説明

創傷評価方法及び画像撮影装置

【課題】肌の創傷部位を容易に評価することのできる創傷評価方法及び画像撮影装置を提供する。
【解決手段】肌の創傷部位を評価するための画像を撮影する画像撮影装置であって、水溶性の染色剤で染色した創傷部位に特定の波長の光を照射する光源部と、前記特定の波長の光が照射された肌を撮影するカメラと、を備えることを特徴とする画像撮影装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肌の創傷部位を評価する創傷評価方法及び画像撮影装置に関し、特に、角質層の剥離部分や肌荒れ部分、更には剃刀による角質層の切断面を評価するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
安全剃刀や電気シェーバーを用いて髭を剃ることにより、顔や顎などの皮膚が削られ、創傷が形成される。この肌の創傷によるダメージは、TEWL(transepidermal water loss)計を用いた肌水分蒸散量により評価することが可能であるが、この手法では肌の創傷状態の観察を行うことは困難である。一方、特許文献1には、複数の波長の光を肌に照射し、皮膚中のヘモグロビンに吸収させることが記載されている。これにより、傷ついた皮膚組織を画像により観察することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000―139846号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記従来技術は、炎症により血流が亢進した状態を観察するものであり、炎症を生じないような角質層の剥離部分や肌荒れ部分などの肌のダメージが小さい状態を観察することができなかった。また、角質層が剃刀で切断されたような切断面に関しても観察することができず、周辺組織が広範囲に検出されるという課題があった。
【0005】
本発明は前記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、肌の創傷部位を容易に評価することのできる創傷評価方法及び画像撮影装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、肌の創傷部位を評価する創傷評価方法であって、肌の創傷部位を水溶性の染色剤で染色することを特徴とする。
【0007】
また、水溶性の染色剤を肌に塗布する第1の工程と、塗布後に水溶性の染色剤を洗い流す第2の工程と、特定の波長の光を肌に照射する第3の工程とを備えてもよい。
【0008】
また、前記第1の工程では、フルオレセインを含む水溶性の染色剤を用いてもよい。
【0009】
また、前記第1の工程では、水溶性の染色剤を含んだ液体を噴霧により塗布してもよい。
【0010】
また、前記第2の工程の後に、アルカリ剤を肌に塗布する第2´工程を備えてもよい。
【0011】
また、前記第3の工程の後に、染色された創傷部位を画像撮影装置で撮影する第4の工程を備えてもよい。
【0012】
また、前記第4の工程では、染色された創傷部位をイエローフィルターを介して撮影してもよい。
【0013】
本発明は、肌の創傷部位を評価するための画像を撮影する画像撮影装置であって、水溶性の染色剤で染色した創傷部位に特定の波長の光を照射する光源部と、前記特定の波長の光が照射された肌を撮影するカメラとを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、肌の創傷部位を水溶性の染色剤で染色するため、肌の創傷部位を容易に評価することのできる創傷評価方法及び画像撮影装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施形態における創傷部位評価方法の流れを示すフローチャートである。
【図2】実施形態における画像撮影装置の斜視図である。
【図3】実施形態における画像撮影装置の断面図である。
【図4】実施形態における電気シェーバーによる創傷部位の観察画像を示す図である。
【図5】実施形態における安全剃刀による創傷部位の観察画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0017】
図1は、実施形態における創傷評価方法の流れを示すフローチャートである。この創傷評価方法は、肌の創傷部位を評価する方法であって、図1に示すように、水溶性の染色剤を肌に塗布する第1の工程と、塗布後に水溶性の染色剤を洗い流す第2の工程と、アルカリ剤を肌に塗布する第2´の工程と、特定の波長の光を肌に照射する第3の工程と、染色された創傷部位を画像撮影装置で撮影する第4の工程とを備えている。
【0018】
まず、第1の工程について詳しく説明する。第1の工程で塗布される水溶性の染色剤としては、ブリリアントブルー、エリスロシン、ローズベンガル、フロキシン、マラカイトグリーン、エオシン、フルオレセインなどの染色剤を含んだ液体を用いることができる。特に、水溶性の蛍光色素であるフルオレセイン0.01%以上を含んだ水溶液を用いるのが望ましい。フルオレセインは安全性が高いうえ、フルオレセインの吸収波長である400nm〜550nmの波長領域の光を照射することにより、選択的にフルオレセインで染色された部分を発色させることができる。フルオレセインの濃度が0.01%よりも薄いと創傷部位への染色が不十分であり、観察可能な蛍光発色を得ることができない。この水溶性の染色剤の塗布方法としては、脱脂綿などに含浸してパッティングする方法や流水により塗布する方法を用いることもできるが、超音波霧化やスプレー、或いは静電霧化などによる噴霧が望ましい。これは、塗り斑がなく少量の染色剤で染色できるためである。
【0019】
次に、第2の工程について詳しく説明する。第2の工程では、アルコールや水、界面活性剤を含んだ水溶液などの水溶性の液体で水溶性の染色剤を洗い流す。特に、界面活性剤を含んだ水溶液は創傷部位以外に付着した染色剤を洗浄・除去するのに優れるうえ、安全性も高いことから最も望ましい。洗浄方法としては、界面活性剤の水溶液を肌に塗布して水道水で洗顔する方法を用いることができるが、界面活性剤を含んだ水溶液をスプレーなどにより噴霧して肌に塗布し、シャワーなどの流水で洗浄することが望ましい。
【0020】
次に、第2´の工程について詳しく説明する。第2´の工程では、アルカリ剤を肌に塗布する。フルオレセイン水溶液を塗布した場合に使用するアルカリ剤としては、リン酸ナトリウム水溶液、塩化アンモニウム水溶液、ホウ酸水溶液などの緩衝液が望ましい。アルカリ性の緩衝能を有することで、肌状態などによらず肌のpHを一定に保つことができるためである。アルカリ剤の塗布方法としては、塗り斑を防ぐために超音波霧化やスプレー、或いは静電霧化などによる噴霧が望ましい。
【0021】
次に、第3の工程について詳しく説明する。第3の工程では、各水溶性の染色剤の吸収波長に応じた光を照射する。フルオレセイン水溶液を塗布した場合は、その吸収波長である400nm〜550nmの波長領域を少なくとも含んだ光を照射するが、特に400nm〜550nmの波長領域のみの光を照射することが望ましい。
【0022】
次に、第4の工程について詳しく説明する。第4の工程では、染色された創傷部位を画像撮影装置で撮影する。この画像撮影装置は、撮影時に顔が挿入できる少なくとも1面が開放された箱状の形状で、顔の挿入部分と対向した面にCCDカメラと、第3の工程でいう特定の波長の光源とを備えていることが望ましい。これにより、特定の波長を照射しながら撮影することができる。このとき、装置外の光の影響をなくすため、顔を挿入した後に暗幕で開放面を覆うことが望ましい。また、衣類に付着している蛍光色素の影響をなくすため、衣類を暗幕などで覆いながら撮影することが望ましい。更に、フルオレセイン水溶液は乾燥すると発色強度が低下するため、第2・第2´の工程のあと直ぐに撮影することが望ましい。更に、計測環境下の急激な乾燥を防ぐためにも、加湿しながら撮影することが望ましい。そして、撮影時には、CCDカメラと顔との間にフィルターを設ける。このフィルターは、特定の波長の光を照射したときに励起される特定の光のみを透過するものである。例えば、フルオレセイン水溶液を染色剤として用いて400nm〜550nmの波長領域の光を照射する場合は、540nmの光を透過するイエローフィルターを設けることが望ましい。
【0023】
この第4の工程の後に、撮影された画像のうち蛍光発色した部分を二値化処理して数値化する工程を更に備えても構わない。このような数値化工程を備えれば、創傷部位の面積に応じて創傷の程度をランク分けすることも可能である。例えば、画像撮影装置は、染色された創傷部位を撮影し、撮影した画像を二値化処理する。そして、二値化した数値が所定の閾値以上の部分を蛍光発色した部分とみなして、その部分の面積を算出する。更に、算出した面積が予め定めた複数の範囲のいずれに該当するかを判断し、その該当範囲に応じてランクを特定する。このようにすれば、創傷の程度をランク分けする処理を自動的に行うことが可能である。もちろん、二値化処理は必ずしも必要ではない。すなわち、二値化処理を行わなくても、撮影された画像のうち蛍光発色した部分を特定することができれば、前記と同様の効果を得ることができる。また、ここでは、創傷の程度をランク分けすることとしているが、評価の方法は特に限定されるものではない。創傷部位を単に観察することも評価の一態様である。
【0024】
以下、第4の工程で用いる画像撮影装置10の構成を更に詳しく説明する。図2は画像撮影装置10の斜視図、図3は画像撮影装置10の断面図である。これらの図に示すように、矩形の箱体形状の装置本体11の前面には、顔が挿入できるように開口部12が設けられている。この開口部12と対向する面には光源部13とカメラ14が設けられている。光源部13は、400nm〜550nmの波長領域の光を照射する。カメラ14のレンズには、540nmの光を透過するイエローフィルター15が取り付けられている。光源部13とカメラ14は制御部16を介して操作部17と接続され、操作部17を用いて光照射と撮影を行うことが可能となっている。更に、開口部12には暗幕18を設けている。開口部12に顔を挿入した後、暗幕18を頭部に掛けて箱体内部に周囲の光の侵入を防ぐことができる。
【0025】
次に、創傷評価の具体例を説明する。ここでは、鼻下の髭を電気シェーバーを強く押し当てて剃った場合と安全剃刀で剃った場合に生じた創傷部位を以下の手順に従って評価した。
【0026】
まず、フルオレセイン0.2%水溶液をスプレーに充填し、創傷部位を含んだ顔に塗布する。塗布1分後に非イオン系界面活性剤3%を含んだ洗顔剤を肌に塗布し、水で1分間の洗顔を行った。洗顔直後にタオルで水を拭き取り、その後にpH8のリン酸緩衝液をスプレーで噴霧した。この状態で画像撮影装置10に顔を挿入し、暗幕18で頭全体を覆った後、400nm〜550nmの波長領域の光を光源部13から照射しながらイエローフィルター15を介してカメラ14で撮影を行った。
【0027】
図4は、電気シェーバーを強く押し当てて剃った場合に生じた創傷部位の画像を、図5は、安全剃刀で剃った場合に生じた創傷部位の画像をそれぞれ示している。図4には丸印M1で囲った鼻下に、図5には丸印M2で囲った頬部にそれぞれ緑色の蛍光発色部分があり、この蛍光発色部分が創傷部位であることがわかる。何れも肌が出血や炎症を生じない程度の創傷を感度良く可視化して観察することができる。
【0028】
なお、図4では、丸印M1の上部にも蛍光発色部分が存在するが、これは第2の工程で染色剤を洗い流す際、鼻下の部分が十分に洗えていなかったことが原因である。このように、蛍光発色部分であっても、評価の対象から除外すべき部分がある。そこで、創傷部位を評価する場合は、蛍光発色部分の有効/無効を判定するようにしてもよい。この判定方法は特に限定されるものではない。例えば、画像撮影装置10のユーザが蛍光発色部分の有効/無効を指定するようにしてもよい。あるいは、画像認識技術により蛍光発色部分の輪郭を認識し、その認識結果に基づいて自動的に蛍光発色部分の有効/無効を判定するようにしてもよい。このようにすれば、蛍光発色部分であっても、洗い残しなどが原因で発色している部分については、評価の対象から除外することができる。
【0029】
以上のように、実施形態における創傷評価方法では、肌の創傷部位を水溶性の染色剤で染色する。これにより、創傷のない正常な部位は染色されず創傷部位のみ選択的に染色されるため、肌の創傷部位を容易に評価することができる。これにより、評価の結果に基づいて電気シェーバーなどの製品の性能向上を図ることが可能となる。
【0030】
また、実施形態における創傷評価方法は、水溶性の染色剤を肌に塗布する第1の工程と、塗布後に水溶性の染色剤を洗い流す第2の工程と、特定の波長の光を肌に照射する第3の工程とを備える。第1の工程によれば、創傷部位を選択的に染色することが可能である。すなわち、正常角質表面は皮脂などによって疎水性であるため染色されないのに対して、創傷部位は角質の深部に達しているために水分量が多くなり、水溶性の染色剤で染色されやすい。また、第2の工程によれば、正常角質表面において染色されずに残留した水溶性の染色剤が除去されるので、創傷部位にのみ特異的に染色剤が染色・残留することになる。そして、第3の工程によれば、残留した染色剤の吸収波長の光を照射して強く発色させることができる。すなわち、創傷部位に染色された水溶性の染色剤が特異的に吸収して励起する光を照射することで、創傷のない正常な部位から励起する光がないため、感度良く創傷部位を観察することができる。これらの一連の工程により創傷部位を選択的に観察・評価することが可能となる。
【0031】
また、第1の工程では、フルオレセインを含む水溶性の染色剤を用いるため、400nm〜550nmの波長の光を照射すると創傷部位を選択的に発光させることができるうえ、正常角質表面の発色を抑えてノイズを低減することができる。更に、フルオレセインは入浴剤や化粧品などに用いられているため、肌に付着させても安全性が高い。
【0032】
また、第1の工程では、水溶性の染色剤を含んだ液体を噴霧により塗布する。これにより、塗り斑を抑えて均一に塗布することができる。その結果、創傷部位の染色において、創傷の程度が大きくなるに従って染色による発光強度を高くすることが可能となる。
【0033】
また、第2の工程の後に、アルカリ剤を肌に塗布する第2´工程を備える。そのため、創傷部位に染色したフルオレセインの発光強度を高めることができる。これは、フルオレセインの発光強度がpHに依存し、アルカリ領域で高い発光強度を示すためである。また、第2の工程の後に肌のpHが異なるとフルオレセインの蛍光発色強度も異なり、評価精度に影響する。このため、予め所定のアルカリ剤を塗布することで肌のpHを一定に保つことができ、その結果、肌のpHによる発色のバラツキを抑えることが可能となる。
【0034】
また、第3の工程の後に、染色された創傷部位を画像撮影装置10で撮影する第4の工程を備える。これにより、創傷部位を撮影することができるうえ、画像処理により発色部分を二値化することで創傷部位を定量評価することが可能となる。
【0035】
また、第4の工程では、染色された創傷部位をイエローフィルターを介して撮影する。これにより、フルオレセインによる蛍光発色部分以外の発色をカットすることができるため、より鮮明に創傷部位を撮影することが可能となる。
【0036】
なお、ここでは液体の染色剤を塗布することとしているが、染色剤は液体に限定されるものではない。すなわち、染色剤のパウダーを塗布した上から水などの液体を噴霧するようにしてもよい。もちろん、液体の染色剤を塗布した方が簡便であり、また、塗り斑がなく少量の染色剤で染色することができる。
【0037】
また、ここでは髭を剃った場合に生じた創傷部位の評価方法について説明したが、評価対象はこれに限定されるものではない。例えば、脱毛したことにより生じた創傷部位や、スクラブ入り洗顔料で洗顔したことにより生じた創傷部位などを評価してもよい。すなわち、肌の創傷部位であれば、その創傷が生じた原因に関係なく、前記と同様の方法で評価することが可能である。
【符号の説明】
【0038】
10 画像撮影装置
13 光源部
14 カメラ
15 イエローフィルター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
肌の創傷部位を評価する創傷評価方法であって、
肌の創傷部位を水溶性の染色剤で染色することを特徴とする創傷評価方法。
【請求項2】
水溶性の染色剤を肌に塗布する第1の工程と、塗布後に水溶性の染色剤を洗い流す第2の工程と、特定の波長の光を肌に照射する第3の工程とを備えることを特徴とする請求項1に記載の創傷評価方法。
【請求項3】
前記第1の工程では、フルオレセインを含む水溶性の染色剤を用いることを特徴とする請求項2に記載の創傷評価方法。
【請求項4】
前記第1の工程では、水溶性の染色剤を含んだ液体を噴霧により塗布することを特徴とする請求項2または3に記載の創傷評価方法。
【請求項5】
前記第2の工程の後に、アルカリ剤を肌に塗布する第2´工程を備えることを特徴とする請求項2から4のいずれか一項に記載の創傷評価方法。
【請求項6】
前記第3の工程の後に、染色された創傷部位を画像撮影装置で撮影する第4の工程を備えることを特徴とする請求項2から5のいずれか一項に記載の創傷評価方法。
【請求項7】
前記第4の工程では、染色された創傷部位をイエローフィルターを介して撮影することを特徴とする請求項6に記載の創傷評価方法。
【請求項8】
肌の創傷部位を評価するための画像を撮影する画像撮影装置であって、
水溶性の染色剤で染色した創傷部位に特定の波長の光を照射する光源部と、
前記特定の波長の光が照射された肌を撮影するカメラと、
を備えることを特徴とする画像撮影装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate