説明

加工ナッツ類の製造方法

【課題】ナッツ本来の風味を残しつつ、カリッとかつサクッとした食感を有するナッツ類及び、ナッツ類製品を提供すること。
【解決手段】生豆をボイルにより湿潤状態にした後、ナッツに一定の圧力(1400〜2500hPa)、温度(110〜128℃)において、4〜6分間処理し、その後、糖液浸漬し、フライすることにより、従来よりもナッツ本来の風味を残しつつ、カリッとかつサクサクした食感を有するナッツ類を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はチョコレートやクッキー等と組み合わせて又はそのままおつまみ等として利用されるアーモンド等のナッツ類の加工製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ナッツ類は菓子や酒のつまみ等として広く食用に供せられている。
これらのナッツ類は、通常、原料である生のナッツ類をローストして乾燥させることにより製造されている。
しかしながら、単にローストしたナッツ類はナッツ類特有の緻密な組織構造がそのまま維持されているため、硬い口当たりを有するものであるが、最近はその嗜好の多様化から、軟らかな歯ざわりのものが好まれる傾向がある。
また、ナッツは、他の食品、菓子と組み合わされて使用される場合、組み合わす相手によっては、ナッツが硬いと異物感を与えるため、軟らかな歯ざわりのナッツが求められることも多く、従来から様様な方法が開発されてきた。
特許文献1(特開昭52−154452)は、メタリン酸塩及び又は重合メタリン酸の水溶液中で煮沸またはその熱液に浸漬した後、糖液に浸漬し、次いでこれを油揚げするナッツの加工方法について開示している。特許文献1の方法は糖液がナッツに均一に付着させることは出来るが、ナッツの硬い口当たりが残ったままであり、食感において劣る。
特許文献2(特開昭52−114038)は、ナッツを一定条件の糖液中に保持し、ナッツ周囲に糖液を付着させ、これをフライすることを特徴とするナッツをフライする方法について開示している。特許文献2の方法は、生のナッツに糖液を直接浸漬するため、糖液がナッツ中心まで浸漬しにくく、その後、フライしてもナッツの硬い口当たりが残ったままであり、食感において劣る。
特許文献3(特開平4−311376)は、生のナッツをボイルし、凍結、解凍処理を行い、その後、シロップ漬けを経て、常圧又は減圧下、油揚げするナッツの加工方法について開示している。特許文献3の方法はナッツの風味、食感の向上に寄与するものの、ボイルという加熱工程の後に、それと相反する凍結という冷却工程を行うため、−30℃の急速冷凍条件下においても凍結に1時間以上要する上、凍結のための大掛かりな設備を必要とする。さらに、冷却から解凍工程においてナッツ特有の風味が抜けやすく、風味の点で劣ったものとなる。
特許文献4(特開平8−242822)はナッツを湿潤状態にした後、表面を粉末状の増粘剤で覆い、蒸煮して皮膜とし、その後、ローストして内部組織を膨化させるナッツ処理方法について開示している。特許文献4の方法は、増粘剤による粘稠な皮膜により、ナッツ類内部の気密性を高め、ローストすることによりナッツ内部の空気や水蒸気等のガスが皮膜を破ることによりナッツ内部を多孔質とし食感を軽い口当たりとすることを目的とするものである。しかし、特許文献4の方法は、増粘剤による皮膜で覆わない場合よりは食感が多少軽くなるものの、内部の固い食感は残ったままである。また、表面の増粘剤の皮膜が、ややべとつく上、ナッツ本来の風味が弱くなり、風味、食感において劣る。
【特許文献1】特開昭52−154452
【特許文献2】特開昭52−114038
【特許文献3】特開平4−311376
【特許文献4】特開平8−242822
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、上記問題点の解決を意図するものであり、ナッツ本来の風味を残しつつ、カリッとかつサクサクした食感を有するナッツ類及び、ナッツ類製品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、生豆をボイル等により湿潤状態にした後、または湿潤状態にすると同時にナッツに一定の圧力かけて処理し、その後、糖液浸漬し、フライすることにより、ナッツ本来の風味を残しつつ、カリッとかつサクサクした食感を有するナッツ類が得られることを見出し、これに基づいて本発明を完成させた。
上記課題を達成するために、本発明は、例えば、以下の手段を提供する:
項目1. 生のナッツ類に加圧加熱処理を行った後に、糖液浸漬を経て、フライすることを特徴とするナッツ類の加工製造方法。
項目2.生のナッツ類を釜内の絶対圧力1400〜2500hPa、品温110〜128℃、処理時間4〜6分(達温3〜4分、保持1〜2分)の条件で加圧加熱処理を行うことを特徴とする請求項1記載のナッツ類の加工製造方法。
項目3. ナッツ類がアーモンド、ピーナッツ、マカダミアナッツから選択される一つであることを特徴とする請求項1又は2記載のナッツ類の加工製造方法。
項目4. 生のナッツ類に加圧加熱処理を行った後に、糖液浸漬を経て、フライさせてなるナッツ菓子原料。
【発明の効果】
【0005】
生豆をボイルにより湿潤状態にした後、ナッツに一定の圧力(1400〜2500hPa)、温度(110〜128℃)において、4〜6分間処理し、その後、糖液浸漬し、フライすることにより、従来よりもナッツ本来の風味を残しつつ、カリッとかつサクサクした食感を有するナッツ類を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明を詳細に説明する。
(1.ナッツ類)
本発明に用いるナッツ類としてはアーモンド、ピーナッツ、マカダミアナッツが適している。他にもピスタチオ、ヘーゼルナッツ、ブラジルナッツ、クルミ、松の実、ペカン等、木の実として食用に供されている各種のナッツが考えられるが、これらのナッツを本発明に用いた場合は、通常圧力鍋で大豆を煮たときのように、組織が柔らかくなる。ナッツとしてアーモンド、ピーナッツ、マカダミアナッツを用いたときのみ一定条件で加圧加熱処理を行っても、組織が柔らかくならず、風味、食感を保ったままとなる。
また、ナッツ類はその後の処理の効果が得られやすいという点で生豆を用いることが好ましいが、場合によっては、ナッツ類をあらかじめローストしてから用いてもよい。ローストの条件はナッツの種類により異なるが、定法によるそれぞれのナッツの焙煎条件でよい。例えばアーモンドについては市販のロースターにおいて100〜160℃、10〜15分加熱するのがよい。
(2.湿潤・加圧加熱工程)
本発明においては、生豆または定法によりローストした豆を湿潤状態にする必要がある。ナッツの中心部まで、湿潤させることが出来れば湿潤方法は問わないが、本発明の効果を得るには湿潤後のナッツの重量が湿潤前の重量に対して1.3倍以上になっていることが必要である。湿潤方法としては簡便性の点から水、食塩水、アルコール水等への浸漬が好ましい。浸漬させる場合の水溶液の重量はナッツの重量に対して1.3倍以上必要である。浸漬させる水溶液の重量がナッツの重量に対して、1.3倍未満であると、中心部にナッツの硬い食感が残り、目的とする食感が得られない。
ナッツを湿潤させた後に、加圧加熱することによっても、目的とする風味、食感を有するナッツが得られるが、ナッツの中心部まで湿潤させるのに時間を要するため、生産効率を考慮すると、ナッツを湿潤させると同時に加圧加熱することが好ましい。加熱加圧は、調理圧力釜、加圧加熱殺菌装置、飽和蒸気式圧力釜のいずれでもよいが、加熱時の沸騰がなく、ナッツどうしが接触しにくいという点から、飽和蒸気式圧力釜が好ましい。飽和蒸気圧力釜の例としては例えば、株式会社三浦プロテックのスチームマイスターなどが挙げられる。
圧力釜の処理条件は、調理圧力釜、加圧加熱殺菌装置の場合は、釜内圧力1400〜2000hPa、品温110〜120℃、処理時間3〜7分、好ましくは、釜内圧力1530〜1860hPa、品温112〜118℃、処理時間4〜6分である。釜内圧力が2000hPa、品温120℃、処理時間7分を越えるとナッツの風味がやや弱くなり、本来の風味が持続できなくなる。また、釜内圧力が1400hPa、品温110℃、処理時間3分未満であるとナッツの硬い食感が残ったままであり、本発明の目的とするカリッとかつサクサクとした食感を有しない。
飽和蒸気式圧力釜の場合は、釜内圧力1400〜2500hPa、品温110〜128℃、処理時間3〜7分、好ましくは、釜内圧力1530〜1860hPa、品温112〜118℃、処理時間4〜6分である。釜内圧力が2500hPa、品温128℃、処理時間7分を越えるとナッツの風味がやや弱くなり、本来の風味が持続できなくなる。また、釜内圧力が1400hPa、品温110℃、処理時間3分未満であるとナッツの硬い食感が残ったままであり、本発明の目的とするカリッとかつサクサクとした食感を有しない。また、本発明における処理時間とはナッツ類が目標品温に到達するまでの時間と、到達後、その品温で保持する時間の合計時間を意味する。
(3.糖液漬け工程)
本発明の糖液漬け工程で用いる糖の種類は、各種単糖類、多糖類、糖アルコール等を単独で、あるいは二種以上で使用が可能である。ナッツの風味、食感を残すという点から特にショ糖、トレハロース、ハチミツ、メープルシュガー、ソルビトールが好ましい。
処理条件としては、例えばブリックス60〜80%、温度90〜110℃、浸漬時間5〜15分程度である。
(4.フライ工程)
本発明におけるフライに使用する油としては大豆油、菜種油、綿実油、パーム油等の通常のフライ用油脂を単独でまたは二種以上使用することが出来る。
処理条件は常圧下、または減圧下において120〜180℃、4〜12分行うのが好ましいが減圧度、温度、処理時間は対象物によって適宜な条件が採用される。
(5.他の材料)
本発明の製造方法で得られるナッツには、ナッツの風味に悪影響を与えない限り、必要に応じて、他の調味原料を含み得る。他の材料としては、食塩、香料、着色料、酸味料などが挙げられる。これらの材料は当該分野で周知である。
【0007】
以下、本発明を実施例を用いてより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
実施例において、「部」は「重量部」を意味する。
【実施例1】
【0008】
実施例1:処理条件の検討
アーモンド生豆(水分率4.7%)100部を150部の水とともに、圧力釜(株式会社 カジワラ製 OAMVPCS−08FTEL−CNC)において釜内の絶対圧力1300〜2000hPa、品温112〜120℃、の条件で4〜6分間(目標品温達温まで3〜4分、目標品温で保持1〜2分)処理を行った。その後、105℃、ブリックス70%の砂糖溶液に10分間浸漬を行い(シロップ漬け)、シロップ漬けしたアーモンドを165℃に加温した菜種油で8分間フライし、各サンプルを作製した(表1)。
各条件において作製したアーモンド加工品について、風味、食感(カリッと感、サク感)の官能評価を行った(表2)。
風味は、ナッツ独特の香ばしさを有する度合いについて、通常のロースト処理を行っただけのナッツを基準として官能評価を行った。
評価は、◎=風味が十分に残っている、○=風味が残っている、△=風味が弱いが多少残っている、×=風味がほとんどないとして判断した。
本発明においてカリッと感とは、ナッツを歯で噛んだときの、最初の感覚を表す表現であり、カリッと感が高い方が本発明の目的を達するものである。
評価は、◎=とてもカリッとしている、○=カリッとしている、△=カリッと感が弱い、×=カリッと感がほとんどないとして判断した。
本発明においてサク感とは、ナッツを噛んでいったときの、食感の軽さを表す表現であり、サク感が高い方が本発明の目的を達するものである。
評価は、◎=とてもサク感がある、○=サク感がある、△=サク感が弱い、×=サク感がほとんどないとして判断した。
加工処理した各サンプルの風味、食感(カリッと感、サク感)について総合的に評価を行い、判断した。
◎=風味、食感とも非常に良好、○=風味、食感とも良好、△=風味よいが、食感硬いまたは軟らかい、▲=食感はよいが、風味が弱いとして判断した。

【表1】


【表2】

【実施例2】
【0009】
ナッツ原料菓子官能評価結果
アーモンド生豆(水分率4.7%)100部を150部の水とともに、圧力釜(株式会社 カジワラ製 OAMVPCS−08FTEL−CNC)において釜内の絶対圧力1800hPa、品温117℃、の条件で5分間(目標品温達温まで3分、目標品温で保持2分)処理を行った。その後、105℃、ブリックス70の砂糖溶液に10分間浸漬を行い(シロップ漬け)、シロップ漬けしたアーモンドを165℃に加温した菜種油で8分間フライし、加工アーモンドを作製した。
作製した加工アーモンド1つ(1.4g)と、定法で作製したミルクチョコレート5.0gとをモールドに充填し、アーモンド入りチョコレート製品サンプルを作製した。
一方、特許文献3の実施例の方法に従い、アーモンド生豆(水分率4.7%)100部を95℃の熱湯に6分間浸漬し、表面の水分を切った後、−20℃の凍結庫で100分間凍結、その後室温で1時間放置し、解凍した。解凍したアーモンドを95℃、ブリックス70%の砂糖液に6分間浸漬した後、170℃に加温した菜種油で8分間フライし、40℃まで冷却後、ゴマ油浸漬後、遠心分離して、加工アーモンドを作製した。
作製した加工アーモンド1つ(1.4g)と、定法で作製したミルクチョコレート5.0gとをモールドに充填し、アーモンド入りチョコレート製品サンプルを作製し、比較例1とした。
製品の評価は、風味(アーモンドの香ばしさ)、食感(アーモンドのカリッと感、サク感)、アーモンドとチョコレートとの相性の各項目について、官能評価パネラー5人で行った。
評価は5=非常に良好、4=良好、3=普通である、2=やや劣っている、1=大きく劣っているとして判断した(表3)。
【表3】

【0010】
実施例2の方法で作製したサンプルの方が、風味(アーモンドの香ばしさ)、食感(アーモンドのカリッと感、サク感)、アーモンドとチョコレートとの相性の各項目について比較例1で作製したサンプルよりもよい評価であった。
【産業上の利用可能性】
【0011】
本発明により、ナッツ本来の香ばしい風味を残しつつ、カリッとした食感とサクとした軽い食感とを有するナッツ加工品が提供される。本発明において提供されるナッツ加工品は、菓子原料として、チョコレートやビスケット等との相性もよく、様々な食品に応用できる可能性を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生のナッツ類に加圧加熱処理を行った後に、糖液浸漬を経て、フライすることを特徴とするナッツ類の加工製造方法。
【請求項2】
生のナッツ類を釜内の絶対圧力1400〜2500hPa、品温110〜128℃、処理時間4〜6分(達温3〜4分、保持1〜2分)の条件で加圧加熱処理を行うことを特徴とする請求項1記載のナッツ類の加工製造方法。
【請求項3】
ナッツ類がアーモンド、ピーナッツ、マカダミアナッツから選択される一つであることを特徴とする請求項1又は2記載のナッツ類の加工製造方法。
【請求項4】
生のナッツ類に加圧加熱処理を行った後に、糖液浸漬を経て、フライさせてなるナッツ菓子原料。