説明

加圧ローラ

【目的】 弾性体層とふっ素樹脂層との剥離を防止し、耐久性の良好な加圧ローラを得ること。
【構成】 芯金2の外周に被覆した弾性体層3の外周に、厚さ0.1mm以下のふっ素樹脂スリーブ5を被覆した加圧ローラ1において、前記の弾性体層3とふっ素樹脂スリーブ5とが接着剤層4で接着され、該接着剤層4は破断伸びが350%以上であり、かつ引っ張り強さが3MPa以上である付加型シリコーン組成物から構成されている。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、電子複写機やレーザービームプリンタ(以下LBPと略称する)の定着部における加圧ローラに関する。
【0002】
【従来技術】従来、電子複写機やLBPの定着部における加圧ローラとしてトナーの離型性を良好となすために、芯金入りゴムローラの外周にふっ素樹脂スリーブを被覆したローラが知られている。
【0003】そして、近年、定着ローラを用いた電子複写機やLBPなどの小型化が進み、これに使用される加圧ローラや加熱ローラの外径が10〜25mm程度となり、特に加圧ローラにおいては、小径のローラとなるため、定着時におけるニップ幅を確保するために芯金の外周に被覆せしめる弾性体層を低硬度化する傾向があり、例えば特公平4−77315号公報にて開示されているように弾性体層として多孔質弾性体(スポンジゴム)を用いたものが多用されている。
【0004】また、最近では加圧ローラのトナーに対する離型性を確保するために、表層にふっ素樹脂を被覆することが行われており、このようなローラとしては例えば特公昭47−20747号公報を挙げることができ、該特公昭47−20747号公報に開示される弾性ローラは、弾性体層を被覆した心棒を接着剤で被覆し、該接着剤が被覆された心棒をスリーブ中に挿入し、加熱することによってスリーブを弾性体層が被覆された心棒に固定するという方法によって製造されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】前記した特公昭47−20747号公報に開示されるような製造方法によって得られる弾性ローラは、弾性体層にソリッドシリコーンゴム層を使用し、ふっ素樹脂スリーブとして0.5mm程度の熱収縮チューブが使用されているので、剛性が強く、かつ熱収縮させることにより強固に密着せしめているので、シリコーンゴム層とふっ素樹脂とが剥がれることはほとんどない。
【0006】しかしながら、前記の方法によって厚さ0.1mm以下のふっ素樹脂スリーブを被覆した小径のローラを作成した場合、弾性体層のシリコーンスポンジゴム層とふっ素樹脂スリーブ層との間が使用時にしばしば剥がれるという不具合が生じることがあった。
【0007】前記した小径ローラにおいて、弾性体層のシリコーンスポンジ層とふっ素樹脂層の間でしばしば剥がれが生じる原因は、ふっ素樹脂層の厚さが0.05mm程度と非常に薄いので全体として剛性が弱く、十分に密着していないためと考えられる。また、小径ローラの場合、定着のために加圧ローラと加熱ローラとの圧接に必要なニップ幅を得るためには、ふっ素樹脂層の厚さを0.1mm以下にする必要があるが、厚さが0.1mm以下の熱収縮性ふっ素樹脂スリーブを精度良く作成することは非常に困難である。
【0008】また弾性体層がスポンジの場合は、弾性体層の表面に接着剤を塗布した後に弾性体層を収縮させつつ、ふっ素樹脂スリーブに挿入することが可能であるので、熱収縮性のふっ素樹脂スリーブでなくとも、前記したような小型の加圧ローラの作成が可能であるが、この場合においてもふっ素樹脂層とスポンジ層との間に接着剤を使用することが不可欠である。そして、このように接着剤を使用したとき、前記した弾性体層がスポンジゴムのように硬さが軟らかい素材である場合には、弾性体層がそれの表層であるふっ素樹脂層と比べ極端に剛性率に差があるため、加圧ローラを実際に電子複写機等に装着して使用したとき、前記の弾性体層とふっ素樹脂スリーブとの中間層である接着剤層に動的な応力が集中するために該接着剤層での剥離現象が生じることとなる。
【0009】そして、小型の加圧ローラにおける接着剤層の厚みは、たかだか25μm程度と相当薄いために接着剤層全体としての緩衝効果が少ないので外部からの応力に耐えきれず接着剤層が破壊されるものと考えられるが、若し、接着剤層の厚みが0.5mmよりも厚い場合には、接着剤層全体として緩衝効果が働くために動的な応力が分散されるため結果として接着剤層で剥離することはなく、通常はふっ素樹脂層と接着剤層との間で剥がれが発生する。
【0010】定着用の加圧ローラは、200℃付近の高温で使用されるために、接着剤も良好な耐熱性を有することが必要であり、また、ふっ素樹脂層とシリコーンスポンジ等よりなる弾性体層を接着させることより、シリコーン系の接着剤が好ましく、更に、スリーブ内の深部まで接着させるために接着剤として一般に硬化時に反応副生成物を発生しない付加型のシリコーンゴム組成物が使用されている。
【0011】本発明の目的は、上記した付加型シリコーンゴム組成物からなる接着剤を用い、0.1mm以下のふっ素樹脂層で弾性体層を被覆し、ローラ系を小さくしても、ふっ素樹脂層と弾性体層とが剥離することのない耐久性に優れた加圧ローラの提供を目的とするものである。
【0012】
【課題を解決するための手段】本発明者は、前記の目的を達成するために、種々検討を重ねた結果、前記した付加型シリコーン系接着剤による加圧ローラの剥離現象は主として接着剤層で生じることから、その物理強度と伸びをアップさせることにより、接着剤層での剥離現象の発生を無くすことができ、加圧ローラとしての耐久性を著しく向上させることができることを見出し、本発明を完成するにいたったものである。
【0013】すなわち、本発明に係る加圧ローラは、芯金の外周に弾性体層を被覆し、更に、弾性体層の外周に厚さ0.1mm以下のふっ素樹脂層を被覆せしめた加圧ローラにおいて、破断伸びが350%以上であり、かつ引張り強さが3MPa以上である付加型シリコーンゴム組成物からなる接着剤層にて前記の弾性体層とふっ素樹脂層とを接着固定せしめたことをその特徴とするものである。
【0014】
【実施例】本発明の加圧ローラの実施例を図1に基づいて説明すると、1は加圧ローラを示し、2は鉄、アルミニューム等からなる加圧ローラ1の芯金で該芯金2の表面にはスポンジゴム製よりなる弾性体層3が被覆され、更に、前記の弾性体層3の表面にはふっ素樹脂スリーブ5が、付加型シリコーンゴム組成物よりなる接着剤層4にて接着固定されている。
【0015】本実施例に使用するふっ素樹脂スリーブ5としては、テトラフルオロエチレンとパーフルオロアルキルビニルエーテルの共重合体(以下PFAと略称する)が一般的であり、ふっ素樹脂スリーブ5の内面をナトリウム−ナフタレン−テトラヒドロフラン法もしくはナトリウム一液安法にて表面処理することがよい。
【0016】本実施例のシリコーン系の樹脂剤の組成は、特に限定されるものではないが、(A)ビニル基を含有するジオルガノシロキサン、(B)オノガノハイドロシロキサン、(C)白金触媒及び反応制御剤を必須の成分とするもので、必要に応じてイソシアネートやエポキシ化合物などの接着性付与剤を用いることができる。そして、前記のイソシアネートは特開昭51−139854号公報に開示されているものが例示され、また、エポキシ化合物は特開昭52−126455号公報に開示されているものが例示される。また、ふっ素樹脂スリーブの内面にプライマーを塗布した後に付加型のシリコーン組成物にて接着させる場合は接着性付与剤は必ずしも必要としないものである。この場合のプライマー組成物としては、付加型シリコーン組成物用のプライマーであればよく、例えば特開昭57−21457号公報にて開示されているが如きプライマー組成物が例示される。
【0017】本実施例における付加型シリコーン組成物のゴム硬化物の硬度は特に制限されるものではなく、3〜60度の範囲で任意に選定できるが、弾性体層がスポンジゴムの場合には、その硬度と物理強度とのバランスのうえから8〜35度の範囲が望ましい。また、充填剤等の配合処方も、特に制限されるものではなく、硬化した付加型シリコーン組成物層の機械的特性、すなわち、物理強度、ゴム硬度、圧縮永久歪みなどを考慮して決定されるものであり、これにはアエロジルやヒュームドシリカ、ニップシルの如き湿式シリカ、セライトやラジオライトの如きけいそう土、ミヌシルやクリスタライトの如き石英粉などが例示され、これらの充填剤を通常は数種類組み合わせて使用する。また、熱伝導性や導電性などの特性を付与するために、上記の充填剤に加え、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化チタン、酸化マグネシウム、けい酸アルミニウム、酸化亜鉛、酸化鉄、炭酸カルシウム、導電カーボンなどを使用してもよい。更に、密封老化性を考慮して酸化セリウムの如き耐熱剤や酸化マグネシウムの如き受酸剤を加えてもよい。
【0018】本実施例における弾性体層3は特に限定されるものではないが、弾性体層の体積の固有抵抗が1014Ω・cm以上であるシリコーンスポンジゴムを用いるのが一般的である。また、オフセット防止等の目的で体積固有抵抗が105 Ω・cm以下である導電性シリコーンスポンジゴムを用いてもよい。
【0019】前記した加工ローラ1を製作するには、芯金2と弾性体層3の接着は、予め発泡剤と加硫剤を混練りしたシリコーンゴムを押し出し機で押し出して原料ゴムチューブを形成した後にHAV(Hot Air Vulcanization )法やFBV(FludizedBed Vulcanization)法などにより加熱発泡させてシリコーンスポンジチューブを作成し、このシリコーンスポンジチューブに、予めTSE322(東芝シリコーン株式会社製商品名)の如き付加型の接着剤を塗布した芯金2を挿入した後、更に加熱して接着剤を硬化させてシリコーンスポンジチューブを芯金2に接着させるようにしてもよいし、表面にプライマーNO.8(信越化学株式会社製商品名)の如き接着剤を塗布した芯金2を押し出し機のクロスヘッドダイを通過させて上記芯金2上に発泡剤と加硫剤とを混練したシリコーンゴム層を形成し、次いで、これを恒温槽中や加熱した金型中で加熱発泡させると同時に接着させてもよい。上記したいずれの接着方法でも、芯金上にシリコーンスポンジ層を形成した後に、表面に形成されたスキン層を除去するためと、外径寸法精度を得るためにスポンジ外周を研磨する必要がある。
【0020】本実施例のように、弾性体層2がスポンジゴムの如き軟らかい素材である場合は、接着剤層の物理的強度と伸びをアップさせることが加圧ローラにおける前記弾性体層2とふっ素樹脂スリーブ5とを剥離せしめないで耐久性を向上させることができるものである。そして、本実施例においては、接着剤層として引っ張り強さ及び伸びを上昇せしめた後記する具体例1及び2に示す付加型シリコーン組成物を用いることによって前記した弾性体層2とふっ素樹脂スリーブ5との剥離を防止することができたものである。
【0021】
【具体例1】全長243mm、外径9mmの芯金の外周に硬さ30度(アスカーC)のシリコーンスポンジゴムを被覆させた後、外径17mmになるように研磨し、このシリコーンスポンジゴムの表面に一液付加型シリコーン接着剤であるKE1830(信越化学株式会社商品名)をドクタプレードで均一に塗布した後、内面をエッチング処理した厚さ50μmのPEAスリーブを挿入し、200℃で一時間加熱して硬化させ加圧ローラを成形した。このようにして作成した加圧ローラの表面に周方向に10mm幅のスリットを刻設しオートグラフで引っ張り、PFAスリーブ層とスポンジ層との接着剥離試験を行ったところ、接着剤層は強固に接着しており、剥離強度は1,000g/cmであった。また、上記した接着剤であるKE1830の物性は表1に示すとおり、引っ張り強さ(MPa)は3.2で伸び(%)は350で、引っ張り強さ、伸びとも大きいことがわかった。なお、上記の加圧ローラの接着剥離はスポンジ層での破断であった。そして、前記の加圧ローラを複写機(キャノン株式会社製商品名 ミニコピアFC−2)に取付けて実機耐久試験を実施したところ、30,000枚の通紙耐久試験後も問題となるような接着剤の剥がれなどは生じておらず十分な耐久性を有していることがわかった。
【0022】
【表1】


【0023】
【具体例2】二液性付加型シリコーンゴム組成物としてSE6721A&B(トーレシリコーン株式会社製商品名)を接着剤に使用して具体例1と同様の方法で加圧ローラを成形したところ、PFAスリーブと前記の接着剤層との間の接着性が必ずしも良好ではなかったので、PFAスリーブの内面を付加型シリコーンゴム用プライマーであるプライマーX,Y(トーレシリコーン株式会社製商品名)で処理した後、再度具体例1と同様に加圧ローラを作成したところ、PFA層は前記の接着剤層を介してスポンジ層と強固に接着した。このようにして作成した加圧ローラを具体例1と同様の方法で接着剥離試験を実施したところ、剥離強度は1,000g/cmであり、剥離はスポンジ層の破断であった。前記の接着剤の物性は、前記した表1に示すとおり、引っ張り強さ(MPa)は9.8、伸び(%)は650であり、引っ張り強さ、伸びはともに強いことがわかった。そして、この加圧ローラを具体例1と同様の複写機に取付けて30,000枚の通紙試験を実施したが、問題となるような接着の剥がれはなかった。
【0024】
【比較例1】一液付加型シリコーン接着剤としてTSE322(東芝シリコーン株式会社製商品名)を使用した以外は具体例1と同様にして加圧ローラを成形し、該加圧ローラを具体例1と同様の方法で接着剥離試験を行ったところ、接着剤層はさほど強固に接着しておらず、剥離強度は700g/cmであった。また、この接着剥離面は主として接着剤層であった。この比較例に使用した接着剤TSE322の物性を測定したところ引っ張り強さ(MPa)は3.3で高い値を示したが、伸び(%)は240で伸びが短いことがわかった。次に、この加圧ローラを具体例1で用いた複写機に取付けて通紙試験を行ったところ、10,000枚のところで画像乱れが生じたので加圧ローラを調査したところ、ローラ中央部のPFA層とスポンジ層との間に約10mm程度の円形の膨らみが発生しており、接着耐久性のないことがわかった。
【0025】
【比較例2】二液性付加型シリコーン組成物であるSE1740A&B(トーレシリコーン株式会社製商品名)を接着剤として使用した以外は、具体例2と同様に加圧ローラを成形した。この加圧ローラを具体例1と同様の方法で接着剥離試験を行ったところ、接着剤層から簡単に剥がれ、剥離強度は10g/cm以下であり、接着強度がないことがわかった。上記の接着剤の物性を測定したところ、伸びが500%と大きい反面、引っ張り強さ(MPa)は0.1と小さいことがわかった。
【0026】
【発明の効果】本発明に係る加圧ローラは、芯金の外周に被覆した弾性体層の外周に厚さ0.1mm以下のふっ素樹脂層を被覆せしめた加圧ローラにおいて、破断伸びが350%以上であり、引っ張り強さが3MPa以上である付加型シリコーンゴム組成物からなる接着剤にて前記の弾性体層とふっ素樹脂層とを接着せしめたので、ふっ素樹脂層の接着耐久に極めて優れた加圧ローラを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】加圧ローラの構造を示す拡大断面図
【符号の説明】
1 加圧ローラ
2 芯金
3 弾性体層
4 付加型シリコーン組成物層
5 ふっ素樹脂層

【特許請求の範囲】
【請求項1】 芯金の外周に弾性体層を被覆し、更に、該弾性体層の外周に厚さ0.1mm以下のふっ素樹脂層を被覆せしめた加圧ローラにおいて、破断伸びが350%以上であり、かつ引張り強さが3MPa以上である付加型シリコーンゴム組成物からなる接着剤層にて前記の弾性体層とふっ素樹脂層とを接着固定せしめたことを特徴とする加圧ローラ。

【図1】
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