説明

力覚提示装置

【課題】様々な道具に対応可能で、現実の動きに対応して道具を交換可能で、より現実感があり、機能性流体に直接、力をかけることができ、容易に繰り返し使用することができる力覚提示装置を提供する。
【解決手段】MR流体から成る機能性流体12が、表面または内部にかかる力に対して抵抗力をかけることができ、一部が開口した収納容器11の内部に収納されている。移動台15が、収納容器11を載せて、サーボモータ26により水平方向および垂直方向に移動可能に設けられている。制御手段が、機能性流体12に磁場をかけるための磁場発生部13を有し、あらかじめ測定された、切断器具で生体軟組織を切断したときの生体軟組織の抵抗力に応じて、磁場発生部13を制御して機能性流体12の抵抗力を制御するとともに、生体軟組織の粘弾性特性に応じて、サーボモータ26を制御して移動台15の動きを制御するようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、力覚提示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、力覚提示装置を利用するものとして、外科手術の訓練を行うための外科手術シミュレータの開発が行われている。外科手術シミュレータを利用することにより、難しい手術の訓練を繰り返し行ったり、稀な症例の手術の訓練を行ったりすることができる。このような外科手術シミュレータ用の力覚提示装置としては、ナイフや剪刀などの様々な術具の使用時の感覚を提示するために、術具を媒介して人間の手に力覚を提示することが有効である。そこで、術具を機構の先端に固定することにより、サーボモータ等を利用して、術具への力の作用を提示する力覚提示装置が開発されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
また、MR流体やER流体といった機能性流体を利用した力覚提示装置として、人間が操作する操作部と、操作部に対する力に対して抗力をかけることができる、MR流体やER流体といった機能性流体を用いたパッシブ型力発生部とを有し、操作部を操作することにより、操作者に対し力感覚が提示されるものが開発されている(例えば、特許文献1参照)。また、注射針を刺したときの力覚を提示するために、MR流体の表面にゴム膜を張ったものも開発されている(例えば、非特許文献2参照)。
【0004】
なお、人間の指の腹に存在する感覚受容器のなかで最も高速な応答をするものはパチニ小体であり、100〜300Hzの振動刺激に対して敏感に反応することが知られている(例えば、非特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3819636号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】高木、阿部、姜、安孫子、近野、内山、「脳外科手術シミュレータ用ハプティックインタフェースの開発」、日本機械学会ロボティクス・メカトロニクス講演会’10 講演論文集、2010年、1A1-C09
【非特許文献2】Y.J. Lim, P. Valdiviay Alvarado, C.Y. Chang, and N. Tardella, “MRFluid Haptic System for Regional Anesthesia Training Simulation”, Proceedingsof Medicine Meets Virtual Reality (MMVR) 16, Long Beach, CA., Jan 29-Feb 01,2008, p.248-253
【非特許文献3】前野、「ヒト指腹部と触覚受容器の構造と機能」、日本ロボット学会誌、2000年、vol.18、No.6、p.772-775
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献1に記載の力覚提示装置では、術具などの道具を変更する際、機械部品によって道具を脱着するため、実際の手術では存在しない脱着のための動作を行う必要があり、現実感を損なうという課題があった。また、サーボモータ等で力覚を提示するため、術具による組織の切断時に生じる、細胞の破壊に伴う微細で不連続な力を再現することが困難であるという課題があった。
【0008】
特許文献1に記載の力覚提示装置は、術具などの道具を操作部に取り付ける必要があり、実際の手術では存在しない脱着のための動作を伴うため、現実感を損なうという課題があった。また、機能性流体に直接、力をかけるものではないという課題もあった。非特許文献2に記載の力覚提示装置では、使用するたびに頻繁にゴム膜を交換する必要があり、煩雑であるという課題があった。また、注射針以外の道具には利用できないという課題もあった。
【0009】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、様々な道具に対応可能で、現実の動きに対応して道具を交換可能で、より現実感があり、機能性流体に直接、力をかけることができ、容易に繰り返し使用することができる力覚提示装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る力覚提示装置は、表面または内部にかかる力に対して抵抗力をかけることができる機能性流体と、少なくとも一部が開口し、内部に前記機能性流体が収納された収納容器と、前記機能性流体にかかる力、および/または、その力のかかる位置を検出可能に設けられたセンサと、前記センサで検出された力および/または位置に応じて、前記抵抗力を制御可能に設けられた制御手段とを、有することを特徴とする。
【0011】
本発明に係る力覚提示装置は、機能性流体により、その表面または内部にかかる力および/または位置に対して抵抗力をかけることにより、ある対象物に力をかけたときの力覚を提示することができる。力をかける対象物としては、例えば、手術の対象となる生体軟組織などを想定することができる。また、対象物にかける力としては、例えば、ナイフや剪刀などの様々な術具により生体軟組織を切断したときの力や、注射針を刺す力などを想定することができる。このように、本発明に係る力覚提示装置は、様々な道具に対応することができる。
【0012】
また、本発明に係る力覚提示装置は、機能性流体を生体軟組織などの対象物と想定し、機能性流体を術具などで実際に切断等したときの対象物の抵抗力を機能性流体で再現することにより、実際に対象物を切断等したときの力覚を正確に提示することができる。再現する抵抗力は、センサで検出された力および/または位置に応じて制御手段により機能性流体を制御することにより、きめ細かくより正確に制御することができる。本発明に係る力覚提示装置は、術具などの道具を、機能性流体に対して実際の使用時と同様に使用することにより力覚を提示することができる。このため、現実の動きに対応して道具の交換等を行うことができ、現実感を高めることができる。また、道具を収納容器の開口から挿入して、直接、機能性流体に力をかけることができる。このため、非常に高速な応答性を有し、より現実感を高めることができる。
【0013】
本発明に係る力覚提示装置で、前記機能性流体は、MR流体またはER流体から成ることが好ましい。MR流体およびER流体は、それぞれ外部から磁場または電場を印加することにより、降伏せん断応力を変化させることができる。すなわち、MR流体またはER流体に、それぞれ磁場または電場を印加すると、図1に示すように、磁界方向または電界方向に沿って、鎖状クラスタが形成される。この鎖状クラスタの影響で、流体の見かけの粘性が変化して、降伏せん断応力が変化する。このため、制御手段により、MR流体またはER流体に、それぞれ磁場または電場を印加することにより、MR流体またはER流体の抵抗力を制御することができる。MR流体およびER流体の抵抗力は、それぞれ印加する磁場強度または電場強度により調整することができる。
【0014】
機能性流体がMR流体またはER流体から成る場合、特に、生体軟組織を切断するときの力覚を正確に提示することができる。非特許文献3に記載のように、人間の指の腹のパチニ小体は,100〜300Hzの振動刺激に対して敏感に反応するため、人間の指に対して様々な生体軟組織の切断感覚を提示するためには、100〜300Hzの高周波の振動刺激を与えることが望ましい。本発明に係る力覚提示装置では、図1に示す鎖状クラスタを刃物で切断することにより、刃物が生体軟組織を切断する際に生じる、細胞と刃物との間の不連続かつ微小変位での高周波の挙動を再現することができ、生体軟組織の切断感覚を正確に模擬することができる。また、MR流体およびER流体は、それぞれ磁場または電場に対する応答時間が数ミリ秒と速く、可逆的に変化するため、応答性が良く、容易に繰り返し使用することができる。
【0015】
本発明に係る力覚提示装置は、前記収納容器を載せて水平方向および/または垂直方向に移動可能に設けられた移動台を有し、前記制御手段は、前記センサで検出された力および/または位置に応じて、前記移動台の水平方向および/または垂直方向の動きを制御することが好ましい。この場合、制御手段で機能性流体全体の水平方向や垂直方向の動きを制御することにより、力をかける対象物全体の運動による大変形・低周波数の粘弾性力を提示することができる。例えば、対象物が生体軟組織のときには、柔軟物としての生体軟組織全体の粘弾性特性による力覚を提示することができる。また、制御手段で機能性流体全体を水平方向や垂直方向に動かすことにより、術具などの道具と機能性流体との接触を常に保つことができる。
【0016】
本発明に係る力覚提示装置で、前記移動台はサーボモータにより移動可能に構成され、前記制御手段は前記サーボモータを制御可能であることが好ましい。この場合、サーボモータを利用することにより、対象物全体の運動による大変形・低周波数の粘弾性力を、より正確に提示することができる。
【0017】
本発明に係る力覚提示装置は、生体軟組織を切断したときの切断感覚を提示するための力覚提示装置であって、前記機能性流体はMR流体から成り、前記制御手段は前記機能性流体に磁場をかけるための磁場発生部を有し、あらかじめ測定または計算された、切断器具で前記生体軟組織を切断したときの前記生体軟組織の抵抗力に応じて、前記磁場発生部を制御して前記機能性流体の前記抵抗力を制御するとともに、前記生体軟組織の粘弾性特性に応じて、前記移動台の動きを制御することが好ましい。この場合、生体軟組織を切断したときの抵抗力や粘弾性特性を高精度で再現することができ、生体軟組織の切断感覚を、より正確に提示することができる。制御手段により機能性流体の抵抗力を制御するときには、切断器具で生体軟組織を切断したときの生体軟組織の抵抗力をあらかじめ実際に測定した結果や、あらかじめシミュレーション等により計算した結果を利用するのが好ましい。
【0018】
本発明に係る力覚提示装置で、前記移動台は6自由度で移動可能であり、前記制御手段は前記移動台の6自由度の動きを制御可能であってもよい。この場合、対象物全体の運動による、水平2方向、垂直方向、および姿勢の3方向の、計6方向の大変形・低周波数の粘弾性力を提示することができる。
【0019】
本発明に係る力覚提示装置は、想定される力をかける対象物を表示するモニタを有していることが好ましい。この場合、モニタを見ながら、術具などの道具で機能性流体に力をかけることにより、現実感を出しやすく、シミュレーションの効果を高めることができる。また、より現実感を高めるために、術具などの道具により機能性流体に力をかけたときの様子を撮影する撮影手段を有し、撮影手段で撮影した様子を、モニタに表示した対象物に反映させるよう構成されていてもよい。モニタに表示される画像は、三次元画像であってもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、様々な道具に対応可能で、現実の動きに対応して道具を交換可能で、より現実感があり、応答性が良く、容易に繰り返し使用することができる力覚提示装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る力覚提示装置の、MR流体またはER流体から成る機能性流体に、それぞれ磁場または電場を印加したときに形成される鎖状クラスタを示す説明図である。
【図2】本発明の実施の形態の力覚提示装置の全体構成を示す側面図である。
【図3】図2に示す力覚提示装置の収納容器、機能性流体、磁場発生部および力センサを示す斜視図である。
【図4】図2に示す力覚提示装置の収納容器、磁場発生部、力センサおよび移動台を示す斜視図である。
【図5】図2に示す力覚提示装置の、サーボモータの作動原理を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面に基づき、本発明の実施の形態について説明する。
図2乃至図5は、本発明の実施の形態の力覚提示装置を示している。
図2に示すように、力覚提示装置10は、収納容器11と機能性流体12と磁場発生部13と力センサ14と移動台15と統合制御部16とを有している。なお、図2に示す力覚提示装置10は、生体軟組織を切断したときの切断感覚を提示するよう構成されている。
【0023】
図2および図3に示すように、収納容器11は、上部が開口した直方体状の容器から成っている。機能性流体12は、MR流体から成り、収納容器11に収納されている。MR流体は、外部から磁場を印加すると、磁界方向に沿って図1に示す鎖状クラスタが形成され、この鎖状クラスタの影響で、流体の見かけの粘性が変化して、降伏せん断応力が変化する。このため、機能性流体12は、磁場を印加することにより、表面または内部にかかる切断力に対して抵抗力をかけることができるようになっている。MR流体は、例えば、ハイドロカーボンオイル中に磁性体粒子を質量分率85.44%で分散させた、市販のLoad社製の商品名「MRF140−CG」から成っている。
【0024】
図3に示すように、磁場発生部13は、水平方向に並んで配置された2つの磁場発生コイル21と、各磁場発生コイル21の中心を貫通して閉磁路を形成する鉄鋼製のヨーク22とを有している。磁場発生部13は、各磁場発生コイル21の上方で、各磁場発生コイル21を貫通したヨーク22の各端部の間に、収納容器11を挟むようにして配置されている。これにより、磁場発生部13は、収納容器11に収納された機能性流体12に磁場を印加可能になっている。また、磁場発生部13は、各磁場発生コイル21に印加する電流の振幅や周波数を調整することにより印加磁場強度を変化させ、機能性流体12にかかる切断力に対する抵抗力を制御可能になっている。磁場発生部13は、一方の磁場発生コイル21の上部に設けられ、ヨーク22に貫通されたサーチコイル23を有している。サーチコイル23は、ヨーク22による閉磁路内の磁束変化を計測するよう構成されている。
【0025】
図2および図3に示すように、力センサ14は、6軸の力センサから成り、アタッチメント24を介してヨーク22の下部に固定されている。力センサ14は、機能性流体12にかかる切断力を、収納容器11からヨーク22、アタッチメント24を通して、検出可能になっている。
【0026】
図4に示すように、移動台15は、2自由度の並進移動を実現可能なパラレル機構25と、パラレル機構25を駆動するサーボモータ26とを有している。パラレル機構25は、高精度、高負荷、高剛性、高速性を有した機構であり、正面視で六角形状を成すよう、複数のリンク25aを複数の軸25bで接続して固定台27に取り付けられた構成を有している。パラレル機構25は、その六角形状の構成が正面側と背面側とに所定の間隔をあけて2重に設けられている。パラレル機構25は、正面側の六角形状の構成と背面側の六角形状の構成とが、各軸25bによって接続されて、同じ動きをするようになっている。パラレル機構25は、部品点数の削減、総重量の軽減、スペースの有効利用を考慮し、1本の軸25bに複数のリンク25aが結合する構造を成している。
【0027】
パラレル機構25は、その六角形状の上端の辺を成すよう設けられた移動板25cを有している。また、パラレル機構25は、その六角形状の中心位置から、1つおきに3つの角に向かって伸びる3本のリンク25dを有している。各リンク25dは、一端が互いに回転可能に結合し、他端が軸25bに結合している。移動台15は、リンク25dにより、移動板25cが固定台27に対して常に平行に保たれるよう構成されている。サーボモータ26は、固定台27に接続されたリンク25aを、軸25bを中心にして左右に回転させるよう構成されている。
【0028】
移動台15は、移動板25cの上面に力センサ14が固定されており、移動板25cの上に収納容器11、磁場発生部13および力センサ14が載っている。移動台15は、サーボモータ26により固定台27に接続されたリンク25aを回転させると、移動板25cが常に水平になるよう、他のリンク25aおよびリンク25dも回転するようになっている。これにより、移動台15は、サーボモータ26により、収納容器11を水平方向および垂直方向に移動可能になっている。また、図5に示すように、移動台15は、サーボモータ26により、生体軟組織の粘弾性特性を提示可能になっている。
【0029】
図2に示すように、統合制御部16は、コンピュータから成り、磁場発生部13、力センサ14、サーボモータ26に接続されている。統合制御部16は、あらかじめ測定された、メスなどの切断器具で生体軟組織を切断したときの生体軟組織の抵抗力に応じて、磁場発生部13を制御して機能性流体12の抵抗力を制御するようになっている。具体的には、統合制御部16は、磁場発生部13の各磁場発生コイル21に印加する電流の振幅や周波数を調整することにより印加磁場強度を変化させ、機能性流体12の抵抗力の大きさを制御するようになっている。
【0030】
また、統合制御部16は、生体軟組織の粘弾性特性に応じて、力センサ14で検出された力に基づいてサーボモータ26を制御し、移動台15の水平方向の動きを制御するようになっている。具体的な一例としては、統合制御部16は、切断器具1による作用力が生体軟組織の降伏力以下のとき、図5(b)に示すように、その作用力に応じて移動台15を移動させ、作用力が生体軟組織の降伏力を超えると、図5(c)に示すように、移動台15を止めるようになっている。なお、磁場発生部13および統合制御部16が、制御手段を構成している。
【0031】
なお、一般の刃物は磁性体であり、磁場発生部13のヨーク22に引き寄せられるおそれがある。このため、機能性流体12を切断するための切断器具1は、リン青銅などの非磁性体を用いて製造された、外科手術用のメスと同じ形状の刃物から成っている。
【0032】
具体的な一例では、磁場発生部13の磁場発生コイル21は、線径φ0.45の銅線を991回巻いたものから成り、印加電流を30Vとしたとき、0.97Aの電流が流れるようになっている。収納容器11およびアタッチメント24は、アルミニウム製であり、ヨーク22は一般構造用圧延鋼材のSS400製である。収納容器11は、内部が奥行き80mm、幅10mm、深さ20mmである。移動台15は、左右の水平方向に200mm、上下の垂直方向に100mmの可動域を有している。機能性流体12は、左右の水平方向および垂直方向に10Nの力を提示可能である。
【0033】
次に、作用について説明する。
力覚提示装置10は、磁場発生部13で機能性流体12に磁場を印加することにより、機能性流体12の表面または内部にかかる切断力に対して抵抗力をかけることができる。力覚提示装置10は、磁場発生部13を制御して、機能性流体12に、図1に示す鎖状クラスタを発生させることができる。この鎖状クラスタを切断器具1で切断することにより、刃物が生体軟組織を切断する際に生じる、細胞と刃物との間の不連続かつ微小変位での高周波の挙動を再現することができる。また、磁場発生部13の各磁場発生コイル21に印加する電流の振幅や周波数を調整することにより印加磁場強度を変化させ、機能性流体12の抵抗力の大きさを制御することができる。このように、力覚提示装置10は、生体軟組織の切断感覚を正確に模擬することができる。
【0034】
力覚提示装置10は、生体軟組織の粘弾性特性に応じて、移動台15の水平方向および垂直方向の動きを制御するため、柔軟物としての生体軟組織全体の粘弾性特性による、大変形・低周波数の粘弾性力を提示することもできる。図5に示すように、サーボモータ26を利用して移動台15の切断方向の動きを制御するため、生体軟組織の大変形・低周波数の粘弾性力を、正確に提示することができる。また、機能性流体12全体を水平方向および垂直方向に動かすことにより、切断器具1と機能性流体12との接触を常に保つことができる。このように、力覚提示装置10は、生体軟組織を切断したときの力覚をより正確に提示することができる。
【0035】
力覚提示装置10は、メスなどの切断器具1を、機能性流体12に対して実際の使用時と同様に使用することにより力覚を提示することができる。このため、現実の動きに対応して切断器具1の交換を行うことができ、現実感を高めることができる。また、機能性流体12の磁場に対する応答時間が数ミリ秒と速く、可逆的に変化するため、応答性が良く、容易に繰り返し使用することができる。また、切断器具1を収納容器11の開口から挿入して、直接、機能性流体12に力をかけることができるため、応答性が非常に速い。
【0036】
なお、力覚提示装置10は、移動台15が水平2方向、垂直方向、および姿勢の3方向の、計6方向に移動可能であり、統合制御部16が移動台15の6自由度の動きを制御可能であってもよい。この場合、対象物全体の運動による、6方向に沿った大変形・低周波数の粘弾性力を提示することができる。
【0037】
また、力覚提示装置10は、想定される力をかける対象物を表示するモニタを有していてもよい。この場合、モニタを見ながら、切断器具1で機能性流体12に力をかけることにより、現実感を出しやすく、シミュレーションの効果を高めることができる。また、より現実感を高めるために、切断器具1により機能性流体12に力をかけたときの様子を撮影する撮影手段を有し、撮影手段で撮影した様子を、モニタに表示した対象物に反映させるよう構成されていてもよい。モニタに表示される画像は、三次元画像であってもよい。
【0038】
また、図1に示すように、力覚提示装置10は、切断器具1に取り付けられた複数の光学マーカ51と、切断器具1により機能性流体12に力をかけたときの様子を撮影する赤外線カメラ52と、赤外線カメラ52で撮影した光学マーカ51の動きを、デジタルデータとして記憶するモーションキャプチャシステム53と、モーションキャプチャシステム53で記憶された光学マーカ51に基づいて、生体軟組織から成る仮想臓器に力を与えたときの反力を計算し、統合制御部16に送る数値シミュレータ54とを有し、統合制御部16が数値シミュレータ54で計算された反力と、光学マーカ51の動きと、移動台15の位置と、力センサ14で検出された力とに基づいて、磁場発生部13およびサーボモータ26を制御して前記反力を提示可能に構成されていてもよい。
【0039】
この場合、光学マーカ51を介して切断器具1の動きや位置、姿勢を正確に把握することができる。また、その切断器具1の動きや位置、姿勢を、切断器具1にかける機能性流体12の抵抗力に反映させることができ、生体軟組織を切断したときの力覚をより正確に提示することができる。これにより、例えば、血管の場所をメスで切っているときや、皮膚を切っているときなど、位置に応じて提示する力覚を変更することができる。なお、光学マーカ51、赤外線カメラ52およびモーションキャプチャシステム53が、切断器具1の位置、すなわち機能性流体12にかかる力の位置を検出するための位置センサを成している。
【符号の説明】
【0040】
1 切断器具
10 力覚提示装置
11 収納容器
12 機能性流体
13 磁場発生部
21 磁場発生コイル
22 ヨーク
23 サーチコイル
14 力センサ
24 アタッチメント
15 移動台
25 パラレル機構
26 サーボモータ
27 固定台
16 統合制御部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面または内部にかかる力に対して抵抗力をかけることができる機能性流体と、
少なくとも一部が開口し、内部に前記機能性流体が収納された収納容器と、
前記機能性流体にかかる力、および/または、その力のかかる位置を検出可能に設けられたセンサと、
前記センサで検出された力および/または位置に応じて、前記抵抗力を制御可能に設けられた制御手段とを、
有することを特徴とする力覚提示装置。
【請求項2】
前記機能性流体は、MR流体またはER流体から成ることを特徴とする請求項1記載の力覚提示装置。
【請求項3】
前記収納容器を載せて水平方向および/または垂直方向に移動可能に設けられた移動台を有し、
前記制御手段は、前記センサで検出された力および/または位置に応じて、前記移動台の水平方向および/または垂直方向の動きを制御することを
特徴とする請求項1または2記載の力覚提示装置。
【請求項4】
前記移動台はサーボモータにより移動可能に構成され、
前記制御手段は前記サーボモータを制御可能であることを
特徴とする請求項3記載の力覚提示装置。
【請求項5】
生体軟組織を切断したときの切断感覚を提示するための力覚提示装置であって、
前記機能性流体はMR流体から成り、
前記制御手段は前記機能性流体に磁場をかけるための磁場発生部を有し、あらかじめ測定または計算された、切断器具で前記生体軟組織を切断したときの前記生体軟組織の抵抗力に応じて、前記磁場発生部を制御して前記機能性流体の前記抵抗力を制御するとともに、前記生体軟組織の粘弾性特性に応じて、前記移動台の動きを制御することを
特徴とする請求項3または4記載の力覚提示装置。
【請求項6】
前記移動台は6自由度で移動可能であり、
前記制御手段は前記移動台の6自由度の動きを制御可能であることを
特徴とする請求項3、4または5記載の力覚提示装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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