説明

創傷治癒を促進するための再生細胞の使用法

脂肪組織に存在する細胞を用いて患者における創傷治癒を促進する。患者を治療する方法は、脂肪組織を処理し、該脂肪組織から得られた再生細胞の濃縮量を患者に対して搬送することを含む。方法は、再生細胞が、患者に投与される前に外部環境に暴露されることがないよう閉鎖システムにおいて実施されてもよい。従って、好ましい方法では、脂肪組織中に存在する細胞は、治療効果を促進、生起、または支持するのに必要な添加物と共に、レシピエントに直接導入される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本出願は、2001年12月7日に出願された米国仮出願第60/338,856号の利益を主張する、2002年12月9日に出願された、名称「処理した脂肪吸引細胞によって患者を治療するためのシステムおよび方法」なる米国特許出願第10/316,127号の一部継続出願である。上述の特許出願の内容をここに参照することにより本出願に含めることを明言する。
(発明の背景)
1.発明の分野
本発明は一般に、各種組織から得られた再生細胞に関し、さらに詳細には、脂肪組織由来再生細胞(例えば、幹細胞および/または先駆細胞)、脂肪組織由来再生細胞の使用方法、脂肪組織由来再生細胞を含む組成物、および、創傷、例えば、糖尿病、慢性末梢血管疾患および肥満症による創傷の治癒を促進するために使用される脂肪組織由来再生細胞を調製し、使用するためのシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
2.関連技術の説明
約5百万人のアメリカ人が、しばしば血流低下によって生体自身の治癒過程の進行が遅れるために起こる慢性の開放性糜爛に悩まされている。通常は、皮膚が損なわれると、複雑な一連の縦列事象が起動され、これが最終的に創傷治癒、すなわち、新生真皮および上皮再生をもたらす。この複雑な一連の事象は、間葉幹細胞を含む細胞性関連因子ばかりでなく、局部的、領域的、および全身的な成長因子、サイトカイン間の調和的相互作用を含む。一方、不十分および/不完全な創傷治癒は、クォリティ・オブ・ライフ(生活の質)の深刻な低下を含む個人の重大な病的状態をもたらすことがある。糜爛は、重大な感染を招き、壊疽となり、場合によっては切断を要することがある。例えば、不十分な創傷治癒による、非外傷性切断の主要原因は糖尿病である。米国には約1千6百万の糖尿病例が存在する。外科的切除を要し、長期の、高価なリハビリテーションを必要とする糖尿病患者は毎年6万7千人を上回る。多くの人にとって、移動性および独立性は大きく損なわれ、かれらのクォリティ・オブ・ライフは恒久的な変化を受ける。その極端な場合においては、創傷治癒の不良は、死の根本原因となることがある。
【0003】
治癒の難しい慢性的創傷を抱える患者にとって、基礎的医学的および外科的ケアは必須であるが、必ずしも十分ではない。創傷治癒のための現在行われる療法としては、不健康な組織の除去、増殖因子の投与、高分圧(高圧)酸素治療、高度な創傷包帯、抗生物質療法、従来の創傷包帯、栄養相談、教育/予防、手術、および物理療法が挙げられる。例えば、PDGF-BBおよびbFGFを含むが、それらに限定されない関与分子単独またはそれらの組み合わせを操作することによって、自然の創傷治癒を増強する場合がある。さらに、より生理的パターンの増殖因子発現を生み出すための一法として、「遺伝子工学的に加工された」細胞産物(Abligraf(登録商標)およびDermagraft(登録商標))の適用を実行することも可能である。治癒を刺激する血小板由来増殖因子、Regranexのような治療剤の導入も、適当な患者においては創傷ケアに有効であることが証明されている。
【0004】
再生細胞法も、前述の、分子単独または併用療法に比べて比較的高い成功を収めている。再生医療は、幹細胞(すなわち、生体の非特異的マスター細胞)が自身を無限に再生し、特殊な成熟細胞に分化する能力を、臨床的な目標に合わせたやり方で制御する。しかしながら、再生細胞療法を広く適用することは、従来、細胞維持、および体外における広範な操作に関連する高いコストという問題によって妨げられていた。一方、幹細胞集団は、骨髄、皮膚、筋肉、肝臓、および脳の内の1種以上において存在することが明らかにされているけれども(Jiang et al., 2002b; Alison, 1998; Crosby and Strain, 2001)、それらの組織における幹細胞集団の発現頻度は低い。例えば、骨髄における間葉性幹細胞の発現頻度は、10万の有核細胞の内の1から百万の有核細胞の内の1と推定されている(D'Ippolito et al., 1999; Banfi et al., 2001; Falla et al., 1993)。同様に、皮膚からのASCの抽出は、数週に渡る、一連の複雑な細胞培養工程を含み(Toma et al., 2001)、また、骨格筋由来幹細胞の臨床応用は、2から3週間の培養相を要する(Hagege et al., 2003)。従って、上記組織由来の幹細胞を臨床的に応用しようという従来の提案はいずれも、細胞精製および細胞培養の過程による細胞数、純度、および成熟度の増大を必要とする。
【0005】
細胞培養工程は、細胞の数、純度、および成熟度の増大を実現することがあるけれども、それにはコストがかかる。このコストは、下記の技術的困難の内の1つ以上を含む。すなわち、細胞老化による細胞機能の消失、潜在的に有用性を持つ非幹細胞集団の損失、患者に対する細胞の有効予想適用時期の遅れ、金銭コストの増大、および、培養中における環境微生物による細胞汚染の危険度の増大である。骨髄由来ASCの治療効果を調べた最近の研究では、細胞培養に関連する問題を回避するために事実上まるごとの骨髄を用いている(Horwitz et al., 2001; Orlic et al., 2001; Stamm et al., 2003; Strauer et al., 2002)。しかしながら、臨床効果は最適以下に留まっているが、これは、恐らく、骨髄において本来利用可能なASC用量および純度の低いことと関連する結果と思われる。
【0006】
最近、脂肪組織が、幹細胞の供給源であることが示された(Zuk et al., 2001; Zuk et al., 2002)。脂肪組織は(骨髄、皮膚、筋、肝臓、および脳と違って)、病的状態をもたらすことなく比較的大量に収集することが比較的容易である(Commons et al., 2001; Katz et al., 2001b)。しかしながら、脂肪組織由来幹細胞を収集するための適切な方法は従来技術には不足する。既存の方法はいくつかの欠点を抱える。例えば、既存の方法は、部分的または完全自動化、部分的または完全閉鎖系、成分廃棄能等を欠く。
【0007】
創傷治癒に対し脂肪組織由来細胞には治療の可能性があるのであるから、脂肪組織から、成人幹細胞の集団をもたらす細胞を、高い収率と、一貫性および/または純度で、速やかに高い信頼性をもって収集するが、一方では、抽出後の操作に関する要求は低減または除去される、そのような方法に対しては関連技術分野において需要がある。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0008】
(発明の要約)
本発明は、創傷治癒を促進するために使用することが可能な再生細胞、例えば成人幹細胞および先駆細胞に関する。本発明はまた、組織、例えば、脂肪組織から再生細胞を分離し、濃縮するためのシステムおよび方法に関する。本発明はさらに、創傷治癒応用のための再生細胞組成物に関する。従って、一般的実施態様では、本発明は、組織由来の再生細胞であって、添加物、例えば、創傷治癒の治療効果を促進、起動、または支持するのに必要な添加物と共にレシピエントに直接導入される、再生細胞を使用するための組成物、方法、およびシステムに向けられる。
【0009】
特定の実施態様では、本発明は、ある濃度の再生細胞を投与することによって創傷治癒を増進するための方法に向けられる。再生細胞は、例えば、幹細胞、先駆細胞、またはそれらの組み合わせを含んでもよい。ある実施態様では、治療効果を得るために、複数用量の再生細胞の投与が必要とされることがある。さらに、1種以上の増殖因子のような添加物を再生細胞と共に投与してもよい。好ましい実施態様では、再生細胞は、血管増殖因子単独、または他の添加物と組み合わせて投与される。再生細胞はまた、1種以上の免疫抑制剤と共に投与されてもよい。
【0010】
再生細胞の投与ルートは従来技術で既知であり、例えば、傷から遠い部位における皮下、真皮、または筋肉内への注入、または、カテーテル機構による局所的血管輸送が挙げられる。細胞は、例えば、患者の血管系に投与されてもよい。細胞はまた、支持体、例えば、再吸収可能な支持体、または、従来技術で既知の包帯を介して投与されてもよい。
【0011】
患者に投与する前に、再生細胞は、細胞培養で増殖し、例えば、上皮および/または内皮表現型を指向する分化を促進させてもよい。細胞培養は、支持体材料、例えば、再吸収可能な支持体の上で行い、患者の上に、または患者の内部に設置することが可能な2次元、または3次元構築体を生成するようにしてもよい。患者に投与する前に、細胞は、遺伝子移送によって、1種以上の遺伝子、例えば、脈管形成遺伝子がその再生細胞中で変化させられるように修飾することも可能である。
【0012】
本発明はまた、任意の組織から得られ、被験者に再注入することが好適な、再生細胞、例えば、幹細胞および先駆細胞を分離し、濃縮することが可能な、きわめて融通性の高いシステムおよび方法に関する。ある好ましい実施態様では、システムは自動化される。本発明のシステムは一般に、1個以上の収集チェンバー、処理チェンバー、廃棄物チェンバー、出力チェンバー、およびサンプルチェンバーを含む。様々のチェンバーは、1本以上の導管を通じて、生物材料を含む流体が、閉鎖された無菌の流体/組織経路を通じて通過可能となるように結合される。ある実施態様では、廃棄物チェンバー、出力チェンバー、およびサンプルチェンバーは任意に選ばれる。1つの実施態様では、組織からの抽出、処理、および、装置の、レシピエント内の設置に至る全過程は、全て同じ施設で、実際には、処置を受ける患者の居る同じ室内で実行される。
【0013】
従って、1つの実施態様では、患者において創傷治癒を増進する方法は、a)組織取り出しシステムを準備すること;b)この組織取り出しシステムを用いて患者から、ある濃度の幹細胞を有する脂肪組織を取り出すこと;c)脂肪組織の少なくとも一部を処理して、処理以前の脂肪組織の再生細胞の濃度とは異なる濃度の再生細胞を獲得すること;および、d)再生細胞を患者に投与する前に、組織取り出しシステムから再生細胞を取り出すことなく、再生細胞を患者に投与すること、から成る工程を含む。
【0014】
本明細書に記載される任意の特性、またはそれらの特性の任意の組み合わせは、任意のそのような組み合わせに含まれる特性同士が、文脈、本明細書、および当業者の知識から相互に不一致でない限り、本発明の範囲内に含まれる。本発明のさらに別の利点および局面は、下記の詳細な説明において明白となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
(発明の詳細な説明)
本発明は、脂肪組織由来再生細胞(“ADC”)によって創傷治癒を増進するための方法を提供する。本発明は、一部は、本発明の再生細胞は、(1)脈管増殖因子およびサイトカイン、例えば、PIGF、VEGF、bFGF、IGF-II、エオタキシン、G-CSF、GM-CSF, IL-12, p40/p70, IL-12 p70, IL-13, IL-6, IL-9, レプチン、MCP-1, M-CSF, MIG, PF-4, TIMP-1, TIMP-2, TNF-αおよびトロンボポエチンを含む因子を発現すること、(2)創傷治癒関連サイトカイン、例えば、MIP-1アルファ、RANTES、MCP-1, MIG, TARC, MIP-1, KC, およびTIMPを含むサイトカインを分泌すること、(3)インビトロでコラーゲンを分泌すること、および、(4)インビボで創傷治癒を増進する、という発見に基づく。従って、脂肪組織から得られる再生細胞、例えば、幹細胞であって、一般に間葉幹細胞の特徴と考えられる細胞表面分子を発現する幹細胞は、新規の血管形成および創傷治癒を増進する能力を持つ。
【0016】
本発明はまた、各種組織、例えば、脂肪組織、骨髄、血液、皮膚、筋肉、肝臓、結合組織、筋膜、脳およびその他の神経系組織、血管およびその他の軟部または液性組織、あるいは組織成分または組織混合物(例えば、皮膚、血管、脂肪組織、および結合組織を含む組織混合物)を含む−ただし、それらに限定されない−組織から、再生細胞、例えば、幹細胞および/または先駆細胞を分離・濃縮するための、高速で、信頼性の高いシステムおよび方法に関する。好ましい実施態様では、システムは、脂肪組織から再生細胞を分離し、濃縮する。別の好ましい実施態様では、システムは、全方法が、ユーザーの最小の介入または技能の下に実行されるように自動化される。特に好ましい実施態様では、本発明のシステムおよび方法によって得られた再生細胞は、レシピエントの罹患部位に直接設置するのに好適である。
【0017】
好ましくは、再生細胞の組織からの抽出、分離、濃縮、およびレシピエント内の設置に至る全過程は、全て同じ施設で、実際には、処置を受ける患者の居る同じ室内で実行される。再生細胞は、抽出・濃縮後比較的短時間に使用されてもよい。例えば、再生細胞は、患者の組織から収集後約1時間内に使用可能とされてもよく、ある状況では、組織の収集から約10から40分以内に使用可能とされてもよい。ある好ましい実施態様では、再生細胞は、組織の収集後約20分内に使用可能とされてもよい。抽出から分離・濃縮までの過程の全長は、要因、例えば、患者プロフィール、収集される組織のタイプ、ある任意の治療応用に要求される再生細胞の量を含む要因の数に応じて変動してよい。細胞はまた、レシピエントに対し治療的、構造的、または美容的効果を得る意図の下に行う単一操作処置の背景において、他の細胞、組織、断片、支持体、または、他の細胞増殖および/または分化刺激因子と組み合わせてレシピエントの体内に設置してもよい。システムの分離・濃縮相以外にさらに再生細胞の操作を行う場合、その操作がいずれのものであれ、その操作は、その操作法と適合するさらに新たな時間を要することを理解しなければならない。
【0018】
本発明がさらに容易に理解されるように、いくつかの用語を先ず定義する。詳細な説明全体を通じてさらに新たな定義が記載される。
【0019】
本明細書で用いる「再生細胞」とは、本発明のシステムおよび方法を用いて得られる任意の異種の、または同種の細胞であって、器官、組織、または生理的単位またはシステムの構造または機能の、完全な、または部分的な再生、回復、または置換をもたらし、または、そのような再生、回復、または置換に貢献し、そうすることによって治療的、構造的、または美容的効果を実現する細胞を指す。再生細胞の例としては、ASC、内皮細胞、内皮前駆細胞、内皮先駆細胞、マクロファージ、線維芽細胞、周辺細胞、平滑筋細胞、前駆脂肪細胞、分化または脱分化脂肪細胞、ケラチノサイト、単能性および多能性先駆および前駆細胞(およびそれらの子孫)、およびリンパ球が挙げられる。
【0020】
再生細胞が治療的、構造的、または美容的効果を実現する1つのメカニズムは、新規生成の、既存の、または修復された組織または組織成分の中に自身またはその子孫を取り込むことによる。例えば、ASCおよび/またはその子孫は、新規に生成された骨、筋肉、またはその他の構造的または機能的組織の中に取り込まれ、それによって治療的、構造的、または美容的改善をもたらす、あるいは貢献する。同様に、内皮細胞、あるいは、内皮前駆または先駆細胞、およびその子孫は、既存の、新規発生の、修復済みの、または拡張済みの血管に取り込まれ、それによって治療的、構造的、または美容的改善をもたらす、あるいは貢献する。
【0021】
再生細胞が治療的、構造的、または美容的効果を実現するもう1つのメカニズムは、ある任意の組織、または組織成分の構造または機能の、創出、保持、回復、および/または再生を増進する分子、例えば、増殖因子を発現および/または分泌することによる。例えば、再生細胞は、直接または間接に構造または機能の改善に参与する組織または細胞の、増殖強化をもたらす分子を発現および/または分泌する可能性がある。再生細胞は、増殖因子、例えば、血管内皮増殖因子(VEGF)、胎盤増殖因子(PIGF)、bFGF、IGF-II、エオタキシン、G-CSF、GM-CSF, IL-12 p40/p70, IL-12 p70, IL-13, IL-6, IL-9, レプチン、MCP-1, M-CSF, MIG, PF-4, TIMP-1, TIMP-2, TNF-α、トロンボポエチン、およびそれらの異性体を含む増殖因子であって、下記の機能の内の1種以上を実行する因子を発現および/または分泌してもよい。その機能とはすなわち、新規血管の発達を刺激すること、すなわち、脈管形成を増進すること;既存の小血管(分岐血管)の酸素補給を、その血液搬送能力を拡大することによって改善すること;傷害部位から離れた部位からの再生細胞の移動を誘発し、該細胞の傷害部位への標的指向および移動を強化すること;傷害部位内における細胞の増殖を刺激し、および/または、細胞の生存率を増進し、それによって機能または構造の保持を増進すること;抗アポトーシス特性を持つ分子を配送し、それによって細胞の死亡率すなわち死亡確率、および機能の恒久的消失を低減すること;および、内因性再生細胞および/またはその他の生理的機構と相互作用を持つこと、である。
【0022】
再生細胞は、組織中で存在していたままの、または、本発明のシステムおよび方法によって組織から分離・濃縮されたままの「本来の」形で使用してもよいし、あるいは、本明細書に後述するように、増殖因子またはその他の生物反応修飾剤による刺激または熟成によって、遺伝子移送(一過性または安定的移送)によって、得られた集団を物理的特性(例えば、サイズまたは密度)に基づいてさらに細かく分画することによって、固相材料に対する差別的接着、細胞表面または細胞内分子の発現、細胞培養、またはその他の体外または体内操作、修飾、または分画によって修飾されてもよい。再生細胞はまた、本明細書に後述するように、他の細胞または装置、例えば、合成または生物的支持体、因子、薬剤、薬品、または、細胞の関連特性を修飾または強化するその他の薬剤を搬送する材料または装置と組み合わせて使用してもよい。
【0023】
本明細書で用いる「再生細胞組成物」とは、組織、例えば、脂肪組織を洗った後、通常ある容量の液体中に存在し、少なくとも部分的にばらばらに分離される細胞から成る組成物を指す。例えば、本発明の再生細胞組成物としては、異なる複数のタイプの再生細胞であって、例えば、ASC、内皮細胞、内皮前駆細胞、内皮先駆細胞、マクロファージ、線維芽細胞、血管周囲細胞、平滑筋細胞、前駆脂肪細胞、分化または脱分化脂肪細胞、ケラチノサイト、単能性および多能性先駆および前駆細胞(およびそれらの子孫)、およびリンパ球が挙げられる。再生細胞組成物はまた、1種以上の汚染物質、例えば、組織断片に存在する可能性のあるコラーゲン、または残留コラゲナーゼ、あるいは、本明細書に記載する組織解離過程において用いられる、あるいは、該過程から生じるその他の酵素または介在因子を含んでもよい。
【0024】
本明細書で用いる「創傷治癒」とは、皮膚および/または下部結合組織の、任意の疾患、障害、症候群、異常、病理、または異常状態、例えば、手術後の皮膚外傷、機械的外傷による皮膚挫傷、腐蝕薬または火傷、白内障手術または角膜移植後の角膜、感染または薬剤治療後における粘膜創傷(例えば、呼吸器、消化器、泌尿生殖器、乳腺、口腔、眼球組織、肝臓、および腎臓の粘膜)、糖尿病創傷、移植手術後の皮膚外傷、および、血管形成術後の血管の再成長によって特徴づけられる全ての障害を含むことが意図される。創傷、疾患、または傷害の治療は、再生医学の開始手段に含まれる。
【0025】
本明細書で用いる「虚血」とは、血液の流入または流出の減少による、任意の組織の局所的虚血を指す。「虚血性創傷」という用語は、不十分な酸素のために創傷収縮および上皮再生ができないことを指す。創傷治癒はまた非治癒性創傷を含む。いくつかの医学的および外科的状況、例えば、糖尿病(I型およびII型)、慢性末梢血管病、関節リューマチ、うっ血性心不全、動脈または静脈潰瘍、リンパ浮腫、肥満症、体外性ステロイド投与、血管病創傷、手術外傷崩壊、化学的創傷、および化学療法またはその他の免疫抑制療法による創傷は、非治癒性創傷を発生させる高度の危険性と関連する。
【0026】
本明細書で用いる「脈管形成」という用語は、新規の血管が、既存の血管系および組織から発生する過程を指す(Folkman, 1995)。「修復または再現」という言句は、既存の血管系の再形成を指す。組織の虚血の緩和は、脈管形成に決定的に依存する。新規血管の自発的増殖によって、虚血領域の内部および周囲に側方循環が実現され、血流を改善し、虚血によってもたらされる症状を緩和する。脈管形成によって仲介される疾患および障害としては、急性心筋梗塞、虚血性心筋症、末梢血管病、虚血性発作、急性尿細管壊死、AFTを含む虚血性創傷、敗血症、虚血性腸疾患、糖尿病網膜症、神経障害および腎症、脈管炎、虚血性脳症、勃起機能不全-生理的、虚血性または外傷性脊髄損傷、全身性多数臓器不全、虚血性歯肉病、および移植関連虚血症が挙げられる。
【0027】
本明細書で用いる「幹細胞」とは、1種以上の特異的機能を実行し、自らを更新する能力を持つ、他の各種細胞に分化する可能性を有する多能性再生細胞を指す。本明細書に開示する幹細胞の内のいくつかは多能性である。
【0028】
本明細書に用いる「先駆細胞」は、1種を超える細胞タイプに分化する能力を持つ多能性再生細胞を指すが、自身を更新する能力はごく僅かに持つか、または全く持たない。本明細書で用いる「先駆細胞」はまた、単一の細胞タイプのみに分化する能力を持つ単能性細胞を指す。この細胞は、1種以上の特異的機能を実行するが自らを更新する能力はごく僅かに持つか、または全く持たない。特に、本明細書で用いる「内皮先駆細胞」は、血管内皮細胞に分化する能力を持つ多能性または単能性細胞を指す。
【0029】
本明細書で用いる「前駆細胞」とは、1つの細胞タイプに分化する能力を持つ単能性再生細胞を指す。前駆細胞およびその子孫は、強力な増殖能力を保持することがある、例えば、リンパ球および内皮細胞は、適当な条件下では増殖することが可能である。
【0030】
本明細書で用いる「脈管形成因子」または「脈管形成タンパク」という用語は、既存の血管系から新規血管の増殖(「脈管形成」)を増進することが可能な、任意の既知のタンパク、ペプチド、またはその他の介在因子を指す。本発明に使用するのに好適な脈管形成因子としては、胎盤増殖因子(Luttun et al., 2002)、マクロファージコロニー刺激因子(Aharinejad et al., 1995)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(Buschmann et al., 2003)、血管内皮増殖因子(VEGF)-A、VEGF-A, VEGF-B, VEGF-C, VEGF-D, VEGF-E (Mints et al., 2002)、ニューロピリン(Wang et al., 2003)、線維芽細胞増殖因子(FGF)-1, FGF-2 (bFGF), FGF-3, FGF-4, FGF-5, FGF-6 (Botta et al., 2000) 、アンギオポエチン1、アンギオポエチン2 (Sundberg et al., 2002) 、エリスロポエチン (Ribatti et al., 2003), BMP-2, BMP-4, BMP-7 (Carano and Filvaroff, 2003), TGF-ベータ (Xiong et al., 2002), IGF-1 (Shigematsu et al., 1999) 、オステオポンチン (Asou et al., 2001)、プレイオトロピン(Beecken et al., 2000)、アクチビン(Lamouille et al., 2002)、エンドテリン-1(Bagnato and Spinella, 2003)、および上記の組み合わせが挙げられるが、ただしこれらに限定されない。脈管形成因子は、独立に作用してもよいし、相互に共同して作用してもよい。組み合わされた場合、脈管形成因子は、協調的であって、複数の因子の共同効果が、ばらばらに採取された個別の因子の作用の合計よりも多くなるように作用してもよい。「脈管形成因子」または「脈管形成タンパク」という用語はまた、このような因子の機能的類縁体も含む。機能的類縁体としては、例えば、上記因子の機能部分が挙げられる。機能的類縁体はまた、上記因子の受容体に結合し、従って、脈管形成および/または組織再生の増進において上記因子の活性を模倣する、抗イディオタイプ抗体も含む。このような抗イディオタイプ抗体を生成する方法は従来技術でよく知られており、例えば、WO97/23510に記載されている。なお、この内容を参照することにより本明細書に含める。
【0031】
本発明に使用される脈管形成因子は、適切であればいずれの供給源から生産されたものでも、獲得されたものであってもよい。例えば、因子は、天然の供給源から精製されたものであってもよいし、あるいは、合成的に、または組み換え発現によって生産されたものであってもよい。因子は、タンパク組成物として患者に投与することが可能である。別法として、因子は、因子をコードする発現プラスミドの形で投与されてもよい。適切な発現プラスミドの構築は従来技術でよく知られる。発現プラスミドを構築するために好適なベクターとしては、例えば、アデノウィルスベクター、レトロウィルスベクター、アデノ関連ウィルスベクター、RNAベクター、リポソーム、陽イオン性脂質、レンチウィルスベクター、およびトランスポゾンが挙げられる。
【0032】
本明細書で用いる「幹細胞数」または「幹細胞頻度」とは、脂肪組織由来細胞(ADC)を、低い細胞密度(ウェル当たり<10,000細胞)で撒き、MSC増殖を支持する培養液(例えば、10%ウシ胎児血清、5%ウマ血清、および抗生物質/抗真菌剤を添加したDMEM/F12培養液)で育成したクローン発生アッセイにおいて観察されるコロニー数である。細胞を2週間増殖し、その後培養体をヘマトキシリンで染色し、50を超える細胞から成るコロニーをCFU-Fとして数える。幹細胞頻度は、撒かれた100個の有核細胞当たり観察されるCFU-Fの数として計算される(例えば、1,000個の有核再生細胞で始めたプレートにおいて15個のコロニーが数えられた場合、それは、1.5%の幹細胞頻度を与える)。幹細胞数は、幹細胞頻度に、得られた有核ADC細胞の全数を掛けたものとして計算される。再生細胞から増殖されるCFU-Fの内高いパーセント(−100%)のものが細胞表面分子CD105を発現する。この分子はまた骨髄由来幹細胞によっても発現される(Barry et al., 1999)。CD105はまた、脂肪組織由来幹細胞によっても発現される(Zuk et al., 2002)。
【0033】
本明細書で用いる「脂肪組織」という用語は、脂肪を貯える結合組織を含む脂肪を指す。脂肪組織は、ASCおよび内皮前駆および先駆細胞を含む、複数の再生細胞タイプを含む。
【0034】
本明細書で用いる「脂肪組織単位」とは、不連続な、または測定可能な量の脂肪組織を指す。1単位の脂肪組織は、単位の重量および/または容量を定めることによって測定される。上に指定したデータに基づくと、患者から取り出された、1単位の処理脂肪吸引物は、細胞成分の少なくとも0.1%が幹細胞である細胞成分を持つ。すなわち、該脂肪吸引物は、上に定めたところに従って少なくとも0.1%の幹細胞頻度を持つ。本明細書の開示を参照すると、1単位の脂肪組織とは、一人の患者から取り出された脂肪組織の全量、または、一人の患者から取り出された脂肪組織全量未満の量を指す。従って、1単位の脂肪組織を、別の1単位の脂肪組織と合わせて、個別の単位の合計である重量または容量である1単位の脂肪組織を形成してもよい。
【0035】
本明細書で用いる「部分」という用語は、全体よりも少ない物質の量を指す。小部分とは、50%未満の量を指し、大部分とは、50%を上回る量を指す。従って、一人の患者から取り出された脂肪組織の全体量よりも少ない1単位の脂肪組織は、取り出された脂肪組織の一部である。
【0036】
本明細書で用いる「処理脂肪吸引物」という用語は、成熟脂肪細胞および結合組織から活性細胞成分(例えば、再生細胞を含む成分)を分離するために処理される脂肪組織を指す。この分画は、本明細書では、「脂肪組織由来細胞」または“ADC”と呼ばれる。通常、ADCは、脂肪組織からの細胞を洗浄し、分離し、濃縮することによって得られる再生細胞のペレットを指す。このペレットは、通常、細胞懸濁を遠心し、遠心チェンバーまたは細胞濃縮器の底部に細胞を凝集させることによって得られる。
【0037】
本明細書で用いる「投与する」、「導入する」、「配送する」、「設置する」、および、「移植する」という用語は、本明細書では相互交換的に使用され、本発明の再生細胞を被験体に導入し、それによって該再生細胞を、所望の部位に少なくとも部分的に局在させることを可能とする方法またはルートを通じて設置することを指す。再生細胞は、適当なルートであって、被験体が所望の部位へ運ばれ、そこにおいて細胞、または細胞成分の少なくとも一部が生存を保つことが可能とされるものであればいずれのものであってもよい適当なルートを通じて投与される。被験体に対する投与後における細胞の生存期間は、数時間という短時間から、例えば、24時間、数日、または、数年の長期に至るまででもよい。
【0038】
本明細書に用いる「処理する」という用語は、疾患または障害の、少なくとも1つの有害作用または症状を低減または緩和することを含む。
【0039】
本明細書で用いる「治療的有効量の再生細胞」とは、有効な、または望ましい臨床作用をもたらすのに十分な再生細胞の量を指す。前記用量は、1回以上の投与を通じて投与される。一方、どれが有効用量と考えられるかの判断は、各患者の個別的要因、例えば、患者の年齢、サイズ、病気のタイプまたは程度、病気の段階、再生細胞の投与ルート、用いる補助療法のタイプまたは程度、病気の進行過程、および所望の治療タイプ(例えば、先端的対通例的治療)を含めた要因に基づいてもよいが、ただし要因は上記に限定されない。
【0040】
本明細書で用いる「被験体」は、温血動物、好ましくはヒトを含む哺乳類を含む。好ましい実施態様では、被験体は霊長動物である。さらに好ましい実施態様では、被験体はヒトである。
【0041】
本明細書において先述したように、再生細胞、例えば、幹細胞および先駆細胞は、各種組織から収集することが可能である。本発明のシステムは、これらの組織全てに対して用いてよい。しかしながら、脂肪組織は再生細胞の特に豊かな供給源である。従って、本発明のシステムを、再生細胞の供給源として、脂肪組織を、限定のためでなく、例示としてのみ用いて、本明細書において具体的に説明する。
【0042】
脂肪組織は、当業者に既知の任意の方法で獲得することが可能である。例えば、脂肪組織は、脂肪吸引(注射器または、動力支援による)、または脂肪摘出術、例えば、吸引支援脂肪成形術、超音波支援脂肪形成術、および、切除による脂肪摘出術、またはそれらの組み合わせによって患者から取り出してもよい。脂肪組織は取り出され、集められ、本明細書に記載される本発明のシステムの複数の実施態様から選ばれる任意の実施態様に従って処理してよい。収集される組織の量は、多くの要因、例えば、ドナーの体質量指数および年齢、収集に利用できる時間、採取可能な脂肪組織収集部位の利用可能性、現在および従来服用の薬剤および状態(例えば、抗凝固療法)、および、組織が収集される臨床目的、を含む数多くの要因に依存する。例えば、痩せた個人から抽出される100 mlの脂肪組織における再生細胞のパーセンテージは、肥満したドナーから抽出されるものよりも大きい(表1)。これは、恐らく、肥満した個人における脂肪含量増大による希釈効果を反映するものと思われる。従って、本発明の1つの局面に応じて、より痩せた患者から吸引される量に比べて、太りすぎのドナーからはより大量の組織を入手することが望ましい。この所見はまた、本発明の有用性は、大量の脂肪組織を持つ個人に限定されないことを示す。
【0043】
【表1】

【0044】
脂肪組織が処理された後では、得られた再生細胞は、実質的に成熟脂肪細胞および結合組織を含まない。従って、本発明のシステムは、研究および/または治療目的のために使用することが可能な、複数の異種の脂肪組織由来再生細胞を生成する。好ましい実施態様では、細胞は、レシピエントの体の中に設置、または再注入するのに好適である。他の実施態様では、細胞は研究のために使用されてもよい、例えば、細胞は、長期に渡って生存し、その後の研究に使用することが可能な、幹細胞または先駆細胞系統を確立するために使用することも可能である。
【0045】
次に、現在本発明の好ましいとされる実施態様について詳細に述べる。その例は、添付の図面に図示される。可能な場合はいつでも、同じまたは類似の部品を言及するための図面および説明には、同じまたは類似の参照数字が用いられる。なお、図面は単純な形で表され、厳密な原寸ではないことに注意されたい。本明細書の開示の説明では、便利と明瞭のために、方向を示す用語、例えば、頂上、底部、左、右、上、下、上部、上方、下方、直下、後ろ、前、遠位、および近位は、添付の図面に対して使用される。このような方向用語を本発明の範囲を限定するものといかなるやり方でも考えてはならない。
【0046】
本明細書の開示は、いくつかの例示の実施態様について言及するが、これらの実施態様は、例示のためであって、限定のために提示されるものではないことを理解しなければならない。下記の詳細な説明の意図するところは、例示の実施態様を論じてはいるけれども、特許請求の範囲によって定義される、本発明の精神および範囲内に含まれると思量される、該実施態様の全ての修飾体、別態様、および等価物をカバーするものと考えなければならないということである。本発明は、従来技術で通例の各種医学処置と共に利用されてもよい。
【0047】
ここで図面を参照すると、本発明のシステム10は、一般に、1個以上の組織収集チェンバー20、処理チェンバー30、廃棄物チェンバー40、出力チェンバー50、およびサンプルチェンバー60を含む。各種チェンバーは、生物材料を含む流体が、閉鎖された、無菌的流体/組織経路を維持しながら、あるチェンバーから別のチェンバーへ通過できるように、1本以上の導管12によって共に結合される。導管は、本明細書では相互交換的に用いられる、それぞれ腔および管と呼ばれる剛体または屈曲体を含んでもよい。ある実施態様では、導管は、屈曲性の管、例えば、通常臨床場面で用いられるポリエチレン管、シリコンまたは、従来技術で既知のその他の任意の材料から成る管の形を取る。導管12は、流体または組織の通過を望むか否かに応じてサイズが変動してもよい。導管12はまた、システムを循環する組織または流体の量に応じてサイズが変動してもよい。例えば、流体の通過のために、導管は、約0.060から約0.750インチの範囲の直径を持ってもよく、組織の通過のために、導管は、0.312から0.750インチの範囲の直径を持ってもよい。一般に、導管のサイズは、導管が収容できる容量と、前記導管を通る組織または流体を輸送するのに必要な時間をバランスさせるように選ばれる。本システムの自動化実施態様では、前記パラメータ、すなわち、容量と輸送時間は、システムの処理装置に対し適切な信号が送信されるよう特定されなければならない。これによって、装置は、あるチェンバーから別のチェンバーへ正確な容量の流体および組織を移動させることが可能になる。使用される屈曲性管は、扁平変形がなるべく起こらぬよう陰圧に耐えることができなければならない。使用される屈曲性管はまた、例えば、システムで使用される可能性のある陽動ポンプによって生成される陽圧にも耐えることができなければならない。
【0048】
システムのチェンバーは全て、1個以上のポート、例えば、出口ポート22または入口ポート21を含む。これらのポートは、標準的IV、注射器、および吸引管接続を受け容れる。ポートは、密封ポート、例えば、ゴム中隔閉鎖注射針開通ポート51であってもよい。入口ポートは、導管を通じて、1本以上のカニューレ(図示せず)と結合されてもよい。例えば、組織の入口ポート21は、一体化された単一使用脂肪吸引カニューレと結合されてもよく、導管は屈曲管であってもよい。導管は、一般に、システムのあるチェンバーから別のチェンバーへ流体通路を提供するように配置される。このために、導管およびポートは、例えば、手動または自動的に操作される吸引装置(図示せず)に結合されてもよい。吸引装置は、例えば、注射器または電気ポンプであってもよい。吸引装置は、患者から組織を吸引するのに十分な陰圧を提供できるものでなければならない。一般に、当業者、例えば、外科医にとって既知の任意の吸引装置の使用が可能である。
【0049】
導管12はさらに、システムの各種成分の内材料の流れを調節するために1個以上のクランプ(図示せず)を含んでもよい。クランプは、システムの異なる領域を効果的に密封することによってシステムの無菌性を維持するのに有用である。別態様として、導管12は、システムを環流する材料の流れを調節する1個以上のバルブ14を含んでもよい。バルブ14は、図面では白抜き丸として特定される。好ましい実施態様では、バルブは、電気機械的ピンチバルブである。別の実施態様では、バルブは空気圧バルブである。さらに別の実施態様では、バルブは油圧バルブまたは機械的バルブである。これらのバルブは、レバーと結合したコントロールシステムによって活性化されるのが好ましい。レバーは、活性化されるために手動で操作されてもよい。自動化実施態様では、コントロールシステムは、レバーの外に、指定の活性化条件においてバルブを活性化する処理装置に結合されてもよい。いくつかの自動化実施態様では、バルブの活性化は、一部は自動化され、一部は、過程が最適化されるようにユーザーの好みに合わせられるようになっていてもよい。さらに別の実施態様では、あるバルブは手動で活性化され、別のあるものは処理装置によって自動的に活性化されてもよい。バルブ14はまた、1個以上のポンプ、例えば、ペリスタルチックポンプ34、または陽動ポンプ(図示せず)と組み合わせて使用されてもよい。導管12および/またはバルブ14はまた、センサー29、例えば、光学センサー、超音波センサー、圧力センサー、または、システムを環流する各種流体成分および流体レベルを識別することが可能な、他の形態の、従来技術で既知のモニターを含んでもよい。好ましい実施態様では、センサー29は光学センサーである。
【0050】
システムはまた複数のフィルター36を含んでもよい。ある実施態様では、フィルターは、システム28の1つのチェンバー内に収められてもよい。システム内部の様々なチェンバーは、異なるフィルターを含んでもよい。フィルターは、再生細胞、例えば、幹細胞および/または先駆細胞を、対象外の細胞および、本システムに従って使用される可能性のある脱凝集剤から分離するのに有効である。1つの実施態様では、フィルターアッセンブリ36は、中空線維ろ過装置を含む。別の実施態様では、フィルターアッセンブリ36は、沈降過程を含んで使用されても、含まずに使用されてもよい浸透式ろ過装置を含む。さらに別の実施態様では、フィルターアッセンブリ36は、溶出装置および過程を含んで使用されても、含まずに使用されてもよい遠心装置を含む。さらに別の実施態様では、システムは、これらのろ過装置の組み合わせを含む。本発明のろ過機能は二重性であってもよい。すなわち、あるフィルターは、最終濃度から、物体、例えば、コラーゲン、遊離脂質、遊離脂肪細胞、および残留コラゲナーゼを除去するものであり、別のフィルターは、最終産物を濃縮するために使用される。システムのフィルターは、20から800μmの範囲の直径および/または長さを持つ複数の孔を含む。ある好ましい実施態様では、収集チェンバー20は、80から400μmの範囲の複数の孔を持つあらかじめ固定されたフィルター28を有する。別の好ましい実施態様では、収集チェンバー20は、複数の、265μm孔を持つ、あらかじめ固定されたフィルター28を有する。別の実施態様では、フィルターは、分離および/または処分可能であってもよい。
【0051】
システムはまた、システムの1個以上のチェンバー内に含まれる材料の温度調節のために配置される、1個以上の温度調節装置(図示せず)を含んでもよい。温度調節装置は、ヒーター、クーラー、またはその両方であってもよい。すなわち、ヒーターおよびクーラーの間で切り換え可能であってもよい。温度装置は、システムを環流する材料、例えば、組織、脱凝集剤、再懸濁剤、濯ぎ剤、洗剤、または添加剤を含む任意の材料の温度を調節してよい。例えば、脂肪組織の加熱は、脱凝集を促進し、一方、再生細胞出力の冷却は、生存率を維持するのに望ましい。さらに、最適な組織処理のためにあらかじめ温めた試薬が必要な場合には、温度装置の役割は、温度を上げたり、または下げたりすることではなく、指定の温度を維持することになるであろう。
【0052】
閉鎖された、無菌の流体/組織経路を維持するために、全てのポートおよびバルブは、システムの密閉構成を維持する閉鎖手段を含む。閉鎖手段は、流体、空気、およびその他の汚染物質に対して不透過な膜であってもよいし、あるいは、適当であれば、従来技術で既知の任意の他の閉鎖手段であってもよい。さらに、システムの全てのポートは、注射器、針、または、システムの無菌性を冒すことなくチェンバー内に材料を引き込むための他の装置を収容可能とするように設計される。
【0053】
本明細書に記載されるように、組織は、従来技術で認識される任意の方法を通じて患者から抽出されてよい。処理のためにシステムに導入する前に、吸引組織を抽出してもよい。通常、吸引組織は、密封入口ポート、例えば、ゴム中隔閉鎖注射針開通ポート(収集チェンバーに図示せず)を通じて、導管12から収集チェンバー20に移送される。別態様として、組織抽出工程はシステムの一部であってもよい。例えば、収集チェンバー20は、患者の体内に挿入される標準的カニューレによる組織の取り出しを促進する真空ライン11を含んでもよい。従って、本実施態様では、全システムが患者に付着される。組織は、導管、例えば、閉鎖滅菌経路の一部である12aを通じて入り口ポート21から収集チェンバー20に導入されてもよい。収集チェンバー20は、複数の屈曲性または剛性キャニスターまたはシリンダー、あるいはそれらの組み合わせを含んでもよい。例えば、収集チェンバー20は、様々なサイズの1個以上の剛性キャニスターを含んでもよい。収集チェンバー20はまた、1種以上の屈曲性バッグを含んでもよい。このようなシステムでは、バッグには、該バッグに対して吸引を施した場合潰れてしまう確率を減らすのに役立つ支持体、例えば、内部または外部フレームが設けられていてもよい。収集チェンバー20は、処理チェンバー30において実行される処理の洗浄および濃縮段階に先立って、組織を適切に洗浄、脱凝集させるために必要な量の生食液を保持するのに十分なサイズを持つ。収集チェンバー20に存在する組織または流体の容量は、肉眼で簡単に確かめられることが好ましい。例えば、脂肪組織から再生細胞を得るためには、好適な収集チェンバーは、800mlの脂肪吸引物と1200mlの生食液を保持する容量を持つ。従って、1つの実施態様では、収集チェンバー20は、少なくとも2リットルの容量を持つ。別の実施態様では、血液から赤血球を分離・濃縮するために、収集チェンバー20は、少なくとも1.5リットルの容量を持つ。一般に、収集チェンバー20のサイズは、患者から収集される組織のタイプおよび量に応じて変動する。収集チェンバー20は、小は約5mlの組織から約2リットルの組織まで保持することが可能なサイズを持ってもよい。比較的小さい組織容量、例えば、5mlから100mlの容量では、組織は、収集チェンバー20に移送する前に注射器に集められる。
【0054】
収集チェンバー20は、滅菌が可能な、任意の好適な生物適合材料を用いて構築されてよい。好ましい実施態様では、収集チェンバー20は、ISO10993標準に記載されるように、静脈内接触において生体適合性要求を満たすディスポーザブルな材料から構成される。例えば、ポリカーボネート、アクリルまたはABSを使用してもよい。収集チェンバー20の流体通路は、発熱物質非含有、すなわち、病気伝染の危険なく血液使用に好適なものであることが好ましい。1つの実施態様では、収集チェンバー20は、チェンバー内に存在する組織の凡その容量をユーザーが眼で見て決めることのできる材料から構築される。別の実施態様では、収集チェンバー20内の組織および/または流体の容量は、自動化センサー29によって定められる。収集チェンバー20は、自動化実施態様において、システムが、チェンバー内の組織および/または流体の容量を相当の正確さで決めることができるように設計されるのが好ましい。ある好ましい実施態様では、システムは、収集チェンバー内の容量を、プラスまたはマイナス15パーセントの正確度で感受する。
【0055】
例示としてのみ提供されるある特定の実施態様では、収集チェンバー20は、剛性チェンバー、例えば、医用級ポリエステルから成り、265μmのメッシュサイズを持つ、ほぼ円錐形のあらかじめ固定されたフィルター28を含む、医用級ポリエステルから構築されるチェンバーである(図5参照)。剛性の、組織収集容器は、高さ約8インチおよび直径約5インチのサイズを持ってもよい。壁の厚みは約0.125インチであってもよい。シリンダーの内部への侵入は、例えば、吸引チューブ用の1個以上のポート、無菌結合技術による接続用チューブを持つ1個以上のポート、および/または、ゴム中隔を貫通する針開通用の1個以上のポートを通じて行われてもよい。収集チェンバー20の内部にあらかじめ固定されるフィルター28は、例えば、組織が患者から取り出される際に、脂肪組織を保持し非脂肪組織を通過させるような構造となっていることが好ましい。さらに詳細には、フィルター28は、脂肪組織の最初の収集中、別の実施態様では収集後、遊離脂質、血液、および生食液は通過させ、一方、脂肪組織の断片を保持することを可能とする。このために、フィルター28は、約20μmから5mmの範囲を持つ、同じまたは異なるサイズの複数の孔を含む。好ましい実施態様では、フィルター28は、複数の400μmの孔を含む。好ましい実施態様では、フィルター28は、厚さ約200μm、孔径約265μm、開放面積約47%を持つ医用級ポリエステルメッシュである。この物質は、濯ぎの間組織を保持するが、組織の脱凝集後は、細胞をメッシュを貫通して通過させる。従って、組織が患者から吸引される際、非脂肪組織を脂肪組織から分離することが可能である。異なる物質、メッシュサイズ、およびポートの数・タイプであっても同じ機能性を実現することが可能である。例えば、100μmよりも小さいメッシュの孔サイズ、あるいは、数千ミクロンほどの大きさの孔サイズであっても、生食液と血球は通過させるが、一方、脂肪組織凝集体および断片は保持するという同じ目的を達成するとことが可能であると思われる。同様に、別の剛性プラスチック材料を用いても、あるいは、当業者には恐らく既知の他の多くの変法を用いても同じ目的を実現することが可能であろう。
【0056】
システム10はまた、1個以上の溶液供給源22を含んでもよい。溶液供給源は洗液供給源23、および、コラゲナーゼのような組織脱凝集剤供給源24を含んでもよい。収集チェンバー20は、洗液または脱凝集剤が無菌的に組織に添加されるのを可能とする閉鎖流体経路を含む。
【0057】
洗液23および脱凝集剤24のための容器は、内容物を無菌的に保持することが可能なものであれば、いずれのものであってもよい適当な容器、例えば、扁平変形が可能なバッグ、例えば、臨床場面で使用されるIVバッグであってもよい。この容器は、導管12、例えば、収集チェンバー20に結合する導管12eを有し、そのため、洗液および脱凝集剤が収集チェンバー20の内部に配送されるようになっていてもよい。洗液および脱凝集剤は、従来技術で既知の任意のやり方で、例えば、生食液23および/または脱凝集剤24の容器の外側に印加される単純な重力圧を含むやり方、あるいは、導管、例えば、図4の導管12dに陽圧移動ポンプを設置することによって、収集チェンバー20の内部に配送してもよい。自動化実施態様では、システムの処理装置は、各種パラメータ、例えば、洗浄に必要な生食液の容量、サイクルの時間または数を始め、脱凝集剤の濃度または量、および脱凝集に要する時間を、ユーザーによって最初に入力された情報(例えば、処理される組織の量)に基づいて計算する。別態様として、量、時間等は、ユーザーによって手動で操作される。
【0058】
収集チェンバー内の組織および/または流体は、摂氏30度から摂氏40度の範囲の温度に維持しなければならない。ある好ましい実施態様では、収集チェンバー内の懸濁液の温度は、摂氏37度に維持される。いくつかの実施態様では、外科処置または治療適用を遅れさせる必要がある場合は、選択された組織は、後の使用のために収集チェンバーの中に保存してもよい。組織は、最大96時間まで、室温に、約室温に、あるいは、約摂氏4度で保存してもよい。
【0059】
洗浄液は、当業者に既知の任意の溶液、例えば、生食液、あるいはその他任意の、緩衝化された、または非緩衝の電解液であってもよい。処理される組織のタイプは、使用される洗浄液のタイプまたは組み合わせを指定する。通常、洗浄液、例えば、生食液は、脂肪組織が患者から取り出され、収集チェンバーに設置された後に収集チェンバー20に入る。しかしながら、洗浄液は、脂肪組織が抽出される前に収集チェンバー20に配送されてもよいし、あるいは、脂肪組織と同時に収集チェンバー20に配送されてもよい。収集チェンバー20において、洗浄液と抽出された脂肪組織とは、後述の方法を含む任意の手段によって混合されてもよい。
【0060】
例えば、組織は、振とう(これは、細胞の生存率を最大とし、放出される遊離脂質の量を最小にする)によって洗浄してもよい。1つの実施態様では、組織は、収集チェンバー20全体を、様々の角度の円弧を通して(例えば、約45度から約90度までの円弧)、様々の速度で、例えば、1分当たり約30回転の速度で回転させることによって振とうさせる。別の実施態様では、組織は、収集チェンバー20全体を、様々の角度の円弧を通して(例えば、約45度から約90度までの円弧)、様々の速度で、例えば、1分当たり約30回転の速度で回転させることによって振とうさせる。その際、収集チェンバー20は、該収集チェンバーの内壁に堅く付着される1個以上のパドルまたは突起を含む。前述の収集チェンバー20の回転は、収集チェンバー20に付着される、または近傍に設置される駆動機構によって実現される。駆動機構は、単純なベルトまたはギア、または、従来技術で既知の他の駆動機構であってもよい。回転速度は、例えば、1分当たり30回転であってもよい。一般に、それよりも高い速度では、遊離脂質の量が大きくなるので、最適とはならないことが判明している。
【0061】
別の実施態様では、組織は、収集チェンバー20内に回転性軸25を設置することによって振とうされる。その際、回転性軸は、軸が回転する間混合物の中を通過する、回転可能軸25に堅く付着される1個以上のパドル25aまたは突起を含む。ある実施態様では、パドル25aを堅く取り付けた回転性軸25は、収集チェンバー20の底部に静止させてもよい。これは、例えば、パドル様装置を、回転磁界の中に設置することによって実現することが可能である(例えば、磁気スターラー)。別態様として、組織の振とうは、従来技術で既知の単純な振とう器、すなわち、回転させずに上下の振とうを実行する装置を用いて実現してもよい。組織はまた、従来技術で既知の、任意の他の手段、例えば、揺動、攪拌、逆転等を用いて洗浄してもよい。
【0062】
所望の数の洗浄サイクルの後、再生細胞を残余の脂肪組織成分から分離するために、組織脱凝集剤を収集チェンバー20に配送してもよい。この脱凝集剤は、当業者に既知の任意の脱凝集剤であってよい。使用してもよい脱凝集剤としては、中性プロテアーゼ、コラゲナーゼ、トリプシン、リパーゼ、ヒアルロニダーゼ、デオキシリボヌクレアーゼ、ブレンドザイム酵素混合物ファミリーの構成員、例えばリベラーゼH1、ペプシン、超音波またはその他の物理的エネルギー、レーザー、マイクロウェーブ、その他の機械的装置、および/または上記の組み合わせが挙げられる。本発明の好ましい脱凝集剤はコラゲナーゼである。脱凝集剤は、他の溶液と共に加えてもよい。例えば、生食液、例えば、前述の生食液供給源23から配送される生食液を、脂肪組織に加え、それと同時に、またはその直後にコラゲナーゼを添加してもよい。1つの実施態様では、洗浄脂肪組織は、37℃で、またはその周辺で約20−60分、コラゲナーゼ含有酵素液と混合される。別の実施態様では、消化時間を短縮するために、より高濃度のコラゲナーゼ、または類似の薬剤が加えられる。次に、洗浄脂肪組織および組織脱凝集剤は、前述の振とう法と同様のやり方で、洗浄脂肪組織が脱凝集されるまで振とうされる。例えば、洗浄脂肪組織および組織脱凝集剤は、収集チェンバー全体を約90度の円弧を通じて回転させ、軸が回転するにつれて溶液の中を通過する1個以上のパドルまたは突起を含む軸を設け、および/または、収集チェンバーの内面にパドルまたは突起を含む収集チェンバー全体を回転させることによって振とうしてもよい。
【0063】
脂肪組織由来細胞が使用される目的に応じて、脂肪組織は、部分的脱凝集されてもよいし、あるいは、完全に脱凝集されてもよい。例えば、脂肪組織由来細胞が、1単位の脂肪組織と結合される実施態様では、収集脂肪組織を部分的に脱凝集し、部分的に脱凝集された脂肪組織の一部を除去し、次に、収集チェンバーに残った脂肪組織の残余部分の脱凝集を続けることが好ましい。別態様として、洗浄脂肪組織の一部を取り出し、消化前にサンプル容器に入れて脇に置いておいてもよい。別の実施態様では、収集脂肪組織を部分的に脱凝集し、細胞を、患者に再導入する前に濃縮してもよい。1つの実施態様では、脂肪組織は、一般的には約20分未満の期間組織脱凝集剤と混合される。次に、この部分的脱凝集組織の一部は収集チェンバーから除去され、残りの部分的脱凝集組織がさらに、その脂肪組織を組織脱凝集剤とさらに40分混合されて脱凝集される。脂肪組織由来細胞が、再生細胞から成る事実上純粋な集団として使用される場合には、脂肪組織は完全に脱凝集されてよい。
【0064】
消化後、組織と脱凝集剤液とは、溶液の浮遊成分と非浮遊成分とが、収集チェンバー内で区別されるのに十分な時間安静に置かれる。通常、この時間は約15秒から数分であるが、修飾実施態様では別の時間が導入されてもよい。浮遊層は、さらに追加の洗浄・濃縮を要する再生細胞を含む。非浮遊層は、血液、コラーゲン、脂質、および、組織の、再生細胞以外の他の細胞成分を含む。非浮遊層は、廃棄物チェンバーに移動させなければならない。
【0065】
従って、収集チェンバー20は、血液、および組織の他の非浮遊成分が、1本以上の導管12を通じて1個以上の廃棄物容器40に向けて排出されるように、チェンバーの最低点に出口ポート22を含むことが好ましい。収集チェンバー20は、出口ポート22が収集チェンバーの底部に配置されるように直立位置を取る(または該位置に設置されてもよい)。排出は受動的でもよいし、能動的であってもよい。例えば、前述の非浮遊性成分は、重力によって、陽圧または陰圧を印加することによって、ポンプ34によって、あるいは、排気管32によって排出することが可能である。自動化実施態様では、処理装置が、収集チェンバー20から非浮遊層を排出するよういくつかのバルブおよび/またはポンプに信号を送信することも可能である。自動化実施態様はまた、浮遊液および非浮遊液の間に界面が実現された時点を検出することが可能なセンサー29を含んでもよい。自動化実施態様はまた、センサー29、例えば、収集チェンバーから出る導管を流れる流出液の光屈折率の変化を検出することが可能な光学センサーを含んでもよい。光屈折率における適切な変化は、流出導管における浮遊層の存在を送信し、これは、非浮遊層が排出されたことを示す。次に、センサー29は、処理装置に次の工程に進むように信号を発することも可能である。
【0066】
一方、いくつかの実施態様では、組織は、該組織の非再生細胞成分を回収するために処理されてもよい。例えば、ある治療または研究応用において、コラーゲン、タンパク、基質または支質成分、脂質、脂肪細胞、または、組織のその他の細胞成分が要求されることがある。そのような実施態様では、前述のように廃棄物チェンバーに移動されなければならないのは、再生細胞を含む浮遊層である。次に、非浮遊層は、必要に応じてさらにその後の処理を受けるためにシステム内に保持される。
【0067】
非浮遊層が除去されたならば、再生細胞を含む浮遊層は、残留汚染物質を除くために1回以上洗浄されてもよい。従って、収集チェンバー20は通常、洗浄液が収集チェンバー内部に配送されるのを可能とするための1個以上のポート21、および、廃棄物およびその他の物質を収集チェンバー20から排出することを可能とするための1個以上のポート22を含む。例えば、収集チェンバーは、本明細書に記載する通り、1個以上の密封入口ポートを含んでもよい。収集チェンバー20はまた、洗浄液が収集チェンバーに配送される間、および/または、廃液が排出される間、システムが無菌状態にあることをさらに確保するために、1個以上のキャップ(図示せず)、例えば、頂上キャップおよび底部キャップを含んでもよい。ポート21は、収集チェンバーのキャップの上、または、収集チェンバーの側壁に設けられてもよい。
【0068】
新鮮な洗浄液による洗浄過程は、溶液の中の非浮遊汚染物質の残留量が指定のレベルに達するまで繰り返えされる。言い換えれば、脂肪組織断片を含む、前述の混合物の浮遊物質を含む、収集チェンバー20の残留物質は、不要な物質の量が所望の指定レベルに低下するまで、さらに1回以上洗浄されてもよい。洗浄の終末点を定める1つの方法は、組織液中の赤血球の量を測定することである。これは、540 nm波長において吸収される光を測定することによって実現することが可能である。好ましい実施態様では、約0.546と約0.842の間の範囲が受容可能とされる。
【0069】
洗浄および/または脱凝集中、結果をさらに向上させるために、必要に応じて1種以上の添加物を各種容器に加えてもよい。添加物の例をいくつか述べるならば、洗浄および脱凝集を最適化する薬剤、処理中に活性細胞集団の生存率を強化する添加物、抗微生物薬(例えば、抗生物質)、脂肪細胞および/または赤血球を分解する添加物、または、興味の細胞集団を濃縮する添加物(固相反応基に対する差別的接着、あるいは、その他の、細胞集団を実質的低減または濃縮を促進する差別的方法によって)が挙げられる。その他可能な添加物としては、再生細胞の回復および生存性を高めるもの(例えば、カスパーゼ阻害剤)、あるいは、注入または移植の際有害反応の起こる確率を下げるもの(例えば、細胞または結合組織再凝集の阻害剤)が挙げられる。
【0070】
十分な安静静止時間が経過した後、得られた、洗浄脂肪組織断片および組織脱凝集剤の混合物の内、その非浮遊分画は、再生細胞、例えば、幹細胞、およびその他の脂肪組織由来先駆細胞を含む。本明細書に論ずる通り、再生細胞を含む非浮遊分画は、処理チェンバー30に転送され、そこにおいて、興味の再生細胞、例えば、脂肪組織由来幹細胞が、混合物の非浮遊分画中に存在する、他の細胞および物質から分離される。この非浮遊分画は、本明細書では再生細胞成分と呼ばれ、多種類の細胞、例えば、本明細書に記載する、幹細胞、先駆細胞、内皮前駆細胞、脂肪細胞、およびその他の再生細胞を含む細胞タイプを含む。再生細胞成分はまた、1種以上の汚染物質、例えば、脂肪組織断片中に存在するコラーゲン、およびその他の結合組織タンパクおよびその断片、あるいは、組織脱凝集過程で使用された残留コラゲナーゼ等を含むことがある。
【0071】
本発明の処理チェンバー30は、再生細胞組成物が、収集チェンバー20から、チューブ12、バルブ14、およびポンプ34を通じて、無菌的に処理チェンバー30に移動するようにシステム内に配置されることが好ましい。処理チェンバーは、10 mLから1.2 Lの範囲の組織/流体混合物を受容できる寸法とされる。好ましい実施態様では、処理チェンバーは、800 mLを収容する寸法とされる。いくつかの実施態様では、収集チェンバー20からの全再生細胞組成物が処理チェンバー30に向けられる。一方、他の実施態様では、再生細胞組成物の一部が処理チェンバー30に向けられ、別の一部は、システムの異なる領域、例えば、サンプルチェンバー60に向けられ、後に処理チェンバー30で処理される細胞と再結合される。
【0072】
処理チェンバー30は、滅菌可能な、生体適合性で好適なものであればいずれのものであってもよい材料から構築されてよい。ある好ましい実施態様では、処理チェンバー30は、ISO10993標準に記載される通り、血管内接触における生体適合性要求に合致するディスイポーザブル材料によって構築される。例えば、ポリカーボネート、アクリル、ABS、エチレン酢酸ビニル、またはスチレン-ブタジエン・コポリマー(SBC)を用いてもよい。別の実施態様では、ディスポーザブル処理チェンバーの流体通路は、発熱物質非含有である。処理チェンバーは、プラスチックバッグ、例えば、血液銀行で血液を処理するために通例として使用されるバッグの形を取ってもよく、あるいは、別の実施態様では、該チェンバーは構造的に剛性であってもよい(図6)。1つの実施態様では、処理チェンバー30は、それぞれ出願者が共通な、2001年12月7日登録の米国特許出願第10/316,127号、2002年12月20日登録の米国特許出願第10/325,728号に開示される処理チェンバーと類似していてもよい。なお、これら特許文書の内容全体を参照することにより本明細書に含める。
【0073】
処理チェンバー30は、細胞を分離・濃縮するのに好適であれば、ろ過および遠心、および/または、それらの組み合わせを含む、いずれのやり方で構築されてもよい。いくつかの実施態様では、収集チェンバー20で得られた再生細胞組成物は、処理チェンバー30に導入され、そこにおいて組成物は、特定の再生細胞集団を分離および/または濃縮するためにろ過される。細胞ろ過は、特定の成分および細胞を、他の異なる成分または細胞タイプから分離する方法である。例えば、本発明の再生細胞組成物は、複数の異なるタイプの細胞、例えば、先駆細胞および脂肪細胞を含む細胞を始め、1種以上の汚染物質、例えば、脂肪組織断片中に存在するコラーゲン、または、組織脱凝集過程から生じた残留コラゲナーゼを含む。処理チェンバー30内に存在するフィルター36は、再生細胞の特定の下位集団、例えば、幹細胞または内皮先駆細胞等の分離・濃縮を可能とする。
【0074】
液体から細胞をろ過採取することに関連するいくつかの変数としては、フィルター媒体の孔サイズ、孔の形状(形)、フィルターの表面積、ろ過される溶液の方向、膜横断圧、特定細胞集団の希釈率、粒子の大きさおよび形の外、細胞のサイズおよび生存率が挙げられるが、ただしこれらに限定されない。本明細書の開示に従って、分離またはろ過することが望まれる特定の細胞は、通常は、脂肪組織由来幹細胞である。しかしながら、いくつかの実施態様では、特定の細胞は、脂肪組織由来先駆細胞、例えば、内皮前駆細胞単独、または幹細胞と組み合わせた内皮前駆細胞を含んでもよい。
【0075】
再生細胞組成物は、フィルターアッセンブリ、例えば、フィルターアッセンブリ36を通過させてもよい。いくつかの実施態様では、フィルターアッセンブリ36は、様々の機能を実行し、再生細胞組成物を別々の部分または成分に分離するように構造化される複数のフィルターを含む。例えば、フィルターの内の1つは、再生細胞組成物からコラーゲンを分離するように構成され、フィルターの内の1つは、再生細胞組成物から脂肪細胞および/または脂質成分を分離するように構成され、および、フィルターの内の1つは、再生細胞組成物から、残留酵素、例えば、組織脱凝集剤を分離するように構成される。ある実施態様では、フィルターの内の1つは、二つの機能、例えば、組成物からコラーゲンおよび組織脱凝集剤を分離する機能を実行することが可能である。この複数のフィルターは、通常は、直列に配置される。しかしながらまた、フィルターの少なくとも一部は並列にも配置される。フィルターアッセンブリ36の直列配置を図2に示す。フィルターアッセンブリ36の並列配置を図3に示す。
【0076】
1つの実施態様では、フィルターアッセンブリ36は、第1フィルター、第2フィルター、および第3フィルターを含む。第1フィルターは、再生細胞組成物中に存在するコラーゲン粒子を除くように構成される。これらのコラーゲン粒子は、通常、直径が約0.1ミクロンであり、最大20ミクロン長を持つことがあり得る。コラーゲン粒子は、消化に応じて様々のサイズを持つことがある。コラーゲンは小線維である場合もある。すなわち、捩れや折れ目を持つことがある。本明細書に記載されるフィルターはどれも、ポリエーテルスルフォン、ポリエステル、PTFE、ポリプロピレン、PVDF、またはセルロースによって製造されてもよい。コラーゲンをろ過除去するためには二つの可能性がある。1つは、先ず比較的大きい粒子を除き、細胞は貫通させようとすることであり、これは、例えば、10ミクロン範囲のフィルターを必要とする。第二の方法は、コラーゲンは十分消化されているという意図の下に、細胞を捕捉し、コラーゲンは通過させるように比較的小さいサイズのフィルター、例えば、4.5ミクロンのフィルターを用いることである。これは、細胞を再度フィルターから離れて浮遊させる手段を必要とする。また、コラーゲン線維を惹きつけて保持するフィルターを導入する可能性もあってもよい。
【0077】
第2フィルターは、再生細胞成分中の浮遊しない、遊離の未熟脂肪細胞を除去するように構成される。1つの実施態様では、第2フィルターは、ポリエステルから構成され、約30と約50ミクロンの間の孔径を持つが、好ましい孔径は約40ミクロンである。第2フィルターと呼ばれているけれども、この装置の設置は、比較的大型の細胞および粒子を先ず除去することを助けるために、第2位置ではなく第1位置に対して行われる。第3フィルターは、組成物中の、無駄または残留コラゲナーゼ、またはその他の組織脱凝集剤を除去するように構成される。好ましい実施態様では、コラゲナーゼは時間と共に変性してもよい。1つの実施態様では、第3フィルターは、1 μm未満の直径または長さを持つ複数の孔を含む。いくつかの実施態様では、孔は、1 μm未満の直径を持ってもよい。別の実施態様では、孔は、10 kD と5ミクロンの間の直径を持つ。いくつかの実施態様では、第3フィルターは、再生細胞集団を、少量の生食液、または、本明細書で論ずるその他の洗浄液において濃縮するように構成される。現在好まれるところでは、最終フィルターのみは中空線維ユニットである。線維の全てが中空線維タイプであることは必ずしも必要ではない。中空線維ユニットは、好ましい実施態様では最終フィルターにおいて使用される。なぜなら、それは、再生細胞に対する有害な作用を極小に留めながらコラゲナーゼを除去する点でもっとも効率的だからである。装置が、中古品の集合体である実施態様では、この3枚のフィルターは別々の筐体に収められる。中空線維ユニットを第3フィルターとして使用する場合、第1および第2フィルターは組み合わせ1つの筐体に収めることは実行可能である。最終フィルターが中空線維装置でない場合、3枚のフィルター全てを1つの筐体の中に含めることが可能である。
【0078】
フィルターアッセンブリ36のフィルターは、処理チェンバー30内に配置されてもよいし、あるいは、処理チェンバー30とは別の成分として設置されてもよい。さらに、フィルターアッセンブリ36のフィルターは、複数の処理チェンバー内に、あるいは、直列形式で設けられてもよい。いくつかの実施態様では、導管またはチューブが、1つの、または複数の処理チェンバーとして働いてもよい。処理チェンバーは、フィルター同士を接続する導管の内部容量と成るほどにサイズが低減されてもよい。このタイプのシステムは、組織液の容量が適当なサイズを持つ場合適性に機能する。従って、導管は、流体がフィルターを通過する際に流体を細胞と共に含むことによって処理チェンバーとして働いてもよい。細胞/組織が、システムを準備し、運転する過程において不必要に失われることがないよう、導管の容量を最小にするように注意しなければならない。
【0079】
前述の実施態様を参照すると、洗浄細胞、および残留コラーゲン、脂肪細胞、および/または、未消化の組織脱凝集剤は、第1フィルターを通過させられ、それによって、コラーゲン粒子の少なくとも一部、好ましくは実質的にその全てが組成物から除去され、そのため、ろ液にはほとんど、好ましくは全くコラーゲン粒子が存在しないようになる。脂肪細胞および/または未消化の組織脱凝集剤を含むろ過された再生細胞組成物は、次に第2フィルターを通過させられ、それによって、遊離脂肪細胞の少なくとも一部、好ましくは実質的にその全てが、ろ過された再生細胞組成物から除去される。次に、この2回ろ過された再生細胞組成物は、未消化の組織脱凝集剤を含んでいるが、第3フィルター、例えば、本明細書で論ずる中空線維ろ過装置を通過させられ、未消化の組織脱凝集剤が、再生細胞組成物から低減または除去される。
【0080】
この3回ろ過再生細胞組成物(すなわち、第1、第2、および第3フィルターを通過した後に留まる組成物)は次に、複数の出口に向けられる。これらの出口は、複数の出口を含む処理チェンバー30の一部を含む。これらの出口は、必要な圧を維持するのに役立つばかりでなく、導管を通じて他の容器への接続を提供するのにも役立つ。そのような容器としては、収集チェンバー20、出口チェンバー50、および/または廃棄物チェンバー40がある。
【0081】
1つの実施態様では、フィルターアッセンブリ36のフィルターは、中空線維ろ過部材を含む。または言い換えれば、フィルターは、フィルター媒体で形成された、中空線維集合体を含む。開示のシステム10と共に使用が可能なフィルターの例としては、ポリスルフォン、ポリエチレンスルフォン、または混合エステル材料等が挙げられる。フィルター媒体から成るこれらの中空線維または中空管は、フィルターアッセンブリ36の円筒カートリッジの中に収められてもよい。フィルター媒体から成る個別の管または線維は、通常、約0.1 mmから1 mmの範囲の内径を持つが、好ましい値は約0.5 mmである。適当な円筒形カートリッジの直径および長さは、該カートリッジの内部に収められるフィルター部材による個別の管の数を決める。好適な中空線維フィルターカートリッジの1つの例は、FiberFlo(登録商標)接線フローフィルター、#M-C-050-K(Minntech、ミネアポリス、ミネソタ州)である。フィルター媒体の孔径は、約10キロダルトンと約5ミクロンの間の範囲にあってよいが、好ましい孔径は約0.5ミクロンである。
【0082】
中空線維フィルターにおいて、各中空管は、本体と、第1端、第2端、および、本体の中に配され、第1端と第2端の間に延びる腔を持つ。各中空管の本体は、複数の孔を含む。孔の本体における配置は、全体として、再生細胞組成物が、本体の腔の中を流れることによってろ過され、かつ、ろ過産物が、図12Aに示すように接線方向に孔を通過するように行われる。言い換えると、液中の比較的小型の粒子は、本体の腔を通過する液の流れに対し接線方向に孔を通過する。再生細胞を含む組成物は、該組成物がろ過される際、各中空管の腔を通過する。組成物の流れは、各中空管の本体の孔に対して接線方向であることが好ましい。
【0083】
接線方向に流れる流体を用いることによって、幹細胞ろ過の効率は、他のろ過技術に比べ強化されるようである。例えば、いくつかのろ過技術によれば、フィルター媒体の孔は、フィルターが流体の流れに対して垂直な方向を取り、図12Bに示すように、フィルターが、ろ過される流体の通路を阻止するようなやり方で設置される。このタイプのろ過では、再生細胞組成物からろ過される粒子、例えば、幹細胞は、フィルターの一側に蓄積し、孔を通過する流体の流れを阻止する傾向がある。この閉塞は、フィルターの効率を低下させる可能性がある。さらに、細胞は、流体の圧力によってばかりでなく、フィルターの上流側に蓄積する細胞の重みによっても絶えず圧迫される。これは、幹細胞壊死の増加を招く。従って、流体の流れが、フィルター中の孔の方向と平行である、このようなろ過技術においては、流体が孔を通過する際、大型細胞、小型細胞の両方共フィルター媒体に押し付けられるので好ましくない。従って、液中の大型産物、例えば、細胞が孔を塞ぎ、ろ過作用を下げ、細胞破裂または損傷の発生を増大させる可能性がある。
【0084】
一方、本システム10の中空線維構成では、ろ過される流体は、中空線維の腔の内部を流れる。フィルター本体の孔を通過することのできる流体部分は、本体内部における流体の陽圧ばかりでなく、本体外側に印加される陰圧にも助けられてろ過される。本実施態様では、細胞は通常、流体圧や他の細胞の重量の影響を受けないので、幹細胞に対するせん断力は低下する。従って、ろ過の効率と有効性は、閉塞率の低下と、再生細胞分解の低下によって改善される。ろ過の際、生食液および不要なタンパク分子は、そのサイズのために中空管本体の孔を通過し、中空管の外側に出、廃棄物容器40の方に向かう。1つの実施態様では、ろ過は、中空管フィルター媒体の外側に真空を発生することによって強化される。再生細胞、例えば、幹細胞または先駆細胞は、そのサイズのため通常本体の孔を通過することができないので、中空管フィルターの内部(例えば、管の腔)に留まり、フィルターと処理チェンバーの間の導管を通じて再び処理チェンバー30に戻されるか、あるいは、出力チェンバー50に向けられる。
【0085】
1つの特定実施態様では、中空線維フィルターは、約0.05ミクロンの孔径を持ち、約550 cm2の表面積のフィルター媒体を含む。個別の媒体管は、通常、約0.5 mmの直径を持つ。130 mlの再生細胞組成物を処理するのに、さらに約120 mlの生食液が組成物に添加される。処理すなわちろ過時間は、約8分でよい。中空線維管本体の両側(例えば、本体腔の内部圧と、本体外側の圧)間の圧差は、膜横断圧と考えられる。膜横断圧は、約1 mmHgから約500 mmHgの範囲にあってよいが、好ましい圧は約200 mmHgである。中空線維ろ過による有核細胞の平均回収率および生存率は、生細胞の約80%である。
【0086】
通常このようなシステムにおいて取り除かれるコラゲナーゼの量は、3ログ低下に等しい。例えば、収集チェンバーから処理チェンバーに転送される、再生細胞組成物におけるコラゲナーゼの初期濃度が0.078 U/mlであるとすると、最終再生細胞組成物のコラゲナーゼ濃度は0.00078 U/mlとなる筈である。コラゲナーゼは、中空線維フィルターで除かれ、この中空線維フィルターは前述の第3フィルターに相当する。
【0087】
前述の1種以上の細胞ろ過法を具体的に示す処理チェンバーが、図面に、特に図1−3に示される。図1−3を参照すると、処理チェンバー30と、フィルターアッセンブリ36のろ過チェンバーの間に、ポンプ、例えば、ポンプ34が設けられる。さらに、通気および圧センサー、例えば、通気32および圧センサー39が、処理チェンバー30およびフィルターアッセンブリ36と直線的に設けられる。出力チェンバー50に対する接続具も設けられてよい。これらの、要すれば任意に設けられてもよい選択成分(例えば、ポンプ34、通気32、圧センサー39、および、出力チェンバー50に対する接続具)は、処理チェンバー30とフィルターアッセンブリ36の間に設けられ、処理チェンバー30の中に含まれる液体が、フィルターアッセンブリ36に流れ着く前に、上記選択成分の1種以上に向かって流動するようになっていてもよい。例えば、液体は、フィルターアッセンブリ36に至る前に、ポンプ34を通過して流れるようになっていてもよい。あるいは、液体は、フィルターアッセンブリを通過する前に圧センサー39を通過して、システムのフィルター前液圧を獲得可能としてもよい。ある状況下では、上記成分の内の1つ以上を、例えば、図6に示す通気32を、処理チェンバー30の要素として設けてもよい。図示の実施態様では、圧センサー39は、再生細胞組成物がフィルターアッセンブリ36のろ過チェンバーに入る際、ポンプ34によって生みだされた、再生細胞組成物圧を決められるように配置される。この構成は、ろ過膜を横切る膜横断圧の監視をやり易くする。再生細胞組成物がフィルターアッセンブリ36によってろ過される際、不要なタンパクの除去を助けるために、追加の生食液、または他のバッファーおよび洗浄液を該組成物に加えることが可能である。この反復洗浄は、再生細胞の純度を高めるために複数回実行することが可能である。いくつかの実施態様では、生食液は、ろ過を強化するために必要とされる任意の工程で添加することが可能である。
【0088】
限定のためではなく、例示のために提供される1つの特定実施態様では、不要のタンパクおよび生食液または他の洗浄液は、下記のようにして取り除かれる。再生細胞を始め、コラーゲンおよび結合組織粒子または断片、脂肪細胞、およびコラゲナーゼを含む組成物は、一連のフィルターを通過しながら、最小容量が達成されるまで循環させられる。最小容量は、システムの総合保持容量、およびある指定の定数の関数である。保持容量とは、全ての処理チェンバーが空である場合の、チューブおよび導管に含まれる液体の容量である。1つの実施態様では、最小容量は15 mlである。最小容量に達すると、指定容量の洗浄液がシステムに導入され、再生細胞組成物と混合される。この、洗浄液と再生細胞組成物との混合物は、再び最小容量に達するまでジフィルターを通過しながら循環させられる。この循環は、再生細胞の純度を高めるために、言い換えると、組成物中の他の物質に対する、組成物中の再生細胞の比率を増すために、複数回繰り返される。図10および11を参照されたい。
【0089】
再生細胞組成物から、不要なタンパクが洗い落とされ、十分に濃縮されたこと(例示の実施態様では、約1 x 105 から1 x 107個/mlの範囲内の最小濃度が使用可能であるが、好ましい実施態様では、最小濃度は、約1 x 107個/mlである)が確認された後、出力チェンバー50、例えば、出力バッグが、特定の実施態様に応じて、処理チェンバー30および/またはフィルターアッセンブリ36の出口ポートに接続される。次に、通気、例えば、通気32を開放し、濃縮再生細胞の出力を促進するようにしてもよい。1つの実施態様では、この最小濃度達成の確認は、あらかじめ実験を行い、装置の電子コントロールの中にプログラムとして導入した後経験的に行われる。確認は、生産が望まれるもの、すなわち、どれぐらいの数の幹細胞/先駆細胞が必要なのか、またはどの範囲の細胞濃度が必要なのかを実現する過程の中に導入される入力となることも可能である。所望の出力を実現するためには、科学的データに基づいて、あらかじめ定められた量の脂肪組織を獲得し、システムに設置する必要がある。通気32を開放し、ポンプ、例えば、ポンプ34を働かせることにより、濃縮再生細胞を出力バッグに転送することが可能である。1つの実施態様では、出力バッグ50は、一端に接続具を含むチューブを有する空の血液バッグと似ている。出力バッグの接続具は出力ポートに取り付けられ、濃縮再生細胞がこの出力バッグに転送されてもよい。
【0090】
図1−3に描かれるように、何よりもまずシステムの圧を変えるために、真空ポンプ26がシステム10に設けられてよい。例えば、真空ポンプ26は、収集チェンバー20内に圧の低下をもたらすために、導管、例えば、導管12bを介して収集チェンバー20に結合されてもよい。真空ポンプ26はまた、導管、例えば、導管12gを介して処理チェンバー30に結合されてもよい。ポンプ34と接続する真空ポンプ26の動作に関しては、二つの別々のポンプまたは供給源が導入されてもよいし、あるいは、過程の特定の時点で必要とされる様々な導管に真空牽引を振り向けるバルブを用いることによって単一ポンプが導入されてもよい。さらに、真空ポンプ26は、導管、例えば導管12fを介して廃棄物容器40に結合されてもよい。
【0091】
図10および11を参照すると、真空ポンプ26によって発生した圧を用いて、再生細胞を含む流体の流れを導管12に向ける。この圧は、システム10の1個以上のバルブ14の位置を自動的に、または手動で調節することによって複数の方向に供給することが可能である。システム10は、陽圧を用いることによって、または、陰圧を用いることによって、あるいはそれらを組み合わせることによって適切に機能するように製造することが可能である。例えば、再生細胞は、前述の第1および第2フィルターを介して牽引し、第3フィルターに接続される、側面の柔軟な容器に引き込むことが可能である。この柔軟側面容器は、第3フィルターの先で直線(直列)接続されてもよい。最終出力チェンバーは、第3容器の他側(例えば、下流側)にある柔軟側面容器であってもよい。この実施態様では、フィルターを介して1つの柔軟側面容器から第二の柔軟側面容器へ、圧力を用いて再生細胞を移動する。
【0092】
システム10の別の実施態様では、幹細胞および/または脂肪組織由来先駆細胞のろ過は、浸透ろ過および沈渣の組み合わせを用いて実現してもよい。例えば、このシステムは、組織再生細胞組成物(例えば、幹細胞および/または脂肪由来先駆細胞を含む組成物)を通過し、次にフィルターを通過する生食液を用いる。再生細胞組成物から細胞を浸透ろ過によって採取する場合に関連する変数のいくつかを挙げると、フィルター媒体の孔径、孔の広がりまたは形状、フィルターの表面積、ろ過される再生細胞組成物の流れる方向、注入生食液の流速、膜横断圧、細胞集団の希釈率、細胞のサイズと生存率があるが、これらに限定されない。
【0093】
システム10の1つの実施態様では、処理チェンバー30は、再生細胞を分離・濃縮するために浸透ろ過と沈渣を実行するフィルターアッセンブリ36を用いる。限定ではなく、例示として述べると、処理チェンバー30は、図6に示すように、側壁30a、頂上面30b、および底面30cを有する全体として円筒形の本体と定義される。頂上面30bに滅菌通気口32が設けられる。
【0094】
図6の実施態様では、処理チェンバー30は、2枚のフィルター、例えば、大孔フィルター36aと小孔フィルター36bを含むフィルターアッセンブリ36を含むものとして描かれる。フィルター36aおよび36bの孔経は、約0.05ミクロンと約10ミクロンの間の範囲にある。大孔フィルター36aは、約5 μmの直径を持つ孔を含み、小孔フィルター36bは、約1−3 μmの直径を持つ孔を含んでもよい。1つの実施態様では、フィルターは、約785 mm2の表面積を持つ。フィルター36aと36bとは、処理チェンバー30の内部を分割し、第1チェンバー37a、第2チェンバー37b、および第3チェンバー37cを含むようにする。図6に示すように、第1チェンバー37aは、第2チェンバー37bと第3チェンバー37cの間に配される。さらに、第1チェンバー37aは、入口ポート31aおよび出口ポート31bを有する処理チェンバー30の領域として示される。図示の処理チェンバー30は、処理チェンバー30の外部から、処理チェンバー30の内部へつなぐ交通通路を供給する複数のポート、例えば、ポート31a、31b、および31cを含む。ポート31a、31b、および31cは、処理チェンバー30の本体の側壁30aに配されるものとして描かれる。しかしながら、ポート31a、31b、および31cは、その他の領域にも配置することが可能である。ポート31aは、サンプル入口ポートとして描かれる。すなわち、再生細胞を含む組成物が処理チェンバー30の内部に進入可能となるように導管に結合するように構築される。ポート31bは、分離・濃縮された細胞が、処理チェンバー30の内部から取り出されるように導管に結合・構築される出口ポートとして描かれる。ポート31cは、新鮮洗浄液、例えば、生食液を処理チェンバー30の内部に配送するための導管に結合・構築される入口ポートとして描かれる。
【0095】
使用時、再生細胞は、入口ポート31aを通じて中央チェンバー37aに導入されてよい。生食液、または他のバッファーが、入口ポート31cを通じて底部チェンバー37bに導入される。生食液は、約10 ml/分の速度で、チェンバー37a中の再生細胞組成物の中を通過させられてもよい。生食液の流速は、重力に対向するように調節される。生食液の流れは、チェンバー中の細胞に対し、細胞の密度に応じて分離する能力を与える。通常、細胞が無理やり組成物の中を貫通させられるその度合いに応じて、組成物中の比較的大型の細胞は、中央チェンバー37aの底部に沈殿し、小型細胞およびタンパクは、第2フィルター36bを貫いて頂上チェンバー37cに運び去られる。このろ過作用は、大型細胞は場所に留まって転がされるが、小型の粒子は解放されて、生食液と共に運び去られるように生食液の流速を調節することによって実現される。チェンバー30には、処理ユニット内の三つのチェンバーにおいて適正な圧勾配が維持されるように滅菌通気口32が含まれる。上部チェンバー37cは、吸収媒体33を含んでもよい。この吸収媒体の目的は、溶液の中の不要のタンパクを捕捉し、それらが、例えば生食液の速度が低下した場合に、フィルター媒体を横切って元の処理液に戻らないようにすることを確保するためである。吸収媒体は、ろ過除去するために、吸収性のある、あるいは物質または成分を惹きつける1種のフィルター材料であってもよい。廃液の吸引を補助するために、頂上フィルターの上に出口ポートを加えてもよい。上記の別の実施態様は、頂上から穏やかな真空を印加して、廃液の吸引を促進することである。図示の実施態様のように、流速が比較的小さい場合吸収媒体を導入してもよい。次に、過剰な生食液およびタンパクが廃液容器に運び去られる。
【0096】
大型細胞(例えば、脂肪組織由来幹細胞および/または先駆細胞)が、小型細胞およびタンパクから十分に分離された時点で、分離された細胞を含む組成物は、本明細書に論じられるやり方で濃縮される。組成物は、出口ポート31bを通じてチェンバー37aから取り出されて後さらに濃縮してもよいし、あるいは、組成物がチェンバー37aにある間に濃縮してもよい。1つの実施態様では、組成物中の細胞の濃度は、下記のやり方で増大させられる。細胞が十分に分離された後、フィルター、例えば、フィルター36aおよび36bが互いに近づけられてもよい。この移動は、二つのフィルターの間の容量(例えば、チェンバー37aの容量)を下げる効果を持つ。組成物中の細胞の濃縮を促進するために、処理チェンバー30と結びつけて振動部材が設けられてもよい。1つの実施態様では、振動部材は、フィルター36b(例えば、小孔径フィルター)と結合されてもよい。振動は、細胞がフィルターに捕捉される頻度を低下させる可能性がある。組成物の容量の低下によって、過剰な生食液を廃液として除去し、細胞をより小さな容量の中に濃縮することが可能となる。
【0097】
別の実施態様では、再生細胞の濃縮は下記のようにして実現される。細胞が十分に分離された後、再生細胞組成物を、重力を用いて過剰生食液をろ過除去する、別のチェンバー(図示せず)に転送することが可能である。好ましい実施態様では、沈渣が、浸透ろ過と同時に行われる。この沈渣は、約10kDから約2ミクロンの範囲の孔径を持つフィルターの上に組成物を導入することによって実行される。1つの実施態様では、適切なフィルターは約1ミクロンの孔径を持つ。重力は、生食液および小型粒子はフィルターを通過するのを許し、一方、組成物中の細胞がフィルターを通過して流れるのを阻止する。所望の濃度の細胞が得られ、ろ過した小型粒子がフィルターの下から取り除かれた後、再生細胞組成物は振とうされ、細胞をフィルターから剥がされ、次いで、この濃縮再生細胞は出力バッグに転送される。小型粒子は、廃液として、出口から吸い出すことが可能である。
【0098】
ある特定の実施態様では、収集チェンバー20からの再生細胞組成物は処理チェンバー30に輸送され、そこで該組成物は遠心されて再生細胞を分離・濃縮する。遠心原理は従来技術でよく知られているので、簡明のためにここでは繰り返さない。標準的で、従来技術で既知の遠心装置、成分、およびパラメータは本発明でも利用される。遠心装置の一部として使用される例示の処理室を図7および8に示す。通常、遠心装置は、遠心チェンバー(例えば、図7に示すもの)を軸の周りに回転させ、それによって、溶液中の細胞に加えられる力を、重力よりも大きくなるように増大させる。溶液中の比較的密度が高く、重たい物質は、遠心チェンバー、すなわち図7の出力チェンバー50の一端に沈殿し、再生細胞ペレットを形成する。次に、ペレットを再懸濁し、所望の濃度の細胞、および/または、所望の容量の細胞および媒体を得てもよい。図7に示す処理チェンバーは、遠心力および重力の両方を用いて細胞を分離・濃縮するように構築される。具体的に言うと、遠心中、遠心力は、再生細胞組成物の比較的密度の高い成分、例えば、再生細胞を、遠心チェンバーの最外側端の方に向ける。遠心チェンバーが遅くなり最終的に停止すると、重力が、再生細胞が遠心チェンバーの最外側端に留まり、細胞ペレットを形成するのを助ける。従って、再生細胞組成物の不要成分、すなわち、廃棄物は、細胞ペレットを妨げることなく除去することが可能である。
【0099】
本発明のさらに別の実施態様では、処理チェンバーは、回転膜フィルターの形を取る細胞濃縮器を含む。遠心過程のさらに別の実施態様では、遠心エルトリエーションを用いてもよい。この実施態様では、細胞は、個別の細胞沈降速度であって、遠心によって印加される方向力(例えば、外方)によって、細胞と溶質が異なる速度で沈降するように選ばれた速度に基づいて分離される。エルトリエーションでは、標的細胞集団の沈降は、遠心力に対して反対方向に溶液をくみ出すことによって適用される反対(例えば、内方)流速によって対向される。この対向流は、溶液内の細胞と粒子とが分離されるように調節される。エルトリエーションは、多くの細胞分離事例に応用されており(Inoue, Carsten et al., 1981; Hayner, Braun et al., 1984; Noga 1999)、流動および遠心パラメータを最適化するために用いられる原理および慣行は、当業者であれば、本開示に照らして、この状況に応用することが可能である。
【0100】
図9は、本発明によるエルトリエーション実施に関連する原理を図示する。エルトリエーション実施態様は、力が回転ローターによって溶液に印加される程度までは、遠心実施態様と同様であってもよい。ここに実施されるエルトリエーション分離に関連する変数のいくつかを挙げると、回転チェンバーのサイズと形状、ローターの直径、ローターの速度、対向流チューブの直径、対向流の流速、および、溶液から取り出される粒子と細胞のサイズと密度があるが、ただしこれらに限定されない。遠心の場合と同様、再生細胞は、個別の細胞密度に基づいて分離される。
【0101】
1つの実施態様では、再生細胞組成物、例えば、再生細胞およびコラゲナーゼを含む溶液は、図9.1に示すように、回転ローターのチェンバーに導入される。溶液がチェンバーに加えられると同時に、追加の生食液が、指定の流速でチェンバーに加えられる。生食液の流速は、ローターのスピード、細胞直径、および、経験的に定められるチェンバー定数の関数としてあらかじめ指定することが可能である。この流速は、例えば、IVポンプと同様の装置によって調節される。追加生食液に目的は、図9.2に示すように、ローターチェンバーにおいて、比較的大型の粒子はチェンバーの一側に移動し、比較的小型の粒子は他側に移動する条件を設けることである。この応用では、図9.3に示すように、小型の粒子はチェンバーを出て、廃棄物容器に移動するように流れが調節される。この移動によって、ローターチェンバーの溶液は、実質的に均一な細胞の集団、例えば幹細胞の集団を持つようになる。幹細胞が、溶液中の残余の要素から分離されたこと(不要なタンパクおよび遊離脂質がチェンバーから取り除かれて)が確認された後、対向流は停止される。次に、チェンバー内部の細胞は、チェンバーの外壁に濃縮ペレットを形成する。対向流は逆転され、細胞ペレットは、出力バッグに転送される。
【0102】
本明細書に前述されるように、処理チェンバー30または出力チェンバー50は、1個以上のポート、例えば、ポート51または52を含んでもよい。これらのポートの内の1個以上は、前述の複数の方法の任意の組み合わせによって得られた再生細胞、またはその一部を、導管を通じて他の外科装置、細胞培養装置、細胞浸透圧調整装置、遺伝子療法装置、または精製装置に輸送するように設計されてもよい。これらのポートはまた、再生細胞を、前述のものと同じ目的のために、システム内の追加のチェンバーまたは容器、あるいは、別のシステムの一部としてのチェンバーまたは容器に、導管を通じて輸送するように設計されてもよい。ポートおよび導管はまた、1種以上の添加物、例えば、増殖因子、再懸濁流体、細胞培養試薬、細胞拡張試薬、細胞保存試薬、または、遺伝子を細胞に転送する試薬を含む細胞修飾試薬等の添加剤を加えるために使用してもよい。ポートおよび導管はまた、他の標的、例えば、インプラント材料(例えば、支持体または骨断片)を始め、他の外科インプラントおよびデバイスに向けて再生細胞を輸送するために用いてもよい。
【0103】
細胞をさらに処理したい場合、既存のシステムのディスポーザブルセットの相互接続を再構成すること、既存のシステムと異なる、またはシステムに対する追加の容器および/またはチェンバーを設けること、細胞を1基以上の新たなシステムまたは装置に輸送すること、および/または、上記の任意の組み合わせを導入することによって実行してもよい。例えば、システムは、前述の手段の内から任意に選ばれる手段を用いて、システムによって得られた再生細胞が、下記の内の1個以上の応用に使用されるように再構成される。すなわち、細胞拡張(1種以上の再生細胞タイプの)および細胞維持(細胞シート洗浄および培養液交換);継代培養;細胞播種;一過性トランスフェクション(大量支給の内から選ばれたトランスフェクト細胞の播種を含む);収集(酵素的、非酵素的収集および機械的掻き落としによる収集);細胞生存率の測定;細胞のプレート播種(例えば、マイクロタイタープレートに対するもの、拡張のために個々のウェルから細胞を取り出すこと、細胞を新鮮ウェルに投じて拡張することを含む);高処理スクリーニング;細胞療法応用;遺伝子療法応用;組織工学応用;治療タンパク応用;ウィルスワクチン応用;預託またはスクリーニング、細胞増殖測定、分解、接種、感染または誘発のための再生細胞または上清の収集;細胞系統の生成(ハイブリドーマ細胞を含む);浸透圧実験用細胞の培養;RNAiおよびウィルス耐性実験用細胞;ノックアウトおよびトランスジェニック動物実験用細胞;アフィニティー精製実験;構造生物学応用;アッセイ開発およびタンパク工学応用である。
【0104】
例えば、ある特定の応用のためにある再生細胞集団の拡張が必要な場合、該集団を選択的に拡張するが、一方他の集団は維持されるか(そのために、増殖選択細胞による希釈によって減少させられる)、または、必要な増殖条件の欠如のために失われる培養条件を用いる対処法を用いることが可能である。Sekiya等は、このために、骨髄由来幹細胞について採用が可能な条件を記載している(Sekiya et al., 2002)。この方法(組織培養プラスチックに対する差別的接着を伴ってもよいし、伴わなくともよい)は、本発明のさらに別の実施態様に適用することが可能である。この実施態様では、最終的な再生細胞ペレットが出力チェンバーから取り出され、細胞培養成分を提供する第2システムに設置される。これは、通例の実験室用組織培養インキュベーター、または、バイオリアクタースタイルの装置、例えば、Tsao et al., 米国特許第6,001,642号、Armstrong et al.米国特許第6,238,908号に記載されるものと同様の装置の形態を取ることも可能である。別の実施態様では、脂肪組織由来細胞集団の短期接着および/または細胞培養を可能とするために、細胞拡張または細胞培養成分を、既存のシステム、例えば、出力チェンバーに加えることも可能である。この別態様は、細胞培養物および/または細胞拡張成分の、システムに対する一体化を可能とするので、このシステムから該細胞を取り出して、別のシステム内に設置する必要が無くなる。
【0105】
処理中、結果を強調するために、1種以上の添加剤を、各種チェンバーまたは容器と関連させて必要に応じて添加または供給してもよい。これらの添加剤はまた、既存のシステムと関連する別のシステム、または既存のシステムとは分離した別のシステムの一部として供給されてもよい。例えば、ある実施態様では、添加剤は、システムから再生細胞を取り出すことを要せず添加または供給される。別の実施態様では、添加剤は、添加剤を含む新規容器またはチェンバーを、システムの未使用ポートに無菌的に接続することによって添加または供給される。さらに別の実施態様では、添加剤は、本発明のシステムに接続されていない第2システムまたは装置に添加または供給される。添加剤の例としていくつか挙げると、本明細書に記載される、洗浄および脱凝集を最適化する薬剤、処理中に活性細胞集団の生存率を強化する添加物、抗微生物薬(例えば、抗生物質)、脂肪細胞および/または赤血球を分解する添加物、または、興味の細胞集団を濃縮する添加物(固相反応基に対する差別的接着、あるいは、その他の、細胞集団を実質的低減または濃縮を促進する差別的方法によって)が挙げられる。
【0106】
例えば、均一な再生細胞集団を得るために、特定の再生細胞タイプを分離し、濃縮するために適当なものであれば、任意の方法、例えば、幹細胞、または先駆細胞例えば内皮先駆細胞の上に存在する抗原を認識・結合する細胞特異的抗体を使用する方法が採用されてよい。これらは、陽性選択(標的細胞を選択すること)、陰性選択(不要細胞の選択的除去)の両方、またはそれらの組み合わせを含む。さらに、最終細胞ペレットの中に含まれるある特定の再生細胞集団の差別的接着および/または溶出を可能とするように選ばれた接着性を持つ固相物質を、システムの出力チェンバーに挿入することが可能である。
【0107】
この差別接着法の別の実施態様は、標的再生細胞と不要細胞において差別的に発現される表面分子を認識する抗体および/または抗体の組み合わせの使用を含む。特異的細胞表面マーカー(またはそれらの組み合わせ)の発現に基づく選択は、抗体を固相支持体構造に付着させる(直接的または間接的に)、さらに別の一般的に用いられる技術となる(Geiselhart et al., 1996; Formanek et al., 1998; Graepler et al., 1998; Kobari et al., 2001; Mohr et al., 2001)。
【0108】
別の実施態様では、細胞ペレットは再懸濁し、連続的または非連続的密度勾配として形成された液体材料の上に(または下に)静置され、遠心器に移され、細胞密度に基づいて細胞集団が分離される。類似の実施態様では、連続流方法、例えば、成分輸血(Smith, 1997)、およびエルリエーション(対向流あり、または無し)(Lasch et al., 2000)(Ito and Shinomiya, 2001)を用いてもよい。
【0109】
添加剤のその他の例としては、追加の生物学的または構造的成分、例えば、本明細書に論じられるもののような細胞差別因子、増殖増進剤、免疫抑制剤、医用装置、またはそれらの任意の組み合わせが挙げられる。例えば、他の細胞、組織、組織断片、増殖因子、例えばVEGFおよび他の既知の脈管形成または動脈形成増殖因子、生物学的活性または不活性化合物、再吸収可能支持体、あるいは、再生細胞集団の輸送、効力、耐性、または機能の強化を意図して加えられる他の添加物を加えてもよい。再生細胞集団はまた、構造的または治療的目的物を誘導するために、DNAを挿入することによって、または、再生細胞の機能を変化、強化、または補充するようなやり方で細胞培養システム(本明細書に記載する通りに、または従来技術で既知のやり方で)に設置することによって修飾してもよい。例えば、幹細胞に関する遺伝子転送技術は、(Morizono et al., 2003; Mosca et al., 2000)に開示されるように当業者には既知であり、ウィルストランスフェクション技術を、さらに詳細には、(Walther and Stein, 2000)および(Athanasopoulos et al., 2000)によって開示されるようにアデノ関連ウィルス遺伝子転送技術を含んでもよい。非ウィルス系技術はまた、(Muramatsu et al., 1998)に開示される通りに実行してもよい。1種以上の細胞差別因子、例えば、増殖因子(単数または複数)またはサイトカイン(単複)を添加することも可能である。各種細胞差別剤の例が、(Gimble et al., 1995; Lennon et al., 1995; Majumdar et al., 1998; Caplan and Goldberg, 1999; Ohgushi and Caplan, 1999; Pittenger et al., 1999; Caplan and Bruder, 2001; Fukuda, 2001; Worster et al., 2001; Zuk et al., 2001)に開示されている。抗脂肪組織因子または介在分子をコードする遺伝子を添加することも可能である。遺伝子(または複数の遺伝子の組み合わせ)の添加は、従来技術で既知の任意の技術によって、例えば、アデノウィルス形質導入、「遺伝子ガン」、リポソーム仲介形質導入、およびレトロウィルスまたはレンチウィルス仲介形質導入、プラスミド、アデノ関連ウィルスを含む技術によって行うことも可能である。ただし、技術は上記に限定されない。次に、これらの再生細胞は、担体物質と共に埋め込むことが可能である。担体物質は、遺伝子を細胞に対し長期に渡って解放および/または提示し、そうすることによって形質導入が体内で続行、または起動されることを可能とする遺伝子輸送ベヒクルを担う。
【0110】
細胞および/または細胞を含む組織を、その細胞および/または組織が得られた患者とは別の患者に投与する場合、その細胞および/または組織を受容する患者に対し、1種以上の免疫抑制剤を、好ましくは移植組織の拒絶を阻止するために投与されてもよい。本明細書で用いる「免疫抑制剤または仲介因子」とは、正常の免疫機能を抑制または干渉する薬剤を含むことが意図される。本明細書に開示される方法に好適な免疫抑制剤の例としては、T細胞/B細胞共同刺激経路を抑制する薬剤、例えば、米国特許公報第20020182211号に開示されるようにCTLA4およびB7経路を介して行われるT細胞およびB細胞の結合を干渉する薬剤が挙げられる。好ましい免疫抑制剤はシクロスポリンAである。その他の例としては、ミオフェニレート・モフェチル、ラパマイシン、および抗胸腺細胞グロブリンが挙げられる。1つの実施態様では、免疫抑制剤は、少なくとも1種の他の治療剤と共に投与される。免疫抑制剤は、投与ルートと適合する処方において投与され、所期の治療効果を実現するのに十分な用量において被験体に投与される。別の実施態様では、免疫抑制剤は、本発明の再生細胞に対する耐性を誘発するのに十分な期間一過性に投与される。
【0111】
上記実施態様では、再生細胞は、装置、例えば、本明細書に記載される振とう装置および関連法を含む任意の従来技術で既知のやり方で、添加物と、接触、結合、混合、または該添加物に添加されてよい。例えば、揺動、逆転、圧迫型、パルス状または連続移動ローラーを用いてもよい。
【0112】
別の局面では、細胞集団は、レシピエントに導入するのに、正当なプラスチック被覆、または、他の材料および関連成分、例えば、MacroPore Biosurgery社によって製造されるもの(例えば、米国特許第6,269,716号;5,919,234号;6,673,362号;6,635,064号;6,653,146号;6,391,059号;6,343,531号;6,280,473号を参照)によって被覆されていてもよい。
【0113】
前記実施態様の全てにおいて、分離・濃縮された再生細胞の少なくとも一部は、2002年9月12日登録、名称「非造血組織由来非胎生細胞の保存」なる米国特許出願第10/242,094号に記載されるように冷凍保存される。なお、該特許文書は、共通の出願人による2001年9月14日登録の米国特許仮出願第60/322,070号の利益を主張する。また、これら特許文書の全体を参照することにより本明細書に含めることを明言する。
【0114】
処理の終わりに、再生細胞は、出力チェンバーから手動で回収される。細胞は、輸送装置、例えば、注射器に負荷されてもよい。これは、レシピエントに対し、皮下、筋肉内、あるいは、患者の内部の標的部位に該細胞を搬送するのを可能とするその他の技術によって導入するためである。言い換えれば、細胞は、当業者に既知の任意の手段によって患者に導入されてよい。好ましい実施態様としては、針またはカテーテルによる導入、または、直接的外科的埋め込みによる導入が挙げられる。他の実施態様では、細胞は、該細胞を患者に導入するのに使用されてもよい容器、注射器、またはカテーテル等の形を取る出力チェンバーに自動的に輸送されてもよい。容器はまた、その後の使用または冷凍保存のために細胞保存用に使用されてもよい。回収法は全て無菌的に行われる。外科的埋め込みの実施態様では、細胞は、添加物、例えば、本明細書で記載する、あらかじめ形成された基質または支持体と転結させて投与することも可能である。
【0115】
本発明の好ましい実施態様では(例えば、図4に示す実施態様)、システムは自動化される。別の実施態様では、システムは、自動化成分と手動成分の両方を持つ。システムは、再生可能成分またはモジュールに取り付けられた、1種以上のディスポーザブル成分を含んでもよい。本発明の自動化システムは、システムの適正な操作を促すスクリーンディスプレイ(図16を参照)を提供する。自動化システムはまた、過程の状態、および/または、システムのディポーザブル成分の適切な設定に関する工程毎の指示を提供するスクリーンを設ける。スクリーンはまた、システムの問題点または故障を、それが起こった場合に示し、適当であれば「修理」ガイダンスを提供してもよい。1つの実施態様では、スクリーンは、ユーザーが、例えば、タッチスクリーンを介してシステムにパラメータを入力することを可能とするユーザーインターフェイス・スクリーンである。
【0116】
部分的および完全自動化システムは、処理装置(例えば、マイクロプロセッサーまたはパーソナルコンピュータ)、および、システムの動作、および、処理の1個以上の工程をユーザーの入力に基づいて自動化するための調節ロジックを提供する関連ソフトウェアを含んでもよい。いくつかの実施態様では、システムの1個以上の局面が、処理装置に搭載されるソフトウェアを介してユーザーによるプログラミングが可能とされていてもよい。処理装置は、読み取り専用メモリ(ROM)の中に1種以上のあらかじめプログラムされたソフトウェアプログラムを持っていてもよい。例えば、処理装置は、血液を処理するために特別設計された、指定プログラムソフトウェア、小容量の再生細胞を獲得するよう脂肪組織を処理するための別プログラム、および、さらに大容量の再生細胞を獲得するよう脂肪組織を処理するためのさらに別のプログラムを持っていてもよい。処理装置はまた、ユーザーの関連情報入力、例えば、必要な再生細胞の量、処理される組織のタイプ、必要とされる処理後操作のタイプ、治療用途のタイプ等の入力に基づいて、過程を最適化するために好適なパラメータをユーザーに提供する、指定プログラム造成ソフトウェアを持っていてもよい。
【0117】
ソフトウェアはまた、複数の工程、例えば、特定のチューブ経路に沿う流体および組織の流入および流出を、システムのポンプおよびバルブを調整することによって調節する工程;活性化の適切な順序および/または方向の調節;圧センサーによる閉塞の検出;容量測定機構によるある特定経路にそって移動される組織および/または流体の量の測定;加熱調節装置による各種成分の温度の維持;および、分離・濃縮過程とタイミングおよびソフトウェア機構との統合等の工程の自動化を可能としてもよい。処理装置はまた、処理される組織のタイプ、および/または、収集される細胞集団または下位集団、および実行される手順のタイプ(例えば、再生細胞増大脂肪組織による組織強化、または、再生細胞被覆骨移植片による骨修復用途のための細胞処理)に基づいて遠心速度の調節を可能とする。処理装置はまた、標準的パラレルまたはシリアル・ポート、または、他のコンピュータまたはネットワークと交信するための他の手段を含んでもよい。従って、処理手段は、スタンドアローン型ユニットであってもよいし、あるいは、本明細書に記載されるさらに別の処理法のために、1個以上の付加的装置と連結されてもよい。
【0118】
ソフトウェアは、「操作データ」、例えば、ディスポーザブル成分のロット番号、温度および容量測定値、組織容量および細胞数パラメータ、与えた酵素の用量、インキュベーション時間、オペレータ名、日付および時間、患者名等を含むデータの自動化収集を実行可能としてもよい。本装置の好ましい実施態様では、文字認識システム、例えば、バーコード読み取りシステムが組み込まれており、これによって上記変数(例えば、ディスポーザブルセットのロット番号および使用期限、コラゲナーゼのロット番号および使用期限、患者/サンプル特定符号等)のデータ入力が処理の文書化の一部として可能とされる。これは、データ入力間違いの機会を減らすことになろう。このようなバーコード読み取りシステムは、USB、およびその他の、従来技術で既知のポートおよびシステムを用いて処理装置の中に簡単に取り込むことが可能である。このようにして、装置は、データ入力および過程の文書化の統合的制御を実現する。これらのパラメータのプリントアウト報告は、システムのプログラム化操作のユーザー定義パラメータの一部となる。もちろん、これは、プリンター成分(ハードウェアおよびドライバー)、またはソフトウェアにおけるプリンタードライバー、プラス、装置のハードウェアにおけるプリンター用インターフェイス出力コネクター(例えば、USBポート)の統合を必要とする。
【0119】
いくつかの実施態様では、システムは完全に自動化されたシステムである。例えば、ユーザーは、最初、処理される組織の量を選択し、システムを患者に接続すると、システムは自動的に、それ以上のユーザーの入力無しに流れるように順番に、要求された組織を吸引し、再生細胞を分離・濃縮する。ユーザーはまた、必要とされる再生細胞の量を入力し、システムに、組織の必要量を吸引させ、さらに該組織を処理させてもよい。完全自動化システムもまた、ユーザーの入力パラメータ、例えば、洗浄サイクルの数、遠心速度等の数(例えば、2個以上)に基づいて再構成可能なシステムを含んでもよい。システムはまた半自動的モードで操作することも可能である。その場合、システムは、ユーザーの介入無しにいくつかの工程を実行するが、しかし、ある過程が起こる前にユーザーの介入を必要とする。別の実施態様では、システムは、ユーザーに対し指定の操作を指定の時間に実行するように導く指示を表示する単一の統合システムである。例えば、処理装置は、システムのチューブ、チェンバー、および他の成分の適切な挿入のために必要な工程を通じてずっとユーザーにプロンプトを提示して案内をしてもよい。従って、ユーザーは、適切な順序の操作が行われることを確かめることが可能である。このようなシステムはさらに、処理過程における不慮の工程の活性化または停止を防ぐために、操作工程毎に、ユーザーによる確認を要求することも可能である。さらに別の実施態様では、システムは、チューブ、チェンバーの適正な挿入、閉塞の不在等を確認するために自動化試験を起動してもよい。さらに別の実施態様では、本発明のシステムは、システムを環流する組織の流れを自動調節することによって複数の分離・濃縮過程を実行するようにプログラムされる。この特性は、ある患者において、他のやり方では失われたかも知れない組織を収集しシステムに導入し、該組織からの再生細胞を濃縮・分離して該患者に戻す手術の際には重要となろう。
【0120】
前述したように、システムの成分は、システムの部分が単一の使用後処分可能となるように、ディスポーザブル(本明細書では「ディスポーザブルセット(単複)」と呼ぶ)であってもよい。この実施態様は、患者の組織に接触した表面は全て、使用後適正に処分することを確実にするのに役立つ可能性がある。例示のディスポーザブルセットを図13に示す。好ましい実施態様では、システムのディスポーザブル成分はあらかじめ滅菌され、「棚卸し」で使用可能となるように包装される。このため、使用および負荷は簡単であり、かつ、数多くのチューブ接続およびチューブ接続の複雑な行程決定の必要がなくなる。このようなディスポーザブル成分は、製造するのに比較的安価であり、従って、それらを処分することよって実質的な出費を生じることはない。1つの実施態様では、ディスポーザブルシステム(本明細書では、「ディスポーザブルセット(単複)」と相互交換的に呼ばれる)は、収集チェンバー20、処理チェンバー30、廃棄物チェンバー40、出力チェンバー50、フィルターアッセンブリ36、サンプルバッグ60、および関連導管12またはチューブを含む、事実上上記成分から成る、または、上記成分から成る。システムのディスポーザブルセットの好ましい実施態様では、収集チェンバー20と処理チェンバー30とは、剛体フレームの中に収容される導管12を通じて接続される。処理チェンバー30の回転密封ネットワーク(図7と8)も同じ剛体フレームの中に収容されてよい。別の好ましい実施態様では、ディスポーザブルセットの各種チェンバーおよび容器は、システムの処理装置と通信が可能な必要インターフェイスを含み、そのために、システムを自動操作するポンプ、バルブ、センサー、および他の装置は、ユーザーの介入無しに、必要に応じて適当に活性化、または脱活性化されるのが可能である。インターフェイスはまた、システムをセットアップするのに必要な時間を短縮し、熟練度を下げ、さらにシステムの適正な設定法を示し、かつ、誤った設定が生じた場合にユーザーに注意を促すことによって誤操作を低減する。
【0121】
本発明のディスポーザブルセットの大部分は、多くの共通要素を持つ。しかしながら、当業者であれば、システムの様々な応用は、ディスポーザブルセットの一部となる、さらに別の成分を要求することを認識するであろう。従って、ディスポーザブルセットは、患者から脂肪組織または他の組織を獲得し、再生細胞を該患者に戻すために好適な1個以上の針または注射器をさらに含んでもよい。含まれる針または注射器の数と種類は、処理された組織の種類と量によるであろう。ディスポーザブルセットは、システム中で使用される洗浄液およびその他の処理試薬を保持するための、1個以上の、剛性または屈曲性容器をさらに含んでもよい。例えば、ディスポーザブルセットは、過程に必要な生食液、酵素、およびその他任意の処理または前処理液を保持する容器を含んでもよい。さらに、適当な洗浄液、再懸濁液、添加剤、介在因子、または移植材料は、本発明のシステムおよび方法と結合して用いられるディスポーザブルセットによって提供されてもよい。
【0122】
本明細書に記載される、または、その他本発明を実行するのに必要な、システム成分、装置、または支給物同士の任意の組み合わせは、キットの形で提供されてもよい。例えば、本発明のあるキットは、例えば、注射器による脂肪組織吸引に最適な長さと直径を持つ針、および、小容量組織の処理を可能とする好ましいフィルター媒体を含む滅菌注射器を含んでもよい。本発明に従って使用してもよく、本発明のキットに含めてもよい、その他の例示の装置および支給物を表IIおよびIIIに列挙する。
【0123】
下記の表IIは、本発明のシステムおよび方法に従って脂肪組織由来再生細胞を得るために用いることの可能な支給物の例を特定する。
【0124】
【表2】

【0125】
下記の表IIIは、本明細書に開示されるシステムおよび方法と共に使用してもよい装置を特定する。
【0126】
【表3】

【0127】
システムの再使用可能成分は、収集チェンバー用振とう機構、ポンプ、バルブおよびポンプ調節器を活性化する各種センサー、遠心モーター、遠心モーターの回転フレーム、ユーザーインターフェイス・スクリーンおよびUSBポート、ディスポーザブルセットを、再使用可能ハードウェア成分およびその他の関連装置にしっかりと取り付け、その界面形成を可能とする、ディスポーザブルセット接続用相互締め付けまたはドッキング装置または構成を含む、該装置または構成から事実上成る、あるいは該装置または構成から成る。例示の再使用可能成分を図14に示す。好ましい実施態様では、再使用可能成分は、再生細胞組成物から再生細胞を分離・濃縮するための手段、例えば、回転遠心器を含む。この実施態様では、再使用可能成分は、図15Aに示すディスポーザブルセットの処理チェンバー(遠心チェンバーを含む)の一部と接続および界面形成するように設計される。再使用可能成分において再生細胞を分離・濃縮する手段は、回転遠心器に限定されず、回転膜フィルターを含む、本明細書に記載される任意の他の構成を含んでもよいことが理解される。再使用可能成分はまた、本明細書に記載される処理装置であって、いくつかの異なる組織処理手順を実行し、それぞれの手順に従って、システムの各種ポンプおよびバルブを選択的に活性化するための指定プログラムを含む処理装置を含んでもよい。このプロセッサーはまた、ドナー/患者情報、処理または収集情報、および、その後のダウンロードまたは編集用の他のデータを保存するためのデータ保存能力を含んでもよい。再使用可能成分は、様々のディスポーザブルセットと共に使用してよい。ディスポーザブルセットは、再使用可能成分に対し、例えば、相互締め付け装置または構成を介して接続される。その際、該装置または構成は、ディスポーザブルセットを再使用可能成分にしっかりと付着させ、界面形成させるので、再使用可能成分の上に存在する処理装置は、ディスポーザブルセットの各種成分のみならず、再使用可能成分および他の関連装置およびシステムの制御を可能とする、すなわち、それらの成分、装置およびシステムとの信号の授受を可能とする。
【0128】
1つの実施態様では、システムで使用されるディスポーザブルセットは、約800 mLの組織を収容することが可能な収集チェンバー20;収集チェンバー20で洗浄・消化される約800 mLの組織によって生成される再生細胞組成物を処理することが可能な処理チェンバー30;少なくとも0.5 mLの再生細胞を収容することが可能な出力チェンバー50;および、約10 Lの廃液を収容することが可能な廃棄物容器40を含む。この実施態様では、ハードウェア装置は、長24'' x 幅18'' x 高36''を超えない。ディスポーザブルセット並びにハードウェアの各種成分について、上記以外の寸法も必要に応じて構築が可能であり、限定されることなく本発明の範囲に含まれると判断される。
【0129】
システムのディポーザブル成分は、装置の所定の位置に簡単に設置される。利用され、対応する再使用可能成分と共に組み立てられたディポーザブルセットの具体的例を図15Aに図示する。システムは、不適切に負荷されたディスポーザブル成分を検出可能となるように設計されるのが好ましい。例えば、各ディスポーザブルセットの成分は、チューブ、チェンバー等を、システムの適当な部位に適切に軸合わせし、挿入するための色ガイド付きマークを持っていてもよい。さらに別の実施態様では、本明細書に開示されるシステムは携帯用ユニットである。例えば、この携帯用ユニットは、脂肪組織採取を行ったある場所から、脂肪組織採取のために別の場所に移動することが可能となっていてもよい。ある実施態様では、携帯用ユニットは、患者のベッドサイドにおいて脂肪組織を採取・処理するのに好適である。従って、携帯用ユニットは、患者から患者へ移動することが可能な、システムの一部であってもよい。それ故、携帯用ユニットは、所定の位置でロックされる車付きであってもよい。そうなれば、処置を通じ、都合のよい場所に安定で確実な位置に留まって使用することが可能である。他の実施態様では、携帯用ユニットは、平坦な面、例えば、机上において設定、操作されるように設計される。携帯用ユニットはまた、筐体ユニットの中に収められてもよい。携帯用ユニットは、ハンガー、フック、ラベル、スケール、および、その他の、処置を支援する装置をさらに含んでもよい。本明細書に記載される、システムの再使用可能成分、例えば、遠心器、処理装置、ディスプレイスクリーン等は全て、システムの携帯用ユニットに取り付けてもよい。
【0130】
別態様として、再生細胞を獲得するための手動実施態様があるが、これも本発明の範囲内に含まれる。例えば、1つの実施態様では、本明細書に記載されるシステムの成分、装置、および/または支給物の内から任意に選ばれる組み合わせを用いて処理されてよい。
【0131】
本発明のシステムの手動実施態様は、下記の工程および情報に従って実行される。なお、これらの工程および情報は、例示のために提供されるのであって、限定のためではない。先ず、脂肪組織が患者から収集される。組織回収ライン、すなわち、サンプリング部位結合器が開かれ、スパイクが、600mlの血液バッグの側部ポートに挿入される。約10 mlの脂肪組織が、先端鈍なカニューレを通じて10 ml注射器に収集される。この先端鈍なカニューレは、比較的鋭利な針(14G)と交換される。サンプリング部位はヨウ素清拭で拭う。脂肪組織は、サンプリング部位から600 mlバッグに注入される。次に、注射器と針を刃物片チェンバーに廃棄する。上記工程を繰り返して、十分な組織をバッグに導入する。十分な組織は、患者と用途の臨床的特定事項に基づいてケースバイケースに判断される。
【0132】
第2に、吸引脂肪組織は洗浄される。あらかじめ温めておいた(37℃)生食液バッグを、作業面の上に吊るす。青色の止血クランプを、600 mlバッグとスパイクの間のチューブに設置する。クランプは閉鎖されてチューブを密封する。600 mlバッグ上のスパイクを用いて生食液バッグに進入させる(この設定では、生食液バッグにゴムの中隔を介して進入するために600 mlバッグ上の針を用いる、針の挿入前にヨウ素で中隔を拭う)。青色クランプを解除し、約150 mlの生食液を600 mlバッグに進入させる。所要量の生食液が600 mlバッグに入った時点で青色クランプを閉鎖する。600 mlバッグを約15秒間10−15回反転する。第2の青色クランプを、3 L廃棄物バッグからスパイクへ導くチューブに適用する。3 Lバッグ上のスパイクを用いて600 mlバッグに進入させる。600 mlバッグを作業表面の上に反転して吊るし、約1分静置させる。3 Lバッグに至る青色クランプを解除する。廃液を3 Lバッグに流れさせる。組織がチューブに入る前に、青色クランプを適用して流れを止める。600 mlバッグを作業表面に下ろす。上記工程をさらに2回繰り返す。生食液廃液がはっきりと赤色を呈している場合、追加の第3サイクルが適応とされる。加熱封印器を用いて、3 L廃棄物バッグと600 mlバッグの間のチューブを密封する。このシールは、チューブの約中間地点に行われる。3L廃棄物バッグを外して廃棄する。600 mlバッグを作業表面に戻す。
【0133】
第3で、洗浄脂肪組織は消化される。生食液と600 mlバッグの間のチューブにおける青色クランプを解除して、約150 mlの生食液を600 mlバッグに進入させる。600 mlバッグのサンプリング部位はヨウ素清拭で拭う。コラゲナーゼを、サンプリング部位を通じて600 mlバッグに注入する。コラゲナーゼは、37℃水浴、または、マイクロウェーブ加熱以外の等価物において、瓶入りコラゲナーゼを解凍することによって調製する。22G針を付けた1 ml注射器を瓶に挿入する。コラゲナーゼを針で吸引する。この針を外し、0.2 μmフィルターおよび第2の22G針と交換する。次に、コラゲナーゼを、0.2 μmフィルターおよび針を介して注射器から駆出する。脂肪組織の消化は、最終コラゲナーゼ濃度0.1−0.2 Wunsch単位/mlにおいて行われる。加熱パッドを搖動器の上に設置する。この間、生食液バッグは、依然として付着した状態で、搖動器の傍に置かれる。生食液バッグに至るチューブが、運動中の搖動器に絡みつかないように配置することに注意する。加熱パッド調節器を37℃に設定する。600 mlバッグを搖動器上に設置する。搖動器を最大に設定する。バッグを観察し安定であることを確認し、約1時間(55±10分)揺動させる。
【0134】
第4で、再生細胞組成物が回収される。バッグを搖動器から外す。青色クランプを、以前廃棄物バッグに導いた閉鎖チューブに適用する。滅菌接続装置を用いて、4重バッグセットを(下記の指示によりあらかじめ調製されたもの)、以前廃棄物バッグに付着されたチューブに付着する。4重パックは、二つが結合した4重バックとして見なすことができる。二つのパックに分割するチューブ分岐を特定し、該チューブを自身の上に折り返し、折り返したチューブの上に(両チューブ片の上に)金属ループを滑らせる。ループを約0.5インチ滑らせる。折り曲げ部分に形成される皺がチューブを密封する作用をする。止血クランプを用いて閉鎖ループに部分的に皺を形成する。ループの皺はきつすぎてはならない。なぜなら、ループは処理時に外す必要がかるからである。600 mlバッグは、作業表面の上に反転して吊り下げられ、約3分間静置される。4重セットに至るチューブ上の青色クランプが解除され、細胞分画(黄色/橙色脂肪層の下の層)が4重セットに排出される。脂肪層がチューブに入ることのないように注意する。この処理過程中、脂肪層がチューブに近づくにつれて、チューブを指で折って流れを遅くすることも可能である。次に、4重バッグセットに至るチューブを青色クランプで閉鎖し、600 mlバッグを作業表面に戻し、生食液バッグを吊るす。生食液バッグと600mlバッグの間のチューブの上に設けた青色クランプを解除して、約150 mlの生食液を600 mlバッグに進入させる。600 mlバッグを約15秒間約10−15回反転する。次に600 mlバッグを作業表面上で反転し、約3−5分静置させる。4重セットに至るチューブ上の青色クランプを解除して、細胞分画(黄色/橙色脂肪層の下の層)を4重セットに排出させる。脂肪層がチューブに入ることのないように注意する。例えば、脂肪層がチューブに近づくにつれて、チューブを指で折ることによって流れを遅くすることも可能である。4重バッグセットに至るチューブを青色クランプで閉鎖する。4重セットから600 mlバッグに至るチューブを加熱封印する。次に、600 mlバッグを外して廃棄する。
【0135】
第5では、再生細胞組成物が洗浄される。二つの充満バッグの間のチューブに金属クリップを設置して該チューブを密封する。この4重セットを天秤の上に置く。水を第2「ダミー」4重セットに加えて、4重セットとバランスさせる。4重セットとバランスセットを、遠心器の対向バケットに設置する。中空線維において、細胞は洗浄され、バッグに入れられ、バッグと、前述の中空線維フィルターアッセンブリの間のチューブが密閉される。ペリスタルチックポンプを用いて、流体をフィルターアッセンブリ中に流し、細胞濃縮物を下流末端のバッグに集める。4重セットバッグは圧迫されず直立するように注意する。遠心は400 x gで10分動作させる。4重セットを遠心器から外し、血漿浸出器に設置する。バッグを浸出器に対し、バッグ頂上の硬いチューブが後面プレートのちょうど真上に来るよう、置くように注意する。バッグが高すぎると、保持される生食液が多くなりすぎるし、低すぎると、チューブが前面プレートの閉鎖能力を妨げ、この場合も保持される生食液が多くなりすぎる。4重セットから空のセットへ至る各ラインに対して青色クランプを適用する。金属ループと青色クランプを外し、上清が空の4重セットに流れるようにする。できるだけたくさんの生食液が浸出されるようにするが、細胞ペレットがずれ動くことのないように注意する。上清を含む、各バッグに至るチューブを加熱封印する。上清を含む廃棄物バッグを外す。青色クランプを、細胞を含む、4重セットバッグのそれぞれに至るチューブに適用する。次に、バッグを、血漿浸出器から取り出す。滅菌接続装置を用いて、4重バッグに至るチューブを生食液バッグに接続する。4重セットバッグの内の1つに至る青色クランプを外して、約150 mlの生食液をこのバッグに流し、次にクランプを再度適用して生食液の流れを停止する。次に、この充満4重セットバッグを約15秒間約10−15回反転する。次に、空の4重セットに至る青色クランプを外し、充満バッグの全ての内容物を廃棄物バッグに排出させる。金属ループクランプを再度適用して、二つの4重セットバッグの間のチューブを密封する。次に、このチューブを加熱封印し、生食液バッグを外す。次に、この充満4重セットバッグを約15秒間約10−15回反転する。別のダミー4重セットを天秤の上に置き、細胞入り4重セットに対して再度バランスさせる。これらの4重セットバッグ(一方は充満、一方は空)を、4重セットバッグが圧迫されることのないよう、直立するように遠心器に設置する。
【0136】
遠心は約400 x gで10分動作させる。次に、4重セットを遠心器から外し、血漿浸出器に、バッグ頂上の硬いチューブが後面プレートのちょうど真上に来るよう注意して設置する。バッグが高すぎると、保持される生食液が多くなりすぎるし、低すぎると、チューブが前面プレートの閉鎖能力を妨げ、この場合も保持される生食液が多くなりすぎる。再生細胞ペレットをずれ動かすことのないように注意しながら、金属ループを外して、充満バッグから全ての上清を空のバッグに排出させる。バッグの間のチューブを密封し、充満(廃液)バッグを外して廃棄する。次に、新規サンプリング部位結合器を残余バッグに挿入する。次に、細胞ペレットの細胞を残留生食液(もしあれば)に再懸濁し、再生細胞の濃縮液を得る。この再懸濁は、バッグを穏やかに手動操作(例えば、揉んだり、擦ったり)することによって実行することが可能である。
【0137】
本発明を体現するシステムの特定例を図4に示す。図4は、組織、例えば、脂肪組織から、患者の体内に再注入するのに好適な再生細胞を分離・濃縮するための自動化シシテムおよび方法を図示する。図4に示すシステムのいくつかの実施態様では、システムはさらに、患者から任意の量の組織を吸引する自動化工程を含む。図4に示すシステムは、図15Aに示すシステムの自動化実施態様を実現するために、図14に示すシステムの再使用可能成分に接続される、図13に示すディスポーザブルセットを含む。このディスポーザブルセットは、再使用可能成分に対し、例えば、相互締め付けまたはドッキング装置または構成を介して接続される。その際、該装置または構成は、ディスポーザブルセットを再使用可能成分にしっかりと付着・連結するので、再使用可能成分の上に存在する処理装置は、ディスポーザブルセットの各種成分のみならず、再使用可能成分および他の関連装置およびシステムの制御、界面の形成を可能とする、すなわち、それらの成分、装置およびシステムとの信号の授受を可能とする。
【0138】
ユーザーは、再使用可能成分にディスポーザブルセットを接続し、ユーザーインターフェイスを用いていくつかのパラメータ、例えば、収集される組織の容量を入力し、システムを患者に繋いでもよい、すると、システムは、あらかじめプログラムされた、および/または、ユーザーのインプットパラメータを用いて、途切れなく連続的に図4の工程の全てを自動的に実行する。1つのこのような順序を図15Bに示す。別態様として、組織はユーザーによって患者から手動で吸引され、処理、例えば、再生細胞の分離・濃縮のためにシステムに輸送されてもよい。
【0139】
具体的に言うと、図4に示すように、組織、例えば、脂肪組織が、導管12を通じて患者から吸引され、収集チェンバー20に導入される。図4の収集チェンバーの詳細図が図5に示される。図5に示すように、収集チェンバー20は、標準的カニューレによる組織の取り出しを助ける真空ライン11を含んでもよい。ユーザーはこの時点で、収集チェンバー20に向けられる組織の推定量を入力してもよい。組織は、入口ポート21を通じて収集チェンバー20に導入される。入口ポートは、組織、生食液、およびその他の仲介因子が無菌的に組織に加えられるのを可能とする閉鎖流路の一部である。システムの光学センサー、例えば、センサー29は、組織のユーザー入力容量が収集チェンバー20に存在する時点を検出することが可能である。いくつかの実施態様では、収集チェンバーに存在する組織がユーザー入力よりも少ない場合、ユーザーは、収集チェンバー20に存在する組織の容量で処理を開始する選択を有する。いくつかの実施態様では、患者から取り出した組織の一部は、ポンプ、例えばペリスタルチックポンプによって、ユーザーインターフェイスを用いユーザー入力を介し活性化された導管を通じてサンプルチェンバー60に向けられてもよい。
【0140】
センサー29は、組織を洗浄し、脱凝集するのに必要な工程を活性化するよう、再使用可能成分中に存在する処理装置に送信する。例えば、処理装置は、自動化バルブおよびポンプを用い、収集された組織の容量に基づいて指定量の洗剤を導入してもよい。収集チェンバーにおいてこのサイクルは、光学センサーが、溶出液が十分に透明であり、不要の物質を含まないと判断するまで繰り返されてもよい。例えば、収集チェンバー12bまたは12dから導出される導管に沿う光学センサー29は、不要の物質が排除されたことを検出し、処理装置に、必要なバルブを閉鎖し、次の工程を始めるよう発信することも可能である。
【0141】
次に、処理装置は、収集された組織の容量に基づいてあらかじめプログラムされた量の脱凝集剤を導入してもよい。処理装置はまた、収集された初回組織容量に基づいて、またはユーザー入力に基づいて、指定の期間収集チェンバー内の組織の振とうを活性化してもよい。図4に示す実施態様では、脱凝集剤、例えば、コラゲナーゼが、コラゲナーゼ供給源24を通じて収集チェンバー20に加えられると、収集チェンバー20のモーターが処理装置を通じて活性化される。モーターは、磁気スターラー含む回転軸25、および、収集チェンバー28にあらかじめ固定されたフィルターのフィルターケージ27に1本以上のパドルが硬く付着したパドル様装置を活性化する。パドルは、脱凝集剤の存在下に、再生細胞が組織から分離するように振とうする。
【0142】
収集チェンバー20内の溶液は指定の期間沈殿させられる。溶液の浮遊部分は、溶液の頂上に上昇させられる。指定時間が過ぎると、非浮遊部分を廃棄物チェンバー40に排除するように、必要なバルブおよびポンプが処理装置によって活性化される。廃棄チェンバー40への転送は、収集チェンバーから出る導管12bまたは12dに沿うセンサー29が、溶液の浮遊部分が廃棄物チェンバー30に転送されていることを検出するまで継続する。例えば、収集チェンバーから出る導管12bまたは12dに沿うセンサー29は、不要の物質が排除されたことを検出し、処理装置に必要バルブを閉鎖するように発信することが可能である。
【0143】
この時点で、溶液の非浮遊分画、すなわち、再生細胞組成物は処理チェンバー30に移動させられる。これは、必要バルブとペリスタルチックポンプによって実現される。いくつかの実施態様では、再生細胞組成物の処理チェンバー30への転送前に、追加のある容量の生食液を、収集チェンバー20に残留する溶液の浮遊分画に加えてもよい。さらに新たな洗浄サイクルを繰り返してもよい。このサイクルの後、溶液を沈殿させ、非浮遊分画(再生細胞を含む)を処理チェンバー30に転送し、浮遊分画は、廃棄物チェンバー40に排出する。この追加の洗浄サイクルを使って、全ての分離再生細胞の処理チェンバー30への転送を最適なものとする。
【0144】
再生細胞組成物が、導管12を通じて処理チェンバー30に輸送されたならば、濃縮相の開始前に、さらに1回以上の洗浄工程を受けてもよい。これによって、収集チェンバー20からの廃棄物および残留汚染物が確実に排除される。同様に、濃縮工程後、再生細胞組成物は、残留汚染物を排除するためにさらに1回以上の洗浄工程を受けてもよい。不要物質は、前述と同様にして、すなわち、処理装置からの信号に基づくバルブとポンプの調節によってチェンバー30から廃棄物チェンバー40に移動させられてもよい。
【0145】
図4に示す処理チェンバー30の各種実施態様を下記に詳述する。図4に示す処理チェンバー30は遠心チェンバーの形を取る。図4の処理チェンバーの詳細図を図7および8に示す。この処理チェンバー30は、全体として、外部筐体30.2、1個以上のシール30.3、1個以上のベアリング30.4、および、該処理チェンバーをシステムの再使用可能成分中に存在する遠心器に接続するための付着ポイント30.6;回転シールから外方に延び、各端で遠心チェンバーで終わる導管の形を取る1本以上の流路30.5を含む回転シールネットワーク30.1を含む。遠心チェンバーは、フレーム53の中に収容される出力チェンバー50の形を取り、フレームは、1個以上のポート52と、出力チェンバー50を手動で配置を改めるための1個以上のハンドルを含む。
【0146】
回転シールネットワーク30.1は、処理チェンバーの流路が無菌状態に確実に維持されるように含まれる。さらに、処理チェンバーの流路は、いつでも、例えば、処理チェンバーの遠心チェンバーが回転中でも、無菌的に近づくことが可能である(例えば、試薬または洗浄液を加えるために)。
【0147】
図7および8に示す回転シールネットワーク30.1は、2個以上のベアリング30.4を含む回転軸、3個以上のリップシール30.3、および外部筐体30.2を含む。この実施態様では、ベアリング30.4は、本明細書ではレースと呼ばれる外部軸および内部軸(図示せず)をさらに含む。これらのレースは、精密研磨球によって隔てられてもよい。ベアリングを含むレースと球は、体液と接触するのに適した材料によって製造するか、あるいは、体液と接触するのに適した材料によってコートされるのが好ましい。ある好ましい実施態様では、レースと球は、例えば、窒化シリコンまたはジルコニアを用いて製造される。さらに、この実施態様では、3枚のリップシールは、円形“U”型のチャンネル(図示せず)の外に、円形バネ(図示せず)を含む。円形“U”型チャンネルは、回転シールネットワーク30.1の回転軸に対し漏洩防止接合部が形成されるよう、屈曲性材料で製造されるのが好ましい。さらに、リップシールは、処理チェンバーを流通する再生細胞組成物からの圧が、シールアッセンブリに対し、緊張の増大を通じて回転軸との接合部を締め付けさせる方向に置かれることが好ましい。シールは、回転シールネットワーク30.1の外部筐体30.2の溝に嵌合するために、必要に応じて、拡張する、および/または、潰れることが可能な1個以上の円形クリップ(図示せず)によってその位置に固定される。回転シールネットワーク30.1によって生成される、またはその近傍に生じる熱は、通路を移動する溶液中の細胞の分解を防ぐために調節される。このことは、例えば、回転軸を構築する硬質材料の選択、シールと接触する回転軸領域の研磨、および、回転軸とシールとの間の接触の最小化によって実現されてもよい。
【0148】
別の実施態様では、回転シールネットワーク30.1は、単一のゴムシール30.3および空気ガスケット(図示せず)を含む。このシールとガスケットは、システムの無菌性を脅かす可能性のある任意の生物材料に対し曲折通路を提供する。別の実施態様では、回転シールネットワーク30.1は、個々の流路を隔離する、複数個のバネ負荷シール30.3を含む。シール30.3は、滅菌可能であり同時に、潤滑剤無しに回転軸を密封することが可能な材料から製造される。別の実施態様では、回転シールネットワーク30.1は、異なる流路を形成し、システムの回転に耐えることができ、かつ、細胞分解を引き起こさない一対のセラミック円板(図示せず)を含む。別の実施態様では、流路は屈曲性を持ち、処理チェンバーに対して巻かれたり、解かれたりする。これは、屈曲性流路を、処理チェンバー30の各2回の回転に対して1回回転させることによって実現される。これによって、回転シールがまったく不要になる。
【0149】
再生細胞組成物は、収集チェンバー20からくみ出され、回転シールネットワーク30.1の回転軸を通る流路にそって流れ、分かれて最低2本の流路30.5に入る。これらの流路はそれぞれ、処理チェンバー30の中心軸から外側に向かって放射状に延び、処理チェンバー30の外側端の近傍、すなわち、出力チェンバー50を収容する遠心チェンバー内に終止する(図7および8)。従って、好ましい実施態様では、処理チェンバー30は、図7および8に示すように、2個以上の出力チェンバー50を含む。これらの出力チェンバー50は、処理中は一方向に向くように30.7、かつ、濃縮再生細胞の回収の際には別方向に向くように30.8配置される。例えば、出力チェンバーは、処理中はある角度傾けられ、細胞回収の際には別の角度傾けられる。細胞回収角度は、処理角度よりもより垂直に近い。出力チェンバー50のこの二つの位置は、処理チェンバー30から突出するハンドル53を介して手動で操作される。再生細胞は、出力チェンバー50が回収方向30.8に向いた時に、注射器を用いて手動で回収される。別の実施態様では、流路30.5は、処理チェンバーの外側で分岐し、次に、処理チェンバー30の外側端と接続、すなわち、出力チェンバー50(図示せず)を収容する遠心チェンバー内で接続するように構築される。この実施態様では、大量の再生細胞組成物および/または添加物、溶液等が、遠心チェンバーおよび/または出力チェンバーに直接輸送されることがある。
【0150】
図4および7−9を参照すると、収集チェンバー20と処理チェンバー30の間に、ポンプ34と1個以上のバルブ14が設けられる。ある好ましい実施態様では、バルブ14は電気機械的バルブである。さらに、センサー、例えば圧センサー29が、処理チェンバー30および収集チェンバー20に対して直列に設けられる。これらのバルブ、ポンプ、およびセンサーは、再使用可能成分(図14)上の処理装置と一致して活動し、システムの濃縮工程を自動化する。
【0151】
センサーは、遠心チェンバーにおける再生細胞組成物の存在を検出し、システムの処理装置との通信を通じて遠心装置を活性化する。次に、再生細胞組成物は、初めに収集された組織の量および/またはユーザーインプットに基づいて、あらかじめプログラムされた時間、あらかじめプログラムされた負荷とされる。いくつかの実施態様では、この工程は、自動的に、またはユーザーインプットを介して繰り返される。例えば、組成物は、約5分間、重力の約400倍の負荷とさせられる。出力チェンバー50は、チェンバーの最外側部が、密な粒子と細胞のための小さな溜まり場を形成するように構築される。出力チェンバー50は、密な粒子を所謂「細胞ペレット」という形で保持し、一方、より軽い上清は、流路、例えば、回転シールネットワーク30.1の回転軸に沿う流路を通じて排除されるようにする。従って、上清は、処理チェンバー30の中心の低点から、回転シールネットワーク30.1を通じて廃棄物容器40へ移動する。バルブ14およびポンプ34は、処理デバイスに対し、出力チェンバー50内に存在する細胞ペレットを乱すことなく、上清を廃棄物容器40に排除する工程を活性化するよう発信する。
【0152】
図4に示すシステムを用いて得られた細胞ペレットは、本発明の濃縮再生細胞を含む。ある実施態様では、上清が排出され、廃棄物チェンバー40に向けられた後、流路30.5を用いて、遠心後に形成された細胞ペレットを、追加の溶液および/または他の添加物によって再懸濁させる。このようにして細胞ペレットを再懸濁させると、再生細胞をさらに洗浄することが可能となり、不要なタンパクおよび化学的化合物の除去を始め、細胞に対する酸素の流れを増大させる。得られた再懸濁液は、さらに約5分間重力の400倍の負荷を課せられる。第2の細胞ペレットが形成され、得られた上清が廃棄物チェンバー40に排出された後、前述のやり方で最終洗浄を、生食液または何か他の適当なバッファー液によって実行してもよい。このような反復洗浄を、再生細胞液の純度を強調するために複数回実行することが可能である。ある実施態様では、処理を強調するために、必要とされるに任意の工程で生食液を加えることが可能である。図4に示すシステムを用いて得られた再生細胞の濃度は、収集組織の量、患者の年齢、患者の病歴等に応じて変動することがある。表1に例示の収率を掲げる。
【0153】
次に、出力チェンバー50を細胞取り出しのために適当な方向に配置した後、出力チェンバー50内の最終ペレットを適当な注射器を用いて無菌的に回収してもよい。別の実施態様では、最終ペレットは、出力チェンバー50内の容器に自動的に移動され、この容器は取り出され、保存され、必要に応じて使用される。この容器は任意の適当な形またはサイズであってよい。例えば、容器は注射器であってもよい。ある実施態様では、出力容器50そのものが密封したまま加熱され(自動的、または手動で)、その後の回収、および、本明細書に記載される治療応用、例えば、患者に対する再注入を含む応用における再生細胞の使用に備えて、処理チェンバーの他の成分から隔離される。細胞はまた、出力チェンバーからの回収前に、または、第2システムまたは装置への転送後に、本明細書に記載する通りにさらに処理されてもよい。図14に示す再使用可能成分は、必要に応じてさらに処理するための1種以上の追加のシステムまたは装置に接続可能となるように構築される。
【0154】
本明細書に記載する通り、本発明のシステムおよび方法を用いて得られた再生細胞は、実施例に記載する該細胞の性質に基づいて創傷治癒のために使用することが可能である。例えば、再生細胞は、インビトロにおいて、脈管形成増殖因子およびサイトカインを発現し、創傷治癒関連サイトカインを分泌し、コラーゲンを分泌し、かつ、インビボで創傷治癒を増進する能力を持つ。従って、本発明の1つの局面では、再生細胞が、本発明のシステムおよび方法を用いドナーの脂肪組織から抽出され、本明細書に記載される1種以上の機構を通じて創傷(単複)を治すのに用いられる。ある好ましい実施態様では、細胞は、移植を受ける予定の人の脂肪組織から抽出される。これによって、移植片に対する抗原および/または免疫原反応に関連する合併症の恐れが軽減される。患者は、通常、例えば、物理的診断および患者の既往歴によって、創傷治癒障害の見通しについて評価される。
【0155】
1つの実施態様では、患者が、血液凝固を下げるように設計される製品を服用する前に、収集過程が実行される。しかしながら、ある実施態様では、患者は、収集過程の前に、アスピリンを服用してもよい。さらに、1つの好ましい方法は、任意の予定過程の前に脂肪組織の収集を含む。しかしながら、当業者であれば理解されるように、収集のタイミングは、いくつかの要因、何よりも先ず、患者の安定性、患者の凝固特性、ドナーの手に入り易さ、および、品質管理基準を含む要因に依存することが予想される。最後に、収集のタイミングは、病気の患者に対してケアの実施を担当する施術者によって決定される。
【0156】
患者から収集される脂肪組織の容量は、約0 ccから約2000 ccまで変動してよいが、ある実施態様では最大約3000 ccになる。取り出される脂肪の容量は、患者によってまちまちであるが、いくつかの要因、例えば、年齢、体型、凝固特性、血液動態学的安定性、病気の重度、共同疾患、および医師の好みを含む要因に依存する。
【0157】
細胞は、異常な創傷治癒が起こっている任意の背景において患者に投与されてよい。細胞はあらかじめ抽出され、冷凍保存されるか、あるいは、定められた必要時点において、またはその時点の近傍で抽出されてもよい。本明細書の開示では、細胞は、それ以上処理することなく、あるいは、さらに精製し、修飾し、刺激し、あるいはその他のやり方で細胞を変化させるための追加の過程を実施した後に、患者に投与されてもよいし、あるいは、直接損傷組織に対し、またはその近傍に塗布されてもよい。例えば、患者から得られた細胞は、患者に投与する前に細胞を培養することなく、治療を必要とする患者に対して投与されてもよい。1つの実施態様では、脂肪組織の収集は、患者のベッドサイドで実行される。患者の臨床状態を監視するために血液動態学的監視を用いてもよい。
【0158】
本発明によれば、再生細胞は、患者から脂肪組織を収集して間もなく患者に搬送することが可能である。例えば、細胞は、脂肪組織を処理して再生細胞から成る組成物を得た直後に投与してもよい。1つの実施態様では、患者に再注入される細胞は、本明細書で論ずるように、さらに修飾し、精製し、刺激し、あるいはその他のやり方で操作して変えてもよい。さらに、再生細胞は複数回投与してもよい。例えば、細胞は、長期に渡って(例えば、数時間)連続投与してもよいし、あるいは、ある期間に渡って複数回のボーラス注入によって投与してもよい。ある実施態様では、初回の細胞投与は約12時間内、例えば、6時間毎に投与され、1回以上の細胞投与が12時間間隔で行われる。
【0159】
患者に投与される細胞の数は、例えば、脂肪組織処理後の細胞収量に関連してよい。細胞全数の一部を後の使用に備えて保持、すなわち冷凍保存してもよい。さらに、搬送用量は、患者に対する細胞の搬送ルートに依存する。
【0160】
細胞はまた、意図する治療効果を強調、調節、またはその他のやり方で指示するために添加物と共に適用されてもよい。例えば、1つの実施態様では、本明細書に記載されるやり方に従って、細胞をさらに、抗体介在性陽性および/または陰性細胞選択を用いて精製して細胞集団を濃縮し、それによって、効力を増し、病気の悪化を抑えてもよいし、あるいは、処置がさらにやり易くなるようにしてもよい。同様に、細胞は、植え込み細胞の運命を支える、および/または、指示することによって体内組織の人工的改変を促進する生体適合性基質と共に投与されてもよい。同様に、細胞は、細胞によって実現される治療的反応(単複)を増進すると考えられる、または意図される遺伝子産物を発現するように実施された遺伝子操作の後で投与されてもよい。操作の例としては、例えば、脈管形成または血管形成を増進する因子(例えば、VEGF)の発現の調節(増大または低減)が挙げられる。細胞はまた、本明細書に記載される通りに植え込まれる前に、支持体物質の上で細胞培養されてもよい。
【0161】
1つの実施態様では、効果を意図する部位に直接細胞を投与することが好ましい。これは、静注によって実現してもよい。当業者に既知の投与ルートとしては、皮下、皮内、または筋肉内が挙げられるが、ただしこれらに限定されない。また、投与は、カテーテルによる輸送機構を含んでもよいし、含まなくともよい。細胞は、ゆっくりした注入による単一ボーラス注入でもよいし、あるいは、一連の迅速投与であって、数時間、あるいは、細胞が適切に保存される場合は、数日または数週の間隔を置いて注入されてもよい。1つの実施態様では、搬送ルートは、標準的末梢静脈カテーテル、または中心静脈カテーテルによる静脈搬送を含む。細胞の流れは、患者の脈管系に配置される遠位および近位バルーンを連続的に膨張/萎縮させることによって、一過性の非流動ゾーンを造り出し、それによって細胞の定着増殖または治療作用を増進させるようにしてもよい。別の実施態様では、細胞は、患者に投与する前に、人工または天然培養液または組織支持体において再懸濁させてもよい。全身治療は、血管系への注入を含むことになると考えられる。
【0162】
処理済脂質吸引物のいくつかの部分は、患者に投与する前に保存してもよい。短期保存(6時間未満)の場合、細胞は、栄養液の添加の下に、または添加無しで、密封容器において室温で、または室温未満で保存されてもよい。中期保存(48時間未満)の場合、細胞は、細胞接着を防ぐ物質で構成される、またはコートされる容器において、等張性バッファー液(例えば、Plasmalyte(登録商標))中に2−8℃で保存されることが好ましい。さらに長期の保存では、適当な冷凍保存法、および、細胞機能の保持を増進する条件下に細胞を保存することが好ましく、そのような保存法は、例えば、その特許権が共通の作者に付与・所有される、2002年9月13日登録のPCT出願第PCT/US02/29207号、および、2001年9月14日登録の米国仮出願第60/322,070号に開示される。なお、この両特許文書の内容を参照することにより本明細書に含める。
【0163】
本発明の1つの局面によれば、患者に投与される脂肪組織由来細胞は、増殖因子搬送ベヒクルとして作動することが可能である。例えば、該細胞を、創傷治癒を増進するのに好適な1種以上の増殖因子を発現するように遺伝子工学的に修飾することによって、細胞を患者に投与し、その1種以上の増殖因子を放出するように修飾することが可能である。放出は、長期に渡って調節的やり方で実現することが可能である。例えば、放出は、組織の損傷領域の近傍において増殖因子の量の局地的上昇、および/または、局地的減退が生ずるように、増殖因子(単複)がパルス状に、または周期的に放出されるように調節することが可能である。
【0164】
患者に投与される細胞は、傷害、またはその他の点で不健康な組織の機能回復を助けるばかりでなく、傷害組織の再生を促進する。細胞輸送は、下記の施設で行われておよいが、ただしこれらに限定されない。その施設とは、クリニック、クリニック診察室、緊急医療課、病棟、集中治療室、手術室、カテーテル挿入処置室、および放射線処置室である。細胞治療の効果は、処置後数日から数週の経過において明らかになる。しかしながら、効果は処置後早くも数時間後に観察され、数年間持続することもある。患者は通常、細胞輸送の前および輸送中に監視される。監視手順としては、凝固試験、酸素飽和度および血液動態監視が挙げられるが、ただしこれらに限定されない。細胞輸送後、患者には、副作用の有無に関して約24時間の監視が必要となる。
【0165】
下記の実施例は、本発明の技法が適用される特定の状況および背景を例示するために提供されるものであって、本発明および本開示に含まれる特許請求項の範囲を限定することを意図するものではない。
【実施例】
【0166】
下記に記載される実施例を通じて使用されるADCまたは再生細胞は、本開示、および・または、その特許権は全て同じ作者に付与される、2001年12月7日登録の米国仮出願第60/338,856号に対し優先権を主張する、2002年12月9日登録、名称「処理済み脂肪組織吸引細胞で患者を治療するためのシステムおよび方法」なる米国出願第10/316,127号に記載される方法を始め、2002年12月9日登録、名称「処理済み脂肪組織吸引細胞で患者を治療するためのシステムおよび方法」なる米国出願第10/316,127号に対し優先権を主張する、2004年6月25日登録、名称「組織から再生細胞を分離し、濃縮するためのシステムおよび方法」なる米国出願第___号に記載される方法によって獲得することが可能である。なお、上記特許文書全ての内容を、ここに参照することにより本明細書に含めることを明言する。
【0167】
(実施例1 再生細胞による、脈管増殖因子VEGFの発現)
血管内皮増殖因子(VEGF)は、脈管形成の最重要調節因子の1つである(Nagy et al., 2003; Folkman, 1995)。VEGFファミリーのもう1つのメンバーである胎盤増殖因子も、脈管形成のみならず、動脈形成においても同様の役割を果たす。具体的に言うと、PIGFノックアウトマウスに対して、野生型(PIGF+/+)細胞を移植すると、後肢虚血症からの速やかな回復を誘発する能力の回復が見られた(Scholz et al., 2003)。
【0168】
血管再生過程における脈管形成および動脈形成の重要性は明白であるので、本発明の再生細胞によるPIGFおよびVEGF発現を、3人のドナーから得られた脂肪組織由来再生細胞についてELISAアッセイ(R & D Systems、ミネアポリス、ミネソタ州)によって調べた。一人のドナーは、高血糖症および2型糖尿病(微小血管および粗大血管疾患と高い相関を持つ病態)の既往歴を持っていた。各ドナーからの再生細胞を、10%FCSと5%HSを添加したDMEM/F-12培養液において1,000個細胞/cm2で撒き、集密的となるまで育成した。上清サンプルを取り、PIGFおよびVEGFタンパクの発現について定量した。図16Aおよび16Bに示すように、結果は、本発明の脂肪組織由来再生細胞によってVEGF(図16A)およびPIGF(図16B)の両方とも強力に発現されることを示す。
【0169】
別の実験において、正常な成熟マウスから得られた培養再生細胞によって分泌される脈管形成関連サイトカインの相対量を測定した。再生細胞は、10%FBS添加アルファMEMで細胞集密状態を超えるまで5日まで培養した。その時点で、細胞培養液を収集し、抗体アレイ分析によって評価した(RayBio(登録商標)マウスサイトカイン抗体アレイII(RayBiotech, Inc.,)。下記の脈管形成関連増殖因子が検出された。すなわち、血管内皮増殖因子(VEGF)、bFGF、IGF-II、エオタキシン、G-CSF、GM-CSF、IL-12、p40/p70, IL-12 p70, IL-13, IL-6, IL-9, レプチン、MCP-1, M-CSF, MIG, PF-4, TIMP-1, TIMP-2, TNF-αおよびトロンボポエチンである。下記の脈管形成関連増殖因子すなわちサイトカインが、10% FBS添加ブランクコントロール培養液に比べ少なくとも2倍上昇した。すなわち、血管内皮増殖因子(VEGF)、エオタキシン、G-CSF、IL-6、MCP-1、およびPF-4である。
【0170】
これらのデータは、本発明の再生細胞は、広範な系列の脈管および動脈形成増殖因子を発現することを示す。さらに、糖尿病患者が、正常患者のものと同等レベルでVEGFおよびPIGFを発現したという所見は、糖尿病患者も、自己起源の脂肪組織由来再生細胞による脈管形成療法の治療対象となり得ることを示す。
【0171】
(実施例2 再生細胞は、脈管形成に与る細胞集団を含む)
内皮細胞、およびその前駆細胞、すなわち、内皮先駆細胞(EPC)は、脈管形成に関与することが知られる。EPCが脂肪組織由来再生細胞中に存在するか否かを確かめるために、ヒトの脂肪組織由来再生細胞において、EPC細胞表面マーカー、例えば、CD-34の有無について評価した。
【0172】
ADCは、ヒト皮下の脂肪組織を酵素的に消化することによって単離した。ADC(100 ul)を、0.2%仔牛血清(FBS)を含むリン酸バッファー生食液(PBS)にてインキュベートし、さらに4℃で20から30分、ヒト内皮マーカーCD-31(分化した内皮細胞マーカー)およびCD-34に向けた蛍光標識抗体の外に、多分化能細胞の上に選択的に発現されるヒトABCG2(ATP結合カセットトランスポータ)に向けた標識抗体と共にインキュベートした。洗浄後、細胞を、FACSAriaソータ(Beckton Dickenson、免疫細胞測定)で分析した。次にデータ入手および分析をFACSDivaソフトウェア(BD-Immunocytometry、カリフォルニア州)にて行った。結果(図示せず)から、健康な成人から得られた脂肪組織由来再生細胞は、EPCマーカーCD-34およびABCG2を発現したが、内皮細胞マーカーCD-31は発現しないことが明らかになった。EPCマーカーCD-34およびABCG2を発現する細胞は、糖尿病の既往歴を持つドナーから得られた再生細胞においても同様の頻度で検出された。
【0173】
内皮細胞分化培養液による培養後の、ヒト脂肪組織由来再生細胞におけるEPCの頻度を求めるために、再生細胞を、フィブロネクチン被覆プレートに撒き、内皮細胞培養液にて3日間培養して、成熟内皮細胞を除去した。非接着細胞を取り出し再度撒いた。14日後、コロニーを、FITC接合Ulex europaeusアグルチニン-I(Vector Labs, Burlingame、カリフォルニア州)、および、DiI標識アセチル化LDL(Molecular Probes, Eugene、オレゴン州)で染色して特定した。図17に示すように、結果から、約500 EPC/106 ADC細胞のEPC頻度が示された。
【0174】
脂肪組織由来再生細胞内にEPCが存在するということは、これらの細胞が、直接、新規血管の発達に関与し、かつ、脈管形成および再環流を強化する可能性のあることを示す。
【0175】
(実施例3 再生細胞における血管構造のインビトロ発達)
従来技術で既知の、脈管形成のアッセイ法は、線維芽細胞から成るフィーダー層上で育成された内皮細胞が、新生血管網を想わせるCD31-陽性チューブから成る複雑なネットワークを発達させるアッセイ法(Donovan et al., 2001)である。脂肪組織由来再生細胞は、内皮細胞、EPC、およびその他の支質前駆細胞を含むので、我々は、これらの再生細胞について、フィーダー層欠如の場合における毛細管様構造形成能力を調べた。正常マウスの鼠脛部パッドから得た再生細胞は、培養後2週間で毛細血管ネットワークを発達させた(図18A)。注目すべきことに、STZ投与後8週でストレプトゾトシン(STZ)誘発1型糖尿病を発症した高血糖症マウスから得られた再生細胞は、正常マウスから得られた細胞によって形成されたものと等価的な毛細管ネットワークを形成した(図18B)。
【0176】
続く実験では、脂肪組織由来細胞を、完全培養液(10% FCS添加α-MEM)にて、追加の増殖因子無しで培養した。これらの再生細胞も毛細管ネットワークを形成した。さらに、形成された血管構造は、内皮細胞マーカーCD31、CD34、VE-カドヘリン、およびvon Willebrand因子/因子VIIIに対しては染色陽性であったが、汎リンパ球マーカーCD45に対しては陽性ではなかった。
【0177】
若年マウス由来の再生細胞と、老年マウス由来再生細胞の、毛細管ネットワーク形成能力を比較するために、正常の若年および老年マウス(1、12、または18月齢)から得られた再生細胞を、完全培養液(10% FCS添加α-MEM)にて、追加の増殖因子無しで2週間培養した。全てのドナーから得られた再生細胞の培養体において、等価的毛細管様ネットワークが観察された(図示せず)。
【0178】
前記データは、正常および糖尿病患者から得られた脂肪組織由来再生細胞も、若年および老年患者から得られた脂肪組織由来再生細胞も、新生毛細管ネットワークの形成と一致する血管構造を形成することが可能であることを示す。従って、本発明の再生細胞は、脈管形成不全の治療に使用することが可能である。
【0179】
(実施例4 再生細胞における血管構造のインビト発達)
インビトロ脈管形成能力は、有望ではあるが、もしもその細胞がインビボ脈管形成活性を働かせることがないならば、ほとんど価値が無い。外科的に誘発した後肢虚血症は、任意の療法の脈管形成能力を特定することが可能なインビボモデルである。このモデルは、ヒト細胞の再環流駆動能力を観察可能とするために、免疫不全(NOD-SCID)マウスにおいて開発された。
【0180】
手術前血流値を、後述するように両後肢について求めた。麻酔マウスの血管を、下記の部位で4−0絹糸結さつにて結んだ。すなわち、1)分岐部より近位の腸骨動脈、2)深大腿動脈起始のすぐ遠位部、3)浅大腿動脈の枝分かれのすぐ近位部である。結さつ後、血管網を塊のまま取り出した。創傷閉鎖の前に、結さつ大腿動脈から枝分かれする、大まかに観察可能な側枝も結さつした。24時間後、129Sマウスには5x106個の同系マウス脂肪組織由来再生細胞を注入し、NOD-SCIDマウスには、ヒトの脂肪組織由来再生細胞を尾静脈から注入した。血流は、レーザードップラー血流画像装置(Moor Instruments Inc.、ウィルミントン、デラウェア州)を用い、手術の直後、および処置後一定間隔を置いて画像化した。測定は、週当たり3回24日間に渡って行い、その脚の手術前の値にたいして正規化し、コントロール(手術をしない)脚に対する相対値で示した。
【0181】
後肢虚血症のモデルは、使用したマウスの系統に極めて高い感受性を持つ。NOD-SCIDマウスは免疫不全動物であり、急性炎症反応を起動する能力を欠く。これらのマウスでは、この手術法によって重篤な虚血症が生成され、未処置動物の3分の2が、大腿切開部位の下で後肢構造を失うほどであった。細胞治療動物では、つま先より上で何らかの構造を失ったものは無かった。しかしながら、免疫機能の備わった129Sマウスでは、未治療動物でも指節骨より上の構造を失ったものは無く、部分的に再環流を再生する内在能力を持つことを示した。これは恐らく、急性炎症反応に関連する内在的脈管形成によるものと考えられる。これによって、様々の異なる系統の治療動物対コントロール動物を比較する場合の方が、再環流がより極端でなくなる理由が説明される。
【0182】
しかしながら、結果から、脂肪組織由来再生細胞によって治療されたマウスは、いずれの系統のマウスにおいても、未治療マウスに比べて有意に改善された環流を示すことが明らかになった。12日目までに、血流が、ヒト再生細胞で治療されたNOD-SCIDマウスでは、未治療のマウスの10±10%に比べて、50±11%にまで回復した(p<0.05)。同様に、免疫能を持つ129Sマウスは、14日目の血流において、未治療マウスの56±4%に比べて、80±12%の回復を示した。
【0183】
さらに、マウスの肉眼解剖によって、再生細胞による治療を受けたマウスの後肢には側枝血管の出現が明らかにされたが、未治療のマウスの後肢、または、いずれのマウスにおいても健康な後肢には側枝血管は見られなかった。
【0184】
(実施例5 ADC用量の増加は、移植片生存率および脈管形成の改善と相関する)
自己脂肪組織の移植は、形成および再建外科では比較的一般的処置である(Fulton, 1998; Shiffman, 2001)。しかしながら、この処置は、脂肪組織断片は血管補給無しに転送されるので、結果として、移植片生存率は新規血管形成に依存するという事実によって制限される(Coleman, 1995; Eppley et al., 1990)。従って、限定的にではあるが、移植組織は虚血組織を表す。
【0185】
Fischerラットにおいて実験を行った。実験では、脂肪組織断片を、大腿外側の筋の上の皮下空間に移植した。右脚には0.2 gの脂肪組織断片のみを移植し、左脚には、3種類の異なる用量(1.7x105−1.3x106個細胞/移植片、1用量当たり動物3匹)において脂肪組織由来幹細胞を添加補充した0.2 gの脂肪組織片を移植した。こうして、反対側脚をコントロールとして用いた。次に動物を1ヶ月維持し、その後、動物を安楽死させ、移植片を回収し、重さを量り、フォルマリンに固定し、組織学的分析のためにパラフィンに包埋した。
【0186】
図9Aに示すように、結果から、コントロール脚では移植組織の保持が最小であるが、治療脚における移植片重量の保持は用量依存的に増加した。さらに、移植片の免疫組織化学的分析によって、脂肪組織由来幹細胞で治療された移植片(図20B、矢印)では、かなりの新規脈管形成および環流が示された。これも、脂肪組織形態の保持と相関していた(図20B)。
【0187】
以上、実施例1−5によって、本発明の脂肪組織由来再生細胞は、脈管形成および動脈形成増殖因子を分泌すること、インビトロで新生毛細管ネットワークを形成すること、脂肪組織移植片の生存率を向上させること、および虚血病変の再環流を強化することが示された。従って、本発明の再生細胞は、脈管形成および動脈形成を増進することが可能であるので、循環不全の原因となる複数の疾患の治療に作用する可能性がある。
【0188】
(実施例6 再生細胞は、インビトロにおいて創傷治癒関連性サイトカインを分泌する)
ケモカインは皮膚の創傷治癒に働く。白血球サブタイプの動員は、ケモカインによって緊密に調整される。さらに、これらのケモカインは、上皮形成、組織再形成、および脈管形成の調整に貢献する。
【0189】
従って、正常成熟マウスから得られた培養ADCによって分泌される創傷治癒関連サイトカインの相対量を測定した。再生細胞は、10%FBS添加アルファMEMで細胞集密状態を超えるまで5日まで培養した。その時点で、細胞培養液を収集し、抗体アレイ分析によって評価した(RayBio(登録商標)マウスサイトカイン抗体アレイII(RayBiotech, Inc.,)。
【0190】
結果(表A参照)は、再生細胞は、インビトロにおいて、増殖因子、および、好中球、マクロファージ、肥満細胞、およびリンパ球動員用サイトカインを分泌することを示す。これらの因子およびサイトカインは、創傷治癒過程において上皮再形成に貢献する。具体的に言うと、再生細胞は、マクロファージ動員に働くMIP-1アルファ、RANTES、およびMCP-1;単球および肥満細胞動員に働くMCP-1;リンパ球動員に働くMIGおよびTARC;創傷修復および上皮形成に働くMIP-2およびKC;および、慢性創傷における不均衡なメタロプロテイナーゼを逆転することのできるメタロプロテイナーゼ-1組織阻害剤であるTIMPを分泌する。マクロファージおよびリンパ球は共に、調整および増殖促進因子を生産する。さらに、肥満細胞は、線維芽細胞活性化を刺激する可能性のあるIl-4を放出する。
【0191】
【表4】

【0192】
(実施例7 再生細胞はインビトロでコラーゲンを分泌する)
再生細胞を、3種の異なる培養液、すなわち、DMEM、マッコイの5A、およびAMEMで培養した、Rosaマウスの、マウス新生児線維芽細胞と合わせた。培養液は、週に2回2週間交替した。3週目には培養液は変えなかった。
【0193】
全ての培養液を収集し、コラーゲン定量を、標準プロトコールに従って行った。手短に言うと、100ul上清+100ul 6N HCl、100℃で16時間インキュベート、冷却しクロラミンTおよびジメチルアミノベンズアルデヒド試薬と反応、次に550にてOD検出。
【0194】
ADCと線維芽細胞の間には、コラーゲン分泌において有意差はまったく認められなかったが、一方、異なる培養液間には有意差が観察された。具体的に言うと、マッコイの5Aでは、ADCと線維芽細胞の両方とも、DMEMまたはAMEMにおけるよりも、より多くのコラーゲンを分泌する(p<0.05)。図21参照。
【0195】
(実施例8 再生細胞は、STZ投与糖尿病マウスの創傷治癒を加速する)
脂肪組織由来再生細胞がインビボにおいて創傷治癒を増進することが可能か否かを確定するために、10匹のマウスにSTZを7週間投与した。その時点で、両側に、8 mmの厚み完全な皮膚創傷をパンチバイオプシーにて創成した。次に、5匹のマウスに対し1個の創傷当たり0.05 ml容量で、1x10E6(lacZドナーから)の局所注入によってADC投与した。別の5匹には生食液を投与し、コントロールとした。10日目、両グループの創傷サイズは有意差に達した(p=0.002, n=10創傷、5匹のマウス)。図22を参照されたい。これらの結果は、脂肪組織由来再生細胞が、マウスの創傷治癒を支援することを示す。
【0196】
さらに、ドナー由来細胞の創傷における生着を証明するために、創傷に対してβ-ガラクトシダーゼ染色を行った。結果(図示せず)から、ドナーのADCガル陽性細胞が、注入部位の周囲、毛細管近傍で、かつ、創傷基底部近くに局在する可能性のあることが示された。
【0197】
(実施例9 再生細胞は、創傷におけるマウスの毛の再成長を加速する)
10匹のマウスにSTZを7週間投与した。Nair脱毛剤による処置後、両側に、8 mmの厚み完全な皮膚創傷をパンチバイオプシーにて創成した。次に、5匹のマウスに対し1個の創傷当たり0.05 ml容量で、1x10E6(lacZドナーから)の局所注入によってADC投与した。別の5匹には生食液を投与し、コントロールとした。8匹の、B6C57 129 F1マウスに対し同じ処置を行った。すなわち、4匹にはADC局所投与、4匹には、コントロールとして生食液投与を行った。
【0198】
14日目、両実験グループの創傷サイズを測定し、毛髪回復速度を記録するために画像を撮影した。結果(図示せず)から、脂肪組織由来再生細胞は、マウス創傷治癒を支援するばかりでなく、毛髪成長速度も有意に(p<0.05)加速することが示された。行った組織学的分析から、毛嚢の周囲にドナー由来脂肪組織由来細胞の存在が明らかにされた。従って、ADCは、創傷治癒を増進するのと同時に正常な毛髪回復にも貢献することが可能である。
【0199】
上にいくつかの出版物および特許文献を引用した。引用出版物および特許文献はそれぞれ、引用することによりその全体を本明細書に含める。
【0200】
等価物
当業者であれば、本明細書に記載される本発明の特定の実施態様に対し、多くの等価物を認め、あるいは、それらの等価物を僅かに通例の実験を用いるだけで確かめることができるであろう。そのような等価物は、頭書の特許請求項の被う範囲内に含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0201】
【図1】1個のフィルターアッセンブリを含む、組織から再生細胞を分離するためのシステムを示す図面である。
【図2】直列形式で複数のフィルターアッセンブリを有する、図1と同様のシステムを示す図面である。
【図3】並列形式で複数のフィルターアッセンブリを有する、図1と同様のシステムを示す図面である。
【図4】遠心チェンバーを含む、組織から再生細胞を分離するためのシステムを示す図面である。
【図5】組織から再生細胞を分離するためのシステムにおいて利用される、あらかじめ固定されたフィルターを含む収集チェンバーの断面図である。
【図6】浸透式ろ過システムを用いて組織から再生細胞を分離するシステムの処理チェンバーの断面図である。
【図7】再生細胞を濃縮するために遠心装置を利用する、再生細胞を分離するシステムの処理チェンバーの断面図である。
【図8】図7の処理チェンバーの別の断面図である。
【図9】(A)〜(C)は、本発明のシステムにおいて用いられるエルトリエーション成分を図示する。
【図10】システムの中で流体を移動させるために真空圧を利用することによって組織から再生細胞を分離するシステムを示す図面である。真空システムは、真空ポンプまたは真空供給源をシステムの出口に設けることによって構築され、真空ポンプまたは真空供給源は、流れの方向とタイミングを調節するためにストップコック系、通気口、およびクランプを用い、指定の速度で組織および流体を牽引循環するように調節される。
【図11】システムの中で流体を移動させるために陽圧を利用することによって組織から再生細胞を分離するシステムを示す図面である。陽圧システムは、流れの方向とタイミングを調節するために、バルブ、ストップコック、通気口、およびクランプを用い、システムの中を組織および流体を指定の速度で駆出または駆動するために、機械的手段、例えば、ペリスタルチックポンプを用いる。
【図12A】流体入力流が、フィルターの孔に対して接線方向に流れるろ過過程を示す。
【図12B】流体入力流が、フィルターの孔に対して垂直方向に流れるろ過過程を示す。
【図13】本発明のシステム用の例示ディスポーザブルセットを示す図面である。
【図14】本発明のシステム用の例示の再使用可能成分を示す図面である。
【図15A】図13のディスポーザブルセットおよび図14の再使用可能成分を用いて組み立てた、本発明の例示装置を示す図面である。
【図15B】ソフトウェアプログラムを通じて実行される、例示の、指定プログラム工程であって、本発明のシステムの自動化実施態様を制御する工程を示すフローチャートである。システムの万能性を示すために、2種類の選択処理パラメータが提示される。
【図16A】脂肪組織由来培養幹細胞による、VEGF(5A)およびPIGF(5B)の発現を示す。
【図16B】脂肪組織由来培養幹細胞による、VEGF(5A)およびPIGF(5B)の発現を示す。
【図17】脂肪組織由来幹細胞集団における内皮先駆細胞の検出を示す。
【図18】正常(7A)およびストレプトゾトシン処理(7B)マウスにおける血管構造のインビトロ発達を示す。
【図19】陰性コントロールと比較した場合の、脂肪組織由来幹細胞で治療した後肢虚血症マウスにおける血流の平均増加回復を示す。
【図20A】脂肪組織由来幹細胞用量の増加は、移植片生存率と脈管形成を改善すること(20A)、および、組織標本における脂肪組織構造の保持を示す(20B)。
【図20B】脂肪組織由来幹細胞用量の増加は、移植片生存率と脈管形成を改善すること(20A)、および、組織標本における脂肪組織構造の保持を示す(20B)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者において創傷治癒を促進するための方法であって、ある濃度の再生細胞を患者に投与することを含む方法。
【請求項2】
被験体はヒトであることを特徴とする、請求項1の方法。
【請求項3】
再生細胞は幹細胞を含むことを特徴とする、請求項1の方法。
【請求項4】
再生細胞は先駆細胞を含むことを特徴とする、請求項1の方法。
【請求項5】
再生細胞は、幹細胞と先駆細胞の組み合わせを含むことを特徴とする、請求項1の方法。
【請求項6】
創傷治癒は、創傷部位における新皮形成によって促進されることを特徴とする、請求項1の方法。
【請求項7】
創傷治癒は、創傷部位における上皮再形成によって促進されることを特徴とする、請求項1の方法。
【請求項8】
再生細胞のボーラスを投与することを含む、請求項1の方法。
【請求項9】
複数用量の再生細胞を投与することを含む、請求項1の方法。
【請求項10】
1種以上の脈管形成因子を投与することをさらに含む、請求項1の方法。
【請求項11】
創傷は、虚血性潰瘍創傷、糖尿病創傷、および外傷から選ばれることを特徴とする、請求項1の方法。
【請求項12】
1種以上の免疫抑制剤を投与することをさらに含む、請求項1の方法。
【請求項13】
再生細胞は、皮下、皮内、または筋肉内投与ルートを通じて投与されることを特徴とする、請求項1の方法。
【請求項14】
再生細胞を患者の血管系に投与することをさらに含む、請求項1の方法。
【請求項15】
再生細胞は、患者に投与する前に、細胞培養において増殖されることを特徴とする、請求項1の方法。
【請求項16】
再生細胞は、上皮の表現型に向かう分化を促進する培養条件において増殖されることを特徴とする、請求項15の方法。
【請求項17】
細胞培養条件は、上皮表現型に向かう分化を促進することを特徴とする、請求項15の方法。
【請求項18】
細胞培養は支持物質の上で行われ、患者の上または内部に設置することが可能な2次元または3次元構築体を生成することを特徴とする、請求項15の方法。
【請求項19】
支持物質はインビボにおいて再吸収可能であることを特徴とする、請求項18の方法。
【請求項20】
再生細胞は、遺伝子転送によって修飾され、それによって、該修飾再生細胞における1種以上の遺伝子の発現が変更されることを特徴とする、請求項1の方法。
【請求項21】
修飾は、被験体における脈管形成レベルの変化をもたらすことを特徴とする、請求項20の方法。
【請求項22】
修飾は、被験体における上皮形成レベルの変化をもたらすことを特徴とする、請求項20の方法。
【請求項23】
修飾は、MIP-1アルファ、RANTES、MCP-1, MIG, TARC, MIP-2, KC, およびTIMP、またはそれらの任意の組み合わせのレベルの変化をもたらすことを特徴とする、請求項20の方法。
【請求項24】
修飾は、再生細胞の標的指向性の変化をもたらすことを特徴とする、請求項20の方法。
【請求項25】
患者において創傷治癒を促進するための方法であって、ある濃度の脂肪組織由来再生細胞を患者に投与することを含み、組成物は、該脂肪組織がもともと採取された同じ被験体に対して投与されることを特徴とする、前記方法。
【請求項26】
創傷部位において毛髪再生を加速するための方法であって、ある濃度の再生細胞を創傷部位に投与することを含む方法。
【請求項27】
創傷部位においてコラーゲン分泌を促進するための方法であって、ある濃度の再生細胞を創傷部位に投与することを含む方法。
【請求項28】
再生細胞は、患者に投与する前に、細胞培養において増殖されることを特徴とする、請求項27の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12A】
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【図12B】
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【図13】
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【図14−1】
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【図14−2】
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【図15A−1】
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【図15A−2】
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【図15B】
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【図16A】
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【図16B】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20A】
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【図21】
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【図22】
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【公表番号】特表2008−505072(P2008−505072A)
【公表日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−519185(P2007−519185)
【出願日】平成16年7月1日(2004.7.1)
【国際出願番号】PCT/US2004/021415
【国際公開番号】WO2006/014157
【国際公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【出願人】(503077877)サイトリ セラピューティクス インコーポレイテッド (32)
【Fターム(参考)】