説明

創薬のマルチターゲットスクリーニング装置

【課題】複数のターゲットタンパクについて活性を有する化合物の探索において、効率的なスクリーニングを可能とするシステムを提供する。
【解決手段】本発明に係るシステムは、2種以上のターゲットタンパクに対する活性を有する化合物を特定するためのシステムであって、複数の化合物を所定位置に配置してなる化合物ライブラリと、2種以上のターゲットタンパクを各々独立して所定位置に配置した同一のプレートが複数枚含まれているタンパクライブラリと、該プレートの各反応領域で試験化合物とターゲットタンパクとを反応させるための反応装置と、該反応領域内での試験化合物とターゲットタンパクとの反応を検出するための検出装置と、前記化合物ライブラリ中の化合物に試験選択順位を付けるための制御手段とを有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は創薬の分野において2種以上のターゲットタンパクに対して化合物のスクリーニングを行うときに効率の良いスクリーニング装置を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
創薬においてある1つのターゲットタンパクに対して化合物のスクリーニングを行う方法は確立されている。大手製薬会社においてはハイスループットスクリーニング(HTS)という装置を使って自動的に実験を行うようなシステムが使われている。
【0003】
最近、一つの化合物について2種以上のターゲットに対する活性をもつ化合物を探すという動きが出始めており、上述のシステムにおいて複数のターゲットタンパクに対する活性を調べようとすると、化合物ライブラリに含まれる全ての化合物についてターゲットタンパクに対する活性を調べた後、それらの結果をあわせて解析するということが行われる。
【0004】
この方法によると、ライブラリに含まれる全ての化合物について個々のターゲットタンパクに対する活性を調べることとなり、多大な時間と費用が必要となる。
【0005】
そこで、スクリーニング効率を向上させるため、学習法を用いて、あらかじめ計算機上でターゲットタンパクに作用する可能性のある化合物を探索し、候補を絞り込むということが行われる。例えば、スクリーニング効率を向上させる方法として、能動学習法を用いた創薬スクリーニング化合物選抜法が開発されている(非特許文献1)。
【0006】
能動学習法とは、学習者(コンピュータ)が訓練データを能動的に選択することで予測精度を向上させる学習法である。学習者が能動的に学習データを選択するマイニング技術の一つであり、選択データの実験・学習・未実験データの予測により、未実験データのうちで実験すべきデータを選択することを繰り返して、少ない実験で十分な予測性能を実現することが可能となる。例えば、1997年発行の日本の雑誌「情報処理」38巻7号558−561頁記載の安倍と中村による解説「能動学習概要」等に記されている。
【0007】
非特許文献1は、能動学習により学習の効率を向上させ、膨大な種類の化合物の中から特定のタンパク質に対し活性のある化合物を効率的に発見する創薬スクリーニング方法として注目されている。
【0008】
しかし、計算機で絞り込んだ化合物について活性を測定し、目的化合物を見つけ出すという、いわゆるインシリコ技術を使ったスクリーニング(<非特許文献1>)においても、個々のターゲットタンパクに対する活性を調べ、それらの結果を合わせるという点では、上記手法と本質的に変わりはない。
【非特許文献1】第32回構造活性相関シンポジウム予稿集”記述子サンプリング法を用いた能動学習法に基づく創薬スクリーニング”
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のように、複数のターゲットタンパクに活性を有する化合物をスクリーニングする場合には、学習法の利用の有無に関わらず、個々のターゲットタンパクについて活性を有する化合物を探索した後に、全てのターゲットタンパクに活性を有する化合物を選択するということが行われてきた。
【0010】
したがって、複数のターゲットタンパクに同時に活性を有する化合物の探索を行う場合、従来のスクリーニング方法では、探索効率は著しく低いものであった。つまり、複数のターゲットについて同時に活性を見るシステムとしては従来装置では十分なものとはいえなかった。
【0011】
そこで、本発明は、複数のターゲットタンパクについて活性を有する化合物の探索において、効率的なスクリーニング方法を提供するものである。
【0012】
また、本発明は、複数のターゲットタンパクについて活性を有する化合物の探索において、効率的なスクリーニングを可能とする装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係るシステムは、
2種以上のターゲットタンパクに対する活性を有する化合物を特定するためのシステムであって、
複数の化合物を所定位置に配置してなる化合物ライブラリと、
2種以上のターゲットタンパクを各々独立して所定位置に配置した同一のプレートが複数枚含まれているタンパクライブラリと、
該プレートの各反応領域で試験化合物とターゲットタンパクとを反応させるための反応装置と、
該反応領域内での試験化合物とターゲットタンパクとの反応を検出するための検出装置と、
前記化合物ライブラリ中の化合物に試験選択順位を付けるための制御手段とを有することを特徴とするシステムである。
【0014】
本発明に係るスクリーニング方法は、
2種以上のターゲットタンパクに活性を有する化合物のスクリーニング方法において、
化合物群から順次選択される化合物に対して、前記2種以上のターゲットタンパクの少なくとも1種に対する活性を測定する工程を含み、
学習法又は類似度計算方法によって次に測定する化合物を選び出すことを特徴とするスクリーニング方法である。
【0015】
本発明に係るスクリーニング方法は、
2種以上のターゲットタンパクに活性を有する化合物のスクリーニング方法において、
化合物群から順次選択される化合物に対して、前記2種以上のターゲットタンパクの少なくとも1種に対する活性を測定する工程を含み、
活性を有する化合物と化合物ライブラリに含まれる個々の化合物との類似度を計算し、
類似度の計算結果を基に次に実験する化合物を選び出すことを特徴とするスクリーニング方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば複数のターゲットタンパクのスクリーニングを行う場合更なる効率化が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1に本発明における構成を示す。
【0018】
本システムは、化合物が収納されている化合物ライブラリ101、ターゲットタンパクが格納されているタンパクライブラリ102、化合物とターゲットタンパクを混ぜ合わせるための化合物タンパク混ぜ合わせ装置103、混ぜ合わせた後に反応を行う反応装置104、反応後のプレートを受け取り活性を測定するための検出装置としての活性測定装置105、装置全体の制御を行うための制御手段としての制御装置106、制御装置からの情報を元に次に実験する化合物を運び出すための分配手段としての化合物ピックアップ装置107から構成されている。ここで、化合物タンパク混ぜ合わせ装置103、反応装置104、活性測定装置は105及びピックアップ装置107は、説明の簡略化のために別個独立の装置として記載したものであり、一般に個々の装置を別個に設ける必要はなく、化合物とターゲットタンパクを混ぜ合わせる機能、反応を行う機能、活性を測定する機能及び化合物を運び出す機能をあわせもつ実験装置として、一つにまとめて構成することも可能である。
【0019】
化合物ライブラリ101と制御装置106は配線によって結ばれており、化合物ライブラリに含まれる化合物の情報が化合物ライブラリの管理装置から制御装置106に伝えられる。化合物ライブラリ101と化合物ピックアップ装置107は、化合物ライブラリに含まれる化合物が化合物ピックアップ装置107に収められるように結ばれている。タンパクライブラリ102と化合物タンパク混ぜ合わせ装置103は、ターゲットタンパクが収納されたプレートがこれらの間を移動できるように結ばれている。化合物タンパク混ぜ合わせ装置103と反応装置104は、混ぜ合わせた後のプレートが反応装置104に移動できるように結ばれている。反応装置104と活性測定装置105は、反応後のプレートが活性測定装置105に移動できるように結ばれている。活性測定装置105と制御装置106は活性を測定した化合物の活性測定情報を提供できるように結ばれている。制御装置106と化合物ピックアップ装置107は、制御装置106で決めた次に実験する選択化合物が化合物ピックアップ装置107に伝えられるように結ばれている。化合物タンパク混ぜ合わせ装置103と化合物ピックアップ装置107は、化合物ピックアップ装置107が化合物ライブラリ101から運び出した選択化合物を、タンパクライブラリ102から提供されたターゲットタンパクが収納されているプレートのウエルに入れることができるように結ばれている。
【0020】
ここで、化合物ライブラリに含まれる化合物の情報はあらかじめ制御装置106に記憶されておいてもよい。
【0021】
化合物ライブラリ及びタンパクライブラリは通常の構成の装置を用いて構成できる。例えば、アンプルやバイアル中に各化合物の溶液をそれぞれの位置情報により規定された位置に配置し、そこからピペッター等の分配装置により、プレートのウエル等から構成される反応領域に必要量を分配すればよい。
【0022】
次に各装置の動作について図2を参照しながら説明する。
【0023】
まず、ユーザーがタンパクライブラリ102に複数のターゲットタンパクを並べ、化合物ライブラリ101に活性を測定する化合物を並べているとする(ステップ201)。
【0024】
化合物ライブラリ101に化合物を並べる順番に特に制約はない。また化合物の情報も同時に化合物ライブラリの管理装置等に記憶される。化合物の情報として記憶されるものは化合物を学習可能な形で表現したものであり、例えば化合物の構造記述子や物理化学定数等がある。また、化合物の情報は化合物ライブラリにおける位置情報とともに記憶される。
【0025】
位置情報の記述方法としては、例えばプレートの端から順に番号付けを行っても良いし、プレート番号とプレート内部の番号という組で表現しても良い。
【0026】
タンパクライブラリ102でも1枚のプレート内部では制約はないが、プレート間では同じ順序に並べなければならない。つまり任意のプレートにおいて1番目の穴は同じタンパクが注入されていることが前提条件となる。
【0027】
次に、化合物ライブラリ101に含まれる化合物は化合物ピックアップ装置107に送られ、化合物の情報はその位置情報とともに制御装置106に送られる(ステップ202)。
【0028】
次に、制御装置106では記憶された化合物の情報を学習し、次に実験する化合物を選択し、その情報を化合物ピックアップ装置107に伝える(ステップ203)。
【0029】
このとき化合物を選択する手段としては、学習(マイニング)した結果、正例スコアの高い化合物を選び出すような手法や、活性を有した化合物との類似度をTanimoto係数等の類似度計算方法によって計算して類似度が高いものから順に化合物を選び出す方法等がある。また、非特許文献1に記載されるような能動学習法を用いて、次に測定する化合物を選択することも可能である。
【0030】
使用する学習法は、例えば、決定木、決定リスト、ニューラルネットワーク、ナイーブベイズ(Naive Bayes)、ベイジアンネットワーク、遺伝的アルゴリズム、回帰分析、サポートベクタマシン等の何らかの表現形を用いて入出力データを学習するアルゴリズムであれば何でもよい。スコアは、個々の未知データの正例らしさの数値であり、例えば値が大きいほど、正例である可能性が高いことを示す。
【0031】
次に、化合物タンパク混ぜ合わせ装置103では、化合物ピックアップ装置107から送られてきた選択化合物が、タンパクライブラリ102から送られてきたターゲットタンパクが収納されている個々のウエルに入れて混ぜられる。混ぜられた選択化合物とターゲットタンパクを有するプレートは反応装置104に送られる(ステップ204)。
【0032】
次に、反応装置104では選択化合物のターゲットタンパクに対する活性を調べるため、それぞれのターゲットタンパクに対応した条件で反応が行われる。このときプレート内に配置された個々のターゲットタンパクの反応条件は同じであっても良いし、異なっていてもよい。反応終了後のプレートは活性測定装置105に送られる(ステップ205)。
【0033】
活性測定装置105では選択化合物の個々のターゲットタンパクに対する活性が測定される。得られた活性測定情報は選択化合物の位置情報とともに制御装置106に伝えられる。ここで、活性測定情報とは、例えば、活性の有無、活性の測定値等がある。
【0034】
次に、制御装置106では活性測定装置105から受け取った活性測定情報を蓄積し記憶する。そのとき個々のターゲットタンパクに対する化合物の活性情報の記憶方法としては、例えば、活性の測定値の情報をそのまま記憶させる、または、ある閾値を設けその閾値以上の活性を持つ場合には1、それ以外の場合には0として扱う手法等がある。
【0035】
また、選択化合物の複数のターゲットタンパクに対する実験結果については、例えば、個々のターゲットタンパクの結果を個々に記憶させたり、いずれか少なくとも1つのタンパクにおいて活性が認められた場合には1、すべてのタンパクにおいて活性が認められなかった場合には0として値を記憶させることもできる。また、活性測定情報は選択化合物の位置情報と対応付けて制御装置106に記憶される。
【0036】
次に、制御装置106に蓄積された化合物の情報と新たに取得した選択化合物の活性測定情報を基に、学習や類似度計算を行い、その結果スコアリング結果が高い化合物のうち実験を行っていないものから順に次に実験する化合物が選択される。そして、新たに選択された化合物の位置情報が化合物ピックアップ装置107に送られる(ステップ207)。新たな選択化合物の位置情報を送った後はステップ203から207の処理が、それらの処理をユーザーが終了させるまで、繰り返される。
【0037】
なお、本発明の構成を、ターゲットタンパクがプレートのウエルに収納され、そこに試験化合物を入れて反応を行う方法による例に基づいて説明したが、特にこの例に限定されるものではない。例えば、ターゲットタンパクを収納する容器として試験管やバイアルを使用してもよいし、反応を行う容器としても試験管やバイアル等を使用し、その試験管等に化合物溶液やタンパク溶液を混ぜ合わせることができる。
【0038】
また、本発明の構成を説明するにあたり、次に活性を測定する化合物を選択する方法として能動学習法を利用しているが、本発明で使用する学習法は特に能動学習法に限定されるものではなく、通常の学習法や類似度計算方法を使用することもできる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例を挙げ、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0040】
(実施例1)
実施例1では、化合物ライブラリとして4962個の市販ライブラリに含まれる化合物を使い、ターゲットタンパクとしてはGaba、Benzodiazepineという2つの受容体を用い、両ターゲットタンパクに活性を有する化合物の探索に本発明の構成を有するスクリーニング装置を用いた場合に、どの程度効率的に探索できるのかを確認した。
【0041】
使用した化合物ライブラリに含まれる化合物において、Gaba受容体のみに対し活性を有する化合物は39個、Benzodiazepine受容体のみに対し活性を有する化合物は6個、Gaba及びBenzodiazepine両方の受容体に活性を有する化合物は5個含まれている。なお、Gaba受容体に対し活性を有する化合物は44個、Benzodiazepine受容体に対し活性を有する化合物は11個含まれていることになる。
【0042】
以上のような目的で本提案装置を適合させると以下のようになる。
【0043】
化合物ライブラリ101には4962個の化合物が存在しており、タンパクライブラリ102に格納されるターゲットタンパクを収納するプレートには、少なくとも2つのウエルがあり、それぞれのウエルには個々のターゲットタンパクが収納されている。そのウエルが反応領域となり、活性を測定する化合物を注入し混ぜ合わせ、反応を行うことになる。1種の化合物について1プレート使用する設定となるため、個々のターゲットタンパクが所定位置のウエルに収納された同一のプレートが複数枚用意されていることになる。
【0044】
また、化合物ピックアップ装置107においては同時に96化合物を選び出すようなシステム構成とした。つまり、化合物ピックアップ装置107にて96化合物を選択し、化合物タンパク混ぜ合わせ装置103にてそれぞれの化合物を96枚の個々のターゲットタンパクが収納されたプレートのウエルに注入して混ぜ合わせることになる。
【0045】
制御装置106の内部では、決定木を下位学習機とした能動学習法(「発見科学とデータマイニング」参照、ISBN4−320−12018−3)を用いて次に実験を行う化合物を決めた。能動学習をした結果、まだ実験を行っていない化合物からスコアが高く判定された順に試験選択順位を決定し、化合物を選び出した。
【0046】
学習用データは、10分割を行い、そのうちの1つのデータセットを活性既知データとして学習を開始し、他の9つのデータセットを活性未知データとして扱い、活性未知データの中から両受容体に作用する化合物を特定することにした。データの分割は、(i)G
abaとBenzodiazepineの両方の受容体に活性のないものを10分割、(ii)GabaとBenzodiazepineの両方の受容体に活性を有する化合物を10分割、(iii)Gaba受容体のみ活性を有する化合物を10分割、(iv)Benzodiazepine受容体にのみ活性を有する化合物を10分割した後、(i)乃至(iv)における1分割づつをあわせ、10分割したデータを作成した。なお、正確に割り切れない部分は適当に振り分けた。
【0047】
評価は両ターゲットタンパクに対する活性を持つ全5化合物がいかに早期の段階で特定できるのかということで行った。なお、選び出した化合物の活性の有無については、活性測定を実際に行うことをせず、データベースに登録されている情報により確認した。
【0048】
制御装置106に記憶する活性の表現方法としては、以下の4種類である。
(A)Gaba及びBenzodiazepineの両方の受容体に活性を有する化合物のみを1とし、他の化合物を0として表現した場合
(B)Gaba受容体に活性を有する化合物のみを1とし、他の化合物を0として表現した場合
(C)Benzodiazepine受容体に活性を有する化合物のみを1とし、他の化合物を0として表現した場合
(D)Gaba及びBenzodiazepineのうちいずれか一方の受容体に活性を有する化合物のみを1とし、他の化合物を0として表現した場合
(A)は両受容体に作用する化合物を直接特定するとき、(B)はGaba受容体に作用する化合物を手がかりとして両受容体に作用する化合物を特定するとき、(C)はBenzodiazepine受容体に作用する化合物を手がかりとして両受容体に作用する化合物を特定するとき、(D)はいずれかの受容体のに作用する化合物を手がかりとして両受容体に作用する化合物を特定するとき、に相当している。
【0049】
(A)及び(C)の場合には10分割すると学習の初期段階において値1を持つデータが含まれていないようなデータセットが出現してしまい、性能を正確に測定することができなくなるおそれがあるため、理論的に妥当な5分割の1つのデータセットから学習を開始し、残りの4つのデータセットからデータを選び出すこととした。
【0050】
そのような問題設定のもと、両タンパク受容体に対する全活性化合物を特定するために要した化合物数は、
(A)では1473化合物、
(B)では976化合物、
(C)では880化合物、
(D)では784化合物
であった。
【0051】
従来法のようにHTSでそのままアッセイ実験を行う場合には全化合物について実験する必要があるため、4962化合物をすべて実験する必要がある。最初から2つのターゲットに対する活性を有する化合物のみを探索する場合((A)の場合)には1473化合物、Gaba受容体に作用する化合物を探したのち、その中からBenzodiazepine受容体にも作用する化合物を探す場合には976化合物、Benzodiazepine受容体に作用する化合物を探したのちGaba受容体にも作用する化合物を探す場合には880化合物、Gaba受容体とBenzodiazepine受容体とのいずれかに作用する化合物を探していく場合には784化合物で探し出すことができ、本発明の装置の有効性を示すことができた。
【0052】
(実施例2)
制御装置106においては上記のような能動学習法だけでなく、通常の学習法も手段として使うことができる。
【0053】
その場合、制御装置106における処理の方法としては、学習を行った結果、ターゲットタンパクに対する活性を有する化合物の特徴を持つというスコア順にランキング付けを行うということになる。上記と同様のシステム構成によって、通常の学習法を使ったときの実験を行った。
【0054】
下位学習機械としては決定木を使ったアンサンブル学習を行った。代表的なアンサンブル学習として、例えばバギング(Bagging)とブースティング(Boosting)がある。
【0055】
そのときの評価方法としては、学習後に選び出された最初の96個の化合物中に、両受容体に活性を有する化合物がいくつ含まれているかを比較した。
【0056】
その結果以下のような結果になった。
【0057】
(A)の場合0化合物
(B)の場合1化合物
(C)の場合0化合物
(D)の場合2化合物
この結果、早期の段階で、(D)が最も多くの活性化合物を探し出していることがわかり、制御装置106における学習方法は能動学習法だけでなく、通常の学習法も有効であることがわかった。
【0058】
(実施例3)
制御装置106においては学習法だけでなくTanimoto係数をはじめとする類似度計算手法も使うことができる。
【0059】
その場合、制御装置106における処理方法として、高い活性をもつ化合物と化合物ライブラリ101に含まれる化合物との類似度を計算し、その類似度の高い順にランキング付けを行うということになる。そのような手法の有効性は<非特許文献1>の類縁化合物選択法の性能が示すように、能動学習法ほどではないにせよ、同様の優れた効果を持つことが示されている。
【0060】
(実施例4)
本提案の手法は2つのターゲットを探索する場合だけでなく、3つ以上のターゲットに同時に作用するような化合物を探す場合にも容易に拡張できる。拡張方法はタンパクライブラリ102におけるターゲットの数を3以上にし、制御装置106では少なくとも1つのターゲットにおいて活性を認められた化合物に対して1、いずれのターゲットに対しても活性が認められなかった化合物には0と表現すればよいためである。そのように表現することによって前述の装置と同様の問題設定となるため、学習もしくは類似度検索により同様の効果をもつといえる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明に係るシステムの一例の構成図である。
【図2】本発明に係るスクリーニング法の一例のフローを示す図である。
【符号の説明】
【0062】
101:化合物ライブラリ
102:タンパクライブラリ
103:化合物タンパク混ぜ合わせ装置
104:実験装置
105:活性測定装置
106:制御装置
107:化合物ピックアップ装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種以上のターゲットタンパクに対する活性を有する化合物を特定するためのシステムであって、
複数の化合物を所定位置に配置してなる化合物ライブラリと、
2種以上のターゲットタンパクを各々独立して所定位置に配置した同一のプレートが複数枚含まれているタンパクライブラリと、
該プレートの各反応領域で試験化合物とターゲットタンパクとを反応させるための反応装置と、
該反応領域内での試験化合物とターゲットタンパクとの反応を検出するための検出装置と、
前記化合物ライブラリ中の化合物に試験選択順位を付けるための制御手段とを有することを特徴とするシステム。
【請求項2】
前記化合物ライブラリから試験化合物を取り出して、前記プレートの反応領域中に分配するための分配手段を更に有し、
前記制御手段により、前記試験選択順位に基づいて選択された試験化合物の新たな分析プレートへの分配が前記分配手段に指令される請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記制御手段は、前記化合物ライブラリにおける化合物の位置情報を用いて前記試験選択順位に基づいて選択された化合物を、前記化合物ライブラリにおける化合物の位置情報を用いて選択し、選択された位置にある化合物を新たなプレートへの分配を指令する請求項1又は2に記載のシステム。
【請求項4】
前記試験選択順位は、前記検出装置からの検出データと前記化合物ライブラリの各化合物に関する情報とを用いた学習又は類似度計算により決定されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかの請求項に記載のシステム。
【請求項5】
前記学習又は類似度計算を行うときのターゲットタンパクに対する活性の表現方法として、
少なくとも1つのターゲットタンパクに対する活性を持つことを示す値と、
いずれのターゲットタンパクに対しても活性を持たないことを示す値との2値により表現を行うことを特徴とする請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
前記学習又は類似度計算を行うときのターゲットタンパクに対する活性の表現方法として、
活性値が最も高い値によって表現を行うことを特徴とする請求項4に記載のシステム。
【請求項7】
2種以上のターゲットタンパクに活性を有する化合物のスクリーニング方法において、
化合物群から順次選択される化合物に対して、前記2種以上のターゲットタンパクの少なくとも1種に対する活性を測定する工程を含み、
学習法又は類似度計算方法によって次に測定する化合物を選択することを特徴とするスクリーニング方法。
【請求項8】
上記学習法が能動学習によって次に測定する化合物を選択することを特徴とする請求項7に記載のスクリーニング方法。
【請求項9】
上記学習法の学習機が決定木アルゴリズムであることを特徴とする請求項7又は8に記載のスクリーニング方法。
【請求項10】
2種以上のターゲットタンパクに活性を有する化合物のスクリーニング方法において、
化合物群から順次選択される化合物に対して、前記2種以上のターゲットタンパクの少なくとも1種に対する活性を測定する工程を含み、
活性を有する化合物と化合物ライブラリに含まれる個々の化合物との類似度を計算し、
類似度の計算結果を基に次に実験する化合物を選択することを特徴とするスクリーニング方法。
【請求項11】
学習や類似度計算を行うときのターゲットタンパクに対する活性の表現方法として、
少なくとも1つのターゲットタンパクに対する活性を持つことを示す値と、
いずれのターゲットタンパクに対しても活性を持たないことを示す値との2値により表現を行うことを特徴とする請求項7乃至10のいずれかの請求項に記載のスクリーニング方法。
【請求項12】
学習や類似度計算を行うときのターゲットタンパクに対する活性の表現方法として、活性値が最も高い値によって表現を行うことを特徴とする請求項7乃至10のいずれかの請求項に記載のスクリーニング方法。

【図1】
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【図2】
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