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加工性に優れた高強度鋼板およびその製造方法
説明

加工性に優れた高強度鋼板およびその製造方法

【課題】980MPa以上のTS、24000MPa・%以上のTS×ELを有する加工性に優れた高強度鋼板の製造方法を提供する。
【解決手段】成分組成が、質量%でC:0.03%以上0.35%以下、Si:0.5%以上3.0%以下、Mn:3.5%以上10.0%以下、P:0.1%以下、S:0.01%以下、N:0.008%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼スラブを、熱間圧延後、Ar変態点〜Ar変態点+(Ar変態点−Ar変態点)/2で巻き取り、200℃以下まで冷却した後、Ac変態点−200℃〜Ac変態点の温度域に加熱して30分以上保持し、その後、酸洗し、20%以上の圧下率で冷間圧延を施した後、Ac変態点〜Ac変態点+(Ac変態点−Ac変態点)/2の温度域に加熱して30s以上保持することを特徴とする加工性に優れた高強度鋼板の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、電気等の産業分野で使用される部材として好適な加工性に優れた高強度鋼板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境の保全の見地から、自動車の燃費向上が重要な課題となっている。このため、車体材料の高強度化により薄肉化を図り、車体そのものを軽量化しようとする動きが活発となってきている。しかしながら、鋼板の高強度化は加工性の低下を招くことから、高強度と高加工性を併せ持つ材料の開発が望まれているのが現状である。例えば、特許文献1では、高Mn鋼を用いて、フェライトとオーステナイトの2相域での熱処理を施すことにより、高い強度−延性バランスが得られている。また、特許文献2では、高Mn鋼で熱延後組織をベイナイトやマルテンサイトを含む組織とし、焼鈍と焼戻しにより微細な残留オーステナイトを形成させ、さらに、焼戻しベイナイトもしくは焼戻しマルテンサイトを含む組織とすることで局部延性を改善している。しかしながら、特許文献1では、未変態オーステナイト中へのMn濃化による加工性の向上については検討されておらず、加工性の改善の余地がある。また、特許文献2では、高温で焼戻されたベイナイトもしくはマルテンサイトを多く含む組織のため、強度確保が難しく、また、局部延性を改善するために残留オーステナイト量が制限されて、全伸びとしても不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平1−259120号公報
【特許文献2】特開2003−138345号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記の様な問題点に着目してなされたものであって、その目的は980MPa以上のTS(引張強度)、24000MPa・%以上のTS(引張強度)×EL(全伸び)を有する高強度鋼板およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記した課題を達成し、加工性に優れた高強度鋼板を製造するため、鋼板の成分組成および製造方法の観点から鋭意研究を重ねた結果、以下のことを見出した。
【0006】
すなわち、合金元素の成分組成を適正に調整して、熱間圧延後、Ar変態点〜Ar変態点+(Ar変態点−Ar変態点)/2で巻き取り、またはさらにAr変態点〜Ar変態点+(Ar変態点−Ar変態点)/2の温度域で5時間以上保持した後、200℃以下まで冷却し、次いで、Ac変態点−200℃〜Ac変態点の温度域に加熱して30分以上保持し、酸洗後、20%以上の圧下率で冷間圧延を施し、その後、Ac変態点〜Ac変態点+(Ac変態点−Ac変態点)/2の温度域で30s以上保持した後、またはさらに、200℃以下まで冷却し、Ac変態点〜Ac変態点+(Ac変態点−Ac変態点)/2の温度域に加熱して10s以上保持することで、またはさらに、溶融亜鉛めっき処理を施す、またはさらに、470〜600℃の温度域で亜鉛めっきの合金化処理を施すことで、980MPa以上のTS、24000MPa・%以上のTS×ELを有する加工性に優れた高強度鋼板の製造が可能となることが分かった。
【0007】
本発明は、以上の知見に基づいてなされたものであり、その要旨は以下のとおりである。
【0008】
(1)成分組成が、質量%でC:0.03%以上0.35%以下、Si:0.5%以上3.0%以下、Mn:3.5%以上10.0%以下、P:0.1%以下、S:0.01%以下、N:0.008%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼スラブを、熱間圧延後、Ar変態点〜Ar変態点+(Ar変態点−Ar変態点)/2で巻き取り、200℃以下まで冷却した後、Ac変態点−200℃〜Ac変態点の温度域に加熱して30分以上保持し、その後、酸洗し、20%以上の圧下率で冷間圧延を施した後、Ac変態点〜Ac変態点+(Ac変態点−Ac変態点)/2の温度域に加熱して30s以上保持することを特徴とする加工性に優れた高強度鋼板の製造方法。
【0009】
(2)成分組成が、質量%でC:0.03%以上0.35%以下、Si:0.5%以上3.0%以下、Mn:3.5%以上10.0%以下、P:0.1%以下、S:0.01%以下、N:0.008%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼スラブを、熱間圧延後、Ar変態点〜Ar変態点+(Ar変態点−Ar変態点)/2で巻き取り、Ar変態点〜Ar変態点+(Ar変態点−Ar変態点)/2の温度域で5時間以上保持した後、200℃以下まで冷却し、次いで、Ac変態点−200℃〜Ac変態点の温度域に加熱して30分以上保持し、その後、酸洗し、20%以上の圧下率で冷間圧延を施した後、Ac変態点〜Ac変態点+(Ac変態点−Ac変態点)/2の温度域に加熱して30s以上保持することを特徴とする加工性に優れた高強度鋼板の製造方法。
【0010】
(3)成分組成が、質量%でC:0.03%以上0.35%以下、Si:0.5%以上3.0%以下、Mn:3.5%以上10.0%以下、P:0.1%以下、S:0.01%以下、N:0.008%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼スラブを、熱間圧延後、Ar変態点〜Ar変態点+(Ar変態点−Ar変態点)/2で巻き取り、またはさらにAr変態点〜Ar変態点+(Ar変態点−Ar変態点)/2の温度域で5時間以上保持した後、200℃以下まで冷却し、次いで、Ac変態点−200℃〜Ac変態点の温度域に加熱して30分以上保持した後、酸洗し、20%以上の圧下率で冷間圧延を施し、その後、Ac変態点〜Ac変態点+(Ac変態点−Ac変態点)/2の温度域に加熱して30s以上保持後、200℃以下まで冷却し、さらに、Ac変態点〜Ac変態点+(Ac変態点−Ac変態点)/2の温度域に加熱して10s以上保持することを特徴とする加工性に優れた高強度鋼板の製造方法。
【0011】
(4)前記(1)〜(3)のいずれかに記載の方法で高強度鋼板を製造した後、溶融亜鉛めっき処理を施すことを特徴とする加工性に優れた高強度鋼板の製造方法。
【0012】
(5)前記溶融亜鉛めっき処理を施した後、470〜600℃の温度域で亜鉛めっきの合金化処理を施すことを特徴とする前記(4)に記載の加工性に優れた高強度鋼板の製造方法。
【0013】
(6)さらに、成分組成として、質量%で、Al:0.01%以上2.5%以下を含有することを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれかに記載の加工性に優れた高強度鋼板の製造方法。
【0014】
(7)さらに、成分組成として、質量%で、Cr:0.05%以上1.0%以下、V:0.005%以上0.5%以下、Mo:0.005%以上0.5%以下、Ni:0.05%以上1.0%以下、Cu:0.05%以上1.0%以下のうちから選ばれる少なくとも1種の元素を含有することを特徴とする前記(1)〜(6)のいずれかに記載の加工性に優れた高強度鋼板の製造方法。
【0015】
(8)さらに、成分組成として、質量%で、Ti:0.01%以上0.1%以下、Nb:0.01%以上0.1%以下、B:0.0003%以上0.0050%以下のうちから選ばれる少なくとも1種の元素を含有することを特徴とする前記(1)〜(7)のいずれかに記載の加工性に優れた高強度鋼板の製造方法。
【0016】
(9)さらに、成分組成として、質量%で、Ca:0.001%以上0.005%以下、REM:0.001%以上0.005%以下のうちから選ばれる少なくとも1種の元素を含有することを特徴とする前記(1)〜(8)のいずれかに記載の加工性に優れた高強度鋼板の製造方法。
【0017】
(10)さらに、成分組成として、質量%で、Mg:0.0005%以上0.0100%以下を含有することを特徴とする前記(1)〜(9)のいずれかに記載の加工性に優れた高強度鋼板の製造方法。
【0018】
(11)さらに、成分組成として、質量%で、Ta:0.0010%以上0.1000%以下を含有することを特徴とする前記(1)〜(10)のいずれかに記載の加工性に優れた高強度鋼板の製造方法。
【0019】
(12)さらに、成分組成として、質量%で、Sn:0.0020%以上0.2000%以下および/またはSb:0.0020%以上0.2000%以下を含有することを特徴とする前記(1)〜(11)のいずれかに記載の加工性に優れた高強度鋼板の製造方法。
【0020】
(13)成分組成が、質量%でC:0.03%以上0.35%以下、Si:0.5%以上3.0%以下、Mn:3.5%以上10.0%以下、P:0.1%以下、S:0.01%以下、N:0.008%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、鋼組織は、面積率で、30.0%以上のフェライトを有し、前記フェライト中のMn量(質量%)を鋼板中のMn量(質量%)で除した値が0.80以下であり、体積率で、10.0%以上の残留オーステナイトを有し、前記残留オーステナイト中のMn量が6.0質量%以上であり、さらに、残留オーステナイトの平均結晶粒径が2.0μm以下であることを特徴とする加工性に優れた高強度鋼板。
【0021】
(14)さらに、鋼組織は、面積率で、3.0%以下のベイナイトを有し、残留オーステナイトのアスペクト比が2.0以下であることを特徴とする前記(13)に記載の加工性に優れた高強度鋼板。
【0022】
(15)さらに、成分組成として、質量%で、Al:0.01%以上2.5%以下を含有することを特徴とする前記(13)または(14)に記載の加工性に優れた高強度鋼板。
【0023】
(16)さらに、成分組成として、質量%で、Cr:0.05%以上1.0%以下、V:0.005%以上0.5%以下、Mo:0.005%以上0.5%以下、Ni:0.05%以上1.0%以下、Cu:0.05%以上1.0%以下のうちから選ばれる少なくとも1種の元素を含有することを特徴とする前記(13)〜(15)のいずれかに記載の加工性に優れた高強度鋼板。
【0024】
(17)さらに、成分組成として、質量%で、Ti:0.01%以上0.1%以下、Nb:0.01%以上0.1%以下、B:0.0003%以上0.0050%以下のうちから選ばれる少なくとも1種の元素を含有することを特徴とする前記(13)〜(16)のいずれかに記載の加工性に優れた高強度鋼板。
【0025】
(18)さらに、成分組成として、質量%で、Ca:0.001%以上0.005%以下、REM:0.001%以上0.005%以下のうちから選ばれる少なくとも1種の元素を含有することを特徴とする前記(13)〜(17)のいずれかに記載の加工性に優れた高強度鋼板。
【0026】
(19)さらに、成分組成として、質量%で、Mg:0.0005%以上0.0100%以下を含有することを特徴とする前記(13)〜(18)のいずれかに記載の加工性に優れた高強度鋼板。
【0027】
(20)さらに、成分組成として、質量%で、Ta:0.0010%以上0.1000%以下を含有することを特徴とする前記(13)〜(19)のいずれかに記載の加工性に優れた高強度鋼板。
【0028】
(21)さらに、成分組成として、質量%で、Sn:0.0020%以上0.2000%以下および/またはSb:0.0020%以上0.2000%以下を含有することを特徴とする前記(13)〜(20)のいずれかに記載の加工性に優れた高強度鋼板。
【0029】
なお、本明細書において、鋼の成分を示す%は、すべて質量%である。また、本発明において、「高強度鋼板」とは、引張強度TSが980MPa以上の鋼板である。とくに薄鋼板を対象とする場合は、板厚は特に規定しないが、通常、0.7〜3.6mm程度である。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、980MPa以上のTS、24000MPa・%以上のTS×ELを有する加工性に優れた高強度鋼板が得られる。本発明の高強度鋼板を、例えば、自動車構造部材に適用することにより車体軽量化による燃費改善を図ることができ、産業上の利用価値は非常に大きい。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明を具体的に説明する。
【0032】
1)本発明において鋼の成分組成と鋼組織を上記の範囲に限定した理由について説明する。
【0033】
C:0.03%以上0.35%以下
Cは、マルテンサイト等の低温変態相を生成させてTSを上昇させるために必要な元素である。また、オーステナイトを安定化させて残留オーステナイトを生成させ、鋼の加工性を向上させるのに有効な元素である。C量が0.03%未満では所望のTSを確保することが難しい。一方、Cを、0.35%を超えて過剰に添加すると、溶接部および熱影響部の硬化が著しく、溶接部の機械的特性が低下するため、スポット溶接性、アーク溶接性等が劣化する。こうした観点からC量を、0.03%以上0.35%以下とする。好ましくは、0.05%以上0.20%以下である。
【0034】
Si:0.5%以上3.0%以下
Siは、固溶強化により鋼のTSを上昇させる元素である。また、残留オーステナイトを生成させ、さらに、フェライトの加工硬化能を向上させるため、良好な加工性の確保に有効である。Si量が0.5%に満たないとその添加効果が乏しくなるため、下限を0.5%とした。しかしながら、3.0%を超えるSiの過剰な添加は、鋼の脆化を引き起こすばかりか赤スケール等の発生による表面性状の劣化を引き起こす。そのため、Siは0.5%以上3.0%以下とする。好ましくは、0.7%以上2.0%以下である。
【0035】
Mn:3.5%以上10.0%以下
Mnは、マルテンサイト等の低温変態相を生成させ、また、固溶強化により、鋼のTSを上昇させる元素である。また、残留オーステナイトの生成を促進させる。このような作用は、Mn量が3.5%以上で認められる。ただし、Mn量が10.0%を超える過剰な添加は、所望のフェライト量の確保が難しく、さらに、εマルテンサイトが生成されやすくなり、加工性が著しく低下する。こうした観点からMn量を、3.5%以上10.0%以下とする。好ましくは、3.8%以上7.0%以下である。
【0036】
P:0.1%以下
Pは、鋼の強化に有効な元素であるが、0.1%を超えて過剰に添加すると、粒界偏析により脆化を引き起こし、耐衝撃性を劣化させる。従って、Pは0.1%以下とする。
【0037】
S:0.01%以下
Sは、MnSなどの介在物となって、穴広げ性や耐衝撃性の劣化や溶接部のメタルフローに沿った割れの原因となるので極力低い方がよいが、製造コストの面からSは0.01%以下とする。
【0038】
N:0.008%以下
Nは、鋼の耐時効性を最も大きく劣化させる元素であり、少ないほど好ましく、0.008%を超えると耐時効性の劣化が顕著となる。従って、Nは0.008%以下とする。
【0039】
残部はFeおよび不可避的不純物であるが、必要に応じて以下の元素の1種以上を適宜含有させることができる。
【0040】
Al:0.01%以上2.5%以下
Alは、炭化物の生成を抑制し、残留オーステナイトを生成させるのに有効な元素である。また、脱酸剤として作用し、鋼の清浄度に有効な元素であり、脱酸工程で添加することが好ましい。Al量が0.01%に満たないとその添加効果に乏しくなるので、下限を0.01%とした。しかし、2.5%を超える多量の添加は、連続鋳造時の鋼片割れ発生の危険性が高まり、製造性を低下させる。こうした観点からAl量を、0.01%以上2.5%以下とする。好ましくは、0.2%以上1.5%以下である。
【0041】
Cr:0.05%以上1.0%以下、V:0.005%以上0.5%以下、Mo:0.005%以上0.5%以下、Ni:0.05%以上1.0%以下、Cu:0.05%以上1.0%以下のうちから選ばれる少なくとも1種
Cr、V、Moは強度と延性のバランスを向上させる作用を有するので必要に応じて添加することができる。その効果は、Cr:0.05%以上、V:0.005%以上、Mo:0.005%以上で得られる。しかしながら、それぞれCr:1.0%、V:0.5%、Mo:0.5%を超えて過剰に添加すると、第二相の分率が過大となり著しい強度上昇に伴う延性の低下等の懸念が生じる。また、コストアップの要因にもなる。従って、これらの元素を添加する場合には、その量をそれぞれCr:0.05%以上1.0%以下、V:0.005%以上0.5%以下、Mo:0.005%以上0.5%以下とする。
【0042】
Ni、Cuは鋼の強化に有効な元素であり、本発明で規定した範囲内であれば鋼の強化に使用して差し支えない。この効果を得るためには、それぞれ0.05%以上必要である。一方、Ni、Cuとも1.0%を超えて添加すると、鋼板の延性を低下させる。また、コストアップの要因にもなる。よって、Ni、Cuを添加する場合に、その添加量はそれぞれ0.05%以上1.0%以下とする。
【0043】
Ti:0.01%以上0.1%以下、Nb:0.01%以上0.1%以下、B:0.0003%以上0.0050%以下のうちから選ばれる少なくとも1種
Ti、Nbは鋼の析出強化に有効で、その効果はそれぞれ0.01%以上で得られる。しかし、それぞれが0.1%を超えると延性および形状凍結性が低下する。また、コストアップの要因にもなる。従って、Ti、Nbを添加する場合には、その添加量をTiは0.01%以上0.1%以下、Nbは0.01%以上0.1%以下とする。
【0044】
Bはオーステナイト粒界からのフェライトの生成・成長を抑制する作用を有するので必要に応じて添加することができる。その効果は、0.0003%以上で得られる。しかし、0.0050%を超えると加工性が低下する。また、コストアップの要因にもなる。従って、Bを添加する場合は0.0003%以上0.0050%以下とする。
【0045】
Ca:0.001%以上0.005%以下、REM:0.001%以上0.005%以下のうちから選ばれる少なくとも1種
CaおよびREMは、硫化物の形状を球状化し穴広げ性への硫化物の悪影響を改善するために有効な元素である。この効果を得るためには、それぞれ0.001%以上必要である。しかしながら、それぞれ0.005%を超える過剰な添加は、介在物等の増加を引き起こし表面および内部欠陥などを引き起こす。従って、Ca、REMを添加する場合は、その添加量はそれぞれ0.001%以上0.005%以下とする。
【0046】
Mg:0.0005%以上0.0100%以下
Mgは、脱酸に用いる元素であるとともに、CaおよびREMと同様に硫化物の形状を球状化し、穴広げ性や局部延性への硫化物の悪影響を改善するために有効な元素である。この効果を得るためには、0.0005%以上必要である。しかしながら、0.0100%を超えて過剰に添加すると、介在物等の増加を引き起こし表面および内部欠陥などを引き起こす。従って、Mgを添加する場合は、その含有量は0.0005%以上0.0100%以下とする。
【0047】
Ta:0.0010%以上0.1000%以下
Taは、TiやNbと同様に、合金炭化物や合金炭窒化物を生成して高強度化に寄与する。加えて、Nb炭化物やNb炭窒化物に一部固溶し、(Nb,Ta)(C,N)のような複合析出物を生成することで析出物の粗大化を著しく抑制し、析出強化による強度への寄与を安定化させる効果があると考えられる。このため、Taを含有することが好ましい。ここで、前述の析出物安定化の効果は、Taの含有量を0.0010%以上とすることで得られる。一方で、Taを過剰に添加しても析出物安定化効果が飽和する上、合金コストも増加する。したがって、Taを添加する場合には、その含有量は、0.0010%以上0.1000%以下の範囲内とする。
【0048】
Sn:0.0020%以上0.2000%以下、および/または、Sb:0.0020%以上0.2000%以下
SnおよびSbは、これら元素の中から選ばれる少なくとも1種を以下の含有量で含有することが好ましい。すなわち、Snおよび/またはSbは、鋼板表面の窒化や酸化によって生じる鋼板表層の数十μm程度の領域の脱炭を抑制する観点から、必要に応じて添加する。SnやSbをそれぞれ0.0020%以上添加することにより、このような窒化や酸化を抑制し、鋼板表面においてマルテンサイトの生成量が減少するのを防止して、疲労特性や耐時効性を改善させることができる。一方で、これらいずれの元素についても、0.2000%を超えて過剰に添加すると靭性の低下を招く。したがって、Snおよび/またはSbを添加する場合には、その含有量は、それぞれ0.0020%以上0.2000%以下の範囲内とする。
【0049】
フェライトの面積率:30.0%以上
フェライトの面積率が30.0%未満では良好な延性の確保が困難となる。従って、フェライトの面積率は30.0%以上とする。フェライトの面積率が過剰に高くなると、所望の強度確保が困難になる可能性があるため、80.0%以下とすることが好ましい。なお、フェライトの面積率は、鋼板の圧延方向に平行な板厚断面(L断面)を研磨後、3%ナイタールで腐食し、板厚1/4位置(鋼板表面から深さ方向で板厚の1/4に相当する位置)について、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)を用いて3000倍の倍率で10視野観察し、得られた組織画像を用いて、Media Cybernetics社のImage−Pro(画像解析ソフト)を用いてフェライトの面積率を10視野分算出し、それらの値を平均して求めることができる。また、上記の組織画像において、フェライトは灰色の組織を呈している。
【0050】
フェライト中のMn量(質量%)を鋼板中のMn量(質量%)で除した値:0.80以下
フェライト中のMn量(質量%)が鋼板中のMn量(質量%)の0.80を超えると、フェライトの結晶粒自体の延性が低下し、目標の鋼板の延性の確保が困難となる。従って、フェライト中のMn量(質量%)は鋼板中のMn量(質量%)の0.80以下とする。フェライト中のMn量(質量%)を鋼板中のMn量(質量%)で除した値が過剰に小さくなると、フェライトの結晶粒自体の強度確保が困難となる可能性があるため、0.20以上とすることが好ましい。
【0051】
なお、フェライト中のMn量は、電界放射型電子プローブマイクロアナライザ(Field Emission−Electron Probe Micro Analyzer)を用いて、板厚1/4位置における圧延方向断面の各相へのMnの分布状態を定量化し、30個のフェライト粒のMn量分析結果の平均値により求めることができる。鋼板中のMn量は、発光分光分析法(QV分析)により求めることができる。
【0052】
残留オーステナイトの体積率:10.0%以上
残留オーステナイトは、延性の向上に有効に働き、その体積率が10.0%未満では目標の延性が得られない。また、深絞り性の低下が懸念される。従って、残留オーステナイトの体積率を10.0%以上とする。残留オーステナイトの体積率の上限は特に規定しないが、本成分範囲では上限は40.0%となる。
【0053】
なお、残留オーステナイトの体積率は、鋼板を板厚方向の1/4面まで研磨し、この板厚1/4面の回折X線強度により、求めることができる。入射X線にはMoKα線を使用し、残留オーステナイト相の{111}、{200}、{220}、{311}面とフェライトの{110}、{200}、{211}面のピークの積分強度の全ての組み合わせについて強度比を求め、これらの平均値より求めることができる。
【0054】
残留オーステナイト中のMn量:6.0質量%以上
本発明では、10.0%以上の残留オーステナイトの体積率を確保するために、Mnによるオーステナイトの安定化効果を活用していることが特徴である。すなわち、オーステナイト中のMn量の増加により、安定な残留オーステナイトの確保が可能となり、延性と深絞り性が大幅に向上する。この効果を得るために、残留オーステナイト中のMn量は6.0質量%以上とする。残留オーステナイト中のMn量が過剰に高くなると、残留オーステナイトが過度に安定化し、引張試験の変形後にも残留オーステナイトが残存する可能性、つまり、残留オーステナイトがマルテンサイトに変態するTRIP効果の発現が小さくなり、十分な延性を確保できない可能性があるため、11.0質量%以下とすることが好ましい。
【0055】
なお、残留オーステナイト中のMn量は、電界放射型電子プローブマイクロアナライザ(Field Emission−Electron Probe Micro Analyzer)を用いて、板厚1/4位置における圧延方向断面の各相へのMnの分布状態を定量化し、30個の残留オーステナイト粒のMn量分析結果の平均値により求めることができる。
【0056】
残留オーステナイトの平均結晶粒径:2.0μm以下
残留オーステナイトの平均結晶粒径が2.0μmを超えると、残留オーステナイトの安定性も低下し、目標の延性の確保が困難となる。また、深絞り性を確保する観点からも不利となる。また、曲げ試験時や疲労試験時に鋼板中の亀裂の伝播を抑制できず、良好な曲げ性や疲労特性の確保が困難となることが懸念される。従って、残留オーステナイトの平均結晶粒径を2.0μm以下とする。残留オーステナイトの平均結晶粒径が0.1μm未満になると、TRIP効果による加工硬化率の上昇効果が小さくなり、十分な延性を確保できない可能性があるため、0.1μm以上とすることが好ましい。なお、残留オーステナイトの平均結晶粒径は、TEM(透過型電子顕微鏡)で20個の残留オーステナイトを観察し、上述のImage−Proを用いて、各々の面積を求め、円相当径を算出し、それらの値を平均して求めることができる。
【0057】
ベイナイトの面積率:3.0%以下
本発明では、ベイナイト変態を活用せずに、所望の安定な残留オーステナイトの体積率を確保可能であることが特徴である。また、フェライトに比べて、比較的転位密度が高い。そのため、ベイナイト自体の延性は低く、ベイナイトの面積率が3.0%を超えると、目標の鋼板の延性の確保が困難となることが懸念される。従って、ベイナイトの面積率は3.0%以下とすることが好ましい。ベイナイトの面積率は0.0%でもよい。
【0058】
また、ここで云うベイナイトの面積率とは、観察面積に占めるベイニティックフェライ
ト(ベイナイト変態により生成する転位密度が比較的高いフェライト)の面積割合のことである。
【0059】
残留オーステナイトのアスペクト比:2.0以下
残留オーステナイトのアスペクト比が2.0を超えると、曲げ試験時や疲労試験時に、フェライトの結晶粒界に沿って存在する伸長した残留オーステナイト(硬質相)とフェライト(軟質相)との異相界面で亀裂が進展し、鋼板中の亀裂の伝播を抑制できず、良好な曲げ性や疲労特性の確保が困難となる。そのため、残留オーステナイトのアスペクト比は2.0以下とする。
【0060】
また、ここで云う残留オーステナイトのアスペクト比とは、残留オーステナイトの結晶粒の長軸長を短軸長で除した値である。
【0061】
なお、ベイナイトの面積率および残留オーステナイトのアスペクト比(長軸長/短軸長)は、鋼板の圧延方向に平行な板厚断面(L断面)を研磨後、3%ナイタールで腐食し、板厚1/4位置(鋼板表面から深さ方向で板厚の1/4に相当する位置)について、SEMを用いて3000倍の倍率で10視野観察し、得られた組織画像を用いて、Media Cybernetics社のImage−Proを用いて、ベイナイトの面積率および残留オーステナイトのアスペクト比(長軸長/短軸長)を各々10視野分算出し、各々の10視野分の値を平均して求めることができる。
【0062】
また、本発明のミクロ組織において、フェライトとベイナイトと残留オーステナイト以外の残部組織に、マルテンサイト、焼戻しマルテンサイト、パーライト、セメンタイト等の炭化物の1種以上が含まれても、本発明の効果が損なわれることはない。しかしながら、良好な延性の確保のため、パーライトの面積率は5%以下であることが好ましい。
【0063】
2)次に製造条件について説明する。
【0064】
<鋳造条件>
上記成分組成を有する鋼を溶製し、鋼スラブとする。鋼スラブは、成分のマクロ偏析を防止するために連続鋳造法で製造するのが好ましいが、造塊法、薄スラブ鋳造法で製造してもよい。また、鋼スラブを製造したのち、いったん室温まで冷却し、その後再度加熱する従来法に加え、室温まで冷却しないで、温片のままで加熱炉に装入する、あるいはわずかの保熱をおこなった後に直ちに圧延する直送圧延・直接圧延などの省エネルギープロセスも問題なく適用できる。
【0065】
<熱間圧延条件>
鋼スラブを熱間圧延し、巻き取る。スラブ加熱温度が1100℃未満では、炭化物の十分な固溶が困難であり、圧延荷重の増大による熱間圧延時のトラブル発生の危険が増大するなどの問題が生じる。そのため、スラブ加熱温度は1100℃以上が好ましい。また、酸化量の増加にともなうスケールロスの増大などから、スラブ加熱温度は1300℃以下とすることが望ましい。なお、スラブ温度が低くなった場合、熱間圧延時のトラブルを防止するといった観点から、シートバーを加熱する、いわゆるシートバーヒーターを活用してもよい。仕上げ圧延温度がAr変態点未満では、材料特性に異方性が生じ、加工性を低下させる原因となる場合がある。このため、仕上げ圧延温度はAr変態点以上とすることが望ましい。
【0066】
巻き取り温度:Ar変態点〜Ar変態点+(Ar変態点−Ar変態点)/2
本発明においては熱間圧延後の巻き取り温度は極めて重要である。前記巻き取り温度で熱延板を巻き取ることによってオーステナイト中にMnが濃化し、冷間圧延後の熱処理の際に、十分なオーステナイト中のMn濃化量が得られ、安定な残留オーステナイトが確保でき、加工性が向上する。巻き取り温度がAr変態点未満、またはAr変態点+(Ar変態点−Ar変態点)/2を超える温度では、オーステナイト中へのMnの濃化が進行せず、冷間圧延後の熱処理の際にオーステナイト中へのMn濃化量が少なく、良好な加工性の確保が難しい。
【0067】
Ar変態点〜Ar変態点+(Ar変態点−Ar変態点)/2の温度域で5時間以上保持
Ar変態点〜Ar変態点+(Ar変態点−Ar変態点)/2の温度域で5時間以上保持することにより、オーステナイト中にMnがより濃化し、冷間圧延後の熱処理の際に、オーステナイト中のMn濃化量が増大し、より安定な残留オーステナイトが確保でき、より加工性が向上する。したがって、前記した温度で巻き取り後、前記温度域で5時間以上保持することが好ましい。また、熱延板の結晶粒の粗大化により、冷間圧延後の焼鈍板の強度が低下するため、保持時間は12時間以下であることが好ましい。
【0068】
なお、本発明における熱間圧延工程では、熱間圧延時の圧延荷重を低減するために仕上げ圧延の一部または全部を潤滑圧延としてもよい。潤滑圧延を行うことは、鋼板形状の均一化、材質の均一化の観点からも有効である。なお、潤滑圧延の際の摩擦係数は0.25〜0.10の範囲とすることが好ましい。また、相前後するシートバー同士を接合し、連続的に仕上げ圧延する連続圧延プロセスとすることが好ましい。連続圧延プロセスを適用することは、熱間圧延の操業安定性の観点からも望ましい。
【0069】
200℃以下まで冷却した後、Ac変態点−200℃〜Ac変態点の温度域に加熱して30分以上保持
上記したAr変態点〜Ar変態点+(Ar変態点−Ar変態点)/2で巻き取り後、または前記温度で巻き取り後さらに前記Ar変態点〜Ar変態点+(Ar変態点−Ar変態点)/2の温度域で5時間以上保持した後、200℃以下に冷却する。200℃以下まで冷却することで、マルテンサイトやベイナイト等の硬質な低温変態相を生成させることができる。冷却する際の冷却方法、冷却速度は特に規定されない。
【0070】
200℃以下まで冷却することにより生成されたマルテンサイトやベイナイト等の硬質な低温変態相を、Ac変態点−200℃〜Ac変態点の温度域に30分以上保持すると、焼戻しマルテンサイトおよび焼戻しベイナイトへ変態することでセメンタイト等の炭化物を析出し、冷間圧延後の熱処理の際に、C濃度の高い微細なオーステナイトが生成し、加工性が向上する。また、熱延板を軟質化させ、その後の冷間圧延の負荷を軽減させる効果もある。Ac変態点−200℃未満またはAc変態点を超える温度での保持、あるいは30分未満の保持では上記の効果を得ることが難しい。保持時間が750分を超えると、結晶粒が過度に粗大化し、最終的に所望の残留オーステナイトの平均結晶粒径が得られず、延性が低下する可能性があり、また、深絞り性の低下が懸念される。また、多大なエネルギー消費によるコスト増を引き起こす可能性がある。そのため、保持時間を750分以下とすることが好ましい。
【0071】
鋼板を、Ac変態点−200℃〜Ac変態点の温度域に30分以上保持した後、冷却し、酸洗する。冷却する際の冷却方法、冷却速度は特に規定されない。酸洗は常法でよい。
【0072】
冷間圧延の圧下率:20%以上
酸洗後、冷間圧延する。本発明においては熱間圧延後の冷間圧延の圧下率は極めて重要である。20%以上の圧下率で冷間圧延を施すことにより、その後の熱処理の際に、フェライトの再結晶が促進し、微細で良好な延性を有する再結晶フェライトが生成され、加工性が向上する。また、フェライトの微細生成により、オーステナイトが微細に生成し、より安定な残留オーステナイトが得られ、TS×ELが上昇する。
【0073】
<冷間圧延後の熱処理条件>
Ac変態点〜Ac変態点+(Ac変態点−Ac変態点)/2の温度域で30s以上保持(熱処理1)
オーステナイトとフェライトの2相領域で熱処理(焼鈍処理)を施すと、Mnはオーステナイト中へ濃化し、オーステナイト中のMn濃度が鋼の平均組成以上の濃度となる。熱処理温度がAc変態点未満ではオーステナイトが殆ど生成せず、焼鈍後に所望の残留オーステナイトが得られず、加工性が低下する。また、熱処理温度がAc変態点+(Ac変態点−Ac変態点)/2を超えると、熱処理時のオーステナイトへのMnの濃化が不十分となり、安定な残留オーステナイトが確保できず、加工性が低下する。また、保持時間が30s未満では、熱処理時のオーステナイトへのMnの濃化が不十分となり、安定な残留オーステナイトが確保できず、加工性が低下する。また、未再結晶組織が多く残存し、加工性が低下する。したがって、熱処理条件は、Ac変態点〜Ac変態点+(Ac変態点−Ac変態点)/2の温度域で30s以上保持とする。保持時間が360分を超えると、熱処理中のフェライトとオーステナイトの結晶粒径が過度に粗大化し、所望の残留オーステナイトの平均結晶粒径が得られず、延性が低下する可能性がある。また、深絞り性の低下が懸念される。また、多大なエネルギー消費によるコスト増を引き起こす可能性がある。そのため、保持時間を360分以下とすることが好ましい。
【0074】
なお、熱処理方法は連続焼鈍やバッチ焼鈍のいずれの焼鈍方法でも構わない。また、前記の熱処理後、室温まで冷却するが、その冷却方法および冷却速度は特に規定せず、バッチ焼鈍における炉冷、空冷および連続焼鈍におけるガスジェット冷却、ミスト冷却、水冷などのいずれの冷却でも構わない。
【0075】
また、前記熱処理後、200℃以下まで冷却し、さらに以下の熱処理を行うこともできる。
【0076】
Ac変態点〜Ac変態点+(Ac変態点−Ac変態点)/2の温度域で10s以上保持(熱処理2)
さらに、上記条件で熱処理を施すことにより、Mnのオーステナイト中への濃化が進行し、より安定な残留オーステナイトの確保が可能となり、より加工性が向上する。熱処理温度がAc変態点未満またはAc変態点+(Ac変態点−Ac変態点)/2を超えると、また保持温度が10s未満になると前記効果が得られない。前記の熱処理後、室温まで冷却するが、その冷却方法および冷却速度は規定されない。保持時間が180分を超えると、熱処理中のフェライトとオーステナイトの結晶粒径が過度に粗大化し、所望の残留オーステナイトの平均結晶粒径が得られず、延性が低下する可能性がある。また、深絞り性の点からも好ましくない。また、多大なエネルギー消費によるコスト増を引き起こす可能性がある。そのため、保持時間を180分以下とすることが好ましい。
【0077】
<溶融亜鉛めっき処理>
溶融亜鉛めっき処理を施すときは、前記熱処理1または熱処理2を施した鋼板を440〜500℃の亜鉛めっき浴中に浸漬し、溶融亜鉛めっき処理を施し、その後、ガスワイピング等によって、めっき付着量を調整する。溶融亜鉛めっきはAl量が0.08〜0.18質量%である亜鉛めっき浴を用いることが好ましい。
【0078】
<亜鉛めっきの合金化処理>
亜鉛めっきの合金化処理を施すときは、溶融亜鉛めっき処理後に、470〜600℃の温度域で亜鉛めっきの合金化処理を施す。470℃未満の温度では、めっき層の合金化が促進されず、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を得ることが難しい。600℃を超える温度で合金化処理を行うと、残留オーステナイトの分解が生じ、加工性が低下する。したがって、亜鉛めっきの合金化処理を行うときは、470〜600℃の温度域で亜鉛めっきの合金化処理を施すこととする。
【0079】
亜鉛めっき処理を施さない冷延鋼板および溶融亜鉛めっき処理、合金化溶融亜鉛めっき処理を施した後の鋼板には、形状矯正や表面粗度の調整等を目的に調質圧延を行うことができる。また、樹脂や油脂コーティング等の各種塗装処理を施すこともできる。
【実施例】
【0080】
表1に示す成分組成を有し、残部がFeおよび不可避的不純物よりなる鋼を転炉にて溶製し、連続鋳造法にてスラブとした。得られたスラブを1250℃に加熱し、仕上げ圧延温度870℃で板厚4.0mmまで熱間圧延して巻き取り、巻き取り後200℃以下まで冷却し、または巻き取り後該巻き取り温度で所定時間保持した後200℃以下まで冷却し、その後熱処理(熱延板熱処理)を行った後、酸洗、冷間圧延、熱処理に供し、一部はさらに、溶融亜鉛めっき処理、またはさらに亜鉛めっきの合金化処理に供した。溶融亜鉛めっき浴温は460℃とした。亜鉛めっき量は、片面当たり45g/m(両面めっき)に調整し、合金化処理は皮膜中Fe濃度が9〜12質量%になるように調整した。製造条件を表2に示す。得られた鋼板の引張特性について調査を行い、その結果を表3に示した。
【0081】
【表1】

【0082】
Ar変態点、Ar変態点、Ac変態点、Ac変態点は以下の式を用いて求めた。
Ar変態点(℃)
=730−102×(%C)+29×(%Si)−40×(%Mn)−18×(%Ni)
−28×(%Cu)−20×(%Cr)−18×(%Mo)
Ar変態点(℃)
=900−326×(%C)+40×(%Si)−40×(%Mn)−36×(%Ni)
−21×(%Cu)−25×(%Cr)−30×(%Mo)
Ac変態点(℃)
=751−16×(%C)+11×(%Si)−28×(%Mn)−5.5×(%Cu)
−16×(%Ni)+13×(%Cr)+3.4×(%Mo)
Ac変態点(℃)
=910−203√(%C)+45×(%Si)−30×(%Mn)−20×(%Cu)
−15×(%Ni)+11×(%Cr)+32×(%Mo)+104×(%V)+400
×(%Ti)+200×(%Al)
ここで、(%C)、(%Si)、(%Mn)、(%Ni)、(%Cu)、(%Cr)、(%Mo)、(%V)、(%Ti)、(%Al)は、それぞれの元素の含有量(質量%)である。
【0083】
【表2】

【0084】
【表3】

【0085】
引張試験は、引張方向が鋼板の圧延方向と直角方向となるようにサンプルを採取したJIS5号試験片を用いて、JIS Z 2241(2011年)に準拠して行い、TS(引張強度)、EL(全伸び)を測定した。なお、本発明では、TS≧980MPaで、TS×EL≧24000MPa・%の場合を加工性が良好と判定した。
【0086】
曲げ試験は、JIS Z2248(1996年)のVブロック法に基づき測定を実施した。曲げ部外側について実体顕微鏡で亀裂の有無を判定し、亀裂が発生していない最小の曲げ半径を限界曲げ半径Rとした。なお、本発明では、90°V曲げでの限界曲げR/t≦1.5(t:鋼板の板厚)の場合を曲げ性が良好と判定した。
【0087】
r値は、冷延焼鈍板からL方向(圧延方向)、D方向(圧延方向と45°をなす方向)およびC方向(圧延方向と90°をなす方向)からそれぞれJISZ2201(1998年)の5号試験片を切り出し、JISZ2254(2008年)の規定に準拠してそれぞれのr、r、r、を求め、下式(1)によりr値を算出した。
【0088】
【数1】

【0089】
深絞り成形試験は、円筒絞り試験で行い、限界絞り比(LDR)により深絞り性を評価した。円筒深絞り試験条件は、試験には直径33mmφの円筒ポンチを用い、板厚3.8mm材は、ダイス径:44.4mm、板厚2.4mm材は、ダイス径:40.2mm、板厚1.6mm材は、ダイス径:37.8mm、板厚1.4mm材は、ダイス径:37.2mmの金型を用いた。試験は、しわ押さえ力:1ton、成形速度1mm/sで行った。めっき状態などにより表面の摺動状態が変わるため、表面の摺動状態が試験に影響しない様、サンプルとダイスの間にポリエチレンシートを置いて高潤滑条件で試験を行った。ブランク径を1mmピッチで変化させ、破断せず絞りぬけた最大ブランク直径Dとポンチ直径dの比(D/d)をLDRとした。なお、本発明では、LDR≧2.12の場合を深絞り性が良好と判定した。
【0090】
平面曲げ疲労試験は、JIS Z 2275(1978年)に準拠し、両振り(応力比−1)、周波数20Hzの条件で行った。両振り平面曲げ疲労試験において、10サイクルまで破断が認められなかった応力を測定し、この応力を疲労限強度とした。また、疲労限強度を引張強度TSで除した値(耐久比)を算出した。なお、本発明では、疲労限強度≧400MPa、耐久比≧0.40の場合を疲労特性が良好と判定した。
【0091】
本発明例の高強度鋼板は、いずれも980MPa以上のTS、24000MPa・%以上のTS×ELであり、加工性に優れた高強度鋼板が得られている。さらに、曲げ性も良好で、良好な深絞り性も確保でき、疲労特性にも優れている。一方、比較例では、TS、TS×ELの少なくとも一つの特性が劣っている。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明によれば、980MPa以上のTS、24000MPa・%以上のTS×ELを有する加工性に優れる高強度鋼板の製造が可能になる。本発明の高強度鋼板を、例えば、自動車構造部材に適用することで、車体軽量化による燃費改善を図ることができ、産業上の利用価値は非常に大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分組成が、質量%でC:0.03%以上0.35%以下、Si:0.5%以上3.0%以下、Mn:3.5%以上10.0%以下、P:0.1%以下、S:0.01%以下、N:0.008%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼スラブを、熱間圧延後、Ar変態点〜Ar変態点+(Ar変態点−Ar変態点)/2で巻き取り、200℃以下まで冷却した後、Ac変態点−200℃〜Ac変態点の温度域に加熱して30分以上保持し、その後、酸洗し、20%以上の圧下率で冷間圧延を施した後、Ac変態点〜Ac変態点+(Ac変態点−Ac変態点)/2の温度域に加熱して30s以上保持することを特徴とする加工性に優れた高強度鋼板の製造方法。
【請求項2】
成分組成が、質量%でC:0.03%以上0.35%以下、Si:0.5%以上3.0%以下、Mn:3.5%以上10.0%以下、P:0.1%以下、S:0.01%以下、N:0.008%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼スラブを、熱間圧延後、Ar変態点〜Ar変態点+(Ar変態点−Ar変態点)/2で巻き取り、Ar変態点〜Ar変態点+(Ar変態点−Ar変態点)/2の温度域で5時間以上保持した後、200℃以下まで冷却し、次いで、Ac変態点−200℃〜Ac変態点の温度域に加熱して30分以上保持し、その後、酸洗し、20%以上の圧下率で冷間圧延を施した後、Ac変態点〜Ac変態点+(Ac変態点−Ac変態点)/2の温度域に加熱して30s以上保持することを特徴とする加工性に優れた高強度鋼板の製造方法。
【請求項3】
成分組成が、質量%でC:0.03%以上0.35%以下、Si:0.5%以上3.0%以下、Mn:3.5%以上10.0%以下、P:0.1%以下、S:0.01%以下、N:0.008%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼スラブを、熱間圧延後、Ar変態点〜Ar変態点+(Ar変態点−Ar変態点)/2で巻き取り、またはさらにAr変態点〜Ar変態点+(Ar変態点−Ar変態点)/2の温度域で5時間以上保持した後、200℃以下まで冷却し、次いで、Ac変態点−200℃〜Ac変態点の温度域に加熱して30分以上保持した後、酸洗し、20%以上の圧下率で冷間圧延を施し、その後、Ac変態点〜Ac変態点+(Ac変態点−Ac変態点)/2の温度域に加熱して30s以上保持後、200℃以下まで冷却し、さらに、Ac変態点〜Ac変態点+(Ac変態点−Ac変態点)/2の温度域に加熱して10s以上保持することを特徴とする加工性に優れた高強度鋼板の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の方法で高強度鋼板を製造した後、溶融亜鉛めっき処理を施すことを特徴とする加工性に優れた高強度鋼板の製造方法。
【請求項5】
前記溶融亜鉛めっき処理を施した後、470〜600℃の温度域で亜鉛めっきの合金化処理を施すことを特徴とする請求項4に記載の加工性に優れた高強度鋼板の製造方法。
【請求項6】
さらに、成分組成として、質量%で、Al:0.01%以上2.5%以下を含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の加工性に優れた高強度鋼板の製造方法。
【請求項7】
さらに、成分組成として、質量%で、Cr:0.05%以上1.0%以下、V:0.005%以上0.5%以下、Mo:0.005%以上0.5%以下、Ni:0.05%以上1.0%以下、Cu:0.05%以上1.0%以下のうちから選ばれる少なくとも1種の元素を含有することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の加工性に優れた高強度鋼板の製造方法。
【請求項8】
さらに、成分組成として、質量%で、Ti:0.01%以上0.1%以下、Nb:0.01%以上0.1%以下、B:0.0003%以上0.0050%以下のうちから選ばれる少なくとも1種の元素を含有することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の加工性に優れた高強度鋼板の製造方法。
【請求項9】
さらに、成分組成として、質量%で、Ca:0.001%以上0.005%以下、REM:0.001%以上0.005%以下のうちから選ばれる少なくとも1種の元素を含有することを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の加工性に優れた高強度鋼板の製造方法。
【請求項10】
さらに、成分組成として、質量%で、Mg:0.0005%以上0.0100%以下を含有することを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の加工性に優れた高強度鋼板の製造方法。
【請求項11】
さらに、成分組成として、質量%で、Ta:0.0010%以上0.1000%以下を含有することを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の加工性に優れた高強度鋼板の製造方法。
【請求項12】
さらに、成分組成として、質量%で、Sn:0.0020%以上0.2000%以下および/またはSb:0.0020%以上0.2000%以下を含有することを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の加工性に優れた高強度鋼板の製造方法。
【請求項13】
成分組成が、質量%でC:0.03%以上0.35%以下、Si:0.5%以上3.0%以下、Mn:3.5%以上10.0%以下、P:0.1%以下、S:0.01%以下、N:0.008%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、鋼組織は、面積率で、30.0%以上のフェライトを有し、前記フェライト中のMn量(質量%)を鋼板中のMn量(質量%)で除した値が0.80以下であり、体積率で、10.0%以上の残留オーステナイトを有し、前記残留オーステナイト中のMn量が6.0質量%以上であり、さらに、残留オーステナイトの平均結晶粒径が2.0μm以下であることを特徴とする加工性に優れた高強度鋼板。
【請求項14】
さらに、鋼組織は、面積率で、3.0%以下のベイナイトを有し、残留オーステナイトのアスペクト比が2.0以下であることを特徴とする請求項13に記載の加工性に優れた高強度鋼板。
【請求項15】
さらに、成分組成として、質量%で、Al:0.01%以上2.5%以下を含有することを特徴とする請求項13または14に記載の加工性に優れた高強度鋼板。
【請求項16】
さらに、成分組成として、質量%で、Cr:0.05%以上1.0%以下、V:0.005%以上0.5%以下、Mo:0.005%以上0.5%以下、Ni:0.05%以上1.0%以下、Cu:0.05%以上1.0%以下のうちから選ばれる少なくとも1種の元素を含有することを特徴とする請求項13〜15のいずれかに記載の加工性に優れた高強度鋼板。
【請求項17】
さらに、成分組成として、質量%で、Ti:0.01%以上0.1%以下、Nb:0.01%以上0.1%以下、B:0.0003%以上0.0050%以下のうちから選ばれる少なくとも1種の元素を含有することを特徴とする請求項13〜16のいずれかに記載の加工性に優れた高強度鋼板。
【請求項18】
さらに、成分組成として、質量%で、Ca:0.001%以上0.005%以下、REM:0.001%以上0.005%以下のうちから選ばれる少なくとも1種の元素を含有することを特徴とする請求項13〜17のいずれかに記載の加工性に優れた高強度鋼板。
【請求項19】
さらに、成分組成として、質量%で、Mg:0.0005%以上0.0100%以下を含有することを特徴とする請求項13〜18のいずれかに記載の加工性に優れた高強度鋼板。
【請求項20】
さらに、成分組成として、質量%で、Ta:0.0010%以上0.1000%以下を含有することを特徴とする請求項13〜19のいずれかに記載の加工性に優れた高強度鋼板。
【請求項21】
さらに、成分組成として、質量%で、Sn:0.0020%以上0.2000%以下および/またはSb:0.0020%以上0.2000%以下を含有することを特徴とする請求項13〜20のいずれかに記載の加工性に優れた高強度鋼板。

【公開番号】特開2013−76162(P2013−76162A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−192756(P2012−192756)
【出願日】平成24年9月3日(2012.9.3)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】