説明

加圧スチーム処理装置

【課題】スチームの漏出を最小限に抑えるとともに、糸条の損傷や毛羽の発生、および断糸を抑制することができる加圧スチーム処理装置を提供すること。
【解決手段】加圧スチーム処理部の前後にラビリンスシール部を備える糸条の加圧スチーム処理装置において、当該ラビリンスシール内部に、糸条の走行面の上方および下方に糸条を挟み込むように、複数個のラビリンスローラーを配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加圧スチーム処理装置に関する。さらに詳しくは、加圧スチームにより糸条を延伸、弛緩処理するに際し、繊維損傷や毛羽の発生を抑えるとともに、スチームの漏出を抑えることのできる加圧スチーム処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、繊維糸条の高強力化を目的とした延伸工程や、収縮安定性を目的とした弛緩工程には、加圧スチーム処理装置が用いられる。例えば、アクリル系重合体糸条の製造方法として、アクリル系重合体の溶媒溶液を紡糸し、浴中延伸して乾燥緻密化した後に、糸条を加圧スチームによって二次延伸する方法が広く知られている。
【0003】
また、メタ型芳香族ポリアミド繊維の収縮安定性、特に染色時の収縮安定性を向上させることを目的として、メタ型芳香族ポリアミドのアミド系溶媒溶液を無機塩含有の凝固水浴中に紡出して凝固糸を形成し、得られた凝固糸を水洗した後に温水浴中で延伸し、次いで他の温水浴中で繊維中の無機塩を除去した後に、加圧スチーム中にて緊張のかからない状態で熱処理する方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
このような糸条の加圧スチーム処理装置としては、例えば、糸条の入口および出口の開口部が円形のもの(特許文献2参照)が知られている。しかしながら、特許文献1に記載された加圧スチーム処理装置では、装置内のスチームのシール構造についても何らの検討もなされていないため、糸条の入口および出口からスチームが漏れ出て、装置内の加圧スチームの雰囲気が不安定となり、得られる糸条の品質に斑が生じるという問題があった。また、スチームの漏出により装置内のスチームの流れが乱れ、その結果、走行する糸条に揺れが生じて糸条入口や出口の開口縁に接触し、糸条が損傷するという問題もあった。
【0005】
そこで、装置内のスチームの漏出を抑制する目的で、加圧スチーム処理室の前後にラビリンスシール部を設け、ラビリンスシール部内に板片からなるラビリンスノズルを設置し、当該板片の角度や高さ、ピッチ間の適性化を行なう方法が提案されている(特許文献3参照)。
【0006】
しかしながら、特許文献3に記載された加圧スチーム処理装置では、糸条が走行する通路の開口面積を非常に小さくしなければならず、そのため、ラビリンスノズルとの擦過による繊維損傷や毛羽が発生し、断糸の原因となっていた。特に、加圧スチーム処理装置を弛緩工程で用いる場合には、糸条が緊張のかからない状態で走行することになるため、ラビリンス内部に詰まりやすいという問題も生じていた。
よって、スチームの装置からの漏出を抑制できるとともに、繊維の損傷や毛羽の発生、および断糸を抑制することのできる加圧スチーム処理装置の登場が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−277939号公報
【特許文献2】特公昭33−1662号公報
【特許文献3】特開2001−140161号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は以上のような問題点を解決するために検討した結果得られたものであり、その目的は、スチームの漏出を最小限に抑えるとともに、糸条の繊維損傷や毛羽の発生、および断糸を抑制することができる加圧スチーム処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、加圧スチーム処理部の前後にラビリンスシール部を備える糸条の加圧スチーム処理装置において、当該ラビリンスシール内部に、糸条の走行面の上方および下方に糸条を挟み込むように、複数個のラビリンスローラーを配置することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち本発明は、加圧スチーム処理部の前後にラビリンスシール部を備え、走行路に沿ってシート状に併走する複数の糸条を一括して加圧スチーム雰囲気下で処理する糸条の加圧スチーム処理装置において、
前記ラビリンスシール部には、円筒形状のラビリンスローラーが前記ラビリンスシール部の側壁面から走行糸条に向けて配置され、
前記ラビリンスローラーは、走行する糸条に対して曲面部が近接し、かつ、円筒形状の重心軸が糸条の走行方向に対して略垂直となるよう配置されたものであり、
糸条の走行面の上方および下方に、糸条を挟み込むように複数個が配置されたものである、加圧スチーム処理装置である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の加圧スチーム処理装置は、繊維糸条を延伸、弛緩処理する際に、スチームの漏出を最小限に抑えるとともに、繊維の損傷や毛羽の発生、および断糸を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態を示す加圧スチーム処理装置の側面図である。
【図2】本発明に用いられるラビリンスローラーの拡大図である。
【図3】比較例に使用したラビリンスノズルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<加圧スチーム処理装置>
本発明の加圧スチーム処理装置は、加圧スチーム処理部の前後にラビリンスシール部を備え、走行路に沿ってシート状に併走する複数の糸条を一括して加圧スチーム雰囲気下で処理する糸条の加圧スチーム処理装置であって、ラビリンスシール部には、円筒形状のラビリンスローラーがラビリンスシール部の側壁面から走行糸条に向けて配置され、ラビリンスローラーは、走行する糸条に対して曲面部が近接し、かつ、円筒形状の重心軸が糸条の走行方向に対して略垂直となるよう配置されたものであり、糸条の走行面の上方および下方に、糸条を挟み込むように複数個が配置されたものである、スチーム延伸処理装置である。
本発明の加圧スチーム処理装置を、図1に示される本発明の一実施形態である加圧スチーム処理装置の概略図を用いて説明する。
【0014】
[加圧スチーム処理装置の構成および作用]
図1に示される加圧スチーム処理装置においては、糸条5は加圧スチーム処理部1を挟んで糸条上流側のラビリンス部4の糸条入口より進入し、糸条下流側のラビリンス部4’の糸条出口を経て次工程へと移る。
加圧スチームはスチーム入口2より入り、蒸気噴出口3を通して加圧スチーム処理部1に流入し、糸条4に対して延伸または弛緩処理を施しながら、両ラビリンス部4,4’内で減圧しながら外部へ漏出する。
図1に示される実施形態においては、ラビリンスノズルとしてラビリンスローラー6を使用する。ラビリンスシール部に複数のローラー6を上下に形成することにより、糸条4厚みTが変動した場合においても、ローラーの回転により走行糸条がラビリンス内で詰まることを抑制できる。
【0015】
[上下のラビリンスローラー間の距離]
糸条の走行面の上方に位置するラビリンスローラーと、糸条の走行面の下方に位置するラビリンスローラーとの距離Cは、走行する糸条の厚みTに対して(C/T)1〜10の範囲となるように設定することが好ましい。さらに好ましくは1〜5、特に好ましくは1〜3の範囲であり、1未満では走行糸条に損傷を与える可能性があり、10を超える場合には蒸気漏れが多くなりすぎるため好ましくない。
【0016】
[ラビリンスローラーの形状]
また、ラビリンスローラーの直径Dは、ローラーの幅Wに対して(D/W)1/20〜1となるように設定することが好ましく、さらに好ましくは1/15〜1、特に好ましくは1/10〜1の範囲となるように設定する。ローラーの直径がローラーの幅に対して1/20未満では、単糸がローラーに巻付きやすく、良好な工程調子を得ることができない。また、1を超える場合には、設備が大きくなりすぎるため好ましくない。
【0017】
[ラビリンスシール部の長さ]
加圧スチーム処理部の前後に配置されるラビリンスシール部の合計の長さは、加圧スチーム処理部の長さに対して1/2〜5倍で設定することが好ましく、さらに好ましくは1〜5倍、特に好ましくは2〜5倍の範囲となるように設定する。1/2倍未満である場合には、蒸気漏れ抑制することが不十分であり、5倍を超える場合には、設備長が長くなりすぎるため好ましくない。
【0018】
<加圧スチーム処理装置の適用範囲>
本発明の加圧スチーム処理装置の適用範囲は、処理される糸条(繊維)の種類や処理工程などにより特に限定されるものではないが、細繊度の繊維や高配向の繊維を得ようとする場合の延伸処理装置や、加工工程での収縮を抑制するための弛緩処理装置として使用することが有効である。
【実施例】
【0019】
以下、実施例等をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例等によって何等限定されるものではない。
【0020】
<測定方法>
実施例および比較例における各物性値は、下記の方法で測定した。
【0021】
[蒸気使用量]
スチーム入口2に、横河電機株式会社製の電磁式流量計AUPJ−01−Eを設置し、加圧スチームbの使用量を計測した。
【0022】
[工程通過性]
工程通過性としては、8時間の連続運転を実施し、断糸回数を計測した。断糸回数が少ないほど良好な工程通過性であることを示す。
【0023】
[繊度]
JIS L 1015に基づき、正量繊度のA法に準拠した測定を実施し、見掛繊度にて表記した。
【0024】
[破断強度、破断伸度]
JIS L 1015に基づき、インストロン社製、型番5565を用いて、以下の条件で測定した。
(測定条件)
つかみ間隔 :20mm
初荷重 :0.044cN(1/20g)/dtex
引張速度 :20mm/分
【0025】
[染色収縮率(S)]
糸条20cm(Lo)を測りとり、下記染色方法にて染色を実施した。染色後の糸条の繊維長(L)を測定し、下記の式にて得られる値を繊維の染色収縮率(S)とした。
染色収縮率(S)=[(Lo−L)/Lo]×100
【0026】
(染色方法)
カチオン染料(日本化薬社製、商品名:Kayacryl Blue GSL−ED(B−54))6%owf、酢酸0.3mL/L、硝酸ナトリウム20g/L、キャリヤー剤としてベンジルアルコール70g/L、分散剤として染色助剤(明成化学工業社製、商品名:ディスパーTL)0.5g/Lを含む染色液を用意した。
引き続き、繊維と当該染色液の浴比を1:40として、120℃下60分間の染色処理を実施した。染色処理後、ハイドロサルファイト2.0g/L、アミラジンD(第一工業製薬社製、商品名:アミラジンD)2.0g/L、水酸化ナトリウム1.0g/Lの割合で含有する処理液を用いて、浴比1:20で80℃下20分間の還元洗浄を実施し、水洗後に乾燥することにより染色繊維を得た。
【0027】
[固有粘度(IV)]
重合体溶液から芳香族ポリアミドポリマーを単離して乾燥した後、濃硫酸中、ポリマー濃度100mg/100mL硫酸で30℃において測定した。
【0028】
<実施例1>
[紡糸液調整工程]
特公昭47−10863号公報記載の方法に準じた界面重合法により製造した、固有粘度(I.V.)が1.9のポリメタフェニレンイソフタルアミド粉末20.0質量部を、−10℃に冷却したN−メチル−2−ピロリドン(NMP)80.0質量部中に懸濁させ、スラリー状にした。引き続き、懸濁液を60℃まで昇温して溶解させ、透明なポリマー溶液を得た。
【0029】
[紡糸・凝固工程]
上記紡糸ドープを、孔径0.07mm、孔数500の紡糸口金から、浴温度30℃の凝固浴中に吐出して紡糸した。凝固液の組成は、水/NMP=45/55(質量部)であり、凝固浴中に糸速7m/分で吐出して紡糸した。
【0030】
[可塑延伸浴延伸工程]
引き続き、温度40℃の水/NMP=45/55の組成の可塑延伸浴中にて、3.7倍の延伸倍率で延伸を行った。
【0031】
[洗浄工程]
延伸後、20℃の水/NMP=70/30の浴(浸漬長1.8m)、続いて20℃の水浴(浸漬長3.6m)で洗浄し、さらに60℃の温水浴(浸漬長5.4m)に通して十分に洗浄を行った。
【0032】
[乾燥工程]
洗浄後の繊維について、表面温度130℃の熱ローラーにて乾燥処理を施した。
【0033】
[乾熱処理工程]
乾燥後の繊維について、表面温度280℃の熱ローラーにて乾熱処理を施した。
【0034】
[加圧スチーム処理工程]
図1に示す加圧スチーム処理装置を用いて、加圧スチーム処理を実施した。このとき、加圧スチーム処理部の室長さを0.6mとし、これに対して、糸条上流側のラビリンス部4、および糸条下流側のラビリンス部4’の長さをそれぞれ0.3mずつとして、上流側および下流側を合計したラビリンスシール部の長さが加圧スチーム処理部の長さに対して1となるように設定した。
ラビリンスノズルとしては、直径35mm、幅35mmの円筒形状のローラーを用い、これを10mm間隔毎に5個配した。
走行させる糸条5の厚みを0.1mmとし、糸条を挟み込む上下ローラー間の距離は0.2mmに設定した。
用いた加圧スチームの圧力は0.5MPaであり、1.3秒間曝して0.95倍にて弛緩熱処理を実施し、最終的なメタ型全芳香族アラミド繊維を得た。
測定の結果、蒸気使用量は30kg/hであり、通常の流量110kg/hに対して十分に漏出を抑制できていることがわかった。また、8時間連続で運転した結果、断糸は発生せず、良好な工程調子であった。
【0035】
[繊維の物性]
得られたメタ型全芳香族ポリアミド繊維の物性は、繊度1.7dtex、破断強度2.8cN/dtex、破断伸度51.0%であった。また、得られた繊維の染色収縮率(S)は2.0%であり、十分に弛緩できていることが確認できた。
【0036】
<比較例1>
加圧スチーム処理工程において、ローラーに替えて、図3に示される一般的な板状のラビリンスノズルを使用した以外は、実施例1と同様にメタ型全芳香族ポリアミド繊維の製造を実施した。
板状のラビリンスとしては、高さhが3mm、厚みtが1mmのものを用い、上流側および下流側のそれぞれ長さ0.3mの中に、ピッチ間距離pが2mmとなるように設置した。なお、走行糸条を挟み込む板状ラビリンスの上下間の距離は、0.2mmとした。すぐにラビリンス内で糸条が詰まり、断糸する結果となった。
【0037】
<比較例2>
上下の距離を1.0mmとした以外は、比較例1と同様に試験を実施した。ラビリンス内での糸条詰まりは抑制できたものの、蒸気使用量は100kg/hとなり、蒸気の漏出を十分に抑制することができなかった。
【0038】
【表1】

【符号の説明】
【0039】
1 加圧スチーム処理部
2 スチーム
3 蒸気噴射口
4、4’ ラビリンスノズル
5 糸条
6、6’ ラビリンスローラー
7 ローラー幅W
8 ローラー直径D
9 高さh
10 厚みt
11 ピッチ間距離p

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加圧スチーム処理部の前後にラビリンスシール部を備え、走行路に沿ってシート状に併走する複数の糸条を一括して加圧スチーム雰囲気下で処理する糸条の加圧スチーム処理装置において、
前記ラビリンスシール部には、円筒形状のラビリンスローラーが前記ラビリンスシール部の側壁面から走行糸条に向けて配置され、
前記ラビリンスローラーは、走行する糸条に対して曲面部が近接し、かつ、円筒形状の重心軸が糸条の走行方向に対して略垂直となるよう配置されたものであり、
糸条の走行面の上方および下方に、糸条を挟み込むように複数個が配置されたものである、加圧スチーム処理装置。
【請求項2】
糸条の走行面の上方に位置するラビリンスローラーと、糸条の走行面の下方に位置するラビリンスローラーとの距離Cが、走行する糸条の厚みTに対して(C/T)、1〜10である請求項1記載の加圧スチーム処理装置。
【請求項3】
前記ラビリンスローラーの直径Dが、ローラーの幅Wに対して1/20〜1倍である請求項1または2記載の加圧スチーム処理装置。
【請求項4】
前記ラビリンスシール部の合計の長さが、前記加圧スチーム処理部の長さに対して1/2〜5倍である請求項1〜3いずれか記載の加圧スチーム処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−52251(P2012−52251A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−194079(P2010−194079)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】