説明

加工方法、加工装置およびこの加工方法により加工された矩形平板状の加工物

【課題】 液晶ディスプレイのガラス板にパターンを転写するマスクの大サイズの矩形ガラス基板の表面を所定の形状、特に高平坦度に研磨することが難しい。
【解決手段】 ワーキングテーブル上の矩形ガラス板を回転させつつその表面を回転する研磨工具で研磨すると共に、研磨工具と矩形ガラス板とを水平方向に直線または円弧状に揺動させる加工方法において、研磨工具矩形ガラス板の外周部を加工する際、矩形ガラス板の各辺の長さ方向中央からその辺の両角部に向かって延びる湾曲した軌跡を連接して形成される糸巻状の軌跡に沿ってこの研磨工具による研磨を施し、矩形ガラス板の外周部から内周部側を加工する際には矩形ガラス板の矩形形状に相似する矩形軌跡に沿って研磨工具による研磨を施す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工物である矩形平板状のガラス板の表面を全面にわたり所定の形状に研磨する加工方法、加工装置およびかかる方法により加工された矩形平板状の加工物に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイあるいはプラズマディスプレイなどの画像表示装置の大型化が進み、現在では第5世代(1100×1250mm)のマザー・ガラスが使用され、さらには第7世代(1870×2200mm)のマザー・ガラスの提供へと進んでいる。
【0003】
これらのマザー・ガラスのサイズが大型化するのに伴い、ガラス板上にパターンを転写するマスク基板のサイズも例えば850×1200mmと大型化し、さらにディスプレイの大サイズ化に伴ってより大きなサイズのものが要求される。
【0004】
このようなディスプレイを構成するディスプレイ用ガラス板にマスクを転写するためのマスク基板は、矩形平板状のガラス、例えば石英ガラスからなるガラス板からなり、その表面には高い平坦度が要求されている。
【0005】
高い平坦度を要求される研磨技術として、半導体ディバイスの製造過程の一つであるウエハの加工技術が挙げられる。
【0006】
このウエハの加工を行なう研磨装置の一つとして、垂直方向に回転軸を有し、下面に研磨工具を設けた上部回転体と、垂直方向に回転軸を有し、上面に被加工物であるウエハを保持するワーキングテーブルとを上下に対向配置し、往復移動機構によりこのワーキングテーブルとこの研磨工具とを水平方向に相対的に往復移動、例えば研磨工具を備えた回転体を水平方向に往復移動させながら、回転する研磨工具を回転するウエハに加圧接触させて研磨する研磨装置が提案されている。また、このような加工法は揺動研磨とも称されており、この揺動研磨に用いられる研磨工具の直径はウエハの直径よりも小径に形成されている(特許文献1)。
【0007】
この特許文献1に開示されている加工法は、物理的研磨に化学的な作用を併用した化学的機械的研磨(CMP)とも称されており、酸,アルカリ,酸化剤などの研磨物の可溶性溶媒中に、研磨粒(シリカ,アルミナ,酸化セリウム等)を分散させたスラリーと呼ばれる研磨剤を用いている。
【0008】
一方、ウエハの研磨を開始する前に、ウエハの被研磨面側における膜厚分布を測定し、この測定結果に基づいて研磨量を予測し、ワーキングテーブル及び研磨工具の回転速度、ワーキングテーブル(ウエハ)と研磨工具の相対移動速度などの制御を行なうためのプログラムの作成を行い、このプログラムを記憶媒体あるいは通信手段を介して研磨装置に伝達する。なお、ウエハの径方向における各位置で研磨量(h)の予測は、研磨の基本式であるプレストンの式に基づいてなされており、ウエハと研磨工具との相対速度をV、プレストン定数をη、研磨対象物にかかる圧力である荷重をP、研磨時間をtとすると、h=η・P・V・tで表され、相対速度Vが増加するにつれて研磨量hが増加する。
【特許文献1】特開2002−270558号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記した引用文献1に開示された揺動研磨法によるウエハの研磨は、例えばウエハの外周側から回転中心に向かって研磨が開始され、研磨量が大きい箇所での揺動回数を多くし、また研磨量が少ない箇所での揺動回数を少なくして全面を一様な平坦面としている。
【0010】
ここで研磨工具の直径をウエハの直径よりも小径としているので、ウエハの外周部を研磨する場合、研磨工具の外周部がウエハの外周部からはみ出ていると、研磨工具の全面がウエハの表面に当接できないため、研磨工具は当接面からの反力を受けてはみ出ている部分を下向きにして傾斜した状態となり、この当接面における研磨工具の当接圧力は増加する。したがって、上述のプレストンの式をそのまま適用して研磨量を算出すると、圧力Pの増加分だけ研磨量が多くなるので、ウエハの外周部を研磨する際にはこの圧力増加分に見合って揺動時間を減らすという修正を行なうことで所定の研磨量が得られることになる。
【0011】
ところで、このような揺動研磨法により上述した矩形平板状のガラス板の表面を研磨しようとした場合、被研磨対象である矩形平板状のガラス板の角部における研磨量が予測研磨量に比べて少なくなるという難点があった。
【0012】
すなわち、ワーキングテーブル上に保持されている矩形平板状ガラスは当然に辺部と角部におけるウェハと工具との間に発生する圧力分布が大きく異なり、工具が矩形平板と相似形の矩形軌跡をとった場合、辺部に対して角部における外側の偏心荷重が小さくなり、研磨量が小さくなる。
【0013】
このため、矩形平板状のガラス板の周囲にダミーのガラス板を配置し、見かけ上上述のウエハと同様の円盤状として研磨することが提案されたが、このような方法はダミーガラス板を使用するためにコストがかさみ、また小サイズのガラス板では可能ではあるが、上述のようにマスク基板のサイズとして850×1200mmあるいはそれ以上のものには適用するには装置が高価等になり現実的ではない。
【0014】
本願発明は、このような従来の問題に鑑み為されたもので、小サイズから大サイズの矩形平板状のガラス板の表面を全面にわたり所定の形状に研磨できる加工方法、加工装置およびこの加工方法により加工された矩形平板状の加工物を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
第1の発明は、請求項1に記載のように、回転する矩形平板状の被加工物と、この被加工物の表面を回転して加工する加工工具とを相対的に揺動させることで加工する加工方法において、この加工工具がこの被加工物の外周部を加工する際、この被加工物の各辺の長さ方向中央からその辺の両角部に向かって延びる湾曲した軌跡を連接して形成される糸巻状の軌跡に沿ってこの加工工具による加工が行なわれることを特徴とする。
【0016】
第2の発明は、請求項2に記載のように、上記した第1の発明で、この加工工具は、この被加工物の外周部から内周部側を加工する際、この被加工物の矩形形状に相似する矩形軌跡に沿ってこの加工工具による加工が行なわれることを特徴とする。
【0017】
第3の発明は、請求項3に記載のように、上記したいずれかの発明で、この被加工物の回転と、この揺動とを同期させていることを特徴とする。
【0018】
第4の発明は、請求項4に記載のように、上記いずれかの発明で、この被加工物はガラス板であり、この加工工具は研磨工具であることを特徴とする。
【0019】
第5の発明は、請求項5に記載のように、上記いずれかの発明で、この揺動が直線または円弧状に行われることを特徴とする。
【0020】
第6の発明は、請求項6に記載のように、上記いずれかの発明で、この加工が被加工物を平坦化することを特徴とする。
【0021】
第7の発明は、請求項7に記載のように、被加工物を保持する回転駆動されるワーキングテーブルと、このワーキングテーブル上の被加工物の表面を回転しながら加工するための加工工具を取り付けた回転駆動される工具ヘッドと、このワーキングテーブルとこの工具ヘッドとを水平方向に相対的に揺動させる揺動手段と、このワーキングテーブルの回転とこの揺動手段による揺動を同期駆動制御すると共に、この被加工物の表面をこの工具ヘッドに取り付けられた加工工具で平坦に加工するために入力されたデータに基づいてこの揺動手段の揺動を制御する制御装置とを有し、この制御装置は、この被加工物が矩形平板状である場合に、この加工工具が被加工物の外周部を加工する際、この被加工物の各辺の長さ方向中央からその辺の両角部に向かって延びる湾曲した軌跡を連接して形成される糸巻状の軌跡に沿ってこの加工工具による加工が行なわれるようにこの揺動の速度を制御することを特徴とする加工装置とする。
【0022】
第8の発明は、請求項8に記載のように、上記した第7の発明で、この制御装置は、この被加工物の外周部から内周部側を加工する際、この被加工物の矩形形状に相似する矩形軌跡に沿ってこの加工工具による加工が行なわれるようにこの揺動の速度を制御することを特徴とする。
【0023】
第9の発明は、請求項9に記載のように、上記いずれかの発明で、この揺動手段は、このワーキングテーブルを水平方向に移動させることを特徴とする。
【0024】
第10の発明は、請求項10に記載のように、上記いずれかの発明で、ワーキングテーブルの回転、揺動手段による揺動および工具ヘッドの回転を同期駆動制御することを特徴とする。
【0025】
第11の発明は、請求項11に記載のように、上記いずれかの発明で、揺動が、直線または円弧状に行われることを特徴とする。
【0026】
第12の発明は、請求項12に記載のように、上記いずれかの発明で、この加工が被加工物を平坦化することを特徴とする。
【0027】
第13の発明は、請求項13に記載のように、上記第1から第6のいずれかの加工方法の発明により表面が加工されたことを特徴とする矩形平板状の加工物とするものである。
【0028】
第14の発明は、請求項14に記載のように、上記第13の発明で、表面が平坦に加工されていることを特徴とする。
【0029】
第15の発明は、請求項15に記載のように、上記いずれかの発明で、矩形平板状の加工物がマスク基板であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0030】
請求項1〜6に係る発明によれば、矩形平板状の被加工物、例えばガラス板の外周部を加工工具としての研磨工具により回転しながら研磨する際、研磨工具は糸巻状の軌跡に沿って研磨加工を施すので、ガラス板の各角部に研磨工具が近づいて研磨することが可能となり、矩形平板状のガラス板の表面を全面にわたり所定の形状を維持した研磨が可能となった。
【0031】
また、請求項7〜12に係る発明によれば、揺動手段の揺動速度を適宜制御することで、糸巻状の軌跡、矩形軌跡を創成することが可能となり、このような軌跡を創成するための機械的な機構が不要であり、装置の小型化が図れるという効果が得られる。
【0032】
請求項13〜15に係る発明によれば、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイなどのガラス板上にパターンを転写するマスクの基板をなす石英ガラスからなる矩形平板状のガラス板のサイズが800×920mm、1300×1500といった大サイズの物に対しても、表面を所定の形状、特に高平坦度に研磨したものを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
図1は本発明による加工方法の工具軌跡と工具・被加工物との関係を示す図、図2は工具軌跡の一例を示す図、図3は本発明を有効に実施できる研磨装置の概略図を示す。
【0034】
先ず、図3に示す研磨装置の構成を説明する。この研磨装置1は上述したCMPを適用したもので、機台2に矢印Aで示す水平方向に往復移動可能な移動テーブル3を設け、この移動テーブル3上にワーキングテーブル4を回転可能に取り付けている。また、ヘッド支持台5には工具用回転ヘッド6が移動テーブル3の上方に位置するように取り付けられている。ここで、移動テーブル3の往復移動方向をX軸方向とし、このX軸に直交する水平方向の軸をY軸、垂直方向の軸をZ軸とする。
【0035】
移動テーブル3は不図示のモータを駆動源とする往復移動機構により移動位置、往復移動量及び往復移動時間等を任意に設定可能であり、制御装置7により制御される。ワーキングテーブル4は不図示のモータを駆動源とする回転駆動機構により回転方向及び回転速度が任意に設定可能で、制御装置7により回転制御される。このワーキングテーブル4には、被加工物である例えば石英ガラスからなる矩形平板状のガラス板が例えば吸着手段などで保持固定される。
【0036】
また、ヘッド支持台5は不図示のモータを駆動源とする昇降機構により上下方向に移動可能であると共に、手動あるいは電動駆動機構により工具用回転ヘッド6をy軸方向の任意の位置に位置決めできるようにしている。
【0037】
工具用回転ヘッド6は不図示のモータを駆動源とする回転駆動機構6aにより回転方向及び回転速度が任意に設定可能で、制御装置7により回転制御され、この工具用回転ヘッド6の下面に加工工具である研磨工具(不図示)が取り付けられる。
【0038】
制御装置7は、パソコン等で構成される研磨量最適化演算装置8で得られた研磨量最適化データをFD、CD等の記録媒体あるいは通信手段を介して入力される。
【0039】
研磨量最適化演算処理装置は、被研磨対象物である矩形平板状のガラス板の研磨する表面形状を形状測定器により測定し、得られた測定結果を測定データ入力手段8aにより研磨量最適化演算部8bに出力し、研磨装置1でこの矩形平板状のガラス板の表面について所定の形状が得られるように最適の研磨量を得るように演算を行なう。
【0040】
なお、被研磨対象である矩形平板状のガラス板は、例えばインゴットを回転させながら切断して得ることから、ガラス板の表面形状は回転中心に対して回転対象に形成されていることを前提としている。このため、矩形平板状のガラス板の表面を図1に示すように、中心を通るX軸及びY軸の座標で見ると、第1象限での表面形状が測定できればガラス板表面の全面の表面形状が把握できることになる。言い換えればこの第1象限での最適な研磨量のみを求めれば、残りの3つの象限における研磨量を求めることなくガラス板表面の全面を最適に研磨することが可能となる。
【0041】
一方、本発明において、矩形平板状のガラス板の表面を研磨するための研磨工具の軌跡は、図1に示すように、全体としてはガラス板の矩形形状に合わせたボックス形の軌跡とし、外周部における軌跡は内周側における正規のボックス形の軌跡(以下正規ボックス軌跡と称す)ではなく、各辺において角部に向かって広がる湾曲した軌跡を連接し、全体として各辺における長さ方向の中心を底位置とするようにくびれた糸巻形状のような軌跡(以下糸巻軌跡と称す)としている。
【0042】
制御装置7の制御部7aには、図1に示す正規ボックス軌跡と糸巻軌跡が得られるように、移動テーブル3とワーキングテーブル4と工具用回転ヘッド6の駆動を行なうためのプログラムがインストールされており、研磨量最適化データ入力部7aからの研磨量最適化データがこのプログラムに入力されると、移動テーブル3の移動量、ワーキングテーブル4の回転速度、工具用回転ヘッド6の回転速度等が設定される。
【0043】
更に、制御装置7の制御部7aでは、移動テーブル3とワーキングテーブル4の駆動を行なうためのプログラムのほかに、工具用回転ヘッド6の駆動を行なうためのプログラムがインストールされていてもよく、この場合、研磨量最適化データ入力部7aからの研磨量最適化データがこのプログラムに入力されると、移動テーブル3の移動量、ワーキングテーブル4の回転速度等の設定の他に、工具用回転ヘッド6の回転速度等も設定することができる。
【0044】
このような正規ボックス軌跡と糸巻軌跡を、例えば図2に示す被研磨物が正方形の場合を例にして説明する。
【0045】
本実施の形態では、移動テーブル3の往復移動とワーキングテーブル4の回転は同期駆動しており、移動テーブル3が4往復移動するとワーキングテーブル4が丁度1回転するように設定している。
【0046】
糸巻軌跡は、実際には相似するものが複数用意されており、これら複数の各糸巻軌跡について同一の軌跡を何度繰り返すかがそれぞれ設定されている。同様に、正規ボックス軌跡は相似するものが複数用意されており、これら複数の各ボックス軌跡について同一の軌跡を何度繰り返すかがそれぞれ設定されている。
【0047】
研磨量最適化演算部8bには、複数の糸巻軌跡について、最も回転中心側に位置する糸巻軌跡と最も外側に位置する糸巻軌跡の距離(以下糸巻突出量と称す)Mをパラメータとし、この距離Mの間に任意に設定できる距離ずつ糸巻軌跡を移動させることができるようになっている。この任意の移動量及び糸巻突出量Mを変更することにより、上記した同一軌跡の繰り返し回数などの最適化データが変わる。
【0048】
ここで、回転するワーキングテーブル4に対して、工具用回転ヘッド6と移動テーブル3との相対移動をワーキングテーブル4の回転と同期させずに単に直線揺動させた場合、工具用回転ヘッド6の運動はワーキングテーブル4上の矩形平板状のガラス板の中心を軸とする円形軌跡(図1中一点鎖線で示す)となり、矩形平板状のガラス板の角部の研磨量は小さくなる。
【0049】
これに対し、本実施の形態では、研磨工具の移動軌跡を矩形平板状のガラス板の表面にこのガラス板の矩形形状に合わせたボックス形の軌跡とし、外周部における研磨工具は糸巻軌跡に沿ってこのガラス板の角部により近い位置を通過する。その際、図1中破線で示す工具用回転ヘッド6の回転中心はこのガラス板内に存在しており、工具用回転ヘッド6に取り付けられた研磨工具はこのガラス板からあまりはみ出ない。そのためガラス板の角部における研磨工具による接触圧の減少が見られなくなり、このガラス板の角部を予測した磨耗量で研磨することができる。
【0050】
このガラス板の回転と、研磨工具とワーキングテーブル4との相対的な直線揺動(本実施の形態では移動テーブル3をX軸方向へ直線揺動させている)とを同期させることにより、上記した矩形軌跡を形成するには、研磨工具の回転中心からガラス板の回転中心に向かう直線揺動速度をv、ガラス板の回転角をθとすると、直線揺動速度vを回転角θに応じて制御しなければならない。ガラス板の回転中心を原点とするXY座標系において、ガラス板の各辺縁から距離Mだけ内側を通る正規矩形軌跡上の一点P(x、y)における直線揺動速度vは、
v=d(√(x+y))/dt 1式
で与えられる。なお、tは時間である。
【0051】
また、矩形平板状のガラス板の長辺側の長さをW、短辺側の長さをHとすると、x、yは2、3式で表される。
【0052】
なお、θ=tan−1(H/W)、W´=(W/2)−M、H´=(H/2)−Mである。
【0053】
x=W´ y=W´tanθ (θ<θ) 2式
x=H´/tanθ y=H´ (θ>θ又はθ=θ) 3式
一方、図1中破線で示す糸巻軌跡において、矩形軌跡から距離Bだけ糸巻軌跡の両端が突出している糸巻軌跡上の一点のx、yの座標は、以下の4〜6式で表される。
【0054】
r=(H´+B)/2B R=(W´+B)/2B 4式
x=W´+r±(√{(W´+r)−(1+tan2θ)(W´2+2rW´)}/(1+1/tan2θ))
y=xtanθ (θ<θ) 5式
x=ytanθ
y=H´+R±(√{(H´+R)−(1+tan2θ)(H´2+2RH´)}/(1+1/tan2θ))
(θ>θ又はθ=θ) 6式
したがって、糸巻軌跡上でのx、yの値と1式により、糸巻軌跡における直線揺動速度vが求められる。複数の各正規ボックス軌跡および複数の各糸巻軌跡上における夫々の直線揺動速度vは揺動開始位置を基準として制御部7で予め演算され、上述した同一軌跡の繰り返し回数と共に不図示のメモリに記憶される。
【0055】
図4は、W=300mm、H=240mmの矩形ガラス板の30(M)mm内側を通る矩形軌跡と、突出量(B)を持つ糸巻軌跡の直線揺動速度を示す。図4(b)に示すように、矩形平板状のガラス板の角部での揺動速度は鋭い変化点を有し、特に糸巻軌跡の場合にはプラスからマイナスへ大きく変化する。ここで、工具用回転ヘッド6の回転数を、移動テーブル3の移動量およびワーキングテーブル4の回転速度と同期させることにより、上述した角部における揺動速度の急激な変化を緩和することが可能である。
【0056】
本実施の形態において、上記した正規ボックス軌跡及び糸巻軌跡は例えばいずれもガラス板の回転中心を通るX軸上の位置を開始点とし実行され、ガラス板が丁度1回転してこの開始点に戻った時、移動テーブル3の移動量をそれまでの揺動移動量よりも若干多くすると、次の開始位置に研磨工具の回転中心がずれ、今度はその位置から新たに矩形軌跡を描いてガラス板の表面を研磨する。また、ガラス板が丁度1回転して開始点に戻った時に移動テーブル3の移動量をそれまでの移動量のままとすると、研磨工具は再び同じ軌跡を描くようにしてガラス板の表面を研磨する。
【0057】
このように矩形平板状のガラス板に対して外周部では糸巻軌跡を描くように研磨工具によりガラス板の表面を研磨し、ガラス板の各辺の縁から距離Mだけ内側に入った位置からは正規の矩形軌跡を描くように研磨工具によりガラス板の表面を研磨するようにしているので、ガラス板の各角部の表面を予定の研磨量で研磨することができ、またガラス板の表面を全面にわたり所定の形状で研磨することができる。
【0058】
ここで、ガラス板の表面を所定の形状で研磨できるか否かは、研磨量最適化演算部8bにおいて研磨量を予測することにより達成されるが、この研磨量の予測に基づいて所定形状の加工度(ガラス板の表面を全面にわたり平坦に加工する場合には平坦度)がシュミレーションされる。なお、研磨量の最適化の予測法の一例としては、概略として上述したXY座標系における第1象限を複数の区画に分割し、各分割区画での研磨量(加工量)を種々変化させ、各分割区画でのPV値(ピークと谷との距離)を平均加工量で割算して加工均一性誤差を求め、その中で最も加工均一性誤差が小さい研磨量を最適の研磨量とする考え方がある。
【0059】
また、研磨量を糸巻軌跡と矩形軌跡の繰り返し回数に置き換えることにより、制御装置7による研磨装置1の制御が簡素化する。
【0060】
ガラス板の表面を全面にわたり平坦化加工する場合のシミュレーションの結果を図5〜図7に示す。
【0061】
また、このシミュレーションの計算条件は以下の通りである。
【0062】
研磨工具:外径150mm、内径0mm
平板ガラスのサイズ:200×200mm
回転速度:研磨工具とガラス板が共に100rpm
圧力:49kPa
ポリシャ(IC1000)の相対弾性定数:4.4kPa/μm
減耗量:0μm(km・kPa)
研磨量:0.204μm(km・kPa)
揺動範囲:5〜90mm、5〜75mm
等速揺動速度:10mm/min
研磨時間:(等速揺動時):8.6min
糸巻軌跡及び矩形軌跡について、上述の計算条件により正方形のガラス板を円形の研磨工具により研磨した際の加工量を求め、PV値(ピークと谷と間の距離)を平均加工量で割算して加工均一性誤差(%)を算出した。研磨工具とガラス板は等速回転とし、ポリシャは独立気泡ポリウレタン(IC1000)を想定し、等速直線揺動速度10mm/minで研磨する。研磨時間は8.6分とし、ポリシャは減耗しないと仮定した。
【0063】
図5は比較例として円形軌跡を描く場合を示し、(a)は等速揺動時の結果、(b)は揺動速度を最適化した場合の結果を示す。それぞれガラス板のX軸方向(0°方向)から対角線方向(45°方向)を等分した4方向の結果を示す。(a)に示す最適化前ではガラス板の中央部が多く加工されるが、(b)に示す最適化後では中央と周辺の加工量差が縮小され、±119%であった誤差が±50%に減少する。
【0064】
しかし、最適化後もガラス板の外方向(特に45度方向)における加工量のばらつきが大きく、これを改善しなければ均一性を上げることはできない。
【0065】
これに対し、図6に示すように、研磨工具を矩形軌跡と糸巻軌跡に沿って移動させるようにした本発明の場合には、図6(a)に示す最適化前の誤差は円形軌跡である図5の(a)と比較しても±75%と4割りも減少し、周辺における加工量の低下が小さくなり、特に45°方向の改善が著しい。図6(b)に示す最適化後の誤差は、±15%となり、中央と周辺部の加工量が略等しくなるが、依然として方向によるばらつきが残る。また、0°方向に比較し、角部(45°)に近づくにつれて加工量が減少する。このため、角部に向かって加工量が増えるように、研磨工具が角部に近づく程、ガラス板の外周側に移動する糸巻軌跡を創成し、シミュレーションを行なった。その結果を図7に示す。
【0066】
この場合、揺動範囲を5〜75mmとした。図7(a)に示す最適化前には、矩形軌跡と比較して誤差は逆に±117%と悪化するが、周辺部の加工量のばらつきが極めて小さくなり、方向による誤差が殆ど見られない。また(b)に示すように、最適化後の誤差は±9%となり、高平坦度が得られることが示された。
【0067】
また、図8に円形軌跡、矩形軌跡、糸巻軌跡における最適化揺動速度を示す。いずれの場合にも、矩形平板状のガラス板の外周部より中心部における揺動速度が遅い。この速度分布は、研磨工具が周辺からはみ出すことによって生じる偏心荷重に基づく大きな加工量を抑制し、中心に近づくにつれて小さくなる相対速度を補う役目を果たしている。
【0068】
以上述べた図5から図8の結果は200mm×200mmのガラス板についてのシミュレーションに基づくものであるが、800×900×10mmあるいは1300×1500×15mmといった大サイズのガラス板に適用しても同様の効果が得られるものである。
【0069】
なお、上記した実施の形態におけるガラス板として石英ガラスを例にして説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、シリコンウエハ等を被研磨物として研磨することができる。
【0070】
また、直線揺動速度を得るのに工具用回転ヘッドを不動とし、移動テーブルを水平方向に移動させるようにしているが、逆に工具用回転ヘッドを水平方向に移動させるようにしても良い。
【0071】
さらに、ガラス板の表面を研磨する際、ガラス板の回転中心側から外周方向に向かって矩形軌跡を順次描かせ、その後に糸巻軌跡を順次描かせるように研磨工具の移動軌跡を設定するようにしても良い。
【0072】
また、上記した実施の形態では、直線揺動を例にして説明したが、揺動が直線だけでなく円弧状に行われるようにしても良い。
【0073】
さらに、上記した実施の形態では、被加工物であるガラス板の表面に対し任意の箇所を所望する研磨量で研磨加工して、このガラス板の全面にわたり高平坦度を得ることができる平坦化加工を例にして説明したが、平坦化加工だけではなく矩形平板状の被加工物の表面に対し任意の箇所を任意の加工量で加工できるようにしても良いことは勿論のことである。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明によるガラス板に対する研磨工具の移動軌跡を示す図
【図2】図1の研磨工具の移動軌跡を説明する図
【図3】本発明を有効に実施できる研磨装置の概略図
【図4】矩形、糸巻軌跡時の直線揺動速度を示す図
【図5】比較例としての円形規制時の加工量分布を示す図
【図6】本発明による矩形軌跡時の加工量分布を示す図
【図7】本発明による糸巻軌跡時の加工量分布を示す図
【図8】円形、矩形、糸巻の各軌跡における最適揺動速度を示す図
【符号の説明】
【0075】
1 研磨装置
2 機台
3 移動テーブル
4 ワーキングテーブル
5 ヘッド支持台
6 工具用回転ヘッド 6a 回転駆動機構
7 制御装置
8 研磨量最適化演算装置
8a 測定データ入力手段、8b 研磨量最適化演算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転する矩形平板状の被加工物と、この被加工物の表面を回転して加工する加工工具とを相対的に揺動させることで加工する加工方法において、この加工工具がこの被加工物の外周部を加工する際、この被加工物の各辺の長さ方向中央からその辺の両角部に向かって延びる湾曲した軌跡を連接して形成される糸巻状の軌跡に沿ってこの加工工具による加工が行なわれることを特徴とする加工方法。
【請求項2】
この加工工具は、この被加工物の外周部から内周部側を加工する際、この被加工物の矩形形状に相似する矩形軌跡に沿ってこの加工工具による加工が行なわれることを特徴とする請求項1に記載の加工方法。
【請求項3】
この被加工物の回転と、この揺動とを同期させていることを特徴とする請求項1または2に記載の加工方法。
【請求項4】
この被加工物はガラス板であり、この加工工具は研磨工具であることを特徴とする請求項1、2または3に記載の加工方法。
【請求項5】
揺動が、直線または円弧状に行われることを特徴とする請求項1、2、3または4に記載の加工方法。
【請求項6】
加工が、被加工物を平坦化するものであることを特徴とする請求項1、2、3、4または5に記載の加工方法。
【請求項7】
被加工物を保持する回転駆動されるワーキングテーブルと、このワーキングテーブル上の被加工物の表面を回転しながら加工するための加工工具を取り付けた回転駆動される工具ヘッドと、このワーキングテーブルとこの工具ヘッドとを水平方向に相対的に揺動させる揺動手段と、このワーキングテーブルの回転とこの揺動手段による揺動を同期駆動制御すると共に、この被加工物の表面をこの工具ヘッドに取り付けられた加工工具で加工するために入力されたデータに基づいてこの揺動手段の揺動を制御する制御装置とを有し、
この制御装置は、この被加工物が矩形平板状である場合に、この加工工具が被加工物の外周部を加工する際、この被加工物の各辺の長さ方向中央からその辺の両角部に向かって延びる湾曲した軌跡を連接して形成される糸巻状の軌跡に沿ってこの加工工具による加工が行なわれるようにこの揺動の速度を制御することを特徴とする加工装置。
【請求項8】
この制御装置は、この被加工物の外周部から内周部側を加工する際、この被加工物の矩形形状に相似する矩形軌跡に沿ってこの加工工具による加工が行なわれるようにこの揺動の速度を制御することを特徴とする請求項7に記載の加工装置。
【請求項9】
この揺動手段は、このワーキングテーブルを水平方向に移動させることを特徴とする請求項7または8に記載の加工装置。
【請求項10】
ワーキングテーブルの回転、揺動手段による揺動および工具ヘッドの回転を同期駆動制御することを特徴とする請求項7,8または9に記載の加工装置。
【請求項11】
揺動が、直線または円弧状に行われることを特徴とする請求項7、8、9または10に記載の加工装置。
【請求項12】
加工が、被加工物を平坦化するものであることを特徴とする請求項7、8、9、10または11に記載の加工装置。
【請求項13】
請求項1から4のいずれかに記載の加工方法により表面が加工されたことを特徴とする矩形平板状の加工物。
【請求項14】
表面が平坦に加工されていることを特徴とする請求項13に記載の矩形平板状の加工物。
【請求項15】
矩形平板状の加工物がマスク基板であることを特徴とする請求項13または14に記載の矩形平板状の加工物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−62055(P2006−62055A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−250123(P2004−250123)
【出願日】平成16年8月30日(2004.8.30)
【出願人】(504329562)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】