説明

加工性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法

【課題】薄肉の加工性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法を提供する。
【解決手段】mass%で、C:0.08〜0.15%、Si:0.5〜1.5%、Mn:0.5〜1.5%、Al:0.01〜0.1%、N:0.005%以下を含む組成を有する鋼素材に、熱間圧延を行い熱延板とする熱延工程と、前記熱延板に酸洗を施したのち、該熱延板に、冷間圧延を省略して、連続溶融亜鉛めっきラインで、Ac1変態点〜Ac3変態点の第一の温度域で5〜400s間保持する焼鈍処理と、第一の温度域〜700℃までを、5℃/s以上の平均冷却速度で冷却し、さらに700℃〜溶融亜鉛めっき浴に侵入するまでの第二の温度域での滞留時間を15〜400sとする冷却処理を行ったのち、溶融亜鉛めっき処理を行う。これにより、組織全体に対する面積率で、75〜90%のフェライト相と、10〜25%のパーライトを含む第二相とからなる組織を得ることができ、TS:540MPa以上の高強度と、優れた伸びフランジ性とを兼備する、加工性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板となる。なお、パーライトは、第二相全体に対する面積率で70%以上を占め、パーライトの平均粒径は5μm以下となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた加工性(伸びフランジ性)および耐食性が要求される、自動車部品の強度部材等用として好適な、高強度溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境保全の観点から、自動車の燃費向上が重要な課題となっている。このため、使用する材料を高強度化し、部材の薄肉化を図り、車体自体を軽量化しようとする動きが活発化している。使用する材料としては、とくに、引張強さ:540MPa以上の高強度鋼板が要求されている。しかし、鋼板の高強度化は、加工性の低下を招くことから、優れた加工性を有する高強度鋼板が要望されており、とくに薄肉の鋼板(薄鋼板)ではこの要望が高い。
【0003】
このような要望に対し、フェライト相とマルテンサイト相からなる二相組織を有する二相鋼板(DP鋼板)や、フェライト相とマルテンサイト相、さらにベイナイト相を含む複合組織を有する鋼板など、種々の複合組織鋼板が提案されている。
例えば、特許文献1には、C:0.08〜0.30%、Si:0.1〜2.5%、Mn:0.5〜2.5%、P:0.01〜0.15%を含む組成の冷延鋼板を、Ac1点以上の温度にて再結晶焼鈍し、次いで、Ar1点乃至600℃の範囲の温度域まで強制空冷したのち、100℃/s以上の冷却速度で急冷し、フェライト相と低温変態生成相からなる複合組織とし、この後、所定の関係式で求められる、フェライト硬さHv(α)に対する低温変態生成相硬さHv(L)の比、Hv(L)/Hv(α)、が1.5〜3.5を満足するように、350〜600℃の範囲の温度にて過時効処理を行う局部延性にすぐれる高強度冷延鋼板の製造方法が記載されている。特許文献1に記載された技術では、焼入れ開始温度を高くし低温変態生成相の体積率を高め、その後、350〜600℃で過時効処理を行って、フェライト中にCを析出させるとともに、低温変態生成相を軟化させて、Hv(L)/Hv(α)を小さくし、局部伸びを改善するとしている。
しかし、特許文献1に記載された技術では、再結晶焼鈍後に、急速冷却(焼入れ)が可能な連続焼鈍設備を必要とするうえ、高温での過時効処理による急激な強度低下を抑制するために、多量の合金元素添加を必要とするという問題がある。
【0004】
また、特許文献2には、C:0.02〜0.25%、Si:2.0%以下、Mn:1.6〜3.5%、P:0.03〜0.20%、S:0.02%以下、Cu:0.05〜2.0%、sol.Al:0.005〜0.100%、N:0.008%以下を含有する鋼スラブを熱間圧延し熱延コイルとし、酸洗後、その熱延コイルを連続焼鈍ラインで720〜950℃の温度で焼鈍する、耐食性に優れた低降伏比高張力熱延鋼板の製造方法が記載されている。特許文献2に記載された技術によれば、低降伏比、高延性および良好な孔拡げ性を維持し、しかも耐食性に優れた、複合組織を有する高張力熱延鋼板を製造できるとしている。
【0005】
特許文献2に記載された技術では、多量のP、Cuを複合して添加することを必須としているが、しかし、Cuの多量含有は、熱間加工性を低下させ、また、Pの多量含有は、鋼を脆化させる。また、Pは、鋼中に偏析する傾向が強く、この偏析したPは、鋼板の伸びフランジ性を低下させるほか、溶接部の脆化を引き起こすという問題がある。さらに、Pの多量含有は、めっき性を低下させる。
【0006】
また、特許文献3には、C:0.03〜0.17%、Si:1.0%以下、Mn:0.3〜2.0%、P:0.010%以下、S:0.010%以下、Al:0.005〜0.06%を含み、C(%)>(3/40)×Mnを満足する組成と、ベイナイト又はパーライトを主とする第二相とフェライト相からなる組織を有し、(第二相のビッカース硬さ)/(フェライト相のビッカース硬さ)が1.6未満を満たす、強度−伸びフランジ性バランスに優れる高強度冷延鋼板が記載されている。特許文献3に記載された高強度冷延鋼板は、上記した組成を有する鋼(スラブ)を熱間圧延した後、650℃以下の温度で巻取り、酸洗したのち、冷間圧延し、ついで、A点以上、(A点+50℃)以下の温度で均熱し、次いで、750〜650℃の範囲の間の温度Tまで20℃/s以下で徐冷し、次いで、Tから500℃までを20℃/s以上の速度で冷却する焼鈍処理を行い、引続いて500〜250℃の温度で過時効処理することにより得られるとしている。
しかし、特許文献3に記載された高強度冷延鋼板は、伸びフランジ性に優れるが、540MPa以上の高強度の場合、伸びは26%未満であり、所望の優れた加工性を維持できる程度に十分な伸びを確保できていないという問題がある。
【0007】
また、自動車部品は、腐食環境に晒される場合が多く、上記した高強度化、加工性向上に加えて、さらに耐食性が要求されることが多く、このような使途には、加工性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板が要望されている。
このような要望に対し、例えば、特許文献4には、C:0.05〜0.15%、Mn:0.8〜1.6%、Si:0.3〜1.5%を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、不純物としてのSが0.02%以下である鋼スラブを、1280℃以上に加熱し、仕上温度が880℃以上である熱間圧延で熱延板とし、該熱延板に、750〜900℃の温度範囲で焼鈍し、焼鈍後の冷却過程で溶融亜鉛めっき浴に浸漬し、引続いて520〜640℃で合金化処理する、高張力合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭63−293121号公報
【特許文献2】特開平05−112832号公報
【特許文献3】特開平10−60593号公報
【特許文献4】特開平04−141566号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献4に記載された発明では、鋼スラブの加熱温度を1280℃以上という高温にする必要があり、結晶粒が粗大化しすぎて熱間圧延を施しても熱延板組織は粗大であり、焼鈍後において微細な鋼板組織を形成することが難しく、また、多量のスケールロスが発生し歩留りが低下し、消費エネルギーが多大となるうえ、さらに、疵発生の危険性が増大するという問題もある。さらに、対象とする板厚も2.6mmと比較的厚く、特許文献4に記載された発明によって、薄肉の、加工性に優れた高強度めっき鋼板の製造が可能かどうかは不明のままである。
【0010】
本発明は、かかる従来技術の問題を解決し、板厚:1.0〜1.8mm程度の薄肉の、加工性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。なお、ここでいう「高強度」とは、引張強さTS:540MPa以上、好ましくは590MPa以上の強度を有する場合をいい、また、「加工性に優れた」とは、伸びEl:30%以上(JIS5号試験片を用いた場合)、日本鉄鋼連盟規格JFST 1001−1996に準拠した穴拡げ試験における穴拡げ率λ:80%以上である場合をいうものとする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記した目的を達成するため、まず、基板として使用する鋼板の強度と加工性に及ぼす組成とミクロ組織の影響について、鋭意研究を行った。その結果、合金元素量を適正範囲に調整した熱延板に、冷間圧延を施すことなく、適正な二相温度域に加熱する焼鈍処理と適正な冷却処理とを施すことにより、薄肉であっても、フェライト相を主相とし、第二相を微細なパーライトを主体とする組織とすることができ、これにより、所望の高強度を確保できるとともに、加工性が大幅に向上し、所望の伸び、所望の穴拡げ率とを兼備した、薄肉の、加工性に優れた高強度鋼板を確保することができるという知見を得た。
【0012】
熱延板に、冷間圧延を省略して直接、適正な焼鈍処理を施すことにより、加工性が大幅に向上することについての詳細な機構については、現在までのところ明確ではないが、本発明者らは、つぎのように考えている。
熱延板に、冷間圧延を施すことなく、二相温度域に加熱する焼鈍処理を施す場合は、焼鈍加熱時には、α→γ変態が生じるだけであり、新たに再結晶が生じることはない。この場合、C濃度が高い箇所で優先的にα→γ変態が生じるのみであり、より均一な組織を得ることができるうえ、拡散速度の速いCは、焼鈍処理時に平衡組成までαとγに再分配される。このため、粒界でのフィルム状セメンタイトの析出が抑制され、とくに伸びフランジ性の向上に有利に作用したと考えられる。一方、熱延板に冷間圧延を施したのちに、焼鈍処理を施す場合は、焼鈍加熱時に再結晶と、α→γ変態が競合して生じるため、不均一な組織となりやすく、大幅な加工性の向上は期待できにくい。
【0013】
かかる高強度鋼板は、高強度溶融亜鉛めっき鋼板の基板として好適であり、本発明は、かかる知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨は次のとおりである。
(1) 基板である鋼板表面に、溶融亜鉛めっき層を有する溶融亜鉛めっき鋼板であって、前記鋼板を、mass%で、C:0.08〜0.15%、Si:0.5〜1.5%、Mn:0.5〜1.5%、P:0.1%以下、S:0.01%以下、Al:0.01〜0.1%、N:0.005%以下を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成と、主相であるフェライト相と、少なくともパーライトを含む第二相とからなる組織と、を有し、組織全体に対する面積率で、前記フェライト相が75〜90%、前記パーライトが10〜25%で、かつ該パーライトの平均粒径が5μm以下であり、さらに前記パーライトが、前記第二相の全面積に対する面積率で70%以上である高強度鋼板とすることを特徴とする加工性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
【0014】
(2)(1)において、前記組成に加えてさらに、mass%で、Cr:0.05〜0.5%、V:0.005〜0.2%、Mo:0.005〜0.2%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有することを特徴とする高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
(3)(1)または(2)において、前記組成に加えてさらに、mass%で、Ti:0.01〜0.1%、Nb:0.01〜0.1%のうちから選ばれた1種または2種を含有することを特徴とする高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
【0015】
(4)(1)ないし(3)のいずれかにおいて、前記組成に加えてさらに、mass%で、B:0.0003〜0.0050%を含有することを特徴とする高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
(5)(1)ないし(4)のいずれかにおいて、前記組成に加えてさらに、mass%で、Ni:0.05〜0.5%、Cu:0.05〜0.5%のうちから選ばれた1種または2種を含有することを特徴とする高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
【0016】
(6)(1)ないし(5)のいずれかにおいて、前記組成に加えてさらに、mass%で、Ca:0.001〜0.005%、REM:0.001〜0.005%のうちから選ばれた1種または2種を含有することを特徴とする高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
(7)(1)ないし(6)のいずれかにおいて、前記溶融亜鉛めっき層が、合金化溶融亜鉛めっき層であることを特徴とする高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
【0017】
(8)鋼素材に、熱間圧延を施し熱延板とする熱延工程と、前記熱延板に酸洗を施したのち、該熱延板に、連続溶融亜鉛めっきラインで、焼鈍処理と、該焼鈍後、溶融亜鉛めっき浴に侵入するまでの温度まで冷却する冷却処理とを施す連続焼鈍工程と、該連続焼鈍工程後、該熱延板を溶融亜鉛めっき浴に浸漬し、該熱延板表面に溶融亜鉛めっき層を形成する溶融亜鉛めっき処理を行う溶融亜鉛めっき処理工程と、を連続して施し、表面に、溶融亜鉛めっき層を有する溶融亜鉛めっき鋼板とする溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法において、前記鋼素材を、mass%で、C:0.08〜0.15%、Si:0.5〜1.5%、Mn:0.5〜1.5%、P:0.1%以下、S:0.01%以下、Al:0.01〜0.1%、N:0.005%以下を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する鋼素材とし、前記焼鈍処理を、Ac1変態点〜Ac3変態点の第一の温度域で5〜400s間保持する焼鈍処理とし、前記冷却処理を、前記焼鈍処理後、前記第一の温度域から700℃までを、5℃/s以上の平均冷却速度で冷却し、さらに700℃から溶融亜鉛めっき浴に侵入するまでの温度の第二の温度域での滞留時間を15〜400sとする冷却処理と、することを特徴とする加工性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【0018】
(9)(8)において、前記熱延工程が、前記鋼素材を1100〜1280℃の範囲の温度に加熱したのち、熱間圧延終了温度:870〜950℃とする熱間圧延を行い熱延板とし、該熱間圧延の終了後、該熱延板を、巻取り温度:350〜720℃として巻き取る、工程であることを特徴とする高強度鋼板の製造方法。
(10)(8)または(9)において、前記第二の温度域のうち、700〜550℃の温度域での冷却時間を10s以上とすることを特徴とする高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【0019】
(11)(8)ないし(10)のいずれかにおいて、前記溶融亜鉛めっき処理工程に引続いて、前記溶融亜鉛めっき層の合金化処理を行う合金化処理工程を施すことを特徴とする高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
(12)(8)ないし(11)のいずれかにおいて、前記組成に加えてさらに、mass%で、Cr:0.05〜0.5%、V:0.005〜0.2%、Mo:0.005〜0.2%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有することを特徴とする高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【0020】
(13)(8)ないし(12)のいずれかにおいて、前記組成に加えてさらに、mass%で、Ti:0.01〜0.1%、Nb:0.01〜0.1%のうちから選ばれた1種または2種を含有することを特徴とする高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
(14)(8)ないし(13)のいずれかにおいて、前記組成に加えてさらに、mass%で、B:0.0003〜0.0050%を含有することを特徴とする高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【0021】
(15)(8)ないし(14)のいずれかにおいて、前記組成に加えてさらに、mass%で、Ni:0.05〜0.5%、Cu:0.05〜0.5%のうちから選ばれた1種または2種を含有することを特徴とする高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
(16)(8)ないし(15)のいずれかにおいて、前記組成に加えてさらに、mass%で、Ca:0.001〜0.005%、REM:0.001〜0.005%のうちから選ばれた1種または2種を含有することを特徴とする高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、引張強さTS:540MPa以上の高強度と、El:30%以上の伸びと、λ:80%以上の伸びフランジ性とを兼備する、加工性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板を、容易にしかも安価に製造でき、産業上格段の効果を奏する。また、本発明は、冷間圧延を省略することができ、製造コストの低減、生産性の向上などにも、大きく寄与することができるという効果もある。また、本発明になる鋼板を、とくに自動車車体部品に適用すれば、自動車車体の軽量化に大きく貢献できる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
まず、本発明溶融亜鉛めっき鋼板の基板となる鋼板の組成限定理由について説明する。以下、とくに断わらない限り、mass%は単に%で記す。
C:0.08〜0.15%
Cは、鋼板強度の増加に寄与するとともに、組織をフェライト相とフェライト相以外の第二相とからなる複合組織の形成に有効に作用する元素であり、本発明では、所望の引張強さ:540MPa以上の高強度を確保するために、0.08%以上の含有を必要とする。一方、0.15%を超える含有は、スポット溶接性を低下させ、さらに延性等の加工性を低下させる。このため、Cは0.08〜0.15%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.10〜0.15%である。
【0024】
Si:0.5〜1.5%
Siは、鋼中に固溶してフェライトの強化に有効に作用するとともに、延性向上にも寄与する元素であり、所望の引張強さ:540MPa以上の高強度を確保するためには、0.5%以上の含有を必要とする。一方、1.5%を超える過剰な含有は、赤スケール等の発生を促進し、鋼板の表面性状を低下させるとともに、化成処理性を低下させ、めっき密着性の低下を招き、塗装後耐食性を劣化させる傾向がある。また、Siの過剰な含有は、抵抗溶接時の電気抵抗の増加を伴い、抵抗溶接性を阻害する。このため、Siは0.5〜1.5%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.7〜1.2%である。
【0025】
Mn:0.5〜1.5%
Mnは、鋼板強度の増加に寄与するとともに、複合組織の形成に有効に作用する元素であり、このような効果を得るためには、0.5%以上の含有を必要とする。一方、1.5%を超える含有は、焼鈍時の冷却過程でマルテンサイト相を形成しやすくなり、加工性、とくに伸びフランジ性の低下を招く。このため、Mnは0.5〜1.5%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.7〜1.5%である。
【0026】
P:0.1%以下
Pは、鋼中に固溶して鋼板強度を増加させる作用を有する元素であるが、粒界へ偏析する傾向が強く、粒界の結合力を低下させて、加工性の低下を招く。また、Pの多量含有はめっき性、化成処理性を低下させるだけでなく、鋼板の表面品質にも悪影響を及ぼす。このようなPの悪影響は、0.1%を超える含有で顕著となる。このため、Pは0.1%以下に限定した。なお、このようなPの悪影響を避けるため、Pは0.1%以下で、できるだけ低減することが好ましいが、過度の低減は製造コストの高騰を招くため、0.001%程度以上とすることが好ましい。なお、好ましくは0.03%以下である。
【0027】
S:0.01%以下
Sは、鋼中では主としてMnS等の硫化物(介在物)を形成し、鋼板の加工性、とくに局部伸び、を低下させる。また、硫化物(介在物)の存在は、溶接性をも低下させる。このようなSの悪影響は、0.01%を超える含有で顕著となる。このため、Sは0.01%以下に限定した。なお、このようなSの悪影響を避けるため、Sは0.01%以下で、できるだけ低減することが好ましいが、過度の低減は製造コストの高騰を招くため、0.0001%程度以上とすることが好ましい。
【0028】
Al:0.01〜0.1%
Alは、脱酸剤として作用し鋼板の清浄度向上に必須の元素であり、さらに炭化物形成元素の歩留り向上に有効に作用する。このような効果を得るためには、0.01%以上の含有を必要とする。0.01%未満の含有では、遅れ破壊の起点となるSi系介在物の除去が不十分となり、遅れ破壊発生の危険性が増加する。一方、0.1%を超えて含有しても、上記した効果は飽和し、含有量に見合う効果が期待できなくなり経済的に不利となるとともに、加工性が低下し、表面欠陥の発生傾向が増大する。このため、Alは0.01〜0.1%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.01〜0.05%である。
【0029】
N:0.005%以下
Nは、本発明では本質的に有害な元素として、できるだけ低減することが望ましいが、0.005%までは許容できる。このため、Nは0.005%以下に限定した。なお、過度のNの低減は、製造コストの高騰を招くため、0.0001%程度以上とすることが好ましい。
上記した成分が基本の成分であるが、基本成分に加え、必要に応じてさらに、Cr:0.05〜0.5%、V:0.005〜0.2%、Mo:0.005〜0.2%のうちから選ばれた1種または2種以上、および/または、Ti:0.01〜0.1%、Nb:0.01〜0.1%のうちから選ばれた1種または2種、および/または、B:0.0003〜0.0050%、および/または、Ni:0.05〜0.5%、Cu:0.05〜0.5%のうちから選ばれた1種または2種、および/または、Ca:0.001〜0.005%、REM:0.001〜0.005%のうちから選ばれた1種または2種、を選択して含有することができる。
【0030】
Cr:0.05〜0.5%、V:0.005〜0.2%、Mo:0.005〜0.2%のうちから選ばれた1種または2種以上
Cr、V、Moはいずれも、鋼板強度を増加させ、複合組織の形成に寄与する元素であり、必要に応じて選択して、1種または2種以上含有できる。このような効果を得るためには、Cr:0.05%以上、V:0.005%以上、Mo:0.005%以上、それぞれ含有することが望ましい。一方、Cr:0.5%、V:0.2%、Mo:0.2%、をそれぞれ超える過剰な含有は、焼鈍処理後の冷却処理中に、所望量のパーライトの生成が困難となり、所望の複合組織を確保できなくなり、伸びフランジ性が低下し、加工性が低下する。このため、含有する場合には、Cr:0.05〜0.5%、V:0.005〜0.2%、Mo:0.005〜0.2%の範囲に、それぞれ限定することが好ましい。
【0031】
Ti:0.01〜0.1%、Nb:0.01〜0.1%のうちから選ばれた1種または2種
Ti、Nbはいずれも、析出強化により鋼板強度を増加させる元素であり、必要に応じて選択して、1種または2種含有できる。このような効果を得るためには、Ti:0.01%以上、Nb:0.01%以上、それぞれ含有することが望ましいが、Ti:0.1%、Nb:0.1%をそれぞれ超える含有は、加工性、形状凍結性が低下する。このため、含有する場合には、Ti:0.01〜0.1%、Nb:0.01〜0.1%の範囲に、それぞれ限定することが好ましい。
【0032】
B:0.0003〜0.0050%
Bは、オーステナイト粒界に偏析して、粒界からのフェライトの生成、成長を抑制する作用を有する元素であり、必要に応じて含有できる。このような効果を得るためには、0.0003%以上含有することが望ましいが、0.0050%を超える含有は、加工性を低下させる。このため、含有する場合には、Bは0.0003〜0.0050%の範囲に限定することが好ましい。なお、上記したようなBの効果を得るためには、BNの生成を抑制することが必要であり、Tiとともに含有させることが好ましい。
【0033】
Ni:0.05〜0.5%、Cu:0.05〜0.5%のうちから選ばれた1種または2種
Ni、Cuはいずれも、鋼板強度を増加させる作用を有するとともに、内部酸化を促進させめっき密着性を向上させる作用も有する元素であり、必要に応じ選択して含有できる。このような効果を得るためには、Ni:0.05%以上、Cu:0.05%以上それぞれ含有することが望ましいが、Ni:0.5%、Cu:0.5%、をそれぞれ超える含有は、焼鈍処理後の冷却処理中に、所望量のパーライトの生成が困難となり、所望の複合組織を確保できなくなり、伸びフランジ性が低下し、加工性が低下する。このため、含有する場合には、Ni:0.05〜0.5%、Cu:0.05〜0.5%の範囲に限定することが好ましい。
【0034】
Ca:0.001〜0.005%、REM:0.001〜0.005%のうちから選ばれた1種または2種
Ca、REMはいずれも、硫化物の形態制御に寄与する元素であり、硫化物の形状を球状化し、硫化物の加工性、とくに伸びフランジ性への悪影響を抑制する作用を有する。このような効果を得るためには、Ca:0.001%以上、REM:0.001%以上、それぞれ含有することが望ましいが、Ca:0.005%、REM:0.005%、をそれぞれ超える含有は、介在物の増加を招き、表面欠陥および内部欠陥の多発を招く。このため、含有する場合には、Ca:0.001〜0.005%、REM:0.001〜0.005%の範囲に限定することが好ましい。
【0035】
上記した成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物からなる。
本発明鋼板は、上記した組成を有するとともに、主相であるフェライト相と、少なくともパーライトを含む第二相とからなる組織を有する。
本発明鋼板では、主相であるフェライト相の面積率は、組織全体に対する面積率で、75〜90%とする。フェライト相の面積率が75%未満では、所望の伸び、所望の穴拡げ率を確保できず、加工性が低下する。一方、フェライト相の面積率が90%を超えると、第二相の面積率が低下し、所望の高強度を確保できなくなる。このため、主相であるフェライト相の面積率は75〜90%の範囲に限定した。なお、好ましいフェライト相の面積率は80〜90%である。
【0036】
また、本発明鋼板では、第二相に、少なくともパーライトを含む。パーライトの面積率は、組織全体に対する面積率で、10〜25%とする。パーライトの面積率が10%未満では、所望の穴拡げ率を確保できず、伸びフランジ性が低下し加工性が低下する。一方、パーライトの面積率が25%を超えて多くなると、フェライト相とパーライトとの界面が増加し、加工時にボイドが生成しやすくなり、伸びフランジ性が低下し加工性が低下する。
【0037】
なお、パーライトは、平均粒径が5μm以下の、微細粒とする。パーライトの平均粒径が5μmを超えて粗大となると、鋼板の加工に際して、パーライト粒(界面)に応力が集中し、マイクロボイドが生成するため、伸びフランジ性が低下し加工性が低下する。このようなことから、パーライトの平均粒径は5μm以下に限定した。なお、好ましくは4.0μm以下である。
【0038】
本発明鋼板の組織における第二相は、少なくともパーライトを含み、パーライトが第二相の全面積に対する面積率で70%以上となる、パーライトを主体とする相とする。パーライトが第二相の全面積に対する面積率で70%未満では、硬質なマルテンサイト相、ベイナイト相あるいは残留γが多くなりすぎて、加工性が低下しやすい。このため、パーライトは第二相の全面積に対する面積率で70%以上に限定した。なお、好ましくは、75〜100%である。
【0039】
第二相には、パーライト以外に、ベイナイト、マルテンサイト、残留オーステナイト(残留γ)など、を含んでもよいが、とくに、ベイナイト、マルテンサイトは硬質相であり、また残留γは加工時に変態してマルテンサイトに変態し、それぞれ加工性を低下させる。このため、これらベイナイト、マルテンサイトおよび残留オーステナイトは極力少ないことが望ましく、組織全体に対する面積率で合計で5%以下とすることが好ましい。なお、更に好ましくは合計で3%以下である。
【0040】
つぎに、本発明溶融亜鉛めっき鋼板の好ましい製造方法について説明する。
上記した組成を有する鋼素材を出発素材とする。鋼素材の製造方法はとくに限定する必要はないが、上記した組成の溶鋼を転炉、電気炉等の常用の溶製方法で溶製し、連続鋳造法等の常用の鋳造方法でスラブ等の鋼素材とすることが、生産性の観点から好ましい。なお、造塊−分塊圧延法、薄スラブ鋳造法などを適用することもできる。
【0041】
上記した組成を有する鋼素材に、熱延工程を施し、熱延板とする。熱延工程は、鋼素材を、1100〜1280℃の範囲の温度に加熱したのち、熱間圧延終了温度:870〜950℃とする熱間圧延を行い熱延板とし、熱間圧延終了後、該熱延板を、巻取り温度:350〜720℃として巻き取る、工程とすることが好ましい。
鋼素材の加熱温度が、1100℃未満では、変形抵抗が高くなりすぎて、圧延荷重が過大となり、熱間圧延が困難となる場合がある。一方、1280℃を超えると、結晶粒が粗大化しすぎて、熱間圧延を施しても所望の微細な鋼板組織を確保できにくくなる。このため、熱間圧延のための加熱温度は、1100〜1280℃の範囲の温度とすることが好ましい。より好ましくは1280℃未満である。
【0042】
また、熱間圧延終了温度が870℃未満では、圧延中にフェライト(α)とオーステナイト(γ)が生成し、鋼板にバンド状組織を生成し易くなる。このバンド状組織は、焼鈍後にも残留し、得られる鋼板特性に異方性を生じさせたり、加工性を低下させる原因となる場合がある。一方、熱間圧延終了温度が950℃を超えると、熱延板組織が粗大となり、焼鈍後においても所望の組織が得られない場合がある。このため、熱間圧延終了温度は、870〜950℃とすることが好ましい。
【0043】
また、熱間圧延終了後の巻取り温度が、350℃未満では、ベイニティックフェライト、ベイナイト、マルテンサイト等が生成し、硬質かつ非整粒な熱延組織となりやすく、その後の焼鈍処理においても、熱延組織を継承し、非整粒組織となりやすく、所望の加工性を確保できなくなる場合がある。一方、720℃を超えるような高温では、鋼板の長手方向および幅方向の全域にわたり均一な機械的特性を確保することが難しくなる。このため、巻取り温度は、350〜720℃の範囲の温度とすることが好ましい。なお、より好ましくは、500〜680℃である。
【0044】
熱延工程を経て得られた熱延板に、ついで、鋼板表面に生成しているスケールを除去するため、常法に従い、酸洗を施したのち、熱延板に冷間圧延を施すことなく、直接、連続溶融亜鉛めっきラインで、焼鈍処理とその後の冷却処理を行う連続焼鈍工程と、該連続焼鈍工程後、該熱延板を溶融亜鉛めっき浴に浸漬し、該熱延板表面に溶融亜鉛めっき層を形成する溶融亜鉛めっき処理を行う溶融亜鉛めっき処理工程と、を連続して施す。
【0045】
焼鈍処理は、Ac1変態点〜Ac3変態点の第一の温度域で5〜400s間保持する処理とする。
焼鈍処理の第一の温度域の温度(加熱温度)が、Ac1変態点未満であるか、あるいは第一の温度域での保持時間(焼鈍時間)が5s未満である場合には、熱延板中の炭化物が十分に溶解しなかったり、α→γ変態が生じないか不十分であるため、その後の冷却処理で所望の複合組織を確保できず、所望の伸び、穴拡げ率を満足する、延性、伸びフランジ性を有する鋼板を得ることができない。一方、焼鈍処理の加熱温度がAc3変態点を超えて高くなると、オーステナイト粒の粗大化が著しくなり、その後の冷却処理によって生じる組織が粗大化し、加工性が低下する場合がある。また、第一の温度域での保持時間(焼鈍時間)が400sを超えると、処理時間が長くなり、消費エネルギーが多大となり、製造コストの高騰を招く。このようなことから、焼鈍処理は、Ac1変態点〜Ac3変態点の第一の温度域で、5〜400s間保持する処理に限定した。
【0046】
なお、各鋼板のAc1変態点は次(1)式で、Ac3変態点は次(2)式で算出した値を用いるものとする。なお、式中の元素で含有しない元素がある場合には、当該元素は零として計算するものとする。
c1変態点(℃)=723+29.1Si−10.7Mn−16.9Ni+16.9Cr+6.38W+290As‥‥(1)
c3変態点(℃)=910−203√C+44.7Si−30Mn+700P+400Al−15.2Ni−11Cr− 20Cu+31.5Mo+104V+400Ti+13.1W+120As ‥‥(2)
ここで、C,Si,Mn,Ni,Cr,W,As,C,P,Al,Cu,Mo,V,Ti:各元素の含有量(mass%)
また、焼鈍処理後の冷却処理は、上記した第一の温度域から700℃までを、5℃/s以上の平均冷却速度で冷却し、さらに700℃から溶融亜鉛めっき浴に侵入するまでの温度範囲である第二の温度域での滞留時間を15〜400sとする処理とする。
【0047】
第一の温度域から700℃までの平均冷却速度が、5℃/s未満では、フェライト生成量が増加しすぎて、所望の複合組織が得られず、加工性が低下し、さらに所望の引張強さ(540MPa以上)を確保できない場合がある。このため、第一の温度域から700℃までの冷却速度を平均で5℃/s以上に限定した。なお、好ましくは20℃/s以下、さらに好ましくは5〜15℃/sである。
【0048】
また、700℃から溶融亜鉛めっき浴に侵入するまでの温度の範囲である第二の温度域での滞留時間は、第二相に含まれるパーライトの形成に重要な要因である。ここで「滞留時間」とは、上記した第二の温度域に滞留している時間を意味し、該第二の温度域の特定温度で保持する場合や、該第二の温度域を特定の冷却速度で冷却する場合や、それらを混合したパターンで冷却する場合を含む。第二の温度域での滞留時間が15s未満では、パーライト変態が生じないか、パーライトの生成量が不十分となるため、所望の複合組織を確保できない。一方、第二の温度域での滞留時間が400sを超えて長くなると、生産性が低下する。このため、第二の温度域での滞留時間は15〜400sの範囲に限定した。なお、好ましくは150s以下である。さらに好ましくは100s以下である。なお、第二の温度域のうち、700〜550℃の温度域での冷却時間は10s以上、すなわち700〜550℃の温度域での冷却速度を平均で15℃/s以下、とすることが、所望のパーライト量を確保するうえで好ましい。700〜550℃の温度域での冷却時間が10s未満では、パーライトの生成が不十分となり、所望の複合組織が得られず、所望の加工性を確保できない場合がある。
【0049】
上記した冷却処理を施した後、熱延板に溶融亜鉛めっき処理工程を施す。
溶融亜鉛めっき処理工程では、熱延板は、通常、450℃近傍の温度に保持された溶融亜鉛めっき浴に浸漬され、熱延板表面に所望厚さの溶融亜鉛めっき層を形成する溶融亜鉛めっき処理を施される。溶融亜鉛めっき処理の条件は、所望の溶融亜鉛めっき層厚さに応じて、常用の条件を適用すればよく、とくに限定する必要はない。なお、溶融亜鉛めっき浴の浴温は420〜520℃とすることが好ましい。420℃未満では亜鉛が凝固し、520℃を超えるとめっき性が低下する。
【0050】
なお、溶融亜鉛めっき処理工程に続き、必要に応じて、溶融亜鉛めっき処理により形成された溶融亜鉛めっき層を合金化する合金化処理工程を施しても良い。合金化処理は、480〜550℃の温度範囲に加熱する処理とすることが好ましい。上記した温度範囲を外れると、所望の合金化が達成できない。
以下、実施例に基づいて、本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0051】
表1に示す組成の溶鋼を溶製し、常法にて鋼素材とした。これら鋼素材に、表2に示す加熱温度、熱間圧延終了温度で熱間圧延を行い、1.6mm厚の熱延板とし、熱間圧延終了後、表2に示す巻取り温度でコイル状に巻き取った。その後、酸洗を施した。なお、一部の熱延板(板厚:3.2 mm)には、酸洗後、さらに、圧下率:50%の冷間圧延を施し1.6mm厚の冷延板とし、比較例とした。
【0052】
得られた熱延板あるいは冷延板に、さらに表2に示す条件で、第一の温度域の温度に加熱し、保持する焼鈍処理と、第一の温度域の温度から700℃までを、表2に示す平均冷却速度で冷却し、さらに第二の温度域のうちの700〜550℃を、表2に示す冷却速度(冷却時間)で冷却し、さらに700℃から溶融亜鉛めっき浴に浸漬するまでの温度の範囲である第二の温度域の滞留時間を表2に示す、滞留時間とする、冷却処理を行う、連続焼鈍工程を施した。なお、表2に示す各鋼板の変態点は上記した(1)式、(2)式を用いて算出した値である。
【0053】
上記した連続焼鈍工程を経た熱延板に、溶融亜鉛めっき浴(浴温:460℃)に浸漬し、溶融亜鉛めっき層を形成する溶融亜鉛めっき処理工程を施し、溶融亜鉛めっき板とした。一部の溶融亜鉛めっき板には、さらに500℃に加熱し溶融亜鉛めっき層の合金化を行う合金化処理工程を施し、合金化溶融亜鉛めっき板とした。なお、溶融亜鉛めっき処理工程または合金化処理工程後に、溶融亜鉛めっき板または合金化溶融亜鉛めっき板に、伸び率:0.5%の調質圧延を施した。
【0054】
得られた溶融亜鉛めっき板または合金化溶融亜鉛めっき板から、試験片を採取し、組織観察、引張試験、穴拡げ試験を実施した。試験方法はつぎの通りとした。
(1)組織観察
得られた溶融亜鉛めっき板または合金化溶融亜鉛めっき板から、組織観察用試験片を採取し、圧延方向に平行な断面(L断面)を研磨し、ナイタール液で腐食し、走査型電子顕微鏡(倍率:3000倍)で3視野以上、組織観察し、撮像して、組織の種類、各相の組織全体に対する面積率を測定し、さらに第二相全面積の、組織全体に対する面積率を算出した。また、第二相に含まれるパーライトの平均結晶粒径も算出した。なお、パーライトの平均結晶粒径は、各パーライト粒の面積を測定し、該面積から円相当直径を算出し、得られた各粒の円相当直径を算術平均し、パーライト粒の平均結晶粒径とした。なお、測定したパーライトの粒数は20個以上とした。また、パーライトの第二相全面積に対する面積率も算出した。
(2)引張試験
得られた溶融亜鉛めっき板または合金化溶融亜鉛めっき板から、引張方向が、圧延方向に直角方向と一致するように、JIS5号試験片を採取し、JIS Z 2241の規定に準拠して引張試験を実施し、引張特性(降伏点YP、引張強さTS、伸びEl)を求めた。
(3)穴拡げ試験
得られた溶融亜鉛めっき板または合金化溶融亜鉛めっき板から、100 mm角の穴拡げ試験片を採取した。そして、日本鉄鋼連盟規格 JFST 1001−1996の規定に準拠して、穴拡げ試験を実施し、穴拡げ率λ(%)を求めた。
【0055】
得られた結果を表3に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
【表2】

【0058】
【表3】

【0059】
【表4】

【0060】
【表5】

【0061】
本発明例はいずれも、引張強さTS:540MPa以上の高強度と、伸びEl:30%以上の高延性と、穴拡げ率λ:80%以上の優れた伸びフランジ性と、を兼備する加工性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板となっている。これに対し、本発明の範囲を外れる比較例は、所望の高強度が得られていないか、あるいは所望の伸びが得られていないか、所望の穴拡げ率λが得られていないかして、加工性が低下している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板である鋼板表面に、溶融亜鉛めっき層を有する溶融亜鉛めっき鋼板であって、前記鋼板を、mass%で、
C:0.08〜0.15%、 Si:0.5〜1.5%、
Mn:0.5〜1.5%、 P:0.1%以下、
S:0.01%以下、 Al:0.01〜0.1%、
N:0.005%以下
を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成と、主相であるフェライト相と、少なくともパーライトを含む第二相とからなる組織と、を有し、組織全体に対する面積率で、前記フェライト相が75〜90%、前記パーライトが10〜25%で、かつ該パーライトの平均粒径が5μm以下であり、さらに前記パーライトが、前記第二相の全面積に対する面積率で70%以上である高強度鋼板とすることを特徴とする加工性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項2】
前記組成に加えてさらに、mass%で、Cr:0.05〜0.5%、V:0.005〜0.2%、Mo:0.005〜0.2%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項3】
前記組成に加えてさらに、mass%で、Ti:0.01〜0.1%、Nb:0.01〜0.1%のうちから選ばれた1種または2種を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項4】
前記組成に加えてさらに、mass%で、B:0.0003〜0.0050%を含有することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項5】
前記組成に加えてさらに、mass%で、Ni:0.05〜0.5%、Cu:0.05〜0.5%のうちから選ばれた1種または2種を含有することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項6】
前記組成に加えてさらに、mass%で、Ca:0.001〜0.005%、REM:0.001〜0.005%のうちから選ばれた1種または2種を含有することを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項7】
前記溶融亜鉛めっき層が、合金化溶融亜鉛めっき層であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項8】
鋼素材に、熱間圧延を施し熱延板とする熱延工程と、前記熱延板に酸洗を施したのち、該熱延板に、連続溶融亜鉛めっきラインで、焼鈍処理と、該焼鈍後、溶融亜鉛めっき浴に侵入するまでの温度まで冷却する冷却処理とを施す連続焼鈍工程と、該連続焼鈍工程後、該熱延板を溶融亜鉛めっき浴に浸漬し、該熱延板表面に溶融亜鉛めっき層を形成する溶融亜鉛めっき処理を行う溶融亜鉛めっき処理工程と、を連続して施し、表面に、溶融亜鉛めっき層を有する溶融亜鉛めっき鋼板とする溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法において、
前記鋼素材を、mass%で、
C:0.08〜0.15%、 Si:0.5〜1.5%、
Mn:0.5〜1.5%、 P:0.1%以下、
S:0.01%以下、 Al:0.01〜0.1%、
N:0.005%以下
を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する鋼素材とし、
前記焼鈍処理を、Ac1変態点〜Ac3変態点の第一の温度域で5〜400s間保持する焼鈍処理とし、
前記冷却処理を、前記焼鈍処理後、前記第一の温度域から700℃までを、5℃/s以上の平均冷却速度で冷却し、さらに700℃から溶融亜鉛めっき浴に侵入するまでの温度の第二の温度域での滞留時間を15〜400sとする冷却処理と、
することを特徴とする加工性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項9】
前記熱延工程が、前記鋼素材を1100〜1280℃の範囲の温度に加熱したのち、熱間圧延終了温度:870〜950℃とする熱間圧延を行い熱延板とし、該熱間圧延の終了後、該熱延板を、巻取り温度:350〜720℃として巻き取る、工程であることを特徴とする請求項8の記載の高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項10】
前記第二の温度域のうち、700〜550℃の温度域での冷却時間を10s以上とすることを特徴とする請求項8または9に記載の高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項11】
前記溶融亜鉛めっき処理工程に引続いて、前記溶融亜鉛めっき層の合金化処理を行う合金化処理工程を施すことを特徴とする請求項8ないし10のいずれかに記載の高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項12】
前記組成に加えてさらに、mass%で、Cr:0.05〜0.5%、V:0.005〜0.2%、Mo:0.005〜0.2%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項8ないし11のいずれかに記載の高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項13】
前記組成に加えてさらに、mass%で、Ti:0.01〜0.1%、Nb:0.01〜0.1%のうちから選ばれた1種または2種を含有することを特徴とする請求項8ないし12のいずれかに記載の高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項14】
前記組成に加えてさらに、mass%で、B:0.0003〜0.0050%を含有することを特徴とする請求項8ないし13のいずれかに記載の高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項15】
前記組成に加えてさらに、mass%で、Ni:0.05〜0.5%、Cu:0.05〜0.5%のうちから選ばれた1種または2種を含有することを特徴とする請求項8ないし14のいずれかに記載の高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項16】
前記組成に加えてさらに、mass%で、Ca:0.001〜0.005%、REM:0.001〜0.005%のうちから選ばれた1種または2種を含有することを特徴とする請求項8ないし15のいずれかに記載の高強度鋼板の製造方法。

【公開番号】特開2012−12624(P2012−12624A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−147423(P2010−147423)
【出願日】平成22年6月29日(2010.6.29)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】