説明

加工性と加工部耐食性に優れた表面処理鋼板

【課題】めっき皮膜中のAl含有量が20〜95mass%の溶融Al−Zn系めっき鋼板を下地鋼板とする表面処理鋼板において、優れた加工性、加工部耐食性及びロールフォーミング性を得る。
【解決手段】めっき鋼板面に、所定Cr付着量のクロメート皮膜とその上層の熱硬化性有機樹脂皮膜とからなる化成処理皮膜を有し、好ましくはめっき皮膜を少なくとも下記(a)及び(b)の熱履歴を経たものとする。
(a)めっき浴を出た直後の10秒間の平均冷速が11℃/sec未満の熱履歴
(b)めっき金属の凝固後、130〜300℃間の温度T(℃)に加熱され、その後、温度T(℃)から100℃までの平均冷速がC=(T−100)/2であるC(℃/hr)以下を満足する熱履歴、又は/及び、めっき金属の凝固後の130〜300℃間の温度T(℃)から100℃までの平均冷速が上記C(℃/hr)以下を満足する熱履歴

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、めっき皮膜中のAl含有量が20〜95mass%の溶融Al−Zn系めっき鋼板を下地鋼板とする表面処理鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
めっき皮膜中にAlを20〜95mass%含有する溶融Al−Zn系めっき鋼板は、特許文献1に示されるように溶融亜鉛めっき鋼板に比べて優れた耐食性を示すことから、近年、建材分野を中心に需要が伸びている。
このめっき鋼板は、酸洗脱スケールした熱延鋼板又はこれをさらに冷間圧延して得られた冷延鋼板を下地鋼板とし、連続式溶融めっき設備において以下のようにして製造される。
【特許文献1】特公昭46−7161号公報
【0003】
連続式溶融めっき設備では、下地鋼板は還元性雰囲気に保持された焼鈍炉内で所定温度に加熱され、焼鈍と同時に鋼板表面に付着する圧延油等の除去、酸化膜の還元除去が行われた後、下端がめっき浴に浸漬されたスナウト内を通って所定濃度のAlを含有した溶融亜鉛めっき浴中に浸漬される。めっき浴に浸漬された鋼板はシンクロールを経由してめっき浴の上方に引き上げられた後、めっき浴上に配置されたガスワイピングノズルから鋼板の表面に向けて加圧した気体を噴射することによりめっき付着量が調整され、次いで冷却装置により冷却され、所定のめっき皮膜が形成された溶融Al−Zn系めっき鋼板が得られる。
【0004】
連続式溶融めっき設備における焼鈍炉の熱処理条件及び雰囲気条件、めっき浴組成やめっき後の冷却速度等の操業条件は、所望のめっき品質や材質を確保するために所定の管理範囲で精度よく管理される。
上記のようにして製造されためっき鋼板のめっき皮膜は、主としてZnを過飽和に含有したAlがデンドライト凝固した部分と、残りのデンドライト間隙の部分からなっており、デンドライトはめっき皮膜の膜厚方向に積層している。このような特徴的な皮膜構造により、溶融Al−Zn系めっき鋼板は優れた耐食性を示す。
【0005】
また、めっき浴には通常1.5mass%程度のSiが添加されているが、このSiの働きにより、溶融Al−Zn系めっき鋼板はめっき皮膜/下地鋼板界面の合金相成長が抑えられ、合金相厚さは約1〜2μm程度である。この合金相が薄ければ薄いほど優れた耐食性を示す特徴的な皮膜構造の部分が多くなるので、合金相の成長抑制は耐食性の向上に寄与する。また、合金相はめっき皮膜よりも固く加工時にクラックの起点として作用するので、合金相の成長抑制はクラックの発生を減少させ、加工性の向上効果をもたらす。また、クラック部は下地鋼板が露出していて耐食性に劣るので、クラックの発生を減じることは加工部耐食性をも向上させる。
【0006】
通常、めっき浴には不可避的不純物、鋼板やめっき浴中の機器等から溶出するFe、合金相抑制のためのSiが含まれるが、それら以外にも何らかの元素が添加されている場合もあり、合金相やめっき皮膜中にはそれら元素が合金或いは単体の形で存在している。
また、溶融Al−Zn系めっき鋼板は実用に供されるに当たって溶融めっきままで使用されることは極く稀であり、通常はめっき鋼板表面に化成処理や塗装を施した表面処理鋼板として使用される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のような溶融Al−Zn系めっき鋼板のめっき皮膜は、ロールフォーミング加工時に金型との接触により摺動を受けた場合にめっきが“かじり”を生じやすく、外観品質が低下しやすいという問題がある。これは、合理化の観点から無塗油での成型やクーラントを省略した加工を行う場合に、連続的な加工によって金型の温度が上昇することが、加工に対してさらに厳しい条件として作用するためであると考えられる。ロールフォーミング性を高める目的で、特許文献2では有機樹脂を含む皮膜でめっき表面を被覆する方法が提案されている。しかし、この方法によればロールフォーミング性はある程度改善されるものの、その改善効果は、加工によって金型の温度が上昇するような厳しい加工条件においても“かじり”のない良好な外観品質が得られる、というものではない。
【特許文献2】特公平4−2672号公報
【0008】
また、上記のような溶融Al−Zn系めっき鋼板は、折り曲げ等の加工を施すと加工の程度によって被加工部のめっき皮膜にクラックが生じる。このめっき鋼板では、めっき皮膜/下地鋼板界面に存在する約1〜2μm厚の合金相がクラックの起点となり、また、めっき皮膜のデンドライト間隙部がクラックの伝播経路になることから、同程度の加工を行った場合でも、同一めっき皮膜厚の溶融亜鉛めっき鋼板に比べてクラックが比較的大きく開口する傾向がある。そのため加工の程度によってはクラックが肉眼で視認され、外観を損ねるという問題がある。さらに、上述のように溶融Al−Zn系めっき鋼板は、同一めっき皮膜厚の溶融亜鉛めっき鋼板に比べて優れた耐食性を発揮するが、下地鋼板の露出したクラック部はクラックのない部分と比較して耐食性が顕著に低下するという問題もある。
【0009】
このような問題に対して、例えば特許文献3には、溶融Al−Zn系めっき鋼板に所定の熱処理を施すことによって、めっき鋼板の延性を改善する方法が示されている。しかし、このような従来技術の熱処理だけではめっき皮膜の延性を十分に改善することは難い。
また、上述したように溶融Al−Zn系めっき鋼板は表面に化成処理を施した化成処理鋼板や塗装を施した塗装鋼板として使用されるのが通常である。そして、単に折り曲げ等の加工による加工部でのクラック発生抑止の観点から、上記従来技術のようにめっき皮膜の延性をある程度改善したとしても、必ずしも実用に供される製品としての性能、すなわち化成処理や塗装を行った表面処理鋼板としての加工性や加工部の耐食性が直ちに改善されるものではない。
【特許文献3】特公昭61−28748号公報
【0010】
したがって本発明の目的は、めっき皮膜中のAl含有量が20〜95mass%の溶融Al−Zn系めっき鋼板を下地鋼板とし、従来にない優れた加工性、加工部耐食性及びロールフォーミング性が得られる表面処理鋼板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題の解決のために本発明者らは、実用製品すなわち溶融Al−Zn系めっき鋼板に化成処理を施した表面処理鋼板としての性能に視点を定め、加工性、加工部耐食性、ロールフォーミング性等の特性を向上させるために最適なめっき皮膜と化成処理皮膜の構成について鋭意検討を行った。その結果、溶融Al−Zn系めっき鋼板のめっき皮膜面に特定の化成処理皮膜を形成することにより、さらに好ましくはめっき皮膜を特定の熱履歴を経たものとすることにより、従来では達成できなかった極めて優れた加工性、加工部耐食性及びロールフォーミング性が得られることを見出した。
【0012】
本発明はこのような知見に基づいてなされたもので、その特徴は以下のとおりである。
[1]めっき皮膜中のAl含有量が20〜95mass%の溶融Al−Zn系めっき鋼板の表面に化成処理皮膜を有する表面処理鋼板であって、
前記化成処理皮膜が、めっき皮膜面に形成される金属クロム換算のCr付着量が0.1mg/m以上100mg/m未満のクロメート皮膜と、その上層に形成される皮膜であって、熱硬化性有機樹脂を皮膜形成樹脂とする膜厚0.1〜5μmの有機樹脂皮膜とからなることを特徴とする加工性と加工部耐食性に優れた表面処理鋼板。
【0013】
[2]上記[1]の表面処理鋼板において、めっき皮膜が少なくとも下記(a)及び(b)の熱履歴を経て得られためっき皮膜であることを特徴とする加工性と加工部耐食性に優れた表面処理鋼板。
(a)鋼板が溶融めっき浴を出た直後の10秒間の平均冷却速度が11℃/sec未満である熱履歴
(b)溶融めっきされためっき金属が凝固した後、130〜300℃の範囲の温度T(℃)に昇温加熱され、その後、温度T(℃)から100℃までの平均冷却速度が下記(1)式に示すC(℃/hr)以下を満足する熱履歴、
又は/及び、溶融めっきされためっき金属が凝固した後の130〜300℃の範囲の温度T(℃)から100℃までの平均冷却速度が下記(1)式に示すC(℃/hr)以下を満足する熱履歴
C=(T−100)/2 ……(1)
【0014】
[3]上記[1]又は[2]の表面処理鋼板において、(b)の熱履歴の温度T(℃)が130〜200℃の範囲であることを特徴とする加工性と加工部耐食性に優れた表面処理鋼板。
[4]上記[1]〜[3]のいずれかの表面処理鋼板の表面に単層又は複層の塗膜を形成したことを特徴とする塗装鋼板。
【発明の効果】
【0015】
本願の請求項1に係る発明の表面処理鋼板は、めっき皮膜中のAl含有量が20〜95mass%の溶融Al−Zn系めっき鋼板を下地鋼板とする表面処理鋼板でありながら極めて優れた加工部耐食性とロールフォーミング性を有する。また、本願の請求項2及び請求項3に係る発明の表面処理鋼板は、優れた加工性とロールフォーミング性を有するとともに、特に優れた加工部耐食性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の表面処理鋼板は、めっき皮膜中にAlを20〜95mass%含有する溶融Al−Zn系めっき鋼板を下地鋼板とする。また耐食性等の観点から、めっき皮膜中のAl量より好ましい範囲は45〜65mass%である。また、めっき皮膜の特に好ましい成分組成は、Al:45〜65mass%、Si:0.7〜2.0mass%、Fe:10mass%未満、残部が不可避的不純物を含む実質的なZnであり、このような組成の場合に特に優れた耐食性を発揮する。但し、この溶融Al−Zn系めっき鋼板は、そのめっき組成だけで高い加工部耐食性を得ることは難しく、上層の化成処理皮膜を組み合せること、さらに好ましくは後述するめっき皮膜への熱履歴の付与を組み合せることによってはじめて優れた加工部耐食性が得られる。
また、この溶融Al−Zn系めっき鋼板のめっき付着量に特に制限はないが、一般には片面当たり30〜120g/m程度とすることが適当である。
【0017】
本発明の表面処理鋼板において、めっき皮膜面に形成される化成処理皮膜は、めっき皮膜面に形成される金属クロム換算のCr付着量が0.1mg/m以上100mg/m未満、好ましくは5mg/m以上40mg/m以下のクロメート皮膜と、その上層に形成される皮膜であって、熱硬化性有機樹脂を皮膜形成樹脂とする膜厚0.1〜5μm、好ましくは0.5〜3μmの有機樹脂皮膜とからなる。
【0018】
前記クロメート皮膜は、めっき表面を不動態化することにより耐食性を向上させる効果がある。クロメート皮膜の金属クロム換算でのCr付着量が0.1mg/m未満では耐食性の向上効果が不十分であり、一方、Cr付着量が100mg/m以上では付着量に見合う耐食性向上効果が得られないばかりでなく、着色により外観品質が低下するので好ましくない。
【0019】
このクロメート皮膜中にはシリカを添加することができ、これにより上層の有機樹脂皮膜との密着性が高められるとともに、化成処理後にめっき皮膜に特定の熱履歴を与えるための熱処理を行った際の化成処理皮膜の耐食性低下を防止する効果が得られる。添加するシリカの種類としては、上層樹脂皮膜との密着性向上の面では乾式シリカの方が効果が大きく、一方、熱処理による耐食性の低下防止の面からは湿式シリカの方が効果が大きい。したがって、目的に応じて添加するシリカの種類を選択すればよい。シリカの添加量としては、皮膜中の固形分の割合で1〜50mass%、好ましくは5〜30mass%が望ましい。
【0020】
また、クロメート皮膜中にはシリカ以外の添加剤を適宜添加してよく、例えば、耐食性の向上や着色防止などを目的として、鉱酸、フッ化物、リン酸、リン酸系化合物、Ni,Co,Fe,Zn,Mg,Ca等の金属塩等を添加してもよい。
クロメート処理は、めっき鋼板表面にクロメート処理液を塗布した後、通常、80〜250℃の温度で加熱乾燥し、クロメート皮膜を形成する。
【0021】
クロメート皮膜の上層に形成される有機樹脂皮膜は、熱硬化性有機樹脂を皮膜形成樹脂とする膜厚が0.1〜5μmの皮膜である。
上記有機樹脂皮膜中の有機樹脂は熱硬化性樹脂であることが必要である。表面処理鋼板に対して連続的なロールフォーミング加工がなされるとロール温度が大きく上昇し、化成処理皮膜に含まれる有機樹脂が通常の熱可塑性樹脂や一般的なエマルジョン樹脂の場合にはロールの温度上昇によって皮膜に傷を生じ、加工後外観が劣化してしまう。そこで、このような問題を解消すべく検討した結果、皮膜の有機樹脂として熱硬化性樹脂を用いることにより、高温下での耐傷付性が飛躍的に高まり、この結果、連続的なロールフォーミング加工においても加工後外観に問題を生じないことが判った。
【0022】
ここで、熱硬化性樹脂とは、皮膜形成時の加熱により、有機高分子の官能性側鎖どうしの、または有機高分子と硬化剤との付加若しくは縮合反応、あるいは主鎖または側鎖の二重結合を利用したラジカル重合等の架橋反応が生じる樹脂であり、この熱硬化性樹脂としては、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、スチレン樹脂、若しくはこれらの変性樹脂等の1種以上を用いることができる。また、これらのなかでも特に、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂が加工性の観点から望ましい。また、以上のような熱硬化性樹脂には水分散系と溶剤系とがあり、いずれを用いてもよい。
【0023】
これらの樹脂は、樹脂溶液の塗布後の加熱により架橋反応が生じて硬化する。その硬化温度は、樹脂種や硬化剤の種類によって異なる。本発明では硬化剤の種類や添加量、樹脂溶液塗布後の加熱温度、加熱時間を特に限定するものではなく、また、樹脂溶液は塗布後の加熱により完全に硬化させてもよいが、塗布後の加熱により適度な状態まで硬化(通板ロール等との接触により皮膜が脱落しないような硬化状態)させ、後の熱処理により完全硬化させるようにしてもよい。
有機樹脂皮膜の膜厚が0.1μm未満ではロールフォーミング性が不十分であり、一方、膜厚が5μmを超えると成形ロールへの樹脂付着が多くなるため好ましくない。
【0024】
本発明の表面処理鋼板において、めっき皮膜に後述するような特定の熱履歴を付与するために化成処理皮膜の形成後に熱処理を行う場合、化成処理皮膜中に含まれる有機樹脂の特性が損なわれるおそれがある場合があり、その場合には化成処理皮膜(有機樹脂皮膜)中に無機添加物(微粒子)を添加することが有効である。無機添加物としては、シリカ、リン酸系化合物、ケイ酸化合物(例えば、Ca塩、Mg塩)等の1種以上を配合することが可能である。
また、本発明の表面処理鋼板では、化成処理皮膜の下層がクロメート皮膜であるため有機樹脂皮膜中にはCrは含まれない。このため表面処理鋼板は、特に耐Cr溶出性に優れた性能を有する。
【0025】
本発明の表面処理鋼板では、溶融Al−Zn系めっき鋼板のめっき皮膜が、少なくとも下記(a)及び(b)の熱履歴を経て得られためっき皮膜であることが好ましく、このような(a)及び(b)の熱履歴を経ためっき皮膜の表面に上述した特定の化成処理皮膜を形成することにより、特に優れた加工性と加工部耐食性が得られる。
(a)鋼板が溶融めっき浴を出た直後の最初の10秒間の平均冷却速度が11℃/sec未満である熱履歴
(b)溶融めっきされためっき金属が凝固した後、130〜300℃の範囲の温度T(℃)に昇温加熱され、その後、温度T(℃)から100℃までの平均冷却速度が下記(1)式に示すC(℃/hr)以下を満足する熱履歴、
又は/及び、溶融めっきされためっき金属が凝固した後の130〜300℃の範囲の温度T(℃)から100℃までの平均冷却速度が下記(1)式に示すC(℃/hr)以下を満足する熱履歴
C=(T−100)/2 ……(1)
【0026】
また、上記(b)の熱履歴において、温度T(℃)のより好ましい範囲は130〜200℃である。
ここで、上記(1)式は本発明者らがめっき皮膜の昇温加熱及びその後の冷却条件や溶融めっきされためっき金属凝固後の冷却条件がめっき皮膜に与える影響を実験に基づき詳細に検討し、その結果導かれた実験式である。
【0027】
めっき皮膜を上記(a)及び(b)の熱履歴を経たものとすることにより、溶融Al−Zn系めっき皮膜でありながら、その加工性(耐クラック性など)は顕著に向上する。上記(a)及び(b)の熱履歴を経ることによりめっき皮膜の加工性が顕著に改善されるのは、以下のような理由によるものと考えられる。まず、鋼板が溶融めっき浴を出た直後に上記(a)の熱履歴、すなわち溶融めっき浴を出た直後の10秒間の平均冷却速度を十分に遅くした熱履歴を経ることにより、溶融めっき皮膜の凝固が通常の冷却過程による凝固よりも平衡状態に近いものとなるため、半溶融状態での拡散によってAlとZnの二相分離が促進され、この結果、めっき皮膜が軟質化する。そして、このような熱履歴を経ためっき皮膜がさらに上記(b)の熱履歴、すなわち130〜300℃(好ましくは130〜200℃)の温度範囲に昇温加熱された後に特定の条件で徐冷される熱履歴、又は/及びめっき皮膜凝固後の130〜300℃(好ましくは130〜200℃)の温度範囲から特定の条件で徐冷される熱履歴を経ることにより、凝固時点でめっき皮膜に蓄積された歪が開放されるとともに、めっき皮膜中で固体拡散が生じ、上記(a)の熱履歴によって生じためっき皮膜中のAlとZnの二相分離がさらに効果的に促進される。これらの結果、めっき皮膜が著しく軟質化してその加工性が顕著に改善されるものと考えられる。
【0028】
したがって、このようなめっき皮膜の軟質化とこれに伴う加工性の顕著な改善は、上記(a)及び(b)の熱履歴の複合的な作用によるものであり、いずれか一方の熱履歴だけで達成するのは困難である。
【0029】
以下、上記(a)及び(b)の熱履歴の詳細について説明する。
まず、上記(a)の熱履歴については、鋼板が溶融めっき浴を出た直後の最初の10秒間のめっき皮膜の平均冷却速度を11℃/sec未満とすることにより、上述したように溶融めっき皮膜の凝固が通常の冷却過程による凝固よりも平衡状態に近いものとなるため、半溶融状態での拡散によってAlとZnの二相分離が促進されることによりめっき皮膜が軟質化する。鋼板が溶融めっき浴を出た直後の最初の10秒間での平均冷却速度が11℃/sec以上では、凝固速度が速すぎるため溶融めっき皮膜の凝固が非平衡状態で進行し、半溶融状態である時間が短いためAlとZnの二相分離が十分に促進されず、上記(b)の熱履歴との複合化によるめっき皮膜の軟質化が十分に達成できない。
【0030】
図1は、鋼板が溶融めっき浴を出た直後の最初の10秒間のめっき皮膜の平均冷却速度が表面処理鋼板の加工性に及ぼす影響を調べたもので、この結果が得られた供試材は、いずれもめっき皮膜が上記(b)の熱履歴を経て製造されためっき鋼板に本発明条件を満足する化成処理皮膜を形成した表面処理鋼板である。なお、この試験における加工性の評価は、後述する実施例の加工性の評価に準じて行った。
図1に示されるように、鋼板が溶融めっき浴を出た直後の最初の10秒間でのめっき皮膜の平均冷却速度が11℃/sec以上では、0T曲げでの加工性の評点は2点以下である。これに対して、めっき皮膜の平均冷却速度が11℃/sec未満では加工性の評点は4点以上となり、加工性が格段に改善されていることが判る。
【0031】
めっき皮膜を上記(a)の熱履歴を経たものとするには、連続式溶融めっき設備の溶融めっき浴面から溶融めっき浴を出た鋼板が最初に接触するロールまでの間に温度調整装置を設け、この温度調整装置によりめっき皮膜の冷却速度を制御する必要がある。温度調整装置としては加熱又は保熱手段を備えるとともに、必要に応じて冷却手段を備えたものが好ましい。なお、この冷却手段は、前記加熱又は保熱手段によってめっき皮膜の冷却速度が制御されためっき鋼板が最初のロール(トップロールなど)に接触する前にこれを冷却し、ロール表面でのピックアップ発生を防止することなどを目的とするものである。温度調整装置の加熱又は保熱手段としては、例えばインダクションヒータやガス加熱炉などを用いることができ、また冷却手段としてはガス吹付装置などを用いることができる。但し、温度調整装置が有する加熱又は保熱手段や冷却手段の方式、形状、規模等については特別な制限はなく、要はめっき皮膜に上記(a)の熱履歴を付与し得るものであればよい。
【0032】
次に、上記(b)の熱履歴については、上記(a)の熱履歴を経ためっき皮膜(溶融めっきされためっき金属が凝固した後のめっき皮膜)を130〜300℃、好ましくは130〜200℃の範囲の温度T(℃)に昇温加熱し、その後、温度T(℃)から100℃までの平均冷却速度が上記(1)式に示すC(℃/hr)以下を満足するように冷却することにより、或いは溶融めっきされためっき金属が凝固した後のめっき皮膜をその冷却過程である130〜300℃の範囲の温度T(℃)から100℃までの平均冷却速度が上記(1)式に示すC(℃/hr)以下を満足するように冷却することにより、上述したようにめっき皮膜に蓄積された歪が開放されるとともに、めっき皮膜中で固体拡散が生じ、上記(a)の熱履歴によって生じためっき皮膜中のAlとZnの二相分離がさらに効果的に促進される。そして、このような熱履歴と上記(a)の熱履歴の複合的な作用によりめっき皮膜が著しく軟質化し、その加工性が顕著に改善される。
【0033】
ここで、上記(b)の熱履歴におけるめっき皮膜の昇温加熱温度Tが130℃未満では上記のような作用が十分に得られず、一方、昇温加熱温度Tが300℃超では下地鋼板とめっき皮膜との界面での合金相の成長を促進させるため、却って加工性に悪影響を及ぼす。またこのような観点から、加工性の改善にとってより好ましい昇温加熱温度Tの上限は200℃である。
また、溶融めっきされためっき金属が凝固した後の冷却過程である130〜300℃の範囲の温度T(℃)から上記(b)の熱履歴が付与される条件で冷却を行う場合についても、温度Tが130℃未満では上記のような作用が十分に得られない。
【0034】
図2(a)は、溶融めっきされためっき金属が凝固した後のめっき鋼板を熱処理した際の、めっき皮膜の昇温加熱温度が表面処理鋼板の加工性に及ぼす影響を調べたもので、この結果が得られた供試材は、いずれも昇温加熱温度から100℃までのめっき皮膜の平均冷却速度が上記(b)の熱履歴の条件内であり、且つめっき皮膜が上記(a)の熱履歴を経て製造されためっき鋼板に、本発明条件を満足する化成処理皮膜を形成した表面処理鋼板である。なお、この試験における加工性の評価は、後述する実施例の加工性の評価に準じて行った。
【0035】
また図2(b)は、溶融めっきされためっき金属が凝固した後のめっき鋼板を熱処理した際の、めっき皮膜の平均冷却速度(昇温加熱温度から100℃までの平均冷却速度)が表面処理鋼板の加工性に及ぼす影響を調べたもので、この結果が得られた供試材は、いずれもめっき皮膜の昇温加熱温度が上記(b)の熱履歴の条件内であり、且つめっき皮膜が上記(a)の熱履歴を経て製造されためっき鋼板に化成処理皮膜を形成した表面処理鋼板である。なお、この試験における加工性の評価は、後述する実施例の加工性の評価に準じて行った。
【0036】
図2(a),(b)に示されるように、めっき皮膜の昇温加熱温度が130〜300℃の範囲では0T曲げの加工性の評点が4点以上であり、また好ましい条件である130〜200℃の範囲では加工性の評点は4点〜5点となっている。これに対して昇温加熱温度が130〜300℃の範囲外では加工性の評点は3点しか得られていない。また、昇温加熱温度から100℃までの平均冷却速度と上記(1)式の“C”との差が零〜マイナス(本発明範囲内)の場合には0T曲げの加工性の評点は4〜5点であるのに対し、その差がプラス(本発明範囲外)の場合には加工性の評点は3点しか得られていない。
【0037】
めっき皮膜を上記(b)の熱履歴を経たものとするには、連続式溶融めっき設備内に或いは同設備外にめっき皮膜を熱処理又は保熱するための加熱又は保熱装置を設け、所定の熱処理又は保熱を行う。例えば、連続式溶融めっき設備内に加熱機構(例えば、インダクションヒーター、ガス加熱炉、熱風炉など)を設けてインラインで連続加熱して行ってもよいし、また、コイルに巻取った後にオフラインでバッチ加熱して行ってもよい。また、めっきライン外の連続処理設備において加熱機構(例えば、インダクションヒーター、ガス加熱炉、熱風炉など)により連続加熱して行ってもよい。さらには、めっきライン内や上記連続処理設備で連続加熱されためっき鋼板をコイルに巻き取った後に適当な保熱又は加熱保持を行ってもよい。また、溶融めっきされためっき金属が凝固した後の冷却過程においてめっき皮膜を保熱して徐冷できるような保熱装置を設けてもよい。
但し、加熱又は保熱装置の方式、形状、規模等については特別な制限はなく、要はめっき皮膜に上記(b)の熱履歴を与え得るものであればよい。
【0038】
次に、本発明による上記表面処理鋼板の製造方法について説明する。
本発明の製造方法は、連続式溶融めっき設備などで製造されるめっき皮膜中のAl含有量が20〜95mass%の溶融Al−Zn系めっき鋼板を下地鋼板とし、その表面に化成処理皮膜を形成した表面処理鋼板の製造方法であり、溶融めっき浴を出た鋼板のめっき皮膜に対して、少なくとも下記(a)及び(b)の熱履歴を付与する工程と、めっき鋼板の表面に特定の化成処理皮膜を形成させる工程とを有する。
(a)鋼板が溶融めっき浴を出た直後の10秒間の平均冷却速度が11℃/sec未満である熱履歴
(b)溶融めっきされためっき金属が凝固した後、130〜300℃の範囲の温度T(℃)に昇温加熱され、その後、温度T(℃)から100℃までの平均冷却速度が下記(1)式に示すC(℃/hr)以下を満足する熱履歴、
又は/及び、溶融めっきされためっき金属が凝固した後の130〜300℃の範囲の温度T(℃)から100℃までの平均冷却速度が下記(1)式に示すC(℃/hr)以下を満足する熱履歴
C=(T−100)/2 ……(1)
【0039】
めっき皮膜に付与される上記(a)及び(b)の熱履歴のうち、(a)の熱履歴の付与は、めっき直後のめっき皮膜の冷却条件を制御することによりなされる。
この(a)の熱履歴をめっき皮膜に付与するには、上述したように連続式溶融めっき設備の溶融めっき浴面から溶融めっき浴を出た鋼板が最初に接触するロールまでの間に温度調整装置を設け、この温度調整装置によりめっき皮膜の冷却速度を制御する必要がある。上述したように温度調整装置としては加熱又は保熱手段を備えるとともに、必要に応じて冷却手段を備えたものが好ましいが、加熱又は保熱手段や冷却手段の方式、形状、規模等については特別な制限はなく、要はめっき皮膜に上記(a)の熱履歴を与え得るものであればよい。温度調整装置の加熱又は保熱手段としては、例えばインダクションヒータやガス加熱炉などを用いることができ、また冷却手段としてはガス吹付装置などを用いることができる。
【0040】
また、上記(b)の熱履歴の付与は、溶融めっきされためっき金属が凝固した後のめっき鋼板に対して特定の熱処理を施すか、或いは溶融めっきされためっき金属が凝固した後のめっき皮膜の冷却を保熱などによって制御することによりなされる。本発明の製造方法ではめっき鋼板のめっき皮膜面に特定の化成処理皮膜を形成させるが、めっき皮膜に上記(b)の熱履歴を付与するための熱処理は、(i)化成処理皮膜の形成前、(ii)化成処理皮膜の乾燥工程中、(iii)化成処理皮膜の形成後(処理液の塗布及びその乾燥工程による皮膜の形成後)、のいずれの段階で行ってもよい。また、これらのうちの2つ以上の段階で行ってもよい。
【0041】
したがって、めっき皮膜に対する(b)の熱履歴の付与は、下記(1)〜(4)のうちの少なくとも1つの段階で行うことができる。
(1)化成処理皮膜の形成前
(2)化成処理皮膜の乾燥工程中
(3)化成処理皮膜の形成後
(4)溶融めっきされためっき金属が凝固した後の冷却過程
なお、熱処理を行う上記方式うち、(i)の方式は熱処理工程と化成処理工程の各条件をそれぞれ独立に最適化できるという利点があり、また、(ii),(iii)
の方式は連続式溶融めっき設備内で全ての処理を行うのに適している。また、(ii)の方式は化成処理の乾燥工程における加熱を利用して熱処理を行うので、特に経済性に優れている。
【0042】
上記(b)の熱履歴を付与するための熱処理又は保熱は、連続式溶融めっき設備内に或いは同設備外に設けられた加熱又は保熱装置などにより行う。連続式溶融めっき設備内に加熱機構(例えば、インダクションヒーター、熱風炉など)を設けてインラインで連続加熱して行ってもよいし、また、コイルに巻取った後にオフラインでバッチ加熱して行ってもよい。また、めっきライン外の連続処理設備において加熱機構(例えば、インダクションヒーター、熱風炉など)により連続加熱して行ってもよい。さらには、めっきライン内や上記連続処理設備で連続加熱されためっき鋼板をコイルに巻き取った後に適当な保熱又は加熱保持を行ってもよい。また、溶融めっきされためっき金属が凝固した後の冷却過程においてめっき皮膜を保熱して徐冷できるような保熱装置を設けてもよい。但し、加熱又は保熱装置の方式、形状、規模等については特別な制限はなく、要はめっき皮膜に上記(b)の熱履歴を与え得るものであればよい。
なお、製造される溶融Al−Zn系めっき鋼板の好ましいめっき組成、めっき付着量、上記(a)及び(b)の熱履歴の限定理由及び得られる作用効果などは先に述べた通りである。
【0043】
本発明の製造方法では、めっき鋼板表面にクロメート処理を施して、金属クロム換算のCr付着量が0.1mg/m以上100mg/m未満、好ましくは5mg/m以上40mg/m以下のクロメート皮膜を形成させ、次いで、その上層に、熱硬化性有機樹脂を皮膜形成樹脂とする膜厚0.1〜5μm、好ましくは0.5〜3μmの有機樹脂皮膜を形成させる。
上記クロメート処理では、必要に応じてシリカ等の添加剤が添加されたクロメート処理液をめっき鋼板面に塗布し、通常、水洗することなく80〜300℃で加熱乾燥する。
上記有機樹脂皮膜を形成するには、熱硬化性有機樹脂を皮膜形成樹脂とし、必要に応じて他の添加剤を配合した樹脂溶液を塗布し、加熱処理することにより樹脂を硬化させ、有機樹脂皮膜を形成させる。
この化成処理皮膜の皮膜構成の限定理由、化成処理皮膜を形成する工程と上記(b)の熱履歴を付与する工程との前後関係などは、先に述べた通りである。
【実施例】
【0044】
[実施例1]
常法で製造した冷延鋼板(板厚0.5mm)を連続式溶融めっき設備に通板し、55%Al−1.5%Si−Znめっき浴を用いて溶融めっきを行った。ラインスピードは160m/secとし、片面めっき付着量は75g/mとした。
【0045】
このめっき鋼板の製造工程においては、めっき皮膜に対して鋼板がめっき浴を出た直後の10秒間の平均冷却速度を15℃/secとする熱履歴を付与するとともに、めっき皮膜面に化成処理を施した。クロメート処理では、乾式シリカ、リン酸及びクロム酸を乾式シリカ:リン酸:Cr=1:1:1の割合で混合し、Cr還元率を40%に調整した処理液をめっき鋼板面に塗布し、板温80℃で乾燥することによりクロメート皮膜を形成した。このクロメート皮膜面に形成する有機樹脂皮膜の皮膜形成樹脂としては下記のものを用いた。
(a)熱硬化性樹脂(主剤樹脂:ポリエステルポリオール樹脂、硬化剤:ジイソシアネート系硬化剤)
(b)熱硬化性樹脂(主剤樹脂:アクリルポリオール樹脂、硬化剤:メラミン樹脂
(c)熱可塑性樹脂(MMA−MA系アクリルエマルジョン樹脂)
【0046】
上記いずれかの有機樹脂を含む溶剤型樹脂溶液を、ロールコーターにてクロメート処理面に塗布し、板温160℃で加熱乾燥した。
このようにして製造した表面処理鋼板について、以下の方法により加工部耐食性及びロールフォーミング性を評価した。
その結果を、化成処理条件とともに表1に示す。
【0047】
(1)加工部耐食性
表面処理鋼板を5T曲げした後、塩水噴霧試験機に装入して500時間経過後の曲げ部からの錆発生状態を観察し、以下の基準で評価した。
◎:異常無し(錆発生面積率10%未満)
○:軽度の白錆、黒錆の発生あり(錆発生面積率10%以上25%未満)
△:白錆、黒錆の発生あり(錆発生面積率25%以上80%未満)
×:著しい白錆、黒錆の発生あり(錆発生面積率80%以上)
【0048】
(2)ロールフォーミング加工性
30mm×300mmの表面処理鋼板について、ドロービード試験機を用いて金型温度120℃、ビード押付け荷重100kgで先端5mmRのビードを押し付けた状態で摺動試験を行い、引抜き後の外観を目視にて観察し、以下の基準で評価した。
◎:黒化面積が10%未満であり、且つ金型への皮膜剥離物の付着なし
○:黒化面積が10%以上25%未満であるか、又は金型への皮膜剥離物の付着が僅かにあり
△:黒化面積が25%以上50%未満であるか、又は金型への皮膜剥離物の著しい付着あり
×:黒化面積が50%以上であるか、又はめっき鋼板表面に著しい“かじり”あり
【0049】
【表1】

【0050】
[実施例2]
常法で製造した冷延鋼板(板厚0.5mm)を連続式溶融めっき設備に通板し、55%Al−1.5%Si−Znめっき浴(表2〜表5のNo.1〜No.11、No.14〜No.24)、40%Al−1.0%Si−Znめっき浴(表2及び表3のNo.12)及び70%Al−1.8%Si−Znめっき浴(表2及び表3のNo.13)を用いて溶融めっきを行った。ラインスピードは160m/secとし、片面めっき付着量は75g/mとした。
【0051】
このめっき鋼板の製造工程においてめっき皮膜に表2及び表4に示す熱履歴を付与するとともに、めっき皮膜面に化成処理皮膜を形成した。クロメート処理では、乾式シリカ、リン酸及びクロム酸を乾式シリカ:リン酸:Cr=1:1:1の割合で混合し、Cr還元率を40%に調整した処理液をめっき鋼板面に塗布し、板温80℃で乾燥することによりクロメート皮膜を形成した。このクロメート皮膜面に形成する有機樹脂皮膜の有機樹脂としては実施例1と同じものを用い、上記いずれかの有機樹脂を含む溶剤型樹脂溶液を、ロールコーターにてクロメート処理面に塗布し、板温160℃で加熱乾燥した。
このようにして製造した表面処理鋼板について、実施例1と同じ方法によりロールフォーミング性を評価するとともに、以下の方法により加工性(耐クラック性)及び加工部耐食性を評価した。
その結果を、めっき皮膜に付与した熱履歴、化成処理条件とともに表2〜表5に示す。
【0052】
(1)加工性
表面処理鋼板を0T曲げしてこの0T曲げ先端部のクラックを観察し、以下の基準で評価した。
5:20倍のルーペで観察してもクラックは認められない。
4:目視で観察するとクラックは認められないが、20倍のルーペで観察するとクラックが認められる。
3:目視で観察してクラックが認められる。
2:目視で観察して大きく開口したクラックが認められる。
1:剥離を伴うクラックが生じている。
【0053】
(2)加工部耐食性
表面処理鋼板を1T曲げした後、複合サイクル試験機に装入して50サイクル経過後の曲げ部からの錆発生状態を観察し、以下の基準で評価した。なお、複合サイクル試験の1サイクルは、[30℃、5%NaCl噴霧、0.5時間]→[30℃湿潤、1.5時間]→[乾燥(50℃、2時間)]→[乾燥(30℃、2時間)]とした。
◎:異常無し(錆発生面積率10%未満)
○:軽度の白錆、黒錆の発生あり(錆発生面積率10%以上25%未満)
△:白錆、黒錆の発生あり(錆発生面積率25%以上80%未満)
×:著しい白錆、黒錆の発生あり(錆発生面積率80%以上)
【0054】
【表2】

【0055】
【表3】

【0056】
【表4】

【0057】
【表5】

【0058】
[実施例3]
常法で製造した冷延鋼板(板厚0.5mm)を連続式溶融めっき設備に通板し、55%Al−1.5%Si−Znめっき浴を用いて溶融めっきを行った。ラインスピードは160m/secとし、片面めっき付着量は75g/mとした。
【0059】
このめっき鋼板の製造工程においてめっき皮膜に表6に示す熱履歴を付与するとともに、めっき皮膜面に化成処理を施した。化成処理条件は、実施例2と同様のクロメート処理を施してCr付着量(金属クロム換算)が20mg/mのクロメート皮膜を形成した後、主剤樹脂であるポリエステルポリオール樹脂100重量部に対して硬化剤であるジイソシアネート樹脂を10重量部添加した溶剤型樹脂液をロールコーターにてクロメート処理面に塗布し、板温160℃で加熱乾燥して膜厚が2μmの有機樹脂皮膜を形成した。このようにして製造した表面処理鋼板について、実施例2と同じ方法により加工性(耐クラック性)及び加工部耐食性を評価した。その結果を、めっき皮膜に付与した熱履歴とともに表6に示す。
【0060】
【表6】

【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】鋼板が溶融めっき浴を出た直後の最初の10秒間のめっき皮膜の平均冷却速度が表面処理鋼板の加工性に及ぼす影響を示すグラフ
【図2】図2(a)は、溶融めっきされためっき金属が凝固した後のめっき鋼板を熱処理した場合において、めっき皮膜の昇温加熱温度が表面処理鋼板の加工性に及ぼす影響を示すグラフ、図2(b)は、溶融めっきされためっき金属が凝固した後のめっき鋼板を熱処理した場合において、めっき皮膜の平均冷却速度(昇温加熱温度から100℃までの平均冷却速度)が表面処理鋼板の加工性に及ぼす影響を示すグラフ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
めっき皮膜中のAl含有量が20〜95mass%の溶融Al−Zn系めっき鋼板の表面に化成処理皮膜を有する表面処理鋼板であって、
前記化成処理皮膜が、めっき皮膜面に形成される金属クロム換算のCr付着量が0.1mg/m以上100mg/m未満のクロメート皮膜と、その上層に形成される皮膜であって、熱硬化性有機樹脂を皮膜形成樹脂とする膜厚0.1〜5μmの有機樹脂皮膜とからなることを特徴とする加工性と加工部耐食性に優れた表面処理鋼板。
【請求項2】
めっき皮膜が少なくとも下記(a)及び(b)の熱履歴を経て得られためっき皮膜であることを特徴とする請求項1に記載の加工性と加工部耐食性に優れた表面処理鋼板。
(a)鋼板が溶融めっき浴を出た直後の10秒間の平均冷却速度が11℃/sec未満である熱履歴
(b)溶融めっきされためっき金属が凝固した後、130〜300℃の範囲の温度T(℃)に昇温加熱され、その後、温度T(℃)から100℃までの平均冷却速度が下記(1)式に示すC(℃/hr)以下を満足する熱履歴、
又は/及び、溶融めっきされためっき金属が凝固した後の130〜300℃の範囲の温度T(℃)から100℃までの平均冷却速度が下記(1)式に示すC(℃/hr)以下を満足する熱履歴
C=(T−100)/2 ……(1)
【請求項3】
(b)の熱履歴の温度T(℃)が130〜200℃の範囲であることを特徴とする請求項1又は2に記載の加工性と加工部耐食性に優れた表面処理鋼板。
【請求項4】
請求項1、2又は3に記載の表面処理鋼板の表面に単層又は複層の塗膜を形成したことを特徴とする塗装鋼板。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−207033(P2006−207033A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−118589(P2006−118589)
【出願日】平成18年4月22日(2006.4.22)
【分割の表示】特願2001−82445(P2001−82445)の分割
【原出願日】平成13年3月22日(2001.3.22)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【出願人】(000200323)JFE鋼板株式会社 (77)
【Fターム(参考)】