説明

力学量センサ素子

【課題】感歪抵抗体を形成するガラスマトリクスの鉛フリー化と実用上充分なレベルの感歪特性の発現とを両立可能な力学量センサ素子を提供する。
【解決手段】力学量センサ素子1は、応力の印加による歪み量の変化に応じて電気抵抗値が変化する感歪抵抗体4と、電気絶縁性を有する絶縁体である基板2とが密着して形成された構造を有し、感歪抵抗体4が鉛を含有せず且つビスマスを含有するガラスよりなるマトリクスに導電性粒子を分散してなるので、応力の印加による歪み量の変化に応じて電気抵抗値が変化し、この抵抗値変化を検出することによって力学的な変化量を測定することができる。また、感歪抵抗体4を形成するガラスが、環境負荷物質の一つである鉛を含有していないので、廃棄した場合等に環境へ悪影響を及ぼすことを防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、力、圧力、トルク、速度、加速度、衝撃力、重量質量、真空度、回転力、振動、騒音等の力学的な変化量を測定する力学量センサ素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、力、圧力、トルク、速度、加速度、衝撃力、重量質量、真空度、回転力、振動、騒音等の力学的な変化量を測定する力学量センサ素子として、歪み量の変化に応じて電気抵抗値が変化する特性(感歪特性)を有する感歪抵抗体を用いたものが提案され、実用に供せられている。そして、感歪抵抗体として、ガラスよりなるマトリクス(ガラスマトリクス)に導電性粒子を分散させた構造のものが知られている(例えば、特許文献1乃至3等参照。)。
【特許文献1】特開2005−172793号公報
【特許文献2】特開2003−247898号公報
【特許文献3】特開2005−189106号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来、感歪抵抗体を形成するガラスマトリクスには、良好な感歪特性を得るために、環境に悪影響を及ぼすとされる環境負荷物質の一つである鉛が含有されていること、及び導電粒子の粒径に制約があるという問題がある。
【0004】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、感歪抵抗体を形成するガラスマトリクスの鉛フリー化と実用上充分なレベルの感歪特性の発現とを両立可能な力学量センサ素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下、上記課題を解決するのに適した各手段につき、必要に応じて作用効果等を付記しつつ説明する。
【0006】
1.応力の印加による歪み量の変化に応じて電気抵抗値が変化する感歪抵抗体と、電気絶縁性を有する絶縁体とが密着して形成された構造を有する力学量センサ素子において、
前記感歪抵抗体は、鉛を含有せず且つビスマスを含有するガラスよりなるマトリクスに導電性粒子を分散してなることを特徴とする力学量センサ素子。
【0007】
手段1によれば、電気絶縁性を有する絶縁体と密着して形成された感歪抵抗体は、鉛を含有せず且つビスマスを含有するガラスよりなるマトリクスに導電性粒子を分散してなるので、応力の印加による歪み量の変化に応じて電気抵抗値が変化し、この抵抗値変化を検出することによって力学的な変化量を測定することができる。また、感歪抵抗体を形成するガラスが、環境負荷物質の一つである鉛を含有していないので、廃棄した場合等に環境へ悪影響を及ぼすことを防止することができる。
【0008】
2.前記導電性粒子は、酸化ルテニウムからなることを特徴とする手段1に記載の力学量センサ素子。
【0009】
手段2によれば、鉛を含有せず且つビスマスを含有するガラスフリットと酸化ルテニウムからなる導電性粒子との混合物をペースト化した材料を絶縁体上へスクリーン印刷し、焼成するという簡単な製造工程で感歪抵抗体を形成することができる。また、ガラス/酸化ルテニウム系の抵抗体材料は、その体積抵抗率を酸化ルテニウムの量により広範囲に調整可能であるため、任意の抵抗値を持つ感歪抵抗体を得ることができる。
【0010】
3.前記ガラスは、酸化ビスマスの含有量が46重量%以上であることを特徴とする手段1又は2に記載の力学量センサ素子。
【0011】
手段3によれば、ガラスにおける酸化ビスマスの含有量が46重量%以上であるので、感歪抵抗体は、実用上充分な感歪特性を発現する。ここで、実用上充分な感歪特性とは、例えば、300MPaの応力印加時に2%以上の抵抗変化率を示すものであり、このレベルの抵抗変化率を示す感歪抵抗体であれば、特殊な検出回路を用いることなく力学的な変化量を測定可能な力学量センサ素子を構成することができる。
【0012】
4.前記ガラスは、酸化ビスマスの含有量が80重量%未満であることを特徴とする手段3に記載の力学量センサ素子。
【0013】
手段4によれば、ガラスにおける酸化ビスマスの含有量が46重量%以上、80重量%未満であるので、感歪抵抗体は、必要な強度を確保しつつ、実用上充分な感歪特性を発現する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の力学量センサ素子を具体化した一実施形態について図面を参照しつつ具体的に説明する。図1は、本発明の一実施形態の力学量センサ素子1の概略構成を示す断面図である。
【0015】
力学量センサ素子1は、基板2と、基板2上に互いに離隔して形成された一対の電極3,3と、基板2上で両電極3,3を接続するように形成された感歪抵抗体4と、感歪抵抗体4上に融着された受圧体5とから構成される。
【0016】
基板2は、電気絶縁性の板材であり、例えば、アルミナ(Al)等のセラミックス板からなる。尚、基板2が、本発明の電気絶縁性を有する絶縁体を構成するものである。
【0017】
電極3,3は、例えば、基板2の表面に導電性材料である銀ペーストを塗布し、焼き付けを行うことにより形成される。
【0018】
感歪抵抗体4は、応力の印加による歪み量の変化に応じて電気抵抗値が変化する抵抗体であり、鉛を含有せず且つビスマスを含有するガラスよりなるマトリクス(以下、ガラスマトリクスと称する)に導電性粒子を分散してなるものである。感歪抵抗体4は、例えば、ビスマスを含有するガラスフリット(平均粒径1μm程度)と、導電性粒子としての酸化ルテニウム(RuO)の粒子(粒径20〜1000nm程度。例えば、平均粒径100nm、比表面積15m/g。)とを混合してペースト化した材料を、基板2の表面にスクリーン印刷し、ガラスフリットの融点以上の温度で焼成することにより形成される。
【0019】
受圧体5は、外部から印加される荷重Fを受ける部材であり、基板2と同様の電気絶縁性の板材、例えば、アルミナ(Al)等のセラミックス板からなり、感圧抵抗体4の表面に融着によって固定される。
【0020】
次に、感圧抵抗体4についてより詳細に説明する。感圧抵抗体4に用いるガラスとしては、例えば、鉛を含有せず且つビスマスを含有するホウケイ酸ガラスが好適であり、酸化ビスマス(Bi)の含有量が46重量%以上、80重量%未満であることが好ましい。
【0021】
ガラス組成の好適な一例を示すと以下の通りである。Bi:46〜79重量%、SiO:1〜8重量%、B:8〜16重量%、Al:1〜10、CaO:1〜2、ZnO:6〜7、ZrO:0〜12、残部:MgO、BaO、TiO、NaO、KO、Fe、CuO、SO、HfO。また、感歪抵抗体4における酸化ルテニウムの含有量は、20〜30重量%である。
【0022】
ここで、図2は、感圧抵抗体4を構成するガラスマトリクスにおける酸化ビスマス含有量と荷重300MPa印加時の抵抗変化率との関係を示すグラフである。尚、感圧抵抗体4の厚さは約10μmである。図2のグラフに示されるように、ガラスが酸化ビスマスを含有しない状態において、抵抗変化率は約1.2%である。酸化ビスマスの含有量を増加させると、それに伴い抵抗変化率が上昇して46重量%で抵抗変化率2%に達する。
【0023】
そして、感歪抵抗体4が2%以上の抵抗変化率を示すものであれば、特殊な検出回路を用いることなく力学的な変化量を測定可能な力学量センサ素子1を構成することができる。酸化ビスマスの含有量をさらに増加させると、抵抗変化率はさらに上昇して80重量%で抵抗変化率4.5%に達する。但し、酸化ビスマスの含有量を80重量%以上とすることは、ガラスマトリクスの形態及び強度確保の点で好ましくない。
【0024】
尚、ガラスフリットと酸化ルテニウム粒子との混合物の焼成温度は、ガラスにおける酸化ビスマス含有量が46重量%時に約850℃であり、80重量%時に約600℃である。
【0025】
上述した構成を有する力学量センサ素子1は、受圧体5に外部から荷重Fが印加されると、歪み量の変化に応じて感歪抵抗体4の電気抵抗値が変化し、この抵抗値変化を一対の電極3,3を介して検出することによって力学的な変化量を測定することができる。
【0026】
以上詳述したことから明らかなように、本実施形態の力学量センサ素子1は、応力の印加による歪み量の変化に応じて電気抵抗値が変化する感歪抵抗体4と、電気絶縁性を有する絶縁体である基板2とが密着して形成された構造を有し、感歪抵抗体4が鉛を含有せず且つビスマスを含有するガラスよりなるマトリクスに導電性粒子を分散してなるので、応力の印加による歪み量の変化に応じて電気抵抗値が変化し、この抵抗値変化を検出することによって力学的な変化量を測定することができる。また、感歪抵抗体4を形成するガラスが、環境負荷物質の一つである鉛を含有していないので、廃棄した場合等に環境へ悪影響を及ぼすことを防止することができる。
【0027】
特に、導電性粒子が酸化ルテニウムからなるので、鉛を含有せず且つビスマスを含有するガラスフリットと酸化ルテニウムからなる導電性粒子との混合物をペースト化した材料を基板2上へスクリーン印刷し、焼成するという簡単な製造工程で感歪抵抗体4を形成することができる。また、ガラス/酸化ルテニウム系の抵抗体材料は、その体積抵抗率を酸化ルテニウムの量により広範囲に調整可能であるため、任意の抵抗値を持つ感歪抵抗体4を得ることができる。
【0028】
また、ガラスにおける酸化ビスマスの含有量が46重量%以上であるので、感歪抵抗体4は、実用上充分な感歪特性(例えば、300MPaの応力印加時に2%以上の抵抗変化率)を発現する。よって、特殊な検出回路を用いることなく力学的な変化量を測定可能な力学量センサ素子1を構成することができる。特に、ガラスは、酸化ビスマスの含有量が80重量%未満であるので、感歪抵抗体4は、必要な強度を確保しつつ、実用上充分な感歪特性を発現する。
【0029】
更に、図3に示すように、本発明のBiを含有したガラスを用いた場合、従来のPb含有ガラスと異なり、導電粒子の粒径を小さくしても感歪性を維持できる。
【0030】
尚、本発明は上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更を施すことが可能であることは云うまでもない。
【0031】
例えば、前記実施形態では、基板2としてアルミナ製の板材を用いた例を示したがこれには限られない。また、感歪抵抗体4を構成するガラスマトリクス中に分散させる導電性粒子として酸化ルテニウムを用いた例を示したが、これ以外の導電性材料を用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、力学量センサ素子を構成する感歪抵抗体の鉛フリー化を図る場合に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の一実施形態の力学量センサ素子の概略構成を示す断面図である。
【図2】感圧抵抗体を構成するガラスマトリクスにおける酸化ビスマス含有量と荷重300MPa印加時の抵抗変化率との関係を示すグラフである。
【図3】300MPa印加時の抵抗変化率の導電粒子の粒径による変化を表すグラフである。
【符号の説明】
【0034】
1 力学量センサ素子
2 基板(絶縁体)
4 感歪抵抗体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
応力の印加による歪み量の変化に応じて電気抵抗値が変化する感歪抵抗体と、電気絶縁性を有する絶縁体とが密着して形成された構造を有する力学量センサ素子において、
前記感歪抵抗体は、鉛を含有せず且つビスマスを含有するガラスよりなるマトリクスに導電性粒子を分散してなることを特徴とする力学量センサ素子。
【請求項2】
前記導電性粒子は、酸化ルテニウムからなることを特徴とする請求項1に記載の力学量センサ素子。
【請求項3】
前記ガラスは、酸化ビスマスの含有量が46重量%以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の力学量センサ素子。
【請求項4】
前記ガラスは、酸化ビスマスの含有量が80重量%未満であることを特徴とする請求項3に記載の力学量センサ素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−20061(P2009−20061A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−184680(P2007−184680)
【出願日】平成19年7月13日(2007.7.13)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(000217228)田中貴金属工業株式会社 (146)