説明

加工チーズ

【課題】卵白臭が殆ど感じられることなく、通常のナチュラルチーズ及びプロセスチーズと同様の食感、風味を持つヘルシーで安価な加工チーズの製造方法を提供する。
【解決手段】製品に対し乾燥卵白を10〜25%、チーズを5〜30%配合し、かつpHが4〜6である混合物を蒸煮処理する加工チーズの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工チーズの製造方法に関する。詳しくは、卵白臭が殆ど感じられることなく、通常のナチュラルチーズ及びプロセスチーズと同様の食感、風味を持つヘルシーで安価な加工チーズの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的にチーズは、ナチュラルチーズとプロセスチーズに大別される。ナチュラルチーズは、牛,山羊,羊などの乳を乳酸菌またはレンネット(子牛の胃から抽出した乳を凝固させる酵素)を用いて凝固させ作られるものである。また、プロセスチーズは、ナチュラルチーズの1種または数種類を混ぜて加熱加工したものである。
【0003】
チーズは、もともと栄養価の高い乳を濃縮しているため、非常に栄養価が高いものであり、ピザ、パスタ等のトッピングをはじめとし、オードブルやサンドウィッチの具材、菓子の原料等様々な料理に利用されている。しかし、一方ではカロリーが高いとの声も多く、また比較的高価であるため、近年では、チーズに似た風味、食感を有するヘルシーで安価な加工チーズやチーズ様食品が求められるようになっている。
【0004】
このような状況下、特公昭40−21230号公報(特許文献1)には、脱脂大豆粉あるいは全脂大豆粉よりチーズ類似製品を製造する方法が、特開昭60−78541号公報(特許文献2)には、豆腐を主成分とするチーズ様食品の製造法がそれぞれ開示されている。しかし、これらは安価であるものの、大豆臭さや青臭さがあり、風味の好ましいものではなかった。
【0005】
また、特開平3−247237号公報(引用文献3)にはゲル化安定剤が10〜20重量%含有されているチーズが開示されており、ゲル化剤として乾燥卵白が挙げられている。乾燥卵白を用いることで安価となり、また、耐水性を有しているため飲食品に含有しても型崩れしないものであるものの、卵白臭が感じられ、やはり風味の好ましいものではなかった。
【0006】
【特許文献1】特公昭40−21230号公報
【特許文献2】特開昭60−78541号公報
【特許文献3】特開平3−247237号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明の目的は、卵白臭が殆ど感じられることなく、通常のナチュラルチーズ及びプロセスチーズと同様の食感、風味を持つヘルシーで安価な加工チーズの製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成すべく使用原料等、様々な諸条件について鋭意研究を重ねた結果、特定量の乾燥卵白、チーズを配合し、特定のpHとした混合物の加熱凝固物を蒸煮処理することにより、意外にも、卵白臭が殆ど感じられることなく、通常のナチュラルチーズ及びプロセスチーズと同様の食感、風味を持つヘルシーで安価な加工チーズが得られることを見出し本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、
(1)製品に対し乾燥卵白を10〜25%、チーズを5〜30%配合し、かつpHが4〜6である混合物の加熱凝固物を蒸煮処理する加工チーズの製造方法、
である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、卵白臭が殆ど感じられることなく、通常のナチュラルチーズ及びプロセスチーズと同様の食感、風味を持つヘルシーで安価な加工チーズを得ることができ、加工チーズの新たな用途拡大、並びに新たな需要の拡大が期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本発明において「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」をそれぞれ意味する。
【0012】
本発明の加工チーズは、製品に対し乾燥卵白を10〜25%、チーズを5〜30%配合し、かつpHが4〜6である混合物の加熱凝固物を蒸煮処理することを特徴とし、これにより、乾燥卵白を配合してチーズ様食品や加工チーズを製造した場合、卵白臭が感じられ好ましくないという問題を改善し、卵白臭が殆ど感じられることなく、通常のナチュラルチーズ及びプロセスチーズと同様の食感、風味を持つヘルシーで安価な加工チーズを得ることができる。
【0013】
本発明で用いる乾燥卵白とは、卵を割卵して卵黄を分離して得られた生卵白、当該生卵白から例えば、糖分、リゾチーム等の卵白成分を除いた脱糖卵白、脱リゾチーム卵白等に乾燥処理例えば、噴霧乾燥、静置乾燥、凍結乾燥等を施したものである。本発明の実施例においては、水戻しせずそのまま用いているが、水戻しして用いても良い。
【0014】
本発明の乾燥卵白の配合量は、製品に対し10〜25%、好ましくは10〜20%である。前記範囲より配合量が少ないと得られた製品が水っぽく、チーズのような食感とならず、一方、前記範囲より配合量が多いと食感がゴムのように硬くなり、また卵白臭が強く感じられ好ましくないためである。
【0015】
本発明に配合するチーズは、通常加工チーズの原料として用いられるチーズであれば特に限定するものではない。例えば、チェダーチーズ、ゴーダチーズ、エダムチーズ等が挙げられる。
【0016】
チーズの配合量は、製品全体にチーズ風味を付与できる程度配合すれば良く、具体的には5〜30%、好ましくは8〜25%がよい。前記範囲より配合量が少ないと得られた製品はチーズ風味がせず、一方前記範囲より配合量が多いと、ヘルシーで安価な製品が得られないためである。
【0017】
本発明の加工チーズは、pHを4〜6、好ましくはpHを5〜6にすることにより卵白臭が抑えられ、チーズの風味がより感じられるものとなる。前記範囲よりpHが低いと得られた製品の酸味が強く感じられ、一方前記範囲より高いと卵白臭が感じられ好ましくないためである。上記範囲のpHにするためには有機酸を用いるとよく、例えば、酢酸、乳酸、プロピオン酸、グルコン酸、クエン酸、リンゴ酸、アジピン酸、フマル酸、酒石酸、コハク酸等が挙げられる。また、これらの有機酸を含有した液状の食材である、例えば、リンゴ酢、ワインビネガー、モルトビネガー、米酢、粕酢等の醸造酢、レモン、かぼす等の柑橘果汁又はこれらの濃縮物、並びに醗酵乳酸等が挙げられる。
【0018】
以上、本発明の加工チーズに配合する必須の原料について説明したが、本発明の加工チーズには本発明の効果を損なわない範囲で各種原料を適宜選択し配合することができる。例えば、澱粉、グルタミン酸ナトリウム、食塩、砂糖等の各種調味料、各種エキス、菜種油、コーン油、綿実油、サフラワー油、紅花油、大豆油、パーム油、魚油等の動植物油又はこれらの精製油(サラダ油)、MCT(中鎖脂肪酸トリグリセリド)、ジグリセリド、硬化油、エステル交換油等のような化学的あるいは酵素的処理等を施して得られる油脂等の食用油脂、バター、生クリーム、脱脂粉乳、牛乳等の乳製品又はその加工品、色素、酸化防止剤、香料等が挙げられる。
【0019】
本発明は、上述した乾燥卵白、チーズ及びその他必要に応じて上記の原料を混合し、次いで混合物を加熱処理し得られた加熱凝固物を蒸煮処理することにより、卵白臭が殆ど感じられることなく、チーズ風味の大変好ましい加工チーズを得ることができる。混合物を蒸煮処理する前の加熱処理方法としては、例えば、通電加熱、マイクロ波等による加熱、ジャケット加温による間接加熱、蒸煮等が挙げられるが、蒸煮の場合その後の蒸煮処理を兼ねることができる。加熱凝固物の蒸煮処理は、好ましくは70〜100℃、より好ましくは75℃〜95℃の蒸気で、好ましくは1分〜30分、より好ましくは5分〜20分処理するとよい。前記範囲より低い温度又は短い時間であると、得られた加工チーズは卵白臭が感じられ好ましいものではなく、一方前記範囲より高い温度又は長時間であると加熱凝固物が固くなり、通常のチーズと同様の食感の加工チーズが得られないためである。このように本発明の製造方法で得られた加工チーズが、如何なる理由で蒸煮処理することにより、より風味のよい加工チーズを得ることができるかは明らかでないが、混合物の加熱凝固物を蒸煮処理することにより、卵白臭が蒸気と共に排出され、卵白臭が殆ど感じられず風味のよい加工チーズを得ることができたのではないかと推察する。また、得られた加工チーズは冷却した後、適当な大きさにカットし、必要に応じて殺菌処理等を行ってもよい。
【0020】
以下、本発明について、実施例、比較例並びに試験例に基づき具体的に説明する。なお、本発明は、これらに限定するものではない。
【実施例】
【0021】
[実施例1]
ペコリーノロマーノ様加工チーズを製造した。つまりホバートミキサーに下記の配合割合に記載の原料を投入し混合撹拌してpH5.7である混合物を得た。得られた混合物を通電加熱機で加熱し品温を80℃に達温させて加熱凝固させ、次いで加熱凝固物に85℃の蒸気で10分間蒸煮処理を行った。得られた加工チーズを5mm角にカットし、充填後70℃で60分殺菌し製造した。
【0022】
<配合割合>
乾燥卵白 10.0kg
チェダーチーズパウダー 15.0kg
α化澱粉 5.0kg
砂糖 5.0kg
食塩 1.5kg
チーズフレーバー 1.5kg
発酵乳酸 0.3kg
グルタミン酸ナトリウム 0.06kg
清水 残 余
―――――――――――――――――――――――――――――――
合計 100kg

【0023】
[比較例1]
実施例1の加工チーズにおいて、蒸煮処理を施さなかった以外は同様の方法で加工チーズを製した。
【0024】
[実施例2]
プロセスチーズ(雪印6Pチーズ)様加工チーズを製造した。つまりホバートミキサーに下記の配合割合に記載の原料を投入し混合撹拌しpH5.7の混合物を得た。得られた混合物を通電加熱機で加熱し品温を85℃に達温させて加熱凝固させ、次いで加熱凝固物に90℃の蒸気で8分間蒸煮処理を行った。得られた加工チーズを5mm角にカットし、充填後70℃で60分殺菌し製造した。
【0025】
<配合割合>
乾燥卵白 16.0kg
チェダーチーズパウダー 15.0kg
α化澱粉 5.0kg
砂糖 5.0kg
サラダ油 3.0kg
食塩 2.0kg
チーズフレーバー 1.5kg
発酵乳酸 0.3kg
グルタミン酸ナトリウム 0.06kg
清水 残 余
――――――――――――――――――――――――――――
合計 100kg
【0026】
[実施例3]
モッツァレラチーズ様加工チーズを製造した。つまりホバートミキサーに下記の配合割合に記載の原料を投入し混合撹拌しpH5.9の混合物を得た。得られた混合物を通電加熱機で加熱し品温を80℃に達温させて加熱凝固させ、次いで加熱凝固物に85℃の蒸気で8分間蒸煮処理を行った。得られた加工チーズを4mm角にカットし、充填後70℃で60分殺菌し製造した。
【0027】
<配合割合>
乾燥卵白 21.0kg
チェダーチーズパウダー 15.0kg
α化澱粉 5.0kg
砂糖 5.0kg
サラダ油 3.0kg
食塩 2.0kg
チーズフレーバー 1.5kg
発酵乳酸 0.3kg
グルタミン酸ナトリウム 0.06kg
清水 残 余
――――――――――――――――――――――――――――
合計 100kg

【0028】
[試験例1]
実施例1、2並びに3の加工チーズにおいて、乾燥卵白の配合量を換えた以外は同様の方法で製造し、乾燥卵白の配合量の違いによる加工チーズの食感及び風味への影響について評価を行った。
【0029】
【表1】

【0030】
表1より、製品に対し乾燥卵白の配合量が10%未満のもの、25%より多いものは、どちらもチーズの食感とは言い難いものであり、また配合量が27%より多いものは卵白臭が強く感じられ好ましいものではなかったのに対し、製品に対し乾燥卵白の配合量が10〜25%のものは通常のナチュラルチーズ及びプロセスチーズと同様の食感、風味であり好ましいものであることが理解される。特に10〜20%のものは食感、風味共に大変好ましいものであった。
【0031】
[試験例2]
実施例1の加工チーズにおいて、醗酵乳酸の配合量を変えた以外は同様の方法で製造し、pHの違いによる製品の風味への影響について評価を行った。
【0032】
【表2】

【0033】
表2より、蒸煮前の混合物のpHが4より低いものは、チーズ風味より酸味が強く感じられ、また、pHが6より高いものは卵白臭が感じられ、チーズ風味が感じられなかったのに対し、pHが4〜6であるものは、卵白臭が殆ど感じられることなく、チーズ風味のよいものであったことが理解される。特にpHが5〜6であるものはチーズ風味の大変よいものであった。
【0034】
[試験例3]
実施例1及び比較例1の加工チーズにおいて、蒸煮処理の有無による製品の風味への影響について評価を行った。
【0035】
【表3】

【0036】
表3より、蒸煮処理を施さなかったものは、卵白臭が感じられたのに対し、蒸煮処理を施したものは、卵白臭が殆ど感じられず、チーズ風味の大変よいものであることが理解される。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
製品に対し乾燥卵白を10〜25%、チーズを5〜30%配合し、かつpHが4〜6である混合物の加熱凝固物を蒸煮処理することを特徴とする加工チーズの製造方法。