説明

創傷被覆材

【課題】創傷治癒効果のばらつきの小さい(再現性の高い)創傷被覆材を提供することである。
【解決手段】JIS B0601:2001「4.2.1輪郭曲線の算術平均高さ」に規定された算術平均粗さ(Ra)が1μm〜1000μm、且つJIS B0601:2001「4.3.1輪郭曲線要素の平均長さ」に規定された輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)が10μm〜5mmである表面性状パラメータをもつ単層フィルム(S)から構成されることを特徴とする創傷被覆材を用いる。この創傷被覆材は2級アミノ基(A1)、3級アミノ基(A2)、アンモニオ基(A3)、ホスファチジル基(A4)、及びリゾホスファチジル基(A5)からなる群より選ばれる少なくとも1つの官能基(A)を含む化合物(AM)及び/又は細胞接着性最小アミノ酸配列(X)を1分子中に少なくとも1個有するポリペプチド(XM)を有することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、創傷被覆材に関する。さらに詳しくは、皮膚の表皮の再生を促進し、皮膚創傷の治癒に特に効果的な創傷被覆材に関する。
【背景技術】
【0002】
創傷の治癒において、皮膚の再生を促進する創傷被覆材としては、細胞接着性ポリペプチドを有してなる創傷被覆材(特許文献1)等が知られている。
【特許文献1】特開2004−049921号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記の創傷被覆材は高い創傷治癒効果を示すこともあるが、その効果にばらつきがあるという問題がある。すなわち、本発明の目的は、創傷治癒効果のばらつきの小さい(再現性の高い)創傷被覆材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の創傷被覆材の特徴は、JIS B0601:2001「4.2.1輪郭曲線の算術平均高さ」に規定された算術平均粗さ(Ra)が1μm〜1000μm、且つJIS B0601:2001「4.3.1輪郭曲線要素の平均長さ」に規定された輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)が10μm〜5mmである表面性状パラメータをもつ単層フィルム(S)からなる点を要旨とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明の創傷被覆材は、優れた創傷治癒効果を再現性高く発揮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明において、表面性状パラメーターとは、算術平均粗さ(Ra)及び輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)を意味する。
算術平均粗さ(Ra)は、創傷治癒効果のはらつき(再現性)の観点等から、1〜1000μmが好ましく、さらに好ましくは10〜500μm、特に好ましくは20〜300μmである。この範囲であると、創傷治癒効果の再現性がさらに良好となる。
また、輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)は、創傷治癒効果のばらつき(再現性)の観点等から、10μm〜5mmが好ましく、さらに好ましくは20μm〜1mm、特に好ましくは50μm〜600μmである。この範囲であると、創傷治癒効果の再現性がさらに良好となる。
【0007】
本発明の創傷被覆材は、上記の表面性状パラメータの範囲内である限り、単層フィルム(S)の表面形状に制限はない。例えば、平らな面に、均一或いは不均一な大きさの盛り上がり{半球状、扁平(楕円)状、不定形等}及び/又は窪み{半球状、扁平(楕円)状、不定形等}が、均一或いは不均一に点在する形でもよく、平らな面に定型或いは不定形の畝及び/又は溝を有する形でもよく、平らな部分は有さず表面全体が凹凸{半球状、扁平(楕円)状、不定形等}で覆われている形でもよい。
【0008】
なお、算術平均粗さ(Ra)は、JIS B0601:2001の「4.2.1輪郭曲線の算術平均高さ」に規定されており、基準長さ{U}における、縦座標値{Z(x)}(任意の位置における輪郭曲線の高さ)の絶対値の平均をいう(次式で表される)。
【数1】

基準長さ{U}及び輪郭曲線{Z(x)}については単層フィルム(S)の断面を模式的に表した図1を参照できる。
【0009】
また、輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)は、JIS B0601:2001の「4.3.1輪郭曲線要素の平均長さ」に規定されており、基準長さ{U}における輪郭曲線要素の長さ{XSi}の平均をいう(次式で表される)。
【数2】

基準長さ(U)及び輪郭曲線要素{XSi}については、単層フィルム(S)の断面を模式的に表した図2を参照できる。
【0010】
算術平均粗さ(Ra)、輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)はいずれも公知の方法で測定でき、例えば、表面形状顕微鏡{キーエンス(株)製の表面形状測定顕微鏡VF−7500等}及び原子間力顕微鏡{セイコー電子工業(株)製の原子間力顕微鏡SFA−300等}が用いられる。
測定は、測定試料を25℃、相対湿度65%の雰囲気下に少なくとも12時間放置し、同条件の恒温恒湿で行う。
【0011】
本発明において、単層フィルム(S)とは、2枚以上のフィルムが複合化されたフィルムではなく、単一層からなるフィルムを意味する。
なお、単層フィルム(S)には微細な孔を全面又は一部に有していてもよい。微細な孔を有する場合、孔の大きさは、液体や細菌は透過しないが空気及び水蒸気が通過できる程度の大きさが好ましい。この穴の大きさとしては、開孔部の面積が1μm2以下が好ましい。またこの孔の形状は円形、楕円形、多角形、不定形及び線状(スリット)等が挙げられるが、その目的とする滲出液の創傷における貯留量を適度に保てれば、いずれの形状を用いてもよい。
【0012】
単層フィルム(S)は、創傷を被覆できれば形状、大きさは特に制限がない。例えば、多角形、楕円形などでもよく、また、その一部を切り取って使用することもできる。また、本発明の創傷被覆材は、接着剤若しくは粘着剤付きのカバー、包帯、伸縮自在メッシュ、眼帯等を用いて固定されてもよく、縫合又は接着されてもよい。
単層フィルム(S)の厚さは、創傷被覆材が創傷面上でずれたり撚れたりすることなく創傷を被覆できれば特に制限はないが、1μm〜1cmが好ましく、さらに好ましくは5〜3000μm、特に好ましくは15〜500μmである。
【0013】
単層フィルム(S)の材質としては、細胞や生体に悪影響を及ぼさないものであれば制限がなく、創傷等への適用時に、体液等に分散、溶解又は吸収され易い材料{以下、易生分解性材料(S1)}、創傷等への適用時に、体液等に分散、溶解又は吸収され難い材料{以下、難生分解性材料(S2)}のいずれもが使用できる。これらのうち、創傷面から創傷被覆材の剥がしやすさの観点等から、難生分解生材料(S2)が好ましい。また易生分解性材料(S1)及び難生分解性材料(S2)を組み合わせてもよい。
易生分解性材料(S1)及び難生分解性材料(S2)を組み合わせる場合、組み合わせ形態及び組み合わせ方法等は特に制限がないが、難生分解性材料(S2)からなるフィルム表面に易生分解性材料(S1)からなる微粒子が点在して存在する形態等が例示できる。
【0014】
易生分解性材料(S1)としては、天然高分子(S1A)、合成高分子(S1B)及び無機物(S1C)等が使用できる。
天然高分子(S1A)としては、コラーゲン、ゼラチン、グリコサミノグリカン、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ケラタン硫酸、デルマタン硫酸、ヘパリン、エラスチン、キチン、キトサン、フィブリン、アルギン酸、デンプン、デキストラン、アルブミン、ポリヒドロキシ酪酸、ペクチン、ペクチン酸、ガラクタン、プルラン、アガロース、セルロース、グルテン及びフィブロイン等が挙げられる。
【0015】
合成高分子(S1B)としては、乳酸、ロイシン、グリコール酸、ε−カプロラクトン、ジオキサノン、リンゴ酸、ラクチド及びグリコリドからなる群より選ばれた単量体を必須単量体としてなる(共)重合体(ポリグリコール酸)、並びに以下に説明するポリペプチド(XM)以外の合成ポリペプチド等が挙げられる。
【0016】
無機物(S1C)としては、炭酸カルシウム(軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム等)、リン酸カルシウム{ヒドロキシアパタイト、トリカルシウムフォスフェート及びこれらと他のリン酸カルシウム(モノカルシウムハイドロジェンフォスフェート等)との混合物等}等が含まれる。
【0017】
これらのうち、天然高分子(S1A)及び合成高分子(S1B)が好ましく、さらに好ましくは天然高分子(S1A)、特に好ましくはコラーゲン、ゼラチン、ヒアルロン酸、キチン、キトサン、フィブリン、アルギン酸、デンプン、デキストラン、アガロース、セルロース及びフィブロインである。
【0018】
難生分解性材料(S2)としては、天然高分子(S2A)、合成高分子(S2B)及び無機物(S2C)等が使用できる。
天然高分子(S2A)としては、天然繊維(綿、毛、麻、絹等)等が挙げられる。
【0019】
合成高分子(S2B)としては、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン、これらの変性物等)、オレフィン共重合体{エチレン−ビニルアセテート共重合体、エチレン−エチル(メタ)アクリレート共重合体、エチレン−メチル(メタ)アクリレート共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体等}、ポリウレタン、ポリエステル、ポリアクリル酸、ポリアミド(ナイロン等)、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、セルロース、ビスコースレーヨン、キュプラレーヨン、ポリアセテート、ポリアクリルニトリル、ビニロン及びビニリデン等が用いられる。
【0020】
無機物(S2C)としては、金属(金、銀、プラチナ、チタン及びニッケル等)、セラミックス(アルミナ、ジルコニア及び窒化アルミニウム等)等が用いられる。
【0021】
これらのうち、合成高分子(S2B)及び無機物(S2C)が好ましく、さらに好ましくは合成高分子(S2B)、特に好ましくはポリオレフィン、ポリウレタン、ポリエステル、ポリアクリル酸、ポリアミド(ナイロン)、ポリスチレン及びシリコーン樹脂、最も好ましくはポリウレタンである。
【0022】
単層フィルム(S)には、微粒子を含有させることもできる。
微粒子としては、細胞や生体に悪影響を及ぼさないものであれば制限がなく、無機物微粒子でも有機物微粒子でもよい。また、易生分解性材料(S1)からなる微粒子でも難生分解性材料(S2)からなる微粒子でもよい。
無機物微粒子としては、易分解性材料(S1)(炭酸カルシウム等)からなる微粒子、及び難分解性材料(S2)(珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、シリカ、硫酸バリウム、酸化亜鉛、酸化チタン、クレー及びアルミナ等)からなる微粒子が挙げられる。
有機微粒子としては、易分解性材料(S1)(ポリグリコール酸及び、グルコサミノグリカン等)からなる微粒子、及び難分解性材料(S2)(ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアクリル酸樹脂、ポリアミド(ナイロン)樹脂、ポリスチレン樹脂及びシリコーン樹脂等)からなる微粒子が挙げられる。
これらのうち、有機微粒子が好ましく、さらに好ましくはポリスチレン樹脂である。
【0023】
微粒子の形状に制限はないが、例えば球状、針状、扁平(楕円)状、薄片状、不定形破砕状及び繊維状等が挙げられる。これらのうち、球状、扁平(楕円)状及び薄片状が好ましく、さらに好ましくは球状及び扁平(楕円)状、特に好ましくは球状である。
【0024】
微粒子の大きさに制限はないが、微粒子の体積平均粒子径(μm)は、2〜2000が好ましく、さらに好ましくは80〜1200、特に好ましくは40〜600である。なお、体積平均粒子径は、JIS Z8825−1:2001に準拠して、レーザー式粒度分布測定装置、たとえば、堀場製作所製LA−920(分散媒:メタノール、測定温度:25℃)等により測定される。
【0025】
微粒子を含有する場合、この含有量(重量%)は、単層フィルム(S)の重量(微粒子の重量を含む)に基づいて、30〜200が好ましく、さらに好ましくは40〜150、特に好ましくは50〜110である。
【0026】
本発明の創傷被覆材は、さらに、2級アミノ基(A1)、3級アミノ基(A2)、アンモニオ基(A3)、ホスファチジル基(A4)、及びリゾホスファチジル基(A5)からなる群より選ばれる少なくとも1つの官能基(A)を含む化合物(AM)を有していてもよい。
【0027】
2級アミノ基(A1)としては、脂肪族アミノ基、芳香族アミノ基、−NHCH2−で表される基及び−C(=NH)−で表される基等が使用できる。これらの炭素数は1〜16が好ましく、さらに好ましくは1〜12、特に好ましくは1〜6である。
【0028】
脂肪族アミノ基としては、メチルアミノ、エチルアミノ、プロピルアミノ、ブチルアミノ、シクロヘキシルアミノ、2−エチルヘキシルアミノ、ドデシルアミノ、ヘキサデシルアミノ、ベンジルアミノ及び2−フェニルエチルアミノ等が挙げられる。
【0029】
芳香族アミノ基としては、フェニルアミノ(アニリノ)、4−メチルフェニルアミノ(4−メチルアニリノ)及びナフチルアミノ等が挙げられる。
これらのうち、脂肪族アミノ基、−NHCH2−で表される基及び−C(=NH)−で表される基が好ましく、さらに好ましくはメチルアミノ基、エチルアミノ基、プロピルアミノ基、−NHCH2−で表される基及び−C(=NH)−で表される基、特に好ましくは−NHCH2−で表される基及び−C(=NH)−で表される基である。
【0030】
3級アミノ基(A2)としては、脂肪族アミノ基、芳香族アミノ基、−N(CH2−OH)CH2−又は、−N(CH3)CH2−で表される基等が挙げられる。これらの炭素数は2〜32が好ましく、さらに好ましくは2〜24、特に好ましくは2〜12である。
【0031】
脂肪族アミノ基としては、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、メチルプロピルアミノ、ジイソプロピルアミノ、ジブチルアミノ、ジシクロヘキシルアミノ、ジドデシルアミノ、ジヘキサデシルアミノ及びジベンジルアミノ等が挙げられる。
【0032】
芳香族アミノ基としては、ジフェニルアミノ及びジナフチルアミノ等が挙げられる。
これらのうち、脂肪族アミノ基、−N(CH2−OH)CH2−又は−N(CH3)CH2−で表される基が好ましく、さらに好ましくはジメチルアミノ、ジエチルアミノ、ジプロピルアミノ及び−N(NH2−OH)CH2−又は−N(CH3)CH2−で表される基、特に好ましくはジメチルアミノ、ジエチルアミノ及び−N(CH2−OH)CH2−又は−N(CH3)CH2−で表される基である。
【0033】
アンモニオ基(A3)としては、脂肪族アンモニオ基、芳香族アンモニオ基、>C=N+=C<で表される基及び−CH2+(CH32CH2−で表される基等が挙げられる。これらの炭素数は1〜48が好ましく、さらに好ましくは2〜36、特に好ましくは2〜18である。
【0034】
脂肪族アンモニオ基としては、メチルアンモニオ、エチルアンモニオ、プロピルアンモニオ、ブチルアンモニオ、シクロヘキシルアンモニオ、2−エチルヘキシルアンモニオ、ドデシルアンモニオ、ヘキサデシルアンモニオ、ベンジルアンモニオ、2−フェニルエチルアンモニオ、ジメチルアンモニオ、ジエチルアンモニオ、メチルプロピルアンモニオ、ジイソプロピルアンモニオ、ジブチルアンモニオ、ジシクロヘキシルアンモニオ、ジドデシルアンモニオ、ジヘキサデシルアンモニオ、ジベンジルアンモニオ、トリメチルアンモニオ、トリエチルアンモニオ、メチルジエチルアンモニオ、メチルジイソプロピルアンモニオ、メチルジブチルアンモニオ、メチルジシクロヘキシルアンモニオ、メチルジドデシルアンモニオ及びトリヘキサデシルアンモニオ等が挙げられる。
【0035】
芳香族アンモニオ基としては、メチルフェニルアンモニオ、メチルナフチルアンモニオ、メチルジフェニルアミノ、メチルジナフチルアミノ及びトリベンジルアンモニオ等が挙げられる。
【0036】
これらのうち、脂肪族アンモニオ基、>C=N+=C<で表される基及び−CH2+(CH32CH2−で表される基が好ましく、さらに好ましくはメチルアンモニオ、エチルアンモニオ、ブチルアンモニオ、トリメチルアンモニオ、トリエチルアンモニオ、メチルジエチルアンモニオ、メチルジイソプロピルアンモニオ、メチルジブチルアンモニオ、>C=N+=C<で表される基及び−CH2+(CH32CH2−で表される基、特に好ましくはメチルアンモニオ、エチルアンモニオ、トリメチルアンモニオ、トリエチルアンモニオ、メチルジエチルアンモニオ、>C=N+=C<で表される基及び−CH2+(CH32CH2−で表される基である。
【0037】
ホスファチジル基(A4)としては、HOCH2CH(OH)CH2OP(=O)(O-)−で表される基(無置換ホスファチジル基)又はR1OCH2CH(OR2)CH2OP(=O)(O-)−で表される基(置換ホスファチジル基、R1及びR2は、同じ又は異なる有機基(アシル基、アルキル基又はアルケニル基)である)等が使用できる。有機基(アシル基、アルキル基又はアルケニル基)の炭素数は1〜22が好ましく、さらに好ましくは2〜18、特に好ましくは12〜18である。
【0038】
アシル基としては、飽和アシル基(アセチル、ブタノイル、ヘキサノイル、デカノイル、ラウロイル、ミリストイル、パルミトイル、ステアロイル及びアラキドノイル等)、及び不飽和アシル基(リノレオイル、オクタデシエノイル及びオレオイル等)等が挙げられる。
【0039】
アルキル基としては、メチル、ヘキサデシル、ブチル、ヘキキル、デシル、ドデシル、テトラデシル、ヘキサデシル、オクタデシル及びイコサノイル等が挙げられる。
【0040】
アルケニル基としては、リノレイル、オクタデカジエニル、オクタデカトリエニル及びオクタデセニル等が挙げられる。
これらのうち、無置換ホスファチジル基及び置換ホスファチジル基(R1及びR2はアシル基である)が好ましく、さらに好ましくは無置換ホスファチジル基及び置換ホスファチジル基(R1及びR2は不飽和アシル基である)、特に好ましくは置換ホスファチジル基(R1及びR2は同じ不飽和アシル基である)である。
【0041】
リゾホスファチジル基(A5)としては、R3OCH2CH(OH)CH2OP(=O)(O-)−で表される基(R3は、飽和又は不飽和のアシル基)等が使用できる。アシル基の炭素数は1〜22が好ましく、さらに好ましくは2〜18、特に好ましくは12〜18である。
【0042】
アシル基としては、ホスファチジル基(A4)の場合と同じものが使用できる。
これらのうち、R3が不飽和アシル基である置換リゾホスファチジル基が好ましい。
【0043】
化合物(AM)の重量平均分子量(MW)は、細胞に対する毒性が低く、細胞誘引性が高いという点で、1,000〜100,000が好ましく、さらに好ましくは1,200〜50,000、特に好ましくは1,800〜30,000である。
なお、化合物(AM)の重量平均分子量(MW)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定することができる(基準物質は、分子量420〜20,600,000のポリスチレンスタンダード(例えば、東ソー製)である。)。
化合物(AM)としては、特許文献1に記載された少なくとも1個の1級アミノ基又は2級アミノ基を有するポリアミン(炭素数2〜56){脂肪族ポリアミン、脂環式ポリアミン、複素環式ポリアミン、芳香族ポリアミン}等がそのまま使用できる。
【0044】
官能基(A)のうち、創傷治癒促進の観点等から、2級アミノ基(A1)及び3級アミノ基(A2)が好ましく、さらに好ましくは2級のアミノ基である。すなわち、化合物(AM)のうち、創傷治癒効果の高さの観点等から、2級アミノ基(A1)を含む化合物(AM1)及び3級アミノ基(A2)を含む化合物(AM2)が好ましく、さらに好ましくは(AM1)、特に好ましくは脂肪族ポリアミン(PA)及び芳香族ポリアミン(PAr)である{これらの化合物については、特許文献1に詳細に記載されている。}。
【0045】
脂肪族ポリアミン(PA)としては、アルキレン基の複数個と、1〜3級のアミノ基及びアンモニオ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の複数個とをもつ化合物等が含まれる。
芳香族アミン(PAr)としては、アリーレン基の複数個と、1〜3級のアミノ基及びアンモニオ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の複数個とをもつ化合物等が含まれる。
脂肪族ポリアミン(PA)は、アルキレン基の一部がアリーレン基に置き換わっていてもよい。また、芳香族ポリアミン(PAr)は、アリーレン基の一部がアルキレン基に置き換わっていてもよい。
【0046】
脂肪族ポリアミン(PA)及び芳香族ポリアミン(PAr)は、直鎖状又は分岐状のいずれでもよい。
直鎖状ポリアミンとしては、次のような化学式(Rは同じでも異なっていてもよいアルキレン基またはアリーレン基を示し、R’は水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示し、nはポリマーの重量平均分子量が1,000〜100,000となる数を示す。)で表されるポリマーが含まれる。
【化1】

【0047】
脂肪族ポリアミン(PA)及び芳香族ポリアミン(PAr)のアルキレン基としては、炭素数2〜6のアルキレン(エチレン、プロピレン、イソプロピレン、ブチレン、ヘキシレン等)基等が含まれる。アリーレン基としては、炭素数4〜8のアリーレン(フランジイル、フェニレン、トルエンジイル、キシレンジイル等)基等が含まれる。
【0048】
脂肪族ポリアミン(PA)としては、アルキレンジアミン(エチレンジアミン、プロピレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン及びヘキサメチレンジアミン等)、アルキレン基の炭素数が2〜6であるポリアルキレンポリアミン(ジエチレントリアミン、イミノビスプロピルアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン及びペンタエチレンヘキサミン等)、これらのアルキル(炭素数1〜18)置換体(ジメチルアミノプロピルアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、ジプロピルアミノプロピルアミン、メチルエチルアミノプロピルアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、N,N−ジオクタデシルエチレンジアミン、トリオクタデシルエチレンジアミン及びメチルイミノビスプロピルアミン等)、ポリエチレンイミン、ポリ(エチレンイミン・N−メチルエチレンアミン)、ポリ(N−メチルエチレンアミン)、ポリ(エチレンイミン・N−エチルエチレンアミン)、ポリプロピレンイミン、ポリブチレンイミン、ポリ(エチレンイミン・プロピレンイミン)、ポリ(エチレンイミン・ヘキシレンイミン)等が含まれる。
【0049】
芳香族アミン(PAr)としては、フェニレンジアミン、N,N’−ジメチルフェニレンジアミン、N,N,N’−トリメチルフェニレンジアミン、ジフェニルメタンジアミン、2,6−ジアミノピリジン、トリレンジアミン、ジエチルトリレンジアミン、4,4’−ビス(メチルアミノ)ジフェニルメタン、1−メチル−2−メチルアミノ−4−アミノベンゼン、ポリフェニレンイミン、ポリ(フェニレンイミン・エチレンイミン)、ポリフランジイルイミン、ポリ(フランジイルイミン・エチレンイミン)等が含まれる。
化合物(AM)は、1種又は2種以上を用いることができる。
これらの脂肪族ポリアミン(PA)及び芳香族ポリアミン(PAr)のうち、(PA)が好ましく、さらに好ましくはポリエチレンイミンである。
【0050】
脂肪族ポリアミン(PA)及び芳香族ポリアミン(PAr)は、次の(1)〜(4)に示すような公知の方法等で製造できる。
(1)アルキレンイミン(エチレンイミン、プロピレンイミン等)を触媒(二酸化炭素、塩酸、臭化水素酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、塩化アルミニウム、三フッ化ホウ素等)の存在下に開環重合する方法。
(2)ハロゲン化アルキレン及び/又はハロゲン化アリーレン(例えば、塩化エチレン、臭化プロピレン等)と、アルキレンジアミン及び/又はアリーレンジアミン(例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン等)とを重縮合反応する方法。
(3)アキサゾリドン−2等を加熱する方法。
(4)生体から抽出する方法。
【0051】
本発明の創傷被覆材は、細胞接着性最小アミノ酸配列(X)を1分子中に少なくとも1個有するポリペプチド(XM)をさらに有していてもよい。
ポリペプチド(XM)に細胞接着性最小アミノ酸配列(X)を含有すると、細胞接着活性が増大し、細胞(特に皮膚細胞)の接着を促進し、接着した細胞が増殖し、創傷治癒促進が可能となる。
【0052】
この最小アミノ酸配列(X)の含有個数は、細胞接着・増殖性の観点等から、ポリペプチド(XM)1分子中に、1〜50が好ましく、さらに好ましくは3〜30、特に好ましくは4〜20である。この範囲であると、細胞接着活性がさらに高く、細胞(特に皮膚細胞)の増殖をさらに容易に促進できる。
【0053】
細胞接着性最小アミノ酸配列(X)としては、接着シグナルとして働くものであればいずれも使用でき、例えば、株式会社永井出版発行「病態生理」Vol.9、No.7、1990年、527頁に記載されているもの等が使用できる。
【0054】
これらのうち、接着しやすい細胞の種類が多いという観点等から、Arg Gly Asp配列、Leu Asp Val配列、Leu Arg Glu配列、His Ala Val配列、Arg Glu Asp Val配列(1)、Tyr Ile Gly Ser Arg配列(2)、Pro Asp Ser Gly Arg配列(3)、Arg Tyr Val Val Leu Pro Arg配列(4)、Leu Gly Thr Ile Pro Gly配列(5)、Arg Asn Ile Ala Glu Ile Ile Lys Asp Ile配列(6)、Ile Lys Val Ala Val配列(7)及びAsp Gly Glu Ala配列(8)が好ましく、さらに好ましくはArg Gly Asp配列、His Ala Val配列及びIle Lys Val Ala Val配列(7)、特に好ましくはArg Gly Asp配列である。
【0055】
ポリペプチド(XM)は、細胞接着性最小アミノ酸配列(X)以外に、ポリペプチド(XM)の熱安定性向上の観点等から、補助アミノ酸配列(Y)を有することが好ましい。
【0056】
補助アミノ酸配列(Y)としては、最小アミノ酸配列(X)以外のアミノ酸配列が使用でき、ポリペプチド(XM)の耐熱性向上の観点等から、Gly 及び/又はAlaを有する配列が好ましい。
補助アミノ酸配列(Y)としては、(Gly Ala)a 配列、(Gly Ala Gly Ala Gly Ser)b配列、(Gly Ala Gly Ala Gly Tyr)c配列、(Gly Ala Gly Val Gly Tyr)d配列、(Gly Ala Gly Tyr Gly Val)e配列、{Asp Gly Gly (Ala)f Gly Gly Ala}g配列、(Gly Val Pro Gly Val)h配列、(Gly)i配列、(Ala)j配列、(Gly Gly Ala)k配列、(Gly Val Gly Val Pro)m配列、(Gly Pro Pro)n配列、(Gly Ala Gln Gly Pro Ala Gly Pro Gly)o配列、(Gly Ala Pro Gly Ala Pro Gly Ser Gln Gly Ala Pro Gly Leu Gln)p配列及び/又は(Gly Ala Pro Gly Thr Pro Gly Pro Gln Gly Leu Pro Gly Ser Pro)q配列を有する配列等が含まれる。これらのうち、(Gly Ala)a配列、(Gly Ala Gly Ala Gly Ser)b配列、(Gly Ala Gly Ala Gly Tyr)c配列、(Gly Ala Gly Val Gly Tyr)d配列、(Gly Ala Gly Tyr Gly Val)e、{Asp Gly Gly (Ala)f Gly Gly Ala}g配列、(Gly Val Pro Gly Val)h配列、(Gly Val Gly Val Pro)m配列及び/又は(Gly Pro Pro)n配列を有するものが好ましく、さらに好ましくは(Gly Ala Gly Ala Gly Ser)b配列、(Gly Val Pro Gly Val)h配列、(Gly Val Gly Val Pro)m配列及び/又は(Gly Pro Pro)n配列を有するもの、特に好ましくは(Gly Ala Gly Ala Gly Ser)b配列を有するものである。
なお、aは5〜100の整数、b、c、d及びeは2〜33の整数、fは1〜194の整数、gは{1}〜{200/(6+f)}の小数点以下を切り捨てした整数、hは2〜40の整数、i及びjは10〜200の整数、kは3〜66の整数、mは2〜40の整数、nは3〜66の整数、oは1〜22の整数、p及びqは1〜13の整数である。
【0057】
補助アミノ酸配列(Y)は、グリシン(Gly)及び/又はアラニン(Ala)を含むことが好ましい。グリシン(Gly)及びアラニン(Ala)を含む場合、これらの合計含有割合(%)は、補助アミノ酸配列(Y)の全アミノ酸個数に基づいて、10〜100が好ましく、さらに好ましくは20〜95、特に好ましくは30〜90、最も好ましくは40〜85である。この範囲であると、耐熱性がさらに良好となる。
グリシン(Gly)及びアラニン(Ala)の両方を含む場合、これらの含有個数割合(Gly/Ala)は、0.03〜40が好ましく、さらに好ましくは0.08〜13、特に好ましくは0.2〜5である。この範囲であると、耐熱性がさらに良好となる。
【0058】
補助アミノ酸配列(Y)を含む場合、(Y)の含有個数は、耐熱性向上の観点等から、ポリペプチド(XM)1分子中に、2〜51が好ましく、さらに好ましくは3〜35、特に好ましくは4〜20である。また、ポリペプチド(XM)は、2種以上の補助アミノ酸配列(Y)を含んでもよい。
【0059】
(Gly Ala)a配列を有する補助与アミノ酸配列としては、配列番号(9)〜(11)で表されるアミノ酸配列等が挙げられる。
(Gly Ala Gly Ala Gly Ser)b配列を有する補助アミノ酸配列としては、配列番号(12)〜(14)で表されるアミノ酸配列等が挙げられる。
(Gly Ala Gly Ala Gly Tyr)c配列を有する補助アミノ酸配列としては、配列番号(15)〜(17)で表されるアミノ酸配列等が挙げられる。
(Gly Ala Gly Val Gly Tyr)d配列を有する補助アミノ酸配列としては、配列番号(18)〜(20)で表されるアミノ酸配列等が挙げられる。
(Gly Ala Gly Tyr Gly Val)e配列を有する補助アミノ酸配列としては、配列番号(21)〜(23)で表されるアミノ酸配列等が挙げられる。
{Asp Gly Gly (Ala)f Gly Gly Ala}g配列を有する補助アミノ酸配列としては、配列番号(24)〜(26)で表されるアミノ酸配列等が挙げられる。
(Gly Val Pro Gly Val)h配列を有する補助アミノ酸配列としては、配列番号(27)〜(29)及び(54)で表されるアミノ酸配列等が挙げられる。
(Gly)i配列を有する補助アミノ酸配列としては、配列番号(30)〜(32)で表されるアミノ酸配列等が挙げられる。
(Ala)j配列を有する補助アミノ酸配列としては、配列番号(33)〜(35)で表されるアミノ酸配列等が挙げられる。
(Gly Gly Ala)k配列を有する補助アミノ酸配列としては、配列番号(36)〜(38)で表されるアミノ酸配列等が挙げられる。
(Gly Val Gly Val Pro)m配列を有する補助アミノ酸配列としては、配列番号(39)〜(41)で表されるアミノ酸配列等が挙げられる。
(Gly Pro Pro)n配列を有する補助アミノ酸配列としては、配列番号(42)〜(44)で表されるアミノ酸配列等が挙げられる。
(Gly Ala Gln Gly Pro Ala Gly Pro Gly)o配列を有する補助アミノ酸配列としては、配列番号(45)〜(47)で表されるアミノ酸配列等が挙げられる。
(Gly Ala Pro Gly Ala Pro Gly Ser Gln Gly Ala Pro Gly Leu Gln)p配列を有する補助アミノ酸配列としては、配列番号(48)〜(50)で表されるアミノ酸配列等が挙げられる。
(Gly Ala Pro Gly Thr Pro Gly Pro Gln Gly Leu Pro Gly Ser Pro)q配列を有する補助アミノ酸配列としては、配列番号(51)〜(53)で表されるアミノ酸配列等が挙げられる。
【0060】
これらの配列番号のうち、(9)、(10)、(12)、(13)、(14)、(15)、(16)、(18)、(19)、(21)、(22)、(24)、(25)、(26)、(27)、(28)、(30)、(31)、(33)、(34)、(36)、(37)、(39)、(40)、(42)、(43)、(45)、(46)、(48)、(49)、(51)、(52)及び(54)が好ましく、さらに好ましくは(10)、(12)、(13)、(14)、(16)、(19)、(22)、(26)、(27)、(28)、(29)、(31)、(34)、(37)、(40)、(43)、(46)、(49)、(52)及び(54)、特に好ましくは(12)、(13)及び(54)である。
【0061】
ポリペプチド(XM)は、分岐鎖を含んでいてもよく、一部が架橋されていてもよく、環状構造を含んでいてもよい。しかし、ポリペプチド(XM)は、架橋されていないことが好ましく、さらに好ましくは架橋されていない直鎖構造(環状構造を含んでいてもよい)、特に好ましくは環状構造を持たず架橋されていない直鎖構造である。なお、直鎖構造には、β構造(直鎖状ペプチドが折れ曲がってこの部分同士が平行に並び、その間に水素結合が作られる二次構造)も含まれる。
【0062】
ポリペプチド(XM)は、細胞接着性及び耐熱性の観点等から、最小アミノ酸配列(X)と補助アミノ酸配列(Y)とが交互に化学結合してなる構造であることが好ましい。この場合、最小アミノ酸配列(X)と補助アミノ酸配列(Y)との繰り返し単位(X−Y)の数(個)は、細胞接着性の観点等から、2〜50が好ましく、さらに好ましくは3〜40、特に好ましくは4〜30、最も好ましくは5〜20である。
また、最小アミノ酸配列(X)と補助アミノ酸配列(Y)との含有個数は同じでも異なっていてもよい。異なっている場合は、いずれかの含有個数が他方の含有個数より1個少ないことが好ましい{この場合、補助アミノ酸配列(Y)が少ないことが好ましい}。ポリペプチド(XM)中の最小アミノ酸配列(X)と補助アミノ酸配列(Y)との含有個数割合(X/Y)は、0.5〜2が好ましく、さらに好ましくは0.9〜1.4、特に好ましくは1〜1.3である。
また、ポリペプチド(XM)の末端部分(最小アミノ酸配列(X)又は補助アミノ酸配列(Y)からペプチド末端まで)に他のアミノ酸を含んでもよい。他のアミノ酸を含む場合、その含有個数は、ポリペプチド(XM)1個当たり、1〜1000個が好ましく、さらに好ましくは3〜300、特に好ましくは10〜100である。
【0063】
ポリペプチド(XM)の数平均分子量(Mn)は、1,000〜1,000,000が好ましく、さらに好ましくは2,000〜700,000、特に好ましくは3,000〜400,000、最も好ましくは4,000〜200,000である。
なお、ポリペプチド(XM)の数平均分子量(Mn)は、SDS−PAGE(SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動)法により、測定サンプル{ポリペプチド等}を分離し、泳動距離を標準物質と比較する方法等の公知の方法によって求められる(以下、同じ)。
【0064】
好ましいポリペプチド(XM)の一部を以下に例示する。
(1)最小アミノ酸配列(X)がArg Gly Asp配列(x1)の場合
(x1)の13個と(Gly Ala Gly Ala Gly Ser)9配列(13)(y1)の13個とを有し、これらが交互に化学結合してなる構造を有するMn約11万のポリペプチド(「プロネクチンF」、プロネクチン:三洋化成工業(株)の登録商標(日本及び米国)、三洋化成工業(株)製<以下同じ>);
(x1)の5個と(Gly Ala Gly Ala Gly Ser)3配列(12)(y2)の5個とを有しこれらが交互に化学結合してなる構造を有するMn約2万のポリペプチド(「プロネクチンF2」);
(x1)の3個と(Gly Val Pro Gly Val)2 Gly Gly (Gly Ala Gly Ala Gly Ser)3配列(54)(y3)の3個とを有しこれらが交互に化学結合してなる構造を有するMn約1万のポリペプチド(「プロネクチンF3」)等。
【0065】
(2)最小アミノ酸配列(X)がIle Lys Val Ala Val配列(x2)の場合
プロネクチンF、プロネクチンF2又はプロネクチンF3のArg Gly Asp配列(x1)をIle Lys Val Ala Val配列(7)(x2)に変更した「プロネクチンL」、「プロネクチンL2」、又は「プロネクチンL3」等。
【0066】
(3)最小アミノ酸配列(X)がTyr Ile Gly Ser Arg配列(x3)の場合
プロネクチンF、プロネクチンF2又はプロネクチンF3のArg Gly Asp配列(x1)をTyr Ile Gly Ser Arg配列(x3)に変更した「プロネクチンY」、「プロネクチンY2」、又は「プロネクチンY3」等。
【0067】
また、(1)〜(3)のポリペプチドの他、宝酒造(株)製RetroNectin(リコンビナントヒトフィブロネクチンCH−296){最小アミノ酸配列(X)としてArg Gly Asp配列(x1)及びLeu Asp Val配列を含有するMn約6万のポリペプチド}、同RGDS−Protein A{最小アミノ酸配列(X)としてArg Gly Asp配列(x1)を含有するMn約3万のポリペプチド}も好ましく使用できる{ただし、これらのポリペプチドは天然に由来し、補助アミノ酸配列(Y)が含まれていない。よって、耐熱性等が上記の(1)〜(3)よりも劣る。また、これらのポリペプチドのアミノ酸配列は特開平2−311498号に開示されている。}。
【0068】
ポリペプチド(XM)の製造方法は特に制限されず、ペプチドを合成する従来既知の方法と同様にして製造することができ、例えば、有機合成法(固相合成法、液相合成法等)及び生化学的合成法[遺伝子組換微生物(酵母、細菌、大腸菌等)]等によって合成することができる。有機合成法に関しては、例えば、日本生化学学会編「続生化学実験講座2、タンパク質の化学(下)」第641〜694頁(昭和62年5月20日;株式会社東京化学同人発行)に記載されている方法等が用いられる。生化学的合成法に関しては、例えば、特表平3−502935号公報に記載されている方法等が用いられる。高分子量のポリペプチド(XM)を容易に合成できる点で、遺伝子組換微生物による生化学的合成法が好ましく、特に好ましくは遺伝子組換大腸菌を用いて合成する方法である。
【0069】
化合物(AM)及び/又はポリペプチド(XM)は、細胞との接触を容易にするため、その全て又は一部が単層フィルム(S)の表面に存在していることが好ましく、さらに好ましくは(AM)及び/又は(XM)の全てが単層フィルム(S)表面に存在していることである。
【0070】
本発明の創傷被覆材が、官能基(A)を含む化合物(AM)及び/又はポリペプチド(XM)を有する場合、単層フィルム(S)を製造してから、官能基(A)を含む化合物(AM)及び/又はポリペプチド(XM)を(S)の表面に結合させる方法(1)、又は官能基(A)を含む化合物(AM)及び/又はポリペプチド(XM)と、単層フィルム(S)の原材料とを混合してから、単層フィルム化する方法(2)等により製造できる。
方法(1)において、単層フィルム(S)は公知の方法を用いて作製することができ、例えば、(a)単層フィルム(S)の原料を溶融又は溶液にし、これを剥離紙上に塗工し乾燥させて得たフィルム、又は射出成形により得たフィルムを、エンボス加工装置{例えば、エンボスター(サイトウエンヂニアーズ株式会社製)等}等を用いて、フィルム表面に凹凸を形成することにより単層フィルム(S)を得る方法、(b)単層フィルム(S)の原料を溶融又は溶液にし、これと微粒子とを混合し、この混合物を塗工機を用いて剥離紙上に塗工し、又はこの混合物を射出成形し、表面に凹凸を有する単層フィルム(S)を得る方法、(c)単層フィルム(S)の原料を分散液又は溶液にし、これを漉き(すき)、乾燥することにより、表面に凹凸を有する単層フィルム(S)を得る方法等が適用できる。
【0071】
原料を溶液にする場合、溶媒は原料を均一な溶液又は乳化状態にできれば特に制限されないが、例えばウレタン樹脂の場合、イソプロピルアルコール、メチルエチルケトン及びトルエン等の有機溶剤等が使用でき、乳化性のあるウレタン樹脂の場合は水等を溶媒として乳化液にすることができる。溶媒を水とする場合、必要に応じて乳化剤その他の添加剤を使用してもよい。有機溶剤を用いる場合、2種以上の有機溶剤を用いてもよい。
原料を分散液にする場合、分散媒は原料を均一な分散状態にできれば特に制限されないが、上記の有機溶剤及び水等が使用できる。
塗工するための装置としては、ロールコーター(サイズプレス、ゲートロールコーター等)、バーコーター(Kペイントアプリケーター;松尾産業株式会社製等)、グラビアコーター、エアナイフコーター、ブレードコーター等の塗工機等が使用できる。
剥離紙としては、作製したフィルムと容易に剥離できるものなら特に制限はなく、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン又は紙に剥離剤を表面コーティングを施したもの(EV130TPD;リンテック株式会社製等)等が挙げられる。
塗工量は、乾燥後の重量として50〜450g/m2が好ましく、さらに好ましくは100〜300g/m2である。
乾燥は、室温乾燥或いは熱風乾燥等によって行われる。乾燥温度は20〜200℃が好ましく、さらに好ましくは70〜150℃である。
【0072】
フィルム表面に凹凸を形成するための装置として、エンボス加工装置によるほかに、サンドブラスト処理(硬質の微粒子をフィルム表面に衝突させて凹凸を形成する方法)、酸又はアルカリで表面をエッチングする化学的方法等も適用できる。
漉く(すく)方法は、和紙や洋紙等の抄紙方法と同様の方法等が適用できる。
【0073】
本発明の創傷被覆材がポリペプチド(XM)を有してなる場合、ポリペプチド(XM)と単層フィルム(S)とは、化学結合(イオン結合、水素結合及び/又は共有結合等)及び/又は物理吸着(ファンデルワールス力による吸着等)によって結合することができる。
【0074】
ポリペプチド(XM)と単層フィルム(S)とを共有結合させる方法としては、以下の(1)〜(3)等が適用できる。
(1)ポリペプチド(XM)のうち1級アミノ基又は2級アミノ基を有するもの{アルギニン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、スレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、アラニン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン、グルタミン酸、プロリン、システイン、リシン、セリン、グリシン、オルニチン、ヒスチジン、3−アミノプロピオン酸、8−アミノオクタン酸及び/又は20−アミノエイコサン酸を構成単位として含むポリペプチド等}と、単層フィルム(S)のうちカルボキシル基を有するもの(ポリグリコール酸、細胞接着性最小アミノ酸配列(X)を含まない合成ポリペプチド、ポリエチレン又はポリプロピレンのマレイン酸変性物、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、ポリアクリル酸、コラーゲン、ゼラチン、グリコサミノグリカン、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ヘパリン、エラスチン、フィブリン、アルギン酸、アルブミン、ペクチン、ペクチン酸、グルテン及び/又はフィブロインからなるフィルム等)とを反応させる方法(アミド結合させる方法)。
【0075】
(2)ポリペプチド(XM)のうち1級アミノ基又は2級アミノ基を有するものと、単層フィルム(S)のうちヒドロキシル基を有するもの(ヒドロキシル基を含むフィルムには特に制限はないが、例えば、ポリグリコール酸、エチレン−ビニルアセテート共重合体、ポリウレタン、ポリエステル、セルロース、ビスコースレーヨン、キュプラレーヨン、ポリアセテート、ビニロン、コラーゲン、ゼラチン、グリコサミノグリカン、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ケラタン硫酸、デルマタン硫酸、ヘパリン、エラスチン、キチン、キトサン、フィブリン、アルギン酸、デンプン、デキストラン、アルブミン、ポリヒドロキシ酪酸、ペクチン、ペクチン酸、ガラクタン、プルラン、アガロース、グルテン及び/又はフィブロインからなるフィルム等)とを反応させる方法(N−C結合させる方法)。
【0076】
(3)ポリペプチド(XM)のうちヒドロキシル基を有するもの(アスパラギン酸、グルタミン酸、セリン、トレオニン、チロシン、チロニン及び/又はヒドロキシプリンを構成単位として含むポリペプチド等)と、単層フィルム(S)のうちカルボキシル基を有するものとを反応させる方法(エステル結合させる方法)。
【0077】
これらの反応は公知の方法(「ペプチド合成の基礎と実験、平成9年10月5日、丸善株式会社発行」に記載の方法等)で行うことができる。具体的には、以下の(1)〜(3)の通りである。
(1)ポリペプチド(XM)のうち1級アミノ基又は2級アミノ基を有するものと単層フィルム(S)のうちカルボキシル基を有するものとを反応させる場合、単層フィルム(S)のカルボキシル基を予めカルボジイミド化合物と反応させ、アシルイソ尿素{R’−N=C(OCOR)−NH−R’(−OCORが単層フィルム(S)に由来する部分)}を得た後、ポリペプチド(XM)のうち1級アミノ基又は2級アミノ基を有するものをこのアシルイソ尿素に加えることによって、単層フィルム(S)とポリペプチド(XM)とをアミド結合できる。
カルボジイミド化合物としては、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩等が挙げられる。
【0078】
(2)ポリペプチド(XM)のうち1級アミノ基又は2級アミノ基を有するものと単層フィルム(S)のうちヒドロキシル基を有するものとを反応させる場合、単層フィルム(S)のヒドロキシル基を予めカルボニルジイミダゾール化合物と反応させ、イミダゾール誘導体{R−Im、Imはイミダゾリン環、Rが単層フィルム(S)に由来}を得た後、ポリペプチド(XM)のうち1級アミノ基又は2級アミノ基を有するものをこのイミダゾール誘導体に加えることによって、単層フィルム(S)とポリペプチド(XM)とをN−C結合できる。
カルボニルジイミダゾール化合物としては、N,N’−カルボニルジイミダゾール等が挙げられる。
【0079】
(3)ポリペプチド(XM)のうちヒドロキシル基を有するものと単層フィルム(S)のうちカルボキシル基を有するものとを反応させる場合、単層フィルム(S)のカルボキシル基を予めカルボジイミド化合物と反応させ、アシルイソ尿素を得た後、ポリペプチド(XM)のうちヒドロキシル基を有するものをこのアシルイソ尿素に加えることによって、単層フィルム(S)とポリペプチド(XM)とをエステル結合できる。
【0080】
ポリペプチド(XM)を単層フィルム(S)に、物理吸着、イオン結合及び/又は水素結合させる方法としては、溶媒等にポリペプチド(XM)と(S)とを投入し、混合して作製する方法等が挙げられる。溶媒としては特に制限はないが、無機塩、有機酸塩、酸及び/又は塩基を0.001〜50重量%(好ましくは0.01〜10重量%)含有する水溶液等が使用できる。
【0081】
無機塩としては、ハロゲン化金属塩、硫酸金属塩、リン酸金属塩、リン酸水素金属塩、硝酸金属塩、炭酸金属塩、過ハロゲン酸金属等が含まれ、具体的には、例えば、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、塩化カルシウム、硝酸鉄、塩化カリウム、硫酸マグネシウム、炭酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸水素カリウム、硫酸銅、硫酸鉄、塩化リチウム、臭化ナトリウム、臭化リチウム、過塩素酸ナトリウム、過塩素酸リチウム等が挙げられる。
有機酸塩としては、蟻酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、酢酸リチウム、酒石酸ナトリウム等が挙げられる。
酸としては、無機酸、炭素数1〜6の有機酸等が含まれ、具体的には、例えば、塩酸、燐酸、酢酸、蟻酸、フェノール、硫酸が挙げられる。
塩基としては、無機塩基、炭素数2〜6の有機塩基等が含まれ、具体的には、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、トリエチルアミンが挙げられる。
水としては、蒸留水、イオン交換水、水道水、イオン交換蒸留水等が挙げられる。
これらの溶媒の中で、無機塩、酸及び/又は塩基を含有する水溶液、水が好ましく、さらに好ましくは無機塩、酸及び/又は塩基を含有する水溶液である。
【0082】
ポリペプチド(XM)と単層フィルム(S)とが強固に結合される点で、化学結合が好ましく、さらに好ましくは共有結合である。
【0083】
創傷被覆材にポリペプチド(XM)を有する場合、この含有量は、創傷治癒促進の観点等から、1cm×1cmの正方形状単層フィルム(S)あたり、0.1ng/cm2〜100mg/cm2が好ましく、さらに好ましくは1ng/cm2〜10mg/cm2、特に好ましくは10ng/cm2〜1mg/cm2、最も好ましくは100ng/cm2〜100μg/cm2である。
【0084】
1cm×1cmの正方形状単層フィルム(S)あたりのポリペプチド(XM)の含有量の測定方法は特に限定されないが、例えば、免疫学的測定法が利用できる。本発明において、1cm×1cmの正方形状単層フィルム(S)あたりのポリペプチド(XM)の含有量は、創傷被覆材の表面の一部(例えば、1cm×1cmの正方形状)を切り取りとった試験片と、ポリペプチド(XM)と結合する抗体に酵素を標識したものとを反応させ、反応した酵素標識抗体の酵素量を測定することにより得られる値によって示される。
【0085】
酵素標識抗体は通常、酵素と特異抗体とを化学結合させたもの(公知の方法で化学結合できる)である。酵素(ペルオキシダーゼ、β−D−ガラクトシダーゼ、アルカリホスファターゼ、グルコース−6−リン酸脱水素酵素等)と特異抗体とをグルタルアルデヒド法、過ヨウ素酸法、マレイミド法、ピリジルジスルフィド法等によって化学結合させる方法等(超高感度酵素免疫測定法、石川榮治著、株式会社学会出版センター、1993年;エンザイムイムノアッセイ、石川榮治訳、株式会社東京化学同人、1989年;及び酵素抗体法、渡辺慶一ら編、学際企画株式会社、1992年)が適用できる。
【0086】
また、特異抗体はポリペプチド(XM)に特異的に結合する抗体{公知の方法;ポリクローナル抗体作製法及びモノクローナル抗体作製法(エンザイムイムノアッセイ、石川榮治訳、株式会社東京化学同人、1989年;及び酵素抗体法、渡辺慶一ら編、学際企画株式会社、1992年)等が適用できる}である。尚、特異抗体の交差反応性抗原に対する親和定数は小さいほど好ましい。例えば、特異抗体のポリペプチド(XM)への親和定数を1とした場合、交差反応性抗原に対する親和定数は、1以下が好ましく、さらに好ましくは0.1以下、特に好ましくは0.01以下である。この親和定数はエンザイムイムノアッセイ(石川榮治訳、株式会社東京化学同人、1989年)に記載の方法で得ることが出来る。
【0087】
化合物(AM)を用いる場合、化合物(AM)は、単層フィルム(S)及び/又はポリペプチド(XM)に結合されていることが好ましい。
【0088】
化合物(AM)を単層フィルム(S)及び/又はポリペプチド(XM)に結合する方法としては、化学反応させる方法、物理吸着させる方法{前述のポリペプチド(XM)と単層フィルム(S)との結合方法と同様の方法}等が適用できる。
【0089】
創傷被覆材に化合物(AM)を有する場合、この含有量(個/cm2)は、創傷治癒促進の観点から、1cm×1cmの正方形状単層フィルム(S)あたりのアミノ基の平均個数として、108〜1022が好ましく、さらに好ましくは1010〜1020である。
【0090】
アミノ基の平均個数は、公知の方法、たとえば、トリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)法{タンパク質の化学IV(東京化学同人発行、1981年)等}や塩酸・指示薬(ブロムフェノールブルー等)滴定法による全アミン価測定法(JIS K7237−1986や、ASTM D2074−66等)等によって測定できる。
【0091】
本発明において、具体的には、1cm×1cmの正方形状単層フィルム(S)あたりのアミノ基の平均個数(個/cm2)は、以下のようにして測定される。アミノ基の個数が既知の化合物(AM)又は(AM)の溶液についての検量線(アミノ基の個数と吸光度のグラフ)をTNBS法により作製する。
【0092】
創傷被覆材の表面の一部(例えば、1cm×1cmの正方形状)を切り取りとった試験片の吸光度は、TNBS法により測定され、検量線を用いてアミノ基の個数に換算される。
【0093】
本発明の創傷被覆材は、必要に応じて滅菌処理を施してもよい。滅菌方法としては、放射線、エチレンオキサイドガス、プラズマ、γ線、アルコール、オートクレーブ、乾熱等を用いた滅菌方法が適用できる。これらは、1種の方法のみで行ってもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。
【0094】
本発明の創傷被覆材の創傷面への適用としては、創傷面に被覆できれば制限なく適用でき、例えば、接着剤若しくは粘着剤付きのカバー、包帯、伸縮自在メッシュ又は眼帯等を用いて固定してもよく、縫合又は接着してもよい。また、創傷が潰瘍等の慢性創傷の場合、黄色期から赤色期の創傷への適用が好ましく、また創傷が熱傷や外傷性皮膚欠損症等の急性創傷の場合、炎症期から肉芽形成期の創傷への適用が好ましい。
本発明の創傷被覆材は、ヒトの外傷部位、熱傷部位、褥瘡部位、潰瘍部位及び採皮部位等の皮膚欠損部位のほか、縫合部位及びカテーテル等の穿刺部位等のヒト体表部位に適用できる。
【0095】
本発明の創傷被覆材に適用できる細胞としては、ヒト由来の細胞が適しており、例えば、皮膚に関与する細胞(上皮細胞、線維芽細胞、血管内皮細胞及び平滑筋細胞等)、血管に関与する細胞(血管内皮細胞、平滑筋細胞及び線維芽細胞等)、筋肉に関与する細胞(筋肉細胞等)、脂肪に関与する細胞(脂肪細胞等)、神経に関与する細胞(神経細胞等)、肝臓に関与する細胞(肝実質細胞等)、膵臓に関与する細胞(膵ラ島細胞等)、腎臓に関与する細胞(腎上皮細胞、近位尿細管上皮細胞及びメサンギウム細胞等)、肺・気管支に関与する細胞(上皮細胞、線維芽細胞、血管内皮細胞及び平滑筋細胞等)、目に関与する細胞(視細胞、角膜上皮細胞及び角膜内皮細胞等)、前立腺に関与する細胞(上皮細胞、間質細胞及び平滑筋細胞等)、骨に関与する細胞(骨芽細胞、骨細胞及び破骨細胞等)、軟骨に関与する細胞(軟骨芽細胞及び軟骨細胞等)、歯に関与する細胞(歯根膜細胞及び骨芽細胞等)、血液に関与する細胞(白血球及び赤血球等)、及び幹細胞{例えば、骨髄未分化間葉系幹細胞、骨格筋幹細胞、造血系幹細胞、神経幹細胞、肝幹細胞(oval cell、small hepatocyte等)、脂肪組織幹細胞、胚性幹(ES)細胞、表皮幹細胞、腸管幹細胞、精子幹細胞、胚生殖幹(EG)細胞、膵臓幹細胞(膵管上皮幹細胞等)、白血球系幹細胞、リンパ球系幹細胞、角膜系幹細胞、前駆細胞(脂肪前駆細胞、血管内皮前駆細胞、軟骨前駆細胞、リンパ球系前駆細胞、NK前駆細胞等)等}等が挙げられる。これらの細胞は、本発明の創傷被覆材をインビトロで細胞培養するための基材として使用する際にも好適に適用できる。
【実施例】
【0096】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。なお、特記しない限り%は重量%を意味する。
<実施例1>
<単層フィルム(S1)の準備>
ウレタンエマルション(商品名:パーマリンUA200、三洋化成工業株式会社製)の6.67gとイオン交換水の3.33gを混合し、ウレタンエマルションを調製した。このウレタンエマルションと、12ナイロンビーズ(商品名:マイクロコンポジットスフェア、TRIアドバンストラボラトリー社製、直径150μm〜250μm)の6.67gを、混合し、縦20cm×横20cm×厚さ1mmのポリプロピレンシート(株式会社メディカルエイジェント製)上に均一に広げ、膜厚が300μmになるように、両端に300μmの高さにビニールテープを巻いたガラス棒を用いてキャストし、室温(約25℃)に放置した。室温放置後24時間後に、循風乾燥機中で120℃、1時間乾燥した。乾燥後、ポリプロピレンシート上に形成されたウレタンフィルムを、ポリプロピレンシートから剥離し、単層フィルム(S1)を得た。
乾燥後膜厚をデジタル膜厚計で測定したところ、フィルムの平均膜厚は58μmであった。また、算術平均粗さ(Ra)は40μm、輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)は300μmであった。
【0097】
<細胞接着性ポリペプチド(P2−1)の準備>
特表平3−502935号公報中の実施例記載の方法に準じて、Arg Gly Asp配列(1)と(Gly Ala Gly Ala Gly Ser)9配列(47)とを各々約13個有し、数平均分子量約10万のペプチド”SLPF”を遺伝子組み換え大腸菌により製造し、カラムクロマトグラフィーにて精製して細胞接着性ポリペプチド(P2−0)を得た。さらに、この(P2−0)をオートクレーブ滅菌(120℃、20分)することにより、細胞接着性ポリペプチド(P2−1)を得た。
【0098】
<創傷被覆材(H1)の調製>
1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(シグマ社製)の0.479gを50mLのイオン交換水に溶解し、カルボジイミド水溶液を作製した。このカルボジイミド水溶液の50mLと単層フィルム(S1)の10cm×10cmとをガラスシャーレに投入し、25℃で1時間静置した。その後、100mLの脱イオン水で5回洗浄した。次に、細胞接着性ポリペプチド(P2−1)の水溶液{(P2−1)の濃度:100ng/mL}の50mLを投入し、25℃で1時間静置させ、(S1)に(P2−1)を結合させた。さらに、ポリエチレンイミン含有水溶液{ポリエチレンイミン(MW=10000)の濃度:50ng/mL}の50mLを投入し、25℃で1時間静置させ、(S1)にポリエチレンイミン(MW=10000)を結合させた。その後、100mLのイオン交換水で5回洗浄し、37℃の循風乾燥機の中で12時間乾燥させ、創傷被覆材(H1)を調製した。(H1)1cm×1cm当たりの(P2−1)の付着量(含有量)は、1μgであった。
【0099】
創傷被覆材(H1)の細胞接着性ポリペプチド(P2−1)の付着量(含有量)は、以下の手順で測定した。
(1)細胞接着性ポリペプチド(P2−1)の付着量(含有量)が既知の標準創傷被覆材(N1)及び付着量が未知の創傷被覆材(H1)を各々1cm×1cmの正方形状に切り取り、牛血清アルブミンを1重量%で含有するPBSの3mL中に1枚を投入し、室温(25℃)で2時間浸漬した。
なお、標準創傷被覆材の調整は、上記の創傷被覆材(H1)の調製と同様に行うが、付着量は、細胞接着性ポリペプチドが付着後のP2−1水溶液を濃縮、凍結乾燥して、未付着の細胞接着性ポリペプチド重量を求め、付着前の細胞接着性ポリペプチド重量から未付着の細胞接着性ポリペプチド重量を差し引くことにより求めた。
【0100】
(2)各創傷被覆材を取り出し、ペルオキシダーゼ標識抗P2−1抗体を10μg/mL、牛血清アルブミンを1重量%及びTween20を0.2重量%で含有するPBSの2mL中に各創傷被覆材1枚を投入し、37℃で2時間反応した。反応後、Tween20を0.2重量%で含有するPBSの5mLで各創傷被覆材を3回洗浄した。
尚、ペルオキシダーゼ標識抗P2−1抗体の調製は、ポリクローナル抗体作製法(エンザイムイムノアッセイ、石川榮治訳、株式会社東京化学同人、1989年)にしたがってウサギに細胞接着性ポリペプチド(P2−1)を免疫して抗P2−1抗体を得て、その抗P2−1抗体とペルオキシダーゼ(東洋紡績株式会社製)とをマレイミド法(エンザイムイムノアッセイ、石川榮治訳、株式会社東京化学同人、1989年)によって結合させることにより、ペルオキシダーゼ標識抗P2−1抗体を得た。
【0101】
(3)各創傷被覆材を取り出し、OLYDAS専用試薬の発色液セット(三洋化成工業株式会社製)の0.2mLとイオン交換水の1.8mLとの混合液中に各創傷被覆材1枚を投入し、37℃で1時間反応した。反応後、380nmの波長で吸光度測定した。
(4)標準創傷被覆材(N1)の吸光度を用いて検量線を作成し、その検量線から、創傷被覆材(H1)の付着量を得た。以下、同様にしてポリペプチドの付着量を測定した。
【0102】
<実施例2>
<創傷被覆材(H2)の調製>
1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(シグマ社製)の0.479gを50mLのイオン交換水に溶解し、カルボジイミド水溶液を作製した。このカルボジイミド水溶液の50mLと単層フィルム(S1)の10cm×10cmとをガラスシャーレに投入し、25℃で1時間静置した。その後、100mLの脱イオン水で5回洗浄した。次に、細胞接着性ポリペプチド(P2−1)の水溶液{(P2−1)の濃度:100ng/mL}の50mLを投入し、25℃で1時間静置させ、単層フィルム(S1)に(P2−1)を結合させた。その後、100mLのイオン交換水で5回洗浄し、37℃の循風乾燥機の中で12時間乾燥させ、創傷被覆材(H2)を調製した。(H2)1cm×1cm当たりの(P2−1)の付着量(含有量)は、1μgであった。
【0103】
<実施例3>
<創傷被覆材(H3)の調製>
1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(シグマ社製)の0.479gを50mLのイオン交換水に溶解し、カルボジイミド水溶液を作製した。このカルボジイミド水溶液の50mLと単層フィルム(S1)の10cm×10cmとをガラスシャーレに投入し、25℃で1時間静置した。その後、100mLの脱イオン水で5回洗浄した。次に、ポリエチレンイミン含有水溶液{ポリエチレンイミン(MW=10000)の濃度:50ng/mL}の50mLを投入し、25℃で1時間静置させ、(S1)にポリエチレンイミン(MW=10000)を結合させた。その後、100mLのイオン交換水で5回洗浄し、37℃の循風乾燥機の中で12時間乾燥させ、創傷被覆材(H3)を調製した。
【0104】
<実施例4>
<単層フィルム(S2)の準備>
12ナイロンビーズ(直径150〜250μm)を、12ナイロンビーズ(直径400〜500μm)に変更した以外は実施例1と同様にして単層フィルム(S2)を得た。乾燥後膜厚をデジタル膜厚計で測定したところ、平均膜圧は138μmであった。また、算術平均粗さ(Ra)は280μm、輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)は190μmであった。
<創傷被覆材(H4)の調製>
単層フィルム(S1)を単層フィルム(S2)に変更した以外、実施例1と同様にして創傷被覆材(H4)を作製した。(H4)1cm×1cm当たりの(P2−1)の付着量(含有量)は、0.9μgであった。
【0105】
<実施例5>
<単層フィルム(S3)の準備>
12ナイロンビーズ6.67gを2.75gとした以外は実施例1と同様にして単層フィルム(S3)を得た。乾燥後膜厚をデジタル膜厚計で測定したところ、平均膜圧は47μmであった。また、算術平均粗さ(Ra)は32μm、輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)は588μmであった。
<創傷被覆材(H5)の調製>
単層フィルム(S1)を単層フィルム(S3)に変更した以外、実施例1と同様にして創傷被覆材(H5)を作製した。(H5)1cm×1cm当たりの(P2−1)の付着量(含有量)は、0.9μgであった。
【0106】
<実施例6>
<細胞接着性ポリペプチド(P3−1)の準備>
ペプチドの配列をArg Gly Asp配列(1)と(Gly Ala Gly Ala Gly Ser)9配列(47)とを各々約5個有し、数平均分子量約2万のペプチドに変更した以外は実施例1と同様にして細胞接着性ポリペプチド(P3−1)を得た。
<創傷被覆材(H6)の調製>
細胞接着性ポリペプチド(P2−1)を細胞接着性ポリペプチド(P3−1)に変更した以外、実施例1と同様にして創傷被覆材(H6)を作製した。(H6)1cm×1cmの(P3−1)の付着量は0.8μgであった。
【0107】
<実施例7>
<細胞接着性ポリペプチド(P4−1)の準備>
ペプチドの配列をArg Gly Asp配列(1)と(Gly Ala Gly Ala Gly Ser)9配列(47)とを各々約3個有し、数平均分子量約1万のペプチドに変更した以外は実施例1と同様にして細胞接着性ポリペプチド(P4−1)を得た。
<創傷被覆材(H7)の調製>
細胞接着性ポリペプチド(P2−1)を細胞接着性ポリペプチド(P4−1)に変更した以外、実施例1と同様にして創傷被覆材(H7)を作製した。(H7)1cm×1cmの(P4−1)の付着量は1.0μgであった。
【0108】
<実施例8>
<単層フィルム(S4)の準備>
12ナイロンビーズ6.67gを8.25gとした以外は実施例1と同様にして単層フィルム(S4)を得た。乾燥後膜厚をデジタル膜厚計で測定したところ、平均膜圧は61μmであった。また、算術平均粗さ(Ra)は20μm、輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)は52μmであった。
<創傷被覆材(H8)の調製>
単層フィルム(S1)を単層フィルム(S4)に変更した以外、実施例1と同様にして創傷被覆材(H8)を作製した。(H8)1cm×1cm当たりの(P2−1)の付着量(含有量)は、0.7μgであった。
【0109】
<実施例9>
<単層フィルム(S5)の準備>
12ナイロンビーズ(直径150〜250μm)を12ナイロンビーズ(直径50〜200μm)に変更した以外は実施例1と同様にして単層フィルム(S5)を得た。乾燥後膜厚をデジタル膜厚計で測定したところ、平均膜圧は50μmであった。また、算術平均粗さ(Ra)は11μm、輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)は920μmであった。
<創傷被覆材(H9)の調製>
単層フィルム(S1)を単層フィルム(S5)に変更した以外、実施例1と同様にして創傷被覆材(H9)を作製した。(H9)1cm×1cm当たりの(P2−1)の付着量(含有量)は、0.7μgであった。
【0110】
<実施例10>
<単層フィルム(S6)の準備>
12ナイロンビーズ(直径150〜250μm)を12ナイロンビーズ(直径750〜1500μm)に変更した以外は実施例1と同様にして単層フィルム(S6)を得た。乾燥後膜厚をデジタル膜厚計で測定したところ、平均膜圧は80μmであった。また、算術平均粗さ(Ra)は510μm、輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)は80μmであった。
<創傷被覆材(H10)の調製>
単層フィルム(S1)を単層フィルム(S6)に変更した以外、実施例1と同様にして創傷被覆材(H10)を作製した。(H10)1cm×1cm当たりの(P2−1)の付着量(含有量)は、0.8μgであった。
【0111】
<実施例11>
<単層フィルム(S7)の準備>
12ナイロンビーズ(直径150〜250μm)6.67gを、12ナイロンビーズ(直径50〜100μm)12.0gに変更した以外は実施例1と同様にして単層フィルム(S7)を得た。乾燥後膜厚をデジタル膜厚計で測定したところ、平均膜圧は94μmであった。また、算術平均粗さ(Ra)は14μm、輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)は21μmであった。
<創傷被覆材(H11)の調製>
単層フィルム(S1)を単層フィルム(S7)に変更した以外、実施例1と同様にして創傷被覆材(H11)を作製した。(H11)1cm×1cm当たりの(P2−1)の付着量(含有量)は、0.9μgであった。
【0112】
<実施例12>
<創傷被覆材(H12)の調製>
1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(シグマ社製)の0.479gを50mLのイオン交換水に溶解し、カルボジイミド水溶液を作製した。このカルボジイミド水溶液の50mLと単層フィルム(S1)の10cm×10cmとをガラスシャーレに投入し、25℃で1時間静置した。その後、100mLの脱イオン水で5回洗浄した。次に、細胞接着性ポリペプチド(P2−1)の水溶液{(P2−1)の濃度:100ng/mL}の50mLを投入し、25℃で1時間静置させ、(S1)に(P2−1)を結合させた。さらに、ポリエチレンイミン含有水溶液{ポリエチレンイミン(MW=1800)の濃度:50ng/mL}の50mLを投入し、25℃で1時間静置させ、(S1)にポリエチレンイミン(MW=1800)を結合させた。その後、100mLのイオン交換水で5回洗浄し、37℃の循風乾燥機の中で12時間乾燥させ、創傷被覆材(H12)を調製した。(H12)1cm×1cm当たりの(P2−1)の付着量(含有量)は、1μgであった。
【0113】
<実施例13>
<創傷被覆材(H13)の調製>
1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(シグマ社製)の0.479gを50mLのイオン交換水に溶解し、カルボジイミド水溶液を作製した。このカルボジイミド水溶液の50mLと単層フィルム(S1)の10cm×10cmとをガラスシャーレに投入し、25℃で1時間静置した。その後、100mLの脱イオン水で5回洗浄した。次に、ポリエチレンイミン含有水溶液{ポリエチレンイミン(MW=1800)の濃度:50ng/mL}の50mLを投入し、25℃で1時間静置させ、(S1)にポリエチレンイミン(MW=1800)を結合させた。その後、100mLのイオン交換水で5回洗浄し、37℃の循風乾燥機の中で12時間乾燥させ、創傷被覆材(H13)を調製した。
【0114】
<実施例14>
<創傷被覆材(H14)の調製>
1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(シグマ社製)の0.479gを50mLのイオン交換水に溶解し、カルボジイミド水溶液を作製した。このカルボジイミド水溶液の50mLと単層フィルム(S1)の10cm×10cmとをガラスシャーレに投入し、25℃で1時間静置した。その後、100mLの脱イオン水で5回洗浄した。次に、細胞接着性ポリペプチド(P2−1)の水溶液{(P2−1)の濃度:100ng/mL}の50mLを投入し、25℃で1時間静置させ、(S1)に(P2−1)を結合させた。さらに、ポリ−L−オルニチン含有水溶液{ポリ−L−オルニチン(MW=11900)の濃度:50ng/mL}の50mLを投入し、25℃で1時間静置させ、(S1)にポリ−L−オルニチン(MW=11900)を結合させた。その後、100mLのイオン交換水で5回洗浄し、37℃の循風乾燥機の中で12時間乾燥させ、創傷被覆材(H14)を調製した。(H14)1cm×1cm当たりの(P2−1)の付着量(含有量)は、1.1μgであった。
【0115】
<比較例1>
<単層フィルム(S8)の準備>
12ナイロンビーズを混合しないこと以外は実施例1と同様にして単層フィルム(S8)を得た。 乾燥後膜厚をデジタル膜厚計で測定したところ、フィルムの平均膜厚は60μmであった。
<創傷被覆材(H15)の調製>
単層フィルム(S1)を単層フィルム(S8)に変更した以外、実施例1と同様にして創傷被覆材(H15)を作製した。(H15)1cm×1cm当たりの(P2−1)の付着量(含有量)は、0.7μgであった。
【0116】
<比較例2>
<単層フィルム(S9)の準備>
12ナイロンビーズ(直径150μm〜250μm)を、直径1500〜2500μmのガラスビーズ(商品名:ガラスビーズ#2、東京硝子器械社製)に変更した以外は実施例1と同様にして単層フィルム(S9)を得た。
乾燥後膜厚をデジタル膜厚計で測定したところ、フィルムの平均膜厚は80μmであった。また、算術平均粗さ(Ra)は1020μm、輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)は510μmであった。
<創傷被覆材(H16)の調製>
単層フィルム(S1)を単層フィルム(S9)に変更した以外、実施例1と同様にして創傷被覆材(H16)を作製した。(H16)1cm×1cm当たりの(P2−1)の付着量(含有量)は、0.7μgであった。
【0117】
<評価1(細胞培養:インビトロ)>
実施例1〜14、比較例1〜2の創傷被覆材(H1)〜(H16)を各々直径1.2cmの大きさに切り取ったものを、クリーンベンチ中で表裏各1時間づつUV照射を行い、滅菌した。なお、1種類の創傷被覆材につき、6枚用意し、6回ずつ評価した。
また、正常ヒト皮膚繊維芽細胞増殖用低血清培地(倉敷紡績株式会社製)10mL中で5日間プレ培養しておいた正常ヒト皮膚線維芽細胞(倉敷紡績株式会社製)の1.5万個を、24穴ポリスチレンプレート(ベクトンディッキンソン社製)の各穴に置いたコラーゲンタイプIゲル(商品名:セルマトリックス、新田ゼラチン社製)に播種して、37℃、二酸化炭素ガス濃度5容量%のインキュベーター中にて7日間の細胞培養を行い、培養真皮モデルを作成した。
【0118】
7日後に、培養真皮モデルを、無血清表皮角化細胞増殖用培地(倉敷紡績株式会社製)を各穴150μL入れた別の24穴ポリスチレンプレートに移し、培養真皮モデルの上面中央部に、正常ヒト表皮角化細胞(倉敷紡績株式会社製)3μLを播種し、さらに播種した正常ヒト表皮角化細胞上に予め滅菌しておいた創傷被覆材(H1)〜(H16)を貼りつけた。貼りつけは、接着剤等は用いず、正常ヒト表皮角化細胞を播種した培養真皮モデルと創傷被覆材(H1)〜(H16)が接するように、正常ヒト表皮角化細胞を播種した培養真皮上にピンセットを用いて創傷被覆材(H1)〜(H16)を置いた。
創傷被覆材(H1)〜(H16)を貼りつけた培養真皮モデルは再び37℃、二酸化炭素ガス濃度5容量%のインキュベーターに戻し、さらに7日間培養を行った。
【0119】
培養7日後に、創傷被覆材(H1)〜(H16)を培養真皮の上面から各々剥がし、新しい24穴ポリスチレンプレートに創傷被覆材(H1)〜(H16)を1枚/穴で投入し、そこへ塩化ナトリウムを0.85重量%で含有するリン酸緩衝液(0.02M、pH7.2)の125μL及びテトラカラーワン(生化学工業社製)の25μLを、1穴づつ投入し、37℃、二酸化炭素ガス濃度5容量%のインキュベーター中にて4時間放置した。
【0120】
4時間後に、インキュベートしておいた24穴プレートの各穴から60μLの液を抜き出し、液中のホルマザン生成量を492nm(対照波長630nm)の吸光度で分光光度計を用いて測定し、この値を創傷被覆材表面に付着している細胞の細胞活性とした。この測定は1穴について2回測定し、結果として(H1)〜(H16)について各12個の測定データを得、これらの測定データと算術平均、標準偏差及び変動係数(%)を表1及び2に示した。なお、細胞活性は、吸光度の高さに比例するので、吸光度の算術平均が大きい程細胞活性が高いことを意味する。また、テトラカラーワンのテトラゾリウム塩が、細胞内ミトコンドリアのデヒドロゲナーゼにより還元されて、ホルマリンを生成することにより発色する。
【0121】
【表1】

【0122】
【表2】

【0123】
以上の結果から、比較例の創傷被覆材の変動係数は31又は41%と高い値であるのに対し、本発明の創傷被覆材{実施例1〜14}の変動係数は7〜20%と極めて低い。このことは、本発明の創傷被覆材の表面には、再現性よく細胞が増殖し付着していることを示し、すなわち、本発明の創傷被覆材は創傷治癒効果のばらつきの小さい(再現性の高い)ことことを示していることが判明した。
【0124】
<評価2(動物実験)>
DMマウス(C57BLK Jcl db/db、日本クレア株式会社製)12匹に対し、ジエチルエーテルによる吸気麻酔を実施し、フェザー剃刀を用いて背部全面を剃毛し、その中央部に正方形(各辺1.0cm)の全層皮膚欠損創を作製した。なお、DMマウスは、糖尿確認用ストリップ(ウロピース、藤沢薬品工業株式会社製)を用いて、糖尿病発症が確認されているものを使用した。
実施例1の創傷被覆材(H1)、比較例1の創傷被覆材(H15)を各々1.5cm×1.5cmの大きさに切り取ったものを、粘着フィルム(商品名:テガダーム、3Mヘルスケア株式会社製)に貼り合わせ、創傷被覆材側が該創面に当たるように貼り付けし、さらに、粘着性バンデージ(商品名:シルキーテックス、アルケア株式会社製)で体幹部全周を巻き付け、固定した。観察個体数は、(H1)適用群、(H15)適用群それぞれ6匹づつとした。
生育環境は室温24℃、飼料、給水ともに自由摂取状態とした。観察点は7日目として肉眼所見にて創傷治癒状態を確認した。評価は次の判定基準に従い、○、×のニ段階評価とした。これらの結果を表3に示す。
<判定基準>
○:創縁部から創傷の中心に向かって表皮が順調に再生され、未再生部分が64mm2未満である。
×:創傷の未再生部分が64mm2以上存在し、表皮の再生が不十分である。
【0125】
【表3】

【0126】
以上の結果より、本発明創傷被覆材(実施例1)では6匹とも○になったのに対して、比較用の創傷被覆材(比較例1)では3匹が○、3匹が×であった。このことは、実施例1は創傷治癒効果の再現性が高いことを示している。
【産業上の利用可能性】
【0127】
本発明の創傷被覆材は、ヒト用の創傷被覆材としてだけではなく、ヒト以外の動物用の創傷被覆材として使用できる。さらにインビトロで細胞培養するための基材としても使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0128】
【図1】基準長さ{U}と輪郭曲線{Z(x)}との関係を模式的に表した単層フィルム(S)の断面図である。
【図2】基準長さ(U)と輪郭曲線要素{XSi}との関係を模式的に表した単層フィルム(S)の断面図である。
【図3】実施例1で得た本発明の創傷被覆材[H1]の表面を、デジタルマイクロスコープ(キーエンス社製HDマイクロスコープ「VH―8000」)、50倍で観察した写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
JIS B0601:2001「4.2.1輪郭曲線の算術平均高さ」に規定された算術平均粗さ(Ra)が1μm〜1000μm、且つJIS B0601:2001「4.3.1輪郭曲線要素の平均長さ」に規定された輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)が10μm〜5mmである表面性状パラメータをもつ単層フィルム(S)から構成されることを特徴とする創傷被覆材。
【請求項2】
2級アミノ基(A1)、3級アミノ基(A2)、アンモニオ基(A3)、ホスファチジル基(A4)、及びリゾホスファチジル基(A5)からなる群より選ばれる少なくとも1つの官能基(A)を含む化合物(AM)、並びに/又は細胞接着性最小アミノ酸配列(X)を1分子中に少なくとも1個有するポリペプチド(XM)を有してなる請求項1に記載の創傷被覆材。
【請求項3】
ポリペプチド(XM)を有してなり、細胞接着性最小アミノ酸配列(X)がArg Gly Asp配列、Leu Asp Val配列、Leu Arg Glu配列、His Ala Val配列及び配列番号(1)〜(8)のいずれかで表されるアミノ酸配列からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項2に記載の創傷被覆材。
【請求項4】
ポリペプチド(XM)を有してなり、(XM)が補助アミノ酸配列(Y)をポリペプチド(XM)の1分子中に少なくとも1個有してなる請求項2又は3に記載の創傷被覆材。
【請求項5】
官能基(A)を含む化合物(AM)を有してなり、(AM)の重量平均分子量(MW)が1,000〜100,000である請求項2〜4のいずれかに記載の創傷被覆材。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2006−150072(P2006−150072A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−309696(P2005−309696)
【出願日】平成17年10月25日(2005.10.25)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】