説明

創傷被覆材および創傷被覆材キット

【課題】本発明は、滲出液を適度に保持し、創傷面の適度な湿潤環境が保持することが可能であり、被覆材から外への滲出液の漏れが改善され、発赤や汗疹ができず、被覆材が創傷面に完全に貼り付いてしまわず、被覆材を自由な大きさ・形状にカットして使用できる創傷被覆材を提供することを目的とする。
【解決手段】多孔シートからなる第1層と、親水性を有する材料で構成された不織布を撥水処理加工したものからなる第2層とを備え、創傷部位に対面する接触面からこの順序で有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱傷、褥瘡、挫傷、擦過傷、潰瘍等の創傷の治療に好適な創傷被覆材および創傷被覆材キットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
発明の背景:
近年、創面の湿潤環境は、創傷の治癒に大きく影響することがわかってきた。特に、創傷部位からの滲出液に含まれる成分が、創傷の治癒の促進に役立つ。このような考え方の下に、創面を乾燥させて治療するのではなく、消毒を行わず、創傷からの滲出液による湿潤環境を維持しながら治療する方法が行われている。このような治療方法を行うために、種々の創傷被覆材( 以下、単に「被覆材」という。)が開発されている。
【0003】
前記創傷の治癒を効果的に行うためには、以下のような機能や作用・効果が被覆材に求められる。
(i)滲出液が適度に保持されることで創傷面の適度な湿潤環境が保持されること。
(ii)創傷からの滲出液が適度に排出されることで、創傷面が滲出液により圧迫されるのを防ぎ、過剰な滲出液に起因する「下掘れ現象」(滲出液の圧力によって創傷部位の皮膚がえぐられる現象)を防ぐこと。
(iii)被覆材が創傷面に完全に貼り付いてしまわないこと。
(iv)被覆材から滲出液が外部に洩れるのを防ぐこと。
(v)創傷面の大きさや形状に合わせ、被覆材を自由な大きさ・形状にカットして使用できること。
【0004】
従来の技術:
特開平6−205625号(1)および特開平7−80020号(2)は、親水性を有する物質が分散または被覆された多孔性フィルムを用いた被覆材を開示している。
特開平8−196613号(3)および特開平11−276571号(4)は、N−サクシニルキトサンを含むスポンジ層と補強材料(不織布等)を用いた被覆材を開示している。
特開平10−151184号(5)は、キチン・キトサンセルロース混合繊維を創傷面に利用する被覆材を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−205625号(要約書)
【特許文献2】特開平7−80020号(段落0010,0011)
【特許文献3】特開平8−196613号(要約書)
【特許文献4】特開平11−276571号(要約書)
【特許文献5】特開平10−151184号(要約書)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1および特許文献2に開示された被覆材は、多孔性フィルムを使用することにより創傷からの滲出液の排出性が改善されているが、滲出液の適度な保持は着目されていない。特許文献3および特許文献4の発明は、補強材として透湿性のある不織布を使用することにより創傷からの滲出液の排出性が改善されているが、滲出液の適度な保持は着目されていない。
特許文献5は、創面の湿潤環境を保持する機能および滲出液の吸収性は改善されているが、被覆材から外への滲出液の漏れは改善されていない。したがって、当該文献の被覆材はガーゼ等のさらなる防漏材を必要とする。
また、従来のハイドロコロイド系被覆材を長時間肌に貼り付けたままにしておくと、発赤や汗疹ができるという問題点が指摘されている。
【0007】
したがって、本発明の目的は、これらの問題を解決することができる被覆材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明のある被覆材は、初期耐水圧の機能を発揮するシート材からなる第1層と、吸収性を有する材料からなる第2層と、液不透過性を有するシート材からなる第3層とを含むことを特徴とする。この初期耐水圧の機能を発揮するシート材は疎水性を示す。
【0009】
一方、本発明の別のある被覆材は、創傷部位を覆うように創傷部位に貼付される被覆材であって、透過層と、吸収層と、不透過層とを備え、前記透過層および不透過層が前記吸収層を挟むように、前記各層が積層されて一体となっている。前記透過層は、初期耐水圧の機能を発揮する。前記吸収層は、前記創傷部位から滲み出し前記透過層を透過した滲出液を吸収する機能を発揮する。前記不透過層は、液体を透過させない性質(以下、液不透過性という。)を有し、これにより前記滲出液の漏れを防ぐ。
本発明の別のある被覆材は、前記第1層もしくは透過層が、創傷部位に対面する接触面において、凹凸形状を有する。
本発明の別のある被覆材は、前記第1層もしくは透過層が多孔シートを含み、前記多孔シートの孔部の深さが概ね100μm〜2000μmに設定されており、前記多孔シートの開孔率が5%〜50%に設定されており、かつ、前記多孔シートが創傷部位に対面する接触面に配置されている。
本発明の別のある被覆材は、吸収性を有する材料として、さらに吸収材を含む。
また、本発明の別のある被覆材においては、吸収性を有する材料として、バインダーや圧縮により繊維間接着されシート化された不織布(例えば、エアレイドパルプ)が用いられる。
【0010】
第1層に初期耐水圧の機能を発揮する部材を用いていることにより、被覆材を創傷部位に貼り付けた初期段階では、初期耐水圧の機能を発揮する部材の防水効果により、滲出液が創傷面に保持され、その結果、閉鎖領域が形成され、湿潤環境が保持される。
一方、初期耐水圧の機能を発揮する部材は完全な防水機能を有するわけではないので、創傷面が滲出液で満たされ、閉鎖領域内の圧力が昇圧すると、当該部材の防水機能が低下し、過剰の滲出液が第2層に向って排出され、第2層で吸収される。これにより、閉鎖領域内の圧力が過度に上昇することを防止し得る。
液不透過性を有する第3層は、前記第2層により吸収された滲出液が外部へ漏れるのを防止する。
【発明の効果】
【0011】
したがって、本発明によれば、下記の効果を奏する。
(i)初期耐水圧の機能を発揮する第1層が適度な(不完全な)防水性を発揮するので、滲出液が創傷面に保持されるとともに、第1層から第2層に過剰の滲出液が排出されるので、創傷面の適度な湿潤環境が保持される。これにより、創傷の治癒が促進される。
(ii)第1層が初期耐水圧の機能を発揮し、かつ、凹凸を有するので、被覆材が創傷面に完全に貼り付かず、被覆材を創傷面から容易に剥がすことができる。
(iii)第3層は、滲出液の外部への漏れを防止し得る。
(iv)第2層または吸収層をエアレイド不織布にすることにより、被覆材を適当な大きさに切断する際に、高い吸水性を有する樹脂粉末やフラッフパルプ等の繊維成分が脱落し難くなる。
(v)また、第3層を着色することにより、被覆材の表裏を識別することができる。また、着色する色にもよるが、貼付時に被覆材を目立ち難くすることもできる。
(vi)第3層を透視可能とすることで、被覆材の交換時期を適切に感知することが可能となる。
(vii)被覆材をロール状にすれば、創面の大きさや形状に合わせて、被覆材が自由な大きさ・形状に、連続して無駄なくカットされ得るので、経済的である。
(viii)また、第1層もしくは透過層として、表面積(創傷面との接触面積)を小さく保てるシート材を用いれば、滲出液が少ないときでも被覆材が創傷面に貼り付き難くなる。また、被覆材が創傷面に張り付き難く、かつ、過剰な滲出液を吸収できるので、被覆材が長時間肌に貼り付けられたままにしておいても、発赤や汗疹ができ難い。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】(a)および(b)は、それぞれ、本発明の被覆材の一実施例および変形例を示す模式的な拡大断面図である。
【図2】(a),(b)および(c)は、それぞれ、他の変形例を示す模式的な拡大断面図である。
【図3】(a)および(b)は、それぞれ、本発明に係る被覆材キットを示す概略斜視図である。
【図4】(a),(b),(c),(d)および(e)は、それぞれ、本発明にかかる被覆材の多孔シートの例を示す模式的な拡大断面図である。
【図5】(a)および(b)は、それぞれ、本発明にかかる凸部を有するシート材の一例を示す模式的な拡大断面図および拡大斜視図、(c)および(d)は、それぞれ、本発明にかかる凹部を有するシート材の一例を示す模式的な拡大断面図および拡大斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
図1(a),(b)に示すように、本被覆材1は、創傷面や肌面に対面して接する第1層(透過層)10と、滲出液を吸収する第2層(吸収層)20と、滲出液の漏れを防ぐ第3層(不透過層)30の3つの層を備えている。前記3つの層10,20,30は互いに剥がれないように、貼り合わされていることが好ましい。前記3つの層10,20,30を貼り合わせる方法としては、ホットメルト接着剤等の接着剤21,31による接着のほか、ヒートシール等による融着、エンボス加工等が挙げられる。
【0014】
第1層10を構成する材料としては、初期耐水圧の機能を発揮する防水性シート材が用いられる。このようなシート材としては、不織布や微多孔質フィルム等が用いられ得る。
【0015】
本発明において、「初期耐水圧の機能を発揮する」とは、創傷から滲出液が滲み出す初期の段階では滲出液による圧力に耐えて滲出液を透過させない機能を有すると共に、滲出液による圧力が所定の圧力を越えると滲出液を透過させる機能を有することをいう。すなわち、初期耐水圧の機能を発揮する部材は、滲出液量が少ない初期段階では防水が保たれるが、継続使用により滲出液の量が増えて、閉鎖領域内(第1層10と肌面との間)の圧力が上昇すると、防水が壊れ滲出液を透過させる程度の耐水圧を有する。かかる初期耐水圧の機能を発揮する素材は疎水性を示す。
【0016】
この初期耐水圧の機能は、通気度(JISL1096)と撥水度(JISL1092)を用いて表すことができる。適切な初期耐水圧の機能を発揮するためには、通気度が20〜2000〔cm/cm・s〕、および、撥水度が3点以上であることの両方を満足させる必要がある。通気度は、80〜500〔cm/cm・s〕の範囲内であることがさらに好ましい。
【0017】
前記通気度が20〔cm/cm・s〕未満であるとシート材の防水性が高過ぎて、閉鎖環境内の滲出液の量が増えて昇圧しても、第2層20へ滲出液が透過せず、閉鎖環境内で圧力が上昇した状態で滲出液が保持される。そのため、滲出液が創面を圧迫して、創面の「下掘れ現象」が生じるため好ましくない。一方、通気度が2000〔cm/cm・s〕以上であると、防水性が低過ぎて、初期段階から全ての滲出液が第2層20へ透過し吸収される。その為、創傷の治癒のための滲出液による最適な湿潤環境を保つことができない。
これに対し、通気度が20〜2000〔cm/cm・s〕であると、閉鎖環境内において適度の圧力下で滲出液を保持することができるので、創傷面の「下掘れ現象」が防止され得ると共に、所望の防水性を得ることができるから、滲出液による最適な湿潤環境が維持される。特に、通気度が80〜500〔cm/cm・s〕であれば、かかる最適な湿潤環境を長時間にわたって維持できる。
【0018】
さらに、撥水度が3点未満(2点以下)であると、初期段階の防水性が満たされない上、治療中に当該被覆材が創傷面に貼り付き、被覆材の交換時に剥がし難くなるので、好ましくない。当該被覆材の初期段階の防水性や貼り付き易さは、第1層の表面エネルギーと相関している。すなわち、第1層の表面エネルギーがより小さい場合に前記防水性が満たされ、かつ、前記貼り付きが回避される。当該表面エネルギーは、撥水度によって評価されることができる。
【0019】
なお、前記通気度は、JISL1096の8.27.1に記載のA法(フラジール形法)を用いて測定される。かかる測定方法においてはフラジール型の繊維通気度試験機が用いられる。具体的には、前記フラジール型試験機に試験片をとりつけた後、加減抵抗器によって傾斜型気圧計が125Paの圧力を示すように吸込ファンを調整し、そのときの垂直形気圧計の示す圧力と、使用した空気孔の種類とから、前記試験機に付属の表によって試験片を通過する空気量〔cm/cm・s〕を求めることにより、通気度が測定される。なお、通気度は、5回の測定値の算術平均により求められる。
【0020】
一方、前記撥水度(JISL1092)は、JISL1092の6.2に記載の撥水度試験(スプレー試験)を用いて測定される。かかる測定方法においては所定の能力(水250mlを25〜30秒で散布できる能力)を有するスプレーノズルを備える撥水度試験装置が用いられる。具体的には、(1)約20cm×20cmの試験片を前記撥水度試験装置の試験片保持枠に取り付け、該試験片上に前記スプレーノズルにより水250mlを所要時間25〜30秒で散布し、(2)前記保持枠を前記撥水度試験装置の台上から外し、所定の操作を行って試験片の余分の水滴を落とした後、(3)保持枠に取り付けられた試験片の濡れた状態を所定の湿潤状態の比較見本と比較して採点することにより、撥水度が測定される。前記(2)における所定の操作とは、前記保持枠の一端を水平に保持して、試験片の表側を下向きにして前記保持枠の他端を固い物に軽く当てた状態で、前記試験片を180°回転させる操作をいう。
なお、撥水度試験時の温度は摂氏20±2度に設定され、測定使用される水としては、蒸留水またはイオン交換水が用いられる。
【0021】
前記比較見本の湿潤状態が下記に示される。
1点:表面全体に湿潤を示すもの
2点:表面の半分に湿潤を示し、小さな個々の湿潤が布を透過する状態を示すもの
3点:表面に小さな個々の水滴状の湿潤を示すもの
4点:表面に湿潤しないが、小さな水滴の付着を示すもの
5点:表面に湿潤や水滴の付着がないもの
【0022】
したがって、「撥水度が3点以上である」とは、前記の撥水度試験によって、表面に小さな個々の水滴状の湿潤を示す場合や、表面は湿潤しないが、小さな水滴の付着を示す場合や、表面に湿潤や水滴の付着がない場合を含むのに対し、一方、表面全体に湿潤を示すものや、表面の半分に湿潤を示し小さな個々の湿潤が布を浸透する状態を示す場合を含まない。
なお、前記のJISL1092の撥水度試験はISO4920と同様な試験方法である。
【0023】
初期耐水圧の機能を発揮するシート材としては、ポリオレフィン系樹脂(ポリプロピレン、ポリエチレン等)、ポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート等)、ポリアミド(ナイロン6、ナイロン66等)(登録商標)、およびポリウレタン系樹脂等の疎水性材料で構成された不織布や微多孔質のフィルムが用いられ得る。第1層または透過層10としては、不織布を用いるのが特に(最も)好ましい。
【0024】
不織布の種類は特に限定されるわけでなく、湿式および乾式不織布(サーマルボンド、ニードルパンチ、スパンレース等)、スパンボンド不織布、メルトブロー式不織布、フラッシュ紡糸式不織布やこれら不織布の複合タイプ(SMS、SMMS等)等が用いられ得る。
また、コットンやレーヨン等の親水性を有する材料で構成された不織布を撥水処理加工したものも用いられ得る。
【0025】
第1層10または透過層10に含まれる不織布としては、メルトブロー法やフラッシュ紡糸法により得られるメルトブロー式不織布やフラッシュ紡糸式不織布を用いるのが特に好ましい。
メルトブロー式不織布またはフラッシュ紡糸式不織布は、線径(繊維径)が極めて小さい(例えば20μm以下程度)極細繊維で構成されている。したがって、かかる不織布においては、スパンボンド法等の他の製造法により得られる不織布に比べ、同じ目付け(坪量)であれば、繊維間に生じる空隙が小さくなるので、かかる不織布は所望の初期耐水圧の機能を発揮し易い。
【0026】
簡単に述べると、メルトブロー式不織布とは、紡糸ノズルの出口に高温・高圧の空気を噴出して、繊維を延伸および解繊して得られるものであって、連続状の極細繊維により構成されているものをいう。なお、メルトブロー式不織布は、スパンボンド不織布とメルトブロー式不織布とを層状に積層して形成された、いわゆる、SMS不織布、SMMS不織布等として用いられてもよい。
また、フラッシュ紡糸式不織布とは、繊維形成ポリマーを高温・高圧下で低沸点溶剤に均一に溶解した後、該溶剤をノズルから吐出させ、前記溶剤のみを急激にガス化、膨張させることにより繊維形成ポリマーを延伸させながら固化させて得られ、極細繊維からなる網状の不織布をいう。
【0027】
また、メルトブロー式不織布およびフラッシュ紡糸式不織布においては、構成する繊維が、実質的に連続状となる長繊維であるから、繊維の端部が表面にブリードして生ずる毛羽や繊維片の脱落を抑制できる。したがって、上皮化時に当該毛羽等が創傷面に捲き込まれて張り付き固まってしまう(以下、固着と表現する。)ことがない。そのため、当該被覆材を創傷面から剥がす際には、スムーズに被覆材を剥離することができる。
【0028】
第1層10の又は透過層10に含まれる不織布は、カレンダー加工されていても良い。
ここで、カレンダー加工とは、融点以下の温度に調整されたカレンダーロールやエンボスロールを用い、不織布を加圧処理する加工をいう。かかるカレンダー加工により、不織布を構成する繊維の一部が熱融着し、かつ、繊維間に形成された空隙が目潰しされることにより、不織布が所望の初期耐水圧の機能を発揮し易い。また、第1層10の表面の毛羽立ちが抑えられるので、創傷面に対する不織布の固着が抑制される。
【0029】
第1層10もしくは透過層10の創傷面に対面する接触面に、創傷面との接触面積を小さく保つことができるシート材を配置するのが好ましい。この場合は、滲出液が少ない場合でも、被覆材1が創傷面に貼り付き難くなる。上記シート材としては、例えば、凹凸を有するシート材が用いられることができる。ここで、凹凸を有するシート材とは、少なくとも創傷部位に対面する接触面が、複数の出っ張り、陥没または孔等が形成されることにより平滑ではない形状の面を有するシート材をいう。また、ここでいう凹凸とは、不織布や織布の微細な毛羽とは異なるが、前記凹凸を有するシート材が不織布等で構成されることも可能である。
凹凸を有するシート材としては、図4(a)〜図4(e)に示すような、一方の面から他方の面に貫通する複数の孔16を有する多孔シート15を用いるのが好ましい。
多孔シート15の孔部16は所定の深さD(図4(d))を有するのが好ましい。例えば、孔部16の深さDは概ね100μm〜2000μmに設定され得る。好ましくは、孔部16の深さDは概ね250μm〜500μmに設定され得る。
【0030】
かかる孔部16の形状としては、例えば、図4(a)〜図4(e)等のような形状を採用することができる。
ここで、図4(e)のシート15において、複数の孔部16が形成されていても、孔部16が浅い(深さDの距離が短い)場合には、創傷部位がシートの表面(吸収層とは反対側の面)に接触するだけでなく、シートの下側(吸収層側)の吸収層にまで接触してしまい、見掛け上平滑な表面材と同様に、創傷部位と被覆材1との接触面積が大きくなり、被覆材1は剥がし難くなることがある。一方、図4(a)〜(d)のように、孔部16が所定の深さDを有する前述の多孔シート15を採用すれば、前記多孔シート15の表面部分だけが創傷部位に接触するので、創傷部位と被覆材1との接触面積を小さく保つことができる。そのため、被覆材1は剥がし易くなる。
【0031】
なお、前記孔部16の形状は、前記図4(a)〜図4(e)等のような形状に限定されるものではなく、他の種々の形状を採用できることは云うまでもない。
【0032】
なお、前記多孔シートは、例えば、表面がフラットな樹脂シートに種々の方法で孔を形成することによって得られる。図4(a)〜図4(e)には、模式的に、多孔シート15における孔部16が規則的に配置された図が示されているが、孔部16は不規則に配置されてもよい。
多孔シート15の開孔率((孔部16の開孔面積の合計/多孔シート15の面積)×100)は、好ましくは、5%〜50%に設定されている。この開孔率は、15%〜40%に設定されるのが、さらに好ましい。
【0033】
また、図4(a)のように、多孔シート15の孔部16が所定の深さDを有するように筒状に形成されている場合は、多孔シート15が荷重を受けると、筒状部18が矢印方向に圧縮変形することができる。したがって、被覆材1を貼付した部分において、外的刺激に対する高いクッション性を得ることができる。
【0034】
前記凹凸を有するシート材が初期耐水圧の機能を発揮するのであれば、1枚のシート材で第1層10が構成されることができる(図4(b)〜図4(e))。一方、凹凸を有するシート材が初期耐水圧の機能を発揮しない場合には、図4(a)のように、当該凹凸を有するシート材と初期耐水圧の機能を発揮する別のシート材17との複合シートによって、第1層10が構成されることができる。この場合、前記別のシート材17は凹凸を有するシート材の第2層(吸収層)に接する面に配置される。さらに別のシート材を加えて、3つ以上のシート材からなる複合シート材で、第1層10が構成されてもよい。
【0035】
前記凹凸を有するシート材の他の例を図5(a)〜図5(d)に示す。
図5(a),図5(b)において、凸シート15Aは多数(複数)の凸部16Aを有する。この凸シート15Aにおける前記凸部16Aが形成された面15fは創傷面に対面する。したがって、この面15fにおいては主として前記凸部16Aが創傷面に接触する(面15fのうちの凸部16A以外の部分は創傷面と離間している)ので、前記面15fと創傷面との接触面積が、前記面15fの表面積よりも小さくなる。なお、前記凸部16Aの高さHは概ね100μm〜2000μm程度が好ましい。
図5(c),図5(d)において、凹シート15Bは多数(複数)の凹部16Bを有する。この凹シート15Bにおける前記凹部16Bが形成された面15fは創傷面に対面する。したがって、この面15fは前記凹部16Bにおいて創傷面に接触しない(面15fのうちの凹部16B以外の部分のみが創傷面に近接している)ので、前記面15fと創傷面との接触面積が、前記面15fの表面積よりも小さくなる。なお、前記凹部16Bの深さDは概ね100μm〜2000μm程度に設定されるのが好ましい。
前記凹凸を有するシート材15A,15Bが初期耐水圧の機能を発揮するのであれば、1枚のシート材で第1層10が構成されることができる。一方、凹凸を有するシート材15A,15Bが初期耐水圧の機能を発揮しない場合には、図5(a),(c)のように、当該凹凸を有するシート材15A,15Bと初期耐水圧の機能を発揮する別のシート材17との複合シートによって、第1層10が構成されることができる。この場合、前記別のシート材17は凹凸を有するシート材15A,15Bの第2層(吸収層)に接する面に配置される。さらに別のシート材を加えて、3つ以上のシート材からなる複合シート材で、第1層10が構成されてもよい。
【0036】
前記第1層10を構成する表面材(シート材)に、傷との摩擦による刺激を回避する目的で、また、創面との密着性を向上させる目的で、白色ワセリンや流動パラフィン(プラスチベース(登録商標))等の疎水性軟膏基材が塗布されてもよい。
また、前記第1層10を構成する表面材(シート材)に、創傷の治癒を促進させるための薬剤が塗布または含浸されてもよい。このような薬剤としては、例えば、皮膚の形成を促進することが知られているトラフェルミン(フィブロプラストスプレー250として科研製薬株式会社から市販されている)等が用いられ得る。
【0037】
図1(a),(b)において、前記第2層20または吸収層20は、創傷部位から滲み出して前記第1層10を透過した滲出液を吸収する。第2層20を構成する素材としては、親水化処理された不織布、綿状パルプ、エアレイド不織布(エアレイドパルプ)等の液体を吸収し保持する能力を有する材料が用いられ得る。前記第2層20または吸収層20としては、前記被覆材1をカットした際に切り口から繊維屑や後述する吸収材22が零れ出ないよう、バインダー(接着剤)や圧縮により繊維間接着されてシート化された不織布を用いるのが好ましく、特にエアレイド不織布を用いるのが好ましい。
【0038】
エアレイド不織布とは、空気中に原料パルプ繊維や短繊維を均一に分繊し、回転式多孔シリンダーまたは移動式スクリーンベルトに繊維を沈着させると共に、水溶性の接着剤を噴霧して繊維間接着を行なって得られる不織布をいう。滲出液が吸収され易いようにするために、パルプ繊維を主成分としたエアレイド不織布を用いるのが好ましい。かかる不織布の製造方法としては、DAN−WEB法や本州法等が用いられ得る。
【0039】
エアレイド不織布は高い吸水性を有する樹脂粉末(吸収材)を含んでもよい。エアレイド不織布においては、不織布を構成する繊維等の要素同士が加圧状態において接着剤で接着されているので、被覆材を切り出して用いた場合等に、高い吸水性を有する樹脂粉末やフラッフパルプ等が脱落し難い。
【0040】
また、エアレイド不織布は、水不溶性の長繊維を含んでいてもよい。
長繊維とは、パルプ繊維よりも長い繊維長(例えば5mm以上)を有する化学繊維および天然繊維をいう。具体的な長繊維としては、ビスコースレーヨン、溶剤紡糸レーヨン等の再生繊維、セルロースアセテート等の半合成繊維、ナイロン6やナイロン66(登録商標)といったポリアミド、ポリエチレンテレフタレートといったポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン等の合成繊維、および、綿、麻等の天然繊維等の水不溶性の繊維が用いられ得る。特に湿潤時における強力低下が少ない合成繊維を用いるのが好ましい。
【0041】
また、エアレイド不織布はバインダー繊維を含んでもよい。バインダー繊維とは、繊維の全体および一部が、温度条件により、溶融、凝固の状態変化を示すことで、接着力を発現する繊維のことをいう。具体的なバインダー繊維としては、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂等の低融点樹脂やポリオレフィン系樹脂等から単独で構成される全融性の繊維が用いられることができるし、ポリエチレン樹脂/ポリプロピレン樹脂、低融点ポリエステル系樹脂/ポリプロピレン樹脂等の融点に差を有する2樹脂からなる芯鞘型の複合繊維、および、サイドバイサイド型の複合繊維等が用いられることができる。
【0042】
また、第2層20または吸収層20としては、シート状の複合体が用いられることができる。このシート状の複合体は、例えば、不織布にアクリル酸モノマーを含浸させた後に重合および架橋反応させることによって得られる。別の前記シート状の複合体は、有機触媒と水とからなる混合溶媒に、強い水和性を示す繊維状物(例えば、ミクロフィブリル等)と水膨潤性を有する固状体(例えば、種々の多糖類、凝集剤、高吸収性樹脂(SAP)等)とを分散させた分散液を不織布等のシート状支持体に流延した後、当該分散液を乾燥させて得られる。
【0043】
吸収層(第2層)20が滲出液を吸収すると、エアレイド不織布のパルプ繊維間の水素結合が解かれるとともに、水溶性バインダーが溶出して湿潤時の繊維間接合が低下する。特にエアレイド不織布が高い吸水性を有する樹脂を含む場合、高い吸水性を有する樹脂のゲル化による強度低下や、ゲル化に伴う樹脂の容積の増大により、構成する繊維同士の絡まりや結合が物理的に断裂されるので、エアレイド不織布の湿潤強度の顕著な低下が生じる。
しかし、エアレイド不織布は、少なくとも水不溶性の長繊維およびバインダー繊維を含むことで、最低限必要な繊維間接合を保持でき、これにより、エアレイド不織布の湿潤時の強度低下を抑制することができる。したがって、滲出液を吸収した後に発生し易い、エアレイド不織布の強度低下による被覆材吸水層からの剥離分解が抑制されることができる。そのため、被覆材を創傷面から容易にかつ美しく剥がすことができる。
【0044】
第2層20または吸収層20のエアレイド不織布は、パーフォレートされていることにより柔軟化されていてもよい。ここで、「パーフォレート」とは、不織布に多数の孔を空ける加工をいう。エアレイド不織布は、接着剤で繊維間が接合されているので、布の剛性が大きくなり易いから、柔軟性が損なわれる場合がある。しかし、前記多数の孔を不織布に形成することにより不織布が柔らかくなるので、不織布が肌面に沿い易くなる。また、かかる加工を施した不織布は孔を介して滲出液を吸収し得るので、一旦、滲出液を吸収し始めると、吸水速度が大きくなる。
なお、パーフォレートされて生じる孔の断面形状は、限定されない。また、前記孔はエアレイド不織布を完全に貫通していてもよいし、貫通していなくてもよい。
【0045】
滲出液の吸収、保持力をさらに高めるために、図1(b)に示すように、前記第2層20は、吸収材22を含んでもよい。吸収材とは、液体と接触すると短時間に吸収、膨潤し、ゲル化する材料をいう。かかる吸収材としては、ポリアクリル酸系、でんぷん系、カルボキシメチルセルロース系、ポリビニルアルコール系、ポリエチレンオキサイド系の、いわゆる高吸水性樹脂(SAP)やアルギン酸、デキストラン等の高い吸水性能を有する天然多糖類等を用いるのが好ましい。前記吸収材22としては、粉末状、粒状のものだけでなく繊維状のものも用いられ得る。
また、前記吸収材22をカルシウム塩で処理することにより、吸収材22に創面の止血効果を付与することができる。
【0046】
なお、第2層20の材料に、間歇的に切り込みを入れる(パーフォレートによる孔を形成する)等することで、第2層20が伸縮性を有するようにしてもよい。
【0047】
前記第3層(不透過層)30は前記第1層10との間で第2層20を挟む。つまり、第2層20は第1層10と第3層30との間に配置されている。第3層30を構成する素材としては、液体を通過させない材料が用いられ、例えば、オレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリエステル系樹脂、ナイロン系樹脂等のフィルムが用いられ得る。この第3層30の素材としては、ポリウレタン系樹脂等の伸縮性を有するフィルム等の材料が用いられ得る。3つの層10,20,30が伸縮性を有する場合は、被覆材1が伸縮性を有するので、被覆材1の皮膚へのフィット性が高まる。
【0048】
第3層30のシート材としては、フィルム自体に着色しているものや、フィルムに絵柄が付されたものが用いられ得る。
第3層30として、着色された、または、絵柄が付されたフィルムが使用されると、種々の利点が得られる。例えば、着色が肌色の場合は、創傷部位と該創傷部位以外の皮膚との色の差異から生じる違和感を軽減することができる。一方、他の着色や絵柄を有するフィルムが使用されると、被覆材にファッション性を付与することができる。
【0049】
第3層30または不透過層30のフィルム材は着色されていてもよい。これにより、表裏の視認性が向上する。すなわち、一目で被覆材の表裏を確認することができる。また、フィルム材を肌色にすることにより、被覆材が目立たなくなる。
第3層30または不透過層30のフィルム材は透視可能であってもよい。これにより、第2層20または吸収層20に吸収された滲出液の量が目視で確認できるので、被覆材を交換する時期が分かりやすくなる。
【0050】
図2(a)〜(c)に示すように、被覆材1には、1以上の粘着性部材12,32,42が設けられていてもよい。粘着性部材とは、被覆材を固定することができ、かつ、被覆材を容易に剥がすことができる状態を保てる部材をいう。具体的な粘着性部材としては、肌に接触してもカブれ難く、低刺激性のアクリル系やシリコン系等の粘着材が用いられることができる。粘着性部材12は、第1層10の液透過性を阻害しない程度に、第1層10の表面材の創面側(貼付面)に塗布されていてもよい。かかる被覆材1は取り扱いが簡便である。つまり、被覆材1を創傷面へ容易に固定することができると共に、創傷の大きさに合わせたサイズの被覆材が自由にカットされ得る。
【0051】
図2(b)に示すように、第1および第2層10,20よりも第3層の防漏シート30を大きく形成すると共に、防漏シート30の創面側に粘着剤32が塗布されてもよい。
また、図2(c)に示すように、防漏シート30の外側に、第4層40として粘着剤42を塗布したシートをさらに重ねて、被覆材1が構成されてもよい。また、被覆材1は粘着性部材を当該被覆材の使用開始時まで保護する為の離形紙やフィルムを備えても良い。
【0052】
図3(a),(b)に示すように、被覆材1はロール状に巻かれていてもよい。また、ロール状またはシート状の被覆材1は、樹脂フィルム(包材の一例)等6で個包装されていてもよい。
【0053】
シート状の被覆材1の場合は、複数枚の被覆材1が一括して樹脂フィルムで個包装されてもよい。被覆材1が樹脂フィルムで個包装されることで、滅菌バリデーションの確実な管理が可能となる。なお、前記樹脂フィルムとしては、エチレンオキサイドガス滅菌、電子線滅菌、ガンマー線滅菌等の滅菌処理に耐性を有する素材が用いられ得る。
このようなロール状やシート状の被覆材は、任意の大きさに切り出して使用されることができる。
【0054】
また、ロール状やシート状の被覆材は、箱5に収容されることで、箱5による個包装がなされてもよい。この場合にも、被覆材1がフィルム6に収容されていても良い。ロール状の被覆材1は、被覆材1の外周面が箱5の内面に支持されて回転自在としてもよいし、ロールの芯の部分が箱5に回転自在に支持されてもよい。この箱5を開け、ロールの一端1eを引き出すと、ロールが回転し、被覆材1の一部または全部が取り出され得る。これにより、被覆材1が使い易くなり、また、被覆材1の保管が容易となる。
箱5には、患者の帰属や治療履歴等を確認し易くするため、各種の診療情報を記入するための欄50が設けられてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の被覆材は、熱傷、褥瘡、挫傷、擦過傷、潰瘍、手術後の切開創等の創傷の治療のために、直接創傷面に貼り付けて用いられ得る。また、本発明の被覆材は、創傷被覆材やガーゼ等を被覆固定することや、これらからの血液や滲出液等の漏れを防止することを目的とした2次ドレッシング材(2次被覆材)として利用され得る。
【符号の説明】
【0056】
10:第1層(透過層)
15:多孔シート
16:孔部
20:第2層(吸収層)
30:第3層(不透過層)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔シートからなる第1層と、親水性を有する材料で構成された不織布を撥水処理加工したものからなる第2層とを備え、創傷部位に対面する接触面からこの順序で有することを特徴とする創傷被覆材。
【請求項2】
前記第1層の多孔シートは、創傷面側にアクリル系又はシリコン系の粘着剤が塗布されていることを特徴とする請求項1に記載の創傷被覆材。
【請求項3】
前記第1層の多孔シートは、孔部の深さが100μm〜2000μmに設定されており、前記多孔シートの開孔率が5%〜50%に設定されており、かつ、前記多孔シートが創傷部位に対面する接触面に配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載の創傷被覆材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−13743(P2013−13743A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−188065(P2012−188065)
【出願日】平成24年8月28日(2012.8.28)
【分割の表示】特願2011−52218(P2011−52218)の分割
【原出願日】平成16年6月24日(2004.6.24)
【出願人】(591040708)株式会社瑞光 (78)
【出願人】(503232041)
【Fターム(参考)】