説明

加圧ローラ

【課題】 離型層のしわの発生が防止され安定した画像を提供する、とともに熱容量が大きく蓄熱性に優れた加圧ローラを提供することにある。
【解決手段】芯金(1)上にゴム弾性層(2)、金属線巻回層(3)、接着剤層(4)、離型層(5)の順に各層を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真複写機、ファクシミリ、あるいはプリンタ等の画像形成装置において、転写紙などの転写材上に転写されたトナー画像を加熱により定着する定着部に用いられる加圧ローラに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、画像形成装置の定着部に使用される加圧ローラは、芯金上にシリコーンゴム等のゴム弾性層が形成され、さらに、弾性層上にフッ素樹脂等からなる離型層が形成された構成の加圧ローラが知られている。(特許文献1)
ところが、近年の市場の高速化の要求に対応するため、画像形成装置において、回転スピードが益々上昇してきている。
この結果、元々あった弾性層を形成するゴムと離型層を形成するフッ素樹脂間の熱による伸縮率の差がより、これまでより顕著に表れて、ローラの長手方向に複数本のしわを生じ、定着されたトナー画像に乱れを生じるという問題が発生している。
そして、この問題は、外径が大きく加圧ロール全体により大きな負荷が掛かり易いいわゆる太物ローラでは、より顕在化している傾向があることも判明した。
さらに、従来の加圧ローラの弾性層はスポンジ状の発泡層の場合が多いので、断熱性には優れるものの熱容量が小さく蓄熱性が悪いのでヒートローラで加熱された熱が定着時の印刷紙に奪われてしまい加圧ローラで蓄熱できず、連続印刷時に定着不良を生じるという問題があった。
そして、この問題は薄肉の非発泡であるソリッド状の弾性層の加圧ローラの場合においては、ソリッド状の弾性層ゆえ加圧ローラ自体の断熱性が悪く、しかも薄肉であるため、熱容量が小さく蓄熱性も悪く、加圧ローラの熱が芯金に逃げてしまい蓄熱できないので発泡層の場合と同様、連続印刷時に定着不良の現象が生じている。
それゆえ、連続印刷時においても安定した画像を得るためには、断熱性に優れるとともに熱容量が大きく蓄熱性にも優れている加圧ローラが切望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4−116582号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明の第一の課題は、離型層のしわの発生が防止され安定した画像を提供すると供に熱容量が大きく蓄熱性に優れた加圧ローラを提供することにある。
更に、本発明の第2の課題は、上記課題に加えて、IH方式に自在に対応できる加圧ローラを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、弾性層の外周に金属線を巻回することに着目した結果、従来の問題を一挙に解消するに至った。
【0006】
かくして、本発明によれば、芯金上にゴム弾性層、金属線巻回層、接着剤層、離型層の順に各層が形成された加圧ローラが提供される。
【発明の効果】
【0007】
上記の構成を採る本発明によれば、以下のような顕著な作用・効果が奏される。
a.ゴム弾性層と離型層の間の金属線巻回層が弾性力付与材として機能するだけでなく、熱膨張差を吸収する緩衝層としても機能するので、ローラ表面の離型層にしわが発生するのを抑制でき、しわに起因する画像の乱れが改善される。
b.金属線巻回層が熱容量を大きくする蓄熱層として機能するので連続印字時においても定着熱不足が回避でき安定した画像が得られる。
c.ゴム弾性層が金属線巻回層のずれを防止する効果があり、耐久性および品質が向上する。
d.格別の付帯部品を要することなく、容易にIH方式に対応できる加圧ローラが実現されることになる。
e.金属線の配列ピッチを変えることによりIH方式の加圧ローラとして機能させた場合の定着部の温度配向を容易に調整することが可能となる。
以下、本発明について添付図面を参照しながら説明する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の加圧ローラの一例を示す縦断面図である。
【図2】本発明の加圧ローラの一例を示す横断面図である。
【発明の実施の形態】
【0009】
以下、本発明について添付図面を参照しながら説明する。
図1及び図2では、本発明の加圧ローラの一例を示し、(1)は芯金、(2)は芯金(1)の外周に被覆された弾性層、(3)は金属線巻回層、(4)は接着剤層、そして、(5)は離型層である。
以下、本発明について、図1を参照しながら説明する。
本発明の第一の特徴は、弾性層(2)と離型層(5)の間に金属線巻回層(5)を介在させたことにある。
こうすることにより、金属線巻回層(5)が弾力性付与材、並びに、熱膨張差を吸収する緩衝層として機能するので加圧ローラの離型層(5)の表面上にしわが発生するのを防止できる。
さらに、金属線巻回層(3)が熱容量を大きくする蓄熱部材としても機能するので連続印字時においても、定着熱不足が回避でき安定した画像が得られる。
更に、本発明の第二の特徴は、上記の金属線巻回層(3)を、IH方式で、金属コイルで発生した磁力線によって渦電流が生じる金属部、すなわち導電発熱部材として利用し、該金属の電気抵抗により発生する熱で加圧ローラを温めるようにしたことに在る。
ここに、“IH方式における導電発熱部材”とは、IH方式により、加圧ローラとは別の金属コイルに電流を流し、ここで発生する磁力線によって加圧ローラの金属線巻回層(3)に渦電流を発生させ、この流れる電流が金属の電気抵抗により熱に変換される。
つまり、本発明では、金属線巻回層(3)利用して発熱させ、該加圧ローラを温めることになる。
【0010】
金属線巻回層(3)には、弾性力に優れた素材が好ましく、銅線、銅合金線、錫合金線、アルミ合金線及び、これらの合金線に錫、銀、亜鉛等の金属鍍金を被覆した金属線が使用可能であるが、その中でも、弾性力に優れ、変形防止効果の優れたSUS304あるいはSUS316等のステンレス線が特に好ましく採用される。さらに、縦弾性係数が160GPa(キ゛カ゛ハ゜スカル)〜220GPaの範囲にあるステンレス線がローラ全体としての弾力性付与の点から、さらに好ましい。
そして、金属線巻回層(3)の構造としては、横巻層とし構造自体は、図示した単層のみならず、互いに独立した複数層としてもよい。
ここで、金属線巻回層(3)が離型層(5)の表面のしわ防止に効果的な理由は以下のとおりである。第一の理由は、上記した、弾力性付与効果とともに、金属は熱による膨張が耐熱性樹脂に比べて極めて少ないこと、そして第2の理由は、金属が機械的強度に優れていることである。これら特徴を持つ金属線を、ゴム弾性層(2)上に巻回することにより、加圧ローラの離型層(5)の表面にしわが発生するのを防ぐことができる。この結果、しわに起因する画像の乱れが改善される。
さらに、金属線巻回層(3)がゴム弾性層(2)だけでは不足する熱容量を大きくする蓄熱層としても機能するので連続印字時においても定着熱不足が回避でき安定した画像が得られる。
ここで、金属線巻回層(3)の素線の線径は20μm〜70μmの円形素線、あるいは、幅30μm〜300μm、高さ20μm〜70μmの平角素線を使用する。巻線の滑り防止の点からは、円形素線より平角素線がより好ましい。金属線巻回層(3)の厚みは20μm〜150μmの範囲に調整されることが好ましい。
なお、 金属線(3)の巻付力は、後述の弾性層(2)の硬度にも関係するが、あまり、小さいと巻線ずれが生じ易く、逆に大き過ぎると、弾性層(2)に損傷を与えるので0.1N〜9.8Nの範囲にあることが好ましい。
【0011】
次に、本発明において、芯金(1)上の被覆される弾性層(2)に配される耐熱性ゴム状弾性体としては、シリコーンゴムあるいはフッ素ゴム等が挙げられるが、コストの点からはシリコーンゴムがより好ましい。
さらに、弾性層(2)は、非発泡の、ソリッド状ゴムあるいは発泡のスポンジ状ゴムのいずれでもよい。そして、発泡のスポンジ状ゴムの場合には、ソリッド状ゴムの場合より、熱容量が小さく蓄熱性が悪いので、厚めとなる。
つまり、弾性層(2)の厚さは、断熱性、熱容量(蓄熱性)、硬度を考慮して決定されることになるが、通常2mm〜15mmの範囲にあることが望ましい。
さらに、弾性層(2)は、金属線巻回層(3)の金属線が弾性層に食い込むことにより金属線のずれ防止効果があるが、この効果を期待するためには金属線(3)の外径が弾性層(2)の厚さに対して0.13%〜3.5%の範囲にあることが望ましい。
また、弾性層(2)の硬度は金属線の前述の巻付け力、ローラ硬度を考慮し、JISA0度〜50度であることが好ましい。
【0012】
次に、金属線巻回層(3)の上層に被覆される、接着剤層(4)としては、上層の離型層(5)のフッ素樹脂に合ったフッ素系プライマーが好ましい。
接着剤層(4)の厚さは、金属線巻回層(3)の巻線を確実に固定をするため、10μm〜500μmであることが好ましい。つまり、金属線巻回層(3)が接着剤層(4)中に埋設されている状態となっていることが好ましい。
【0013】
最後に、離型層(5)には、離型性に優れたフッ素樹脂が好ましく用いられる。この離型層(5)の厚さは離型性と耐久性の両方を考慮したとき、10μm〜70μmの範囲にあることが望ましい。
ここに、フッ素樹脂の具体例としては、テトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)等が挙げられる。これらの中で、離型性や屈曲性の面からテトラフルオロエチレン/パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)が特に好ましい。
【0014】
本発明の加圧ローラは第二の特徴である金属線層(3)を、IH方式で、導電発熱部材として利用可能であり、要求される発熱量に応じて、金属線層(3)の巻ピッチを変更すれば良い。さらに、ローラの位置により発熱量に温度配向を設けたい場合には金属線層(3)の配列ピッチを変えることにより対応可能である。
【0015】
次に、本発明の加圧ローラの製造方法について、一例を挙げて説明する。
先ず、長さ200mm〜1000mm 、外径が6mm〜100mmのアルミニウムからなる芯金(1)に弾性層(2)として液状シリコーンゴムを加硫・固化する。次に、シリコーンゴムを研磨して厚さ2mm〜15mmのシリコーンゴム弾性層からなる弾性層(2)を形成する。 次に、この弾性層(2)の外周且つ円周方向に金属線、例えば、縦弾性係数が160GPa〜220GPaのSUS304等のステンレス線を横巻方式で巻回して、金属線層(3)を形成する。その際の巻き付け強さは0.1N〜9.8Nとし、素線径は20μm〜70μmとした。なお、素線径と弾性層(2)の関係は0.13%〜3.5%とした。
その後、弾性層(3)上に接着剤(4)として、ゴム系樹脂からなる接着剤をコーティングした。
次に、コーティングしたゴム系接着剤上に、厚さ10μm〜70μmのPFAフッ素樹脂チューブからなる離型層(5)を被覆して、加硫・固化して本発明の加圧ローラが得られる。
上記の説明では、弾性層(2)として液状シリコーンゴムをコーティングする方法を説明したが、この方法に限定されず、芯金(1)上にシリコーンゴムを押出被覆する方法、あるいは、予めチューブ状に成形したシリコーンゴムチューブ成形体を芯金に挿入、圧入しても良い。なお、強度向上のため、接着剤は適便使用してもよい。
同様に、離型層(5)についても、フッ素樹脂チューブからなる離型層(5)を被覆する方法に限らず、フッ素樹脂を押出成形したり、液状のフッ素樹脂をコーティングする方法等、他の方法でも良い。
【実施例】
【0016】
以下に、本発明の加圧ローラの実施例を示す。
「実施例1」
上述した製造方法において、弾性層(2)として厚さ6.5mm、0幅230mmのシリコーンゴム層とし、その外周に素線径が30μm、縦弾性係数が193GPaの金属線(SUS304WPB)を単層に横巻きして、厚さが30μmの金属線巻回層(3)を形成した。さらに、接着剤層(4)として、該金属線巻回層(3)の外周に厚さが150μmのゴム系接着剤をコーティングし、さらに、接着剤層(4)の外周に、離型層(5)として、厚さ50μmのPFAからなるフッ素樹脂チューブを被覆して、図1に示す本発明の加圧ローラを作成した。
【0017】
このようにして作成した加圧ローラを加熱・加圧式定着装置に組込み、実機(コピー機)に使用した所、ローラ表面にはしわが一切発生せず画像の定着性も良好であることが確認された。また、IH方式に適用した結果、導電発熱部材として機能する金属線層により加圧ローラが電磁誘導加熱によって極めて短時間で温められ、これにより、事前にヒーターの昇温が不要となる為消費電力が低減されることも確認された。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明の加圧ローラとしてだけでなく、誘導加熱方式のプリンタ、その他の誘導加熱機器にも適用できる。
【符号の説明】
【0019】
1 芯金
2 弾性層
3 金属線巻回層
4 接着剤層
5 離型層









【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯金上にゴム弾性層、金属線巻回層、接着剤層、離型層の順に各層が形成された加圧ローラ。
【請求項2】
該金属線巻回層が弾性力付与材として機能する請求項1に記載の加圧ローラ。
【請求項3】
該金属線巻回層が熱膨張差を吸収する緩衝層として機能するとともに、蓄熱部材としても機能する請求項1または2に記載の加圧ローラ。
【請求項4】
該金属線巻回層が該接着剤層中に埋設・固定されている請求項1〜3のいずれかに記載の加圧ローラ。
【請求項5】
該金属線が平角素線である請求項1〜4のいずれかに記載の加圧ローラ。
【請求項6】
該金属線の縦弾性係数が160GPa〜220GPaの範囲にある請求項1〜5のいずれかに記載の加圧ローラ。
【請求項7】
該金属線の外径が該弾性層の厚さに対して0.13%〜3.5%の範囲にある請求項1〜6のいずれかに記載の加圧ローラ。
【請求項8】
該金属線の巻付力が0.1N〜9.8Nの範囲にある請求項1〜7のいずれかに記載の加圧ローラ。
【請求項9】
該弾性層の硬度がJISA 0度〜50度の範囲にある請求項1〜8のいずれかに記載の加圧ローラ。
【請求項10】
該金属線巻回層が、IH方式における導電発熱部材として機能する請求項1〜9のいずれかに記載の加圧ローラ。
【請求項11】
該金属線巻回層の配列ピッチを変えることにより温度配向を設けた請求項10に記載の加圧ローラ。
【請求項12】
請求項1〜11に記載のいずれかの加圧ローラを使用した定着装置。




【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−102935(P2011−102935A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−258361(P2009−258361)
【出願日】平成21年11月11日(2009.11.11)
【出願人】(000226932)日星電気株式会社 (98)
【Fターム(参考)】