説明

創傷治癒のためのIL−10関連ペプチド

【課題】創傷治癒を加速させ、瘢痕形成を軽減することもできる治療および機構を得る。
【解決手段】瘢痕化が軽減された創傷治癒の加速を促進するための一般式:X1−X2−X3−Thr−X4−Lys−X5−Arg−X6のペプチドまたはその誘導体の使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、瘢痕化が軽減された創傷治癒の加速を促進するための薬物の製造におけるIL−10由来のペプチドの使用に関する。本発明はまた、瘢痕化が軽減された創傷治癒の加速を促進するためのこのようなペプチドを使用した治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本明細書中で使用される、用語「創傷」は、皮膚の負傷を例示しているが、これらに限定されない。他の創傷型には、肺、腎臓、心臓、腸、腱、または肝臓などの内部組織または内部器官の損傷、負傷、または外傷が含まれ得る。
【0003】
創傷反応は、全ての成体哺乳動物で共通している。反応は、大多数の組織型で保存され、それぞれ同一の結果、瘢痕形成を導き得る。多数の異なる過程は、治癒反応中に作用し、何がこれらの過程を媒介し、どのようにしてこれらの過程が相互作用して最終的な結果を得るのかということを発見する研究が多く行われている。
【0004】
治癒反応は、負傷した動物の死亡を阻止するための生物学的急務に対する進化的解決策として生じる。したがって、感染または失血による死亡リスクを克服するために、損傷組織の再生よりもむしろ損傷領域を修復するように迅速に反応する。
【0005】
瘢痕を、修復反応の結果として生成される構造と定義することができる。創傷化前に存在する同一の組織構造を達成するために負傷組織が再生されないので、瘢痕を非創傷化組織と比較したその異常な形態によって識別することができる。瘢痕は、治癒過程で蓄積した結合組織から構成される。瘢痕は、異常に組織化した(皮膚の瘢痕中で認められる)結合組織および/または異常に増量した(中枢神経系の瘢痕で認められる)結合組織を含み得る。ほとんどの瘢痕は、異常に組織化した結合組織および過剰な結合組織の両方からなる。
【0006】
内部構造(顕微分析によって決定することができる)およびその外観(肉眼で評価することができる)の両方が異常な瘢痕構造が認められる。
【0007】
細胞外基質(ECM)分子は、非創傷化皮膚および瘢痕化皮膚の両方の主な構造成分を含む。非創傷化皮膚では、これらの分子は、一般に「バスケット織り」と呼ばれる特徴的な無作為の配置を有する線維を形成する。一般に、非創傷皮膚内に認められる線維は、瘢痕で認められる線維よりも直径が大きい。瘢痕中の線維はまた、非創傷皮膚中の線維の無作為な配置と比較して相互に著しく整列している。ECMのサイズおよび配置の両方は、正常な非創傷化皮膚と比較した場合、瘢痕の機械的性質の変化、最も顕著には剛性の増加に寄与し得る。
【0008】
肉眼的に観察した場合、瘢痕は周辺組織の表面よりも下に陥没するか、非損傷皮膚表面よりも上に隆起し得る。瘢痕は、非創傷化組織よりも比較的暗い色であり得るか(高色素沈着)、その周辺よりも淡色であり得る(低色素沈着)。高色素沈着瘢痕または低色素沈着瘢痕は、美容上欠点となることは明らかである。瘢痕の美容上の外観は患者に対する創傷の心理学的影響に寄与する主な要因の1つであり、これらの影響が創傷自体の治癒後に長期にわたって続き得ることを示されている。
【0009】
瘢痕はまた、患者に物理的な悪影響をもたらし得る。これらの影響は、典型的には、瘢痕と非創傷化皮膚との間の機械的相違の結果として生じる。瘢痕の異常な構造および組成は、典型的には正常な皮膚より柔軟性に欠けることを意味する。結果として、瘢痕は、正常な機能を妨害し(可動範囲を制限し得る関節を覆う瘢痕の場合など)、早期から存在する場合、正常な成長を遅延させ得る。
【0010】
上記概説の影響は全て創傷治癒反応の正常な進行の結果として生じ得る。しかし、この反応を異常に変化させ得る多数の方法があり、これらによってさらにより損傷を受けることが多い。
【0011】
治癒反応を変化させることができる1つの方法は、異常な過剰瘢痕形成による。肥厚性瘢痕は、重篤な形態の瘢痕を示し、患者に顕著な悪影響を及ぼす。肥厚性瘢痕は、正常な皮膚表面よりも上に隆起し、異常なパターンで配置された過剰なコラーゲンを含む。このような結果として、瘢痕は、しばしば正常な機械的機能の著しい喪失に関連する。これは、肥厚性瘢痕がその形成後に収縮する傾向があること、通常、筋肉関連タンパク質(特に、平滑筋アクチン)の異常な発現に起因する作用によって悪化し得る。小児は、特に、火傷による負傷の結果として、肥厚性瘢痕を形成する可能性が増加する。
【0012】
ケロイドは、病理学的瘢痕の別の一般的形態である。瘢痕ケロイドは、皮膚表面よりも上に隆起するだけでなく、元の負傷の境界を超えて拡大する。ケロイドは、異常な様式で組織化され、通常、渦巻き状のコラーゲン組織として出現する過剰な結合組織を含む。ケロイド形成の原因は、推測の余地があるが、一般に、個体によってはその形成に対する遺伝性素因を有すると認識されている。肥厚性瘢痕およびケロイドの両方は、特に、アフリカ系カリブ人およびモンゴル民族に一般的である。
【0013】
過剰な瘢痕形成(過剰な創傷治癒反応の結果と考えられ得る)の結果として生じる障害に加えて、正常な創傷治癒反応の欠如または遅延に起因するか関連する臨床的に重要な容態も多数存在する。これらのうち、少なくとも経済的に、潰瘍(圧迫潰瘍、糖尿病性潰瘍、および静脈性潰瘍が含まれる)などの慢性創傷が最も重要である。英国における静脈疾患の年間費用は、2億9400万ポンド〜6億5000万ポンドであることが以前に見積もられている。米国でのその費用は、25億ドル〜30億ドルであり、年間欠勤日数は200万日であると見積もられる。したがって、慢性創傷は、患者個人だけでなく、保健医療制度全体の大きな問題である。
【0014】
上記は主にヒトの創傷治癒の影響について考慮されているが、創傷治癒反応ならびにその欠点および潜在的な異常がほとんどの動物種間で保存されていることが認識される。したがって、上記概説の問題は、非ヒト動物、特に、ペットまたは家畜(例えば、ウマ、ウシ、イヌ、ネコなど)にも適用できる。例として、腹部創傷の不適切な治癒に起因する癒着がウマ(特に、競争馬)の動物傷害の主な理由であることが周知である。同様に、家畜およびペットは腱および靭帯も頻繁に負傷し、これらの負傷の治癒によっても瘢痕化が起こり、これが動物の死亡率の増加に関与し得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
正常および異常な創傷治癒の病的影響が周知であるにもかかわらず、依然としてその影響を軽減することができる有効な治療法が欠如している。この欠如に照らして、創傷治癒を加速させ、瘢痕形成を軽減することもできる治療および機構を得る必要があると痛感する必要があると認識しなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の第1の態様によれば、瘢痕化が軽減された創傷治癒の加速を促進するための薬物の製造における、式:X1−X2−X3−Thr−X4−Lys−X5−Arg−X6(配列番号1)
(式中、X1はAlaまたはGlyであり、
2はTyrまたはPheであり、
3、X4、およびX5は、独立して、Met、Ile、Leu、およびValからなる群から選択され、
6は、Asp、Gln、およびGluからなる群から選択される)のペプチドまたはその誘導体の使用を提供する。
【0017】
本発明は、配列番号1によって定義されるペプチドを含む薬物が創傷治癒の促進および治癒過程の結果として生じる瘢痕形成の軽減の両方が可能であるという驚くべき発見に基づく。
【0018】
本発明の第2の態様によれば、治療有効量の式:X1−X2−X3−Thr−X4−Lys−X5−Arg−X6(配列番号1)
(式中、X1はAlaまたはGlyであり、
2はTyrまたはPheであり、
3、X4、およびX5は、独立して、Met、Ile、Leu、およびValからなる群から選択され、
6は、Asp、Gln、およびGluからなる群から選択される)のペプチドまたはその誘導体をこのような創傷治癒の促進が必要な患者に投与する工程を含む、瘢痕化が軽減された創傷治癒の加速を促進する方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】3日目のRE111切開(創傷AおよびB)の肉眼的視覚的アナログ(VAS)スコアの統計的分析の結果を示す図である(*p<0.05対未処置のみ(希釈剤なし))。
【図2】3日目のRE111切開(創傷AおよびB)の先端の創傷の幅の統計的分析の結果を示す図である(**未処置のみ(希釈剤なし)と比較したp<0.01)。
【図3】3日目のRE111切開創傷(創傷AおよびB)の中点での創傷の幅の統計的分析の結果を示す図である(*p<0.05対希釈剤および未処置、+p<0.01対未処置(希釈剤なし))。
【図4】再上皮形成によって被覆した3日目のRE111切開創傷(AおよびB)の先端の比率の統計的分析の結果を示す図である。
【図5】3日目のRE111切開創傷の相補指標スコア(RE111切開(AおよびB)の創傷指標−観察者の組み合わせ)の微視的分析の結果を示す図である。
【図6】3日目の切開創傷の創傷の幅スコア(RE111切開(AおよびB)の創傷の幅−観察者の組み合わせ)の結果を示す図である。
【図7】3日目のRE111切開創傷の細胞充実性(RE111切開(AおよびB)の細胞充実性−観察者の組み合わせ)を示す図である。
【図8】3日目のRE111切開創傷の炎症反応の範囲(RE111切開(AおよびB)の炎症−観察者の組み合わせ)を示す図である。
【図9】70日目の瘢痕における瘢痕化の肉眼的評価の結果を示す図である(**p<0.01対希釈剤および未処置、*p<0.05対未処置のみ、および2人の観察者のスコアの組み合わせ)。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本明細書の目的のために、配列番号1のペプチドの「治療有効量」は、ペプチドが投与された被験体で瘢痕化が軽減された創傷治癒の加速を促進するのに十分なペプチドの量である。
【0021】
本発明の第1および第2の態様での使用に好ましいペプチド(配列番号1によって定義されるペプチドから選択される)は、アミノ酸残基Ala−Tyr−Met−Thr−Met−Lys−Ile−Arg−Asn(配列番号2)を含む。
【0022】
本発明で使用することができる配列番号1によって定義される他のペプチドには、以下が含まれる:
Ala−Tyr−Met−Thr−Ile−Lys−Met−Arg−Asn(配列番号3);
Ala−Phe−Met−Thr−Leu−Lys−Leu−Arg−Asn(配列番号4);
Ala−Tyr−Met−Thr−Met−Lys−Val−Arg−Glu(配列番号5);
Gly−Tyr−Met−Thr−Met−Lys−Ile−Arg−Asp(配列番号6);および
Ala−Phe−Met−Thr−Met−Lys−Ile−Arg−Asp(配列番号7)
【0023】
本発明の第1および第2の態様で配列番号2〜7のペプチド(最も好ましくは、配列番号2のペプチド)を使用することが好ましいが、本発明は依然として配列番号1によって得られる定義の範囲内であるこれらの好ましいペプチドの変異型)を使用しても有効であり得ると認識される。好ましくは、このような変異型は、配列番号2の好ましいペプチドとわずか3つのアミノ酸残基、より好ましくはわずか2つのアミノ酸残基、最も好ましくはわずか1つのアミノ酸残基しか異なり得ない。好ましくは、配列番号2の好ましいペプチドの任意の変異型は、ペプチドのC末端に存在する6つのアミノ酸残基が保持されるべきであり、なぜなら、これらがペプチドの有利な性質を付与するのに最も重要な残基であることが見出されているからである。
【0024】
本発明での使用に適切なペプチドを、少なくとも1つのX1、X2、X3、X4、X5、およびX6が独立して非天然または異常のアミノ酸に置換されるように修飾することができる。
【0025】
上記の様式での置換に適切な非天然または異常のアミノ酸の非限定的な例には、以下が含まれる:
2−アミノアジピン酸
3−アミノアジピン酸
β−アラニン
β−アミノプロピオン酸
2−アミノ酪酸
4−アミノ酪酸
ピペリジン酸
6−アミノカプロン酸
2−アミノヘプタン酸
2−アミノイソ酪酸
3−アミノイソ酪酸
2−アミノペメリン酸(2−Aminopemelic acid)
2,4−ジアミノ酪酸
デスモシン
2,2’−ジアミノピメリン酸
2,3−ジアミノプロピオン酸
N−エチルグリシン
N−エチルアスパラギン
ヒドロキシリジン
アロヒドロキシリジン
3−ヒドロキシプロリン
4−ヒドロキシプロリン
イソデスモシン
アロイソロイシン
N−メチルグリシン
サルコシン
N−メチルイソロイシン
6−N−メチルリジン
N−メチルバリン
ノルバリン
ノルロイシン
オルニチン
【0026】
上記とは別にさらに、本発明での使用に適切なペプチドを、周知の技術によって環化および/または安定化することができる。ペプチドの末端アミノ酸残基を修飾に供することもでき、例えば、アミノ末端残基をアシル化し、そして/またはカルボキシ末端のアミノ酸残基をアミド化することができる。
【0027】
配列番号1によって定義されるペプチドは、本発明の第1または第2の態様での使用に好ましい薬剤を示すが、ペプチドの分解に対する感受性が不都合であり得る状況が存在すると認識される。誘導される元のペプチドよりも分解耐性が高いペプチド誘導体を産生することができる多数の公知の技術が存在する。
【0028】
ペプトイド誘導体は、本発明のペプチド薬よりも高い分解耐性を有すると予想され、このような誘導体を、これらのペプチド構造の知識から容易にデザインすることができる。
市販のソフトウェアを使用して、十分に確率されたプロトコールにしたがって適切なペプトイド誘導体を開発することができる。比較的小さなサイズのペプチドによってペプトイドおよび他の誘導体のデザインおよび試験が容易になると認識される。
【0029】
配列番号1によって定義されたペプチドに基づいたレトロペプトイド(しかし、全てのアミノ酸が逆方向にペプトイド残基に置換されているわけではない)も、瘢痕化が軽減された創傷治癒の加速を促進することができる。レトロペプトイドは、ペプチドまたは一つのペプトイド残基を含むペプトイド−ペプチドハイブリッドと比較した場合、リガンド結合溝に反対方向で結合すると予想され得る。結果として、ペプトイド残基の側鎖は、元のペプチド中の側鎖と同一の方向を向くことができる。
【0030】
上記ペプチドのD型アミノ酸も、瘢痕化が軽減された創傷治癒の加速を促進する必須の能力を付与する。D型アミノ酸の場合、誘導体を含むアミノ酸残基の方向は、元のペプチドと比較して逆である。L型アミノ酸よりもむしろD型アミノ酸を使用した誘導体の調製により、正常な代謝過程によるこのような薬物の任意の望ましくない破壊が非常に減少し、その投与頻度と並んで薬剤の必要な投与量が減少する。
【0031】
配列番号1〜7のペプチドは、インターロイキン10(IL−10)のC末端部分の修飾に基づく。天然のヒトIL−10の全長アミノ酸残基残基を、一文字表記および三文字表記で以下に示す(それぞれ、配列番号8および配列番号9として)。
MHSSALLCCL VLLTGVRASP GQGTQSENSC THFPGNLPNM
LRDLRDAFSR VKTFFQMKDQ LDNLLLKESL LEDFKGYLGC
QALSEMIQFY LEEVMPQAEN QDPDIKAHVN SLGENLKTLR
LRLRRCHRFL PCENKSKAVE QVKNAFNKLQ EKGIYKAMSE
FDIFINYIEA YMTMKIRN
(配列番号8)
Met-His-Ser-Ser-Ala-Leu-Leu-Cys-Cys-Leu-Val-Leu-Leu-Thr-Gly-Val-Arg-Ala-Ser-
Pro-Gly-Gln-Gly-Thr-Gln-Ser-Glu-Asn-Ser-Cys-Thr-His-Phe-Pro-Gly-Asn-Leu-Pro-
Asn-Met-Leu-Arg-Asp-Leu-Arg-Asp-Ala-Phe-Ser-Arg-Val-Lys-Thr-Phe-Phe-Gln-Met-
Lys-Asp-Gln-Leu-Asp-Asn-Leu-Leu-Leu-Lys-Glu-Ser-Leu-Leu-Glu-Asp-Phe-Lys-Gly-
Tyr-Leu-Gly-Cys-Gln-Ala-Leu-Ser-Glu-Met-Ile-Gln-Phe-Tyr-Leu-Glu-Glu-Val-Met-
Pro-Gln-Ala-Glu-Asn-Gln-Asp-Pro-Asp-Ile-Lys-Ala-His-Val-Asn-Ser-Leu-Gly-Glu-
Asn-Leu-Lys-Thr-Leu-Arg-Leu-Arg-Leu-Arg-Arg-Cys-His-Arg-Phe-Leu-Pro-Cys-Glu-
Asn-Lys-Ser-Lys-Ala-Val-Glu-Gln-Val-Lys-Asn-Ala-Phe-Asn-Lys-Leu-Gln-Glu-Lys-
Gly-Ile-Tyr-Lys-Ala-Met-Ser-Glu-Phe-Asp-Ile-Phe-Ile-Asn-Tyr-Ile-Glu-Ala-Tyr-Met-Thr-Met-Lys-Ile-Arg-Asn
(配列番号9)
【0032】
本発明者らは、いかなる仮説に拘束されることも望まないが、増加した再上皮形成反応と組み合わせた損傷領域中の細胞外基質沈着に寄与する細胞集団の調整によって引用したペプチドの有益な効果が得られると考える。
【0033】
本発明は、IL−10由来の薬剤を使用して、創傷治癒に対するIL−10の効果に関する先行技術に照らすと非常に驚くべきことである。IL−10が抗瘢痕形成活性を有することが示されているが、創傷治癒反応を加速することは報告されていなかった。以前の報告ではIL−10処置が皮膚創傷の再上皮形成または治癒を遅延させないと示されていたにもかかわらず、このことは、本発明の薬物および方法が瘢痕形成を軽減しながら創傷治癒速度を満足に有意に加速させることができることを示すという本発明の所見から非常に明らかである。
【0034】
さらに、本発明者らは、以前に発表されたIL−10およびその誘導体の生物活性に関する方向と対照的に、本発明の方法および薬物が創傷治癒に関連する正常な炎症反応のいかなる減少も起こさないことも見出した。この抗炎症活性の欠如はまた、以前に炎症抑制の免疫調節薬として使用されていた配列番号1によって定義されるペプチドの公知の活性と非常に対照的である。本発明の薬物および方法が創傷化に関連する炎症を妨害しないという新規且つ驚くべき所見により、上記概説の一定範囲の創傷治癒で注目に値する利点が得られる。
【0035】
創傷治癒の加速を促進するのと同時に瘢痕化を軽減する本発明の方法および薬物の能力は、これらの方法および薬物が一定範囲の臨床目的で非常に有益であることを意味することが当業者に容易に明らかである。
【0036】
本発明の方法および薬物を使用して、多数の異なる負傷型の結果として生じる創傷の瘢痕化が軽減された創傷治癒の加速を促進することができる。例えば、本発明の方法および薬物を、(限定されるものではないが)以下の物理的傷害または負傷の結果として形成された穿通創および非穿通創の治療で使用することができる:擦り傷、擦過症、外科的切開、および他の外科的手順(特に、皮膚などの組織の移植片の部分的肥厚)、「熱傷」(文脈上他が必要である場合以外、高温または低温、化学物質、または照射への曝露に起因する組織損傷が含まれると見なすことができる)、および他の外傷型。
【0037】
本発明の薬物および方法の有用性が、特に、皮膚創傷の瘢痕化が軽減された創傷治癒の促進に適切であり、皮膚創傷が例示されているが、これらを使用して、多くの他の組織の創傷の治癒を促進し、かつ瘢痕化を軽減することもできることが認識される。
【0038】
皮膚以外の組織の創傷治癒によって生成される瘢痕は、非常に有害な影響も有し得る。
このような組織の特定の例には、以下が含まれる。
(i)中枢神経系の創傷治癒の結果として生じる瘢痕。例えば、神経膠瘢痕化は、ニューロンの再連結を阻止し得る(例えば、脳外科的手術後または脳の穿通性損傷後)。
(ii)眼の創傷治癒の結果として生じる瘢痕は、多くの有害な影響を有し得る。角膜創傷の場合、瘢痕化により、混濁度が異常になり、視力障害またはさらには失明を発症し得る。網膜の場合、瘢痕化によって網膜剥離または座屈を引き起こし、最終的に失明し得る。緑内障の眼圧を緩和するための手術(例えば、緑内障濾過手術)における創傷治癒後の瘢痕化によって手術が頻繁に失敗し、それにより、房水の排出ができず、結果として緑内障が再発する。
(iii)心臓の瘢痕化(例えば、手術または心筋梗塞後)によって心臓機能が異常になり得る。
(iv)腹部または骨盤に関与する創傷治癒により、内蔵が癒着する。例えば、腸の要素と体壁との間に癒着が形成され、これらによって腸捻転を引き起こし、虚血、壊疽が起こり、応急処置が必要になり得る(処置しないままの場合、このような容態が致命傷になり得る)。同様に、腸の外傷、切開、または切開創傷の治癒によって瘢痕化、瘢痕拘縮、または狭窄が起こり、消化管内腔が閉塞し得る。
(v)ファロピウス管領域中の骨盤の創傷治癒の結果として生じる瘢痕化によって不妊症を生じ得る。
(vi)筋肉負傷後の瘢痕化によって異常に収縮し、それにより、筋肉機能が低下する。
(vii)腱および靭帯の負傷後の瘢痕化または線維症によって機能が著しく欠損し得る。
【0039】
本発明の方法および薬物の創傷治癒を加速させる能力は、処置した創傷によって示される2つの性質に関して最も容易に明らかである。この目的のために、「処置した創傷」は、治療有効量の本発明の薬物に曝露されているか、本発明の方法で処置を受けた創傷であると見なすことができる。第1に、本発明の薬物で処置された創傷は、コントロール創傷と比較して上皮形成速度が増加する。したがって、本発明の方法および薬物は、他の領域よりも創傷領域上の機能的上皮層のより迅速な再構成を促進する。第2に、本発明の薬物で処置した創傷は、類似の時点でのコントロール創傷と比較して、幅が狭くなった。この創傷の幅の減少は確実に創傷の閉鎖速度が比較的速くなり(閉鎖すべき創傷の幅が狭いため)、このような薬物の治癒反応を加速させる能力を示すと認識される。
【0040】
したがって、本発明の文脈における加速された創傷治癒は、コントロール処置創傷または非処置創傷で起こる治癒速度と比較した処置創傷の治癒速度の任意の増加を含むと解釈すべきである。好ましくは、創傷治癒の加速を、処置創傷とコントロール創傷との間で達成される再上皮形成速度の比較または匹敵する時点での処置創傷とコントロール創傷との間の相対的幅の比較のいずれかに関して評価することができる。最も好ましくは、創傷治癒の加速を、匹敵する時点でのコントロール創傷と比較して再上皮形成が増加し、且つ創傷の幅が減少していると定義することができる。
【0041】
好ましくは、創傷治癒の加速の促進により、創傷治癒速度がコントロール創傷または非処置創傷で生じる治癒速度よりも少なくとも5%、10%、20%、または30%速くすることができる。より好ましくは、創傷治癒の加速の促進により、治癒速度がコントロール創傷で生じる治癒よりも少なくとも40%、50%、または60%速くすることができる。創傷治癒の加速の促進により、治癒速度がコントロール創傷で生じる治癒よりも少なくとも70%、80%、または90%速くすることができることがさらにより好ましく、最も好ましくは、創傷治癒の加速の促進により、治癒速度がコントロール創傷で生じる治癒よりも少なくとも100%速くすることができる。
【0042】
正常な創傷治癒反応の不適切な低下、遅延、または遅滞によって特徴づけられるか一部特徴づけられる広範な創傷治癒障害が存在する。したがって、本発明の方法および薬物の創傷治癒の加速を促進する能力は、このような障害の防止または治療において有用である。
【0043】
本発明の方法および薬物が再上皮形成反応の刺激の促進によって創傷治癒を加速させることができる(それにより、創傷閉鎖速度が増加する)ので、本発明の方法および薬物は再上皮形成を欠損、遅延、そうでなければ妨害する傾向があり得る患者の創傷の治療に特に有利であると認識される。例えば、高齢者の皮膚創傷が若年個体の皮膚創傷よりも活発でない再上皮形成反応を示すことが周知である。創傷治癒が再上皮形成の遅延またはそうでなければ低下に関連する他の容態または障害も多数存在する。例えば、糖尿病患者、圧迫性負傷(例えば、対麻痺)に感受性を示す患者、静脈疾患患者、臨床的肥満患者、化学療法を受けている患者、放射線療法を受けている患者、ステロイド治療を受けている患者、または免疫不全患者は全て創傷治癒における再上皮形成が妨害され得る。多くのこのような症例では、適切な再上皮形成反応の欠如が創傷部位の感染症の発症に寄与し、同様に、潰瘍などの慢性創傷の形成に寄与し得る。したがって、このような患者が本発明の方法および薬物から恩恵を受ける可能性が特に高いと認識される。
【0044】
慢性創傷は、おそらく、創傷治癒応答の遅延に関連する障害の最も重要な例である。適切な(従来の)治療上の処置を受けてから8週間以内にいかなる治癒の傾向も認められない場合、創傷は慢性と定義される。慢性創傷の周知の例には、静脈性潰瘍、糖尿病性潰瘍、および褥瘡性潰瘍が含まれるが、慢性創傷は正常な急性負傷からも常に生じ得る。典型的には、慢性創傷は、創傷部位の感染、不適切な創傷治療の結果として起こり得るか、静脈、動脈、もしくは血管の疾患、または圧力、照射損傷、または腫瘍に起因する進行性の組織破壊が推測され得る。
【0045】
本発明の方法および薬物を、既存の慢性創傷治療で使用してその治癒を促進することができることが認識される。この方法および薬物は、慢性創傷の再上皮形成を促進し、それにより、障害を治癒および閉鎖させる一方で、創傷治癒に関連する瘢痕化も減少させることができる。慢性創傷は、典型的には患者の身体の比較的広い部分に拡大し得るので、このような状況における瘢痕化の防止が特に有利であり得る。
【0046】
既存の慢性創傷の治療におけるその使用に加えて、またはその代わりとして、本発明の方法および薬物を使用して、慢性創傷に変貌する創傷治癒妨害の傾向にある患者の急性創傷を防止することができる。本発明の方法および薬物が損傷部位の上皮被覆を促進するので、本発明の方法および薬物は、処置した創傷が感染症を引き起こす可能性を減少させることができる。同様に、この再上皮形成の促進は、糖尿病または静脈疾患などの他の容態の結果として生じる慢性創傷の治療で有利であり得る。
【0047】
本発明の薬物が自然に生じる炎症反応を妨害することなく瘢痕化が軽減された創傷治癒の加速を促進する能力は、炎症反応に関与する細胞(より詳細には、このような細胞によって放出または分泌される因子)が治癒反応の正常な進行の調節、それによる創傷の閉鎖および修復で主な役割を果たすという点で、非常に有利である。したがって、本発明の方法および薬物が炎症活動の減少に関連し得る副作用を起こさないので、本発明の薬物および方法は、創傷治癒が欠損する傾向のある患者における瘢痕化が軽減された創傷治癒の加速の促進で特に有益である。
【0048】
本発明の方法および薬物から特に恩恵を受け得るさらなる患者群は、免疫系に欠陥がある患者群(例えば、化学療法または放射線療法を受けた患者またはHIV感染患者)である。創傷化後に正常な炎症反応を高めることができない免疫不全患者の創傷は、治癒結果が不十分になる傾向があることが十分に認識される。これらの影響は、成長因子の非存在および炎症細胞によって放出される他の生成物の両方に起因し、創傷感染のリスクの増大は治癒の延長および欠損に寄与し得る。したがって、本発明の好ましい実施形態では、本発明の薬物を使用して、自然に生じる炎症反応を維持することが好ましい状況における瘢痕化を防止または軽減することができる。
【0049】
本発明の薬物および方法が瘢痕化が軽減された(さらに、抗炎症活性がない)創傷治癒の加速を促進する能力はまた、より一般的な臨床的状況で有用である。これらのさらなる利点の例を、下記の一次、二次、または三次治癒を目的とした創傷治癒に関して考慮することができる。
【0050】
本発明の目的のために、一次治癒を目的とした治癒(healing by primary intention)を、創傷の反対側の縁の外科的手段(縫合糸、接着性ストリップ、またはステープルなど)による閉鎖を含むと見なすことができる。一次治癒を目的とした治癒を、典型的には、外科的切開または他の切り口の鋭い創傷の治療で使用し、この治癒は組織喪失レベルが最小である。当業者は、本発明の薬物および方法が創傷の幅を軽減することができるので、本発明の薬物および方法によって反対側の創傷の縁の連結が容易になり、それにより、一次治癒を目的とした治癒で有利であり得ることを認識する。さらに、本発明の方法および薬物が創傷の幅を軽減するが正常な炎症反応を崩壊させないので、本発明の方法および薬物が感染リスクを増加させることなく瘢痕化が軽減された創傷治癒の加速を促進することができる。
【0051】
本発明の目的のために、二次治癒を目的とした治癒を、直接的な外科的介入を行うことなく創傷治癒過程による創傷の閉鎖に寄与すると見なすことができる。二次治癒を目的として治癒すべき創傷を、継続的ケア(例えば、創傷の包帯または再包帯ならびに適切な薬物の適用)に供することができるが、創傷を閉鎖する肉芽組織形成および再上皮形成の天然の過程である。本発明の薬物および方法がコントロール創傷と比較して再上皮形成速度を増加させることができ、二次治癒を目的とした創傷治癒の促進で有用であると認識される。
【0052】
さらに、本発明の方法および薬物が負傷部位の炎症反応(反応が肉芽組織形成の極めて重要なメディエーターを構成する)を軽減しないので、本発明の方法および薬物は、抗炎症活性を有する薬剤の使用の結果として生じ得る二次治癒を目的とした治癒の遅延に関連しない。本発明の方法および薬物は肉芽組織形成を阻害せず、このことは、処置創傷およびコントロール創傷によって示された細胞充実度が非常に類似していることによって示される。
【0053】
三次治癒を目的とした治癒を、少なくとも部分的に肉芽組織形成および再上皮形成する余地が事前に残されている創傷の外科的閉鎖を含むと見なすことができる。一次または二次治癒を目的とした治癒での使用に適切になる本発明の方法および薬物の特性は、三次治癒を目的とした創傷治癒の促進でも有益である。
【0054】
本発明の文脈内での瘢痕化の防止または軽減を、コントロール処置創傷または非処置創傷で起こる瘢痕化と比較した瘢痕化の任意の減少を含むと理解すべきである。
【0055】
本発明の薬物を使用して上記の広範な組織で瘢痕化が軽減された創傷治癒の加速を促進することができるにもかかわらず、本発明の薬物を使用して皮膚の治癒を促進し、且つ瘢痕化を軽減することが好ましい。
【0056】
本発明の方法および薬物を使用して達成される皮膚瘢痕化の軽減を、非処置瘢痕の外観と比較した処置瘢痕の微視的外観、好ましくは、肉眼的外観のいずれかに関して評価することができる。より好ましくは、瘢痕化の軽減を、処置瘢痕の肉眼的外観および微視的概観の両方に関して評価することができる。本発明の目的のために、「処置瘢痕」を、処置創傷の治癒において形成された瘢痕と定義することができるのに対して、「非処置瘢痕」を、非処置瘢痕またはプラセボもしくは標準的なケアで処置した創傷の治癒において形成された瘢痕と定義することができる。適切な比較瘢痕を、好ましくは、瘢痕の年齢、部位、サイズ、および患者に関して処置瘢痕に適合させることができる。
【0057】
処置創傷に起因する瘢痕の肉眼的概観を考慮して、瘢痕化の範囲およびそれによる得られた瘢痕化の任意の軽減の規模を、多数のパラメーターのうちのいずれかに関して評価することができる。
【0058】
瘢痕の肉眼的評価に適切なパラメーターには、以下が含まれ得る。
i)瘢痕の色。上記のように、瘢痕は、典型的には、周囲の皮膚よりも高色素沈着または低色素沈着を起こし得る。処置瘢痕の色素沈着が非処置瘢痕の色素沈着よりも非瘢痕化皮膚の色素沈着により近づいた場合、瘢痕の軽減を証明することができる。同様に、瘢痕は、周囲の皮膚の色素沈着よりも赤くなり得る。非処置瘢痕と比較して、処置瘢痕の赤みがより早くまたはより完全に薄くなるか、周囲の皮膚の外観により密接に近づく場合、瘢痕化の軽減を証明することができる。
ii)瘢痕の高さ。瘢痕は、典型的には、周囲の皮膚と比較して隆起するか陥没し得る。
処置瘢痕の高さが非処置瘢痕の高さよりも非瘢痕化皮膚(すなわち、隆起も陥没もしていない)の高さにより密接に近づく場合、瘢痕化の軽減を証明することができる。
iii)瘢痕表面の質感。瘢痕は、周囲の皮膚よりも比較的滑らかであるか(「光沢のある」外観を有する瘢痕が生じる)、周囲の皮膚よりも粗い表面を有し得る。処置瘢痕表面の質感が非処置瘢痕表面より非瘢痕化皮膚の質感により密接に近づく場合、瘢痕化の軽減を証明することができる。
iv)瘢痕の剛性。瘢痕の異常な組成および構造は、瘢痕が瘢痕周囲の非損傷皮膚よりも通常は硬いことを意味する。この場合、処置瘢痕の剛性が非処置瘢痕の剛性より非瘢痕化皮膚の剛性により密接に近づく場合、瘢痕化の軽減を証明することができる。
【0059】
処置瘢痕は、好ましくは、上記の肉眼的評価パラメーターの少なくとも1つに関して評価した場合に瘢痕化の軽減が証明される。より好ましくは、処置瘢痕は、パラメーターの少なくとも2つ、さらにより好ましくは、パラメーターの少なくとも3つ、最も好ましくは、これらのパラメーターの4つ全てに関して瘢痕化の軽減を証明することができる。瘢痕化の全ての評価を、例えば、視覚的アナログスケールまたはデジタル評価スケールを使用して行うことができる。
【0060】
瘢痕の微視的評価に適切なパラメーターには、以下が含まれ得る。
i)細胞外基質(ECM)線維の厚さ。瘢痕は、典型的に、周囲の皮膚で見出されるECM線維よりも薄いECM線維を含む。この性質は、ケロイドおよび肥厚性瘢痕の場合にさらにより顕著である。処置瘢痕中のECM線維の厚さが非処置瘢痕中で見出される線維の厚さより非瘢痕化皮膚中で見出されるECM線維の厚さにより密接に近づく場合、瘢痕化の軽減を証明することができる。
ii)ECM線維の配向。瘢痕中に見出されるECM線維は非瘢痕化皮膚(頻繁に「バスケット織り」と呼ばれる無作為な配向)で見出されるものよりも相互により整列する傾向がある。ケロイドおよび肥厚性瘢痕などの病理学的瘢痕のECMは、さらにより変則的な配向を示し、しばしば、ECM分子の巨大な「渦巻き」または「カプセル」を形成し得る。したがって、処置瘢痕中のECM線維の配向が非処置瘢痕中に見出されるこのような線維の配向より非瘢痕化皮膚中で見出されるECM線維の配向により密接に近づく場合、瘢痕化の軽減を証明することができる。
iii)瘢痕のECM組成。瘢痕中に存在するECM分子の組成は、正常な皮膚で見出される組成と異なり、瘢痕のECM中に存在するエラスチン量が減少している。したがって、処置瘢痕の真皮中のECM線維の組成が非処置瘢痕中で見出される組成より非瘢痕化皮膚中で見出されるこのような線維の組成により密接に近づく場合、瘢痕化の軽減を証明することができる。
iv)瘢痕の細胞充実性。瘢痕は、非瘢痕皮膚よりも比較的細胞数が少ない傾向がある。
したがって、処置瘢痕の細胞充実性が非処置瘢痕の細胞充実性より非瘢痕化皮膚の細胞充実性により密接に近づく場合、瘢痕化の軽減を証明することができると認識される。
【0061】
処置瘢痕は、好ましくは、上記の微視的評価パラメーターの少なくとも1つに関して評価した場合に瘢痕化の軽減が証明される。より好ましくは、処置瘢痕は、パラメーターの少なくとも2つ、さらにより好ましくは、パラメーターの少なくとも3つ、最も好ましくは、これらのパラメーターの4つ全てに関して瘢痕化の軽減を証明することができる。
【0062】
処置瘢痕の瘢痕化の軽減または改善を、以下で使用した適切なパラメーターに関してさらに評価することができる。
i)瘢痕の肉眼的臨床評価、特に、被験体に対する瘢痕評価、
ii)瘢痕画像の評価、および
iii)例えば、瘢痕の微視的構造の組織学的分析による瘢痕の微視的評価。
【0063】
処置創傷の瘢痕化の改善を、1つまたは複数のこのような適切なパラメーターの改善によって示すことができ、多数のパラメーターに関する評価の場合、これらのパラメーターを異なる評価スキームと組み合わせることができる(例えば、肉眼的評価で使用した少なくとも1つのパラメーターおよび微視的評価で使用した少なくとも1つのパラメーターにおける改善)ことが認識される。
【0064】
瘢痕化の軽減または改善を、処置瘢痕が非処置瘢痕またはコントロール瘢痕より選択したパラメーターに関して非瘢痕化皮膚に近づくことを示す1つまたは複数のパラメーターにおける改善によって証明することができる。
【0065】
瘢痕の臨床的測定および評価に適切なパラメーターを、種々の測定または評価(Beausang et al(1998)およびvan Zuijlen et al(2002)に記載のものが含まれる)に基づいて選択することができる。
【0066】
典型的には、適切なパラメーターには、以下が含まれ得る。
【0067】
1.視覚的アナログスケール(VAS)瘢痕スコアに関する評価
瘢痕の軽減または改善を、コントロール瘢痕と比較した場合の処置瘢痕のVASスコアの減少によって証明することができる。瘢痕評価での使用に適切なVASは、Beausang et al(1998)に記載の方法に基づき得る。
【0068】
2.瘢痕の高さ、瘢痕の幅、瘢痕の境界線、瘢痕領域、または瘢痕体積
瘢痕の高さおよび幅を、例えば、カリパスなどの手作業による測定デバイスの使用によって被験体を直接測定することができる。瘢痕の幅、境界線、および領域を、被験体を直接測定するか、瘢痕写真の画像分析によって測定することができる。当業者はまた、適切なパラメーターを調査するために使用することができるさらなる非観血法およびデバイス(シリコーン成形、超音波、光学的三次元プロフィリメトリー、および高分解能磁気共鳴映像法が含まれる)を承知している。
【0069】
瘢痕化の軽減または改善を、非処置瘢痕と比較した処置瘢痕の高さ、幅、領域、体積、またはその任意の組み合わせの軽減によって証明することができる。
【0070】
3.周囲の非瘢痕化皮膚と比較した外観および/または色
処置瘢痕の外観または色を、周囲の非瘢痕化皮膚と比較し、その相違(存在する場合)を、非処置瘢痕と非瘢痕化皮膚との間の外観および色の相違と比較することができる。各瘢痕および非瘢痕化皮膚の視覚的評価に基づいて、このような比較を行うことができる。
瘢痕が非瘢痕化皮膚と比較して明るいまたは暗いかどうかに関して、瘢痕の外観を非瘢痕化皮膚と比較することができる。瘢痕および皮膚の各色は、互いに完全に適合するか、わずかに適合しないか、明らかに適合しないか、著しく適合しない可能性がある。
【0071】
視覚的評価の代わりまたはそれに加えて、瘢痕および非瘢痕化皮膚の色素沈着ならびに皮膚の赤み(瘢痕または皮膚中に存在する血管分布度の指標であり得る)に関するデータを得ることができる多数の非侵襲性の比色分析デバイスが存在する。このようなデバイスの例には、Minolta Chronameter CR−200/300;Labscan 600;Dr.Lange Micro Colour;Derma Spectrometer;laser−Doppler流量計;および分光測光皮内分析(SIA)スコープが含まれる。
【0072】
瘢痕形成の軽減または改善を、非処置瘢痕と非瘢痕化皮膚との間よりも処置瘢痕と非瘢痕化皮膚との間の外観または色の相違の規模が小さいことによって証明することができる。
【0073】
4.瘢痕の歪みおよび機械的性能
瘢痕の歪みを、瘢痕と非瘢痕化皮膚との視覚的比較によって評価することができる。適切な比較により、選択された瘢痕を、歪みなし、軽度の歪み、中程度の歪み、または重度の歪みに分類することができる。
【0074】
瘢痕の機械的性能を、吸引、圧力、ねじれ、張力、および音響学に基づいた多数の非観血法およびデバイスを使用して評価することができる。機械的性能の評価で使用することができる公知のデバイスの適切な例には、Indentometer、Cutometer、Reviscometer、粘弾性皮膚分析、Dermaflex、Durometer、Dermal Torque Meter、Elastometerが含まれる。
【0075】
瘢痕化の軽減および改善を、非処置瘢痕によって生じる歪みと比較した処置瘢痕によって生じた歪みの軽減によって証明することができる。瘢痕化の軽減および改善を、非瘢痕化皮膚の機械的性能が非処置瘢痕よりも処置瘢痕の機械的性能に類似することによって証明することができることも認識される。
【0076】
5.瘢痕の輪郭および瘢痕の質感
瘢痕の輪郭を、視覚的評価によって調査することができる。このような評価を考慮するための適切なパラメーターには、瘢痕周囲の皮膚がわずかに肉芽形成するか、わずかにギザギザになるか、肥大化するか、ケロイドになるかどうかが含まれる。瘢痕の質感を瘢痕の外観に関して評価することができ、瘢痕が、非瘢痕化皮膚と比較した場合、例えば、つや消しまたは光沢があるかどうか、または粗いか滑らかであるかどうかについての視覚的評価を受けることもできる。
【0077】
瘢痕の質感を、瘢痕が非瘢痕化皮膚(正常な質感)と同一の質感であるか、非瘢痕化皮膚と比較して明らかに強固または硬いかどうかに関してさらに評価することができる。瘢痕の質感を、ハミルトン分類(Crowe et al,1998に記載)に関して評価することもできる。
【0078】
上記の技術に加えて、瘢痕の輪郭および/または質感の評価のための光学的または機械的方法を使用する多数の非観血性のプロフィリメトリーデバイスが存在する。このような評価を、被験体の身体または、例えば、瘢痕のシリコーン成形痕跡に対して行うことができる。
【0079】
瘢痕化の軽減または改善を、処置瘢痕が非処置瘢痕よりも非瘢痕化皮膚に匹敵する瘢痕のプロフィールおよび質感を有する事象で証明することができる。
【0080】
写真評価
独立非専門家パネル
瘢痕の標準化写真および較正写真を使用した評価者の独立非専門家パネルによって処置瘢痕および非処置瘢痕の写真評価を行うことができる。独立非専門家パネルによって瘢痕を評価して、カテゴリー分類データ(例えば、非処置瘢痕と比較した場合、所与の処置瘢痕が、「より良い」、「より悪い」、または「相違無し」である)およびBeausang et al(1998)に記載の方法に基づいた視覚的アナログスケール(VAS)を使用した定量的データを得ることができる。これらのデータの取り込みに出願人の同時係属特許出願に記載のソフトウェアおよび/または電子装置を使用することができる。
【0081】
専門家パネル
処置瘢痕および非処置瘢痕の写真評価を、評価すべき瘢痕の標準化写真および較正写真を使用した専門評価者のパネルによって行うことができる。専門家のパネルは、好ましくは、形成外科医および適切な背景を持つ科学者などの適切な当業者からなり得る。
【0082】
このような評価により、上記または選択された処置瘢痕および非処置瘢痕の画像の経時変化の比較に関するカテゴリーデータを得ることができる。
【0083】
実施すべき適切な評価には、本発明の目的を、周囲の皮膚と最も密接に類似する瘢痕と見なすことができる最良の瘢痕の同定が含まれ得る。一旦最良の瘢痕が同定されると、瘢痕間の相違の規模を考慮することができる(例えば、瘢痕間のわずかまたは明らかな相違)。考慮することができるさらなるパラメーターには、瘢痕間の相違が最も明らかな瘢痕形成後の最も早い時間(あるいは、相違が最後の評価時点後も続くという所見)およびより良好な瘢痕が一貫してより良好であるかどうかの考慮が含まれる。
【0084】
一方の瘢痕が他方の瘢痕よりも一貫して赤いかどうかおよび赤みが考慮された時点にわたって薄くなる(または最後の時点後も続く)かどうか、そうであれば瘢痕形成後の時間を考慮することもできる。専門家パネルはまた、形成後に赤みの任意の相違を検出可能にする時間および赤みの相違が最も明白な形成後の時間を考慮することができる。
【0085】
専門家パネルはまた、一方の非処置瘢痕または処置瘢痕が他方よりも一貫して白いかどうかまたは非瘢痕化皮膚よりも白いかどうかを考慮することができる。白さの相違が検出可能な事象では、相違を検出することができる瘢痕形成後の時間、相違が最も明白な時間、および相違が消失する時間を考慮することができる。
【0086】
専門家によって評価することができるさらなるパラメーターは、処置瘢痕および非処置瘢痕の質感である。処置瘢痕および非処置瘢痕の比較では、専門家パネルは、どの瘢痕が最良の皮膚の質感を有するのか、存在する任意の相違を検出することができる瘢痕形成後の最も早い時間、任意の相違が最も明白な形成後の時間、および任意の相違が消滅する時間を考慮することができる。
【0087】
処置瘢痕および非処置瘢痕の比較により、どの瘢痕が最も狭いのかということおよびどの瘢痕が最も短いのかということをさらに評価することができる。瘢痕の形状および周囲の皮膚と区別可能な瘢痕の端の比率も考慮することができる。以前に記載の視覚的評価および色の評価と同様に、高色素沈着の存在、程度、および位置も考慮することができる。
【0088】
上記のように、処置瘢痕および非処置瘢痕を比較することができる方法の1つは、微視的評価である。瘢痕の質の微視的評価を、典型的には、瘢痕の組織学的切片を使用して行うことができる。瘢痕の微視的評価および測定の過程は、以下の適切なパラメーターに基づいたカテゴリーデータを考慮することができる。
1.上皮の回復。乳頭間隆起の回復度および回復した上皮の厚さに特に注意を払うことができる。
2.血管形成および炎症。存在する血管数、存在する血管サイズ、および炎症の証拠(存在する任意の炎症レベルの評価が含まれる)を考慮することができる。
3.コラーゲン組織化。コラーゲン組織化の評価では、瘢痕中に存在するコラーゲン線維の配向、このようなコラーゲンの密度、ならびに真皮乳頭層および真皮網状層中のコラーゲン線維の厚さに対する基準を作製することができる。
4.真皮乳頭層および真皮網状層についてのコラーゲン組織化の視覚的アナログスケール(VAS)評価からも瘢痕の質についての有用な指標を得ることができる。
5.瘢痕の微視的質の評価で考慮することができる他の特徴には、周囲の非瘢痕化皮膚と比較した瘢痕の隆起または陥没および正常な皮膚接触面での瘢痕の突起または可視度が含まれる。
6.上記評価によって、コントロール瘢痕、非処置瘢痕、または他の適切な比較瘢痕と比較して処置瘢痕がより良いか、より悪いか、相違無しであるかどうかについての指標を得ることができる瘢痕分類データを作成することが可能であることが認められる。
【0089】
カテゴリーデータに加えて、適切な視覚化技術と組み合わせた画像分析を使用して、(好ましくは、上記パラメーターに関する)定量的データを作成することができる。瘢痕量の評価で使用することができる適切な視覚化技術の例は、存在する染色度または標識度を画像分析によって定量的に決定することができる特定の組織学的染色または免疫標識である。
【0090】
定量的データを、以下のパラメーターに関して有用且つ容易に作成することができる。
1.瘢痕の幅、高さ、隆起、体積、および領域。
2.上皮の厚さおよび被覆(例えば、瘢痕中に存在する上皮領域または上皮が被覆した創傷の比率)。
3.血管の数、サイズ、領域(すなわち、断面)、および位置。
4.存在する炎症細胞の炎症度、数、位置、および集団/型。
5.コラーゲン組織化、コラーゲン線維の厚さ、コラーゲン線維の密度。
【0091】
瘢痕化の軽減または改善を、処置瘢痕がコントロール瘢痕または非処置瘢痕(または他の適切な比較物)よりも非瘢痕化皮膚により密接に類似するような上記で考慮した任意のパラメーターの変化によって証明することができる。
【0092】
考察した評価およびパラメーターは、動物またはヒトにおけるコントロール、プラセボ、または標準的なケアによる処置と比較したペプチド効果の比較に適切である。適切な統計的検定を使用して、異なる処置から作成したデータセットを分析し、結果の有意性を調査することができる。
【0093】
好ましくは、瘢痕化の軽減または改善を、1つを超えるパラメーターに関して証明することができる。より好ましくは、瘢痕化の軽減または改善を、臨床的(すなわち、被験体の観察)パラメーターおよび写真パラメーターの両方に関して証明することができる。さらにより好ましくは、瘢痕化の軽減または改善を、臨床的パラメーター、写真パラメーター、および微視的評価パラメーター(例えば、組織学的パラメーター)に関して証明することができる。最も好ましくは、瘢痕化の軽減または改善を、真皮網状層の臨床的VASスコア、外部非専門家VASスコア、および分類(画像由来)、および微視的VASスコアに関して証明することができる。
【0094】
本発明の方法および薬物の使用により、このようにして処置された負傷領域の美容的外観を迅速に改善することができる。美容的考慮は、特に、創傷が、顔、首、および手などの露出した身体部位で形成された場合、多数の臨床的状況で重要である。したがって、形成された瘢痕の美容上の外観を改善することが望ましい部位の瘢痕化が軽減された創傷治癒の加速の促進は、本発明の好ましい実施形態を示す。
【0095】
その美容上の影響に加えて、瘢痕化は、このような瘢痕化を罹患した患者に多数の悪影響を及ぼす。例えば、皮膚瘢痕化は、特に、収縮性瘢痕(肥厚性瘢痕など)の場合および/または瘢痕が関節を横切って形成された状況での物理的および機械的機能の低下に関連し得る。これらの場合、非瘢痕化皮膚と対照的な瘢痕化皮膚の機械的性質の変化および瘢痕収縮の影響により、影響を受けた関節(連結)の動きが劇的に制限され得る。したがって、本発明の薬物および方法を使用して、身体の関節を被覆する創傷の瘢痕化が軽減された創傷治癒の加速を促進することができることが好ましい実施形態である。別の好ましい実施形態では、本発明の薬物および方法を使用して、収縮性瘢痕のリスクが増加した創傷の瘢痕化が軽減された創傷治癒の加速を促進することができる。
【0096】
瘢痕形成の範囲、すなわち、瘢痕形成に起因し得る美容的障害または他の妨害の範囲は、創傷が形成される部位の張力などの因子によっても影響を受け得る。例えば、比較的張力が高い皮膚(胸部の引張られる皮膚または一連の張力に関連する皮膚など)が他の身体部位よりも重篤な瘢痕を形成する傾向があり得ることが公知である。したがって、本発明の好ましい実施形態では、本発明の薬物および方法を使用して、高張力の皮膚に存在する創傷の瘢痕化が軽減された創傷治癒の加速を促進することができる。創傷および瘢痕の張力を低下させるように創傷および瘢痕を再整列することが可能な瘢痕修正で使用することができる多数の外科的手順が存在する。おそらく、これらのうちで最も知られているのは、皮膚の2つのV型フラップを置き換えて一連の張力を回転させる「Z形成術」である。
したがって、好ましい実施形態では、本発明の薬物および方法を使用して、瘢痕修正中の創傷の瘢痕化が軽減された創傷治癒の加速を促進することができ、より好ましい実施形態では、Z形成術に関連する創傷治癒で使用することができる。
【0097】
病理学的瘢痕化は、比較的重篤な通常の瘢痕化の結果として生じる影響よりも顕著な悪影響を有し得る。病理学的瘢痕の一般的な例には、肥厚性瘢痕およびケロイドが含まれる。一定の創傷型または一定の個体は病理学的瘢痕を形成する傾向があり得ると認識される。例えば、アフリカ系カリブ人、日本人、もしくはモンゴル民族の個体、または病理学的瘢痕化の家族歴のある個体は、肥厚性瘢痕またはケロイド形成のリスクが高いと見なすことができる。小児の創傷、特に、小児の熱傷による熱傷創も肥厚性瘢痕形成の増加に関与する。したがって、薬物および方法を使用して、病理学的瘢痕形成のリスクが高い創傷の瘢痕化が軽減された創傷治癒の加速を促進することができることが本発明の好ましい実施形態である。
【0098】
既に病理学的瘢痕化に供されている個体がさらに過剰に瘢痕形成する傾向があるにもかかわらず、しばしば臨床的に肥厚性瘢痕またはケロイドを外科的に修正する必要があり、それには結果として病理学的瘢痕形成のリスクが伴う。したがって、薬物および方法を使用して、病理学的瘢痕の外科的修正によって生じた創傷の瘢痕化が軽減された創傷治癒の加速を促進することができることが本発明のさらに好ましい実施形態である。
【0099】
熱傷に起因する創傷(本発明の目的のために、高温の液体または気体を含む火傷も含むと見なすことができる)は、罹患個体の広い領域に拡大し得ることが認識される。したがって、火傷によって患者の身体の大部分を覆う瘢痕形成が起こり、それにより、形成された瘢痕が美容上重要度の高い領域(顔、首、腕、または手など)または機械的に重要な領域(特に、関節を覆うか取り囲む領域)を被覆するリスクが高くなり得る。高温の液体に起因する火傷は、しばしば小児が罹患し(例えば、フライパンまたはやかんの引っくり返しの結果としてなど)、小児の体の大きさは比較的小さいので、身体領域に対して高い比率で広範に損傷する可能性が特に高い。
【0100】
上記のように、熱傷に対する創傷治癒は、しばしば、不都合な瘢痕化(肥厚性瘢痕など)に関連する。熱傷のサイズが比較的大きいことにより、機能的上皮層の欠如によって生じる感染および乾燥などの合併症に特に感受性を示すというさらなる結果を招く。上記に照らして、本発明の方法および薬物は、創傷の結果として生じる瘢痕化レベルを減少させ、機能的上皮障壁の再構成を加速することができるので、熱傷に対する使用が特に適切であると認識される。
【0101】
本発明者らは、本発明の方法および薬物が再上皮形成を促進することができるので、これらが上皮層の損傷を含む全ての負傷の治療で特に有効であることを見出した。このような負傷は、上皮が損傷した皮膚の負傷によって例示されるが、これらに限定されない。しかし、本発明の方法および薬物が上皮が損傷した他の創傷型(呼吸上皮、消化器上皮、または内部組織もしくは器官を取り囲む上皮(腹膜上皮など)など)にも適用可能であると認識される。
【0102】
腹膜(内部器官および/または体腔内部の上皮被覆)を含む創傷の治癒は、しばしば癒着を生じ得る。このような癒着は、婦人科組織または腸組織を含む手術で一般に推測される。本発明者らは、本発明の方法および薬物が腹膜再生を加速させる一方で瘢痕を軽減する能力によって腹膜の一部の相互の不適切な付着の発生率を減少させ、それにより、癒着の発生を軽減することができると考える。したがって、腸または婦人科学的癒着の形成を防止するための本発明の方法および薬物の使用は、本発明の好ましい実施形態を示す。実際、腹膜を含む任意の創傷の治癒における本発明の方法または薬物の使用は、好ましい実施形態である。
【0103】
再上皮形成を刺激する(したがって、創傷治癒の加速を促進する)一方で、瘢痕化を減少させるための本発明の方法および薬物の使用はまた、移植手順に関連する創傷の治療で特に有効である。本発明の方法および薬物を使用した治療は、移植片のドナー部位(機能的上皮層の再確立を補助する一方で、瘢痕形成を軽減することができる)および移植片のレシピエント部位(治療の抗瘢痕化効果が瘢痕形成を軽減する一方で、治癒の加速化によって移植組織の組み込みを促進する)の両方に有益である。本発明者らは、本発明の方法および薬物が、皮膚を使用した移植片、人工皮膚、または皮膚代替物で利益を付与することを見出した。
【0104】
本発明者らは、本発明の方法および薬物が、創傷化前または一旦創傷が既に形成された後に投与した場合に瘢痕化が軽減された創傷治癒の加速を促進することができることを見出した。
【0105】
本発明の方法および薬物を、創傷は存在しないが瘢痕または慢性創傷を生じる創傷を形成すべき部位に予防的に使用することができる。例として、本発明の薬物を、選択的手順(手術など)の結果として創傷化する部位または創傷化リスクが高いと考えられる部位に投与することができる。本発明の薬物を創傷形成直前に部位に投与するか、薬物を創傷化前のより早い時期(例えば、創傷形成の6時間前まで)に投与することができることが好ましいかもしれない。当業者は、創傷形成前の最も好ましい投与時間を、多数の要因(選択された薬物の処方および投与経路、投与される薬物の投薬量、形成される創傷のサイズおよび性質、ならびに患者の生物学的状態(患者の年齢、健康、治癒合併症または不都合な瘢痕化に対する素因などの要因に関して決定することができる)が含まれる)に関して決定すると認識する。本発明の方法および薬物の予防的使用は、本発明の好ましい実施形態であり、外科的創傷における瘢痕化が軽減された創傷治癒の加速の促進で特に好ましい。
【0106】
本発明の方法および薬物は、創傷が形成された後で投与した場合、瘢痕化が軽減された創傷治癒の加速を促進することもできる。このような投与を創傷形成後にできるだけ早く行うべきであるが、本発明の薬剤は、治癒過程が完了するまでいつでも瘢痕化が軽減された創傷治癒の加速を促進することができる(すなわち、創傷が既に部分的に治癒した事象においてさえ、本発明の方法および薬物を使用して、残存した非治癒部分に関して瘢痕化が軽減された創傷治癒の加速を促進することができる)ことが好ましい。本発明の方法および薬物を使用して瘢痕化が軽減された創傷治癒の加速を促進することができる「時間枠」は、問題の創傷の性質(生じた損傷の程度および創傷化領域のサイズが含まれる)に依存すると認識される。したがって、巨大な創傷の場合、本発明の方法および薬物を治癒反応の比較的後期に投与しても依然として瘢痕化が軽減された創傷治癒の加速を促進することができる。本発明の方法および薬物を、好ましくは、例えば、創傷形成から24時間後以内に投与することができるが、創傷化後10日目までまたはそれ以降で投与した場合、依然として瘢痕化が軽減された創傷治癒の加速を促進することができる。
【0107】
本発明の方法および薬物を、必要に応じて1つまたは複数の時点で投与して、瘢痕化が軽減された創傷治癒の加速を促進することができる。例えば、治療有効量の薬物を、治癒過程が完了するまで必要になるごとに投与することができる。例として、本発明の薬物を、創傷形成後の最初の3日間創傷に1日に1回または1日に2回投与することができる。
【0108】
最も好ましくは、本発明の方法または薬物を、創傷形成前後に投与することができる。
本発明者らは、創傷形成前の本発明の薬物の投与および創傷形成後のこのような薬剤の毎日の投与が瘢痕化が軽減された創傷治癒の加速の促進に特に有効であることを見出した。
【0109】
本発明の目的のために、「薬剤」または「本発明の薬剤」は、本発明の方法および薬物によって達成することができる瘢痕化が軽減された創傷治癒の加速の促進を担うペプチド(配列番号1)を意味する。
【0110】
創傷に適用すべき本発明の薬物の量は、薬物中に存在する薬剤の生物活性およびバイオアベイラビリティーなどの多数の要因に依存し、言い換えれば、他の要因もあるが、薬剤の性質および薬物の投与様式に依存すると認識される。薬物の適切な治療量の決定における他の要因には、以下が含まれ得る。
A)被験体が治療される薬剤の半減期。
B)治療される特定の条件(例えば、急性創傷化または慢性創傷)。
C)被験体の年齢。
【0111】
投与頻度はまた、上記要因、特に、治療を受ける被験体内での選択された薬剤の半減期に影響を受ける。
【0112】
一般に、本発明の薬物を使用して既存の創傷を治療する場合、薬物を創傷が生じるとすぐに(またはすぐに明らかにならない創傷(体内部位の創傷など)の場合、創傷が診断されてすぐに)投与すべきである。本発明の方法または薬物を使用した療法を、治癒過程が加速され、瘢痕化が減少し、臨床医が満足するまで継続すべきである。
【0113】
投与頻度は、使用した薬剤の生物学的半減期に依存する。典型的には、本発明の薬剤を含むクリームまたは軟膏を、創傷における薬剤の濃度が治療効果を得るのに適切なレベルで維持されるように標的組織に投与すべきである。これには、毎日または1日に数回の投与が必要であり得る。
【0114】
本発明の薬物を瘢痕化が軽減された創傷治癒の所望の促進効果を得ることができる任意の適切な経路によって投与することができるが、薬物を創傷部位に局的に投与することが好ましい。
【0115】
本発明者らは、瘢痕化が軽減された創傷治癒の加速の促進を、創傷部位への注射による本発明の薬剤の投与によって行うことができることを見出した。例えば、皮膚創傷の場合、本発明の薬剤を、皮内注射によって投与することができる。したがって、本発明の好ましい薬剤は、本発明の薬剤の注射可能な溶液(例えば、上皮損傷部位または損傷した可能性の高い部位の周辺の注射のため)を含む。本発明のこの実施形態での使用に適切な薬物を、以下で考慮する。
【0116】
あるいは、またはさらに、本発明の薬物を局所形態で投与して、瘢痕化が軽減された創傷治癒の加速を促進することもできる。このような投与を、創傷化領域の最初のケアおよび/または追跡ケアの一部として行うことができる。
【0117】
本発明者らは、瘢痕化が軽減された創傷治癒の加速の促進が創傷(または、予防的適用の場合、創傷が形成される組織または部位)への本発明の薬剤の局所適用によって特に改良されることを見出した。
【0118】
本発明の薬剤を含む組成物または薬物は、特に、これらが使用される様式に応じて、多数の異なる形態を取ることができる。したがって、例えば、これらは、液体、軟膏、クリーム、ゲル、ヒドロゲル、粉末、またはエアゾールの形態であり得る。このような組成物の全ては、創傷への局所適用に適切であり、治療を必要としている被験体(ヒトまたは動物)への本発明の薬剤の好ましい投与手段である。
【0119】
本発明の薬剤を、滅菌包帯またはパッチ上に提供することができ、これを使用して、治療すべき上皮損傷部位を被覆することができる。
【0120】
本発明の薬剤を含む組成物の賦形剤は、患者によって十分に許容され、薬剤を創傷に放出可能な賦形剤である。このような賦形剤は、好ましくは、生分解性、生体溶解性、生体再吸収性、および/または非炎症性である。
【0121】
本発明の薬剤を含む組成物を、多数の方法で使用することができる。したがって、例えば、組成物を、創傷中および/または創傷周囲に適用して、瘢痕化が軽減された創傷治癒の加速を促進することができる。組成物が「既存の」創傷に適用される場合、薬学的に許容可能な賦形剤は、比較的「低刺激性の」賦形剤、すなわち、生体適合性、生分解性、生体溶解性、および非炎症性の賦形剤である。
【0122】
本発明の薬剤またはこのような薬剤をコードする核酸を、徐放性デバイスまたは遅延放出デバイス内に組み込むことができる。このようなデバイスを、例えば、皮膚上に配置するか皮膚内に挿入し、薬剤または核酸を数日間、数週間、または数ヵ月間にわたって放出させることができる。このようなデバイスは、瘢痕化が軽減された創傷治癒の加速の長期促進を必要とする患者(慢性創傷を罹患した患者など)に特に有用であり得る。デバイスは、通常は頻繁な投与(例えば、他の経路による少なくとも毎日の投与)を必要とする薬剤または核酸の投与のために使用する場合、特に有用であり得る。
【0123】
本発明の薬剤の1日量を、単回投与(例えば、局所処方物の毎日の適用または毎日の注射)として投与することができる。あるいは、本発明の薬剤は、1日に2回またはそれを超える投与が必要であり得る。さらに、徐放デバイスを使用して、反復用量を投与することなく患者に至適用量の本発明の薬剤を供給することができる。
【0124】
1つの実施形態では、本発明の薬剤の投与のための薬学的賦形剤は液体であってよく、適切な薬学的組成物は溶液の形態であろう。別の実施形態では、薬学的に許容可能な賦形剤は固体であり、適切な組成物は粉末または錠剤の形態である。さらなる実施形態では、本発明の薬剤を、薬学的に許容可能な経皮パッチの一部として処方することができる。
【0125】
固体賦形剤には、香味物質、潤滑剤、可溶化剤、懸濁剤、充填剤、流動促進剤、圧縮助剤、結合剤、または錠剤崩壊剤としても作用することができ1つまたは複数の物質が含まれ得る。固体賦形剤は、カプセル化材料でもあり得る。粉末では、賦形剤は、本発明の微粉化薬剤との混合物である微粉化固体である。錠剤では、本発明の薬剤を、適切な比率で必要な圧縮特性を有する賦形剤と混合し、所望の形状およびサイズに詰め込む。粉末および錠剤は、好ましくは、本発明の薬剤を99%以下で含む。適切な固体賦形剤には、例えば、リン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、糖、ラクトース、デキストリン、デンプン、ゼラチン、セルロース、ポリビニルピロリドン、低融点ワックス、およびイオン交換樹脂が含まれる。
【0126】
溶液、懸濁液、乳濁液、シロップ、エリキシル、および圧縮組成物の調製で液体賦形剤を使用することができる。本発明の薬剤を、水、有機溶媒、その両方、または薬学的に許容可能なオイルもしくは脂肪などの薬学的に許容可能な液体賦形剤中に溶解または懸濁することができる。液体賦形剤は、可溶化剤、乳化剤、緩衝液、防腐剤、甘味料、香味物質、懸濁剤、増粘剤、色素、粘性調節剤、安定剤、または浸透度調節剤などの他の適切な薬学的添加剤を含み得る。経口投与および非経口投与のための液体賦形剤の適切な例には、水(上記の添加物(例えば、セルロース誘導体、好ましくはカルボキシメチルセルロースナトリウム溶液)を一部含む)、アルコール(一価アルコールおよび多価アルコール(例えば、グリコール)が含まれる)およびその誘導体、ならびにオイル(例えば、分留ヤシ油およびラッカセイ油)が含まれる。非経口投与のために、賦形剤はまた、オレイン酸エチルおよびミリスチン酸イソプロピルなどの油性エステルであり得る。適切な液体賦形剤は、非経口投与のための滅菌液体形態の組成物で有用である。圧縮組成物のための液体賦形剤は、ハロゲン化炭化水素または他の薬学的に許容可能な噴射剤であり得る。
【0127】
滅菌溶液または懸濁液である液体薬学的組成物を、例えば、筋肉内注射、鞘内注射、硬膜外注射、腹腔内注射、皮内注射、または皮下注射によって使用することができる。滅菌溶液を、静脈内に投与することもできる。本発明の薬剤を、投与時に滅菌水、生理食塩水、または他の適切な滅菌注射媒質を使用して溶解または懸濁することができる滅菌固体組成物として調製することができる。賦形剤は、必要且つ不活性の結合剤、懸濁剤、潤滑剤、および防腐剤を含むことが意図される。
【0128】
経口摂取によって本発明の薬剤を投与することが望ましい状況では、選択された薬剤が分解耐性の高い薬剤であることが好ましいと認識される。例えば、本発明の薬剤を保護し(例えば、上記技術を使用する)、それにより、その消化管での分解速度を減少させることができる。
【0129】
本発明の薬剤の組成物は、角膜中の瘢痕化が軽減された創傷治癒の加速の促進のために使用することが適切である。角膜創傷は、偶発的負傷(上記で考慮)の結果としてまたは外科手術(例えば、角膜のレーザー手術)の結果として生じる眼の外傷に起因し得る。この場合、本発明の好ましい薬物は、点眼薬の形態であり得る。
【0130】
本発明の薬剤を、一定範囲の「内部」創傷(すなわち、外部表面よりもむしろ体内で起こる創傷)で使用することができる。したがって、例えば、本発明の薬物を、肺または他の呼吸上皮で生じる創傷のための吸入のために処方することができる。
【0131】
公知の手順(製薬産業で従来より使用されている手順(例えば、in vivo実験、臨床試験など)など)を使用して、本発明の薬剤を含む組成物の特定の処方物およびこのような組成物の投与のための正確な治療計画(活性成分の1日量および投与頻度など)を確立することができる。
【0132】
瘢痕化が軽減された創傷治癒の加速を促進することができる本発明の薬剤の適切な1日量は、一定範囲の要因(創傷化組織の性質、治療を受ける創傷の領域および/または深さ、創傷の重症度、ならびに病理学的瘢痕または慢性創傷形成を生じやすい要因の有無が含まれるが、これらに限定されない)に依存する。典型的には、上皮損傷部位の治療に必要な本発明の薬剤の量は、0.001ng〜100mgの薬剤/24時間の範囲内であるが、この数字を、上記概説の要因を受けて増減するように修正することができる。薬剤の投与量は、好ましくは、上皮損傷の直線距離1cmあたり50〜500ngであり得る。
【0133】
本発明者らは、本発明の薬物は、配列番号1によって定義されたペプチドが驚くべき低濃度で存在する場合でさえも瘢痕化が軽減された創傷治癒の加速を有効に促進することができることを見出した。有効な薬物は、配列番号1によって定義したペプチドを、1ngペプチド/100μl薬物と10μgペプチド/100μl薬物との間の濃度で適切に含み得る。特定の薬物で使用されるペプチドの至適濃度を、一定範囲の要因(薬物の性質、投与経路、創傷治癒が促進される組織が含まれる)によって決定する。このような要因に基づいて好ましい濃度を計算することができる方法は従来の方法であり、当業者に周知である。
【0134】
本発明者らは、瘢痕化が軽減された創傷治癒の加速を促進することができる薬物は、配列番号1によって定義したペプチド(より詳細には、配列番号2のペプチド)を、わずか1、10、25、125、または250ngペプチド/100μl薬物の濃度で含み得ることを見出した。これらの有効濃度は、このようなペプチドが以前に生物活性を示すことが示されたレベルよりもはるかに低い(実際、1/1000まで)。とは言うものの、本発明者らは、配列番号1によって定義されたペプチドが、9μg/mlまでの濃度で投与された場合、瘢痕化が軽減された創傷治癒の加速を促進することができることをさらに見出した。
【0135】
本発明の薬剤を含む組成物を、創傷の直線距離1cmあたり100μlの薬物が投与されるように処方することができる。この場合、薬物を、1ng/100μl〜500ng/100μlの薬剤濃度を含むように処方することができる。好ましくは、薬剤を50ng/100μl〜250ng/100μlの濃度で提供することができる。
【0136】
本発明の薬剤(配列番号2のペプチドなど)を、約0.1μM〜8μMの濃度で投与することができる。好ましくは、本発明の薬剤を、約0.45μM〜4.5μMの濃度で投与することができる。
【0137】
単なる例として、10ng/100μl〜500ng/100μlの本発明の薬剤(配列番号2のペプチドなど)を含む注射用溶液は、瘢痕化が軽減された創傷治癒の加速を促進するための適用に適切である。
【0138】
本発明の薬剤を使用して、単剤療法(例えば、本発明の薬物のみの使用による)として瘢痕化が軽減された創傷治癒の加速を促進することができる。あるいは、本発明の方法または薬物を、創傷治癒の促進のための他の化合物または治療薬と組み合わせて使用することができる。このような併用療法の一部として使用することができる適切な治療薬は、当業者に周知である。
【0139】
配列番号1によって定義されたペプチドは、このような分子をコードする核酸配列の細胞発現を含む技術によって投与されるべき好ましい薬剤を示し得ると認識される。このような細胞発現方法は、ペプチドの治療効果が、例えば、一定期間にわたって別の欠陥のある創傷治癒反応を増加させることが望ましい状況で長期にわたって必要な医学的使用に特に適切である。
【0140】
多数の公知の創傷への本発明の薬剤の投与方法は、ペプチド薬がin vivoで短い半減期を有し得るので、数日間にわたる創傷部位での本発明の薬剤レベルを維持することが困難であり得るという欠点を有する。薬剤の半減期は、以下の多数の理由のために短くなり得る。
(i)プロテアーゼなどによる分解。
(ii)結合タンパク質によるクリアランス。
(iii)細胞外基質分子による結合および薬剤活性の阻害。
【0141】
さらに、瘢痕化が軽減された創傷治癒の加速を促進するために使用される薬剤は、適切な賦形剤中で投与される必要があり、しばしば、薬剤および賦形剤を含む組成物として提供される。考察したように、このような賦形剤は、好ましくは、非炎症性、生体適合性、生体吸収性を示し、薬剤を分解または不活化してはならない(保存中または使用中)。しかし、しばしば、治療を受ける創傷を有する組織への薬剤の送達に満足な賦形剤を得ることが困難であり得る。
【0142】
これらの問題を回避するか軽減することができる都合の良い方法は、遺伝子治療によって治療有効量の本発明の薬剤を創傷化領域に提供することである。
【0143】
本発明の第3の態様によれば、遺伝子治療技術で使用するための送達系であって、送達系が配列番号1によって定義されたペプチドをコードするDNA分子を含み、DNA分子が選択されたペプチドを発現させるように転写することができる、送達系を提供する。
【0144】
本発明の第4の態様によれば、瘢痕化が軽減された創傷治癒の加速の促進で使用するための薬物の製造における使用のための前記段落で定義された送達系の使用を提供する。
【0145】
本発明の第5の態様によれば、治療有効量の本発明の第3の態様で定義された送達系をこのような治療を必要とする患者に投与する工程を含む、瘢痕化が軽減された創傷治癒の加速を促進する方法を提供する。
【0146】
遺伝コードの縮重により、本発明での使用に適切な薬剤をコードする核酸配列をこれによってコードされる産物の配列に実質的に影響を与えることなく変更または変化させてその機能的変異型を得ることができることが明らかである。配列番号1によって定義されたペプチドをコードするために使用することができる可能な核酸の配列は、当業者に容易に明らかである。
【0147】
本発明の送達系は、ほとんどの従来の送達系で可能な期間よりも長い期間での創傷における本発明の薬剤レベルの持続に非常に適切である。瘢痕化が軽減された創傷治癒の加速の促進に適切な本発明の薬剤を、本発明の第3の態様で開示のDNA分子で形質転換された創傷部位で細胞から継続的に発現することができる。したがって、本発明の薬剤のin vivoでの半減期が非常に短い場合でさえ、治療有効量の薬剤を、処置組織から継続的に発現することができる。
【0148】
さらに、本発明の送達系を使用して、従来の薬学的賦形剤(創傷と接触する軟膏またはクリームで必要な賦形剤など)を使用することなくDNA分子を得ることができる。
【0149】
本発明の送達系は、(送達系を患者に投与した場合に)DNA分子が発現して配列番号1によって定義されたペプチドを産生することができる送達系である。DNA分子を適切なベクター内に含めて、組換えベクターを形成することができる。ベクターは、例えば、プラスミド、コスミド、またはファージであり得る。このような組換えベクターは、DNA分子で細胞を形質転換するための本発明の送達系で非常に有用である。
【0150】
組換えベクターには、他の機能的エレメントも含まれ得る。例えば、組換えベクターを、細胞の核内でベクターが自律複製するようにデザインすることができる。この場合、組換えベクター中にDNA複製を誘導するエレメントが必要であり得る。あるいは、組換えベクターを、ベクターおよび組換えDNA分子が細胞のゲノムに組み込まれるようにデザインすることができる。この場合、ターゲティングされた組み込み(例えば、相同組換えによる)を好むDNA配列が望ましい。組換えベクターはまた、クローニング過程で選択マーカーとして使用することができる遺伝子をコードするDNAを有し得る。
【0151】
組換えベクターはまた、必要に応じて遺伝子発現を調節するためのプロモーターまたはレギュレーターをさらに含み得る。
【0152】
DNA分子は、治療を受ける被験体の細胞のDNA中に組み込まれるようになるDNA分子であり得る(しかし、必ずしもそうではない)。非分化細胞を安定に形質転換して、遺伝子操作された娘細胞を産生することができる。この場合、例えば、特異的転写因子、遺伝子アクチベーター、より好ましくは、創傷で特異的に認められるシグナルに応答して遺伝子を転写する誘導性プロモーターを使用した被験体中の発現の調節が必要であり得る。あるいは、送達系を、治療を受ける被験体中の分化細胞の不安定か一過性の形質転換を好むようにデザインすることができる。この例では、形質転換細胞が死滅するかタンパク質発現を停止する場合に(理想的には、瘢痕化が軽減された創傷治癒の加速を促進した場合)DNA分子の発現が停止するので、発現の調整はあまり重要でないかもしれない。
【0153】
送達系は、ベクターに組み込まれることなく、被験体にDNA分子を提供することができる。例えば、DNA分子を、リポソームまたはウイルス粒子内に組み込むことができる。あるいは、適切な手段、例えば、直接エンドサイトーシス取り込みによって「裸の」DNA分子を被験体の細胞に挿入することができる。
【0154】
DNA分子を、トランスフェクション、感染、微量注入、細胞融合、プロトプラスト融合、または遺伝子銃によって治療すべき被験体の細胞に移入することができる。例えば、コーティングした金粒子を使用した遺伝子銃によるトランスフェクション、DNA分子を含むリポソーム、ウイルスベクター(例えば、アデノウイルス)、および局所的または注射によって創傷にプラスミドDNAを直接適用することによってDNAを直接取り込む手段(例えば、エンドサイトーシス)によって移入することができる。
【0155】
本発明の薬剤の細胞発現を、創傷周囲の非損傷領域の縁の細胞によって行うことができるか、治療によって創傷に導入された細胞(例えば、創傷治癒反応に関与する培養した内因性細胞または外因性細胞)によって行うことができる。
【0156】
瘢痕化が軽減された創傷治癒の加速を促進するために治療的に導入されるべき細胞を、これらが増加したレベルの本発明の薬剤を発現し、その後に創傷領域に導入されるようにex vivoで操作することができることが認識される。このような細胞は、好ましくは、創傷治癒の促進で使用される人工皮膚または皮膚代替物の調製または製造で使用するためにex vivoで培養することができる。細胞は、より好ましくは、自家細胞であり得るが、任意の適切な細胞を使用することができると認識される。
【0157】
したがって、本発明の第6の態様では、本発明の薬剤の発現を誘導する細胞を含む薬物を提供する。
【0158】
本発明の薬剤の細胞発現の誘導を、本発明の第3〜第5の実施形態の薬剤を発現する核酸の分子中の組み込み手段によって行うことができる。
【0159】
本発明を、例として、以下の実験結果に関してさらに記載する。これらの結果を、以下の図に示す。
【実施例】
【0160】
1.概要
創傷治癒および瘢痕形成に対するペプチドAla−Tyr−Met−Thr−Met−Lys−Ile−Arg−Asn(配列番号2)の効果を評価するために以下の研究に着手した。使用した創傷治癒の実験モデルは、3日後および70日後の創傷化に対して着手したペプチドの効果の分析を使用したラット切開創傷であった。
【0161】
1.1 実験
創傷治癒および瘢痕形成に対するペプチドの効果を、以下のパラメーターに関して評価した。
i)創傷の肉眼的質。以下に示すラット肉眼的創傷評価を使用してこれを評価した。肉眼的外観を、「良い」創傷を示す0(0cmの印によって示す)から「悪い」創傷を示す10(10cmの印によって示す)までのスケールを示す10cmの線からなる視覚的アナログスケール(VAS)を使用してスコアリングした。創傷の質の評価では、付与されたスコアを代表する印を、創傷治癒の裂け目および質に基づいて10cmの線で作製した。
最良に治癒された創傷を、スケールの良い創傷の末端に対してスコアリングし(VAS線の左側)、不完全に治癒された創傷を、スケールの悪い創傷の末端に対してスコアリングした(VAS線の右側)。与えられた印を、左側から測定して、創傷評価の最終値をcm(小数点第1位まで)で得た。
ii)創傷の微視的幅。創傷の微視的幅を、創傷の組織学的切片の画像分析を使用して測定した。創傷を、Leica DM RXA顕微鏡およびLeica QWin画像分析器を使用して分析した。直線距離の創傷の幅を、左側の創傷の端(表皮が肥厚し始めている)から右側の創傷の端(表皮が肥厚し始めている)までの直線を使用して測定した。
iii)創傷の再上皮形成。創傷の再上皮形成の範囲を、創傷の組織学的切片の画像分析を使用して測定した。再上皮形成率を、非上皮形成創傷の直径の第1の測定によって計算した。非上皮形成創傷の長さを、左側の非上皮形成創傷の縁から右側の非上皮形成創傷の縁までの直線を使用して測定した。非上皮形成創傷の縁を、治癒中の創傷中の上皮の現在の位置として同定した。次いで、再上皮形成の幅を、創傷の幅からの非再上皮形成の幅を引くことによって計算した。次いで、それに応じて再上皮形成率を計算した。
iv)創傷の微視的質。下記のプロトコールに従って微視的創傷指標シートを使用してこれを評価した。創傷の微視的質の評価には、創傷に存在する炎症反の評価および創傷の細胞充実性の評価を含んでいた。
創傷指標は創傷の質を評価し、以下のパラメーターに基づいて評価する:創傷の幅(10段階評価;1は非常に狭い創傷であり、10は非常に広い創傷である)、創傷の総細胞充実性(5段階評価、1は少数の細胞を含む創傷であり、5は多数の細胞を有する創傷である)、炎症細胞数(5段階評価、1は少数の炎症細胞であり、5は多数の炎症細胞である)、および上皮の被覆(完全な被覆を0、不完全な被覆を1とスコアリングする)。最終創傷指標スコアを、各パラメーターのスコアの加算によって得る。創傷指標スコアが高いほど質の低い創傷を示し、低い創傷指標スコアは比較的質の高い創傷を示す。
v)瘢痕の肉眼的質。以下に示すラット肉眼的瘢痕評価を使用してこれを評価した。肉眼的外観を、正常な皮膚に相当する0から悪い瘢痕に相当する10までのスケールを示す10cmの線からなる視覚的アナログスケール(VAS)を使用してスコアリングした。印を、瘢痕の高さ、幅、輪郭、および色などのパラメーターを考慮した瘢痕の総合的評価に基づいて10cmの線で作製した。最良の瘢痕(典型的には、幅が狭く、色、高さ、および輪郭が正常な皮膚と同様)を、瘢痕の正常な皮膚の末端に対してスコアリングし(VAS線の左側)、悪い瘢痕(典型的には、幅が広く、輪郭が不規則に隆起し、色がより白い)を、スケールの悪い瘢痕の末端に対してスコアリングした(VAS線の左側)。印を、左側から測定して、瘢痕評価の最終値をcm(小数点第1位まで)で得た。
【0162】
1.2 結果のまとめ
i)創傷の肉眼的質に対するペプチドの効果
創傷の肉眼的質の分析により、125または250ng/100μlの濃度のペプチドで処置した創傷がコントロールと比較して肉眼的質が有意に改善したことが示された。
【0163】
ii)微視的創傷の幅に対するペプチドの効果
微視的創傷の幅の分析により、50、125、または250ng/100μlの濃度のペプチドで処置した創傷がコントロールと比較して創傷の幅が有意に減少したことが示された。
【0164】
iii)創傷の再上皮形成に対するペプチドの効果
創傷の微視的分析により、250ng/100μlの濃度のペプチドで処置した創傷がコントロールと比較して再上皮形成率が有意に増加したことが示された。
【0165】
iv)創傷の微視的質に対するペプチドの効果
微視的創傷指標の分析により、50、125、または250ng/100μlの濃度のペプチドで処置した創傷がコントロールと比較して創傷指標スコアが低かった(微視的創傷の質の改善を示す)ことが示された。このようにして処置された創傷が正常な炎症反応を示し、ペプチドが抗炎症活性を示さなかったことにも留意した。
【0166】
v)瘢痕の肉眼的質に対するペプチドの効果
瘢痕の肉眼的質の分析により、50、125、250、または500ng/100μlの濃度のペプチドで処置した創傷がコントロールと比較して肉眼的質が有意に改善した瘢痕を生じたことが示された。
【0167】
1.3 結論
これらの試験結果は、ペプチドAla−Tyr−Met−Thr−Met−Lys−Ile−Arg−Asn(配列番号2)が、創傷閉鎖の2つの異なる指標(創傷の幅および再上皮形成速度)によって評価したところ、創傷治癒を有に加速させることができることを示す。結果は、配列番号2のペプチドが創傷治癒に関連する瘢痕化を軽減することができることをさらに示す。重要には、結果は、配列番号2のペプチドが創傷治癒に関連する炎症反応を妨害しないことも示す。
【0168】
したがって、配列番号2のペプチドは、瘢痕化が軽減された創傷治癒の加速を促進することができる。
【0169】
2. 実験デザイン
十分に許容される実験モデル(以前に、Shar et al.1994に記載)に従って形成されたラット切開創傷を、50、125、250、または500ng/100μlの濃度のペプチドAla−Tyr−Met−Thr−Met−Lys−Ile−Arg−Asn(配列番号2)で処置した。処置創傷およびコントロール損傷を、創傷化から3日後に採取し、処置創傷およびコントロール損傷由来の瘢痕を、創傷化から70日後に採取した。
【0170】
2.1 処方物
ペプチドAla−Tyr−Met−Thr−Met−Lys−Ile−Arg−Asn(配列番号2)を、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)(pH7.2)で希釈して、以下の濃度を得た。
50ng/100μl RN21
125ng/100μl RN21
250ng/100μl RN21
500ng/100μl RN21
【0171】
関連するコントロールを得るために、希釈剤のみで処置した創傷または非処置のままの創傷(未処置)も作製した。
【0172】
2.2 創傷化モデル、投与および採取時点
各実験動物(ラット)について4つの創傷を作製し、そのうちの2つを試験濃度のペプチドで処置した。創傷化の当日および創傷化形成から1日後に、皮内注射によってペプチドを投与した。
【0173】
創傷分析のための実験動物を、創傷化から3日後に屠殺し、組織学のために創傷を採取した。
【0174】
分析のための瘢痕を、創傷化から70日後に屠殺した実験動物から採取した。
【0175】
2.3 動物数
動物/用量あたり4匹のラットを使用し(ラットあたり2つの創傷を形成し、群あたりの数(「n」)は8つである)、これは、試験から回収されるデータが統計的に有意になる。
【0176】
2.4 創傷治癒および瘢痕形成に対するペプチドの効果の分析
創傷の質の肉眼的評価のために、全創傷および/または瘢痕を、創傷化の当日、創傷化から1日後および/または3日後および/または70日後に撮影した。採取日に、上記プロトコールにしたがって、ラット創傷評価シートを使用して創傷を評価した。
【0177】
創傷の微視的質を、上記プロトコールにしたがった創傷の幅、細胞充実性、炎症、および再上皮形成に基づいた微視的創傷評価シート(3人の観察者によってスコアリングする)を使用して評価した。
【0178】
切開の創傷の幅および再上皮形成率を、上記プロトコールにしたがった画像分析によって測定した。
【0179】
瘢痕の肉眼的質を、上記プロトコールにしたがって2人の観察者によってスコアリングした肉眼的瘢痕評価シートを使用して評価した。
【0180】
一因子分散分析(ANOVA)およびその後のマン・ホイットニーのU(MWU)検定を使用して統計的分析を行った。ANOVAを使用して処置群が異なるかどうかを決定し、MWU検定を使用してどの群が異なるのかを決定した。全統計手順について、5%未満の確率(p<0.05)を有意と見なした。
【0181】
3. 結果と考察
3.1 創傷の質の肉眼的分析の結果
3日目の切開について上記プロトコールにしたがって作成した肉眼的視覚的アナログ(VAS)スコアの統計的分析の結果を、図1に示す。これらの結果は、125ng/100μlまたは250ng/100μlの濃度のペプチドで処置した創傷が未処置創傷と比較した場合に肉眼的質が有意に改善した(125ng/100μlでp<0.05、250ng/100μlでp<0.05)ことを示す。
【0182】
3.2 創傷の幅の微視的分析の結果
切開創傷の先端の創傷の幅の統計的分析の結果を、図2に示す。これらの結果は、125ng/100μlまたは250ng/100μlの濃度のペプチドで処置した創傷が未処置創傷と比較した場合に創傷の幅が有意に減少した(125ng/100μlでp<0.01、250ng/100μlでp<0.01)ことを示す。
【0183】
切開創傷の中点の創傷の幅の統計的分析の結果を、図3に示す。これらの結果は、50ng/100μl、125ng/100μl、または250ng/100μlの濃度のペプチドで処置した創傷が未処置創傷および/または希釈剤コントロール創傷(250ng/100μlでp<0.05)と比較した場合に創傷の幅が有意に減少した(50ng/100μlでp<0.05、125ng/100μlでp<0.01、250ng/100μlでp<0.01)ことを示す。
【0184】
3.3 再上皮形成範囲の微視的分析の結果
再上皮形成によって被覆された切開創傷の中点の先端の比率の統計的分析の結果を、図4に示す。これらは、250ng/100μlの濃度のペプチドで処置した創傷が未処置創傷(p<0.01)または希釈剤のみで処置した創傷(p<0.05)と比較した場合に再上皮形成の範囲が有意に減少したことを示す。
【0185】
50ng/100μlおよび125ng/100μlの濃度のペプチド処置された創傷が再上皮形成範囲の増加も示すようであることに留意する価値がある。
【0186】
3.4 創傷の質の微視的分析の結果
創傷指標スコア微視的分析の結果を、図5に示す。これらの結果は、50ng/100μl、125ng/100μl、および250ng/100μlの濃度のペプチドで処置した創傷の創傷指標スコアがコントロール創傷よりも低く(3人の観察者のスコアの組み合わせ)、処置創傷の微視的外観が改善されたことを示した。250ng/100μlの濃度のペプチド処置した創傷の創傷指標スコアが最も低かった。
【0187】
創傷指標は、創傷の幅、細胞充実性、および炎症の評価に基づく。図6に示すように、50ng、125ng、および250ng/100μlの濃度のペプチドで処置した創傷の創傷幅スコアがコントロールよりも低かった(3人の観察者のスコアの組み合わせ)。
【0188】
ペプチドは、処置創傷の細胞充実性を減少させないか、このような創傷で起こる炎症反応を減少させなかった(図7および8)。
【0189】
3.5 瘢痕の質の肉眼的分析
70日目の瘢痕についての肉眼的視覚的アナログ(VAS)スコアの統計的分析の結果を、図9に示す。これらの結果は、250ng/100μlの濃度のペプチドで処置した創傷が未処置および希釈コントロール創傷(250ng/100μlでp<0.01)と比較した場合に肉眼的質が有意に改善し、50ng/100μl、125ng/100μl、500ng/100μlの濃度では未処置コントロール創傷と比較して瘢痕化が有意に改善される(50ng/100μlでp<0.05、125ng/100μlでp<0.05、500ng/100μlでp<0.05)ことを示す。
【0190】
4.結論
創傷の肉眼的分析により、125および250ng/100μlの濃度の配列番号2のペプチドの投与によってコントロールと比較して肉眼的創傷の質が有意に改善されることが示された。
【0191】
切開創傷の先端の幅の微視的分析により、125および250ng/100μlの濃度の配列番号2のペプチドの投与によってコントロールと比較して創傷の幅が有意に減少することが示された。
【0192】
切開創傷の中点の先端の幅の微視的分析により、50、125、および250ng/100μlの濃度の配列番号2のペプチドの投与によってコントロールと比較して創傷の幅が有意に減少することが示された。
【0193】
250ng/100μlの濃度の配列番号2のペプチドでの創傷の処置により、再上皮形成率が有意に増加することが示された。
【0194】
創傷指標スコア微視的分析により、50、125、および250ng/100μlの濃度の配列番号2のペプチドの投与によってコントロールと比較して創傷指標スコアが有意に減少することが示された。250ng/100μlの濃度のペプチドの投与により、創傷指標スコアが最も低くなった。
【0195】
創傷へのペプチドの投与は、創傷の細胞充実性を減少させず、創傷で起こる炎症反応を妨害しなかった。
【0196】
瘢痕の質の肉眼的分析により、250ng/100μlの濃度の配列番号2のペプチドの投与によって未処置および希釈コントロール創傷と比較して瘢痕化が有意に改善し、50ng/100μl、125ng/100μl、500ng/100μlの濃度では未処置瘢痕と比較して瘢痕化が有意に改善されたことが示された。
【0197】
これらの結果は、ペプチドAla−Tyr−Met−Thr−Met−Lys−Ile−Arg−Asn(配列番号2)が瘢痕化が軽減された創傷治癒の加速を促進することができることを示す。
(参考文献)
Beausang, E., Floyd, H., Dunn, K.W., Orton, C.I. and Ferguson, M.W. (1998). A new quantitative scale for clinical scar assessment. Plast. Reconstr. Surg. 102:1954.

Crowe, J.M., Simpson, K., Johnson, W., and Allen, J. (1998). Reliability of photographic analysis in determining change in scar appearance. J. Burn. Care Rehabil. 9: 371.

Shah, M., Foreman, D. M. and Ferguson, M. W. J. (1994). Neutralising antibody to TGF-β1,2 reduces cutaneous scarring in adult rodents. J. Cell Sci. 107, 1137-1157.

【特許請求の範囲】
【請求項1】
瘢痕化が軽減された創傷治癒の加速を促進するための薬物の製造における、式:X1−X2−X3−Thr−X4−Lys−X5−Arg−X6(配列番号1)
(式中、X1はAlaまたはGlyであり、
2はTyrまたはPheであり、
3、X4、およびX5は、独立して、Met、Ile、Leu、およびValからなる群から選択され、
6は、Asp、Gln、およびGluからなる群から選択される)のペプチドまたはその誘導体の使用。
【請求項2】
前記ペプチドが、アミノ酸残基Ala−Tyr−Met−Thr−Met−Lys−Ile−Arg−Asn(配列番号2)を含む、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記薬物が、創傷が形成される部位への投与を目的とする、請求項1または請求項2に記載の使用。
【請求項4】
前記薬物が、既存の創傷への投与を目的とする、請求項1または請求項2に記載の使用。
【請求項5】
前記薬物が、1ng/100μl〜1μg/100μlの濃度のペプチドを含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の使用。
【請求項6】
前記薬物が、25ng/100μl〜250ng/100μlの濃度のペプチドを含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の使用。
【請求項7】
前記薬物が、125ng/100μl〜250ng/100μlの濃度のペプチドを含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の使用。
【請求項8】
前記薬物が局所投与を目的とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の使用。
【請求項9】
前記薬物が局所注射を目的とする、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
前記薬物が皮膚創傷への投与を目的とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載の使用。
【請求項11】
前記薬物が外科的創傷への投与を目的とする、請求項1〜10のいずれか1項に記載の使用。
【請求項12】
前記薬物が移植片に関連した創傷への投与を目的とする、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
前記薬物が移植片ドナー部位への投与を目的とする、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
前記薬物が移植片レシピエント部位への投与を目的とする、請求項12に記載の使用。
【請求項15】
前記外科的創傷が瘢痕修正に関連する、請求項11に記載の使用。
【請求項16】
前記瘢痕修正が病理学的瘢痕の修正である、請求項15に記載の使用。
【請求項17】
前記外科的創傷がZ形成術に関連する、請求項11に記載の使用。
【請求項18】
前記薬物が熱傷創への投与を目的とする、請求項1〜17のいずれか1項に記載の使用。
【請求項19】
前記薬物が慢性創傷への投与を目的とする、請求項1〜18のいずれか1項に記載の使用。
【請求項20】
前記創傷が、顔、首、または手に存在する、請求項1〜19のいずれか1項に記載の使用。
【請求項21】
前記創傷が関節に存在する、請求項1〜20のいずれか1項に記載の使用。
【請求項22】
前記創傷が病的瘢痕を形成するリスクが高い、請求項1〜21のいずれか1項に記載の使用。
【請求項23】
前記創傷が慢性瘢痕を形成するリスクが高い、請求項1〜22のいずれか1項に記載の使用。
【請求項24】
前記薬物が、一次治癒を目的とした創傷治癒へ使用される、請求項1〜23のいずれか1項に記載の使用。
【請求項25】
前記薬物が、二次治癒を目的とした創傷治癒へ使用される、請求項1〜23のいずれか1項に記載の使用。
【請求項26】
前記薬物が、自然に生じる炎症反応を維持することが望ましい創傷での使用を目的とする、請求項1〜25のいずれか1項に記載の使用。
【請求項27】
前記薬物が腹膜傷創への投与を目的とする、請求項1〜9、請求項11〜19、または請求項22〜26のいずれか1項に記載の使用。
【請求項28】
前記ペプチドが環化している、請求項1〜27のいずれか1項に記載の使用。
【請求項29】
前記ペプチドが安定化している、請求項1〜28のいずれか1項に記載の使用。
【請求項30】
前記ペプチドのアミノ末端のアミノ酸残基がアシル化されている、請求項1〜29のいずれか1項に記載の使用。
【請求項31】
前記カルボキシ末端のアミノ酸残基がアミド化されている、請求項1〜30のいずれか1項に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−211185(P2012−211185A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−165481(P2012−165481)
【出願日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【分割の表示】特願2007−550830(P2007−550830)の分割
【原出願日】平成18年1月6日(2006.1.6)
【出願人】(507239514)リノーヴォ リミテッド (7)
【Fターム(参考)】