効果を意味する。
【0065】
治療される炎症状態の種類の一般的及び特異的記述
本発明に従い治療される炎症状態は当然、身体のあらゆる部分内/上の炎症状態、または、軟組織または硬組織内に存在する炎症状態である可能性がある。本発明の一つの様態においては、炎症状態が口腔に存在する。口腔内の状態の例には、歯槽炎、口辱炎、骨壊死(外傷後)、挫傷がある。
【0066】
本発明のまた別の様態では、炎症状態は骨ドナー側に存在する。本発明の三番目の態様においては、炎症状態は関節腔内に存在する。このようは炎症状態の例には、リウマチ様疾患関節炎及び関連の状態がある。
【0067】
抗菌-対-抗炎症
現在使用されている多くの抗生物質とは対照的に、エナメルマトリックスタンパク質は創傷治癒に妥協せず、代わって迅速な創傷治癒は、壊死や長期炎症過程が発達する余地を残さない。また、記載されているような、歯周欠陥上へのエナメルマトリックスの使用後の、適切な組織の再組織化は、細菌または炎症反応を伴わない迅速な創傷治癒にとり明らかに好都合である。
【0068】
エナメルマトリックス、エナメルマトリックス誘導体、及び/または、エナメルマトリックスタンパク質の使用は、おそらくは、細菌に接触し、細菌の増殖を抑制するが、しかし同時に線維芽細胞の移動とコラーゲンの合成を促進する表面を形成することで、外科切開の迅速な創傷治癒のつながる。もし、炎症段階が短期化すれば、熱っぽさや赤味、浮腫及び痛みのような典型的兆候が目立たなくなる。
【0069】
エナメルマトリックス、エナメルマトリックス誘導体、及びエナメルマトリックスタンパク質
エナメルマトリックスはエナメルの前駆体で、あらゆる適切な天然の供給源、すなわち歯が発達途中の哺乳動物から得ることができる。適切な供給源は、たとえばウシ、ブタ、ヒツジのような屠殺された動物からの発達途中の歯である。他の供給源には例えば魚類の皮膚がある。
【0070】
エナメルマトリックは先述の通り(EP-B-O 337 967及びEP-B-O 263 086)発達途中の歯から調製できる。エナメルマトリックスを解体し、緩衝液、希釈した酸もしくはアルカリ、または水/溶媒混合液のような水溶液で抽出し、サイズ排除を行い、脱塩、または他の精製段階を行い、任意に凍結乾燥して、エナメルマトリックス誘導体を調製する。酵素は、熱または溶媒で処理し不活性させることができ、この場合該誘導体は凍結乾燥しないで液体の形態で貯蔵できる。
【0071】
本明細書においては、エナメルマトリックス誘導体は、交互スプライシングまたは、プロセッシングにより自然に、または、元来の長さのタンパク質を酵素的または化学的に切断するか、またはインビトロもしくはインビボにおけるポリペプチドの合成(組換えDNA法、または二倍体細胞培養)により産出される、一つもしくは複数のエナメルマトリックスタンパク質、または、このようなタンパク質の一部を含むエナメルマトリックスの誘導体である。エナメルマトリックス誘導体は、また、エナメルマトリックス関連ポリペプチドまたはタンパク質を含む。該ポリペプチドまたはタンパク質は、ポリアミノ酸または多糖類のような適切な生物分解性担体分子、またはそれらの組み合わせに結合することができる。さらにエナメルマトリックス誘導体という用語は合成類似物質を含む。
【0072】
タンパク質はペプチド結合でお互いに連結したアミノ酸残基により構成された生体高分子である。アミノ酸の直鎖ポリマーとして、タンパク質はポリペプチドとも呼ばれる。特徴的に、タンパク質は50〜800のアミノ酸残基を有し、従って、約6,000から約数十万ダルトンまたはそれ以上の範囲の分子量を有する。小さなタンパク質はペプチドまたはオリゴペプチドと呼ばれる。
【0073】
エナメルマトリックスタンパク質は、通常、エナメルマトリック内に存在するタンパク質、すなわちエナメルの前駆体(Ten Cate: Oral Histology、1994; Robinson: Eur J. Oral Science、Jan. 1998、106 Suppl、1: 282-91)であるか、またはこのようなタンパク質の切断により得られるタンパク質である。一般的にこのようなタンパク質は120,000ダルトン未満の分子量を有し、アメロゲニン、非アメロゲニン、プロリンリッチ非アメロゲニン、アメリン(アメロブラスチン、シェスリン)及びタフテリンを含む。
【0074】
本発明に従い使用するタンパク質の例には、アメロゲニン、プロリンリッチ非アメロゲニン、タフテリン、タフツタンパク質、血清タンパク質、唾液タンパク質、アメリン、アメロブラスチン、シェスリン及びそれらの誘導体、及びそれらの混合物がある。本発明に従い使用する活性エナメル物質を含む調製品はまた、少なくとも二つの先述のタンパク質性物質を含むことができる。アメロゲニン及びおそらく他のエナメルマトリックスタンパク質を含む商品は、EMDOGAIN(登録商標)(Biora AB)として売買されている。
【0075】
一般的にエナメルマトリックスの主なタンパク質はアメロゲンとして知られている。それらは、90%w/wのマトリックスタンパク質から構成される。残りの10% w/wは、プロリンリッチ非アメロゲニン、タフテリン、タフツタンパク質、血清タンパク質及び少なくとも一つの唾液タンパク質を含むが、例えばエナメルマトリックスと関連して同定されたアメリン(アメロブラスチン、シェスリン)のような他のタンパク質が存在することもできる。さらに、種々のタンパク質を合成し、及び/または、幾つかの異なった大きさ(すなわち異なった分子量)に加工することができる。従って、エナメルマトリックス内の優勢なタンパク質である、アメロゲニンは、共に超分子凝集体を形成する幾つかの異なった大きさで存在することが判明している。それらは、生理状況下で凝集体を形成する、非常に高い疎水性物質である。それらは他のタンパク質またはペプチドを運搬する、または他のタンパク質またはペプチドの担体であることができる。
【0076】
他のタンパク質物質は、本発明に係る使用に適することが予想される。例には、プロリンリッチタンパク質及びポリプロリンのようなタンパク質が含まれる。本発明に従う使用に適することが予想される他の例には、このようなタンパク質の凝集体、エナメルマトリックス誘導体、及び/または、エナメルマトリックスタンパク質の凝集体や、エナメルマトリックス、エナメルマトリックス誘導体、及びエナメルマトリックスタンパク質の代謝物質がある。該代謝物質はタンパク質から短いペプチドまでの範囲のあらゆる大きさである可能性がある。
【0077】
上記のように、本発明に従い使用するタンパク質、ポリペプチド、またはペプチドは、例えばSDS Page電気泳動により決定した、最大で100 kDa、90 kDa、80 kDa、70 kDa、または60 kDaのような、最大で約120kDaの分子量を有する。
【0078】
本発明に従い使用するタンパク質は通常調製品の形態で存在し、調製品内の活性エナメル物質のタンパク質の含有量は、例えば約5〜99%w/w、約10〜95%w/w、約15〜90%w/w、約20〜90%w/w、約30〜90%w/w、約40〜85%w/w、約50〜80%w/w、約60〜70%w/w、約70〜90%w/w、または、約80〜90%w/wのような、約0.05%w/wから100%w/wの範囲内である。
【0079】
本発明に従い使用する活性エナメル物質の調製品はまた、異なる分子量の活性エナメル物質の混合物を含むことができる。
【0080】
エナメルマトリックスタンパク質は高分子量部分と低分子量部分とに分けることができ、エナメルマトリックスタンパク質のよく定義された画分は、歯周欠陥(すなわち歯周創)の治療に関して価値のある特質を保持することが判明している。この画分は、通常アメロゲニンと称される酢酸抽出可能タンパク質を含み、エナメルマトリックスの低分子量部分を構成する(EP-B-O 337 967及びEP-B-O 263 086参照)。
【0081】
上記のように、エナメルマトリックスの低分子量部分は、歯周欠陥内の硬組織間の結合の促進に適した活性を有する。本明細書に於いては、しかしながら、活性タンパク質はエナメルマトリックスの低分子量部分に限定されない。現在、好ましいタンパク質は分子量約60,000ダルトン未満(SDS-PAGEでインビトロにて測定)の、アミロゲニン、アメリン、タフテリン等を含むが、60,000ダルトンより大きな分子量を有するタンパク質も創傷治癒剤、抗菌剤、及び/または、抗炎症剤の候補としての特性を有する。
【0082】
よって、本発明に従い使用する活性エナメル物質は、例えば分子量約5,000及び約25,000間の分子量のような、約40,000までの分子量を有することが予想される。
【0083】
本発明の範囲内には、WO97/02730に記載のペプチド、すなわちテトラ(四)ペプチドDGEA(Asp-Gly-Glu-Ala)、VTKG(Val-Thr-Lys-Gly)、EKGE(Glu-Lys-Gly-Glu)、及びDKGE(Asp-Lys-Gly-Glu)から成る群より選択される少なくとも一つの配列要素を有する、及び、配列番号:1に記載のアミノ酸配列、及び配列番号:1のアミノ酸1から103位、及び配列番号:2のアミノ酸6から324位から成る配列よりなる群より選択される同じ長さのアミノ酸配列と、アミノ酸配列からの20の連続アミノ酸配列が少なくとも80%同一であるアミノ酸配列を有するペプチドもある。
【0084】
「配列同一性」という用語は、ペプチドのアミノ酸の同一性と位置に関して、合致するアミノ酸配列における同一性を意味する。
【0085】
このようなペプチドは、例えば、少なくとも20アミノ酸、少なくとも30アミノ酸、少なくとも60アミノ酸、少なくとも90アミノ酸、少なくとも120アミノ酸、少なくとも150アミノ酸、または少なくとも200アミノ酸のような、6から300までのアミノ酸を有することができる。
【0086】
エナメルマトリックスタンパク質の単離方法は溶解ヒドロキシアパタイトからの、例えば、ゲル濾過、透析、限外濾過のような適切な方法(例えばJanson、J-C & Ryden、L、 編集、Protein Purification、VCH Publishers 1989及びHarris、ELV & Angal、S.、Protein purification methods - A practical approach、IRL Press、Oxford 1990)による該タンパク質の抽出とカルシウウム及びリン酸イオンの除去を含む。
【0087】
特徴的な凍結乾燥されたタンパク質調製品は、主に、あるいは、もっぱら、40,000から5,000ダルトン間の分子量(MW)を有するアミロゲンを70〜90%まで含み、10〜30%の小ペプチド、塩、及び残存水から成る。主なタンパク質のバンドは20kダルトン、12〜14kダルトン、及び約5kダルトンである。
【0088】
例えば沈澱、イオン交換クロマトグラフィー、分取電気泳動、ゲル透過クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、またはアフィニティークロマトグラフィーで、該タンパク質を分離し、異なった分子量のアメロゲニンを精製できる。
【0089】
アメロゲニンの分子量の組み合わせは様々で、優勢な20kダルトンの化合物から、40k及び5kダルトン間の異なった分子量のアメロゲニンの凝集体、及び優勢な5kダルトンの化合物に及ぶことが可能である。エナメルマトリックス内に通常見られる、アメリンやタフテリンまたはタンパク質分解酵素のような他のエナメルマトリックスタンパク質を添加しアメロゲン凝集体で運搬できる。
【0090】
エナメルマトリックス誘導体またはタンパク質の別の供給源としては、当業者に周知の一般的に使用可能な合成経路を使用でき、また組換えDNA技術(例えばSambrook、J. et al.: Molecular Cloning、Cold Spring Harbor Laboratory Press、1989参照)で修飾された培養細胞または細菌を使用できる。
【0091】
エナメルマトリックス、エナメルマトリックス誘導体及びエナメルマトリックスタンパク質の物理化学特性
一般的には、エナメルマトリックス、エナメルマトリックス誘導体及びエナメルマトリックスタンパク質は疎水性物質で、すなわち特に高温では水に溶けにくい。一般的に、これらのタンパク質は非生理的pH値及び、摂氏約4〜20度のような低温では可溶性で、一方、体温(摂氏35〜37度)及び中性pHでは凝集し沈澱する。
【0092】
本発明に従い使用されるエナメルマトリックス、エナメルマトリックス誘導体、及び/または、エナメルマトリックスタンパク質はまた、活性エナメル物質を含み、少なくとも活性エナメル物質の一部が凝集体の形態であるか、またはインビボでの使用後、凝集体を形成できる。凝集体の粒子の大きさは約20nmから約1μmまでの範囲である。
【0093】
エナメルマトリックス、エナメルマトリックス誘導体、及び/または、エナメルマトリックスタンパク質の溶解度特性は、該物質の予防及び治療活性に関して重要であることが予想される。エナメルマトリックス、エナメルマトリックス誘導体、及び/または、エナメルマトリックスタンパク質(下記では一般的用語として「活性エナメル物質」として示される)を含む組成物を例えばヒトに投与する時、該タンパク質性物質は、生理的状況下で通常優勢なpHにより沈澱する。従って、エナメルマトリックス、エナメルマトリックス誘導体、及び/または、エナメルマトリックスタンパク質の層が使用部位で形成され、この層(凝集体が形成する場合に分子層であるかもしれない層)は、生理的状況下では、洗い落とされにくい。さらに、該物質の生体接着性特質により(下記参照)、沈澱した層は、沈澱した層と組織との境目でまた、しっかりと組織に結合する。タンパク質性の膜は従って、エナメルマトリックス、エナメルマトリックス誘導体、及び/または、エナメルマトリックスタンパク質、またはそれらの組成物を添加された組織を被い、また、活性エナメル物質が長期間インサイチューで保持され、すなわち、短い間隔で活性エナメル物質を投与する必要がない。さらにインサイチューで形成された層は、ほぼ閉鎖包帯に例えられ、すなわち、形成された層は、層がその上に形成された細胞を周囲から保護する。創傷組織、感染組織または炎症組織の場合、このようは層は周囲に存在する微生物のさらなる汚染から組織を保護する。さらに、タンパク質性層は、組織と、または組織内/上に存在する微生物と直接に接触して、その作用を及ぼすことができる。
【0094】
添加後、インサイチューでタンパク質性層を形成させることができるようにするため、エナメルマトリックス、エナメルマトリックス誘導体、及び/または、エナメルマトリックスタンパク質の薬学的組成物または化粧用組成物内に適切な緩衝物質を取り込むことは有効であり、このような緩衝物質の目的は、使用部分での活性エナメル物質の溶解を避けるためである。
【0095】
エナメルマトリックス、エナメルマトリックス誘導体、及びエナメルマトリックスタンパク質が、生体接着特性を保持することが(本発明者らに)観測されており、すなわち、それらは、皮膚または粘膜表面へ付着する能力を有する。これらの特性は少なくとも次の理由により、治療的、及び/または予防的治療に関して、高い価値がある。
【0096】
予防的に、及び/または、治療的に活性な物質は、長期間使用部位で維持され、すなわち、i)投与頻度が減少し、ii)活性物質の制御された放出作用が得られ、及び/または、iii)使用部位での局所的治療が向上する。エナメルマトリックス、エナメルマトリックス誘導体、及び/または、エナメルマトリックスタンパク質を含む媒介物は、生体接着性媒介物として形成できるので(すなわち、エナメルマトリックス、エナメルマトリックス誘導体、及び/またはエナメルマトリックスタンパク質の生体接着性特性に基づいた新規な生体接着性薬物送達システム)、該物質はそれ自体、他の予防的または治療的物質のための媒介物として適切である可能性がある。
【0097】
効果のメカニズムに関する学説
エナメルマトリックスは鉱物表面及びタンパク質性表面に付着する細胞外タンパク質マトリックスの一例である。生理的pH及び温度で該タンパク質は、不溶性超分子凝集体を形成し(Fincham et al.、J. Struct. Biol.、1994、 March-April; 112 (2): 103-9、及びJ. Struct. Biol.、1995、July-August; 115 (1): 50-9)、それは徐々にタンパク質分解酵素により分解される(プロテアーが不活性化されていない条件で、インビボとインビトロの両方で起る)。
【0098】
エナメルマトリックスが形成され、一時的に歯根及び歯根セメント質形成の間存在するという最近の観察により、エナメルマトリックス、エナメルマトリックス誘導体、及び/または、エナメルマトリックスタンパク質の使用がどのように歯周組織の再生を促進するかを説明できる。しかし、エナメルマトリックス、エナメルマトリックス誘導体、及び/または、エナメルマトリックスタンパク質が軟組織の治癒にも、創傷治癒のような、正の効果を有するという本発明を強調する観察は大きな驚きである。同様なことが、抗感染及び抗炎症作用に関しての観察に当てはまる。
【0099】
多くの種で、歯が、口腔へと萌出する時に、エナメルマトリックスの残存物が新たに鉱物化した歯冠内で発見される。新しい歯は、この開始段階の間、元来、保護を有さないかぎりは、一般的な口内細菌の攻撃を非常に受けやすいのかもしれないということが議論されるかもしれない。
【0100】
適切な抗菌、及び/または抗炎症特性を有する不溶性エナメルマトリックス、エナメルマトリックス誘導体、及び/または、エナメルマトリックスタンパク質の創傷表面への使用により、治癒が向上改善すると考えられる。
【0101】
実験の節で示されるように、エナメルマトリックス、エナメルマトリックス誘導体、及び/または、エナメルマトリックスタンパク質凝集体は、接触抑制により、細菌の増殖を妨ぎ、一方、曝露された細胞は、炎症反応を抑制する通常の環境としてのエナメルマトリックスに明らかに反応する。
【0102】
本発明に従えば、エナメルマトリックス、エナメルマトリックス誘導体、及び/または、エナメルマトリックスタンパク質は、治療目的、及び予防目的に使用できる。さらに、エナメルマトリックス、エナメルマトリックス誘導体、及び/または、エナメルマトリックスタンパク質を、例えば、抗菌剤、抗炎症剤、抗ウイルス剤、抗真菌剤のような、他の活性薬剤物質とともに、または、例えば、TGFβ、PDGF、IGF、FGF、表皮ケラチノ細胞増殖因子のような増殖因子またはこれらのペプチドアナログ(EGFは、上皮細胞の移動及び細胞分裂の促進により、治癒を促進し、さらには創傷内の線維芽細胞数を増加させ、より多くのコラーゲン産出につながると考えられている)と組み合わせて使用できる。遺伝的にエナメルマトリックス内に存在するか、またはそれらの調製物、または添加されたもののいずれかである酵素、特にプロテアーゼは、エナメルマトリックス、エナメルマトリックス誘導体、及び/または、エナメルマトリックスタンパク質と組み合わせて使用できる。
【0103】
活性エナメル物質の調製剤は、通常薬学的組成物または化粧用組成物として製剤化される。このような組成物はもちろんタンパク質性調製剤から構成でき、さらに、薬学的にまたは美容学的に許容される賦形剤を有することができる。特に、薬学的組成物または化粧用組成物において使用する適切な賦形剤は、アルギン酸プロピレングリコール、ヒアルロン酸、またはそれらの塩もしくは誘導体である。
【0104】
薬学的組成物及び/または化粧用組成物
次に、活性エナメル物質を含む適切な組成物の例をあげる。活性エナメル物質の使用次第で、組成物は薬学的組成物または化粧用組成物とすることができる。下記の、「薬学的組成物」という用語はまた、化粧用組成物、及び、いわゆる医薬品と化粧品との間の灰色の地帯に属する組成物、すなわち薬用化粧品(cosmeceutical)を含むことが意図される。
【0105】
個体(動物またはヒト)に投与するため、エナメルマトリックス、エナメルマトリックス誘導体、及び/または、エナメルマトリックスタンパク質(下記では、また「活性エナメル物質」と示される)、及び/または、それらの調製品が好ましくは、活性エナメル物、及び、任意に一つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤を含む薬学的組成物に調製される。
【0106】
該組成物は、例えば固体、半固体、または流体の形態であり、次のような例がある:
生体接着性絆創膏、飲薬、包帯剤、ヒドロゲル包帯、ヒドロコロイド包帯、フィルム、泡、シート、包帯、ギブス、運搬装置、移植組織、
粉末、顆粒、顆粒状物(granulates)、カプセル、アガロースまたはキトサンビーズ、錠剤、ピル、ペレット、小カプセル、ミクロスフェア、小粒子、
スプレー、エアロゾル、吸引装置
ゲル、ヒドロゲル、ペースト、軟膏、クリーム、石鹸、座薬、膣薬、歯磨き粉、
溶液、分散液、懸濁液、乳濁物、混合液、ローション、洗口剤、シャンプー、浣腸、
例えば二つの別々の容器を含むキットで、一つ目の容器は、任意に別の活性薬剤物質と、及び/または、薬学的に許容される賦形剤と混合した活性エナメル物質を含み、二つめの容器は、すぐに使える組成物を得るために、使用前に最初の容器に加えることが意図された適切な培地を含む;
および、移植組織や移植組織のコーティングのような別の適切な形態、または移植に関しての使用に適した形態。
【0107】
皮膚または粘膜に適用するための組成物は本発明に関して非常に重要だと考えられる。従って、投与される活性エナメル物質を含む組成物は、例えば、局所(皮膚)、口内、頬側、鼻側、耳性、直腸、膣への投与、または、例えば歯根、または歯根管のような、体腔への投与による、いずれかの適切な経路による投与に適応できる。さらに、組成物は、例えば、内部創傷や軟組織損傷の治癒を促進するための、体内の切開に関するような、手術に関する投与にも適応できる。
【0108】
上記のように、活性エナメル物質は、ゲル、フィルム、または乾燥ペレットの形態での例えば局所的使用(例えば口腔内)において、または、細菌の攻撃を防ぐための組織上や表面上への、洗浄液としてのまたはペーストやクリームでの処置として、手術中の使用に適している。歯根管部位の手術、または移植に関連して、腔を密閉するためのペースト使用できる。
【0109】
該組成物は、従来の薬学の実践に従い調製でき、例えば「Remington's Phasmaceutical Sciences」及び、「Encyclopedia of Pharmaceutical Technolohgy」、Swarbrick、J. & J. C. Boylan編集、Marcel Dekker、Inc.、New York、1988参照されたい。
【0110】
上記のように、活性エナメル物質を含む組成物の使用は、皮膚または粘膜へと意図される。例えば、義歯、プロテーゼ、移植細胞上への使用、及び口腔、鼻腔、腸腔、膣腔等の腔への使用等の、他の使用は、当然適切である。粘膜は、好ましくは口内粘膜、頬側粘膜、鼻側粘膜、耳性粘膜、直腸粘膜、膣粘膜から選択されるで。さらに、創傷または他の軟組織損傷上または内へ直接使用できる。
【0111】
さらに、歯学/歯科学の領域内での使用も、非常に重要である。適切な例としては、歯周(歯)ポケット、歯肉またな歯肉創、または口腔に位置する他の創傷への、または口内手術の関してがある。
【0112】
上記の活性エナメル物質の抗菌特性により、カリエス、及び/または、歯垢予防のために有効に歯または歯根へ使用できることがさらに予想される。この使用を支持するために、不完全に発達し(エナメル質形成不完全症)、その結果として、大量のアメロゲニンを含む歯は、非常にカリエス抵抗性があることが示された(Weinmamm、L. P et al: Hereditary disturbances of enamel formation and calcification、J. Amer. Dent. Ass. 32: 397-418、1945; Sundell S、Hereditary Amelogenesis imperfecta。An epidemiological, genetic and clinical study in a Swedish child population、Swed Dent Suppl 1986; 31: 1-38)。
【0113】
活性エナメル物質を含む薬学的組成物は薬物送達システムとしての役割を果す。本分脈においては「薬物送達システム」という用語は、投与がヒトまたは動物の身体へ活性物質を与える薬学的組成物(薬物製剤、または投与形態)を意味する。従って、「薬物送達システム」という用語は、例えばクリームや軟膏、液体、粉末、錠剤等の簡素な薬学的組成物、及び、例えばスプレーやギブス、包帯、包帯剤、装置等のより洗練された製剤を含む。
【0114】
活性エナメル物質は別として、本発明に従い使用される薬学的組成物は薬学的に、または美容学的に許容される賦形剤を有することができる。
【0115】
薬学的に、または美容学的に許容される賦形剤は、該組成物が投与される個体に実質的に無害な物質である。このような賦形剤は、通常国家の健康官庁により与えられた必要条件を満たす。例えば、イギリス薬局方、米国薬局方、欧州薬局方、のような公共の薬局方は、薬学的に許容される賦形剤の基準を設けている。
【0116】
薬学的に許容される賦形剤が薬学的組成物内での使用に適切であるかは、一般的にどのような種類の投与形態が特定の創傷への使用に選択されるかに左右される。次に、本発明に従い使用される異なった種類の組成物における使用のための薬学的に許容される賦形剤の例をあげる。
【0117】
次に、本発明に従い使用される適切な薬学的組成物の総説をあげる。該総説は、特殊な投与経路に基づく。しかしながら、薬学的に許容される賦形剤が異なった投与形態または組成物で使用される場合は、薬学的に許容される特殊な賦形剤の使用は、特殊な投与形態、または、該賦形剤の特殊な機能に限定されないことが理解される。
【0118】
本発明に従い使用される組成物内の、薬学的に許容される賦形剤、及びそれらの最適な濃度の選択は、一般的には予想できず、最終組成物の実験評価に基づいて決定されなければならない。しかしながら、薬剤調合業者は、例えば「Remington's Pharmaceutical Science」、第18版、Mack Publishing Company、Easton、1990中のガイダンスを見つけることができる。
【0119】
局所的組成物
粘膜または皮膚への使用のため、本発明に従い使用される組成物は、ミクロスフェア及びリポソームを含む、従来的に無毒で薬学的に許容される担体及び賦形剤を含むことができる。
【0120】
本発明に従い使用される組成物は、全ての種類の固体、半固体、流体成分を含む。特に適切な成分は、例えば、ペースト、軟膏、親水性軟膏、クリーム、ゲル、ヒドロゲル、溶液、乳濁液、懸濁液、ローション、湿布剤、シャンプー、ゼリー、石鹸、棒、スプレイ、粉末、フィルム、泡、パッド、スポンジ(例えば、コラーゲンスポンジ)、パッド、包帯剤(例えば、吸着性創包帯)、飲薬、包帯、ギブス、及び経皮運搬システムである。
【0121】
薬学的に許容される賦形剤は、溶媒、緩衝剤、保存料、湿潤剤、キレ−ト剤、酸化防止剤、安定剤、乳化剤、懸濁剤、ゲル形成剤、軟膏基剤、浸透促進剤、香料、及び皮膚保護剤を含むことができる。
【0122】
溶媒の例には、例えば、水、アルコール、植物油または海産油(例えば、アーモンド油、ヒマシ油、カカオ油、カカオバター、ココナッツオイル、コ−ン油、綿実油、亜麻仁油、オリ−ブ油、やし油、ピーナッツ油、けしの実油、菜種油、ごま油、大豆油、ひまわり油、茶実油(teaseed)のような可食油)、ミネラルオイル、脂肪油、液体パラフイン、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセロール、液体ポリアルキルシロキサン及びそれらの混合物がある。
【0123】
緩衝剤の例には、クエン酸、酢酸、酒石酸、乳酸、リン酸水素塩、ジメチルアミン等がある。
【0124】
組成物中に使用される保存料の適切な例には、メチル、エチル、プロピルp-ヒドロキシ安息香酸、ブチルパラベン、イソブチルパラベン、イソプロピルパラベン、ソルビン酸カリウム、ソルビン酸、安息香酸、安息香酸メチル、フェノキシエタノール、ブロノポル、ブロニドックス、MDMヒダントイン、ヨウ化プロピニルブチルカルバメート、EDTA、塩化ベンザルコニウム、及びベンジルアルコール、または保存料の混合物がある。
【0125】
湿潤剤の例は、グリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール、乳酸、尿素、及びそれらの混合物である。
【0126】
キレート剤の例はEDTAナトリウム及びクエン酸である。
【0127】
酸化防止剤の例は、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、アスコルビン酸、及びそれらの誘導体、トコフェノール、及びそれらの誘導体、システイン、及びそれらの混合物がある。
【0128】
乳化剤の例は、例えばアカシアガムまたはトラガカントガムのような自然発生するガム、例えば大豆レクチンのような自然発生するホスファチド、ソルビタンモノオレエート誘導体、ラノリン、羊毛アルコール、ソルビタンエステル、モノグリセリド、脂肪アルコール、脂肪酸エステル(例えば脂肪酸のトリセリド)及びそれらの混合物がある。
【0129】
懸濁剤の例には、例えば、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カラゲナン、アカシアガム、アラビアガム、トラガカントのような例えばセルロ−ス及びセルロース誘導体、及びそれらの混合物がある。
【0130】
創傷からの侵出物を取り去ることができる、ゲル基剤、粘性増加剤、または成分は、液体パラフィン、ポリエチレン、脂肪油、コロイドシリカ、またはアルミニウム、亜鉛石鹸、グリセロール、プロピレングリコール、トラガカント、カルボキシビニルポリマー、マグネシウムーアルニウム珪酸塩、Carbopol(登録商標)、例えば澱粉のような親水性ポリマー、または、例えばカルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、及び他のセルロース誘導体のようなセルロース誘導体、水分膨張性ヒドロコロイド、カラゲナン、ヒアルロン酸塩(例えば、任意に塩化ナトリウムを含むヒアルロン酸塩ゲル)、及び、アルギン酸プロピレングリコールを含むアルギン酸塩がある。
【0131】
軟膏基剤の例には、例えば蜜蝋、パラフィン、セタノール、セチルパルミテート、植物油、脂肪酸のソルビタンエステル(Span)、ポリエチレングリコール、及び、脂肪酸のソルビタンエステルと酸化エチレンの間の縮合製品、例えばポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(Tween)がある。
【0132】
疎水性または水性乳化軟膏基剤の例は、パラフィン、植物油、動物性脂肪、合成グリセリド、ワックス、ラノリン、及び液体ポリアルキルシロキサンがある。
【0133】
親水性軟膏基剤の例には、固体マクロゴル(ポリエチレングリコール)がある。
【0134】
軟膏基剤の他の例には、トリエタノールアミン石鹸、硫酸化脂肪アルコール、及びポリソルベートがある。
【0135】
粉末成分の例には、アルギン酸塩、コラーゲン、ラクトース、創傷に適用する際に泡を形成できる粉末(液体/創傷侵出物を吸収)がある。通常、大きな開放創への使用を意図する粉末は無菌で、存在する粒子は微小化されなければならない。
【0136】
別の賦形剤の例には、カルメローズ、カルメローズナトリウム、ヒドロキシポリメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ペクチン、キサンタンガム、いなごまめガム、アカシアガム、カルボマーのようなポリマー、ビタミンE、ステアリン酸グリセリル、セタニルグルコシド、コラーゲン、カラゲナン、ヒアルロン酸塩、及びアルギン酸塩、及びキトサンのような乳化剤がある。
【0137】
包帯剤、及び/または、包帯も、活性エナメル物質の重要な運搬システムである。包帯剤を投与形態として使用する時、活性エナメル物質は、包帯剤の製造前または製造中に、他の材料/原料と混合でき、または、活性エナメル物質を、いくつかの方法により、例えば、活性エナメル物質の溶液または懸濁液にちょっと浸す、活性エナメル物質の溶液または懸濁液を包帯剤上にスプレーする等して、包帯剤上にコーティングできる。また、活性エナメル物質を粉末の形態で包帯剤に添加できる。包帯剤は、侵出創へ添加するために吸収性創傷包帯剤の形態であることができる。包帯剤はまた、ヒドロゲルの形態(例えば、カルボキシメチルセルロース、プロピレングリコール、または多糖類、二糖類、及びタンパク質を含むIntrasite(登録商標)等の橋かけされたポリマー)、または、例えばアルギン酸塩、キトサン、親水性ポリウレタンフィルム、コラーゲンシート、板、粉末、泡、または、スポンジ、泡(例えばポリウレタンまたはシリコン)、ヒドロコロイド(例えばカルボキシメチルセルロース、CMC)、及びこれらの組み合わせを含むヒアルロン酸塩に基づく包帯剤のような閉鎖包帯剤の形態であることもできる。
【0138】
アルギン酸塩、キトサン、ヒドロコロイド包帯剤は、創傷上に置くと、創傷侵出物を取る。その際に、それらは創傷表面上に水溶性ゲルを産出し、このゲルが創傷内を保湿するため、創傷治癒に有効であると考えられている。
【0139】
活性エナメル物質はまた、例えば止血のためのフィブリノーゲン及びトロンビン、または任意にファクターIIIまたは他の血漿凝固因子を含む接着性組織に取り込まれるものと予想される。接着性組織は、活性エナメル物質、フィブリノーゲン、及び任意にファクターIIIのプレミックスとして調製でき、創傷に接着性組織を添加する直前に、プレミックスにトロンビンを加えることができる。または、フィブリノーゲン、活性エナメル物質及び、任意にファクターIIIのプレミックスを、トロンビンの添加前に創傷に添加できる。インサイチューではトロンビンはフィブリノーゲンをフィブリンに変換し、そうすることで、創傷治癒において自然に起る凝固過程を再現する。接着性組織内の活性エナメル物質の存在は、上記のように創傷治癒過程を加速させる役割を果す可能性がある。活性エナメル物質の包含に適切な商品には、Immuno、AG、Vienna、Austria製の二成分フィブリンシーラントのTisseel(登録商標)がある。
【0140】
歯または歯根に使用するための歯磨き粉または洗口剤の調合薬剤、または別の調合薬品に於いて、活性エナメル物質は弱酸性pHの媒介物内で溶解した状態で、または中性pHの媒介物内で懸濁した状態で存在できる。用いられると、活性エナメル物質は歯の表面に保護層を形成し、カリエス産生細菌の付着を防ぐものと予想される(下記の実施例4参照)。このようはデンタルケアの調製物においては、カリエスを防ぐ作用を有する一つまたは複数の化合物、明白には、フッ素、または、バナジウム、モリブデンのような別の微量原素と共に調製できる。中性pHでは、微量原素は、活性エナメル物質に結合、または活性エナメル物質内に留まっており、例えば、カリエス産出細菌による酸の産出により、pH5.5以下のpHで活性エナメル物質が溶解する際に、活性エナメル物質から放出され、カリエス予防作用を働かせると考えられる。
【0141】
局所的投与の上記の組成物は、直接創傷に使用するためによく適しているか、または、例え直腸、尿道、膣、耳性、鼻側、または口内の開口部等の、身体の開口部への添加、または導入に適することができる。該組成物は、例えば粘膜上のような治療する部分に簡便に直接、またはいずれかの簡便な投与経路により添加することができる。
【0142】
局所的使用に関して重要であることが判明している組成物は、揺変性特性を有する組成物であり、すなわち、例えば、組成物の粘性を投与時に低下させ、該組成物が適用されると、該組成物が適用部位にとどまるように粘性が高まるように震盪または撹拌して、組成物の粘性に影響を及ぼす。
【0143】
口内使用のまたは粘膜または皮膚への添加のための成分
本発明に従い使用するために適した組成物は懸濁液、乳濁液、または分散液の形態で存在することができる。このような組成物は、分散剤、または湿潤剤、懸濁剤、及び/または一つまたは複数の保存料及び他の薬学的に許容される賦形剤との混合液中に活性エナメル物質を含む。このような組成物は、例えば口内、頬側、鼻内、直腸、または膣粘膜のような無傷または損傷粘膜へに、活性エナメル物質の運搬における使用のための、または無傷または損傷皮膚、または創傷への投与のために適することができる。
【0144】
適切な懸濁剤または湿潤剤には、例えば、レクチン、または大豆レクチンのような例えば自然発生するホスファチド、例えば脂肪酸、長鎖脂肪属アルコール、または脂肪酸由来の部分エステルのような酸化エチレンの縮合産物、または、例えばステアリン酸ポリオキシエチレン、ポリオキシエチレンソルビトールモノオレエート、ポリオキシエチレンソルビタンモノレエート等のようなヘキシトールまたはヘキシトール無水物がある。
【0145】
適切な懸濁剤の例には、例えばアカシアガム、キサンタンガム、またはトラガカントガムのような例えば自然発生するガム、例えばカロボキシメチルセルロースナトリウム、ミクロクリスタリンセルロース(例えばAvicel(登録商標) RC 591、メチルセルロース)のようなセルロース、アルギン酸ナトリウム等のようなアルギン酸塩及び、キトサンがある。
【0146】
本発明に従う使用のために適した保存料の例には、上記と同様なものがある。
【0147】
本発明に従う使用のための組成物は経口で投与することもできる。適切な口内組成物は、粒状の調合薬品の形態、または固体、半固体、または流体投与形態であることができる。
【0148】
口内使用のための組成物は、例えば粉末、顆粒、顆粒状物(granulates)、香粉、錠剤、カピセル、気泡性の錠剤、噛める錠剤、トローチ剤、即時放出性錠剤、及び改変放出性錠剤のような固体投与形態、及び例えば溶液、懸命濁液、乳濁液、拡散液、または混合物のような流体または液体の調合薬品を含む。さらに、組成物は、例えば水溶性培地のような液体培地の添加による水溶性懸濁液の調製に適した粉末、拡散性粉末または顆粒の形態であることもできる。
【0149】
口内使用(または局所的使用)のための固体投与形態に関して、本発明に従う使用のための組成物は通常、活性エナメル物質を含み、任意に、一つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤との混合物内のさらに別の活性エナメル物質を含む。これらの賦形剤は、例えば、ショ糖、ソルビトール、砂糖、マンニトール、ミクロクリスタリン、セルロース、バレイショデンプンを含むデンプン、炭酸カルシウム、塩化ナトリウム、乳糖、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、またはリン酸ナトリウムのような例えば不活性な希釈剤またはフィルターがあり、顆粒化剤及び崩壊剤には、例えば、ミクロクリスタリンセルロースを含むセルロース誘導体、バレイショデンプンを含むデンプン、交差カルメロースナトリウム、アルギン酸塩、またはアルギン酸、またはキトサンがある。
【0150】
結合剤には例えば、ショ糖、グルコース、ソルビトール、アカシア、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、ゼラチン、澱粉、既ゼラチン化澱粉、ミクロクリスタリンセルロース、珪酸マグネシウムアルミニウム、カロボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアセテート、またはポリエチレングリコール、及びキトサンがある。
【0151】
滑走剤及び抗付着剤を含む潤滑剤には、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸、シリカ、水素化植物油、またはタルクがある。
【0152】
他の薬学的に許容される賦形剤は、着色剤、香辛料、可塑剤、湿潤剤、緩衝剤等ある。
【0153】
薬学的組成物が、単位投与形態において固体投与形態である場合(例えば錠剤、またはカプセル)、単位投与形態は、下記のコーティングの一つまたは複数のようなコーティングを伴って供される。
【0154】
該組成物が錠剤、カプセル、または複数単位組成物の形態である場合、個々の単位を含む該組成物または個々の単位、または錠剤、またはカプセルは、例えば、砂糖コーティング、フィルムコーティング(例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、メチルヒドロキシエチルセルロース、ヒドキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アクリル酸コポリマー(Eudragit)、ポリエチレングリコール、及び/またはポリビニルピロリドンに基づく)、または腸内コーティング(例えばメタクリリック酸コポリマー(Eudragit)、酢酸セルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、ポリビニルアセテートフタレート、シェラック、及び/またはエチルセルロースに基づく)でコーティングすることができる。さらに、例えばグリセリルモノスアテレートまたはグリセリルジステアレートのような遅滞材料も使用できる。
【0155】
直腸用、及び/または膣用組成物
直腸、及び/または膣粘膜使用のための、本発明に従う適切な組成物には、坐薬(乳濁液または懸濁液のタイプ)、エネマス、直腸ゼラチンカプセル(溶液または懸濁液)を含む。適当な薬学的に許容できる坐薬基剤には、ココアバター、エステル化脂肪酸、グリセリン化ゼラチン、及び、ポリエチエングリコール及びポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルのような様々な水溶性または拡散性基剤を含む。例えば促進剤や海面活性剤のような様々な添加物を取り込むこともできる。
【0156】
鼻内用組成物
鼻内粘膜(及び口内粘膜)への使用のための、本発明に従う適切な組成物としては、吸引のためのスプレー及びエアロゾルが、本発明の従う適切な組成物である。典型的な鼻内用組成物では、活性エナメル物質は粒子形態で、任意に適切な媒介物に拡散する形態で存在する。薬学的に許容できる媒介物及び賦形剤、及び希釈剤、及び促進剤、香料、保存料等の該組成物中に存在する薬学的に許容できる任意の他の材料は、薬剤調合分野の業者に理解される方法での従来の薬学実践に従い、すべて選択される。
【0157】
エナメルマトリックス、エナメルマトリックス誘導体、及びエナメルマトリックスタンパク質の投与量
本発明に従い皮膚または粘膜に使用される薬学的組成物において、活性エナメル物質は一般的に約0.01%から99.9%w/wの範囲の濃度で存在する。添加される組成物の量は通常、例えば約0.1mg/cm2から約15mg/cm2のような、約0.01mg/cm2から約20mg/cm2に対応する、創傷/皮膚/組織面積cm2当たりの総タンパク質量となる。
【0158】
組成物の使用量は、組成物内の活性エナメル物質の濃度、組成物からの活性エナメル物質の放出率によるが、しかし一般的に最大で約15〜20mg/cm cm2に対応する範囲内である。流体組成物の形態で活性エナメル物質を投与する場合、組成物中の活性エナメル物質濃度は約0.1から約50mg/mlに対応する範囲である。さらに高い濃度が望ましい場合もあり、例えば少なくとも約100mg/mlのような濃度を得ることもできる。
【0159】
該組成物を口腔に使用する時には、次の投与量が適切である。
【0160】
実験的口腔内欠陥面積(サルにおける)は、特徴的に、50μlに対応する約4x2x5〜6 mm、または約0.025から約0.15mgの総タンパク/mm2または、2.5〜15mg/cm2の大きさを有する。通常、例えば5〜30 mg/mlのような、約1〜40 mg/mlの濃度を有する、例えば0.4、0.3、0.2または、0.1 mlのような、0.5までの組成物が使用される。
【0161】
人の口腔内の欠陥面積及び歯周疾患による面積は、約200μlに対応する約5〜10 x 2〜4 x 5 x 10mmの大きさを有し、通常、歯一本あたり、例えば5〜30 mg/mlようなmlあたり約1〜40mg総タンパク質の濃度を有する約0.2〜0.3 ml/のような、最大で0.5〜1 mlの該組成物を添加する。もし歯根表面のみを石灰化する場合、0.2〜0.3 mg/mlが、25〜100 mm2あたり約6 mgのタンパク質、または0.1 mg/mm2に対応する。通常すべての面積を被うために、過剰量を使用する。多重層でさえ、上記の量の小画分のみを必要とする。
【0162】
一般的に、活性エナメル物質を含む、例えば約0.15〜0.3mlまたは約0.25〜0.35mlのような約0.1〜0.5mlの組成物が腔(抜歯後の穴)の抽出における欠陥体積に使用される。該組成物の活性エナメル物質濃度は通常、約5〜30 mg/mlのような、約1〜40 mgである。0.3〜0.4 mlのこのような組成物が、親知らずに使用される時、この量は0.1mg/cm2(半径5mm高さ20mmの円柱として計算した腔)に対応する。
【0163】
薬学的組成物内の活性エナメル物質濃度は、特異的エナメル物質、その効力、予防または治療される疾病の重さ、及び患者の年齢及び状態に左右される。薬学的組成物内の活性エナメル物質の適切な濃度決定に応用できる方法は、当業者に周知で、例えば、International Standard ISO/DIS 14155 Clinical investigation of medical devices、1994及びICH (International Committee for Harmonisation) 中のgood clinical Practice (GCP)の確立されたガイドラインまたはInvestigational New Drug Exemption (「IND」)規定、Harmonised tripartite for good clinical practice、Brookwood Medical Publications、Ltd、Surrey、UK、1996に従い実践できる。上記の一般的な教科書、ガイドライン、規定内に記載の方法、及びこの分野内での通常の一般的知識を用い、当業者は非常に日常的な実験方法により、いずれの活性エナメル物質、及び/または、選択された別の活性物質及び投与形態について、実行される正確な投薬方式を選択できる。
【0164】
本発明の別の局面は、i)創傷の予防、及び/または治療、ii)感染の軽減、及びiii)炎症の予防、及び/または治療の方法、このような治療が必要な哺乳動物への活性エナメル物質の有効量の投与を含む方法に関する。
【0165】
理解されるように、創傷の予防、及び/または治療のための活性エナメル物質の使用に関する詳細及び明細は、他の使用局面(抗菌及び抗炎症の側面)に関する詳細及び明細、及び上記の方法の局面と同様または同類であり、これは、適切である限り、活性エナメル物質に関する上記記載、活性エナメル物質を有する調製品、活性エナメル物質を有する薬学的組成物、i)活性エナメル物質、ii)活性エナメル物質を有する調製品、iii)活性エナメル物質を有する薬学的組成物の調製は、及び向上した特性及び使用は、必要な変更を加えて本発明の全ての局面に適応することを意味する。
【0166】
実験の説
材料及び方法
30mgの凍結乾燥したエナメルマトリックスタンパク質(以下EMDと略す)及び、1mlの媒介物溶液(アルギン酸プロピレングリコール)を含む、BIORA AB、S-205 12 Malmo、Sweden製のエナメルマトリックス誘導体EMDOGAIN(登録商標)で、タンパク質と媒介物が別々に試験されない限りは、使用前に混合される。重量比はそれぞれ約20、14、及び5 kDaの主なタンパク質ピーク間の約85/5/10である。熱処理したEMDは、残存プロテアーゼを不活性化するために80℃で3時間熱したEMDである。
【0167】
アメロゲニン20kDaタンパク質、及びチロシンリッチアメロゲニンペプチド(TRAP)5kDaを、HPLCゲル透過クロマトグラフィー(0.9%塩化ナトリウム中30%アセトニトリルで平衡化したTSK G-2000 SW)で単離し、アセトニトリルの勾配を利用した逆相クロマトグラフィー(Pro-PRC、HR5/10、Pharmacia-Upjohn、Sweden)で精製した。分離したタンパク質/ポリペプチドをその後、別々に試験しない限りは、EMDOGAIN(登録商標)の媒介物溶液へ様々な量で添加した。
【0168】
ヒアルロン酸は生化学社(東京、日本)からのHMT-0028(分子量990,000)であった。
【0169】
細菌及び酵母を、患者からまず単離し、標準方法に従い代謝及び抗原特性により分類した。使用した細菌及び酵母の種は下記の表中に並べた。
【0170】
血清アルブミン(ウシ)、及び1型コラーゲン(ウシ)は、両者ともSigma(St. Louis、U. S. A.)から得た。
【0171】
寒天プレートは全てヒト赤血球細胞(寒天1リットルにつき100 ml)を付加した、Difcoの「Brain Hart Infusion agar」であった。
【実施例】
【0172】
実施例1
EMDOGAIN(登録商標)で処理したPDL細胞内の細胞増殖とTGF-β1産生
EMDの貯蔵溶液は、1バイアルを(30mgのEMDを含む)3mlの濾過滅菌0.1%Hacに溶解して調製した。60μlのEMD貯蔵溶液を、10%ウシ胎児血清及び1%ペニシリン-ストレプトマイシン溶液を含むダルベッコの改変イーグル培地6000μlへ添加した。該混合液300μlを96穴マイクロタイタープレート(Nunc A/S、Denmark、カタログ番号167008)の各ウェルに添加した。1000個のヒト歯周靭帯(PDL)細胞(歯科学的理由により小臼歯の抽出を行っている個体の健康なヒト歯周組織から得、Somerman et al.、J. Dental Res. 67、1988、pp. 66-70に実質的に記載の通り培養した。)を各ウェルに添加し、37℃、5%二酸化炭素化下で5日間培養した。
【0173】
対照として用いたPDL細胞は、実質的に上記の通り、ダルベッコの改変イーグル培地内で培養したが、EMDは含まれない。
【0174】
培養後、製造者の指示(Boehringer Mannheim、カタログ番号1647 229)に従い、5-ブロモ-2'-デオキシウリジン(BrdU)の取込みを測定する細胞増殖イムノアッセイに該細胞を付した。この方法で、増殖する細胞のDNA内のチミジンに代わり、BrdUが取り込まれる。BrdUの取り込みはELISAアッセイ法により検出され、該アッセイ法で測定されたBrdUの量が、DNA合成率を指示し、従って、PDL細胞の細胞増殖率を示す。
【0175】
図1に結果が示され、EMDの存在下で培養したPDL細胞は、EMDの非存在下で培養したPDL細胞より有意に高い増殖率を示す。
【0176】
マイクロタイタープレートからの細胞上清100μlへ、1N塩酸を20μl加え、10分間室温で培養した。培養混合物を1N水酸化ナトリウム/0.5M HESPS20μlで中和した。この混合物100μlを400μlの希釈バッファーへ添加した。この希釈液200μlを、R&D Systems、UKから入手可能なQuantikines(登録商標)(カタログ番号DB100)を用い、製造者の指示に従い、ELISAに付した。
【0177】
図2に結果が示され、EMDで培養しなかったPDL細胞の比べ、EMDで培養したPDL細胞内のTGF-β1産生の顕著な増加が示された。
【0178】
実施例2
エナメルマトリックス誘導体及びエナメルマトリックスタンパク質存在下での微生物増殖の調査
本実施例の目的はエナメルマトリックス誘導体及びエナメルマトリックスタンパク質のインビトロでの微生物増殖への影響を示すことである。
【0179】
本実施例で使用されたタンパク質を、酢酸でpH5.5に調整したリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に溶解した。使用した微生物はpH6.8のPBSに懸濁し、最終濃度をOD600で0.4とした。
【0180】
50μlのEMDOGAIN(登録商標)(1mlのPGA中30mgのEMD)及び50μlのEMD、熱処理したEMD、EMD画分A、B、C及びH(PBSバッファー1mlにつき全て10mg)を寒天プレートに滴下し、プレート上で風乾させた(直径9cm、個々の微生物が要求する補充物を加えた、抵抗性の決定のための標準プレート)。均一な微生物の懸濁液(1ml、OD280=0.5)を、寒天プレート上に懸濁液を広げて添加し、プレートを個々の増殖必要条件に従い、35℃で3日間(有気培養)、または二酸化炭素の豊富な大気内、または無気状況下で14日間(無機培養)で培養した。全ての培養物を毎日調べた。対照として、1型コラーゲン及び血清アルブミン(両方ともウシ)を同様の状況下で対照として試験した。未希釈のアルギン酸プロピレングリコール(PGA-EMD媒介物)、PBSバッファー、及びヒアルロン酸(HA-EMD媒介物の代わり)を、陰性対照として用いた。
【0181】
結果を表1に示す。エナメルマトリックス誘導体、またはエナメルマトリックスタンパク質、または誘導体のみがいくつかの微生物の増殖を抑制した。該タンパク質周辺に分散の徴候はなく、添加したEMDタンパク質は寒天表面上で凝集し、また、該タンパクと直接接触した微生物のみがその増殖を抑制されたことが示された。検体を抑制地帯から収穫し、液体培地(補充物を伴うLBブロス)で培養すると、元来の微生物の単一培養物を復活することができ、活性タンパク質は殺菌性でないことが示唆される。全ての対照は陰性対照を試験し、非特異的メカニズムはいずれも結果に影響を及ぼさないことが示された。
【0182】
[表1]
試験物質表面上の増殖(+/-)

EMD画分A:主としてアネロゲニン-26〜20 kDa
EMD画分B:-17〜13 kDaタンパク質
EMD画分C:-10〜5 kDaペプチド
EMD画分H:分子量27kDaより大きなEMD内の全てのタンパク質
+は微生物の正常な増殖を示す。
-は完全に抑制された微生物の増殖を示す。
+/-は、陰性対照と比較した際の、ある程度の増殖抑制を示す。
【0183】
表中の全ての結果は培養の2日目(有機培養)、または5日後(無機培養)に記録される。
【0184】
これらの結果は、EMDに含まれたタンパク質またはペプチドは、表面上に凝集できる時、一定のグラム陰性桿菌及びいくつかの陽性球菌の増殖を抑制できる。EMDタンパク質の基本的行動特徴に基づき(jpc参照)また、作用は殺菌性ではないことから、観察された作用のもっともな説明は、タンパク質凝集体は、微生物を必要増殖物質から分離する不溶性バリアを形成するということである。
【0185】
実施例3
インビトロにおけるActinomyces viscosusの付着速度に対するEMDの効果
導入
重篤な歯周炎に関わっているとは通常考えられていないものの、歯垢を広範囲に生じさせる口内細菌であるActinomyces viscosusが最初に付着するのに抗するEMDの効果を調査した。この細菌はPorphyromonas gingivalisと凝集体を形成し、その結果歯周炎を起こす可能性のある病原体と歯根の表面でのコロニー形成に影響を与えるかもしれないが、Actinomyces sppは健康に良くない歯肉の部位にかなり大きな比率で存在している(これらの発見は、歯周炎の治療を行った後ではActinomyces spp.の比率が有意に減少するということを明らかにした、Lijemark et al, Microbiol. Immunol. 8, 1993, pp767-776に記載された発見で確認されている)。HaffajeeらのJ. Clin. Periodont. 24, 1997, pp.767-776では、患者において、良くない歯肉のプラークに存在する微生物の数がA. viscosusやT. denticolaがかなり多くなっている最初の歯周炎の治療に良好に反応することより結論づけている。
【0186】
材料
Actinomyces viscosus HG85はA. J. van Winkelhoff博士(Dept. of Oral Microbiology, ACTA)によって提供してもらった。エムドゲイン(Emdogain:登録商標)は、BIORA(Malmo Sweeden)から入手した。RBS洗浄剤はFluka(Fluka Chemie AG, Buchs, Switzerland)より購入した。
【0187】
細菌の増殖と採取
A. viscosusを、シャドラー(Schaedler)のブロス培地中37℃で24時間、バッチ培養を行う血液寒天プレートに接種した。この培養物は16時間増殖させるシャドラーのブロス培地中の二次培養物に接種するために用いた。細胞を遠心分離(6500×gで5分間)して採取し、脱塩水で二度洗浄した。続いて微生物を30Wで20秒間超音波処理(Vibra Cell model 375, Sonics and Materials Inc., Danbury, CT, USA)することによって、細菌の鎖及び凝集を破壊した。超音波処理は、氷と水の入った浴中で冷却しながら断続的に行った。細胞はBurker-Turker細胞カウンターを用いて計数した。最後にA. viscosusを付着性緩衝液(2mMの燐酸カリウム、50mMの塩化カリウム及び1mMの塩化カルシウム、pH6.8)に懸濁した。
【0188】
ガラスプレートの被覆
ガラスプレートを、5%のRBS洗浄剤中で超音波処理して入念に洗浄し、蛇口からの水である程度すすぎを行ってからメタノールで洗浄、そして最後に蒸留水ですすいだ。この工程で水の接触角が0度になる。EMDを、濃度7.5mg/mlで0.01Mの酢酸に溶解した。そのガラスプレートを、テフロン(登録商標)マーカー(DAKO A/S、Glostrup, Denmark)を用いることによって二等分した。酢酸(0.01M)を一方に与え、250μgのEMDを他方に与えた。ガラスプレートをフローキャビネットで4〜6時間空気乾燥した。
【0189】
フロー実験
この実験で用いたフローチャンバー及びコンピュータシステムが図3に概略的に示されている。各実験を行う前に全てのチューブとフローチャンバーを同様に、そのシステムに気泡が入らないように注意を払いつつ付着緩衝液で充填した。被覆したガラスプレートによってそのフローチャンバーの底部を形成した。流速は2.5ml/分(ヒトの唾液の平均流速に匹敵する)にセットした。細菌の懸濁液を約3〜4時間、このシステムを通して循環し、基質に付着する細菌の数を計数した。三つの独立実験を行った。全ての実験は250mlの付着緩衝液あたり3×108 個の細胞を用いて行った。この実験の間、対照プレートとEMD被覆プレートの両方について、6箇所の予め決めた部位で10〜15分毎に画像をとった。この平行型フローチャンバーのチャンネルの高さは0.6mmであった。
【0190】
データ分析
全ての画像において付着している細胞を計数した後、データを1平方センチメートルあたりの細菌数に変換した。それぞれの実験で1cm2あたりの微生物の最終的な数は統計解析(実験番号としてnを用いるペア観測に対するスチューデントt検定)で用いた。
【0191】
結果
実験1(図4)は、特に初めの150分間の流れの間に、付着した微生物の量が徐々に増加することを示している。この時間が経過した後、EMDに付着した微生物の数は1cm2 あたり2.0×106 個のプラトーに達し、それはガラスプレートを酢酸処理したものよりも約4倍多かった。
【0192】
また実験2(図5)では、基質へのA. viscosusの付着をEMDがかなり劇的に刺激した。しかしながらこの実験の開始時にはその効果ははっきりしていなかった。おそらくこれは、このフローシステムで用いた微生物の密度が低いことに起因していたのであろう。90分後にはEMDに付着する細菌数は対照に比較して徐々に増加し、3時間後には3倍である、1cm2あたり1.4×106個という最大数に達した。
【0193】
3番目の実験(図6)は、フローを既に5分間行った後でEMD被覆したプレートへのA. viscosusの付着が刺激されることを示した。EMDは、初めの45分間の間に付着した微生物数の急速な増加をもたらした。それ以後は徐々に付着し続けた。酢酸処理した側への付着も同様のパターンを示したが、微生物の付着は少なかった。200分経過後、EMD被覆したプレートへの付着は酢酸処理した表面への付着よりも2倍多かった。
【0194】
3つの実験ではともに、差異が統計学的に有意(p<0.05)であることが証明された。
【0195】
これらの結果から、ガラス表面への被覆剤として用いたEMDがA. viscosusの付着に対してインビトロで相当な刺激効果を持つことが明らかである。因子がこの高められた最初の付着に反応することはまだわかっていないが、商業的に入手可能なタンパク質混合物のアメロゲニン成分に豊富に存在するプロリン残基と微生物が相互作用すると推測される。細菌の付着は特定のタンパク質−ペプチドやレクチン−炭水化物の認識によって決ってくることがよくある。タイプ1のフィムブリエを持つA. viscosusは、プロリン−リッチタンパク質である例えば唾液のプロリン−リッチタンパク質(PRP)やI型及びIII型のコラーゲンに結合できることがわかっている。
【0196】
EMDとある種の口内微生物との間に特殊な相互作用があると、そのプラークのエコロジーが変化する可能性があるため、口腔内のバイオフィルムの組成に重要な結果が残ることになると考えられる。もしも生態学上の変化が歯周病と関連のない微生物を促進する方向に起きた場合には、EMDを適用すると、まさにその作用によって結果的に歯周病の症状を改善できることになる。これはもちろん、EMDが持つ他の有用な効果とは全く別である。
【0197】
実施例4
インビトロにおけるStreptococcus mutansの付着速度に対するEMDの効果
導入
歯周炎や虫歯のような口内疾患の病因論において、プラーク微生物の原因的な役割についての主要な証拠がある。歯肉上のプラークの形成についての最近のモデルによると、Streptococcus spp.は歯の表面で優位を占めるコロニー形成物であると考えられている。続いてプラークは、細菌が成長してさらに他の種の細菌が融合することによって大きくなる。この融合は細菌-細菌結合を介して起こるかもしれないし、あるいは唾液の分子によって仲介されるかもしれない。またプラークの形成は、細胞外の巨大分子の産生によっても助長される。ここでS. mutansは、虫歯に関連することから最も身近な注意を引く根拠となるバイオフィルムの種類のうちの一つであると考えられる。数種のグラム陽性菌(即ち、S. mutans)はノトバイオート動物で歯槽の骨の消失を引き起こすことがわかっているが、これらの微生物が、大きくなりつつある歯周病ポケットのエコロジーに対する主要な寄与体であることは明らかになっていない。それにもかかわらず潜在的に病原性のある微生物は、宿主組織の最初の破壊をするのはもちろんのこと、宿主の防御機構も免疫機構もかわす能力がそなわっていなくてはならない。
【0198】
材料
Streptococcus mutans NSは、H. van der Mei博士(Materia Technica, University of Groningen)のご厚意により提供された。エムドゲイン(EMDOGAIN:登録商標)は、BIORA(Malmo Sweeden)から入手した。RBS洗浄剤はFluka(Fluka Chemie AG, Buchs, Switzerland)より購入した。
【0199】
細菌の増殖と採取
S. mutansを、トッドヘヴィット(Todd Hewitt)のブロス培地中、37℃で24時間、バッチ培養を行う血液寒天プレートに接種した。この培養物は16時間増殖させるトッドヘヴィットのブロス培地中の二次培養物に接種するために用いた。細胞を遠心分離(6500×gで5分間)して採取し、脱塩水で二度洗浄した。続いて微生物を30Wで20秒間超音波処理(Vibra Cell model 375, Sonics and Materials Inc., Danbury, CT, USA)することによって、細菌の鎖及び凝集を破壊した。超音波処理は、氷と水の入った浴中で冷却しながら断続的に行った。細胞はBurker-Turker細胞カウンターを用いて計数した。最後にS. mutansを付着性緩衝液(2mMの燐酸カリウム、50mMの塩化カリウム及び1mMの塩化カルシウム、pH6.8)に懸濁した。
【0200】
ガラスプレートの被覆
ガラスプレートを、5%のRBS洗浄剤中で超音波処理して入念に洗浄し、蛇口からの水である程度すすぎを行ってからメタノールで洗浄、そして最後に蒸留水ですすいだ。この工程で水の接触角が0度になる。EMDを、濃度7.5mg/mlで0.01Mの酢酸に溶解した。そのガラスプレートを、テフロンマーカー(DAKO A/S、Glostrup, Denmark)を用いることによって二等分した。酢酸(0.01M)を一方に与え、250μgのEMDを他方に与えた。ガラスプレートをフローキャビネットで4〜6時間空気乾燥した。
【0201】
フロー実験
この実験で用いたフローチャンバー及びコンピュータシステムが図3に概略的に示されている。各実験を行う前に全てのチューブとフローチャンバーを同様に、そのシステムに気泡が入らないように注意を払いつつ付着緩衝液で充填した。被覆したガラスプレートによってそのフローチャンバーの底部を形成した。流速は2.5ml/分(ヒトの唾液の平均流速に匹敵する)にセットした。細菌の懸濁液を約3〜4時間、このシステムを通して循環し、基質に付着する細菌の数を計数した。三つの独立実験を行った。全ての実験は250mlの付着緩衝液あたり3×108 個の細胞を用いて行った。この実験の間、対照プレートとEMD被覆プレートの両方について、6箇所の予め決めた部位で10〜15分毎に画像をとった。この平行型フローチャンバーのチャンネルの高さは0.6mmであった。
【0202】
データ分析
全ての画像において付着している細胞を計数した後、データを1平方センチメートルあたりの細菌数に変換した。それぞれの実験で1cm2あたりの微生物の最終的な数は統計解析(実験番号としてnを用いるペア観測に対するスチューデントt検定)で用いた。
【0203】
結果
3つのそれぞれの実験では、EMDがS. mutansの付着速度に阻害効果を示した(図7、8、9;p<0.05)。阻害作用は、酢酸処理した対照と比較して約40〜70%に実質上達した。
【0204】
初めの実験(図7)は、フローをすでに10分間行った後でEMD被覆したガラス表面に付着するS. mutansの付着量が阻害されることを示した。3時間の付着を行った後では、対照の約60%が阻害されていた。
【0205】
2番目の実験(図8)では、EMPはフローを1時間半行った後でS. mutansの付着を阻害し始めた。S. mutansのEMDへの付着数は、フローを約40分間行った後では1cm2あたり50万個のプラトー状態に達した。3時間半経過した時点では付着数は対照に比較して約25%であった。
【0206】
3番目の実験(図9)では、フロー工程を始めてからすでにEMDの影響の下でS. mutansの付着の阻害が起きることを示した。実験1と同様に、3時間フローを行った後では対照の値の60%まで阻害量が実質上のぼっていた。
【0207】
これらの研究は、EMDが、S. mutansがガラス表面に付着するのに対して有為な阻害効果を持つことを示している。この阻害について可能な解釈は、EMD混合物中に疎水性の化合物が存在する可能性であろう。その混合物中に豊富に存在するタンパク質の一つはアメロゲニンであり、それは酸性で疎水性のC末端配列を持つ他に、プロリン、ロイシン、メチオニン及びグルタミンが多い100〜300個の残基を含む疎水性のコア部分を持っている。SaitoらはArch. Oral Biol. 42, 1997, pp. 539-545で、固定化した疎水性タンパク質(OAIS)へのさまざまなS. mutans菌株の付着が阻害されることを見いだした。彼らは、その効果は微生物の細胞表面における負のチャージによるもの(微生物がS. mutansの場合)としていた。その他の表面の特徴も基質に好んで付着することに関与すると考えられる。S. mutansは、特にアラニンが多いN末端部分を有しかつタンデムリピートを含んでいる表面抗原I/IIを有している。この領域は、渦巻状になったコイル形状をとっているアルファ−ヘリックスであると推測され、そして抗原I/IIの発現が関与する細胞表面の疎水性の原因となる。
【0208】
実施例5
ある種の歯周病原菌の増殖に対するEMDの効果
Prevotella intermedia及びPorphyromonas gingivalisを、適当な広口ビン内でGasPakPlusエンベロープによって発生させた好気性環境下で、0.5ml/lのビタミンKと5mg/lのヘミンを補充したチオグリコレートブロス中、37℃で10〜16時間前培養した。その培養物が、1mlあたり106〜107cfu(コロニー形成単位)の細胞密度に対応するOD600が0.1〜0.2に達した時に、100μlのアリコートを採取して細菌を遠心分離によって沈降させた。その細菌をヒト血清と滅菌食塩水からなる新しく調製した混合液100μlに再懸濁してから、その105〜106個の細胞を含む懸濁液を滅菌済みの1.5mlのエッペンドルフチューブに移し、(i)100μlのEMD調製液(0.1mlのPGA中に3mgのEMDを入れた液)、(ii)100μlのPGAビヒクル、または(iii)増殖の対照として100μlの血清/NaCl溶液の混合液、のいずれかと混合した。増殖検定を行うための10μlのアリコートを0、3、6及び24時間後に採取した。そのアリコートを連続して滅菌性の0.9%NaCl溶液で希釈し、そしてその希釈工程で得た10μlをシャドラー(Schaedler)の寒天上にプレーティングした。培養条件は前培養と同じであった。寒天プレートを3〜4日間培養し、それからcfuと細胞密度(cfu/ml)を算出した。全ての実験は6回繰り返した。
【0209】
結果(開始時点の濃度のパーセントでcfu/mlが示されている)。


【0210】
この培養物は、ビヒクル単体かEMDが添加されていない対照と比較してEMDが存在すると顕著に阻害された。
【0211】
実施例6
歯周の外科手術後においてEMDOGAIN(登録商標)が改良された柔軟組織の傷を回復させる効果についての研究
この実施例の目的は、歯周の外科手術を行った後の改良された柔軟組織の傷の回復にエナメル質のマトリックス誘導体かエナメル質のマトリックスタンパク質が影響することを示すことにある。
【0212】
50匹以上のマカカモンキー(Macaca monkey)の歯の端の歯周に実験的な欠陥を、歯科用バールで歯頚−尖端の距離が約5mmになるように歯科用セメントと歯周膜と端の歯槽の骨を除去することによって形成した。何もしなかった(対照)またはエナメルマトリックス誘導体(再構成しない凍結乾燥した粉末としてかあるいは再構成した組成物としてのいずれかのEMDOGAIN(登録商標)から得られる)にもとづいてその実験用欠陥を適用した。再構成した組成物におけるタンパク質の濃度は約5〜30mg/mlであり、また適用した容量は1つの欠陥あたり約0.1〜約0.2mlの範囲内であった。
【0213】
傷の治癒はその後の8週間の間に目で見て評価した。EMDOGAIN(登録商標)を適用した欠陥では、良好な治癒(赤みや腫れがない)がなされ、縫合糸を除去した2週間後には無視してよいほどのプラークになり、5週間後にはうまく治癒してほとんど歯肉炎はなくなって、さらに8週間後には合併症もなく治癒し、この時点で実験を終了した。対照的に対照の欠陥は、2週間後には収縮とたくさんのプラークを伴って炎症を起こし、5週間後も8週間後も重症の収縮と歯肉炎を起こしていた。
【0214】
実施例7
歯周の外科手術後におけるエナメルマトリックス誘導体及びエナメルマトリックスタンパク質の傷を治癒する効果についての研究
この実施例の目的は、歯周の外科手術を行った後の患者で起こる急速な傷の回復に対してエナメル質のマトリックス誘導体とエナメル質のマトリックスタンパク質が影響することを示すことにある。
【0215】
歯周の外科的手術を必要としている55人の患者を二つのグループに分け、一方のグループには変形Widmanフラップ法(20人の患者)で従来型の手術を行い、またもう一方のグループには同じ手法にEMDOGAIN(登録商標)(35人の患者)の適用をプラスして行った(濃度は30mgのタンパク質/mlで、歯一本あたり約0.3mlを適用した)。外科手術の時点でどの患者にも抗生物質を投与しなかったが、皆に感染予防の口洗浄剤(クロルヘキシジン)を毎日用いるように指導した。
【0216】
患者に対して積極的な質問は縫合糸を除去する時点(外科手術後1〜3週間)で行った。対照の患者のうち3人(15%)が外科手術後に抗生物質を必要としたが、EMDOGAIN(登録商標)処理をした患者では1人(3%)だけがそのような治療を必要とした。
【0217】
実施例8
抜歯後におけるエナメルマトリックス誘導体及びエナメルマトリックスタンパク質の傷を治癒する効果についての研究
この実施例の目的は、第3臼歯を抜いた後の傷の治癒に対するエナメルタンパク質/エナメルマトリックス誘導体の影響について示すことにある。
【0218】
対称性の悪い影響を与えるかやや悪い影響を与える、除去が必要となっている下顎の第3臼歯を持った30才またはそれ以上の年齢の患者は、必要な骨切除および骨切開を行うために垂直の組織弁を立てる工程が関わる従来からの方法によって一本の第3臼歯を抜取り、これに対して2本目は抜取ってから縫合する前に歯槽にEMDOGAIN(登録商標)を充填した。全ての患者には手術を行う1〜2時間前に抗生物質(3gのアモキシリンまたは1gのエリスロマイシン)を投与し、また手術の後にイブプロフェン(600mg×3)を与えた。それから彼らに、クロルヘキシジン(0〜1%、10ml×2)で4週間すすぐように指示した。
【0219】
縫合糸は2週間後に抜糸した。EMDOGAIN(登録商標)と対照部位の治癒は患者と歯科医の両者によって評価した。一つの核心では、9人の患者はEMDOGAIN(登録商標)を用いた場合または用いない場合で反対側に抜歯が行われていた。一人の患者では両方の部位で縫合部分からわずかな炎症が見られ、これに対して別の患者では対照部位で深刻な痛みがあったが、EMDOGAIN(登録商標)の処理部位では何の問題もなかった。第2の核心では、6人の患者は別にして3人の患者が対照部位からだけ痛みを発していた。最後に第3の核心では、1人の患者は重篤な状態である歯槽炎になったが、それは患者の対照部位で診断された。EMDOGAIN(登録商標)処理をした部位は問題なく治癒した。別の患者は両方の抜歯部位で縫合部分からわずかに炎症を起こしたが、対照の部位は炎症を起こして痛みを生じ、塩水を用いた洗浄と鎮痛剤の投与が繰り返し必要となった。
【0220】
これらの臨床的な結果は、親しらずを抜いた後の抜歯した歯茎にEMDOGAIN(登録商標)を適用すると治癒力を改善できるとともに、そうでなければよく起こる痛みを伴った腫れを減少できることを示している。
【0221】
実施例9
乾性歯槽炎(alveolitis sicca)を治癒する場合のエナメルマトリックス誘導体及びエナメルマトリックスタンパク質の効果についての研究
この実施例の目的は、乾性歯槽炎(乾性歯槽)の治癒に対するエナメルタンパク質/エナメルマトリックス誘導体の影響について示すことにある。
【0222】
感染した35の根の残存組織を除去した後で、70才の男性患者は抜いた歯茎が関連する激しい痛みや腫れを経験した。歯医者が調べると、患者は乾性歯槽炎の状態を発症していることが明らかになり、そこでは最初の凝血が分解して歯槽の歯の面が壊死していた。隣接する骨及び柔軟組織は炎症を起こしていた。
【0223】
その患者には心臓疾患の病歴があり、抗凝血剤のマレバン(Marevan)で治療していた。彼の状態が結果的に、末梢の血液循環を減少させた。また彼は普段から1日に数本のタバコを吸っていた。
【0224】
歯槽炎は、壊死した骨を除去する従来の方法で、新たな出血を伴って治療した。また歯肉を移動させて、縫合を歯茎近くで行った。その後患者をペニシリン(アポシリン660mg、朝と夜に2錠、7日間)で治療することによって感染を抑え、またクロルヘキシジン溶液で1日に2回口をすすぐように指導した。5日経過後、彼の抗生物質の計画が終わってから患者は歯科医院で診察を受け、いまだに深刻な痛みがあることを訴えた。手術した領域の診察を視覚的に行うとともに触診及び探針によって行ったところ、歯槽炎が残っていて、壊死した骨がさらに存在していることがわかった。X線検査から、歯茎の先端部分に向かって下方にずっと骨の破壊と壊死が起きていることが明らかになった。手術した領域をもう一度洗い流し、得られた骨の病変をEMDOGAIN(登録商標)(30mg/ml、最大0.5mlを適用した)で満たし、それから新しい縫合を歯槽近くの歯肉で行った。何の追加治療も施さなかったが、その患者はクロルヘキシジン溶液でうがいはし続けるように言われた。2日後、その患者は痛みも腫れも消えたことを歯科医院に報告した。EMDOGAIN(登録商標)治療をした1週間後の臨床的な検査及び縫合糸の抜糸によって、壊死した組織や炎症の兆候もなく良好に治癒したことが明らかになり、無傷の歯肉が赤身や晴れを生じることなく傷の領域を覆っていた。探針検査や触診を行っても出血や痛みはなかった。悪い臭いも味も、また浸出物もないことが観察できた。その患者からは何の痛みも他の症状の発見も報告がなかった。
【0225】
実施例10
乾性歯槽炎(alveolitis sicca)に対するエナメルマトリックス誘導体及びエナメルマトリックスタンパク質の予防的効果についての研究
この実施例の目的は、乾性歯槽炎を妨げるエナメルマトリックス誘導体およびエナメルマトリックスタンパク質の予防的効果について示すことにある。
【0226】
82才の老人の女性患者は、44番目の歯の根が縦方向に割れるという経験をした。この歯は35〜46番目の歯にわたってブリッジをかける柱となっていて、数年前に歯内治療を行っていた。臨床的にその歯を取り巻く歯肉は炎症を起こしており、舌のある方の歯の頂点にずっと歯肉ポケットができていた。X線は、44番目の歯の深刻な局所的歯根膜炎を示した。
【0227】
この患者の口内は良好な清潔さであったが、マレバン(Marevan)(抗−凝血剤)で治療を受けている健康状態のせいで、プローブで刺激すると簡単に歯肉から出血した。6カ月前その患者は、重症の歯根膜炎によって外科的に35番目の歯を抜歯した。その手術の後で彼女は、乾性歯槽炎の状態が長く続く経験をした。彼女はその時に経験した同じ手術後の合併症を、44番目の抜歯で引き起こさないかと非常に懸念していた。彼女には、高齢、マレバン治療並びに感染した根及び歯肉ポケットが組合わさって歯槽炎のような手術後の合併症が起きるリスクが非常に高まるが、根の断片を外科的に除去する以外に方法はないことを説明した。
【0228】
その患者は44番目の歯を除去すること、そして実験的にEMDOGAIN(登録商標)を用いる予防的治療を行うことによって、乾性歯槽炎が発症するのを抑制することに同意した。その患者は切開して麻酔を受け、ブリッジをゆるめることなく根の断片を除去できるように頬側の骨を除去した。除去し終えた後で空になった歯槽を機械的に清掃し、EMDOGAIN(登録商標)(30mg/ml、最大0.5mlを適用した)で満たしてからその組織弁を一本の縫合糸で位置を変えた。その夜、患者は手術部位からだらだらと出血している(マレバン治療を手術の前に止めなかった)が、他の症状はないと(電話で)報告した。縫合糸を手術の5日後に除去したが、手術の軟組織は完全に治癒していた。その患者は手術後の痛みや腫れのような症状の報告をすることはなく、概してその治療に非常に喜んでいた。
【0229】
実施例11
外傷後の合併症の治癒に対するエナメルマトリックス誘導体及びエナメルマトリックスタンパク質の効果についての研究
この実施例の目的は、患者の外傷後の合併症を治癒する場合のエナメルタンパク質/エナメルマトリックス誘導体の影響について示すことにある。
【0230】
事故後の患者は上の前歯に痛みが襲っていて、その歯は救急医院で結紮された。歯科医は、11番目と21番目の歯は生きておらず、12番目と22番目の歯は、クラスIかIIの中間-切縁破断をしていた。端の歯肉はひどい炎症を起こしていて、歯の表面に満足にくっついていなかった。その患者には痛みがあり、痲痺、腫れ、及び悪い味と臭いを訴えた。11番目と12番目の歯の先端領域で歯周の靭帯が損傷している証拠もあった。2本のまん中の切り歯は清掃して根を新しく混合したCa(OH)2で満たした。
【0231】
4週間経過した後でもまだなお傷の回復は思わしくないと判断された。症状は慢性の炎症に変化しており、歯は失ったも同然であった。この症状の標準的に行われる治療法は、4本全ての切り歯を抜きとり、ブリッジか入れ歯を形成することであると考えられる。しかしながら患者は強くこの治療法を拒み、歯を救う最後の手段として歯肉の組織弁外科法が4本全ての外傷を受けた歯(11、12、21、22)に対して行なわれた。EMDOGAIN(登録商標)の入った2本のバイアルを用いた(3ml中に60mg含まれる)。その組織弁を7針で縫合して戻す前に、歯1本あたり最大0.2mlのEMDOGAIN(登録商標)(30mg/ml)を注入器で適用した。縫合糸の4箇所は手術後5日で除去した。その際、本質的かつ臨床的な状態は顕著に改善していた。その患者はもはや痛みを訴えることがなく、痲痺は消え去りそして外傷を受けた領域から悪い臭いや味はしなくなった。2週間後に残っていた縫合糸を抜糸した。歯肉には何ら炎症の兆候は見えず、患者は何も訴えなかった。歯肉は健全であって、炎症の兆候はなかった。即ち歯肉はしっかりと歯および/または歯槽骨にくっついていて、色はピンク色(炎症のある領域で見られるような明確な赤ではない)、そして歯の間の乳頭状突起は正常(腫れていない)であった。そのうえ顕著な改善は、X線検査で可視化してわかるように、外傷を受けた部分の歯に歯周靭帯が再出現したこと、及び新しい歯茎が沈着したこととして観察された。
【0232】
実施例12
隣接した歯と神経における外傷の治癒
症例報告
年齢39才の女性患者は、左下の親知らず(38)の周りにひどい歯冠周囲炎を起こしていた。公立の歯科医院でその歯は、顎の中の歯の先端の半分を残して部分的に除去されており、その後でその治療による骨の破壊が起きていた。痛みがあってその患者は専門家に、後日その骨の断片を外科的に除去する口内の手術を委託した。
【0233】
手術の2日後その患者は、検査のために彼女の行きつけの歯科医に会いに行った。彼女は左側が腫れており、左下顎の神経が持続的に完全に遮断されていることが所見できた。臨床的な検査とX線写真により、手術を行った際にドリルによってひどい損傷が、顎の骨である37番目の歯の末端の根の先端3分の1と、下顎の神経腔とに加わったことがわかった(図1AのX線写真参照)。37番目の歯のポケットの深さをプローブで調べると、末端根の頂点を通る歯冠の上部から25mmであった。
【0234】
骨と神経の治癒と37番目の歯で失った歯周靭帯の再生成を誘導しようとする際、その手術の傷を開いて注意深く洗浄した。塩水で創傷清拭したあとで、露出した骨、37番目の歯の末端根の表面及び下顎の神経をEMDOGAIN(登録商標)(30mg/ml、余分であるが約1mlを適用した)で覆い、その傷を3針でまとめて縫合した。彼女はクロルヘキシジン溶液(Corsodyl(登録商標))でその後5日間、1日に二度口をすすぐように指導され、5日間のペニシリン(アンピシリン、660mg×4)を用いた予防法を開始した。
【0235】
10日後にその患者は検査のために再来し、縫合糸を抜糸した。この時点では腫脹はなくなり軟組織の治癒は非常に良好であった。しかしながら下顎の神経の完全な痲痺は持続していて、その患者には断裂している神経の予後がいくらよく見ても不明であることを知らせた。この時点では痲痺があるため、37番目の歯の生存能力を試験することは不可能になっていた。ここに示した人のような根の損傷は、通常、歯髄の壊死や歯の強直症に陥る。これらの合併症を抑制するためには口内治療が指示される。しかしながら実験的な治療が歯周靭帯の回復を促進できるかどうかを見極めるために、患者はそれを行っている間非治療の歯をそのままにすることに同意した。その後その患者は、月単位の管理を行うために計画が組まれた。
【0236】
上記の管理を始めてから2カ月後、その患者は左の下唇に、神経回復のサインである局所的知覚過敏が起きた。37〜38番目の領域の軟組織は傷跡もなく完全に治癒していた。またX線によっても、抜いた歯槽に形成されている新しい骨が示された。37番目の歯とその周りの組織は依然として痲痺が残っていた。
【0237】
治療の4カ月後、痲痺が消え去り37番目の歯の生存性について試験したが、温度感受性のテストでも電気的なテストでも過敏性であった。X線は、抜いた歯槽に骨が入ったことが重要である点、及び37番目の歯の末端根での歯周が再生成した兆候がある点を示した。
【0238】
EMDOGAIN(登録商標)を用いて最初に治療を行った5カ月後、37番目の歯の生存可能性を通常どおりテストした。この時点では機能的な歯周靭帯の完全な再生成がX線で明らかになっており(図1B)、また外観は正常な新しく形成された歯槽骨が骨の欠陥部分と抜き取った歯槽とを充填していた。強直症の兆候はなかった。37番目の歯で末端の深さを探索するポケットはほんの10mmしかなく、セメントエナメル質の連結部の下はおよそ1mmであった。この管理を行った後、その患者は完全に治癒したとして開放され、1年たった時に一般的に受診するようにスケジュールが組まれた。
【0239】
コメント
親しらずを外科的に抜いた後で隣接する歯や神経に起きた外傷性の傷が完全かつ急速に治癒することはまれである。一般に上記に報告した合併症と同程度深刻な合併症は、損傷した歯を完全に除去することで終結するか、または少なくとも歯の歯髄を口内除去して根の充填を行い、その後強直することで骨が治癒する。神経を妨害している場合は、回復するとしても、通常回復するのに8カ月から12カ月かかり、そして感覚異常を伴っている領域は数年かかることがしばしばである。上記に報告した治癒の迅速かつ良好な質は非常に並外れたものであって、EMDOGAIN(登録商標)の傷回復能力についてのサインに注目すべきである。
【0240】
X線
A:38番目の歯を抜歯してから2日経過した患者。37番目の歯の大きく欠損した末端と、下顎管の関与に注目されたい。また37番目の歯の遠心頬側の歯槽骨は手術の際に除去されている。
B:手術後5カ月経過した患者。37番目の歯の根の末端部分で欠損していた機能的な歯周靭帯(硬膜層)が完成する兆候に注目されたい。強直症の兆候はない。下顎管の外形がここでは見ることができ、その抜き取った歯槽は完全に骨でいっぱいになっている。また、37番目の歯の周りに形成されている新しい遠心頬側の歯槽骨にも注目されたい。
【0241】
実施例13
下肢無痛潰瘍(静脈の潰瘍)の治癒に対するエナメルマトリックス誘導体及びエナメルマトリックスタンパク質の効果についての研究
患者1
患者は1926年生まれの男性で、予後の良くない血栓症症候群を伴う再発性血栓症と、再発性の静脈潰瘍の病歴があった。彼は抗凝血剤であるクマリン誘導体で全身的に治療しており、潰瘍はCrupodex(デキストランモノマー)BIOGALと3%のホウ酸溶液を用いて局所的に治療した。
【0242】
EMDOGAIN(登録商標)を用いて治療を開始した時点で彼は、大きさが5×4cmの楕円形で深さが0.5mmであり、上皮形成が非常に悪い状態の顆粒段階になっている静脈潰瘍にかかっていた。
【0243】
その傷を3%のH2O2で消毒し、500μlのEMDOGAIN(登録商標)を滅菌性の棒を用いる方法で滴下して一様に行きわたらせた。そのEMDOGAIN(登録商標)を10分間空気にさらして放置してからその傷を、10%のポビドン(Povidone)ヨード軟膏を含浸させたイナジン(Johnson & Johnson)レーヨン包帯で覆った。
【0244】
5日経過後、その潰瘍に隣接する部分で上皮形成が起こって潰瘍は1.8×2.2cmに減少し、何の副作用(炎症)もなかった。EMDOGAIN(登録商標)は適用しなかった。12日後には隣接する部分でさらに上皮形成が起こるとともに横の部分でも新しく上皮形成が、約2×2cmの範囲内で起こった。潰瘍のほとんど半分が治癒した。400μlのEMDOGAIN(登録商標)を適用した。
【0245】
19日後には、その潰瘍の隣接部分と横の部分でさらに上皮形成が起こったが、潰瘍がさらに深い(約1mm)末端部分では起こらなかった。その潰瘍の半分以上が治癒していた。300μlのEMDOGAIN(登録商標)を適用した。EMDOGAIN(登録商標)を用いた治療を開始してからその患者は潰瘍に何の痛みも感じなかったが、それはその治療を開始する前に痛みを感じていたのと対照的であった。その後は40日まで1週間に1度EMDOGAIN(登録商標)を適用し(200μlで)、潰瘍は47日後に完全に治癒したと思われた。
【0246】
患者2
患者は1949年生まれの女性で、静脈瘤、慢性の静脈機能不全及び再発性の静脈潰瘍を患っていた。彼女は、エクセマバリコサム(excema varicosum)はもちろん、医薬品製剤(薬物、医薬品)に対して多価のアレルギーを持っていた。彼女は以前にも、オトスポリンドロップ(Otosporin drops)(ポリミキシンB硫酸塩+ネオマイシン硫酸塩+ヒドロコルチゾン)とヒドロコルチゾンパップで局所的に治療を行っていた。
【0247】
EMDOGAIN(登録商標)を用いて治療を開始した時点で彼女の静脈潰瘍は直径が1cmで深さが2mmであった。300μlのEMDOGAIN(登録商標)を適用した。
【0248】
5日経過後、その傷の周り(境界線上)2mmが上皮形成され、何の副作用(炎症)もなかった。EMDOGAIN(登録商標)は適用しなかった。12日後には潰瘍の大きさは直径が約2mmに小さくなっており、100μlのEMDOGAIN(登録商標)を適用した。
【0249】
19日後にはその潰瘍は直径が約2mmのままであったが、底部がうまく顆粒化されていて、潰瘍はそれほど深くはなかった(約0.2mm)。100μlのEMDOGAIN(登録商標)を適用した。
【0250】
その同じ患者はもう一方の脚部にも約0.3×1cmの別の潰瘍を患っていた。200μlのEMDOGAIN(登録商標)を適用した。
【0251】
7日経過後、新しい上皮形成が起きていて、底部はうまく顆粒化され、大きさが約0.2×0.5cmに減少していた。
【0252】
それから100μlのEMDOGAIN(登録商標)をそれぞれの潰瘍に1週間に1度、40日まで適用したところ、潰瘍は47日後に完全に治癒したと思われた。EMDOGAIN(登録商標)に対しては何らアレルギー反応は観察されなかった。
【0253】
同じ脚部に約0.5×0.3cmの大きさの別の潰瘍が形成されており、それに対しては100μlのENDOGAIN(登録商標)を適用した。
【0254】
患者3
患者は1929年生まれの女性で、丹毒のあとに深い静脈血栓症にかかっており、EMDOGAIN(登録商標)を用いて治療を開始した時点で彼女には、大きさが約15×19cmで徐々に進行している段階にある非常に大きな下肢無痛潰瘍があり、その潰瘍は種々の治療を行ったあとでほとんど望みがないと考えられていた。700μlのEMDOGAIN(登録商標)を、上部の端から約3cmの領域に適用した。
【0255】
7日経過後、上皮形成は起きていなかったが、治療した領域は顆粒化がわずかに分散した領域を含んで透明度が高くなっており(より構造様になっており)、そしてこの領域に痛みはなく、また進行する兆候もなかった。700μlのEMDOGAIN(登録商標)を同じ領域に適用した。
【0256】
4週間後その患者は、EMDOGAIN(登録商標)で治療しなかった潰瘍の離れた部分に、Pseudomonasによって生じたと考えられる感染症を発症した。700μlのEMDOGAIN(登録商標)を適用した。その感染症は7日後に消失した。
【0257】
患者4
患者は1947年生まれの女性で、丹毒のあとに表在性の血栓静脈炎を伴う静脈瘤にかかっており、EMDOGAIN(登録商標)を用いて治療を開始した時点で彼女には、大きさが約2×0.8cmで透明ではあるが底部に顆粒はない下肢無痛潰瘍があった。300μlのEMDOGAIN(登録商標)を適用した。
【0258】
7日経過後、潰瘍の大きさは約0.7×0.3cmにまで小さくなり、上皮形成が全ての周辺で起きて顆粒化も底部で起きていた。200μlのEMDOGAIN(登録商標)を適用し、続いて100μlのEMDOGAIN(登録商標)を1週間に1度、5週間適用した。その潰瘍は5週間後に完全に治癒したと思われた。
【0259】
実施例14
平坦な表面部位で非外科的に歯周病治療するための補助的薬剤として用いられるEMDOGAIN(登録商標)
目的
この研究の目的は、EMDOGAIN(登録商標)の適用によって非外科的な歯周治療の治癒効果を改善できるかどうかを評価することにあった。この研究の特殊な目的は平坦な表面部位での効果を評価することであった。
【0260】
研究計画
この研究は、一個人内の6カ月間の長期にわたる試験として行われた。この研究は二重盲式、スプリット-マウス(split-mouth)、プラセボ-管理及び無作為化された設計であった。
【0261】
被検者
ゆっくりと進行している歯周病を治療するためにゲーテボルグ大学歯周病学分野の歯周病クリニックに14人の患者がかかった。
【0262】
封入のための特徴
・プローブポケットの深さが≧5mmである2つの対称性の4分割部分のそれぞれのうち少なくとも3つの平坦な歯の表面部位、及びプローブの深さが≧6mmである少なくとも一対の部位
・選択された歯は熱的な刺激や電気的な刺激によって測定できるように生きた歯髄を持っていなくてはならず、また根管治療を行うのであれば無症候性で技術的なリマース(remars)がないべきである。
【0263】
治療
基本ラインの調査の後、全ての患者には適切な歯肉上のプラークコントロールの測定をして実状の披露と指導が行われた。スケーリングと根の平面化が行われた。
【0264】
そのポケットから出血が起きた場合は24%のEDTAゲル(Biora AB, Swedenから入手した)を2分間そのポケットに供給した。その後そのポケットを注意深く塩水で潤してから、試験物質(EMDOGAIN(登録商標))または対照物質(PGAゲル)のいずれかを適用した。
【0265】
評価
基本ラインの調査、1週間、2週間、3週間、8週間及び24週間後の追跡調査には次の変数が含まれていた。
1.口内の清潔度の状態−プラークの有無
2.歯肉の状態−(歯肉の指標;Loe 1967)
3.プローブポケットの深さ
4.プローブの付着レベル
5.ブローブ操作を行った場合の出血−あるかないか(15秒間)
6.象牙質の過敏性−続いて行う空気ブラストの刺激(あるかないか)
7.不快感の度合−10cm<<可視化アナログスケール(Visual Analogue Scale:VAS)を用いた1週間、2週間及び3週間の追跡調査で記録する
【0266】


【0267】
結論
患者には、手術後の問題はなく、出血もなく、プラークもなく、そして歯肉の指標は改善された。これらの結果は、EMDOGAIN(登録商標)の傷を回復させる効果を支持していた。
【0268】
実施例15
ブタを用いた試験的な傷の回復研究
導入
目的
この試験的研究の目的は、ブタの厚みのある背中の分裂した傷が回復する工程を評価すること、またこれらの傷に対してEMDの効果を評価することである。
【0269】
この動物種を選択した理由
ブタはヒトで傷が回復するのを評価するための良いモデルであることがわかっているため、テスト用モデルとして選択した。
【0270】
材料及び方法
動物
この実験は4匹の雌のSPFブタ(デンマーク国産のヨークシャーとデュロックを掛け合わせた)で行うことができる。新環境に順応する期間の開始時にはその動物の体重は約35kgであるとよい。
【0271】
1週間の新環境順応期間は、不健康な状態を示している動物を拒絶するためにその動物を日常的に観察できる期間となりうる。全ての観察が記録されるとよい。
【0272】
ハウジング
この研究は、温度が21℃±3℃、相対湿度が55%±15%、そして空気の入れ替えが10回/時間にて濾過した空気を用いて提供された動物ルームで行うことができる。このルームは12時間は明るくそして12時間は暗くなるサイクルができるように照明が用いられる。光は6時から18時までオンになっているとよい。
【0273】
動物は、畜舎の中で個別にハウジングされているとよい。
【0274】
寝所
寝所は軟材のおがくず「LIGNOCEL H 3/4」を、Hahn & Co, D-24796 Bredenbek-Kronsburgから入手して用いることができる。関連のありうる汚染菌について一般的な分析が行われる。
【0275】
食餌
商業的に入手できるブタの餌「アルトロミン9033(Altromin 9033)」を、Chr. Petersen A/S, DK-4100 Ringstedから入手して与えるとよい(約800gを1日2回)。主要な栄養成分と関連のありうる汚染菌の分析が一般的に行われる。
【0276】
飲料水
1日に2回、家庭用の品質の飲料水を与えればよい。関連のありうる汚染菌についての分析が一般的に行われる。
【0277】
傷の形成
傷は1日目に形成することができる。動物をStresnil(登録商標)Vet. Janssen, Belgium(40mgのアザペロン/ml、1ml/10kg)を用いて麻酔し、Atropin DAK, Denmark(1mgのアトロピン/ml、0.5ml/10kg)を1回筋肉内注射し、続いてHypnodil(登録商標)Janssen, Belgium(50mgのメトミデート/ml、約2ml)を静脈注射する。
【0278】
その動物の背中の一方の側の背面領域を剃り、石鹸と水で洗ってから70%のエタノールで消毒し、それを滅菌性の塩水で洗い流して最後に滅菌ガーゼで乾燥する。
【0279】
厚みのある背中を切断した傷(25×25×0.4mm)を8箇所、ACCU−Dermatom(GA 630, Aesculap(登録商標))を用いて背骨のそれぞれの側に4箇所ずつ準備した領域に形成する。その傷は、動物の左側では1(最も頭の方)から4(最も尻尾の方)と番号をつけるとよく、またその動物の右側では5(最も頭の方)から8(最も尻尾の方)と番号をつけるとよい。
【0280】
凝固した血は滅菌したガーゼで除去するとよい。
【0281】
外科的手術を行う直前、手術を終わってから約8時間後、さらにその後は必要に応じてその動物にAnorfin(登録商標)A/S GEA, Denmark(0.3mgのブプレノルフィン/ml、0.04ml/kg)を筋肉内注射して投与する。
【0282】
投与量
傷を形成後、その傷には次のような治療が行われる。

A=対照
B=EMD
【0283】
投与する約15分前に、業者が提供した説明書に従ってEMD配合剤を調製する。そのEMD配合剤は調製後2時間以内に使用する。処理Bの傷に対してはEMDは傷表面に薄い層として適用する。1本のEMDバイアルを4箇所の傷に用いる。
【0284】
傷の外傷用医薬品材料
傷はTegaderm(登録商標)を用いて覆うとよい。この外傷用医薬品材料はFixomul(登録商標)によって固定されたガーゼの包帯で被覆することができる。この外傷用医薬品材料、ガーゼ及びFixomul(登録商標)はネット状のボデー用ストッキング、Bend-a-rete(登録商標)(Tesval, Italy)で保持するとよい。この外傷用医薬品材料は基本的に毎日観察する。
【0285】
この外傷用医薬品材料は2日(全ての動物)また3日(ナンバー3と4の動物)で交換するとよい。
【0286】
それぞれの交換の前に動物は、Zoletil 50(登録商標)Vet., Virbac, France(5mlの溶媒に入れた125mgのタイレットアミンと125mgのゾルアゼピン、5ml)、Rompun(登録商標)Vet., Bayer, Germany(20mgのキシラジン/ml、6.5ml)及びMethadon(登録商標)DAK, Nycomed DAK, Denmark(10mgのメサドン/ml、2.5ml)の混合物を首に筋肉内注射する(1.0ml/10kg体重)ことで麻酔する。
【0287】
傷の観察
それぞれの傷は2日(全ての動物)、3日(全ての動物)及び4日(ナンバー3と4の動物)後に観察し、写真を撮る。浸出作用及び炎症の度合を評価する。移植した表皮の出現は詳細に記載するとよい。
【0288】
臨床的な兆候
不健康と行動の変化の目に見える兆候はすべて毎日記録する。正常との偏差を開始時、持続時間及び強度に関して記録する。
【0289】
体重
動物は、到着時、傷を受けた時、及び研究が終了した時に体重を測る。
【0290】
最後の観察
3日後(傷を受けてから約56時間後)にナンバー1と2の動物を、ボルトピストルで気絶させた後で鎖骨下の静脈と動脈を切断して殺す。
【0291】
4日後(傷を受けてから約72時間後)にナンバー3と4の動物を、ボルトピストルで気絶させた後で鎖骨下の静脈と動脈を切断して殺す。
【0292】
組織のサンプリング
それぞれの傷は、骨格筋組織から分離したブロックとして切り取って自由にする。下部の骨格筋への癒着が起きているならばその筋肉の部分が固定するための材料に含まれていてもよい。それぞれのブロックを燐酸緩衝化した中性の4%ホルムアルデヒドに固定化する。
【0293】
組織構造の調製
固定化した後で全ての傷から得られた4つの標本サンプルをパラフィンに埋め込み、計画どおりの5μmの厚みに切断してからヘマトキシリンとエオシンで染色する。染色した後、そのスライドを格子を用いた光学顕微鏡で観察する。これによって傷の全長と上皮化した表面の長さの測定が可能になる。この比率は、スライド1枚あたりで上皮細胞によって被覆された傷のパーセントで表される。それぞれの傷から得られる平均値をとり、その後そのグループの平均値が算出される。
【0294】
統計
データを処理することによって、適切なところでグループ平均値と標準偏差を得る。ありうるアウトライヤーも確認するとよい。その後でそれぞれの連続的変数を、Bartlettのテストによって分散の同次性についてテストする。分散が同次である場合、分散の分析はその変数に対して行えばよい。何らかの有意差が検出された場合には、グループ内にありうる違いをDunnettのテストで評価できる。かりに分散が異次であると、それぞれの変数はShapiro-Wilkの方法によって平均値に対してテストすればよい。正規分布の場合、グループ内のありうる違いはStudentのt検定で同定できる。他の場合とりうるグループ内の違いは、Kruskai-Wallesのテストによって評価できる。何らかの有意のグループ内の違いが検出された場合、このグループの次の確認法はWilcoxon Rank-Surnテストで行うとよい。
【0295】
統計的な分析は、"SAS/STAT(登録商標)User's Guide, Version 6, Fourth Edition, Vol. 1+2", 1989, SAS Institute Inc., Cary. North Carolina 27513, USAに記載されたSAS(登録商標)法(バージョン6.12)で行える。
【図面の簡単な説明】
【0296】
本発明を添付の図面を参照してさらに開示する。
【図1】図1は、EMDで刺激したヒトPDL細胞内、または非刺激細胞内のDNA合成を示すグラフである。
【図2】図2は、EMDで刺激したヒトTGF-β1細胞内、または非刺激細胞内のDNA合成を示すグラフである。
【図3】図3は実施例3及び実施例4に記載のフロー実験で使用された、フローチャンバー及びコンピュターの模式図である。
【図4】図4はEMD及び酢酸で処理したガラス板へのActinomyces viscosusの付着を示す実験結果を示す図である。
【図5】図5はEMD及び酢酸で処理したガラス板へのActinomyces viscosusの付着を示す実験結果を示す図である。
【図6】図6はEMD及び酢酸で処理したガラス板へのActinomyces viscosusの付着を示す実験結果を示す図である。
【図7】図7はEMD及び酢酸で処理したガラス板へのStreptococcus mutansの付着を示した実験結果を示す図である。
【図8】図8はEMD及び酢酸で処理したガラス板へのStreptococcus mutansの付着を示した実験結果を示す図である。
【図9】図9はEMD及び酢酸で処理したガラス板へのStreptococcus mutansの付着を示した実験結果を示す図である。
【図10A】図10(A)は、親知らずの除去後の術後損傷を示すX線写真である。
【図10B】図10(B)は、上記実施例12に記載の、EMD処理後の歯周靭帯の再生を示すX線写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
創傷治癒のための薬学的組成物または化粧用組成物を調製するための活性エナメル物質の調製品の使用。
【請求項2】
創傷治癒を向上させるのための薬学的組成物または化粧用組成物を調製するための活性エナメル物質の調製品の使用。
【請求項3】
軟組織の再生または修復のための薬学的組成物または化粧用組成物を調製するための活性エナメル物質の調製品の使用。
【請求項4】
創傷が口腔内に存在する、請求項1から3のいずれか一項記載の使用。
【請求項5】
創傷が、歯周手術、抜歯、歯科学的治療、歯移植組織、義歯の添加及び使用を含む口内手術に関する身体的損傷または外傷である、請求項1から3のいずれか一項記載の使用。
【請求項6】
創傷が、非感染創、挫傷、切創、裂創、非穿通創、開放創、穿通創、穿孔創、刺創、膿創、梗塞、及び皮下創からなる群より選択される、請求項1から3のいずれか一項記載の使用。
【請求項7】
創傷が、虚血性潰瘍、とこずれ、瘻、重度の咬傷、熱性熱傷、およびドナー側創傷からなる群より選択される、請求項1から3のいずれか一項記載の使用。
【請求項8】
創傷が、アフタ性創、外傷創、またはヘルペス関連創傷である、請求項1から4のいずれか一項記載の使用。
【請求項9】
感染の予防及び/または治療のための薬学的組成物の調製を目的とする活性エナメル物質の調製品の使用。
【請求項10】
感染が微生物により引き起こされる、請求項9記載の使用。
【請求項11】
粘膜表面の細菌の増殖の予防または治療を目的とする、請求項9または10記載の使用。
【請求項12】
爪または歯の表面の細菌の増殖を予防または治療する事を目的とする、請求項9または10記載の使用。
【請求項13】
感染が口腔内に存在する、請求項9または10記載の使用。
【請求項14】
口腔内の細菌の状態の予防または治療を目的とする請求項13記載の使用。
【請求項15】
例えばストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)のようなカリエスを引き起こす細菌;例えばアクチノバチルス・アクチノマイセテムコミタンス(Actinobacillus actinomycetemcomitans)、ポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)、プレボテラ・インテルメディア(Prevotella intermedia)、ペプトストレプトコッカス・ミクロス(Peptostreptococcus micros)、カンピロバクター(Campylobacter (フゾバクテリウム(Fusobacteria)、スタフィロコッカス(Staphylococci))、B.フォルシサス(B. forsythus)のような歯周疾患を引き起こす細菌;例えばスタフィロコッカス(Staphylococcus)、アクチノマイセス(Actinomyces)及びバチルス(Bacillus)のような歯槽炎を引き起こす細菌;ならびに、例えばスピロチェーテス(Spirochetes)のような歯根尖の損傷を引き起こす細菌により、感染が引き起こされる、請求項9から14のいずれか一項記載の使用。
【請求項16】
細菌が皮膚に存在する、請求項9から11のいずれか一項記載の使用。
【請求項17】
炎症状態の予防及び/または治療のための薬学的組成物の調製を目的とする活性エナメル物質の調製品の使用。
【請求項18】
炎症状態が口腔に存在する、請求項17記載の使用。
【請求項19】
炎症状態が骨移植部位に存在する、請求項17記載の使用。
【請求項20】
活性エナメル物質が、エナメルマトリックス、エナメルマトリックス誘導体、及び/またはエナメルマトリックスタンパク質である、前記請求項のいずれか一項記載の使用。
【請求項21】
活性エナメル物質が、エナメリン、アメロゲニン、非アメロゲニン、プロリンリッチ非アメロゲニン、アメリン(アメロブラスチン、シェスリン)、タフツエリン、及びそれらの誘導体、ならびにそれらの混合物からなる群より選択される、前記請求項のいずれか一項記載の使用。
【請求項22】
活性エナメル物質が、SDS Page電気泳動により決定される、例えば最大で100 kDa、90 kDa、80 kDa、70 kDa、または60 kDaのような、最大で約120 kDaの分子量を有する、前記請求項のいずれか一項記載の使用。
【請求項23】
活性エナメル物質の調製品が、異なる分子量の活性エナメル物質の混合物を含む、前記請求項のいずれか一項記載の使用。
【請求項24】
活性エナメル物質の調製品が、アメロゲニン、プロリンリッチ非アメロゲニン、タフツエリン、タフツタンパク質、血清タンパク質、唾液タンパク質、アメリン、アメロブラスチン、シェスリン、及びそれらの誘導体からなる群より選択される物質の少なくとも二つを有する、前記請求項のいずれか一項記載の使用。
【請求項25】
活性エナメル物質が約40,000までの分子量を有する、前記請求項のいずれか一項記載の使用。
【請求項26】
活性エナメル物質が約5,000から約25,000までの分子量を有する、前記請求項のいずれか一項記載の使用。
【請求項27】
活性エナメル物質の大部分が約20 kDaの分子量を有する、前記請求項のいずれか一項記載の使用。
【請求項28】
少なくとも活性エナメル物質の一部が凝集体の形態、または、インビボでの使用後に凝集体を形成できる、前記請求項のいずれか一項記載の使用。
【請求項29】
凝集体が約20 nmから約1μmの粒子の大きさを有する、請求項26記載の使用。
【請求項30】
調製品内の活性エナメル物質のタンパク質含量が、例えば約5〜99%w/w、約10〜95%w/w、約15〜90%w/w、約20〜90%w/w、約30〜90%w/w、約40〜85%w/w、約50〜80%w/w、約60〜70%w/w、約70〜90%w/w、または、約80〜90%w/wのような、約0.05%w/w〜100%w/wの範囲内である、前記請求項のいずれか一項記載の使用。
【請求項31】
薬学的組成物が薬学的に許容される賦形剤をさらに含む、前記請求項のいずれか一項記載の使用。
【請求項32】
薬学的に許容される賦形剤がアルギン酸プロピレングリコールである、請求項31記載の使用。
【請求項33】
薬学的に許容される賦形剤がヒアルロン酸、またはそれらの塩もしくは誘導体である、請求項31記載の使用。
【請求項34】
EMDOGAIN(登録商標)、またはその中に含まれるタンパク質もしくはペプチドの創傷治癒を目的とする、請求項1から33のいずれか一項記載の使用。
【請求項35】
創傷治癒を向上させるための方法であって、活性エナメル物質の予防的または治療的な有効量を、必要とする哺乳動物へ投与することを含む方法。
【請求項36】
創傷が、歯周手術、抜歯、歯科学的治療、歯移植組織の挿入、義歯の添加及び使用を含む口内手術に関する身体損傷もしくは外傷である;または、損傷が非感染創、挫傷、切創、裂創、非穿通創、開放創、穿通創、穿孔創、刺創、膿創、梗塞、及び皮下創からなる群より選択される;または、損傷が虚血性潰瘍、とこずれ、瘻、重度の咬傷、熱性熱傷、およびドナー側創傷創傷からなる群より選択される;または、損傷がアフタ性創、外傷創、もしくはヘルペス関連創傷である、請求項35記載の方法。
【請求項37】
活性エナメル物質がエナメリン、アメロゲニン、非アメロゲニン、プロリンリッチ非アメロゲニン、アメリン(アメロブラスチン、シェスリン)、タフツエリン、ならびにそれらの誘導体及びそれらの混合物からなる群より選択される、請求項36記載の方法。
【請求項38】
活性エナメル物質が、SDS Page電気泳動により決定される、例えば最大で100 kDa、90 kDa、80 kDa、70 kDa、または60 kDaのような、最大で約120 kDaの分子量を有する、請求項36記載の方法。
【請求項39】
創傷に添加された活性エナメル物質の量が、約0.1 mg/cm2から約15 mg/cm2までのような、約0.01 mg/cm2から約20 mg/cm2までに対応する平方センチメートルあたりの総タンパク質量である、請求項36記載の方法。
【請求項40】
軟組織の再生及び/または修復を促進する方法であって、活性エナメル物質の予防的または治療的な有効量を、必要とする哺乳動物へ投与することを含む方法。
【請求項41】
活性エナメル物質がエナメリン、アメロゲニン、非アメロゲニン、プロリンリッチ非アメロゲニン、アメリン(アメロブラスチン、シェスリン)、タフツエリン、ならびにそれらの誘導体及びそれらの混合物からなる群より選択される、請求項40記載の方法。
【請求項42】
活性エナメル物質が、SDS Page電気泳動により決定される、例えば最大で100 kDa、90 kDa、80 kDa、70 kDa、または60 kDaのような、最大で約120 kDaの分子量を有する、請求項40記載の方法。
【請求項43】
創傷に添加された活性エナメル物質の量が、約0.1 mg/cm2から約15 mg/cm2までのような、約0.01 mg/cm2から約20 mg/cm2までに対応する、影響を受けた組織表面の平方センチメートルあたりの総タンパク質量である、請求項40記載の方法。
【請求項44】
感染を予防または治療する方法であって、活性エナメル物質の予防的または治療的な有効量を、必要とする哺乳動物へ投与することを含む方法。
【請求項45】
活性エナメル物質がエナメリン、アメロゲニン、非アメロゲニン、プロリンリッチ非アメロゲニン、アメリン(アメロブラスチン、シェスリン)、タフツエリン、ならびにそれらの誘導体及びそれらの混合物からなる群より選択される、請求項44記載の方法。
【請求項46】
活性エナメル物質が、SDS Page電気泳動により決定される、例えば最大で100 kDa、90 kDa、80 kDa、70 kDa、または60 kDaのような、最大で約120 kDaの分子量を有する、請求項44記載の方法。
【請求項47】
感染が皮膚または粘膜表面の細菌感染である、請求項44記載の方法。
【請求項48】
細菌感染が口腔の感染である、請求項44記載の方法。
【請求項49】
例えばストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)のようなカリエスを引き起こす細菌;例えばアクチノバチルス・アクチノマイセテムコミタンス(Actinobacillus actinomycetemcomitans)、ポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)、プレボテラ・インテルメディア(Prevotella intermedia)、ペプトストレプトコッカス・ミクロス(Peptostreptococcus micros)、カンピロバクター(Campylobacter (フゾバクテリウム(Fusobacteria)、スタフィロコッカス(Staphylococci))、B.フォルシサス(B. forsythus)のような歯周疾患を引き起こす細菌;例えばスタフィロコッカス(Staphylococcus)、アクチノマイセス(Actinomyces)及びバチルス(Bacillus)のような歯槽炎を引き起こす細菌;及び、例えばスピロチェーテス(Spirochetes)のような歯根尖の損傷を引き起こす細菌により、感染が引き起こされる、請求項48記載の方法。
【請求項50】
炎症状態を予防または治療する方法であって、活性エナメル物質の予防的または治療的な有効量を、必要とする哺乳動物へ投与することを含む方法。
【請求項51】
活性エナメル物質がエナメリン、アメロゲニン、非アメロゲニン、プロリンリッチ非アメロゲニン、アメリン(アメロブラスチン、シェスリン)、タフツエリン、ならびにそれらの誘導体及びそれらの混合物からなる群より選択される、請求項50記載の方法。
【請求項52】
活性エナメル物質が、SDS Page電気泳動により決定される、例えば最大で100 kDa、90 kDa、80 kDa、70 kDa、または60 kDaのような、最大で約120 kDaの分子量を有する、請求項50記載の方法。
【請求項53】
創傷に添加された活性エナメル物質の量が、約0.1 mg/cm2から約15 mg/cm2までのような、約0.01 mg/cm2から約20mg/cm2までに対応する影響を受けた組織表面の平方センチメートルあたりの総タンパク質量である、請求項50記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【公開番号】特開2007−291115(P2007−291115A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−131100(P2007−131100)
【出願日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【分割の表示】特願2000−533139(P2000−533139)の分割
【原出願日】平成11年2月26日(1999.2.26)
【出願人】(500404339)バイオラ バイオエクス エービー (1)
【Fターム(参考)】