説明

加工性、溶接性および耐食性に優れた樹脂被覆金属板、並びに該樹脂被覆金属板を用いた加工品とその製法

【課題】 亜鉛めっき鋼板などの金属板を対象とし、特にスポット溶接などの溶接性を考慮して優れた導電性を有すると共に、折り曲げ等の成形加工性が良好で加工用グリース等の使用を省略した場合でも樹脂塗膜が剥離したり亀裂やパウダリング等を生じたりすることがなく、更に最終の樹脂塗装金属板加工品として、腐食環境下においても優れた耐食性を示す高品質の樹脂塗装金属板を提供すること。
【解決手段】 金属板上に、導電性フィラーと防錆剤を含む樹脂被覆層が形成されてなり、該樹脂被覆層を構成するマトリックス樹脂は可撓性エポキシ樹脂を主体とし、曲げ弾性率が3GPa以下である加工性に優れた樹脂被覆金属板を開示する。この樹脂被覆金属板は、加工後に2次硬化させることで、溶接性や耐食性に優れた樹脂被覆金属板を与える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂被覆金属板と該金属板を用いた加工品、並びにその製法に関し、詳細には、金属板、好ましくは亜鉛等でめっき処理された金属板の表面が、導電性フィラーや防錆剤を含むエポキシ系のマトリックス樹脂、またはエポキシ系およびポリエステル系のマトリックス樹脂層で被覆された、加工性、溶接性および耐食性に優れた樹脂被覆金属板とその加工品、更には該加工品の製法に関するものである。
【0002】
本発明に係る樹脂被覆金属板は、例えば自動車や車両、船舶などの塗装鋼板として使用する際に塗装工程の簡略化を可能にし、折曲げ加工部等への加工用グリース等の充填を省略可能にして生産性を高めると共に、溶接性および耐食性に優れた高品質の製品を与える塗装鋼板として有用である。
【背景技術】
【0003】
塗装金属板加工品の製法に関する従来技術としては、例えば特許文献1に開示の方法が知られており、また本件出願人も、加工性および耐熱性に優れた樹脂被覆金属板として既に特許文献2に記載の技術を開発し提供している。
【0004】
上記特許文献1に記載された発明は、重合性二重結合と架橋反応性水酸基を有する重合体とブロック化ポリイソシアネート化合物を含む塗料を用いた塗装金属板を開示するもので、具体的には、まず活性エネルギー線を照射することにより、加工性(可撓性)を有する1次硬化塗膜を形成した後に成形加工を行う。そして成形加工後、更に焼付けを行い、ブロック化ポリイソシアネートを反応させることで塗膜を完全硬化(2次硬化)させて高硬度と耐汚染性を与えるもので、活性エネルギー線として紫外線を用いる場合は光重合開始剤の使用を推奨している。
【0005】
また上記特許文献2に記載された発明は、鋼板の表面被覆剤として2種類以上の架橋反応性樹脂成分を含む被覆剤組成物を使用し、これで鋼板表面を被覆した後、樹脂被覆層をまず低温で加熱し、低温で架橋反応を起こす樹脂成分により未反応の反応性官能基を残した状態で1次架橋させ、次いで成形加工後、上塗り塗装時に行われる焼付けのための熱を利用して、高温架橋反応性の樹脂成分による2次架橋を行うところに特徴を有している。この発明によれば、1次架橋により樹脂層をある程度硬質化することで上塗り塗装性やシルク印刷性を高め、且つ1次架橋樹脂層の硬化不足による耐熱性不良は2次架橋によって補うところに特徴を有している。そしてこの発明では、低温反応性の樹脂成分として低温架橋型エポキシ系樹脂を、また高温架橋性の樹脂成分としてメラミン系樹脂を使用し、更には、有機潤滑剤の添加により加工性を高めている。
【特許文献1】特開平6−23319号公報
【特許文献2】特開2001−277422号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし上記特許文献1に開示の技術では、紫外線硬化と熱硬化の組合せによる二段階硬化型塗料が使用されており、1次硬化状態での加工性を留保しているが、その際の硬化法は紫外線硬化によるものである。また、その後の焼付けによる塗膜の2次硬化は硬度と耐汚染性を確保するためであり、耐食性は考慮されていない。
【0007】
他方、前記特許文献2では、架橋開始温度の異なる2種以上の架橋反応性樹脂を併用しているものの、1次硬化反応を行う時点では、塗装性を良好にするため未反応の反応性官能基を残存させると共に、塗膜に加工性(潤滑性)を付与するため有機潤滑剤の配合を必須としている。即ち、高温架橋反応性の樹脂成分は焼付け塗装工程で塗膜に耐熱性を付与するために添加されており、加工性は本質的に有機潤滑剤に依存している。従って、低温反応性架橋剤により半硬化状態に抑えることで加工性を向上させている訳ではない。また、高温架橋反応性の樹脂成分による2次硬化は塗膜の耐熱性を向上させるためであり、必ずしも樹脂塗膜に耐食性を付与するためではない。
【0008】
本発明は上記の様な従来技術の改善技術として開発されたものであって、その目的は、好ましくは亜鉛等でめっき処理された金属板、代表的には亜鉛めっき鋼板を対象とし、特にスポット溶接などの溶接性を考慮して優れた導電性を有すると共に、特に折り曲げ等の成形加工性が良好で加工用グリース等の使用を省略した場合でも樹脂塗膜が剥離したり亀裂やパウダリング等を生じたりすることがなく、更に最終の樹脂塗装金属板加工品として、腐食環境下においても優れた耐食性を示す高品質の樹脂塗装金属板を提供することにある。
【0009】
また本発明の他の目的は、上記樹脂塗装金属板を用いた高耐食性で溶接性に優れた加工品を提供し、更にはその有用な製法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決することのできた本発明に係る導電性、加工性、耐食性に優れた樹脂被覆金属板とは、金属板上に、導電性フィラーと防錆剤を含む樹脂被覆層が形成されてなり、該樹脂被覆層を構成するマトリックス樹脂は可撓性エポキシ樹脂、または可撓性エポキシ樹脂およびポリエステル系樹脂を主体とし、曲げ弾性率が3GPa以下であることを特徴とする。
【0011】
本発明において上記樹脂被覆層の主なマトリックス成分となる可撓性エポキシ系樹脂は、1次硬化後の成形加工性が良好で且つ2次硬化の前・後いずれにおいても金属材に対して強固に密着性し優れた耐食性を示すものとして、ウレタン変性エポキシ樹脂及び/又はダイマー酸変性エポキシ樹脂が最適であり、ポリエステル系樹脂は、1次硬化後の成形加工性および成形後の脱脂性が良好であるものとして、高分子量ポリエステルが最適である。また、これらのエポキシ樹脂やポリエステル系樹脂に硬化剤として配合される好ましい架橋剤としては、ブロックイソシアネート、メラミン系樹脂、アミン系樹脂よりなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0012】
マトリックス樹脂を構成する上記各成分の好ましい含有率は、可撓性エポキシ樹脂:60質量%以上90質量%以下と、ポリエステル系樹脂:10質量%以上40質量%以下である。
【0013】
なお、本発明で被覆対象となる代表的な金属板は、鉄鋼に代表される鉄基金属板であるが、この他、銅、真鍮、チタン、亜鉛やそれらを含む合金などの非鉄金属板に対しても同様に適用することができる。また鋼板については、裸のままの鋼板に適用できる他、防食などの目的でめっき処理の施されためっき鋼板、代表的には溶融亜鉛めっき鋼板や電気亜鉛めっき鋼板などが対象となる。
【0014】
また、樹脂被覆金属板に溶接性を与えるための前記導電性フィラーとして最も好ましいのはリン化鉄であり、前記防錆剤としては、トリポリリン酸アルミニウム、無定形ケイ酸マグネシウム、カルシウムイオン交換シリカよりなる群から選択された少なくとも1種が好ましく使用される。
【0015】
これらの導電性フィラーおよび防錆剤は、樹脂塗装金属板として曲げ加工等を行う際の加工性を高めるため、最大粒径が15μm以下である微粉末を使用することが望ましい。ここで粒径とは、レーザー回折/散乱式マイクロトラックによって求められる球相当径を言い、最大粒径15μmとは、15μm以下の粒子が全体の99%を占めていること(即ち99%径)を意味する。
【0016】
また樹脂被覆層を構成する上記各成分の好ましい含有率は、マトリックス樹脂:25質量%以上55質量%以下、導電性フィラー:40質量%以上55質量%以下、防錆剤:5質量%以上25質量%以下である。
【0017】
更に、本発明のより好ましい実施形態としては、前記マトリックス樹脂として、エポキシ樹脂、またはエポキシ樹脂およびポリエステル系樹脂との架橋反応開始温度が異なるか、あるいは架橋開始温度が略同じで架橋反応速度が異なる2種以上の架橋剤を使用すると共に、架橋反応開始温度が最も高いか、架橋反応速度の最も遅い架橋剤を架橋剤A、架橋反応開始温度が最も低いか、架橋反応速度が最も速い架橋剤を架橋剤Bとしたとき、樹脂被覆層中に、エポキシ樹脂、またはエポキシ樹脂およびポリエステル系樹脂と架橋剤Bとの反応物と、未反応の架橋剤Aが含まれている樹脂被覆金属板が挙げられる。
【0018】
本発明の更に他の形態は、上記樹脂被覆金属板を用いた加工品の製法と得られた加工品であり、該製法は、導電性フィラー、防錆剤および架橋剤を含み、曲げ弾性率が3GPa以下である前記樹脂被覆層が金属板上に形成された樹脂被覆金属板を成形加工し、該成形加工と同時に、または成形加工後に、前記架橋剤Aの架橋反応開始温度以上および/もしくは架橋反応開始時間以上加熱し、未反応の架橋剤Aを反応させて2次硬化させるところに特徴を有し、この方法を採用すれば、優れた成形加工性の下で耐食性および溶接性の良好な樹脂被覆金属板加工品を得ることができる。そして、該方法によって得られる樹脂金属加工品も本発明の技術的範囲に含まれる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の樹脂被覆金属板は、金属板上に導電性フィラーと防錆剤を含む樹脂被覆層が形成されてなり、該樹脂被覆層を構成するマトリックス樹脂として可撓性エポキシ樹脂、または可撓性エポキシ樹脂およびポリエステル系樹脂を選択すると共に、当該樹脂被覆層の曲げ弾性率を3GPa以下に抑えることで、曲げ加工などによって樹脂被覆層が亀裂やパウダリングを起こしたり剥離したりすることがなく、安定して優れた加工性を有し、しかも、加工後の最終加工品の状態では卓越した耐食性と溶接性を有する樹脂被覆金属板を提供できる。従ってこの樹脂被覆金属板は、例えば自動車用や電車などを含めた車両、あるいは船舶、更には家電製品用の外板材などとして幅広く有効に活用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の樹脂被覆金属板は、上記の如く、金属板上に導電性フィラーと防錆剤を含む樹脂被覆層が形成され、該樹脂被覆層を構成する主たるマトリックス樹脂を可撓性エポキシ樹脂、または可撓性エポキシ樹脂およびポリエステル系樹脂に特定すると共に、当該樹脂被覆層の曲げ弾性率を3GPa以下に抑えたところに特徴を有している。
【0021】
樹脂被覆層が形成される金属板に格別の制限はなく、最も汎用性の高い鋼板に代表される鉄基金属板の他、銅、アルミニウム、チタンなどの非鉄金属板やそれらを含む合金板などが包含される。これらの金属板には、樹脂被覆層を形成するに先立って、溶融亜鉛めっき、電気亜鉛めっき等のめっき処理が施されていてもよく、また、燐酸塩処理やクロメート処理などを施すことによって、耐食性や密着性を一段と高めることも勿論有効である。殊に鋼板を適用する場合は、被覆に亀裂やピンホール欠陥ができた場合でも、犠牲陽極作用によって優れた防錆効果を発揮する亜鉛系めっき(溶融亜鉛めっき、電気亜鉛めっきを含む)鋼板が好適に使用される。また金属板の形状にも制限はなく、最も一般的な平板状の他、プレス成形などで波板状やL字状、コ字状などに成形された異形板状、更には樋状、環状なども包含される。
【0022】
これらの金属板に形成される樹脂被覆層は、溶接性と防食性を確保するため導電性フィラーと防錆剤を含有するが、自動車等の部品として成形加工後の樹脂塗装を省略可能にするための所謂ポスト金属板として、安定して優れた成形加工性を確保するため、当該被覆層の主たるマトリックス樹脂を可撓性エポキシ樹脂、またはエポキシ樹脂およびポリエステル系樹脂に特定すると共に、該樹脂被覆層の曲げ弾性率を3GPa以下に抑えている。
【0023】
自動車用外板材などとして使用される金属板への被覆層形成用樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、アミノプラスト樹脂、フェノール系樹脂、アルキド樹脂など様々の樹脂が知られており、被覆層の耐食性(耐塩水性)や耐候性、塗膜密着性などについては十分に配慮されているが、被覆自体のフレキシビリティーについてはあまり考慮されておらず、従ってマトリックス樹脂についても特に可撓性に優れたものを選択するといった認識は少ない。
【0024】
しかし、本発明の如く所謂ポスト塗装鋼板として、成形加工前の時点で樹脂被覆層が形成された樹脂被覆金属板では、樹脂被覆の形成後に曲げ加工等を含めて成形加工が加えられるため、当該加工に伴う曲げ力は当然に樹脂被覆層にもかかってくる。従って、該成形加工前の状態で優れた被覆性能を有していたとしても、曲げ加工などで被覆層が剥離したり、亀裂やパウダリングを起こしたりすることがあってはならず、優れた成形加工性を保証し得るものでなければならない。
【0025】
そこで、樹脂被覆形成後に曲げ加工などを行った場合でも、上記の様な被覆欠陥を生じることがなく、且つ安定して優れた成形加工性を保証し得る様な樹脂被覆について検討を重ねた結果、上記の様に主たるマトリックス樹脂として可撓性エポキシ樹脂、または可撓性エポキシ樹脂およびポリエステル系樹脂を選択すると共に、該樹脂被覆層の曲げ弾性率を3MPa以下に抑えてやれば、それらの要求特性を全て満たし得るものになることを知ったのである。
【0026】
ちなみに、樹脂被覆層の曲げ弾性率が3MPaを超えると、自動車用外板材などとして様々の成形加工を行う際に、樹脂被覆層が剥離したり亀裂やパウダリングを起こしたりするなど、健全な被覆層を維持できなくなるからである。上記要求特性を確保する上でより好ましい曲げ弾性率は2.5MPa以下である。なお、こうした曲げ弾性率の要求を満たす可撓性エポキシ樹脂とは、具体的には後記図6に示す様な繰返し曲げ試験(MIT屈曲試験)で300回以上の繰返し曲げに耐える特性を意味する。
【0027】
曲げ弾性率の下限は特に制限されないが、あまりに低過ぎると塗膜が損傷し易くなるなどの障害が現れてくるので、好ましくは1.0MPa以上、より好ましくは1.2MPa以上にするのがよい。
【0028】
こうした要求特性に叶う可撓性エポキシ樹脂として特に好ましいのは、エポキシ樹脂の分子構造にウレタン結合を導入することによって可撓性を高めたウレタン変性エポキシ樹脂や、ダイマー酸で変性することで可撓性を高めたダイマー酸変性エポキシ樹脂などが例示される。
【0029】
ポリエステル系樹脂としては、分子量が小さ過ぎると加工性が低下し、逆に分子量が大き過ぎると溶剤に溶け難くなることから、数平均分子量で5万〜20万程度のものを使用することが望ましい。この数平均分子量は、Waters社製のゲルパーミエーションクロマトグラフ「150−CALC/GPC(GPC)」を使用し、溶剤としてはヘキサフルオロイソプロパノールを用いて、ポリスチレン換算で算出した値である。
【0030】
可撓性エポキシ樹脂とポリエステル系樹脂の配合割合は、可撓性エポキシ樹脂:60〜90質量%、ポリエステル系樹脂:10〜40質量%であることが好ましい。ポリエステル系樹脂の配合割合が10質量%未満では塗膜の耐アルカリ性が不足気味となり、一方、40質量%を超えると、1次硬化後の加工性が低下傾向になるからである。可撓性エポキシ樹脂とポリエステル系樹脂の配合割合は、フーリエ変換赤外分光装置(FT−IR)を用いて得られるポリエステルのエステル結合に由来する吸収スペクトルの吸光度を求め、樹脂塗膜中のポリエステル成分を定量(配合割合の測定)することで確認できる。
【0031】
上記エポキシ樹脂の架橋剤として使用する硬化剤にも格別の制限はないが、好ましいのは以下に例示するブロックイソシアネート、メラミン樹脂およびアミン系硬化剤である。
【0032】
(1)ブロックイソシアネート:イソシアネート基をカプロラクタムやオキシム等でブロックしたもの。
【0033】
(2)メラミン系樹脂:n−ブチル化メラミン樹脂、イソブチル化メラミン樹脂、メチル化メラミン樹脂など。
【0034】
(3)アミン系硬化剤:
・脂肪族ポリアミン;ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ジメチルアミノプロピルアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、ジブチルアミノプ口ピルアミン、ヘキサメチレンジアミン、N−アミノエチルピペラジン、ビス−アミノプロピルピペラジン、トリメチルへキサメチレンジアミンなど。
【0035】
・脂環族ポリアミン;3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン、3−アミノ−1−シクロへキシルアミノプロパン、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン、イソホロンジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、N−ジメチルシクロヘキシルアミン、複素環式ジアミンなど。
【0036】
・芳香族ポリアミン;キシリレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、ジアミノジフェニルスルホン、m−フエニレンジアミンなど。
【0037】
・ポリアミドアミン;ポリアミド樹脂、ポリアミノアミドとも言う。
【0038】
上記架橋剤のうち、ブロックイソシアネートやメラミン系樹脂はエポキシ樹脂の水酸基と反応し、アミン系硬化剤はエポキシ樹脂のエポキシ基と反応する。エポキシ樹脂と架橋剤の配合比率は、[エポキシ樹脂中に含まれる反応性官能基の当量]/[架橋剤中の反応性官能基の当量]比で0.8以上、1.2以下、より好ましくは0.9以上、1.1以下である。
【0039】
本発明では、前述した如く成形加工前の状態で優れた加工性を有すると共に、成形加工後の状態では優れた耐食性を有するものになることが重要であり、そのためには、前述した可撓性エポキシ樹脂主剤と共に、前述した硬化剤の中から2種以上を併用し、2段階硬化するタイプのものとすることが望ましい。具体的には、架橋開始温度が異なるか、あるいは架橋開始温度が略同じで架橋反応速度が異なる少なくとも2種の架橋剤を併用し、成形加工前の樹脂被覆層の状態では、架橋開始温度が相対的に高いか、架橋反応速度が相対的に遅い架橋剤は未反応状態で残したままの状態で、架橋開始温度が相対的に低いか、架橋反応速度が相対的に速い架橋剤のみを反応させて1次硬化させることで、樹脂被覆層にある程度の可撓性を留保しておく。そして、成形加工後に、一般的に行われる塗装焼付のための加熱処理工程で、未反応状態で残存していた架橋開始温度の高い、あるいは架橋反応速度の遅い架橋剤を反応させて2次硬化させることにより、最終樹脂被覆層として優れた耐食性を与えるのである。
【0040】
ここで架橋反応開始温度とは、ベースとなるエポキシ樹脂(またはエポキシ樹脂とポリエステル系樹脂)と架橋剤を混合し常温で被膜化して得たフィルムについて、示差熱分析(DTA)装置を用いて熱を加え、エポキシ樹脂と架橋剤とが反応を開始して発熱反応を起こし始めた時の温度を意味する。
【0041】
また架橋反応速度は、今中機械工業社製の熱硬化性樹脂の硬化特性測定装置「JSR型キュラストメータ」を使用し、試験温度;常温〜200℃、耐荷重;ロードセル定格負荷で20Kgf、試料サイズ;外径28mm×外高8mm×試料厚み2mmで、供試樹脂の硬化曲線を測定し、最大荷重に対し10〜90%硬化するまでに要した時間によって求めた。
【0042】
架橋反応開始温度が高い架橋剤Aとしては、架橋剤Bの架橋反応開始温度や最終被覆形成工程の温度にもよるが、135℃以上の架橋反応開始温度を有するものが好ましく、メラミン系樹脂やブロック化イソシアネートなどが有効である。メラミン系樹脂は、主としてヒドロキシル基や活性水素がエポキシ樹脂と反応する。ブロック化イソシアネートは、活性水素含有化合物をブロック化剤として活性イソシアネートをブロックし、加温によってブロック剤を揮散させて活性化させるもので、ブロック剤の熱解離温度を制御することで架橋反応開始温度を任意に変えることができる。従ってブロック化イソシアネートは、架橋反応開始温度が低い架橋剤Bとしても使用できる。
【0043】
架橋反応開始温度の低い架橋剤Bとしては、130℃程度以下の温度で架橋反応性を示す架橋剤が好ましく、上記ブロック化イソシアネートやアミン系架橋剤が好ましく使用される。また上記架橋剤A,Bの他に、これらの間に架橋反応開始温度を有する更に他の架橋剤を併用することも勿論可能である。
【0044】
また架橋剤Aとしては、架橋剤Bの架橋反応速度よりも遅く、一般に160〜180℃×10分程度で架橋反応を起こす架橋剤が好ましく、また架橋剤Bとしては、140〜150℃×1分程度で架橋反応を起こす架橋剤が好ましい。即ち架橋剤A,Bはあくまで相対的な架橋反応速度の遅・速を意味するもので、いずれも絶対的なものではない。また反応速度の異なる2種の架橋剤の他に、それらの間に架橋反応速度を有する更に他の架橋剤を併用することも勿論可能である。
【0045】
上記架橋剤Aは、樹脂被覆層全量中に1〜20質量%の範囲で含まれていることが好ましく、1質量%未満では樹脂被覆層が硬さ不足となり、樹脂被覆層の耐食性が低下傾向となるので好ましくない。より好ましくは2質量%以上である。しかし20質量%を超えて過度に多くなると、未反応の架橋剤が増えて塗膜強度が低下するため好ましくない。より好ましくは10質量%以下である。一方、架橋剤Bが1質量%未満では、耐疵付き性に劣るものとなり、また20質量%を超えると、1次硬化物の架橋反応が進み過ぎて硬質化し、加工性が悪くなるので好ましくない。より好ましくは10質量%以下である。また、架橋剤A,Bの合計(他の架橋剤を併用する場合はそれらを含めた合計)含有量が30質量%を超えると、架橋剤の残存により2次硬化層が耐食性不足となるので好ましくない。より好ましくは20質量%以下に抑えるのがよい。
【0046】
本発明に係る成形加工前の樹脂被覆金属板における上記架橋剤A,Bの存在形態としては、架橋剤Aは実質的にエポキシ樹脂とは未反応の状態で、また架橋剤Bはエポキシ樹脂と反応した状態で樹脂被覆層中に含まれていることを理想とする。即ち、好ましい樹脂被覆層は、マトリックス樹脂を構成するエポキシ樹脂と、架橋反応開始温度が最も低いか、架橋反応速度が最も速い架橋剤Bとが反応して1次硬化した可撓性エポキシ樹脂と、架橋反応開始温度が最も高いか、架橋反応速度が最も遅い架橋剤Aが未反応状態で残存している複合組成の樹脂層となり、適度の可撓性を有するものとなる。また、この樹脂被覆金属板を成形加工した後に焼付硬化処理を行って2次硬化させた後の状態では、架橋剤Aも架橋反応に加わり、架橋密度が高く強固で耐食性の優れた2次硬化被覆を形成することとなる。
【0047】
尚、1次硬化用の架橋剤と2次硬化用の架橋剤の種類や配合比率などについては、ポスト塗装金属板として成形加工を行う際の条件と、2次硬化のための焼付硬化条件などに応じて適宜に選定すればよい。例えば、本発明を自動車外板用として適用する場合、1次硬化を行った樹脂被覆鋼材を、自動車メーカーで成形加工し、2次硬化のための加熱は塗装ラインの塗装焼付工程で行われることが想定されるが、該塗装焼付は、通常170℃前後で20〜30分程度行われることが多いので、2次硬化用の架橋剤(架橋剤A)は該塗装焼付条件に対応させ、1次硬化用の架橋剤(架橋剤B)はそれ以下の温度・時間条件で架橋反応を起こすものを選択することになる。この様に、1次硬化用および2次硬化用架橋剤の選択は、本発明の樹脂被覆金属材が適用される現場の状況に応じてその都度適宜選択して決定すべきもので、一律に決めるべきものではない。
【0048】
本発明では、上記マトリックス樹脂成分に加えて、以下に示す防錆剤と導電性フィラーの配合を必須とする。即ち防錆剤は、樹脂被覆層自体に防錆能を与えて金属材の耐食性を高めるためであり、導電性フィラーは、自動車や船舶用外板材などとして実用化する際に汎用されるスポット溶接性などに対応させるためである。
【0049】
防錆剤として好ましいものを例示すると、下記の通りである。
【0050】
1)シリカ系防錆剤:
・コロイダルシリカ;「スノーテックスO」、「スノーテックスN」、「スノーテックス20」、「スノーテックス30」、「スノーテックス40」、「スノーテックスC」、「スノーテックスS」(何れも日産化学工業社製の商品名)など、
・ヒュームドシリカ;「AEROSIL R971」、「AEROSIL R812」、「AEROSIL R811」、「AEROSIL R974」、「AEROSIL R202」、「AEROSIL R805」、「AEROSIL 130」、「AEROSIL 200」、「AEROSIL 300」、「AEROSIL 300CF」など(いずれも日本アエロジル社製の商品名)、
・イオン交換シリカ;「SHIELDEX C3O3」、「SHIELDEX AC−3」、「SHIELDEX C−5」など(いずれも富士シリシア化学社製の商品名)、
・アルミニウム修飾シリカ;「アデライトAT−20A2」など(日本アエロジル社製の商品名)、
2)リン酸塩系防錆剤:
・トリポリリン酸アルミニウム;「テイカK−WHITE 80」、「テイカK−WHITE 84」、「テイカK−WHITE 105」、「テイカK−WHIT G105」、「テイカK−WRITE 90」など(いずれもテイカ社製の商品名)、
・リン酸塩;リン酸亜鉛、リン酸鉄、リン酸アルミニウム、リン酸二水素アルミニウム、リン・ケイ酸亜鉛、リン酸アルミニウム亜鉛、リン酸カルシウム亜鉛など、
・ホスホン酸、ホスホン酸塩;亜リン酸亜鉛、亜リン酸カルシウム、亜リン酸アルミニウムなど、
3)モリブデン酸塩系防錆剤:モリブデン酸カルシウム、モリブデン酸アルミニウム、モリブデン酸バリウム、モリブデン酸亜鉛カルシウム、モリブデン酸亜鉛など、
4)リン・モリブデン酸塩系防錆剤;リン・モリブデン酸アルミニウムなど、
5)フィチン酸およびフィチン酸塩系防錆剤;
6)シリケート(ケイ酸塩)系防錆剤;カルシウムシリケート、無定形ケイ酸マグネシウム化合物など、
7)バナジウム系防錆剤;酸化バナジウムなど、
8)バナジウム酸/リン酸混合物系防錆剤;
9)ポリアニリン系防錆剤;スルホン酸ドープポリアニリンなど、
10)シアナミド系防錆剤;シアナミド亜鉛など、
が挙げられる。
【0051】
上記防錆剤の中でも本発明で特に好ましく使用されるのは、トリポリリン酸アルミニウム、無定形ケイ酸マグネシウム、カルシウムイオン交換シリカ(「SHIELDEX C3O3」など)である。これら3種類の防錆剤の中でも、トリポリリン酸アルミニウムおよび無定形ケイ酸マグネシウム化合物は、カルシウムイオン交換シリカよりも優れた耐食性向上効果を発揮するのでより好ましい。
【0052】
本発明における前記樹脂被覆層中に含まれる上記防錆剤の添加量(含有量)は、固形分換算で5〜25質量%の範囲が好ましく、5質量%未満では防錆性能が不足気味となり、逆に25質量%を超えて多過ぎると、成形加工性に悪影響を及ぼす恐れがでてくる。防錆剤のより好ましい配合量は10質量%以上、20質量%以下である。なお上記防錆剤の含有量は、好ましいものとして摘出した上記3種類の防錆剤の1種のみが含まれる場合はその含有量であり、2種以上が含まれる場合は、それらの合計含有量である。
【0053】
上記防錆剤は、その粒径を樹脂被覆層の厚さ(一般的に約10μm程度)以下に微粉砕して使用することが望ましい。防錆剤の粒径が塗膜厚さを超えると加工性が悪くなるからである。平均粒径にすると15μm程度以下が好ましい。
【0054】
上記防錆剤のうちトリポリリン酸アルミニウムは、pH緩衝作用と不働態膜形成作用によって優れた防錆能を発現する。トリポリリン酸アルミニウムは、そのままでも勿論使用できるが、これをMgやCaで処理したMg処理品やCa処理品はより優れた防錆性能を発現するので好ましい。
【0055】
また上記カルシウムイオン交換性シリカも、pH緩衝作用により優れた防錆能を発現する。カルシウムイオン交換性シリカ中のカルシウム成分の好ましい濃度は、1質量%以上、10質量%以下である。
【0056】
上記無定形ケイ酸マグネシウム化合物も、pH緩衝作用と不働態膜形成によって優れた防錆能を発現する。無定形ケイ酸マグネシウム化合物は、アルカリ金属ケイ酸塩と水溶性マグネシウム塩とを、Mg/Siの原子比で0.025〜1.0の割合で使用し、水溶液中で反応させることによって生成する沈殿を濾過した後、水洗・乾燥・粉砕することによって製造される。無定形であることはX線回折によって確認できる。
【0057】
次に、溶接性向上のために配合される導電性フィラーとしては、金属粉末(Zn,Ni,Cu,Ti,Sn,Ag,Auなど)、合金粉末(リン化鉄,フェロシリコン,フェロアルミ,フェロマンガン,AlMg,ステンレスなど)などが例示されるが、これらの中でも特に好ましいのはリン化鉄である。導電性フィラーとしてリン化鉄を使用すると、溶接性の向上のみならず、成形加工性も向上するからである。防錆や導電性の向上を目的として汎用されるジンクリッチペイント(Zn)は、加工時のパウダリングを助長するので、その使用には注意すべきである。
【0058】
なお、導電性フィラーとしてリン化鉄を使用する場合、その添加量(含有量)が樹脂被覆層全量中に占める固形分比率で60質量%を超えると、溶接性は向上するものの加工性が低下傾向となり、一方、40質量%未満では、加工性は良好であるものの十分な溶接性が得られ難くなる。従って、リン化鉄の含有量は40質量%以上、60質量%以下、より好ましくは45質量%以上、55質量%以下とすることが望ましい。
【0059】
導電性フィラーとして用いるリン化鉄の粒径は、最大粒径で15μm以下、より好ましくは12μm以下に抑えるのがよく、15μmを超えると加工性が悪くなる。なお、リン化鉄の粒径は小さくても問題ないが、粒径が6μm以下のものは市販品として入手し難くなるので、粒径の下限の目安は6μmである。なお該粒径とは、先にも説明した様に球相当径を意味する。
【0060】
樹脂被覆層には、上記成分の他、沈降防止剤としてヒュームドシリカが含有されることもある。また該樹脂被覆層中には、本発明の目的を阻害しない範囲で更に希釈溶剤、皮張り防止剤、レベリング剤、消泡剤、浸透剤、乳化剤、着色剤、増粘剤、造膜助剤などを適宜含有させることも可能である。
【0061】
樹脂被覆層の厚さは、薄すぎると防錆性に劣り、またリン化鉄粒子が欠落する恐れがあるため、3μm以上が好ましい。一方、溶接性の点から15μm以下とすることが好ましい。
【0062】
金属板上に樹脂被覆層を形成する方法に格別の制限はなく、上記樹脂被覆層を構成する組成物を公知の被覆形成法、たとえばロールコーター法、スプレー法、カーテンフローコーター法など任意の方法で金属板の片面若しくは両面に塗布して加熱乾燥すればよい。この際の加熱乾燥の温度または時間は、1次架橋反応が進行する温度以上、即ち架橋剤Bの架橋反応開始温度より高い温度で、且つ2次架橋反応が起こらない温度未満、即ち架橋剤Aの架橋反応開始温度未満の温度、あるいは1次架橋反応が進行する時間以上、即ち架橋剤Bの架橋反応が終了する時間より長い時間で、且つ2次架橋反応が開始する時間未満、即ち架橋剤Aの架橋反応開始時間未満の時間が採用される。具体的な加熱乾燥の温度および時間は架橋剤A,Bの種類によっても変わってくるが、通常は80〜120℃程度、1〜10分程度で行われる。
【0063】
また成形加工後に行われる2次硬化のための加熱温度や加熱時間は、架橋剤Aの架橋反応開始温度や架橋反応速度も考慮して決めればよいが、通常は塗装焼付けのための加熱を利用して行うことが多く、より一般的には150〜250℃、20〜40分程度で行われる。この2次硬化反応を行うことで、成形加工後の状態で硬さ不足の樹脂被覆層は、その中に残されていた未反応の架橋剤Aが3次元架橋して硬質化すると共に、優れた耐食性や耐疵付き性に優れた硬質の樹脂被覆層を形成することになる。
【実施例】
【0064】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらは何れも本発明の技術的範囲に含まれる。尚、下記実施例で採用した試験法は次の通りである。
【0065】
[架橋反応開始温度]
マトリックス樹脂(エポキシ樹脂、又はエポキシ樹脂とポリエステル系樹脂)と架橋剤とを混合し、テトラフルオロエチレン板上に乾燥厚さで約1mmとなる様に塗布して常温で被膜化することにより乾燥塗膜を得る。この乾燥塗膜を試料とし示差熱分析(DTA)装置を用いて加熱昇温させ、得られたチャートから図1に示す様にして架橋反応開始温度を求めた。
【0066】
[1次硬化後の塗膜曲げ弾性率]
1)アルミ基板のみで3点曲げ試験を行い、荷重−たわみ線図の勾配を求める、
2)同基板上に樹脂被覆層を形成してから3点曲げ試験を行い、同様の方法で荷重−たわみ線図の勾配を求める、
3)上記1)、2)で得られた勾配の比から、樹脂皮膜の曲げ弾性率を求める、
<測定条件>
測定装置:Intron社製の超精密材料試験機「Mode15848」、
使用ロードセル:10N容量、
測定手法:クロスヘッド移動量法、
測定温度:23°C(室温)、
支点間距離:40mm、
試験速度:0.5mm/min、
データ処理:Intron社製データ処理システム「Merlin」、
試験片形状:図2参照。
【0067】
[1次硬化後の加工性]
1)下記の条件で深絞り加工を行う、
抜き打ち:直径90mm、ポンチ:50mm、ダイス:52mm、BHF(しわ押さえ圧):980N、成形速度:160mm/min)、
2)加工後の表面を強制テープ剥離、
3)質量減量の測定、
<判定基準>
・〇:3g/m2未満(優秀)、
・△:3g/m2以上5g/m2未満(良好)、
・×:5g/m2以上(不良)。
【0068】
[2次硬化後の耐食性]
1)合せサンプルの作成;図3,4に示す如く合せサンプルを作成した後、次の処理(一般的な自動車用塗装方法に準ずる)を行う、
1-1)アルカリ脱脂(3%オルソ珪酸ソーダ水溶液を用いて40℃×2分で処理)、
1-2)水洗(30秒)、
1-3)リン酸塩処理(下記のリン酸水溶液を用いて60℃×2分)、
リン酸水溶液(日本パーカライジング社製、商品名「パルボンドL3080」)、該溶液中の酸濃度は、TA:23Po、FA:0.9Po、但し、Poはリン酸水溶液10mlを0.1NのNaOHで滴定するのに必要な量を表わし、指示薬としてTA;フェノールフタレインまたはFA;ブロムフェノールを用いた値、
1-4)カチオン電着塗装(目標膜厚;20μm)、
2)上記処理を行った合せサンプルについて、図5に示す耐食性サイクル試験を行う、
3)判定基準;
20サイクル後のサンプルを開いて合せ部の赤錆発生率を調べ下記の基準で評価する、
〇:0.5%未満、△:0.5%以上5%未満、×:5%超。
【0069】
[2次硬化後の溶接性]
下記試験条件で連続スポット溶接を行い、連続打点可能な回数で評価する、
<試験条件>
・先端径;6mm、
・加圧力;200kgf、
・通電サイクル;12サイクル、
・溶接電流;8.0kA、
<判定基準>
・×;400打点未満(溶接性不良)、
・△;400打点以上、600打点未満(許容範囲)、
・〇;600打点以上、800打点未満(良好)、
・◎;800打点超(溶接性優秀)。
【0070】
[1次硬化後の耐アルカリ性試験]
下記条件でスプレー脱脂を行った後、スプレーが当たっている箇所の表面光沢を目視観察し、下記の基準で評価する。
<スプレー脱脂条件>
・スプレー液組成;日本パーカライジング社製のオルソケイ酸ソーダ水溶液(2%)、
・スプレー圧;0.7kg、
・スプレーからサンプル板までの距離;145mm、
・スプレーパターン;円錐形、
・脱脂後の水洗;30秒、
<評価基準>
・○;テカリ発生なし、
・△;テカリ発生あり。
【0071】
実験例
1)表1に示す配合でエポキシ樹脂(またはエポキシ樹脂とポリエステル系樹脂)と硬化剤を配合した後、表2に示す比率で導電性フィラー(リン化鉄または亜鉛粉)と防錆剤(トリポリ燐酸アルミニウムまたはマグネシウム/シリカ)および沈降防止剤(日本アエロジル社製の商品名「R972」)を加える。なお、各配合原料は、それぞれ固形分濃度が50質量%となる様に、キシレン/プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート/n−ブタノール=4/3/1(質量比)の混合溶媒に溶解・分散させて調製した。
【0072】
2)上記で得た配合物を冷却しつつ、ホモジナイザーを用いて3000rpmで10分間撹拌する。
【0073】
3)上記で得た均一分散液を使用し、ノンクロメート下地処理を施した合金化溶融亜鉛めっき鋼板上に、乾燥塗膜厚さで10μmとなる様にバーコーターで塗工する。
【0074】
4)塗工した鋼板を連続加熱炉へ装入し、PMT(最高到達温度)l40℃で加熱することにより、溶剤の除去と1次硬化を行う。
【0075】
5)得られた1次硬化樹脂被覆鋼板を用いて加工性の評価試験を行う。
【0076】
6)更に、上記4)得た1次硬化樹脂被覆鋼板を、PMT230℃で加熱することにより2次硬化させる。
【0077】
7)該2次硬化樹脂被覆金属板について、耐食性および溶接性の評価試験を行う。
【0078】
結果を表3に一括して示す。
【0079】
【表1】

【0080】
【表2】

【0081】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】架橋反応開始温度を説明するためのDTAチャートのモデル図である。
【図2】曲げ弾性率測定用の試験片形状を示す模式図である。
【図3】耐食性試験用の合せサンプルの組付けを示す平面説明図である。
【図4】同じく、耐食性試験用の合せサンプルの組付けを示す側面説明図である。
【図5】耐食性評価のためのサイクル試験法を示す説明図である。
【図6】可撓性エポキシ樹脂の特性評価に用いる繰返し曲げ試験法を示す説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板上に、導電性フィラーと防錆剤を含む樹脂被覆層が形成されてなり、該樹脂被覆層を構成するマトリックス樹脂は可撓性エポキシ樹脂を主体とし、曲げ弾性率が3GPa以下であることを特徴とする加工性、溶接性および耐食性に優れた樹脂被覆金属板。
【請求項2】
前記マトリックス樹脂がポリエステル系樹脂を含む請求項1に記載の樹脂被覆金属板。
【請求項3】
前記可撓性エポキシ系樹脂が、ウレタン変性エポキシ樹脂および/またはダイマー酸変性エポキシ樹脂である請求項1または2に記載の樹脂被覆金属板。
【請求項4】
前記マトリックス樹脂が、可撓性エポキシ樹脂:60〜90質量%とポリエステル系樹脂:10〜40質量%を含む請求項2または3に記載の樹脂被覆金属板。
【請求項5】
前記エポキシ樹脂は、架橋剤としてブロックイソシアネート、メラミン系樹脂、アミン系樹脂よりなる群から選択される少なくとも1種を用いたものである請求項1〜4のいずれかに記載の樹脂被覆金属板。
【請求項6】
前記導電性フィラーがリン化鉄である請求項1〜5のいずれかに記載の樹脂被覆金属板。
【請求項7】
前記防錆剤が、トリポリリン酸アルミニウム、無定形ケイ酸マグネシウム、カルシウムイオン交換シリカよりなる群から選択される少なくとも1種である請求項1〜6のいずれかに記載の樹脂被覆金属板。
【請求項8】
前記導電性フィラーおよび防錆剤は、いずれも最大粒径が15μm以下の粉体である請求項1〜7のいずれかに記載の樹脂被覆金属板。
【請求項9】
前記金属板がめっき処理されたものである請求項1〜8のいずれかに記載の樹脂被覆金属板。
【請求項10】
前記樹脂被覆層は、マトリックス樹脂:25質量%以上55質量%以下、導電性フィラー:40質量%以上55質量%以下、防錆剤:5質量%以上25質量%以下を含有するものである請求項1〜9のいずれかに記載の樹脂被覆金属板。
【請求項11】
前記マトリックス樹脂として、エポキシ樹脂またはエポキシ樹脂およびポリエステル系樹脂との架橋反応開始温度が異なるか、あるいは該架橋開始温度が略同じで架橋反応速度が異なる2種以上の架橋剤が用いられると共に、架橋反応開始温度が最も高いか、架橋反応速度の最も遅い架橋剤を架橋剤A、架橋反応開始温度が最も低いか、架橋反応速度が最も速い架橋剤を架橋剤Bとしたとき、樹脂被覆層中に、エポキシ樹脂またはエポキシ樹脂およびポリエステル系樹脂と架橋剤Bとの1次硬化反応物と、未反応の架橋剤Aが含まれている請求項1〜10のいずれかに記載の樹脂被覆金属板。
【請求項12】
めっき金属板上に、導電性フィラー、防錆剤および架橋剤を含み、曲げ弾性率が3GPa以下である前記請求項11に記載の樹脂被覆層が形成された樹脂被覆金属板を成形加工し、該成形加工と同時に、又は成形加工後に、未反応の架橋剤Aを反応させて2次硬化させたものであることを特徴とする溶接性および耐食性に優れた樹脂被覆金属板加工品。
【請求項13】
金属板上に、導電性フィラー、防錆剤および架橋剤を含み、曲げ弾性率が3GPa以下である前記請求項11に記載の樹脂被覆層が形成された樹脂被覆金属板を成形加工し、該成形加工と同時または成形加工後に、前記架橋剤Aの架橋反応開始温度以上および/もしくは架橋反応開始時間以上加熱し、未反応の架橋剤Aを反応させて2次硬化させることを特徴とする溶接性および耐食性に優れた樹脂被覆金属板加工品の製法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−35842(P2006−35842A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−38652(P2005−38652)
【出願日】平成17年2月16日(2005.2.16)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】